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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131849
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】環境制御システム
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/00 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
A47C27/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031031
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】505290531
【氏名又は名称】株式会社エアウィーヴ
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100141092
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 英生
(72)【発明者】
【氏名】内田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】大高 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田辺 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】立本 将士
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】小山 総市朗
【テーマコード(参考)】
3B096
【Fターム(参考)】
3B096AC11
3B096AC12
(57)【要約】
【課題】使用者の寝位置を考慮して寝床内環境を制御することが可能となる環境制御システムを提供する。
【解決手段】送風装置から送られる風による寝床内環境の制御を行う環境制御システムであって、使用者の寝位置を検出する寝位置検出手段と、使用者の近傍における異なる位置それぞれに配置され、温度および湿度を検出する複数の温湿度センサーと、を備え、前記寝位置検出手段の検出結果に基づいて、前記複数の温湿度センサーのうち使用者との近接度合が所定条件を満たすものを特定し、当該特定された前記センサーの検出結果に基づいて前記送風装置の送風動作を制御する環境制御システムとする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風装置から送られる風による寝床内環境の制御を行う環境制御システムであって、
使用者の寝位置を検出する寝位置検出手段と、
使用者の近傍における異なる位置それぞれに配置され、温度および湿度を検出する複数の温湿度センサーと、を備え、
前記寝位置検出手段の検出結果に基づいて、前記複数の温湿度センサーのうち使用者との近接度合が所定条件を満たすものを特定し、当該特定された前記センサーの検出結果に基づいて前記送風装置の送風動作を制御することを特徴とする環境制御システム。
【請求項2】
寝具の上で睡眠をとる際の前記寝床内環境を制御する請求項1に記載の環境制御システムであって、
前記寝位置検出手段は、
前記寝具における上方視で異なる位置それぞれに配置された複数の圧力センサーを有し、前記複数の圧力センサーのうち何れの検出結果が所定の基準値に達したかに基づいて、使用者の寝位置を検出することを特徴とする環境制御システム。
【請求項3】
前記複数の温湿度センサーそれぞれは、前記複数の圧力センサーそれぞれに対応して配置され、
検出結果が前記基準値に達した前記圧力センサーに対応する前記温湿度センサーを、前記所定条件を満たすものとして特定することを特徴とする請求項2に記載の環境制御システム。
【請求項4】
前記複数の温湿度センサーそれぞれは、前記寝具における対応する前記圧力センサーの下側に配置されることを特徴とする請求項3に記載の環境制御システム。
【請求項5】
前記複数の圧力センサーの少なくとも一部は、使用者の寝姿勢が仰臥位と側臥位の何れであるかが検出可能となるように、幅方向で異なる位置に配置されることを特徴とする請求項2から請求項4の何れかに記載の環境制御システム。
【請求項6】
熱可塑性樹脂からなるフィラメントを3次元的に融着結合させて得られるフィラメント3次元結合体により構成された前記寝具と、
前記寝具の内部に風を送るように設定された前記送風装置と、を備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の環境制御システム。
