(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131645
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブを含む樹脂複合材、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20220831BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20220831BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220831BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220831BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220831BHJP
C09D 169/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C01B32/168
C08L69/00
C08K7/06
C09D5/24
C09D7/61
C09D169/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030684
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】近田 安史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼人
(72)【発明者】
【氏名】小田 実生
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC20A
4G146AC20B
4G146AD22
4G146BA04
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4G146CB35
4J002CG011
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD116
4J038DE001
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4J038JA30
4J038JB01
4J038JB08
4J038JB12
4J038KA12
4J038MA06
4J038NA20
4J038PC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱可塑性樹脂基板上にカーボンナノチューブを導電性材料として用いた帯電防止層を備えた樹脂複合材であり、当該帯電防止層中に含まれるカーボンナノチューブの濃度が少ないにもかかわらず、十分な帯電防止性能が付与されており、なおかつ、高い透明性を維持した樹脂複合材を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂基板上に(B)帯電防止層を備えた樹脂複合材であって、表面抵抗値が1×107Ω/sq.~1×1013Ω/sq.未満であり、なおかつ、可視光領域における全光線透過率が80%以上である樹脂複合材であり、
前記(B)帯電防止層が、(b1)カーボンナノチューブおよび(b2)ポリカーボネート樹脂から少なくとも構成され、
前記(B)帯電防止層中の(b1)カーボンナノチューブの濃度が0.005質量%~0.1質量%である、樹脂複合材とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂基板上に(B)帯電防止層を備えた樹脂複合材であって、
表面抵抗値が1×107Ω/sq.~1×1013Ω/sq.未満であり、なおかつ、可視光領域における全光線透過率が80%以上である樹脂複合材であり、
前記(B)帯電防止層が、(b1)カーボンナノチューブおよび(b2)ポリカーボネート樹脂から少なくとも構成され、
前記(B)帯電防止層中の(b1)カーボンナノチューブの濃度が0.005質量%~0.1質量%である樹脂複合材。
【請求項2】
前記(B)帯電防止層の厚みが0.1μm以上20μm以下である請求項1に記載の樹脂複合材。
【請求項3】
前記(B)帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブの外径が0.1nm以上5nm以下である請求項1または2のいずれかに記載の樹脂複合材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の樹脂複合材を得るための製造方法であって、
(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂および(b3)極性溶媒を少なくとも含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布する工程と、
(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布されたカーボンナノチューブ分散液を乾燥させ(B)帯電防止層を形成する工程とを、
備える樹脂複合材の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ分散液を調製する工程において、前記(b3)極性溶媒の濃度が、前記カーボンナノチューブ分散液全組成に対して80~99質量%である請求項4に記載の樹脂複合材の製造方法。
【請求項6】
