(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131788
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用クラッド式正極板および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/14 20060101AFI20220831BHJP
H01M 4/75 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
H01M4/14 R
H01M4/75 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030920
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 潔
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA01
5H017HH03
5H050AA19
5H050BA09
5H050CA06
5H050CB15
5H050FA13
5H050HA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正極電極材料の化成度を高めることができる鉛蓄電池用クラッド式正極板、およびそれを含む鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛蓄電池用クラッド式正極板は、少なくとも1つの多孔質のチューブ31と、前記チューブ31内に充填された正極電極材料32と、正極集電体33と、を含み、前記正極集電体33は、第1および第2の端部を有する少なくとも1つの芯金35と、前記第1の端部35aにつながっている集電部34とを含む。前記芯金35は、前記チューブ31の中に配置され、且つ、前記正極電極材料32と接触している。前記芯金35は、前記第2の端部32bが前記チューブ31に近づくように曲がる曲がり部35cを含む偏心部35dを含む。前記チューブ31が延びる方向における前記芯金35の長さをL0とし、前記方向における前記第1の端部35aから前記偏心部35dまでの長さをL1としたときに、比L1/L0は0.80以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの多孔質のチューブと、
前記チューブ内に充填された正極電極材料と、
正極集電体と、を含み、
前記正極集電体は、第1および第2の端部を有する少なくとも1つの芯金と、前記第1の端部につながっている集電部とを含み、
前記芯金は、前記チューブの中に配置され、且つ、前記正極電極材料と接触しており、
前記芯金は、前記第2の端部が前記チューブに近づくように曲がる曲がり部を含む偏心部を含み、
前記チューブが延びる方向における前記芯金の長さをL0とし、前記方向における前記第1の端部から前記偏心部までの長さをL1としたときに、比L1/L0が0.80以上である、鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項2】
前記曲がり部において前記芯金の中心軸の曲率半径が2700mm以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項3】
前記チューブが延びる前記方向に垂直な方向を断面方向DRとし、前記偏心部の端部であって前記第1の端部側の端部を端部Kとしたときに、
前記端部Kにおける前記芯金の中心軸と、前記第2の端部における前記芯金の中心軸との前記断面方向DRにおける距離E(mm)と、前記チューブの内径Dt(mm)と、前記芯金の直径Dm(mm)とが、-2.0≦(E+0.5Dm-0.5Dt)≦2.0を満たす、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項4】
前記第2の端部が前記チューブと接触している、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項5】
前記芯金は、前記第1の端部から前記偏心部まで続く棒状部を含み、
前記棒状部は前記チューブと接触していない、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項6】
一列に並んだ複数の前記チューブを含み、
前記正極集電体は、それぞれの前記第1の端部が前記集電部で連結された複数の前記芯金を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項7】
複数の前記芯金は、それぞれの前記偏心部において同じ方向に偏心している、請求項6に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用クラッド式正極板を含む鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用クラッド式正極板および鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池では、正極板として、ペースト式正極板、およびクラッド式正極板などが用いられている。クラッド式正極板は、例えば、複数の多孔質のチューブと、チューブ内に収容された芯金と、チューブ内に充填された正極電極材料と、を含む。クラッド式正極板では、正極集電体の形状によって電池の特性が変化する。そのため、様々な正極集電体が提案されてきた。
【0003】
特許文献1(特開平8-203505号公報)は、「円柱形の芯金(1)の極板面と平行な両側面にのみ複数の羽根(1’)を設け、該羽根(1’)の高さcを式〔(チューブ内径a-芯金外径b)÷2×0.74〕で求めた値以上とすることを特徴とするクラッド式陽極板。」を開示している。
【0004】
特許文献2(実開昭62-064956号公報)は、「中空円筒状スリーブの中心部に芯金を挿着し、該スリーブと芯金との間隙部に活物質を充填したファイバークラッド式陽極板において、該芯金の下部1/3の径状を上部2/3の径状より20~30%太径にしたことを特徴とするファイバークラッド式陽極版。」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-203505号公報
【特許文献2】実開昭62-064956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のクラッド式正極板では、正極電極材料の化成度を充分に高めることができない場合があった。このような状況において、本発明は、正極電極材料の化成度を高めることができる鉛蓄電池用クラッド式正極板、およびそれを含む鉛蓄電池を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、鉛蓄電池用クラッド式正極板に関する。当該正極板は、少なくとも1つの多孔質のチューブと、前記チューブ内に充填された正極電極材料と、正極集電体と、を含み、前記正極集電体は、第1および第2の端部を有する少なくとも1つの芯金と、前記第1の端部につながっている集電部とを含み、前記芯金は、前記チューブの中に配置され、且つ、前記正極電極材料と接触しており、前記芯金は、前記第2の端部が前記チューブに近づくように曲がる曲がり部を含む偏心部を含み、前記チューブが延びる方向における前記芯金の長さをL0とし、前記方向における前記第1の端部から前記偏心部までの長さをL1としたときに、比L1/L0が0.80以上である。
【0008】
本発明の他の一側面は、鉛蓄電池に関する。当該鉛蓄電池は、本発明の鉛蓄電池用クラッド式正極板を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極電極材料の化成度を高めることができる鉛蓄電池用クラッド式正極板、およびそれを含む鉛蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るクラッド式正極板を模式的に示す上面図である。
