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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132020
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】ロール金型製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 15/00 20060101AFI20220831BHJP
   B41C 1/045 20060101ALI20220831BHJP
   B41M 1/10 20060101ALI20220831BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20220831BHJP
   B23B 5/10 20060101ALI20220831BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20220831BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
B23P15/00 C
B41C1/045
B41M1/10
B23B1/00 D
B23B5/10
B23B27/00 A
B29C33/38
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112351
(22)【出願日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021030798
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(74)【代理人】
【識別番号】100163511
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 啓太
(72)【発明者】
【氏名】野田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 純一
(72)【発明者】
【氏名】野上 朝彦
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 恭子
【テーマコード(参考)】
2H084
2H113
3C045
3C046
4F202
【Fターム(参考)】
2H084AA03
2H084AE06
2H113AA06
2H113BA03
3C045AA01
3C045AA07
3C045BA01
3C045CA07
3C045DA06
3C045DA30
3C045EA04
3C046CC01
4F202AF01
4F202AG05
4F202AH74
4F202AH75
4F202CA19
4F202CA30
4F202CB02
4F202CB29
4F202CC07
4F202CD18
4F202CD30
(57)【要約】
【課題】描画対象に応じて任意の切削箇所を任意の切削深さでより高精度に切削する。
【解決手段】ロール金型製造方法は、描画対象を複数の切削孔の配置および深さにより表現した階調信号を生成する信号生成ステップと、ロータリーエンコーダまたはスケールから出力された信号に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロールの切削箇所を決定し、決定した切削箇所で切削刃をロールの径方向に往復移動させる制御波形を生成する生成ステップと、制御波形に従い、切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、決定した切削箇所を切削刃により1または複数回切削する切削工程が行われるように、切削工具用ステージをロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、切削ステップでは、複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での切削深さが、階調信号に示される複数の切削孔それぞれの深さとなるように切削工具用ステージを移動させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させる回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向および軸方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置におけるロール金型製造方法であって、
前記ロールへの描画対象を、前記ロールを切削した複数の切削孔の配置および前記複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する信号生成ステップと、
前記回転装置が備える、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダから出力された信号、および、前記切削工具用ステージが備える、前記ロールの軸方向の前記切削刃の位置に応じた信号を出力するスケールから出力された信号の少なくとも一方に基づき、前記階調信号で示される前記複数の切削孔の配置に対応する前記ロールの切削箇所を決定し、該決定した切削箇所で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する制御波形生成ステップと、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記決定した切削箇所を前記往復移動する切削刃により1または複数回切削する切削工程が行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、
