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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131747
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】電波発生装置及びそれを用いた加熱機器
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/268 20060101AFI20220831BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20220831BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20220831BHJP
   H05B 6/66 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01L21/268 Z
H01L29/80 H
H01L21/324 X
H05B6/66 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030854
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夘野 高史
(72)【発明者】
【氏名】細川 大介
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 英生
(72)【発明者】
【氏名】大野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝利
【テーマコード(参考)】
3K086
5F102
【Fターム(参考)】
3K086AA02
3K086BA07
3K086BA10
5F102FA07
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ10
5F102GL01
5F102GM01
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GS09
5F102GV05
5F102GV06
(57)【要約】
【課題】ワイドバンドギャップ半導体を好適に用いた電波発生装置を提供する。
【解決手段】電波発生装置は、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号を発生可能な信号発生部と、ワイドバンドギャップ型トランジスタを備え、前記電波信号を増幅する信号増幅部と、前記信号増幅部で増幅された前記電波信号を照射する電波照射手段とを備える。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号を発生する信号発生部と、
ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて前記電波信号を増幅する信号増幅部と、を備える電波発生装置。
【請求項2】
前記トランジスタセルユニットは、同一基板上に並べて配置された複数のトランジスタセルで構成される、請求項1に記載の電波発生装置。
【請求項3】
前記信号増幅部は、前記トランジスタセルユニットの入力信号を整合させる入力整合回路と、前記トランジスタセルユニットの出力信号を整合させる出力整合回路とを備え、
前記入力整合回路、前記トランジスタセルユニット及び前記出力整合回路が同一基板上に実装される、請求項1または2に記載の電波発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電波発生装置と、
被加熱物を収容するための加熱室と、
前記加熱室内に前記信号増幅部で増幅された前記電波信号を照射する電波照射部と、を備える加熱機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波発生装置及びそれを用いた加熱機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化ガリウム(Ga)を用いた半導体素子が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、α-Al基板上に形成されたα-(AlGa1-x単結晶(0≦x<1)からなるn型α-(AlGa1-x単結晶膜と、その単結晶膜上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、そのソース電極とドレイン電極との間の領域上に形成されたゲート電極と含むGa系のMESFETが示されている。
【0004】
特許文献2には、半導体積層体の上に互いに間隔をおいて形成されたソース電極部及びドレイン電極と、ソース電極部とドレイン電極との間に、ソース電極部及びドレイン電極と間隔をおいて形成されたゲート電極とを有する半導体装置が示されている。
【0005】
また、特許文献3には、半導体パッケージとして、高周波信号が入出力される半導体素子と、一端が半導体素子の入出力端子と接続されたリード端子と、リード端子の他端が露出するように封止する封止用樹脂と、リード端子に対向しかつ封止用樹脂から露出する接地強化用金属体とを備えるものが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/035844号
【特許文献2】国際公開第2015/011870号
【特許文献3】国際公開第2013/094101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化ガリウム(Ga)に代表されるワイドバンドギャップ型トランジスタは、パワーデバイスとしての理論的な性能がシリコンよりも高く、炭化ケイ素や窒化ガリウムよりも高いという特徴がある。
【0008】
しかしながら、ワイドバンドギャップ型トランジスタは、シリコンや窒化ガリウム等と比較して、酸化ガリウムからなる半導体デバイスを用いた量産製品が少ないのが現状である。
【0009】
発明者らは、鋭意検討を重ねることで、ワイドバンドギャップ型トランジスタについての様々な知見を得た。
【0010】
本開示では、ワイドバンドギャップ型トランジスタについての知見に基づいて、上記の従来技術の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一実施形態に係る電波発生装置は、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号を発生可能な信号発生部と、ワイドバンドギャップ型トランジスタを備え、前記電波信号を増幅する信号増幅部と、前記信号増幅部で増幅された前記電波信号を照射する電波照射手段とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ワイドバンドギャップ半導体を用いることで、従来と比較してより大きな出力を取り出したり、同じ出力を得るためのデバイスサイズを小さくすることができる。また、従来技術と比較して耐熱が高くできる。これにより、電波発生装置の適用範囲が広がるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トランジスタセル(横型)の構成例を示す側断面図
図2A】トランジスタセルの他の例及び熱伝導層の効果についての説明を示す図
図2B】トランジスタセルの他の例及び熱伝導層の効果についての説明を示す図
図2C】トランジスタセルの他の例及び熱伝導層の効果についての説明を示す図
図3】トランジスタセル(縦型)の構成例を示す側断面図
図4A図1のトランジスタセルの実装イメージを示す側断面図
図4B図1のトランジスタセルの反転実装のイメージを示す側断面図
図5A】信号増幅回路の一例を示す回路図
図5B】信号増幅回路の実装イメージを示す平面図
図5C】信号増幅回路の実装イメージを示す側断面図
図5D】入力整合部の一例を示す等価回路図
図5E図5Dに示す整合回路の具体的な構成例を示す平面図
図5F】トランジスタセルユニットの構成例を示す側断面図
図5G】トランジスタセルユニットの構成例を示す平面レイアウト図
図6A】信号増幅回路のリードフレームへの実装イメージを示す平面図
図6B】信号増幅回路のリードフレームへの実装イメージを示す側断面図
図7】電波発生装置の構成例を示すブロック図
図8】多段増幅器の構成例を示すブロック図
図9A】多段増幅回路のリードフレームへの実装イメージを示す平面図
図9B】多段増幅回路のリードフレームへの実装イメージを示す側面図
図10】電波発生装置の実装イメージの一例を示す側断面図
図11】電波発生装置の実装イメージの他の例を示す側断面図
図12】電波発生装置の外観イメージ図
図13】電波発生装置の出力側基板レスの構成について説明するための図
図14】多段アンプのMMIC化について説明するための図
図15】信号増幅回路の他の構成例(E型アンプ)を示すブロック図
図16】加熱機器の構成例を示すブロック図
図17】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図18図17の加熱機器の動作例を示すフローチャート図
図19】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図20図19の加熱機器の動作例を示すフローチャート図
図21図19の加熱機器の他の動作例を示すフローチャート図
図22図21の検知処理について示すフローチャート図
図23】被加熱物の沸騰状態の検知について説明するための図
図24図19の加熱機器の他の動作例を示すフローチャート図
図25A】被加熱物の膨化状態の検知について説明するための図
図25B】被加熱物の弾け状態の検知について説明するための図
図25C】被加熱物の融解や解凍の検知について説明するための図
図25D】被加熱物の乾燥状態の検知について説明するための図
図26】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図27】加熱機器のシミュレーションモデルを示す図
図28】加熱機器の加熱後の温度分布についてのシミュレーション結果を示す図
図29A】加熱機器の加熱後の温度分布についてのシミュレーショ図19の加熱機器の動作例を示すフローチャート図ン結果を示す図
図29B】加熱機器の加熱後の温度分布についてのシミュレーション結果を示す図
図30】電力半減深度について説明するための図
図31】誘電率の大きく異なる被加熱物に対する加熱特性について説明するための図
図32】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図33】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図34A】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図34B】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図35】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図36】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図37】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図38A】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図38B】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図39図38の加熱機器の他の動作例を示すフローチャート図
図40】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図41】アンテナの指向性についてのシミュレーション結果を示す図
図42A】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図42B】加熱機器の他の構成例を示すブロック図
図43】均一加熱について説明するための図
図44】ワイドバンドギャップ半導体に適用することが可能なβ-Ga及びα-Gaの結晶成長方法を示す図
図45】等方性エッチングと異方性エッチングの概要を示す図
図46】トレンチMOS構造を用いた場合における電界強度分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本願発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
≪トラジスタセル≫
図1には、本実施形態に係るトランジスタセル100の構成例を示す。
【0016】
本実施形態のトランジスタセル100は、基板101上に、または、基板そのものとして相対的にバンドギャップの大きい半導体材料(例えば、酸化ガリウム)を用いたワイドバンドギャップ半導体からなる。
【0017】
ここで、ワイドバンドギャップ半導体とは、2.2[eV]程度以上のバンドギャップを持つ半導体を指すものとする。特に、シリコンのバンドギャップが1.12[eV]であることから、ワイドバンドギャップ半導体は、シリコンの2倍以上のバンドギャップを有することになる。特に、酸化ガリウム、ダイヤモンド等は、シリコンの4-5倍程度のバンドギャップを有するので、絶縁破壊電界強度が非常に高く、電極間距離を大きく短縮できる。以下の説明では、トランジスタセル100に酸化ガリウムを用いる例について説明する。
【0018】
-トランジスタセルの構成-
図1に示すように、横型のトランジスタセル100は、基板101上に、直接または他の層(図示省略)を介して酸化ガリウム(Ga)で形成された酸化ガリウム層103と、酸化ガリウム層103上に、基板表面に沿う方向に互いに離間して配置されたソース電極111、ゲート電極115及びドレイン電極113とを備える。酸化ガリウム層103とゲート電極115との間に、ゲート絶縁層107が設けられる。ソース電極111には、ゲート電極115の上を覆うように延びるフィールドプレート116が形成される。
【0019】
なお、ゲート電極115の形状をT型あるいは絶縁膜を介してドレイン側へ突出させる構造とし、ゲート電極115と同電位の突出領域いわゆるゲートフィールドを設ける構成としてもよい。これにより、ドレイン側のゲート近傍に発生する電界集中が緩和し、耐圧破壊を抑制することができる。
【0020】
また、横型のトランジスタセル100は、構造上、電極間容量が少なく、高周波用途に適したデバイスである。より詳しくは、トランジスタセル100としてのMIS構造とした場合、その電極間の寄生容量(Cgs、Cgd、Cds)が効果的に作用するので、特に高周波領域において高性能な信号増幅を実現できる。また、スイッチングデバイス用としてMOSトランジスタとしての横型構造にしてもよく、その場合には、低容量特性([低入力容量Ciss、低ゲート入力電荷量Qg]、[低帰還容量Crss、低ゲート-ドレイン間電荷量Qgd])、特に非常に小さな帰還容量Crssが効果的に作用する。
【0021】
(基板)
基板101に用いる基板材料としては、SiやSiC、サファイア(Al)、 ダイヤモンド等が用いられる。
【0022】
なお、本実施形態では、以下に説明するチャネル層として、酸化ガリウム(Ga)を使用する。この場合に、酸化ガリウムそのものを基板101として用いることも可能である。酸化ガリウムを基板101として用いることで、構造の簡素化やそれに伴う低コスト化が図れる。また、トランジスタのように発熱する部分が存在するケースであっても、その熱が他の部分へ伝わることによる不具合の発生を抑制できるという効果が得られる。
【0023】
なお、酸化ガリウムを基板101として半導体を構成する場合には、酸化ガリウムを半絶縁にすることが望ましい。酸化ガリウムを半絶縁にする方法は、基板の半絶縁性が確保できるのであれば特に限定されないが、例えば、酸化ガリウムにSi,Fe,Mg等をドーピングすることで実現できる。
【0024】
ところで、例えば、シリコンを用いた通常の半導体デバイス(以下、「通常デバイス」と称する)では、発熱部位からヒートシンクに効果的に熱伝導をさせるために、基板厚を薄くして熱抵抗を下げることが行われる。しかしながら、本開示のトランジスタセル100では、発熱個所を分散させたり、放熱構造を不要にすることができるので、基板を薄くしたり、ヒートシンクへの熱拡散を促す必要がなくなる。これにより、基板の厚さを、例えば200[μm]以上の厚さに設定することも可能となる。そうすることで、基板の裏面研磨加工を最小化することができる。その結果、半導体製造プロセスの簡略化ができ、低コスト化を実現することができる。発熱個所の分散や、放熱構造の不要化については、後ほど説明する。
