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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022131941
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
F04B39/00 106B
F04B39/00 106A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031197
(22)【出願日】2021-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】宮田 知明
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】高山 裕基
(72)【発明者】
【氏名】磯部 啓介
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB06
3H003AC03
3H003BC00
3H003CF02
3H003CF03
(57)【要約】
【課題】電動圧縮機において、リード線を筒部材で覆うことでコネクタハウジング内の過度の圧力上昇を防ぎつつ、筒部材内にあるリード線の微小傷に対しても有効な漏電対策を施す。
【解決手段】モータ機構は、リード線47と、コネクタ50と、リード線47を覆う内筒部材61と、内筒部材61を覆う外筒部材63とを有している。コネクタ50は、リード線47が挿通される挿入口51bと端子収容室51aが形成されたコネクタハウジング51を有している。内筒部材61は、一端においてリード線47との隙間を絶縁性の樹脂49によって埋められている。外筒部材63は、挿入口51bに隙間なく挿入されるとともに内筒部材61の他端を覆っている。樹脂49は、内筒部材61から延在するリード線47とコイルエンド45を覆っており、端子収容室51aとモータ収容室3aは、外筒部材63の内部のみを介して連通している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構を駆動するモータ機構と、
前記モータ機構を収容するモータ収容室を内部に有する金属製のハウジングと、
前記モータ機構を駆動するインバータ回路と、を備え、
前記モータ機構は、
前記ハウジングに固定された筒状のステータコアと、
前記ステータコアに絶縁被覆を有する導線を巻回して形成されるとともに前記ステータコアの端面から突出するコイルエンドと、
前記コイルエンドから引き出された前記導線よりなるリード線と、
前記リード線と前記インバータ回路とを電気的に接続するコネクタと、を備え、
前記コネクタは、
前記リード線の先端に電気的に接続された端子と、
前記端子を収容する端子収容室と前記リード線が挿入される挿入口が形成された絶縁材料からなるコネクタハウジングと、を有する電動圧縮機であって、
前記モータ機構は、それぞれ筒状であって内部に前記リード線が挿通される第1絶縁部材と内部に前記第1絶縁部材が隙間を有しつつ挿入される第2絶縁部材を有し、
前記第1絶縁部材は、一端において前記リード線との間を絶縁性の樹脂によって封止されており、
前記第2絶縁部材は、前記挿入口に挿入されるとともに前記第1絶縁部材の他端を覆っており、
前記第2絶縁部材と前記挿入口との間は封止されており、
前記樹脂は、前記第1絶縁部材から延在する前記リード線と前記コイルエンドを覆っており、
前記端子収容室と前記モータ収容室は、前記隙間を介して連通していることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記第2絶縁部材と前記コネクタハウジングは一体形成されていることを特徴とする請求項1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記第1絶縁部材と前記第2絶縁部材との隙間は、前記リード線と前記第1絶縁部材との隙間よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動圧縮機は、一般に、冷媒を圧縮する圧縮機構と、圧縮機構を駆動するモータ機構と、モータ機構を収容するモータ収容室を内部に有する金属製のハウジングと、モータ機構を駆動するインバータ回路とを備えている。モータ機構は、ハウジングに固定された筒状のステータコアと、ステータコアの端面から突出するコイルエンドと、コイルエンドから引き出されたリード線と、リード線とインバータ回路とを電気的に接続するコネクタとを有している。コイルエンドは、ステータコアに絶縁被覆を有する導線を巻回して形成される。コネクタは、リード線の先端に電気的に接続された端子と、絶縁材料からなるコネクタハウジングとを有している。コネクタハウジングには、端子を収容する端子収容室と、リード線が挿入される挿入口とが形成されている。
