(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131680
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】加熱装置、及び、半導体発振器
(51)【国際特許分類】
H05B 6/64 20060101AFI20220831BHJP
H05B 6/70 20060101ALI20220831BHJP
H05B 6/72 20060101ALI20220831BHJP
H05B 6/68 20060101ALI20220831BHJP
H05B 6/66 20060101ALI20220831BHJP
H03F 3/217 20060101ALI20220831BHJP
H03F 3/58 20060101ALI20220831BHJP
H03F 3/60 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
H05B6/64 G
H05B6/70 F
H05B6/72
H05B6/68 370
H05B6/66 C
H03F3/217 160
H03F3/58
H03F3/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030747
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 英生
(72)【発明者】
【氏名】大野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝利
【テーマコード(参考)】
3K086
3K090
5J067
5J500
【Fターム(参考)】
3K086BA05
3K086BA07
3K086CA11
3K086CC01
3K086DA14
3K086DA15
3K086FA07
3K090AA04
3K090BA03
3K090BA08
3K090DA17
5J067AA04
5J067AA41
5J067AA67
5J067CA36
5J067CA75
5J067CA87
5J067CA92
5J067FA15
5J067FA16
5J067HA16
5J067HA24
5J067HA29
5J067HA33
5J067KA12
5J067KA29
5J067KA66
5J067KA68
5J067MA08
5J067QA04
5J067TA01
5J067TA07
5J500AA04
5J500AA41
5J500AA67
5J500AC36
5J500AC58
5J500AC75
5J500AC87
5J500AC92
5J500AF15
5J500AF16
5J500AH16
5J500AH24
5J500AH29
5J500AH33
5J500AK12
5J500AK29
5J500AK66
5J500AK68
5J500AM08
5J500AQ04
5J500AT01
5J500AT07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐圧の向上及び小型化が可能な加熱装置、及び、半導体発振器を提供する。
【解決手段】加熱装置1は、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4とを備える。電波信号発生部2は、被加熱物110の誘電加熱用の電波信号を発生させる。信号増幅部3は、電波信号発生部2からの電波信号を増幅する。電波照射部4は、信号増幅部3で増幅された電波信号に基づいて電波を照射する。信号増幅部3は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生部と、
前記電波信号発生部からの前記電波信号を増幅する信号増幅部と、
前記信号増幅部で増幅された前記電波信号に基づいて電波を照射する電波照射部と、
を備え、
前記信号増幅部は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタを有する、
加熱装置。
【請求項2】
電波を遮蔽する材料で構成され、前記被加熱物を収容する加熱室を備え、
前記電波照射部は、前記加熱室内に電波を照射する、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記電波照射部により照射される電波の周波数を制御する周波数制御部を備える、
請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
複数の前記電波照射部を備え、
前記周波数制御部は、前記複数の電波照射部のうちの少なくとも2つにより照射される電波の周波数を互いに異ならせる、
請求項3に記載の加熱装置。
【請求項5】
複数の前記電波照射部と、
前記複数の電波照射部により照射される複数の電波の位相差を制御する位相差制御部と、
を備える、
請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記複数の電波照射部は、互いに対向して互いに向けて電波を照射する少なくとも一組の電波照射部を含む、
請求項5に記載の加熱装置。
【請求項7】
複数の前記電波照射部と、
前記複数の電波照射部により照射される複数の電波の周波数及び前記複数の電波照射部により照射される複数の電波の位相差を制御する処理を行う処理部と、
を備える、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項8】
複数の前記電波照射部と、
前記複数の電波照射部により照射される複数の電波の出力を制御する出力制御部と、
を備える、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記電波照射部により照射される電波の出力を制御する出力制御部を備え、
前記出力制御部は、前記電波照射部により照射される電波の出力を第1出力と第2出力との間で切り替え、
前記第1出力は、前記第2出力の100分の1以下である、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項10】
前記電波照射部により照射される電波により供給される電力のうち加熱に利用された有効電力と加熱に利用されなかった無効電力との少なくとも一方を検知する電力検知部を備える、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項11】
前記電力検知部は、前記電波照射部により照射される電波のうち前記被加熱物に吸収されることなく反射された反射波の電力を検知する、
請求項10に記載の加熱装置。
【請求項12】
前記電波照射部により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部と、
前記所定の周波数範囲に関して前記電力検知部により反射波の電力を検知し、前記反射波の電力に基づいて前記被加熱物の誘電加熱に使用する電波の周波数を前記周波数制御部により選択する処理を行う処理部と、
を備える、
請求項11に記載の加熱装置。
【請求項13】
前記電力検知部により反射波の電力の経時的に検知し、前記反射波の電力の経時変化に基づいて前記被加熱物の状態の判定をし、前記判定の結果に基づいて前記電波照射部により照射される電波を制御する処理を行う処理部を備える、
請求項11に記載の加熱装置。
【請求項14】
前記電波照射部により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部と、
前記所定の周波数範囲に関して、前記電波照射部により照射される電波の入射電力に対する前記電力検知部で検知された反射波の電力の比である反射率を算出し、前記反射率に基づいて前記被加熱物の誘電加熱に使用する電波の周波数を選択する処理を行う処理部と、
を備える、
請求項11に記載の加熱装置。
【請求項15】
前記電波照射部により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部と、
前記被加熱物の誘電加熱の間、前記所定の周波数範囲に関して前記電力検知部により反射波の電力を検知し、前記反射波の電力に基づいて前記電波照射部により照射される電波の周波数を前記周波数制御部により調整する処理を行う処理部と、
を備える、
請求項11に記載の加熱装置。
【請求項16】
前記信号増幅部は、
前記トランジスタのゲート電極に接続される入力整合回路と、
前記トランジスタのドレイン電極に接続される出力整合回路と、
を有する、
請求項1~15のいずれか一つに記載の加熱装置。
【請求項17】
前記信号増幅部は、複数の前記トランジスタを有し、
前記複数のトランジスタの少なくとも2つは、互いに並列又は直列に接続される、
請求項16に記載の加熱装置。
【請求項18】
前記ワイドバンドギャップ半導体のバンドギャップは、4.0[eV]以上である、
請求項1~17のいずれか一つに記載の加熱装置。
【請求項19】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、酸化ガリウムである、
請求項1~18のいずれか一つに記載の加熱装置。
【請求項20】
ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタと、
前記トランジスタのゲート電極に接続される入力整合回路と、
前記トランジスタのドレイン電極に接続される出力整合回路と、
を有する、
半導体発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加熱装置、及び、半導体発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、加熱装置の一例である、マイクロ波処理装置を開示する。特許文献1のマイクロ波処理装置は、半導体発振部と、発振部の出力を複数に分割する分配部と、分配された出力をそれぞれ増幅する複数の増幅部と、増幅部の出力を再合成する合成部と、分配部と増幅部との間に設けられた位相器とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、耐圧の向上及び小型化が可能な加熱装置及び半導体発振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様にかかる高周波加熱装置は、被加熱物の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生部と、電波信号発生部からの電波信号を増幅する信号増幅部と、信号増幅部で増幅された電波信号に基づいて電波を照射する電波照射部とを備える。信号増幅部は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタを有する。
【0006】
本開示の一態様にかかる半導体発振器は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタと、トランジスタのゲートに接続される入力整合回路と、トランジスタのドレインに接続される出力整合回路とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図2】
図1の加熱装置の信号増幅部の構成例の回路図
【
図3】
図2の信号増幅部のトランジスタの構成例の概略断面図
【
図4】実施の形態2にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図5】実施の形態3にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図6】実施の形態3にかかる加熱装置の別の構成例の概略図
【
図7】実施の形態4にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図8】実施の形態4にかかる加熱装置の別の構成例の概略図
【
図9】実施の形態5にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図10】周波数及び位相差による被加熱物の加熱分布の違い説明する図
【
図11】周波数及び位相差による被加熱物の加熱分布の違い説明する図
【
図12】
図11に示す位相差0°、周波数2400MHzの場合の被加熱物の加熱分布の図
【
図13】周波数及び位相差による被加熱物の加熱分布の違い説明する図
【
図14】
図13に示す位相差0°、周波数914MHzの場合の被加熱物の加熱分布の図
【
図15】位相差0°の場合の被加熱物の加熱分布を説明する図
【
図16】位相差180°の場合の被加熱物の加熱分布を説明する図
【
図17】位相差0°と位相差180°とを組み合わせた場合の被加熱物の加熱分布を説明する図
【
図19】比較例において加熱処理を行った後の被加熱物の加熱分布を説明する図
【
図20】周波数及び位相差による加熱室及び被加熱物の加熱分布のシミュレーションに用いたモデルを説明する図
【
図21】
図20に示すモデルにおいて周波数及び位相差による加熱室及び被加熱物の加熱分布の違い説明する図
【
図22】実施の形態5にかかる加熱装置の別の構成例の概略図
【
図23】実施の形態6にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図24】実施の形態7にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図25】実施の形態7にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図26】実施の形態8にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図27】実施の形態8にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図28】実施の形態9にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図29】実施の形態9にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図30】実施の形態10にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図31】実施の形態11にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図32】実施の形態12にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図33】実施の形態13にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図34】実施の形態14にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図35】実施の形態15にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図36】実施の形態16にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図37】実施の形態17にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図38】実施の形態18にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図39】実施の形態19にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図40】実施の形態20にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図41】実施の形態21にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図42】実施の形態22にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図43】実施の形態22にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図44】実施の形態23にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図45】実施の形態23にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図46】実施の形態23にかかる被加熱物の状態変化の検知の説明図
【
図47】実施の形態23にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図48】実施の形態23にかかる被加熱物の状態変化の検知の説明図
【
図49】実施の形態23にかかる被加熱物の状態変化の検知の説明図
【
図50】実施の形態23にかかる被加熱物の状態変化の検知の説明図
【
図51】実施の形態23にかかる被加熱物の状態変化の検知の説明図
【
図52】実施の形態23にかかる被加熱物の状態変化の検知の説明図
【
図53】実施の形態24にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図54】実施の形態24にかかる被加熱物の厚みの推定の説明図
【
図55】実施の形態25にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図56】実施の形態26にかかる加熱装置の動作の一例のフローチャート
【
図57】実施の形態27にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図58】水と氷に関する周波数と電力半減深度との関係を示すグラフ
【
図59】水と氷に関する周波数と誘電損失係数との関係を示すグラフ
【
図60】実施の形態28にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図61】実施の形態28にかかる加熱装置の位相差と電波指向性との関係を示す図
【
図62】実施の形態29にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図63】実施の形態30にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図64】実施の形態30にかかる加熱装置の別の構成例の概略図
【
図65】実施の形態31にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図66】実施の形態32にかかる加熱装置の構成例の概略図
【
図67】変形例1にかかるトランジスタアレイの構成例の断面図
【
図69】変形例2にかかる信号増幅部の構成例の回路図
【
図70】
図69の信号増幅部の半導体パッケージの構成例の概略平面図
【
図72】変形例3にかかる信号増幅部の半導体パッケージの構成例の概略断面図
【
図73】変形例3にかかる信号増幅部の半導体パッケージの別の構成例の概略断面図
【
図74】変形例4にかかる信号増幅部の構成例の回路図
【
図75】変形例5にかかる信号増幅部を備えるモジュールの構成例の回路図
【
図76】変形例5にかかる信号増幅部を備えるモジュールの別の構成例の回路図
【
図77】変形例6にかかる信号増幅部の半導体パッケージの構成例の概略断面図
【
図79】変形例7にかかる信号増幅部のトランジスタの構成例の概略断面図
【
図80】変形例8にかかる信号増幅部を備えるモジュールの構成例の概略図
【
図81】変形例8にかかる信号増幅部を備えるモジュールの別の構成例の概略図
【
図82】変形例9にかかる信号増幅部の構成例の回路図
【
図83】変形例9にかかる信号増幅部の別の構成例の回路図
【
図84】変形例10にかかる信号増幅部の実装構造の構成例の概略断面図
【
図85】変形例10にかかる信号増幅部の実装構造の別の構成例の概略断面図
【
図86】変形例10にかかる信号増幅部の実装構造の別の構成例の概略断面図
【
図88】ウェットエッチングとドライエッチングとの違いの説明図
【
図89】等方性エッチングと異方性エッチングとの違いの説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しながら、実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者(ら)は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0010】
[1.実施の形態]
[1.1 実施の形態1]
[1.1.1 概要]
図1は、実施の形態1にかかる加熱装置1の構成例の概略図である。加熱装置1は、例えば、電子レンジ等のマイクロ波処理装置である。加熱装置1は、被加熱物110の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生部2と、電波信号発生部2からの電波信号を増幅する信号増幅部3と、信号増幅部3で増幅された電波信号に基づいて電波(照射波)を照射する電波照射部4とを備える。信号増幅部3は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30(
図2参照)を有する。
【0011】
ワイドバンドギャップ半導体は、バンドギャップが大きいので、絶縁破壊電界強度が高くなる。そのため、トランジスタ30の空乏層が薄くても大きな耐圧を得ることができる。したがって、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成されたトランジスタ30を用いることで、信号増幅部3を高電圧で動作可能なデバイスとして構成することができる。信号増幅部3の小型化も可能となる。更に、ワイドバンドギャップ半導体は絶縁破壊電界強度が高く、オン抵抗(ドリフト抵抗)が低く抑えられるから、損失が小さくなる。そのため、信号増幅部3の効率を高くできる。高温においても絶縁が保たれるため、放熱のための部材等が不要になり、小型化が図れる。このように、本実施の形態によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0012】
[1.1.2 詳細]
以下、実施の形態1にかかる加熱装置1について更に詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、加熱装置1は、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4とを備える。
図1の加熱装置1は、加熱室100を備える。
【0014】
加熱室100は、電波を遮蔽する材料で構成され、被加熱物110を収容する。加熱室100は、例えば、被加熱物110を収納する直方体の箱状である。加熱室100は、例えば、電波を遮蔽する材料からなる左壁面、右壁面、底壁面、上壁面、奥壁面及び被加熱物110を収納するために開閉する開閉扉を備え、電波照射部4から供給される電波(マイクロ波)を加熱室100の内部に閉じ込めるように構成されている。このように、加熱室100は、電波を遮蔽する材料で構成され、被加熱物110の加熱の際に閉空間を形成できる。本開示において、「遮蔽」は、反射、吸収、多重反射等によって電波のエネルギを滅衰させることを意味する。したがって、電波を遮蔽する材料は、このような「遮蔽」の作用が得られる材料であればよい。電波を遮蔽する材料としては、金属材料等の電波を反射する材料、及び、フェライトゴム等の電波を吸収する材料が挙げられる。
【0015】
電波信号発生部2は、被加熱物110の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生器である。電波信号の周波数は、例えば、1MHz~10GHzである。このような周波数の電波信号を用いて電波を誘電体に照射することで、誘電体内部において誘電損失が生じ、誘電体において熱が発生する。これによって、誘電体を加熱できる。本実施の形態において、信号増幅部3は、商用交流電源により動作可能である。信号増幅部3は、商用交流電源からの交流電力に基づいて、電波信号を生成する。
【0016】
信号増幅部3は、電波信号発生部2からの電波信号を増幅する信号増幅器である。
図2は、信号増幅部3の構成例の回路図である。
図2に示すように、信号増幅部3は、トランジスタ30と、インダクタL1,L2と、キャパシタC1,C2とを備える。より詳細には、信号増幅部3は、トランジスタ30と、インダクタL1,L2と、キャパシタC1,C2とで構成されたE級増幅回路である。E級増幅回路は、共振回路(電波信号発生部2)にタイミングを合わせてスイッチング素子(トランジスタ30)で駆動することにより電力増幅を行うことで、高効率増幅を実現することができる。
【0017】
トランジスタ30は、例えば、電界効果トランジスタである。トランジスタ30のソースは接地されている。したがって、信号増幅部3は、ソース接地回路である。インダクタL1の第1端はトランジスタ30のドレインに接続され、インダクタL1の第2端は内部電源に接続される接続端子VDDを構成する。インダクタL2の第1端はトランジスタ30のドレインに接続されるとともにキャパシタC1を介して接地される。キャパシタC2の第1端はインダクタL2の第2端に接続され、キャパシタC2の第2端は、電波照射部4に接続される出力端子Voutを構成する。
【0018】
トランジスタ30は、ワイドバンドギャップ半導体により形成される。ワイドバンドギャップ半導体は、バンドギャップが大きい半導体である。半導体として一般的なシリコン(Si)のバンドギャップが約1.1[eV]であることから、シリコンのバンドギャップの2倍程度である2.2[eV]以上のバンドギャップを持つ半導体を、ワイドバンドギャップ半導体という場合がある。本開示では、ワイドバンドギャップ半導体としては、シリコンのバンドギャップの4倍以上のバンドギャップを持つ半導体が、好適に用いられる。
【0019】
下記に示す表1は、半導体(特に、パワー半導体材料)の性能比較を示す。表1は、パワー半導体材料として、シリコン(Si)、炭化ケイ素(4H-SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(βガリア構造を有するβ-Ga2O3、及び、コランダム構造を有するα-Ga2O3)を例示する。パワー半導体材料の性能は、バンドギャップ(Eg[eV])、移動度(μ[cm2/Vs])、絶縁破壊電界強度(Ec[MV/cm])、比誘電率、バリガ性能指数(低周波(εμEc
3))、及びバリガ性能指数(高周波(μEc
2))により比較した。なお、バリガ性能指数は、シリコン(Si)を1として規格化した値である。
【0020】
【0021】
表1に例示されたパワー半導体材料(すなわち、Si、4H-SiC、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(βガリア構造を有するβ-Ga2O3、及び、コランダム構造を有するα-Ga2O3)においては、酸化ガリウムが、ワイドバンドギャップ半導体として利用されてよい。なお、ダイヤモンドも酸化ガリウムと同様に、シリコンのバンドギャップの4~5倍程度のバンドギャップを持っているため、ワイドバンドギャップ半導体として利用されてよい。このようなワイドバンドギャップ半導体は、絶縁破壊電界強度も非常に高いから、電極間距離を短くすることが可能である。したがって、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0022】
表1から分かるように、酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べてバンドギャップが大きい。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べて電子移動度が小さい。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べて絶縁破壊電界強度が大きい。酸化ガリウムは、比誘電率が窒化ガリウムその他のパワー半導体材料と同程度である。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べてバリガ性能指数(低周波)が大きい。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べてバリガ性能指数(高周波)が大きい。また、酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べて熱伝導度k(W/cm・K)が小さい。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べて最高動作温度Tjmax(℃)が高い。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べてデバイスのオン抵抗が低い。酸化ガリウムは、窒化ガリウムに比べて基板(ウェハ)コストが安価である。
【0023】
本実施の形態において、ワイドバンドギャップ半導体のバンドギャップは、4.0[eV]以上であるとよい。ワイドバンドギャップ半導体の電子移動度は、300[cm2/Vs]以下であるとよい。ワイドバンドギャップ半導体の絶縁破壊電界強度は、7[MV/cm]以上であるとよい。ワイドバンドギャップ半導体の熱伝導度は、1[W/cm・K]以下であるとよい。本実施の形態において、トランジスタ30の形成に用いられるワイドバンドギャップ半導体は、酸化ガリウムである。
【0024】
図3は、トランジスタ30の構成例の概略断面図である。
図3に示すように、トランジスタ30は、基板31と、チャネル層32と、ソース電極33と、ドレイン電極34と、ゲート電極35と、絶縁層36と、絶縁層37と、フィールドプレート38とを備える。
【0025】
基板31は、例えば、酸化ガリウム基板又はサファイヤ基板である。基板31は、ワイドバンドギャップ半導体で形成される基板であってよい。チャネル層32は、基板31の主面(
図3における上面)に形成される。チャネル層32は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成される。チャネル層32は、例えば、n型酸化ガリウムで形成される。チャネル層32は、電子走行層として機能する。ソース電極33及びドレイン電極34は、チャネル層32における基板31とは反対側に形成される。ソース電極33及びドレイン電極34は、基板31の厚み方向(
図3における上下方向)に直交する方向において距離を離して配置される。ゲート電極35は、チャネル層32における基板31とは反対側に形成される。ゲート電極35は、ソース電極33とドレイン電極34との間にある。絶縁層36は、ゲート電極35とチャネル層32との間にある。絶縁層36は、ゲート絶縁膜である。絶縁層36は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、又は酸化ハフニウム(HfO
2)により形成される。絶縁層37は、ソース電極33、ドレイン電極34、及びゲート電極35を覆う。絶縁層37は、例えば、窒化シリコン(SiN)、又は窒化アルミニウム(AlN)である。絶縁層36及び絶縁層37を窒化アルミニウム等の熱伝導率が高い材料を用いて形成することで、トランジスタ30の放熱性を向上できる。フィールドプレート38は、トランジスタ30の耐圧を向上させるために設けられる。
図3では、フィールドプレート38は、ソース電極33と一体に形成される。フィールドプレート38は、ソース電極33からドレイン電極34側に延びて、ゲート電極35を覆う。絶縁層37は、フィールドプレート38も覆っている。
【0026】
トランジスタ30は、ワイドバンドギャップ半導体(例えば、酸化ガリウム)を用いて形成されている。ワイドバンドギャップ半導体は、絶縁破壊電界強度も非常に高いから、電極間距離を短くすることが可能である。したがって、耐圧の向上及び小型化が可能である。トランジスタ30の耐圧が向上すると、高出力動作に伴いゲート-ドレイン間の電位差が大きくなった場合でも、確実に絶縁状態を確保できるので、ゲート-ドレイン間の電極間距離を短くすることが可能となる。
図3のトランジスタ30において、ゲート電極35とドレイン電極34との間の距離d1を、ゲート電極35とソース電極33との間の距離d2に近付けることができる。距離d1は、例えば、距離d2の1.0倍以上2.0倍以下に設定することができる。このように、ワイドバンドギャップ半導体を用いることで、半導体チップやモジュールの小型化に加え、省資源化・低コスト化が実現できる。
【0027】
図3のトランジスタ30は、横型構造のMOSトランジスタである。これによって、トランジスタ30の低容量特性(低入力容量、低ゲート入力電荷量、低帰還容量、低ゲート-ドレイン間電荷量)、特に非常に小さな帰還容量が効果的に作用するので、特に高周波領域において高性能な信号増幅部3が実現できる。
【0028】
電波照射部4は、信号増幅部3で増幅された電波信号に基づいて電波を照射する電波照射装置である。電波照射部4は、例えば、アンテナである。電波照射部4は、加熱室100内に電波を照射する。
図1に示すように、電波照射部4は、例えば、加熱室100の底壁面に配置されて、加熱室100内に電波を照射する。
【0029】
[1.1.3 効果等]
以上述べた加熱装置1は、被加熱物110の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生部2と、電波信号発生部2からの電波信号を増幅する信号増幅部3と、信号増幅部3で増幅された電波信号に基づいて電波を照射する電波照射部4とを備える。信号増幅部3は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を有する。この構成によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0030】