前記(b3)極性溶媒が、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミン系溶媒、アミド系溶媒、ニトロ系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種である請求項4または5のいずれかに記載の樹脂複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含む樹脂複合材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な汎用の熱可塑性樹脂の導電性は低く、導電性を付与するためには導電性材料を樹脂中に分散させることで発現させていた。導電性材料としては、従来、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイトを用いるが、しかし、これらの導電性材料では、樹脂に対して多くの導電性材料を配合する必要があった。また、配合量が多いため、透明性を要する用途には不向きであった。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1には、帯電防止層においては、エネルギー線硬化型樹脂とZnO、ITO、ATO、SbO2等の導電性粒子を配合した組成物が提案されている。しかしながら、このような導電性粒子は通常1質量%以上の多量な配合が行われるため、成形物の強度や光学特性等の性質に対して影響を与えてしまう。
【0004】
また、特許文献2には、カーボンナノチューブ、分散剤、有機溶媒および/または樹脂成分を含むカーボンナノチューブの分散液が提案されている。しかしながら、表面抵抗値は106~109Ω/sq.ではあるものの、塗膜全固形分中におけるカーボンナノチューブ濃度が20%~33%と高く、また、透明性の指標となる全光線透過率が80%以下であり、透明性と導電性が両立するまでには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-115334号公報
【特許文献2】特開2007-297255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電性と透明性の両立を課題とし、熱可塑性樹脂基板上にカーボンナノチューブを導電性材料として用いた帯電防止層を備えた樹脂複合材であり、当該帯電防止層中に含まれるカーボンナノチューブの濃度が少ないにもかかわらず、十分な帯電防止性能が付与されており、なおかつ、高い透明性を維持した樹脂複合材を提供する。
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、(A)熱可塑性樹脂基板上に形成される(B)帯電防止層が(b1)カーボンナノチューブおよび(b2)ポリカーボネート樹脂を少なくとも含み、当該(B)帯電防止層中に含まれる(b1)カーボンナノチューブの濃度が低濃度であるにもかかわらず、帯電防止性が十分に発揮でき、さらに得られる樹脂複合材は、(A)熱可塑性樹脂基板が有する可視光領域における全光線透過率を大きく損なうことがないものであることを見出した。
【0008】
本発明は、以上のような知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
本発明の態様は以下の通りである。
項1 (A)熱可塑性樹脂基板上に(B)帯電防止層を備えた樹脂複合材であって、
表面抵抗値が1×107Ω/sq.~1×1013Ω/sq.未満であり、なおかつ、可視光領域における全光線透過率が80%以上である樹脂複合材であり、
前記(B)帯電防止層が、(b1)カーボンナノチューブおよび(b2)ポリカーボネート樹脂から少なくとも構成され、
前記(B)帯電防止層中の(b1)カーボンナノチューブの濃度が0.005質量%~0.1質量%である樹脂複合材。
項2 前記(B)帯電防止層の厚みが0.1μm以上20μm以下である項1に記載の樹脂複合材。
項3 前記(B)帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブの外径が0.1nm以上5nm以下である項1または2のいずれかに記載の樹脂複合材。
項4 項1~3のいずれかに記載の樹脂複合材を得るための製造方法であって、
(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂および(b3)極性溶媒を少なくとも含有するカーボンナノチューブ分散液を調製する工程と、
前記カーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布する工程と、
(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布されたカーボンナノチューブ分散液を乾燥させ(B)帯電防止層を形成する工程とを、
備える樹脂複合材の製造方法。
項5 前記カーボンナノチューブ分散液を調製する工程において、前記(b3)極性溶媒の濃度が、前記カーボンナノチューブ分散液全組成に対して80~99質量%である項4に記載の樹脂複合材の製造方法。
項6 前記(b3)極性溶媒が、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミン系溶媒、アミド系溶媒、ニトロ系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種である項4または5のいずれかに記載の樹脂複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、十分な帯電防止性と透明性を有する樹脂複合材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂複合材は、(A)熱可塑性樹脂基板および(A)熱可塑性樹脂基板上に形成される(B)帯電防止層から構成されており、当該(B)帯電防止層は、(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂および(b3)極性溶媒を少なくとも含むカーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布、乾燥することで形成できる。(B)帯電防止層に含まれる(b1)カーボンナノチューブの濃度を0.005 ~ 0.1質量%とすることで十分な帯電防止性が得られ、さらに、本来、(A)熱可塑性樹脂基板が有する可視光領域における全光線透過率を大きく損なうことがなく、透明性に優れる。以下、本発明の樹脂複合材について詳述する。
【0012】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする(ただし、「未満」と表記している上限値を「~」で結ぶ場合、「~」の後の数値(すなわち上限値)は数値範囲に含まない)。
【0013】
樹脂複合材
