(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131821
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】金属膜
(51)【国際特許分類】
H01J 19/70 20060101AFI20220831BHJP
H01J 61/26 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
H01J19/70
H01J61/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021030967
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】前川 和也
(72)【発明者】
【氏名】原 晋治
(72)【発明者】
【氏名】太田 尚城
(72)【発明者】
【氏名】青木 進
(72)【発明者】
【氏名】城川 眞生子
【テーマコード(参考)】
5C015
【Fターム(参考)】
5C015TT07
5C015TT08
5C015TT11
(57)【要約】
【課題】ガスの吸着能力が高い材料を提供する。
【解決手段】Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pt及びAuからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属元素を含み、互いに対向する第1面と第2面とを有し、前記2種の金属元素のうち原子番号が相対的に大きい方を金属元素Aとし、原子番号が相対的に小さい方を金属元素Bとして、前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(1)が、前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さい金属膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pt及びAuからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属元素を含み、
互いに対向する第1面と第2面とを有し、
前記2種の金属元素のうち原子番号が相対的に大きい方を金属元素Aとし、原子番号が相対的に小さい方を金属元素Bとして、前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(1)が、前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さい金属膜。
【請求項2】
前記第1面と前記第2面の中間における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(3)は、前記第1面における前記金属元素Aのモル分率A(1)よりも大きく、前記第2面における前記金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さい請求項1に記載の金属膜。
【請求項3】
前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(2)から前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Bのモル分率B(2)を差し引いた値(A(2)-B(2))と、前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(1)から前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Bのモル分率B(1)を差し引いた値(A(1)-B(1))との差が0.05以上である請求項1又は2に記載の金属膜。
【請求項4】
前記第1面における密度は、前記第2面における密度よりも低い請求項1から3のいずれか一項に記載の金属膜。
【請求項5】
前記第1面における密度が、前記第2面における密度に対して95%以下である請求項4に記載の金属膜。
【請求項6】
さらに、希土類元素を含む請求項1から5のいずれか一項に記載の金属膜。
【請求項7】
前記第1面における前記希土類元素のモル含有率は、前記第2面における前記希土類元素のモル含有率よりも高い請求項6に記載の金属膜。
【請求項8】
前記第1面における前記希土類元素のモル含有率と、前記第2面における前記希土類元素のモル含有率との差が3モル%以上である請求項7に記載の金属膜。
【請求項9】
膜厚が0.5μm以上5.0μm以下の範囲内にある請求項1から8のいずれか一項に記載の金属膜。
【請求項10】
さらに、内部に窒化物を有する請求項1から9のいずれか一項に記載の金属膜。
【請求項11】
さらに、基板を有し、前記基板と前記第2面とが接している請求項1から10のいずれか一項に記載の金属膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜に関する。
【背景技術】
【0002】
非蒸発型ゲッター(NEG:non-evaporable getter)は、水分(水蒸気)、酸素、水素、酸化炭素、窒素などのガスの分子を化学的に吸着して固定することができる物質である。非蒸発型ゲッターは、例えば、電子デバイスの真空シーリングやMEMS(Micro Electro-Mechanical System:微小電気機械システム)技術において、真空封止した真空封止空間やガスを充填したガス充填空間に混入した微量のガスを除去する目的で利用されている。