ワイドバンドギャップ半導体のバンドギャップは、シリコンのバンドギャップの4倍以上である。このようなワイドバンドギャップ半導体は、絶縁破壊電界強度も非常に高いから、電極間距離を短くすることが可能である。したがって、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0031】
ワイドバンドギャップ半導体は、酸化ガリウムである。酸化ガリウムは比較的安価であるから、製造コストの低減が図れる。
【0032】
[1.2 実施の形態2]
図4は、実施の形態2にかかる加熱装置1Aの構成例の概略図である。
図4に示すように、加熱装置1Aは、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4と、周波数制御部5とを備える。加熱装置1Aは、加熱装置1Aが周波数制御部5を備える点で、
図1に示す加熱装置1と異なる。
【0033】
周波数制御部5は、電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する。例えば、周波数制御部5は、電波照射部4により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する。所定の周波数範囲は、被加熱物110の誘電加熱に利用可能な周波数範囲から適宜選択されてよい。周波数制御部5は、電波信号発生部2が発生させる電波信号の周波数を制御することによって、電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する。周波数制御部5は、被加熱物110に応じて、電波照射部4により照射される電波の周波数を変更するために利用可能である。周波数制御部5は、周波数可変部であるといえる。
【0034】
周波数制御部5は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにより構成されてよい。周波数制御部5は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。
【0035】
加熱装置1Aでは、周波数制御部5により、電波照射部4により照射される電波の周波数を制御することが可能である。特に、周波数制御部5により、被加熱物110に応じて、電波照射部4により照射される電波の周波数を変更することができる。そのため、加熱装置1Aによれば、例えば、誘電率の異なる被加熱物110に応じて最適な周波数の電波を照射することができる。また、加熱室100内の電波分布が変えることが可能となる。これによって、被加熱物110(誘電体)の効率的な加熱が可能となる。また、被加熱物110(誘電体)の均一な加熱が可能となる。
【0036】
被加熱物110(誘電体)の誘電率だけではなく、被加熱物110の大きさ、重量、被加熱物110を入れる容器、加熱室100内での被加熱物110の位置によっても、被加熱物110の加熱に最適な周波数は異なる。このように被加熱物110に違いがある場合においても、加熱装置1Aによれば、被加熱物110の加熱に適した周波数の電波を照射できて、被加熱物110の加熱を効率的に行える。また、同一の被加熱物110(誘電体)に対しても周波数の違いにより半減深度が異なるので、被加熱物110の表面付近を主に加熱することが目的か被加熱物110の内部も加熱することが目的かに応じて、適切な周波数で被加熱物110の加熱をすることができる。
【0037】
以上述べた加熱装置1Aは、電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する周波数制御部5を備える。この構成によれば、被加熱物110に応じて周波数を変更できて、被加熱物110の加熱を効率的に行える。
【0038】
[1.3 実施の形態3]
図5は、実施の形態3にかかる加熱装置1Bの構成例の概略図である。
図5に示すように、加熱装置1Bは、電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、位相差制御部6とを備える。加熱装置1Bは、加熱装置1Bが複数の電波照射部4を備えるとともに位相差制御部6を備える点で、
図1に示す加熱装置1と異なる。
【0039】
位相差制御部6は、複数の電波照射部4により照射される複数の電波の位相差を制御する。位相差制御部6は、電波信号発生部2と2つの信号増幅部3との間に接続される。位相差制御部6は、電波信号発生部2からの電波信号を、2つの信号増幅部3に分配する。位相差制御部6は、2つの信号増幅部3に分配される電波信号間の位相差を制御することによって、複数の電波照射部4により照射される複数の電波の位相差を制御する。位相差制御部6は、電波照射部4により照射される電波の位相差を変更することによって、加熱室100内の電波分布を変更するために利用可能である。位相差制御部6は、位相可変部であるといえる。
【0040】
2つの信号増幅部3は、位相差制御部6からの電波信号を増幅してそれぞれ対応する2つの電波照射部4に出力する。
【0041】
2つの電波照射部4の各々は、対応する信号増幅部3で増幅された電波信号に基づいて電波を照射する。
図5に示すように、2つの電波照射部4は、例えば、加熱室100の底壁面に配置されて、加熱室100内に電波を照射する。
【0042】
上述したように、位相差制御部6は、加熱室100内の電波分布を変更するために利用可能である。つまり、複数の電波照射部4間の位相差を変えることで、加熱室100内の各場所での電界の重ね合わせ方向が変わるので、加熱室100内全体の電波分布も変わる。被加熱物110が加熱室100内に置かれている場合は、被加熱物110に吸収される電波の量及び吸収電力の分布も位相差により異なる。よって、位相差を変えることで加熱室100内の電界分布を攪拌することが可能となる。このように電波の位相差を変えることで加熱室100内の電界分布を攪拌することで、被加熱物110に対して異なる吸収電力分布の組合せでの加熱が可能となり、被加熱物110の均一な加熱を実現できる。
【0043】
位相差制御部6は、例えば、印加電圧に応じて容量が変化する容量可変素子を用いて構成される。位相差制御部6による位相可変範囲は、例えば、0°から略180°の範囲であってよい。これによって、複数の電波照射部4から照射される電力の位相差は0°から±180°の範囲で制御することができる。
【0044】
図6は、実施の形態3にかかる加熱装置1Bの別の構成例の概略図である。
図6に示す加熱装置1Bは、2つの電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、位相差制御部6とを備える。2つの電波信号発生部2は、互いに異なる周波数の電波信号を発生させる。
図6の加熱装置1Bでは、被加熱物110の加熱に用いる電波の周波数を切り替えることができる。これにより、被加熱物110に応じて周波数を変更できて、被加熱物110の加熱を効率的に行える。
【0045】
以上述べた加熱装置1Bは、複数の電波照射部4と、複数の電波照射部4により照射される複数の電波の位相差を制御する位相差制御部6とを備える。この構成によれば、加熱室100内の電波分布を変更することができ、被加熱物110の均一な加熱を実現できる。
【0046】
[1.4 実施の形態4]
図7は、実施の形態4にかかる加熱装置1Cの構成例の概略図である。
図7に示すように、加熱装置1Cは、電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、位相差制御部6とを備える。加熱装置1Cは、加熱装置1Cの2つの電波照射部4が互いに対向して互いに向けて電波を照射するように配置されている点で、
図5の加熱装置1Bと異なる。
図7に示すように、2つの電波照射部4は、加熱室100の右側壁及び左側壁に配置されて、互いに向けて電波を照射する。
【0047】
図7に示すように、加熱室100内で対向する位置にある電波照射部4から加熱室100に放射する電波の位相差を制御することにより、加熱室100の内壁で電波が反射し、電波の放射方向及び位相が乱れる前の直接波同士の電界の重ね合わせを制御することが可能となる。例えば、電波照射部4からの電波の位相差が180°である場合には、加熱室100の中央を強く加熱することが可能になる。電波照射部4からの電波の位相差が0°である場合には、加熱室100の中央よりも周辺の加熱が可能となる。電波照射部4からの電波の位相差が90°である場合には、加熱室100の内部で電波分布を一方の電波照射部4に偏った電波分布とすることができる。このように、複数の電波照射部4からの電波の位相差を制御し、加熱室100内の電波分布を制御することで被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0048】
図7の加熱装置1Cにおいて、2つの電波照射部4からの電波を重ね合わせるためには、2つの電波照射部4間の距離は、2つの電波照射部4からの電波の周波数における1波長以上であることが好ましい。つまり、重ね合わせの対象となる電波の照射位置間の距離は、当該電波の周波数における1波長以上に設定される。
【0049】
図8は、実施の形態4にかかる加熱装置1Cの別の構成例の概略図である。
図8に示す加熱装置1Cは、2つの電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、位相差制御部6とを備える。2つの電波信号発生部2は、互いに異なる周波数の電波信号を発生させる。
図8の加熱装置1Cでは、被加熱物110の加熱に用いる電波の周波数を切り替えることができる。これにより、被加熱物110に応じて周波数を変更できて、被加熱物110の加熱を効率的に行える。
【0050】
以上述べた加熱装置1Cは、複数の電波照射部4は、互いに対向して互いに向けて電波を照射する少なくとも一組の電波照射部4を含む。この構成によれば、複数の電波照射部4からの電波の位相差を制御し、加熱室100内の電波分布を制御することで被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0051】
なお、加熱装置1Cは、2以上の複数の電波照射部4を備えてよく、複数の電波照射部4が互いに対向して互いに向けて電波を照射する少なくとも一組の電波照射部4を含んでいればよい。
【0052】
[1.5 実施の形態5]
図9は、実施の形態5にかかる加熱装置1Dの構成例の概略図である。
図9に示す加熱装置1Dは、電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、周波数制御部5と、位相差制御部6と、処理部7とを備える。
【0053】
処理部7は、複数の電波照射部4により照射される複数の電波の周波数及び複数の電波照射部4により照射される複数の電波の位相差を制御する処理を行う。
図9の処理部7は、周波数制御部5及び位相差制御部6を制御することによって、2つの電波照射部4から照射される電波の周波数、及び、2つの電波照射部4から照射される電波の位相差を制御する。これによって、被加熱物110の加熱を効率的に行え、かつ、被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となる。処理部7は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにより構成されてよい。周波数制御部5は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。
【0054】
以下、2つの電波照射部4から照射される電波の周波数、及び、2つの電波照射部4から照射される電波の位相差を制御することによって、被加熱物110の加熱を効率的に行え、かつ、被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となることについて説明する。
【0055】
図10は、2つの電波照射部4から照射される電波の周波数及び2つの電波照射部4から照射される電波の位相差による被加熱物110の加熱分布の違い説明する図である。
図10は、2つの電波照射部4から照射される電波の周波数と2つの電波照射部4から照射される電波の位相差との組み合わせに対する被加熱物110の加熱分布を示す。
図10では、周波数は、902MHz、906MHz、910MHz、914MHz、918MHz、922MHz、926MHzであり、位相差は、0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°である。なお、被加熱物110は、例えば、ローストビーフである。
【0056】
図10から明らかなように、周波数と位相差との組み合わせによって、被加熱物110の加熱分布が大きく変わっている。周波数が914MHz、918MHz、922MHz、926MHzで、位相差が0°、30°、60°である場合、被加熱物110の中央部分及び長さ方向の両側において温度が高くなっている。一方で、周波数が906MHzで位相差が120°、150°、180°である場合、被加熱物110の幅方向の両側において温度が高くなっている。このように、同一の被加熱物110であっても、周波数と位相差との組み合わせによって、加熱する部分を選択することができ、周波数と位相差との組み合わせを複数用いることによって、均一に加熱することが可能となる。
【0057】
図11~
図14は、異なる種類の被加熱物110についての、周波数及び位相差による加熱分布の違い説明する図である。
図11及び
図13は、2つの電波照射部4から照射される電波の周波数と2つの電波照射部4から照射される電波の位相差との組み合わせに対する被加熱物111,112,113(
図12、
図14参照)の加熱分布を示す。被加熱物111,112は、例えば、野菜である。被加熱物111は、例えば、ジャガイモである。被加熱物112は、例えば、パプリカである。被加熱物113は、例えば、肉である。被加熱物113は、例えば、牛肉である。
【0058】
図11では、周波数は、2400MHz、2420MHz、2440MHz、2460MHz、2480MHz、2500MHzであり、位相差は、0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°である。
図12は、
図11に示す位相差0°、周波数2400MHzの場合の被加熱物111,112,113の加熱分布を示す図である。
図13では、周波数は、902MHz、906MHz、910MHz、914MHz、918MHz、922MHz、926MHzであり、位相差は、0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°である。
図14は、
図13に示す位相差0°、周波数914MHzの場合の被加熱物111,112,113の加熱分布を示す図である。
【0059】
図11~
図14から明らかなように、周波数と位相差との組み合わせによって、被加熱物111~113の種類によって加熱分布が大きく変わっている。
図11に示すように、周波数が2400MHz~2500MHz(2450±50MHz)の場合、被加熱物113よりも被加熱物111,112を加熱することが可能である。被加熱物111,112は野菜であり、被加熱物113は肉であるから、2400MHz~2500MHzの周波数は、
図12に示すように、野菜(被加熱物111,112)を選択的に加熱するのに有効である。
図13に示すように、周波数が902MHz~928MHz(915±13MHz)の場合、被加熱物111,112よりも被加熱物113を加熱することが可能である。被加熱物111,112は野菜であり、被加熱物113は肉であるから、902MHz~928MHzの周波数は、
図14に示すように、肉(被加熱物113)を選択的に加熱するのに有効である。このように、周波数と位相差との組み合わせによって、種類の異なる被加熱物111,112,113を選択的に加熱することができ、周波数と位相差との組み合わせを複数用いることによって、異なる種類の被加熱物111,112,113を均一に加熱することが可能となる。
【0060】
周波数と位相差との組み合わせを複数用いることで被加熱物110を均一に加熱できることについて更に
図15~
図19を参照して説明する。
図15~
図19において、被加熱物110は、例えば、冷凍ラザニアであり、平面視において矩形状である。つまり、
図15~
図19は、冷凍ラザニアの解凍時の温度分布を示している。
【0061】
図15は、位相差0°の場合の被加熱物110の加熱分布を説明する図である。
図15に示すように、2つの電波照射部4から照射される電波の位相差が0°の場合、被加熱物110の中心領域R11よりも、中心領域R11の周りの領域R12のほうが、温度が高い。
図16は、位相差180°の場合の被加熱物110の加熱分布を説明する図である。
図16に示すように、2つの電波照射部4から照射される電波の位相差が180°の場合、被加熱物110の中心領域及び被加熱物110の表面側の領域R13のほうが、中心の周りの領域R14よりも温度が高い。そのため、2つの電波照射部4から照射される電波の位相差が0°の加熱と2つの電波照射部4から照射される電波の位相差が180°の加熱とを組みあわせることで被加熱物110を均一に加熱できると考えられる。
図17は、位相差0°と位相差180°とを組み合わせた場合の被加熱物110の加熱分布を説明する図である。
図17から明らかなように、2つの電波照射部4から照射される電波の位相差が0°の加熱と2つの電波照射部4から照射される電波の位相差が180°の加熱とを組みあわせることで被加熱物110を均一に加熱できることが確認された。
【0062】
図18は、比較例の被加熱物110の加熱分布を説明する図である。比較例は、従来の電子レンジであって、被加熱物110をターンテーブルにより回転させて加熱する。この場合、
図18から明らかなように、被加熱物110の四隅の領域R15の温度が中心部に比べて高くなっており、被加熱物110が四隅から加熱されることがわかる。
図19は、比較例において加熱処理を行った後の被加熱物110の加熱分布を説明する図である。
図19から明らかなように、被加熱物110の四隅の領域R16は中心部分より明らかに温度が高い。そのため、被加熱物110の中心部が十分に温まる前に、四隅が過度に加熱されてしまう。被加熱物110が冷凍ラザニアであれば、冷凍ラザニアの中心部が十分に解凍される前に、冷凍ラザニアの四隅の生地が脱水したり焦げたりしてしまう。
【0063】
次に、
図20及び
図21を参照して、周波数及び位相差による加熱室の電波分布及び被加熱物の加熱分布のシミュレーションについて説明する。
図20は、周波数及び位相差による加熱室の電波分布及び被加熱物の加熱分布のシミュレーションに用いたモデルを説明する図である。
図20に示すモデルは、4つの給電点P1~P4を備えている。4つの給電点P1~P4はそれぞれ電波照射部4に相当する。
図20に示すモデルでは、4つの給電点P1~P4は、加熱室100の底壁面101の四隅にある。より詳細には、給電点P1,P2が底壁面の長さ方向の第1端側(
図20における右側)、給電点P3,P4が底壁面の長さ方向の第2端側(
図20における左側)にある。
【0064】
図21は、
図20に示すモデルにおいて周波数及び位相差による加熱室の電波分布及び被加熱物の加熱分布の違い説明する図である。4つの給電点P1~P4から放射される電波の周波数は等しく、2413MHz、2455MHz、2495MHzのいずれかである。位相差は、給電点P1,P2から放射される電波と給電点P3,P4から放射される電波との位相差であり、給電点P3,P4から放射される電波の位相を変化させている。
【0065】
図21から明らかなように、周波数と位相差との組み合わせによって、加熱室100内の電波分布が大きく変化している。また、周波数と位相差との組み合わせによって、被加熱物110の加熱分布が大きく変化している。このように、複数の電波の周波数と位相差との組み合わせによって、加熱室100内の電波分布及び被加熱物110の加熱分布が一義的に決定される。したがって、周波数と位相差との組み合わせによって、加熱室100内の電波分布及び被加熱物110の加熱分布を制御することが可能である。
【0066】
加熱室100の高さ、幅、及び奥行きの寸法の少なくとも一つを電波照射部4から照射される電波の半波長以下にしてもよい。加熱室100において電波照射部4から照射される電波の半波長以下の寸法である方向においては、電波分布(電界分布)が生じにくくなるから、周波数及び位相差により加熱室100内の電波分布を制御しやすくなる。特に、加熱室100の高さ、幅、及び奥行きの寸法の少なくとも一つを電波照射部4から照射される電波の波長の1/4以下にしてもよい。加熱室100において電波照射部4から照射される電波の波長の1/4以下の寸法である方向においては、電波分布(電界分布)が生じないから、周波数及び位相差により加熱室100内の電波分布を更に制御しやすくなる。このように、加熱室100の形状によって、電波分布を生じさせるかどうかを決定できる。そのため、加熱室100内の電波分布の制御性を向上させることができる。これにより、被加熱物110の均一加熱と選択加熱とを選択的に実行することが容易になる。なお、被加熱物110が加熱室100内にある場合、被加熱物110の存在が加熱室100内の電波分布に影響を及ぼすが、被加熱物110の大きさが加熱室100に収容することが想定される実用的な大きさであれば、周波数及び位相差による加熱室100内の電波分布の制御は可能である。
【0067】
図22は、実施の形態5にかかる加熱装置1Dの別の構成例の概略図である。
図22に示す加熱装置1Dは、2つの電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、周波数制御部5と、位相差制御部6と、処理部7とを備える。2つの電波信号発生部2は、互いに異なる周波数の電波信号を発生させる。
図22の加熱装置1Dでは、被加熱物110の加熱に用いる電波の周波数を切り替えることができる。特に、2つの電波信号発生部2において周波数を大きく異ならせることで、周波数制御部5により変更可能な周波数の範囲を広げることができる。これにより、被加熱物110に応じて周波数を変更できて、被加熱物110の加熱を効率的に行える。
【0068】
以上述べた加熱装置1Dは、複数の電波照射部4と、複数の電波照射部4により照射される複数の電波の周波数及び複数の電波照射部4により照射される複数の電波の位相差を制御する処理部7とを備える。この構成によれば、被加熱物110の加熱を効率的に行え、かつ、被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0069】
[1.6 実施の形態6]
図23は、実施の形態6にかかる加熱装置1Eの構成例の概略図である。
図23に示すように、加熱装置1Eは、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4と、出力制御部8とを備える。加熱装置1Eは、加熱装置1Eが出力制御部8を備える点で、
図1に示す加熱装置1と異なる。
【0070】
出力制御部8は、電波照射部4により照射される電波の出力を制御する。出力制御部8は、電波信号発生部2が発生させる電波信号の大きさを制御することによって、電波照射部4により照射される電波の出力を制御する。出力制御部8は、被加熱物110に応じて、電波照射部4により照射される電波の出力を変更するために利用可能である。出力制御部8は、出力可変部であるといえる。なお、出力制御部8は、信号増幅部3の増幅率の変更、信号増幅部3に接続される内部電源の電圧の変更等のその他の手段によって電波照射部4により照射される電波の出力を制御してもよい。
【0071】
出力制御部8は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにより構成されてよい。出力制御部8は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。
【0072】
加熱装置1Eでは、出力制御部8により、電波照射部4により照射される電波の出力を制御することが可能である。特に、出力制御部8により、被加熱物110に応じて、電波照射部4により照射される電波の出力を変更することができる。
【0073】
特に、
図23の出力制御部8は、電波照射部4により照射される電波の出力を第1出力と第2出力との間で切り替える。第1出力は、第2出力より低い。第1出力は、例えば、第2出力の100分の1以下である。一例として、第2出力は500Wであり、第1出力は5Wである。つまり、第2出力は、通常の電子レンジによる加熱に利用される電力であり、第1出力は、通常の電子レンジによる加熱に用いる電力の範囲よりも低い出力である。このような第1出力を利用することで、数Wの出力の低い電波を安定して連続発振して被加熱物110の加熱を続けることができる。例えば、卵等の高出力な電波では加熱できない被加熱物110に対して、低出力な電波による加熱により、被加熱物110内で熱伝導させながら過加熱を防いだ加熱が可能となり、従来の大電力の加熱では実現できなかった低温加熱が可能となる。
【0074】
以上述べた加熱装置1Eは、電波照射部4により照射される電波の出力を制御する出力制御部8を備える。出力制御部8は、電波照射部4により照射される電波の出力を第1出力と第2出力との間で切り替える。第1出力は、第2出力の100分の1以下である。この構成によれば、第2電力により大電力の加熱が可能となり、第2電力による加熱では過加熱となるような被加熱物110に対して第1電力により低温加熱が可能となる。
【0075】
[1.7 実施の形態7]
図24は、実施の形態7にかかる加熱装置1Fの構成例の概略図である。
図24に示すように、加熱装置1Fは、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4と、周波数制御部5と、処理部7と、電力検知部9と、記憶部10とを備える。
【0076】
電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく反射された反射波の電力(以下、「反射波電力」ともいう)を検知する。
図24に示すように、電力検知部9は、信号増幅部3と電波照射部4との間に接続される。電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく加熱室100内で反射されて電波照射部4に戻ってきた電波(つまり反射波)の電力(反射波電力)を検知する。電力検知部9は、検出した反射波電力を示す信号を処理部7に出力する。電波照射部4から加熱室100内に照射された電波は、加熱室100で構成される略閉空間内に閉じ込められ、電力検知部9は、実質的には被加熱物110以外には吸収されたり減衰されたりすることなく反射して電波照射部4に戻ってくる電波(反射波)の電力を検知する。
【0077】
記憶部10は、処理部7が利用する情報及び処理部7で生成される情報を記憶するための記憶装置である。記憶部10は、1以上のストレージ(非一時的な記憶媒体)を含む。ストレージは、例えば、ハードディスクドライブ、光学ドライブ、及びソリッドステートドライブ(SSD)のいずれであってもよい。また、ストレージは、内蔵型、外付け型、及びNAS(network-attached storage)型のいずれであってもよい。
【0078】
記憶部10に記憶される情報は、電力検知部9の検知に関する検知情報を含む。検知情報は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む。なお、検知情報は、反射波電力に対応する周波数の情報、及び、反射波電力の検知の時間の情報を含んでよい。
【0079】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。所定の周波数範囲は、周波数制御部5が電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する範囲である。周波数は、所定の周波数範囲内で所定値ずつ変更可能である。例えば、周波数範囲が2400MHz~2500MHzで所定値が2MHzである。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力が検知され、記憶部10に記憶される。
【0080】
選択処理において、処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内で周波数の掃引をし、周波数毎に電力検知部9により反射波電力を検知する。結果として、所定の周波数範囲内の周波数について反射波電力が得られればよいから、周波数の掃引は、周波数が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、周波数が所定の周波数範囲に基づいてランダムに選択されてよい。処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知の際に、電波照射部4により照射される電波の電力を、通常の加熱処理の際の電力に設定してよい。つまり、処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知のために、電波照射部4により照射される電波の電力を低下させなくてよい。上述したように、信号増幅部3はワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を有しており、このトランジスタ30の特長である高い耐反射波特性を活かして、高出力でのセンシング(反射波電力の検知)が可能となる。つまり、トランジスタ30の耐反射波特性が低い場合には、反射波電力の検知の際に出力を低下させて、電波信号発生部2及び信号増幅部3の焼損を防止する必要があったが、トランジスタ30はワイドバンドギャップ半導体により形成されており、高い耐反射波特性を有しているから、反射波電力の検知時も高出力の電波を利用できる。これによって、低出力のセンシング時よりも被加熱物110をより加熱することが可能となり、短時間で被加熱物110を加熱することができる。つまり、反射波電力の検知の際にも被加熱物110の加熱が可能となる。また、高出力のセンシングによりSN比(信号雑音比)を大きくすることができ、反射波電力の小さな変化も検知することが可能となる。
【0081】
処理部7が、反射波電力が小さくなるように照射される電波の周波数を設定すると被加熱物110に作用する(吸収される)電波の電力(有効電力)が増加し、逆に反射波電力が大きくなるように電波の周波数を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。被加熱物110が誘電体の場合、反射波電力が小さくなるように周波数を設定すると、誘電損失により発生する熱が大きくなり、逆に反射波電力が大きくなるように周波数を設定すると被加熱物110において発生する熱は小さくなる。
【0082】
処理部7は、例えば、所定の周波数範囲から、反射波電力が最小となる周波数を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0083】
加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、周波数制御部5によって電波信号の周波数を、選択処理で選択した周波数に設定することで、選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の周波数を掃引して得られる周波数ごとの反射波電力に基づいて、電波の周波数を可変する。
【0084】
図24に示す加熱装置1Fの処理部7の動作について
図25に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内の周波数を設定し(S11)、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S12)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S13)。所定の周波数範囲に反射波電力が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S14:NO)、ステップS11に戻る。所定の周波数範囲に含まれる周波数毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S14:YES)、所定の周波数範囲から反射波電力が最小の周波数を選択する(S15)。処理部7は、ステップS15で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S16)。
【0085】
図24に示す加熱装置1Fでは、反射波電力に応じて照射される電波の周波数を可変できるので、反射波電力が極小となるように周波数を制御することで、誘電体である被加熱物110を効率的かつスピーディに加熱することができる。また、加熱装置1Fでは、反射波電力を検知しつつ反射波電力が極小となる周波数以外の周波数で加熱することで、誘電体加熱時の温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。また、被加熱物110に作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱装置1Fの省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体や回路、装置全体の発熱ロスを抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0086】