【0003】
このような電動圧縮機では、運転を停止した際に、ハウジング内に残留した冷媒ガスが冷却されて液化し、その液冷媒がハウジングのモータ収容室内に留まる場合がある。この場合、挿入口からコネクタハウジング内に液冷媒が浸入すると、コネクタハウジング内のリード線や端子等の導電部とモータ収容室とが液冷媒を介して電気的に導通してしまい、コネクタハウジング内の導電部とモータ収容室との間を絶縁できなくなってしまう。この状態で電動圧縮機の運転を開始すると、コネクタハウジング内の導電部に供給された電流が液冷媒を介してモータ収容室に漏れてしまうおそれがある。
【0004】
ここで、コネクタハウジング内の導電部への液冷媒の接触を避けるためには、挿入口をゴムや樹脂で封止してコネクタハウジングを密封することが有効である。しかし、この場合、コネクタハウジング内の温度上昇によりコネクタハウジング内の空気が熱膨張すると、コネクタハウジング内の圧力が過度に上昇して、コネクタハウジングが高圧に耐えられなくなるおそれがある。
【0005】
そこで、特許文献1には、コネクタハウジングを密封することなく、モータ収容室とコネクタハウジング内の導電部との間の絶縁抵抗を高めた電動圧縮機が開示されている。この電動圧縮機では、端子に電気的に接続されたリード線が絶縁性チューブよりなる筒部材で覆われている。この筒部材は、一端がステータコア側に筒状に延びて、リード線との間に隙間を形成しつつリード線を覆っているとともに、他端がコネクタハウジングの挿入口に隙間なく接合されている。こうして、筒部材内の隙間を介してコネクタハウジングの内外を連通させることによって、筒部材内の隙間以外からコネクタハウジング内に液冷媒が浸入することを防止している。これにより、コネクタハウジング内の導電部とモータ収容室との漏電経路を筒部材の長さ分だけ長くすることができ、コネクタハウジング内の導電部とモータ収容室との間の絶縁抵抗を高めることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-58388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、リード線は、導電性芯材を絶縁被膜で覆った導線よりなる。このようなリード線に微小微があると、筒部材内に入り込んだ液冷媒が微小傷の部位の導電性芯材に接触してしまう。そうすると、微小傷がある部位の導電性芯材とモータ収容室とが液冷媒を介して電気的に導通することになるため、微小傷がない場合と比較して、微小傷の部位とコネクタハウジング内の導電部との距離分だけ漏電経路が短縮してしまい、筒部材によって漏電経路を長くしたことによる絶縁効果が不充分となるおそれがある。
【0008】
特に、電気を通しやすい冷凍機油を採用した電動圧縮機においては、リード線の微小傷を介する漏電に対してもその対策が要求される。
【0009】
ここで、リード線の微小傷を介する漏電に対してはリード線を構成する導線の絶縁被膜を厚くすることが有効である。しかし、絶縁被膜の厚膜化によりリード線が太くなりすぎると、筒部材内へのリード線の挿入が困難となり、生産性の低下を招く。また、リード線にカシメ等により接合される端子やその端子を収容するコネクタハウジングのサイズ的な規制や、絶縁被膜のコーティングの困難性により、絶縁被膜の厚膜化にも限界がある。このため、絶縁被膜の厚膜化によって、リード線の微小傷に対する漏電対策を施すことについては、実効性が乏しい。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、電動圧縮機において、リード線を筒部材で覆うことでコネクタハウジング内の過度の圧力上昇を防ぎつつ、筒部材内にあるリード線の微小傷に対しても有効な漏電対策を施すことを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電動圧縮機は、
冷媒を圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構を駆動するモータ機構と、
前記モータ機構を収容するモータ収容室を内部に有する金属製のハウジングと、
前記モータ機構を駆動するインバータ回路と、を備え、
前記モータ機構は、
前記ハウジングに固定された筒状のステータコアと、
前記ステータコアに絶縁被覆を有する導線を巻回して形成されるとともに前記ステータコアの端面から突出するコイルエンドと、
前記コイルエンドから引き出された前記導線よりなるリード線と、