【請求項7】
前記寝具を覆う通風性を有するカバー体を備え、
前記送風装置により前記寝具の内部に送られた風が、前記カバー体を介して上側へ流れるようにしたことを特徴とする請求項6に記載の環境制御システム。
【請求項8】
前記寝位置検出手段により使用者の寝位置の変化が検出されたことに基づいて、前記送風装置を駆動させることを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の環境制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝床内環境の制御を行う環境制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人は睡眠時に深部体温を低下させることによって、脳を休めていることが知られている。深部体温は、入眠後に手足への血流を多くすることによって体内の熱を外に逃がす同時に、発汗により体の表面温度を低下させることによって低下する。深部体温の低下とともに、浅い眠り(レム睡眠)から深い眠り(ノンレム睡眠)へと移行し、浅い睡眠と深い睡眠を4~5回ほど繰り返した後に目覚める。
【0003】
入眠直後の最初の深い睡眠(最初のノンレム睡眠)への移行時における深部体温の低下速度は、2回目以降の深い睡眠への移行時における深部体温の低下速度より早く、この時の深部体温の低下速度が速い程、良質な睡眠が得られることが知られている。マットレスと掛布団の間に形成される寝床内環境として、温度が32℃~33℃、湿度が40~60%の範囲内が好ましいと言われている。
【0004】
この温度と湿度(以下、これらを纏めて「温湿度」と称することがある)の環境を保つことにより、発汗により発生した水が速やかに蒸発し、体温調節が適切に行われる。寝床内温湿度が上記範囲より高くなると、汗が蒸発しにくくなり、発汗による温度調整が難しくなる。その結果、深部体温を十分に下げることができなくなるので、良質な睡眠が得られなくなる。寝床内温湿度が上記範囲より低くなると、ノンレム睡眠時の深部体温が低下しすぎて、寒さで目が覚めることがある。
【0005】
このような問題を解決するために、浅い睡眠と深い睡眠とを繰り返す睡眠リズムに応じて、寝床内の温湿度を調整する技術が知られている。例えば特許文献1には、マットレスの使用者の睡眠深度の情報を取得する睡眠情報取得部と、前記マットレス内の風量を制御する風量制御部とを設け、前記風量制御部は、前記睡眠深度が深くなる期間(深部体温を低下させるために発汗量が多くなる時期)において、当該睡眠深度が浅くなる期間に比して前記風量を多くするマットレス換気システムが記載されている。これにより、温度および湿度をバランス良く考慮した風量制御の実現が容易となり、快適な寝床内環境を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-118627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで使用者の寝位置(寝姿勢をとる使用者の位置)に着目すると、多くの使用者は仰臥位または側臥位の寝姿勢をとると想定されるが、この場合であってもどちらの寝姿勢をとるかはその時々によって変わり、また睡眠中においても寝返りによって寝姿勢が逐次変化することから、寝位置も変化する。そのため、寝床内環境をより適切に制御するためには、使用者の寝位置を考慮して寝床内環境の制御を行うことが望まれる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、使用者の寝位置を考慮して寝床内環境を制御することが可能となる環境制御システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る環境制御システムは、送風装置から送られる風による寝床内環境の制御を行う環境制御システムであって、使用者の寝位置を検出する寝位置検出手段と、使用者の近傍における異なる位置それぞれに配置され、温度および湿度を検出する複数の温湿度センサーと、を備え、前記寝位置検出手段の検出結果に基づいて、前記複数の温湿度センサーのうち使用者との近接度合が所定条件を満たすものを特定し、当該特定された前記センサーの検出結果に基づいて前記送風装置の送風動作を制御する構成とする。
【0010】
本構成によれば、使用者の寝位置を考慮して寝床内環境を制御することが可能となる。なお、寝床内環境は使用者が眠るときに接する空間の温湿度の環境であり、使用者の下側に配置される寝具(マットレスや敷き布団等)と使用者の上側に配置される寝具(毛布や掛布団等)が用いられる場合には、これらで囲まれた空間の温湿度の環境が該当する。
【0011】