【0025】
さらに、本開示のトランジスタセル100を備える信号増幅部を一般的な半導体パッケージとして構成する場合、基板101の下面において冷却部材固設のための研磨面を設ける必要がないので、その製造プロセスが簡素化でき、さらなる低コスト化が実現できる。なお、信号増幅部(信号増幅部812、信号増幅回路300)については、後ほど説明する。
【0026】
(酸化ガリウム層)
酸化ガリウム層103は、チャネル層(電子走行層)及びドリフト層を構成し、例えば、P型で形成される。なお、トランジスタセル100がヘテロ接合の場合、酸化ガリウム層103はn型となる。
【0027】
図1では図示を省略しているが、コンタクト層104(図3参照)は、酸化ガリウム層103中に形成されたn型ドーパントの濃度が高い領域であり、オーミックコンタクトのための不純物ドーピング層で、この不純物には空乏層(図示省略)を薄くし、金属と半導体の接触抵抗を下げるという作用がある。
【0028】
前述のとおり、酸化ガリウムは、絶縁破壊電界強度Ecが非常に高い。
【0029】
したがって、酸化ガリウム層103を設けることで、耐圧を向上させることができる。特に、ゲート電極115とドレイン電極113との間の耐圧が大きく向上する。これにより、高出力動作に伴いゲート電極115とドレイン電極113との間の電位差が大きくなった場合でも、確実に絶縁が確保できる。その結果、ゲート電極115とドレイン電極113との間の電極間距離D1を通常デバイスと比較して短くすることが可能となる。例えば、特に電源電圧が高い30[V]以上の場合であっても、電極間距離D1を5[μm]以下にすることができる。そうすると、トランジスタセル100が搭載されたチップやモジュールの小型化に加え、省資源化・低コスト化が実現できる。
【0030】
なお、酸化ガリウムを用いたトランジスタは高耐圧化されるため、局所的な電界集中を緩和する目的で構成するソース及びゲートのフィールドプレートは使用せず、トランジスタセルの構成を簡素化してもよい。
【0031】
また、酸化ガリウム層103を設けることで、通常デバイスと比較して薄い空乏層でも大きな耐圧が得られる。これにより、通常デバイスよりもドリフト層を薄くしたり、不純物の濃度を上げることができるので、オン抵抗(ドリフト抵抗)を大きく低減することができる。換言すると、本開示のトランジスタセル100は、極めて高い効率での駆動が可能となり、併せて発熱ロスが大幅に抑制できる。例えば、マイクロ波の出力を数百[W]~1[kW]以下での使用の場合において、冷却部材が不要となり、低コスト化・省資源化・コンパクト化が図れる。すなわち、本開示のトランジスタセル100は、例えば、入力が数百[W]~1.5[kW]程度の小さな電力を扱うのであれば、発熱量はさほど問題にはならないといえる。
【0032】
さらに、前述のとおり、酸化ガリウムは、バンドギャップが大きい。したがって、電子が遷移するためにより高い熱エネルギーが必要になる。そうすると、高温での動作が可能になる。つまり、本開示のトランジスタセル100は、耐熱温度が高くなるので、放熱構造を用いた冷却そのものが不要な構成も可能となる。
【0033】
図13(a)には、本開示のトランジスタセル100を搭載したモジュール380の構成例を示している。図13において、385は出力端子である。
【0034】
一般的に、図13(b)示すように、空冷の場合、放熱経路は、チップ(基板101に相当)での発熱をダイボンド材162(図4A参照)を介してパッケージ160のダイパッド161(図4A参照)へ熱伝導させる。そして、さらにその熱を、例えば、ダイパッド161の下面に取り付けたヒートシンク382(例えば、アルミ製)へ伝導させて、ヒートシンク382のフィン384に所定の流量で風を流して排熱させる。
【0035】
さらに、図示しないが、出力50Wを超えるような高出力のデバイスにおいては、放熱経路の熱抵抗を低減するために、上記構成に加えて、ダイパッド161とヒートシンク382の間に銅プレートを配置し、拡散効果を高める構成にする場合がある。
【0036】
これに対し、本開示のように、酸化ガリウムの高耐熱特性を活かして、放熱性能を軽減できれば、図13(a)に示すように、銅プレートや熱伝達を担うフィン構造やファンが不要になり、低コスト化、小型化が実現できる。
【0037】
また、図13(c)示すように、水冷の場合、一般的に、排熱の媒体が空気から水等の液体に代わる。また、空冷のヒートシンク382のフィン384の位置に金属ブロック386を設け、金属ブロック386の内部に水路388を構成する。加えて、図示しないが、水路388に流す水流を生み出すためのポンプや水温を安定化させるためのラジエータ、これらを接続する水路などが必要となる。
【0038】
これに対し、本開示のように、酸化ガリウムの高耐熱特性を活かせば、金属ブロックを始めとする一連の構成要素が不要となり、低コスト化、小型化が実現する(図13(a)参照)。
【0039】
なお、冷却効果をより高めるために、本開示の構成においても、図13(b)に示す空冷方式や、図13(c)に示す水冷方式を採用してもよい。
【0040】
(ゲート絶縁層)
図1に戻り、ゲート絶縁層107は、ゲート電極115からチャネルへ電流が流れ込むことを抑止したり、トランジスタセル100の表面の準位を埋めてチャネルの電流をスムーズに流す機能を有する。これにより、トランジスタセル100の性能が向上する。
【0041】
ゲート絶縁層107に用いられる材料は、特に限定されないが、例えば、SiOやSiN等を好適に用いることができる。また、ゲート絶縁層107にAlやHfOを用いてもよい。
【0042】
なお、ゲート絶縁層107は、酸化ガリウム層103に用いられる酸化ガリウムとはバンドギャップの異なる材料で構成されてもよい。そうすることで、いわゆる、ヘテロ接合が成立し、ゲート絶縁層107に電子供給層としての作用が加わる。つまり、ゲート絶縁層107と酸化ガリウム層103との接合面に電子が集まることで2DEG(二次元電子ガス)が発生し、高移動度の層が形成される。これにより、トランジスタセル100の性能の大幅な向上が実現できる。また、ゲートリークの低減およびキャリア濃度の増加が図れるので、電流密度の増加とともにデバイスとして高効率化・高電力化・高性能化が実現できる。
【0043】
特に、ゲート絶縁層107と酸化ガリウムとのバンドギャップが広いほど、トランジスタセル100の性能の効果は高まるので、ゲート絶縁層107として、例えばAlNやBNを用いることで、より大きな効果が得られる。
【0044】
また、ゲート絶縁層107としてAlNを用いた場合、AlNは非常に優れた熱伝導性を有するので、特にゲート電極115を中心に発生する熱を効率的に逃がすことができ、温度上昇に伴って生じることが想定される、利得や出力、効率などの性能劣化を抑制したり、ゲートの制御できなくなる状況を回避したり、電極材料の破損を抑制したりすることができる。これにより、トランジスタセル100やそのトランジスタセル100を搭載した回路や機器において信頼性の向上が実現できる。
【0045】
なお、図示しないが、ゲート電極115を酸化ガリウム層103上に直接形成してもよい。
【0046】
(層間絶縁層)
層間絶縁層120は、絶縁体で構成され、ソース電極111、フィールドプレート116、ドレイン電極113及びゲート電極115を覆うように形成される。層間絶縁層120に用いる材料は、特に、限定されないが、例えば、SiNを好適に用いることができる。
【0047】
なお、図2Aに示すように、トランジスタセル100の上部に熱伝導層122を形成してもよい。この場合、層間絶縁層120とトランジスタセル100との間に、熱伝導層122が形成される。熱伝導層122に用いる材料は、酸化ガリウムよりも熱伝導の高い材料であるのが好ましく、例えば、AlNを好適に使用することができる。
【0048】
図2Bには、図2Aに示した熱源の間隔を横軸にとり、熱伝導層122の有無によるチャネル温度の差を示している。図2Bに示すように、熱伝導層122を設けることでトランジスタセル100で発生した熱をより確実に逃がすことができる。これにより、トランジスタセル100を備える半導体デバイス200の信頼性が大きく向上する。
【0049】
また、層間絶縁層120の厚さ方向(上下方向)の中間に、熱伝導層122を形成してもよく、同様の効果が得られる。特に、層間絶縁層120において熱伝導層122を設けることで構造の簡素化が図れる。トランジスタセル100の下部には基板101があるので、熱伝導層122は、トランジスタセル100の上部に設けるのが好ましい。
【0050】
熱伝導層122について、より詳しく説明する。図1では、説明の便宜上記載を省略しているが、層間絶縁膜120は、複数の工程で何層にも積層して構成される。そこで、層間絶縁層120のうちのいずれかひとつ以上の層を熱伝導率の高い材料で構成するとよい。より具体的には、通常層間絶縁層120は、SiOやSiNの組合せで積層して構成されるが、そのうちの1層または複数の層をAlN(熱伝導層122に相当)で構成することができる。
【0051】
図2Cには、トランジスタセル100の動作時における発熱分布の一例を示している。図2Cに示すように、トランジスタセル100は、ゲート電極115の近傍を中心に発熱するので、ゲート電極115の近くに熱伝導層122を配置することで、より放熱性の向上効果を得ることができる。例えば、熱伝導率の高い層でゲート絶縁膜107を構成するのが最も効果的である。
【0052】
-トランジスタセルの駆動-
前述のとおり、トランジスタセル100は、ワイドバンドギャップ半導体からなり高い耐圧を有するので、電源電圧が高くても正常に動作する。そこで、電源電圧を高く設定することにより、同じ電力を取り出す際の電流値を下げることができ、トランジスタセル100が実装される半導体デバイス200や回路の発熱が抑制できる。
【0053】
また、トランジスタセル100を用いて構成された回路に使用する電線を細線化したり、その回路が実装されたプリント基板378(図11参照)上に構成するパターン厚を薄くできるので、プリント基板378を含むモジュール380の低コスト化、省資源化が実現できる。
【0054】
なお、ワイドバンドギャップ半導体は、ドレイン電圧を高く設定することができるので、例えば、一般家庭向けの商用電源(100[V])を整流して利用することができる。これにより、DC電源回路が大幅に簡素化でき、低コスト化や省資源化が実現できる。より詳しくは、例えば、ワイドバンドギャップ半導体である酸化ガリウムでは、ドレイン電圧は、例えば65[V]であったり、それ以上にすることができる。これに対して、GaNで構成した半導体におけるドレイン電圧は通常50[V]程度である。
【0055】
-縦型構成-
なお、図3に示すように、トランジスタセル100は、縦型に構成してもよく、その場合には、ドレイン電極113またはソース電極111のうちの、一方がゲート電極115と同じ面に形成され、他方がゲート電極115の形成面(表面)と対向する裏面に形成される。
【0056】
トランジスタセル100を縦型にすることで、ドリフト層が広く低抵抗にできるので、パワーエレクトロニクスの分野において好適に使用できる。より詳しくは、MOSトランジスタとして縦型構造のものを採用すれることで、半導体デバイス200とした場合に、チップ全体に電流を流すことができる。これにより、高い電流密度が得られ、オン抵抗が小さくなり、結果的に発熱ロスの小さい高効率な信号増幅回路300(図5A参照)を実現できる。
【0057】
なお、縦型構造を採用した場合、電極間の寄生容量が増えるため、高周波応答性が鈍化し、高周波特性が劣化する傾向にある。そのため、従来は、縦型構造は、高周波デバイスとして採用されないことが多かった。しかしながら、酸化ガリウムの場合は、6つの結晶相があり、それぞれ異なる誘電率を持つ。そこで、例えば、誘電率の低い結晶相にて縦型構造のトランジスタを構成することで、電極間の寄生容量を低減し、高周波デバイスとして使用することが可能になる。
【0058】
また、トランジスタセル100を縦型にすることで、ソース電極111の裏面ビア(穴あけ)が不要となり、製造プロセスの簡素化、デバイスの低コスト化が実現できる。
【0059】
-実装例-
図4図4A,4B)は、図1のトランジスタセル100が実装例を示したイメージ図である。
【0060】
図4Aでは、トランジスタセル100は、表面(図1の上面)が上向きになるように、パッケージ160内に実装される。より詳しくは、トランジスタセル100は、ダイパッド161の表面(図4Aの上面)に基板101の裏面が接するように載置された状態で、パッケージ160に封入される。ダイパッド161と基板101とは、AuSnまたは半田等のダイボンド材162で接合される。
【0061】
図4Aにおいて、トランジスタセル110は、層間絶縁層120を貫通配線してゲート電極115(図1参照)に電気的に接続されるゲート電極パッド117と、層間絶縁層120を貫通配線してドレイン電極113(図1参照)に電気的に接続されるドレイン電極パッド118を設けている。ゲート電極パッド117は、金ワイヤ119によりパッケージ160の入力端子165に接続され、ドレイン電極パッド118は、金ワイヤ119によりパッケージ160の出力端子166に接続される。
【0062】
図4Bは、反転実装の一例を示す。図4Bでは、トランジスタセル100は、裏面(図1の下面)が上向きになるように、パッケージ160内に実装される。より詳しくは、トランジスタセル100は、図1の状態から上下を反転させて、ダイパッド161の表面(図4Aの上面)に基板101の裏面が接するように載置された状態で、パッケージ160に封入される。ダイパッド161と基板101とは、AuSnまたは半田で接合される。図4Bにおいても、図4Aと同様に、トランジスタセル110は、金ワイヤ119によりパッケージ160の入力端子165に接続されたゲート電極パッド117と、金ワイヤ119によりパッケージ160の出力端子166に接続されたドレイン電極パッド118を備える。ゲート電極パッド117は、基板101を貫通配線してゲート電極115(図1参照)に電気的に接続される。ドレイン電極パッド118は、基板101を貫通配線してドレイン電極113(図1参照)に電気的に接続される。
【0063】
図4Bに示すように、熱伝導層122側の表面を、ダイパッド161側(土台側)に向けて接合することで、チャネル(酸化ガリウム層103)で発熱した熱は、熱伝導層122を介してダイパッド161へと伝達され、そこから放熱される。このように、トランジスタセル100で発生した熱をより確実に逃がすことができるので、後述する半導体デバイス200(図5C参照)の信頼性が大きく向上する。
【0064】
なお、ダイパッド161が、例えばヒートシンクのような放熱部材(図示省略)に熱接合されている場合、ダイパッド161からヒートシンクへと熱が伝わるので、より効果的に放熱される。
【0065】
≪半導体デバイス≫
以下の説明では、前述のトランジスタセル100を用いた半導体デバイス200について説明する。
【0066】
-信号増幅回路-
ここでは、信号増幅回路300が実装された半導体デバイス200について図5図5A~5G)を参照しつつ説明する。
【0067】
図5Aは、信号増幅回路300の一例を示す回路図である。
【0068】
信号増幅回路300は、後述する入力整合回路412に接続された入力整合回路320と、複数のトランジスタセル100で構成されたトランジスタセルユニット330と、後述する出力整合回路416に接続された出力整合回路340とを備える。
【0069】
なお、信号増幅回路300を高周波デバイスに適用する場合、トランジスタセルユニット330の性能を引き出すために、トランジスタセルユニット330と入出力のインピーダンスと、入力側及び出力側に構成される周辺回路のインピーダンスとのインピーダンス整合が不可欠になる。
【0070】
さらに、信号増幅回路300の出力を上げるために、トランジスタセルユニット330を構成するトランジスタセル100を数多く(複数個)並列配置する場合がある。そうすると、これに伴ってトランジスタセルユニット330の入力及び出力のインピーダンスが低くなる。
【0071】
そこで、図5Aでは、50[W]以上の高出力な場合を想定して、高周波特性を最大化するために、インピーダンス整合回路での損失を低減する目的で、トランジスタセルユニット330の直近に入力整合回路320及び出力整合回路340を配置している。
【0072】
ここで、50[W]以上の高出力のデバイスの場合、入出力インピーダンスが低く、50[Ω]系で構成される周辺回路とインピーダンスを整合させるための整合回路の規模が大きくなる傾向がある。そのため、入力整合回路320及び出力整合回路340をトランジスタセルユニット330と同じパッケージの内部に配置し、モジュール380(図11参照)を構成するプリント基板378上で中間インピーダンスから50[Ω]までインピーダンスを変換する入力整合回路412及び出力整合回路416を配置している。
