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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131870
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】車両の制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20220831BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20220831BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T8/17 Z
B60T13/122 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031059
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
(72)【発明者】
【氏名】長坂 学
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB25
3D048BB27
3D048DD02
3D048HH15
3D048QQ07
3D048RR06
3D246BA02
3D246CA02
3D246DA01
3D246GA04
3D246HA03A
3D246HA43A
3D246JB11
3D246JB49
3D246LA02Z
3D246LA04Z
3D246LA08Z
3D246LA09Z
(57)【要約】
【課題】運転者の制動操作量に対してブレーキが効き過ぎになることを抑制できる車両の制動装置を提供すること。
【解決手段】制動装置40は、液圧発生装置41と、制動アクチュエータ60と、制動制御部82とを備える。制動制御部82は、液圧発生装置41におけるマスタシリンダ43の液圧室521,522のマスタ圧、又は、運転者から制動操作部材に入力される操作力である操作関連力に応じ、制動アクチュエータ60の作動に起因するホイール圧の増大量である助勢液圧を制御する助勢処理を実行する。制動制御部82は、助勢処理において、マスタシリンダ43のピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置する場合には、助勢液圧を減少補正する減少制御を実施する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に対して設けられているホイールシリンダ内の液圧であるホイール圧を調整する車両の制動装置であって、
ブレーキ液を貯留するリザーバタンク、及び、ポートを介して前記リザーバタンク内と連通する液圧室が内部に設けられているマスタシリンダを有し、前記液圧室が液路を介して前記ホイールシリンダ内と連通しており、前記液圧室の液圧であるマスタ圧に応じた前記ホイール圧である基礎液圧を前記ホイールシリンダ内に発生させる液圧発生装置と、
前記ホイール圧を調整すべく作動する制動アクチュエータと、
前記制動アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、
前記マスタシリンダは、
制動操作部材が操作されて前進方向に移動すると、前記液圧室の容積を小さくし、前記制動操作部材が操作されて前記前進方向の反対方向である後退方向に移動すると、前記液圧室の容積を大きくするピストンを有し、
前記ピストンが第1位置に位置する状態で前記制動操作部材の操作が開始されて前記ピストンが前記前進方向に移動することにより、前記第1位置よりも前記前進方向に位置する第2位置に前記ピストンが達すると、前記ポートを閉塞し、前記ポートが閉塞された状態で前記ピストンが前記前進方向に移動すると、前記マスタ圧を増大するように構成されており、
前記制御装置は、前記マスタ圧、又は、前記車両の運転者から前記制動操作部材に入力される操作力である操作関連力に応じ、前記制動アクチュエータの作動に起因する前記ホイール圧の増大量である助勢液圧を制御する助勢処理を実行するようになっており、
前記制御装置は、前記助勢処理において、前記ピストンが前記第2位置よりも前記後退方向に位置する場合には、前記助勢液圧を減少補正する減少制御を実施する
車両の制動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記ピストンの位置を取得するピストン位置取得処理を実行し、
前記ピストン位置取得処理で取得した前記ピストンの位置を基に、前記ピストンが前記第2位置よりも前記後退方向に位置するか否かを判定する
請求項1に記載の車両の制動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記操作関連力が力判定値以下である場合に前記減少制御を実施する
請求項1又は請求項2に記載の車両の制動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記減少制御において、前記助勢液圧の減少補正量を、前記ピストンの前記前進方向への移動速度が高いほど大きくする
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に対して設けられているホイールシリンダ内の液圧を調整する車両の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液圧発生装置と、制動アクチュエータとを備える車両の制動装置の一例が記載されている。当該制動装置において、液圧発生装置は、マスタシリンダと、ブレーキ液が貯留されているリザーバタンクとを備えている。マスタシリンダ内には液圧室が区画されており、液圧室はポートを介してリザーバタンク内と連通している。マスタシリンダは、運転者による制動操作量が増大されている場合に前進方向に移動するピストンを備えている。制動操作が行われていない場合におけるピストンの位置を第1位置とする。ピストンが第1位置に位置する状態からピストンが前進方向に移動すると、液圧室の容積が徐々に小さくなる。そして、ピストンが第2位置に達すると、ポートが閉塞され、ポートを介した液圧室とリザーバタンク内との連通が遮断される。そのため、この状態から前進方向にさらにピストンが移動すると、液圧室の液圧であるマスタ圧が高くなる。これにより、液圧室と連通するホイールシリンダ内の液圧であるホイール圧が高くなる。なお、マスタ圧の増大によって発生するホイール圧を、基礎液圧という。また、制動アクチュエータの作動によるホイール圧の増大量を、制御液圧という。
【0003】
特許文献1によれば、上記ポートにはオリフィスが設けられている。そのため、運転者による制動操作に起因するピストンの前進方向への移動速度が高い場合、液圧室の容積の変化に伴って液圧室からリザーバタンクに流出するブレーキ液の量がオリフィス効果によって減少する。その結果、ピストンが第2位置に達する前からマスタ圧の増大が開始されるようになる。すなわち、ピストンが第2位置に達する前から基礎液圧を高くできる。
【0004】
ところで、上記のような液圧発生装置では、運転者の制動操作を助勢するブースタ装置として、バキューム方式のブースタが採用される。この場合、ブースタ装置内の圧力室の負圧であるブースト圧があまり高くない状態で運転者が制動操作を行うと、当該制動操作を十分に助勢できないことがある。すなわち、ブースト圧に応じた液圧をマスタ圧が越える以前と比較し、ブースト圧に応じた液圧をマスタ圧が超えた以降では、ブースタ装置による制動操作の助勢効率が急に低くなってしまう。このように助勢効率が急に変わるタイミングにおけるマスタ圧を、変曲点という。
【0005】