また、寝具の上で睡眠をとる際の前記寝床内環境を制御する上記構成の環境制御システムにおいて、前記寝位置検出手段は、前記寝具における上方視で異なる位置それぞれに配置された複数の圧力センサーを有し、前記複数の圧力センサーのうち何れの検出結果が所定の基準値に達したかに基づいて、使用者の寝位置を検出する構成としても良い。
【0012】
また上記構成としてより具体的には、前記複数の温湿度センサーそれぞれは、前記複数の圧力センサーそれぞれに対応して配置され、検出結果が前記基準値に達した前記圧力センサーに対応する前記温湿度センサーを、前記所定条件を満たすものとして特定する構成としても良い。また当該構成としてより具体的には、前記複数の温湿度センサーそれぞれは、前記寝具における対応する前記圧力センサーの下側に配置される構成としても良い。
【0013】
また上記構成としてより具体的には、前記複数の圧力センサーの少なくとも一部は、使用者の寝姿勢が仰臥位と側臥位の何れであるかが検出可能となるように、幅方向で異なる位置に配置される構成としても良い。
【0014】
また上記構成としてより具体的には、熱可塑性樹脂からなるフィラメントを3次元的に融着結合させて得られるフィラメント3次元結合体により構成された前記寝具と、前記寝具の内部に風を送るように設定された前記送風装置と、を備える構成としても良い。
【0015】
また上記構成としてより具体的には、前記寝具を覆う通風性を有するカバー体を備え、前記送風装置により前記寝具の内部に送られた風が、前記カバー体を介して上側へ流れるようにした構成としても良い。また上記構成としてより具体的には、前記寝位置検出手段により使用者の寝位置の変化が検出されたことに基づいて、前記送風装置を駆動させる構成としても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る環境制御システムによれば、使用者の寝位置を考慮して寝床内環境を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る環境制御システム1の概略的な断面図である。
図2図1に示すA-A´断面の矢視図である。
図3】環境制御システム1における制御系統の構成に関するブロック図である。
図4】使用者が仰臥位の寝姿勢をとる場合の説明図である。
図5】使用者が側臥位の寝姿勢をとる場合の説明図である。
図6】第1実施形態に係る動作制御の流れに関するフローチャートである。
図7】第2実施形態に係る動作制御の流れに関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の各実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。なお以下の説明における上下、左右、および前後の各方向(互いに直交する方向)は、各図に示すとおりである。本実施形態の例では、上下方向は板状に形成されたマットレスの厚み方向に相当し、前後方向は当該マットレスの上で仰臥位の寝姿勢をとる使用者の身長方向に相当し、左右方向は当該使用者の幅方向に相当する。
【0019】
1.第1実施形態
まず第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る環境制御システム1の概略的な断面図(寝具を左右に略二等分する平面で切断した場合の断面図)である。図2は、図1に示すA-A´断面の矢視図であり、仰臥位の寝姿勢をとる使用者の概略的な位置を破線で示している。図3は、環境制御システム1における制御系統の構成に関するブロック図である。これらの図に示すように、環境制御システム1は、マットレス2、マットレスカバー3、送風装置4、マットレス上圧力測定装置5、マットレス内温湿度測定装置6、マットレス外温湿度センサー7、および制御装置8を備える。
【0020】
マットレス2(寝具の一形態)は、熱可塑性樹脂からなるフィラメントを3次元的に融着結合させて得られるフィラメント3次元結合体により形成されたマットレスである。フィラメント3次元結合体は良好な通気性を有し、また水洗い等も容易であるため、清潔に使用できる点でも優れている。なおフィラメント3次元結合体の製造方法等については公知であるため、ここではその詳細な説明を省略する。このようにマットレス2は、空隙を多数有する弾性フィラメントの結合体により構成されている。なおマットレス2の外面全体は、良好な通風性を有するマットレスカバー3(薄い生地で形成されたカバー体)に覆われている。
【0021】