【0073】
図5Bは、信号増幅回路300が搭載された半導体デバイス200の実装イメージを示す平面図、すなわち、信号増幅回路300の構成例であり、図5Cは、同実装イメージを示す側面図である。ここでは、GaN-on-SiのHEMT(High Electron Mobility Transistor)構造の半導体デバイス200を例示している。
【0074】
トランジスタセルユニット330は、シリコンの表面にGaNを結晶成長させた基板の表面 (GaN部分) に素子を形成したものである。
【0075】
図5B及び図5Cでは、入力整合回路320と出力整合回路340とトランジスタセルユニット330が同一パッケージに実装される。また、入力端子310と入力整合回路320の入力との間、入力整合回路320の出力とトランジスタセルユニット330の入力との間、トランジスタセルユニット330の出力と出力整合回路340の入力との間、及び、出力整合回路340の出力と出力端子350との間が、それぞれ、ボンディングワイヤ370を用いたワイヤボンディングにより電気的に接続される。そして、入力整合回路320、トランジスタセルユニット330及び出力整合回路340は、樹脂222でパッケージされる。
【0076】
入力整合回路320及び出力整合回路340は、整合損失の影響が少なくなる程度の中間的なインピーダンスへ整合する。入力整合回路320及び出力整合回路340の具体的構成は特に限定されない。入力整合回路320と出力整合回路340とは、同じ構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
【0077】
例えば、入力整合回路320は、シリコン基板上に酸化膜を介して電極パッドを設け、電極パッドとダイパッド間の容量成分(MOSCAP)とボンディングワイヤ370のインダクタンスによりインピーダンスが変換される構成にしてもよい。また、ダイパッドに代えて低抵抗のシリコン基板を用いてもよい。
【0078】
例えば、出力整合回路340は、Al基板上にパターン配線によりストリップラインを構成し、その特性インピーダンスとパターンの長さを調整してインピーダンスを変換する構成にしてもよい。
【0079】
ダイパッド220は、パッケージ260が、中空のセラミックキャップで封止するセラミックタイプのパッケージ場合、セラミックとベース材の応力調整の観点から、例えば、銅/モリブデン/銅の積層構造で構成される。中空のセラミックキャップは、高周波かつ高出力のデバイスに好適に利用できる。
【0080】
ダイパッド220の上面には、入力整合回路320、トランジスタセルユニット330及び出力整合回路340をダイパッド220に接合するためのダイボンド材224が設けられる。ダイボンド材224は、例えば、銅または銅を主成分とした合金(Sn、Fe、Zr等)で形成される。
【0081】
なお、例えば、シリコンや酸化ガリウムのように融液から単結晶ウェハを生成できる半導体材料であれば、比較的容易に大口径ウェハが低コストで生産できる。そのため、トランジスタセルユニット330、入力整合回路320及び出力整合回路340を同一のダイパッド220上に構成しても、基板コストのアップはさほど大きくなく、逆に高集積化による低コスト化や小型化・省資源化が実現できる。
【0082】
また、ダイパッド220として、酸化ガリウムのように熱伝導率の低い材料を用いてもよい。そうすることで、トランジスタのように発熱する部分が存在するケースであっても、その熱が他の部分へ伝わることによる不具合の発生を抑制できるという効果が得られる。
【0083】
以下において、図5D及び図5Eを参照して、それぞれの構成についてより具体的に説明する。ここで、図5Dは整合回路の回路図であり、図5E図5Dに示す整合回路の具体的な構成例である。
【0084】
(入力整合部)
図5Dは、入力整合回路320をIPD(Integrated Passive Device)で構成した場合の等価回路図である。端子部310は、後述するプリント基板378(図11参照)と、半導体デバイス200の入力端子310、すなわち、信号増幅回路300の入力整合回路320の入力とをボンディングワイヤ370(例えば、金ワイヤ)で接続するためのワイヤボンド領域である。なお、図示しないが、入力整合回路320をMOSCAPで構成してもよい。
【0085】
図5Dでは、入力整合回路320は、破線枠321,322で示すように、直列接続したインダクタと並列接続したキャパシタにより構成し、インピーダンスを変換している。また、複数の経路に分岐して破線枠321,322の構成を配置し、経路間に抵抗323,325を配置することで、ループパスが利得を持つことに起因する異常発振等を抑制する効果がある。
【0086】
図5Eには、端子部310、入力整合回路320及びトランジスタセルユニット330の実装イメージを示す。
【0087】
図5Eは、図5Dの破線枠321,322内のインダクタをボンディングワイヤ370のインダクタンスにより構成している。また、破線枠321,322内のキャパシタをシリコンやセラミック基板上に構成した電極パターン(図示省略)とダイパッド220や基板間の容量成分により構成している。異常発振を抑制するための抵抗323,325は、電極パターン間に薄膜抵抗を成膜し構成している。
【0088】
(トランジスタセルユニット)
図5Fは、トランジスタセルユニット330のチップレイアウトの一例を示している。図5Fはチップレイアウトの断面図であり、図5Gは平面図である。
【0089】
トランジスタセルユニット330は、複数のトランジスタセル100をダイパッド220の表面に並べて配置し、隣接するトランジスタセル100のソース電極111同士またはドレイン電極113同士を共通化した構成になっている。
【0090】
このように、複数のトランジスタセル100を有するトランジスタセルユニット330にすることで、個々のトランジスタセル100に流れる電流値は自ずと小さくなり、それに伴って個々のトランジスタセル100からの発熱量も抑制される。すなわち、トランジスタセルユニット330の構成にすることで、単一のトランジスタセル100で同じ特性を実現する場合と比較して、分散により動作温度が適正化され高効率化することで発熱量が抑制される。これにより、放熱のための部材が不要になったり、機器の信頼性向上が実現できる。
【0091】
加えて、トランジスタセルユニット330にすることで、個々のトランジスタセル100のゲート幅を短くすることができるので、発熱個所を分散することができる。これにより、冷却が容易になり、冷却機構を簡素化することができる。
【0092】
さらに、例えば、トランジスタセルユニット330に、酸化ガリウムのように熱伝導率の低い材料を用いることで、各トランジスタセル100で発生した熱が隣接するトランジスタセル100に熱的な影響を及ぼすことが少なくなる。これにより、小さなトランジスタセル100を狭ピッチで配置することが可能となり、結果として半導体デバイス200や、その半導体デバイス200を搭載した電波発生装置400(図7参照)のさらなる小型化に加え、省資源化・低コスト化が実現できる。
【0093】
(出力整合部)
出力整合回路340は、入力整合回路320と同様に、IPDやMOSCAPで構成することができる。
【0094】
一般的に、トランジスタセルユニット330の出力インピーダンスは、入力インピーダンスに比べて、容量性の大きなリアクタンスをもつことが多い。そのため、リアクタンス成分をキャンセルするあるいは誘導性のリアクタンスに変化するまでは、並列容量を配置しないことが望ましい。
【0095】
-半導体デバイスの他の実装例-
上記の説明では、セラミックタイプのパッケージを用いた場合の半導体デバイス200の構成例を示したが、半導体デバイス200の実装方法はこれに限定されない。以下の説明では、半導体デバイスの他の実装例について説明する。
【0096】
(リードフレームへの実装)
図6図6A,6B)は、信号増幅回路300が搭載された半導体デバイス200のリードフレーム390への実装イメージを示す図である。図6Aは、その実装イメージを示す平面図であり、図6Bは、同実装イメージを示す側断面図である。図6Bにおいて、396はプリント基板であり、398はプリント基板396上の回路パターンである。
【0097】
一般的に、セラミックパッケージは、プレス加工が困難なため、個別で実装及びワイヤボンディング、封止工程が実施される。これに対し、図6に示すようなリードフレーム390への実装であれば、多連配置されており、実装や封止などのいくつかの工程でバッチ処理が可能となる。これにより、スループットが大幅に改善する。加えて、封止材392の素材が樹脂になるため、構成部材のコストも低減する。
【0098】
従来、高周波デバイスは半導体デバイスでの発熱を効果的にヒートシンクへ伝導させるために、ダイパッドは、熱伝導率の高い金属で構成される。特に、50[W]以上の高出力のデバイスにおいては、より熱抵抗を低減するために1[mm]程度の厚さにする場合が多い。しかしながら、酸化ガリウムを使用することで、放熱の必要性が低減されることから、50[W]以上の高出力な高周波デバイスであってもリードフレームのように、入出力端子と同程度に薄肉化して使用することができる。
【0099】
(ダイパッドへのはんだ付け)
半導体デバイス200のチップをダイパッド材222に直接半田付けする構成としてもよい。
【0100】
従来、高出力の高周波デバイスは、熱伝導の観点からはんだを使用せず、AuSnなどの熱伝導率の高い材料が使用されていた。酸化ガリウムを使うことで、放熱が不要になるため、ダイボンド材の熱伝導性を問わなくなる。
【0101】
半田は、AuSnと比べ材料費が安価になるうえ、接合温度が低いため、ダイボンド工程における応力の緩和につながり、設計の自由度が向上する。
【0102】
また、図6Bに示すように、トランジスタチップもしくはトランジスタチップおよび同一基板上に構成した周辺回路をプリント基板396に直接ボンディングし、封止材392で樹脂モールドすることで、パッケージに代わって樹脂モールドが半導体チップや周辺回路を保護する。パこれにより、パッケージ(PKG)が不要となるので、構成が簡素化でき、低コスト化・省資源化が実現できる。
【0103】
≪電波発生装置≫
図7の上段において、電波発生装置400の構成例を示す。
【0104】
電波発生装置400は、発振器402と、位相器404と、デジタル減衰器406と、多段増幅器408と、方向性結合器410とを備える。図7上段の実施例では、多段増幅器408の前段アンプ604及び後段アンプ608に、本開示に係るワイドバンドギャップ半導体を用いている。
【0105】
-発振器-
発振器402は、低レベルの高周波信号を生成させるブロックである。発振器402で生成される高周波信号の発振周波数は、任意に設定することができる。例えば、2.4~2.5[GHz]のISM(Industry Science and Medical)バンドにおいて、100[kHz]ステップに任意に設定できるように構成してもよい。
【0106】
-位相器-
位相器404は、発振器402の信号位相を任意の発振位相に変換する。発振器402における周波数任意設定と、位相器404による位相制御により、最終的に信号発生器401(後述する電波信号発生部810に相当)から出力される信号の周波数と位相を制御する。
【0107】
-デジタル減衰器-
デジタル減衰器406は、通過する高周波電力の減衰量を制御して、多段増幅器408へ入力する信号レベルを任意に調整する。最終的に、信号発生器401から出力される電力レベルを制御するブロックである。
【0108】
-多段増幅器-
図8は、多段増幅器408の構成例を示すブロック図である。
【0109】
多段増幅器408は、デジタル減衰器406から出力された高周波信号を電波発生装置400の出力レベルまで電力を増幅させる。
【0110】
多段増幅器408は、入力整合回路412と、ゲートバイアス回路414と、多段増幅回路600と、出力整合回路416と、ドレインバイアス回路418とを備える。
【0111】
(入力整合回路)
入力整合回路412は、デジタル減衰器406の出力と多段増幅回路600(半導体デバイス500)の入力との間のインピーダンス整合をとるための回路である。
【0112】
(ゲートバイアス回路)
ゲートバイアス回路414は、抵抗素子413を介して入力整合回路412と多段増幅回路600(半導体デバイス500)の入力との間に接続される。ゲートバイアス回路414は、入力としてゲート電圧を受けて、そのゲート電圧に基づいて半導体デバイス500の入力にゲートバイアス電圧を供給する。ゲートバイアス回路414の出力は、第1整合回路602を介して、以下に示す前段アンプ604を制御する。
【0113】
ゲートバイアス回路415は、第2整合回路606を介して、以下に示す後段アンプ608を制御する回路である。
【0114】
(多段増幅回路[半導体デバイス])
本実施形態では、多段増幅回路600として、前段アンプ604と、後段アンプ608とを備える2段増幅器を例示している。多段増幅回路600の入力と前段アンプ604との間には、第1整合回路602が設けられ、前段アンプ604と後段アンプ608との間には、第2整合回路606が設けられる。そして、後段アンプ608の出力が、多段増幅回路600の出力として外部に出力される。なお、図示しないが、後段アンプ608の出力が50[W]を超えるレベルの場合、半導体デバイス500(図8の破線内)において、後段アンプ608の出力側に整合回路を設けるのが好ましい。
【0115】
図9図9A,9B)には、多段増幅回路600の半導体デバイス500への実装例を示している。図9の例では、第1整合回路602、前段アンプ604、第2整合回路606及び後段アンプ608を同一基板上に配置し、それらを直列に接続している。前段アンプ604及び後段アンプ608には、それぞれ、前述の図5Fに示したように、複数のトランジスタセル100で構成されたトランジスタセルユニット330が用いられる。
【0116】
ここで、図8及び図9において、610は多段増幅回路600の入力端子であり、650は多段増幅回路600の出力端子である。図9Aにおいて、670は各構成要素間の接続に用いられるボンディングワイヤ(金ワイヤ)であり、690はリードフレームである。図9Bにおいて、696はプリント基板であり、698はプリント基板696上の回路パターンである。
【0117】
第1整合回路602は、半導体デバイス500の入力側における外部回路のインダクタンスと前段アンプ604のインピーダンスとを整合させ、高周波信号の経路損失を低減させる回路である。具体的な構成例としては、配線間容量や基板を介してダイパッドとの容量を配線パターンで形成し、接続する金ワイヤ670のインダクタンスと合わせてインピーダンス変換を行う。
【0118】
前段アンプ604は、ゲート電極に入力された高周波信号を所定のレベルへ増幅して出力する。
【0119】
第2整合回路606は、前段アンプ604の出力インピーダンスと後段アンプ608の入力インピーダンスを整合させ、高周波信号の経路損失を低減させる回路である。具体的な構成例としては、配線パターンによりストリップラインや容量パターンを形成し、ワイヤボンディングすることで金ワイヤ670のインダクタンスと合わせてインピーダンス変換を行う。
【0120】
後段アンプ608は、前段アンプ604にて所定のレベル増幅された高周波信号を、最終的な出力レベルまで増幅して出力する。
【0121】
このように構成された多段増幅回路600では、微小な電波信号が複数段に分けて増幅される。例えば、前段アンプ604で0.1[mW]が10[W]に増幅され、さらに後段アンプ608でこの10[W]が250[W]に増幅される。このように、複数段に分けて増幅をすることにより、各段の利得を制限することで、異常発振などのモードが立ちにくくなり、動作を安定させることができる。さらに、それぞれのアンプ(前段アンプ604、後段アンプ608)での増幅率が小さいので発熱量も抑制できる。
【0122】
なお、多段増幅回路600の段数は、2段に限定されず、必要な出力に応じて段数を3段以上に増やしてもよい。
【0123】
また、図9Bに示すように、第1整合回路602、前段アンプ604、第2整合回路606及び後段アンプ608を同一基板(ここでは、同一のリードフレーム690)上に配置し、同一のパッケージ内に実装している。これにより、従来であれば、図14の比較例に示すように、プリント基板上に配置される整合回路を、図14の実施例に示すように半導体デバイス500に集約することができるので、電波発生装置400を小型化することができる。すなわち、図9Bのような構成にすることで、前段アンプ604及び後段アンプ608をそれぞれ個別にパッケージングする場合(図14の比較例の破線枠参照)と比較して、パッケージを1つにすることができるので、部材のコスト、加工コストが削減される。さらに、トランジスタセルユニット330の直近に整合回路(第1整合回路602、第2整合回路606)を配置するため、低損失(高利得・高効率)になる。ここで、図14では、出力整合回路416の後段にカプラ検出回路419が接続された例を示している。