そこで、特許文献2では、マスタ圧が変曲点に達する前から、制動アクチュエータを作動させることにより、ホイール圧を増大させ、運転者の制動操作を助勢するようにしている。制動アクチュエータの作動によって運転者の制動操作を助勢するためのホイール圧の増大量を助勢液圧とした場合、マスタ圧、又は操作力に応じた値が助勢液圧として設定されることがある。この場合、基礎液圧と助勢液圧との和が、ホイール圧となる。ここでいう操作力とは、運転者からブレーキペダルに入力される力である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-213242号公報
【特許文献2】特許第5217472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の制動装置において、特許文献2に記載されているように、運転者が制動操作を行っている場合に制動アクチュエータの作動によってホイール圧を増大させ、運転者の制動操作を助勢することを考える。特許文献1に記載の制動装置では、運転者の制動操作に起因するピストンの前進方向への移動速度が高いと、ピストンによってポートが閉塞される前からマスタ圧の増大が開始される。このとき、マスタ圧の増大に応じて操作力も増大する。すなわち、ポートが閉塞される前から、制動アクチュエータの作動によってホイール圧が増大される。したがって、運転者の制動操作量に対してホイール圧が高くなりすぎ、ブレーキが効き過ぎになるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための車両の制動装置は、車輪に対して設けられているホイールシリンダ内の液圧であるホイール圧を調整する装置である。この制動装置は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク、及び、ポートを介して前記リザーバタンク内と連通する液圧室が内部に設けられているマスタシリンダを有し、前記液圧室が液路を介して前記ホイールシリンダ内と連通しており、前記液圧室の液圧であるマスタ圧に応じた前記ホイール圧である基礎液圧を前記ホイールシリンダ内に発生させる液圧発生装置と、前記ホイール圧を調整すべく作動する制動アクチュエータと、前記制動アクチュエータを制御する制御装置と、を備えている。前記マスタシリンダは、制動操作部材が操作されて前進方向に移動すると、前記液圧室の容積を小さくし、前記制動操作部材が操作されて前記前進方向の反対方向である後退方向に移動すると、前記液圧室の容積を大きくするピストンを有し、前記ピストンが第1位置に位置する状態で前記制動操作部材の操作が開始されて前記ピストンが前記前進方向に移動することにより、前記第1位置よりも前記前進方向に位置する第2位置に前記ピストンが達すると、前記ポートを閉塞し、前記ポートが閉塞された状態で前記ピストンが前記前進方向に移動すると、前記マスタ圧を増大するように構成されている。前記制御装置は、前記マスタ圧、又は、前記車両の運転者から前記制動操作部材に入力される操作力である操作関連力に応じ、前記制動アクチュエータの作動に起因する前記ホイール圧の増大量である助勢液圧を制御する助勢処理を実行するようになっている。そして、前記制御装置は、前記助勢処理において、前記ピストンが前記第2位置よりも前記後退方向に位置する場合には、前記助勢液圧を減少補正する減少制御を実施する。
【0009】
運転者によって制動操作が開始された場合、マスタシリンダではピストンが前進方向に移動する。この際、ピストンの移動速度が高いと、ピストンが第2位置に達しておらず、ポートによって液圧室とリザーバタンク内とが連通していても、マスタ圧が増大され始めることがある。その結果、ホイールシリンダ内では、基礎液圧が発生し、ホイール圧が増大される。
【0010】
上記構成では、制動操作が行われている場合に助勢処理が実行されると、操作関連力に基づいて制動アクチュエータが作動することにより、助勢液圧が制御される。この場合、ホイール圧は、基礎液圧と助勢液圧との和となる。
【0011】
ピストンが第2位置よりも後退方向に位置する場合、ポートを介して液圧室とリザーバタンク内とが連通している。この場合、上記構成では、助勢液圧を減少補正する減少制御が実施される。このように減少制御が実施されると、助勢液圧が高くなりにくい。その結果、ポートが閉塞される前からマスタ圧が増大される場合にホイール圧が高くなりすぎることを抑制できる。
【0012】
したがって、上記構成によれば、運転者の制動操作量に対してブレーキが効き過ぎになることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の制動装置を備える車両の概略を示す構成図。
図2】同制動装置の概略を示す構成図。
図3】同制動装置の液圧発生装置の一部を示す端面図。
図4】同液圧発生装置において、ピストンの位置とマスタ圧との関係を示すグラフ。
図5】同制動装置の制動制御部が実行する各処理を説明する図。
図6】(a)~(d)は、比較例を説明するタイミングチャート。
図7】(a)~(d)は、第1実施形態の制動装置において運転者が制動操作を行った場合のタイミングチャート。
図8】基準変曲点を推定変曲点とする場合における操作力とホイール圧との関係を示す図。
図9】基準変曲点から補正値を引いた値を推定変曲点とする場合における操作力とホイール圧との関係を示す図。
図10】第2実施形態の制動装置における制動制御部が実行する各処理のうちの一部分を説明する図。
図11】第2実施形態の制動装置において、制動操作部材に入力される操作力が増大される際におけるホイール圧の推移を示す図。
図12】第3実施形態の制動装置における制動制御部が実行する各処理のうちの一部分を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、車両の制動装置の第1実施形態を図1図9に従って説明する。
<全体構成>
図1には、本実施形態の制動装置40を備える車両10が図示されている。車両10は、パワーユニット21を備えている。
【0015】
パワーユニット21は、車両10の動力源としてエンジン22及び駆動モータ23を有している。すなわち、エンジン22及び駆動モータ23のうちの少なくとも一方から出力された駆動力が車輪11に入力される。また、車両制動時には、車輪11の回転を駆動モータ23に伝えることにより、駆動モータ23に発電させることができる。この場合、車両10では、駆動モータ23の発電量に応じた制動力である回生制動力が発生する。
【0016】
車両10には、複数の車輪11の各々に対して制動機構30が設けられている。各制動機構30は、対応する車輪11と一体回転する回転体31と、摩擦材32と、ホイールシリンダ33とを有している。ホイールシリンダ33内の液圧であるホイール圧が高いほど、摩擦材32を回転体31に押し付ける力である押圧力が大きくなる。押圧力が大きいほど、制動機構30の作動によって車輪11に対する摩擦制動力が大きくなる。
【0017】
車両10は、液圧発生装置41と、制動アクチュエータ60とを備えている。液圧発生装置41及び制動アクチュエータ60によって、各車輪11に対する摩擦制動力が調整される。なお、各車輪11に対する摩擦制動力の合計が、車両10に対する摩擦制動力に相当する。
【0018】
<液圧発生装置41の構成>
図1に示すように、液圧発生装置41は、ブースタ装置42と、マスタシリンダ43と、リザーバタンク44とを有している。ブースタ装置42には、制動操作部材45が連結されている。制動操作部材45としては、例えば、ブレーキペダルを挙げることができる。ブースタ装置42は、エンジン22の運転によって発生する負圧であるブースト圧を利用して、運転者によって制動操作部材45に入力された操作力を倍力する。そして、ブースタ装置42によって倍力された操作力がマスタシリンダ43に入力される。
【0019】
図2に示すように、マスタシリンダ43は、2つのピストン511,512を有している。各ピストン511,512は、操作力が入力されると、図2に示す前進方向X1に移動する。前進方向X1の反対方向を後退方向X2としたとき、2つのピストン511,512のうち、ピストン511が前進方向X1に位置し、ピストン512が後退方向X2に位置する。
【0020】
