IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オーミケンシ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-人造繊維製造用湿式紡糸装置 図1
  • 特開-人造繊維製造用湿式紡糸装置 図2
  • 特開-人造繊維製造用湿式紡糸装置 図3
  • 特開-人造繊維製造用湿式紡糸装置 図4
  • 特開-人造繊維製造用湿式紡糸装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131793
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】人造繊維製造用湿式紡糸装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/06 20060101AFI20220831BHJP
   D01F 6/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
D01D5/06 105Z
D01F6/00 Z
D01D5/06 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030926
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000103622
【氏名又は名称】オーミケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】磯島 康之
(72)【発明者】
【氏名】梶田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】岡林 太志
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035BB03
4L035BB19
4L045AA02
4L045BA03
4L045DA08
4L045DA32
4L045DA34
4L045DA45
4L045DB03
4L045DC50
(57)【要約】
【課題】付着性が高い糸条体に対して、また、高速紡糸において、糸条体が振り落としローラに巻き付くことを確実に防止することができるようにした人造繊維製造用湿式紡糸装置を提供することを提供すること。
【解決手段】流動浴を施した糸条体3を、1対の振り落としローラ7を介してコンベア8、9上に供給するようにした人造繊維を製造するために用いられる湿式紡糸装置において、振り落としローラ7に、振り落としローラ7から糸条体3を離脱するように作用する気流を発生させる離脱気流発生機構を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動浴を施した糸条体を、1対の振り落としローラを介してコンベア上に供給するようにした人造繊維を製造するために用いられる湿式紡糸装置において、前記振り落としローラに、該振り落としローラから糸条体を離脱するように作用する気流を発生させる離脱気流発生機構を備えたローラを用いたことを特徴とする人造繊維製造用湿式紡糸装置。
【請求項2】
前記離脱気流発生機構が、振り落としローラの胴部内に供給される空気を、振り落としローラの外周面に設けた羽根の間から半径方向に放出することで、離脱気流を発生させるようにしてなることを特徴とする請求項1に記載の人造繊維製造用湿式紡糸装置。
【請求項3】
前記羽根を、羽根の先端側が振り落としローラの回転方向と逆方向に向くように傾斜して設けてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の人造繊維製造用湿式紡糸装置。
【請求項4】
前記1対の振り落としローラの対向する羽根同士で、糸条体を点接触で挟持するようにしてなることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の人造繊維製造用湿式紡糸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人造繊維を製造するために用いられる湿式紡糸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人造繊維を製造するために湿式紡糸装置が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この湿式紡糸装置は、例えば、図5に示す構成からなり、以下の工程で人造繊維を製造するようにしている。
1.ドープ1を金属製の網からなる濾材を通過させ、2軸混練と脱泡を行った後、昇圧させ、ドープ温度を高温に保った状態で多数の細孔が穿設された紡糸口金2から紡出する。2.紡出したドープ1は、紡糸口金2の下方に設けられた流動浴を施すドローゾーンを構成するクエンチチャンバ4を経て、所定の温度にまで冷却された後、凝固浴5に導入される。
3.凝固浴5を通過したマルチフィラメントからなる糸条体3は、水等による第1洗浄工程(第1洗浄部13)へ導かれる。この洗浄工程は、繊維中心部の溶媒の一部を水で抽出(置換)する工程であり、張力をかけた状態で、複数の水洗ローラ6によって洗浄を行う。