前記リード線と前記インバータ回路とを電気的に接続するコネクタと、を備え、
前記コネクタは、
前記リード線の先端に電気的に接続された端子と、
前記端子を収容する端子収容室と前記リード線が挿入される挿入口が形成された絶縁材料からなるコネクタハウジングと、を有する電動圧縮機であって、
前記モータ機構は、それぞれ筒状であって内部に前記リード線が挿通される第1絶縁部材と内部に前記第1絶縁部材が隙間を有しつつ挿入される第2絶縁部材を有し、
前記第1絶縁部材は、一端において前記リード線との間を絶縁性の樹脂によって封止されており、
前記第2絶縁部材は、前記挿入口に挿入されるとともに前記第1絶縁部材の他端を覆っており、
前記第2絶縁部材と前記挿入口との間は封止されており、
前記樹脂は、前記第1絶縁部材から延在する前記リード線と前記コイルエンドを覆っており、
前記端子収容室と前記モータ収容室は、前記隙間を介して連通していることを特徴とする電動圧縮機。
【0012】
上記発明に係る電動圧縮機では、リード線を覆う筒部材がさらに別の筒部材で覆われている。筒部材が内外の二重構造をなすこのような構成によれば、第1絶縁部材内にあるリード線に微小傷が付いている場合、この微小傷から第2絶縁部材の一端の開口までの液冷媒を介する漏電経路の長さは、微小傷から第1絶縁部材の他端の開口までの距離と、第1絶縁部材の他端の開口から第2絶縁部材の一端の開口までの距離の合計長さとなる。このため、第1絶縁部材内にあるリード線に微小傷が付いている場合であっても、その微小傷から第2絶縁部材の一端の開口までの漏電経路の長さを有効に確保することができる。よって、第1絶縁部材内にあるリード線の微小傷に対しても有効な漏電対策を施すことが可能になる。
【0013】
他方、この電動圧縮機では、コネクタハウジング内は第1絶縁部材と第2絶縁部材との隙間を介してモータ収容室に通じているため、コネクタハウジング内の空気を第1絶縁部材と第2絶縁部材との隙間を介してモータ収容室に逃がすことができる。このため、コネクタハウジング内が高温になったとしても、コネクタハウジング内の圧力が過度に上昇することがない。
【0014】
したがって、この電動圧縮機によれば、リード線を筒部材で覆うことでコネクタハウジング内の過度の圧力上昇を防ぎつつ、筒部材内にあるリード線の微小傷に対しても有効な漏電対策を施すことが可能になる。
【0015】
上記電動圧縮機では、前記第2絶縁部材と前記コネクタハウジングは一体形成されていてもよい。この電動圧縮機では、第2絶縁部材がコネクタハウジングと一体になっているので、部品点数及び組立工数が削減する。
【0016】
上記電動圧縮機において、前記第1絶縁部材と前記第2絶縁部材との隙間は、前記リード線と前記第1絶縁部材との隙間よりも小さいことが好ましい。第1絶縁部材と第2絶縁部材との隙間がリード線と第1絶縁部材との隙間よりも小さい場合には、前者における漏電経路が、後者における漏電経路よりも細くなる。漏電対策においては漏電経路が細いほうが有利となる。ここに、第1絶縁部材内にあるリード線に付いた微小傷から第2絶縁部材の一端の開口までの漏電経路の長さLは、微小傷から第1絶縁部材の他端の開口までの隙間の長さL1と、第1絶縁部材の他端の開口から第2絶縁部材の一端の開口までの隙間の長さL2との合計となる。長さL1は、リード線に付いた微小傷の位置によって短くも長くもなる。一方、長さL2は、第1絶縁部材と第2絶縁部材との重複長さに等しい。このため、この重複長さを所定以上とすることで、漏電対策に有効な漏電経路が細い第1絶縁部材と第2絶縁部材との隙間の長さL2を所定以上とすることができ、第1絶縁部材内にあるリード線に付いた微小傷の位置に関係なく、所定以上の上記漏電対策の効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電動圧縮機によれば、リード線を筒部材で覆うことでコネクタハウジング内の過度の圧力上昇を防ぎつつ、筒部材内にあるリード線の微小傷に対しても有効な漏電対策を施すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1の電動圧縮機の縦断面図である。
図2図2は、実施例1の電動圧縮機に係り、コイルエンド、リード線、筒部材及びコネクタの関係を模式的に示す断面図である。
図3図3は、実施例1の電動圧縮機に係り、内筒部材の長さと外筒部材の長さとの関係を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施例2の電動圧縮機に係り、コイルエンド、リード線、筒部材及びコネクタの関係を模式的に示す断面図である。
図5図5は、実施例3の電動圧縮機に係り、コイルエンド、リード線、筒部材及びコネクタの関係を模式的に示す断面図である。