【0003】
非蒸発型ゲッターの材料としては、金属が用いられている。例えば、特許文献1には、ジルコニウム、コバルト、イットリウム、ランタン又は希土類元素のうちから選択される1種ないし複数の成分を含む非蒸発型ゲッターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子デバイスの真空シーリングやMEMS技術では、シリコン、ガラス、金属、セラミック等の様々な材料を利用することが検討されており、以前に比べガス放出の多い状態の材料で真空封止やガス封止を行なうことが要求されることがある。また、真空封止ではより高真空度な真空空間が求められ、ガス封止ではより高純度なガス充填空間が求められることがある。このため、ガスの吸着能力が高い非蒸発型ゲッターが求められている。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ガスの吸着能力が高い材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
[1]第1の態様に係る金属膜は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pt及びAuからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属元素を含み、互いに対向する第1面と第2面とを有し、前記2種の金属元素のうち原子番号が相対的に大きい方を金属元素Aとし、原子番号が相対的に小さい方を金属元素Bとして、前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(1)が、前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さい。
【0009】
[2]上記態様に係る金属膜において、前記第1面と前記第2面の中間における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(3)は、前記第1面における前記金属元素Aのモル分率A(1)よりも大きく、前記第2面における前記金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さい構成とされていてもよい。
【0010】
[3]上記態様に係る金属膜において、前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(2)から前記第2面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Bのモル分率B(2)を差し引いた値(A(2)-B(2))と、前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Aのモル分率A(1)から前記第1面における前記金属元素Aと前記金属元素Bの合計に対する前記金属元素Bのモル分率B(1)を差し引いた値(A(1)-B(1))との差が0.05以上である構成とされていてもよい。
【0011】
[4]上記態様に係る金属膜において、前記第1面における密度は、前記第2面における密度よりも低い構成とされていてもよい。
【0012】
[5]上記態様に係る金属膜において、前記第1面における密度が、前記第2面における密度に対して95%以下である構成とされていてもよい。
【0013】
[6]上記態様に係る金属膜において、さらに、希土類元素を含む構成とされていてもよい。
【0014】
[7]上記態様に係る金属膜において、前記第1面における前記希土類元素のモル含有率は、前記第2面における前記希土類元素のモル含有率よりも高い構成とされていてもよい。
【0015】
[8]上記態様に係る金属膜において、前記第1面における前記希土類元素のモル含有率と、前記第2面における前記希土類元素のモル含有率との差が3モル%以上である構成とされていてもよい。
【0016】
[9]上記態様に係る金属膜において、膜厚が0.5μm以上5.0μm以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
【0017】
[10]上記態様に係る金属膜において、さらに、内部に窒化物を有する構成とされていてもよい。
【0018】
[11]上記態様に係る金属膜において、さらに、基板を有し、前記基板と前記第2面とが接している構成とされていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
上記態様に係る金属膜は、長期間にわたってガスの吸着能力が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】第1実施形態に係る金属膜の製造に用いることができる電子ビーム蒸着装置の概略的な構成を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態の第1変形例に係る金属膜の断面図である。
【
図4】実施例で使用したガス吸着速度測定装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
図1は、第1実施形態に係る金属膜の断面図である。
図1に示すように、金属膜1は、基板10と、基板10の上に配置された金属膜部20とを有する。金属膜部20は、互いに対向する第1面21と第2面22とを有する。基板10には、金属膜部20の第2面22が接している。金属膜部20の第1面21は、真空空間やガス充填空間と接触して、これらの空間に混入した微量のガスを吸着する。