【
図2】
図1の線II-IIにおける概略断面図である。
【
図3】
図2の線III-III線における概略断面図である。
【
図4】
図2および
図3に示した芯金の屈曲部の形状の一例を模式的に示す図である。
【
図5】
図2および
図3に示した芯金の形状の一例を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池のフタを外した一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7B】
図7Aの線VIIB-VIIBにおける断面を矢印方向から見たときの概略断面図である。
【
図9】従来のクラッド式正極板の一例の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。なお、本明細書において、「数値A~数値B」という記載の範囲は、数値Aおよび数値Bを含み、「A以上でB以下」と読み替えることが可能である。
【0012】
(鉛蓄電池用クラッド式正極板)
本実施形態のクラッド式正極板は、鉛蓄電池に用いられる。当該クラッド式正極板は、少なくとも1つの多孔質のチューブと、当該チューブ内に充填された正極電極材料と、正極集電体と、を含む。当該多孔質のチューブを、以下では「チューブ(T)」と称する場合がある。正極集電体は、第1および第2の端部を有する少なくとも1つの芯金と、第1の端部につながっている集電部とを含む。芯金は、チューブ(T)の中に配置され、且つ、正極電極材料と接触している。芯金は、偏心部を含む。偏心部は、第2の端部がチューブ(T)に近づくように曲がる曲がり部を含む。チューブ(T)が延びる方向における芯金の長さをL0とし、当該方向における第1の端部から偏心部までの長さをL1としたときに、比L1/L0は0.80以上である。
【0013】
チューブ(T)が延びる方向を、以下では「方向DL」と称する場合がある。方向DLは、別の観点では、チューブ(T)の中心軸と平行な方向、または、チューブ(T)の長手方向である。
【0014】
曲がり部において芯金の中心軸の曲率半径は、2700mm以下(例えば1900mm以下、1200mm以下、800mm以下、または600mm以下)である。換言すれば、そのような曲率半径を有する部分を曲がり部とする。曲がり部における芯金の中心軸の曲率半径は、200mm以下であってもよい。曲がり部は、芯金が急に曲がっている屈曲部であってもよい。屈曲部は、芯金の中心軸の曲率半径が20mm以下(例えば10mm以下、5mm以下、または3mm以下)の部分である。第2の端部における芯金が、チューブ(T)の内面に垂直な方向よりも第1の端部側に曲がっていない限り、曲がり部の中心軸の曲率半径の下限に限定はないが、当該曲率半径は、1mm以上(例えば、2mm以上、または5mm以上)であってもよい。これらの下限と上限とは、下限が上限を下回らない限り任意に組み合わせることができる。以下では、芯金の中心軸の曲率半径が20mm以下の曲がり部を屈曲部と称し、芯金の中心軸の曲率半径が、20mmよりも大きく且つ2700mm以下(例えば1900mm以下、1200mm以下、800mm以下、または600mm以下)の曲がり部を湾曲部と称する場合がある。
【0015】
なお、曲率半径を測定しなくても、芯金の所定の部分に曲がり部が存在することを認定することは可能である。例えば、芯金の所定の部分の中心軸から任意の3点を選択し、その3点の位置に基づいてその部分に曲がり部が存在することを認定することが可能である。
【0016】
長さL1は、第1の端部と、偏心部に含まれる曲がり部(より詳細には、曲がり部の2つの開始点のうち集電部に近い方の開始点)との間の長さ(方向DLに沿った長さ)である。具体的には、芯金の中心軸の曲率半径が上記範囲にある曲がり部の開始点(集電部に近い方の開始点)と第1の端部との間の長さ(方向DLに沿った長さ)をL1とすることができる。複数の曲がり部(屈曲部および/または湾曲部)が存在する場合には、第1の端部に最も近い曲がり部と第1の端部との間の長さが、L1となる。なお、曲がり部の開始点とは、芯金の中心軸の曲率半径が上記範囲にある部分の2つの端を意味する。
【0017】
構成部材(棒状部、チューブ(T)など)が、円柱状または中空の円筒状である場合、ある位置P1における当該構成部材の中心軸は、当該位置P1における当該構成部材の円形の断面(位置P1において当該構成部材が延びる方向に垂直な断面)の中心である。なお、構成部材が円柱状および中空の円筒状のいずれでもない場合、ある位置P1における当該構成部材の中心軸の位置は、当該位置P1における当該構成部材の断面(位置P1において当該構成部材が延びる方向に垂直な断面)の重心の位置とすることができる。すなわち、この場合、方向DLに沿って当該重心をつなげた線を中心軸とみなすことができる。
【0018】
クラッド式正極板の一般的な正極集電体において、集電部側の芯金の位置は固定されているが、それ以外の芯金の位置は固定されていない。そのため、そのような一般的な正極集電体を用いると、集電部から離れるほど、芯金の位置が偏心しやすくなる(すなわち、多孔質チューブの中心軸からずれやすくなる)。そのような従来のクラッド式正極板の一例の概略断面図を
図9に示す。
【0019】
図9に示す正極板は、多孔質のチューブ1031、正極電極材料1032、および正極集電体1033を含む。正極集電体1033は、集電部1034と芯金1035とを含む。正極電極材料1032および芯金1035は、チューブ1031内に配置されている。芯金1035の先端側は固定されていない。そのため、一般的な正極集電体1033を用いた場合、集電部1034側の芯金1035はチューブ1031の中央近傍に位置するが、集電部1034から離れた位置にある芯金1035はチューブ1031の内周面に接するほどに偏心することがある。
図9において、チューブ1031から離れている部分を離間部1035aと称し、芯金1035のうちチューブ1031に近接している部分を近接部1035bと称する場合がある。
図9の一例では、集電部1034に近い位置にある芯金1035が離間部1035aであり、集電部1034から離れた位置にある芯金1035が近接部1035bである。
【0020】
正極電極材料には、電気伝導率が低い一酸化鉛PbOなど(以下では「未化成活物質」と称する場合がある)が多く含まれる。また、化成反応に関与するイオンは、正極電極材料の細孔を通って移動する。従って、近接部1035bの周辺の正極電極材料では、未化成活物質の抵抗およびイオンが細孔を通過する際の抵抗が比較的小さい。そのため、近接部1035bの周辺では、化成初期に流れる化成電流がより多く、その結果、化成反応によって生じるPbO2の量が多くなる。PbO2は、未化成活物質に比べて電気伝導率が高い。そのため、近接部1035bの周辺の正極電極材料では、元々小さな抵抗と、化成が進行するにつれて向上する電気伝導率とによって、化成反応が急速に進行する。
【0021】
化成は、正極板と対向する負極板でも同時に進行する。そのため、負極板においても、近接部1035bと対向する部分の負極電極材料から先に化成が進行する。近接部1035bの周辺の正極電極材料と、近接部1035bと対向する部分の負極電極材料とにおいて活物質の化成がほぼ完了すると(例えば、化成後期には)、離間部1035aに化成電流の大半が流れ込む。しかし、化成電流が離間部1035aに集中することによって電流密度が高くなることに加え、離間部1035aの周辺の正極電極材料の抵抗が元々大きいために、離間部1035aでは、印加された電気量に対するPbO2の増加率(すなわち化成効率)が、近接部1035bに比べて著しく低下する。
【0022】