図6図6は、参考例1の電動圧縮機に係り、コイルエンド、リード線、筒部材及びコネクタの関係を模式的に示す断面図である。
図7図7は、参考例2の電動圧縮機に係り、コイルエンド、リード線、筒部材及びコネクタの関係を模式的に示す断面図である。
図8図8は、参考例3の電動圧縮機に係り、コイルエンド、リード線、筒部材及びコネクタの関係を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施例1~3を図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(実施例1)
実施例1の電動圧縮機は、図1に示されるように、冷媒を圧縮する圧縮機構10と、圧縮機構10を駆動するモータ機構12と、ハウジング14と、モータ機構12を駆動するインバータ回路16とを備えている。ハウジング14は金属製であり、例えばアルミニウム合金製である。ハウジング14は、フロントハウジング1と、モータハウジング3とを有している。圧縮機構10とモータ機構12とはモータハウジング3内に収容されている。
【0021】
以下の説明では、図1に示す矢印Y1方向を前後方向とし、図1の紙面左側に位置するフロントハウジング1側を電動圧縮機の前側と規定し、反対の図1の紙面右側を電動圧縮機の後側と規定する。なお、実施例における前後方向は一例である。電動圧縮機は、搭載される車両等に対応して、その前後方向が適宜変更される。また、本明細書において、径方向及び軸方向とは後述する筒部材の径方向及び軸方向を意味する。
【0022】
モータハウジング3は、前側に開口を有する有底の円筒状をなし、前後に円筒状に延びるモータ周壁31と、モータ周壁31の後端で円板状をなすモータ底壁33とを有している。モータハウジング3の前端にはフロントハウジング1が固定されており、モータハウジング3の前側の開口はフロントハウジング1で塞がれている。モータハウジング3内には、モータ周壁31に固定された軸支部材5が収容されている。また、モータハウジング3内には、軸支部材5の前方でモータ周壁31に固定された固定スクロール7が収容されている。フロントハウジング1と固定スクロール7との間には、圧縮機構10の吐出室10aが区画されている。フロントハウジング1の前端壁には、前端壁を貫通する吐出口10bが形成されている。モータ周壁31には、モータ周壁31を貫通する吸入口10cが形成されている。吸入口10c及び吐出口10bは、図示しない外部冷媒回路に接続されている。
【0023】
モータハウジング3内には、固定スクロール7に対して前後方向に対向して配置された可動スクロール9が収容されている。固定スクロール7と可動スクロール9とが噛み合うことで、両者の間に圧縮機構10の圧縮室10dが区画されている。圧縮室10dは、軸支部材5に形成された吸入通路5aを介してモータ収容室3aと連通している。また、圧縮室10dは、固定スクロール7に形成された吐出通路7aを介して吐出室10aと連通している。モータハウジング3内には、軸支部材5とモータ底壁33とにより回転可能に支持された回転軸21が収容されている。可動スクロール9は、回転軸21の前端にブッシュ23等を介して連結されている。
【0024】
モータハウジング3内には、軸支部材5より後方にモータ収容室3aが区画されている。モータ収容室3aは圧縮機構10の吸入室を兼ねている。モータ機構12はモータ収容室3a内に収容されている。
【0025】
モータ機構12は、円筒状のステータコア41と、円筒状のロータ43と、コイルエンド45とを有している。ステータコア41はモータ周壁31に固定されている。ロータ43は、回転軸21に固定されるとともに、ステータコア41の内側に配置されている。コイルエンド45は、ステータコア41に導線を巻回して形成されるとともに、ステータコア41の端面から突出している。導線は、導電性芯材と、導電性芯材を覆う絶縁被膜とから構成されている。
【0026】
図2に示されるように、モータ機構12は、導線よりなる複数(本実施例では3本)のモータ側リード線47と、コネクタ50とを有している。各モータ側リード線47は、モータ機構12のU相コイル、V相コイル及びW相コイルのコイルエンド45からそれぞれ引き出されている。図2においては、説明の便宜上、コイルエンド45から直状に延びたモータ側リード線47が示されているが、実際には、各モータ側リード線47は、ステータコア41の後端面に沿って周方向に延びている。
【0027】