【0023】
基板10は、金属膜部20を支持する機能を有する。基板10の材料は、特に制限なく、半導体、絶縁体、金属などを用いることができる。半導体としては、例えば、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、ガリウムヒ素(GaAs)及び窒化ガリウム(GaN)などを用いることができる。絶縁体としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)及びチタン酸バリウム(BaTiO3)などのセラミック、ポリイミドやポリアミドなどの樹脂を用いることができる。金属としては、例えば、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pt、Au及び希土類元素を用いることができる。これらの材料は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
金属膜部20は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zr、Nb、Hf、Ta、Pt及びAuからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属元素を含む。金属膜部20の上記の金属元素の含有量は、上記の金属元素の合計で、例えば、80モル%以上であり、90モル%以上であることが好ましい。また、金属膜部20は、上記の金属元素のみから形成されていてもよい。ただし、金属膜部20は、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、金属膜部20の原料や製造工程から不可避的に混入する不純物である。不可避不純物の含有量は、例えば、1.0モル%以下であり、0.1モル%以下であることが好ましい。金属膜部20に含まれる上記2種の金属元素は、固溶体を形成していてもよいし、共晶体を形成していてもよいし、金属間化合物を形成していてもよい。
【0025】
金属膜部20に含まれる金属元素のうち原子番号が相対的に大きい金属元素Aは、例えば、Zr、Cr、Pt、Ni、V、Hf、Auであってもよい。また、原子番号が相対的に小さい金属元素Bは、例えば、Co、Ti、Al、Fe、V、Ni、Crであってもよい。金属膜部20に含まれる金属元素の組み合わせとしては、例えば、Zr-Co、Zr-Ti、Zr-Al、Zr-Fe、Zr-V、Zr-Ni、Cr-Ti、Pt-Ti、Ni-Ti、V-Ti、Hf-Ti、Au-Ti、Au-Cr、Zr-V-Ti、Zr-V-Feを挙げることができる。
【0026】
金属膜部20は、上記2種の金属元素のうち原子番号が相対的に大きい方を金属元素Aとし、原子番号が相対的に小さい方を金属元素Bとしたとき、第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)が、第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さくなるように設定されている。すなわち、第1面21における金属元素Bのモル分率B(1)が、第2面22における金属元素Bのモル分率B(2)よりも大きくなるように設定されている。なお、金属元素Aのモル分率は、金属元素Aと金属元素Bの合計モル数に対する金属元素Aのモル数の比である。また、金属元素Bのモル分率は、金属元素Aと金属元素Bの合計モル数に対する金属元素Bのモル数の比である。金属膜部20の金属元素の含有量は、ラザフォード後方散乱分析法を用いて測定することができる。基板10に接している第2面22の金属元素の含有量は、第1面21側から金属膜部20の表面を研磨して、基板10と第2面22との界面から100nmの位置の金属元素の含有量を、第2面22の金属元素の含有量としてもよい。
【0027】
金属膜部20の金属元素Aのモル分率は、第2面22から第1面21に向かって、段階的もしくは連続的に減少していてもよい。あるいは、金属膜部20の金属元素Bのモル分率は、第2面22から第1面21に向かって、段階的もしくは連続的に増加していてもよい。金属膜部20の第1面21と第2面22の中間23における元素Aのモル分率A(3)は、第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)よりも大きく、第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さいことが好ましい。さらに、金属膜部20の第1面21と第2面22の中間23における金属元素Bのモル分率B(3)は、第2面22における金属元素Bのモル分率B(2)よりも大きく、第1面21における金属元素Bのモル分率B(2)よりも小さいことが好ましい。
【0028】