送風装置4は、マットレス2の内部に風を送るように設定されており、吸気ファン4aと排気ファン4bを有する。吸気ファン4aはマットレス2の前側の縁に設置されており、排気ファン4bはマットレス2の後側の縁に設置されている。これらのファン4a,4bが回転駆動することによりマットレス2の前側外部から内部へ空気が流れ、この空気の少なくとも一部が、良好な通風性を有するマットレスカバー3を介して上側の寝床内環境の空間(使用者に接する空間)へ流れる。またこれに伴い、寝床内環境の空間からマットレスカバー3を介して下側へ空気が流れ、マットレス2の内部を通って後側外部へ排出される。送風装置4の送風量が大きいほど(或いは送風時間が長いほど)、寝床内環境の空間は外部との換気が促進され温湿度が低下する。
【0022】
マットレス上圧力測定装置5は、第1圧力センサー5a~第9圧力センサー5iの9個の圧力センサー(以下、これらを圧力センサー5xと総称することがある。)を有している。これらの圧力センサー5xは、マットレス2の上面近傍において上方視で異なる位置それぞれに配置されている。
【0023】
より詳細に説明すると、図2に示すように、第1圧力センサー5a~第3圧力センサー5cの3個の圧力センサー5xは、マットレス2の左右方向中央かつ前側寄りの領域において前後に間隔を設けて並ぶように配置されている。第4圧力センサー5d~第6圧力センサー5fの3個の圧力センサー5xは、マットレス2の左側寄りかつ前側寄りの領域において前後に間隔を設けて並ぶように配置されている。第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iの3個の圧力センサー5xは、マットレス2の右側寄りかつ前側寄りの領域において前後に間隔を設けて並ぶように配置されている。
【0024】
このように配置されることで、図4に示すようにマットレス2の上で使用者が仰臥位の寝姿勢をとるとき、第1圧力センサー5a~第3圧力センサー5cは使用者に押圧され易く、第4圧力センサー5d~第6圧力センサー5fは使用者の左肩近傍或いは左腕近傍に押圧され易く、第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iは使用者の右肩近傍或いは右腕近傍に押圧され易い。
【0025】
一方、図5に示すようにマットレス2の上で使用者が左向きの側臥位の寝姿勢をとるとき、第1圧力センサー5a~第6圧力センサー5fは使用者の左半身に押圧され易いが、第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iは使用者によって押圧されない。また、マットレス2の上で使用者が右向きの側臥位の寝姿勢をとるとき、第1圧力センサー5a~第3圧力センサー5cおよび第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iは使用者の右半身に押圧され易いが、第4圧力センサー5d~第6圧力センサー5fは使用者によって押圧されない。このようにマットレス上圧力測定装置5は、使用者の寝位置(マットレス2の上で寝姿勢をとる使用者の位置)を検出することが可能である。
【0026】
マットレス内温湿度測定装置6は、第1温湿度センサー6a~第9温湿度センサー6iの9個の温湿度センサー(以下、これらを温湿度センサー6xと総称することがある。)を有している。温湿度センサーは、温度および湿度を検出するセンサーである。各温湿度センサー6xは、マットレス2において上方視で異なる位置それぞれに配置されている。より詳細に説明すると、第n温湿度センサー(nは1~9の整数)は第n圧力センサーの真下に配置されている。このように複数の温湿度センサー6xそれぞれは、複数の圧力センサー5xそれぞれに対応しており、対応する圧力センサー5xの下側に配置されている。
【0027】
マットレス外温湿度センサー7は、マットレス2の外側に設けられており、寝床内環境の空間外の温度および湿度を検出する。制御装置8は、演算制御装置等により構成されており、図3に示すようにマットレス上圧力測定装置5、マットレス内温湿度測定装置6、およびマットレス外温湿度センサー7により得られた各情報に基づいて送風装置4の送風動作の制御(本実施形態の例では、各ファン4a,4bの回転数と回転時間の制御)を行う。
【0028】
各ファン4a,4bの回転数の制御は送風装置4の送風量の制御に相当し、各ファン4a,4bの回転時間の制御は送風装置4の送風時間の制御に相当し、通常は送風量或いは送風時間が増大するほど寝床内環境の温度および湿度は低下する。但し送風動作の制御として、送風装置4の送風量および送風時間の何れか一方のみを制御するようにしても良い。
【0029】
次に、送風装置4の送風動作の制御の流れについて、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0030】