マスタシリンダ43内には、2つの液圧室521,522が設けられている。すなわち、2つのピストン511,512によって各液圧室521,522が区画されている。ピストン511が前進方向X1に移動すると、液圧室521の容積が小さくなる。ピストン511が後退方向X2に移動すると、液圧室521の容積が大きくなる。また、ピストン512がピストン511に対して前進方向X1に相対移動すると、液圧室522の容積が小さくなる。ピストン512がピストン511に対して後退方向X2に相対移動すると、液圧室522の容積が大きくなる。
【0021】
マスタシリンダ43は、ピストン511を後退方向X2に付勢するスプリング531と、ピストン512を後退方向X2に付勢するスプリング532とを有している。そのため、マスタシリンダ43に入力される操作力が減少されると、スプリング531,532の付勢力によって各ピストン511,512が後退方向X2に移動する。
【0022】
マスタシリンダ43は、液圧室521とリザーバタンク44内とを連通するポート541と、液圧室522とリザーバタンク44内とを連通するポート542とを有している。図3に示すように、各ポート541,542内には、オリフィス54aが設けられている。
【0023】
運転者が制動操作部材45を操作することを「制動操作」とし、制動操作が行われていないときの各ピストン511,512の位置を「第1位置」とする。各液圧室521,522の液圧を「マスタ圧」とする。各ピストン511,512が第1位置に位置する場合、各ポート541,542は閉塞されていない。すなわち、液圧室521はポート541を介してリザーバタンク44内と連通しているとともに、液圧室522はポート542を介してリザーバタンク44内と連通している。各ピストン511,512が第1位置に位置する状態で制動操作が開始されて各ピストン511,512が前進方向X1に移動する。この際、ポート541が閉塞されていないと、液圧室521のマスタ圧が増大されない。同様に、ポート542が閉塞されていないと、液圧室522のマスタ圧が増大されない。各ピストン511,512の前進方向X1への移動によって、第1位置よりも前進方向X1に位置する第2位置に各ピストン511,512が達すると、ポート541がピストン511によって閉塞されるとともに、ポート542がピストン512によって閉塞される。第2位置とは、第1位置から前進方向X1に所定距離Sだけ離れた位置である。各ポート541,542が閉塞された状態で各ピストン511,512が前進方向X1にさらに移動すると、マスタ圧が増大される。
【0024】
図4に破線で示すように、各ピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置する場合、各液圧室521,522とリザーバタンク44内とが連通しているため、マスタ圧は「0」である。つまり、マスタ圧が発生しない。しかし、各ピストン511,512が第2位置に位置する状態から各ピストン511,512が前進方向X1に移動すると、各液圧室521,522とリザーバタンク44内との連通が遮断されるため、マスタ圧が徐々に高くなる。つまり、マスタ圧が発生する。
【0025】
図3に示したようにポート541,542内にはオリフィス54aが設けられている。そのため、運転者が制動操作部材45を操作する速度が高く、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高い場合、各液圧室521,522の容積の変化に伴って各液圧室521,522からポート541,542を介してリザーバタンク44内に流出するブレーキ液の量が、オリフィス効果によって減少する。その結果、図4に実線で示すように、各ピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置する状態から各液圧室521,522でマスタ圧の増大が開始される。すなわち、各液圧室521,522でマスタ圧が発生する。
【0026】
図1及び図2に示すように、各液圧室521,522は、ホイールシリンダ33内と連通している。そのため、マスタ圧が発生すると、すなわちマスタ圧が「0」よりも高くなると、各ホイールシリンダ33内のホイール圧が高くなる。マスタ圧に応じたホイール圧である基礎液圧が発生する。つまり、液圧発生装置41は、基礎液圧を各ホイールシリンダ33内に発生させる装置である。
【0027】
本実施形態では、各ピストン511、512の第2位置が、共に第1位置に対して前進方向X1に所定距離Sだけ離れている。別の構成として、各ピストン511、512における第1位置から第2位置までの距離が異なる場合も考えられる。この場合、各ピストン511、512における第1位置から第2位置までの距離のうち、より離れた距離に達したとき、各液圧室521,522でマスタ圧の増大が開始される。
【0028】
<制動アクチュエータ60の構成>
図2に示すように、制動アクチュエータ60は、2系統の液圧回路611,612を備えている。第1液圧回路611には、複数のホイールシリンダ33のうちの2つのホイールシリンダ33が接続されている。第2液圧回路612には、残りの2つのホイールシリンダ33が接続されている。第1液圧回路611は、マスタシリンダ43の液圧室521に接続されている。第2液圧回路612は、マスタシリンダ43の液圧室522に接続されている。
【0029】
第1液圧回路611は、液圧室521とホイールシリンダ33とを繋ぐ液路62と、液路62に配置されている差圧調整弁63とを備えている。差圧調整弁63は、常開型のリニア電磁弁である。差圧調整弁63は、差圧調整弁63よりもマスタシリンダ43側の部分と差圧調整弁63よりもホイールシリンダ33側の部分との差圧を調整すべく駆動する。すなわち、差圧調整弁63を駆動させることにより、液圧室521とホイールシリンダ33内との間の差圧を調整できる。
【0030】
第1液圧回路611には、ホイール圧の増大を規制する際に閉弁される保持弁64と、ホイール圧を減少させる際に開弁される減圧弁65とが設けられている。第1液圧回路611には、第1液圧回路611に接続されているホイールシリンダ33と同数の保持弁64及び減圧弁65が設けられている。また、第1液圧回路611には、リザーバ66が接続されている。リザーバ66には、減圧弁65を開弁させた際にホイールシリンダ33から流出したブレーキ液が一時的に貯留される。
【0031】
第1液圧回路611には、液路62における差圧調整弁63と各ホイールシリンダ33との間の部分である供給液路62aにブレーキ液を供給するポンプ67が接続されている。詳しくは、ポンプ67は、差圧調整弁63と保持弁64との間の液路にブレーキ液を供給する。ポンプ67は、ポンプ用モータ68を動力源とするポンプである。ポンプ67は、リザーバ66内のブレーキ液、及び、マスタシリンダ43内のブレーキ液を汲み上げて供給液路62aに供給できる。リザーバ66がブレーキ液を蓄えていない場合、リザーバピストンに固定されたロッドがチェック弁のボールを押し上げる。これにより、リザーバ66内とマスタシリンダ43内が連通状態となる。そのため、ポンプ67は、マスタシリンダ43内のブレーキ液を汲み上げる。一方、リザーバ66がブレーキ液を蓄えている場合、リザーバピストンが下降しており、チェック弁によってリザーバ66内とマスタシリンダ43内との連通が遮断される。そのため、ポンプ67は、リザーバ66内のブレーキ液を汲み上げる。
【0032】
第2液圧回路612の構造は、第1液圧回路611の構造とほぼ同一であるため、本明細書では、第2液圧回路612の構造の説明については割愛する。
本実施形態において、制動アクチュエータ60は、ポンプ67のブレーキ液の吐出量と、差圧調整弁63に対する指令値(電流値)とを調整することにより、ホイール圧を制御できる。制動アクチュエータ60の作動によるホイール圧の増大量を、「制御液圧」という。
【0033】
<制御装置80について>
