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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131936
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】光変調素子および光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20220831BHJP
   G02F 1/03 20060101ALI20220831BHJP
   G02B 6/125 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G02F1/035
G02F1/03 502
G02B6/125 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031191
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 肇
(72)【発明者】
【氏名】菊川 隆
【テーマコード(参考)】
2H147
2K102
【Fターム(参考)】
2H147AB11
2H147BA05
2H147BB02
2H147BE03
2H147EA05A
2H147EA13C
2H147EA14B
2H147EA15C
2H147FA04
2H147FA07
2H147FA11
2H147FC01
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA20
2K102CA21
2K102DA02
2K102DA05
2K102DB04
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA22
(57)【要約】
【課題】印加する直流バイアス電圧を低く抑えることが可能な光変調素子を提供する。
【解決手段】本発明の光変調素子100は、ニオブ酸リチウムでない材料からなる基板と、基板上でマッハツェンダー型光導波路10を構成し、分岐部15と結合部16を結ぶ第1光導波路11、第2光導波路12を有するニオブ酸リチウム膜と、第1光導波路11、第2光導波路12に、各々電界を印加する第1電極25、第2電極26と、を備え、第1リッジ部11及び第2リッジ部12は長さ方向に直交する断面形状定形部を有し、第1リッジ部11、第2リッジ部12の少なくとも一方は断面形状定形部と異なる断面形状非定形部を有し、前記第1電極と前記第2電極の間に印加する直流バイアス電圧を0(V)とした場合の光出力が、直流バイアス電圧を所定の範囲で変化させた場合の光出力の最大値より小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウムと異なる材料からなる基板と、
前記基板の一方の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路を構成し、分岐部と結合部を結ぶ第1光導波路と第2光導波路としてそれぞれ機能する第1リッジ部と第2リッジ部を有するニオブ酸リチウム膜と、
前記第1光導波路に電界を印加する第1電極と、
前記第2光導波路に電界を印加する第2電極と、を備え、
前記第1リッジ部及び前記第2リッジ部は長さ方向に直交する断面形状が互いに同じである断面形状定形部を有すると共に、前記第1リッジ部及び前記第2リッジ部の少なくとも一方は前記断面形状定形部と異なる断面形状の断面形状非定形部を有し、
前記第1電極と前記第2電極の間に印加する直流バイアス電圧を0(V)とした場合に得られる光出力が、前記直流バイアス電圧を所定の電圧範囲で変化させた場合に得られる光出力の最大値より小さいことを特徴とする光変調素子。
【請求項2】
前記断面形状非定形部は、前記断面形状定形部と互いに幅が異なることを特徴とする請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記断面形状非定形部は、前記断面形状定形部と互いに断面積が異なることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項4】
前記断面形状非定形部は、前記第1電極及び前記第2電極のいずれにも重畳しない領域に配置することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項5】
前記直流バイアス電圧を0(V)とした場合に得られる光出力が、前記直流バイアス電圧を所定の電圧範囲で変化させた場合に得られる光出力の最大値と最小値の差の85%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の光変調素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の光変調素子を備えていることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子および光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴い通信量は飛躍的に増大しており、光ファイバ通信の重要性が非常に高まっている。光ファイバ通信は、電気信号を光信号に変換し、光信号を光ファイバにより伝送するものであり、広周波帯域で動作し、損失が低く、ノイズに強いという長所を有する。
【0003】
光変調器は、電気信号を光信号に変換する。例えば、特許文献1、2には、ニオブ酸リチウム単結晶基板の表面付近にTi(チタン)拡散により光導波路を形成したマッハツェンダー型光変調器が記載されている。また、特許文献2には、光変調器の動作点ドリフトを補正することが記載されている。特許文献1、2に記載の光変調器は、40Gb/s以上の高速で動作するが、全長が10cm前後と長い。
【0004】
これに対し、特許文献3には、c軸配向のニオブ酸リチウム膜を用いたマッハツェンダー型光変調器が記載されている。ニオブ酸リチウム膜を用いた光変調器は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を用いた光変調器と比較して、小型であり、駆動電圧が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-37695号公報