前記切削ステップでは、前記複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での前記切削工程による切削深さが、前記階調信号に示される前記複数の切削孔それぞれの深さとなるように前記切削工具用ステージを移動させる、ロール金型製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、先端部が錘状または錘台状を有する、ロール金型製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、正面視において、左右非対称な形状である、ロール金型製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記制御波形は、前記切削刃の加工軌跡が非対称な形状となるような波形である、ロール金型製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記制御波形は、前記切削刃の加工軌跡が、複数の形状を組み合わせた形状となるような波形である、ロール金型製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、前記ロールの径方向を回転軸として回転可能である、ロール金型製造方法。
【請求項7】
円筒状または円柱状のロール金型であって、
表面には複数の凹部が形成され、
前記複数の凹部の深さは、複数の深さを含む、ロール金型。
【請求項8】
請求項7に記載のロール金型において、
前記複数の凹部の開口径は、複数の長さを含む、ロール金型。
【請求項9】
基材上に、樹脂により形成され、請求項7または8に記載のロール金型の表面に形成された凹凸パターンが転写された転写層を備える転写物。
【請求項10】
基材上に、請求項7または8に記載のロール金型の表面に形成された凹凸パターンに応じた画像をインクにより印刷した印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール金型製造方法、ロール金型、転写物および印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状または円柱状のロールの表面に凹形状を形成したロール金型は、ロール金型の表面に形成された凹凸パターンを転写した転写物および凹凸パターンを印刷した印刷物などの提供に用いられる。
【0003】
ロール金型を用いた転写物の一例としては、サグ量(レンズ面が面頂点から光軸方向にどれだけ凹んでいるかを表す幾何学的な面形状量)が均一あるいは一定程度のばらつきを有する複数のマイクロレンズが規則的にあるいはランダムに配置されたマイクロレンズアレイがある。このような転写物を作成するためには、ロールの表面の任意の切削箇所を任意の切削深さで高精度に切削する必要がある。
【0004】
また、ロール金型を用いた印刷物の一例としては、ロール金型の表面に形成された、複製対象の絵画などに応じた凹凸パターンを印刷した複製物などがある。印刷される画像を構成するドットの大きさおよびドットの配置パターンにより階調を表現することで、精細度の高い印刷物の提供が可能となる。このような印刷部を提供するためには、ロールの表面の任意の切削箇所を任意の切削深さで高精度に切削する必要がある。
【0005】
特許文献1には、グラビア印刷を行うためのグラビア印刷ロールにおいて、階調表現を網点の大小で表わすAM(Amplitude Modulation)スクリーンと、階調表現を微小な網点の個数で表わすFM(Frequency Modulation)スクリーンとを組み合わせる技術が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、原画像を構成する各画素の画素値に、ノイズ成分を付加することにより揺らぎの要素を含んだ修正画像を作成し、修正画像を構成する個々の画素の画素値に応じた大きさのセルを彫刻してグラビア印刷用の版を作成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-284295号公報
【特許文献2】特開平11-020118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献1に記載の技術においては、FMスクリーンでは階調表現を微小な網点の個数で表わしている。そのため、特許文献1に記載の技術では、階調表現を高めるには、網点をより微細化する必要があるが、一般に、微細化にも限度があり、高精細化が困難となる。また、特許文献2に記載の技術では、原画像を構成する各画素の画素値にノイズ成分を付加するため、形成される切削孔の形状が所望の形状からずれてしまうことがある。このようなずれが生じたロール金型を用いると、転写および印刷の精度の劣化を招いてしまう。
【0009】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、描画対象に応じて任意の切削箇所を任意の切削深さでより高精度に切削したロール金型を製造することができるロール金型製造方法、ロール金型、転写物および印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態に係るロール金型製造方法は、円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させる回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向および軸方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置におけるロール金型製造方法であって、前記ロールへの描画対象を、前記ロールを切削した複数の切削孔の配置および前記複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する信号生成ステップと、前記回転装置が備える、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダから出力された信号、および、前記切削工具用ステージが備える、前記ロールの軸方向の前記切削刃の位置に応じた信号を出力するスケールから出力された信号の少なくとも一方に基づき、前記階調信号で示される前記複数の切削孔の配置に対応する前記ロールの切削箇所を決定し、該決定した切削箇所で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する制御波形生成ステップと、前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記決定した切削箇所を前記往復移動する切削刃により1または複数回切削する切削工程が行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、前記切削ステップでは、前記複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での前記切削工程による切削深さが、前記階調信号に示される前記複数の切削孔それぞれの深さとなるように前記切削工具用ステージを移動させる。
