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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131571
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】注入材
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/02 20060101AFI20220831BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20220831BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220831BHJP
   C04B 14/04 20060101ALI20220831BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20220831BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C09K17/02 P
E02D3/12 101
C04B28/02
C04B14/04 Z
C04B20/00 B
C04B22/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030577
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 了三
(72)【発明者】
【氏名】福山 誠
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040CA01
2D040CA05
2D040CA10
2D040CB03
4G112MA01
4G112PA03
4G112PB04
4H026AA01
4H026AB04
4H026CA01
4H026CA06
4H026CC06
(57)【要約】
【課題】所望のゲルタイムと浸透・充填性を確保でき、従来の注入材では地盤改良が図り難い逸走・流出しやすい地盤に対しても高い改良効果を示し、初期~中長期に渡って高い強度発現性を有する強固な地盤に改質できる注入材を提供すること。
【解決手段】 コロイダルシリカを含有するスラリーAと、水硬性物質を含有するスラリーBからなり、コロイダルシリカの平均粒径が3~10nm、水硬性物質のメジアン径が1~15μmであり、かつその粒径比(水硬性物質のメジアン径/コロイダルシリカの平均粒径)が200~3000である2液タイプの注入材。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカを含有するスラリーAと、水硬性物質を含有するスラリーBからなり、コロイダルシリカの平均粒径が3~10nm、水硬性物質のメジアン径が1~15μmであり、かつその粒径比(水硬性物質のメジアン径/コロイダルシリカの平均粒径)が200~3000である2液タイプの注入材。
【請求項2】
スラリーA中のコロイダルシリカの固形分が3~20質量%であり、スラリーB中の水硬性物質の固形分が20~65質量%である請求項1記載の2液タイプの注入材。
【請求項3】
スラリーAとスラリーBを混合した充填材が、次の(a)~(c)を具備する請求項1又は2記載の2液タイプの注入材。
(a)カップ倒立法によるゲルタイムが1秒~5分
(b)材齢10分のフォールコーンによるコーン貫入量が3~25mm
(c)材齢1日のホモゲル圧縮強度が0.5N/mm以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に脆弱地盤の改良や空隙部等の充填に使用する注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良の注入材としては、主にLW工法に使用される水ガラスとセメントを有効成分とした2液タイプの注入材が実用化されている。LW工法の注入材では市販のポルトランドセメントをそのまま使用することができ、数分程度でゲル化させて固結することで地盤を改良することができる。しかし、水ガラスに含有するナトリウムが溶出することにより改質地盤が高アルカリになり、耐久性も低下することが知られている。この対策として水ガラスの代わりにコロイダルシリカが用いられており、超微粒子セメントと組み合わせた2液タイプの注入材を使用することにより、ゲル化時間のコントロールを容易にし、広範囲なゲルタイムの選定と浸透性向上が図れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような注入材は、浸透性は良好であるが、一方で改良対象範囲外への逸走・流出も多く、結果として地盤改質効果が十分得られない場合がある。