なお、電力検知部9は、有効電力と無効電力との少なくとも一方を検知してよい。有効電力は、電波照射部4により照射される電波により供給される電力のうち加熱に利用された電力である。有効電力は、例えば、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110で吸収された電波の電力である。有効電力は、被加熱物110に対して有効に作用する電力である。無効電力は、電波照射部4により照射される電波により供給される電力のうち加熱に利用されなかった電力である。無効電力は、例えば、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110で吸収されなかった電波の電力である。無効電力は、被加熱物110に対して有効に作用していない無効な電力である。上述の反射波電力は無効電力として扱ってよい。電波照射部4により照射される電波により供給される電力を入射電力とすると、有効電力と無効電力との合計は入射電力に等しいと考えてよい。入射電力は既知であるから、反射波電力を無効電力として用いることで、有効電力の算出が可能である。このように有効電力は演算等により間接的に求めてもよいし、測定等により直接的に求めてもよい。この点は、無効電力についても同様である。
【0087】
なお、有効電力は、厳密な意味では、被加熱物110での損失に加えて、一般的な電子レンジを構成している加熱室100の内壁及びドアガラスでの損失等の加熱室100での損失も含むことになるが、加熱室100での損失は被加熱物110での損失と比較して小さい。そのため、加熱室100での損失は無視してよい。したがって、電力検知部9の検知結果を利用した被加熱物110の効率的な加熱には十分な効果がある。
【0088】
以上述べたように、加熱装置1Fは、電波照射部4により照射される電波により供給される電力のうち加熱に利用された有効電力と加熱に利用されなかった無効電力との少なくとも一方を検知する電力検知部9を備える。電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく反射された反射波の電力を検知する。このように、電力検知部9により有効電力が検知できるので、加熱装置1Fは、被加熱物110の加熱に対して効率的な電波の照射が可能になる。具体的には、加熱装置1Fは、電波照射部4により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部5と、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理を行う処理部7とを備える。処理部7は、電力検知部9で検知された有効電力が大きくなるように、又は、電力検知部9で検知された無効電力が小さくなるように、電波照射部4から照射される電波の周波数を設定することができる。これによって、被加熱物110の加熱に対し効率的な周波数での電波の照射が可能となり、結果として加熱時間の短縮や電気エネルギの節約につながる。
【0089】
なお、加熱装置1Fにおいて、選択処理で選択する周波数は単一の場合および複数の周波数を選択する場合のどちらも含んでよい。
【0090】
[1.8 実施の形態8]
図26は、実施の形態8にかかる加熱装置1Gの構成例の概略図である。
図26に示すように、加熱装置1Gは、電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、位相差制御部6と、処理部7と、2つの電力検知部9と、記憶部10とを備える。
【0091】
電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく反射された反射波の電力(反射波電力)を検知する。
図26に示すように、2つの電力検知部9は、2つの信号増幅部3と2つの電波照射部4との間にそれぞれ接続される。電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく加熱室100内で反射されて電波照射部4に戻ってきた電波(つまり反射波)の電力(反射波電力)を検知する。電力検知部9は、検出した反射波電力を示す信号を処理部7に出力する。
【0092】
記憶部10は、処理部7が利用する情報及び処理部7で生成される情報を記憶するための記憶装置である。記憶部10に記憶される情報は、電力検知部9の検知に関する検知情報を含む。検知情報は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む。なお、検知情報は、反射波電力に対応する位相差の情報、及び、反射波電力の検知の時間の情報を含んでよい。
【0093】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する処理である。所定の位相差範囲は、位相差制御部6が電波照射部4により照射される電波間の位相差を制御する範囲である。位相差は、所定の位相差範囲内で所定値ずつ変更可能である。例えば、位相差範囲が0°~345°で所定値が15°である。選択処理により、所定の位相差範囲内の位相差毎の反射波電力が検知され、記憶部10に記憶される。反射波電力は、2つの電力検知部9から得られるため、選択処理では、2つの電力検知部9からの反射波電力の代表値を用いて、位相差が選択されてよい。代表値は、最大値、最小値、平均値、最頻値、中間値、中央値等から適宜選択可能である。
【0094】
選択処理において、処理部7は、位相差制御部6によって所定の位相差範囲内で位相の掃引をし、位相差毎に電力検知部9により反射波電力を検知する。結果として、所定の位相差範囲内の位相差について反射波電力が得られればよいから、位相の掃引は、位相差が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、位相差が所定の位相差範囲に基づいてランダムに選択されてよい。処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知の際に、電波照射部4により照射される電波の電力を、通常の加熱処理の際の電力に設定してよい。これにより、高出力でのセンシング(反射波電力の検知)が可能となる。したがって、低出力のセンシング時よりも被加熱物110をより加熱することが可能となり、短時間で被加熱物110を加熱することができる。つまり、反射波電力の検知の際にも被加熱物110の加熱が可能となる。また、高出力のセンシングによりSN比(信号雑音比)を大きくすることができ、反射波電力の小さな変化も検知することが可能となる。
【0095】
処理部7が、反射波電力が小さくなるように照射される電波の位相差を設定すると被加熱物110に作用する(吸収される)電波の電力(有効電力)が増加し、逆に反射波電力が大きくなるように電波の位相差を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。被加熱物110が誘電体の場合、反射波電力が小さくなるように位相差を設定すると、誘電損失により発生する熱が大きくなり、逆に反射波電力が大きくなるように位相差を設定すると被加熱物110において発生する熱は小さくなる。
【0096】
処理部7は、例えば、所定の位相差範囲から、反射波電力が最小となる位相差を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、位相差制御部6によって電波信号の位相差を、選択処理で選択した位相差に設定することで、選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の位相を掃引して得られる位相差ごとの反射波電力に基づいて、電波の位相差を可変する。
【0097】
このように複数の電波照射部4から照射される電波の位相差を変えることで、加熱室100内の各場所での電界の重ね合わせ方向が変わるので、加熱室100内全体の電波分布も変わる。被加熱物110が加熱室100内に置かれている場合は、被加熱物110に吸収される電波の量も位相差により異なる。反射波電力を検知し、反射波電力の位相差に対する特性から、反射波電力が最小になる位相差を求めることが可能となる。反射波電力が最小になる位相差で被加熱物110を加熱することにより、高効率な加熱が可能となる。
【0098】
図26に示す加熱装置1Gの処理部7の動作について
図27に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、位相差制御部6によって所定の位相差範囲内の位相差を設定し(S21)、設定した位相差の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S22)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S23)。所定の位相差範囲に反射波電力が得られていない位相差があれば位相の掃引が終了していないから(S24:NO)、ステップS21に戻る。所定の位相差範囲に含まれる位相差毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、位相の掃引を終了し(S24:YES)、所定の位相差範囲から反射波電力が最小の位相差を選択する(S25)。処理部7は、ステップS25で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S26)。
【0099】
図26に示す加熱装置1Gでは、反射波電力に応じて照射される電波の位相差を可変できるので、反射波電力が極小となるように位相差を制御することで、誘電体である被加熱物110を効率的かつスピーディに加熱することができる。また、加熱装置1Gでは、反射波電力を検知しつつ反射波電力が極小となる位相差以外の位相差で加熱することで、誘電体加熱時の温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。また、被加熱物110に作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱装置1Gの省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体や回路、装置全体の発熱ロスを抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0100】
本実施の形態においても、電力検知部9は、有効電力と無効電力との少なくとも一方を検知してよい。このように、電力検知部9により有効電力が検知できるので、加熱装置1Gは、被加熱物110の加熱に対して効率的な電波の照射が可能になる。具体的には、処理部7は、電力検知部9で検知された有効電力が大きくなるように、又は、電力検知部9で検知された無効電力が小さくなるように、電波照射部4から照射される電波の位相差を設定することができる。これによって、被加熱物110の加熱に対し効率的な位相差での電波の照射が可能となり、結果として加熱時間の短縮や電気エネルギの節約につながる。
【0101】
なお、加熱装置1Gにおいて、選択処理で選択する位相差は単一の場合、及び、複数の位相差を選択する場合のどちらも含んでよい。
【0102】
[1.9 実施の形態9]
図28は、実施の形態9にかかる加熱装置1Hの構成例の概略図である。
図28に示すように、加熱装置1Hは、電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、周波数制御部5と、位相差制御部6と、処理部7と、2つの電力検知部9と、記憶部10とを備える。
【0103】
電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく反射された反射波の電力(反射波電力)を検知する。
図28に示すように、2つの電力検知部9は、2つの信号増幅部3と2つの電波照射部4との間にそれぞれ接続される。電力検知部9は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110に吸収されることなく加熱室100内で反射されて電波照射部4に戻ってきた電波(つまり反射波)の電力(反射波電力)を検知する。電力検知部9は、検出した反射波電力を示す信号を処理部7に出力する。
【0104】
記憶部10は、処理部7が利用する情報及び処理部7で生成される情報を記憶するための記憶装置である。記憶部10に記憶される情報は、電力検知部9の検知に関する検知情報を含む。検知情報は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む。なお、検知情報は、反射波電力に対応する周波数及び位相差の情報、及び、反射波電力の検知の時間の情報を含んでよい。
【0105】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差との組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する処理である。所定の周波数範囲は、周波数制御部5が電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する範囲である。周波数は、所定の周波数範囲内で所定値ずつ変更可能である。例えば、周波数範囲が2400MHz~2500MHzで所定値が2MHzである。所定の位相差範囲は、位相差制御部6が電波照射部4により照射される電波間の位相差を制御する範囲である。位相差は、所定の位相差範囲内で所定値ずつ変更可能である。例えば、位相差範囲が0°~345°で所定値が15°である。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差との組毎の反射波電力が検知され、記憶部10に記憶される。反射波電力は、2つの電力検知部9から得られるため、選択処理では、2つの電力検知部9からの反射波電力の代表値を用いて、周波数と位相差の組が選択されてよい。代表値は、最大値、最小値、平均値、最頻値、中間値、中央値等から適宜選択可能である。
【0106】
選択処理において、処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内で周波数の掃引をするとともに位相差制御部6によって所定の位相差範囲内で位相の掃引をし、周波数と位相差の組毎に電力検知部9により反射波電力を検知する。結果として、所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差との組について反射波電力が得られればよいから、周波数の掃引は、周波数が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、周波数が所定の周波数範囲に基づいてランダムに選択されてよい。位相の掃引は、位相差が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、位相が所定の位相差範囲に基づいてランダムに選択されてよい。処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知の際に、電波照射部4により照射される電波の電力を、通常の加熱処理の際の電力に設定してよい。これにより、高出力でのセンシング(反射波電力の検知)が可能となる。したがって、低出力のセンシング時よりも被加熱物110をより加熱することが可能となり、短時間で被加熱物110を加熱することができる。つまり、反射波電力の検知の際にも被加熱物110の加熱が可能となる。また、高出力のセンシングによりSN比(信号雑音比)を大きくすることができ、反射波電力の小さな変化も検知することが可能となる。
【0107】
処理部7が、反射波電力が小さくなるように照射される電波の周波数と位相差の組を設定すると被加熱物110に作用する(吸収される)電波の電力(有効電力)が増加し、逆に反射波電力が大きくなるように電波の周波数と位相差の組を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。被加熱物110が誘電体の場合、反射波電力が小さくなるように周波数と位相差の組を設定すると、誘電損失により発生する熱が大きくなり、逆に反射波電力が大きくなるように周波数と位相差の組を設定すると被加熱物110において発生する熱は小さくなる。
【0108】
処理部7は、例えば、所定の周波数範囲と所定の位相差範囲から、反射波電力が最小となる周波数と位相差の組を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、位相差制御部6によって電波信号の周波数と位相差の組を、選択処理で選択した周波数と位相差の組に設定することで、選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の周波数及び位相を掃引して得られる周波数と位相差の組ごとの反射波電力に基づいて、電波の周波数及び位相差を可変する。
【0109】
図28に示す加熱装置1Hの処理部7の動作について
図29に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5による所定の周波数範囲内の周波数の設定及び位相差制御部6による所定の位相差範囲内の位相差の設定をし(S31)、設定した周波数と位相差の組の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S32)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S33)。所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に、反射波電力が得られていない周波数と位相差の組があれば周波数及び位相の掃引が終了していないから(S34:NO)、ステップS31に戻る。所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に含まれる周波数と位相差の組毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数及び位相の掃引を終了し(S34:YES)、所定の周波数範囲と所定の位相差範囲から反射波電力が最小の周波数と位相差の組を選択する(S35)。処理部7は、ステップS35で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S36)。
【0110】
図28に示す加熱装置1Hでは、反射波電力に応じて照射される電波の周波数と位相差の組を可変できるので、反射波電力が極小となるように周波数と位相差の組を制御することで、誘電体である被加熱物110を効率的かつスピーディに加熱することができる。また、加熱装置1Hでは、反射波電力を検知しつつ反射波電力が極小となる周波数と位相差の組以外の周波数と位相差の組で加熱することで、誘電体加熱時の温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。また、被加熱物110に作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱装置1Hの省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体や回路、装置全体の発熱ロスを抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0111】
本実施の形態においても、電力検知部9は、有効電力と無効電力との少なくとも一方を検知してよい。このように、電力検知部9により有効電力が検知できるので、加熱装置1Hは、被加熱物110の加熱に対して効率的な電波の照射が可能になる。具体的には、処理部7は、電力検知部9で検知された有効電力が大きくなるように、又は、電力検知部9で検知された無効電力が小さくなるように、電波照射部4から照射される電波の周波数と位相差の組を設定することができる。これによって、被加熱物110の加熱に対し効率的な周波数と位相差の組での電波の照射が可能となり、結果として加熱時間の短縮や電気エネルギの節約につながる。
【0112】
なお、加熱装置1Hにおいて、選択処理で選択する周波数と位相差の組は単一の場合、及び、周波数と位相差の複数の組を選択する場合のどちらも含んでよい。
【0113】
[1.10 実施の形態10]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0114】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して反射率を算出し、反射率に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。つまり、反射波電力の代わりに反射率が利用される。反射率は、電波照射部4により照射される電波の入射電力に対する電力検知部9で検知された反射波の電力の比である。反射率は、反射波電力とは異なり、入射電力が変化しても変わらないから、加熱途中に入射電力を変えた場合においても、反射率を連続的に求めることができるので、迅速に効率的に被加熱物110を加熱できる周波数を選択することが可能となる。選択処理は、例えば、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、電波照射部4の入射電力と電力検知部9で検知した反射波の電力から反射率を算出する。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数毎の反射率が算出され、記憶部10に記憶される。
【0115】
選択処理において、処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内で周波数の掃引をし、周波数毎に反射率を算出する。周波数の掃引は、周波数が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、周波数が所定の周波数範囲に基づいてランダムに選択されてよい。処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知の際に、電波照射部4により照射される電波の電力を、通常の加熱処理の際の電力に設定してよい。
【0116】
処理部7が、反射率が小さくなるように照射される電波の周波数を設定すると被加熱物110に作用する(吸収される)電波の電力(有効電力)が増加し、逆に反射率が大きくなるように電波の周波数を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。
【0117】
処理部7は、例えば、所定の周波数範囲から、反射率が最低となる周波数を選択してよい。反射率を低くすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、周波数制御部5によって電波信号の周波数を、選択処理で選択した周波数に設定することで、選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の周波数を掃引して得られる周波数ごとの反射率に基づいて、電波の周波数を可変する。
【0118】
処理部7の動作について
図30に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内の周波数を設定し(S41)、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S42)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力から反射率を算出して、記憶部10に記憶させる(S43)。所定の周波数範囲に反射率が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S44:NO)、ステップS41に戻る。所定の周波数範囲に含まれる周波数毎に反射率が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S44:YES)、所定の周波数範囲から反射率が最低の周波数を選択する(S45)。処理部7は、ステップS45で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S46)。
【0119】
本実施の形態では、反射率に応じて照射される電波の周波数を可変できるので、反射率が極小となるように周波数を制御することで、誘電体である被加熱物110を効率的かつスピーディに加熱することができる。また、本実施の形態では、反射率が極小となる周波数以外の周波数で加熱することで、誘電体加熱時の温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。また、被加熱物110に作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱装置の省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体や回路、装置全体の発熱ロスを抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射率が低い条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0120】
なお、本実施の形態において、選択処理で選択する周波数は単一の場合、及び、複数の周波数を選択する場合のどちらも含んでよい。
【0121】
[1.11 実施の形態11]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0122】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の位相差範囲に関して反射率を算出し、反射率に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する処理である。つまり、反射波電力の代わりに反射率が利用される。反射率は、電波照射部4により照射される電波の入射電力に対する電力検知部9で検知された反射波の電力の比である。反射率は、反射波電力とは異なり、入射電力が変化しても変わらないから、加熱途中に入射電力を変えた場合においても、反射率を連続的に求めることができるので、迅速に効率的に被加熱物110を加熱できる位相差を選択することが可能となる。選択処理は、例えば、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、電波照射部4の入射電力と電力検知部9で検知した反射波の電力から反射率を算出する。選択処理により、所定の位相差範囲内の位相差毎の反射率が算出され、記憶部10に記憶される。
【0123】
選択処理において、処理部7は、位相差制御部6によって所定の位相差範囲内で位相の掃引をし、位相差毎に反射率を算出する。位相の掃引は、位相差が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、位相差が所定の位相差範囲に基づいてランダムに選択されてよい。処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知の際に、電波照射部4により照射される電波の電力を、通常の加熱処理の際の電力に設定してよい。
【0124】
処理部7が、反射率が低くなるように照射される電波の位相差を設定すると被加熱物110に作用する(吸収される)電波の電力(有効電力)が増加し、逆に反射率が高くなるように電波の位相差を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。
【0125】
処理部7は、例えば、所定の位相差範囲から、反射率が最低となる位相差を選択してよい。反射率を低くすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、位相差制御部6によって電波信号の位相差を、選択処理で選択した位相差に設定することで、選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の位相を掃引して得られる位相差ごとの反射率に基づいて、電波の位相差を可変する。
【0126】
処理部7の動作について
図31に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、位相差制御部6によって所定の位相差範囲内の位相差を設定し(S51)、設定した位相差の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S52)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力から反射率を算出して、記憶部10に記憶させる(S53)。所定の位相差範囲に反射率が得られていない位相差があれば位相の掃引が終了していないから(S54:NO)、ステップS51に戻る。所定の位相差範囲に含まれる位相差毎に反射率が得られれば、処理部7は、位相の掃引を終了し(S54:YES)、所定の位相差範囲から反射率が最低の位相差を選択する(S55)。処理部7は、ステップS55で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S56)。
【0127】
本実施の形態では、反射率に応じて照射される電波の位相差を可変できるので、反射率が極小となるように位相差を制御することで、誘電体である被加熱物110を効率的かつスピーディに加熱することができる。また、本実施の形態では、反射率が極小となる位相差以外の位相差で加熱することで、誘電体加熱時の温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。また、被加熱物110に作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱装置の省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体や回路、装置全体の発熱ロスを抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射率が低い条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0128】
なお、本実施の形態において、選択処理で選択する位相差は単一の場合、及び、複数の位相差を選択する場合のどちらも含んでよい。
【0129】
[1.12 実施の形態12]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0130】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して反射率を算出し、反射率に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差との組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する処理である。反射率は、電波照射部4により照射される電波の入射電力に対する電力検知部9で検知された反射波の電力の比である。反射率は、反射波電力とは異なり、入射電力が変化しても変わらないから、加熱途中に入射電力を変えた場合においても、反射率を連続的に求めることができるので、迅速に効率的に被加熱物110を加熱できる周波数と位相差の組を選択することが可能となる。選択処理は、例えば、所定の周波数範囲と所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、電波照射部4の入射電力と電力検知部9で検知した反射波の電力から反射率を算出する。選択処理により、所定の主波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相の組毎の反射率が算出され、記憶部10に記憶される。
【0131】
選択処理において、処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内で周波数の掃引をするとともに位相差制御部6によって所定の位相差範囲内で位相の掃引をし、周波数と位相差の組毎に反射率を算出する。周波数の掃引は、周波数が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、周波数が所定の周波数範囲に基づいてランダムに選択されてよい。位相の掃引は、位相差が連続的に増加又は減少するように実施されなくてよく、位相が所定の位相差範囲に基づいてランダムに選択されてよい。処理部7は、電力検知部9による反射波電力の検知の際に、電波照射部4により照射される電波の電力を、通常の加熱処理の際の電力に設定してよい。
【0132】
処理部7が、反射率が低くなるように照射される電波の周波数と位相差の組を設定すると被加熱物110に作用する(吸収される)電波の電力(有効電力)が増加し、逆に反射率が高くなるように電波の周波数と位相差の組を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。
【0133】
処理部7は、例えば、所定の周波数範囲と所定の位相差範囲から、反射率が最低となる周波数と位相差の組を選択してよい。反射率を低くすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、位相差制御部6によって電波信号の周波数と位相差の組を、選択処理で選択した周波数と位相差の組に設定することで、選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の周波数及び位相を掃引して得られる周波数と位相差の組ごとの反射率に基づいて、電波の周波数及び位相差を可変する。
【0134】
処理部7の動作について