金属膜部20の金属元素Aの含有量は、金属元素Bの含有量よりも多いことが好ましい。第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)は、例えば、0.70以上0.90以下の範囲内にあり、0.75以上0.85以下の範囲内にあることが好ましい。第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)から金属元素Bのモル分率B(1)を差し引いた値(A(1)-B(1))は、例えば、0.40以上0.80以下の範囲内にあり、0.50以上0.70以下の範囲内にあることが好ましい。また、第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)は、例えば、0.80以上1.00以下の範囲内にあり、0.85以上0.95以下の範囲内にあることが好ましい。第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)から金属元素Bのモル分率B(1)を差し引いた値(A(2)-B(2))は、例えば、0.60以上1.00以下の範囲内にあり、0.70以上0.90以下の範囲内にあることが好ましい。(A(1)-B(1))と(A(2)-B(2))との差は0.05以上であることが好ましい。(A(1)-B(1))と(A(2)-B(2))との差は、0.10以上0.40以下の範囲内にあることが好ましく、0.15以上0.35以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0029】
金属膜部20は、上記の金属元素を3種以上含む構成であってもよい。3種以上の金属元素を含む場合は、含有モル比の多い上位2つの金属元素のうち、原子番号が相対的に大きい金属元素を金属元素Aとし、原子番号が相対的に小さい属元素を金属元素Bとする。
【0030】
金属膜部20は、さらに、希土類元素を含有していてもよい。希土類元素としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを用いることができる。これらの希土類元素は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
金属膜部20の希土類元素のモル含有率は、金属膜部20の金属元素の合計に対して、例えば、1モル%以上20モル%以下の範囲内にあり、2モル%以上10モル%以下の範囲内にあることが好ましい。また、第1面21における希土類元素の含有率は、第2面22における希土類元素の含有率よりも高いことが好ましい。また、第2面22は希土類元素を含まなくてもよい。第1面21における希土類元素のモル含有率と、第2面22における希土類元素のモル含有率との差は3モル%以上であることが好ましい。第1面21における希土類元素のモル含有率と、第2面22における希土類元素のモル含有率との差は10モル%以下であってもよい。
【0032】
金属膜部20は、第1面21における密度が第2面22における密度よりも低いことが好ましい。第1面21における密度は、第2面における密度に対して95%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、75%以下であることが特に好ましい。第1面21における密度は、第2面における密度に対して50%以上であってもよく、60%以上であってもよい。
【0033】
金属膜部20は、膜厚が0.5μm以上5.0μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
本実施形態の金属膜1は、例えば、基板10の上に、金属膜部20を積層することによって製造することができる。金属膜部20を積層する方法としては、例えば、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、分子線蒸着法、スパッタリング法などを用いることができる。次に、電子ビーム蒸着法を例にとって、金属膜1の製造方法を説明する。
【0035】
図2は、第1実施形態に係る金属膜の製造に用いることができる電子ビーム蒸着装置の概略的な構成を示す断面図である。
図2に示すように、電子ビーム蒸着装置30は、真空槽31と、真空槽内を排気するための油拡散ポンプ40とを有する。真空槽31は、内部に、基板10を固定するための基板ホルダ32、3つの蒸着源(第1蒸着源34a、第2蒸着源34b、第3蒸着源34c)、RFコイル37、MFC(Mass Flow Controller)38、ガス導入管39を備える。基板ホルダ32は、外部に備えられたモータ33により周方向に回転可能とされている。第1蒸着源34a、第2蒸着源34b及び第3蒸着源34cはそれぞれ、ハース35と電子銃36とを備える。ハース35に充填した金属原料に電子銃36にて発生した電子ビームEBを照射して、金属原料を気化させて、気化した金属元素を基板10の表面に堆積させることによって金属膜を成膜する。第1蒸着源34a、第2蒸着源34b及び第3蒸着源34cは、それぞれ電子銃36に供給するエミッション電流を調整することによって電子ビームEBの出力を増減させることができ、これにより、金属膜の成膜レートを変えることができるようにされている。また、電子ビーム蒸着装置30は、MFC38により流量が調整されたガスを、ガス導入管39を介して真空槽31内に導入できるようにされている。
【0036】
電子ビーム蒸着装置30を用いた金属膜1の製造は、次のようにして行われる。
まず、基板ホルダ32に基板10を固定する。また、第1蒸着源34a、第2蒸着源34b、第3蒸着源34cのハース35に、金属膜部20の原料となる金属原料を充填する。例えば、第1蒸着源34aのハース35に金属元素Aを、第2蒸着源34bのハース35に金属元素Bを、第3蒸着源34cのハース35に希土類元素を充填する。第1蒸着源34aのハース35に金属元素Aと希土類元素とを充填してもよく、第2蒸着源34bのハース35に金属元素Bと希土類元素とを充填してもよい。
【0037】
次いで、真空槽31を封止し、油拡散ポンプ40を作動させて、真空槽31内を排気して、真空槽31内を所定の圧力(例えば、1×10-4Pa)に到達させる。
【0038】