【特許文献2】特許第4164179号公報
【特許文献3】特開2019-45880号公報
【特許文献4】特許第2817295号公報
【特許文献5】特開平5-297332号公報
【特許文献6】特開平5-297333号公報
【特許文献7】特開2008-52103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ニオブ酸リチウムを用いた光変調器は、消光比が大きく、高周波帯域で動作できるため、都市間のような長距離の通信用に用いられている。また、インジウムリンを用いた光変調器も高周波帯域での動作が可能であるため、長距離の通信用に用いられることが期待されている。一方で、近年、データセンター内及びデータセンター間のような短、中距離の通信も増えており、このような用途では、光変調器のサイズを小型化することが求められる。光変調器の小型化にともない、位相変調部が短くなると、位相をπシフトさせるための電圧(半波長電圧)が増大し、動作点電圧を調整するために印加する直流バイアス電圧が増大してしまう。
【0007】
位相変調部を構成する二つの光導波路の長さを非対称にすることにより、二つの光導波路間に直流バイアス電圧を印加していない状態で位相差を発生させ、この状態で動作点電圧をシフトさせる手法が開示されている(特許文献4~6)。特許文献4では、動作点電圧をシフトさせるために、二つの光導波路のうち一方を湾曲させ、他方と長さが異なるようにした光変調器が開示されている。同文献では、分岐部と結合部の位置を二つの光導波路の中心線から離間させて、動作点電圧をシフトさせるとともに、二つの光導波路について分岐前後の角度変化(開き角度)を揃えることにより、分岐光の強さを等しくした光変調器も開示されている。特許文献5、6では、特許文献4と同様の目的で二つの光導波路の長さを非対称にした上で、導波路間の距離を一定に保つ光変調器が開示されている。特許文献4~6で開示されている方法では、光導波路の形状が複雑化し、設計上の制約が大きくなり、さらなる小型化が困難である。
【0008】
特許文献7では、一対の光導波路のうち一方の光導波路の少なくとも一部と、他方の光導波路においてこれと対向する一部とが、互いに異なる幅を有する旨の開示があるが、これは、Ti拡散導波路によるものである。特許文献7において、二つの光導波路の対向する部分同士で、幅が異なるようにしているのは、光導波路同士の距離を近づけた時の伝搬光の結合を抑圧するためであり、動作点制御に関する記述は全くない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、素子サイズが小さい場合においても、印加する直流バイアス電圧を低く抑え、かつ容易に製造することが可能な光変調素子と、それを備えた光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の一態様に係る光変調素子は、ニオブ酸リチウムと異なる材料からなる基板と、前記基板の一方の主面に形成されたマッハツェンダー型光導波路を構成し、分岐部と結合部を結ぶ第1光導波路と第2光導波路としてそれぞれ機能する第1リッジ部と第2リッジ部を有するニオブ酸リチウム膜と、前記第1光導波路に電界を印加する第1電極と、前記第2光導波路に電界を印加する第2電極と、を備え、前記第1リッジ部及び前記第2リッジ部は長さ方向に直交する断面形状が互いに同じである断面形状定形部を有すると共に、前記第1リッジ部及び前記第2リッジ部の少なくとも一方は前記断面形状定形部と異なる断面形状の断面形状非定形部を有し、前記第1電極と前記第2電極の間に印加する直流バイアス電圧を0(V)とした場合に得られる光出力が、前記直流バイアス電圧を所定の電圧範囲で変化させた場合に得られる光出力の最大値より小さい。
【0012】
(2)上記(1)に記載の光変調素子において、前記断面形状非定形部は、前記断面形状定形部と互いに幅が異なることが好ましい。
【0013】
(3)上記(2)に記載の光変調素子において、前記断面形状非定形部は、前記断面形状定形部と互いに断面積が異なることが好ましい。
【0014】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の光変調素子において、前記断面形状非定形部は、前記第1電極及び前記第2電極のいずれにも重畳しない領域に配置することが好ましい。
【0015】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の光変調素子において、前記直流バイアス電圧を0(V)とした場合に得られる光出力が、前記直流バイアス電圧を所定の電圧範囲で変化させた場合に得られる光出力の最大値と最小値の差の85%以下であることが好ましい。
【0016】
(6)本発明の一態様に係る光変調器は、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の光変調素子を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、印加する直流バイアス電圧を低く抑え、かつ容易に製造することが可能な光変調素子と、それを備えた光変調器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態にかかる光変調器のブロック図である。
図2】一実施形態にかかる光変調素子の平面図である。
図3】一実施形態にかかる光導波路の平面図である。
図4】一実施形態にかかる光変調素子の断面図である。
図5】一実施形態にかかる光変調素子の断面図である。
図6】一実施形態にかかる光変調器の印加電圧と出力との関係を示す図である。
図7A】一実施形態にかかる光変調器の一例の光変調を説明するための図である。
図7B】一実施形態にかかる光変調器の他の例の光変調を説明するための図である。
図7C】一実施形態にかかる光変調器の他の例の光変調を説明するための図である。
図8A図7Aに示した光変調器の印加電圧と消光比との関係を示す図である。
