(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131861
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】磁場スパイク検出装置、検出方法およびこれを備える電力設備
(51)【国際特許分類】
G01N 24/10 20060101AFI20220831BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01N24/10 510L
G01N24/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031049
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(72)【発明者】
【氏名】ヘルブスレブ エンスト デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】出口 洋成
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 夏生
(72)【発明者】
【氏名】林 司
(57)【要約】
【課題】部分放電によって発生する磁場スパイクを非接触で高感度に検出する。
【解決手段】磁場スパイク検出装置10は、検出対象である磁場スパイクを含む磁場との相互作用により変化する量子センサ素子1の電子スピン状態を操作するための電磁波を、π/2パルス間の時間τが磁場スパイクの大きさに応じて決定されているパルスシーケンスにて、量子センサ素子1に繰り返し照射する電磁波照射部2と、磁場スパイクを含む磁場と相互作用した後の複数の電子スピン状態を取得し、取得した複数の電子スピン状態に基づいて、磁場スパイクを検出する磁場スパイク検出部3と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象である磁場スパイクを含む磁場との相互作用により変化する量子センサ素子の電子スピン状態を操作するための電磁波を、π/2パルス間の時間τが前記磁場スパイクの大きさに応じて決定されているパルスシーケンスにて、前記量子センサ素子に繰り返し照射する電磁波照射部と、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の複数の前記電子スピン状態を取得し、取得した複数の前記電子スピン状態に基づいて、前記磁場スパイクを検出する磁場スパイク検出部と、
を備える、磁場スパイク検出装置。
【請求項2】
前記π/2パルス間の時間τは、前記磁場スパイクのパルス高および前記磁場スパイクの持続時間に応じて決定されている、請求項1に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項3】
前記磁場スパイク検出部は、複数の前記電子スピン状態の統計学的な分析に基づいて、前記磁場スパイクを検出する、請求項1または2に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項4】
前記磁場スパイク検出部は、
相互作用した後の複数の前記電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの前記電子スピン状態に基づいて前記磁場の強度をそれぞれ算出することにより、前記磁場の強度のヒストグラムを作成するヒストグラム作成部と、
前記ヒストグラムから測定によるノイズを差し引くことにより、前記磁場スパイクを抽出する磁場スパイク抽出部と、
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項5】
前記測定によるノイズはショットノイズである、請求項4に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項6】
前記磁場スパイク抽出部は、分布が異なる2つのガウス関数を前記ヒストグラムにフィッティングすることにより前記磁場スパイクを抽出する、請求項4に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項7】
前記磁場スパイク検出部は、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の前記電子スピン状態の位相の情報を読み出すための光を、前記量子センサ素子に照射する光照射部と、
前記光の照射によって前記量子センサ素子に生じる変化を検出する検出部と、
をさらに含み、
前記ヒストグラム作成部は、
前記検出された変化から前記位相の情報を読み出し、読み出した前記位相の情報に基づいて前記磁場の強度を算出する、請求項4から6のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項8】
前記磁場スパイク検出部は、前記磁場スパイクを検出した場合に警報信号を出力する警報部をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置。
【請求項9】
検出対象である磁場スパイクを含む磁場との相互作用により変化する量子センサ素子の電子スピン状態を操作するための電磁波を、π/2パルス間の時間τが前記磁場スパイクの大きさに応じて決定されているパルスシーケンスにて、前記量子センサ素子に繰り返し照射するステップと、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の複数の前記電子スピン状態を取得し、取得した複数の前記電子スピン状態に基づいて、前記磁場スパイクを検出するステップと、
を含む、磁場スパイク検出方法。
【請求項10】
前記磁場スパイクを検出するステップは、
相互作用した後の複数の前記電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの前記電子スピン状態に基づいて前記磁場の強度をそれぞれ算出することにより、前記磁場の強度のヒストグラムを作成するステップと、
前記ヒストグラムから測定によるノイズを差し引くことにより、前記磁場スパイクを抽出するステップと、
を含む、請求項9に記載の磁場スパイク検出方法。
【請求項11】
前記磁場スパイクを検出するステップは、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の前記電子スピン状態の位相の情報を読み出すための光を、前記量子センサ素子に照射するステップと、
前記光の照射によって前記量子センサ素子に生じる変化を検出するステップと、
をさらに含み、
前記磁場の強度のヒストグラムを作成するステップは、
前記検出された変化から前記位相の情報を読み出し、読み出した前記位相の情報に基づいて前記磁場の強度を算出する、請求項10に記載の磁場スパイク検出方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置を備える電力設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子センサを用いる技術に関し、より詳細には、量子センサを用いた磁場スパイク検出装置、方法、および磁場スパイク検出装置を備える電力設備に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において電力は欠かすことができず、電力設備は必要不可欠なインフラストラクチャとなっている。変成器や開閉器等の送変電機器を含む電力設備は、一旦運転に入ると停止できる機会が少なく、このような電力設備に万が一故障が発生すると、社会的に与える影響は大きい。