次いで、モータ33を作動させて、基板ホルダ32を周方向に回転させる。また、第1蒸着源34a、第2蒸着源34b、第3蒸着源34cのハース35に電圧を印加しながら、電子銃36にエミッション電流を供給して、電子ビームEBをハース35に充填した金属原料に照射することによって金属膜の成膜を開始する。金属膜の成膜開始後、例えば、金属元素Bの成膜レートが連続的に増加するように、第2蒸着源34bの電子銃36に供給するエミッション電流値を調整する。これによって、金属元素Bのモル分率が基板10側の表面(第2面22)から基板10とは反対側の面(第1面21)に向かって連続的に上昇し、金属元素Aのモル分率が第2面22から第1面21に向かって連続的に低下した金属膜部20を成膜することができる。
【0039】
以上のような構成とされた第1実施形態の金属膜1によれば、金属膜部20は上記の金属元素を少なくとも2種含み、この2種の金属元素のうち原子番号が相対的に大きい方を金属元素Aとし、原子番号が相対的に小さい方を金属元素Bとしたとき第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)が、第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さいので、第1面21は第2面22と比較して、空孔が形成されやすく、多孔質で、比表面積が大きくなる。このため、金属膜部20の第1面21はガスの吸着量及びガス拡散速度が向上するので、ガス吸着能力が高くなる。
【0040】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の第1面21と第2面22の中間23における金属元素Aのモル分率A(3)は、第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)よりも大きく、第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)よりも小さい場合は、金属膜部20の膜厚方向の組成変化が緩やかになる。よって、第1面21はより多くの空孔が形成されやすく、多孔質で、比表面積が大きくなる。
【0041】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の第2面22における金属元素Aのモル分率A(2)から第2面22における金属元素Bのモル分率B(2)を差し引いた値(A(2)-B(2))と、第1面21における金属元素Aのモル分率A(1)から第1面21における金属元素Bのモル分率B(1)を差し引いた値(A(1)-B(1))との差が0.05以上である場合は、第1面21と第2面22の金属元素の組成の差が大きくなる。よって、第1面21はさらに多くの空孔が形成されやすく、多孔質で、比表面積が大きくなる。
【0042】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の第1面21における密度が第2面22における密度よりも低い場合は、第1面21に空孔が形成されていて、多孔質で、比表面積が大きくなる。このため、金属膜部20の第1面21はガスの吸着量及びガス拡散速度が向上するので、ガス吸着能力が高くなる。
【0043】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の第1面21における密度が第2面22における密度に対して95%以下である場合は、第1面21により多くの空孔が形成されていて、多孔質で、比表面積が大きくなる。
【0044】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20が、さらに、希土類元素を含む場合は、希土類元素がガスを吸着することによって、金属膜部20のガスの吸着量が増加する。
【0045】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の第1面21における希土類元素のモル含有率が第2面22における希土類元素のモル含有率よりも高い場合は、金属膜部20の第1面21のガスの吸着量が増加する。
【0046】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の第1面21における前記希土類元素のモル含有率と、第2面22における希土類元素のモル含有率との差が3モル%以上である場合は、金属膜部20の第1面21のガスの吸着量がより増加する。
【0047】
第1実施形態の金属膜1において、金属膜部20の膜厚が0.5μm以上5.0μm以下の範囲内と膜厚が薄い場合は、非蒸発型ゲッターとして、種々の電子デバイスの真空シーリングやMEMS技術に利用することができる。
【0048】
以上、第1実施形態について図面を参照して詳述したが、第1実施形態はこの例に限られるものではない。例えば、第1実施形態において、金属膜1は基板10を有するが、基板10の代わりに、電子デバイスの真空シーリングやMEMS技術で用いる部材の表面に、金属膜部20を直接成膜してもよい。
また、金属膜部20は、さらに、内部に窒化物を有していてもよい。
【0049】
(第1変形例)
図3は、第1実施形態の第1変形例に係る金属膜の断面図である。金属膜2は、金属膜部20の内部に窒化物層24が形成されている点において第1実施形態と相違する。第1変形例において、第1実施形態と同様の構成は同様の符号を付し、説明を省略する。
【0050】
第1変形例において、窒化物層24は、島状に形成されている。また、窒化物層24は、間隔をあけて2層形成されている。窒化物層24は、金属窒化物を含むことが好ましい。窒化物層24は、金属窒化物を80モル%以上含むことが好ましい。窒化物層24は、金属窒化物のみで形成されていてもよい。金属窒化物は、金属膜部20に含まれている金属元素の窒化物であってもよい。