本発明の樹脂複合材は、(A)熱可塑性樹脂基板および(B)帯電防止層により構成されており、当該(B)帯電防止層は(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂および(b3)極性溶媒を少なくとも含むカーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布、乾燥させることによって得られる。
【0014】
(A)熱可塑性樹脂基板
本発明の樹脂複合材における(A)熱可塑性樹脂基板は、2mm厚で可視光領域(380nm~780nm)における全光線透過率が80%以上の透明性を有する樹脂を用いるのであれば、特に制限は無く、(B)帯電防止層に含まれる(b2)ポリカーボネート樹脂と同一であってもよいし、異なっていてもよい。具体的な例としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエステル樹脂(PEs樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA樹脂)、ポリエーテルスルフォン樹脂(PES樹脂)、ポリアリレート樹脂(PAR樹脂)、ポリスルホン樹脂(PSU樹脂)等が挙げられる。特に可視光領域における全光線透過率の高いPVC樹脂、PC樹脂およびPMMA樹脂を使用することが好ましい。なお、前記可視光領域における全光線透過率は、JIS規格であるJIS K7361-1によって測定することができる。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0015】
(A)熱可塑性樹脂基板には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、染料等の各種添加剤が配合されていてもよい。また、片面又は両面に表面改質処理を施されていてもよい。表面改質処理を行うことにより、本発明においては帯電防止層との密着性を向上させることができる。表面改質処理としては、例えば、エネルギー線照射処理(コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理)や薬品処理(重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸などの酸化剤水溶液中への浸漬)などが挙げられ、いずれの方法を用いることができる。
【0016】
(A)熱可塑性樹脂基板の厚みは、フィルムやテープのような柔軟性が求められる場合やトレーやボードのような成形体など剛性が求められるような場合など、用途に必要に応じて適宜の厚みが選択され、特に制限されないが、0.01~10mmであることが好ましい。
【0017】
(B)帯電防止層
本発明の樹脂複合材における(B)帯電防止層は、(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂および(b3)極性溶媒を少なくとも含むカーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布、乾燥させることによって得られる。
【0018】
(b1)カーボンナノチューブ
本発明に用いる(b1)カーボンナノチューブは、特に限定されず、一般的な製造方法として知られているアーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD)法のいずれの方法で製造されたカーボンナノチューブであってよい。カーボンナノチューブの純度や生産性を考慮した場合、化学気相成長法(CVD)法で製造されたカーボンナノチューブを使用することが好ましい。また、カーボンナノチューブの種類については、特に制限されず、単層カーボンナノチューブであってもよいし、2層カーボンナノチューブであってもよいし、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0019】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、(b1)カーボンナノチューブの外径は、特に限定されないが、下限としては、1.0nm以上であることが好ましく、1.2nm以上であることがより好ましく、1.5nm以上であることがさらに好ましい。また上限としては、5.0nm以下であることが好ましく、3.0nm以下であることがより好ましく、2.0nm以下であることがさらに好ましい。なお、カーボンナノチューブの外径は、ラマン分光装置と透過型電子顕微鏡を使い分けて100本分の測定を行い、平均値を外径とすることができる。
【0020】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、(b1)カーボンナノチューブの長さは、特に限定されないが、下限としては、10nm以上であってよく、10μm以上であってもよく、1mm以上であってもよく、10mm以上であってもよく、また上限としては100mm以下である。なお、測定方法も特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブ1本の長さであってもよく、もしくは、カーボンナノチューブが相互に凝集されて束になった状態(バンドル状態)であってもよい。
【0021】
また、(b1)カーボンナノチューブのGバンドとDバンドの強度比であるG/D比は、下限としては10以上であることが好ましく、20以上であることが好ましく、30以上であることがさらに好ましい。G/D比はラマン分光装置により測定され、共鳴ラマン散乱法(励起波長532 nm)で測定したラマンスペクトルにおいて、Gバンド(1590 cm-1付近)とDバンド(1300 cm-1付近)のピーク強度比で算出される。G/D比の高いほど、カーボンナノチューブの構造における欠陥量が少ないことが示される。
【0022】
(b1)カーボンナノチューブの炭素純度は特に規定されないが、例えば95%以上であり、98%以上であることが好ましく、99%以上であることが更に好ましい。金属などの不純物を極力取り除くことでカーボンナノチューブの分散性を向上させることができる。
【0023】
(b2)ポリカーボネート樹脂