以上のようなメカニズムによって、偏心した芯金を有する従来のクラッド式正極板では、偏心がない芯金を備える正極板に比べて、正極板全体における正極電極材料の化成度のばらつきが大きくなるとともに、正極板全体における正極電極材料の化成度そのものが低下する傾向がある。
【0023】
なお、正極電極材料の化成度のばらつきは、化成の際に印加する化成電流が小さいときには比較的小さい。ところが、化成電流が大きい場合(例えば高速化成を行う場合)、化成の初期段階において、近接部1035bにおける化成電流密度と、離間部1035aにおける化成電流密度との差が極端に大きくなる。さらに、近接部1035bの化成がほぼ終了した化成後期には、抵抗が大きい離間部1035aに化成電流が集中して、化成効率が低下する。よって、化成電流が大きい場合には、正極電極材料の化成度のばらつきが顕著になる。
【0024】
本実施形態で用いられる正極集電体の芯金は、第2の端部がチューブに近づくように曲がる曲がり部を含む偏心部を有する。また、上記の比L1/L0が0.80以上である。この構成によれば、芯金の全体的な偏りを低減することが容易になる。例えば、第1の端部から第2の端部の近傍までの部分が、チューブ(T)に接触することを抑制することが容易になる。その結果、正極板全体における化成度の偏りが低減し、正極全体としての化成度を高めることができる。さらに、芯金の大部分をチューブ(T)の中心軸近傍に配置することによって、芯金の周囲に活物質が均等に配置される。その結果、芯金の腐食を抑制することが可能である。
【0025】
芯金は、第1および第2の端部を有する。芯金は、正極集電体のうち、正極電極材料と接触している表面を有する部分である。集電部は、正極電極材料とは接触していない。第1の端部は、芯金と集電部との境界に存在する。第2の端部は、第1の端部とは反対側の端部である。
【0026】
比L1/L0は、0.80以上であり、0.81以上、0.86以上、または0.91以上であってもよい。比L1/L0は、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.95以下、または0.91以下であってもよい。これらの下限と上限とは、下限が上限を下回る限り、任意に組み合わせることができる。例えば、比L1/L0は、0.80~0.99、0.81~0.99、0.86~0.99、または0.91~0.99の範囲にあってもよい。これらの範囲において、下限が上限を下回る限り、上限を、0.98、0.97、0.95、または0.91としてもよい。
【0027】
チューブ(T)が延びる方向における芯金の長さL0に限定はなく、150mm~450mmの範囲(例えば200mm~400mmの範囲)にあってもよい。長さL0が360mm以下(例えば200mm~360mmの範囲)である場合、本発明の効果が高まる。
【0028】
偏心部は、第2の端部がチューブ(T)に近づくように屈曲する屈曲部を含んでもよい。屈曲部は、芯金が急に曲がっている部分である。好ましい一例では、芯金は、曲がり部として、1つの屈曲部のみを含む。
【0029】
曲がり部が屈曲部を含む場合、屈曲部において、芯金が屈曲している角度は、2°以上であってもよい。例えば、当該角度は、2°以上、5°以上、10°以上、20°以上、30°以上、または40°以上であってもよい。当該角度は、90°以下、75°以下、60°以下、または45°以下であってもよい。これらの下限と上限とは、上限が下限以下とならない限り、任意に組み合わせることができる。例えば、当該角度は、2°~90°の範囲、5°~90°の範囲、10°~90°の範囲、20°~90°の範囲、30°~90°の範囲、または40°~90°の範囲にあってもよい。これらの範囲において、上限を、75°、60°、または45°に置き換えてもよい。例えば、当該角度は、2°~60°の範囲にあってもよい。上記角度を大きくするほど、第1の端部と偏心部との間の距離を長くすることができる。その結果、正極内の化成度の偏差を抑制でき、従って正極全体の化成度を高くすることが容易になる。一方、上記角度を小さくすることによって、正極電極材料の充填密度のばらつきを小さくすることが容易になる。当該角度は、2°~75°の範囲(例えば、2°~60°の範囲、5°~60°の範囲、5°~45°の範囲)にあってもよい。
【0030】
チューブ(T)が延びる方向を、以下では「方向DL」と称する場合がある。また、方向DLに垂直な方向を、以下では、「断面方向DR」と称する場合がある。また、偏心部の端部であって第1の端部側の端部を「端部K」と称する場合がある。端部Kから第2の端部までが偏心部を構成する。
【0031】
ここで、端部Kにおける芯金の中心軸と、第2の端部における芯金の中心軸との断面方向DRにおける距離を距離E(mm)とする。チューブ(T)の内径を、内径Dt(mm)とする。芯金の直径をDm(mm)とする。ここで、DtおよびDmが一定であると仮定する。さらに、端部Kにおいて、芯金の中心軸とチューブ(T)との中心軸とが交差し、且つ、第2の端部において芯金がチューブと接触していると仮定する。その場合、(E+0.5Dm)は0.5Dtに略等しい。距離E、内径Dt、および直径Dmは、-2.0≦(E+0.5Dm-0.5Dt)≦2.0を満たしてもよく、好ましくは-1.0≦(E+0.5Dm-0.5Dt)≦1.0を満たし、より好ましくは-0.5≦(E+0.5Dm-0.5Dt)≦0.5(例えば、-0.25≦(E+0.5Dm-0.5Dt)≦0.25)を満たす。これらの条件を満たすことによって、第1の端部と第2の端部との間の領域をチューブ(T)の中心軸に近づけることが容易になる。これらの式において、右辺を左辺の絶対値の半分の値としてもよい。これらの式において、右辺を0としてもよい。(E+0.5Dm-0.5Dt)の値についてここで例示した複数の範囲のいずれかと、上記で例示したL1/L0の複数の範囲のいずれかとは任意に組み合わせることができる。なお、内径Dtおよび直径Dmの値には、端部Kにおける値を用いることができる(以下の説明においても同様である)。
【0032】
距離E(mm)の値は、(0.5Dt-0.5Dm)の0.4~1.6倍の範囲にあることが好ましく、0.8~1.2倍の範囲にあることがより好ましく、0.9~1.1倍の範囲にあることが特に好ましい。これらの範囲の上限を1.0倍としてもよい。ここで距離Eについて例示した複数の範囲のいずれかと、上記で例示したL1/L0の複数の範囲のいずれかとは任意に組み合わせることができる。
【0033】
本実施形態の正極板では、第2の端部は、好ましくはチューブ(T)と近接しており、より好ましくはチューブ(T)と接触している。例えば、第2の端部とチューブ(T)との最短距離は、0~1mmの範囲にあってもよく、好ましくは0~0.5mmの範囲にある。第2の端部はチューブ(T)と接触していてもよい。これらの条件を満たすことによって、第1の端部と第2の端部との間の領域をチューブ(T)の中心軸に近づけることが容易になる。
【0034】
曲がり部は、芯金が外力によって変形していない状態においても曲がっている部分である。1つの観点では、芯金が外力によって変形していない状態において、第1の端部から偏心部までの部分には曲がり部が存在しない。チューブ(T)内に正極電極材料を充填する際に、偏心部が少ない方が正極電極材料を均一に充填しやすくなる。この構成の典型的な一例では、第1の端部と曲がり部との間にある芯金(典型的には棒状部)は、重力などの力が加わらない限り直線状に延びる。外力によって変形していない状態とは、例えば、チューブ(T)内に配置されていない芯金を、重力によって変形しないように静置したときの状態である。
【0035】