【0011】
一実施形態に係るロール金型は、円筒状または円柱状のロール金型であって、表面には複数の凹部が形成され、前記複数の凹部の深さは、複数の深さを含む。
【0012】
一実施形態に係る転写物は、基材上に、樹脂により形成され、上記のロール金型の表面に形成された凹凸パターンが転写された転写層を備える。
【0013】
一実施形態に係る印刷物は、基材上に、上記のロール金型の表面に形成された凹凸パターンに応じた画像をインクにより印刷したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、描画対象に応じて任意の切削箇所を任意の切削深さでより高精度に切削したロール金型を製造することができるロール金型製造方法、ロール金型、転写物および印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明の一実施形態に係るロール金型製造装置の構成例を示す図である。
図1B】本発明の一実施形態に係るロール金型製造装置の他の構成例を示す図である。
図2A図1Aに示す切削刃の一例を示す図であり、切削刃を正面から見た図である。
図2B図2Aに示す切削刃を側面から見た図である。
図2C】加工軌跡と切削刃の形状とに応じた切削孔の一例を示す図である。
図2D】加工軌跡と切削刃の形状とに応じた切削孔の別の一例を示す図である。
図2E】加工軌跡と切削刃の形状とに応じた切削孔のさらに別の一例を示す図である。
図2F】加工軌跡と切削刃の形状とに応じた切削孔のさらに別の一例を示す図である。
図2G】加工軌跡と切削刃の形状とに応じた切削孔のさらに別の一例を示す図である。
図2H】加工軌跡と切削刃の形状とに応じた切削孔のさらに別の一例を示す図である。
図3A図1Aに示す信号生成部による制御波形の生成について説明するための図である。
図3B図1Aに示す信号生成部が生成する制御波形の別の一例を示す図である。
図3C図1Aに示す信号生成部が生成する制御波形のさらに別の一例を示す図である。
図4図1A,1Bに示す信号生成部による制御波形の生成について説明するためのフローチャートである。
図5図1A,1Bに示すロール金型製造装置によるロール金型製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6A図1Aに示すロール金型製造装置の動作の具体例を示すフローチャートである。
図6B図1Bに示すロール金型製造装置の動作の具体例を示すフローチャートである。
図7A】実施例1における切削孔の配置パターンを示す図である。
図7B】実施例2における切削孔の配置パターンを示す図である。
図8A】実施例1に係るロール金型の表面を撮影した図である。
図8B】実施例2に係るロール金型の表面を撮影した図である。
図8C】比較例1に係るロール金型の表面を撮影した図である。
図9A】実施例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
図9B】実施例2に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
図9C】比較例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
図10】切削孔の配置の一例を示す図である。
図11】実施例3に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
図12】実施例4に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
図13図1Bに示すロール金型製造装置により製造されたロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面を撮影した図である。
図14A】切削刃を用いない加工法により孔を形成したロールの表面パターンを転写した転写物の表面を撮影した図である。
図14B】回転しない切削刃により切削孔を形成したロールの表面パターンを転写した転写物の表面を撮影した図である。
図14C】回転する切削刃により切削孔を形成したロールの表面パターンを転写した転写物の表面を撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図中、同一符号は、同一または同等の構成要素を示している。
【0017】
図1Aは、本発明の一実施形態に係るロール金型製造装置10の構成例を示す図である。本実施形態に係るロール金型製造装置10は、描画対象に応じて、円筒状または円柱状のロール1を任意の切削箇所を任意の切削深さで切削したロール金型を製造する製造装置である。
【0018】
図1Aに示すロール金型製造装置10は、回転装置11と、切削刃12と、PZTステージ13と、切削工具用ステージ14と、信号生成部15と、制御部16と、増幅部17とを備える。
【0019】
回転装置11は、円筒状または円柱状のロール1を軸方向から支持し、ロール1を円周方向に回転させる。ロール1は、例えば、母材がSUS(Steel Use Stainless)などの金属で構成される。ロール1の表面には、Ni-PあるいはCuなどの快削性のめっきが施される。ロール1は、めっきに限られず、純銅あるいはアルミなどの快削性の材料であってもよい。回転装置11は、ロータリーエンコーダ11aを備える。
【0020】
ロータリーエンコーダ11aは、ロール1の回転位置に応じた信号を信号生成部15に出力する。ロール1の回転位置に応じた信号は、ロール1の回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとに出力されるトリガ信号と、ロール1が所定量回転するごとに出力されるパルス信号とを含む。
【0021】
切削刃12は、ロール1を切削する切削工具である。切削刃12は、例えば、セラミックチップ、ダイヤモンドチップあるいは超硬チップなどの硬質材料で構成される。