本発明に用いる(b2)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単体で構成されるもの、または、他の樹脂とのアロイであってもよく、特に制限されない。また、用途や環境に応じてその他の成分として、公知の添加剤、例えば、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等を含有するものであっても良い。
【0024】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は市販品を用いてもよく、具体的な例として、帝人株式会社製のパンライトシリーズ、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製のユーピロンシリーズやノバレックスシリーズ、住友ベークライト株式会社製のポリカエースシリーズ、住化ポリカーボネート株式会社製のSDポリカシリーズなどが挙げられる。
【0025】
(b3)極性溶媒
本発明に用いる(b3)極性溶媒は、特に限定されず、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1-クロロブタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアセテート系溶媒;γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のサルファイド系溶媒;ヘキサメチルリン酸アミド、リン酸トリ-n-ブチル等のリン酸系溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール等のアルコール系溶媒;ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸系溶媒が挙げられる。
【0026】
上記(b3)極性溶媒の中から、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミン系溶媒、ニトロ系溶媒、アミド系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒が好適であり、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、トリエチルアミン、ピリジン、アセトニトリル、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン及びキシレンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、塩化メチレン、クロロホルム、2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、トルエン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドンを用いることがより好ましい。
【0027】
本発明で用いる(b3)極性溶媒の濃度は、カーボンナノチューブ分散液を製造する際にカーボンナノチューブが均一に分散でき、さらに帯電防止層の塗工方法に応じた粘度となるように調製可能であれば特に制限されない。具体的な例としては、下限として、84質量%以上であることが好ましく、86質量%以上がより好ましい。また上限として、94質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
その他、本発明の効果を阻害しない限り、他の配合剤を含有してもよい。他の配合剤の例としては、密着付与剤、消泡剤、表面調整剤などを挙げることができる。本発明の樹脂複合材の用途に応じて公知のものから適宜選択することができる。
【0029】
カーボンナノチューブ分散液の製造方法
本発明に用いるカーボンナノチューブ分散液は、(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂および(b3)極性溶媒と必要に応じて配合される配合剤とを混合または分散させることにより製造することができる。
これらの混合または分散方法は、(b1)カーボンナノチューブが目視で凝集物が確認できない程度に各成分が均一に分散ないしは混合できる方法で行えばよく、特に限定されない。分散装置としては、例えば、ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル、バスケットミル、アトリションミル、万能攪拌機、クリアミキサー、超音波、ジェットミル、剪断分散処理等が挙げられる。剪断分散処理は、製品名「ナノジェットパルJN20」(株式会社常光製) 、製品名「ナノヴェイタL-ES」(吉田機械興業株式会社製)等を用いることができる。
【0030】
樹脂複合材の製造方法
樹脂複合材の製造方法としては、(A)熱可塑性樹脂基板上に(B)帯電防止層を形成することで得られる。(B)帯電防止層の形成方法は、特に限定されないが、カーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に塗布後、乾燥させる方法、または、カーボンナノチューブ分散液を(A)熱可塑性樹脂基板上に噴霧後、乾燥させる方法等を例示することができる。
【0031】
(A)熱可塑性樹脂基板へカーボンナノチューブ分散液を塗布する方法としては、特に制約はないが、カーボンナノチューブ分散液を、目的の塗膜厚みに応じて、例えば、スクリーン印刷、バーコーター、ナイフコーター、スピンコーター、アプリケーター等から適した方式で熱可塑性樹脂基板上へ塗布することができる。また、噴霧器を使ったスプレーコートによっても塗布することもできる。
【0032】
塗膜に含まれる(b3)極性溶媒の乾燥方法としては、ヒーター式、熱風乾燥式、赤外線照射式、真空式等の従来の乾燥設備を用いることができる。(b3)極性溶媒を除去には、例えば、温度は20℃~100℃程度であり、(B)帯電防止層に気泡跡ができないように段階的に温度をあげていくことが好ましい。乾燥時間については、段階的にあげる各温度にて20分~240分程度で行うことが好ましい。また、乾燥設備内の環境としては、上記の通り、(B)帯電防止層に気泡跡が形成されないようするならば、常圧状態でも真空状態のいずれでもよい。
【0033】