特に、シルト質を多く含有する砂地等の空隙径のかなり小さい地盤の改良では長いゲル化時間とした場合、一旦流出するとその影響は顕著となる。これを防ぐため、ゲル化時間まで注入を中断すると、注入管内でゲル化して閉塞するため、結果として地盤改質効果が十分得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-241316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、所望のゲルタイムと浸透・充填性を確保でき、従来の注入材では地盤改良が図り難い逸走・流出しやすい地盤に対しても高い改良効果を示し、初期~中長期に渡って高い強度発現性を有する強固な地盤に改質できる注入材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題解決のための検討を重ねた結果、コロイダルシリカと水硬性物質を用いる2液タイプの注入材で、逸走・流出防止のためにゲル化時間後まで注入を中断したときに発生する配管閉塞に対して、コロイダルシリカの平均粒子径と水硬性物質のメジアン径を特定の範囲とし、かつその粒径比(水硬性物質のメジアン径/コロイダルシリカの平均粒子径)も特定の範囲とすることにより、ゲル化直後の強度発現性を抑制し、中断後容易に再開でき、逸走・流出を抑制でき、改良範囲を効率よく強固な地盤に改質できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕コロイダルシリカを含有するスラリーAと、水硬性物質を含有するスラリーBからなり、コロイダルシリカの平均粒径が3~10nm、水硬性物質のメジアン径が1~15μmであり、かつその粒径比(水硬性物質のメジアン径/コロイダルシリカの平均粒径)が200~3000である2液タイプの注入材。
〔2〕スラリーA中のコロイダルシリカの固形分が3~20質量%であり、スラリーB中の水硬性物質の固形分が20~65質量%である〔1〕記載の2液タイプの注入材。
〔3〕スラリーAとスラリーBを混合した充填材が、次の(a)~(c)を具備する〔1〕又は〔2〕記載の2液タイプの注入材。
(a)カップ倒立法によるゲルタイムが1秒~5分
(b)材齢10分のフォールコーンによるコーン貫入量が3~25mm
(c)材齢1日のホモゲル圧縮強度が0.5N/mm以上
【発明の効果】
【0008】
本発明の注入材を用いれば、従来の注入材では改良が困難であった逸走・流出しやすいシルト質を多く含む地盤や地表面に近い注入箇所でも注入の中断再開を繰り返すことにより、改良範囲に効率よく注入でき、注入後の強度発現性も高く、強固な地盤構造を初期から長期に渡って維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の注入材は、コロイダルシリカを含有するスラリーAと、水硬性物質を含有するスラリーBからなる2液タイプの注入材である。
スラリーAは、コロイダルシリカを含有する。当該スラリーAに用いられるコロイダルシリカは、コロイド状態で安定させるため微量のアルカリイオンを含むものが好ましい。アルカリイオンの含有量は、SiO/RO(但し、Rはアルカリ金属)のモル比でおよそ500以下が好ましく、5~500がより好ましい。
使用できるコロイダルシリカの平均粒径は3~10nmであり、好ましくは3~9nmであり、より好ましくは3~8nmである。平均粒径3nm未満のコロイダルシリカは一般にコロイド状態で安定させるため比較的多いアルカリイオン含有を必要とし、SiO/ROのモル比が5を大きく下回って水ガラスに近い値となり、高アルカリ質の改質地盤が形成される虞がある。また平均粒径10nmを超えるコロイダルシリカでは水硬性物質との反応が遅れるため、強度発現性が低い。
コロイダルシリカの含有量はスラリーAに対し、固形分として3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。コロイダルシリカの含有量が少なすぎると、注入材がゲル化せずに流冒する虞があり、また多すぎると粘性が上昇し、作業性が悪くなる他、地盤への浸透・充填性も低下し易くなる。
【0010】
スラリーBに用いる水硬性物質としては、普通、各早強、超早強、低熱、中庸熱等の種ポルトランドセメントや高炉スラグ、フライアッシュ等の混合セメント、超微粒子セメント等の特殊セメントが挙げられる。