芯金は、棒状部を含んでもよい。ここで、棒状部とは、部分的に付加される突起物を除き、その径が概ね一定である領域を意味する。例えば、棒状部は、棒状部の最大径と最小径とが、それらの平均値の±15%(好ましくは±5%)の範囲内にある部分であってもよい。棒状部の径は、棒状部が延びる方向(中心軸の方向)に垂直な断面の径である。棒状部の断面の形状が円でない場合には、断面の面積と同じ面積を有する円(相当円)の直径を棒状部の径とする。
【0036】
棒状部は、典型的には円柱状の形状を有する。棒状部の径(例えば直径)に特に限定はなく、チューブの内径の0.25~0.45倍の範囲(例えば0.30~0.38倍の範囲)にあってもよい。棒状部は、円柱状以外の形状(例えば角柱状)であってもよい。
【0037】
本実施形態の正極板では、芯金は、第1の端部から偏心部まで続く棒状部を含んでもよく、当該棒状部はチューブ(T)と接触していないことが好ましい。この構成によれば、正極電極材料の化成度を特に高めることが可能であり、且つ、正極芯金の腐食を特に抑制することが可能である。なお、第1の端部から偏心部までの領域において、電極材料充填時の重力などによって湾曲した棒状部の一部がチューブ(T)と接触する場合がある。そのような場合であっても、本実施形態の正極板によれば、芯金のうちチューブ(T)の中心軸に近い部分の長さを、従来の正極集電体よりも長くすることが可能である。そのため、第1の端部から偏心部までの領域において棒状部の一部がチューブ(T)と接触している場合であっても、本発明の効果を得ることは可能である。
【0038】
典型的な棒状部は、柱状(例えば円柱状)であり、第1の端部から第2の端部まで(または第1第2の端部の近傍)まで続いており、第2の端部側に曲がり部を有する。棒状部の径(例えば直径)に特に限定はなく、2.0mm~4.0mmの範囲(例えば2.5mm~3.5mmの範囲)にあってもよい。なお、第2の端部の近傍(例えば第2の端部からの距離が5mm程度の範囲)では芯金が先細りになることがあるが、その部分は実質的に棒状部とみなすことができる。なお、棒状部の断面の形状が円でない場合には、断面の面積と同じ面積を有する円(相当円)の直径を棒状部の径とする。
【0039】
芯金は、棒状部のみで構成されてもよいし、棒状部と後述するテーパ部とによって構成されてもよい。方向DLにおける棒状部(芯金の棒状部)の長さは、方向DLにおける芯金の長さの0.93~1.0倍の範囲(例えば0.96~1.0倍の範囲)にあってもよい。
【0040】
通常、本実施形態の正極板は、一列に並んだ複数のチューブ(T)を含み、正極集電体は、それぞれの第1の端部が集電部で連結された複数の芯金を含む。チューブ(T)の数と芯金の数とは同じである。チューブ(T)および芯金の数に限定はなく、それぞれ、1~30の範囲(例えば3~20の範囲)にあってもよい。
【0041】
本実施形態の正極板では、複数の芯金は、それぞれの偏心部において同じ方向に偏心していてもよい。別の観点では、複数の芯金は、それぞれの曲がり部において同じ方向に曲がっていてもよい。これらの構成によれば、正極電極材料をチューブ(T)に充填する際に、第2の端部をチューブ(T)に近づけることが容易になる。芯金が偏心する方向(曲がる方向)に限定はなく、複数のチューブ(T)が並ぶ方向と平行であってもよいし、垂直であってもよい。芯金が偏心する方向を、複数のチューブ(T)が並ぶ方向と平行とすることによって、鋳造による芯金の製造が容易になる。
【0042】
上述した複数の異なる構成は、矛盾がない限り、任意に組み合わせることができる。本実施形態の正極板は、上述した複数の構成のうちの少なくとも1つを満たしてもよい。
【0043】
(鉛蓄電池)
本実施形態の鉛蓄電池は、本実施形態のクラッド式正極板を含む。この構成によれば、正極板の化成度を高めることができ、その結果、電池の初期の自己放電を抑制すること、および、初期の放電容量を向上させることが可能となる。正極板以外の構成に特に限定はなく、クラッド式の鉛蓄電池に用いられる公知の構成を適用してもよい。
【0044】
以下、本実施形態のクラッド式正極板およびそれを含む鉛蓄電池の主要な構成要素の例について説明する。しかし、本発明の構成要素は、以下の例に限定されない。以下では、正極板が複数の多孔質のチューブ(T)を含む例について説明する。
【0045】
(クラッド式正極板)
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブ(T)と、チューブ(T)内に充填された正極電極材料と、正極集電体とを含む。正極集電体は、上述した特徴を有する。クラッド式正極板は、通常、複数のチューブ(T)を連結する連座を含む。正極集電体は、上述した特徴を有する。
【0046】
(正極集電体)
正極集電体は、例えば、鉛合金で構成されている。鉛合金としては、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。Pb-Sb系合金は、必要に応じて、ヒ素、セレン、ビスマス、およびスズからなる群より選択される少なくとも一種の元素などを含んでもよい。
【0047】
正極集電体の芯金は、集電部側のテーパ部と、テーパ部から延びる棒状部とを含んでもよい。テーパ部は、集電部側から棒状部側に向かって径が小さくなっており、円錐台状の形状(円錐台状に類似する形状も含む)を有してもよい。芯金は、テーパ部と集電部との間に配置された柱状部を含んでもよい。柱状部は、通常、円柱状の形状(円柱状に類似の形状も含む)を有する。集電部の近傍では、チューブ(T)の集電部側の開口を塞ぐように、テーパ部、または、テーパ部および柱状部が配置される。テーパ部の一部とチューブの内周面との間の隙間、または、テーパ部の一部および柱状部とチューブの内周面との隙間には、樹脂(例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど))が充填されていてもよい。
【0048】
正極集電体の製造方法に特に限定はなく、公知の方法で製造してもよい。例えば、鋳造法(ダイキャスト法も含む)によって正極集電体を製造してもよい。その場合、鋳造時に芯金の偏心部が形成されるように鋳造を行ってもよい。あるいは、芯金の偏心部の曲がり部は、鋳造された正極集電体の芯金の一部を曲げることによって形成してもよい。
【0049】
(多孔質のチューブ)
多孔質のチューブ(チューブ(T))は、その内部に、芯金および正極電極材料を収容する。チューブ(T)は、全体としては、中空の円筒状の形状を有する。チューブ(T)は多孔質であり、電解液が通過可能である。チューブ(T)は、通常、チューブ状の繊維集合体である。チューブ状の繊維集合体は、繊維をチューブ状に編み上げることによって形成された集合体であってもよい。チューブ状の繊維集合体は、チューブ状の不織布または織布であってもよい。繊維の例には、無機繊維(ガラス繊維など)、樹脂繊維などが含まれる。チューブ(T)は、必要に応じて、加熱処理されてもよい。チューブ(T)は、チューブ状の繊維集合体に、樹脂を含浸させることによって形成されてもよい。
【0050】
チューブ(T)の長さは、芯金の長さに応じて選択すればよい。例えば、チューブ(T)の長さは、方向DLにおける芯金の長さL0よりも、ある程度長ければよい。チューブ(T)の内径および厚さは、芯金の形状および/または鉛蓄電池の用途などに応じて選択される。
【0051】
チューブ(T)の内径に特に限定はなく、8.5mm~11mmの範囲(例えば、9.0mm~10.5mmの範囲や9.3mm~10.3mmの範囲)にあってもよい。チューブ(T)の内径は、チューブ(T)の長手方向に垂直な断面における直径である。チューブ(T)の断面は、真円または真円に近い形状を有する。そのため、チューブ(T)の断面形状を真円とみなすことができる。
【0052】
チューブ(T)の厚さに特に限定はなく、クラッド式正極板のチューブとして機能する厚さであればよい。チューブ(T)の厚さは、0.1mm~0.8mmの範囲(例えば0.3mm~0.6mmの範囲)にあってもよい。
【0053】
