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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131687
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】超音波加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 1/00 20060101AFI20220831BHJP
   B24B 1/04 20060101ALI20220831BHJP
   B23B 29/12 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B23B1/00 C
B24B1/04 B
B23B29/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030754
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】396022701
【氏名又は名称】岳匠超音波研究所有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】岳 義弘
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
3C049
【Fターム(参考)】
3C045AA04
3C046MM08
3C046PP03
3C049AA15
3C049AC01
3C049CB03
3C049CB04
3C049CB05
3C049CB10
(57)【要約】
【課題】様々な切削工具メーカーが製造・販売している、ISO規格に準じた様々な種類のボーリングバーを容易に取り付けたり、取り外したりすることができるため、製造コストを抑えることができ、かつ超音波振動部により励起される超音波振動の周波数に合わせてボーリングバーの突き出し長を調整し、最適な共振状態を得ることができる超音波加工装置の提供。
【解決手段】超音波加工装置1は、挿入口21を有する中空の超音波振動部20と、超音波振動部20と接続される超音波振動子30と、挿入口21から挿入されたボーリングバーまたはボーリングバーB1を格納して支持するスリーブ10を外部から固定するための複数の固定具と、を備え、超音波振動部20は、複数の固定具がそれぞれ挿入される複数の孔22を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入口を有する中空の超音波振動部と、
前記超音波振動部と接続される超音波振動子と、
前記挿入口から挿入されたボーリングバーまたはボーリングバーを格納して支持するスリーブを外部から固定するための複数の固定具と、
を備え、
前記超音波振動部は、前記複数の固定具がそれぞれ挿入される複数の孔を有する超音波加工装置。
【請求項2】
前記スリーブは、前記挿入口の直径と、当該挿入口に挿入されるボーリングバーの太さとが異なるために生じる隙間を埋めるためのものであり、当該挿入口の直径と同じ太さである請求項1に記載の超音波加工装置。
【請求項3】
前記孔は、前記超音波振動部の側面に設けられ、
前記固定具は、前記孔を介して前記超音波振動部内に挿入されたボーリングバーまたはスリーブを外部から押圧して固定するものである請求項1または2に記載の超音波加工装置。
【請求項4】
前記超音波振動部に設けられた前記孔と接続される管と、
前記管を介して前記超音波振動部内に気体を送入する送入装置と、
を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【請求項5】
前記超音波振動部の長さは、前記超音波振動子により励起される超音波振動の波長の1波長以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【請求項6】
前記超音波振動部の前記挿入口から前記超音波振動部内の端部までの深さは、前記超音波振動子により励起される超音波振動の波長の1/8波長~1/2波長である請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【請求項7】