図8B図7Bに示した光変調器の印加電圧と消光比との関係を示す図である。
図8C図7Cに示した光変調器の印加電圧と消光比との関係を示す図である。
図9】実施例、比較例にかかる光変調器の光出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
まず、方向について定義する。基板(基材)Sbの一面の一方向をx方向、x方向と直交する方向をy方向とする。x方向は、例えば、第1光導波路11が延在する方向である。z方向は、基板Sbの一面と垂直な方向である。z方向は、x方向及びy方向と直交する方向である。以下、+z方向を「上」、-z方向を「下」と表現する場合がある。上下は、必ずしも重力が加わる方向とは一致しない。
【0021】
図1は、第1実施形態に係る光変調器200のブロック図である。光変調器200は、光変調素子100と駆動回路110と直流バイアス印加回路120と直流バイアス制御回路130とを有する。光変調器200の制御部140は、駆動回路110と直流バイアス印加回路120と直流バイアス制御回路130と、を有する。
【0022】
光変調素子100は、電気信号を光信号に変換する。光変調素子100は、入力された入力光Linを変調信号Smに応じて出力光Loutに変換する。
【0023】
駆動回路110は、変調信号Smに応じた変調電圧Vmを光変調素子100に印加する。直流バイアス印加回路120は、直流バイアス電圧Vdcを光変調素子100に印加する。直流バイアス制御回路130は、出力光Loutをモニターし、直流バイアス印加回路120から出力される直流バイアス電圧Vdcを制御する。この直流バイアス電圧Vdcを調整することより、後述する動作点Vdが制御される。
【0024】
図2は、z方向から見た光変調素子100の平面図である。図3は、光変調素子100の光導波路10をz方向から見た平面図である。図4は、図2におけるX1-X1’に沿って切断した断面である。図5は、図2におけるX2-X2’に沿って切断した断面である。
【0025】
光変調素子100は、ニオブ酸リチウムと異なる材料からなる基板Sbと、基板Sbの一方の主面に形成されたニオブ酸リチウム膜(酸化膜)40と、を備えている。ニオブ酸リチウム膜40は、基板Sbと反対側に突出する第1リッジ部11および第2リッジ部12を有する。第1リッジ部11、第2リッジ部12は、それぞれ、マッハツェンダー型光導波路10を構成し、分岐部15と結合部16を結ぶ第1光導波路、第2光導波路として機能する。以下では、第1光導波路について符号11を用いて第1光導波路11、同様に、第2光導波路について符号12を用いて第2光導波路12と称する場合がある。光変調素子100は、さらに、第1光導波路11に電界を印加する第1電極25と、第2光導波路12に電界を印加する第2電極26と、を備えている。
【0026】
第1電極25、第2電極26には、少なくとも、両電極間に変調電圧を印加する交流電源31(駆動回路110)と、両電極間に直流バイアス電圧を印加する直流電源33(直流バイアス印加回路120)が接続される。ここでは、第1電極25が、交流電源31接続用の交流第1電極21と直流電源33接続用の直流第1電極23とに分かれており、第2電極26が、交流電源31接続用の交流第2電極22と直流電源33接続用の直流第2電極24とに分かれている場合を例示している。交流第1電極21と直流第1電極23とは、一体化されていてもよいし、別体として分離されていてもよい。また、交流第2電極22と直流第1電極24とは、一体化されていてもよいし、別体として分離されていてもよい。以下では、交流第1電極21、交流第2電極22、直流第1電極23、直流第2電極24について、それぞれ電極21、電極22、電極23、電極24と呼ぶことがある。
【0027】
光変調素子100は、基板Sbを含む。基板Sbとしては、ニオブ酸リチウム膜(LN膜)等の酸化膜40を、エピタキシャル膜として形成させることができる基板であればよく、サファイア単結晶基板もしくはシリコン単結晶基板が好ましい。基板Sbの結晶方位は特に限定されない。なお、ニオブ酸リチウム膜は、さまざまな結晶方位の基板Sbに対して、c軸配向のエピタキシャル膜として形成されやすいという性質を有している。c軸配向のニオブ酸リチウム膜を構成する結晶は、3回対称の対称性を有しているので、下地の基板Sbも同じ対称性を有していることが望ましく、サファイア単結晶基板の場合はc面、シリコン単結晶基板の場合は(111)面の基板が好ましい。
【0028】
光導波路10は、内部を光が伝搬する光の通路である。光導波路10は、例えば、第1光導波路11と第2光導波路12と入力路13と出力路14と分岐部15と結合部16とを有する。図3に示す第1光導波路11及び第2光導波路12は分岐部15の近傍及び結合部16の近傍以外は、x方向に延びる構成であるが、このような構成に限定されない。図3に示す第1光導波路11と第2光導波路12の長さは、略同一である。分岐部15は、入力路13と第1光導波路11及び第2光導波路12との間にある。入力路13は、分岐部15を介して、第1光導波路11及び第2光導波路12と繋がる。結合部16は、第1光導波路11及び第2光導波路12と出力路14との間にある。第1光導波路11と第2光導波路12とは、結合部16を介して、出力路14と繋がる。
【0029】
光導波路10は、ニオブ酸リチウム膜40の第1面40aから突出するリッジ部である第1光導波路11及び第2光導波路12を含む。第1面40aは、ニオブ酸リチウム膜40のリッジ部以外の部分における上面である。二つのリッジ部(第1リッジ部、第2リッジ部)は、第1面40aからz方向に突出し、光導波路10に沿って延在する。本実施形態では、第1リッジ部を第1光導波路11とし、第2リッジ部を第2光導波路12として機能させる。
【0030】
