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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131920
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】前庭電気刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031171
(22)【出願日】2021-02-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「医療機器開発推進研究事業」、「重度のふらつきを有する難治性前庭障害患者における経皮的ノイズ前庭電気刺激によるバランス改善効果と安全性を検証するための医師主導治験の実施」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591117413
【氏名又は名称】株式会社菊池製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100180080
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】小野 治夫
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ18
4C053JJ40
(57)【要約】
【課題】経皮的にノイズ電気刺激を与える前庭電気刺激装置において、電極と皮膚との密着不良や皮膚表面の乾燥等による電気刺激の中断を事前に回避できるようにすること。
【解決手段】
GVS装置1は、通常の電気刺激モード時よりも小さいレンジの診断電流で予め電極22R、22Lと皮膚との接触状態を判定する診断モードを有している。診断モード制御部122は、最大振幅が小さい診断電流波形を形成するための診断電流指令値を電流出力部107に出力し、そのときに電流出力部107が出力する診断出力電圧に基づいてエラー判定を行うよう構成されている。これにより、例えば患者の表皮の状態が悪い場合には動作不適と判定し、角質除去を促して良好な状態で電気刺激を与えることができる。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚に密着して装着される一対の電極と、前記一対の電極を介して当該患者の末梢前庭系に電気刺激を与えるコントローラとを備える前庭電気刺激装置であって、
前記コントローラが、電流指令値に基づいて前記一対の電極間に流す電流を制御する電流出力部と、電気刺激モード制御部と、診断モード制御部とを備え、
前記電気刺激モード制御部が、当該患者に予め選択された電流レンジを最大振幅とするノイズ電流波形を形成するための電流指令値を前記電流出力部に出力することで前記一対の電極を介して前記ノイズ電流波形の電気刺激を当該患者に与えるよう構成され、
前記診断モード制御部が、前記電流レンジよりも最大振幅が小さい診断電流波形を形成するための診断電流指令値を前記電流出力部に出力し、そのときの当該電流出力部が出力する電圧である診断出力電圧に基づいてエラー判定を行うよう構成されている、前庭電気刺激装置。
【請求項2】
前記診断モード制御部が、前記診断電流指令値と前記診断出力電圧とから演算される前記一対の電極間の抵抗値が所定値より大きく、かつ、前記診断出力電圧が最大定格電圧より小さいときには動作不適と判定する、請求項1に記載の前庭電気刺激装置。
【請求項3】
前記電流指定値と、当該電流指令値を前記電流出力部に出力したときの当該電流出力部が出力する出力電圧とに基づいて演算される、前記一対の電極間の抵抗値に基づいて、前記電極と皮膚との密着状態を段階的に表示可能な表示部を更に備える、請求項1又は2に記載の前庭電気刺激装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前庭機能障害を有する患者の末梢前庭系にノイズ電気刺激を与えることにより、当該患者の体平衡機能の改善を図る前庭電気刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢前庭は、頭部の回転加速度・直線加速度を検知し、前庭動眼反射や前庭脊髄反射を通じ、体動時の固視の維持や体平衡の維持を主に担う神経系器官である。前庭が障害されると、回転性のめまいやふらつき、体平衡の障害が生じる。末梢前庭系に対し経皮的にノイズ電気刺激を与えることにより、自律神経不全患者の起立循環応答の改善、脊髄小脳変性症患者の運動機能改善、パーキンソン病患者の自律神経機能改善に有効であることが報告されている。
【0003】