【0051】
窒化物層24の形成方法としては、例えば、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、分子線蒸着法、スパッタリング法などを用いることができる。例えば、電子ビーム蒸着法の場合は、電子ビーム蒸着装置30の真空槽31に窒素ガスを導入した状態で、電子ビームEBを金属原料に照射して金属原料を気化させることによって窒化物層24を形成することができる。
【0052】
窒化物層24は、第1面21の近傍にあることが好ましい。窒化物層24は、第1面21の表面から100nm以内の位置に配置されていることが好ましい。窒化物層24は、窒化物分子が二次元方向に一層並んだ単分子構造であってもよいし、窒化物分子が二次元方向に複数層並んだ多分子構造であってもよい。窒化物層24が多分子構造である場合、膜厚は5nm以下であることが好ましい。
【0053】
以上のような構成とされた第1変形例の金属膜2は、金属膜1と同様の効果を有すると共に、金属膜部20の内部に窒化物層24が形成されているので、金属膜部20内の金属元素の配列を不均一することができ、金属膜部20内に空孔が形成されやすくなる。
【実施例0054】
[実施例1]
成膜装置として、
図2に示す電子ビーム蒸着装置30を用いた。基板ホルダ32にシリコン基板(直径:6インチ)を固定した。また、第1蒸着源34aのハース35にZrを、第2蒸着源34bのハース35にCoをそれぞれ充填した。
【0055】
次いで、真空槽31を封止し、油拡散ポンプ40を作動させて、内圧が1×10-4Pa以下となるまで真空槽31内を排気した。
【0056】
次いで、モータ33を作動させて、基板ホルダ32を周方向に回転させた。その後、第1蒸着源34aのハース35と第2蒸着源34bのハース35とにそれぞれ7kVの電圧を印加しながら、第1蒸着源34aの電子銃36には、Zrの成膜レートが6nm/分となるように、第2蒸着源34bの電子銃36には、Coの成膜レートが0.5nm/分となるようにそれぞれエミッション電流を供給して、Zr-Co金属膜の成膜を開始した。Zr-Co金属膜の成膜は、膜厚が2μmとなるまで行なった。なお、第2蒸着源34bの電子銃36に供給するエミッション電流を、Coの成膜レートが成膜開始直後から一定の割合で上昇するように調整し、成膜終了時のCoの成膜レートを1nm/分とした。また、Zr-Co金属膜の膜厚が2/3μmとなった時点で、真空槽31へのアルゴンガスの導入を開始して、真空槽31の内圧を一定の割合で上昇させて、成膜終了時の真空槽31の内圧を1×10-3Paとした。
【0057】
[比較例1]
成膜開始時の第2蒸着源34bの電子銃36のエミッション電流を、Coの成膜レートが0.5nm/分となる値とし、この値を成膜終了時まで保持し、アルゴンガスの導入を行なわずに成膜開始時の条件を維持したこと以外は、実施例1と同様にしてZr-Co金属膜を作成した。
【0058】
[比較例2]
成膜開始時の第2蒸着源34bの電子銃36のエミッション電流を、Coの成膜レートが1.0nm/分となる値とし、この値を成膜終了時で保持し、アルゴンガスの導入を行なわずに成膜開始時の条件を維持したこと以外は、実施例1と同様にして、Zr-Co金属膜を作成した。
【0059】
[評価]
実施例1及び比較例1~2で得られたZr-Co金属膜について、組成、密度、水素ガスの吸着能力を下記の方法により測定した。その結果を表1Aと表1Bに示す。なお、組成と密度は、金属膜の第1面(シリコン基板から2μmの位置)について測定した後、表面を研磨して中間部(シリコン基板から1μmの位置)について測定し、その後、さらに表面を研磨して第2面(シリコン基板と第2面の界面から100nmの位置)について測定した。その結果を、表1A及び表1Bに示す。なお、表1Aには、第1面、中間部及び第2面の組成式と、Zrモル分率、Coモル分率、Zrモル分率とCoモル分率の差を記載し、表1Bには、第1面と第2面の組成の差と、第1面、中間及び第2面の組成の密度、水素ガスの吸着能力を記載した。
【0060】
(組成)
ラザフォード後方散乱分析法(RBS:Rutherford Back-Scattering Spectroscopy)により測定した。
【0061】
(密度)
X線反射率測定法(XRR:X-Ray-Reflectivity)により測定された全反射臨界角の値と、金属膜の組成から算出した。
【0062】
(水素ガスの吸着能力)
ガスの吸着能力は、
図4に示すガス吸着速度測定装置を用いて、Zr-Co金属膜の水素ガス吸着速度を測定することによって評価した。ガス吸着速度測定装置50は、真空チャンバー51と、排気ポンプ56と、真空チャンバー51と排気ポンプ56とを接続する配管57とを備える。真空チャンバー51は、試料設置台52を有する。試料設置台52は、熱電対53とヒータ54とを備えた加熱システム55を有する。配管57は、コンダクタンスバルブ58を有し、排気ポンプ56とコンダクタンスバルブ58との間には第1真空計59aが配置され、真空チャンバー51とコンダクタンスバルブ58との間には第2真空計59bが配置されていている。また、配管57の排気ポンプ56と第1真空計59aとの間には、ガス供給配管60がMFC61を介して接続されている。Zr-Co金属膜の水素ガス吸着速度は、次のように測定した。
【0063】