本発明の光変調素子は、第1リッジ部及び第2リッジ部は光導波路の長さ方向(光の伝搬方向)に直交する断面形状が互いに同じである断面形状定形部を有すると共に、第1リッジ部及び第2リッジ部の少なくとも一方は断面形状定形部と異なる断面形状の断面形状非定形部を有する。ここで、かかる第1リッジ部及び第2リッジ部の構成は、直流バイアス電圧が0Vである場合でも2本の光導波路を伝搬してきた光が結合部で位相差を生じるように構成されている。換言すると、仮に第1リッジ部及び第2リッジ部の少なくとも一方は断面形状定形部と異なる断面形状の断面形状非定形部を有する構成であったとしても、直流バイアス電圧が0Vである場合に2本の伝搬光が位相差を生じない場合には本発明の光変調素子に該当しない。
以下では、直流バイアス電圧が0Vである場合に2本の光導波路を伝搬してきた光を結合部で位相差を生じさせる断面形状非定形部について非対称部分ということがある。
【0031】
図2及び図3に示す光導波路10は、第2リッジ部12のみが非対称部分として断面形状非定形部12bを有する構成であるが、第1リッジ部11及び第2リッジ部12の両方が断面形状非定形部を有してもよい。
光導波路10は、第2リッジ部12が断面形状定形部12a以外に断面形状非定形部12bを有し、第1リッジ部11が断面形状定形部11aのみを有する構成である。
【0032】
本実施形態では、典型的な例として、2本のリッジ部のうち、一方のリッジ部のみが断面形状非定形部を有し、その断面形状非定形部の断面形状が矩形であって、幅のみが断面形状定形部と異なり、高さ(厚み)が同じである場合を図2図5を参照して説明する。この場合、断面形状定形部と断面形状非定形部で互いに断面形状の面積(断面積)が異なる。
なお、断面形状定形部及び断面形状非定形部は両方又は一方が、その断面形状において高さ方向(z方向)で幅が異なっている(変動している)構成の場合もある(例えば、断面形状が三角形や台形等)。そこで、この場合も含めて、本明細書において、断面形状定形部及び断面形状非定形部の「幅」とは、断面形状において高さ方向(z方向)の最大値の半分となる位置での、基板Sbの主面に平行な方向の幅を意味する。ここで、断面形状における断面とは上述の通り、光導波路の長さ方向(光の伝搬方向)に直交する断面である。
【0033】
図4及び図5に示した符号を用いてこの例の断面形状非定形部の特徴を説明すると、幅については、第2リッジ部12の断面形状非定形部12bの幅W2は第2リッジ部12の断面形状定形部12aの幅W2及び第1リッジ部11全体の幅W1と異なっており(W2>W2=W1)、高さ(厚み)については、第2リッジ部12(断面形状定形部12a及び断面形状非定形部12b(高さ:Ha))、及び、第1リッジ部11(高さ:Hb)で同じである。
【0034】
断面形状非定形部12bの断面形状は、断面形状定形部12aの断面形状と異なる限りは特に制限はない。なお、断面形状非定形部及び断面形状定形部の互いの断面形状が相似関係にある場合にも上記の位相差を生じる限りは互いの断面形状が異なるものとする。
また、断面形状非定形部12bの長さLについても特に制限はなく、所望の位相差に合わせて適宜、決定できる。
【0035】
非対称部分として断面形状非定形部を設けることにより、第1光導波路と第2光導波路とで群速度の違いが生じ、それによって位相差が発生するが、この観点から、断面形状非定形部のリッジの断面形状については、特に限定されることがなく、例えば、矩形、台形、三角形、半円形等が挙げられる。また、断面形状非定形部の大きさ(図3であればLやW2)や数についても、特に限定されることがなく、単数であってもよいし、複数であってもよい。断面形状非定形部が複数設けられる場合、それらの形状、大きさ等は揃っていてもよいし、揃っていなくてもよい。また、断面形状非定形部は一方の光導波路だけに設けられていてもよいし、両方の光導波路に設けられていてもよい。また、長さ方向における断面形状非定形部の端部には、テーパーが設けられていてもよい。
断面形状非定形部を設けることにより、結果として、直流バイアス電圧0Vにおける光出力を、最大値よりも小さくすることで、動作点を制御するための直流バイアス電圧を小さくすることができる。上記断面形状非定形部のリッジの断面形状、大きさ、断面形状非定形部の数等は、必要な動作点のシフト量に応じて設定すればよい。
【0036】
第1リッジ部11、第2リッジ部12の断面形状定形部の断面形状は、光を導波できる形状であればよく、例えば矩形、台形、三角形、半円形等であってもよい。二つのリッジ部のy方向の幅は、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましく、二つのリッジ部の高さ(第1面40aからの突出高さHa,Hb)は、例えば、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。リッジ部は、ニオブ酸リチウム膜40と同じ材質から構成される。
【0037】
なお、断面形状非定形部の光導波路上の位置に制限はないが、第1光導波路11、第2光導波路12への電界印加をより精度よく行う観点から、断面形状非定形部は、z方向から平面視して、第1電極25、第2電極26と重畳しない位置に形成されていることが好ましい。
【0038】
ニオブ酸リチウム膜40は、例えば、c軸配向したニオブ酸リチウム膜である。ニオブ酸リチウム膜40は、例えば、基板Sb上にエピタキシャル成長したエピタキシャル膜である。エピタキシャル膜は、下地の基板によって結晶方位が揃えられた単結晶の膜のことである。エピタキシャル膜は、z方向およびxy面内方向に単一の結晶方位をもった膜であり、結晶がx軸、y軸及びz軸方向にともに揃って配向しているものである。基板Sb上に形成されている膜がエピタキシャル膜かどうかは、例えば、2θ-θX線回折における配向位置でのピーク強度と極点の確認を行うことで証明することができる。なお、ニオブ酸リチウム膜40は、Si基板上にSiOを介して設けられたニオブ酸リチウム膜であってもよい。
【0039】
具体的には、2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。例えば、ニオブ酸リチウム膜40がc軸配向エピタキシャル膜である場合には、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。ここで、(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0040】