図32に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5による所定の周波数範囲内の周波数の設定及び位相差制御部6による所定の位相差範囲内の位相差の設定をし(S61)、設定した周波数と位相差の組の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S62)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力から反射率を算出して、記憶部10に記憶させる(S63)。所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に、反射率が得られていない周波数と位相差の組があれば周波数及び位相の掃引が終了していないから(S64:NO)、ステップS61に戻る。所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に含まれる周波数と位相差の組毎に反射率が得られれば、処理部7は、周波数及び位相の掃引を終了し(S64:YES)、所定の周波数範囲と所定の位相差範囲から反射率が最低の周波数と位相差の組を選択する(S65)。処理部7は、ステップS65で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S66)。
【0135】
本実施の形態では、反射率に応じて照射される電波の周波数と位相差の組を可変できるので、反射率が極小となるように周波数と位相差の組を制御することで、誘電体である被加熱物110を効率的かつスピーディに加熱することができる。また、本実施の形態では、反射率が極小となる周波数と位相差の組以外の周波数と位相差の組で加熱することで、誘電体加熱時の温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。また、被加熱物110に作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱装置の省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体や回路、装置全体の発熱ロスを抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射率が低い条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0136】
なお、本実施の形態において、選択処理で選択する周波数と位相差の組は単一の場合、及び、周波数と位相差の複数の組を選択する場合のどちらも含んでよい。
【0137】
[1.13 実施の形態13]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0138】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0139】
本実施の形態では、処理部7は、加熱処理の実行中にも選択処理を実行する。つまり、処理部は、被加熱物110の誘電加熱の間(加熱処理の間)、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて電波照射部4により照射される電波の周波数を周波数制御部5により調整する処理を行う。処理部7は、加熱処理の間に、選択処理を複数回実行してよい。例えば、処理部7は、加熱処理の間に、所定の時間ごとに選択処理を実行してよい。
【0140】
処理部7は、選択処理において周波数が選択されていない場合(1回目の選択処理の場合)には、周波数の掃引範囲を初期範囲に設定する。初期範囲は、例えば、所定の周波数範囲(つまり、周波数制御部5が電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する範囲)であってよい。処理部7は、選択処理において周波数が選択されている場合(2回目以降の選択処理の場合)には、周波数の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した周波数(つまり、加熱処理で使用している周波数)に基づいて決定する。例えば、前回の選択処理で選択した周波数を中心とする所定範囲が掃引範囲に設定される。ここで、所定範囲は初期範囲よりも狭く設定され、これによって、周波数に対して反射波電力を検知する回数を減らすことができる。このように周波数の掃引範囲を限定することで、掃引中のロスをなくし、効率的な運転が可能になる。例えば、1回目の掃引(1回目の選択処理)で反射波電力が略下限値となるよう電波の周波数を選択し、その後は所定の時間ごとに、選択した周波数に対する所定の振り幅で掃引範囲を決定して反射波電力が略下限値となる周波数を選択する。このような動作を繰り返すことで掃引中のロスを最小限に抑えつつも常に最適な周波数での運転が可能になる。
【0141】
処理部7の動作について
図33に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、選択処理においてまだ周波数が選択されていない場合(S71:NO)、掃引範囲を初期範囲に設定し(S72)、周波数制御部5による所定の周波数範囲内の周波数の設定をする(S73)。一方、処理部7は、選択処理において既に周波数が選択されている場合(S71:YES)、周波数の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した周波数(つまり、加熱処理で使用している周波数)に基づいて決定する(S79)。その後、処理部7は、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S74)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S75)。掃引範囲に反射波電力が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S76:NO)、ステップS73に戻る。掃引範囲に含まれる周波数毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S76:YES)、掃引範囲から反射波電力が最小の周波数を選択する(S77)。処理部7は、ステップS77で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S78)。
【0142】
以上述べたように、処理部7は、電波照射部4により電波が照射されている間、継続して反射波電力に基づいて電波の周波数を可変する。このことにより、温度が上昇することで被加熱物110の状態や誘電率が変化した場合でも、繰り返し反射波電力が検知され、その値に基づいて電波の周波数が制御されるので、常に反射波電力が最適な状態に保たれる。温度上昇による被加熱物110の状態又は性状等の変化や何らかの外的要因による被加熱物110の形状又は載置方向等の変化で誘電率や反射波電力に変化が生じた場合でも、常に最適な周波数での電波照射が行われるので、エネルギーロスが減らせ、結果的に省エネでスピーディな加熱装置の提供ができる。併せて使用する半導体や回路、装置全体の発熱を抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0143】
処理部7は、選択処理において常に周波数の掃引範囲を初期範囲に設定してよい。つまり、周波数の掃引範囲を、周波数制御部5で制御可能な周波数範囲全域とすることで、被加熱物110の誘電率の急激な変化等による周波数の追従漏れを低減して、最適な周波数での加熱が可能になる。
【0144】
なお、本実施の形態においても、実施の形態10と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0145】
[1.14 実施の形態14]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0146】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した位相差により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0147】
本実施の形態では、処理部7は、加熱処理の実行中にも選択処理を実行する。つまり、処理部は、被加熱物110の誘電加熱の間(加熱処理の間)、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて電波照射部4により照射される電波の位相差を位相差制御部6により調整する処理を行う。処理部7は、加熱処理の間に、選択処理を複数回実行してよい。例えば、処理部7は、加熱処理の間に、所定の時間ごとに選択処理を実行してよい。
【0148】
処理部7は、選択処理において位相差が選択されていない場合(1回目の選択処理の場合)には、位相差の掃引範囲を初期範囲に設定する。初期範囲は、例えば、所定の位相差範囲(つまり、位相差制御部6が電波照射部4により照射される電波の位相差を制御する範囲)であってよい。処理部7は、選択処理において位相差が選択されている場合(2回目以降の選択処理の場合)には、位相差の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した位相差(つまり、加熱処理で使用している位相差)に基づいて決定する。例えば、前回の選択処理で選択した位相差を中心とする所定範囲が掃引範囲に設定される。ここで、所定範囲は初期範囲よりも狭く設定され、これによって、位相差に対して反射波電力を検知する回数を減らすことができる。このように位相差の掃引範囲を限定することで、掃引中のロスをなくし、効率的な運転が可能になる。例えば、1回目の掃引(1回目の選択処理)で反射波電力が略下限値となるよう電波の位相差を選択し、その後は所定の時間ごとに、選択した位相差に対する所定の振り幅で掃引範囲を決定して反射波電力が略下限値となる位相差を選択する。このような動作を繰り返すことで掃引中のロスを最小限に抑えつつも常に最適な位相差での運転が可能になる。
【0149】
処理部7の動作について
図34に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、選択処理においてまだ位相差が選択されていない場合(S81:NO)、掃引範囲を初期範囲に設定し(S82)、位相差制御部6による所定の位相差範囲内の位相差の設定をする(S83)。一方、処理部7は、選択処理において既に位相差が選択されている場合(S81:YES)、位相差の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した位相差(つまり、加熱処理で使用している位相差)に基づいて決定する(S89)。その後、処理部7は、設定した位相差の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S84)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S85)。掃引範囲に反射波電力が得られていない位相差があれば位相の掃引が終了していないから(S86:NO)、ステップS83に戻る。掃引範囲に含まれる位相差毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、位相の掃引を終了し(S86:YES)、掃引範囲から反射波電力が最小の位相差を選択する(S87)。処理部7は、ステップS87で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S88)。
【0150】
以上述べたように、処理部7は、電波照射部4により電波が照射されている間、継続して反射波電力に基づいて電波の位相差を可変する。このことにより、温度が上昇することで被加熱物110の状態や誘電率が変化した場合でも、繰り返し反射波電力が検知され、その値に基づいて電波の位相差が制御されるので、常に反射波電力が最適な状態に保たれる。温度上昇による被加熱物110の状態又は性状等の変化や何らかの外的要因による被加熱物110の形状又は載置方向等の変化で誘電率や反射波電力に変化が生じた場合でも、常に最適な位相差での電波照射が行われるので、エネルギーロスが減らせ、結果的に省エネでスピーディな加熱装置の提供ができる。併せて使用する半導体や回路、装置全体の発熱を抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0151】
処理部7は、選択処理において常に位相差の掃引範囲を初期範囲に設定してよい。つまり、位相差の掃引範囲を、位相差制御部6で制御可能な位相差範囲全域とすることで、被加熱物110の誘電率の急激な変化等による位相差の追従漏れを低減して、最適な位相差での加熱が可能になる。
【0152】
なお、本実施の形態においても、実施の形態11と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0153】
[1.15 実施の形態15]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0154】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した周波数と位相差の組により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0155】
本実施の形態では、処理部7は、加熱処理の実行中にも選択処理を実行する。つまり、処理部は、被加熱物110の誘電加熱の間(加熱処理の間)、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて電波照射部4により照射される電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により調整する処理を行う。処理部7は、加熱処理の間に、選択処理を複数回実行してよい。例えば、処理部7は、加熱処理の間に、所定の時間ごとに選択処理を実行してよい。
【0156】
処理部7は、選択処理において周波数と位相差の組が選択されていない場合(1回目の選択処理の場合)には、周波数の掃引範囲及び位相差の掃引範囲をそれぞれの初期範囲に設定する。周波数の初期範囲は、例えば、所定の周波数範囲(つまり、周波数制御部5が電波照射部4により照射される電波の周波数を制御する範囲)であってよい。位相差の初期範囲は、例えば、所定の位相差範囲(つまり、位相差制御部6が電波照射部4により照射される電波の位相差を制御する範囲)であってよい。処理部7は、選択処理において周波数と位相差の組が選択されている場合(2回目以降の選択処理の場合)には、周波数の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した周波数(つまり、加熱処理で使用している周波数)に基づいて決定する。例えば、前回の選択処理で選択した周波数を中心とする所定範囲が掃引範囲に設定される。ここで、所定範囲は初期範囲よりも狭く設定され、これによって、周波数に対して反射波電力を検知する回数を減らすことができる。位相差の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した位相差(つまり、加熱処理で使用している位相差)に基づいて決定する。例えば、前回の選択処理で選択した位相差を中心とする所定範囲が掃引範囲に設定される。ここで、所定範囲は初期範囲よりも狭く設定され、これによって、位相差に対して反射波電力を検知する回数を減らすことができる。このように周波数及び位相差の掃引範囲を限定することで、掃引中のロスをなくし、効率的な運転が可能になる。例えば、1回目の掃引(1回目の選択処理)で反射波電力が略下限値となるよう電波の周波数と位相差の組を選択し、その後は所定の時間ごとに、選択した周波数及び位相差に対する所定の振り幅で掃引範囲を決定して反射波電力が略下限値となる周波数及び位相差を選択する。このような動作を繰り返すことで掃引中のロスを最小限に抑えつつも常に最適な周波数と位相差の組での運転が可能になる。
【0157】
処理部7の動作について
図35に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、選択処理においてまだ周波数と位相差の組が選択されていない場合(S91:NO)、周波数及び位相差の掃引範囲をそれぞれの初期範囲に設定し(S92)、周波数制御部5による所定の周波数範囲内の周波数及び位相差制御部6による所定の位相差範囲内の位相差の設定をする(S93)。一方、処理部7は、選択処理において既に周波数と位相差の組が選択されている場合(S91:YES)、周波数及び位相差の掃引範囲を、前回の選択処理で選択した周波数及び位相差(つまり、加熱処理で使用している周波数及び位相差)に基づいて決定する(S99)。その後、処理部7は、設定した周波数及び位相差の組の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S94)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S95)。掃引範囲に反射波電力が得られていない周波数及び位相差の組があれば周波数及び位相の掃引が終了していないから(S96:NO)、ステップS93に戻る。掃引範囲に含まれる周波数と位相差の組毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数及び位相の掃引を終了し(S96:YES)、掃引範囲から反射波電力が最小の周波数と位相差の組を選択する(S97)。処理部7は、ステップS97で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S98)。
【0158】
以上述べたように、処理部7は、電波照射部4により電波が照射されている間、継続して反射波電力に基づいて電波の周波数と位相差の組を可変する。このことにより、温度が上昇することで被加熱物110の状態や誘電率が変化した場合でも、繰り返し反射波電力が検知され、その値に基づいて電波の周波数と位相差の組が制御されるので、常に反射波電力が最適な状態に保たれる。温度上昇による被加熱物110の状態又は性状等の変化や何らかの外的要因による被加熱物110の形状又は載置方向等の変化で誘電率や反射波電力に変化が生じた場合でも、常に最適な周波数と位相差の組での電波照射が行われるので、エネルギーロスが減らせ、結果的に省エネでスピーディな加熱装置の提供ができる。併せて使用する半導体や回路、装置全体の発熱を抑制できる。また、入射する電波と反射する電波の干渉によって電波照射部4の近傍に電界分布が生じるため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、電波照射部4及び加熱室100への電波照射部4用の開口並びに信号増幅部3と電波照射部4を繋ぐコネクタ及びケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることが可能となり、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。
【0159】
処理部7は、選択処理において常に周波数と位相差の掃引範囲を初期範囲に設定してよい。つまり、周波数の掃引範囲を、周波数制御部5で制御可能な周波数範囲全域とし、位相差の掃引範囲を、位相差制御部6で制御可能な位相差範囲全域とすることで、被加熱物110の誘電率の急激な変化等による位相差の追従漏れを低減して、最適な周波数と位相差の組での加熱が可能になる。
【0160】
なお、本実施の形態においても、実施の形態12と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0161】
[1.16 実施の形態16]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0162】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0163】
本実施の形態では、選択処理は、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択するが、規定の条件を満たさない周波数を除外する。規定の条件を満たさない周波数は、例えば、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)が大きい周波数である。加熱室100の壁面が琺瑯である場合、琺瑯はガラス層と母材金属との間にある抵抗(酸化)層に一定以上の電界が掛かると抵抗層に電流が生じ、母材金属に電流が流れ加熱室内壁での電波損失が発生する。そのため、このような加熱室100の壁面での損失が大きい周波数の使用を避けることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能となる。大電力(例えば、250W)と小電力(例えば、50W)での反射波の周波数特性から被加熱物110の加熱の際に用いる大電力での加熱時の各周波数での壁面損失を推定することができる。
【0164】
具体的には、選択処理は、電波照射部4により照射される電波の電力を異ならせる。選択処理は、例えば、電波照射部4により照射される電波の電力を第1電力と第2電力とで切り替える。第1電力は、第2電力より大きい。例えば、第1電力は大電力(例えば250W)に対応し、第2電力は小電力(例えば50W)に対応する。選択処理により、電波照射部4により照射される電波の電力が第1電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力と、電波照射部4により照射される電波の電力が第2電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力とが検知され、記憶部10に記憶される。
【0165】
選択処理は、所定の周波数範囲内の周波数のうち規定の条件を満たす周波数から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する。規定の条件は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となることである。つまり、選択処理は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を選択する。閾値は、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)の許容の程度に基づいて適宜設定されてよい。処理部7は、例えば、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、反射波電力が最小となる周波数を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0166】
次に、本実施の形態における処理部7の動作について
図36に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、第1電力及び第2電力のそれぞれにおいて周波数制御部5によって所定の周波数範囲内の周波数を設定し(S101)、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S102)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S103)。所定の周波数範囲に反射波電力が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S104:NO)、ステップS101に戻る。所定の周波数範囲に含まれる周波数毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S104:YES)、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下の周波数から使用する周波数を選択する(S105)。例えば、処理部7は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下の周波数のうち、反射波電力が最小となる周波数を選択する。処理部7は、ステップS105で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S106)。
【0167】
以上述べた本実施の形態では、壁面損失の多い周波数を除外し、その他の高効率な周波数を選択して加熱することにより、被加熱物110の高効率加熱が可能となる。
【0168】
処理部7は、電波照射部4により照射される電波の電力が第1電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力と、電波照射部4により照射される電波の電力が第2電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力とから、壁面損失を推定してよい。壁面損失を推定することで、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110で吸収された電波の電力を高精度に算出することが可能となる。これによって、処理部7は、加熱処理によって被加熱物110に吸収された電波の電力量(電波吸収電力量)を把握することが可能となる。処理部7は、例えば、電波吸収電力量が目標の電力量になったら調理条件の変更又は加熱を終了することで、被加熱物110の適温加熱が可能となる。
【0169】
なお、本実施の形態においても、実施の形態10と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0170】
[1.17 実施の形態17]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0171】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0172】
本実施の形態では、選択処理は、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択するが、規定の条件を満たさない位相差を除外する。規定の条件を満たさない位相差は、例えば、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)が大きい位相差である。このような加熱室100の壁面での損失が大きい位相差の使用を避けることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能となる。大電力(例えば、250W)と小電力(例えば、50W)での反射波の位相差特性から被加熱物110の加熱の際に用いる大電力での加熱時の各位相差での壁面損失を推定することができる。
【0173】
具体的には、選択処理は、電波照射部4により照射される電波の電力を異ならせる。選択処理は、例えば、電波照射部4により照射される電波の電力を第1電力と第2電力とで切り替える。第1電力は、第2電力より大きい。例えば、第1電力は大電力(例えば250W)に対応し、第2電力は小電力(例えば50W)に対応する。選択処理により、電波照射部4により照射される電波の電力が第1電力である場合の所定の位相差範囲内の位相差毎の反射波電力と、電波照射部4により照射される電波の電力が第2電力である場合の所定の位相差範囲内の位相差毎の反射波電力とが検知され、記憶部10に記憶される。
【0174】
選択処理は、所定の位相差範囲内の位相差のうち規定の条件を満たす位相差から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する。規定の条件は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となることである。つまり、選択処理は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を選択する。閾値は、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)の許容の程度に基づいて適宜設定されてよい。処理部7は、例えば、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、反射波電力が最小となる位相差を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0175】
次に、本実施の形態における処理部7の動作について
図37に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、第1電力及び第2電力のそれぞれにおいて位相差制御部6によって所定の位相差範囲内の位相差を設定し(S111)、設定した位相差の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S112)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S113)。所定の位相差範囲に反射波電力が得られていない位相差があれば位相の掃引が終了していないから(S114:NO)、ステップS111に戻る。所定の位相差範囲に含まれる位相差毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、位相の掃引を終了し(S114:YES)、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下の位相差から使用する位相差を選択する(S115)。例えば、処理部7は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下の位相差のうち、反射波電力が最小となる位相差を選択する。処理部7は、ステップS115で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S116)。
【0176】
以上述べた本実施の形態では、壁面損失の多い位相差を除外し、その他の高効率な位相差を選択して加熱することにより、被加熱物110の高効率加熱が可能となる。
【0177】
処理部7は、電波照射部4により照射される電波の電力が第1電力である場合の所定の位相差範囲内の位相差毎の反射波電力と、電波照射部4により照射される電波の電力が第2電力である場合の所定の位相差範囲内の位相差毎の反射波電力とから、壁面損失を推定してよい。壁面損失を推定することで、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110で吸収された電波の電力を高精度に算出することが可能となる。これによって、処理部7は、加熱処理によって被加熱物110に吸収された電波の電力量(電波吸収電力量)を把握することが可能となる。処理部7は、例えば、電波吸収電力量が目標の電力量になったら調理条件の変更又は加熱を終了することで、被加熱物110の適温加熱が可能となる。
【0178】
なお、本実施の形態においても、実施の形態11と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0179】
[1.18 実施の形態18]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0180】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0181】
本実施の形態では、選択処理は、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択するが、規定の条件を満たさない周波数と位相差の組を除外する。規定の条件を満たさない周波数と位相差の組は、例えば、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)が大きい周波数と位相差の組である。このような加熱室100の壁面での損失が大きい周波数と位相差の組の使用を避けることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能となる。大電力(例えば、250W)と小電力(例えば、50W)での反射波の周波数と位相差の組特性から被加熱物110の加熱の際に用いる大電力での加熱時の各周波数と位相差の組での壁面損失を推定することができる。
【0182】
具体的には、選択処理は、電波照射部4により照射される電波の電力を異ならせる。選択処理は、例えば、電波照射部4により照射される電波の電力を第1電力と第2電力とで切り替える。第1電力は、第2電力より大きい。例えば、第1電力は大電力(例えば250W)に対応し、第2電力は小電力(例えば50W)に対応する。選択処理により、電波照射部4により照射される電波の電力が第1電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差の組毎の反射波電力と、電波照射部4により照射される電波の電力が第2電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差の組毎の反射波電力とが検知され、記憶部10に記憶される。
【0183】