【0022】
PZTステージ13は、切削刃12を保持する。PZTステージ13は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)圧電素子を備え、駆動信号の電圧レベルに応じてPZT圧電素子が伸縮することで、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。したがって、切削刃12は、PZTステージ13により、ロール1の径方向に往復移動可能である。なお、切削刃12を駆動する駆動手段は、PZT圧電素子に限られない。
【0023】
図2Aは切削刃12の一例を示す図であり、切削刃12を正面から見た図である。また、図2Bは、図2Aに示す切削刃12を側面から見た図である。
【0024】
図2Aに示す例では、切削刃12は、円形状を有する。切削刃12は、切削刃12の正面がロール1の円周方向に向かうように配置される。上述したように、ロール1は、円周方向に回転している。回転するロール1に向かって切削刃12をロール1の径方向に往復移動させることで、切削刃12は、見かけ上、図2Bに示す破線矢印のように、半円状に移動し、ロール1を切削する。ロール1の径方向に往復移動する切削刃12による切削により、切削孔(ロール1の凹部)の底面は曲面となる。具体的には、切削孔には、切削刃12の円形部分の曲率と同じ曲率の円形状の底面が形成される。
【0025】
なお、図2Aでは、切削刃12は、円形状を有する例を用いて説明したが、本発明はこの例に限られるものではない。切削刃12は、例えば、先端部が円錐、角錐などの錘状の形状を有していてもよい。また、切削刃12は、例えば、先端に向かって先細りの錘台状であってもよい。また、切削刃12は、回転工具であってもよい。要は、切削刃12には、ロール1の径方向への往復移動により、ロール1を径方向に切削することが可能であれば任意の工具であってよい。
【0026】
また、図2Bにおいては、見かけ上、切削刃12を半円状に移動させる例を用いて説明したが、本発明はこれに限られるものではない。見かけ上、切削刃12は、例えば、切削刃12を側面から見て台形状あるいは三角形状に移動してもよい。切削刃12の形状および切削刃12の見かけ上の移動の軌跡(加工軌跡)を変化させることで、開口が種々の形状の切削孔を形成することができる。
【0027】
図2Cから図2Eに、加工軌跡と切削刃12の形状とによる切削孔の形状の一例を示す。図2Cは、加工軌跡が半円状であり、切削刃12が正面から見て台形状、半円状、錘状である場合の切削孔の形状を示す図である。図2Dは、加工軌跡が台形状であり、切削刃12が正面から見て台形状、半円状、錘状である場合の切削孔の形状を示す図である。図2Eは、加工軌跡が三角形状であり、切削刃12が正面から見て台形状、半円状、錘状である場合の切削孔の形状を示す図である。
【0028】
図2Cから図2Eに示すように、加工軌跡および切削刃12の形状を調整することで、種々の形状の切削孔を形成することができる。また、切削孔の底面は、図2Cから図2Eに示す各加工軌跡に沿った形状となる。
【0029】
図1Aを再び参照すると、切削工具用ステージ14は、PZTステージ13を保持し、切込軸方向(ロール1の径方向)と送り軸方向(ロール1の軸方向)とに移動する。切削工具用ステージ14が移動することで、切削工具用ステージ14に保持されたPZTステージ13および切削刃12も、切込軸方向および送り軸方向に移動する。ロール1を回転させながらPZTステージ13により切削刃12をロール1の径方向に往復移動させてロール1を切削するともに、PZTステージ13をロール1の径方向および軸方向に移動させることで、ロール1の全面に亘って切削孔を形成することができる。
【0030】
信号生成部15は、描画対象を示す描画データが入力される。信号生成部15は、入力された描画データに基づき、ロール1を切削した複数の切削孔の配置および複数の切削孔の深さにより描画対象を表現した階調信号を生成する。描画データは、例えば、転写物に転写する凹凸パターンのデータである。また、描画データは、例えば、印刷物に印刷する画像などのデータである。信号生成部15は、入力された描画データに基づき、ロール1を切削した複数の切削孔の配置および複数の切削孔の深さにより、描画対象を階調表現した階調信号を生成する。例えば、信号生成部15は、8段階の切削深さを示す階調信号を生成する。
【0031】
信号生成部15は、階調信号に示される複数の切削孔の配置および複数の切削孔の切削深さでロール1が切削されるように、切削刃12をロール1の径方向に移動させる移動パターンを示す制御波形を生成する。具体的には、信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所を決定する。そして、信号生成部15は、決定した切削箇所で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する。
【0032】
信号生成部15による制御波形の生成について、より詳細に説明する。
【0033】
上述したように、ロータリーエンコーダ11aは、ロール1の回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとにトリガ信号を出力する。具体的には、ロータリーエンコーダ11aは、例えば、図3Aに示すように、ロール1の回転位置が一回転における所定の基準位置に達するごとに立ち上がるパルス状の信号をトリガ信号として出力する。また、ロータリーエンコーダ11aは、図3Aに示すように、ロール1が所定量回転するごとに立ち上がるパルス状の信号をパルス信号として出力する。ロータリーエンコーダ11aは、例えば、ロール1の一回転分を144万分割した回転量ごとに立ち上がるパルス状の信号をパルス信号として出力する。
【0034】
信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aが出力したトリガ信号およびパルス信号が入力される。信号生成部15は、トリガ信号の出力タイミング(トリガ信号が立ち上がるタイミング)を基準として、パルス信号をカウントする。そして、信号生成部15は、パルス信号のカウント数に応じて制御波形を生成する。トリガ信号の出力タイミングを基準としてパルス信号をカウントすることで、信号生成部15は、所定の基準位置からのロール1の回転位置を特定することができる。したがって、信号生成部15は、階調信号に示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる切削刃12の移動パターンを示す制御波形を生成することができる。