4.洗浄工程(第1洗浄部13)を通過した糸条体3は、1対の振り落としローラ7及びトラバース7aを介して、第1コンベア8上に載置される。その際、トラバース7aの揺動がジグザグ行路の折り返し部分に達した時に第1コンベア8をステップ駆動させることにより、第1コンベア8上に糸条体3をコの字状に載置し、さらに、第1コンベア8と走行方向が逆の第2コンベア9上に糸条体3を反転させて載置するようにする。
5.第2コンベア9は、一定速度で駆動するようにし、第2コンベア9の上方に水噴射装置からなる洗浄装置10を設けた第2洗浄工程(第2洗浄部14)及び乾燥装置11を設けた乾燥工程を経た後、巻取機12で糸条体3を巻き取る。
ここで、第1コンベア8及び第2コンベア9は、第2洗浄工程及び乾燥工程での通水性及び通気性を良好にする観点から、網体や多孔板を用いるようにしている。
【0004】
ところで、上記従来の湿式紡糸装置において、振り落としローラ7には、ダブルキッキングロールと称せられる特殊な構造のクリンプ付与用歯車が用いられていた。
【0005】
そして、この振り落としローラ7は、糸条体3が振り落としローラ7に巻き付くことを防止するために、ウレタンライニング、軟質塩化ビニルシート、フッ素樹脂シート、ゴムシート、シリコンシート等で表面処理すること等の工夫がなされていた(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、振り落としローラ7に供給される糸条体3には、連行液によって湿った状態にあり、特に、セルロースを溶解する溶剤として、例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド(1-butyl-3-methylimidazolium chloride)等のイミダゾール系溶剤等のイオン液体を用いて調製したドープを用いた糸条体3は、振り落としローラ7に対する付着性が高く、また、近年、生産の効率化のために、高速紡糸の要請が高まっていることと相俟って、糸条体3が振り落としローラ7に巻き付くことを防止することができない事態が発生することが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-49527号公報
【特許文献2】特公昭47-29926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の人造繊維製造用湿式紡糸装置、特に、振り落としローラの有する問題点に鑑み、付着性が高い糸条体に対して、また、高速紡糸において、糸条体が振り落としローラに巻き付くことを確実に防止することができるようにした人造繊維製造用湿式紡糸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置は、流動浴を施した糸条体を、1対の振り落としローラを介してコンベア上に供給するようにした人造繊維を製造するために用いられる湿式紡糸装置において、前記振り落としローラに、該振り落としローラから糸条体を離脱するように作用する気流を発生させる離脱気流発生機構を備えたローラを用いたことを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記離脱気流発生機構が、振り落としローラの胴部内に供給される空気を、振り落としローラの外周面に設けた羽根の間から半径方向に放出することで、離脱気流を発生させるようにすることができる。
【0011】
また、前記羽根を、羽根の先端側が振り落としローラの回転方向と逆方向に向くように傾斜して設けるようにすることができる。
【0012】
また、前記1対の振り落としローラの対向する羽根同士で、糸条体を点接触で挟持するようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置によれば、振り落としローラに、振り落としローラから糸条体を離脱するように作用する気流を発生させる離脱気流発生機構を備えたローラを用いることにより、離脱気流によって振り落としローラから糸条体を離脱させることで、付着性が高い糸条体に対して、また、高速紡糸において、糸条体が振り落としローラに巻き付くことを確実に防止することができる。
【0014】
また、離脱気流発生機構が、振り落としローラの胴部内に供給される空気を、振り落としローラの外周面に設けた羽根の間から半径方向に放出することで、離脱気流を発生させるようにすることにより、振り落としローラの周面から半径方向に離脱気流を均一に放出することができる。
【0015】
また、前記羽根を、羽根の先端側が振り落としローラの回転方向と逆方向に向くように傾斜して設けるようにすることにより、簡易な機構により離脱気流を発生させることができる。
【0016】
また、前記1対の振り落としローラの対向する羽根同士で、糸条体を点接触で挟持するようにすることにより、糸条体が振り落としローラに巻き付くことをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置の一実施例を示す説明図である。