図1に示すように、車両10は、制御装置80を備えている。制御装置80は、駆動制御部81と、制動制御部82とを有している。駆動制御部81及び制動制御部82は、互いに情報の送受信が可能である。駆動制御部81は、パワーユニット21を制御する。すなわち、パワーユニット21及び駆動制御部81が、車両10の駆動力を制御する「駆動装置20」に対応する。
【0034】
制動制御部82は、制動アクチュエータ60を制御する。すなわち、本実施形態では、制動制御部82が、制動アクチュエータ60を制御する「制御装置」に対応する。また、制動制御部82、液圧発生装置41及び制動アクチュエータ60が、ホイール圧を調整する「制動装置40」に対応する。
【0035】
図2に示すように、制動制御部82には、各種のセンサから検出信号が入力される。センサとしては、例えば、ストロークセンサ91、マスタ圧センサ92及び負圧センサ93を挙げることができる。ストロークセンサ91は、運転者による制動操作部材45の操作量であるストローク量Stを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。マスタ圧センサ92は、液圧室521のマスタ圧Pmcを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。負圧センサ93は、ブースタ装置42内で発生するブースト圧BPを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。
【0036】
制動制御部82は、CPUとプログラムを格納するメモリとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制動制御部82は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0037】
駆動制御部81は、CPUとプログラムを格納するメモリとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、駆動制御部81は、上記(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
【0038】
<運転者が制動操作を行う際に制動制御部82が実行する各処理>
図5に示すように、制動制御部82は、ストローク量Stを取得するストローク量取得処理M11を取得する。制動制御部82は、ストローク量取得処理M11において、ストロークセンサ91の検出信号を基にストローク量Stを取得する。本実施形態では、ストローク量Stが、運転者による制動操作部材45の操作量である「制動操作量」に対応するため、ストローク量取得処理M11が、制動操作量を取得する「操作量取得処理」に対応する。
【0039】
制動制御部82は、マスタ圧Pmcを取得するマスタ圧取得処理M12を取得する。制動制御部82は、マスタ圧取得処理M12において、マスタ圧センサ92の検出信号を基にマスタ圧Pmcを取得する。本実施形態では、マスタ圧のセンサ値がマスタ圧Pmcとして取得される。マスタ圧は、運転者の制動操作に関連して発生する圧力である。そのため、マスタ圧は、操作関連力であるといえる。よって、本実施形態では、マスタ圧取得処理M12が、マスタ圧Pmcを、操作関連力として取得する「操作関連力取得処理」といえる。
【0040】
制動制御部82は、ブースト圧BPを取得するブースト圧取得処理M13を実行する。制動制御部82は、ブースト圧取得処理M13において、負圧センサ93の検出信号を基にブースト圧BPを取得する。
【0041】
制動制御部82は、回生協調制御M2を実施する。回生協調制御M2は、駆動モータ23に要求する回生制動力である要求回生制動力RFTr、及び、制動アクチュエータ60の作動に起因するホイール圧の増大量である回生協調液圧PwcAを導出する。
【0042】
制動制御部82は、回生協調制御M2において、要求減速度取得処理M21を実行する。制動制御部82は、要求減速度取得処理M21において、ストローク量Stに応じた値を要求減速度GRqとして取得する。すなわち、制動制御部82は、ストローク量Stが遊び判定ストローク量StA1未満である場合、「0」を要求減速度GRqとして取得する。制動制御部82は、ストローク量Stが境界ストローク量StA2以上である場合、規定値G1を要求減速度GRqとして取得する。境界ストローク量StA2は、判定ストローク量StA1よりも大きい。規定値G1として、「0」よりも大きい値が設定されている。ストローク量Stが遊び判定ストローク量StA1以上であって且つ境界ストローク量StA2未満である場合、制動制御部82は、ストローク量Stが大きいほど大きい値を要求減速度GRqとして取得する。
【0043】
例えば、各ピストン511,512が第2位置に達するときのストローク量Stの設計値、又は、設計値に応じた値を境界ストローク量StA2として設定するとよい。この場合、ストローク量Stが境界ストローク量StA2と等しい場合は、各ピストン511,512が第2位置に位置すると判定できる。ストローク量Stが境界ストローク量StA2以下である場合は、各ピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置すると判定できる。ストローク量Stが境界ストローク量StA2よりも大きい場合は、各ピストン511,512が第2位置よりも前進方向X1に位置すると判定できる。すなわち、本実施形態では、ストローク量Stを取得するストローク量取得処理M11が、ピストン511,512の位置を取得する「ピストン位置取得処理」に対応する。そして、要求減速度取得処理M21では、ピストン位置取得処理で取得したピストン511,512の位置を基に、ピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置するか否かを判定しているといえる。そして、その判定結果を基に、要求減速度GRqが設定されているといえる。
【0044】
制動制御部82は、回生協調制御M2において、要求減速度GRqを、制動力の要求値である要求制動力FRqに変換する変換処理M22を実行する。例えば、減速度を制動力に変換する係数を第1変換係数としたとき、制動制御部82は、変換処理M22において、要求減速度GRqと第1変換係数との積を、要求制動力FRqとして導出するとよい。
【0045】
制動制御部82は、回生協調制御M2において、要求回生制動力RFTrを取得する要求回生制動力取得処理M23を実行する。制動制御部82は、要求回生制動力取得処理M23において、要求制動力FRqと、回生制動力上限値RFLmとのうち、小さい方を要求回生制動力RFTrとして選択する。そして、制動制御部82は、要求回生制動力RFTrを駆動制御部81に出力する。なお、回生制動力上限値RFLmとして、回生制動力を車両10に付与する駆動モータ23の性能、及び、駆動モータ23で発電された電力が蓄えられる蓄電池の蓄電量などに応じた値が設定される。
【0046】
制動制御部82は、回生協調制御M2において、要求摩擦制動力FFTrを導出する減算処理M24を実行する。制動制御部82は、減算処理M24において、要求制動力FRqから要求回生制動力RFTrを引いた値を、要求摩擦制動力FFTrとして導出する。
【0047】
制動制御部82は、回生協調制御M2において、回生協調液圧PwcAを導出する回生協調液圧導出処理M25を実行する。制動制御部82は、回生協調液圧導出処理M25において、要求摩擦制動力FFTrを回生協調液圧PwcAに変換する。例えば、制動制御部82は、摩擦制動力とホイール圧との関係を示すマップを用い、要求摩擦制動力FFTrに応じたホイール圧を回生協調液圧PwcAとして導出するとよい。
【0048】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3を実施する。サーボ補正制御M3は、運転者の制動操作を助勢するための助勢液圧であるサーボ助勢液圧HPwc1を導出するための処理である。