コネクタ50は、各モータ側リード線47とインバータ回路16とを電気的に接続している。コネクタ50は、絶縁性材料としての樹脂からなるコネクタハウジング51を有している。コネクタハウジング51は、一面が開口する箱状の本体部53と、本体部53の開口を塞ぐ蓋部55とを有している。本体部53と蓋部55とは図示しない樹脂により気密的に接合されており、コネクタハウジング51内には複数の端子収容室51aが形成されている。各端子収容室51aには、端子57が収容されている。蓋部55には、各モータ側リード線47がそれぞれ挿通される複数の挿入口51bが形成されている。各モータ側リード線47の先端は、それぞれ挿入口51bを通って端子57に電気的に接続されている。各端子57には、それぞれ棒状導電部59が電気的に接続されている。各棒状導電部59は、それぞれ本体部53に形成された図示しない挿通口を通ってコネクタハウジング51の外部まで延びている。棒状導電部59が挿通された挿通口は図示しない絶縁体により封止されている。各棒状導電部59は、インバータ側リード線17によりインバータ回路16と電気的に接続されている。
【0028】
図1に示すように、モータ底壁33の後面には、前面が開口した箱状のインバータカバー18が固定されている。インバータカバー18は金属製であり、例えばアルミニウム合金製である。モータ底壁33とインバータカバー18との間にはインバータ収容室18aが区画されている。インバータ回路16は、モータ底壁33の後面に取り付けられて、インバータ収容室18a内に収容されている。インバータ回路16は、図示しない電気部品、例えば回路基板、スイッチング素子やコイルを有している。インバータ回路16は、インバータカバー18に形成された図示しない挿通口を介して外部電源と接続されるようになっている。
【0029】
モータ底壁33には、モータ収容室3aとインバータ収容室18aとを連通する連通口33aが形成されている。連通口33aには、連通口33aを挿通する複数の棒状導電部59が絶縁体35を介して保持されている。
【0030】
モータ機構12は、図2に示されるように、各モータ側リード線47をそれぞれ覆う複数の筒部材60を有している。各筒部材60は、絶縁材料からなり、絶縁性チューブよりなる内筒部材61と、絶縁性チューブよりなる外筒部材63とをそれぞれ有している。内筒部材61は本発明における第1絶縁部材に相当し、外筒部材63は本発明における第2絶縁部材に相当する。各内筒部材61は、それぞれ、モータ側リード線47との間に第1隙間61cを形成しつつモータ側リード線47を覆っている。各外筒部材63は、それぞれ、内筒部材61との間に第2隙間63cを形成しつつ内筒部材61を覆っている。
【0031】
図2においては、説明の便宜上、直状に延びた内筒部材61及び外筒部材63が示されているが、実際には、内筒部材61及び外筒部材63はモータ側リード線47と同様ステータコア41の後端面に沿って周方向に延びている。また、図3に示されるように、第2隙間63cの大きさG2は第1隙間61cの大きさG1よりも小さくされている。G1の値は、モータ側リード線47の外周面と内筒部材61の内周面との間の径方向長さで規定される。G2の値は、内筒部材61の外周面と外筒部材63の内周面との間の径方向長さで規定される。
【0032】
各内筒部材61の一端の開口61aは、それぞれ、絶縁性の樹脂49によって閉塞されている。すなわち、樹脂49は、開口61a内に侵入して開口61aを塞ぐとともに、開口61aから延出したリード線47とコイルエンド45の周囲を一体的に覆っている。これにより、内筒部材61の一端とコイルエンド45とは樹脂49を介して気密的に接合されている。一方、各内筒部材61の他端はそれぞれ挿入口51bの近傍、すなわちコネクタハウジング51の端面51cの近傍まで延びており、他端の開口61bは外筒部材63内で開放されている。これにより、開口61bは内筒部材61の内部と外筒部材63の内部とを連通している。
【0033】
各外筒部材63の一端はそれぞれコイルエンド45の近傍まで延びており、一端の開口63aはモータ収容室3a内で開放されている。これにより、開口63aは、外筒部材63の内部とモータ収容室3aとを連通している。一方、各外筒部材63の他端はそれぞれ端子収容室51a内まで延びており、他端の開口63bは端子収容室51a内で開放されている。これにより、開口63bは、外筒部材63の内部と端子収容室51aとを連通している。外筒部材63の他端付近の外周面は図示しない樹脂を介して挿入口51bに隙間なく接合されている。また、外筒部材63の他端は端子57にかしめ接合されるとともに、他端の外周面が図示しない樹脂を介して端子57に隙間なく接合されている。
【0034】
