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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131684
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】塗料および塗布方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220831BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220831BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220831BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030751
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】514007966
【氏名又は名称】合資会社GS工事
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】成田 明
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038HA166
4J038JC39
4J038KA06
4J038KA21
4J038MA10
4J038NA13
4J038PA01
4J038PB05
4J038PB09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】建築物やエアコン室外機等に適用できる塗料および塗布方法を提供する。
【解決手段】弾力性を有する第1の中空ビーズ2と、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズ3と、を塗膜形成材中に含む塗料であり、第1の中空ビーズ2は塗膜形成材1と同じ素材である塗料Pとする。これにより均質な所望の厚みの塗膜と柔軟な内部構造を形成し、耐久性に富んだ塗料として資する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾力性を有する第1の中空ビーズと、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズと、を塗膜形成材中に含む塗料であり、前記第1の中空ビーズは前記塗膜形成材と同じ素材である塗料。
【請求項2】
前記第1、第2の中空ビーズのいずれか又は両方が、粒径差30μm以上の所定のサイズの粒径から構成されたものであり、最大粒径の中空ビーズの含有量(体積ベース)が最も大きいものである請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
最大粒径の中空ビーズの粒径が50~100μmの範囲内である請求項2に記載の塗料。
【請求項4】
前記最大粒径以外の粒径の中空ビーズの含有量(体積ベース)のピークが50μm以上にある請求項3に記載の塗料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の塗料を対象設備の表面に300μm以上の厚さとなるように塗布する塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物や空調(エアコン)室外機等の塗料および塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題を鑑み様々な分野で省エネルギー化の取り組みがなされている。例えば、建築物のエネルギー消費の一定量を占めるエアコンに関しては、圧縮機の性能向上、センサーやインバーター制御による機器稼働の効率化等の技術面、設定温度の見直し等の運用面の両面からの取り組みが一般的になってきた。また、建築物そのものに関しても屋根や壁の断熱化等、省エネルギー化の取り組みがなされている。
【0003】
このような中、塗料を用いて断熱に取り組む技術として、基材と、該基材の表面を被覆した断熱塗膜と、該断熱塗膜を被覆した透明なクリヤー塗膜とを有する建築板であって、上記断熱塗膜は、塗膜形成材と有機系中空粒子と水溶性溶剤とを含有していることを特徴とする建築板(特許文献1)が挙げられる。
【0004】