制御装置8は、現時点での第1~第9の各圧力センサー5xによる圧力検出値の情報を取得し(ステップS1)、何れかの圧力検出値が所定範囲Ps内であるか否かを監視する(ステップS2)。この所定範囲Psは、マットレス2における圧力センサー5xの上側で使用者の多発汗部(比較的汗をかき易い部位)を支持しているときに、その圧力センサー5xの圧力検出値が収まる程度の範囲に設定されている。
【0031】
より具体的に説明すると、圧力センサー5xの圧力検出値が低過ぎる場合(本実施形態の例では19.8mmHG未満とする)には、その圧力センサー5xの位置では、マットレス2に使用者が触れていないかマットレス2に使用者が軽く当たっている程度であり、マットレス2は使用者の多発汗部を支持していないと想定される。一方、圧力センサー5xの圧力検出値が高過ぎる場合(本実施形態の例では55mmHG以上とする)には、その圧力センサー5xの位置では、マットレス2には使用者の骨が当たっているだけであり、マットレス2は使用者の多発汗部を支持していないと想定される。そこで本実施形態では一例として、上記の所定範囲Psを19.8~55mmHGに設定している。但し所定範囲Psの具体的な範囲は、これに限られるものではない。
【0032】
圧力センサー5xの圧力検出値が所定範囲Ps内であるときは、マットレス2におけるその圧力センサー5xの上側は使用者の多発汗部に押圧されている状況と想定される。一方、圧力センサー5xの圧力検出値が所定範囲Ps外であるときは、マットレス2におけるその圧力センサー5xの上側は使用者の多発汗部に押圧されていない状況と想定される。
【0033】
このことから、マットレス2の上で使用者が仰臥位の寝姿勢をとるとき、第1圧力センサー5a~第9圧力センサー5iの圧力検出値が所定範囲Ps内となり得る。一方、マットレス2の上で使用者が左向きの側臥位の寝姿勢をとるとき、第1圧力センサー5a~第6圧力センサー5fの圧力検出値が所定範囲Ps内となり得るが、第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iの圧力検出値は所定範囲Ps内とはならない。また、マットレス2の上で使用者が右向きの側臥位の寝姿勢をとるとき、第1圧力センサー5a~第3圧力センサー5cおよび第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iの圧力検出値が所定範囲Ps内となり得るが、第4圧力センサー5d~第6圧力センサー5fの圧力検出値は所定範囲Ps内とはならない。
【0034】
このように、使用者が仰臥位、左向きの側臥位、および右向きの側臥位の何れの寝姿勢をとるかによって、圧力検出値が所定範囲Ps内となり得る圧力センサー5xのパターンは異なる。そのため例えば、中央列の圧力センサー(第1圧力センサー5a~第3圧力センサー5c)の少なくとも一つ、左側列の圧力センサー(第4圧力センサー5d~第6圧力センサー5f)の少なくとも一つ、および、右側列の圧力センサー(第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5i)の少なくとも一つの圧力検出値が所定範囲Ps内であれば使用者の寝姿勢は仰臥位であり、中央列の圧力センサーの少なくとも一つ、および、左側列の圧力センサーの少なくとも一つの圧力検出値が所定範囲Ps内であれば使用者の寝姿勢は左向きの側臥位であり、中央列の圧力センサーの少なくとも一つ、および、右側列の圧力センサーの少なくとも一つの圧力検出値が所定範囲Ps内であれば使用者の寝姿勢は右向きの側臥位である、といったように使用者の寝姿勢が判別可能である。
【0035】
このように環境制御システム1では、中央列の第1圧力センサー5a~第3圧力センサー5c、左側列の第4圧力センサー5d~第6圧力センサー5f、および右側列の第7圧力センサー5g~第9圧力センサー5iは、使用者の寝姿勢が仰臥位と側臥位の何れであるかが検出可能となるように、幅方向(左右方向)で異なる位置に配置されている。各圧力センサー5xを有するマットレス上圧力測定装置5は、使用者の寝位置を検出する寝位置検出手段としての役割を果たすとともに、使用者の寝姿勢が仰臥位と側臥位の何れであるかについても検出可能とする。そのため環境制御システム1は、使用者の寝位置に応じて送風装置4の送風動作を制御することが可能であり、その際に寝姿勢を考慮することも可能である。なお、各圧力センサー5xによって使用者の寝位置や寝姿勢をより精度良く検出可能とするように、使用者各人の体型や寝姿勢の特徴などに応じて各圧力センサー5xの位置や個数等を調節するようにしても良い。
【0036】