図3に示されるように、モータハウジング3内において、内筒部材61と外筒部材63とが重複している長さLdは、内筒部材61のみの長さLiより長く、かつ、外筒部材63のみの長さLoより長くされている。重複長さLdは、内筒部材61の他端の開口61bと外筒部材63の一端の開口63aとの間の軸方向長さで規定される。内筒部材61のみの長さLiは、内筒部材の一端の開口61aと外筒部材63の一端の開口63aとの間の軸方向長さで規定される。外筒部材63のみの長さLoは、内筒部材の他端の開口61bとコネクタハウジング51の端面51cとの間の軸方向長さで規定される。
【0035】
上記構成の電動圧縮機では、外部電源からステータコア41に電力が供給されると、ロータ43と共に回転軸21が回転する。回転軸21が回転すると、回転軸21に連結された可動スクロール9が公転し、可動スクロール9と固定スクロール7との間の圧縮室10dの容積が減少する。外部冷媒回路の冷媒は、吸入口10cを介してモータハウジング3a内に吸入される。モータハウジング3a内に吸入された冷媒は、吸入通路5aを経由して圧縮室10dへ吸入されるとともに、圧縮室10dで圧縮される。圧縮室10d内で圧縮された冷媒は、吐出通路7aから吐出室10aへ吐出される。吐出室10a内の冷媒は、吐出口10bを介して外部冷媒回路へ流出する。そして、外部冷媒回路へ流出した冷媒は、外部冷媒回路の熱交換器や膨張弁を経て、吸入口10cを介してモータハウジング3a内に還流する。電動圧縮機及び外部冷媒回路は、車両空調装置を構成している。
【0036】
この電動圧縮機では、モータ側リード線47が内筒部材61で覆われ、その内筒部材61がさらに外筒部材63で覆われている。内筒部材61の一端の開口61aはコイルエンド45によって閉塞される一方、内筒部材61の他端の開口61bは外筒部材63内で開放されて内筒部材61の内部と外筒部材63の内部とを連通している。また、外筒部材63の一端の開口63aはモータ収容室3a内で開放されて外筒部材63の内部とモータ収容室3aとを連通する一方、外筒部材63の他端の開口63bは端子収容室51a内で開放されて外筒部材63の内部と端子収容室51aとを連通している。
【0037】
筒部材60が上記二重構造をなすこのような構成によれば、内筒部材61内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対して有効な漏電対策を施すことができる。すなわち、図3に示されるように、内筒部材61内にあるモータ側リード線47に微小傷MSが付いている場合、この微小傷MSから外筒部材63の一端の開口63aまでの液冷媒を介する漏電経路の長さLは、微小傷MSから内筒部材61の他端の開口61bまでの距離L1と、内筒部材61の他端の開口61bから外筒部材63の一端の開口63aまでの距離L2との合計長さとなる。このため、内筒部材61内にあるモータ側リード線47に微小傷MSが付いている場合であっても、その微小傷MSから外筒部材63の一端の開口63aまでの漏電経路の長さLを有効に確保することができる。よって、内筒部材61内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対しても有効な漏電対策を施すことが可能になる
【0038】
他方、この電動圧縮機では、コネクタハウジング51の端子収容室51a内は第2隙間63cを介してモータ収容室3aに通じている。このため、コネクタハウジング51内の空気を第2隙間63cを介してモータ収容室3aに逃がすことができる。よって、コネクタハウジング51内が高温になったとしても、コネクタハウジング51内の圧力が過度に上昇することがない。
【0039】
したがって、この電動圧縮機によれば、モータ側リード線47を筒部材60で覆うことでコネクタハウジング51内の過度の圧力上昇を防ぎつつ、筒部材60内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対しても有効な漏電対策を施すことが可能になる。
【0040】
この電動圧縮機では、モータ収容室3a内において、内筒部材61と外筒部材63とが重複している長さLdは、内筒部材61のみの長さLiより長く、かつ、外筒部材63のみの長さLoより長い。このため、筒部材60を内外の二重構造にしたことによる漏電対策がより有効になる。なお、コネクタハウジング51の端面51c、すなわち挿入口51bとコイルエンド45との距離Lfは、内筒部材61のみの長さLiと、重複長さLdと、外筒部材63のみの長さLoとの合計長さと規定される。
【0041】