しかしながら、有機系中空粒子のみからなる断熱塗膜は柔軟性を高く設定できるものの、塗布時に所定以上の膜厚を保つのが難しいという問題がある。加工場において建築板のような部材の上面から塗膜層を形成するような場合には所望の厚さにすることができるが、既存設備のように側面や下面から直接塗膜を形成しなければならない場面では数百μmレベルの膜厚を均質に形成するのは困難である。このように、塗膜の柔軟性と膜厚が両立しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-88000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は建築物やエアコン室外機等に適用できる塗料および塗布方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、弾力性を有する第1の中空ビーズと、前記第1の中空ビーズの素材より硬質な素材である第2の中空ビーズと、を塗膜形成材中に含む塗料であり、前記第1の中空ビーズは前記塗膜形成材と同じ素材である塗料である。また、第2の発明は、前記第1、第2の中空ビーズのいずれか又は両方が、粒径差30μm以上の所定のサイズの粒径から構成されたものであり、最大粒径の中空ビーズの含有量(体積ベース)が最も大きいものである第1の発明の塗料である。ここで、粒径差30μm以上の所定のサイズの粒径から構成されたもの、とは、例えば、最大粒径80μmから最小粒径50μmまでの中空ビーズの構成が挙げられる。ただし、最大粒径、最小粒径が限定されるものではない。また、第3の発明は、最大粒径の中空ビーズの粒径が50~100μmの範囲内である第2の発明の塗料である。また、第4の発明は、前記最大粒径以外の粒径の中空ビーズの含有量(体積ベース)のピークが50μm以上にある第3の発明の塗料である。また、第5の発明は、第1~4の発明のいずれかの塗料を対象設備の表面に300μm以上の厚さとなるように塗布する塗布方法である。なお、中空ビーズの所定のサイズは、塗布された際、形成された塗膜により中空ビーズが十分保持されるサイズ以下であり、断熱特性等を発揮できる空気等の気体を中に保持できるサイズ以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、塗膜形成材と同じ素材の弾力性のある中空ビーズとこれよりも硬質な中空ビーズを備えるため、塗膜形成材と弾力性のある中空ビーズとの相性がよく、柔軟性を維持し、かつ、硬質な中空ビーズによって、より厚みがある断熱用の塗膜を形成することが可能になる。すなわち、既存設備の鉛直面や斜面に対して断熱に要する膜厚を形成することができ、これにより高い断熱効果を得ることが期待できる。また、粒径の異なる中空ビーズによって構成され、かつ、最大粒径の含有量が最も大きいため、ビーズをより密にすることができ、かつ、ビーズの密な層を形成、維持すること可能になる。すなわち、塗料内に断熱に有用な空間が増え、断熱効果をより高める効果が期待できる。また、中空ビーズの最大粒径を50~100μmの範囲内にすること、その最大粒径の中空ビーズの隙間に収まる粒径の中空ビーズを用いることで上記効果を安定的に得ることが期待できる。また、粒径が2番目及び3番目に大きい中空ビーズの粒径を50μm以上とすることで成形性が向上することが期待できる。また、300μm以上の塗膜を形成することで様々な設備において断熱効果を維持することが期待できる。なお、本発明において断熱とは、日光や熱源からの輻射熱を低減又は遮断することを意味するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明にかかる実施形態の塗料の構成の一例を示す模式図である。
図2】塗料中の中空ビーズ層の拡大図である。
図3】対象設備、塗膜、輻射熱の関係を表す概念図である。
図4】対象設備の外観図である。
図5】対象設備の外観図(左)とその表面温度を表す図(右)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
<塗料>
図1に示すように、本実施形態に係る塗料Pは、水性系・溶剤系等の塗膜形成材1と、弾力性を有する軟質素材の中空ビーズ2(第1の中空ビーズの一例)と、硬質素材の中空ビーズ3(第2の中空ビーズの一例)と、を有する。なお、図1は、中空ビーズの種類が複数あり、各種類の中空ビーズの粒径に幅があることを示すためイメージ図である。
【0012】
塗膜形成材1として、例えば、アクリルエマルジョン樹脂が挙げられる。塗膜形成材1は、アクリル系以外にウレタン系、シリコン系、フッ素系成分を主成分とする樹脂を塗膜形成材でよい。
【0013】
弾力性を有する第1の中空ビーズの一例である軟質の中空ビーズ2の材質として、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック、ゴム等のエラストマが挙げられる。軟質の中空ビーズ2は、塗膜形成材3と同じ素材が好ましく、例えば、塗膜成形材3がアクリルエマルジョン樹脂の場合、アクリル中空ビーズである。
【0014】
硬質の中空ビーズ3は、例えば、セラミック中空ビーズ、ガラス中空ビーズである。セラミック中空ビーズとして、二酸化ケイ素65~73%、酸化アルミニウム12~18%を主成分とする火山灰を原料とするものが挙げられる。