【0003】
電力設備に故障が生じ始める初期の頃には、部分放電により、微小な極短パルス状の磁場(以下、磁場スパイクと呼ぶ)が電力設備において生じる。部分放電は、電力設備を構成する絶縁体中に微小な空隙状の欠陥が存在すると、その欠陥部分に電界が集中することにより発生することが知られている。電力設備に部分放電が発生すると電力設備の絶縁体は徐々に劣化する。そのまま長い時間が経過した後には絶縁破壊に至り、電力設備の動作に不具合が生じる。そのため、電力設備に発生する部分放電を検出することにより、電力設備の故障をいち早く察知することが行われている。
【0004】
部分放電を検出する従来の方法としては、例えば電気的な検出方法として、電磁結果法、外被電極法、および静電結合法などが知られている。電気的な検出方法以外には、例えば音響法、化学的検出法、および光学的検出法が知られている。音響法では、部分放電により生じる音圧波を超音波センサにより検出する。化学的検出法では、例えば、部分放電により生じる微量の分解ガスとの呈色反応を用いて部分放電を検出する。光学的検出法では、部分放電により生じる放電光を光センサにより検出する。
【0005】
また近年では、磁場を測定するセンサ素子の材料として、ダイヤモンドが注目されている。ダイヤモンドの結晶構造において、窒素-空孔中心と呼ばれる複合欠陥が見られることがある。この窒素-空孔中心は、結晶格子の炭素原子の位置に置き換わる形で入った窒素原子と、その窒素原子の隣接位置に存在する(炭素原子が抜けている)空孔との対からなるもので、NV中心(Nitrogen Vacancy center)とも呼ばれている。ダイヤモンドの結晶構造には、NV中心以外にも、珪素-空孔中心(Silicon Vacancy center)と呼ばれる複合欠陥や、ゲルマニウム-空孔中心(Germanium Vacancy center)と呼ばれる複合欠陥が見られることがあり、NV中心を含むこれら複合欠陥は、色中心と呼ばれている。
【0006】
NV中心は、空孔に電子が捕獲された状態(負電荷状態、以下「NV-」と呼ぶ)においては、電子スピンと呼ばれる磁気的な性質を示す。このNV-は、電子が捕獲されていない状態(中性状態、以下「NV0」と呼ぶ)に比べて、長い横緩和時間(デコヒーレンス時間、以下「T2」と呼ぶ)を示す。つまり、NV-の電子スピン状態は、外部磁場の縦方向(以下、「量子化軸」と呼ぶ)に揃えた電子スピンの磁化を横方向に傾けた後、個々のスピンの歳差運動が原因となり個々の向きがずれていって、全体としての横磁化が消失するまでの時間が長い。また、NV-は、室温(約300K)下であっても長いT2値を示す。
【0007】
NV-の電子スピン状態は外部の磁場に反応して変化し、この電子スピン状態の測定も室温下で可能であるため、NV中心を含むダイヤモンドは、磁場センサ素子の材料として利用できる。
【0008】
例えば特許文献1には、ダイヤモンド中の電子スピンによる磁気共鳴により、交流磁場を測定する方法が開示されている。スピンには、スピンエコー法に基づくパルスシーケンスが与えられている。
【0009】
例えば特許文献2には、ダイヤモンド中の電子スピンに対する光検出磁気共鳴(Optically Detected Magnetic Resonance: ODMR)法により、交流磁場を測定する方法が開示されている。NV中心はレーザ光により励起され、NV中心から放出される蛍光強度の変化を測定することにより、スピン状態に関する磁気共鳴信号(位相情報)が検出される。
【0010】
磁場センサ素子として利用されているセンサには、ダイヤモンドの色中心を用いたセンサ以外にも、例えば炭化ケイ素(SiC)中の色中心を用いたセンサや、光ポンピング磁力計(optically pumped atomic magnetometer, OPM)、超伝導量子干渉計(superconducting quantum interference device, SQUID)等の種々の種類が存在する。これらダイヤモンドの色中心、炭化ケイ素の色中心、光ポンピング磁力計、および超伝導量子干渉計は、量子効果を利用して物理量を計測していることから、量子センサと呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-103171号公報
【特許文献2】特開2017-75964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電力設備において生じる磁場スパイクは、振幅が数10nT~数100nT程度と微小であり、磁場スパイクを検出するためには、磁場を高い感度で検出することが求められる。
【0013】
これまでに、部分放電を高い感度で検出する際には、静電結合法や電磁結果法といった電気的な検出方法が用いられている。しかしながら、これら従来の電気的な検出方法では、部分放電を検出する装置は電力設備に電気的に接続されており、落雷等の影響により短時間に異常な過電圧や過電流が流れるサージが電力設備に発生すると、検出装置自体に故障が生じるおそれがあった。一方で、これら従来の電気的な検出方法以外の方法では、磁場の測定精度が低く磁場を高感度に検出することは困難であった。
【0014】
したがって、部分放電によって発生する微小な極短パルス状の磁場スパイクを、電気的に直接的に電力設備に接続することなく、高感度で検出することが求められている。
【0015】
本発明は、部分放電によって発生する磁場スパイクを非接触で高感度に検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
検出対象である磁場スパイクを含む磁場との相互作用により変化する量子センサ素子の電子スピン状態を操作するための電磁波を、π/2パルス間の時間τが前記磁場スパイクの大きさに応じて決定されているパルスシーケンスにて、前記量子センサ素子に繰り返し照射する電磁波照射部と、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の複数の前記電子スピン状態を取得し、取得した複数の前記電子スピン状態に基づいて、前記磁場スパイクを検出する磁場スパイク検出部と、
を備える、磁場スパイク検出装置。
(項2)
前記π/2パルス間の時間τは、前記磁場スパイクのパルス高および前記磁場スパイクの持続時間に応じて決定されている、項1に記載の磁場スパイク検出装置。
(項3)
前記磁場スパイク検出部は、複数の前記電子スピン状態の統計学的な分析に基づいて、前記磁場スパイクを検出する、項1または2に記載の磁場スパイク検出装置。
(項4)
前記磁場スパイク検出部は、
相互作用した後の複数の前記電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの前記電子スピン状態に基づいて前記磁場の強度をそれぞれ算出することにより、前記磁場の強度のヒストグラムを作成するヒストグラム作成部と、
前記ヒストグラムから測定によるノイズを差し引くことにより、前記磁場スパイクを抽出する磁場スパイク抽出部と、
を含む、項1から3のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置。
(項5)
前記測定によるノイズはショットノイズである、項4に記載の磁場スパイク検出装置。
(項6)
前記磁場スパイク抽出部は、分布が異なる2つのガウス関数を前記ヒストグラムにフィッティングすることにより前記磁場スパイクを抽出する、項4に記載の磁場スパイク検出装置。