試料(Zr-Co金属膜)3を平面視したときの平面面積を測定した。次いで、試料3を、試料設置台52に設置した。次いで、試料設置台52の加熱システム55を用いて試料3を300℃に加熱すると共に、真空チャンバー51内をベーク加熱しながら、排気ポンプ56で真空チャンバー51を1×10-7Pa以下まで排気した。コンダクタンスは、コンダクタンスバルブ58を用いて、70mL・s-1となるように調整した。次いで、ガス供給配管60から水素ガスを配管57内に導入した。水素ガスの供給量は、MFC61を用いて、第2真空計59bの圧力が4×10-4Paになる量に調整した。
第1真空計59aの圧力と、第2真空計59bの圧力を計測した。水素ガス吸着速度Sは、下記の式を用いて算出した。
S=C×(P1-P2)/(P2×A)
ただし、式中、Sは、吸着速度(mL・s-1・cm-2)は、P1は、第1真空計59aの圧力(Pa)、P2は、第2真空計59bの圧力(Pa)、Aは、試料3の平面面積(cm2)、Cは、コンダクタンス(mL・s-1)である。
【0064】
【0065】
【0066】
表1A及び表1Bの結果から、実施例1のZr-Co金属膜は、比較例1及び比較例2のZr-Co金属膜と比較して、第1面の密度が第2面の密度よりも小さく、ガス吸着能力が向上することがわかる。実施例1のZr-Co金属膜は、第1面におけるZrのモル分率Zr(1)が第2面におけるZrのモル分率Zr(2)より小さく、Coの第1面におけるモル分率Co(1)が第2面のモル分率Co(2)より大きいので、第2面から第1面に向けてZrとCoが不規則な方向(様々な格子の方向)に堆積する。このため、Zr-Co金属膜の第1面は、第2面と比較して空孔が形成されやすく、多孔質で、比表面積が大きくなる。よって、第1面は第2面より密度が小さくなる。また、第1面の比表面積が大きくなることによって、第1面のガスとの接触面積(ガスの吸着手)が増加して、第1面にガスが吸着しやすくなり、さらに吸着したガスがZr-Co金属膜内に拡散しやすくなるので、ガス吸着能力が向上する。
これに対して、比較例1及び比較例2のZr-Co金属膜は、第2面から第1面に向けてZrのモル分率及びCoのモル分率が同じであったため、ZrとCoが規則的な方向に積層され、Zr-Co金属膜内に空孔が形成されにくい。
【0067】
[実施例2]
第1蒸着源34aのハース35にYを添加したZr(Zr:Y=93.5:6.5(モル比))を、第2蒸着源34bのハース35にLaを添加したTi(Ti:Y=93.5:6.5(モル比))を、第3蒸着源34cのハース35にYをそれぞれ充填した。第1蒸着源34aの電子銃36に供給するエミッション電流を、Zr-Yの成膜レートが6nm/分となる値とし、第2蒸着源34bの電子銃36に供給するエミッション電流を、Ti-Laの成膜レートが0.5nm/分となる値として、Zr-Ti-Y-La金属膜の成膜を開始した。Zr-Ti-Y-La金属膜の成膜は、膜厚が3μmとなるまで行なった。
【0068】
第2蒸着源34bの電子銃36に供給するエミッション電流を、Ti-Laの成膜レートが成膜開始直後から一定の割合で上昇するように調整し、成膜終了時のTi-Laの成膜レートを1nm/分とした。また、成膜開始後、Zr-Ti-Y-La金属膜の膜厚が1μmとなった時点で、真空槽31へのアルゴンガスの導入を開始して、真空槽31の内圧を一定の割合で上昇させて、成膜終了時の真空槽31の内圧を1×10-3Paとした。さらに、アルゴンガスの導入開始と同時に、第3蒸着源34cの電子銃36に、Yの成膜レートが0.3nm/分となるように、エミッション電流の供給を開始した。第3蒸着源34cの電子銃36に供給するエミッション電流を、Yの成膜レートが成膜開始直後から一定の割合で上昇するように調整し、成膜終了時のYの成膜レートを0.5nm/分とした。
【0069】
Zr-Ti-Y-La金属膜の膜厚が2.950μm(3μmまで残り50nm)となった時点で、第1蒸着源34aの電子銃36及び第3蒸着源34cの電子銃36へのエミッション電流の供給を停止し、真空槽31に導入するガスをアルゴンガスから窒素ガスに切り替えて、Ti-Laの窒化物膜を2nm形成した。その後、真空槽31に導入するガスを窒素ガスからにアルゴンガスに切り替え、第1蒸着源34aの電子銃36及び第3蒸着源34cの電子銃36へのエミッション電流の供給を再開して、Zr-Ti-Y-La金属膜を成膜した。
【0070】
さらに、Zr-Ti-Y-La金属膜の膜厚が2.970μm(3μmまで残り30nm)となった時点で、第1蒸着源34aの電子銃36及び第3蒸着源34cの電子銃36へのエミッション電流の供給を停止し、真空槽31に導入するガスをアルゴンガスから窒素ガスに切り替えて、Ti-Laの窒化物膜を2nm形成した。その後、真空槽31に導入するガスを窒素ガスからにアルゴンガスに切り替え、第1蒸着源34aの電子銃36及び第3蒸着源34cの電子銃36へのエミッション電流の供給を再開して、Zr-Ti-Y-La金属膜を成膜した。
以上の点以外は、実施例1と同様にして、Zr-Ti-Y-La金属膜を成膜した。
【0071】
[比較例3]
成膜開始時の第2蒸着源34bの電子銃36のエミッション電流を、Ti-Laの成膜レートが0.5nm/分となる値とし、この値を成膜終了時まで保持し、第3蒸着源34cを使用せずに成膜開始時の条件を維持したこと以外は、実施例2と同様にしてZr-Ti-Y-La金属膜を作成した。
【0072】
[比較例4]
成膜開始時の第2蒸着源34bの電子銃36のエミッション電流を、Ti-Laの成膜レートが1.0nm/分となる値とし、成膜開始時に第3蒸着源34cの電子銃36に、Yの成膜レートが0.5nm/分となるように、エミッション電流の供給を開始して、この条件を成膜終了時で保持したこと以外は、実施例2と同様にしてZr-Ti-Y-La金属膜を作成した。