また、前述の配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみである。よって、前述の条件を得たとしても、面内において結晶配向がそろっていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。例えば、ニオブ酸リチウム膜40がニオブ酸リチウム膜の場合、LiNbOは三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウムの場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。また、(100)面のシリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜を形成した場合は、基板が4回対称となっているため、4x3=12個の極点が観測される。なお、本開示では、双晶の状態にてエピタキシャル成長したニオブ酸リチウム膜もエピタキシャル膜に含める。
【0041】
ニオブ酸リチウムの組成は、LiNbAである。Aは、Li、Nb、O以外の元素である。xは、0.5以上1.2以下であり、好ましくは0.9以上1.05以下である。yは、0以上0.5以下である。zは1.5以上4.0以下であり、好ましくは2.5以上3.5以下である。Aの元素は、例えば、K、Na、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Zn、Sc、Ceであり、これらの元素を2種類以上の組み合わせても良い。
【0042】
ニオブ酸リチウム膜40の膜厚は、例えば、2μm以下である。ニオブ酸リチウム膜40の膜厚とは、リッジ部以外の部分の膜厚である。ニオブ酸リチウム膜40の膜厚が厚いと、結晶性が低下する恐れがある。
またニオブ酸リチウム膜40の膜厚は、例えば、使用する光の波長の1/10程度以上である。ニオブ酸リチウム膜40の膜厚が薄いと、光の閉じ込めが弱くなり、基板Sbやバッファ層30に光が漏れる。ニオブ酸リチウム膜40の膜厚が薄いと、ニオブ酸リチウム膜40に電界を印加しても、光導波路10の実効屈折率の変化が小さくなるおそれがある。
【0043】
電極21、22は、光導波路10に変調電圧Vmを印加する電極である。電極21は、第1電極の一例であり、電極22は、第2電極の一例である。電極21の第1端21aは電源31に接続され、第2端21bは終端抵抗32に接続されている。電極22の第1端22aは電源31に接続され、第2端22bは終端抵抗32に接続されている。電源31は、変調電圧Vmを光変調素子100に印加する駆動回路110の一部である。
【0044】
電極23、24は、光導波路10に直流バイアス電圧Vdcを印加する電極である。電極23の第1端23a及び電源24の第1端24aは電源33に接続されている。電源33は、直流バイアス電圧Vdcを光変調素子100に印加する直流バイアス印加回路120の一部である。
【0045】
図2では、見易くするために並行して配置した電極21及び電極22の線幅、線間を実際よりも広くしている。そのため、電極21と第1光導波路11とが重畳する部分の長さ(相互作用長)と、電極22と第2光導波路12とが重畳する部分の長さとが、異なるように見えるが、これらの長さ(相互作用長)は略同一である。同様に、電極23と第1光導波路11とが重畳する部分の長さ(相互作用長)と、電極24と第2光導波路12とが重畳する部分の長さ(相互作用長)とは、略同一である。
【0046】
また電極21、22に直流バイアス電圧Vdcを重畳する場合は、電極23、24を設けなくてもよい。また電極21、22、23、24の周囲に接地電極を設けてもよい。
【0047】
電極21、22、23、24はバッファ層30を挟んで、ニオブ酸リチウム膜40上にある。電極21、23は、それぞれ、第1光導波路11に電界を印加できる。電極21、23は、それぞれ、例えば、第1光導波路11とz方向からの平面視で重なる位置にある。電極21、23は、それぞれ、第1光導波路11の上方にある。電極22、24はそれぞれ、第2光導波路12に電界を印加できる。電極22、24は、それぞれ、例えば、第2光導波路12とz方向からの平面視で重なる位置にある。電極22、24は、それぞれ、第2光導波路12の上方にある。
【0048】
バッファ層30は、光導波路10と電極21、22、23、24との間にある。バッファ層30は、リッジ部を被覆し、保護する。またバッファ層30は、光導波路10を伝搬する光が電極21、22、23、24に吸収されることを防ぐ。バッファ層30は、ニオブ酸リチウム膜40より屈折率が低い。バッファ層30は、例えば、SiO、Al、MgF、La、ZnO、HfO、MgO、Y、CaF、In等又はこれらの混合物である。
【0049】
光変調素子100のチップサイズは、例えば、100mm以下である。光変調素子100のチップサイズが100mm以下であれば、データセンター用光変調素子として用いることができる。
【0050】
光変調素子100は、公知の方法で作製できる。例えばエピタキシャル成長、フォトリソグラフィ、エッチング、気相成長及びメタライズなどの半導体プロセスを用いて、光変調素子100は製造される。
【0051】
光変調素子100は、電気信号を光信号に変換する。光変調素子100は、入力光Linを出力光Loutに変調する。まず光変調素子100の変調動作について説明する。
【0052】
入力路13から入力された入力光Linは、第1光導波路11と第2光導波路12に分岐して伝搬する。第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光との位相差は、分岐した時点ではゼロである。
【0053】
次いで、電極21と電極22との間に電圧を印加する。例えば、電極21と電極22のそれぞれに、絶対値が同じで、正負が反対であり、位相が互いにずれていない差動信号を印加してもよい。第1光導波路11及び第2光導波路12の屈折率は、電気光学効果によって変化する。例えば、第1光導波路11の屈折率は、基準の屈折率nから+Δn変化し、第2光導波路12の屈折率は、基準の屈折率nから-Δn変化する。
【0054】