選択処理は、所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差の組のうち規定の条件を満たす周波数と位相差の組から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する。規定の条件は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となることである。つまり、選択処理は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を選択する。閾値は、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)の許容の程度に基づいて適宜設定されてよい。処理部7は、例えば、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、反射波電力が最小となる周波数と位相差の組を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0184】
次に、本実施の形態における処理部7の動作について
図38に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、第1電力及び第2電力のそれぞれにおいて所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差の組を、周波数制御部5及び位相差制御部6により設定し(S121)、設定した周波数と位相差の組の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S122)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力の情報を含む検知情報を記憶部10に記憶させる(S123)。所定の周波数範囲と所定の位相差範囲に反射波電力が得られていない周波数と位相差の組があれば周波数及び位相の掃引が終了していないから(S124:NO)、ステップS121に戻る。所定の周波数範囲と所定の位相差範囲に含まれる周波数と位相差の組毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数及び位相の掃引を終了し(S124:YES)、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下の周波数と位相差の組から使用する周波数と位相差の組を選択する(S125)。例えば、処理部7は、第1電力と第2電力とで反射波電力の差が閾値以下の周波数と位相差の組のうち、反射波電力が最小となる周波数と位相差の組を選択する。処理部7は、ステップS125で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S126)。
【0185】
以上述べた本実施の形態では、壁面損失の多い周波数と位相差の組を除外し、その他の高効率な周波数と位相差の組を選択して加熱することにより、被加熱物110の高効率加熱が可能となる。
【0186】
処理部7は、電波照射部4により照射される電波の電力が第1電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差の組毎の反射波電力と、電波照射部4により照射される電波の電力が第2電力である場合の所定の周波数範囲内の周波数と所定の位相差範囲内の位相差の組毎の反射波電力とから、壁面損失を推定してよい。壁面損失を推定することで、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110で吸収された電波の電力を高精度に算出することが可能となる。これによって、処理部7は、加熱処理によって被加熱物110に吸収された電波の電力量(電波吸収電力量)を把握することが可能となる。処理部7は、例えば、電波吸収電力量が目標の電力量になったら調理条件の変更又は加熱を終了することで、被加熱物110の適温加熱が可能となる。
【0187】
なお、本実施の形態においても、実施の形態12と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0188】
[1.19 実施の形態19]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0189】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0190】
本実施の形態では、処理部7は、加熱処理の実行中に調整処理を実行する。調整処理は、被加熱物110の誘電加熱の間(加熱処理の間)、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて電波照射部4により照射される電波の周波数を周波数制御部5により調整する処理である。処理部7は、加熱処理の間に、調整処理を複数回実行してよい。例えば、処理部7は、加熱処理の間に、所定時間ごとに調整処理を実行してよい。
【0191】
調整処理は、所定の周波数範囲内の周波数のうち規定の条件を満たす周波数から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する。規定の条件は、最新の反射波電力の差が閾値以下となることである。最新の反射波電力の差は、例えば、今回検知された反射波電力と前回検知された反射波電力との差である。つまり、選択処理は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を選択する。今回と前回の反射波電力の差が大きい周波数の加熱室内の電波分布で加熱された被加熱物110の一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高いため、次の加熱ではこのような周波数を除き(その加熱室100内の電波分布を避け)、被加熱物110を加熱することで、被加熱物110の他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物110の均一加熱が可能となる。よって、閾値は、被加熱物110の一部分で局所的に誘電率が変化したかどうかに基づいて適宜設定されてよい。処理部7は、例えば、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、反射波電力が最小となる周波数を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0192】
次に、本実施の形態における処理部7の動作について
図39に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波電力を検知する(S131)。処理部7は、所定の周波数範囲の周波数のうち反射波電力が最小の周波数を選択する(S132)。処理部7は、ステップS132で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S133)。所定時間が経過すると(S134:YES)、処理部7は、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波電力を検知する(S135)。処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を選択する(S136)。例えば、処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、反射波電力が最小となる周波数を選択する。処理部7は、ステップS136で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S137)。
【0193】
このように、本実施の形態では、処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を選択する。今回と前回の反射波電力の差が大きい周波数の加熱室内の電波分布で加熱された被加熱物110の一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高いため、次の加熱ではこのような周波数を除き(その加熱室100内の電波分布を避け)、被加熱物110を加熱することで、被加熱物110の他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物110の均一加熱が可能となる。
【0194】
なお、本実施の形態においても、実施の形態10と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0195】
[1.20 実施の形態20]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0196】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0197】
本実施の形態では、処理部7は、加熱処理の実行中に調整処理を実行する。調整処理は、被加熱物110の誘電加熱の間(加熱処理の間)、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて電波照射部4により照射される電波の位相差を位相差制御部6により調整する処理である。処理部7は、加熱処理の間に、調整処理を複数回実行してよい。例えば、処理部7は、加熱処理の間に、所定時間ごとに調整処理を実行してよい。
【0198】
調整処理は、所定の位相差範囲内の位相差のうち規定の条件を満たす位相差から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を位相差制御部6により選択する。規定の条件は、最新の反射波電力の差が閾値以下となることである。最新の反射波電力の差は、例えば、今回検知された反射波電力と前回検知された反射波電力との差である。つまり、選択処理は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を選択する。今回と前回の反射波電力の差が大きい位相差の加熱室内の電波分布で加熱された被加熱物110の一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高いため、次の加熱ではこのような位相差を除き(その加熱室100内の電波分布を避け)、被加熱物110を加熱することで、被加熱物110の他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物110の均一加熱が可能となる。よって、閾値は、被加熱物110の一部分で局所的に誘電率が変化したかどうかに基づいて適宜設定されてよい。処理部7は、例えば、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、反射波電力が最小となる位相差を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0199】
次に、本実施の形態における処理部7の動作について
図40に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波電力を検知する(S141)。処理部7は、所定の位相差範囲の位相差のうち反射波電力が最小の位相差を選択する(S142)。処理部7は、ステップS142で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S143)。所定時間が経過すると(S144:YES)、処理部7は、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波電力を検知する(S145)。処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を選択する(S146)。例えば、処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、反射波電力が最小となる位相差を選択する。処理部7は、ステップS146で選択した位相差の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S147)。
【0200】
このように、本実施の形態では、処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる位相差から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の位相差を選択する。今回と前回の反射波電力の差が大きい位相差の加熱室内の電波分布で加熱された被加熱物110の一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高いため、次の加熱ではこのような位相差を除き(その加熱室100内の電波分布を避け)、被加熱物110を加熱することで、被加熱物110の他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物110の均一加熱が可能となる。
【0201】
なお、本実施の形態においても、実施の形態11と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0202】
[1.21 実施の形態21]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0203】
処理部7は、選択処理と加熱処理を行う。選択処理は、所定の周波数範囲と所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する処理である。加熱処理は、選択処理で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。
【0204】
本実施の形態では、処理部7は、加熱処理の実行中に調整処理を実行する。調整処理は、被加熱物110の誘電加熱の間(加熱処理の間)、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて電波照射部4により照射される電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により調整する処理である。処理部7は、加熱処理の間に、調整処理を複数回実行してよい。例えば、処理部7は、加熱処理の間に、所定時間ごとに調整処理を実行してよい。
【0205】
調整処理は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲内の周波数と位相差の組のうち規定の条件を満たす周波数と位相差の組から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を周波数制御部5及び位相差制御部6により選択する。規定の条件は、最新の反射波電力の差が閾値以下となることである。最新の反射波電力の差は、例えば、今回検知された反射波電力と前回検知された反射波電力との差である。つまり、選択処理は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を選択する。今回と前回の反射波電力の差が大きい周波数と位相差の組の加熱室内の電波分布で加熱された被加熱物110の一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高いため、次の加熱ではこのような周波数と位相差の組を除き(その加熱室100内の電波分布を避け)、被加熱物110を加熱することで、被加熱物110の他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物110の均一加熱が可能となる。よって、閾値は、被加熱物110の一部分で局所的に誘電率が変化したかどうかに基づいて適宜設定されてよい。処理部7は、例えば、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、反射波電力が最小となる周波数と位相差の組を選択してよい。反射波電力は、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110の加熱に寄与しない電力であるといえるから、反射波電力を小さくすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。
【0206】
次に、本実施の形態における処理部7の動作について
図41に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波電力を検知する(S151)。処理部7は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲の周波数と位相差の組のうち反射波電力が最小の周波数と位相差の組を選択する(S152)。処理部7は、ステップS152で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S153)。所定時間が経過すると(S154:YES)、処理部7は、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波電力を検知する(S155)。処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を選択する(S156)。例えば、処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、反射波電力が最小となる周波数と位相差の組を選択する。処理部7は、ステップS156で選択した周波数と位相差の組の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S157)。
【0207】
このように、本実施の形態では、処理部7は、今回と前回の反射波電力の差が閾値以下となる周波数と位相差の組から、被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数と位相差の組を選択する。今回と前回の反射波電力の差が大きい周波数と位相差の組の加熱室内の電波分布で加熱された被加熱物110の一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高いため、次の加熱ではこのような周波数と位相差の組を除き(その加熱室100内の電波分布を避け)、被加熱物110を加熱することで、被加熱物110の他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物110の均一加熱が可能となる。
【0208】
なお、本実施の形態においても、実施の形態12と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0209】
[1.22 実施の形態22]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0210】
処理部7は、実施の形態7の処理部7と同様の選択処理と加熱処理とに加えて、事前処理を行う。事前処理は、加熱室100に被加熱物110がない状態で、所定の周波数範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)を推定し、壁面損失が閾値以上の周波数を利用可能な周波数から除外する処理である。加熱室100に被加熱物110がない状態では、入射電力と反射波電力との差が壁面損失に対応すると考えられる。よって、事前処理では、処理部7は、周波数毎に、入射電力と反射波電力との差から壁面損失を算出する。この事前処理で除外された周波数は、選択処理において選択対処から除外される。
【0211】
事前処理について
図42に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内の周波数を設定し(S161)、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S162)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力に基づいて壁面損失を算出し、記憶部10に記憶させる(S163)。所定の周波数範囲に反射波電力が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S164:NO)、ステップS161に戻る。所定の周波数範囲に含まれる周波数毎に反射波電力が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S164:YES)、所定の周波数範囲から壁面損失が閾値以上の周波数を利用可能な周波数から除外する(S165)。
【0212】
壁面損失を推定することで、電波照射部4により照射される電波のうち被加熱物110で吸収された電波の電力を高精度に算出することが可能となる。これによって、処理部7は、加熱処理によって被加熱物110に吸収された電波の電力量(吸収電力量)を把握することが可能となる。つまり、入射電力から、壁面損失及び反射波電力を引いた残りが、被加熱物110で吸収された電波の電力(吸収電力)であるから、吸収電力を加熱時間で積算することで、吸収電力量を算出できる。処理部7は、算出した壁面損失を利用して、加熱処理の終了判定を行ってよい。処理部7での加熱処理の終了判定について
図43に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、選択処理により周波数の選択をし(S171)、選択処理で選択した周波数で加熱処理を開始する(S172)。処理部7は、加熱処理によって被加熱物110に吸収された電波の電力量(吸収電力量)を算出し(S173)、吸収電力量が所定量になったら(S174:YES)、加熱処理を終了する(S175)。このように、処理部7は、例えば、吸収電力量が目標の電力量(所定量)になったら加熱処理を終了することで、被加熱物110の適温加熱が可能となる。なお、ステップS175では、加熱処理の終了の代わりに、加熱条件の変更をしてもよい。
【0213】
このように、本実施の形態では、加熱室100に被加熱物110のない状態において電波照射部4からの電波の周波数を掃引するとともに周波数ごとの反射波電力を原点記憶情報として記憶し、原点記憶情報に基づいて電波の周波数を可変する。したがって、本実施の形態は、壁面損失の多い周波数を除外し、その他の高効率な周波数を選択して加熱することにより、被加熱物110の高効率加熱が可能となる。さらに、本実施の形態では、壁面損失を推定し、被加熱物の電波吸収電力量を精緻に算出し、目標の電力量になったら調理条件変更または加熱を終了することで、被加熱物の適温加熱が可能となる。
【0214】
なお、本実施の形態においても、実施の形態10と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0215】
また、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gにおいて、処理部7は事前処理を行ってよい。この場合の事前処理は、加熱室100に被加熱物110がない状態で、所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)を推定し、壁面損失が閾値以上の位相差を利用可能な位相差から除外する処理であってよい。なお、この場合においても、実施の形態11と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0216】
また、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hにおいて、処理部7は損失推定処理を行ってよい。この場合の事前処理は、加熱室100に被加熱物110がない状態で、所定の周波数範囲及び所定の位相差範囲に関して電力検知部9により反射波の電力を検知し、反射波の電力に基づいて、加熱室100の壁面での損失(壁面損失)を推定し、壁面損失が閾値以上の周波数と位相差の組を利用可能な周波数と位相差の組から除外する処理であってよい。なお、この場合においても、実施の形態12と同様に、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0217】
[1.23 実施の形態23]
図44は、実施の形態23にかかる加熱装置1Iの構成例の概略図である。
図44に示すように、加熱装置1Iは、加熱室100内の被加熱物110に電波W1を照射するための電波発生部120と、加熱室100内の被加熱物110を加熱するための加熱部130とを備える。電波発生部120は、
図24に示す加熱装置1Fと同様に、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4と、周波数制御部5と、処理部7と、電力検知部9と、記憶部10とを備える。なお、
図44では、電波発生部120のうち電波照射部4以外の図示を省略している。加熱部130は、例えば、輻射加熱源、熱風対流加熱源、スチーム加熱源等の電波加熱源以外の加熱源(ヒータ)である。
【0218】
処理部7は、電力検知部9により反射波の電力の経時的に検知し、反射波の電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態の判定をし、判定の結果に基づいて電波照射部4により照射される電波を制御する処理を行う。
【0219】
例えば、処理部7は、反射波の電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が加熱終了の状態であれば、電波照射部4により照射される電波を制御することによって、加熱処理を終了してよい。
【0220】
この場合の処理部7の動作を、
図45に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、選択処理により周波数の選択をし(S181)、選択処理で選択した周波数で加熱処理を開始する(S182)。処理部7は、電力検知部9により反射波電力の検出をし(S183)、反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態の判定をする(S184)。判定の結果、被加熱物110の状態が加熱終了の状態であれば(S185:YES)、処理部7は、加熱処理を終了する(S186)。
【0221】
例えば、被加熱物110が水であり、加熱処理により被加熱物110を沸騰させる場合を例に挙げる。この場合、加熱終了の状態は、被加熱物110が沸騰している状態である。
図46は、被加熱物110の状態変化の検知の説明図であり、被加熱物110が沸騰している場合を示す。被加熱物110が沸騰している場合、被加熱物110の液面の上下するため、液面の高さが、h1と、h1+d1との間で変化する。液面の高さがh1+d1である場合には、被加熱物110に電波W1が照射されるが、液面の高さがh1である場合には、電波W1が被加熱物110に当たらずに加熱室100の壁面に当たって反射され、反射波W2として電力検知部9により検知される。したがって、電力検知部9により検出される反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が、被加熱物110が沸騰している状態かどうかを判定できる。
【0222】
例えば、処理部7は、反射波の電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が条件変更の状態であれば、電波照射部4により照射される電波を制御することによって、加熱条件を変更してよい。加熱条件の変更は、例えば、電波発生部120による加熱から、加熱部130による加熱への切り替えであってよい。加熱条件の変更は、特に限定されず、電波発生部120で発生させる電波の電力、周波数、及び位相差の少なくとも一つの変更であってよい。
【0223】
この場合の処理部7の動作を、
図47に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、選択処理により周波数の選択をし(S191)、選択処理で選択した周波数で加熱処理を開始する(S192)。処理部7は、電力検知部9により反射波電力の検出をし(S193)、反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態の判定をする(S194)。判定の結果、被加熱物110の状態が条件変更の状態であれば(S195:YES)、処理部7は、加熱条件を変更する(S196)。
【0224】
被加熱物110の条件変更の状態の例としては、膨化による形状変化、融解による局所的な誘電率の上昇、解凍による局所的な誘電率の上昇、位置の変化、乾燥による誘電率の低下が挙げられる。
【0225】
図48は、被加熱物110の状態変化の検知の説明図であり、被加熱物110の膨化による形状変化が生じている場合を示す。被加熱物110が膨化した場合、被加熱物110の高さが、h2からh2+d2に変化する。被加熱物110の高さがh2である場合には、電波W1が被加熱物110に当たらずに加熱室100の壁面に当たって反射され、反射波W2として電力検知部9により検知される。被加熱物110の高さがh2+d2である場合には、被加熱物110に電波W1が照射され、吸収される。したがって、電力検知部9により検出される反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が、被加熱物110が膨化により形状変化しているかどうかを判定できる。
【0226】
図49は、被加熱物110の状態変化の検知の説明図であり、被加熱物110の融解による局所的な誘電率の上昇が生じている場合を示す。誘電体が吸収するマイクロ波の電力は、誘電体の比誘電率に比例する。被加熱物110に融解部分110aが生じた後は、融解部分110aで吸収される電波の電力が増加し、反射波W2の電力が低下する。したがって、電力検知部9により検出される反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が、被加熱物110が部分的に融解して局所的に誘電率の上昇が生じているかどうかを判定できる。
【0227】
図50は、被加熱物110の状態変化の検知の説明図であり、被加熱物110の解凍による局所的な誘電率の上昇が生じている場合を示す。この状態変化は、被加熱物110が冷凍食品であり、加熱処理により被加熱物110を解凍する場合に生じる。誘電体が吸収するマイクロ波の電力は、誘電体の比誘電率に比例する。被加熱物110に解凍部分110bが生じた後は、解凍部分110bで吸収される電波の電力が増加し、反射波W2の電力が低下する。したがって、電力検知部9により検出される反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が、被加熱物110が部分的に解凍されて局所的に誘電率の上昇が生じているかどうかを判定できる。
【0228】
図51は、被加熱物110の状態変化の検知の説明図であり、被加熱物110の位置が変化している場合を示す。例えば、加熱処理において、被加熱物110の一部が弾けて被加熱物110が加熱室100内で移動し、被加熱物110の位置が変わる場合がある。例えば、被加熱物110が初期位置にある場合には、被加熱物110に電波W1が照射され、吸収される。一方で、例えば、被加熱物110が初期位置から移動した場合には、電波W1が被加熱物110に当たらずに加熱室100の壁面に当たって反射され、反射波W2として電力検知部9により検知される。したがって、電力検知部9により検出される反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が、被加熱物110が移動して位置が変化したかどうかを判定できる。
【0229】
図52は、被加熱物110の状態変化の検知の説明図であり、被加熱物110の乾燥による誘電率の低下が生じている場合を示す。誘電体が吸収するマイクロ波の電力は、誘電体の比誘電率に比例する。被加熱物110に乾燥部分110cが生じた後は、乾燥部分110cで吸収される電波の電力が低下し、反射波W2の電力が増加する。したがって、電力検知部9により検出される反射波電力の経時変化に基づいて被加熱物110の状態が、被加熱物110が部分的に乾燥して誘電率の低下が生じているかどうかを判定できる。
【0230】
なお、本実施の形態においても、反射波電力の代わりに、反射率を採用してもよい。
【0231】
以上述べたように、本実施の形態では、処理部7は、反射波電力又は反射率の変化から被加熱物110の状態変化を検知する状態検知手段としての機能と、検知された状態に応じて電波の制御をする制御手段としての機能を有する。処理部7は、反射波電力又は反射率の変化から被加熱物110の状態変化(例えば、沸騰、膨化、融解、解凍、弾け、乾燥)を検知し、加熱条件の変更又は加熱を終了する。ここで、電波(電波照射部4から照射される電波)の制御とは、電波の照射、電波の照射の停止、電波の周波数の変更、電波の出力調整等を含む。
【0232】
被加熱物110の加熱が進行することで、沸騰や膨化等、被加熱物110の揺れや形状変化、及び融解や乾燥等の被加熱物110の急激な誘電率の変化が生じる場合がある。この被加熱物110の状態の変化により被加熱物110のマイクロ吸収特性が変わるため、反射波電力又は反射率にも変化が生じる。被加熱物110の状態が変化した時点で加熱条件を変更又は加熱を終了することは、加熱の過不足を緩和し高品位な仕上がりに近付けることに有効である。従来は、予め加熱条件の変更時間及び加熱の終了時間を決めて調理するか、熱電対により加熱室内の温度を測定して加熱条件の変更及び加熱の終了を行っていたため、被加熱物110の重量、容器、初期温度が想定と異なっていた場合に、加熱の過不足が生じやすく高品位な仕上がりの自動調理は実現できていなかった。しかし、本実施の形態では、被加熱物110の状態を検知することで高品位な仕上がりの自動調理が可能となる。なお、被加熱物110の情報、例えば、被加熱物110の重量、被加熱物110の現在の温度、被加熱物110の種類等の情報を利用できれば、被加熱物110の状態変化検知の精度をさらに向上することができる。また、検知した反射波電力と入射波(照射波)の電力の関係から、例えば、反射率等の補助的な情報を算出し、フィードバック情報として用いることで、さらに精度の向上が図れる。