【0049】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、ストローク量Stに応じた値を助勢ゲインαとして取得する助勢ゲイン取得処理M31を実行する。助勢ゲイン取得処理M31において、制動制御部82は、ストローク量Stが第1ストローク量StB1未満である場合、「0」を助勢ゲインαとして取得する。制動制御部82は、ストローク量Stが第2ストローク量StB2以上である場合、「1」を助勢ゲインαとして取得する。第2ストローク量StB2として、第1ストローク量StB1よりも大きい値が設定されている。制動制御部82は、ストローク量Stが第1ストローク量StB1以上であって且つ第2ストローク量StB2未満である場合、ストローク量Stが大きいほど大きい値を助勢ゲインαとして取得する。このように助勢ゲインαを「0」から徐々に増大させることで、助勢制御の開始直後における制動フィーリングを向上できる。
【0050】
本実施形態では、第1ストローク量StB1として、境界ストローク量StA2よりも僅かに小さい値が設定されている。また、第2ストローク量StB2として、境界ストローク量StA2よりも大きい値が設定されている。
【0051】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、サーボ助勢液圧HPwc1の基礎値であるサーボ助勢液圧基礎値PmcBを導出する基礎値導出処理M32を実行する。制動制御部82は、基礎値導出処理M32において、マスタ圧Pmcと補正係数K1とを基に、サーボ助勢液圧基礎値PmcBを導出する。例えば、制動制御部82は、以下の関係式(式1)を用いてサーボ助勢液圧基礎値PmcBを導出できる。なお、補正係数K1として、ブースタ装置42のサーボ比の設計値に応じた値であって且つ「1」よりも大きい値が設定されている。ここでいう「サーボ比」とは、ブースタ装置42の助勢効率の設計値に準じた値である。
【0052】
PmcB=(K1-1)×Pmc …(式1)
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、サーボ助勢液圧HPwc1を導出するサーボ助勢液圧導出処理M33を実行する。制動制御部82は、サーボ助勢液圧導出処理M33において、サーボ助勢液圧基礎値PmcBと助勢ゲインαとの積をサーボ助勢液圧HPwc1として導出する。
【0053】
制動制御部82は、低負圧助勢制御M4を実施する。低負圧助勢制御M4は、マスタ圧Pmcが変曲点を越えたと推測できる場合に運転者の制動操作を助勢するための助勢液圧である低負圧助勢液圧HPwc2を取得するための処理である。ここでいう「変曲点」とは、ブースタ装置42による制動操作の助勢効率が急に変わるタイミングにおけるマスタ圧又は当該マスタ圧に応じた液圧である。
【0054】
制動制御部82は、低負圧助勢制御M4において、基準変曲点Ppmcを取得する基準変曲点取得処理M41を実行する。制動制御部82は、基準変曲点取得処理M41において、ブースト圧BPに応じた値を基準変曲点Ppmcとして取得する。図5に示す、ブースト圧BPと基準変曲点Ppmcとの関係を示すマップは、液圧発生装置41におけるブースタ装置42の諸元に基づいて作成されたものである。制動制御部82は、ブースト圧BPが第1ブースト圧BP1未満である場合、「0」を基準変曲点Ppmcとして取得する。制動制御部82は、ブースト圧BPが第2ブースト圧BP2以上である場合、上限値PpmcLを基準変曲点Ppmcとして取得する。第2ブースト圧BP2は、第1ブースト圧BP1よりも大きい。制動制御部82は、ブースト圧BPが第1ブースト圧BP1以上であって且つ第2ブースト圧BP2未満である場合、ブースト圧BPが大きいほど大きい値を基準変曲点Ppmcとして取得する。
【0055】
制動制御部82は、低負圧助勢制御M4において、推定変曲点PpmcAを導出する推定変曲点導出部M42を実行する。制動制御部82は、推定変曲点導出部M42において、基準変曲点Ppmcから所定の補正値βを引いた値を推定変曲点PpmcAとして導出する。補正値βとして、推定変曲点PpmcAを変曲点の実値以下とできるような値が設定されている。
【0056】
制動制御部82は、低負圧助勢制御M4において、補正後液圧PmcCを導出する補正後液圧導出処理M43を実行する。制動制御部82は、補正後液圧導出処理M43において、マスタ圧Pmcから推定変曲点PpmcAを引いた値を基に、補正後液圧PmcCを導出する。すなわち、制動制御部82は、マスタ圧Pmcから推定変曲点PpmcAを引いた値と、「0」とのうち、大きい方の値を補正後液圧PmcCとして導出する。
【0057】
制動制御部82は、低負圧助勢制御M4において、低負圧助勢液圧HPwc2を導出する低負圧助勢液圧導出処理M44を実行する。制動制御部82は、低負圧助勢液圧導出処理M44において、補正後液圧PmcCを基に、低負圧助勢液圧HPwc2を導出する。例えば、制動制御部82は、以下の関係式(式2)を用いて低負圧助勢液圧HPwc2を導出できる。
【0058】
HPwc2=(K2-1)×PmcC …(式2)
制動制御部82は、助勢液圧の指令値として総助勢液圧HPwcを取得する指令値取得処理M5を実行する。制動制御部82は、指令値取得処理M5において、サーボ助勢液圧HPwc1と低負圧助勢液圧HPwc2との和を、総助勢液圧HPwcとして取得する。
【0059】
制動制御部82は、制御液圧指令値PwcTrを取得する制御ホイール圧取得処理M6を実行する。制動制御部82は、制御ホイール圧取得処理M6において、回生協調液圧PwcAと総助勢液圧HPwcとの和を、制御液圧指令値PwcTrとして取得する。
【0060】
制動制御部82は、制御液圧指令値PwcTrに基づいて制動アクチュエータ60を作動させる操作処理M7を実行する。制動制御部82は、ホイール圧からマスタ圧Pmcを引いた値である差圧が制御液圧指令値PwcTrとなるように、制動アクチュエータ60を作動させる。
【0061】
本実施形態では、サーボ補正制御M3で取得したサーボ助勢液圧HPwc1と、低負圧助勢制御M4で取得した低負圧助勢液圧HPwc2とを基に、運転者の制動操作を助勢するためのホイール圧の増大量である助勢液圧を設定している。すなわち、マスタ圧Pmcに応じ、助勢液圧が制御される。また、マスタ圧Pmcに加えてストローク量Stに応じ、助勢液圧が制御される。したがって、本実施形態では、サーボ補正制御M3、低負圧助勢制御M4、指令値取得処理M5、制御ホイール圧取得処理M6及び操作処理M7が、「助勢処理」に対応する。
【0062】
また、助勢ゲイン取得処理M31では、ストローク量Stに応じた値が助勢ゲインαとして設定される。そして、サーボ助勢液圧導出処理M33では、助勢ゲインαが小さいほど、すなわちストローク量Stが小さいほど、小さい値がサーボ助勢液圧HPwc1として導出される。そのため、総助勢液圧HPwcは、ストローク量Stが小さいほど小さくなる。言い換えると、ストローク量Stに応じて、助勢液圧を減少補正している。
【0063】
ここで、助勢ゲインαを「1」とするか「1」未満とするかの判断基準である第2ストローク量StB2は、上記境界ストローク量StA2よりも大きい。境界ストローク量StA2は、各ピストン511,512が第2位置に配置する場合のストローク量Stの設計値、又は当該設計値に応じた値が設定されている。
【0064】
そのため、助勢処理では、各ピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置する場合には、助勢液圧を減少補正する「減少制御」が実施されるといえる。具体的には、助勢ゲイン取得処理M31及びサーボ助勢液圧導出処理M33が、「減少制御」に対応する。また、上記第1ストローク量StB1を操作量判定値としたとき、助勢制御では、ストローク量Stが操作量判定値以下である場合、ストローク量Stが操作量判定値よりも大きい場合と比較して助勢液圧の減少補正量を大きくしているといえる。
【0065】
<第1実施形態における作用及び効果>