図2】同人造繊維製造用湿式紡糸装置の振り落としローラを示す説明図で、(a)は全体図、(b)は要部の拡大図である。
図3】同人造繊維製造用湿式紡糸装置の振り落としローラを示す説明図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図4】同人造繊維製造用湿式紡糸装置の振り落としローラの周速(回転数)と風速の関係を示すグラフである。
図5】従来の人造繊維製造用湿式紡糸装置の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1図3に、本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置の一実施例を示す。
この人造繊維製造用湿式紡糸装置は、図5に示す従来の人造繊維製造用湿式紡糸装置と同様の装置構成を有するものである。
ここで、洗浄工程(第1洗浄部13)を通過した糸条体3は、トラバース7a及び1対の振り落としローラ7を介して、第1コンベア8上に載置されるようにしている。
また、第2コンベア9は、下部コンベア9a及び上部コンベア9bからなり、第1コンベア8から第2コンベア9の下部コンベア9a上に反転させて載置された糸条体3を、下部コンベア9aと上部コンベア9bとの間に挟持した状態で一定速度で駆動するようにし、水噴射装置からなる洗浄装置10を設けた第2洗浄工程(第2洗浄部14)及び乾燥装置11を設けた乾燥工程を経た後、巻取機12で糸条体3を巻き取るようにしている。
【0020】
この場合において、振り落としローラ7は、振り落としローラ7から糸条体3を離脱するように作用する気流を発生させる離脱気流発生機構を備えるようにしている。
【0021】
この離脱気流発生機構は、離脱気流によって振り落としローラから糸条体を離脱させることで、付着性が高い糸条体に対して、また、高速紡糸において、糸条体が振り落としローラに巻き付くことを確実に防止するためのもので、振り落としローラ7の胴部内に供給される空気を、振り落としローラ7の外周面に設けた羽根72の間から半径方向に放出することで、離脱気流を発生させるようしている。
これにより、振り落としローラ7の周面から半径方向に離脱気流を均一に放出することができるようにしている。
【0022】
本実施例において、振り落としローラ7は、回転軸70を介して回転させることで、振り落としローラ7の胴部面板71に形成された開口71aから胴部内に供給される空気を、胴部面板71間に掛け渡した取付部材73の隙間Sを介して、取付部材73に取り付けた羽根72の間から半径方向に放出することで、離脱気流を発生させるようにしている。
ここで、離脱気流を発生するように、羽根72は、羽根72の先端側が振り落としローラ7の回転方向と逆方向に向くように傾斜して設けるようにしている。
羽根72の傾斜角度θ(羽根72が振り落としローラ7の周面の接線方向となす角度)は、30°~60°(本実施例においては、45°)程度に設定するようにしている。
羽根72は、厚さtが1~数mm(本実施例においては、2mm)程度の薄板状をし、必要に応じて、糸条体3が付着しないように表面処理を施した金属や合成樹脂製のものからなる。
振り落としローラ7は、特に限定されるものではないが、直径Dが150~500mm(本実施例においては、約200mm)で、数十~数百rpmで回転することにより、図4に示す、本実施例のように、0.5m/sec以上、好ましくは、0.8m/sec以上、より好ましくは、1.0m/sec以上の離脱気流を発生させることができる。
これにより、振り落としローラ7を回転させることで、羽根72の作用により、離脱気流を発生させることができるようにしている。
【0023】
なお、離脱気流発生機構として、コンプレッサ(図示省略)等の圧縮空気源からの圧縮空気を、振り落としローラ7の内部に供給し、振り落としローラ7の外周面に設けた羽根72の間から半径方向に放出することで、離脱気流を発生させるようにすることもできる。
【0024】
また、振り落としローラ7は、1対の振り落としローラ7の対向する羽根72同士で、糸条体3を点接触で挟持するようにしている。
これにより、糸条体3が振り落としローラ7に巻き付くことをより確実に防止することができる。
【0025】
以上、本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の人造繊維製造用湿式紡糸装置は、付着性が高い糸条体に対して、また、高速紡糸において、糸条体が振り落としローラに巻き付くことを確実に防止することができることから、人造繊維製造用湿式紡糸装置の用途に、新設、既設の別なく、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ドープ
2 紡糸口金
3 糸条体(マルチフィラメント)
4 クエンチチャンバ(ドローゾーン)
5 凝固浴
6 水洗ローラ
7 振り落としローラ
70 回転軸
71 胴部面板
71a 開口
72 羽根
73 取付部材
7a トラバース
8 第1コンベア
9 第2コンベア
10 洗浄装置
11 乾燥装置
12 巻取機
13 第1洗浄部
14 第2洗浄部
図1
図2
図3
図4
図5