(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131650
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ラックバーの研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 5/36 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
B24B5/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030691
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】一色 信元
(72)【発明者】
【氏名】秋田 英明
(72)【発明者】
【氏名】中溝 拓也
(72)【発明者】
【氏名】須永 頼匡
【テーマコード(参考)】
3C043
【Fターム(参考)】
3C043AC01
3C043CC03
3C043CC13
3C043DD05
(57)【要約】
【課題】ステアリング装置における軸受部材との摩擦抵抗を低減可能なラックバーの研磨方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ラックバーの研磨方法であって、
前記ラックバーは、ステアリング装置に組み込まれた際に該ラックバーを支持する軸受部材に対して摺動可能であり、軸材を備え、該軸材に設けられピニオンに噛み合うラックが形成されたラック部と、前記軸受部材に摺接する摺接面とを有し、
研磨方向が前記ラックバーの軸方向に沿うように前記摺接面を研磨材によって研磨する、ラックバーの研磨方法。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックバーの研磨方法であって、
前記ラックバーは、ステアリング装置に組み込まれた際に該ラックバーを支持する軸受部材に対して摺動可能であり、軸材を備え、該軸材は、ピニオンに噛み合うラックが形成されたラック部と前記軸受部材に摺接する摺接面とを有し、
研磨方向が前記ラックバーの軸方向に沿うように前記摺接面を研磨材によって研磨する、ラックバーの研磨方法。
【請求項2】
前記ラック部の厚さ方向に対向する反対側に位置する前記摺接面を研磨する、請求項1に記載のラックバーの研磨方法。
【請求項3】
前記研磨材として、円盤状で円周方向に沿って回転可能であり且つ回転する外周面に砥粒を有する回転砥石を用い、
前記外周面が前記ラックバーの軸方向に沿うように前記回転砥石を回転させるとともに、前記回転砥石又は前記ラックバーの少なくとも一方を前記軸方向に沿うように移動させながら前記外周面で前記摺接面を研磨する、請求項1又は2に記載のラックバーの研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックバーの研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックバーは、例えば自動車等に搭載されるラックアンドピニオン式ステアリング装置を構成する部材として用いられ、ピニオンに噛み合う複数の歯部を有するラックが形成されたラック部を備えている。
【0003】
このようなラックアンドピニオン式ステアリング装置に用いられるラックバーの製造では、通常、円筒状又は円柱状の鋼材に金型を押し付けることによってラックを形成した後、ラックの強度を高めるために熱処理(焼き入れ)を行う(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、ラックの熱処理(焼き入れ)を行った際、この熱処理によってラックバーの表面に酸化被膜が形成され、これがラックバーの表面に凹凸を生じさせる原因となる。
【0006】
通常、ステアリング装置において、ラックバーは、ラック部の厚さ方向(後述)に対向する反対側の部分を支持するサポートヨークや、両端部を支持するラックブッシュ等の軸受部材に支持される。そして、ピニオンに連結した操舵軸の操作によって該ピニオンが回転すると、ラックバーはその軸方向に沿って移動する。このとき、ラックバーは、軸受部材に対して摺動しながら移動することとなる(以下、ラックバーの軸受部材に支持される表面を「摺接面」と称する。)。
【0007】
ステアリング装置の上記のような駆動機構により、軸受部材はラックバーの摺接面との摺接によって摩耗し得る。よって、ラックバーの摺接面と軸受部材との摩擦抵抗は小さい方が好ましい。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、ステアリング装置における軸受部材との摩擦抵抗を低減可能なラックバーを製造するラックバーの研磨方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るラックバーの研磨方法では、