前庭機能障害を有する患者が通常の日常生活を支障なく送ることができるようにするために、患者の頭部に電極を常時装着可能な携帯型の前庭電気刺激装置(以下、「GVS(Galvanic Vestibular Stimulation)装置」という。)が既に開発されている(特許文献1参照)。このGVS装置によれば、患者の耳後部に貼り付けた一対の電極を介して微弱なノイズ刺激を長時間連続して与えることができる。前庭機能障害を有する患者に対し3時間継続してノイズ刺激を与えると、刺激終了後も、体平衡機能の改善効果が少なくとも2時間以上持続する、いわゆる「持ち越し効果」があることも確認されている(非特許文献1参照)。
【0004】
従来のGVS装置は、電極端子の出力が定格(例えば±20V)に振り切れたときに断線エラーと判定する断線検出部が備えている。しかし、装置自体には異常が無くても、例えば電極が皮膚にしっかりと貼り付けられていない状態であったり、使用中に電極が汗で浮きかけたりして接触電気抵抗が高くなった場合においても断線と判定され、その都度、電気刺激が中断してしまうという不都合が生じていた。
【0005】
この課題に関連して、例えば特許文献2には、電気刺激装置において、電極を装着した際の圧力を測定する圧力センサを備え、測定された圧力値が閾値よりも低い場合には、映像表示装置により使用者への通知を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】意匠登録第1634706号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0249010号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】岩崎真一著、2017年、ノイズ前庭電気刺激を利用した両側前庭障害患者の体平衡機能改善、Equilibrium Res. Vol.76(3) 195-203頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、電極及び皮膚の接触電気抵抗と圧力値との間には互いに反比例の関係にあり、圧力値に基づいて接触電気抵抗の値をある程度推定することは可能である。しかしながら、例えば使用者の皮膚の表皮(いわゆる角質層)の厚さや乾燥等の様々な要因により、人間体内の生体電気抵抗も高まることが知られている。つまり、電極がしっかりと皮膚に貼られた状態(つまり圧力値が高く又は電極と表皮との接触電気抵抗が低い状態)であっても、角質層が厚く更に乾燥している場合には、電気刺激信号の出力が振切れエラーと判定される場合がある。
【0009】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、経皮的にノイズ電気刺激を与える前庭電気刺激装置において、電極と皮膚との密着不良や表皮の乾燥等による電気刺激の中断を可能な限り回避できるようにした前庭電気刺激装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、患者の皮膚に密着して装着される一対の電極と、前記一対の電極を介して当該患者の末梢前庭系に電気刺激を与えるコントローラとを備える前庭電気刺激装置であって、前記コントローラが、電流指令値に基づいて前記一対の電極間に流す電流を制御する電流出力部と、電気刺激モード制御部と、診断モード制御部とを備え、前記電気刺激モード制御部が、当該患者に予め選択された電流レンジを最大振幅とするノイズ電流波形を形成するための電流指令値を前記電流出力部に出力することで前記一対の電極を介して前記ノイズ電流波形の電気刺激を当該患者に与えるよう構成され、前記診断モード制御部が、前記電流レンジよりも最大振幅が小さい診断電流波形を形成するための診断電流指令値を前記電流出力部に出力し、そのときの当該電流出力部が出力する電圧である診断出力電圧に基づいてエラー判定を行うよう構成されている、前庭電気刺激装置である。
【0011】
前庭電気刺激装置は、前記診断モード制御部が、前記診断電流指令値と前記診断出力電圧とから演算される前記一対の電極間の抵抗値が所定値より大きく、かつ、前記診断出力電圧が最大定格電圧より小さいときには動作不適と判定することが好ましい。
【0012】
また、前庭電気刺激装置は、前記電流指定値と、当該電流指令値を前記電流出力部に出力したときの当該電流出力部が出力する出力電圧とに基づいて演算される、前記一対の電極間の抵抗値に基づいて、前記電極と皮膚との密着状態を段階的に表示可能な表示部を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る前庭電気刺激装置によれば、電極と皮膚との密着不良や表皮の乾燥等による電気刺激が中断するという不具合を可能な限り回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態によるGVS装置の外観斜視図である。