正極電極材料は、酸化還元反応によって容量を発現する正極活物質(具体的には、二酸化鉛および硫酸鉛の少なくとも一方)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0054】
クラッド式の正極板の製造方法に限定はなく、例えば以下の方法で製造してもよい。まず、複数の芯金のそれぞれを、複数のチューブ(T)内に収容する。次に、未化成の正極電極材料(正極電極材料となる材料)をチューブ(T)内に充填することによって、未化成の正極板を形成する。当該未化成の正極板を化成することによって、正極板が得られる。
【0055】
未化成の正極電極材料をチューブ(T)内に充填する際に、芯金の第2の端部がチューブ(T)と接触している状態で充填を行うことが好ましい。例えば、第2の端部を含む断面(チューブ(T)の中心軸に垂直な断面)において、第2の端部が最も下方に位置するように正極集電体およびチューブ(T)を傾けた状態で充填を行ってもよい。これによって、第2の端部とチューブ(T)との距離を小さくすることができる。例えば、第2の端部がチューブ(T)に接触している状態で充填を完了できる。
【0056】
未化成の正極板は、以下の手順で製造してもよい。まず、複数の芯金のそれぞれをチューブ(T)内に収容する。次に、複数のチューブ(T)のそれぞれの一端と集電部とを上部連座で固定する。次に、複数のチューブ(T)のそれぞれの他端の開口から、未化成の正極電極材料をチューブ(T)内に充填する。次に、複数のチューブ(T)のそれぞれの他端の開口を、下部連座で封止する。このようにして、未化成の正極板が得られる。
【0057】
未化成の正極電極材料には、鉛蓄電池に用いられている公知の材料を用いてもよい。未化成の正極電極材料は、鉛を含有する粉末を含む。当該粉末は、少なくとも一酸化鉛を含む。当該粉末は、金属鉛、鉛丹、および硫酸鉛からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含んでもよい。未化成の正極電極材料は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。
【0058】
未化成の正極電極材料の充填は、乾式充填および湿式充填のいずれであってもよい。例えば、乾式充填の場合、乾燥状態の材料がそのままチューブ(T)に充填される。湿式充填の場合、スラリー状の材料がチューブ(T)に充填される。スラリー状の材料は、鉛を含有する粉末、水、硫酸、および、必要に応じて添加剤などを混合することによって調整してもよい。
【0059】
従来のクラッド式正極板では、乾式充填に比べて湿式充填の場合に、芯金をチュ-ブの中心軸上に固定することが製造工程上、困難であり、芯金が偏心し易かった。そのため、湿式充填を行った場合には化成度のばらつきが生じ易かった。本実施形態の正極板によれば、湿式充填の場合でも、化成度のばらつきを抑制することが可能である。
【0060】
未化成の正極板は、化成される。化成によって、二酸化鉛が生成する。化成は、鉛蓄電池の電槽内の電解液中に、未化成の極板を含む極板群を浸漬した状態で、極板群を充電することによって行ってもよい。あるいは、正極板の化成は、極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0061】
(鉛蓄電池)
本実施形態の鉛蓄電池は、通常、正極板、負極板、セパレータ、電解液、電槽、および蓋を含む。正極板は、本実施形態のクラッド式正極板である。クラッド式正極板以外の構成要素に特に限定はなく、鉛蓄電池に用いられる公知の構成要素を用いてもよい。
【0062】
電槽は、正極板、負極板、セパレータ、および電解液を収容する。セパレータは、正極板と負極板との間に配置される。正極板、セパレータ、および負極板は積層されて極板群を構成する。極板群は、複数の正極板および複数の負極板を含んでもよい。蓋は、電槽の開口部を封じる。
【0063】
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部分である。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0064】
負極集電体は、鉛または鉛合金の鋳造によって形成してもよいし、鉛または鉛合金シートの加工によって形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として、格子状の集電体(負極格子)を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0065】
負極集電体を構成する鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、およびPb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。負極集電体を構成する鉛または鉛合金は、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、およびSeからなる群より選択される少なくとも一種の元素などを含んでもよい。
【0066】
負極電極材料は、酸化還元反応によって容量を発現する負極活物質(鉛または硫酸鉛)を必須成分として含む。負極電極材料は、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどの添加剤を含んでもよい。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛を含有する粉末を用いて作製される。鉛を含有する粉末は、好ましくは一酸化鉛を含み、金属鉛をさらに含んでもよい。
【0067】
有機防縮剤には、リグニン類および合成有機防縮剤の少なくとも一方を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などのリグニン誘導体などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子である。合成有機防縮剤としては、例えば、硫黄含有基を有するとともに芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物(アルデヒドまたはその縮合物)による縮合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
(満充電状態)
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、25℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で2.8V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに定格容量として記載の数値の0.2倍の電流で2時間、定電流充電を行った状態である。
【0069】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池をいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0070】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料の例には、カーボンブラック、黒鉛などが含まれる。カーボンブラックの例には、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0071】
負極板の製造方法に限定はなく、以下の方法で製造してもよい。まず、鉛を含有する粉末および各種添加剤に、水および硫酸を加えて混練することによって、負極ペーストを調製する。次に、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、得られた極板を熟成および乾燥することによって未化成の負極板を得る。その後、未化成の負極板を化成することによって負極板が得られる。