使用する水硬性物質のメジアン径は1~15μmであり、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは1~8μmであり、さらに好ましくは1~7μmである。メジアン径が1μm未満では、水硬性物質とコロイダルシリカとの反応が急激となり、スラリーAとスラリーBの混合性が低下して、十分な注入効果を得ることが出来ない。メジアン径が15μmを超えると水和反応が遅れるため、1日後の強度発現性が小さくなる。
スラリーB中の水硬性物質含有量はスラリーBに対し、固形分として20~65質量%が好ましく、25~60質量%がより好ましい。水硬性物質の含有量が少なすぎると、注入材がゲル化せずに流冒する虞があり、また多すぎると粘性が上昇し、作業性が悪くなる他、地盤への浸透・充填性も低下し易くなる。
【0011】
また、本発明の注入材は、コロイダルシリカの平均粒径と水硬性物質のメジアン径の粒径比(水硬性物質のメジアン径/コロイダルシリカの平均粒径)が200~3000である。コロイダルシリカの粒子表面の活性基はイオンの影響を受けやすく、平均粒径が3~10nm、水硬性物質のメジアン径が1~15μmであっても、この粒径比が200未満の場合、スラリーAとスラリーBを混合したときにコロイダルシリカがスラリーBの水硬性物質から溶出するイオンにより不安定となり、局所的にゲル化するため混合性が低下し、注入材は不均質となりやすい。また粒径比3000を超えると、水硬性物質の反応が促進され難くなるため、注入材の材齢1日の強度発現性が低下する。好ましい粒径比は250~2600、より好ましい粒径比は300~2000、さらに好ましい粒径比は400~1500、よりさらに好ましくは500~1000である。
【0012】
本発明のスラリーA及びスラリーBには、注入性状やそれぞれのスラリーの可使時間、さらには注入充填後の強度発現性等に支障を及ぼさない範囲で、必要によりモルタル・コンクリート用の公知の混和剤を使用することができる。例えば、所望のゲルタイムを設定し易くなり、また長いゲルタイムの確保も容易に行えることから凝結調整剤の使用が好ましい。凝結調整剤としては特に限定されるものではないが、例えば公知のアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属燐酸塩などの無機塩を挙げることができる。
【0013】
また、スラリーB中での水硬性物質の分散性を高める分散剤の使用も好ましい。特に限定されるものではないが、高性能減水剤や高性能AE減水剤、例えば、ナフタレンスルホン酸塩系減水剤やポリカルボン酸系減水剤などコンクリートで一般的に使用されているものを挙げることができる。これらの分散剤の使用により、スラリーB中での水硬性物質の粒子の凝集を防ぎ、分散状態を維持できることから、浸透・充填性の向上を図ることができる。
【0014】
その他、消泡剤、膨張材、収縮低減剤、防錆剤、有機繊維、無機繊維、顔料等を配合することができる。
【0015】
本発明の注入材は、スラリーAとスラリーBを混合して使用する2液タイプの注入材である。2液の容積比は、所望の強度発現性とゲル化時間を確保するため、スラリーA:スラリーB=20:80~80:20となるように混合することが好ましい。より好ましくは、スラリーA:スラリーB=35:65~65:35である。
【0016】
本発明の注入材は、スラリーAとスラリーBを混合した充填材が、次の(a)~(c)から選ばれる1種又は2種以上を具備することが好ましく、3種を具備することがより好ましい。
(a)カップ倒立法によるゲルタイムが1秒~5分
(b)材齢10分のフォールコーンによるコーン貫入量が3~25mm
(c)材齢1日のホモゲル圧縮強度が0.5N/mm以上
【0017】
(a)カップ倒立法によるゲルタイムは1秒~5分であることが好ましい。ゲルタイムが1秒未満の場合、スラリーAとBの混合性が低下して、注入効果が低下しやすくなる。ゲルタイムが5分を超える場合、注入材の逸走・流出が起こりやすく、その場合、ゲル化時間まで注入を中断するため、施工効率も低下しやすい。より好ましいゲルタイムは、3秒~4分であり、さらに好ましくは4秒~3分である。
【0018】
(b)材齢10分のフォールコーンによるコーン貫入量は3~25mmであるのが好ましい。コーン貫入量が3mm未満の場合、逸走・流出防止のためにゲル化時間後まで注入を中断して再開したときに、注入圧力が上昇して、配管の破損や閉塞が起こりやすくなる。コーン貫入量が25mmを超える場合、ゲル化した注入材が湧水や振動によって流冒しやすい。より好ましくは5~23mmである。
