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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131773
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】鋳造用アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20220831BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20220831BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20220831BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20220831BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20220831BHJP
   C22F 1/053 20060101ALN20220831BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
C22C21/10
C22C21/06
B22D21/04 A
C22C1/02 503J
C22F1/047
C22F1/053
C22F1/00 611
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030897
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】506269792
【氏名又は名称】エス・エス・アルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145953
【弁理士】
【氏名又は名称】真柴 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠太
(72)【発明者】
【氏名】和田 健司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】凝固割れを抑制しつつ、引張強さおよび耐力が400MPa以上、伸びが5%以上となる鋳造用アルミニウム合金を提供する。
【解決手段】Zn:3.0~8.0質量%、Mg:1.5~5.0質量%、Cu:0.2~3.0質量%と、Ti、Zr、MnおよびCrの少なくとも一種を0.1~0.3質量%、Ni:0.5~2.0質量%およびFe:0.2~1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなることを特徴とする鋳造用アルミニウム合金。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:3.0~8.0質量%、Mg:1.5~5.0質量%、Cu:0.2~3.0質量%と、Ti、Zr、MnおよびCrの少なくとも一種を0.1~0.3質量%、Ni:0.5~2.0質量%およびFe:0.2~1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなることを特徴とする鋳造用アルミニウム合金。
【請求項2】
NiおよびFeの含有量がFe+0.25Ni≦0.85を満たし、且つ、NiおよびFeの含有量の比(Fe/Ni)が0.03≦Fe/Ni≦1.1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鋳造用アルミニウム合金。
【請求項3】
NiおよびFeの含有量がFe≦0.4Ni、且つ、Fe+0.2Ni≦0.6を満たすことを特徴とする請求項1または2のいずれか1つに記載の鋳造用アルミニウム合金。
























【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳造用アルミニウム合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全の観点からあらゆる産業に対して省資源、省エネルギー化が求められ、例えば自動車産業では低燃費化、リサイクルへの対応等、多くの課題を抱えている。その中でも、特に地球温暖化に直結する排気ガスの削減は大きな課題であり、低燃費化つまり燃費向上を実現する技術開発に注力している。燃費向上を実現する大きな要素の一つとして、軽量化が挙げられる。従来主に使用されてきた鉄系材料を、より軽量な材料としてアルミニウム合金、マグネシウム合金、炭素材料等へ転換するための研究が活発に行われている。中でもアルミニウム合金は、軽量性のみならず、強度や加工性、耐食性、熱伝導性ならびにリサイクル性の観点から優れており、自動車の軽量化を促進する材料として期待されており、既にアルミニウムが多数採用されているエンジンやホイールに加え、ピラー等の構造部材への採用拡大に向け、研究開発が盛んに進められている。