【0072】
未化成の負極板の化成は、鉛蓄電池の電槽内の電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することによって行ってもよい。あるいは、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0073】
(セパレータ)
負極板と正極板との間に配置されるセパレータには、不織布や微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さおよび枚数は、それぞれ、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータ(例えば不織布)を構成する繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。不織布は、繊維以外の成分(無機粉体、結着剤としてのポリマーなど)を含んでもよい。
【0074】
セパレータは、シート状であってもよいし、他の形状(例えば袋状)であってもよい。あるいは、セパレータは、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げて得られるセパレータであってもよい。
【0075】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.23以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、例えば、1.32以下であり、1.30以下であってもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上(または1.23以上)1.32以下、あるいは1.20以上(または1.23以上)1.30以下であってもよい。
【0076】
本発明の実施形態の例について、図面を参照しながら以下に説明する。以下で説明する例の構成要素には、上述した構成要素を適用できる。また、以下で説明する例は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する実施形態において、本発明の正極板および鉛蓄電池に必須ではない構成要素は省略してもよい。
【0077】
図1は、本発明の一実施形態に係るクラッド式の正極板30を模式的に示す上面図である。
図2は、
図1の線II-IIにおける断面を矢印の方向から見たときの概略断面図である。
図3は、
図2の線III-IIIにおける断面を矢印の方向から見たときの概略断面図である。なお、
図3では、上部連座の図示を省略している。
【0078】
クラッド式の正極板30は、一列に並ぶ複数の多孔質のチューブ31(チューブ(T))、正極電極材料32、および正極集電体33を含む。正極集電体33は、集電部34と複数の芯金35とを含む。複数の芯金35も、チューブ31と同様の方向に一列に並んでいる。各チューブ31内には、1つの芯金35が収容されている。チューブ31内には、正極電極材料32が充填されている。なお、
図2および
図3に示していないチューブ31および芯金35も、
図2および
図3に示した構造と同じ構造を有する。
【0079】
図2および
図3に示すように、芯金35は、正極集電体33のうち、チューブ31に収容されている部分であって且つ正極電極材料32と接触している表面を有する部分である。芯金35は、第1の端部35aと第2の端部35bとを有する。複数の芯金35のそれぞれの一端(第1の端部35a)は、集電部34によって連結されている。
【0080】
一列に並ぶ複数のチューブ31の一端および他端はそれぞれ、上部連座38および下部連座39によって固定されている。チューブ31の集電部34側の開口は、芯金35および上部連座38によって封止されている。各チューブ31の他方の開口は、下部連座39によって封止されている。集電部34の長手方向の一端には、クラッド式正極板30から集電するための耳部34aが形成されている。耳部34aは、上部連座38から外に突出している。上部連座38および下部連座39は、樹脂などで形成されている。
【0081】
芯金35は、集電部34側のテーパ部351と、テーパ部351から延びる棒状部352とを含む。芯金35は、第2の端部35bがチューブ31に近づくように屈曲する屈曲部35cを有する。屈曲部35cは、棒状部352に形成されている。屈曲部35cの開始点(2つの開始点のうち第1の端部35a側の開始点)から第2の端部35bまでの芯金35が、偏心部35dである。端部Kは、偏心部35dの2つの端部のうち第1の端部35a側の端部である。なお、屈曲部35cの曲率半径が充分に小さい場合には、屈曲部35cの長さ(方向DLにそった長さ)は、無視できるほど短い。そのため、
図2および
図3では、屈曲部35cの長さを無視して屈曲部35cの位置を端部Kとみなしている。テーパ部351の径は、集電部34側から棒状部352側に向かって小さくなっている。
【0082】
チューブ31が延びる方向DLにおける芯金35の長さをL0とし、方向DLにおける第1の端部35aから屈曲部35cまでの長さをL1とする。比L1/L0は、上述した範囲にある。この構成によれば、正極板の化成度を高めることができる。
【0083】
図に示す一例では、第2の端部35bはチューブ31と接触しており、第1の端部35aから屈曲部35cまでの領域において棒状部352はチューブ31と接触していない。さらに、芯金35は、屈曲部35cのみにおいて屈曲している。
【0084】
屈曲部35cの断面の拡大図を
図4に模式的に示す。
図4に示すように、芯金35は、角度αで屈曲している。角度αは、芯金35のうち、屈曲部35cを挟んで隣接する2つの部分(例えば長さが20~30mm程度の部分)の中心軸35tがなす角度(90°以下の角度)である。上述したように、好ましい一例では、すべての芯金35は、屈曲部35cにおいて同じ方向に曲がっている。
【0085】
図5は、
図2および
図3に示した芯金35の配置を模式的に示す図である。
図5は、第2の端部35b側から屈曲部35cまでの芯金35(より詳細には棒状部352)の配置を示している。屈曲部35cにおける芯金35の中心軸35tと第2の端部35bにおける芯金の中心軸35tとの断面方向DR(チューブ31の長手方向DLに垂直な方向。すなわち、
図5の紙面と平行な方向)における距離を、距離E(mm)とする。チューブ31の内径を、内径Dt(mm)とする。芯金35の直径をDm(mm)とする。ここで、DtおよびDmが実質的に一定であると仮定する。さらに、屈曲部35cにおいて、芯金35の中心軸35tの位置とチューブ(T)の中心軸31tの位置とが同じであり、且つ、第2の端部35bにおいて芯金35がチューブと接触していると仮定する。その場合、(E+0.5Dm)は0.5Dtに略等しい。
【0086】
図6は、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池1のフタを外した一例を模式的に示す斜視図である。
図7Aは、
図6の鉛蓄電池の正面図であり、
図7Bは、
図7Aの線VIIB-VIIBにおける断面を矢印方向から見たときの概略断面図である。
【0087】
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液12とを収容する電槽10を含む。極板群11は、複数枚の負極板2と複数枚の正極板30とを、セパレータ4を介して積層することによって構成されている。正極板30は、上述したクラッド式の正極板である。この実施形態では、負極板2とクラッド式正極板30との間に、シート状のセパレータ4が挟まれている状態を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。