【0124】
なお、上記実施形態では、前段アンプ604の出力整合回路と、後段アンプ608の入力整合回路を第2整合回路606で兼ねる構成とすることで簡素化を図っているが、それぞれを別々の整合回路で構成してもよい。
【0125】
なお、一般的に、パワーデバイスは一般の半導体デバイスに比べ、デバイスの製造コストに占める基板(ウェハ)の割合が大きく、例えばバンドギャップの大きい半導体材料として取り上げられる炭化ケイ素の基板コストは、一般的なシリコンの10数倍、また窒化ガリウムに至っては数百倍に達すると言われる。これは製造方法の違いによるもので、シリコンウェハは融液からバルク単結晶を成長させて生成するのに対し、炭化ケイ素と窒化ガリウムは融液を得ることがきわめて難しいため、サファイアウェハを代替基板として使うなどしてコスト抑制しているが、量産性が低く大面積化が難しい。これに対して、本開示でワイドバンドギャップ半導体として使用される酸化ガリウムは、シリコンやサファイアと同様に融液からバルク単結晶を生成できるため、安く大面積化することが可能となる。
【0126】
(出力整合回路)
出力整合回路416は、多段増幅回路600(半導体デバイス500)の出力と方向性結合器410の出力との間のインピーダンス整合をとるための回路である。
【0127】
(ドレインバイアス回路)
ドレインバイアス回路416は、前段アンプ604のドレイン電極に接続されて、前段アンプ604を駆動させる。なお、前段アンプ604と後段アンプ608が、同一材料系のトランジスタで構成される場合は、ドレイン電圧を共通化することができる。
【0128】
ドレインバイアス回路418は、多段増幅回路600(半導体デバイス500)の出力と出力整合回路416との間に接続される。ドレインバイアス回路418は、入力としてドレイン電圧を受けて、そのドレイン電圧に基づいて半導体デバイス500の出力端子504にドレインバイアス電圧を供給する。ドレインバイアス回路418の出力は、後段アンプ608のドレイン電極に接続され、後段アンプ608を駆動させる。
【0129】
-方向性結合器-
図7に戻り、方向性結合器410は、高周波信号の一部を結合させて取り出し、電力検出回路などに接続する。これにより、順方向へ通過及び逆方向へ反射する電力レベルをそれぞれ検知する。例えば、検出レベルを想定値と比較し、必要に応じて発振器や位相器、デジタル減衰器などにフィードバックして制御する。
【0130】
なお、図7の下段には、比較例として、多段増幅器908をワイドバンドギャップ半導体を用いずに構成した例を示す。図7下段に示すように、比較例の電波発生装置900は、発振器402に相当する発振器902と、位相器404に相当する位相器904と、デジタル減衰器406に相当するデジタル減衰器906と、方向性結合器410に相当する方向性結合器910とを備える。さらに、比較例の電波発生装置900では、上記の構成に加えて、サーキュレータ912及び方向性結合器914を設ける必要があるが、本開示の構成にすることで、サーキュレータ912及び方向性結合器914に相当する構成を設ける必要がない。
【0131】
-モジュールの実装例-
図10には、アルミ等で形成されたモジュールケース381にプリント基板396及び図6に示した半導体デバイス500を並べて実装し、ワイヤボンド等を用いて直接ボンディングし、封止材392で樹脂モールドした例を示す。この場合、パッケージに代わって樹脂モールド(封止材392)が半導体デバイス500に実装される構成要素およびそれらの構成要素を接続している金ワイヤ(ボンディングワイヤ370)を保護する。これにより、パッケージが不要となるので、構成が簡素化でき、低コスト化・省資源化が実現できる。図10において、398はプリント基板396上の回路パターンである。
【0132】
なお、図11に示すように、多段増幅回路600が実装された半導体デバイス500をプリント基板397に直接実装して、半導体デバイス500とプリント基板397の回路パターン398とをワイヤボンド等を用いて直接ボンディングし、封止材392で樹脂モールドしてもよい。この場合においても、パッケージに代わって樹脂モールド(封止材392)が半導体デバイス500に実装される構成要素およびそれらの構成要素を接続している金ワイヤ(ボンディングワイヤ370)を保護するので、構成が簡素化でき、低コスト化・省資源化が実現できる。
【0133】
また、図11では、ダイパッド220に多段増幅回路600を実装し、プリント基板397へ実装する構成としたが、これに限定されない。例えば、酸化ガリウムを使用すると、放熱の必要性が軽減されるため、ダイパッド220を使用することなく、多段増幅回路600を直接プリント基板397へ実装してもよい。
【0134】
以上のように、トランジスタセルユニット330と同一のダイパッド220上に入力整合回路320と出力整合回路340を構成することにより、従来は、ディスクリート部品 (単機能半導体部品) で構成されていたマイクロ波回路(信号増幅回路)が、微細加工技術により単一の半導体基板上に形成される。これにより、高集積化が実現できる。
【0135】
さらに、半導体デバイス200として高集積化できることにより、モノリシックマイクロ波集積回路 (Monolithic Microwave Integrated Circuit 、略称MMIC) が実現でき、マイクロ波高周波回路の小型化・低コスト化・省資源化に加え、信頼性の向上が実現できる。
【0136】
図12には、図6の半導体デバイス500の入力側にはプリント基板378と直接ボンディングして接続する一方で、半導体デバイス500の出力端522をアンテナ430に接続し、アンテナ430から導波管432に照射波を出力する例を示す。このように、半導体デバイス500の出力端522をアンテナ構造とするとともに導波管432を接続することで、半導体デバイス500から出力された電波が確実に導波管432を通って後述する加熱機器800(図16参照)の庫内に照射される。高出力のマイクロ波の場合、基板上のパターンでは耐電力性に課題が生じるが、図12の構成を採用することでこの課題を克服することができ、さらには小型化・低コスト化・省資源化が実現できる。
【0137】
なお、半導体デバイス500の1石あたりの出力として、500[W]以上出力するようにしてもよい。本開示のように、ワイドバンドギャップ半導体を用いることで、電力密度が上がるので、必要な出力を1石で賄うことができる。また、回路が簡素化でき、小型化・低コスト化・省資源化が図れる。より詳しくは、例えば、家庭用の電子レンジであれば、800-1000[W]程度の出力があれば、十分である。従来技術において、2.4GHz帯で連続波出力する半導体は1石300[W]程度が限界となっている。ワイドバンドギャップ半導体を用いることで、1石あたり500[W]以上の出力が可能であり、例えば、家庭用の電子レンジに必要な出力を1石で賄うことができる。
【0138】
なお、ワイドバンドギャップ半導体をE級アンプに用いてもよい。図15では、ワイドバンドギャップ半導体をE級アンプ550用のトランジスタ552に用いた例を示している。E級アンプ550では、バイアス回路553からトランジスタ552のドレインへのバイアス供給ラインにインダクタンス554が設けられる。また、トランジスタ552と並列にコンデンサ555が設けられる。さらに、トランジスタ552の出力には、直列共振回路(インダクタ556とコンデンサ557の直列回路)が接続される。そして、信号発生器551からの供給信号がトランジスタ552のゲート端子に入力され、コンデンサ555の充放電によるスイッチングモードで使用する構成となっている。なお、E級アンプ550では、入力整合回路は設ける必要がなく、出力整合回路(図示省略)は設けた方がよい。
【0139】
ワイドバンドギャップ半導体を用いてこのようなE級アンプを構成することで、ハイパワーモード(例えば、数百[W]レベル)で用いることができる。ドレインのバイアスが高周波(例えば、2.45[GHz])の動作において、電圧振幅を大きく振った場合においても、耐圧が十分に高いので、ハイパワーモードでの使用に適用可能である。
【0140】
≪アプリケーション≫
ここでは、ワイドバンドギャップ半導体を用いた電波発生装置を加熱機器に適用した例を示す。
【0141】
-加熱機器の構成(1)-
図16は、加熱機器800の構成例を示すブロック図である。
【0142】
図16に示すように、本開示の第1態様に係る加熱機器800は、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号を発生させる電波信号発生部810と、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニット(例えば、前述のトランジスタセルユニット330)を用いて電波信号を増幅する信号増幅部812と、被加熱物Mを収容するための加熱室802と、信号増幅部812で増幅された電波信号を加熱室802内に照射する電波照射部814とを備える。加熱機器800は、例えば、商用電源で動作する。
【0143】
(加熱室)
加熱室802は、電波遮蔽部材で構成された内壁803(ドアガラスの内壁を含む)で囲まれた略閉空間Qとなっている。加熱室802は、ドア(図示省略)で外部からの開閉が可能になっており、ドアが開けられると加熱室802が開放され、外部から被加熱物Mの出し入れが可能になっている。なお、「遮蔽」とは、反射、吸収、多重反射等によって電波のエネルギーを滅衰させることを指す。電波遮蔽部材は、この遮蔽作用が得られるものであれば特に限定されないが、例えば、反射する材料として金属材料、吸収する材料としてフェライトゴムが例示される。
【0144】
(信号発生部)
電波信号発生部810は、前述のとおり、所定の周波数帯の電波信号を発生させる。所定の周波数帯は、例えば、被加熱物Mに誘導加熱現象が生じる周波数帯である。電波信号発生部810は、図7に示す電波発生装置400の発振器402に相当する。
【0145】
(信号増幅部)
信号増幅部812は、前述のとおり、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて電波信号発生部810で生成された電波信号を増幅する。信号増幅部812は、図7及び図8に示すような多段増幅器408(多段増幅回路600)を用いてもよいし、図5Aに示すようなシングルの信号増幅回路300を用いてもよい。
【0146】
(電波照射部)
電波照射部814は、加熱室802内に置かれた被加熱物Mに対して1[MHz]~10[GHz]程度の照射波Waを照射する。そうすると、被加熱物M(誘電体)の内部における誘電損失により熱が発生する。これにより、被加熱物Mを加熱することができる。
【0147】
なお、電波照射部814は、数[W]程度の低出力の照射波Waを安定して連続発振して被加熱物Mの加熱を続けるようにしてもよい。これにより、卵など高出力な電波では加熱できない被加熱物Mに対して、被加熱物M内で熱伝導させながら過加熱を防いだ加熱が可能となり、従来の大電力の加熱では実現できなかった低温加熱が可能となる。
【0148】
-加熱機器の構成(2)-
図17において、加熱機器800は、図16の構成に加えて、電波信号発生部810の動作を制御する制御部820を備える。
【0149】
(制御部)
制御部820は、周波数制御部822と、電力制御部824とを備える。
【0150】
制御部820は、例えば、1つ又は複数のチップで構成されたマイクロプロセッサで構成され、CPUやメモリ等を有している。メモリは、プロセッサによって実行可能なソフトウェアであるモジュールを格納している。これから説明する演算処理部及びの各部の機能は、プロセッサがメモリに格納された各モジュールを実行することによって実現される。なお、プロセッサおよびメモリは、それぞれ、複数個あってもかまわない。後述する演算処理部についても同様である。
【0151】
また、例えば、制御部820と演算処理部830とは、別々のチップもしくは別々のマイクロプロセッサで構成されてもよいし、制御部820と演算処理部830の機能が統合されて1チップで実現されてもよい。また、制御部820及び演算処理部830を構成する機能ブロックの一部または全部の機能について、ハードウェア回路で実現してもよい。
【0152】
(周波数制御部)
周波数制御部822は、電波照射部814から照射される照射波Waの周波数を制御する機能を有する。より詳しくは、周波数制御部822は、そのときの被加熱物Mに応じた最適な周波数の照射波Waが照射されるように制御する。最適な周波数とは、例えば、被加熱物Mの誘電率に応じて選択される。これにより、被加熱物Mを効率的に加熱できる。
【0153】
なお、被加熱物Mの誘電率だけではなく、大きさ、重量、被加熱物Mが収容される容器、被加熱物Mの置き位置等によっても加熱に最適な周波数は異なる。そこで、誘電率だけでなく、そのときの被加熱物Mに応じた最適な周波数にすることで、誘電率以外の違いがある場合においても、効率的な加熱が可能となる。また、同一の誘電体に対しても周波数の違いにより半減深度が異なるので、表面付近を主に加熱することが目的か、内部も加熱することが目的かにより、その目的に応じた最適な周波数に設定して加熱することは有効である。
【0154】
さらに、周波数制御部822は、加熱室内の電波分布を変えることができる。これにより、均一加熱が可能となる。周波数制御部822による制御の具体的な内容については、後ほど説明する。
【0155】
(電力制御部)
電力制御部824は、電波照射部814から照射される照射波Waの電力を制御する機能を有する。電力制御部824による制御の具体的な内容については、後ほど説明する。
【0156】
図17の構成に加えて、図19に示すような電力検知部816を設けてもよい。
【0157】
(電力検知部)
電力検知部816は、有効電力、無効電力または反射波電力のうちの少なくとも1つの電力を検知する。有効電力とは、電波照射部814から照射される照射波Waのうち、被加熱物Mの加熱に対して有効に作用する電力であり、無効電力とは、被加熱物Mの加熱に対して無効な電力を指す。反射波電力とは、吸収されたり減衰することなく加熱室802の内壁803(図23参照)で反射して戻ってくる電力を指す。
【0158】
以上をまとめると、本実施例の第2態様に係る加熱機器800は、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号SDを発生させる電波信号発生部810と、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて電波信号SDを増幅する信号増幅部812と、被加熱物Mを収容するための加熱室802と、加熱室802内に信号増幅部812で増幅された電波信号SDを受け、照射波として照射する電波照射部814と、有効電力、無効電力または反射波電力のうちの少なくとも1つの電力を検知する電力検知部816と、電力検知部816での検知結果に基づいて電波照射部814から照射される照射波Waの電力または周波数のうちの少なくとも一方を制御する制御部820とを備える。
【0159】
なお、図19では、図16の構成と比較すると、電力検知部816に加えて、演算処理部830をさらに備えているが、演算処理部830を設けない構成としてもよい。演算処理部830については、後ほど説明する。
【0160】
-照射波周波数の制御-
(有効電力/無効電力に基づく制御)
本実施例の第3態様に係る加熱機器800では、上記第2態様において、電力検知部816は、有効電力を検知し、制御部820は、有効電力が大きくなるように、電波照射部814から照射される照射波Waの周波数を制御してもよい。同様に、上記の加熱機器800において、電力検知部816は、無効電力を検知し、制御部820は、無効電力が小さくなるように電波信号SDの周波数を制御する、としてもよい。
【0161】
電力検知部816において有効電力を検知することで、被加熱物Mの加熱に対し効率的な照射波Waの照射が可能となる。なお、有効電力の検知は、有効電力を直接的に検知してもよいし、直接的ではなく演算等により有効電力を間接的に推定することをもって有効電力の検知としてもよい。無効電力についても同様である。
【0162】
また、被加熱物Mの加熱に対し効率的な周波数での電波照射が可能となり、結果として加熱時間の短縮や電気エネルギーの節約につながる。
【0163】
さらに、被加熱物Mに作用しない無効電力を減らすように制御することで、加熱機器800の省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体デバイスや回路の発熱ロスや、加熱機器全体の発熱ロスを抑制できる。