【0019】
(c)材齢1日のホモゲル圧縮強度は0.5N/mm以上であるのが好ましい。0.5N/mm未満の場合、注入後の作業が遅れたり、雨水や湧水等の影響を受けやすくなり、改良強度が低下しやすくなる。より好ましくは0.7N/mm以上である。
【0020】
本発明の注入材を用いれば、注入の中断・再開を繰り返し行うことが出来るため、限定した範囲を効率よく改良することができ、逸走・流出を防ぐことが出来るため、周辺環境への影響を低減するための注入材として有用である。
【実施例0021】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明する。以下の実施例において、%は質量%を示す。
【0022】
以下に示すA~Jから選定される材料を表1の配合割合となるようスラリーA及びスラリーBを作液した。即ち、本発明の注入材は、コロイダルシリカ及び水を含有するスラリーAと水硬性物質及び水を含有するスラリーBを表1に示す質量比で作液した。作液したスラリーAとスラリーBを体積比1:1としてカップ倒立法により混合し、ゲル化時間、ゲル化後10分後のコーン貫入量、材齢1日の圧縮強度、均質性を測定した。結果を表2に記す。
【0023】
<使用材料>
A;コロイダルシリカ1 平均粒径5nm シリカ濃度20% NaO濃度0.8%
B;コロイダルシリカ2 平均粒径8nm シリカ濃度30% NaO濃度0.6%
C;コロイダルシリカ3 平均粒径11nm シリカ濃度30% NaO濃度0.4%
D;水硬性物質1;普通ポルトランドセメント(試験製品、メジアン径17μm)
E;水硬性物質2;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、メジアン径13μm)
F;水硬性物質3;微粒子セメント(試験製品、メジアン径6μm)
G;水硬性物質4;超微粒子セメント(太平洋マテリアル株式会社製、メジアン径4μm)
H;水硬性物質5;超微粒子セメント(試験製品、メジアン径1.5μm)
I;凝結調整剤;炭酸水素ナトリウム(市販試薬)
J;分散剤;MCヘルパー(太平洋マテリアル株式会社製)
なお、水硬性物質1は普通ポルトランドセメント用クリンカ(太平洋セメント株式会社製)に二水石膏(セントラル硝子株式会社製)をSO換算で2%添加したもの、水硬性物質3は高炉セメントB種、水硬性物質5は高炉セメントC種をチューブミルに投入して粉砕し、遠心分離により所望の粒度に調整したもの。水硬性物質の粒度測定はレーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いて行ない、メジアン径は累積分布曲線の体積基準の50%径とした。
【0024】
<試験方法>
(1)ゲル化時間;両スラリーを混合して作製した充填材をカップに移し、混合してからカップを傾倒しても流れなくなるまでをゲル化時間とした。
(2)コーン貫入量;両スラリーを混合して作製した注入材を地盤工学会基準JGS0142-2009 フォールコーンを用いた土の液性限界試験方法に定められたフォールコーン試験装置を用いて測定した(但し、コーン全質量60±0.6g、先端角60±0.2°)。
(3)圧縮強度;両スラリーを混合して作製した注入材を直径5cm、高さ10cmのアクリルモールドに成形して、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準じて測定した。
(4)均質性;直径5cm、高さ10cmのアクリルモールドに両スラリーを混合して作製した充填材を投入し、6時間後に上下に2等分に切断して成形し、各々の供試体の圧縮強度をJIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準じて材齢1日で測定し、上下供試体の圧縮強度比が0.85~1.15の場合、均質性評価を「良好」とした。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表2の結果から、粒径比(水硬性物質のメジアン径/コロイダルシリカの平均粒径)が3000を超える場合(比較例1、5)、あるいは200よりも小さい場合(比較例2)、水硬性物質のメジアン径が15μmを超える場合(比較例3)、あるいはコロイダルシリカの平均粒径が10nmを超える場合(比較例4)、圧縮強度が低かったり、スラリーAとBの均質性が不良となったり、コーン貫入量が大きい結果となった。これに対し、本発明の注入材(実施例1~12)は、再注入に適したコーン貫入量が得られ、均質性も良好であり、強度発現性も良好であることが分かる。