乾燥によって得られる(B)帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブの濃度は、下限としては、0.005質量%以上であってよく、0.0075質量%以上であってよく、0.01質量%以上であってよい。また、上限として、0.1質量%以下であってよく、0.075質量%以下であってよく、0.05質量%以下であってよい。この範囲にあることにより、導電性および可視光領域における全光線透過率の観点で良好な結果が得られる。
【0034】
乾燥によって得られる(B)帯電防止層における(b2)ポリカーボネート樹脂の濃度は、下限としては、96.99質量%以上であってよく、96.9925質量%以上であってよく、96.995質量%以上であってよい。また、上限としては、99.95質量%以下であってよく、99.925質量%以下であってよく、99.9質量%以下であってよい。
【0035】
乾燥によって得られる(B)帯電防止層におけるその他配合剤の濃度は、好ましくは3質量%以下である。他の配合剤は含まれず、実質的に(b1)カーボンナノチューブおよび(b2)ポリカーボネート樹脂のみで構成されていてもよい。
【0036】
乾燥後の(B)帯電防止層の厚みとしては、0.1μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることがさらに好ましい。また上限としては、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、12μm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、本発明において、導電性および透明性を両立するにおいて、帯電防止層中のカーボンナノチューブ濃度(質量%)および膜厚(μm)に関して下記関係式を満たすことが好ましい。
関係式:0.001≦カーボンナノチューブ濃度×膜厚2<5
【0038】
上記製造方法によって得られる本発明の樹脂複合材は、優れた帯電防止性を有し、(A)熱可塑性樹脂基板が元来有する可視光領域における全光線透過率を大きく損なうことがないため、導電性および透明性が要求される用途に対して好適に用いることができる。
【0039】
本発明の樹脂複合材の導電性としては、下限としては、1×107Ω/sq.以上であることが好ましく、2.5×107Ω/sq.以上であることがより好ましく、5×107 Ω/sq.以上であることがさらに好ましい。また上限としては、1×1013 Ω/sq.未満であることが好ましく、7.5×1012 Ω/sq.以下であることがより好ましく、5×1012Ω/sq.以下であることがさらに好ましい。この数値範囲にあることで、帯電防止性が要求される用途において十分な導電性が確保されているため好適に用いることができる。
【0040】
本発明の樹脂複合材の可視光領域における全光線透過率としては、80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、84%以上であることがさらに好ましい。この数値以上であることで、透明性を要する用途に対して好適に用いることができる。
【実施例0041】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
まず、後述の実施例及び比較例で用いた材料を以下に説明する。なお、カーボンナノチューブの略称としてCNTと記載することもある。
(A)熱可塑性樹脂基板
PC樹脂基板 AS ONE製、厚み2mm、全光線透過率89%
PMMA樹脂基板 AS ONE製、厚み2mm、全光線透過率89%
(B)帯電防止層
(b1)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブ 大阪ソーダ製、単層CNT、外径2.0nm、G/D比76
カーボンブラック 三菱化学製、#960(比較材料)
(b2)ポリカーボネート樹脂
ポリカーボネート樹脂 帝人製、パンライト L-1225Y
ポリメタクリル酸メチル樹脂 三菱ケミカル製、アクリペットVH001(比較材料)
(b3)極性溶媒
クロロホルム 和光純薬工業社製
【0043】
続いて、評価方法について以下に説明する。
【0044】
(帯電防止層の厚み)
樹脂複合材の帯電防止層の厚みは、マイクロメータを用いて、カーボンナノチューブ分散液の塗工前の基材の厚みおよび乾燥工程後の樹脂複合材の厚みを測定し、その差分が帯電防止層の厚みとすることができる。なお、条件安定化のため測定前に23℃50%RHの条件下に48時間静置し、測定についても同条件下にて行った。
【0045】
(表面抵抗値)
樹脂複合材の帯電防止層の表面抵抗値をハイレスタ(ハイレスタ-UX MCP-HT800 、日東精工アナリテック製)を用いて測定した。なお、条件安定化のため測定前に23℃50%RHの条件下に48時間静置し、測定についても同条件下にて行った。印加電圧10Vにて成型面を3か所測定し、その平均値を表面抵抗値とした。また評価基準を以下の通りに設定し、評価を行った。
〇:1×1013Ω/sq.未満
×:1×1013Ω/sq.以上
【0046】
(全光線透過率)
JIS K-7361-1(プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法)に基づき、紫外‐可視‐近赤外分光光度計(UV-3600i SHIMAZU製、積分球ユニットISR-603使用)を用いて、測定波長380~780nmにて樹脂複合材の全光線透過率の測定を行った。また評価基準を以下の通りに設定し、評価を行った。
〇:80%以上
×:80%未満
【0047】
[調製例1]カーボンナノチューブ分散液1
表1に示す組成のように、カーボンナノチューブを0.0025質量%、ポリカーボネート樹脂を9.9975質量%、クロロホルムを90質量%になるようにそれぞれ秤量し、振盪機を用いて1時間振盪し、樹脂成分を溶解させた。次に、ホモミキサー(TKロボミックス、プライミクス株式会社製)を用いて10分間カーボンナノチューブの粗粉砕・粗分散処理をおこなった。続いて高圧乳化分散装置(ナノヴェイタL-ES、吉田機械興業株式会社製)を用いてカーボンナノチューブの微細分散処理を行い、カーボンナノチューブ分散液1を調製した。
【0048】