図2】GVS装置の回路ブロックを例示する図である。
図3】ホワイトノイズ電流波形のソースデータを例示する図である。
図4】GVS装置に備えられる各動作モードの制御部を例示する図である。
図5】表示部の画面を例示する図である。
図6】診断モードにおいて動作の適否を判定する診断フローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る前庭電気刺激装置(GVS装置)の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。GVS装置は、前庭機能障害を有する患者の末梢前庭系に経皮的にノイズ電気刺激を与えることにより、当該患者の体平衡機能の改善を図る装置である。めまいやふらつき等を有する患者であっても、携帯型のGVS装置を装着することで、通常程度の日常生活を送ることができるよう支援することができる。
【0016】
(GVS装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態による携帯型のGVS装置1の外観斜視図である。GVS装置1は、左右一対の電極22R、22Lを有し、使用者である患者の後頭部側に装着されるホルダー20と、ケーブル30を介して電極22R、22Lにノイズ刺激電流を出力するよう構成されたコントローラ10とを備えている。ホルダー20は、イヤーフック23R、23Lを有する耳掛け式の電極パッド21R、21Lに、それぞれアウト側の電極22R及びリターン側の電極22Lが埋め込まれている。電極パッド21R、21Lは、略半円弧状で曲げ弾性を有するネックバンド24で連結されている。
【0017】
ネックバンド24を患者の首の後ろ側に掛け回して、左右のイヤーフック23R、23Lを外耳に引っ掛けて装着することにより、各電極22R、22Lを左右の耳たぶ後部の皮膚に密着させることができる。電極22R、22Lを介して耳たぶ後部の皮膚から微弱なホワイトノイズ電流を体内に流すことで、内耳奥にある末梢前庭を刺激し、神経系に適度な反応を生じさせることができる。
【0018】
コントローラ10の筐体には表示部11及び操作スイッチ12が設けられている。表示部11は、少なくとも数値や文字情報を表示可能な例えばLEDドットマトリクス表示器を用いることができる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態によるGVS装置1の回路ブロック図である。コントローラ10のEPROM102には、例えば図3に示すようなホワイトノイズ電流波形のソースデータが複数種類記憶されている。ソースデータにはノイズ電流波形毎に波形識別情報が割り当てられている。ここで、ホワイトノイズとは、あらゆる周波数成分を略同等に含むノイズである。時間経過とともに振幅及び周期がランダムに変化するホワイトノイズで刺激することで、多くの患者において有意な歩行速度の増加が認められている。EPROM102には、例えば200秒間のホワイトノイズ波形を模したソースデータが記憶されており、マイコン101がこの200秒を1周期とするホワイトノイズを繰り返し再現することにより、長時間連続したノイズ電流波形の電気刺激を形成することができる。
【0020】
RAM103には、選択されたホワイトノイズの波形識別情報、電流レンジ設定値、設定時間(ここでいう「設定時間」は連続動作時間を意味する。)等の設定情報が一時的に記憶される。これらノイズ電流波形、電流レンジ、設定時間等といったGVS装置1の動作条件は、後述する設定モードにおいて、設定操作部104を操作して入力設定及び変更をすることができる。
【0021】
ここで、「電流レンジ」とは、ノイズ電気刺激として電極22R、22Lから出力する電流範囲をいう。言い換えると、電極22R、22Lから出力されるノイズ電流波形の最大振幅がここでいう「電流レンジ」に相当する。また、「電流レンジ設定値」とは、設定された電流レンジにおける最大電流の絶対値を意味する。例えば電流レンジが±150μAであるならば、電流レンジ設定値として150μAの値がRAM103に設定される。電流レンジは、患者の年齢、性別、体機能障害の程度等に応じ、予め患者の最適刺激レベルを試験することで決められる。なお、その日の患者の体調等に応じて適宜選択してもよい。
【0022】
電流出力部107は、マイコン101が出力する電流指令値に基づいて、左右一対の電極22R、22L間に流す電流を制御する電圧-電流変換制御アンプである。すなわち、電流出力部107は、一対の電極22R、22Lを介して患者の体内(生体電気抵抗R)を流れる電流が電流指令値となるようフィードバック制御されるオペアンプ回路により構成することができる。