前記超音波振動子により励起される超音波振動の周波数は、28kHz~60kHzである請求項1~6のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な切削工具メーカーが製造・販売している、ISO規格に準じた様々な種類のボーリングバーを取り付けて、切削加工に用いることができる超音波加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加工技術の一つとして、超音波振動を応用した超音波加工技術が用いられている。例えば、従来の超音波加工技術として、超音波振動を行う超音波振動部(超音波振動子)に、直に高硬度の刃先をろう付けしたり、インサートチップを搭載して、超音波切削加工を行う技術がある。
【0003】
また、超音波切削加工を行う際、超音波振動部により励起される超音波振動の波長に合わせて、超音波加工装置を設計する技術が知られている。例えば、特許文献1,2には、加工工具をホーン先端に取り付けて片支持した超音波加工装置において、超音波振動子の縦振動と加工工具の半径方向の伸び振動ときれいな共振状態とすることが可能な超音波加工装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-143517号公報
【特許文献2】特開2011-110670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1,2に記載されている超音波加工装置は、加工部品毎に、超音波振動の波長などを計算して切削工具を都度設計・製作する必要がある。また、市販のボーリングバーは、長さが同じであっても、鉄系やステンレス系などの素材により超音波振動が伝わる速さ(伝播速度)が異なるため、波長にもバラつきが生じてしまう。そのため、特許文献1,2に記載されている超音波加工装置を用いた場合、個別に設計製作するために、どうしても製造コストが高くなったり、超音波振動部により励起される超音波振動の周波数に合わせてきれいな共振状態とすることが難しいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、様々な切削工具メーカーが製造・販売している、ISO規格に準じた様々な種類のボーリングバーを容易に取り付けたり、取り外したりすることができるため、製造コストを抑えることができ、かつ超音波振動部により励起される超音波振動の周波数に合わせてボーリングバーの突き出し長を調整し、最適な共振状態を得ることができるなど、利便性の高い超音波加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超音波加工装置は、挿入口を有する中空の超音波振動部と、超音波振動部と接続される超音波振動子と、挿入口から挿入されたボーリングバーまたはボーリングバーを格納して支持するスリーブを外部から固定するための複数の固定具と、を備え、超音波振動部は、複数の固定具がそれぞれ挿入される複数の孔を有する。
【0008】
これにより、挿入口から挿入されたボーリングバーまたはスリーブは、超音波振動部内の任意の位置で、孔を介して外部から固定具により固定される。
【0009】
また、超音波加工装置は、超音波振動部に設けられた孔と接続される管と、管を介して超音波振動部内に気体を送入する送入装置と、を備えることが望ましい。これにより、送入装置により送出(噴出)された気体が、管および超音波振動部に設けられた孔を介して超音波振動部内に送入される。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の超音波加工装置によれば、挿入口を有する中空の超音波振動部と、超音波振動部と接続される超音波振動子と、挿入口から挿入されたボーリングバーまたはボーリングバーを格納して支持するスリーブを外部から固定するための複数の固定具と、を備え、超音波振動部は、複数の固定具がそれぞれ挿入される複数の孔を有する構造により、挿入口から挿入されたボーリングバーまたはスリーブは、超音波振動部内の任意の位置で、孔を介して外部から固定具により固定されるため、様々な切削工具メーカーが製造・販売している、ISO規格に準じた様々な種類のボーリングバーを容易に取り付けたり、取り外したりすることができ、かつ超音波振動部により励起される超音波振動の周波数に合わせてボーリングバーの突き出し長を調整し、最適な共振状態を得ることができる。
【0011】
(2)また、超音波加工装置は、超音波振動部に設けられた孔と接続される管と、管を介して超音波振動部内に気体を送入する送入装置と、を備える構造により、送入装置により送出(噴出)された気体が、管および超音波振動部に設けられた孔を介して超音波振動部内に送入されるため、超音波振動部内の温度の上昇を防ぐことができ、さらに、最適な共振状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る超音波加工装置の概略斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る超音波加工装置の概略分解図である。