(項7)
前記磁場スパイク検出部は、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の前記電子スピン状態の位相の情報を読み出すための光を、前記量子センサ素子に照射する光照射部と、
前記光の照射によって前記量子センサ素子に生じる変化を検出する検出部と、
をさらに含み、
前記ヒストグラム作成部は、
前記検出された変化から前記位相の情報を読み出し、読み出した前記位相の情報に基づいて前記磁場の強度を算出する、項4から6のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置。
(項8)
前記磁場スパイク検出部は、前記磁場スパイクを検出した場合に警報信号を出力する警報部をさらに含む、項1から7のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置。
(項9)
検出対象である磁場スパイクを含む磁場との相互作用により変化する量子センサ素子の電子スピン状態を操作するための電磁波を、π/2パルス間の時間τが前記磁場スパイクの大きさに応じて決定されているパルスシーケンスにて、前記量子センサ素子に繰り返し照射するステップと、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の複数の前記電子スピン状態を取得し、取得した複数の前記電子スピン状態に基づいて、前記磁場スパイクを検出するステップと、
を含む、磁場スパイク検出方法。
(項10)
前記磁場スパイクを検出するステップは、
相互作用した後の複数の前記電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの前記電子スピン状態に基づいて前記磁場の強度をそれぞれ算出することにより、前記磁場の強度のヒストグラムを作成するステップと、
前記ヒストグラムから測定によるノイズを差し引くことにより、前記磁場スパイクを抽出するステップと、
を含む、項9に記載の磁場スパイク検出方法。
(項11)
前記磁場スパイクを検出するステップは、
前記磁場スパイクを含む前記磁場と相互作用した後の前記電子スピン状態の位相の情報を読み出すための光を、前記量子センサ素子に照射するステップと、
前記光の照射によって前記量子センサ素子に生じる変化を検出するステップと、
をさらに含み、
前記磁場の強度のヒストグラムを作成するステップは、
前記検出された変化から前記位相の情報を読み出し、読み出した前記位相の情報に基づいて前記磁場の強度を算出する、項10に記載の磁場スパイク検出方法。
(項12)
項1から8のいずれか一項に記載の磁場スパイク検出装置を備える電力設備。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、部分放電によって発生する磁場スパイクを非接触で高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出装置の概略的な構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す磁場スパイク検出装置の具体的な構成の一例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出装置を備える電力設備の概略的な図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出装置を備える電力設備の概略的な図である。
【
図5】ダイヤモンドのNV
-中心における電子のエネルギー準位を模式的に示す図である。
【
図6】光検出磁気共鳴(ODMR)法を用いた手法により交流磁場をセンシングする場合の例示的なパルスシーケンスである。
【
図7】磁場スパイクの例示的な波形を示す図である。
【
図8】本発明の磁場スパイク検出コンセプトを説明するための図である。
【
図9】本発明の磁場スパイク検出コンセプトを説明するための図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出方法の手順を示すフローチャートである。
【
図11】本発明により測定される磁場強度の例示的なヒストグラムであり、ショットノイズを差し引いた後のヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0020】
なお、本明細書において、物理量(physical quantity)とは、物理学における一定の体系の下で次元が確定し、定められた物理単位の倍数として表すことができる量を意味する。物理量の一例としては、例えば、磁場、電場、温度および力学量(力学的なストレス、圧力等)が挙げられる。磁場、電場および力学量は、時間と共に変化しない物理量と、時間と共に方向が変化を繰り返す物理量とを含む。すなわち、磁場は、静磁場および交流磁場を含み、電場は、静電場および交流電場を含み、力学量は、静的な力学量および交流力学量を含む。
【0021】
[装置構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出装置10の概略的な構成を模式的に示す図である。
図2は、
図1に示す磁場スパイク検出装置10の具体的な構成の一例を模式的に示す図である。
【0022】
磁場スパイク検出装置10(以下、単に検出装置10と記載する)は、センサ素子1と、電磁波照射部2と、磁場スパイク検出部3とを備える。センサ素子1は、本実施形態では、検出装置10のプローブ11の先端に取り付けられている。
【0023】
センサ素子1は量子センサの素子である。本実施形態では、センサ素子1は、色中心を有しているダイヤモンドの結晶であり、色中心としてNV中心を用いる。NV中心は、炭素原子を置換した窒素(N)と、窒素に隣接する空孔(V)との複合体(複合欠陥)である。本実施形態では、センサ素子1は、ダイヤモンドの結晶12上の所定の領域内に、公知の方法により予め生成されている。例示的には、領域内には、概ね数千個のオーダの(濃度:~1×1012/cm-3)複数のセンサ素子1が生成されている。本実施形態では、センサ素子1はアンサンブルNV中心である。
【0024】
センサ素子1の電子スピン状態は、対象物9との相互作用8により変化を受ける。本実施形態では、対象物9は電力設備であり、相互作用8は磁場による相互作用である。相互作用8が磁場による場合には、センサ素子1の色中心の電子スピン状態は、対象物9である電力設備の周囲に発生している磁場の強度に応じた状態となる。
【0025】
電磁波照射部2は、センサ素子1の電子スピン状態を磁気共鳴によって操作するための電磁波を、センサ素子1に照射する。一例として、本実施形態では、電磁波照射部2は、公知のマイクロ波(microwave, MW)発振器21と、電磁波をパルス化した形式で照射するスイッチ22と、増幅器23とを備えている。スイッチ22および増幅器23は任意の構成とすることができる。本実施形態では、電磁波照射部2は、センサ素子1の電子スピン状態を操作するための電磁波を、パルス化された形式でセンサ素子1に照射する。
【0026】
電磁波照射部2がセンサ素子1に照射する電磁波のパルスシーケンスには、磁気共鳴を生じさせるための種々のパルスシーケンスを用いることができる。例えば交流磁場をセンシングする場合には、電磁波照射部2は、スピンエコー法のハーンエコー法に基づくパルスシーケンスにて、電磁波をセンサ素子1に照射する。
【0027】