【0164】
(反射波に基づく周波数制御)
本実施例の第4態様に係る加熱機器800では、上記第1態様において、電力検知部816は、電波信号SDの加熱室802内における反射波電力を検知し、制御部820は、検知した反射波電力に基づいて、照射波Waの周波数を制御する、としてもよい。
【0165】
電力検知部816において反射波電力を検知することで、間接的に有効電力が推定できるので、被加熱物Mの加熱に対し効率的な電波照射が可能となる。なお、反射波電力に基づいて推定する有効電力は被加熱物での損失に加え、一般的な電子レンジを構成している加熱室の内壁803(図23参照)、ドアガラスでの損失も含んでいる。しかしながら、加熱室内壁803(ドアガラス含む)での損失は、被加熱物Mでの損失と比較して小さいため、有効電力を推定により求めても、被加熱物Mの効率的な加熱には十分効果がある。
【0166】
例えば、電力検知部816で検知された反射波電力を使用する場合、反射波電力が小さくなるように照射波Waの照射周波数(以下、「照射波周波数」ともいう)を設定すると対象物に作用する(吸収される)有効電力が増加する。逆に、反射波電力が大きくなるように照射波周波数を設定すると、対象物に作用しない(吸収されない)無効電力が増加する。
【0167】
そこで、周波数制御部822において、被加熱物Mが誘電体の場合に、反射波電力が小さくなるように照射波周波数を設定すると、誘電損失により被加熱物Mに発生する熱が大きくなる。逆に反射波電力が大きくなるように照射波周波数を設定すると被加熱物Mにおいて発生する熱は小さくなる。
【0168】
そこで、周波数制御部822において、反射波電力が極小となるように照射波周波数をコントロールすることで、誘電体から成る被加熱物Mを効率的かつスピーディに加熱することができる。また、反射波電力を検知しつつ照射波周波数を極小値以外の領域でコントロールすることで、被加熱物Mの加熱時における温度ムラや急激な温度上昇による破裂・変性などの不具合を解消できるなどの効果が得られる。
【0169】
また、被加熱物Mに作用しない無効な電力を減らすことができるので、加熱機器800の省エネにも大きく寄与するとともに、使用する半導体デバイスや回路の発熱ロスや、加熱機器全体の発熱を抑制できる。
【0170】
さらに、入射する電波(照射波)と反射する電波(反射波)の干渉によって電波伝送部に電界分布が生じる。このため、反射波電力が小さい条件で加熱を実施することで、加熱室への電波照射部814のアンテナおよび開口、信号増幅部812と電波照射部814を繋ぐコネクタおよびケーブル(電波伝送部に相当)に生じる電界強度を小さく抑えることができる。これにより、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことが可能となる。なお、電波伝送部は、信号増幅部812と電波照射部814の間の伝送路を指す。
【0171】
なお、電力検知部816は、センシング時に出力を下げないようにしてもよい。
【0172】
これにより、ワイドバンドギャップ型トランジスタの特長である高い耐反射波特性を活かして、高出力でのセンシングが可能となる。従来は、低い出力でセンシングを実施し反射波の周波数特性を確認していた。これは、高い出力でセンシングをした場合、反射電力が高い周波数において電波信号発生部810または信号増幅部812が焼損することを避けるためである。
【0173】
このように、電力検知部816のセンシング時も高出力の電波を照射することにより、低出力のセンシング時よりも被加熱物Mをより加熱することが可能となり、短時間で被加熱物Mを加熱することができる。また、高出力のセンシングによりSN比(信号雑音比)を大きくすることができ、小さな変化を検知することが可能となる。
【0174】
(継続的な周波数制御)
本実施例の第5態様に係る加熱機器800では、上記第4態様において、周波数制御部822は、電波照射部814により照射波Waが照射されている間、継続して電力検知部816で検知された反射波電力に基づいて照射波周波数を制御する、としてもよい。
【0175】
以下において、図18のフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0176】
ステップS10において、加熱機器800による加熱処理(電波信号SDの照射)が開始されると、電力検知部816において反射波電力が検知される(ステップS12)。電力検知部816での検知結果は、後述する記憶部832に格納される。
【0177】
次のステップS13では、周波数制御部822は、加熱条件を設定する。具体的には、周波数制御部822は、例えば、記憶部832に格納された反射波電力の検知結果を参照し、反射波電力が極小となるような電波信号SDの設定を求める。周波数制御部822では、電波信号SDの設定値を記憶部832に格納する。
【0178】
次のステップS14では、周波数制御部822は、ステップS13で求めた設定に基づいて電波信号SDを制御し、処理は、ステップS12に戻る。
【0179】
そして、電波照射部814により電波が照射されている間、ステップS12からステップS15の処理が繰り返される。これにより、電波照射部814により電波が照射されている間、継続して反射波電力に基づいて照射波周波数が制御される。
【0180】
これにより、温度が上昇することで被加熱物Mの状態や誘電率が変化した場合でも、繰り返し反射波電力が検知され、その値に基づいて照射波周波数が制御されるので、常に反射波電力が最適な状態に保たれる。
【0181】
また、例えば、被加熱物Mの温度上昇による対象物の状態・性状等の変化や何らかの外的要因による被加熱物Mの形状・載置方向等の変化で誘電率や反射波電力に変化が生じた場合でも、常に最適な周波数での電波照射が行われる。これにより、エネルギーロスが減らせ、結果的に省エネでスピーディな加熱機器の提供ができる。併せて、使用する半導体デバイスや回路の発熱ロスや、加熱機器全体の発熱を抑制できる。
【0182】
また、加熱機器800では、入射する電波(照射波)と反射する電波(反射波)の干渉によって電波伝送部に電界分布が生じる。そこで、上記の説明のように、反射波電力が小さい条件での加熱を実施することで、加熱中に継続して電波照射部814のアンテナ(図示省略)、アンテナのための加熱室802への開口、信号増幅部812と電波照射部814を繋ぐコネクタやケーブルに生じる電界強度を小さく抑えることができる。これにより、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことができる。
【0183】
(反射波電力の周波数掃引制御)
本実施例の第6態様に係る加熱機器800では、上記第4態様において、周波数制御部822は、電波信号SDの照射周波数(照射波周波数)を掃引するとともに、電力検知部816で検知された反射波電力が下限になるように照射波周波数を制御する、としてもよい。なお、ここでの「下限」とは、最下限に限定されず、下限値近傍の実質的な下限値を包含するものとする。
【0184】
このように、周波数制御部822が、反射率(=反射波電力/入射電力)を用いて反射波電力が極小となるように制御することで、加熱途中に入射電力を変えた場合においても、反射率を連続的に求めることができる。これにより、迅速にかつ効率的に被加熱物Mを加熱できる周波数を選択することが可能となる。
【0185】
また、加熱室内の被加熱物Mやドアガラスなどの誘電体によって吸収される電力が大きくなるので、ロスの少ない高効率な加熱を実現することが可能となり、省エネでスピーディな加熱をする加熱機器800の提供ができる。また、あわせて使用する半導体デバイスや回路の発熱ロスや、加熱機器全体の発熱を抑制できる。
【0186】
この場合においても、前述の「継続的な周波数制御」の場合と同様に、熱による劣化および強電界により生じる放電現象による破壊を防ぐことができる。
【0187】
なお、周波数制御部822は、電力検知部816で検知された反射波電力が最も小さい周波数のみを用いて加熱してもよい。
【0188】
なおまた、照射波周波数の掃引は、反射率の周波数特性を確認する1つの方法であり、下限から上限へ連続的に照射波周波数を掃引することは必須ではなく、例えば、ランダムに照射波周波数を変えて各照射波周波数の反射率を求め、反射率の小さな周波数を選択する場合でも同様の効果がある。
【0189】
本実施例の第7態様に係る加熱機器800では、上記第6態様において、周波数制御部822は、電波照射部814により電波信号SDが照射されている間、継続して電力検知部816で検知された反射波電力に基づいて照射波周波数を制御する、としてもよい。
【0190】
ここで、照射波周波数の掃引範囲を可変周波数全域fwとすることで、誘電率の急激な変化による追従漏れをなくし、常に最適な周波数での運転が可能になる。周波数の掃引範囲を限定することで、掃引中のロスをなくし、効率的な運転が可能になる。
【0191】
また、広域の周波数掃引と、限定的な範囲の周波数掃引とを組み合わせてもよい。具体的には、例えば、1回目の掃引で反射波電力が略下限値となるように照射波周波数f1を決定し、その後は所定の時間tごとに、所定の振り幅(例えば±Δf;Δf<fw)で照射波周波数を掃引し、反射波電力が略下限値となる周波数f2を決定することを繰り返す。これにより、掃引中のロスを最小限に抑えつつも常に最適な周波数での運転が可能になる。
【0192】
以下において、図18のフローチャートを用いて具体例を説明する。
【0193】
ステップS10において、加熱機器800による加熱処理(照射波Waの照射)が開始されると、周波数制御部822が照射波周波数を掃引する。電力検知部816では、各照射波周波数における反射波電力が検知され、その検知結果が記憶部832に格納される(ステップS12)。
【0194】
次のステップS13では、周波数制御部822は、加熱条件を設定する。より具体的には、周波数制御部822は、例えば、記憶部に格納された反射波電力の検知結果を参照し、反射波電力が下限値となる照射波周波数を選択する。このとき、複数の照射波周波数が選択されるようにしてもよい。
【0195】
次のステップS14では、周波数制御部822は、ステップS13で求めた設定に基づいて照射波周波数を制御し、加熱処理を実行する。周波数制御部822による加熱処理は継続しつつ、フローはステップS12に戻る。
【0196】
次のステップS12では、再び周波数制御部822が照射波周波数を掃引する。このとき、照射波周波数の掃引範囲を可変周波数全域fwとしてもよいし、前回のステップS13で設定された照射波周波数近傍において所定の振り幅(例えば±Δf;Δf<fw)で照射波周波数を掃引してもよい。その後のステップS13,S15は、上記の説明と同じ処理が行われる。
【0197】
そして、電波照射部814により照射波Waが照射されている間、上記のようにしてステップS12からステップS15の処理が繰り返される。これにより、電波照射部814により電波が照射されている間、継続して反射波電力に基づいて照射波周波数が制御される。
【0198】
-加熱機器の構成(3)-
本実施例の第8態様に係る加熱機器800では、上記第4態様において、電力検知部816で検知された反射波電力を記憶するための記憶部832を備える。周波数制御部822は、電波信号SDの照射周波数(照射波周波数)を掃引する。電力検知部816は、各照射波周波数における反射波電力を検知し、記憶部832に記憶する。周波数制御部822は、記憶部832に記憶された反射波電力の検知結果に基づいて、照射波周波数を制御する、としてもよい。
【0199】
具体的には、例えば、図19に示すように、加熱機器800は、図17の構成に加えて、電力検知部816と、演算処理部830を備える。なお、電力検知部816については、前述のとおりであり、ここではその詳細説明を省略する。
【0200】
(演算処理部)
演算処理部830は、記憶部832と、演算部834とを備える。
【0201】
(記憶部)
記憶部832は、各種の測定データやパラメータを一時的または恒常的に格納する機能と、演算処理部830及び/または制御部820を動作させるためのプログラムを格納するメモリとしての機能とを有する。記憶部832には、例えば、電力検知部816で検知された周波数ごとの反射波電力が記憶される。記憶部832の具体的な構成は、特に限定されず、演算処理部830及び/または制御部820と同じチップに搭載されたRAMやROM等のメモリを記憶部として用いてもよいし、HDDやSDDのようにチップ外部に外付けされた記憶媒体を記憶部832として用いてもよい。
【0202】
(演算部)
演算部834は、記憶部832に記憶されたプログラムに基づいて各種の演算を行う。例えば、演算部834は、加熱室802での積算損失電力を周波数毎に演算する機能を有する。演算部834での演算処理については、後ほど説明する。
【0203】
-照射波周波数の制御-
(検知対象の限定制御)
本実施例の第9態様に係る加熱機器800では、上記第8態様において、電力検知部816は、反射波電力に加えて、照射波Waの有効電力及び/または無効電力を検知する。周波数制御部822は、被加熱物Mがない状態で照射波Waの照射周波数(照射波周波数)を掃引する。電力検知部816は、各照射波周波数における反射波電力を検知し、原点周波数として記憶部832に記憶する。周波数制御部822は、原点周波数に基づいて、照射波周波数を制御する、としてもよい。
【0204】
また、周波数制御部822は、被加熱物Mの電波吸収電力量を算出し、目標電力量になったら調理条件を変更したり、加熱を終了する。これにより、被加熱物Mのみに対する有効電力を検知することができる。したがって、被加熱物Mの適温加熱が可能となる。
【0205】
以下において、図20のフローチャートを用いて具体例を説明する。
【0206】
加熱機器800による加熱処理(電波信号SDの照射)が開始される前、すなわち、被加熱物Mがない状態で周波数制御部822が照射波周波数を掃引する。電力検知部816では、各照射波周波数における反射波電力が検知され、その検知結果が原点周波数として記憶部832に格納される(ステップS22)。原点周波数とは、被加熱物Mがない状態での反射波周波数を指す。
【0207】
次のステップS23では、周波数制御部822は、加熱条件を設定する。より具体的には、周波数制御部822は、例えば、記憶部832に格納された原点周波数に基づいて照射波周波数を設定する。
【0208】
次のステップS25では、周波数制御部822は、ステップS23の設定内容に基づいて照射波周波数を制御し、加熱処理を実行する。
【0209】
次のステップS26では、例えば、周波数制御部822は、あらかじめ定められた目標電力量になったかどうかを判定し、その判定結果に基づいて、調理を継続(調理条件の変更を含む)するか、加熱を終了するかを判定する。加熱終了と判定された場合、フローはステップS27に進み、加熱処理が終了される。一方で、調理を継続する場合、フローはステップS25に戻る。そして、加熱処理が終了と判定されるまで、ステップS25とS26とが繰り返される。
【0210】
第9態様によると、加熱室802の壁面損失の多い周波数を除外し、その他の高効率な周波数を選択して加熱することにより、被加熱物Mの高効率加熱が可能となる。さらに、被加熱物Mがない状態で照射周波数を掃引することにより、壁面損失を推定し、被加熱物Mの電波吸収電力量を精緻に算出することができる。そして、目標の電力量になったら調理条件変更または加熱を終了することで、被加熱物Mの適温加熱が可能となる。
【0211】
なお、照射波周波数の掃引は、反射率の周波数特性を確認する1つの方法であり、下限から上限へ連続的に照射波周波数を掃引することは必須ではなく、例えば、ランダムに照射波周波数を変えて各照射波周波数の反射率を求め、反射率の小さな周波数を選択する場合でも同様の効果がある。
【0212】
(被加熱物の状態に基づく制御)
本実施例の第10態様に係る加熱機器800では、上記第4態様において、電力検知部816は、検知された反射波電力の変化に基づいて被加熱物Mの状態変化を検知する。制御部820は、電力検知部816で検知された被加熱物Mの状態に応じて照射波Waの電力または周波数のうちの少なくとも一方を制御する、としてもよい。
【0213】
電力検知部816で検知される被加熱物Mの状態変化は、特に限定されないが、例えば、被加熱物Mの沸騰、融解、膨化、解凍、乾燥、弾け等を含む。また、照射波の制御とは、照射波Waの照射/停止、照射波Waの周波数変更、照射波の出力電力の調整等を含む。
【0214】
加熱機器800において、加熱が進行することで、沸騰・膨化など被加熱物の揺れ・形状変化が起こったり、融解・乾燥など被加熱物Mの急激な誘電率変化が生じる場合がある。これらの変化により、被加熱物Mのマイクロ吸収特性が変わるため、電力検知部816で検知される反射波の反射率にも変化が生じる。被加熱物Mの状態が変化した時点で加熱条件を変更または加熱を終了することにより、加熱の過不足を緩和し、高品位な仕上がりに近づけることに有効である。