【0088】
複数の負極板2のそれぞれの上部には、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。複数のクラッド式正極板30のそれぞれの上部にも、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。そして、負極板2の耳部同士は負極用ストラップ5aによって連結され一体化されている。同様に、クラッド式正極板30の耳部同士も正極用ストラップ5bによって連結されて一体化されている。負極用ストラップ5aの上部には負極柱6aの下端部が固定されている。正極用ストラップ5bの上部には正極柱6bの下端部が固定されている。
【0089】
(化成度の評価)
正極電極材料の化成度は、化成が終了した鉛蓄電池を解体し、取り出したクラッド式正極板を用いて、下記の手順で評価される。
【0090】
まず、取り出した正極板について、芯金が存在する部分を、チューブ(T)が延びる方向DLに沿って、集電部側から上部、中部、および下部の3つの部分に3等分に分割する。そして、上部、中部、および下部の各部の正極電極材料を別々に取り出す。以下では、上部の正極電極材料の分析について説明するが、中部および下部の正極電極材料も同様に分析する。取り出した上部の正極電極材料から約1.5g採取して、その質量W(g)を測定する。
【0091】
次に、採取した正極電極材料約1.5gをビーカーに入れ、さらに酢酸水溶液(濃度:5質量%)を50cm3加える。次に、ビーカー内の酢酸水溶液を加熱して10分間沸騰させる。この工程によって、正極電極材料中の一酸化鉛を溶解させる。次に、加熱した溶液を冷却した後、濾紙(JIS3801-1995の6種)で濾過し、さらに、濾紙上の残渣を蒸留水で洗浄する。このようにして、溶解物(溶解した一酸化鉛を含む)を除去する。次に、別のビーカーに上記残渣(二酸化鉛を含む)を蒸留水で流し入れる。さらに、濾紙上に残った残渣を、30%硝酸液10cm3と過酸化水素水1cm3との混合液、および蒸留水を用いて溶解させてビーカー内に入れる。次に、ビーカー内の液体を10分間、80℃に加熱した後、冷却する。次に、ビーカー内の液を濾過し、濾液(溶解した二酸化鉛を含む)をメスフラスコに入れる。さらに、濾紙を蒸留水で洗浄して洗浄液をメスフラスコに入れ、メスフラスコ内の液体を250cm3にする。この濾液を50cm3分取し、それに、酒石酸1gと28質量%アンモニア水20cm3とを加える。得られた液体に、得られる溶液に、BT指示薬を数滴加えたのち、0.1モル/LのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)水溶液で滴定する。溶液の色が赤紫から青に変化した点を滴定の終点とし、その時のEDTA溶液量を記録する。以下の式で、二酸化鉛の含有率(質量%)を算出する。FAは、0.1モル/LのEDTA水溶液の力価である。
PbO2の含有率(質量%)=100×(EDTA溶液の滴下量(cm3))×23.92×5×FA/(試料の質量W(g))
【0092】
上記の方法で求められたPbO2の含有率(質量%)は、化成度の程度を反映しているため、当該含有率(質量%)の値を、化成度の相対的な評価値である化成度(%)の値として用いる。
【0093】
本発明の一側面に係るクラッド式正極板および鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0094】
(1)鉛蓄電池用クラッド式正極板であって、少なくとも1つの多孔質のチューブと、前記チューブ内に充填された正極電極材料と、正極集電体と、を含み、前記正極集電体は、第1および第2の端部を有する少なくとも1つの芯金と、前記第1の端部につながっている集電部とを含み、前記芯金は、前記チューブの中に配置され、且つ、前記正極電極材料と接触しており、前記芯金は、前記第2の端部が前記チューブに近づくように曲がる曲がり部を含む偏心部を含み、前記チューブが延びる方向における前記芯金の長さをL0とし、前記方向における前記第1の端部から前記偏心部までの長さをL1としたときに、比L1/L0が0.80以上である。
【0095】
(2)上記(1)の鉛蓄電池用クラッド式正極板では、前記曲がり部において前記芯金の中心軸の曲率半径が2700mm以下であってもよい。
【0096】
(3)上記(1)または(2)の鉛蓄電池用クラッド式正極板において、前記チューブが延びる前記方向に垂直な方向を断面方向DRとし、前記偏心部の端部であって前記第1の端部側の端部を端部Kとしたときに、前記端部Kにおける前記芯金の中心軸と、前記第2の端部における前記芯金の中心軸との前記断面方向DRにおける距離E(mm)と、前記チューブの内径Dt(mm)と、前記芯金の直径Dm(mm)とが、-2.0≦(E+0.5Dm-0.5Dt)≦2.0を満たしてもよい。
【0097】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つの鉛蓄電池用クラッド式正極板において、前記第2の端部が前記チューブと接触していてもよい。
【0098】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つの鉛蓄電池用クラッド式正極板において、前記芯金は、前記第1の端部から前記偏心部まで続く棒状部を含んでもよく、前記棒状部は前記チューブと接触していなくてもよい。
【0099】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つの鉛蓄電池用クラッド式正極板は、一列に並んだ複数の前記チューブを含んでもよく、前記正極集電体は、それぞれの前記第1の端部が前記集電部で連結された複数の前記芯金を含んでもよい。
【0100】
(7)上記(6)の鉛蓄電池用クラッド式正極板において、複数の前記芯金は、それぞれの前記偏心部において同じ方向に偏心していてもよい。
【0101】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つの鉛蓄電池用クラッド式正極板を含む鉛蓄電池。
【0102】
[実施例]
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。なお、以下の実施例の鉛蓄電池は全て、定格電圧2Vの単セル電池である。
【0103】
(実施例1)
実施例1では、鉛蓄電池A1~A4、CA1~CA4を作製して評価する。
【0104】
《鉛蓄電池A1~A4、CA1~CA4》
(1)クラッド式正極板の作製
図2および
図3に示すような芯金を備えるクラッド式正極板を下記の手順で作製する。作製する正極板は、チューブおよび芯金の数を除いて、
図1に示す正極板と概ね同様の構成を有する。
【0105】
まず、正極集電体を鋳造によって製造する。このとき、上記の比L1/L0を、表1に示すように変えて複数の正極集電体を製造する。正極集電体の芯金には、第1の端部からの長さがL1である位置に屈曲部を有する芯金を用いる。芯金のうち屈曲部以外の部分には、曲がり部を形成しない。屈曲部において芯金の中心軸の位置とチューブ(T)との中心軸の位置とが同じと仮定したときに、第2の端部において芯金がチューブと接触するように芯金の屈曲部の角度を変化させる。換言すれば、上述の(E+0.5Dm-0.5Dt)が0mmとなるように芯金の屈曲部の角度を変化させる。芯金の棒状部の直径は、3.0mmである。
【0106】
なお、電池CA4の製造では、屈曲部を形成しない正極集電体を用いる。1つの正極集電体に含まれる芯金の数は15である。製造した正極集電体の15本の芯金を15個のチューブ内に収容する。次に、集電部とチューブの一端とを樹脂で覆うことによって、樹脂製の上部連座を形成する。正極集電体の材質は、Pb-Sb系合金である。各芯金の長さL0は295mmである。チューブには、ガラス繊維製の多孔質チューブを用いる。チューブの長さは310mm、外径は9.5mm、内径は9.0mmである。