図6及び図7を参照し、運転者が制動操作部材45を操作する速度が高く、急制動を運転者が要求している場合の作用及び効果について説明する。ここで、制動操作によって発生するマスタ圧Pmcよりも推定変曲点PpmcAが小さくならない程度にブースト圧BPが高い状態であるとする。また、要求制動力FRqよりも回生制動力上限値RFLmが大きく、回生協調液圧PwcAが「0」であるとする。
【0066】
はじめに、図6を参照し、比較例について説明する。比較例では、減少制御が実施されない。すなわち、ストローク量Stの大きさに拘わらず、「1」が助勢ゲインαとして設定される。
【0067】
図6(a),(b),(c),(d)に示すように、タイミングt11から運転者の制動操作が開始されるため、ストローク量Stが増大する。図6に示す比較例では、ストローク量Stの増大速度が高く、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高い。そのため、各ポート541,542のオリフィス54aによるオリフィス効果によって、ポート541,542がピストン511,512に閉塞される前からマスタ圧Pmcが増大し始める。すなわち、各ホイールシリンダ33内のホイール圧PW、すなわち基礎液圧が増大し始める。
【0068】
なお、比較例では、図6(c)に示すように、運転者の制動操作によってストローク量Stが第1ストローク量StB1以上になることはない。そのため、ストローク量Stの増大が停止されると、マスタ圧Pmcが減少する。これは、ポート541,542を介した液圧室521,522とリザーバタンク44内との連通が維持されているためである。
【0069】
比較例では、助勢ゲインαが「1」に固定されている。そのため、ストローク量Stが大きくなってマスタ圧Pmcが「0」よりも高くなると、ストローク量Stが第1ストローク量StB1以下であっても、「0」よりも大きい値が、サーボ助勢液圧HPwc1として導出されるようになる。その結果、「0」がサーボ助勢液圧HPwc1として導出される場合と比較し、総助勢液圧HPwcが大きくなる。つまり、ホイール圧PWが、マスタ圧Pmcよりも高くなる。
【0070】
その結果、運転者による制動操作の開始直後において、摩擦制動力FFと回生制動力RFとの和である車両制動力FCが大きくなりすぎるおそれがある。このように制動初期に車両制動力FCが大きくなりすぎると、制動操作を行う運転者は、ストローク量Stを減少させるおそれがある。ストローク量Stが減少されると、回生制動力RFが減少され、車両10の回生効率が低下してしまう。
【0071】
次に、図7を参照し、本実施形態における作用及び効果について説明する。
図7(a),(b),(c),(d)に示すように、タイミングt21から運転者の制動操作が開始されるため、ストローク量Stが増大する。図7に示す例でも、比較例と同様に、ストローク量Stの増大速度が高く、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高い。そのため、オリフィス効果によって、ポート541,542がピストン511,512に閉塞される前からマスタ圧Pmcが増大し始める。すなわち、各ホイールシリンダ33内のホイール圧PW、すなわち基礎液圧が増大し始める。
【0072】
タイミングt21から後述するタイミングt23までの期間では、ストローク量Stは第1ストローク量StB1以下である。そのため、当該期間では、助勢ゲインαとして「0」が設定される。その結果、マスタ圧Pmcが「0」よりも高くなっても、「0」がサーボ助勢液圧HPwc1として導出される。
【0073】
さらに、図7に示す例では、タイミングt21からタイミングt23までの期間において、マスタ圧Pmcが推定変曲点PpmcAよりも大きくならない。その結果、低負圧助勢液圧HPwc2として「0」が導出される。
【0074】
したがって、総助勢液圧HPwcとして「0」が導出される。これにより、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高いためにポート541,542がピストン511,512によって閉塞される前からマスタ圧Pmcが増大される場合に、ホイール圧PWが高くなりすぎることを抑制できる。よって、本実施形態では、ストローク量Stに対してブレーキが効き過ぎになることを抑制できる。
【0075】
このように制動初期において車両制動力FCが大きくなりすぎることが抑制されると、運転者がストローク量Stを減少させる可能性が低くなる。すなわち、車両10の回生効率が低下することも抑制できる。
【0076】
なお、図7に示す例では、タイミングt21よりも後であって且つタイミングt23よりも前のタイミングt22から、運転者の制動操作によってストローク量Stの増大が再開される。そして、タイミングt23以降では、ストローク量Stが第1ストローク量StB1よりも大きくなる。これにより、ストローク量Stが増大するにつれ徐々に助勢ゲインαが大きくなる。すると、サーボ助勢液圧HPwc1もまた徐々に大きくなる。その結果、制動アクチュエータ60の作動によってホイール圧PWを増大させることができる。
【0077】
ちなみに、タイミングt23以降において、ストローク量Stが第2ストローク量StB2に達すると、助勢ゲインαが「1」となる。その後においてストローク量Stの増大が継続しても、助勢ゲインαが「1」である状態が保持される。
【0078】
本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(1-1)本実施形態では、ストローク量Stが第1ストローク量StB1以下である場合には、ストローク量Stが第1ストローク量StB1よりも大きい場合と比較して小さい値を助勢ゲインαとして導出している。これにより、ストローク量Stが第1ストローク量StB1以下である場合には、ストローク量Stが第1ストローク量StB1よりも大きい場合と比較し、助勢処理の実行時における助勢液圧の減少補正量が大きくなる。これにより、ストローク量Stが比較的小さい段階で、助勢液圧が高くなりすぎることを抑制できる。
【0079】
(1-2)本実施形態では、推定変曲点PpmcAとして、変曲点の実値以下の値が導出されるようになっている。これにより、マスタ圧Pmcが変曲点の実値以下である時期から、低負圧助勢液圧HPwc2を「0」よりも大きくできる。これにより、マスタ圧Pmcが変曲点の実値よりも大きくなっても、助勢液圧が発生しない事象の発生を抑制できる。
【0080】
低負圧助勢制御において、基準変曲点Ppmcは、ブースタ装置42の諸元に基づいて作成されたブースト圧BPと基準変曲点Ppmcとの関係を示すマップを基に取得される。ブースタ装置42には、その特性にばらつきがある。また、ブースト圧BPにも検出誤差がある。そのため、基準変曲点Ppmcが変曲点の実値PpmcRと一致するとは限らない。
【0081】
ここで、図8には、基準変曲点Ppmcを推定変曲点PpmcAとする場合が図示されている。図8において、実線Z1は、基準変曲点Ppmcが変曲点の実値PpmcRと等しい場合における操作力OPbpの増大に対するホイール圧の推移が図示されている。すなわち、実線Z1は、操作力OPbpの増大に対するホイール圧の理想的な推移を示している。実線Z2は、基準変曲点Ppmcが変曲点の実値PpmcRよりも小さい場合における操作力OPbpの増大に対するホイール圧の推移が図示されている。実線Z3は、基準変曲点Ppmcが変曲点の実値PpmcRよりも大きい場合における操作力OPbpの増大に対するホイール圧の推移が図示されている。図8に示すように、基準変曲点Ppmcが変曲点の実値PpmcRよりも大きい場合、マスタ圧Pmcが変曲点の実値PpmcRよりも大きくなっても助勢液圧が発生しない事象が発生する。なお、図8において、要求制動力FRqよりも回生制動力上限値RFLmが大きく、回生協調液圧PwcAが「0」であるとする。
【0082】
図9には、基準変曲点Ppmcから補正値βを引いた値を推定変曲点PpmcAとする場合が図示されている。本実施形態では、推定変曲点PpmcAが変曲点の実値PpmcR以下となるような値が補正値βに設定されている。そのため、マスタ圧Pmcが変曲点の実値PpmcR以下である時期から、低負圧助勢液圧HPwc2として「0」よりも大きい値を設定できる。これにより、マスタ圧Pmcが変曲点の実値PpmcRよりも大きくなっても助勢液圧が発生しない事象が発生することを抑制できる。