第1光導波路11と第2光導波路12との屈折率の違いは、第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光との間に位相差を生み出す。第1光導波路11及び第2光導波路12を伝搬した光は、出力路14で合流し、出力光Loutとして出力される。出力光Loutは、第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光とを重ね合わせたものである。出力光Loutの強度は、第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光の奇数倍の位相差に応じて変化する。例えば、位相差がπの偶数倍の場合は光が強め合い、πの場合は光が弱め合う。このような手順で、光変調素子100は、電気信号に応じて、入力光Linを出力光Loutに変調する。
【0055】
光変調素子100の変調電圧印加用の電極21、22には、変調信号に応じた変調電圧Vmが印加される。直流バイアス電圧印加用の電極23、24に印加される電圧、つまり、直流バイアス印加回路120から出力される直流バイアス電圧Vdcは、直流バイアス制御回路130により制御される。直流バイアス制御回路130は、直流バイアス電圧Vdcを制御することにより、光変調素子100の動作点Vdを調整する。動作点Vdとは変調電圧振幅の中心となる電圧である。
【0056】
光変調素子100による光変調曲線について図6を用いて説明する。図6は、第1実施形態にかかる光変調器200、および分岐した二つの光導波路の長さおよび形状が統一されている従来の構成すなわち、光導波路が位相差を生じさせる断面形状非定形部を有さない構成の光変調器について、直流バイアス電圧と出力との関係を示す図である。図6の横軸は電極23、24に印加した直流バイアス電圧であり、縦軸は光変調素子100からの出力を規格化したものである。出力は、第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光の位相差がゼロの場合を「1」として規格化している。実線が従来構成の光変調器の特性を示し、破線が第1実施形態の光変調器の特性を示している。
【0057】
第1リッジ部及び前記第2リッジ部が断面形状非定形部を有さず、長さも同じである場合には、第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光との間に位相差が存在しない。したがって、少なくとも電圧を印加しない状態(Vdc=0)では、二つの光導波路を経由した同じ位相の光同士が、結合部16で干渉して強め合い、光変調素子100としての出力が最大値となる。
【0058】
これに対し、本実施形態のように、第1リッジ部及び第2リッジ部の少なくとも一方が断面形状非定形部を有する構成では、第1光導波路11を伝搬する光と第2光導波路12を伝搬する光の群速度が非対称となり、それらの光の間に位相差が発生する。したがって、印加する直流バイアス電圧を0Vとした場合(Vdc=0)であっても、それぞれを経由した異なる位相の光同士が結合部16で干渉した結果として、光変調素子100としての出力は最大値にはならず、最大値よりも小さくなる。つまり、第1リッジ部及び第2リッジ部の少なくとも一方が断面形状非定形部を有する構成では、断面形状非定形部を有さず、長さも同じである構成を基準にして、動作点Vdが0V側にシフトした状態となる。図6に示す例は、動作点Vdが0V側に(1/2)Vπ分シフトして、動作点Vd’が略0(V)である場合である。
【0059】
これにより、動作点を制御するために、電極23、24に印加する直線バイアス電圧Vdcを、略0(V)にすることができる。さらにDCドリフト等による動作点の補正においても、より小さい電圧範囲で対応が可能となる。
【0060】
光変調素子100からの出力は、印加電圧を大きくしていくと、最大値から徐々に小さくなり、ある電圧で極小となる。光変調素子100からの出力が極小となる電圧が、null点電圧Vnである。半波長電圧(半波長位相変調電圧)は、マッハツェンダー型光変調器で光の位相差を180°にするための電圧であり、光変調素子100からの出力が極大から極小に至るまでの電圧幅が、半波長電圧Vπに相当する。null点電圧Vnを超える電圧を印加すると、光変調素子100からの出力は周期的に変化する。光変調素子100からの出力は、半波長電圧Vπごとに、極大、極小を繰り返す。
【0061】
これにより、本実施形態の光変調素子100において、光出力が最大値よりも小さいかどうかについては、電極23、24に対して直流バイアス電圧を印加し変調素子からの出力をモニターし、電圧を印加しない状態(Vdc=0)での出力値と比較することで判断することができる。具体的には、印加する直流バイアス電圧を徐々に増加させて、光出力が極小値から反転増加する点と、極大値から反転減少する点を測定することで、最大値と最小値を決定することができる。電極21、22には変調信号が印加されていてもよい。各直流バイアス電圧における光出力の極大値および極小値をプロットすることで、光出力の強度の最大値と最小値を決定することができる。
【0062】
なお、図2の構成においては、変調電圧Vmを印加する電極21、22における半波長電圧Vπ(RF)と、直流バイアス電圧を印加する電極23、24におけるVπ(DC)の2つのVπが存在している。上記、最大値と最小値を測定するためには、電極23、24に対して2×Vπ(DC)の範囲で印加すればよい。この範囲での極大値を最大値、極小値を最小値と定義する。電極21、22に直流バイアス電圧Vdcを重畳する場合には、電極23、24を設けなくてもよく、Vπ(RF)とVπ(DC)は同じ値となる。
【0063】
光変調素子100の半波長電圧Vπは、光変調素子100の構成によって変化する。半波長電圧Vπは、例えば、第1光導波路11上の電極21、23の長さ、第2光導波路12上の電極22、24の長さ等によって変化する。ここで、第1電極21、23の長さおよび第2電極22、24の長さは、光の伝搬方向への長さである。図2の場合、電極21、23のうちの第1光導波路11と重なる部分の長さ、又は、電極22、24のうちの第2光導波路12と重なる部分の長さである。この長さは、相互作用長と言われる。相互作用長が長いと半波長電圧Vπは小さくなり、相互作用長が短いと半波長電圧Vπが大きくなる。光変調素子100のサイズを小さくしようとすると、相互作用長が短くなり、半波長電圧Vπが大きくなるが、本実施形態のように動作点電圧Vdcを0V側にシフトすることにより、電極23、24に印加する直流バイアス電圧を低く抑えることができる。