図3】共振状態に関する説明をするための図である。
図4】本発明の実施の形態に係る超音波発振器および周波数カウンタを説明するための図である。
図5】超音波加工装置で用いられるボーリングバーおよびバイトホルダーの例を説明するための図である。
図6】本発明の実施の形態に係る超音波加工装置が使用される際の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0014】
[超音波加工装置]
図1は、本発明の実施の形態に係る超音波加工装置の概略斜視図である。また、図2は、本発明の実施の形態に係る超音波加工装置の概略分解図である。超音波加工装置1は、スリーブ10、複数の孔22を有する超音波振動部20、超音波振動子30、ボーリングバーB、バイトシャンク部40、および複数の孔22からそれぞれ挿入される複数の固定具(図示せず)を含む。
また、図4は、本発明の実施の形態に係る超音波発振器および周波数カウンタを説明するための図である。超音波加工装置1は、超音波発振器(超音波電源)60と接続される。
【0015】
超音波発振器60は、一般電源と接続され、一般電源を高周波電圧に変換して超音波振動子30の圧電素子(ピエゾ素子)に負荷するものである。超音波発振器60から発振される超音波の周波数は適宜調整することができ、例えば、20kHz、30kHz、39.5kHz、40kHz、50kHz、60kHzなどの周波数帯の超音波を発振することができる超音波発振器が市販されている。
【0016】
ここで、超音波とは、気体、液体、個体などの弾性体の密度を粗密波として伝播するエネルギーである。一般的に、高周波領域20kHz以上の周波数を指す。また、超音波発振器60から発振される超音波の周波数は、周波数カウンタ70により計測することができる。また、超音波発振器60は、温度や電源電圧などの変化で微妙に変化する周波数のブレを抑えることができる、周波数自動追尾方式が採用されている。
【0017】
超音波振動子30は、接続口31を介して超音波発振器60と接続される。また、超音波振動部20と接続される。超音波振動部20と超音波振動子30は、取り外し可能な構成となっている。
また、超音波振動子30には圧電素子(ピエゾ素子)が組み込まれており、超音波発振器60から高周波電圧が負荷されると、当該圧電素子(ピエゾ素子)の超微伸縮に変換し、超音波微振動に増幅して超音波振動部20へ超音波振動を伝える。
【0018】
超音波振動部20は中空であり、ボーリングバーBが挿入される挿入口21を有する。超音波振動部20は、挿入口21から挿入されたボーリングバーBを格納して支持する。また、超音波振動部20には、側面に、挿入されたボーリングバーBを固定するための固定具(図示せず)が挿入される孔22が設けられている。孔22は、超音波振動部20の側面に、ボーリングバーBが挿入される中空部分まで貫通して設けられる。
【0019】
国定具とは、例えばネジなどであり、超音波振動部20内に挿入されたボーリングバーBは、孔22を介して外部から当該ネジなどで押圧されることにより固定される。孔22は、超音波振動部20の側面に複数箇所設けられる。例えば、図3は共振状態に関する説明をするための図であるが、図3に示す例においては、孔22は超音波振動部20の側面に4箇所設けられている。
【0020】
ボーリングバーBは、先端に刃先(インサートチップ)が設けられた切削加工用の工具である。ボーリングバーBは、例えば、三菱マテリアル株式会社や、京セラ株式会社などが市販(製造・販売)している切削工具であり、そのサイズ(太さ)はISO規格に準じて、6φ、12φ、16φ、または20φなどの種類がある。
例えば、ボーリングバーB1は6φであり、ボーリングバーB2は12φである。
【0021】
ここで、ボーリングバーB1のサイズが、超音波振動部20の挿入口21のサイズ(直径、図2に示す例においては16φ)と異なる場合、当該ボーリングバーを挿入口21から挿入しても、隙間が生じてしまう。このような場合、スリーブ10を用いて、当該隙間を埋める。
【0022】
スリーブ10は中空であり、ボーリングバーB1が挿入される挿入口11を有する(図2参照)。また、スリーブ10は、スリーブ10内に挿入されたボーリングバーB1を外部から固定具(図示せず)により固定する複数の固定孔12を有する。国定具とは、例えばネジなどである。
【0023】