電磁波照射部2は、センサ素子1の電子スピン状態を操作するための電磁波を、π/2パルス間の時間τが磁場スパイクの大きさ(magnitude)に応じて決定されているパルスシーケンスにて、センサ素子1に照射する。本実施形態では、π/2パルス間の時間τは、磁場スパイクB
Sのパルス高hおよび磁場スパイクの持続時間dに応じて決定されている。パルスシーケンスに施す工夫については、
図6を参照して後述する。
【0028】
電磁波照射部2は、センサ素子1の近傍に配置された電磁波照射用のアンテナ14を通じて、電磁波をセンサ素子1に照射する。アンテナ14は、例えばリソグラフィ技術により、導電性を有する金属を用いてダイヤモンドの結晶12上に形成されている。
【0029】
磁場スパイク検出部3は、対象物9との相互作用8により変化した後の、センサ素子1の電子スピン状態の変化に基づいて、磁場スパイクを検出する。本実施形態では、磁場スパイク検出部3は、複数の電子スピン状態の統計学的な分析に基づいて、磁場スパイクを検出する。複数の電子スピン状態を統計学的に分析することは、複数の電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの電子スピン状態に基づいて磁場の強度をそれぞれ算出することにより、磁場の強度のヒストグラムを作成することを含む。本実施形態では、磁場スパイク検出部3は、対象物9である電力設備の周囲に発生している磁場の強度を算出し、算出した磁場の強度に基づいて磁場スパイクを検出する。磁場スパイク検出部3は、光照射部31と、検出部32と、データ処理部33とを備える。
【0030】
光照射部31は、対象物9と相互作用した後のセンサ素子1の電子スピン状態の位相情報を読み出すための光を、センサ素子1に照射する。また、光照射部31は、センサ素子1の電子スピン状態を初期化するための光をセンサ素子1に照射する。一例として、本実施形態では、光照射部31は、光源311と、音響光学変調素子(Acoustic Optical Modulator: AOM)312と、対物レンズ313とを備えている。音響光学変調素子312および対物レンズ313は任意の構成とすることができる。
【0031】
光源311は、対象物9と相互作用した後のセンサ素子1の電子スピン状態の位相情報を読み出すための光を放出する。また、光源311は、センサ素子1の電子スピン状態を励起し初期化するための光を放出する。光源311が放出する光の波長は、センサ素子1の種類に応じて決定されている。本実施形態では、光源311は波長が532nm(緑色)のレーザ光を放出する。光源311には、例えば種々の公知のレーザ発生装置を用いることができる。本実施形態では、光源311は、緑色レーザ光を放出する半導体レーザである。
【0032】
対物レンズ313は、光源311から放たれる光を集光して、ダイヤモンドの結晶12上のセンサ素子1が生成されている領域へ照射する。例示的には、ダイヤモンドの結晶12上に集光されるレーザ光のスポットサイズは、直径が約2μmである。レーザ光のスポットサイズが縮小するほど、単位面積あたりのレーザ光の強度は増大し、ダイヤモンドの導電帯において生成される光電流の効率も増大する。
【0033】
図2に例示する構成では、レーザ光のスポットは、ダイヤモンドの結晶12上のセンサ素子1が生成されている領域を覆うように配置されている。好ましくは、レーザ光のスポットは、センサ素子1が生成されている領域の略中央からオフセットした位置に配置することができる。
【0034】
検出部32は、センサ素子1に生じる変化を検出する。本実施形態では、検出部32は、センサ素子1から放出される光を検出することにより、公知の光検出磁気共鳴(ODMR)法により、磁気共鳴の信号を発光強度の変化として検出する。この場合、検出部32には、例えば公知のフォトダイオードを用いることができる。フォトダイオードには、例えばアバランシェフォトダイオードを用いることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、電磁波照射部2において操作用の電磁波をパルス化した形式で照射している。よって、本実施形態では、具体的にはPulsed Optically Detected Magnetic Resonance(pODMR)法による検出を行う。
【0036】
データ処理部33は、検出部32と接続され、検出部32にて検出された変化から、対象物9と相互作用した後のセンサ素子1の電子スピン状態の位相情報を読み出し、読み出した位相情報に基づいて磁場スパイクを検出する。データ処理部33は、ヒストグラム作成部331と、磁場スパイク抽出部332と、警報部333とを備える。
【0037】
データ処理部33には、例えば公知の汎用コンピュータや、スマートフォン等の種々の情報端末装置を用いることができる。データ処理部33は、検出装置10と一体化されて構成されていてもよいし、または図示するように、検出装置10の外部に設けられて、優先または無線のネットワーク99を介して検出装置10と接続されていてもよい。
【0038】
ヒストグラム作成部331は、相互作用した後の複数の電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの電子スピン状態に基づいて磁場の強度をそれぞれ算出することにより、磁場の強度のヒストグラムを作成する。
【0039】
磁場スパイク抽出部332は、磁場の強度のヒストグラムから、磁場スパイクを抽出する。本実施形態では、磁場スパイク抽出部332は、磁場の強度のヒストグラムから測定によるノイズを差し引くことにより、磁場スパイクを抽出する。本実施形態では、測定によるノイズはショットノイズである。他の実施形態では、磁場スパイク抽出部332は、分布が異なる2つのガウス関数を、磁場の強度のヒストグラムにフィッティングすることにより、磁場スパイクを抽出する。
【0040】
警報部333は、磁場スパイクが抽出された場合に、例えば警報信号を出力して警報を行う。警報信号は、例えば他の電力設備の運転状況を集中管理する図示しないコンピュータ機器へ、例えばネットワーク99を介して送信される。または警報信号は、図示しない例えばブザー等の警報器を動作させる信号であってもよい。
【0041】
図3および
図4は、本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出装置10を備える電力設備9の概略的な図である。電力設備9として、
図3には変流器9aを例示し、
図4には変圧器9bを例示する。これらの図中に例示する検出装置10の配置箇所は一例である。
【0042】
検出装置10は、電力設備9(9a,9b)の周囲に発生している磁場を感知することができる位置に配置される。好ましくは、検出装置10は、センサ素子1が磁場を感知する軸の方向が、電力設備9の周囲に発生している磁場の方向に沿うように配置される。
【0043】
[検出原理]
本発明では、対象物である電力設備9の周囲に発生している磁場の強度を、量子センサ1を用いて測定する。これにより、磁場スパイクを高感度に検出する。磁場の強度の算出に用いる磁気共鳴信号は光検出磁気共鳴(ODMR)法により検出する。これにより、電気的に直接的に対象物である電力設備9に接続することなく、磁場スパイクを非接触で検出する。
【0044】
本発明では、磁気共鳴信号を測定する際に用いる、電子スピン状態を操作するための電磁波のパルスシーケンスを工夫している。これにより、磁場の強度の測定感度を向上させ、部分放電によって発生する微小な極短パルス状の磁場スパイクを高感度に検出する。
【0045】