前記ラックバーは、ステアリング装置に組み込まれた際に該ラックバーを支持する軸受部材に対して摺動可能であり、軸材を備え、該軸材は、ピニオンに噛み合うラックが形成されたラック部と前記軸受部材に摺接する摺接面とを有し、
研磨方向が前記ラックバーの軸方向に沿うように前記摺接面を研磨材によって研磨する。
【0010】
斯かる構成によれば、上記のような研磨方向であるため、摺接面の表面にはラックバーの軸方向に沿うように研磨目が形成されることとなる。言い換えれば、研磨目の方向がラックバーの移動方向に沿う方向になる。よって、ラックバーの摺接面と軸受部材との摩擦抵抗を低減することができる。
【0011】
また、本発明に係るラックバーの研磨方法では、前記ラック部の厚さ方向に対向する反対側に位置する前記摺接面を研磨することが好ましい。
【0012】
ここで、ステアリング装置において、ラックバーは、ラック部の厚さ方向に対向する反対側に位置する摺接面において、サポートヨークと呼ばれる軸受部材に支持される。このサポートヨークは、通常、バネ部材等によってラックバーに向かって付勢した状態となっている。このため、サポートヨークと該摺接面との間には、比較的摩擦抵抗が生じ易い。これに対して、上記研磨方法によれば、サポートヨークと摺接する摺接面の表面に形成される研磨目の方向が、ラックバーの移動方向に沿う方向になるため、より効果的に摩擦抵抗を低減することができる。
【0013】
また、本発明に係るラックバーの研磨方法では、
前記研磨材として、円盤状で円周方向に沿って回転可能であり且つ回転する外周面に砥粒を有する回転砥石を用い、
前記外周面が前記ラックバーの軸方向に沿うように前記回転砥石を回転させるとともに、前記回転砥石又は前記ラックバーの少なくとも一方を前記軸方向に沿うように移動させながら前記外周面で前記摺接面を研磨することが好ましい。
【0014】
斯かる構成によれば、砥粒を有する回転砥石の外周面(いわゆる回転砥石の研磨面)をラックバーの軸方向に沿うように回転させるとともに、前記回転砥石又は前記ラックバーの少なくとも一方を前記軸方向に沿うように移動させながら前記外周面で前記摺接面を研磨することによって、回転砥石の外周面(研磨面)の回転方向(回転して研磨する方向)と、当該外周面の移動方向(移動して研磨する方向)の両方向が、ラックバーの移動方向に沿う方向になる。よって、摺接面の表面にはラックバーの軸方向に沿うように研磨目がより形成されやすくなる。従って、ラックバーの摺接面と軸受部材との摩擦抵抗をより低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上の通り、本発明によれば、ステアリング装置における軸受部材との摩擦抵抗を低減可能なラックバーを製造するラックバーの研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ステアリング装置を示す概略図である。
【
図5】
図5は、ラック部の厚み方向反対側に位置する研磨必要面を示す図である。
【
図6】
図6は、回転砥石の外周面を示す概略図である。
【
図7】
図7は、一実施形態のラックバーの研磨方法におけるラックバーと研磨材との位置関係を示す図であり、ラックバーの軸方向に直交する方向から見たときの図である。
【
図8】
図8は、
図7においてラックバーの軸方向一方側から見たときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るラックバーの研磨方法について説明する。なお、以下では、ラックバーの軸方向を軸方向X(長手方向)と称することがある。また、軸方向Xに直交する横方向を幅方向Y(第1短手方向)と称することがある。また、軸方向X及び幅方向Yのそれぞれに直交する縦方向を厚さ方向Z(第2短手方向)と称することがある。また、軸方向Xに直交するラックバーの断面(Y-Z面)を横断面と称することがある。
【0018】
まず、
図1~4を参照しつつ、本実施形態の研磨方法によって研磨処理されたラックバー1について、ラックバー1を採用したステアリング装置100を示しながら説明する。
【0019】
図1に示されるように、ステアリング装置100は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置100である。ステアリング装置100は、車両等の操舵軸に連結されたピニオン2と、ピニオン2に噛み合うラック11aが形成されたラックバー1と、ラックバー1を支持する軸受部材3とを備えている。
【0020】
ラックバー1は、軸材10を備えている。軸材10は、ラック11aが形成されたラック部11と、軸材10の表面であって軸受部材3に摺接する摺接面13とを有する。
【0021】