【0015】
軟質の中空ビーズ2と硬質の中空ビーズ3との割合は、重量ベースまたは体積ベースで1対1が好ましい。軟質の中空ビーズ2と硬質の中空ビーズ3との割合は、重量ベースで1対1付近ならばよい。軟質の中空ビーズ2の割合が高くなると、塗料が乾燥した際、塗装膜の柔軟性が高いが、1回の塗布による塗装膜の厚みが十分取れない。塗布の回数を増加させる必要がある。一方、硬質の中空ビーズ3の割合が高くなると、塗料が乾燥した際、1回の塗布による塗装膜の厚みが厚くなるが、塗装膜の柔軟性が損なわれる。経年経過を考慮すると、軟質の中空ビーズ2の割合は、体積ベースまたは重量ベースで、50%以上が好ましい。
【0016】
このように性質の異なる素材を複数用いるのは、それぞれの素材が有するビーズ特性(形状や成分から得られる防音効果、成形効果、断熱効果、耐久性能等)を活かすためである。なお、下記の実施例では、例えば、中空ビーズにはアクリル中空ビーズ及びセラミック中空ビーズを重量ベースで1対1の割合で用いた。
【0017】
ここで、中空ビーズとはビーズ内部に空隙、空間を有する粒子のことであり、ビーズ内外で空気が遮断された閉系、多孔構造やドーナツ構造等、ビーズ内外が通じた開放系のいずれであってもよい。
【0018】
軟質の中空ビーズ2および硬質の中空ビーズ3等の中空ビーズの粒径は、最大粒径を基準として、粒径差として所定の幅(例えば、粒径80μmから50μmの幅)を有することが好ましい。粒径の分布に所定の幅があることで、塗料Pから水等の溶媒が揮発して塗料膜が形成された際、最大粒径の中空ビーズ同士の間に、小さい粒径の中空ビーズが入り込むことにより、中空ビーズが、より稠密になる。なお、中空ビーズの最大粒径は、中空ビーズのフィルタリングに使用されるフィルタの目の粗さ、メッシュサイズ等により規定されてもよい。
【0019】
中空ビーズはいずれの成分においても3つ粒径のラインナップ(粒径ラインナップ)からなる。ここで、粒径ラインナップとは中空ビーズの粒径が意図する複数の粒径構成になっていることを意味するものである。本実施例では、各素材の中空ビーズは、粒径80μm、60μm、50μmに中空率(粒径ごとの中空部分の体積の総和が塗膜中に占める割合)のピークを有し、重量比は5対3対2である(製造過程で生じた微細なビーズも含まれる)。
【0020】
本実施例では、80μmの中空ビーズが体積、重量ともに最大である。また、各粒径の中空ビーズの膜厚は約1μmから数μmであり、一般的にビーズ内の中空部分の体積はビーズの80%以上である。
【0021】
中空ビーズの粒径分布の確認方法は様々である。例えば、図2の拡大画像の中空ビーズの面積から粒子径を測定する方法がある。また、個々の粒子の体積を計測して相当する粒径を測定するコールター法、その他、いわゆる遠心沈降法、レーザ回折・散乱法等がある。なお、中空ビーズは非常に微細であることから、正確な粒径の中空ビーズの製造は技術的に困難である。そのため、製造誤差を前提に粒径分布が確認されるべきである。例えば、80μmから±5μmの範囲の粒径の中空ビーズを80μmの粒径の中空ビーズとしてカウントされる方法が挙げられる。
【0022】
塗膜中の中空ビーズの密度は図2のレベルが好ましい。このような密度レベルの塗膜によって断熱効果等が得られる。図3はその概念図である。塗膜形成材1によって軟質の中空ビーズ2と硬質の中空ビーズ3を含む塗膜が設備4の表面に形成される。こうして塗膜が外部から伝わる輻射熱5を遮断、低減する。
【0023】
また、軟質の中空ビーズ2および硬質の中空ビーズ3等の中空ビーズの形状は、図2に示すように、球形状が好ましいが、球形状でなくてもよい。中空ビーズが、破片のような歪な形で、球形でない場合の粒径は、中空ビーズの最大幅と最小幅の平均、中空ビーズの最大幅、または、中空ビーズの最小幅でもよい。
【0024】
<コーティング剤>
メタノール(90重量%以上)、水(4重量%以上)、酸化スズ(SnO)(0.1重量%)の混合物が主な塗膜コーティング剤である。コーティング剤は、特開2019-002671号公報に記載の親水コート又はこれに準じたものでよい。ただし、必ずしも必須のものではない。
【0025】
コーティング剤は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等の光触媒等、断熱以外の効果を目的とした成分を含んでもよい。この場合、塗膜は断熱のための下層部と別の機能を有する上層部の多機能構造となる。例えば、コーティング剤中の酸化チタン等の光触媒はその親水性と光触媒反応によって塗装表面を清浄にする。
【0026】
(実施例1)
本発明に係る塗料の塗膜形成と断熱効果の評価について以下、説明する。