【0003】
ピラー等の構造部材に採用される代表的な展伸用アルミニウム合金として、例えばJISに定められている6063、6005Cまたは6061等の6000系合金がある。6000系合金は、展伸加工性や耐食性に優れているが、JISに記載されている標準的機械的性質として、6063合金T5処理材の引張強さは185MPa、耐力は145MPaおよび伸びは12%であり、6061合金T6処理材の引張強さは310MPa、耐力は275MPaおよび伸びは12%である。つまり、自動車の軽量化に貢献する構造材としてはさらなる強度の向上が求められている。
【0004】
実用される展伸用アルミニウム合金のうち、例えばJISに定められている7003、7204または7075等の7000系合金は強度が高いことで知られている。JISに記載されている標準的機械的性質として、7003合金T5処理材の引張強さは315MPa、耐力は255MPaおよび伸びは15%であり、7075合金T6処理材の引張強さは570MPa、耐力は505MPaおよび伸びは11%である。つまり、7000系合金は軽量化への貢献が大きく、ピラー等の構造部材への採用が大きく期待されている。非特許文献1によると、2015年に発表されたGM社製Cadillac-CT6には、ロッカー(サイドシル)等の構造部材に7000系合金押出材が初めて採用された。また、例えば特許文献1および2のように、構造部材に用いられる高強度7000系合金押出材も開発されている。
【0005】
一方、鋳造用アルミニウム合金として、例えばJISに定められているAC4CH等の鋳造性が良好なAl-Si系合金が多く用いられる。鋳造用Al-Si系アルミニウム合金も自動車の構造部材として採用されている。例えば非特許文献2によると、前述したGM社製Cadillac-CT6において、6000系および7000系合金押出材製のフレームを接続する部材に、Al-Si系アルミニウム合金であるAlcan社製Aural2およびAural5sが採用されている。
【0006】
ところが、JISに記載されている標準的機械的性質として、例えばAC4CH合金T6処理材金型試験片の引張強さは250MPaおよび伸びは5%に留まる。つまり、Al-Si系合金においては脆い共晶Siが晶出するため、強度および延性が低く、自動車の構造部材へ採用する上で大きな障害となっており、軽量化への貢献は十分でない。
【0007】
7000系合金と同様のAl-Zn-Mg系の鋳造用アルミニウム合金を自動二輪車の構造部材に採用した事例として、例えば非特許文献3によると、Al-Zn-Mg系合金製パイプフレームと溶接されるジョイント部品材として、Zn5.5~6.5質量%、Mg0.55~0.75質量%、Fe0.3~0.6質量%、Mn0.1~0.2質量%、Cr0.1~0.2質量%およびTi0.1~0.2質量%から成る鋳造用アルミニウム合金が開発されている。溶接強度を重視してパイプフレームと同様のAl-Zn-Mg系合金が鋳造ジョイント部品材に採用された。
【0008】
ところが、Al-Zn-Mg系合金は、鋳造性が非常に悪い。ここで鋳造性が悪いとは、液相線温度が高く、比熱および凝固潜熱が小さいため凝固時間が短く、溶湯の流動性に劣るということ、そしてAl-Si系合金に比べ凝固収縮量が多い、つまり引け巣が発生しやすく、鋳物表面に凝固割れが発生しやすいことである。非特許文献4によると、Al-Zn-Mg-Cu合金において凝固割れの発生が少ない合金組成は、Zn2.5~5質量%、Mg3~5質量%、Zn/Mg<1.17の範囲に限られる。なお、鋳造時に製品に生じる割れについて、凝固割れ、鋳造割れあるいは熱間割れと様々な呼称があるが、ここではそれらを包含して凝固割れと称する。
【0009】
前述の鋳造ジョイント部品材向けAl-Zn-Mg系合金も、非特許文献3によると、凝固割れが発生し易く、金型温度を450~500℃という極めて高温に維持することで凝固割れを抑制している。
【0010】
しかしながら、金型温度を極めて高温に維持することは、製造において生産性やエネルギー効率を落とす要因であるだけでなく、凝固速度が遅くなり強度および延性を低下させる要因でもあることは自明である。すなわち、Al-Zn-Mg系合金が持つ優れた機械的特性を鋳造材で発現することは極めて困難であった。
【0011】