【0107】
次に、正極スラリーを、チューブの開口(集電部とは反対側の開口)から充填する。このとき、一体となっている正極集電体およびチューブを傾けて、芯金の第2の端部がチューブと接触している状態で、正極スラリーを充填する。正極スラリーは、鉛粉(酸化鉛80質量%および金属鉛20質量%を含む)と鉛丹と水と希硫酸とを混練することによって調製する。鉛粉と鉛丹との質量比は、9:1とする。次に、チューブの開口を、下部連座で封止する。このようにして、未化成のクラッド式正極板を作製する。なお、正極スラリーの充填量は、化成完了後の正極板が、化成後の正極活物質をPbO2換算で1枚あたり841±8g含むように調整される。
【0108】
(2)負極の作製
鉛粉(酸化鉛80質量%および金属鉛20質量%を含む)と、有機防縮剤(リグニンスルホン酸ナトリウム)0.15質量%、および硫酸バリウム1.2質量%を、水および希硫酸とともに混合して、負極ペーストを調製する。負極集電体としてSb系合金製の鋳造格子に負極ペーストを充填し、乾燥させることにより未化成の負極板を作製する。
このとき、厚さが2.6mmの格子状集電体を用いて厚さ2.7mmの負極板(負極板A)を作製するとともに、厚さが4.4mmの格子状集電体を用いて厚さ4.5mmの負極板(負極板B)を作製する。負極板Aと負極板Bとは同数作製する。1枚の負極板Aに含まれる負極活物質量がPb換算で420±6gとなり、1枚の負極板Bに含まれる負極活物質量がPb換算で750±6gとなるように、負極ペーストの充填量を調節する。負極板の長さは、正極板のチューブの長さと同じにし、負極板の幅は、正極板の幅と同じにする。
【0109】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板4枚と未化成のクラッド式正極板3枚とを、それらの間にセパレータ(ポリプロピレン製の微多孔膜)を介在させた状態で、交互に重ねる。それによって、
図7Bに示すような極板群を形成する。極板群の外側の2枚の負極板としては負極板Aを用い、内側の2枚の負極板としては負極板Bを用いる。
【0110】
次に、極板群をポリプロピレン製の電槽に収容し、電槽の開口に蓋を接着する。次に、希硫酸(濃度:14質量%)を電槽内に注液する。次に、電槽を30℃の水槽内に保持した状態で化成を行う。化成は、高速化成で行う。高速化成は、化成時間40時間で、31.5Aの化成電流を定電流で通電することによって行う。このようにして鉛蓄電池A1~A4およびCA1~CA4を得る。
【0111】
(4)化成度の評価
上記の鉛蓄電池の正極電極材料の化成度を、記述の手順で評価する。
【0112】
上記電池における比L1/L0の値と、正極電極材料の化成度を表1に示す。表1には、各部の正極電極材料の化成度と、正極電極材料全体の化成度とを示す。正極電極材料全体の化成度は、各部の正極電極材料の化成度の平均値である。なお、表1に示す化成度は、各電池について作製される3つの電池の評価結果の平均値である。
【0113】
【0114】
電池CA4の正極集電体の芯金は、屈曲部を有さない従来の芯金であり、
図9に示すように湾曲して先端がチューブに接触している。例えば、電池CA4の正極集電体の芯金は、第1の端部からの距離が0.60L0~L0の範囲でチューブに接触している。電池CA4の芯金は、曲率半径が2700mm以下の部分を含まない。
【0115】
表1に示す電池A1~A4、CA1~CA3について、比L1/L0と正極電極材料全体の化成度との関係を
図8に示す。表1および
図8に示すように、比L1/L0を0.80以上とすることによって、正極電極材料全体の化成度を、電池CA1~CA3(比較例)および電池CA4(従来例)のそれよりも高くすることができる。電池CA1~CA3および電池CA4では、下部の化成度は高いが上部の化成度は低く、化成度の偏りが大きい。その結果、全体の化成度が低くなっている。一方、電池A1~A4では、化成度の偏りが小さく、全体の化成度は高い。
【0116】
(サイクル寿命の評価)
上述した電池A1、A4、CA1、CA2、およびCA4について、サイクル寿命を評価する。具体的には、まず、各電池について、以下の方法でサイクル試験を行う。サイクル試験は、放電工程と充電工程とを1サイクルとする充放電工程を繰り返すことによって行う。放電工程は、各電池の公称容量(200Ah)の75%(150Ah)を3時間で放電するように、定電流(50A)で3時間放電することによって行う。充電工程は、45Aで3時間充電したのち、20Aで2時間充電することによって行う。最初の充電では、放電量(150Ah)の90%の充電が行われ、充電工程全体では、放電量(150Ah)の117%の充電が行われる。これらの条件は、フォークリフト用電池の使用条件に近い条件である。
【0117】
サイクル試験の100サイクルごとに、電池の放電容量を測定する。まず、電池を40Aで5時間充電して電解液を充分に攪拌する。そして、充電の末期に電解液の比重を1.280(20℃換算)に調整する。次に、電池を30℃の水槽中に12時間保管した後、当該水槽中で、放電電流40A、終止電圧1.70Vの条件で放電容量を測定する。
【0118】
測定された放電容量が135Aを下回った時のサイクル数をX2とし、その時の放電容量をC2とする。さらに、それより1つ前の放電容量測定時の放電容量をC1とする。寿命サイクル数Xは、以下の式により算出される。
X=X2-100+100×(C1-135)/(C1-C2)
電池の比L1/L0と寿命サイクル数の評価結果とを表2に示す。
【0119】
【0120】
表2に示すように、L1/L0が0.80以上である電池A1およびA4の寿命サイクル数は、他の電池の寿命サイクル数よりも顕著に多い。この理由は現在のところ明確ではないが、理由の1つとして、電池A1およびA4の正極集電体の劣化が小さいことが考えられる。
【0121】
(実施例2)
実施例2では、(E+0.5Dm-0.5Dt)の値が表2の値になるように屈曲部の角度を変更したことを除いて、実施例1の電池A2の条件と同様の条件で複数の電池(電池B2~B4、および電池CB1およびCB2)を作製する。そして、作製した電池の正極電極材料について、実施例1と同様に評価する。(E+0.5Dm-0.5Dt)の値と評価結果とを表3に示す。電池B1は電池A2と同じであるため、電池B1については電池A2の結果を表3に示す。
【0122】
【0123】
表3に示すように、(E+0.5Dm-0.5Dt)の値を-2.0mm以上とすることによって、化成度の偏りを減らし、正極電極材料全体の化成度を高めることができる。当該値が、-1.0~0mmの範囲(例えば-0.5~0mmの範囲)にある場合には、特に高い効果が得られる。なお、なお、芯金の構造を考えると、(E+0.5Dm-0.5Dt)の絶対値が所定の範囲(例えば0mmからの振れ幅が同じ範囲)にあれば、ある程度の効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は、クラッド式正極板およびそれを含む鉛蓄電池に用いられる。鉛蓄電池の用途に限定はなく、様々な用途に用いることができる。本発明の鉛蓄電池は、産業用の長寿命型の蓄電池、および、電動車両(フォークリフトなど)用の蓄電池などに好適に用いられる。また、本発明の鉛蓄電池は、自動車、バイクなどの車両用の蓄電池に用いてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1 :鉛蓄電池
30 :クラッド式正極板
31 :チューブ
32 :正極電極材料
33 :正極集電体
34 :集電部
35 :芯金
35a :第1の端部
35b :第2の端部
35c :屈曲部(曲がり部)
35d :偏心部
352 :棒状部
DL :方向
K :端部
α :角度