[調製例2]カーボンナノチューブ分散液2
表1に示す組成のように、カーボンナノチューブを0.0015質量%、ポリカーボネート樹脂を9.9985質量%に変更した以外は調製例1と同様にして行い、カーボンナノチューブ分散液2を調製した。
【0049】
[調製例3]カーボンナノチューブ分散液3
表1に示す組成のように、カーボンナノチューブを0.001質量%、ポリカーボネート樹脂を9.999質量%に変更した以外は調製例1と同様にして行い、カーボンナノチューブ分散液3を調製した。
【0050】
[調製例4]カーボンナノチューブ分散液4
表1に示す組成のように、カーボンナノチューブを0.005質量%、ポリカーボネート樹脂を9.995質量%)に変更した以外は調製例1と同様にして行い、カーボンナノチューブ分散液4を調製した。
【0051】
[調製例5]カーボンナノチューブ分散液5
表1に示す組成のように、カーボンナノチューブを0.0025質量%、ポリメタクリル酸メチル樹脂を9.9975質量%に変更した以外は調製例1と同様にして行い、カーボンナノチューブ分散液5を調製した。
【0052】
[調製例6]カーボンブラック分散液
表1に示す組成のように、カーボンブラックを0.0025質量%、ポリカーボネート樹脂を9.9975質量%に変更した以外は調製例1と同様にして行い、カーボンブラック分散液を調製した。
【0053】
【0054】
[実施例1]
(A)熱可塑性樹脂基板としてPC樹脂基板、調製例1で得られたカーボンナノチューブ分散液1をアプリケーター(実験装置塗工機3
、株式会社井元製作所製)を用いて、乾燥工程後に(B)帯電防止層の厚みが10μmとなるようPC樹脂基板上に均一に塗布した。塗膜と基板の間に気泡が発生しないよう、50℃にて1時間、70℃にて1時間、徐々に温度条件を上げながら乾燥工程を行って溶媒を除去し、(B)帯電防止層を形成し、本発明の樹脂複合材を得た。乾燥工程後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブおよび(b2)ポリカーボネート樹脂ぞれぞれの固形分濃度は表2の通りである。また、得られた樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0055】
[実施例2、3]
乾燥工程後の帯電防止層が5μm(実施例2)、2.5μm(実施例3)となるようにカーボンナノチューブ分散液1をPC樹脂基板上に塗布したこと以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0056】
[実施例4]
実施例1で使用したカーボンナノチューブ分散液1からカーボンナノチューブ分散液2にした以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0057】
[実施例5、6]
乾燥工程後の帯電防止層が5μm(実施例5)、2.5μm(実施例6)となるようにカーボンナノチューブ分散液2をPC樹脂基板上に塗布したこと以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0058】
[実施例7]
実施例1で使用したカーボンナノチューブ分散液1からカーボンナノチューブ分散液3にした以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0059】
[実施例8、9]
乾燥工程後の帯電防止層が5μm(実施例8)、2.5μm(実施例9)となるようにカーボンナノチューブ分散液3をPC樹脂基板上に塗布したこと以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0060】
[実施例10、11]
実施例1で使用したカーボンナノチューブ分散液1からカーボンナノチューブ分散液4に変更し、乾燥工程後の帯電防止層が5μm(実施例10)、2.5μm(実施例11)となるようにカーボンナノチューブ分散液4をPC樹脂基板上に塗布したこと以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0061】
[実施例12]
実施例1で使用したPC樹脂基板からPMMA樹脂基板に変更したこと以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表2に示す。
【0062】
[比較例1]
実施例1で使用したカーボンナノチューブ分散液1からカーボンナノチューブ分散液4に変更し、乾燥後の帯電防止層の厚みを10μmとなるようにカーボンナノチューブ分散液4をPC樹脂基板上に塗布したこと以外は実施例1と同様に行い、乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表3に示す。
【0063】
[比較例2]
実施例1で使用したカーボンナノチューブ分散液1からカーボンナノチューブ分散液5にした以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンナノチューブ、(b2)ポリメタクリル酸メチル樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表3に示す。
【0064】
[比較例3]
実施例1で使用したカーボンナノチューブ分散液1からカーボンブラック分散液にした以外は実施例1と同様に行い、樹脂複合材を得た。乾燥後の帯電防止層における(b1)カーボンブラック、(b2)ポリカーボネート樹脂それぞれの固形分濃度および樹脂複合材の評価結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
表2および3の結果より、適切なカーボンナノチューブ濃度、塗膜の厚みであれば、帯電防止性と透明性が両立でき、透明性と帯電防止性が求められるような用途においても本発明は十分に適用できることが示唆された。また、実施例1~11にように(B)帯電防止層の(b2)ポリカーボネート樹脂と(A)熱可塑性樹脂基板が同一の素材であることが良好な導電性および透明性が得られると予想していたが、実施例12と比較例2とを比較すると、予想に反し、帯電防止層に用いる樹脂がポリカーボネート樹脂でないと導電性が発現できない事が分かった。