制御装置8は、何れかの圧力検出値が所定範囲Ps内であれば(ステップS2のYes)、圧力検出値が所定範囲Ps内であった圧力センサー5xの真下の温湿度センサー6x(つまり、当該圧力センサー5xに対応する温湿度センサー6x)を特定する(ステップS3)。この処理は、複数の温湿度センサー6xのうち使用者の多発汗部に十分に近接したもの(使用者との近接度合が所定条件を満たすもの)を特定する処理に相当する。更に制御装置8は、ステップS3で特定済みの各温湿度センサー6xの現時点での温度検出値Mtと湿度検出値Mhから、各暑さ指数Uを算出する(ステップS4)。
【0037】
この暑さ指数Uは、一つの温湿度センサー6xごとに算出される値であり、例えば次の(1)式によって算出される。
U=k1×Mt+k2×Mh ・・・(1)
但し、k1およびk2は予め設定された正の値である。(1)式から明らかであるとおり、温度検出値Mtが大きいほど暑さ指数Uも大きくなり、湿度検出値Mhが大きいほど暑さ指数Uも大きくなる。暑さ指数Uが大きいほど、寝床内環境における温度或いは湿度が高いということになる。
【0038】
なおステップS4の処理において、複数の温湿度センサー6xによる温度検出値Mtが得られているときは、これらの最高値または平均値を、暑さ指数Uを算出するための温度検出値Mtとみなすようにしても良い。また、複数の温湿度センサー6xによる湿度検出値Mhが得られているときは、これらの最高値または平均値を、暑さ指数Uを算出するための湿度検出値Mhとみなすようにしても良い。またその他、使用者の体幹の中心に近い部位(より汗をかき易いと想定される部位)に対応する温湿度センサー6xを設定しておき、複数の温度検出値Mtまたは湿度検出値Mhが得られたときは、この設定された温湿度センサー6xの検出値を、暑さ指数Uの算出の際に優先しても良い。
【0039】
次に制御装置8は、上記算出された各暑さ指数Uの最大値Uxが所定値Uz以上であるか否かを判別する(ステップS5)。その結果、最大値Uxが所定値Uzより小さければ(ステップS5のNo)、現時点では送風装置4による送風は不要とみなされ、制御装置8は先述したステップS1の処理に戻る。一方、最大値Uxが所定値Uz以上であれば(ステップS5のYes)、現時点で送風装置4による送風が必要とみなされ、次に制御装置8は、現時点でのマットレス外温湿度センサーの温度検出値Rtと温度検出値Rhから冷却指数Wを算出する(ステップS6)
【0040】
この冷却指数Wは、例えば次の(2)式によって算出される。
W=k3×Rt+k4×Rh ・・・(2)
但し、k3およびk4は予め設定された正の値である。(2)式から明らかであるとおり、温度検出値Rtが大きいほど冷却指数Wも大きくなり、湿度検出値Rhが大きいほど冷却指数Wも大きくなる。冷却指数Wが大きいほど、周囲空間(寝床内環境の空間外)における温度或いは湿度が高いということになる。
【0041】
次に制御装置8は、最大値Uxと冷却指数Wから、ファン回転数Frとファン回転時間Ftを算出する(ステップS7)。これらのファン回転数Frとファン回転時間Ftは、例えば次の(3)式および(4)式によって算出される。
Fr=k5×Ux-k6×W ・・・(3)
Ft=k7×Ux-k8×W ・・・(4)
但し、k5~k8は予め設定された正の値である。(3)式および(4)式から明らかであるとおり、最大値Uxが大きいほどファン回転数Frおよびファン回転時間Ftも大きくなり、冷却指数Wが大きいほどファン回転数Frおよびファン回転時間Ftは小さくなる。上述の(1)~(4)式のとおり、寝床内環境の温度或いは湿度が周囲空間に比べて高いほど、寝床内環境の温度或いは湿度をより下げることが好ましいことから、ファン回転数Frおよびファン回転時間Ftを大きくするようになっている。
【0042】
次に制御装置8は、上記算出されたファン回転数Fr(単位時間あたりの回転数)およびファン回転時間Ft(時間の長さ)にて送風装置4を駆動させる(ステップS8)。これにより送風装置4における吸気ファン4aと排気ファン4bは、ファン回転数Frでファン回転時間Ftに亘って回転駆動する。ステップS8の処理が完了すると、制御装置8はステップS1の処理に戻る。
【0043】
なお、上記のファン回転数Frおよびファン回転時間Ftを算出する具体的手順については、使用者の寝姿勢が仰臥位と側臥位の何れであるかを更に考慮したものとする等、種々の変形を加えることも可能である。一例として、使用者の寝姿勢が仰臥位であるときは側臥位であるときに比べて、マットレス2と掛布団の間に形成される寝床内環境の空間の密閉度が高くなり易い(そのため、温湿度が上昇し易い)ことを考慮して、各圧力センサー5xの検出結果に基づいて使用者の寝姿勢が「仰臥位」と判断された場合は、「側臥位」と判断された場合よりもファン回転数Frまたはファン回転時間Ftが高くなるように、ステップS7の算出の処理において所定の係数を乗じるようにしても良い。
【0044】
上述した送風装置4の送風動作の制御の具体例について、環境制御システム1の一使用例に即して以下に説明する。