【0064】
直流バイアス印加回路120は、光変調素子100の動作点電圧Vdを制御する。動作点電圧Vdとは印加される電圧の最小値(Vmin)と最大値(Vmax)の中点である。そして、印加される電圧の最小値(Vmin)と最大値(Vmax)の差が印加電圧幅Vppである。
【0065】
動作点電圧Vdは、使用環境の温度等で変動する場合がある。使用中に動作点電圧Vdが変動した場合は、直流バイアス制御回路130で補正する。直流バイアス制御回路130は、例えば、出力光Loutから分岐した分岐光Lbを基に、動作点電圧Vdの変動を補正する。
【0066】
図6に示した変調曲線を示す光変調素子100の場合の光変調について、図7Aを用いて説明する。図7Aの横軸は、光変調素子100に印加した直流バイアス電圧であり、縦軸は、印加した電圧における光出力の強度である。
この場合、動作点電圧のシフト量が(Vn-0.5Vπ)となるように動作点Vd’を設定すれば、直流バイアス電圧略0(V)にとることができる。例えば、変調電圧Vmの印加電圧幅Vppを半波長電圧Vπ(RF)とすると、光変調素子100には、(-1/2)Vπ(RF)から(1/2)Vπ(RF)の範囲の変調電圧Vmが印加される。光変調素子100からの光出力は図7Aに示すように、変調電圧Vmが(-1/2)Vπ(RF)のときに最大となり、変調電圧Vmが(1/2)Vπ(RF)のときに最小となり、変調電圧Vmが0Vのときの光出力は最大出力の50%である。
【0067】
同様に、図7Bを用いて、動作点電圧のシフト量が(Vn-0.25Vπ)となるように動作点Vd’を設定し、変調電圧Vmの印加電圧幅Vppを(1/4)波長電圧(1/2)Vπ(RF)として制御される光変調素子100の光変調について説明する。
この場合、動作点電圧のシフト量が(Vn-0.25Vπ)となるように設定すれば、動作点Vd’を直流バイアス電圧略0(V)にとることができる。光変調素子100には、(-1/4)Vπ(RF)から(1/4)Vπ(RF)の範囲に相当する変調電圧Vmが印加される。光変調素子100からの光出力は図7Bに示すように、変調電圧Vmが(-1/4)Vπ(RF)のときに最大となり、変調電圧Vmが(1/4)Vπ(RF)のときに最小となり、変調電圧Vmが0V(Vd‘)のときの光出力は最大出力の15%である。
【0068】
同様に、図7Cを用いて、動作点電圧のシフト量が(Vn-0.75Vπ)となるように動作点Vd’を設定し、変調電圧Vmの印加電圧幅Vppを(1/4)波長電圧(1/2)Vπ(RF)として制御される光変調素子100の光変調について説明する。
この場合、動作点電圧のシフト量が(Vn-0.75Vπ)となるように設定すれば、動作点Vd’を直流バイアス電圧略0(V)にとることができる。光変調素子100には、(-1/4)Vπ(RF)から(1/4)Vπ(RF)の範囲に相当する変調電圧Vmが印加される。光変調素子100からの光出力は図7Cに示すように、変調電圧Vmが(-1/4)Vπ(RF)のときに最大となり、変調電圧Vmが(1/4)Vπ(RF)のときに最小となり、変調電圧Vmが0V(Vd‘)のときの光出力は最大出力の85%である。
【0069】
高周波電圧の変調信号は、例えば、駆動回路110によって制御される。変調素子の帯域は、60GHz以上である。変調素子の周波数帯域が60GHz以上であれば、高速変調に対応しやすい。
【0070】
図8は、本実施形態にかかる光変調器200の印加電圧と消光比との関係を示す図である。図8の横軸は、光変調素子100に印加した直流バイアス電圧であり、縦軸は、印加した電圧における出力光Loutと、null点電圧Vnにおける出力光Loutとの比を示している。消光比は、印加される電圧範囲での出力光Loutの最大値と最小値の比である。
【0071】
図7A~Cで示した光変調素子100のそれぞれの消光比について、図8A~Cを用いて説明する。
図7Aの光変調素子100では、図8Aに示すように、図7A~Cの中で最大の消光比(約25dB)を示す。
一方、図7Cの光変調素子100では、図8Cに示すように、図7A~Cの中で最小の消光比(約3dB)を示す。
また、図7Bの光変調素子100では、図8Bに示すように、図7A~Cの中でその間の消光比(約22dB)を示す。
【0072】
図8Cに示すように、光変調素子100の出力光Loutの光量が十分大きい領域は、消光比が小さい。このように、印加電圧幅Vppが同じであるという条件のもと、動作点Vdをnull点電圧Vnから離れた位置に設定した場合、動作点Vdをnull点電圧Vn近傍に設定した場合より光量は大きくなるが消光比は小さくなる。しかしながら、データセンター用の光変調器に求められる消光比は、長距離の通信用の光変調器より小さく、3dB程度である。従って、動作点Vdを最大光出力の85%以下に設定することにより、VppがVπよりも小さい場合においても、消光比を3dB以上とすることができる。
【0073】
ここではVdをVnよりも小さい場合を例示したが、Vnよりも大きい場合を用いても良い。その場合は本発明における非対称部の形状、長さ(L)、幅(W2)を適宜変更することにより、動作点をシフトすることができる。
【0074】
上述のように、第1実施形態に係る光変調素子100および光変調器200は、低電圧駆動でき、かつ、高周波帯域で使用することができる。
【0075】
以上のように、本実施形態にかかる光変調素子100は、マッハツェンダー型光導波路を構成し、分岐部15と結合部16を結ぶ第1光導波路11と第2光導波路12を有しており、二つの光導波路の断面形状が異なる。これにより、二つの光導波路内で進行する光の群速度が非対称となり、両者の間に位相差が発生する。
【0076】