この電動圧縮機では、第2隙間63cの大きさG2は第1隙間61cの大きさG1よりも小さい。内筒部材61内にあるモータ側リード線47に付いた微小傷MSから外筒部材63の一端の開口63aまでの漏電経路の長さLは、微小傷MSから内筒部材61の他端の開口61bまでの第1隙間61cの長さL1と、内筒部材61の他端の開口61bから外筒部材63の一端の開口63aまでの第2隙間63cの長さL2との合計となる。上記第1隙間61cの長さL1は、モータ側リード線47に付いた微小傷MSの位置によって短くも長くもなる。一方、上記第2隙間63cの長さL2は、内筒部材61と外筒部材63との重複長さLdに等しい。このため、内筒部材61と外筒部材63との重複長さLdを所定以上とすることで、漏電対策に有効な漏電経路が細い第2隙間63cの長さL2を所定以上とすることができ、内筒部材61内にあるモータ側リード線47に付いた微小傷MSの位置に関係なく、所定以上の上記漏電対策の効果を発揮させることができる。
【0042】
この電動圧縮機では、樹脂49により内筒部材61の一端の開口61aを塞ぐとともに、その樹脂49により内筒部材61の一端をコイルエンド45と接合している。このため、開口61aを容易かつ確実に塞ぐことができる。樹脂モールドによって内筒部材61の一端をコイルエンド45に一体的かつ気密的に接合してもよく、この場合も内筒部材61の開口61aを容易かつ確実に塞ぐことができる。内筒部材61の一端の開口61aを塞ぐ樹脂49と、コイルエンド45を覆う樹脂49は別材料であって、互いが硬化する際に結合されていてもよい。
【0043】
(実施例2)
実施例2の電動圧縮機は、実施例1の電動圧縮機における筒部材60及びコネクタ50の構成を変更したこと以外は、実施例1の電動圧縮機と同様の構成を有する。実施例2の電動圧縮機におけるコネクタ50では、図4に示されるように、端子収容室51a及び挿入口51bを有するコネクタハウジング51が、絶縁材料からなる複数の外筒部65を一体に有している。
【0044】
各外筒部65は、それぞれコネクタハウジング50の挿入口51bから連続して筒状に延び、内筒部材61との間に第2隙間65cを形成しつつ内筒部材61を覆っている。外筒部65の一端はコイルエンド45の近傍まで延びており、一端の開口65aはモータ収容室3a内で開放されている。これにより、開口65aは、外筒部65の内部とモータ収容室3aとを連通している。一方、外筒部65の他端の開口65bは挿入口51bに通じている。これにより、開口65bは、外筒部65の内部と端子収容室51aとを挿入口51bを介して連通している。
【0045】
モータハウジング3内において、内筒部材61と外筒部65とが重複している長さLdは、内筒部材61のみの長さLiより長く、かつ、外筒部65のみの長さLoより長くされている。また、第2隙間65cの大きさG2は第1隙間61cの大きさG1よりも小さい。
【0046】
実施例2の電動圧縮機では、外筒部65が実施例1の電動圧縮機の外筒部材63と同様に作用するため、モータ側リード線47を筒部材60で覆うことでコネクタハウジング51内の過度の圧力上昇を防ぎつつ、筒部材60内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対しても有効な漏電対策を施すことが可能になる。
【0047】
この電動圧縮機では、外筒部65がコネクタハウジング51と一体になっているので、部品点数及び組立工数が削減する。この電動圧縮機における他の作用は、実施例1の電動圧縮機と同様である。
【0048】
(実施例3)
実施例3の電動圧縮機は、実施例1の電動圧縮機における内筒部材61を長くしたこと以外は、実施例1の電動圧縮機と同様の構成を有する。実施例3の電動圧縮機では、図5に示されるように、内筒部材61の他端が端子収容室51a内に位置している。すなわち、内筒部材61の他端は端子収容室51a内まで延びており、他端の開口61bは端子収容室51a内まで延びた位置で外筒部材63内で開放されている。これにより、開口61bは、外筒部材63の他端付近で内筒部材61の内部と外筒部材63の内部とを連通している。
【0049】
この電動圧縮機では、内筒部材61と外筒部材63との重複長さLdが、内筒部材61が長くなった分だけ実施例1の電動圧縮機のものよりも長くなっている。このため、内筒部材61内にあるモータ側リード線47に付いた微小傷MSから外筒部材63の一端の開口63aまでの漏電経路の長さLも、実施例1の電動圧縮機のものよりも長くなり、微小傷MSに対する漏電対策をより有効なものとすることができる。この電動圧縮機における他の作用は、実施例1の電動圧縮機と同様である。
【0050】
(参考例1)
参考例1の電動圧縮機は、実施例1の電動圧縮機における内筒部材61の他端の開口61bを閉塞したこと以外は、実施例1の電動圧縮機と同様の構成を有する。参考例1の電動圧縮機では、図6に示されるように、内筒部材61の他端の開口61bは絶縁性の樹脂67によって閉塞されている。すなわち、樹脂67は、開口61b内に侵入して開口61bを塞いでおり、これにより、内筒部材61の他端の開口61bはモータ側リード線47に対して閉塞されている。