【0073】
[評価]
実施例2及び比較例3~4で得られたZr-Ti-Y-La金属膜について、組成、密度、ガスの吸着能力を上記の方法により測定した。その結果を表2A及び表2Bに示す。なお、Zr-Ti-Y-La金属膜の中間部は、シリコン基板から1.5μmの位置とした。
【0074】
【0075】
【0076】
表2A及び表2Bの結果から、実施例2のZr-Ti-Y-La金属膜は、比較例1及び比較例2のZr-Ti-Y-La金属膜と比較して、第1面の密度が第2面の密度よりも小さく、ガス吸着能力が向上することがわかる。これは、実施例2のZr-Ti-Y-La金属膜は、第1面におけるZrのモル分率Zr(1)が第2面におけるZrのモル分率Zr(2)より小さく、第1面におけるTiのモル分率Ti(1)が第2面のTiのモル分率Ti(2)より大きいことによって、第1面は、第2面と比較して空孔が形成されやすく、多孔質で、比表面積が大きくなったためである。
【0077】
また、実施例2のZr-Ti-Y-La金属膜は、実施例1のZr-Co金属膜と比較してガスの吸着能力が顕著に向上した。この理由は、希土類元素と窒化物層の存在によるものと考えられる。実施例2のZr-Ti-Y-La金属膜は、希土類元素の含有率が第1面の方が第2面より大きくされている。希土類元素は、反応性が高く、イオン結合性が強いため、合金膜の空孔位置を希土類元素で埋めることによって、ガスの吸着手を増加させる作用がある。このため、実施例2のZr-Ti-Y-La金属膜は第1面にガスがより吸着しやすくなったと考えられる。また、窒化物層は、金属膜内の金属元素の配列を不均一にすることによって、金属膜内に空孔を形成しやすくする作用がある。このため、実施例2のZr-Ti-Y-La金属膜は、第1面に空孔がより多く存在し、第1面の比表面積が増大して、第1面にガスがより吸着しやすくなったと共に、第1面に吸着したガスが金属膜内に拡散しやすくなり、ガスの吸着能力が、実施例1のZr-Co金属膜と比較して向上したと考えられる。
【0078】
[実施例3]
第1蒸着源34aのハース35にNiを、第2蒸着源34bのハース35にTiをそれぞれ充填した。第1蒸着源34aの電子銃36に供給するエミッション電流を、Niの成膜レートが6nm/分となる値とし、第2蒸着源34bの電子銃36に供給するエミッション電流を、Tiの成膜レートが0.5nm/分となる値として、Ni-Ti金属膜の成膜を開始した。Ni-Ti金属膜の成膜は、膜厚が2μmとなるまで行なった。
【0079】
第2蒸着源34bの電子銃36に供給するエミッション電流を、Tiの成膜レートが成膜開始直後から一定の割合で上昇するように調整し、成膜終了時のTiの成膜レートを1nm/分とした。また、成膜開始後、Ni-Ti金属膜の膜厚が2/3μmとなった時点で、真空槽31へのアルゴンガスの導入を開始して、真空槽31の内圧を一定の割合で上昇させて、成膜終了時の真空槽31の内圧を1×10-3Paとした。
以上の点以外は、実施例1と同様にして、Ni-Ti金属膜を成膜した。
【0080】
[比較例5]
成膜開始時の第2蒸着源34bの電子銃36のエミッション電流を、Tiの成膜レートが0.5nm/分となる値とし、この値を成膜終了時まで保持し、アルゴンガスの導入を行なわずに成膜開始時の条件を維持したこと以外は、実施例2と同様にしてNi-Ti金属膜を成膜した。
【0081】
[比較例6]
成膜開始時の第2蒸着源34bの電子銃36のエミッション電流を、Tiの成膜レートが1.0nm/分となる値とし、この値を成膜終了時で保持し、アルゴンガスの導入を行なわずに成膜開始時の条件を維持したこと以外は、実施例2と同様にしてNi-Ti金属膜を成膜した。
【0082】
[評価]
実施例3及び比較例5~6で得られたNi-Ti金属膜について、組成、密度、ガスの吸着能力を上記の方法により測定した。その結果を表3A及び表3Bに示す。
【0083】
【0084】
【0085】
表3A及び表3Bの結果から、実施例3のNi-Ti金属膜は、比較例5及び比較例6のNi-Ti金属膜と比較して、第1面の密度が第2面の密度よりも小さく、ガス吸着能力が向上することがわかる。これは、実施例3のNi-Ti金属膜は、第1面におけるNiのモル分率Ni(1)が第2面におけるNiのモル分率Ni(2)より小さく、第1面におけるTiのモル分率Ti(1)が第2面のTiのモル分率Ti(2)より大きいことによって、第1面は第2面と比較して空孔が形成されやすく、多孔質で、比表面積が大きくなったためである。
第1の態様に係る金属膜は、ガスの吸着能力が高いので、真空封止空間やガス充填空間に混入した微量のガスを除去するための非蒸発型ゲッターとして、種々の電子デバイスの真空シーリングやMEMS技術に利用することができる。
1、2…金属膜、3…試料、10…基板、20…金属膜部、21…第1面、22…第2面、23…中間、24…窒化物層、30…電子ビーム蒸着装置、31…真空槽、32…基板ホルダ、33…モータ、34a…第1蒸着源、34b…第2蒸着源、34c…第3蒸着源、35…ハース、36…電子銃、37…RFコイル、38…MFC、39…ガス導入管、40…油拡散ポンプ、50…ガス吸着速度測定装置、51…真空チャンバー、52…試料設置台、53…熱電対、54…ヒータ、55…加熱システム、56…排気ポンプ、57…配管、58…コンダクタンスバルブ、59a…第1真空計、59b…第2真空計、60…ガス供給配管、61…MFC