【0083】
(第2実施形態)
車両の制動装置の第2実施形態を図10及び図11に従って説明する。以下の説明においては、第1実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0084】
<サーボ補正制御M3について>
図10を参照し、本実施形態において、制動制御部82が実行するサーボ補正制御M3について説明する。
【0085】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、助勢ゲイン取得処理M31を実行する。
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、マスタ圧Pmcの不感帯ARを設定する不感帯設定処理M35を実行する。制動制御部82は、不感帯設定処理M35において、マスタ圧Pmcに応じた値を不感帯ARとして設定する。すなわち、制動制御部82は、マスタ圧Pmcが第1マスタ圧Pmc1よりも高い場合には「0」を不感帯ARとして設定する。制動制御部82は、マスタ圧Pmcが第1マスタ圧Pmc1以下である場合には「0」よりも大きい値を不感帯ARとして設定する。例えば、制動制御部82は、マスタ圧Pmcが第2マスタ圧Pmc2以下である場合には不感帯の最大値ARmaxを不感帯ARとして設定する。第2マスタ圧Pmc2として、第1マスタ圧Pmc1よりも低い値が設定されている。最大値ARmaxとして、「0」よりも大きい値が設定されている。また、制動制御部82は、マスタ圧Pmcが第2マスタ圧Pmc2よりも高く、且つ第1マスタ圧Pmc1以下である場合、マスタ圧Pmcが高いほど小さい値が不感帯ARとして設定される。
【0086】
例えば、ポート541,542がピストン511,512によって閉塞されていない状態で液圧室521,522に発生しうるマスタ圧Pmcの最大値、又は当該最大値に応じた値を、不感帯ARの最大値ARmaxとして設定するとよい。ここでいう「マスタ圧Pmcの最大値」とは、設計の上で想定されるピストン511,512の前進方向X1への移動速度の最大値でピストン511,512が前進方向X1に移動する際に発生するマスタ圧Pmcである。また、不感帯ARの最大値ARmax以上の値を第2マスタ圧Pmc2として設定するとよい。
【0087】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、減算処理M36を実行する。制動制御部82は、減算処理M36において、マスタ圧Pmcから不感帯ARを引いた値を、減算後液圧PmcAとして導出する。この際、制動制御部82は、マスタ圧Pmcから不感帯ARを引いた値が負である場合、「0」を減算後液圧PmcAとして導出する。
【0088】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、基礎値導出処理M32を実行する。制動制御部82は、基礎値導出処理M32において、減算後液圧PmcAと補正係数K1とを基に、サーボ助勢液圧基礎値PmcBを導出する。例えば、制動制御部82は、以下の関係式(式3)を用いてサーボ助勢液圧基礎値PmcBを導出できる。
【0089】
PmcB=(K1-1)×PmcA …(式3)
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、サーボ助勢液圧HPwc1を導出するサーボ助勢液圧導出処理M33を実行する。
【0090】
本実施形態において、不感帯設定処理M35では、マスタ圧Pmcに応じた値が不感帯ARとして設定される。減算処理M36では、不感帯ARが大きいほど、すなわちマスタ圧Pmcが低いほど、小さい値が減算後液圧PmcAとして導出される。そして、サーボ助勢液圧導出処理M33では、減算後液圧PmcAが小さいほど小さい値が、サーボ助勢液圧HPwc1として導出される。よって、不感帯ARが大きいほど、すなわちマスタ圧Pmcが低いほど小さい値が、サーボ助勢液圧HPwc1として導出される。つまり、マスタ圧Pmcが低い場合には、マスタ圧Pmcが高い場合よりも助勢液圧の減少補正量が大きくなるといえる。
【0091】
上記第1実施形態で説明したように、マスタ圧Pmcが操作関連力として取得される。そのため、第2マスタ圧Pmc2を力判定値としたとき、本実施形態では、助勢制御では、マスタ圧Pmcが力判定値以下である場合、マスタ圧Pmcが力判定値よりも大きい場合と比較して助勢液圧の減少補正量を大きくしているといえる。
【0092】
<第2の実施形態における作用及び効果>
図11を参照し、上記サーボ補正制御M3が実施された際におけるホイール圧PW、より詳しくは助勢液圧の推移について説明する。なお、要求制動力FRqよりも回生制動力上限値RFLmが大きく、回生協調液圧PwcAが「0」であるとする。
【0093】
運転者から制動操作部材45に入力される操作力が増大されると、図11に示す例では、操作力が第1操作力OPbp1に達すると、マスタ圧Pmcが増大され始める。この際、マスタ圧Pmcが不感帯AR以下であると、減算後液圧PmcAが「0」となるため、サーボ助勢液圧HPwc1が「0」になる。すなわち、マスタ圧Pmcが不感帯AR以下である場合、助勢液圧を発生させるために制動アクチュエータ60が作動することはない。これにより、制動初期において、ホイール圧PWが高くなりすぎることを抑制でき、ひいてはブレーキが効き過ぎることを抑制できる。
【0094】
図11に示す例では、操作力が第2操作力OPbp2よりも大きくなると、操作力の増大につれて不感帯ARが小さくなる。これにより、減算後液圧PmcAが「0」よりも大きくなると、サーボ助勢液圧HPwc1が「0」よりも大きくなる。すると、総助勢液圧HPwcも大きくなるため、制動アクチュエータ60の作動に起因してホイール圧PWの増大が助勢されるようになる。すなわち、助勢液圧が増大される。
【0095】
なお、図11において、設計の上で理想とする操作力とホイール圧PWとの関係を示す線である第1推移線L1が破線で示されている。また、本実施形態における操作力と助勢液圧との関係を示す線である第2推移線L2が実線で示されている。操作力が第2操作力OPbp2よりも大きくなった以降では、不感帯ARが小さくなるため、第2推移線L2が第1推移線L1に徐々に接近する。そして、操作力が第3操作力OPbp3に達すると、不感帯ARが「0」となるため、第1推移線L1に第2推移線L2が重なる。なお、第2操作力OPbp2に対応するマスタ圧が第2マスタ圧Pmc2となり、第3操作力OPbp3に対応するマスタ圧が第1マスタ圧Pmc1となる。
【0096】
その後、操作力の増大に伴って操作力が第4操作力OPbp4に達すると、マスタ圧Pmcが変曲点に達する。図11に示す例では、推定変曲点PpmcAが変曲点の実値と等しい。そのため、低負圧助勢制御M4の実施によって取得される低負圧助勢液圧HPwc2が「0」よりも大きくなる。そのため、マスタ圧Pmcが変曲点を越えた以降でも操作力の増大に応じてホイール圧PWを増大させることができる。
【0097】
運転者が急制動を要求している場合、制動初期の状態において、制動操作部材45に運転者から入力される操作力が大きいことがある。この場合、当然、マスタシリンダ43内において各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高い。そのため、各液圧室521,522では、ポート541,542がピストン511,512によって閉塞される前からマスタ圧Pmcが発生する。すると、ホイールシリンダ33内では、マスタ圧Pmcに応じた基礎液圧が発生する。
【0098】
本実施形態では、マスタ圧Pmcに対して不感帯ARが設定される。そして、図11に示したようにマスタ圧Pmcが不感帯AR以下である場合、サーボ助勢液圧HPwc1は「0」になる。すなわち、助勢液圧が減少補正される。その結果、ストローク量Stに対してホイール圧PWが高くなりすぎることを抑制できる。