【0233】
なお、反射波電力を用いた状態の判定では、特に周波数に対する反射波電力だけをもいいてもよいし、複数の周波数に対する反射波電力の代表値(例えば、平均値、最大値、最小値、最頻値、中央値、中心値等)を用いてもよい。また、反射波電力を用いた状態の判定では、反射波電力又は反射率の任意の時間当たりの変化度又は標準偏差等が予め設定した閾値を超えたかどうかで、状態の判定を行ってよい。
【0234】
[1.24 実施の形態24]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0235】
処理部7は、電力検知部9により反射波の電力の経時的に検知し、反射波の電力及び反射波間の位相差の経時変化に基づいて被加熱物110の厚みの推定をし、推定の結果に基づいて電波照射部4により照射される電波を制御する処理を行う。
【0236】
例えば、処理部7は、反射波の電力及び反射波間の位相差の経時変化に基づいて推定した被加熱物110の厚みに変化があれば、電波照射部4により照射される電波を制御することによって、加熱条件を変更してよい。
【0237】
この場合の処理部7の動作を、
図53に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、加熱処理を開始した後(S201)、電力検知部9により反射波の検出をし(S202)、反射波の電力及び反射波間の位相差の経時変化に基づいて被加熱物110の厚みの推定をする(S203)。推定の結果、被加熱物110の厚みが変化していれば(S204:YES)、処理部7は、加熱条件を変更する(S205)。
【0238】
図54は、被加熱物110の厚みの推定の説明図である。加熱室100内に被加熱物110が有る場合、加熱室100内に放射された電波W1の一部は被加熱物110の表面で反射して反射波W21となり、残りの一部は被加熱物110の裏面で反射して反射波W22となる。よって、電波W1の反射位置が異なるので電波照射部4に戻ってくる2種類の電波(反射波W21,W22)は位相(反射位相)が異なる。この反射位相の差から被加熱物110の厚みtを推定することが可能となる。これは、反射位相の差、つまり、反射波W21と反射波W22との光路差が、被加熱物110の厚みtに比例することを利用している。また、加熱中の反射位相の経時的な変化から被加熱物110の厚みの変化を推定することが可能となる。
【0239】
以上述べたように、本実施の形態では、被加熱物110の厚みを推定することにより、最適な加熱時間を推定することが可能となる。また、加熱途中の被加熱物110の厚みの変化し始めを検知することで、最適なタイミングで加熱条件の変更が可能となる。以上より、自動調理を実現することができる。従来は、予め加熱条件の変更時間及び加熱処理の終了時間を決めて調理するか、熱電対により加熱室100内の温度を測定して加熱条件の変更及び加熱処理の終了をしていたため、被加熱物110の重量、被加熱物110を入れる容器、初期温度が想定と異なっていた場合に、加熱の過不足が生じやすく高品位な仕上がりの自動調理は実現できていなかった。しかし、本実施の形態では、高品位な仕上がりの自動調理が可能となる。なお、被加熱物110の情報、例えば、被加熱物110の重量、被加熱物110の現在の温度、被加熱物110の種類等の情報が利用できれば、被加熱物110の厚みの推定の精度をさらに向上することができる。
【0240】
なお、本実施の形態において、加熱条件の変更の代わりに、加熱処理を終了してもよい。
【0241】
[1.25 実施の形態25]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0242】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して反射率を算出し、反射率に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力が検知され、記憶部10に記憶される。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数毎の反射率が算出され、記憶部10に記憶される。
【0243】
処理部7は、例えば、所定の周波数範囲から、反射率が最低となる周波数を選択してよい。反射率を低くすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、周波数制御部5によって電波信号の周波数を、選択処理で選択した周波数に設定することで、選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の周波数を掃引して得られる周波数ごとの反射率に基づいて、電波の周波数を可変する。
【0244】
選択処理では、処理部7は、選択した周波数における反射率に基づき損失電力が規定値となる入射電力を算出する。規定値は、特に限定されないが、加熱装置での加熱の効率を考慮して適宜設定されてよい。
【0245】
加熱処理は、選択処理で選択した周波数及び選択処理で算出した入射電力の電波により被加熱物110を加熱する処理である。
【0246】
処理部7の動作について
図55に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内の周波数を設定し(S211)、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S212)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力から反射率を算出して、記憶部10に記憶させる(S213)。所定の周波数範囲に反射率が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S214:NO)、ステップS211に戻る。所定の周波数範囲に含まれる周波数毎に反射率が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S214:YES)、所定の周波数範囲から反射率が最低の周波数を選択する(S215)。処理部7は、ステップS215で選択した周波数における反射率に基づき損失電力が規定値となる入射電力を算出する。処理部7は、ステップS215で選択した周波数及びステップS216で算出した入射電力の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S217)。
【0247】
以上述べたように、本実施の形態では、処理部7は、加熱室100での損失電力(積算損失電力)を周波数毎に演算する演算手段と、演算手段で演算した結果に基づき照射電力(入射電力)を制御する照射電力制御手段として機能する。このように、本実施の形態では、周波数を掃引し各周波数における反射率を算出し、反射率に基づき各周波数の加熱室100内での損失電力が一定になるように各周波数の発振電力(入射電力)を制御する。ここで、周波数が異なると加熱室100内の電波分布が異なるが、本実施の形態では、各加熱室100内の電波分布における被加熱物110の電波吸収電力量(すなわち、加熱室100での損失電力量)を一定にすることで、均一加熱が可能となる。
【0248】
また、電波照射部4が複数ある場合には、複数の電波照射部4により照射される複数の電波それぞれについて、選択処理で選択した周波数及び選択処理で算出した入射電力が設定される。これにより、複数の電波照射部4からの電波の損失電力は規定値に一致することになる。
【0249】
また、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gにおいて、処理部7は、選択処理において選択した位相差における反射率に基づき損失電力が規定値となる入射電力を算出し、加熱処理において選択処理で選択した位相差及び選択処理で算出した入射電力の電波により被加熱物110を加熱してよい。同様に、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hにおいて、処理部7は、選択処理において選択した周波数と位相差の組における反射率に基づき損失電力が規定値となる入射電力を算出し、加熱処理において選択処理で選択した周波数と位相差の組及び選択処理で算出した入射電力の電波により被加熱物110を加熱してよい。
【0250】
[1.26 実施の形態26]
本実施の形態にかかる加熱装置は、
図24に示す実施の形態7にかかる加熱装置1Fと同じ構成であるが、処理部7の動作が異なる。
【0251】
処理部7は、選択処理と加熱処理とを行う。選択処理は、所定の周波数範囲に関して反射率を算出し、反射率に基づいて被加熱物110の誘電加熱に使用する電波の周波数を周波数制御部5により選択する処理である。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数毎の反射波電力が検知され、記憶部10に記憶される。選択処理により、所定の周波数範囲内の周波数毎の反射率が算出され、記憶部10に記憶される。
【0252】
処理部7は、例えば、所定の周波数範囲から、反射率が最低となる周波数を選択してよい。反射率を低くすることで、被加熱物110の効率的な加熱が可能になる。加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する加熱処理を行う。処理部7は、周波数制御部5によって電波信号の周波数を、選択処理で選択した周波数に設定することで、選択した周波数の電波により被加熱物110を加熱する。このように、処理部7は、電波の周波数を掃引して得られる周波数ごとの反射率に基づいて、電波の周波数を可変する。
【0253】
選択処理では、処理部7は、選択した周波数における反射率に基づき損失電力量が規定値となる照射時間を算出する。規定値は、特に限定されないが、加熱装置での加熱の効率を考慮して適宜設定されてよい。
【0254】
加熱処理は、選択処理で選択した周波数の電波により、選択処理で算出された照射時間の間、被加熱物110を加熱する処理である。
【0255】
処理部7の動作について
図56に示すフローチャートを参照して説明する。処理部7は、周波数制御部5によって所定の周波数範囲内の周波数を設定し(S221)、設定した周波数の電波を電波照射部4から照射させて電力検知部9により反射波電力を検知する(S222)。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力から反射率を算出して、記憶部10に記憶させる(S223)。所定の周波数範囲に反射率が得られていない周波数があれば周波数の掃引が終了していないから(S224:NO)、ステップS221に戻る。所定の周波数範囲に含まれる周波数毎に反射率が得られれば、処理部7は、周波数の掃引を終了し(S224:YES)、所定の周波数範囲から反射率が最低の周波数を選択する(S225)。処理部7は、ステップS225で選択した周波数における反射率に基づき損失電力量が規定値となる照射時間を算出する。処理部7は、ステップS225で選択した周波数の電波により、ステップS226で算出された照射時間の間、被加熱物110を加熱する加熱処理を行う(S227)。
【0256】
以上述べたように、本実施の形態では、処理部7は、加熱室100での損失電力(積算損失電力)を周波数毎に演算する演算手段と、演算手段で演算した結果に基づき照射時間を制御する照射時間制御手段として機能する。このように、本実施の形態では、周波数を掃引し各周波数における反射率を算出し、反射率に基づき各周波数の加熱室100内での損失電力量が一定になるように各周波数の発振時間(照射時間)を制御する。ここで、周波数が異なると加熱室100内の電波分布が異なるが、本実施の形態では、各加熱室100内の電波分布における被加熱物110の電波吸収電力量(すなわち、加熱室100での損失電力量)を一定にすることで、均一加熱が可能となる。
【0257】
また、電波照射部4が複数ある場合には、複数の電波照射部4により照射される複数の電波それぞれについて、選択処理で選択した周波数及び選択処理で算出した照射時間が設定される。これにより、複数の電波照射部4からの電波の損失電力量は規定値に一致することになる。
【0258】
また、
図26に示す実施の形態8にかかる加熱装置1Gにおいて、処理部7は、選択処理において選択した位相差における反射率に基づき損失電力が規定値となる照射時間を算出し、加熱処理において選択処理で選択した位相差の電波により、選択処理で算出された照射時間の間、被加熱物110を加熱してよい。同様に、
図28に示す実施の形態9にかかる加熱装置1Hにおいて、処理部7は、選択処理において選択した周波数と位相差の組における反射率に基づき損失電力量が規定値となる照射時間を算出し、加熱処理において選択処理で選択した周波数と位相差の組の電波により、選択処理で算出された照射時間の間、被加熱物110を加熱してよい。
【0259】
[1.27 実施の形態27]
図57は、実施の形態27にかかる加熱装置1Jの構成例の概略図である。
図57に示すように、加熱装置1Jは、2つの電波信号発生部2a,2bと、2つの信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、処理部7と、2つの電力検知部9と、記憶部10とを備える。
図57の加熱装置1は、加熱室100を備える。
【0260】
2つの電波信号発生部2a,2bは、被加熱物110の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生器である。電波信号発生部2aの電波信号の周波数は、電波信号発生部2bの電波信号の周波数より低い。電波信号発生部2aの電波信号の周波数は、例えば、高周波誘電加熱に対応する周波数帯域(例えば、3MHz~300MHz)の周波数である。電波信号発生部2bの電波信号の周波数は、例えば、マイクロ波加熱に対応する周波数帯域(例えば、300MHz~30GHz)の周波数である。
【0261】
処理部7は、被加熱物110の種類及び状態に応じて、2つの電波信号発生部2a,2bのいずれを使用するかを選択する。これにより、誘電率の異なる複数種類の被加熱物110、又は、氷と水のように状態の異なる同じ被加熱物110に対しても電波を効率的に吸収させることができる。
【0262】
図58は、水と氷に関する周波数と電力半減深度との関係を示すグラフである。
図58から、周波数が低いほど電波が深くまで浸透することがわかる。例えば、40MHzの周波数に対する水の電力半減深度は30mであるのに対して、2450MHzの周波数に対する水の電力半減深度は1.54cmである。このように、周波数が異なると電力半減深度が異なり、低い周波数の電波は高い周波数の電波と比較して被加熱物110の内部深くまで浸透し誘電体であればそこで誘電ロスによる熱が発生する。
【0263】
図59は、水と氷に関する周波数と誘電損失係数との関係を示すグラフである。
図59から、水と氷の誘電損失係数は、低周波数で1桁差(D1参照)であるが、高周波数では4桁差(D2参照)にもなることがわかる。誘電体での消費電力は、誘電損失係数に比例する。したがって、低周波数で水と氷の加熱差が小さく、高周波数で解凍が速く行われることになる。このように、氷と水のように誘電率の大きく異なる被加熱物110に対する加熱特性は、周波数によって異なる。例えば、10MHz~40MHzにおいて、氷と水の加熱比率は小さくなり、40MHz~10GHzにおいては、周波数が大きくなるにしたがって氷と水の加熱比率は大きくなる。
【0264】
処理部7は、例えば、被加熱物110が水である場合に、マイクロ波加熱に対応する電波信号発生部2bを使用し、被加熱物110が氷である場合に、高周波加熱に対応する電波信号発生部2aを使用することができ、これによって、氷と水のように状態の異なる同じ被加熱物110に対しても電波を効率的に吸収させることができる。
【0265】
本実施の形態では、処理部7は、被加熱物110の種類や状態に応じて電波信号発生部2a,2bで生成される信号の周波数を制御する周波数可変手段として機能し、周波数可変部が電波信号発生部2a,2bを制御することで、異なる複数周波数の信号が選択的に生成される。これにより誘電率の異なる複数種類の対象物や、氷と水のように状態の異なる同じ被加熱物110等に対しても電波は効率的に吸収される。また、誘電率の異なる被加熱物110に対して効率的な周波数を選択して電波の照射が可能となり、結果として加熱時間の短縮や電気エネルギの節約につながる。また、周波数による電力半減深度の違いにより被加熱物110の表面を集中的に加熱するか、被加熱物110の内部も加熱するかを加熱の目的に合わせて周波数を選択することで、被加熱物110を適切な温度分布に仕上げることが可能となる。
【0266】
また、被加熱物110が誘電率の異なる複合物もしくは誘電率の異なる2つの被加熱物110を加熱する場合に、周波数を選択することで、誘電率の異なる被加熱物110間の加熱比率を変えることが可能となり、誘電率の高い被加熱物110を選択的に加熱ができる。また、被加熱物110間の加熱比率を小さくなるよう周波数を選択することで、複合物及び誘電率の異なる複数の被加熱物110に対して均一な加熱をすることが可能となる。
【0267】
なお、ISMバンド(産業科学医療用バンド)帯の異なる複数の周波数帯の電波を生成可能な電波信号発生部2を有するほうが、1つのISMバンド帯内で複数の周波数帯の電波信号を生成可能な電波信号発生部2を有するよりも効果が大きい。例えば、40MHz帯の電波信号を生成可能な電波信号発生部2と2450MHz帯の電波信号を発生可能な電波信号発生部2との組合せが有用である。
【0268】
本実施の形態では、処理部7は、被加熱物110の特性の検知をし、検知の結果に基づいて、2つの電波信号発生部2a,2bのいずれを使用するかを決定してよい。処理部7は、例えば、低出力の周波数の異なる半導体式発振器を用いて、被加熱物110に対する反射波の特性を周波数毎に計測する。これにより、周波数によって電力浸透深さ及び波長の違いがあるためそれぞれの周波数によって異なる被加熱物110の特性を検知することが可能となる。なお、周波数が低いほど電波の浸透深さが長くなるので、被加熱物110の内部まで浸透する。周波数が高いほど被加熱物110の表面の状態を検知できる。また、周波数が高いほど波長が短くなるので検知の分解能が向上し、小さい被加熱物110、又は、被加熱物110の小さな形状変化も検知できる。これにより、被加熱物110の状態変化又は被加熱物110の物性値を検知することが可能となり、加熱条件(調理条件)の変更及び加熱完了(調理完了)の判定をすることが可能となり、自動調理を実現することができる。なお、使用する周波数は、例えば、10MHz~300THzである。
【0269】
なお、ワイドバンドギャップ半導体で形成されるトランジスタ30の特長である高い耐反射波特性を活かして、処理部7は、例えば、高出力の周波数の異なる半導体式発振器を用いて、被加熱物110に対する反射波の特性を周波数毎に計測してよい。この場合、処理部7は、2つの電波信号発生部2a,2bを利用して被加熱物110に対する反射波の特性を周波数毎に計測してよい。つまり、トランジスタ30の耐反射波特性が低い場合には、反射波電力の検知の際に出力を低下させて、電波信号発生部2及び信号増幅部3の焼損を防止する必要があったが、トランジスタ30はワイドバンドギャップ半導体により形成されており、高い耐反射波特性を有しているから、反射波電力の検知時も高出力の電波を利用できる。これによって、低出力のセンシング時よりも被加熱物110をより加熱することが可能となり、短時間で被加熱物110を加熱することができる。つまり、反射波電力の検知の際にも被加熱物110の加熱が可能となる。また、高出力のセンシングによりSN比(信号雑音比)を大きくすることができ、反射波電力の小さな変化も検知することが可能となる。
【0270】
[1.28 実施の形態28]
図60は、実施の形態28にかかる加熱装置1Kの構成例の概略図である。
図60に示すように、加熱装置1Kは、電波信号発生部2と、2つの信号増幅部3と、電波照射部4と、周波数制御部5と、位相差制御部6と、処理部7とを備える。
【0271】
図60の電波照射部4は、供給される電波信号の周波数又は電波信号間の位相差により電波照射部4から照射される電波の指向性が変わるように構成される。
図60の電波照射部4は、例えば、2給電パッチアンテナである。
【0272】
処理部7は、周波数制御部5及び位相差制御部6を制御することによって、電波照射部4に2つの信号増幅部3から供給される2つの電波信号の周波数又は2つの電波信号間の位相差の少なくとも一方を調整することにより、電波照射部4から照射される電波の指向性を変更する。
【0273】
図61は、加熱装置1Kの位相差と電波指向性との関係を示す図である。
図61は、位相差が0°、45°、90°、135°の場合の、電波照射部4から照射される電波の指向性を示す。
図61から明らかなように、電波照射部4から照射される電波の指向性を変更することができることがわかる。
【0274】
以上述べた本実施の形態では、加熱装置1Kは、周波数及び位相差の少なくとも一方の変更により電波の指向性を変える電波照射部4を備える。本実施の形態では、周波数及び位相差の少なくとも一方を変えることで、電波の指向性を狙った方向に大きく変えることが可能となる。電子レンジのように閉空間での電波加熱は、間接波と直接波それぞれの電波分布によって被加熱物110の加熱分布が決まる。間接波は周波数で決まる加熱室内の共振パターンでの加熱であり、直接波は電波照射部4の指向性に依存する。よって、電波照射部4(アンテナ)の指向性を制御することで、直接波による加熱分布が制御可能となる。これにより、被加熱物110の選択加熱及び均一加熱が可能となる。
【0275】
[1.29 実施の形態29]
図62は、実施の形態29にかかる加熱装置1Lの構成例の概略図である。
図62に示すように、加熱装置1Lは、複数の電波信号発生部2と、複数の信号増幅部3と、複数の電波照射部4と、出力制御部8とを備える。
【0276】
電波信号発生部2と信号増幅部3と電波照射部4とは、電波を照射する発振器を構成する。発振器は、例えば、低出力の半導体式電波発振器である。
図62では、加熱装置1Lは、6つの発振器を備える。加熱装置1Lでは、例えば、加熱室100の左壁面に一つの発振器が配置され、右壁面に一つの発振器が配置され、底壁面に2つの発振器が配置され、上壁面に2つの発振器が配置されている。
【0277】
従来の加熱装置の多くは部品配置部の広さが決まっており、また加熱装置の底面等に部品が一か所にまとめて配置されており、従来は信号増幅部と電波照射部の距離が長い場合が多かった。そのため、コストの高いケーブルを用いて信号増幅部と電波照射部とを接続していた。本実施の形態の発振器では、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成されるトランジスタ30の特長である小型化(例えば、放熱フィンの小型化)により、従来は発振器を配置できなかった筐体の側面(例えば、加熱室100の左右側面)、背面(例えば、加熱室100の奥壁面)、天面(例えば、加熱室100の上壁面)等に発振器を配置することが可能となる。これによって、信号増幅部3と電波照射部4とをケーブルを用いずに直結することができる。これにより、信号増幅部3と電波照射部4とを互いに近い距離に配置することができる。また、コストの高いケーブルが不要になる。また、電波伝送用のケーブルを使用しないことで、信号増幅部3から電波照射部4までの電波損失を低減することができ、加熱室100に高効率に電波を照射することができ、結果的に被加熱物110を短時間で加熱することが可能となる。また、加熱装置の構成材料代が安くなるという利点がある。
【0278】
図62の出力制御部8は、6つの発振器の電力(照射電力)をそれぞれ制御する。このように、本実施の形態では、複数の発振器から加熱室100に電波の照射を可能とし、各発振器の照射電力を制御することで、加熱室100の電波分布を変えることが可能となる。さらに、各発振器の周波数及び位相差を制御することで電波分布の制御性はさらに向上する。加熱室100の電波分布の制御性を向上させることにより、被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0279】
以上述べた加熱装置1Lは、複数の電波照射部4と、複数の電波照射部4により照射される複数の電波の出力を制御する出力制御部8とを備える。この構成によれば、被加熱物110の加熱を効率的に行え、かつ、被加熱物110の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0280】
[1.30 実施の形態30]
図63は、実施の形態30にかかる加熱装置1Mの構成例の概略図である。
図63に示すように、加熱装置1Mは、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、2つの電波照射部4と、処理部7と、電力検知部9と、記憶部10と、セレクタ11とを備える。
【0281】
2つの電波照射部4は、加熱室100の底壁面に配置されている。セレクタ11は、2つの電波照射部4から、被加熱物110の加熱処理に利用する電波照射部4を選択するために用いられる。処理部7は、セレクタ11によって、2つの電波照射部4から、加熱室100内の被加熱物110の加熱処理に利用する電波照射部4を選択する。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力に基づいて、2つの電波照射部4のいずれが被加熱物110に近いかを判定し、セレクタ11により、2つの電波照射部4のうち被加熱物110に近いほうを、被加熱物110の加熱処理に利用する電波照射部4として選択する。
【0282】
このように、周波数及び位相差を制御しない場合でも、加熱したい被加熱物110又は被加熱物110の部位に近い電波照射部4から電波を照射することで、選択的に被加熱物110を加熱することができる。
【0283】
図64は、実施の形態30にかかる加熱装置1Mの別の構成例の概略図である。
図64に示すように、加熱装置1Mは、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、2つの電波照射部4a,4bと、処理部7と、電力検知部9と、記憶部10と、セレクタ11と、駆動部12とを備える。
【0284】
電波照射部4aは、加熱室100の底壁面に配置され、電波照射部4bは、加熱室100の右側面に配置されている。セレクタ11は、2つの電波照射部4a,4bから、被加熱物110の加熱処理に利用する電波照射部4を選択するために用いられる。処理部7は、セレクタ11によって、2つの電波照射部4a,4bから、加熱室100内の被加熱物110の加熱処理に利用する電波照射部4を選択する。処理部7は、電力検知部9で検知された反射波電力に基づいて、2つの電波照射部4a,4bのいずれが被加熱物110に近いかを判定し、セレクタ11により、2つの電波照射部4のうち被加熱物110に近いほうを、被加熱物110の加熱処理に利用する電波照射部4として選択する。駆動部12は、電波照射部4aを駆動する。より詳細には、駆動部12は、電波照射部4aにより加熱室100内に生じる電波分布が変化するように電波照射部4aの向きを変える。例えば、駆動部12は、電波照射部4aを回転させる。処理部7は、駆動部12によって、電波照射部4aの向きを変えることで、被加熱物110の加熱に適した電波分布を加熱室100内に生じさせる。
【0285】
このように、
図64の加熱装置1Mは、電波照射部4を駆動する駆動部12を備える。この場合、駆動部12により加熱室100内の電波分布を変えることが可能となる。
図64の加熱装置1Mは、周波数制御部5及び位相差制御部6を備えて、周波数及び位相差の少なくとも一方によっても加熱室100内の電波分布を調整してよい。このように、多様な加熱室100内の電波分布を用いて被加熱物110を加熱することにより、均一加熱が可能となる。
【0286】
[1.31 実施の形態31]
図65は、実施の形態31にかかる加熱装置1Nの構成例の概略図である。
図65に示すように、加熱装置1Nは、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、2つの電波照射部4,14と、周波数制御部5と、処理部7と、電力検知部9と、記憶部10と、マグネトロン13と、制御部15とを備える。
【0287】
マグネトロン13は、真空管式電波発振器である。マグネトロン13では、加熱された陰極から電子が陽極に向けて放出され、放出された電子は強力な磁石の磁場によって向きを変えられ、空洞で共振を起こしてマイクロ波を発生させる。
【0288】
2つの電波照射部4,14は、加熱室100の底壁面に配置されている。電波照射部4は、信号増幅部3で増幅された電波信号に基づいて、加熱室100内に電波を照射する。電波照射部4は、例えば、アンテナである。電波照射部14は、マグネトロン13に導波管により接続され、マグネトロン13から放出されたマイクロ波を加熱室100に向けて反射させる反射板である。
【0289】
制御部15は、2つの電波照射部4,14による電波の照射を制御する。制御部15は、処理部7を制御することによって、電波照射部4による電波の照射を制御する。制御部15は、マグネトロン13を制御することによって、電波照射部14による電波の照射を制御する。制御部15は、例えば、1以上のプロセッサ及びメモリを有するマイクロコントローラにより構成されてよい。制御部15は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で構成されてもよい。
【0290】
図65の加熱装置1Nは、真空管式電波発振器(マグネトロン13)と、半導体式電波発振器(電波信号発生部2及び信号増幅部3)とを備える。加熱装置1Nは、空管式電波発振器(マグネトロン13)と半導体式電波発振器(電波信号発生部2及び信号増幅部3)からの電波を別々の伝送経路で加熱室100内に放射させる。半導体式電波発振器はセンシング(反射波電力の検知)又は周波数制御(及び/又は位相差制御)が必要となる加熱に用いることができる。真空管式電波発振器は安価で大電力の電波を放射可能なので、時短が求められる加熱に用いることができる。これにより、半導体式電波発振器の利点である均一加熱と、真空管式電波発振器の大出力加熱による利点である時短加熱の切替が可能となる。なお、半導体式電波発振器の最大出力は50W~350W、真空管式電波発振器の最大出力は500W~2000Wが一般的である。なお、特に熱風対流加熱、輻射ヒータ加熱、スチーム加熱等の他の熱源(例えば、
図44に示す加熱部130)で主に加熱し、電波は補助的に用いる加熱の場合に有用である。なお、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30の特長である高い耐反射波特性を活かすことで、真空管式電波発振器であるマグネトロン13の高出力の電波が半導体式電波発振器に伝播してきた場合も電波信号発生部2又は信号増幅部3が焼損することを避けることができる。これにより電波照射部4の構成および真空管式電波発振器(マグネトロン13)の出力制御を簡素化することが可能となる。
【0291】
図65の加熱装置1Nでは、信号増幅部3からの電波信号を外部信号としてマグネトロン13に入力している。つまり、真空管式電波発振器に外部信号として半導体式電波発振器からの電波を注入する構成としている。真空管式電波発振器であるマグネトロン13の共振部に、半導体式電波発振器から周波数を固定した低出力電波を注入してから、真空管式電波発振器を発振させることで、真空管式電波発振器から放射される電波の周波数を半導体式電波発振器から注入した電波の周波数に同期することが可能となる。これにより、低コストで周波数制御可能な大出力の加熱が可能となり、均一加熱と時短加熱の両立が可能となる。
【0292】
[1.32 実施の形態32]
図66は、実施の形態32にかかる加熱装置1Oの構成例の概略図である。
図66に示すように、加熱装置1Oは、電波発生部120と、励振体16とを備える。
【0293】
電波発生部120は、
図24に示す加熱装置1Fと同様に、電波信号発生部2と、信号増幅部3と、電波照射部4と、周波数制御部5と、処理部7と、電力検知部9と、記憶部10とを備える。
【0294】
励振体16は、加熱室100の載置台140の下方に配置される。励振体16は、電波発生部120からの電波(マイクロ波)を表面波モードで伝播させる。表面波モードで伝播するマイクロ波により、載置台140に載置された被加熱物110が加熱される。
【0295】
励振体16は、周期構造体を備える。励振体16は、例えば、スタブ型表面波励振体である。励振体16は、所定間隔で配置された複数の金属板16aを有する。励振体16は、スタブ型表面波励振体の代わりに、金属板を交差指状に打ち抜いたインターデジタル型表面波励振体でもよい。励振体16は、アルミナ板、ベークライト板等の誘電体板で構成されてもよい。励振体16の励振周波数は、材料、寸法等に依存する。スタブ型表面波励振体の場合、金属板16aの高さ、間隔等を適切に選択することで、励振周波数を所望の値に設定することができる。一般的に、励振周波数は、金属板16aの高さが低いほど高く、金属板16aの間隔が狭いほど高い。金属板16aの各々は、互いに平行に配置される。励振体16は、金属板16aに垂直な方向、すなわち金属板16aの配列方向に表面波を伝播させる。励振体16上を、表面波モードで伝播するマイクロ波の伝播方向は、金属板16aの配列方向と一致する。
【0296】