【0215】
従来は、予め加熱条件の変更時間および終了時間を決めて調理するか、熱電対により加熱室内の温度を測定して加熱条件の変更および終了をしていた。そのため、被加熱物Mの重量、容器、初期温度が想定と異なっていた場合に、加熱の過不足が生じやすく高品位な仕上がりの自動調理は実現できていなかった。しかし、本態様のように、被加熱物Mの状態を検知し、その検知結果に基づいて照射波Waを制御することで高品位な仕上がりの自動調理が可能となる。
【0216】
なお、被加熱物Mに関する被加熱物情報(例えば、被加熱物Mの重量、温度、種類等の情報)がわかれば、被加熱物Mの状態変化検知の精度はさらに向上する。そこで、加熱機器800に被加熱物情報を取得するためのセンサ(図示省略)を設けてもよい。
【0217】
また、電力検知部816で検知した反射波電力と照射波電力の関係から例えば反射率(=反射波電力/照射波電力)のようなものを演算し、フィードバック情報として用いることで、さらに精度の向上が図れる。
【0218】
なお、本態様において、被加熱物Mの状態変化の検知には、周波数平均の変化により検知する場合と、各周波数毎の変化により検知する場合の両方が含まれる。また、被加熱物Mの状態変化の検知と判断の方法の一例としては、任意の時間当たりの反射率の変化度・標準偏差などが予め設定した閾値を超えた場合に、被加熱物Mに状態の変化があった検知とする方法がある。
【0219】
また、加熱機器800が、電波照射部814に加えて、輻射加熱源、熱風対流加熱源、スチーム加熱源など電波加熱源以外の加熱源を有している場合、前述の反射率により被加熱物Mの状態を検知し、電波照射部814以外の加熱源の加熱条件を変更または加熱終了するようにしてもよい。
【0220】
以下、具体例を示しつつ説明する。
【0221】
<沸騰検知に基づく処理>
図21は、被加熱物Mの状態変化として被加熱物Mの沸騰状態を検知し、その検知結果に基づいて照射波Waを制御する例についてのフローチャートを示している。
【0222】
まず、ステップS30において、加熱機器800による加熱処理(電波信号SDの照射)が開始されると、電力検知部816では、反射波電力が検知される(ステップS32)。なお、ステップS32の検知動作において、前述の照射波周波数の掃引をしながらの検知処理をおこなってもよい。図22にその一例を示す。
【0223】
図22のステップS321において、加熱機器800による加熱処理(照射波Waの照射)が開始されると、周波数制御部822が照射波周波数を掃引する。次のステップS322では、電力検知部816では、各照射波周波数における電力が検知される。このときに検知される電力は、反射波電力であってもよいし、反射波電力と入射電力であってもよい。反射波電力と入射電力を検知することで、反射率を求めることができる。そして、次のステップS323において、その検知結果情報が記憶部832に記録される。検知結果情報として何を記録するかは、特に限定されないが、例えば、反射電力、入射電力、位相、周波数、経過時間等が含まれる。ステップS323が終わると、検知処理は終了となり、処理は図21に戻る。
【0224】
図21に戻り、次のステップS35では、制御部820は、照射波Waの電力及び/または周波数を制御しつつ、加熱処理を実行する。このとき、例えば、記憶部832に格納された検知結果を用いてもよい。
【0225】
ステップS36では、ステップS35での加熱処理を継続しつつ、被加熱物Mの沸騰状態の変化がないかを検知する沸騰状態の把握処理を実行する。
【0226】
次のステップS37では、被加熱物Mの沸騰状態に基づいて、加熱を継続するか、加熱を終了するかを判定する。被加熱物Mの沸騰状態は、例えば、被加熱物Mの表面の揺れ等を検知することで把握することができる(図23参照)。
【0227】
ステップS37において、加熱終了と判定された場合、フローはステップS38に進み、加熱処理が終了される。一方で、調理を継続する場合、フローはステップS32に戻り、前述の反射波電力の検知処理が実行される。そして、ステップS37で加熱処理が終了と判定されるか、あらかじめ設定された加熱時間が経過するまで、ステップS32からS37の処理が繰り返される。
【0228】
<形状変化検知に基づく処理>
図24は、被加熱物Mの状態変化として被加熱物Mの形状変化(例えば膨化状態)を検知し、その検知結果に基づいて照射波Waを制御する例についてのフローチャートを示している。ここでは、図21との相違点を中心に説明する。
【0229】
図24では、ステップS32とステップS35の処理は、図21の場合と同じである。
【0230】
図24において、ステップS35の加熱処理が開始されると、ステップS39において、ステップS35での加熱処理を継続しつつ、被加熱物Mの膨化状態の変化がないかを検知する膨化状態の把握処理を実行する。
【0231】
次のステップS37では、被加熱物Mの膨化状態に基づいて、加熱を継続するか、加熱を終了するかを判定する。被加熱物Mの膨化状態は、例えば、被加熱物Mの形状変化に基づく誘電率の変化を検知することで把握することができる(図25A参照)。その後の処理は、図21の場合と同じである。
【0232】
なお、被加熱物Mの形状変化は、膨化に限定されず、図25Bに示すような、被加熱物Mの弾けも含まれる。この場合においても、ステップS39において、ステップS35での加熱処理を継続しつつ、被加熱物Mの弾け等による形状変化や、置き位置の変化がないかを検知する形状の把握処理が実行される。
【0233】
また、被加熱物Mの状態変化として、図25Cのハッチングで示すように、被加熱物Mの融解や解凍等による被加熱物Mの局所的な誘電率の急激な上昇がある場合に、その誘電率の変化を検知してもよい。また、図25Dのハッチングで示すように、被加熱物Mが乾燥して被加熱物Mの誘電率が低下するような場合に、その誘電率の変化を検知してもよい。
【0234】
-加熱機器の構成(4)-
なお、電波照射部814の数は、1つに限定されず、複数であってもよい。
【0235】
本開示の第11態様に係る加熱機器800は、被加熱物Mを収容するための加熱室802と、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号W1を発生させる電波信号発生部810と、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて電波信号発生部810で生成された電波信号W1を増幅する信号増幅部812と、加熱室802内に信号増幅部812で増幅された電波信号を照射する複数の電波照射部814とを備える。なお、電波信号発生部810は、図32に示すように、複数の電波照射部814に対して1つ設けてもよいし、図33に示すように、それぞれの電波照射部814に一対一対応するように設けてもよい。同様に、信号増幅部812は、図32図42図42A,42B)に示すように、それぞれの電波照射部814に一対一対応するように設けてもよいし、図34図34A,34B)に示すように、複数の電波照射部814に対して1つ設けてもよい。
【0236】
また、図32及び図33に示すように、本開示の第12態様に係る加熱機器800は、上記第11態様において、それぞれの加熱ユニット804の電波照射部814について、照射波Waの周波数帯が互いに等しく、かつ、位相が互いに異なるように制御する位相制御部826を備える、としてもよい。
【0237】
本開示の第13態様に係る加熱機器800は、上記第12態様において、少なくとも反射波電力を検知する電力検知部816を備える、としてもよい。
【0238】
図26には、2つの電波照射部814を設けた例を示している。より詳しくは、図26において、加熱機器800は、加熱室802と、2つの加熱ユニット804とを備える。それぞれの加熱ユニット804は、電波信号発生部810と、信号増幅部812と、電波照射部814と、電力検知部816と、制御部820と、演算処理部830とを備える。なお、電波信号発生部810、信号増幅部812、電波照射部814、電力検知部816及び制御部820は、図19の場合と同じなので、ここではそれぞれのブロックについての詳細説明を省略する。
【0239】
複数の加熱ユニット804を設けることで、互いに異なる周波数の電波信号SDを選択的に生成し、互いに周波数の異なる照射波Waを加熱室802内に照射することができる。これにより、誘電率の異なる複数種類の被加熱物Mや、氷と水のように状態の異なる同一対象物等に対しても電波が効率的に吸収されるようになる。
【0240】
以下、具体的に図面を参照しつつ説明する。
【0241】
図28は、図27のモデルを使用してシミュレーション解析を行った例を示している。より詳しくは、図28では、単一の電波照射部814を用いて、所定時間の加熱を、照射波の位相と周波数を変化させながら実施した場合における、それぞれの位相と周波数における被加熱物Mの温度分布を示している。図28では、被加熱物Mとして、ローストビーフのモデルを用いている。図28では、温度が高くなるもしくは低くなるのに従って色が濃くなるようになっている。なお、図28では、色の濃い部分は、概ね温度が高い領域を示しており、温度の高い領域の一部についてわかりやすいようにHTの符号を付している。
【0242】
図28に示すように、照射周波数が914~926[MHz]の範囲で、かつ、位相が0~60[deg]の範囲において、被加熱物Mが相対的に高温になっている。また、照射周波数が906[MHz]で位相が120~180[deg]の範囲で、被加熱物Mの一部が高温になっている。このように、電波照射部814の照射周波数や位相が変わると、マイクロ波の分布が変わるので、所定時間経過後の被加熱物Mの加熱パターンが変化する。すなわち、複数の電波照射部814を設けて、互いに周波数や位相の異なる所定の条件に合致する照射波Waを加熱室802内に照射することにより、それぞれの加熱領域を重ね合わせることができるので、被加熱物Mを均一に加熱することができる。図43の実施例には、位相差が互いに異なる加熱パターンを被加熱物Mに与えた例を示している。図43の比較例は、回転アンテナによる加熱の例を示す。図43の実施例では、位相差が互いに異なる加熱パターンを被加熱物Mに与えることで均一な加熱が実現できているのがわかる。
【0243】
図29図29A,29B)では、誘電率の異なる複数種類の被加熱物Mを加熱機器800を用いて加熱した加熱シミュレーションの結果を示している。図29では、900MHz帯と2450MHz帯のそれぞれにおいて、周波数と位相を変化させた場合におけるパプリカ702、肉704及びポテト706を加熱した場合の温度分布を示している。すなわち、互いに誘電率が異なる被加熱物Mを加熱した例を示している。図29においても、図28と同様に、温度が高くなるもしくは低くなるのに従って色が濃くなるようになっている。また、色の濃い部分は、概ね温度が高い領域を示しており、温度の高い領域の一部についてわかりやすいようにHTの符号を付している。
【0244】
図29に示すように、誘電率が異なると、さらに温度の分布に違いが出てくるので、複数の電波照射部814を設けて、互いに周波数や位相の異なる所定の条件に合致する照射波Waを加熱室802内に照射することによる効果は、さらに高まる。
【0245】
さらに、図30(b)に示すように、氷と水のように誘電率の大きく異なる被加熱物Mに対する加熱特性が照射周波数によって電力半減深度が異なるという課題がある。また、図31に示すように、氷と水のように誘電率の大きく異なる被加熱物に対する加熱特性(誘電損失係数)は、周波数によって異なるという課題がある。例えば、10[MHz]~40[MHz]において、氷と水の加熱比率は小さくなる傾向があり、40[MHz]~10[GHz]においては、周波数が大きくなるにしたがって氷と水の加熱比率の差が大きくなる傾向がある。
【0246】
そこで、前述のとおり、複数の加熱ユニット804を設けて互いに周波数の異なる照射波(例えば、2450MHz帯と900MHz帯、または、40MHのハイブリッド給電)とを加熱室802内に照射することで、誘電率の異なる被加熱物対して効率的な周波数を選択して電波照射が可能となる、その結果、加熱時間の短縮や電気エネルギーの節約につながる。
【0247】
また、照射波周波数による半減深度の違いにより被加熱物Mの表面を集中的に加熱するか、被加熱物Mの内部も加熱するかというように加熱の目的に合わせた周波数を選択することができる。これにより、被加熱物Mを適切な温度分布に仕上げることが可能となる。
【0248】
さらに、被加熱物Mが誘電率の異なる複合物もしくは誘電率の異なる複数の被加熱物Mを加熱する場合に、周波数を選択することで、誘電率の異なる被加熱物間の加熱比率を変えることが可能となり、誘電率の高い被加熱物を選択的に加熱することができる。また、被加熱物間の加熱比率を小さくなるよう周波数を選択することで、複合物および誘電率の異なる複数の被加熱物に対して均一な加熱をすることが可能となる。
【0249】
なお、ISMバンド帯の異なる複数の周波数帯の電波を生成可能な信号発生部を有する方が好ましく、1つのISMバンド帯内で複数の波数帯の電波を生成可能な信号発生部を有するよりも効果が大きい。例えば、照射波周波数として、40MHz帯と2450MHz帯の組み合わせを好適に用いることができる。
【0250】
また、ワイドバンドギャップ(ワイドバンドギャップ型トランジスタ)の特長である高い耐反射波特性を活かすことで、真空管式電波発振器であるマグネトロンの高出力の電波が半導体式電波発振器に伝播してきた場合においても、電波信号発生部810または信号増幅部812が焼損することを避けることができる。これにより、電波照射部814の構成および真空管式電波発振器の出力制御を簡素化することが可能となる。
【0251】
さらに、第12態様に示すように、複数の電波照射部814間の位相差を変えることで、加熱室802内の各場所での電界の重ね合わせ方向が変わるので、加熱室802内全体の電波分布も変わる。また、被加熱物Mが加熱室内に置かれている場合は、被加熱物Mに吸収される電波量および吸収電力の分布も位相差により異なる。よって、複数の電波照射部814のそれぞれから照射される照射波Waの位相差を変えることで、加熱室802内の電界分布を攪拌することが可能となる。
【0252】
このように、位相差を変えることで加熱室内の電界分布を攪拌することにより、被加熱物Mに対して異なる吸収電力分布の組み合わせでの加熱が可能となり、被加熱物Mの均一な加熱を実現できる。
【0253】
また、前述のとおり、複数の電波照射部814間の位相差を変えることで、加熱室802内の各場所での電界の重ね合わせ方向が変わるので、加熱室内全体の電波分布も変わる。被加熱物Mが加熱室内に置かれている場合は、被加熱物Mに吸収される電波量も位相差により異なる。そこで、第13態様に示すように、反射波電力を検知する電力検知部816を設けることで、反射波電力の位相差に対する特性から、反射波電力が最小になる位相差を求めることが可能となる。このように、反射波電力が最小になる位相差で被加熱物を加熱することにより、高効率な加熱が可能となる。
【0254】
図35図36に示すように、本開示の第14態様に係る加熱機器800は、上記第11態様において、複数の電波照射部814について、照射波Waの周波数帯が互いに等しくなるように制御し、かつ、それぞれの照射波Waの周波数または位相差により照射波Waの指向性を変えるように制御する制御部820を備える、としてもよい。ここでの制御部820には、照射波Waの周波数を制御する周波数制御部822と、照射波Waの位相を制御する位相制御部826とが含まれる。なお、図35には、複数の電波照射部814に対して電波信号発生部810を1つ設けた例を示し、図36には、それぞれの電波照射部814に対して電波信号発生部810を一対一対応するように設けた例を示す。
【0255】
第14態様のように、複数の加熱ユニット804の周波数帯を揃えて、かつ、その揃えた周波数及び/または位相差を変えることで、電波の指向性を狙った方向に大きく変えることが可能となる。ここで、周波数および位相差の制御により指向性を大きく変えることができるアンテナの一例として、2給電パッチアンテナがある。
【0256】
ところで、電子レンジのように加熱室802が閉空間の場合における電波加熱は、間接波と直接波のそれぞれの電波分布によって被加熱物Mの加熱分布が決まる。間接波は周波数で決まる加熱室802内の共振パターンでの加熱であり、直接波は電波照射部814の指向性に依存する。よって、電波照射部814のアンテナの指向性を制御することで、直接波による加熱分布が制御可能となる。これにより、被加熱物Mの選択加熱および均一加熱が可能となる。
【0257】