以下ではまず、光検出磁気共鳴(ODMR)法により磁気共鳴信号を検出する原理および手順について説明し、検出した磁気共鳴信号から磁場強度を算出する方法について説明する。次に、本発明においてパルスシーケンスに施す工夫について説明する。最後に、上記説明した磁気共鳴信号の検出原理および磁場強度の算出方法に基づいて、交流磁場にランダムに発生している磁場スパイクを検出するコンセプトについて説明する。
【0046】
<光検出磁気共鳴(ODMR)法による磁気共鳴信号の検出>
図5は、ダイヤモンドのNV
-中心における電子のエネルギー準位を模式的に示す図である。
【0047】
本実施形態では、センサ素子1としてダイヤモンドのNV中心を用いる。NV中心の基底状態は磁気量子数ms=-1,0,+1のスピン三重項状態であり、室温における定常状態では、基底状態において全ての準位は等しく分布している。
【0048】
基底状態にある磁気量子数ms=0の電子は、波長が532nm(緑色)のレーザ光を照射されると励起状態へと遷移し、赤色の蛍光を放出して、磁気量子数ms=0の基底状態に緩和する。
【0049】
一方、基底状態にある磁気量子数ms=0の電子は、共鳴周波数が2.87GHzのマイクロ波を照射されると、電子スピン共鳴(ESR)が生じ、磁気量子数ms=±1の二重縮退した基底状態へ遷移する。このような基底状態にある磁気量子数ms=±1の電子は、波長が532nm(緑色)のレーザ光を照射されると励起状態へと遷移し、その後、ある一定の確率で、磁気量子数ms=0の基底状態に戻る。このような一連の過程は、蛍光を放出しない無輻射での遷移である。
【0050】
このように、赤色の蛍光を放出する過程は、磁気共鳴が生じて、電子が磁気量子数ms=±1の基底状態にある場合に起こり難くなる。また、磁気量子数ms=±1の二重縮退した基底状態は、ゼーマン分裂により外部磁場の強度に比例して分離されるため、蛍光強度も電子が磁気量子数ms=±1のどちらの状態であるかに応じて変化する。よって、マイクロ波の周波数を2.87GHz前後で掃引した際の、赤色の蛍光強度が低下した点として、磁気共鳴信号を検出することができる。
【0051】
図6は、光検出磁気共鳴(ODMR)法を用いた手法により交流磁場をセンシングする場合の例示的なパルスシーケンスである。
図6に示す操作用の電磁波のパルスシーケンスは、スピンエコー法のハーンエコー法に基づくパルスシーケンスである。
【0052】
状態Iは、レーザ光の照射により電子スピンを初期化した状態を表している。量子状態を単位球面上に表す表記法であるBloch球において、電子スピンは、量子化軸であるz軸に沿った方向に揃っている。
【0053】
次いで、状態IIにおいてπ/2パルスを照射することにより、量子化軸に沿った電子スピンを、量子化軸に垂直な平面に傾ける操作を行う。電子スピンはBloch球のxy平面に倒される。その後、xy平面に倒された電子スピンは、状態IIIにおいて、所定の時間τ0の間に、交流磁場および静磁場との相互作用によって位相緩和する。相互作用の強さは、電子スピンが感じる磁場の強度に対応している。
【0054】
状態IIIにおいて所定の時間τ0が経過した後、状態IVにおいてπパルスを照射することにより、測定対象との相互作用により位相緩和された電子スピンを、平面内において反転させる操作を行う。状態IIIから状態IVにおいて、電子スピンは、Bloch球のxy平面において回転しながら位相緩和する。この際、反転後の状態Vにおいて、電子スピンが再収束することにより、静磁場成分は打ち消されるが、交流磁場成分は、状態IIIのときと比べて強度が反転しているため打ち消されない。
【0055】
状態Vにおいて位相緩和しながら所定の時間τ0がさらに経過した後、状態VIにおいてπ/2パルスを照射することにより、位相緩和された電子スピンを量子化軸に射影する操作を行う。Bloch球のxy平面内に位置していた電子スピンは、量子化軸であるz軸に射影され、z軸に沿った方向に揃えられる。
【0056】
その後、状態VIIにおいて、センサ素子にレーザ光を照射して、センサ素子から放出される光を検出することにより、相互作用後の電子スピン状態の位相情報の読み出しが行われる。このようなパルスシーケンスを用いる、スピン状態に関する磁気共鳴信号(位相情報)の測定は、信号強度を積算してS/Nを向上させるために繰り返し実行される。
【0057】
図6に例示するハーンエコー法のパルスシーケンスでは、電子スピンは、状態IIIから状態VにおいてBloch球のxy平面内において回転しながら位相緩和しており、磁気共鳴法では、電子スピンがこのように位相緩和する際の信号を磁気共鳴信号として検出している。π/2パルス間の時間τは、電子スピンが位相緩和する状態III~状態Vの期間に対応しており、この時間τが測定の感度を決定付けている。磁場との相互作用により電子スピンが位相緩和する程度は、電子スピンが感じる磁場の強度に対応しているからである。
【0058】
<磁気共鳴信号に基づいた磁場強度の算出方法>
光検出磁気共鳴(ODMR)法では、対象物9と相互作用した後のセンサ素子1の電子スピン状態の位相情報(磁気共鳴信号)は、発光強度の変化として検出される。検出した位相情報は、対象物の物理量に応じた状態となっている。よって、検出した相互作用後の電子スピン状態の位相情報を適切にデータ処理することにより、対象物の物理量を算出することができる。対象物の物理量は、電子スピンのハミルトニアンに基づいて算出することができる。
【0059】
電子スピンのハミルトニアンH
gsは、以下の式で表される。
【数1】
ここで、μ
Bはボーア磁子であり、g
eは電子のg因子であり、hはプランク定数である。ベクトルSは電子スピンである。ベクトルBは印加磁場である。D
gsは零磁場分裂定数である。S
x,S
y,S
zはそれぞれ、電子スピンSのx,y,z方向成分である。d
gs
⊥は、電気双極子モーメントである。E
x,E
yはそれぞれ、電場のx,y方向成分である。
【0060】
1番目の項
【数2】
は、ゼーマン効果による項であり、電子スピンが磁場センサとして機能することを意味している。
【0061】
2番目の項および3番目の項は、双極子相互作用(すなわち、スピン間相互作用)による項である。2番目の項
【数3】
は、電子スピンが温度センサおよび力学量(圧力)センサとして機能することを意味している。3番目の項
【数4】
は、電子スピンが電場センサとして機能することを意味している。
【0062】
よって、磁場の強度は、1番目の項に基づいて算出することができる。温度および力学量の強度は、2番目の項に基づいて算出することができる。電場の強度は、3番目の項に基づいて算出することができる。
【0063】
<パルスシーケンスに施す工夫>
再び
図6を参照する。
図6に示す手法により交流磁場B(t)をセンシングする場合のパルスシーケンスでは、π/2パルス間の時間τは、測定しようとする交流磁場の波長2πに対応する固定値であり、状態IIIの時間τ
0および状態Vの時間τ
0も固定値である。
図6を参照して説明したように、電子スピンは、状態IIIから状態VにおいてBloch球のxy平面内において回転しながら位相緩和する。ここで、交流磁場の強度が大きいと、xy平面内における電子スピンの回転角が2πを超え、逆に交流磁場の強度が小さいと、xy平面内における電子スピンの回転角が不足し、交流磁場の強度を測定することができないおそれがある。
【0064】
このような事情により、測定しようとする交流磁場の強度には、Bloch球のxy平面内における電子スピンの回転角に関する制限が課されている。これに伴い、測定可能な交流磁場の強度の範囲も、時間τに応じた制限が課されており、時間τが固定されると、測定可能な交流磁場の範囲も固定される。