スリーブ10の使用例を説明すると、図2に示す概略分解図の状態から、スリーブ10の挿入口11からスリーブ10内にボーリングバーB1が挿入され、さらに超音波振動部20の挿入口21から超音波振動部20内にスリーブ10が挿入されると、図1に示す概略斜視図の状態となる。この場合、超音波振動部20内に挿入されたスリーブ10は、孔22を介して外部から固定具(図示せず)で押圧されることにより固定される。
【0024】
ここで、スリーブ10のサイズ(太さ)は、挿入口21の直径と同じ(図2に示す例においては16φ)である。つまり、スリーブ10は、挿入口21の直径と、挿入口21に挿入されるボーリングバーBの太さとが異なるために生じる隙間を埋めるためのものであり、挿入口21の直径と同じ太さである。
【0025】
バイトシャンク部40は、十分な質量を有し、超音波振動部20を固定するものである。超音波加工装置1を用いて超音波加工を行う際、バイトシャンク部40が固定装置50により固定されて超音波加工が行われる(図6参照)。
【0026】
以上のように本実施の形態に係る超音波加工装置を説明したが、スリーブ10の挿入口11や、超音波振動部20の挿入口21のサイズ(直径)は、ISO規格に合わせて6φ、12φ、16φ、20φ、または市販のボーリングバーのサイズ(太さ)に合わせて、適宜調整することができる。
【0027】
[ボーリングバー]
図5は、超音波加工装置で用いられるボーリングバーおよびバイトホルダーの例を説明するための図である。超音波振動部20は、図5(A),(B)に示すような様々な形状のボーリングバーBを、図5(E)に示すように超音波振動部20内に格納して支持することができる。また、超音波振動部20は、図5(C),(D)に示すような、ボーリングバーB(B23,B24)と接続された様々な形状のバイトホルダーHを格納して支持することができる。
【0028】
例えば、図5(A)に示すボーリングバーB211は、挿し込み部(超音波振動部20内に挿入される部分)の太さと、それ以外の部分の太さが同じである。一方、図5(B)に示すボーリングバーB22は、挿し込み部の太さよりも、それ以外の部分の太さの方が細くなっている。
【0029】
また、図5(C),(D)に示すように、バイトホルダーHは、ボーリングバーBと接続して用いることができる。例えば、図5(C)に示すバイトホルダーH1は、ボーリングバーB23と溶接固定され、ボーリングバーB23の差し込み部が超音波振動部20内に挿入されることで用いられる。一方、図5(D)に示すバイトホルダーH2は中空であり、当該中空部分にボーリングバーB24が挿入されて固定される。
【0030】
図5(C),(D)に示すように、バイトホルダーHとボーリングバーBが、面Fで接触していれば、バイトホルダーHの先端(刃先)まで超音波を伝えることができる。
【0031】
なお、図5(E)に示すように、超音波振動部20内に格納されたボーリングバーB等は、任意の位置で孔22から挿入された固定具(図示せず)により、外部から押圧して固定される。そのため、超音波振動部20内の中空部分の一番奥までボーリングバーB等が挿入された場合は、図5(E)に示す4つの孔22を全て利用して固定具で固定することができ、超音波振動部20内の中空部分の真ん中までボーリングバーB等が挿入された場合は、図5(E)に示す4つの孔22のうち左側2つ全て利用して固定具で固定することができる。
【0032】
つまり、このように、超音波振動部20内の中空部分にボーリングバーB等が挿入される深さ(長さ)を自由に調整することができるため、超音波振動部20の挿入口21からボーリングバーB等が突き出す長さも自由に調整することができる。
なお、この中空部分の深さは、超音波振動子30により励起される超音波振動の波長の1/8波長~1/2波長である。これにより、ボーリングバーB等が突き出す長さを幅広く調整することができ、かつ超音波振動部20からボーリングバーB等が外れたりすることがない、安全で利便性の高い超音波加工装置1を提供することができる。
【0033】
また、本実施の形態において、挿入口11や挿入口21は丸型形状であるが(図2参照)、挿入されるボーリングバーやスリーブの形状に合わせて、四角形や六角形などの多角形、またはそれ以外の形状とすることができる。それに合わせて、スリーブ10の中空部分や超音波振動部20の中空部分も、適宜挿入されるボーリングバーやスリーブの形状に対応する形状とすることができる。
【0034】