この位相差は、二つの光導波路に電界が印加されていない状態であっても存在し、結合部16において異なる位相の光同士が干渉し、一部が相殺されることにより、光の出力は最大値より小さい値となる。その結果として、動作点電圧を0V側にシフトさせることができる。動作点電圧が小さくなるように、使用する光の波長域においてシフト量を調整することにより、印加電圧の増大を抑えることができる。
【0077】
本実施形態の光電変調素子100は、第1光導波路11と第2光導波路12との間で位相差を発生させる上で、各光導波路の長さの調整を必要としない。したがって、光導波路の形状が複雑化し、その製造が難しくなる問題を回避することができる。
【実施例0078】
以下、本開示の実施例を例示するが、本開示は以下の実施例には限定されない。なお、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
(比較例)
図2および図4の構造(断面形状非定形部を有さない構造)を、以下の手順で実際に試作した。基板の材料はサファイアとした。基板の表面に膜厚1.5μmのニオブ酸リチウム膜をスパッタ法により製膜した。次に、レジストによるマスク形成とArプラズマを用いたドライエッチング加工により、リッジ部の形成を行った。リッジ部の断面形状は矩形とし、リッジ幅W1及びW2は1.0μm、リッジ高さは0.4μmとした。次に、膜厚0.8μm、材料LaAlOのバッファ層を蒸着法により成膜した。次いでCMPによる平坦化を行った。最後に、第1電極、第2電極をフォト工程と金めっき工程により形成した。
【0080】
電極21、22の相互作用長を8.5mmとし、電極23、24の相互作用長を5.0mmとした。波長1310nmの光を用いて変調特性を評価した。その時のVπ(RF)は8.3(V)、Vπ(DC)は14.1(V)、消光比の最大値は25dBであった。さらに、電極23、24に直流バイアス電圧を印加した時の光出力を測定した。その結果を図9のグラフに示す。電極21、22には変調信号が印加されていてもよい。各直流バイアス電圧における光出力の極大値および極小値をプロットすることで、光出力の強度の最大値と最小値を決定することができる。
【0081】
(実施例)
図5に示したように、第2リッジ部における一部分に断面形状非定形部を有するものとし、それ以外の部分は比較例と全く同じとした。
図6に示した実施例1では、第2リッジ部の断面形状非定形部の断面形状は矩形とし、かつ、z方向からの平面視の形状も矩形としてx方向の長さLを0.53mmとし、y方向の幅W2を1.15μmとした。実施例1では、直流バイアス電圧が印加されていない状態で、光出力強度が最大値の50%となっており、動作点電圧が(1/2)Vπ相当分シフトしていることが分かる。
【0082】
実施例2の第2リッジ部の断面形状非定形部の断面形状も矩形とし、かつ、z方向からの平面視の形状も矩形としてx方向の長さLを0.63mmとし、y方向の幅W2を1.15μmとし、実施例3の第2リッジ部の断面形状非定形部の断面形状も矩形とし、かつ、z方向からの平面視の形状も矩形としてx方向の長さLを0.48mmとし、y方向の幅W2を1.15μmとした。実施例2及び実施例3で得られた光の出力特性の算出結果を、図9のグラフに示す。グラフの横軸は直流バイアス電圧(V)を示し、グラフの縦軸は光出力強度を示している。実線が比較例で得られた出力特性に対応し、破線が実施例2で得られた出力特性に対応し、一点鎖線が実施例3で得られた出力特性に対応する。
【0083】
比較例の場合、直流バイアス電圧が印加されていない状態では、光出力強度が最大値となっており、動作点電圧のシフトは見られない。これに対し、実施例2では、直流バイアス電圧が印加されていない状態で、光出力強度が最大値の15%となっており、動作点電圧が(3/4)Vπ相当分シフトしていることが分かる。また、実施例3では、直流バイアス電圧が印加されていない状態で、光出力強度が最大値の85%となっており、動作点電圧が(1/4)Vπ相当分シフトしていることが分かる。
【0084】
光出力強度が最大値の85%となる実施例3の場合に、直流バイアス電圧0(V)を動作点とし、印加電圧幅Vppを(1/2)Vπ(-(1/4)Vπから+(1/4)Vπの範囲の変調電圧Vm)とすることで消光比3bBが得られる。動作点電圧のシフト量は、変調器の必要な駆動条件に合わせて任意で設計することができるが、小さな印加電圧幅Vppで大きな消光比を得たい場合には、直流バイアス電圧が印加されていない状態で、光出力強度が最大値の0%から50%の範囲になるように動作点電圧のシフト量を設定するのが好ましい。
なお、動作点電圧のシフト量は、断面形状非定形部のサイズ・形状等を調整することにより変化させることができる。上記実施例1乃至3では、第2リッジ部の断面形状非定形部のz方向からの平面視の形状も矩形としてそのx方向の長さLを変えることにより動作点電圧のシフト量を変化させたが、y方向の幅W2を変えることにより、または、x方向の長さLとy方向の幅W2の双方を変えることにより動作点電圧のシフト量を変化させてもよい。また、断面形状非定形部の長さ方向に直交する断面形状を調整してもよい。
本発明によれば、素子サイズが小さい場合においても、直流バイアス電圧を低く抑え、かつ容易に製造することが可能な光変調素子を実現することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 光導波路
11 第1光導波路(第1リッジ部)
11a 断面形状定形部
12 第2光導波路(第2リッジ部)
12a 断面形状定形部
12b 断面形状非定形部
13 入力路
14 出力路
15 分岐部
16 結合部
21、22、23、24 電極
25 第1電極
26 第2電極
30 バッファ層
31 交流電源
32 終端抵抗
33 直流電源
40 酸化膜
40a 第1面
100 光変調素子
110 駆動回路
120 直流バイアス印加回路
130 直流バイアス制御回路
140 制御部
200 光変調器
in 入力光
out 出力光
Lb 分岐光
Vd 動作点電圧
Vn null点電圧
Vπ 半波長電圧
Vpp 印加電圧幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9