【0065】
本発明では、π/2パルス間の時間τを、検出しようとする磁場スパイクの大きさ(magnitude)に応じて決定する。時間τはコヒーレンス時間T2(横緩和時間T2)よりも短い時間とする。
【0066】
図7は、磁場スパイクの例示的な波形を示す図である。なお、磁場スパイクの実際の波形は未知であり、
図7は、磁場スパイクの大きさという概念を説明する目的にのみ用いる。
【0067】
磁場スパイクBSの大きさは、磁場スパイクBSのパルス高h(pulse height)と、磁場スパイクBSの持続時間d(duration)とを用いると、パルス高hおよび持続時間dの積分値で表すことができる。この積分値は図中に示す磁場スパイクBSの面積を表しており、磁気共鳴法では、磁気共鳴信号としてこの積分値に相当する量(quantity)を検出している。本実施形態では、磁場スパイクBSの大きさを近似した値として、パルス高hと持続時間dとの積を用いる。例示的には、パルス高hは約100nT(ナノテスラ)であり、持続時間dは約1ns(ナノセカンド)である。他の実施形態では、磁場スパイクBSの大きさを近似した値として、パルス高hと磁場スパイクBSの半値全幅(FWHM)との積を用いることができる。
【0068】
本発明では、π/2パルス間の時間τは、磁場スパイクの大きさに応じて決定されており、本実施形態では、時間τは、パルス高hと持続時間dとの積で表される磁場スパイクの大きさを十分に確保するように決定する。以下に説明するように、時間τは磁場スパイクを測定することができる確率に関連している。効率的な測定を実現するために、測定感度と測定可能な磁場強度の範囲(ダイナミックレンジ)とを両立させようとすると、時間τと検出可能な磁場スパイクのパルス高hとはトレードオフの関係にある。
【0069】
例えば、π/2パルス間の時間τを短くすると、検出可能な磁場スパイクのパルス高hは増大する。その代わり、π/2パルス間の時間τが短くなるので、磁場スパイクを測定することができる確率は減少する。交流磁場に繰り返しランダムで発生する複数の磁場スパイクのうち、時間τの範囲内のタイミングで発生した磁場スパイクしか検出することができないからである。
【0070】
これとは逆に、π/2パルス間の時間τを長くすると、磁場スパイクを測定することができる確率は増大する。その代わり、検出可能な磁場スパイクのパルス高hは減少する。上記したように、測定可能な交流磁場の強度の範囲に関して、時間τに応じた制限が課されているからである。
【0071】
<磁場スパイク検出コンセプト>
図8および
図9は、本発明の磁場スパイク検出コンセプトを説明するための図である。
図8は、対象物9である電力設備の周囲に発生している交流磁場B(t)に磁場スパイクB
S1,B
S2が発生している様子を表している。
【0072】
図9の(A)は、
図8に示す磁場スパイクB
S1付近の拡大図であり、(B)は、
図8に示す磁場スパイクB
S2付近の拡大図である。なお、
図8および
図9では、説明のために磁場スパイクB
S1,B
S2の強度をスケーリングして表示している。説明のためのスケーリングの比率は、横軸の時間軸が10
3であり、縦軸の磁場強度が10
4である。
【0073】
図8を参照する。交流送電を行う電力設備には交流電流が流れている。電力設備の故障により部分放電が生じ始めると、電力設備の周囲に発生している交流磁場B(t)には磁場スパイクB
S1,B
S2がランダムに発生する。
【0074】
例示的には、交流磁場B(t)の振幅は約5mT(ミリテスラ)であり、周波数は約60Hzである。例示的には、磁場スパイクBS1,BS2の振幅(パルス高)は約100nTであり、持続時間は約1nsである。
【0075】
磁場スパイクB
S1,B
S2が発生している場合には、交流磁場B(t)の測定値には、測定信号自身に含まれるノイズ成分である、いわゆるショットノイズによる成分に加えて、
図8に示す磁場スパイクB
S1,B
S2による成分がランダムに加わる。よって、交流磁場B(t)の強度の測定値から、ショットノイズによる成分を差し引くことにより、磁場スパイクB
S1,B
S2の発生による磁場強度の変化を検出することができる。
【0076】
しかしながら、
図6を参照して説明したように、交流磁場B(t)を測定しようとしてπ/2パルス間の時間τを決定すると、そのように決定した時間τでは、電子スピンの回転角に関して課されている制限により、磁場強度が10
3程度小さい磁場スパイクB
S1,B
S2を測定することができないおそれがある。
【0077】
本発明では、π/2パルス間の時間τを、交流磁場B(t)の大きさではなく、検出しようとする磁場スパイクの大きさに応じて決定する。ここで、
図6を参照して説明したように、検出しようとする磁場を、交流磁場B(t)ではなく、磁場強度が10
3程度小さい磁場スパイクB
S1,B
S2とする場合、磁気共鳴法では、磁場スパイクB
S1,B
S2のパルス高および持続時間の積分値に相当する量を磁気共鳴信号として検出している。積分値に相当するこの量は、磁場スパイクB
S1,B
S2の発生により生じる磁場強度の変化量に対応している。しかしながら、積分値に相当するこの量は極めて小さく、磁気共鳴信号を一回測定するだけではその量を検出することは困難である。磁場スパイクB
S1,B
S2の磁場強度が、交流磁場B(t)の磁場強度の10
3程度小さいからである。またそもそも、交流磁場に繰り返しランダムで発生している複数の磁場スパイクの全てを検出することは困難である。ランダムで発生する複数の磁場スパイクのうち、π/2パルス間の時間τの範囲内のタイミングで発生した磁場スパイクしか検出することはできない。
【0078】
本発明では、複数の磁気共鳴信号を統計学的に分析することにより磁場スパイクを検出する。具体的には、磁気共鳴信号の測定を多数回繰り返すことにより、サンプル数を増やして磁場強度のヒストグラムを作成する。次に、本実施形態では、作成したヒストグラムからショットノイズによる成分を差し引いて、磁場スパイクによる成分を抽出する。他の実施形態では、分布が異なる2つのガウス関数を、作成したヒストグラムにフィッティングすることにより、磁場スパイクによる成分を抽出する。
【0079】
図9を参照する。
図9に示す符号I~VIIは、
図6に示すパルスシーケンスの状態I~状態VIIに対応している。図中、実線はレーザ光の照射タイミングを示し、破線は電子スピン操作用の電磁波の照射タイミングを示している。
【0080】
状態Iでは、実線で示すタイミングでレーザ光を照射する。これにより、電子スピンを量子化軸であるz軸に揃えて、電子スピンの状態を初期化する。状態IIでは、破線で示すタイミングでπ/2パルスを照射することにより、電子スピンをBloch球のxy平面に倒す。状態IIIでは、電子スピンが位相緩和する。状態IVでは、破線で示すタイミングでπパルスを照射することにより、電子スピンをBloch球のxy平面内において反転させる。なおこのように反転している間も、電子スピンは位相緩和している。状態Vでは、電子スピンが位相緩和する。状態VIでは、破線で示すタイミングでπ/2パルスを照射することにより、電子スピンを量子化軸であるz軸に射影する。状態VIIでは、実線で示すタイミングでレーザ光を照射する。これにより、相互作用後の電子スピン状態の位相情報を読み出す。
【0081】