また、組み立てられた際に、スリーブ10の固定孔12と超音波振動部20の孔22の位置が重なり、固定孔12と孔22が一つの固定具(例えば、ネジ)止められてもよい。つまり、ボーリングバーB1、スリーブ10、および超音波振動部20が、固定孔12および孔22から挿入されたネジにより、互いに固定されてもよい。
【0035】
また、ボーリングバーBやスリーブ10は円柱状や多角形状としてもよく、一部、例えば超音波振動部20内に挿入される部分の中で、孔22から挿入されたネジにより押圧される部分が平面状になっていてもよい。
【0036】
[冷却機構]
また、超音波加工装置1は、冷却機構として、孔22に接続される管81と、管81を介して超音波振動部20内に気体を送入する送入装置80を含む(図6参照)。
【0037】
管81は、送入装置80から送出(噴出)される気体を超音波振動部20内に送るためのホースである。管81は、複数設けられた孔22のうち、いずれか一つの孔22と接続される。また、管81を複数設けることにより、複数設けられた孔22のそれぞれと接続されてもよい。
図6に示す例において、管81は接続部材(アダプタ)を用いて孔22と接続されている。接続部材は、ねじ込み継手やジョイントナットなど、孔22や管81のサイズや形状、用途などに応じて様々な種類のものを用いることができる。
【0038】
送入装置80は、管81を介して超音波振動部20内に気体を送入するための装置である。当該気体は、例えば、常温の空気である。送入装置80により、管81を介して超音波振動部20内に気体が送入されるため、超音波振動部20内が冷却される。送入装置80として、例えば、エアー洗浄ガン(エアークリーニングガン)やその他空気を送出(噴出)する装置を用いることができる。
【0039】
[超音波加工装置の動作]
以下、各図面を参照して、超音波加工装置1の動作について説明する。まず、超音波振動子30は、超音波発振器60から電力(高周波電圧)が供給されるため、超音波振動子30に組み込まれたピエゾ素子に高周波電圧が付加され、ピエゾ素子が超微伸縮に変換され、超音波微振動に増幅されることで、超音波振動が超音波振動部20へと伝えられる。
【0040】
本実施の形態において、超音波振動子30により励起される超音波振動の周波数は、超音波加工装置1を用いた加工作業の内容や加工対象に合わせて、20kHz~60kHzから適宜選択することができる。
【0041】
超音波振動が伝えられた超音波振動部20は、大きな一次微振動(Z軸方向)と、派生する二次微振動(X軸方向)および三次微振動(Y軸方向)を重畳した複雑な微振動を行う。
【0042】
そして、ボーリングバーBは、超音波振動部20からスリーブ10を介して変位を受け、形状や長さによってZ軸、X軸、Y軸方向を重畳した複雑な軌跡で微振動する。
【0043】
このボーリングバーBの微振動は、ボーリングバーBの刃先の1~25μmの超音波微振動であり、その振動は1秒間に40,000回程度繰り返される。そのため、加工対象の加工面に当該刃先が衝突しても、騒音や塑性変形が起こらず、加工面には複数のクラックが発生する。そして、クラックは加工面を掘り起こし(へき開が発生する)、さらに加工対象に食い込まれつつ、加工対象の加工表面を切粉に分断して超音波微振動による切削加工が行われる。
【0044】
[共振状態]
図3は、共振状態に関する説明をするための図である。図3に示すように、挿入口21から超音波振動部20内にボーリングバーB2が挿入されたとき、ボーリングバーB2が超音波振動部20から突き出した長さ(ボーリングバーB2の突き出し長)L1が、超音波振動子30により励起される超音波振動λの波長の1/2波長(1/2λ)である。また、超音波振動部20の長さは1波長(λ)で、超音波振動部20と超音波振動子30との合計の長さは3/2波長(3/2λ)である。
【0045】
図3において、超音波発振器60により発振され、超音波振動子30により励起される超音波振動の周波数は、周波数カウンタ70に示されるように、約40kHzである(図4参照)。なお、周波数カウンタ70は、横河電機株式会社製の「型式:FC-863」であり、超音波発振器60は、デュケイン社(米国)製のものである。
【0046】
そして、超音波振動部20の素材のステンレス鋼の超音波の伝播速度は、個体中で約5,180m/sである。そのため、(伝番速度)÷(周波数)の式で求められる波長λは、約129.5mmとなる。つまり、1/2波長(1/2λ)は約64.75cmである。
【0047】
このように、挿入口21から超音波振動部20内にボーリングバーB2が挿入されたとき、ボーリングバーB2の突き出し長L1が、約64.75cmとなるように、超音波振動部20で位置決めがされる。当該位置決めは、突き出し長L1を調整した後、孔22を介してネジなどの固定具が挿入され、ネジ止めされることでボーリングバーB2を外部から押圧して固定することにより行われる。