図41には、図35の構成において、アンテナの指向性についてのシミュレーション結果を示している。図41(a)はシミュレーションモデルを示し、(b)はシミュレーション結果を示す。図41より、電波照射部814のアンテナの指向性が制御可能であることがわかる。
【0258】
図34A及び図34Bに示すように、本開示の第15態様に係る加熱機器800は、上記第11態様において、複数の電波照射部814から照射される照射波Waの電力を制御する電力制御部824を備える、としてもよい。
【0259】
第15態様によると、電波信号発生部810として低出力の半導体式電波発振器を用いて加熱室802に電波を放射することが可能になる。さらに、それぞれの加熱ユニット804に制御部820を設けることで、各電波照射部814の照射波電力を制御することができるので、加熱室802の電波分布を変えることが可能となる。さらに、各電波信号発生部810の周波数、位相差を制御することで電波分布の制御性はさらに向上する。このように、
加熱室802の電波分布の制御性を向上させることにより、被加熱物Mの均一加熱および選択加熱が可能となる。
【0260】
なお、第15態様において、照射波の周波数および位相差を制御しない場合でも、加熱したい被加熱物Mもしくは被加熱物Mの部位に近い位置に半導体式電波発振器(電波信号発生部810)を設けて電波(照射波)を放射することで、選択的にその被加熱物Mを加熱することができる。
【0261】
すなわち、例えば、信号増幅回路300と電波照射部814とを直結(近い距離に配置)した構成としてもよい。
【0262】
ワイドバンドギャップ型トランジスタの特長である小型化(放熱フィンの小型化)により、ケーブルを用いずに信号増幅部と電波照射部を直結することが可能となる。また、従来はデバイスを配置できなかった筐体の側面、背面、天面にデバイスを配置することが可能となる。さらに、コストの高いケーブルが不要になる。一般的に、製品の部品配置部の広さが決まっており、また製品の底面など部品は一か所にまとめて配置されており、従来は信号増幅部と電波照射部の距離が長い場合が多く、その際にコストの高いケーブルを用いて接続していた。デバイスを小型化することで従来はデバイスを配置できなかった筐体の側面、背面、天面にデバイスを配置し、電波照射部と直結することが可能となる。
【0263】
また、電波伝送用のケーブルを使用しないことで、信号増幅部812から電波照射部814までの電波損失を低減することができ、加熱室802に高効率に電波を照射することができる。その結果、被加熱物を短時間で加熱することが可能となる。また、製品の構成材料代が安くなるという利点があることは言うまでもない。
【0264】
本開示の第16態様に係る加熱機器800は、上記第11態様において、複数の電波照射部814は、照射波Waの周波数が互いに異なる電波照射部814を含み、少なくとも反射波の電力と位相を検知する電力検知部816を備える、としてもよい。
【0265】
第16態様によると、例えば、電波信号発生部810として、低出力で互いに周波数の異なる半導体式発振器を配置し、被加熱物Mに対する反射波の特性を各周波数毎に計測するように構成される。これにより、周波数によって浸透深さ・波長の違いがあるためそれぞれの周波数によって異なる被加熱物Mの特性をセンシングすることが可能となる。
【0266】
なお、照射波の周波数が低いほど電波の浸透深さが長くなるので、被加熱物Mの内部まで浸透する。一方で、照射波の周波数が高いほど被加熱物表面の状態を検知できる。また、照射波周波数が高いほど波長が短くなるので検知の分解能が向上し、小さい被加熱物Mや小さな形状変化も検知できる。
【0267】
これにより、被加熱物Mの状態変化または被加熱物Mの物性値を検知することが可能となり、調理条件の変更および調理完了の判定をすることが可能となり、自動調理を実現することができる。
【0268】
なお、使用する周波数は10[MHz]~300[THz]が有用である。
【0269】
ワイドバンドギャップ型トランジスタの特長である高い耐反射波特性を活かして、高出力でのセンシングが可能となる。従来は低い出力でセンシングを実施し、反射波の周波数特性を確認していた。これは、高い出力でセンシングをした場合、反射波電力が高い周波数において電波信号発生部810または信号増幅部812が焼損することを避けるためである。これに対し、本態様によると、ワイドバンドギャップ型トランジスタの特長である高い耐反射波特性を活かして、センシング時も高出力の電波を照射することにより、低出力のセンシング時よりも被加熱物をより加熱することが可能となり、短時間で被加熱物Mを加熱することができる。また、高出力のセンシングによりSN比(信号雑音比)を大きくすることができ、小さな変化を検知することが可能となる。
【0270】
図37に示すように、本開示の第17態様に係る加熱機器800は、上記第11態様において、複数の電波照射部814は、照射波Waの周波数が互いに異なる電波照射部814を含み、照射波Waの周波数及び位相を制御する制御部820を備え、少なくとも1組の電波照射部814が互いに対向するように配置される、としてもよい。
【0271】
第16態様によると、対向する位置から加熱室802に放射される照射波Waの位相を制御することにより、加熱室802内壁で電波が反射し、放射方向及び位相が乱れる前の直接波同士の電界の重ね合わせを制御することが可能となる。
【0272】
例えば、位相差がπで加熱室802の中央を強く加熱ことが可能になり、位相差がゼロで中央周辺の加熱が可能となる。また、位相差がπ/2で、偏った電波分布になる。このように、位相を制御することにより加熱室内の電波分布を制御することで被加熱物Mの均一加熱および選択加熱が可能となる。
【0273】
なお、位相制御する電波の照射位置は、放射する周波数における1波長以上の教理を有する必要がある。
【0274】
図38A、38Bに示すように、本開示の第18態様に係る加熱機器800は、上記第11態様において、照射波Waの周波数及び位相を制御する制御部820を備える。複数の電波照射部814は、照射波Waの周波数帯が互いに等しく制御される。加熱室802は、少なくとも1辺が電波照射部814から放射される照射波Waの半波長以下である、としてもよい。なお、図38Aには、複数の電波照射部814に対して電波信号発生部810を1つ設けた例を示し、図38Bには、それぞれの電波照射部814に対して電波信号発生部810を一対一対応するように設けた例を示す。
【0275】
第18態様によると、照射波Waの周波数の1/4波長以下の寸法の加熱室802の方向には、電界分布を生じないので、照射波Waの周波数および位相差により加熱室802内の電波分布を制御しやすくなる。なお、加熱室802内の電波分布は、照射波Waの周波数と位相差の組み合わせで一義的に決定する。このように、加熱室802内の電波分布の制御性を向上させることにより、被加熱物Mの均一加熱および選択加熱が可能となる。
【0276】
なお、被加熱物Mがある場合、加熱室802内の電波分布が影響を受けるが、実用的な被加熱物Mの大きさ程度であれば、照射波Waの周波数および位相差による加熱室内の電波分布の制御は可能である。
【0277】
-照射波電力の制御-
本開示の第19態様に係る加熱機器800は、上記第1態様または上記第11態様において、少なくとも反射波電力を検知する電力検知部816と、電力検知部816での検知結果に基づいて電波照射部814から照射される照射波Waの電力及び周波数を制御する制御部820と、照射波Waの電力及び周波数並びに電力検知部816で検知された反射波電力を記憶する記憶部832とを備える、としてもよい。
【0278】
ここで、第19態様において、大電力(例えば250[W])と小電力(例えば50[W])のそれぞれで周波数掃引を用いたセンシングをし、その差分から琺瑯壁面での損失を推定する、としてもよい。これは、琺瑯はガラス層と母材金属との間にある抵抗(酸化)層に一定以上の電界が掛かると抵抗層に電流が生じ、母材金属に電流が流れ加熱室802内壁での電波損失が発生する。よって、大電力と小電力で反射波の周波数特性から被加熱物Mの加熱の際に用いる大電力での加熱時の各周波数での壁面損失を推定することができる。
【0279】
そして、照射波Waの周波数設定から壁面損失の多い周波数を除外し、その他の高効率な周波数を選択して加熱することにより、被加熱物Mの高効率加熱が可能となる。さらに、壁面損失を推定し、被加熱物Mの電波吸収電力量を精緻に算出し、目標の電力量になったら調理条件変更または加熱を終了することで、被加熱物の適温加熱が可能となる。
【0280】
以下において、図18のフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0281】
ステップS10において、加熱機器800による加熱処理(電波信号SDの照射)が開始されると、電力検知部816において電波信号SDの反射波電力が検知される(ステップS12)。電力検知部816での検知結果は、記憶部832に格納される。このとき、例えば、大電力と小電力のそれぞれで周波数掃引を用いたセンシングを行う。周波数掃引については、前述の図22と同様であり、ここでは、ステップS321において、周波数制御部822が大電力と省電力で連続して照射波周波数を掃引する。それ以外の処理は、前述の図22と同様であり、ここではその詳細説明を省略する。
【0282】
次のステップS13では、周波数制御部822は、加熱条件を設定する。具体的には、周波数制御部822は、例えば、記憶部記憶部832に格納された反射波電力の検知結果を参照し、大電力と小電力の反射波電力の差が大きい周波数以外の周波数を照射波周波数として選択する。周波数制御部822では、照射波周波数の設定値を記憶部832に格納する。
【0283】
次のステップS15では、周波数制御部822は、ステップS13で求めた設定に基づいて電波信号SDを制御し、処理は、ステップS12に戻る。
【0284】
そして、電波照射部814により電波が照射されている間、ステップS12からステップS15の処理が繰り返される。これにより、電波照射部814により照射波Waが照射されている間、継続して反射波電力に基づいて照射波周波数が制御される。
【0285】
また、第19態様において、第1の周波数掃引(1回目の周波数掃引)を用いたセンシングで検知された反射率を記憶し、任意の時間加熱した後に、第2の周波数掃引(2回目の周波数掃引)を用いたセンシングを実施し、第1の周波数掃引と、第2の周波数掃引それぞれの反射率を比較し、その差が大きい周波数を除いて加熱を続ける、としてもよい。
【0286】
例えば、反射率の差がある周波数の加熱室802内の電波分布で加熱された被加熱物Mの一部分は局所的に誘電率が変化した可能性が高い。そこで、第19態様のように第2の周波数掃引を用いたセンシングを実施することで、次の加熱では、第1の周波数掃引と第2の周波数掃引の反射率の差が大きい周波数を除き(その加熱室内の電波分布を避け )加熱するといったことが可能になる。これにより、被加熱物Mの他の部分が加熱される可能性が高くなり、被加熱物Mの均一加熱が可能となる。
【0287】
以下において、図39のフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0288】
なお、照射波周波数の掃引は、反射率の周波数特性を確認する1つの方法であり、下限から上限へ連続的に照射波周波数を掃引することは必須ではなく、例えば、ランダムに照射波周波数を変えて各照射波周波数の反射率を求め、反射率の小さな周波数を選択する場合でも同様の効果がある。
【0289】
-演算部を用いた制御-
本開示の第20態様に係る加熱機器800は、上記第1態様または上記第11態様において、照射波電力と反射波電力を検知する電力検知部816と、電力検知部816での検知結果に基づいて電波照射部814から照射される照射波Waの電力及び周波数を制御する制御部820と、照射波Waの電力及び周波数並びに電力検知部816で検知された反射波電力を記憶する記憶部832とを備える、としてもよい。
【0290】
-時間ドメインでの電波センシング-
本開示の第21態様に係る加熱機器800は、上記第1態様または上記第11態様において、反射波電力と反射波位相を検知する電力検知部816を備える、としてもよい。
【0291】
加熱室802内に被加熱物Mが有る場合、加熱室802内に放射された電波の一部は被加熱物Mの表面で反射し、残りの一部は被加熱物Mの裏面で反射する。よって、反射位置が異なるので電波照射部814に戻ってくる2種類の電波は反射位相が異なる。この反射位相の差から被加熱物Mの厚みを推定することが可能となる。また、加熱中の反射位相の経時的な変化から厚みの変化を推定することが可能となる。
【0292】
そして、被加熱物Mの厚みを推定することにより、最適な加熱時間を推定することが可能となる。また、加熱途中の被加熱物Mの厚みの変化し始めを検知することで、最適なタイミングで加熱条件の変更が可能となる。以上より、自動調理を実現することができる。
【0293】
従来は、予め加熱条件の変更時間および終了時間を決めて調理するか、熱電対により加熱室内の温度を測定して加熱条件の変更および終了をしていた。そのため、被加熱物の重量、容器、初期温度が想定と異なっていた場合に、加熱の過不足が生じやすく高品位な仕上がりの自動調理は実現できていなかった。しかし、第21態様の構成にすることで、高品位な仕上がりの自動調理が可能となる。
【0294】
なお、被加熱物情報、例えば重量、温度、被加熱物の種類等の情報がわかれば、被加熱物Mの状態変化検知の精度はさらに向上することは言うまでもない。
【0295】
-加熱機器の構成(5)-
図40に示すように、本開示の第24態様に係る加熱機器800は、被加熱物Mを収容するための加熱室802と、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号W1を発生させる電波信号発生部810と、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて電波信号発生部810で生成された電波信号W1を増幅する信号増幅部812と、信号増幅部812で増幅された電波信号を加熱室802内に照射する電波照射部814とを備える。加熱室802には、電波信号を伝搬するための周期構造体817が設けられている。
【0296】
上記の態様によると、電波の波長に適した周機構造体に電波を伝送させることができる。すなわち、電波を空間に放射することなく周機構造体に電波を伝送させることができ、周期構造上に置かれた被加熱物Mの表面に対し、電波を集中させることで可能となる。このように、電波を被加熱物Mの表面に集中させることにより、従来の電波加熱では実現できなかった被加熱物Mの表面を焼くことが可能となる。
【0297】
なお、周波数で周期構造の寸法が決まるので、マグネトロンより半導体発振の方が効率的に給電できる。また、複数給電で周波数及び位相差を制御することで周期構造上の電波分布を制御することが可能である。
【0298】
-加熱機器の構成(6)-
本開示の第25態様に係る加熱機器800は、被加熱物Mを収容するための加熱室802と、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号W1を発生させる電波信号発生部810と、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて電波信号発生部810で生成された電波信号W1を増幅する信号増幅部812と、信号増幅部812で増幅された電波信号を加熱室802内に照射する電波照射部814とを備える。加熱機器800は、さらに、電波照射部814を駆動する駆動手段を備える。
【0299】
本態様では、現行のマグネトロン式電子レンジのように回転アンテナなどの駆動部を搭載している。これにより、周波数、位相差制御に加え、回転アンテナなど駆動部により加熱室内の電波分布を変えることが可能となる。したがって、多様な加熱室内の電波分布を用いて被加熱物を加熱することにより、均一加熱が可能となる。
【0300】
-加熱機器の構成(7)-
本開示の第26態様に係る加熱機器800は、被加熱物Mを収容するための加熱室802と、誘導加熱現象が生じる周波数帯の電波信号W1を発生させる電波信号発生部810と、ワイドバンドギャップ半導体からなるトランジスタセルユニットを用いて電波信号発生部810で生成された電波信号W1を増幅する信号増幅部812と、信号増幅部812で増幅された電波信号を加熱室802内に照射する電波照射部814とを備える。電波照射部814は、真空菅式の第1照射部と半導体式の第2照射部とを備える。
【0301】
真空管式電波発振器であるマグネトロンと、半導体式電波発振器を別々の伝送経路で加熱室802内に放射させる。半導体式電波発振器は、センシングまたは周波数制御が必要となる加熱に用いることができる。真空管式電波発振器は、安価で大電力の電波を放射可能なので、時短が求められる加熱に用いることができる。これにより、半導体式電波発振器の利点である均一加熱と、真空管式電波発振器の大出力加熱による利点である時短加熱の切替が可能となる。