【0023】
後述する電気刺激モードにおいて、マイコン101は、設定されたノイズ電流波形のソースデータをEPROM102から読み取り、当該患者に選択された電流レンジに合わせて、読み取ったノイズ電流波形に従う電流指令値をDA変換部105に出力する。ここで、電流指令値は、時間tに依存して変動するデジタルの指令値である。電流指令値は、DA変換部105によりロジックレベル(0~5V)のアナログ電圧値に変換される。そして更にアナログの電流指令値は、レベルシフト回路部106により、ロジックレベルから例えば±20Vの駆動レベルに変換される。
【0024】
電流出力部107のアウト側電極22Rから患者の体内に流れる電流は、生体電気抵抗Rを経てリターン側電極22Lにより回収され、その値が電流検出抵抗108により検出される。電流検出抵抗108により検出された電圧値は、電流出力部107(オペアンプの負入力)にフィードバックされ、レベルシフト回路部106の出力である±20Vの電流指令値と比較されることにより、電圧-電流変換が行われる。
【0025】
本実施形態によるGVS装置1は、動作モードとして、少なくとも、設定モード、電気刺激モード及び診断モードを有している。各動作モードは、例えば図4に示すように、設定モード制御部120、電気刺激モード制御部121及び診断モード制御部122によりそれぞれ実行制御され、これらの制御部はマイコン101の演算処理により起動される。
【0026】
(設定モード)
設定モードでは、上述したように使用者(例えば医師、介助者又は患者本人)が設定操作部104を操作して、上述のノイズ電流波形の種類(波形識別情報)、電流レンジ(電流レンジ設定値)、設定時間(連続動作時間)等の動作条件をGVS装置1(具体的にはRAM103)に設定することができる。設定モードは、例えばコントローラ10への電源投入時の最初に起動される。なお、電気刺激モードの途中であっても電気刺激を中断せずに設定変更が可能なように、フォアグランド処理でも設定モードが起動できることが好ましい。
【0027】
(電気刺激モード)
電気刺激モード制御部121は、ホワイトノイズを模した電流波形のソースデータをEPROM102から読み取り、当該患者に予め選択された電流レンジを最大振幅とするノイズ電流波形を形成するための電流指令値を生成する。デジタルの電流指令値は、DA変換部105に出力する。そして電流指令値は、DA変換部105及びレベルシフト回路部106を経て電流出力部107に出力される。これにより、患者の首に貼り付けられた電極22R、22Lを介してノイズ電気刺激が当該患者の末梢前庭系に与えられる。
【0028】
電気刺激モード制御部121は、タイマ113が設定時間のカウントを終了するまで、このシーケンスを繰り返す。これにより、ホワイトノイズを模した電気刺激が設定時間連続して患者に与えられる。GVS装置1が正常に動作する間、表示部11には、例えば図5に示すように、設定時間及び経過時間とともに、ホワイトノイズの波形(例えば「B」)、電流レンジ(例えば「±150μA」)、電極22R、22Lと皮膚との密着状態レベル(例えば「3」)等の動作情報が表示される。
【0029】
電気刺激モード制御部121は、また、電極22R、22Lの肌への密着状態や配線ケーブルの断線等のエラーを判定する判定部121Aを備えている。判定部121Aは、図2に示したレベルシフト回路部109及びAD変換部110を含む。電流出力部107により電極22Rから出力される±20Vレンジの出力電圧は、レベルシフト回路部109により5Vレンジのロジックレベルの電圧値に降圧される。そしてロジックレベルの出力電圧がAD変換部110によりデジタル値に変換されマイコン101に入力される。判定部121Aは、電流出力部107の出力電圧が最大定格電圧である例えば±20Vに振り切れた場合に断線か又は電極22R、22Lが皮膚から完全に剥がれているエラーと判定する。
【0030】
また、電極22R、22Lが患者の皮膚から剥がれかけていたり、汗で電極22R、22Lが浮きかけたり、又は皮膚が乾燥していて皮膚抵抗が高いままGVS装置1の使用を継続すると、電極22R、22L間の抵抗が増加してエラーと誤判定され、電気刺激が度々中断する場合がある。本実施形態によるGVS装置1は、そのような電極22R、22Lと皮膚との密着不良等による中断を回避するために、電極22R、22L間の抵抗値(インピーダンス)に基づいて、電極22R、22Lと皮膚との密着状態レベルを表示部11に段階的(例えば5段階)に表示させている。
【0031】