ところが近年、Al-Zn-Mg系合金にNiおよびFeを添加した合金を鋳造すると、凝固割れが抑制されることが報告された。非特許文献5によると、ZnとMgの合計を8.8質量%、Niを0.55質量%、Feを0.41質量%とし、不純物としてSiを0.14質量%含有するアルミニウム合金を鉄製の金型に鋳造すると、凝固割れがなかった。この際の冷却速度は10K/秒と大きく、金型温度は十分低いと推測される。また、当該合金のT6処理材の引張強さは491MPa、耐力は439MPaおよび伸びは6.1%であり、T4処理材の引張強さは397MPa、耐力は227MPaおよび伸びは14.5%であった。すなわち、凝固割れを抑制しかつ優れた機械的特性を発現するAl-Zn-Mg系鋳造合金の可能性が示唆された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】橋本成一、「神戸製鋼技報」、2017年、第66巻、p.94-98
【非特許文献2】千葉晃司、「2017早稲田大学各務記念材料技術研究所オープンセミナー資料」、2017年10月20日
【非特許文献3】藤崎優、高崎憲政、小屋栄太郎、望月信介、「軽金属」、一般社団法人軽金属学会、1988年、Vol.38、p.287-291
【非特許文献4】小池敬一、「軽金属」、一般社団法人軽金属学会、1980年、Vol.30、p.442-448
【非特許文献5】V.Kh.Mann, A.N.Alabin, A.Yu.Krokhin, A.V.Frolov, N.A.Belov,「LIGHT METAL AGE」,OCTOBER2015,p.12-14
【非特許文献6】小林一典著、「金型鋳造法」、日刊工業新聞社、昭和43年8月27日、p.30-31
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3735407号公報
【特許文献2】特開2011-241449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の実情を鑑みると、凝固割れが抑制されかつ引張強さおよび耐力が400MPa以上かつ伸び5%以上を発現する鋳造用アルミニウム合金の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上述の課題を解決すべく、鋳造用Al-Zn-Mg系合金の組成を様々変化させ、凝固割れを抑制しつつ、優れた機械的特性を得る方法に重点を置き研究した。その結果、NiおよびFeの含有量を最適化することで、凝固割れを抑制しつつ優れた機械的特性を得ることができる鋳造用アルミニウム合金を実現するに至った。
【0016】
本発明の鋳造用アルミニウム合金は、Zn:3.0~8.0質量%、Mg:1.5~5.0質量%、Cu:0.2~3.0質量%と、Ti、Zr、MnおよびCrの少なくとも一種を0.1~0.3質量%、Ni:0.5~2.0質量%およびFe:0.2~1.0質量%を含有し、残部がアルミニウムと不可避不純物からなることを特徴とする鋳造用アルミニウム合金である。
【0017】
さらに、NiおよびFeの含有量がFe+0.25Ni≦0.85を満たし、且つ、NiおよびFeの含有量の比(Fe/Ni)が0.03≦Fe/Ni≦1.1を満たすことを特徴とする鋳造用アルミニウム合金である。
【0018】
さらに、NiおよびFeの含有量がFe≦0.4Ni、且つ、Fe+0.2Ni≦0.6を満たすことを特徴とする鋳造用アルミニウム合金である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鋳造用アルミニウム合金を使用することで、凝固割れを抑制しつつ引張強さおよび耐力400MPa以上、伸び5%以上となるアルミニウム合金鋳物製品を得ることができる。また、本発明の鋳造用アルミニウム合金は、砂型鋳造に限らず金型鋳造、特に重力金型鋳造のような比較的設備費が安い製造方法により鋳造できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の鋳造用アルミニウム合金の限定理由を説明する。なお、特に断りの無い限り、各合金元素の含有量は質量%で示す。
【0021】
本発明の鋳造用アルミニウム合金における亜鉛(Zn)の含有量は3.0~8.0%、マグネシウム(Mg)の含有量は1.5~5.0%である。ZnとMgを共存させたアルミニウム合金は、適切な熱処理を施すことでη相(MgZn)が析出して強度および耐力を向上することが知られている。Zn含有量3.0%およびMg含有量1.5%未満では十分な引張強さおよび耐力が得られない。一方、Zn含有量8.0%およびMg含有量5.0%を超えると凝固割れが頻発するのに加え、伸びが著しく低下する。
【0022】