本実施例では複数企業(鉄道、電力、製造業)の事務所、工場の屋根・外壁、空調・電気設備(エアコン室外機、変電所制御盤、キュービクル、鉄道通信設備、サーバー室)が評価対象である(図4)。
【0027】
塗布は、対象設備の表面の汚れを高圧水洗で取り除く工程、ローラー刷毛で塗料を膜厚約400μm(乾燥時)とする工程からなる。塗布方法は限定されるものではない。例えば吹き付けによるものが挙げられる。
【0028】
表1は塗膜の通年観察結果である。各施設の塗布面は約400μmの膜厚を1年間維持した。この膜厚の変化の有無は拡大写真と目視に基づくものである。
【表1】
【0029】
上記のローラー刷毛により1回目の塗布で約200μm(乾燥時)、2回目の塗布で約400μm(乾燥時)の膜厚が形成された。この膜厚の状態は1年経過後もほぼ変化がなかった。
【0030】
エアコン室外機への塗料の使用によって、塗料使用前後で年間平均約17%の電力が削減された。また、図5の右図は、塗料を塗布した部分と塗布しなかった部分の表面温度を赤外線サーモグラフである。太枠で囲んだ部分(エアコン室外機、建物外壁、屋上床)が塗料を使用した部分である。夏季において、塗料を使用した部分と、それ以外の部分の温度差は30~40℃程度であった。
【0031】
(実施例2)
本発明に係る塗料の有用な形態の検証について以下、説明する。
本発明に係る塗料は、夏季において対象設備の表面を周辺より30~40℃下げた。この結果からは、塗膜中の中空ビーズ層が均質に形成されていることが示唆される。上記の通り、本実施例の中空ビーズは、硬質素材のセラミックビーズ及び軟質素材のアクリル樹脂ビーズである。このように2種類の素材を用いることで、各素材の特性を活かすことができる。
【0032】
一般的に、耐熱性に優れたセラミックやガラスを素材とする中空ビーズが様々な用途に使用されている。しかしながら、これらの硬質素材の中空ビーズのみが塗料に使用されると、その中空ビーズは互いの接触等によって割れてしまうことが多い。別の試験において、本実施例に使用した中空ビーズと同程度の量のガラスビーズのみではほとんどのビーズが割れるという結果になった。
【0033】
一方、本実施例において、ビーズの割れはほとんど認められなかった。すなわち、硬質素材の中空ビーズと軟質素材の中空ビーズの組み合わせが、密な中空ビーズの層を形成し得ることが示唆された。
【0034】
硬質素材を用いる利点として塗膜形成が容易になることが挙げられる。合成樹脂の中空ビーズだけでは塗膜の強度が弱くなる。すなわち、合成樹脂の中空ビーズだけでは、所定以上の膜厚にすること、そのような膜厚を維持することが困難である。
【0035】
また、本実施例において、塗膜形成材、軟質中空ビーズともに素材はアクリル樹脂である。このような素材の選択は、塗膜の強度に大きく関係する。アクリルの塗膜形成材と、軟質の中空ビーズがアクリルよりもさらに軟質な素材との組み合わせの場合、塗膜全体の強度はさらに低下する。従って、塗膜形成材と軟質中空ビーズの素材を少なくとも同一にする必要がある。
【0036】
さらに、こうした知見からは、アクリルの塗膜形成材と、アクリルよりも硬質な中空ビーズとの組み合わせが塗膜の強度を高めることが示唆される。このように軟質の中空ビーズは塗膜形成材の素材より軟質であってはならないが、硬質であれば塗膜形成材と同じ素材でなくてもよい。例えば、塗膜形成材の素材がアクリルの場合に中空ビーズの素材をウレタンやシリコン等にする場合が挙げられる。
【0037】
また、本実施例によると、硬質素材の中空ビーズと軟質素材の中空ビーズの組み合わせが、密な中空層を形成することが示唆された。どのような素材が硬質素材や軟質素材であり、どのように素材選択するかは素材間の相対的なことである。本実施例において、セラミック中空ビーズとアクリル中空ビーズの組み合わせでは割れが生じなかった。これはアクリル中空ビーズの弾性によるものと考えられる。このように他方の素材の中空ビーズの応力に耐えることができる素材が選択されていればよい。
【0038】
ここで、材料の弾性の指標としてヤング率がある。合成樹脂のヤング率は4以下であることが多い。ガラスのヤング率は80、セラミックを形成する二酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機化合物のヤング率は100以上であると言われている。これらの技術常識と本実施例の結果を踏まえると、少なくともヤング率4以下の軟質素材と、80以上の硬質素材の組み合わせが、密な中空ビーズ層を塗料中に形成し得ることが示唆される。
【0039】
また、塗膜形成材としては、アクリル系以外にウレタン系、シリコン系、フッ素系でも断熱効果が得られることが確認された。すなわち、合成樹脂全般が本発明に係る塗膜形成材として適用できることが示唆された。ただし、塗膜の成形性においては本発明に係る塗膜形成材にはアクリルが最も優れている。
【0040】