ラックバー1は、例えば、中実の(円柱状の)鋼材又は中空の(円筒状の)鋼材から製造される。該鋼材としては、例えば、JIS 4051:2016に規定される機械構造用炭素鋼鋼材が挙げられる。これらのなかでもS45Cの鋼材が好ましい。
【0022】
図1~2に示されるように、ラック11aは、歯先113が幅方向Y(
図1~2では紙面に直交する方向)に沿って延びるように形成された複数の歯部111によって構成されている。各歯部111は、軸方向Xに沿って例えば等間隔に並んでいる。また、各歯部111は、これらの間にピニオン2の歯部が挿抜可能な複数の溝112を形成している。このような構成によって、ステアリング装置100におけるラックバー1は、ラック11aに噛み合ったピニオン2の回転に伴って軸方向Xに沿って移動するようになっている。このとき、ラックバー1は軸受部材3に対して摺動するように移動し、これに伴って、摺接面13は軸受部材3と摺接する。
【0023】
ラックバー1は、摺接面13として、ラック部11の厚さ方向Zに対向する反対側に位置する歯裏摺接面13aと、ラック11aが未形成の両端部に位置する両端摺接面13bとを有している。
図3及び4に示されるように、横断面において、歯裏摺接面13aの表面131aの形状は例えば円弧状である。また、横断面において、両端摺接面13bの表面131bの形状は例えば円形状である。
【0024】
ステアリング装置100において、ラックバー1は、歯裏摺接面13aにおいてサポートヨークと呼ばれる軸受部材31に支持され、且つ、両端摺接面13bにおいてラックブッシュと呼ばれる軸受部材32に支持されている。軸受部材3は、通常、樹脂材料によって構成されている。
【0025】
ステアリング装置100において、サポートヨーク31は、歯裏摺接面13aの表面131aを下方から覆うような形状に形成されている。サポートヨーク31は、歯裏摺接面13aを載置する載置面を有しており、該載置面と表面131aとが接触した状態でラックバー1を支持している。
【0026】
また、ステアリング装置100において、ラックブッシュ32は、両端摺接面13bの表面131bをラックバー1の周方向CY1にわたって覆うような形状に形成されている。ラックブッシュ32は、両端摺接面13bを周方向CY1にわたって覆う内周面を有しており、該内周面と表面131bとが接触した状態でラックバー1を支持している。
【0027】
図3及び4に示されるように、横断面において、歯裏摺接面13aの表面131aが描く円弧の直径及び両端摺接面13bの表面131bが描く円の直径は実質的に同一となっている。これらの直径をR1とすると、直径R1は例えば22mm~37mmである。なお、直径R1は、両端摺接面13bにおける任意5箇所の円周を測定して平均円周C1を求め、下記式(1)によって求めることができる。円周率πは、3.14とする。
R1=C1/円周率π ・・・(1)
【0028】
歯裏摺接面13aは、横断面(Y-Z面)において表面131aが描く円弧の中心角θ1が例えば170°である。なお、中心角θ1は、歯裏摺接面13aにおける任意5箇所の円周を測定して平均円周C2を求め、下記式(2)によって求めることができる。
θ1=C2/C1×360° ・・・(2)
【0029】
ステアリング装置100は、ラックバー1が軸受部材3に対して摺動しつつ軸方向Xに沿って移動し、これに伴って、摺接面13と軸受部材3の前記載置面や前記内周面とが摺接するように構成されている。
【0030】
次に、
図5~
図8を参照しつつ、本実施形態のラックバー1の研磨方法について説明する。
【0031】
本実施形態の研磨方法では、高周波誘導加熱等の加熱処理を経て表面に酸化被膜が形成された未処理ラックバー1a(熱処理(焼き入れ)を行った後のワーク)を研磨材4により研磨処理し、処理済ラックバー1bを得る。このとき、
図7に示すように、研磨方向Dが軸方向Xに沿うように(研磨方向Dを軸方向Xと略平行に)摺接面13を研磨する。
このような研磨方向Dによって、摺接面13の表面には軸方向Xに沿って延びるように研磨目が形成される。すなわち、該研磨目は、摺接面13と軸受部材3とが摺接する方向に沿って形成される。よって、摺接面13の表面と軸受部材3の前記載置面や前記内周面との摩擦抵抗が抑制される。より具体的には、例えば、幅方向Yに沿って研磨されたラックバーと比較して、ラックバー1は、軸方向Xにおいて、軸受部材3との摩擦抵抗が抑制されたものとなる。また、これによって、軸受部材3の摩耗を抑制することができる。なお、研磨方向Dには、前記軸方向Xから幅方向Yや厚さ方向Zに±5°傾いた方向が含まれるものとする。
【0032】
本実施形態の研磨方法は、歯裏摺接面13aの表面131aを研磨する第1研磨処理と、両端摺接面13bの表面131bを研磨する第2研磨処理とを備えてもよい。また、前記第1研磨処理と第2研磨処理とを同時に実施してもよく、別々に実施してもよい。なお、別々に実施する場合、前記第1研磨処理及び前記第2研磨処理は、いずれを先に実施してもよく、その順序は適宜変更可能である。また、前記第1研磨処理及び前記第2研磨処理のいずれか一方のみを実施してもよい。