【0045】
制御装置8は,各圧力センサー5xの何れかの圧力検出値が所定範囲Ps内であるか否かを監視する(ステップS1~S2を参照)。この状況においてマットレス2の上で使用者が寝姿勢をとると、使用者の多発汗部に押圧され各圧力センサー5xの何れかの圧力検出値が所定範囲Ps内となる(ステップS2のYes)。この際、使用者の寝位置によって、何れの圧力センサー5xの圧力検出値が所定範囲Ps内となるかは変動する。
【0046】
その後、圧力検出値が所定範囲Ps内であった圧力センサーの直下5xの温湿度センサー6xを特定されることにより(ステップS3)、使用者の多発汗部によって押圧されていない温湿度センサー6xは除外され、使用者の多発汗部によって押圧されている温湿度センサー6xのみが特定される。これにより、使用者の多発汗部に近接する温湿度センサー6x、すなわち、使用者が発する熱や汗等による湿気の影響を大きく受ける温湿度センサー6xが特定される。そして、特定済みの各温湿度センサー6xの各検出値から各暑さ指数Uが算出されることにより(ステップS4)、使用者が発する熱や汗等による湿気の影響を精度良く反映した暑さ指数Uの情報が得られる。
【0047】
そして各暑さ指数Uの最大値Uxが所定値Uz以上であれば(ステップS5のYes)、ファン回転数Frとファン回転時間Ftにて送風装置4が駆動され(ステップS8)、寝床内環境の温度と湿度が下がり、寝床内環境が快適な状態に制御される。なおファン回転数Frとファン回転時間Ftの値が算出される際、使用者が発する熱や汗等による湿気の影響を精度良く反映した暑さ指数Uの最大値Uxが考慮されるため、これらの値を適切に算出することが容易となっている。
【0048】
また、ステップS3およびS4の処理が行われる度に、そのときの使用者の寝位置に応じた暑さ指数Uが算出され、この算出結果に基づいて送風装置4の送風動作が制御される。そのため、睡眠中に寝返りを行って使用者の寝位置が変化した場合にも、この変化に応じて送風装置4の送風動作を適切に制御することが可能である。
【0049】
2.第2実施形態
次に第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態に係る環境制御システムは、送風装置4の動作制御の流れに関する点を除き、基本的に第1実施形態に係る環境制御システムと同様である。以下の説明では、第1実施形態と異なる点の説明に重点をおき、第1実施形態と共通する点については説明を省略することがある。
【0050】
第2実施形態における送風装置4の送風動作の制御の流れについて、図7に示すフローチャートを参照しながら以下に説明する。なおステップS1~S8の処理については、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0051】
制御装置8は、ステップS8の処理が完了すると、現時点での第1~第9の各圧力センサー5xによる圧力検出値の情報を取得し(ステップS9)、各圧力センサー5xの何れかの圧力検出値が所定範囲Ps内であるか否かを判別する(ステップS10)。その結果、何れの圧力検出値も所定範囲Ps内でなければ(ステップS10のNo)、制御装置8はステップS1の処理に戻る。
【0052】
一方、何れかの圧力検出値が所定範囲Ps内であれば(ステップS10のYes)、次に制御装置8は、圧力検出値が所定範囲Ps内であった圧力センサー5xは前回と異なるかを判別する(ステップS11)。すなわち、今回のステップS10の処理の実行時に圧力検出値が所定範囲Ps内であった圧力センサー5xが、当該処理の最も直近に行われたステップS2またはS10の処理(つまり前回に行った同等の処理)の実行時に圧力検出値が所定範囲Ps内であった圧力センサー5xと異なるかが判別される。
【0053】
その結果、異ならないと判別された場合には(ステップS11のNo)、制御装置8は、ステップS3の処理に戻る。一方で、異なると判別された場合には(ステップS11のYes)、使用者が寝返りを行ったと想定される。そこで制御装置8は、寝返り後の温湿度上昇の検出遅れを補正するように送風装置4を駆動させ(ステップS12)、その後にステップS1の処理に戻る。
【0054】
ここで上記の「寝返り後の温湿度上昇の検出遅れ」について説明する。使用者の寝返り後にステップS1の処理が行われると、ステップS3の処理で寝返り後の使用者の多発汗部に押圧される圧力センサー5xが特定されるとともに、ステップS4の処理でその真下の温湿度センサー6x(つまり、寝返り後の使用者の多発汗部の下にある温湿度センサー6xであり、便宜的に「特定温湿度センサー」とする)の温度検出値Mtと湿度検出値Mhから各暑さ指数Uが算出され、当該各暑さ指数Uに基づいてファン回転数Frやファン回転時間Ftが算出されることになる(ステップS7)。