銅(Cu)は粒界に析出するη相(MgZn)に固溶して腐食電位を低下させ応力腐食割れを抑制する効果があり、0.2~3.0%添加するのが好ましい。Cu含有量0.2%未満では応力腐食割れの抑制効果が十分でない。一方、Cu含有量3.0%を超えると十分な引張強さおよび耐力が得られない。
【0023】
チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)およびクロム(Cr)は初晶アルミニウムを微細化する働きを有する。初晶アルミニウムを微細化することで凝固割れならびに応力腐食割れが抑制されかつ機械的特性が向上するため、Ti、Zr、MnおよびCrの少なくとも一種を0.1~0.3%添加するのが好ましい。当該各元素の含有量を0.1%未満とすると、初晶アルミニウムの微細化効果が十分得られない。一方、当該各元素の含有量が0.3%を超えると、当該各元素とアルミニウムとの金属間化合物から成る晶出物が増加して伸びを低下させる。
【0024】
非特許文献5によると、NiとFeを共添加することで3元共晶化合物AlFeNiが晶出して凝固割れを抑制するとされている。本発明者は鋭意研究の結果、NiおよびFeの含有量の好適な範囲は、ニッケル(Ni)を0.5~2.0%および鉄(Fe)を0.2~1.0%であり、凝固割れを抑制するとともに高い機械的特性が得られることを見出した。
【0025】
NiおよびFeの含有量がFe+0.25Ni≦0.85を満たし、且つ、NiおよびFeの含有量の比(Fe/Ni)が0.03≦Fe/Ni≦1.1を満たすことはより好ましい。
【0026】
NiおよびFeの含有量がFe≦0.4Ni、且つ、Fe+0.2Ni≦0.6を満たすことはさらに好ましい。
【0027】
以上のように、本発明の鋳造用アルミニウム合金を使用することで、凝固割れを抑制しつつ引張強さおよび耐力400MPa以上、伸び5%以上となるアルミニウム合金鋳物製品を得ることができる。また、本発明の鋳造用アルミニウム合金は、砂型鋳造に限らず比較的低温で金型鋳造、特に重力金型鋳造のような比較的設備費が安い製造方法により鋳造できるので、生産性に優れる。
【実施例0028】
本発明の詳細を以下の実施例により説明する。なお、以下に示す実施例は本発明の態様についての理解を容易にするためのものであり、これらの実施例に制限されるものではない。
【0029】
表1に検討した合金の組成を示す。なお、表1に示す元素以外の残部は、実質的にアルミニウムと不可避不純物から成る。
【0030】
【表1】
【0031】
合金の溶製方法を以下に説明する。黒鉛製の坩堝に原材料として工業用純アルミニウム(純度99.7%以上)を装入し、大気雰囲気において電気炉を使用して溶解した。純アルミニウムが溶け落ちた後、所望の組成となるよう質量を調整したチタン母合金(Al-10%Ti)、ジルコニウム母合金(Al-15%Zr)、金属ニッケル、金属銅、金属亜鉛および金属マグネシウムを添加した。得られた溶湯中の水素ガスおよび介在物除去を目的としてアルゴンガスバブリングを行った後、溶湯を鎮静して溶湯表面の滓を取り除いた。
【0032】
凝固割れ性の評価として、前記非特許文献6に記されたリング状鋳型を用いた割れ試験を行った。鋳型温度は常温であり、注湯温度は液相線温度+100℃とした。鋳造冷却後、割れ試験片表面に見える割れの長さを測定した。各水準n=4で試験を行った。表2に割れ試験結果を示す。
【0033】
【表2】
【0034】
本発明の鋳造用アルミニウム合金である実施例1~8では、割れが発生しないまたは1個に過ぎないのに対し、比較例9~15では割れが全数発生した。
【0035】
続いて、実施例5~8ならびに比較例12~15について、鋳造温度735℃で供試材採取用鋳型に鋳込み、自然空冷させた後に鋳型から取り出し供試材採取用鋳物を得た。供試材採取用鋳型はJIS:H5202の図2に基づいた舟金型であり、型温度は常温とした。
【0036】
上記のように得た供試材採取用鋳物から、JIS4号引張試験片を作製した。表3に実施例5~8ならびに比較例12~15の引張試験結果を示す。
【0037】
【表3】
【0038】
実施例5~8ならびに比較例12~15いずれも、引張強さおよび耐力は400MPaを超えているものの、伸びが5%以上となるのは実施例5~8に限られる。原因は明らかでないが、実施例の組成は凝固割れが抑制されており内部健全性に優れていると考える。
【0039】
以上の結果により、凝固割れを抑制しつつ引張強さおよび耐力400MPa以上、伸び5%以上となる鋳造用アルミニウム合金を得ることができる。また、本発明の鋳造用アルミニウム合金は、砂型鋳造に限らず比較的低温で金型鋳造、特に重力金型鋳造のような比較的設備費が安い製造方法により鋳造できる。