【0033】
本実施形態の研磨方法は、ラック部11の厚さ方向Zに対向する反対側に位置する歯裏摺接面13aを研磨することが好ましい。
上記のように、ステアリング装置100において、ラックバー1は、ラック部11の厚さ方向Zに対向する反対側に位置する摺接面(歯裏摺接面13a)において、サポートヨーク31と呼ばれる軸受部材31に支持される。サポートヨーク31は、通常、バネ部材等によってラックバー1に向かって付勢した状態となっている。歯裏摺接面13aは、ピニオン2に噛み合うラック11aが形成されたラック部11の反対側に位置する摺接面であるため、ピニオンに噛み合った際の応力が直接的にかかりやすい箇所でもある。このため、サポートヨーク31と摺接面13aとの間には、比較的摩擦抵抗が生じ易い。これに対して、上記研磨方法により得られるラックバー1によれば、サポートヨーク31と摺接する摺接面13aの表面に形成される研磨目が、ラックバー1の移動方向に沿って形成されるため、より効果的に摩擦抵抗を低減することができる。
【0034】
本実施形態の研磨方法は、歯裏摺接面13aにおける軸受部材31と摺接する表面131aのみを研磨してもよい。ここで、ステアリング装置100によっては、歯裏摺接面13aの表面131aの一部分(特に幅方向Yに交差する両端面133a、133a(
図3参照))がサポートヨーク31と接触していない態様のものもある。言い換えれば、ステアリング装置100では、表面131aの一部分に集中してサポートヨーク31との摺接が生じ得るものもある。このため、歯裏摺接面13aのより効率的な研磨を実施する上では、表面131aの所定部分のみを研磨してもよい。言い換えれば、歯裏摺接面13aの表面131aにおいて、研磨する必要がある面(研磨必要面)を設定し、該研磨必要面のみを研磨してもよい。
【0035】
前記研磨必要面は、例えば、
図5に示すような箇所(符号132a)に設定してもよい。より具体的には、横断面(Y-Z面)において、表面131aの直径R1を規定する線分(より詳しくは、ラック11aにおける歯部111の歯先113と平行し且つ表面131aの直径R1を規定する線分)に重なるX軸と、ラックバー1を二等分するように該X軸に直交するY軸と、X軸及びY軸の原点Oとを有する座標軸を定め、ラック部11をY軸の負側に配して、研磨必要面132aを、Y軸の正方向側に位置する部分に設定する。その後、原点Oを通り且つY軸に対して±65°傾斜した一対の直線L1を介してY軸の正方向側に位置する部分に研磨必要面132aを設定する。また、一対の直線L1と原点Oを通り且つY軸に対して±25°傾斜した一対の直線L2との間の部分に研磨必要面132aを設定する。
すなわち、歯裏摺接面13aの表面131aとサポートヨーク31との接触面は、例えば、X軸の正方向を0°として、表面131aにおける中心角θ1の25~65°に相当する部分及び中心角θ1の115~155°に相当する部分に設定される(
図5)。また、サポートヨーク31の摩耗が進むと、該接触面は、例えば、X軸の正方向側を0°として、表面131aにおける中心角θ1の25~155°に相当する部分となる。よって、研磨必要面132aを上記のように軸受部材の摩耗を考慮して当該25~155°に相当する部分に設定することによって、上記の摩耗抵抗を十分に低減可能なラックバー1とすることができる。
【0036】
図7に示すように、本実施形態の研磨方法では、固定部材(図示せず)によって固定した状態の未処理ラックバー1aの表面131aを、未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿って移動可能に構成された研磨材4によって研磨する。
【0037】
未処理ラックバー1aは、例えば、表面131aが垂直方向(厚さ方向Z)における上方を向くように且つラック11aにおける歯部111の歯先113が下方を向くように固定される。また、研磨材4は、例えば、表面131aに接触した状態で、未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿って移動可能に構成される。さらに、研磨材4は、表面131aとの接触状態及び非接触状態の双方の状態をとり得るように、垂直方向(厚さ方向Z)に沿って移動可能に構成されてもよい。これに対して、研磨材4を固定し、未処理ラックバー1aを軸方向Xに沿って移動させてもよい。研磨装置の占有面積の低減を図る上では、長尺の未処理ラックバー1aを移動させるよりも、研磨材4を移動させることが好ましい。
【0038】
図6~8に示すように、本実施形態の研磨材4は、回転砥石4である。回転砥石4は、円盤状に形成され、回転軸CY2周りに回転可能である。また、回転砥石4は、回転する外周面41に砥粒を有している。回転砥石4は、その回転方向B(外周面41の移動方向)が未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿うように配されている。
【0039】
回転砥石4は、前記砥粒と、該砥粒を結合させる結合剤としての樹脂とによって構成されている。
前記砥粒としては、コスト面の観点から、白色アルミナ(WA)等の比較的硬度の低いアルミナ系砥粒が用いられる。また、結合剤として、ビトリファイド等のセラミック系結合剤が用いられる。なお、結合剤は、曲線形状を有する表面131aや表面131bの研磨処理における削り残し等を考慮して、レジン系結合剤(樹脂系の結合剤)を用いることもできる。
【0040】
前記砥粒の番手は、♯60~♯800、好ましくは♯120~♯220が用いられる。このような番手の砥石は、研磨取り代(例えば10~30μm)を必要とする未処理ラックバー1aの研磨において、研磨処理前の焼き入れで生じる酸化被膜を十分に除去可能であり、それによって、上記の摩耗抵抗を低減する上で十分な表面粗さとすることができる。また、ラックバー1がステアリング装置100に組み込まれたときには、通常、軸受部材3との潤滑性を向上させるために、表面131a及び表面131bにグリス等の潤滑剤が塗布される。このため、上記番手の砥石であれば、潤滑剤が表面131a及び表面131bに適度に保持され得る表面粗さとすることもできる。
【0041】
回転砥石4の外径は、例えば、200mm以上360mm以下である。回転砥石4の研磨処理時の回転する外周面41の摺接面13に対する接触圧は、例えば、0.1MPa以上1MPa以下である。回転砥石4の研磨処理時の周速度は、例えば、25m/s以上30m/s以下である。
【0042】
図6に示すように、回転砥石4は、例えば、外周面41が歯裏摺接面13aの表面131aの形状(円弧状)に対応した凹状に形成されている。より具体的には、回転砥石4は例えば、回転軸CY2に重なる砥石断面において、外周面41が、表面131aの直径R1と同じ長さの直径を有する円弧状部分411を有している。
【0043】
本実施形態の研磨方法では、上述したような回転砥石4の外周面41が未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿うように回転砥石4を回転させるとともに、回転砥石4又は未処理ラックバー1a(好ましくは回転砥石4)を軸方向Xに沿うように移動させながら外周面41で摺接面13を研磨する。すなわち、回転砥石4の回転方向及び回転砥石4の外周面41の移動方向の両方向を未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿うようにして研磨する。
これによって、摺接面13の表面には未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿うように研磨目が更に形成されやすくなる。よって、未処理ラックバー1aの摺接面13と軸受部材との摩擦抵抗を更に低減することができる。
【0044】
前記第1研磨処理において、凹状の外周面41を有する回転砥石4を用いる場合、表面131aの一部の領域を研磨処理する第1片面研磨処理を実施した後、表面131aの他の一部の領域を研磨処理する第2片面研磨処理を実施することが好ましい。より具体的には、
図8に示すように、未処理ラックバー1aと回転砥石4との位置関係を未処理ラックバー1aの軸方向Xの一方側から見たときに、歯部111の歯先113が回転砥石4の回転軸CY2に対してなす傾斜角度θ2が45±5°となるようにラックバー1を軸方向Xまわりの一方向(例えば反時計回り方向)に回転させた状態で固定し(
図8(b)の状態)、回転砥石4を下方に移動させることによって未処理ラックバー1aに接触させ、回転砥石4を未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿って回転・移動させることにより、前記第1片面研磨処理を実施する。該第1片面研磨処理終了後、表面131aと回転砥石4とが非接触状態となるように、上方に回転砥石4を移動させる(例えば
図8(a)の状態)。次に、傾斜角度θ2が45±5°となるようにラックバー1を軸方向まわりの他方向(例えば時計回り方向)に回転させた状態で固定し(
図8(c)の状態)、回転砥石4を下方に移動させることによって未処理ラックバー1aに接触させ、回転砥石4を未処理ラックバー1aの軸方向Xに沿って移動させることにより、前記第2片面研磨処理を実施する。
【0045】
前記第1片面研磨処理による研磨箇所と前記第2片面研磨処理による研磨箇所は、一部が重複していてもよい。これによって、研磨必要面132aを重点的に研磨することができる。言い換えれば、表面131aとサポートヨーク31との摺接し易い部分を比較的重点的に且つ効率的に研磨することができる。
【0046】