中空ビーズの使用量は、塗膜の厚さやビーズの粒径によって変わるものである。また、図2に示す中空ビーズの密度レベルは、所望の膜厚形成のための目安となる。
【0041】
また、本実施例において各素材の中空ビーズの粒径は、80μm、60μm、50μmで、重量比は5対3対2である。図2が示すように、体積比でも最大粒径の中空ビーズの割合が最も大きい。このように最大粒径の中空ビーズの体積比が最大の場合に、最大の断熱効果となる知見が得られている。
【0042】
本実施例では、主に、最大粒径80μm、最小粒径50μm(粒径差30μm)の中空ビーズが使用された。経験的に、最大粒径は、50~100μmの範囲内にあることが好ましい。最小粒径は、限定されるものではなく、1μm未満でもよい。中空ビーズの密度を高めるのに寄与し得るからである。
【0043】
また、粒径ラインナップは、中空ビーズの密な構造を可能にし、これにより断熱効果を大きくする。また、2つ以上の粒径分布のピークを有する中空ビーズの組み合わせも同様である。そのようなピークは、60μmや50μm、さらに小さくてもよい。例えば、隣接する最大粒径の中空ビーズの隙間を埋める粒径のものでもよい。そのような粒径の中空ビーズは、理論的には、中空ビーズの密な状態を最大化することができる。
【0044】
また、本実施例では、主に80μmから50μmの中空ビーズが使用された。このことから、最低30μmの粒径差の中空ビーズの構成が有用であることが示唆される。粒径は限定されるものではないが、例えば、最大粒径100μm、最小粒径70μmの中空ビーズの構成が挙げられる。また、最小粒径を1μm未満とする中空ビーズから、これより30μm以上の粒径の中空ビーズの構成でもよい。
【0045】
また、最大粒径(例えば80μm)ではセラミック中空ビーズの割合が大きく、それより小さい粒径(例えば60μmや50μm)ではアクリル中空ビーズの割合が大きいことが膜厚形成に有用であることが示唆される。最大粒径のビーズがセラミックの場合、アクリル中空ビーズは、セラミック中空ビーズ同士が接触しないよう隔てることができる粒径のものでもよい。
【0046】
また、最大粒径のアクリル中空ビーズの割合が大きいほど、断熱に有用であることが示唆される。すなわち、最大粒径の中空ビーズがアクリル中空ビーズであって、このアクリル中空ビーズ同士の隙間を埋める粒径のビーズがセラミック中空ビーズでもよい。さらに、アクリル中空ビーズより硬質なウレタン中空ビーズやシリコン中空ビーズが、アクリル中空ビーズの代替物の例として挙げられる。これらの素材はセラミック中空ビーズの使用量が少なくても、塗膜の成形性維持に寄与する可能性がある。このように、塗膜の成形性維持と中空ビーズ同士の接触による割れ等の悪影響を回避する粒径と素材の構成であればよい。
【0047】
また、塗料の膜厚は様々な要因によって変化する。例えば、塗装直後と塗料乾燥後では後者の膜厚の方が小さい。これは塗料中の水等が揮発するためである。また、膜厚は温度や湿度等の影響を受けることでも伸縮する。そのため、隣り合う硬質の中空ビーズと軟質の中空ビーズは、塗膜収縮時には、前者が後者を凹状に変形させることが想定される。このような塗膜収縮に係る応力に耐えて、ビーズの中空構造を維持する素材が選択されることが重要である。
【0048】
所望の膜厚形成には塗膜形成材の素材選択も重要である。塗膜形成材の素材と軟質素材の中空ビーズの素材の組み合わせ次第で塗膜の成形性が向上または低下する。少なくとも、塗膜形成材の素材と軟質素材の中空ビーズの素材が同一であることが塗膜の成形性にとって重要である。このように、塗膜形成材、軟質素材の中空ビーズ、硬質素材の中空ビーズの3つの素材選択(さらには中空ビーズの粒径)が塗膜の性質を左右する。本実施例からは、これらの要因に基づき、所望の特性を有する塗料が得られることが示唆される。
【0049】
その一例として、本実施例では、対象設備の表面に形成された約400μmの塗膜が、通年膜厚を維持し、断熱効果を発揮した。中空ビーズの充填量がさらに多いもの、また、400μmを超える膜厚のものも実現可能である。経験的には、300~600μmの膜厚であれば、成形性、耐久性に大きな影響を与えず断熱塗料として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、建築物やエアコン室外機等の断熱分野に利用することができる。また、本発明は、柔軟性を維持しつつ、所望の塗膜形成に有用である。そのため、本特性を活かして、塗料全般に利用することができる。また、本実施例に係る設備に限らず、例えば車両、航空機、船舶等様々な対象に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 塗膜形成材
2 第1の中空ビーズ
3 第2の中空ビーズ
P 塗料

図1
図2
図3
図4
図5