【0055】
しかし使用者の寝返り後、使用者の体温や汗等による寝床内環境の温湿度上昇の影響が特定温湿度センサーへ及ぶまでにはタイムラグがあり、主にこのタイムラグにより、特定温湿度センサーにおいて温湿度上昇の検出遅れ(実際の寝床内環境の温湿度と特定温湿度センサーの検出値との間の誤差)が生じる。そのため、温度検出値Mtと湿度検出値Mhが本来の値より小さくなってしまい、その分、送風装置4の駆動(各ファン4a,4bの回転数や回転時間)が不足する虞がある。そこで本実施形態では、このような送風装置4の駆動の不足を極力解消するため、ステップS12の処理を行うこととしている。このように本実施形態では、使用者の寝位置の変化が検出されたことに基づいて、送風装置4を駆動させるようになっており、寝返り後の温湿度上昇の検出遅れによる問題を極力抑えることが可能となっている。
【0056】
なおステップS12の処理において、送風装置4をどの程度駆動させるかについては種々の形態を採用することが可能であり、例えば、予め設定されたファン回転数とファン回転時間で駆動させるようにしても良く、そのときの状況に応じて所定の算出式から算出されたファン回転数とファン回転時間で駆動させるようにしても良い。本実施形態の例では、最も直近に行われたステップS7の処理にて算出されたファン回転数Frやファン回転時間Ftで、送風装置4を駆動させるようにする。
【0057】
3.その他
以上に説明したように各実施形態に係る環境制御システム1は、送風装置4から送られる風による寝床内環境の制御を行うシステムであって、使用者の寝位置を検出する寝位置検出手段と、使用者の近傍における異なる位置それぞれに配置され、温度および湿度を検出する複数の温湿度センサー6a~6iと、を備える。そして環境制御システム1は、この寝位置検出手段の検出結果に基づいて、複数の温湿度センサー6a~6iのうち使用者との近接度合が所定条件を満たすものを特定し、当該特定された温湿度センサー6xの検出結果に基づいて送風装置4の送風動作を制御する。そのため環境制御システム1によれば、使用者の寝位置を考慮して寝床内環境を制御することが可能となっている。
【0058】
また各実施形態に係る環境制御システム1は、寝具(マットレス2)の上で睡眠をとる際の寝床内環境を制御するものであって、前記寝位置検出手段は、寝具における上方視で異なる位置それぞれに配置された複数の圧力センサー5a~5iを有し、これら複数の圧力センサーのうち何れの検出結果が所定の基準値(所定範囲Psの下限値に相当する)に達したかに基づいて、使用者の寝位置を検出するものとなっている。そのため環境制御システム1によれば、複数の圧力センサー5a~5iを利用して使用者の寝位置を検出することが可能となっている。
【0059】
また各実施形態に係る環境制御システム1では、複数の温湿度センサー6a~6iそれぞれは、複数の圧力センサー5a~5iそれぞれに対応して配置され、検出結果が前記基準値に達した圧力センサー5xに対応する温湿度センサー6xを、前記所定条件を満たすものとして特定される。これにより環境制御システム1は、使用者の寝位置に関わらず、使用者の多発汗部に近接する温湿度センサー6xの検出結果に基づいて、適切に送風装置4の送風動作を制御することが可能である。なお圧力センサーや温湿度センサーが配置される位置は、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、これらの少なくとも一部のセンサーは、使用者の背中や腋の下等の多発汗部に対応する位置かつ体圧がかかる位置に配置されることが望ましい。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、寝床内環境の制御を行う環境制御システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 環境制御システム
2 マットレス
3 マットレスカバー
4 送風装置
4a 吸気ファン
4b 排気ファン
5 マットレス上圧力測定装置
5a~5i,5x 圧力センサー
6 マットレス内温湿度測定装置
6a~6i,6x 温湿度センサー
7 マットレス外温湿度センサー
8 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-03-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本出願は、知の拠点あいち重点研究プロジェクト3期(先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト)の成果による特許出願である。
本発明は、寝床内環境の制御を行う環境制御システムに関する。