【0051】
この電動圧縮機では、内筒部材61の両端の開口61a及び61bがいずれもモータ側リード線47に対して閉塞されている。このため、内筒部材61内にあるモータ側リード線47に微小傷MSが付いていたとしても、その微小傷MSに液冷媒が接触することがない。よって、内筒部材61内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対して確実な漏電対策を施すことが可能になる。
【0052】
他方、実施例1の電動圧縮機と同様、内筒部材61と外筒部材63との間の第2隙間63cを介してコネクタハウジング51内の空気をモータ収容室3aに逃がすことができるため、コネクタハウジング51内が高温になったとしても、コネクタハウジング51内の圧力が過度に上昇することがない。
【0053】
(参考例2)
参考例2の電動圧縮機は、実施例2の電動圧縮機における内筒部材61の他端の開口61bを閉塞したこと以外は、実施例2の電動圧縮機と同様の構成を有する。参考例2の電動圧縮機では、図7に示されるように、内筒部材61の他端の開口61bは参考例1の電動圧縮機と同様、絶縁性の樹脂67によって閉塞されている。
【0054】
この電動圧縮機では、参考例2の電動圧縮機と同様、内筒部材61の両端の開口61a及び61bがいずれもモータ側リード線47に対して閉塞されているため、内筒部材61内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対して確実な漏電対策を施すことが可能になる。
【0055】
参考例1及び参考例2の電動圧縮機においては、内筒部材61の両端の開口61a及び61bが閉塞されるため、第1隙間61cをあえて設ける必要はない。
【0056】
(参考例3)
参考例3の電動圧縮機は、実施例1の電動圧縮機における内筒部材61の内部全体を樹脂49にて埋めたこと以外は、実施例1の電動圧縮機と同様の構成を有する。参考例3の電動圧縮機では、図8に示されるように、内筒部材61の内部全体は他端の開口61bまで樹脂49によって埋まっている。すなわち、樹脂49は、開口61bまで侵入して開口61bを塞いでおり、これにより、内筒部材61の他端の開口61bはモータ側リード線47に対して閉塞されている。
【0057】
この電動圧縮機では、内筒部材61の内部全体にわたって樹脂49がリード線47を覆っている。このため、内筒部材61内にあるモータ側リード線47に微小傷MSが付いていたとしても、その微小傷MSに液冷媒が接触することがない。よって、内筒部材61内にあるモータ側リード線47の微小傷MSに対して確実な漏電対策を施すことが可能になる。
【0058】
他方、実施例1の電動圧縮機と同様、内筒部材61と外筒部材63との間の第2隙間63cを介してコネクタハウジング51内の空気をモータ収容室3aに逃がすことができるため、コネクタハウジング51内が高温になったとしても、コネクタハウジング51内の圧力が過度に上昇することがない。
【0059】
以上において、本発明を実施例1~3に即して説明したが、本発明は上記実施例1~3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0060】
例えば、上記実施例1~3では、圧縮機構10がスクロール式であるが、本発明の電動圧縮機では、斜板式、ベーン式等、他の形式の圧縮機構を採用することも可能である。
【0061】
また、実施例1~3の各構成を適宜組み合わせることによって、電動圧縮機を形成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は車両等の空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…圧縮機構
12…モータ機構
3a…モータ収容室
14…ハウジング
16…インバータ回路
41…ステータコア
45…コイルエンド
47…リード線
50…コネクタ
61c…第1隙間
61…内筒部材
57…端子
51a…端子収容室
51b…挿入口
51…コネクタハウジング
63c…第2隙間
63…外筒部材
61a…内筒部材の一端の開口
61b…内筒部材の他端の開口
63a…外筒部材の一端の開口
63b…外筒部材の他端の開口
Ld…内筒部材と外筒部材とが重複している長さ
Li…内筒部材のみの長さ
Lo…外筒部材のみの長さ
65…外筒部
65a…外筒部の一端の開口
65b…外筒部の他端の開口
G1…第1隙間の大きさ
G2…第2隙間の大きさ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8