状態IIIから状態Vにおいて、電子スピンはBloch球のxy平面において回転しながら位相緩和する。本発明の検出コンセプトでは、交流磁場B(t)に繰り返しランダムで発生する複数の磁場スパイクのうち、状態IIIから状態Vの間に発生している磁場スパイクを検出する。
図9に示す例では、磁場スパイクB
S1,B
S2は共に状態IIIまたは状態Vの間に発生しており、磁場スパイクB
S1,B
S2はどちらも、磁場スパイクを検出することが可能な検出ウィンドウの時間幅内のタイミングにおいて発生している。磁場スパイクを検出することが可能なこの検出ウィンドウの時間幅は、π/2パルス間の時間τであり、
図6を参照して説明したように、この時間τは検出しようとする磁場スパイクの大きさに応じて決定されている。
【0082】
[検出手順]
図10は、本発明の一実施形態に係る磁場スパイク検出方法の手順を示すフローチャートである。
【0083】
ステップS1において、センサ素子1にレーザ光を照射することにより、センサ素子1の色中心(NV中心)の電子スピンを初期化する。その後、初期化されたNV中心の電子スピンを、対象物9の交流磁場と相互作用させる。十分な時間の間相互作用をさせると、NV中心の電子スピン状態は、交流磁場の強度に応じた状態となる。ステップS1の状態は、
図6に示すパルスシーケンスの状態Iに対応している。交流磁場に磁場スパイクが発生している場合には、初期化されたNV中心の電子スピンは、磁場スパイクを含む交流磁場と相互作用をし、磁場スパイクを含む交流磁場の強度に応じた状態となる。
【0084】
ステップS2において、センサ素子1にスピン操作用の電磁波を照射することにより、磁場センシングを行う。本実施形態では、
図6に示すパルスシーケンスに従ってπ/2パルスおよびπパルスを照射することにより、交流磁場のセンシングを行う。すなわち本実施形態では、
図6に示すパルスシーケンスの状態II~状態VIに対応するように、NV中心の電子スピン状態を操作する。交流磁場に磁場スパイクが発生している場合には、磁場スパイクを含む交流磁場のセンシングが行われる。
【0085】
ステップS3において、センサ素子1にレーザ光を照射して、センサ素子1に生じる変化を検出することにより、相互作用後の電子スピン状態の、位相情報の読み出しを行う。本実施形態では、センサ素子1から放出される光を検出することにより、相互作用後の電子スピン状態の、位相情報の読み出しを行う。相互作用後の電子スピン状態の位相情報は、光検出磁気共鳴(ODMR)法により、発光強度の変化として検出部32を用いて検出する。ステップS3の状態は、
図6に示すパルスシーケンスの状態VIIに対応している。
【0086】
ステップS4において、ステップS1~S3の一連の測定処理を、所定の回数繰り返し実行したか否かを判定する。一連の測定処理を所定の回数繰り返し実行している(ステップS4においてYes)場合は、ステップS5の処理を行い、所定の回数繰り返し実行していない(ステップS4においてNo)場合は、再びステップS1から処理を行う。なお、このような一連の測定処理を繰り返し実行する回数は、検出しようとする磁場スパイクの頻度または大きさに応じて変更することができる。
【0087】
なお、一連の測定処理を繰り返し実行すると信号強度が積算されるため、測定処理を繰り返し実行する回数が増大するほど、信号のS/N比も向上する。
【0088】
ステップS5において、相互作用後の電子スピン状態の位相情報から、磁場の強度のヒストグラムを作成する。
【0089】
磁場の強度は、ステップS3において読み出した、相互作用後の電子スピン状態の位相情報から算出する。検出部32にて検出した相互作用後の電子スピン状態の位相情報は、対象物9の交流磁場に応じた状態となっている。よって、検出した相互作用後の電子スピン状態の位相情報を適切にデータ処理することにより、交流磁場の強度を算出することができる。例えば、相互作用後の電子スピン状態が基底状態となる確率を求めることにより、対象物9の交流磁場の強度を算出することができる。強度の算出は、電子スピンのハミルトニアンHgsの、ゼーマン効果による項に基づいて行うことができる。交流磁場に磁場スパイクが発生している場合には、相互作用後の電子スピン状態の位相情報は、磁場スパイクを含む交流磁場に応じた状態となっており、磁場スパイクを含む交流磁場の強度が算出される。
【0090】
磁場の強度のヒストグラムは、相互作用後の複数の電子スピン状態のそれぞれについて、それぞれの電子スピン状態に基づいて磁場の強度をそれぞれ算出することにより作成する。
【0091】
ステップS6において、磁場の強度のヒストグラムから磁場スパイクを抽出する。本実施形態では、磁場の強度のヒストグラムから測定によるノイズを差し引くことにより、磁場スパイクを抽出する。本実施形態では、測定によるノイズはショットノイズである。
【0092】
図11は、本発明により測定される磁場強度の例示的なヒストグラムであり、ショットノイズを差し引いた後のヒストグラムである。(A)にはヒストグラムの全体を示しており、(B)には(A)に示すヒストグラムの縦軸の一部をスケーリングして示している。
【0093】
(A)に示すように、磁場強度が0pT(ピコテスラ)付近に大きなピークが存在し、(B)の拡大図に示すように、磁場強度が3.333pT付近にかなり小さいサイドピークが存在する。0pT付近の大きなピークは、ショットノイズにより幅をもっている。3.333pT付近のかなり小さいサイドピークが、本発明において検出しようとする、
図8でいう磁場スパイクB
S1,B
S2の強度に対応するピークである。
【0094】
ステップS7において、磁場スパイクが抽出されたか否かを判断する。例えば、抽出した磁場スパイクの強度が所定の大きさ以上の磁場強度であるか否かを判断する。または、
図11を参照して説明すると、抽出したサイドピークの磁場強度と0pT付近の大きなピークの磁場強度との比をとり、サイドピークの磁場強度が大きなピークの磁場強度の約10
-3程度であれば、抽出したサイドピークが磁場スパイクであると判断する。
【0095】
磁場スパイクが抽出された(ステップS7においてYes)場合は、ステップS8において警報を行う。例えば、他の電力設備の運転状況を集中管理するコンピュータ機器へ、例えばネットワーク99を介して警報信号を出力する。集中管理用のコンピュータ機器は、警報信号を受信すると、例えば電力設備のメンテナンスを促すメッセージを、集中管理用のコンピュータ機器のモニターに表示する。または、警報信号を受信すると動作するアラーム等の警報器を、磁場スパイク検出装置10に接続してもよい。磁場スパイクが検出されない(ステップS7においてNo)場合は、再びステップS1から処理を行い、磁場スパイクの検出を繰り返し行う。
【0096】
[効果]
以上、本発明によると、部分放電によって発生する磁場スパイクを非接触で高感度に検出することができる。これにより、電力設備の故障をいち早く察知することが可能となる。
【0097】
本発明では、対象物である電力設備の周囲に発生している磁場の強度を、量子センサを用いて測定する。これにより、磁場スパイクを高感度に検出することが可能となる。磁場の強度の算出に用いる磁気共鳴信号は光検出磁気共鳴(ODMR)法により検出する。これにより、電気的に直接的に対象物である電力設備に接続することなく、磁場スパイクを非接触で検出することが可能となる。
【0098】
本発明では、磁気共鳴信号を測定する際に用いる、電子スピン状態を操作するための電磁波のパルスシーケンスを工夫している。これにより、磁場の強度の測定感度を向上させ、部分放電によって発生する微小な極短パルス状の磁場スパイクを高感度に検出することが可能となる。
【0099】