励振体16は、結合部16bにより電波発生部120に接続される。結合部16bにより、電波発生部120により生成された電波(マイクロ波)が励振体16に供給される。
【0297】
このように本実施の形態では、励振体16は、周期構造体を備える。電波の波長に適した周機構造に電波を伝送させることで、電波を空間に放射することなく電波を伝送させることで、周期構造上に置かれた被加熱物110の表面に対し、電波を集中させることが可能となる。電波を被加熱物110の表面に集中させることにより、従来の電波加熱では実現できなかった被加熱物110の表面を焼くことが可能となる。なお、周波数で周期構造の寸法が決まるので、マグネトロンより半導体発振器(電波発生部120)のほうが効率的に給電できる。また、複数給電で周波数及び位相差を制御することで周期構造上の電波分布を制御することが可能である。
【0298】
[2.変形例]
本開示の実施の形態は、上記実施の形態に限定されない。上記実施の形態は、本開示の課題を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施の形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0299】
[2.1 変形例1]
実施の形態1において、信号増幅部3は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を備える。信号増幅部3は、複数のトランジスタ30を有するトランジスタアレイを備えてよい。
図67は、変形例1にかかるトランジスタアレイ300の構成例の断面図である。
図68は、
図67のP1の拡大図である。
【0300】
トランジスタアレイ300は、
図67及び
図68に示すように、
図3に示す構造のトランジスタ(トランジスタセル)30を複数備える。複数のトランジスタ30は、互いに並列に接続される。トランジスタアレイ300は、基板31と、チャネル層32と、複数のソース電極33と、複数のドレイン電極34と、複数のゲート電極35と、複数の絶縁層36と、絶縁層37と、複数のフィールドプレート38とを備える。
【0301】
基板31は、例えば、酸化ガリウム基板又はサファイヤ基板である。基板31は、ワイドバンドギャップ半導体で形成される基板であってよい。チャネル層32は、基板31の主面(
図68における上面)に形成される。チャネル層32は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成される。チャネル層32は、例えば、n型酸化ガリウムで形成される。チャネル層32は、電子走行層として機能する。複数のソース電極33及び複数のドレイン電極34は、チャネル層32における基板31とは反対側に形成される。複数のソース電極33及び複数のドレイン電極34は、基板31の厚み方向(
図68における上下方向)に直交する方向において距離を離して配置される。複数のゲート電極35は、チャネル層32における基板31とは反対側に形成される。複数のソース電極33及び複数のドレイン電極34は交互に配置され、各ゲート電極35は、隣り合うソース電極33とドレイン電極34との間にある。このような配置によって、ソース電極33は、ソース電極33の両側のゲート電極35により共用され、ドレイン電極34は、ドレイン電極34の両側のゲート電極35により共用される。複数の絶縁層36の各々は、対応するゲート電極35とチャネル層32との間にある。絶縁層36は、電子供給層として機能する。絶縁層36は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、又は酸化ハフニウム(HfO
2)により形成される。絶縁層37は、複数のソース電極33、複数のドレイン電極34、及び複数のゲート電極35を覆う。絶縁層37は、例えば、窒化シリコン(SiN)、又は窒化アルミニウム(AlN)である。絶縁層36及び絶縁層37を窒化アルミニウム等の熱伝導率が高い材料を用いて形成することで、トランジスタアレイ300の放熱性を向上できる。複数のフィールドプレート38は、トランジスタアレイ300の耐圧を向上させるために設けられる。
図68では、2つのフィールドプレート38が1つのソース電極33と一体に形成される。2つのフィールドプレート38は、ソース電極33から両側のドレイン電極34側に延びて、ソース電極33の両側のゲート電極35をそれぞれ覆う。絶縁層37は、複数のフィールドプレート38も覆っている。
【0302】
以上述べたトランジスタアレイ300は、互いに並列に接続される複数のトランジスタ30を備える。このように互いに並列に接続される複数のトランジスタ30を設けることで、個々のトランジスタ30に流れる電流値は小さくでき、それに伴って個々のトランジスタ30での発熱量も低減できる。特に、トランジスタアレイ300は、ワイドバンドギャップ半導体(例えば、酸化ガリウム)を用いて形成されている。ワイドバンドギャップ半導体は、絶縁破壊電界強度も非常に高いから、電極間距離を短くすることが可能である。したがって、複数のトランジスタ30を短いゲート電極35間の距離で、つまり、短いゲート幅で、配置することができて、発熱個所を分散することができる。個々のトランジスタ30での発熱量が抑制されるので、トランジスタ30の放熱のための部材が省略可能となり、装置の信頼性向上が図れる。また、発熱部位が分散されるため、トランジスタ30の冷却が容易になり、冷却機構を簡素化することができる。なお、バンドギャップがより大きい半導体材料を用いることで、絶縁破壊電界強度が大きくなり、結果としてトランジスタセルの小型化、低コスト化、及び省資源化が実現できる。加えて、バンドギャップ半導体として熱伝導率の低い、例えば酸化ガリウムのような材料を用いれば、各トランジスタセルで発生した熱が隣接するトランジスタセルに熱的な影響を及ぼしにくくなる。これにより、小さなトランジスタセルを狭ピッチで配置することが可能となり、結果としてデバイスやモジュールのさらなる小型化に加え、省資源化・低コスト化が実現できる。
【0303】
[2.2 変形例2]
図69は、変形例2にかかる信号増幅部3Aの構成例の回路図である。
図69に示す信号増幅部3Aは、半導体パッケージ310を備える。半導体パッケージ310は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを備える半導体発振器を構成する。信号増幅部3Aは、更に、入力整合回路43と、出力整合回路44とを備える。入力整合回路43は、入力端子Vinにより電波信号発生部2に接続され、電波信号発生部2と半導体パッケージ310との間のインピーダンスマッチングに用いられる。出力整合回路44は、出力端子Voutにより電波照射部4に接続され、電波照射部4と半導体パッケージ310との間のインピーダンスマッチングに用いられる。
【0304】
図70は、半導体パッケージ310の構成例の概略平面図であり、
図71は、半導体パッケージの構成例の概略断面図である。半導体パッケージ310は、複数(図示例では3つ)のトランジスタ30と、複数(図示例では3つ)の入力整合回路41と、複数(図示例では3つ)の出力整合回路42とを備える。各入力整合回路41は、対応するトランジスタ30と入力整合回路43との間のインピーダンスマッチングに用いられる。各出力整合回路42は、対応するトランジスタ30と出力整合回路44との間のインピーダンスマッチングに用いられる。
【0305】
複数のトランジスタ30と、複数の入力整合回路41と、複数の出力整合回路42とは、同一基板(同一チップ)にて構成される。各入力整合回路41は、例えば、MOSキャパシタを用いて構成される。各出力整合回路42は、IPD(Integrated Passive Device)を用いて構成される。
【0306】
半導体パッケージ310は、複数のトランジスタ30と複数の入力整合回路41と複数の出力整合回路42とを収容する樹脂製のハウジング50を備える。半導体パッケージ310は、更に、複数のトランジスタ30と複数の入力整合回路41と複数の出力整合回路42が配置されるダイパッド51と、複数の入力整合回路41に接続される入力端子52と、複数の出力整合回路42に接続される出力端子53とを備える。ダイパッド51、入力端子52及び出力端子53はハウジング50に一体的に設けられる。
【0307】
変形例2においては、トランジスタ30と同一基板上に入力整合回路41と出力整合回路42が構成されている。変形例2では、従来ディスクリート部品(単機能半導体部品)で構成されていたマイクロ波回路(信号増幅部)が、微細加工技術により単一の半導体基板上に形成されるので、高集積化される。このような高集積化により、モノリシックマイクロ波集積回路(Monolithic Microwave Integrated Circuit:MMIC)が実現でき、マイクロ波回路(又は高周波回路)の小型化、低コスト化及び省資源化に加え信頼性の向上が実現できる。なお、例えばシリコンや酸化ガリウムのように融液から単結晶ウェハを生成できる半導体材料であれば、比較的容易に大口径ウェハが低コストで生産できるため、トランジスタ30、入力整合回路41、及び出力整合回路42を同一基板上に構成しても、基板コストのアップはさほど大きくなく、逆に高集積化による低コスト化、小型化及び省資源化が実現できる。また、例えば酸化ガリウムのような熱伝導率の低い材料を基板に用いることで、トランジスタ30のように発熱する部分が存在する場合であっても、その熱が他の部分へ伝わることによる不具合の発生を抑制できるという効果も得られる。
【0308】
[2.3 変形例3]
図72は、変形例3にかかる信号増幅部の半導体パッケージ320の構成例の概略断面図である。
図72の半導体パッケージ320は、トランジスタ30と、トランジスタ30が配置されるダイパッド(パッケージベース)61と、トランジスタ30を囲う周壁62と、トランジスタ30を覆う蓋63と、入力端子64と、出力端子65とを備える。ダイパッド61、周壁62、及び蓋63は、トランジスタ30を収容するパッケージを構成する。
図72では、トランジスタ30は、トランジスタ30の基板31を、ダイパッド61に向けた状態で、ダイパッド61に配置される。
図72では、トランジスタ30の絶縁層37上に、電極パッド66,67が配置される。電極パッド66はビア等によりゲート電極35に接続される。電極パッド66は、ボンディングワイヤW61により入力端子64に接続される。電極パッド67はビア等によりドレイン電極34に接続される。電極パッド67はボンディングワイヤW62により出力端子65に接続される。トランジスタ30の基板31はダイボンド材68によりダイパッド61に固定される。
【0309】
従来は、発熱部位からヒートシンクへ効果的に熱伝導させるために、トランジスタの基板の厚みを小さくして熱抵抗を下げていたが、トランジスタ30は、ワイドバンドギャップ半導体(例えば、酸化ガリウム)を用いて形成されており、発熱個所の分散又は放熱不要とすることが可能である。そのため、トランジスタ30の基板31を薄くしてヒートシンクへの熱拡散を促す必要がなくなる。つまり、トランジスタ30の基板31は従来とは異なり薄くしなくてよい。例えば、基板31の厚さは、200μm以上としてもよい。この場合には、基板31の裏面の研磨加工を最低限にできる。このような半導体製造プロセスの簡略化により、低コスト化を実現できる。併せて信号増幅部を一般的な半導体パッケージとして構成する場合には、冷却部材固設のための研磨面が不要となるため、その製造プロセスが簡素化でき、さらなる低コスト化が実現できる。
【0310】
また、ダイボンド材68としては、AuSn、及び、一般的なはんだ(例えば、SnAgCu系、SnZnBi系、SnCu系、AnAgInBi系、SnZnAl系)が挙げられる。従来、高出力の高周波デバイスは、熱伝導の観点からはんだを使用せず、AuSn等の熱伝導率の高い材料が使用されていた。上述したように、バンドギャップ半導体(例えば、酸化ガリウム)を用いて形成されたトランジスタ30の場合、放熱が不要になるため、ダイボンド材68の熱伝導性を考慮する必要がなくなる。そのため、ダイボンド材68としては、AuSnよりも熱伝導率の低い安価なはんだを用いることができる。はんだは、AuSnと比べ材料費が安価になるうえ、接合温度が低いため、ダイボンド材68によるダイボンド工程における応力の緩和につながり、設計の自由度が向上する。
【0311】
図73は、変形例3にかかる信号増幅部の半導体パッケージ330の構成例の概略断面図である。
図73の半導体パッケージ330は、トランジスタ30と、トランジスタ30が配置されるダイパッド61と、トランジスタ30を囲う周壁62と、トランジスタ30を覆う蓋63と、入力端子64と、出力端子65とを備える。
図73では、トランジスタ30は、トランジスタ30の基板31を、ダイパッド61とは反対側に向けた状態で、ダイパッド61に配置される。
図73では、トランジスタ30の基板31上に、電極パッド66,67が配置される。電極パッド66はビア等によりゲート電極35に接続される。電極パッド66は、ボンディングワイヤW61により入力端子64に接続される。電極パッド67はビア等によりドレイン電極34に接続される。電極パッド67はボンディングワイヤW62により出力端子65に接続される。トランジスタ30の絶縁層37はダイボンド材68によりダイパッド61に固定される。
【0312】
トランジスタ30では、絶縁層36及び絶縁層37を熱伝導率が高い材料を用いて形成することで、トランジスタ30の放熱性を向上できる。この熱伝導率が高い材料は、例えば、ワイドバンドギャップ半導体よりも熱伝導率が高い材料である。このような熱伝導率が高い材料の例としては、窒化アルミニウムが挙げられる。このように、トランジスタ30の上部(ゲート電極35等に対して基板31とは反対側)にワイドバンドギャップ半導体(例えば酸化ガリウム)よりも熱伝導率の高い高熱伝導層(例えば、絶縁層36,37)を形成することができる。この場合、トランジスタ30で発生した熱は基板31よりも熱伝導率の高い層(例えば、絶縁層36,37)を介して外部に排出される。このようにすれば、トランジスタ30で発生した熱を確実に逃がすことができるので、半導体デバイスの信頼性が大きく向上するとともに、冷却部材の省略や簡素化ができ、小型化、低コスト化、及び省資源化が実現できる。なお、トランジスタ30の上部は電極や配線を形成するため、通常の半導体プロセスで上記の高熱伝導層を構成できる。一方、トランジスタ30の下部には基板31があり、製造プロセスが複雑になったり、自由度がなくなったりする。また、トランジスタ30はゲート電極35の近傍を中心に発熱するので、ゲート電極35の近くに高熱伝導層を配置することで、さらに放熱性を向上させることができる。また、上記の例では、ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウムを用い、高熱伝導層の材料として窒化アルミニウムを用いたが、高熱伝導層の材料は、ワイドバンドギャップ半導体よりも熱伝導率が高ければ同様の効果が得られる。また、トランジスタ30の積層構造中に熱伝導性の高い膜又は層を形成することによっても同様の効果が得られ、特に絶縁層に熱伝導性の高い膜又は層を設けることで構造の簡素化が図れる。
【0313】
図73では、基板31ではなく、高熱伝導層(絶縁層36,37)をダイパッド61に接続している。そのため、トランジスタ30で発生した熱は高熱伝導層(絶縁層36,37)を介してダイパッド61へと伝達され、ダイパッド61から放熱される。ダイパッド61が、例えばヒートシンクのような放熱部材に熱接合されている場合は、ダイパッド61からさらにヒートシンクへと熱が伝わり効果的に放熱される。
図73の場合、トランジスタ30で発生した熱を確実に逃がすことができるので、半導体デバイスの信頼性が大きく向上するとともに、冷却部材の省略や簡素化ができ、小型化、低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0314】
[2.4 変形例4]
図74は、変形例4にかかる信号増幅部3Bの構成例の回路図である。信号増幅部3Bは、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を備えており、トランジスタ30は、高耐圧であるため、電源電圧(ドレイン-ソース間電圧)を高くしても正常に動作させることが可能である。信号増幅部3Bは、電源電圧(ドレイン-ソース間電圧)を高く設定可能な回路構成を有している。具体的には、信号増幅部3Bは、
図69の信号増幅部3Aと同様に、半導体パッケージ310を備える。半導体パッケージ310は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを備える。信号増幅部3Bは、更に、入力整合回路43と、出力整合回路44とを備える。信号増幅部3Bは、ゲート電圧をバイアスするゲートバイアス回路45と、ドレイン電圧をバイアスするドレインバイアス回路46とを備える。ゲートバイアス回路45の入力端子は、キャパシタC3により安定化されたゲート電圧端子Vgに接続され、ゲートバイアス回路45の出力端子は、抵抗R3を介して、半導体パッケージ310と入力整合回路41との間に接続される。ドレインバイアス回路46の入力端子は、キャパシタC4により安定化されたドレイン電圧端子Vdに接続され、ドレインバイアス回路46の出力端子は、半導体パッケージ310と出力整合回路44との間に接続される。
【0315】
信号増幅部3Bでは、電源電圧を高くすることで、信号増幅部3Bから所定の電力を取り出すのに必要な電流値を低下させることができる。信号増幅部3Bに流れる電流値が低下すると、信号増幅部3Bの回路での発熱が抑制できる。また、信号増幅部3Bの回路に用いる電線を細線化したり、プリント基板上に構成する配線パターンの厚みを薄くしたりできるので、プリント基板やモジュールの低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0316】
窒化ガリウム(GaN)で形成した半導体(トランジスタ)のドレイン電圧は、通常50V程度であるが、ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウムを用いて形成したトランジスタでは、ドレイン電圧を、例えば65V以上にすることができる。そのため、ドレイン電圧としては、例えば、一般家庭向けの商用交流電源の100Vの交流電圧を整流器(ダイオードブリッジ等)で整流した電圧を利用することが可能となる。このようにすれば、電源電圧を生成するための電源回路(特に、DC電源回路)の構成を大幅に簡素化でき、低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0317】
[2.5 変形例5]
図75は、変形例5にかかる信号増幅部を備えるモジュールの構成例の回路図である。
図75に示すモジュール710は、電波照射部に接続される出力端子Voutを備える。モジュール710は、発振器71と、位相器72と、デジタル減衰器(パワー調整部)73と、信号増幅部74と、方向性結合器75と、サーキュレータ76と、方向性結合器77とを備える。発振器71は、電力信号発生部であり、位相器72及びデジタル減衰器73を介して、信号増幅部74に接続される。信号増幅部74は、多段増幅器であって、互いに直列接続される前段増幅器741及び最終段増幅器742を備える。前段増幅器741及び最終段増幅器742は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を用いて構成される。信号増幅部74では、複数のトランジスタ30が互いに直列に接続されて、多段増幅器を構成している。信号増幅部74は、方向性結合器75と、サーキュレータ76とを介して出力端子Voutに接続される。サーキュレータ76は、信号増幅部74で増幅された電波信号を出力端子Voutに出力する。サーキュレータ76は、出力端子Voutからの高周波信号を方向性結合器77に出力することで、信号増幅部74を外部からの高周波信号から保護する。
図75に示すモジュール710の構成によれば、信号増幅部74の保護が可能である。なお、サーキュレータ76の代わりにアイソレータを用いてもよい。
【0318】
図76は、変形例5にかかる信号増幅部を備えるモジュールの別の構成例の回路図である。
図76に示すモジュール720は、電波照射部に接続される出力端子Voutを備える。モジュール720は、発振器71と、位相器72と、デジタル減衰器(パワー調整部)73と、信号増幅部74と、方向性結合器75とを備える。
図76に示すモジュール720では、信号増幅部74は、方向性結合器75を介して出力端子Voutに接続される。
図76に示すモジュール720は、
図75に示すモジュール710と異なり、サーキュレータ76のような保護素子を備えていない。これは、上述したように、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30は反射耐性が高いため、保護素子(例えば、サーキュレータやアイソレータ)を設けなくても、問題がないためである。よって、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を用いることで、保護素子(例えば、サーキュレータやアイソレータ)を不要にでき、小型化、低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0319】
[2.6 変形例6]
図77は、変形例6にかかる信号増幅部の半導体パッケージ340の構成例の概略断面図である。半導体パッケージ340は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを備える。入力整合回路41は、ボンディングワイヤW81によりトランジスタ30に接続される。出力整合回路42は、ボンディングワイヤW82によりトランジスタ30に接続される。半導体パッケージ340は、ダイパッド81と、入力端子82と、出力端子83と、封止部84とを備える。トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とは、ダイパッド81に配置される。入力端子82は、ボンディングワイヤW83により入力整合回路41に接続される。出力端子83は、ボンディングワイヤW84により出力整合回路42に接続される。封止部84は、絶縁性を有する樹脂材料で形成される。封止部84は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42と、ボンディングワイヤW81~W84を覆い、保護する。
【0320】
図77の半導体パッケージ340において、ダイパッド81、入力端子82及び出力端子83は、金属素材(例えば銅)の薄板により形成される。例えば、半導体パッケージ340は、リードフレームを用いて製造することができる。
図78は、
図77の半導体パッケージ340の製造方法の説明図である。
図78に示すように、リードフレーム80は、ダイパッド81、入力端子82及び出力端子83の複数の組が一体化されている。半導体パッケージ340を製造するにあたっては、リードフレーム80の各ダイパッド81に、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを配置する。ボンディングワイヤW81により入力整合回路41とトランジスタ30を接続し、ボンディングワイヤW82により出力整合回路42とトランジスタ30を接続する。ボンディングワイヤW83により入力整合回路41と入力端子82を接続し、ボンディングワイヤW84により出力整合回路42と出力端子83を接続する。樹脂材料によりトランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42と、ボンディングワイヤW81~W84を覆い、封止部84を形成する。最後に、リードフレーム80から半導体パッケージ340を個々に分離することで、
図78に示す半導体パッケージ340が得られる。
【0321】
[2.7 変形例7]
図79は、変形例7にかかる信号増幅部のトランジスタ350の構成例の概略断面図である。トランジスタ350は、いわゆる縦型構造である。トランジスタ350は、基板351と、ドリフト層352と、P層353と、P
+層354と、n
+層355と、ドレイン電極356と、ゲート絶縁膜357と、ゲート電極358と、ソース電極359とを備える。トランジスタ350は、例えば、ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウムを用いて形成される。基板315は、例えば、n
+-Ga
2O
3の基板である。ドリフト層352は、基板351の表面(
図79における上面)に形成される。ドリフト層352は、例えば、n型Ga
2O
3層である。ドリフト層352における基板351とは反対側には、一対のP層353が設けられる。P層353は、例えば、p型Ga
2O
3層である。各P層353には、P
+層354とn
+層355とが設けられる。P
+層354は、例えば、p
+型Ga
2O
3層である。n
+層355は、例えば、n
+型Ga
2O
3層である。ドレイン電極356は、対応するP層353のP
+層354とn
+層355とにまたがって形成される。ゲート電極358は、ドレイン電極356間にあって、ゲート電極358とドリフト層352及びP層353との間にはゲート絶縁膜357が配置される。ソース電極359は、基板351の裏面(
図79における下面)に形成される。
【0322】
図79のトランジスタ350は、縦型構造であり、基板351の裏面にソース電極359が配置されている。この場合、ソース電極359の裏面ビア(穴あけ)が不要となり、製造プロセスの簡素化及びデバイスの低コスト化が実現できる。また、基板351を厚くすることで、縦型構造であっても寄生容量の影響を低減することができる。そのため、縦型構造を有するトランジスタ350を高周波回路で使用することができる。また、トランジスタ350として縦型構造のMOSトランジスタを採用すれば、トランジスタ350を構成する半導体チップ全体に電流を流すことができることから高い電流密度が得られ、オン抵抗が小さくなり結果的に発熱ロスの小さい高効率な信号増幅部が実現できる。
【0323】
[2.8 変形例8]
図80は、変形例8にかかる信号増幅部を備えるモジュールの構成例の概略図である。
図80に示すモジュール730は、モジュール本体70と、冷却部材78とを備える。モジュール本体70は、
図75に示すモジュール710又は
図76に示すモジュール720の回路構成を備える。モジュール本体70は出力端子70aを備える。冷却部材78は、複数のフィン781を備える。フィン781は、例えば、熱伝導率が高いアルミニウム等の金属製のフィンである。冷却部材78は、空冷式である。
図80に示すモジュール730によれば、モジュール本体70の温度上昇を抑えることが可能である。
【0324】
図81は、変形例8にかかる信号増幅部を備えるモジュールの別の構成例の概略図である。
図81に示すモジュール740は、モジュール本体70と、冷却部材79とを備える。モジュール本体70は、
図75に示すモジュール710又は
図76に示すモジュール720の回路構成を備える。モジュール本体70は出力端子70aを備える。冷却部材79は、冷却液(例えば、水)が流れる複数の水路791を備える。冷却部材79は、水冷式である。
図81に示すモジュール740によれば、モジュール本体70の温度上昇を抑えることが可能である。
【0325】
信号増幅部のトランジスタ30は、上述したように、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成される。ワイドバンドギャップ半導体のようなバンドギャップの大きな半導体材料は絶縁破壊電界強度が大きいために、空乏層を薄くしても大きな耐圧を得ることができる。これによりドリフト層を薄く、また不純物の濃度を上げることが可能となり、オン抵抗(ドリフト抵抗)を大きく低減することができる。その結果、極めて高い効率でのトランジスタ30の駆動が可能となり、併せて発熱ロスが大幅に抑制できる。例えば、日本国内において一般的なコンセント容量である100V、15A以下での使用(つまり、1500W以下の使用)においては、モジュール本体70の温度上昇が小さく、例えば、冷却部材78,79が不要となり、低コスト化、省資源化及び小型化が図れる。特にワイドバンドギャップ半導体として利用可能な酸化ガリウムやダイヤモンドは、バンドギャップが大きく、一般的なシリコンに比べて約4~5倍程度のバンドギャップを有しているため、絶縁破壊電界強度が非常に高く、これに相まってオン抵抗が極めて小さくなり、1500W程度の小さな電力を扱うのであれば、トランジスタ30での発熱量は大きな問題にはならない。加えて複数のトランジスタ30でトランジスタアレイを構成すればさらに発熱が抑制される。さらに、バンドギャップが大きいと電子が遷移するためにより高い熱エネルギが必要になるので、高温動作が可能になる、つまり耐熱温度が高くなるので、冷却そのものが不要な構成も可能となる。
【0326】
このように、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成されるトランジスタ30によれば、高出力かつ連続駆動でも発熱が小さい信号増幅部を構成することができる。よって、発熱ロスが大幅に抑制できるので、例えば、アルミフィン等の冷却部材(例えば、冷却部材78,79等)が不要となり、低コスト化、省資源化及び小型化が図れる。なお、一般的によく用いられる2.4GHz帯の半導体増幅器の分野では、10Wを超えると高出力と呼ばれる。一般的な利用法、例えば携帯端末やWi-Fiネットワーク等においては、電力は高々数W程度までで、大掛かりな通信基地局になると電力が250W以上にもなるが、連続駆動ではなくパルス駆動のため発熱量が少ない。
【0327】
以上の点から、信号増幅部が1500W以下の定格入力で動作するように構成することが好ましい。これにより、放熱部材や冷却部材(例えば、冷却部材78,79)の省略が可能になる。
【0328】
[2.9 変形例9]
図82は、変形例9にかかる信号増幅部を備えるモジュールの構成例の回路図である。
図82のモジュール750は、発振器751と、入力整合回路752と、第1増幅器753と、中間整合回路754と、第2増幅器755と、出力整合回路756と、電力検出器757と、バイアス回路758,759とを備える。発振器751は、標準信号発生器等の電力信号発生部であり、入力整合回路752に接続される。モジュール750では、入力整合回路752と、第1増幅器753と、中間整合回路754と、第2増幅器755と、出力整合回路756と、バイアス回路758,759とが、信号増幅部を構成する。信号増幅部では、第1増幅器753と第2増幅器755とは、互いに直列接続されて多段増幅器を構成する。第1増幅器753はドライバ段の増幅器であり、第2増幅器755は最終段の増幅器である。中間整合回路754は、第1増幅器753と第2増幅器755との間のインピーダンスマッチングに用いられる。第1増幅器753及び第2増幅器755は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を用いて構成される。第2増幅器755は、出力整合回路756を介して電波照射部4に接続される。電力検出器757は、出力整合回路756と電波照射部4との間に接続される。
図82のモジュール750では、第1増幅器753と第2増幅器755とは、異なる基板に実装される。モジュール750では、第1増幅器753と第2増幅器755とは、互いに直列接続されて多段増幅器を構成しており、このような多段増幅器によれば、発振器751からの微小な電波信号を複数回に分けて増幅することができる。例えば、第1増幅器753は、0.1mWを10Wに増幅し、第2増幅器755は、10Wを250Wに増幅してよい。多段増幅器は、複数回に分けて増幅をするので、良好な広帯域特性が実現でき、また増幅器一つ当たりの増幅率が小さいので発熱量も抑制できる。
【0329】
図83は、変形例9にかかる信号増幅部を備えるモジュールの別の構成例の回路図である。
図83のモジュール760は、発振器761と、入力整合回路762と、第1増幅器763と、中間整合回路764と、第2増幅器765と、出力整合回路766と、電力検出器767と、バイアス回路768とを備える。発振器761は、標準信号発生器等の電力信号発生部であり、入力整合回路762に接続される。モジュール760では、入力整合回路762と、第1増幅器763と、中間整合回路764と、第2増幅器765と、出力整合回路766と、バイアス回路768とが、信号増幅部を構成する。信号増幅部では、第1増幅器763と第2増幅器765とは、互いに直列接続されて多段増幅器を構成する。第1増幅器763はドライバ段の増幅器であり、第2増幅器765は最終段の増幅器である。中間整合回路764は、第1増幅器763と第2増幅器765との間のインピーダンスマッチングに用いられる。第1増幅器763及び第2増幅器765は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を用いて構成される。第2増幅器765は、出力整合回路766を介して電波照射部4に接続される。電力検出器767は、出力整合回路766と電波照射部4との間に接続される。
図83のモジュール760では、第1増幅器763と第2増幅器765とは、同じ基板に実装される。そのため、バイアス回路の数も、
図82とは異なり1つで済む。
【0330】
このように、