【0099】
すなわち、本実施形態では、助勢ゲインαの設定に加え、不感帯ARの設定を通じて、助勢液圧を減少補正している。そのため、ストローク量Stに対してホイール圧PWが高くなりすぎることの抑制効果をより高くできる。
【0100】
(第3実施形態)
車両の制動装置の第3実施形態を図12に従って説明する。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0101】
図12に示すように、制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、助勢ゲイン取得処理M31を実行する。本実施形態では、助勢ゲイン取得処理M31において、制動制御部82は、ストローク量Stが第1ストローク量StB1未満である場合、ゲイン下限値を助勢ゲインαとして取得する。ゲイン下限値として、「0」よりも大きく、且つ「1」よりも小さい値が設定されている。制動制御部82は、ストローク量Stが第2ストローク量StB2以上である場合、「1」を助勢ゲインαとして取得する。制動制御部82は、ストローク量Stが第1ストローク量StB1以上であって且つ第2ストローク量StB2未満である場合、ストローク量Stが大きいほど大きい値を助勢ゲインαとして取得する。
【0102】
制動制御部82は、サーボ補正制御M3において、ゲイン補正処理M37を実行する。制動制御部82は、ゲイン補正処理M37において、ストローク量Stの変化速度であるストローク変化速度dStに基づいて助勢ゲインαを補正した値を、補正後助勢ゲインα1として導出する。例えば、制動制御部82は、ストローク変化速度dStに応じた補正係数と助勢ゲインαとの積を、補正後助勢ゲインα1として導出する。これにより、補正後助勢ゲインα1として、ストローク変化速度dStが高いほど小さい値を導出できる。
【0103】
例えば、ストローク変化速度dStとして、ストローク量Stを時間微分した値を採用するとよい。この場合、ゲイン補正係数として、ストローク変化速度dStが高いほど小さい値を設定するとよい。
【0104】
制動制御部82は、サーボ助勢液圧導出処理M33において、サーボ助勢液圧基礎値PmcBと補正後助勢ゲインα1との積をサーボ助勢液圧HPwc1として導出する。これにより、ストローク変化速度dStが高いほど小さい値を、サーボ助勢液圧HPwc1として導出できる。
【0105】
なお、ストローク変化速度dStが高いほど、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高くなる。そのため、サーボ助勢液圧導出処理M33では、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高いほど小さい値が、サーボ助勢液圧HPwc1として導出される。
【0106】
本実施形態では、補正後助勢ゲインα1として、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高いほど小さい値が導出される。そのため、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高いほど助勢液圧の減少補正量が大きいといえる。
【0107】
すなわち、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高いほど、オリフィス効果によって、ポート541,542が閉塞されていない状況下におけるマスタ圧Pmcの増大量が大きくなりやすい。本実施形態では、各ピストン511,512の前進方向X1への移動速度が高くてマスタ圧Pmcの増大量が大きいほど、助勢液圧の減少補正量を大きくできる。これにより、制動初期においてストローク量Stに対してホイール圧PWが過大になることの抑制効果を高くできる。
【0108】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0109】
・上記各実施形態では、操作関連力としてマスタ圧を挙げていたが、運転者から制動操作部材45に入力される操作力を操作関連力としてもよい。この場合、マスタ圧取得処理M12では、例えば、操作力を検出するセンサである操作力センサの検出信号を基に、操作力のセンサ値を操作力として取得するとよい。そして、マスタ圧取得処理M12では、操作力をマスタ圧に変換することによって推定マスタ圧を導出し、推定マスタ圧をマスタ圧Pmcとして取得するようにしてもよい。この場合であっても、上記各実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0110】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、ストローク量Stがストローク量StB1以下である場合には助勢ゲインαとして「0」を設定していたが、これに限らない。例えば、ストローク量Stがストローク量StB1以下である場合には、「0」よりも大きく且つ「1」未満である所定値を、助勢ゲインαとして設定してもよい。
【0111】
・上記第2実施形態において、図10に示したように不感帯設定処理M35を実行することによって不感帯ARを設定するのであれば、ストローク量Stに応じて助勢ゲインαを可変させなくてもよい。この場合、サーボ助勢液圧導出処理M33では、サーボ助勢液圧基礎値PmcBがサーボ助勢液圧HPwc1として導出される。
【0112】
・上記各実施形態において、第2ストローク量StB2として、上記境界ストローク量StA2と等しい値を設定してもよい。また、第2ストローク量StB2として、上記境界ストローク量StA2よりも大きい値を設定してもよい。このような場合であっても、助勢処理において、各ピストン511,512が第2位置よりも後退方向X2に位置する場合には、助勢液圧を減少補正する減少制御を実施できる。
【0113】
・上記第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態において、マスタ圧Pmcが変曲点を越えないことを担保できる場合、低負圧助勢制御M4を実施しなくてもよい。この場合、サーボ助勢液圧HPwc1が総助勢液圧HPwcとして導出されることになる。
【0114】
・上記第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態において、低負圧助勢制御M4に対して、サーボ補正制御M3と同様の減少補正を適用してもよい。例えば、ストローク量Stに応じた助勢ゲインαと低負圧助勢液圧導出処理M44で求めた値との積を低負圧助勢液圧HPwc2として導出するとよい。また例えば、低負圧助勢制御M4におけるマスタ圧Pmcに対して不感帯ARを設定してもよい。
【0115】
・上記各実施形態において、サーボ補正制御M3では、低負圧助勢液圧HPwc2が「0」よりも大きくなり始める前に、減少制御による減少補正量を「0」とできるように各種処理を実行するとよい。
【0116】
・上記各実施形態において、制動アクチュエータは、制御液圧を調整できるものであれば、制動アクチュエータ60とは異なる構成のものであってもよい。
・制動装置40が適用される車両は、車両の動力源として駆動モータ23を備えているのであれば、エンジン22を備えない車両であってもよい。この場合、ブースタ装置42として、バキュームポンプを備える装置を採用するとよい。
【符号の説明】
【0117】
10…車両
11…車輪
33…ホイールシリンダ
40…制動装置
41…液圧発生装置
43…マスタシリンダ
44…リザーバタンク
45…制動操作部材
511,512…ピストン
521,522…液圧室
541,542…ポート
60…制動アクチュエータ
62…液路
80…制御装置
82…制動制御部
図1
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図12