[その他の形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0100】
上記した実施形態では、電子スピン状態を操作するための電磁波を、スピンエコー法のハーンエコー法に基づくパルスシーケンスにてセンサ素子1に照射しているが、電子スピン状態を操作するための電磁波のパルスシーケンスは、ハーンエコー法に限定されない。例えば交流磁場をセンシングする場合には、電子スピン状態を操作するための電磁波を、スピンエコー法のダブルエコー法に基づくパルスシーケンスにてセンサ素子1に照射することができる。または、上記実施形態において例示したハーンエコー法においてπパルスを省略し、2つのπ/2パルスを含むパルスシーケンスにより磁気共鳴信号を検出してもよい。すなわち、エコー法に代えて自由誘導減衰(free induction decay: FID)信号を用いて磁気共鳴信号を検出してもよい。
【0101】
ダブルエコー法について説明する。ダブルエコー法では、電子スピン状態を操作するための電磁波を、第1のπ/2パルス、第1のπパルス、第2のπパルス、および第2のπ/2パルスの順番で照射する。π/2パルス間の時間τを用いて表現すると、第1のπパルスは、第1のπ/2パルスを照射した後、時間τ/4後に照射する。第2のπパルスは、第1のπパルスを照射した後、時間τ/2後に照射する。第2のπ/2パルスは、第2のπパルスを照射した後、時間τ/4後に照射する。
【0102】
本発明では、このようなハーンエコー法以外のパルスシーケンスを用いる場合についても、上記した実施形態において説明したように、π/2パルス間の時間τを、検出しようとする磁場スパイクの大きさ(magnitude)に応じて決定する。勿論、時間τはコヒーレンス時間T2(横緩和時間T2)よりも短い時間とする。
【0103】
上記した実施形態では、磁場の強度のヒストグラムから、測定によるノイズであるショットノイズを差し引くことにより、磁場スパイクを抽出しているが、磁場スパイクを抽出する方法はこれに限定されない。例えば、分布が異なる2つのガウス関数を、磁場の強度のヒストグラムにフィッティングすることにより、磁場スパイクを抽出することができる。
【0104】
2つのガウス関数を用いて磁場スパイクを抽出する方法を例示的に説明する。例えば2つのガウス関数として、
図11に例示するような、大きなピークを表す第1のガウス関数と、小さいサイドピークを表す第2のガウス関数とを定義する。次に、これら2つのガウス関数を、磁場の強度のヒストグラムにデータフィッティングする。データフィット後にフィッティングの精度を確認する。適切な精度でデータフィッティングが行われていると判断される場合には、小さいサイドピークを表す第2のガウス関数が、磁場スパイクを表している。よって、データフィッティングにより得られた第2のガウス関数が、抽出される磁場スパイクに対応する。
【0105】
上記した実施形態では、磁場スパイク検出装置10は、電力設備9の周囲に発生している磁場の磁場スパイクを検出しており、電力設備9の例として変流器9aや変圧器9bが例示されているが、電力設備9はこれらに限定されない。電力設備9は、例えば変成器や開閉器等の送変電機器を含むことができる。
【0106】
[実施例]
以下に本発明の実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【実施例0107】
実施例1では、電力設備に磁場スパイクが発生しているケースと、磁場スパイクが発生していないケースとのそれぞれについて数値シミュレーションを行った。
【0108】
・数値シミュレーションの条件
数値シミュレーションの基本とする交流磁場について、振幅は5mTとし周波数は60Hzとした。また、交流磁場の60Hzの周期毎に、確率的に平均で1つの磁場スパイクが発生するとした。すなわち、磁場スパイクのレートも60Hzとした。
【0109】
センサ素子のサンプルおよびパルスシーケンスについて想定した条件(a)~(e)は次の通りである。
【0110】
(a)コヒーレンス時間T2は60μs
(b)レーザースポットの径は40μm、NV中心密度「NV」は1×1019cm-3。したがって、球形ボリューム内のNV中心の数は約3.3×1011
(c)スピン状態間のコントラストは約2%
(d)一つのNV中心毎に一回の読み出し毎に平均して0.1の光子
(e)レーザーパルス長は30μs、待機時間は1μs、π/2パルス長は40ns、これらパルス間の遅延(delay)は約30μs
【0111】
想定した測定のモデル(i)~(vi)は次の通りである。
(i)ランダムに発生する磁場スパイクがπ/2パルスの間に存在する確率は、π/2パルス間の遅延をパルスシーケンス全体の長さで除算したものである。本実施例では、30μs/62.08μs≒0.48325、すなわち約48%である。
【0112】
(ii)パルスシーケンス中に磁場スパイクが発生する確率は、そのレートから得られる。本実施例では、60Hz×62.08μs×10-6=0.0037248 である。
【0113】
(iii)パルスシーケンスが磁場スパイクを測定する合計確率は、0.48325×0.0037248=0.0018・・・すなわち0.18%である。ここで、ポアソン分布を仮定して、30μs間隔で単一の磁場スパイクの確率を計算しても同じ結果が得られた。
【0114】
(iv)単一のパルスシーケンス中に複数の磁場スパイクが発生する確率は低く無視できる。よって本実施例では無視する。
【0115】
(v)バックグラウンドは完全に差し引く。本実施例では60Hzで周期的に振動している磁場をバックグラウンドとする。なお、バックグラウンドを差し引くことは必須ではない。選択したパルスシーケンスの範囲内にバックグラウンドが存在する限り、ノンゼロの平均バックグラウンドも機能する。
【0116】
(vi)最大のノイズ源であるショットノイズのみを考慮する。
【0117】
・磁場スパイクが発生しているケースと発生していないケースとの比較
数値シミュレーションによる比較は、磁場スパイクの発生レートと、磁場スパイクの振幅と、磁場スパイクの持続時間と、測定時間との組み合わせが異なる複数のケースを想定して行った。
【0118】
磁場スパイクの発生レートは、0Hz、60Hz、および600Hzの3パターンとした。磁場スパイクの振幅は、N/A(not available)、100nT、300nTの3パターンとした。磁場スパイクの持続時間は、N/A(not available)、1ns、および3nsの3パターンとした。測定時間は、200時間、2時間、および72秒の3パターンとした。
【0119】
数値シミュレーションの結果から、磁場スパイクについて予想される磁場強度、平均磁場強度、および測定の不確かさについて考察を行った。数値シミュレーションの結果を表1に示す。表1において、平均磁場強度および不確かさは、本実施例において提案する測定シミュレーションのデータの統計から得られる。
【表1】
NV中心の仕様条件および測定シーケンスから、測定感度は約1pTHz
-0.5と計算された。よって、200時間の測定における不確かさの理論値は、1×10
13/√(200×3600)=1.1785fT(フェムトテスラ)と計算された。予想される磁場強度は約6fTであった。
【0120】
表1に示す数値シミュレーションの結果から、検出しようとする磁場スパイクが、例えばシミュレーションNo.3またはNo.4に示すレート、振幅、および持続時間を有する場合には、約2時間の測定により、磁場スパイクを検出することが可能であることが示された。