図83のモジュール760では、多段増幅器を同一基板(同一チップ)にて構成している。より詳細には、同一基板上に複数のトランジスタ30を配置し、複数のトランジスタ30を直列に接続する。このような多段増幅器によれば、発振器761からの微小な電波信号を複数回に分けて増幅することができる。例えば、第1増幅器763は、0.1mWを10Wに増幅し、第2増幅器765は、10Wを250Wに増幅してよい。多段増幅器は、複数回に分けて増幅をするので、良好な広帯域特性が実現でき、また増幅器一つ当たりの増幅率が小さいので発熱量も抑制できる。また、トランジスタ30に関する高集積化により、モノリシックマイクロ波集積回路(Monolithic Microwave Integrated Circuit:MMIC)が実現でき、マイクロ波高周波回路の小型化、低コスト化及び省資源化に加え信頼性の向上が実現できる。なお、増幅器の段数に限定はなく、必要な出力に応じて増幅器の段数を決めればよい。また、各増幅器の上流側には入力整合回路を、また下流側には出力整合回路を同一基板上に構成することでさらなる高集積化ができる。また、第1増幅器763の出力整合回路は第2増幅器765の入力整合回路を兼ねる構成とすることができ、これにより構成の簡素化が図れる。また、複数段の増幅器においては、前段増幅用のトランジスタ(第1増幅器763のトランジスタ)と後段増幅用のトランジスタ(第2増幅器765のトランジスタ)と段間の整合回路(中間整合回路764)を同一パッケージ内に実装することができる。更に、プリント基板上の整合回路(入力整合回路762及び出力整合回路766)をトランジスタと同一基板に形成することで、1つの半導体デバイスに集約することができて、モジュール760の小型化が図れる。この場合、トランジスタが個別にパッケージングされる場合に比べて、パッケージが1つになり、部材と加工費が削減される。また、トランジスタの直近に整合回路(入力整合回路、出力整合回路、中間整合回路等)を配置するため、低損失(高利得かつ高効率)になる。
【0331】
トランジスタや整合回路等を同一の基板に集積するためには、基板の面積を大きくすることが必要になる場合がある。一般的に、パワー半導体デバイスは、一般の半導体デバイスに比べ、デバイスの製造コストに占める基板(ウェハ)の割合が大きい。例えばバンドギャップの大きい半導体材料として取り上げられる炭化ケイ素(SiC)の基板コストは、一般的なシリコン(Si)の10数倍、また窒化ガリウム(GaN)に至っては数百倍に達すると言われる。これは製造方法の違いによるもので、シリコンウェハは融液からバルク単結晶を成長させて生成するのに対し、炭化ケイ素と窒化ガリウムは融液を得ることがきわめて難しいため、サファイヤウェハを代替基板として使うなどしてコスト抑制しているが、量産性が低く大面積化が難しい。一方で、酸化ガリウムはシリコンやサファイヤと同様に融液からバルク単結晶を生成できるため、安く大面積化することが可能となる。
【0332】
[2.10 変形例10]
図84は、変形例10にかかる信号増幅部の実装構造の構成例の概略断面図である。
図84の信号増幅部の実装構造360は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを備える。入力整合回路41は、ボンディングワイヤW91によりトランジスタ30に接続される。出力整合回路42は、ボンディングワイヤW92によりトランジスタ30に接続される。実装構造360は、ダイパッド91と、ケース92と、プリント基板93と、封止部94とを備える。トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とは、ダイパッド91に配置される。ダイパッド91及びプリント基板93は、ケース92に配置される。ケース92は、例えば、信号増幅部を備えるモジュールのケースである。ケース92は、例えば、金属材料(例えば、金属材料でも熱伝導率が比較的高いアルミニウム)により形成される。プリント基板93は、入力端子と出力端子とを備える。プリント基板93の入力端子は、ボンディングワイヤW93により入力整合回路41に接続される。プリント基板93の出力端子は、ボンディングワイヤW94により出力整合回路42に接続される。封止部94は、絶縁性を有する樹脂材料で形成される。封止部94は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42と、ボンディングワイヤW91~W94を覆い、保護する。
【0333】
図84の信号増幅部の実装構造360によれば、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを収容するためのパッケージが不要である。つまり、
図84の信号増幅部の実装構造360は、パッケージレスの実装構造である。これによって、信号増幅部の実装構造の構成を簡素化でき、低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0334】
図85は、変形例10にかかる信号増幅部の実装構造の別の構成例の概略断面図である。
図85の信号増幅部の実装構造370は、トランジスタと、入力整合回路と、出力整合回路とが同一基板に形成された半導体チップ95を備える。入力整合回路は、ボンディングワイヤW91によりトランジスタに接続される。出力整合回路は、ボンディングワイヤW92によりトランジスタに接続される。実装構造370は、ケース92と、プリント基板93と、封止部94とを備える。半導体チップ95は、プリント基板93に実装され、半導体チップ95の入力整合回路はプリント基板93の入力端子にボンディングワイヤW93により接続される。半導体チップ95の出力整合回路はプリント基板93の出力端子にボンディングワイヤW94により接続される。プリント基板93は、ケース92に配置される。封止部94は、半導体チップ95と、ボンディングワイヤW91~W94を覆い、保護する。
【0335】
図85の信号増幅部の実装構造370によれば、半導体チップ95がプリント基板93に直接実装されて、ワイヤボンディング等により接続されている。そのため、半導体チップ95を収容するためのパッケージが不要である。つまり、
図85の信号増幅部の実装構造370は、パッケージレスの実装構造である。これによって、信号増幅部の実装構造の構成を簡素化でき、低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0336】
図86は、変形例10にかかる信号増幅部の実装構造の別の構成例の概略断面図である。
図86の実装構造380は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを備える。入力整合回路41は、ボンディングワイヤW91によりトランジスタ30に接続される。出力整合回路42は、ボンディングワイヤW92によりトランジスタ30に接続される。実装構造380は、ダイパッド91と、ケース92と、プリント基板93と、電波照射部4と、導波管96とを備える。トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とは、ダイパッド91に配置される。ダイパッド91及びプリント基板93は、ケース92に配置される。プリント基板93は、入力端子を備える。プリント基板93の入力端子は、ボンディングワイヤW93により入力整合回路41に接続される。電波照射部4は、アンテナである。電波照射部4は、導波管96内に電波を照射するように配置されている。実装構造380では、電波照射部4が出力端子として利用される。出力端子としての電波照射部4は、ボンディングワイヤW95により出力整合回路42に接続される。封止部94は、絶縁性を有する樹脂材料で形成される。封止部94は、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42と、ボンディングワイヤW91~W94を覆い、保護する。
【0337】
図86の信号増幅部の実装構造370によれば、トランジスタ30と、入力整合回路41と、出力整合回路42とを収容するためのパッケージが不要である。つまり、
図86の信号増幅部の実装構造370は、パッケージレスの実装構造である。これによって、信号増幅部の実装構造の構成を簡素化でき、低コスト化及び省資源化が実現できる。また、
図86の信号増幅部の実装構造370では、電波照射部4(アンテナ)自体を出力端子に用いて、電波を導波管96に出力する。つまり、モジュールの出力端子をアンテナ構造とするとともに導波管96を接続することで、モジュールから出力された電波が確実に導波管96を通って加熱室100庫内に照射される。高出力の電波(マイクロ波)の場合、プリント基板上の配線パターンでは耐電力性に課題が生じるが、この課題を克服することができ、さらには小型化、低コスト化及び省資源化が実現できる。
【0338】
[2.11 その他の変形例]
一変形例において、信号増幅部3は、トランジスタ30を用いた一つのモジュールで500W以上の電力を出力するように構成されてよい。トランジスタ30はワイドバンドギャップ半導体を用いて形成されているから、電力密度の向上が図れる。例えば、信号増幅部3で必要な出力を一つのモジュールで賄うことができる。これによって、信号増幅部3の回路構成を簡素化でき、小型化、低コスト化及び省資源化が図れる。例えば、2.4GHz帯で連続波として出力する半導体デバイスは一つ当たり300W程度が出力の限界となっている。例えば、家庭用の電子レンジであれば、800~1000W程度の出力があれば十分であり、酸化ガリウムのようなワイドバンドギャップ半導体を用いた半導体デバイスであれば、この出力を一つで賄うことができる。
【0339】
一変形例において、
図3のトランジスタ30では、n型Ga
2O
3層であるチャネル層32に絶縁層36(スペーサ層)を介してゲート電極35をショットキー接合してもよい。これによって、ゲート電極35からチャネル層32へ電流が流れ込むことが抑止されるとともに半導体表面の準位を埋めてチャネル層の電流をスムーズに流すことができる。また、絶縁層36を酸化ガリウムとバンドギャップの異なる材料で構成すれば、ここに所謂ヘテロ接合が成立し、絶縁層36に電子供給層としての作用が加わる。つまり、接合面に電子が集まることで2DEG(二次元電子ガス)が発生、高移動度の層が形成されるので、トランジスタ性能の大幅な向上が実現できる。以上により、ゲートリークの低減及びキャリア濃度の増加が図れるので、電流密度の増加とともにデバイスとして高効率化、高電力化及び高性能化が実現できる。この構成は、
図79に示すトランジスタ350にも適用可能である。
【0340】
実施の形態1において、信号増幅部3は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ30を備え、トランジスタ30の形成に用いられるワイドバンドギャップ半導体は、酸化ガリウムである。トランジスタ30では、例えば、チャネル層32が酸化ガリウム(n型酸化ガリウム)を用いて形成される。チャネル層32に用いる酸化ガリウム膜には、酸化アニール処理を施してよい。酸化アニール処理では、例えば、酸化ガリウム膜を、ガス(酸素ガス)雰囲気化において、1100℃で6時間加熱してよい。酸化アニール処理を施すことにより、酸化ガリウム膜の膜質が変化し(膜質が強化され)、結晶性が変化し(結晶性が回復し)、酸素欠損が埋まり(酸素欠損が減少し)、キャリア密度が変化する。このような変化は、酸化アニール膜の物性値に影響を及ぼすから、酸化アニール処理によって物性値を可変することが可能となるため、酸化ガリウムのワイドバンドギャップ半導体としての性能を向上できる。物性値は、例えば、熱伝導性、絶縁性、電子伝導性等であり、熱伝導率を向上させることで放熱性がよくなったり、抵抗値を変化させることで表面に絶縁層を形成したりすることも可能となる。なお、酸化アニール処理は、トランジスタ30のチャネル層32だけでなく、電子供給層である絶縁層36の表面や、層間絶縁膜である絶縁層37の表面処理にも用いることが可能で、これら絶縁層36,37の絶縁耐圧を制御することで半導体素子としての性能向上が実現できる。そのため、トランジスタ30全体に対して酸化アニール処理を実施してよい。このほか、酸化アニール処理は、α相酸化ガリウム(α-Ga2O3)膜からサファイヤ基板を取り除いた後のチップ側の表面処理として用いることができる。これによって、α層酸化ガリウム膜の表面の酸素欠損を埋めることができるので、結晶性がよくなり絶縁性の向上が実現できる。酸化アニール処理は、トランジスタ350についても実施することができる。
【0341】
酸化ガリウムには異なる結晶構造(結晶相)がある。下記に示す表2は、酸化ガリウムの結晶構造の例を示す。
【0342】
【0343】
酸化ガリウムは、結晶構造の違いにより、安定度や物性が異なる。したがって、酸化ガリウムの結晶構造の使い分けによって必要な物性値が得られる。酸化ガリウムの結晶構造の組合せによって物性値の補完ができ、半導体としての性能向上が実現できる。例えば、α相の酸化ガリウムは他の結晶構造の酸化ガリウムと比較して、より大きなバンドギャップを有するため、耐圧にすぐれた半導体デバイスを構成できる。この他、ε相の酸化ガリウムは他の結晶構造の酸化ガリウムと比較して誘電率が高い。他にも熱伝導性、電子伝導性等の物性値も結晶構造ごとに特徴を有するので、結晶構造の異なる酸化ガリウムの組み合わせによって様々な物性値の補完が可能である。このように所望の物性値を得るために、結晶構造の異なる酸化ガリウムを組み合わせて用いてよい。つまり、結晶構造を異なる酸化ガリウムを組み合わせて用いることによって電子物性の制御が可能となる。特に、酸化ガリウムをワイドバンドギャップ半導体として用いる場合には、他の結晶構造の酸化ガリウムと比較してより大きなバンドギャップを有するα相の酸化ガリウムを用いるとよい。なお、結晶構造の異なる酸化ガリウムを組み合わせる際には、格子定数の近い結晶構造の酸化ガリウム同士を近接させることで、歪が防止できる。また、結晶構造の異なる酸化ガリウムを積層する場合には、ナノシート化し、レイヤーバイレイヤーの構造にすることで、結晶構造を精度よく設計できる。
【0344】
酸化ガリウムは、融液から単結晶ウェハを生成できる半導体材料であるから、酸化ガリウムの成長法として、ミスト気相成長法を採用してよい。ミスト気相成長法によれば、比較的容易に大口径ウェハが低コストで生産できる。また、このミスト気相成長法は、α相の酸化ガリウムの成長に用いることができる。ミスト気相成長法でのガリウム原料としては,ガリウムアセチルアセトナト等が利用できる。
【0345】
一変形例において、トランジスタ30は、基板31を備えていなくてもよい。これによって、チャネル層32を、基板31ではなく、基板31よりも熱伝導性の高い別の基板や部材に密着させることができて、トランジスタ30の放熱を促進させることができる。例えば、基板31を有していないトランジスタ30を製造するにあたっては、基板31上に酸化ガリウムを成長させてチャネル層32を形成した後に、基板31を除去すればよい。例えば、上述したミスト気相成長法によってサファイヤ基板上にα相の酸化ガリウムを成長させ、その後サファイヤ基板を除去すればよい。このように基板31を除去すればチャネル層32を直接的に基板31よりも熱伝導性の高い部材や別の基板を熱的に接触させることができるから、熱伝導性の改善が期待でき、高い放熱性が実現できる。
【0346】
一変形例において、トランジスタ30では、ソース電極33とチャネル層32との界面及びドレイン電極34とチャネル層32との界面にオーミックコンタクトを形成してよい。このようなオーミックコンタクトは、チャネル層32を形成する酸化ガリウム膜にドナー不純物(Sn,Si等)をドーピングすることによって酸化ガリウム膜のキャリア濃度を制御して部分的にn+型Ga2O3層を形成することによって、設けることができる。オーミックコンタクトの形成によって、ソース電極33とチャネル層32との間のコンタクト抵抗及びドレイン電極34とチャネル層32との間のコンタクト抵抗を小さくできる。
【0347】
一変形例において、トランジスタ30では、高移動度なチャネル層を形成してよい。高移動度なチャネル層としては、二次元電子ガス層が挙げられる。例えば、半導体同士や半導体と絶縁体の接合等で伝導帯に障壁を作り、電圧やドーピングの調整により、フェルミ準位が伝導帯より上にある状態にする。これによって、絶縁層36とチャネル層32との界面に二次元電子ガス層が発生し、電子は水平方向へは移動できるが、垂直方向へは移動しづらいという状態が生まれる。これによって、電子の移動度が向上し、半導体としての性能が向上する。なお、伝導帯に障壁を作る方法の一つとして、酸化ガリウムナノシートを形成してもよい。これにより、同様に二次元電子ガス層が形成され、電子の移動度が向上する。
【0348】
一変形例において、トランジスタ30のパッケージは、熱伝導率の高い材料で構成してよい。これにより、半導体チップであるトランジスタ30で発生した熱が効率的に外部に伝達される。その結果、半導体パッケージ320の半導体デバイスとしての性能及び品質の向上が図れる。パッケージの材料としては、AlNウィスカー等の高熱伝導材料が挙げられる。一方で、酸化ガリウムを用いて形成されたトランジスタ30は高い温度でも正常動作が可能であるから、パッケージを、熱伝導率が低く、耐熱温度の高い材料で構成してもよく、固設方法によっては冷却構造(例えば、冷却部材78,79)を省略することもできる。この点は、トランジスタ350においても同様である。
【0349】
一変形例において、ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウムを用いるにあたっては、酸化ガリウムのバンドギャップを拡大する制御をしてもよい。例えば、基板の格子定数と水酸化ガリウム組成を制御し、ガリウムの堆積時の格子歪みを小さく制御することで、酸化ガリウムのバンドギャップが拡大でき、半導体デバイスとしての性能を向上させることができる。
【0350】
結晶相が異なると、同一元素から成る材料であってもその特性が異なることは周知である。酸化ガリウムの場合、例えば結晶相が異なると誘電率に差異が生じる。そこで、例えば、低誘電率の結晶構造の酸化ガリウムを用いてトランジスタ30,350を構成すれば、トランジスタの寄生容量を減らすことができ、結果として特に高周波領域における高性能化が実現できる。一方で高誘電率の結晶構造の酸化ガリウムを用いて入力整合回路41又は出力整合回路42に用いるIPDを構成すれば、内蔵する部品のインダクタンスや静電容量が大きくなり、結果としてその小型化や高性能化が期待できる。誘電率の異なる結晶相としては、酸化ガリウムに特有の6つの結晶相である、α相、β相、γ相、δ相、ε相、及び2次元結晶性を有するナノシート構造がある。酸化ガリウムの場合、ミスト気相成長法及びナノシート塗布等のウェットプロセスにより異なる結晶相の酸化ガリウムを接合することができるので、例えば誘電率の異なる酸化ガリウム層を接合し、それぞれの誘電率に適した機能性を付与すれば、同一基板上に配線レスの高集積な回路を構成することが可能となり、結果として半導体デバイスの高性能化、小型化及び省資源化などが実現できる。
【0351】
上述したように、バンドギャップの大きい、例えば酸化ガリウムのような材料(ワイドバンドギャップ半導体)を用いることで高い耐圧が確保でき、半導体チップ間距離を短くすることによる半導体デバイスの小型化、低コスト化及び省資源化等の効果が得られる。更に、半導体チップの加工精度を向上させることで、半導体デバイスとしての性能向上及び更なる小型化が実現可能である。この点について
図87~
図89を参照して説明する。
図87は、半導体チップの電界強度分布の説明図である。
図87の半導体チップは、トレンチ構造のMOSFETである。例えば、
図87に示すように、半導体チップの加工精度を向上させることで、エッチング等によって構成される溝200の底部をエッジ形状にすることができる。つまり、溝200の底部の角をR形状よりもエッジ形状に近付けることができる。これによって、同87の電界強度分布に示すように、溝200の底部での電界の広がりが抑制でき、結果として半導体デバイスとしての性能向上及びさらなる小型化が実現できる。半導体チップにおける溝200の加工方法としては、ウェットエッチングとドライエッチングとが挙げられる。
図88は、ウェットエッチングとドライエッチングとの違いの説明図である。ウェットエッチングは、目的とする材料を溶解する性質を持つ液体(例えば、フッ化水素)を使用して材料をエッチングする方法である。ウェットエッチングの場合、目的とする材料の一部を溶解させることで溝を形成する。ウェットエッチングは、エッチングが等方的に進む等方性エッチングである。そのため溝の底部をエッジ形状にすることが難しい。ドライエッチングは、塩素(Cl
2)、三塩化ホウ素(BCl
3)、四フッ化硫黄(SF
4)、六フッ化硫黄(SF
6)等の反応性の気体(エッチングガス)やイオン、ラジカルによって材料をエッチングする方法である。ドライエッチングは、一方向にエッチングが進む異方性エッチングである。そのため、ドライエッチングであれば、いわゆる切削のような溝加工が可能であり、そのため溝の底部をエッジ形状にすることができる。
図89は、等方性エッチングと異方性エッチングとの違いの説明図である。
図89に示すように、ウェットエッチングのような等方性エッチングでは、溝200の底部がエッジ形状というよりはR形状になってしまうが、ドライエッチングのような異方性エッチングでは、溝200の底部をエッジ形状にすることができる。したがって、半導体チップにおける溝200の加工方法として、ドライエッチングを採用することによって、溝200の底部をエッジ形状とすることが可能となる。これによって、溝200の底部での電界の広がりが抑制でき、結果として半導体デバイスとしての性能向上及びさらなる小型化が実現できる。上述したように、ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウムを用いることによって、半導体チップの耐圧を向上できるから、半導体チップ間の距離を短くすることができる。ここで、半導体チップ間の距離が短くなると半導体チップで生じする電界同士が重なる可能性がある。しかしながら、上述したように半導体チップの加工精度を向上させることで、半導体チップを、半導体チップで生じる電界の広がりを抑制した形状とすることができる。これによって、半導体チップ間の距離を短くしても、隣接する半導体チップ同士で電界が重なる可能性を低減できる。
【0352】
[3.態様]
上記実施の形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施の形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0353】
第1の態様は、加熱装置(1;1A~1O)であって、被加熱物(110)の誘電加熱用の電波信号を発生させる電波信号発生部(2)と、前記電波信号発生部(2)からの前記電波信号を増幅する信号増幅部(3)と、前記信号増幅部(3)で増幅された前記電波信号に基づいて電波を照射する電波照射部(4)とを備える。前記信号増幅部(3)は、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ(30;350)を有する。この態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0354】
第2の態様は、第1の態様に基づく加熱装置(1;1A~1O)である。第2の態様において、前記加熱装置(1;1A~1O)は、電波を遮蔽する材料で構成され、前記被加熱物(110)を収容する加熱室(100)を備える。前記電波照射部(4)は、前記加熱室(100)内に電波を照射する。この態様によれば、加熱効率の向上が図れる。
【0355】
第3の態様は、第1又は第2の態様に基づく加熱装置(1A;1D;1F;1H;1K;1N)である。第3の態様において、前記加熱装置(1A;1D;1F;1H;1K;1N)は、前記電波照射部(4)により照射される電波の周波数を制御する周波数制御部(5)を備える。この態様によれば、被加熱物(110)に応じて周波数を変更できて、被加熱物(110)の加熱を効率的に行える。
【0356】
第4の態様は、第3の態様に基づく加熱装置(1D)である。第4の態様において、前記加熱装置(1D)は、複数の前記電波照射部(4)を備える。前記周波数制御部(5)は、前記複数の電波照射部(4)のうちの少なくとも2つにより照射される電波の周波数を互いに異ならせる。この態様によれば、被加熱物(110)に応じて周波数を変更できて、被加熱物(110)の加熱を効率的に行える。
【0357】
第5の態様は、第1又は第2の態様に基づく加熱装置(1B;1C;1D;1G;1H)である。第5の態様において、前記加熱装置(1B;1C;1D;1G;1H)は、複数の前記電波照射部(4)と、前記複数の電波照射部(4)により照射される複数の電波の位相差を制御する位相差制御部(6)とを備える。この態様によれば、加熱室(100)内の電波分布を変更することができ、被加熱物(110)の均一な加熱を実現できる。
【0358】
第6の態様は、第5の態様に基づく加熱装置(1C)である。第6の態様において、前記複数の電波照射部(4)は、互いに対向して互いに向けて電波を照射する少なくとも一組の電波照射部(4)を含む。この態様によれば、複数の電波照射部(4)からの電波の位相差を制御し、加熱室(100)内の電波分布を制御することで被加熱物(110)の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0359】
第7の態様は、第1の態様に基づく加熱装置(1D;1H)である。第7の態様において、前記加熱装置(1D;1H)は、複数の前記電波照射部(4)と、前記複数の電波照射部(4)により照射される複数の電波の周波数及び前記複数の電波照射部(4)により照射される複数の電波の位相差を制御する処理を行う処理部(7)とを備える。この態様によれば、被加熱物(110)の加熱を効率的に行え、かつ、被加熱物(110)の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0360】
第8の態様は、第1の態様に基づく加熱装置(1L)である。第8の態様において、前記加熱装置(1L)は、複数の前記電波照射部(4)と、前記複数の電波照射部(4)により照射される複数の電波の出力を制御する出力制御部(8)とを備える。この態様によれば、被加熱物(110)の加熱を効率的に行え、かつ、被加熱物(110)の均一加熱及び選択加熱が可能となる。
【0361】
第9の態様は、第1の態様に基づく加熱装置(1E)である。第9の態様において、前記加熱装置(1E)は、前記電波照射部(4)により照射される電波の出力を制御する出力制御部(8)を備える。前記出力制御部(8)は、前記電波照射部(4)により照射される電波の出力を第1出力と第2出力との間で切り替える。前記第1出力は、前記第2出力の100分の1以下である。この態様によれば、第2電力により大電力の加熱が可能となり、第2電力による加熱では過加熱となるような被加熱物(110)110に対して第1電力により低温加熱が可能となる。
【0362】
第10の態様は、第1の態様に基づく加熱装置(1F~1J;1M~1O)である。第10の態様において、前記加熱装置(1F~1J;1M~1O)は、前記電波照射部(4)により照射される電波により供給される電力のうち加熱に利用された有効電力と加熱に利用されなかった無効電力との少なくとも一方を検知する電力検知部(9)を備える。この態様によれば、被加熱物(110)110の加熱に対して効率的な電波の照射が可能となる。
【0363】
第11の態様は、第10の態様に基づく加熱装置(1F~1J;1M~1O)である。第11の態様において、前記電力検知部(9)は、前記電波照射部(4)により照射される電波のうち前記被加熱物(110)に吸収されることなく反射された反射波の電力を検知する。この態様によれば、被加熱物(110)110の加熱に対して効率的な電波の照射が可能となる。
【0364】
第12の態様は、第11の態様に基づく加熱装置(1F)である。第12の態様において、前記加熱装置(1F)は、前記電波照射部(4)により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部(5)と、前記所定の周波数範囲に関して前記電力検知部により反射波の電力を検知し、前記反射波の電力に基づいて前記被加熱物(110)の誘電加熱に使用する電波の周波数を前記周波数制御部(5)により選択する処理を行う処理部(7)とを備える。この態様によれば、被加熱物(110)の加熱に対し効率的な周波数での電波の照射が可能となる。
【0365】
第13の態様は、第11の態様に基づく加熱装置(1F)である。第13の態様において、前記加熱装置(1F)は、前記電力検知部により反射波の電力の経時的に検知し、前記反射波の電力の経時変化に基づいて前記被加熱物(110)の状態の判定をし、前記判定の結果に基づいて前記電波照射部(4)により照射される電波を制御する処理を行う処理部(7)を備える。この態様によれば、加熱による被加熱物(110)の状態の変化に応じた制御が可能となる。
【0366】
第14の態様は、第11の態様に基づく加熱装置(1F)である。第14の態様において、前記加熱装置(1F)は、前記電波照射部(4)により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部(5)と、前記所定の周波数範囲に関して、前記電波照射部(4)により照射される電波の入射電力に対する前記電力検知部で検知された反射波の電力の比である反射率を算出し、前記反射率に基づいて前記被加熱物(110)の誘電加熱に使用する電波の周波数を選択する処理を行う処理部(7)とを備える。この態様によれば、入射電力が変化する場合でも、被加熱物(110)の加熱に対し効率的な周波数での電波の照射が可能となる。
【0367】
第15の態様は、第11の態様に基づく加熱装置(1F)である。第15の態様において、前記加熱装置(1F)は、前記電波照射部(4)により照射される電波の周波数を所定の周波数範囲内で制御する周波数制御部(5)と、前記被加熱物(110)の誘電加熱の間、前記所定の周波数範囲に関して前記電力検知部(9)により反射波の電力を検知し、前記反射波の電力に基づいて前記電波照射部(4)により照射される電波の周波数を前記周波数制御部(5)により調整する処理を行う処理部(7)とを備える。この態様によれば、加熱による被加熱物(110)の状態の変化が生じた場合でも、被加熱物(110)の加熱に対し効率的な周波数での電波の照射が可能となる。
【0368】
第16の態様は、第1~第15の態様のいずれか一つに基づく加熱装置(1;1A~1O)である。第16の態様において、前記信号増幅部(3)は、前記トランジスタ(30;350)のゲート電極(35;358)に接続される入力整合回路(41)と、前記トランジスタ(30;350)のドレイン電極(34;356)に接続される出力整合回路(42)とを有する。前記トランジスタ(30;350)と前記入力整合回路(41)と前記出力整合回路(42)とは同一基板に形成される。この態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0369】
第17の態様は、第1~第16の態様のいずれか一つに基づく加熱装置(1;1A~1O)である。第17の態様において、前記信号増幅部(3)は、複数の前記トランジスタ(30;350)を有し、前記複数のトランジスタ(30;350)の少なくとも2つは、互いに並列又は直列に接続される。この態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0370】
第18の態様は、第1~第17の態様のいずれか一つに基づく加熱装置(1;1A~1O)である。第18の態様において、前記ワイドバンドギャップ半導体のバンドギャップは、4.0[eV]以上である。この態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0371】
第19の態様は、第1~第18の態様のいずれか一つに基づく加熱装置(1;1A~1O)である。第19の態様において、前記ワイドバンドギャップ半導体は、酸化ガリウムである。この態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0372】
第20の態様は、半導体発振器(3)であって、ワイドバンドギャップ半導体により形成されるトランジスタ(30;350)と、前記トランジスタ(30;350)のゲート電極(35;358)に接続される入力整合回路(41)と、前記トランジスタ(30;350)のドレイン電極(34;356)に接続される出力整合回路(42)とを有する。この態様によれば、耐圧の向上及び小型化が可能である。
【0373】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面及び詳細な説明を提供した。従って、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略等を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0374】
本開示は、加熱装置及び半導体発振器に適用可能である。具体的には、電波により被加熱物の加熱を行う加熱装置、及び、当該加熱装置に用いられる半導体発振器に、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0375】
1,1A~1O 加熱装置
2 電波信号発生部
3 信号増幅部(半導体発振器)
30,350 トランジスタ
34,356 ドレイン電極
35,358 ゲート電極
41 入力整合回路
42 出力整合回路
4,4a,4b 電波照射部
5 周波数制御部
6 位相差制御部
7 処理部
8 出力制御部
9 電力検知部
100 加熱室
110 被加熱物