【0048】
このような構成により、ボーリングバーB2の先端(加工表面に接する部分)から、その反対方向に位置する超音波振動子30の端部までの長さL2は、波長λの整数倍(2λ)となる。そのため、超音波振動子30のZ軸方向の振動はきれいな共振状態となり、効率的な超音波加工を行うことが可能となる。
【0049】
上述の説明において、超音波振動部20の長さは1波長(λ)としたが、適宜調整することができる。特に、効率的な超音波加工を実現するために、超音波振動部20の長さは1波長(λ)以上とすることが望ましい。
また、上述の説明において、超音波振動部20と超音波振動子30との合計の長さは3/2波長(3/2λ)としたが、こちらも適宜調整することができる。
【0050】
ここで、市販のボーリングバーを用いる場合、鉄系やステンレス系などの素材により超音波振動が伝わる速さ(伝播速度)が異なるため、波長にもバラつきが生じてしまう。つまり、ボーリングバーによって密度と体積弾性率が異なるため、伝播速度が異なるので、波長(=伝播速度/周波数)もバラついてしまう。例えば、鉄の伝播速度は約5900m/s、銅の伝播速度は約5000m/s、ステンレスは約5600m/sなどである。
【0051】
そのため、同じ長さの市販のボーリングバーを用いる場合であっても、きれいな共振状態となり得る突き出し長L1は、各ボーリングバーによって異なる。しかし、本発明の超音波加工装置1によれば、上述したように、突き出し長L1を調整することができるため、市販のボーリングバーを用いる場合であっても、最適な共振状態を得ることができる。つまり、ネジなどの固定具の止め外しにより、ISO規格に準じた様々な種類や様々な長さのボーリングバーを、突き出し長L1を調整しつつ容易に取り付けたり、取り外したりすることができる。
【0052】
よって、本発明の超音波加工装置1は、切削工具メーカーが市販しているボーリングバーであっても利用することができ、かつ最適な共振状態を得ることができるため、きれいな共振状態ではないために生じる仕損じ(不良品)の発生を防ぐことができる。
【0053】
また、近年の周波数発振器は、共振状態となっていない場合、制御回路を保護するために(制御回路が発熱して故障しないように)、エラー(警告)を出して発振をストップする機能が備わっている。そのため、共振状態となっていないために、周波数発振器が作動せず、そもそも切削加工が行えないという事態を防ぐことができる。
【0054】
[従来の製造工程]
このような、ボーリングバーの先端からその反対方向に位置する超音波振動子の端部までの長さを波長λの整数倍(例えば、2λ)とするために、従来の製造工程においては、逐一固有振動数を測定しつつ微調整を行ったり、経験値に頼った調整を行っていた。
【0055】
具体的には、まず、ボーリングバーやスリーブのサイズや素材を図面設計し、当該図面に沿ってボーリングバーやスリーブを成形する。そして、一度半製品(プロトタイプ)の時点で、固有振動数を測定し、必要であれば当該半製品を加工して調整する。
【0056】
その後、焼き入れを行い、ここでも固有振動数を測定し、必要であれば加工を行い、固有振動数を最終調整する。特に、この焼き入れの時点で固有振動数が変化することは事前に分かっていることなので、技術者の経験値に頼り、当該焼き入れによる固有振動数の変化を設計段階で織り込んでおく必要がある。
【0057】
最後に、研削盤による研削(研磨)や、刃先(インサートチップ)の取り付けを行い、固有振動数を測定し、品質の合否判定を行う。つまり、従来の製造工程は、上述したように、熟練の技術者の経験値に頼るものであったり、固有振動数を微調整するための作業が頻繁に必要であったり、また、製造時間や製造コストなどがかかるものであったりと、利便性がよいとは言えない。また、従来の超音波加工装置の多くは、ボーリングバーや周波数振動部などを含めた一体型として製造する、いわゆるオーダーメイド製のものであるため、製造コストが高くなる。
【0058】
それに対し、本発明の超音波加工装置1は、様々な切削工具メーカーが製造・販売している、ISO規格に準じた様々な種類のボーリングバーを容易に取り付けたり、取り外したりすることができるため、製造コストを抑えることができ、かつ超音波振動部20により励起される超音波振動の周波数に合わせてボーリングバーBの突き出し長L1を調整し、最適な共振状態を得ることができるなど、利便性の高いものである。
【0059】