【0302】
なお、半導体式電波発振器の最大出力は50[W]~350[W]、真空管式電波発振器の最大出力は500[W]~2000[W]が一般的である。
【0303】
また、本態様の加熱機器800は、特に熱風対流加熱・輻射ヒータ加熱・スチーム加熱など他の熱源で主に加熱し、電波は補助的に用いる加熱の場合に有用である。
【0304】
また、ワイドバンドギャップ型トランジスタの特長である高い耐反射波特性を活かすことで、真空管式電波発振器であるマグネトロンの高出力の電波が半導体式電波発振器に伝播してきた場合においても、電波信号発生部または信号増幅部が焼損することを避けることができる。これにより、電波照射部の構成および真空管式電波発振器の出力制御を簡素化することが可能となる。
【0305】
本開示の第27態様に係る加熱機器800は、第26態様において、真空管式の第1照射部に外部信号として半導体式の第2照射部の電波を注入する、としてもよい。
【0306】
本態様によると、真空管式電波発振器であるマグネトロンの共振部に、半導体式電波発振器から周波数を固定した低出力電波を注入してから、真空管式電波発振器を発振させることで、真空管式電波発振器から放射される電波の周波数を半導体式電波発振器から注入した周波数に同期することが可能となる。これにより、低コストで周波数制御可能な大出力の加熱が可能となり、均一加熱と時短加熱の両立が可能となる。
【0307】
また、前述のとおり、加熱機器800が、電波照射部814に加えて、輻射加熱源、熱風対流加熱源、スチーム加熱源など電波加熱源以外の熱源、例えば、ヒータを熱源とする加熱手段を備えるようにしてもよい。
【0308】
すなわち、本開示の第28態様に係る加熱機器800は、上記第1態様から第27態様において、電波照射部814に加えて、ヒータを熱源とする加熱手段を備える、としてもよい。
【0309】
≪他の用途例≫
上記の実施形態では、ワイドバンドギャップ半導体を用いた電波発生装置400を加熱機器800に適用した例について説明したが、ワイドバンドギャップ半導体を用いた電波発生装置400の用途は、これに限定されない。
【0310】
例えば、本開示の電波発生装置400を加熱機器800以外の調理器、例えば、解凍機に適用してもよい。この場合、例えば、電波発生装置400からは加熱機器800よりも低い周波数(例えば、40MHz程度)の照射波が解凍室や解凍容器内に照射される。
【0311】
また、例えば、ものづくり装置・設備のような産業機器に本開示の電波発生装置400を適用してもよい。具体的には、ある物質とある物質とを混ぜ合わせて熱を加えて化学反応をさせる化学プロセスにおいて、ヒータ等の加熱源に代えて、本開示に係る電波発生装置400から照射されるマイクロ波を用いて、加熱するようにしてもよい。
【0312】
また、例えば、冷蔵庫のウレタン発泡プロセスにおいて、本開示の電波発生装置400を適用してもよい。従来は、冷蔵庫がそのまま入るような炉を用意し、その炉に冷蔵庫を浸すことでウレタン発泡をさせることが行われている。これに対し、本開示の電波発生装置400を用いて、発熱させたい箇所を特定し、その特定の場所にマイクロ波(照射波)を照射することで、冷蔵庫がそのまま入るような炉を用意することなく、冷蔵庫のウレタン発泡プロセスを実行することができる。さらに、電気代を削減することができる。
【0313】
また、例えば、医療現場、例えば、癌等の温熱治療において、本開示の電波発生装置400を適用してもよい。具体的には、例えば、癌細胞に対して電波発生装置400から出力される照射波を当てて温めることで癌細胞を取り除くようにしてもよい。また、肩こりや腰痛に用いられる温熱治療器に、本開示の電波発生装置400を適用してもよい。さらに、加熱以外の医療機器、例えば、マンモグラフィー装置に電波発生装置400を適用してもよい。
【0314】
また、例えば、非接触給電装置に本開示の電波発生装置400を適用してもよい。具体的には、例えば、マイクロセンサやマイクロアクチュエータに対して非接触で電力を供給する場合に、本開示の電波発生装置400を用いて電力を伝送するようにしてもよい。
【0315】
さらに、自宅用の給電設備に本開示の電波発生装置400を適用してもよい。例えば、宅内に本開示の電波発生装置400を設置し、宅内の電化製品や端末機器等に非接触で電力を供給できるようにしてもよい。また、ドローン(飛翔体)のように屋外にある設備や機器に対して電波発生装置400を用いて非接触の給電をするようにしてもよい。
【0316】
また、農業分野において、例えば、植物の促成栽培機に電波発生装置400を適用してもよい。
【0317】
また、電波発生装置400を自動車用の加熱源として用いてもよい。これにより、従来技術に対して1桁程度の消費エネルギーを削減できる。より具体的には、電波発生装置400を用いたマイクロ波加熱により自動車の排ガス処理技術に適用することができる。
【0318】
≪材料についての特徴≫
以下では、本開示のワイドバンドギャップ半導体に用いる材料の特徴について説明する。
【0319】
ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウム(Ga)を用いた場合に、酸化アニール処理を施してもよい。
【0320】
酸化ガリウムに酸化アニール処理を施すことにより、(1)膜質が変化し、膜質を強化することができる、(2)結晶性が変化し、結晶性が回復する、(3)酸素欠損が埋まり、酸素欠損が減少する、(4)キャリア密度が変化する、という作用が得られる。
【0321】
このように、酸化ガリウムに酸化アニール処理を施すことで、酸化ガリウム物性値を可変することが可能となるため、半導体としての性能を向上できる。なお、ここでの物性値とは、例えば、熱伝導性や絶縁性、電子伝導性等を指す。より詳しくは、熱伝導率を向上させることで放熱性がよくなったり、抵抗値を変化させることで表面に絶縁層を形成することが可能となる。
【0322】
なおまた、これはチャネル層だけでなく、電子供給層である絶縁層の表面や、相関絶縁膜の表面処理にも用いることが可能である。この絶縁層の絶縁耐圧を制御することで半導体としての性能向上が実現できる。
【0323】
なおまた、より具体的には、α相Gaにおいて、サファイア基板を取り除いた後のチップ側の表面処理として用いることができる。これにより、表面の酸素欠損を埋めることができるので、結晶性がよくなり絶縁性の向上が実現できる。
【0324】
酸化ガリウム層の結晶構造の違いによる電子物性の制御をしてもよい。具体的には、(1)結晶構造が互いに異なるGaを使い分ける方法、(2)結晶構造が互いに異なるGaを組み合わせて用いる方法、(3)α相Gaを用いる方法、がある。
【0325】
結晶構造の違いにより、安定度や物性が異なるので、結晶構造が互いに異なるGaを使い分けることによって必要な物性値を得ることができる。
【0326】
また、結晶構造が互いに異なるGaを組み合わせることによって物性値の補完ができ、半導体としての性能向上が実現できる。例えば、α相のGaは他の結晶相のものと比較して、より大きなバンドギャップを有する。したがって、耐圧にすぐれたデバイスが構成できる。また、例えばε相のGaは誘電率が高いなど、他にも熱伝導性、電子伝導性などの物性値も結晶相ごとに特徴を有する。したがって、結晶構造が互いに異なるGaの組み合わせによって様々な物性値の補完ができる。
なお、結晶構造の異なるGaを組み合わせる際には、格子定数の近いものを近接させることで、歪が防止できる。なおまた、結晶構造の異なるGaを積層させる場合には、ナノシート化し、レイヤーバイレイヤーの構造にすることで、結晶構造を精度よく設計できる。
【0327】
また、ワイドバンドギャップ半導体の製造過程において、ミスト気相成長法を適用してもよい。例えば、シリコンや酸化ガリウムのように融液から単結晶ウェハを生成できる半導体材料であれば、ミスト気相成長法が採用でき、比較的容易に大口径ウェハが低コストで生産できる。
【0328】
なおまた、ミスト気相成長法は、α相Gaの成長に用いることができる。このときのGa原料としては、例えば、ガリウムアセチルアセトナトなどが利用できる。
【0329】
なおまた、基板の格子定数と水酸化ガリウム組成をコントロールし、堆積時の格子歪みを小さく制御することで、バンドギャップが拡大でき、半導体としての性能が向上する。
【0330】
ワイドバンドギャップ半導体の製造過程において、サファイア基板を除去し、熱伝導性の高い基板と密着させて素子の放熱を行うようにしてもよい。
【0331】
例えば、このミスト気相成長法によってサファイア基板上にα相Gaを成長させ、その後サファイア基板を除去すれば、熱伝導性の改善が期待できる。さらに、サファイア基板を除去したところに、熱伝導性の高い部材や基板を熱的に接触させることができれば、高い放熱性が実現できる。
【0332】
また、半導体デバイス200,500において、ソース電極111と及びドレイン電極113と、酸化ガリウム層103との界面のオーミックコンタクトを形成してもよい。このとき、例えば、酸化ガリウム層103にSn、Siなどのドナー不純物をドーピングする。これにより、酸化ガリウム層103のキャリア濃度が制御され、n+層が形成され、酸化ガリウム層103とのコンタクト抵抗を下げることができる。
【0333】
また、半導体デバイス200,500において、高移動度なチャネル層を形成するようにしてもよい。より詳しくは、半導体同士や半導体と絶縁体の接合等で伝導帯に障壁を作り、電圧やドーピングの調整により、フェルミ準位が伝導帯より上に来る状態にする。これにより、絶縁層とチャネル層界面に二次元電子ガス層が発生し、電子は水平方向へは移動できるが、垂直方向へは移動しづらいという状態が生まれる。したがって、電子の移動度が向上し、半導体としての性能が向上する。
【0334】
なお、伝導帯に障壁を作る方法の一つとして、酸化ガリウムナノシートを形成してもよい。そうすることで、上記と同様に二次元電子ガス層が形成され、電子の移動度が向上する。
【0335】
また、半導体デバイス200,500の基板(チップ)を、高周波性能に影響を与えないパッケージで覆うようにしてもよい。半導体のパッケージは、一般的にセラミックや樹脂で構成されるが、半導体を高周波デバイスとして用いる際にはその高周波特性に影響を及ぼすことも多い。そのため、例えば内部を中空構造にしたり、高周波特性に悪影響を及ぼさない素材や寸法を選択することで、高効率な高周波デバイスが構成できる。
【0336】
半導体デバイス200,500において、パッケージ素材の絶伝導性を制御して、熱伝導率の高い材料で半導体デバイス200,500のパッケージを構成してもよい。これにより、チップで発生した熱が効率的に外部に伝達するので、半導体としての性能・品質が向上する。
【0337】
例えば、パッケージにAlNウィスカーのような高熱伝導材料を用いることで、チップで発生する熱が効率的に外部に伝達されるので、半導体としての性能・品質が向上する。
なお、逆にGa2O3は高い温度でも正常動作が可能なため、熱伝導率が低く、耐熱温度の高い材料でパッケージを構成し、その固設方法を採用すれば冷却構造をなくすことも考えられる。
【0338】
また、半導体デバイス200,500において、酸化ガリウムのバンドギャップを拡大してもよい。
【0339】
-誘電率の違いについて-
図44には、ワイドバンドギャップ半導体に適用することが可能なβ-Ga及びα-Gaの結晶成長方法について、その特徴と、手法の概要を示している。
【0340】
結晶相が異なると、同一元素から成る材料であってもその特性が異なることは周知であるが、酸化ガリウムであれば例えば結晶層が異なると誘電率に差異が生じる。そこで例えば、低誘電率のGaを用いてトランジスタセルを構成すれば、その寄生容量を減らすことができる。その結果、特に高周波領域における高性能化が実現できる。一方で、高誘電率のGaを用いてIPDを構成すれば、内蔵する部品のインダクタンスや静電容量が大きくなり、結果としてその小型化や高性能化が期待できる。なお、誘電率の異なる結晶相としては、Gaに特有の6つの結晶相である、α相、β相、γ相、δ相、ε相、及び2次元結晶性を有するナノシート構造がある。
【0341】
なお、酸化ガリウムはミストCVD法やナノシート塗布などのウェットプロセスにより異なる結晶相を接合することができる。そこで、例えば誘電率の異なる層を接合し、それぞれの誘電率に適した機能性を付与すれば、同一基板上に配線レスの高集積な回路を構成することが可能(作用の代わり)となる。その結果、デバイスの高性能化・小型化・省資源化などが実現できる。
【0342】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、めっき銅を配線金属としてダマシン配線を形成するときに、バリアメタル上に堆積される銅の薄膜のことをいう。電解めっき時に、ウェーハ端に配置される電極から、ウェーハ中央まで電圧降下を伴うことなく電子を運ぶ役割とめっき銅成長のシード(種)層の役割を兼ねる。スパッタ粒子の指向性をより高めたロングスロースパッタリング法やIMP(Ion Metal Plasma)法で堆積されるが、基板温度が高くなると凝集を起こしやすいため成膜中の温度制御が重要となる。シード層が凝集した状態や厚さが不足した状態で電界めっきを行うと、ボイドの発生を伴い、エレクトロマイグレーション耐性が落ちてデバイスの信頼性を損なうことになる。CVDを用いたシード形成方法の開発も進んでいるが、まだ実用化にいたっていない。
【0343】
-異方性エッチング-
図45は等方性エッチング(図45(a))と異方性エッチング(図45(b))の概要を示す図であり、図46はトレンチMOS構造を用いた場合における電界強度分布を示す。
【0344】
前述のとおり、バンドギャップの大きい、例えば酸化ガリウムのような材料を用いることで高い耐圧が確保でき、チップ間距離を短くすることによるデバイスの小型化や低コスト化・省資源化などの効果が得られる。さらに、例えば、図45に示すようにチップの加工精度を向上させ、エッチング等によって構成される溝の底部をエッジ形状にすることで、例えば図46に示すような電界強度分布の広がりが抑制でき、結果として半導体としての性能向上やさらなる小型化が実現できる。
【0345】
なお、この溝形成の加工方法としては、ウェットエッチングやドライエッチングなどがある。例えば、HFなどを用いるウェットエッチングの場合はいわゆる溶解による溝加工である。そのため、溝底部は等方性の形状となる、いわゆる等方性エッチング(図45(a)参照)であり、所定の断面をエッジ形状にすることは困難となる。
【0346】
一方で、例えば、Cl2、BCl3、SF4、SF6等を用いたドライエッチングであれば、いわゆる切削のような溝加工である。そのため、異方性の形状が実現できる、いわゆる異方性エッチング(図45(b)参照)であり、エッジ形状が実現できるので、チップの加工精度が向上できる。
【0347】
以上をまとめると、ワイドバンドギャップ半導体として酸化ガリウム材料を用いることで、耐圧を高くとることができる。これにより、チップ間距離を小さくできる。一方で、チップ間距離を小さくすると電界分布の重なりが生じるので、電界分布を狭くする必要が生じる。したがって、チップの加工精度を向上する必要がある。そうすると、加工精度が高いドライエッチングを好適に用いることができ、ドライエッチングを用いることでエッジ形状の作製に優れている。例えば、Cl2、BCl3、SF4、SF6 を反応種に用いることでドライエッチングが可能である。なお、用途によっては、HFでのウェットエッチングを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0348】
本発明による電波発生装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いることで、従来と比較してより大きな出力を取り出したり、同じ出力を得るためのデバイスサイズを小さくすることができる。また、従来技術と比較して耐熱が高くできる。これにより、電波発生装置の適用範囲が広がるというメリットがあり、極めて有用である。
【符号の説明】
【0349】
400 電波発生装置
402 発振器(信号発生部)
408 多段増幅器(信号増幅部)
800 加熱機器
802 加熱室
810 信号発生部
812 信号増幅部
814 電波照射部
M 被加熱物
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B
図25C
図25D
図26
図27
図28
図29A
図29B
図30
図31
図32
図33
図34A
図34B
図35
図36
図37
図38A
図38B
図39
図40
図41
図42A
図42B
図43
図44
図45
図46