電極22R、22L間の抵抗値(インピーダンス)は、マイコン101が出力する電流指定値と、当該電流指令値により電流出力部107が出力する出力電圧とに基づいて演算することができる。このインピーダンスを段階的に表示することで、電極22R、22Lが皮膚にしっかりと貼り付いているか又は剥がれかけた状態かを使用者に知らせることができる。これにより、断線エラーと判定される前に、電極を抑えて密着させるとか、ケーブルが引っ張られないよう気を付けるとか、ケーブルの配置を変更するとか、又は使用者に電極22R、22Lの貼り直しを促すことができ、電極22R、22Lの密着不良による電気刺激の中断を事前に回避することができる。
【0032】
表示部11は、インピーダンスのレベルに応じてメッセージを表示してもよい。例えば、レベル「5」であれば、「電極が剥がれかけています。もう一度貼り直してください。」、また、レベル「4」であれば、「電極が剥がれかけています。確認してください。」のような警告又は注意文を出力電圧レベルの数字の脇に併記することができる。
【0033】
ただし、電極22R、22L間の抵抗値(インピーダンス)は、詳細には電極22R、22Lと皮膚との接触電気抵抗と、患者の生体電気抵抗Rとの和である。そのため、例えば患者の皮膚の表皮(いわゆる角質層)の厚さや乾燥等で生体電気抵抗Rが高くなった場合も電極22R、22L間のインピーダンスが高くなりエラーと判定される可能性がある。つまり、電極22R、22Lがしっかりと皮膚に貼られた状態であっても、その皮膚の角質層の状態が悪いと、設定時間経過前に電流出力部107の出力電圧が最大定格に振切れて電気刺激が中断するという不具合が生じる場合がある。本実施形態のGVS装置1は、電気刺激モード中にそのような不具合が生じないようにするために、次に説明する診断モードを有している。
【0034】
(診断モード)
診断モードは、上述の電気刺激モードに先んじて実行されることが好ましい。図6は、診断モードにおいて動作の適否を判定する診断フローの例である。診断モード制御部122は、患者に予め選択された電流レンジよりも最大振幅が小さい電流波形(これを「診断電流波形」という。)の電流(これを「診断電流」という。)を電極22R、22L間に流すための電流指令値(これを「診断電流指令値」という。)を生成し、電流出力部107に出力する(ステップS1)。診断電流波形は、ホワイトノイズである必要はなく、それよりもむしろ一定周期の例えば正弦波形が好ましい。また、診断電流は、患者の生体電気抵抗Rを測定できれば交流に限定されず直流であってもよい。
【0035】
電気刺激モードよりも小さい診断電流指令値を出力した場合でもなお電流出力部107が出力する電圧(これを「診断出力電圧」という。)が最大定格電圧(例えば±20V)に振り切れたときには(ステップS2:YES)、診断モード制御部122は断線エラーと判定する(ステップS3)。
【0036】
診断モード制御部122は、診断電流指令値で電流出力部107が出力する診断出力電圧が最大定格よりも小さいが(ステップS2:NO)、そのときの診断電流指令値と診断出力電圧とから演算される電極22R、22L間の抵抗値(インピーダンス)が所定値より大きければ(ステップS4:YES)、患者の角質層の状態が悪いと判断し、動作不適と判定することができる(ステップS5)。このとき、表示部11は「皮膚抵抗」のランプをフラッシングして警告し、使用者に皮膚前処理剤による角質除去を促してもよい(ステップS6)。
【0037】
以上説明した本実施形態のGVS装置1によれば、電気刺激モード時よりも小さいレンジの診断電流で、予め電極22R、22Lと皮膚との接触状態を判定する診断モードを有している。これにより、例えば患者の表皮の状態が悪い場合には事前に動作不適と判定でき、角質除去を促して良好な状態で電気刺激を与えることができる。また、左右の電極22R、22L間の抵抗値を常時監視するとともに、その抵抗値に基づいて電極22R、22Lと皮膚との密着状態を段階的に表示することにより、電極22R、22Lが剥がれかけたとしても、その貼り直しを使用者に促すことができる。したがって、電極22R、22Lと皮膚との密着不良や表皮の乾燥等による電気刺激の中断といった不具合を可能な限り回避することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 GVS装置(前庭電気刺激装置)
10 コントローラ
11 表示部
12 操作スイッチ
20 ホルダー
21R、21L 電極パッド
22R、22L 電極
23R、23L イヤーフック
24 ネックバンド
30 ケーブル
101 マイコン
102 EPROM
103 RAM
104 設定操作部
105 DA変換部
106 レベルシフト回路部
107 電流出力部
108 電流検出抵抗
109 レベルシフト回路部
110 AD変換部
113 タイマ
120 設定モード制御部
121 電気刺激モード制御部
121A 判定部
122 診断モード制御部
R 生体電気抵抗

図1
図2
図3
図4
図5
図6