[冷却機構の動作]
また、超音波加工装置1は、上述した管81と送入装置80とにより、切削加工中を行う際、超音波振動部20内に気体が送入されるため、超音波振動部20内の温度の上昇を防ぐことができる(図6参照)。
【0060】
切削加工中、超音波振動部20内は超音波振動により発熱が生じる。発熱が生じ、超音波振動部20内の温度が上昇してしまうと、周波数(共振周波数)のブレが発生し、当該ブレが超音波発振器60で採用されている周波数自動追尾方式の自動追尾領域外となる場合がある。
【0061】
よって、切削加工中に超音波振動部20内に気体を送入し続けることにより、このような発熱を抑え、ボーリングバーBの刃先の超音波振幅を一定範囲内に保ち続けることができる。その結果、きれいな共振状態を維持し続けることができる。
【0062】
以上のように説明した本実施の形態はあくまで一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能である。例えば、孔22は3箇所や5箇所、またはそれ以上設けられてもよい。また、孔22同士の間隔も、適宜調整して設けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、様々な切削工具メーカーが市販している、ISO規格に準じた様々な種類のボーリングバーの取り替えを容易に行えるため製造コストの低減が図られ、かつ、最適な共振状態を得ることができる利便性の高い超音波加工装置として利用することができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 超音波加工装置
10 スリーブ
11 挿入口
12 固定孔
20 超音波振動部
21 挿入口
22 孔
30 超音波振動子
31 接続口
40 バイトシャンク部
50 固定装置
60 超音波発振器(超音波電源)
70 周波数カウンタ
80 送入装置
81 管
X,Y,Z 方向
B,B1,B2,B211,B212,B22,B23,B24 ボーリングバー
L1 ボーリングバーの突き出し長
L2 長さ
H,H1,H2 バイトホルダー
F 面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-09-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入口を有する中空の超音波振動部と、
前記超音波振動部と接続される超音波振動子と、
前記挿入口から挿入されたボーリングバーまたはボーリングバーを格納して支持するスリーブを外部から固定するための複数の固定具と、
を備え、
前記超音波振動部は、前記複数の固定具がそれぞれ挿入される複数の孔を有し、
かつ、前記超音波振動部内の中空部分に挿入された前記ボーリングバーまたは前記スリーブの当該中空部分における位置に応じて、前記複数の孔の一部または全部に前記固定具が挿入されることにより、前記超音波振動部の前記挿入口から突き出すボーリングバーの長さを調整し得るものである超音波加工装置。
【請求項2】
前記スリーブは、前記挿入口の直径と、当該挿入口に挿入されるボーリングバーの太さとが異なるために生じる隙間を埋めるためのものであり、当該挿入口の直径と同じ太さである請求項1に記載の超音波加工装置。
【請求項3】
前記孔は、前記超音波振動部の側面に設けられ、
前記固定具は、前記孔を介して前記超音波振動部内に挿入されたボーリングバーまたはスリーブを外部から押圧して固定するものである請求項1または2に記載の超音波加工装置。
【請求項4】
前記超音波振動部に設けられた前記孔と接続される管と、
前記管を介して前記超音波振動部内の前記中空部分、前記超音波振動部内の発熱を抑えるための気体を送入する送入装置と、
を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【請求項5】
前記超音波振動部の長さは、前記超音波振動子により励起される超音波振動の波長の1波長以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【請求項6】
前記超音波振動部の前記挿入口から前記超音波振動部内の端部までの深さは、前記超音波振動子により励起される超音波振動の波長の1/8波長~1/2波長である請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波加工装置。
【請求項7】
前記超音波振動子により励起される超音波振動の周波数は、28kHz~60kHzである請求項1~6のいずれか1項に記載の超音波加工装置。