回転砥石4の移動速度Vは、例えば、30~50mm/秒(10%の誤差を含む)に設定される。より具体的には、まず、未処理ラックバー1aの各歯部111に対応する表面131aの各部分において研磨する量(取代量)を定める。そして、該取代量が10~20μmの部分では、例えば、移動速度Vを50±5mm/秒に設定し、該取代量が20~30μmの部分では、例えば、移動速度Vを30±3mm/秒に設定する。
【0047】
前記第2研磨処理では、両端摺接面13bにおける表面131bを全体にわたって研磨処理してもよい。一方、より効率的な研磨を実施する上では、表面131bのうち、ステアリング装置においてラックブッシュ32の前記内周面と集中して摺接が生じ得る部分を重点的に研磨することが好ましい。言い換えれば、表面131bにおいて、研磨する必要がある研磨必要面132bを設定することが好ましい。
【0048】
研磨必要面132bは、ラックバー1の周方向CY1において、歯裏摺接面13aの研磨必要面132aの位置に対応した位置に設定する。これによって、ラックバー1の固定状態を変更することなく、研磨必要面132aの研磨に続けて、研磨必要面132bの研磨を実施することができるため効率的である。また、ステアリング装置100においては、ラックバー1の荷重によって、ラックブッシュ32の前記内周面における底部に集中して両端摺接面13bとの摺接が生じ易くなっている。よって、研磨必要面132bの位置を上記のように設定することによって、ラックブッシュ32との摺接が生じ易い部分を重点的に研磨することができる。
【0049】
本実施形態の研磨方法を実施する上では、未処理ラックバー1aは、所定の研磨取代を有している。該研磨取り代は、例えば、10~30μmである。
【0050】
本実施形態の研磨方法では、回転砥石4の回転方向Bに対する回転砥石4の移動方向Dは、軸方向Xに沿う方向であれば、同方向であってもよく、逆方向であってもよい。
【0051】
本実施形態の研磨方法では、研磨時の発熱を抑制するクーラント液を用いても良い。該クーラント液としては、水溶性クーラント液であってもよく、油性クーラント液であってもよいが、コストの面から水溶性クーラント液を用いてもよい。
【0052】
本実施形態の研磨方法によれば、研磨処理後の摺接面13の軸方向Xにおける算術平均粗さRaで0.1μm(測定方法:針接触式測定 評価長さ4mm 規格JIS2001)となり、周方向CY1における算術平均粗さRaが0.4μm(測定方法:針接触式測定 評価長さ4mm 規格JIS2001)となる。すなわち、本実施形態の研磨方法で研磨されたラックバーは、軸方向Xと周方向CY1とで粗さRaが異なる。具体的には、軸方向Xの粗さRaが小さく、周方向CY1の粗さRaが大きくなる。
ここで、軸受部材3(特にラックブッシュ32)は、ステアリング装置100において、ラックバー1の周方向CY1に沿った回転を阻止する機能も有している。このため、周方向CY1における算術平均粗さRaが比較的大きい摺接面13を備えたラックバー1によれば、軸受部材3の上記機能を高めることができるため、ステアリング装置におけるラックバー1の周方向CY1の回転をより効果的に阻止することができる。
【0053】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係るラックバーの研磨方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係るラックバーの研磨方法は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係るラックバーの研磨方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態では、研磨材として回転砥石4を用いる態様を示したが、これに限定されず、研磨材4は、例えば、研磨紙布やバフ研磨材であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、ラックバー1又は研磨材4のいずれか一方を移動させる態様を示したが、これに限定されず、ラックバー1及び研磨材4の両方を移動させてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1:ラックバー、
10:軸材、11:ラック部、11a:ラック、111:歯部、112:溝、
113:歯先、13:摺接面、13a:歯裏摺接面、131a:表面、
132a:研磨必要面、13b:両端摺接面、131b:表面、132b:研磨必要面、
133a:端面、
2:ピニオン、
3:軸受部材、31:サポートヨーク、32:ラックブッシュ、
4:研磨材、41:外周面、411:円弧状部分、
X:軸方向、Y:幅方向、Z:厚さ方向、CY1:周方向、CY2:回転軸、
θ1:中心角、θ2:傾斜角度、
B:回転方向、D:研磨方向(研磨材の移動方向)、
L1、L2:直線、R1:直径