【0035】
信号生成部15は、例えば、図3Aに示すような、半円形状の規則的な波形を有する制御波形を生成する。このような制御波形を生成することで、図2Bに示すような半円状の切削孔を規則的に形成することができる。ただし、制御波形の波形は図3Aに示す例に限られない。信号生成部15は、例えば、図3Bに示すような、振幅および波長の異なる半円状の波形を有する制御波形を生成してよい。このような制御波形を生成することで、深さおよび開口部の長さの異なる複数の半円形状の切削孔をランダムに形成することができる。また、信号生成部15は、例えば、図3Cに示すような、振幅および波長の異なる台形状の波形を有する制御波形を生成してよい。このような制御波形を生成することで、底面が平面状であり、深さおよび開口部の長さの異なる複数の切削孔をランダムに形成することができる。なお、制御波形の波長を長くすることで、ロール1の周方向に延在する溝を形成することも可能である。
【0036】
本実施形態においては、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき制御波形を生成し、制御波形に基づき切削刃12を往復移動させてロール1を切削することで、所定の切削箇所を正確に切削することができる。そのため、所定の切削箇所を所定の切削深さで1または複数回切削する切削工程を行っても、同じ切削箇所を正確に切削することができる。なお、所定の切削箇所を所定の切削深さまで一度に切削すると、切削深さ大きい場合に、ロール1の表面にバリと呼ばれる突起が生じることがある。本実施形態のように、所定の切削箇所を1または複数回切削する切削工程を行い、所望の深さの切削孔を形成することで、バリの発生を抑制することができる。従って、描画対象に応じて任意の切削箇所を任意の切削深さでより高精度に切削することができる。切削工程における切削回数および切削深さは、例えば、予め設定されている。
【0037】
図1Aを再び参照すると、信号生成部15は、生成した階調信号および制御波形を制御部16に出力する。
【0038】
制御部16は、信号生成部15により生成された制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させてロール1を切削する。具体的には、制御部16は、制御波形に基づき、PZTステージ13を駆動する駆動信号を生成し、増幅部17に出力する。増幅部17により駆動信号が増幅され、増幅された駆動信号によりPZTステージ13が駆動される。また、制御部16は、階調信号に従い、信号生成部15により決定された切削箇所を、ロール1の径方向に往復移動する切削刃12により1または複数回切削する切削工程が行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向および軸方向に移動させる。こうすることで、往復移動する切削刃12により、階調信号に応じた所定の切削箇所が所定の深さでロール1が切削される。上述したように、本実施形態においては、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号に基づき切削箇所を決定しているため、描画対象に応じて任意の切削箇所を任意の切削深さでより高精度に切削することができる。
【0039】
切削深さd1でx回切削する切削工程と、切削深さd2でy回切削する切削工程とにより切削孔を形成する場合を例とする。この場合、制御部16は、制御波形に従い、PZTステージ13を駆動して、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。そして、制御部16は、往復移動する切削刃12により切削深さd1でx回ロール1が切削されるように、切削工具用ステージ14を順次移動させる。次に、制御部16は、往復移動する切削刃12により切削深さd2でy回ロール1が切削されるように、切削工具用ステージ14を順次移動させる。
【0040】
なお、図1Aにおいては、信号生成部15は、回転装置11が備えるロータリーエンコーダ11aから出力される信号に基づき制御波形を生成する例を用いて説明したが、これに限られるものではない。図1Bは、本発明の一実施形態に係るロール金型製造装置10の他の構成例を示す図である。図1Bにおいて、図1Aと同様の構成には同じ符号を付して、説明を省略する。
【0041】
図1Bに示すように、切削工具用ステージ14は、スケール14aを備える。スケール14aは、ロール1の軸方向(送り軸方向)の切削刃12の位置に応じた信号を出力する。スケール14aは、例えば、切削工具用ステージ14が備える送り軸に内蔵される。
【0042】
信号生成部15は、切削工具用ステージ14が備えるスケール14aから出力された信号に基づき制御波形を生成する。制御部16は、切削工具用ステージ14を送り軸方向に移動させるとともに、制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に移動させる。したがって、図1Bに示すロール金型製造装置10においては、ロール1の軸方向に沿って切削が行われる。
【0043】
なお、信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aが出力した信号およびスケール14aが出力した信号に基づき、制御波形を生成してもよい。すなわち、信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aが出力した信号およびスケール14aが出力した信号の少なくとも一方に基づき、制御波形を生成してよい。
【0044】
また、切削刃12の形状、加工軌跡および切削孔の形状は、上述した例に限られるものではない。
【0045】
例えば、図2Fに示すように、加工軌跡は半円状で、切削部12の形状が正面視において、左右非対称であってよい。具体的には、切削刃12は、例えば、正面視において、左右非対称の台形、中心角が90度の円弧、あるいは直角三角形などの形状であってよい。この場合、図2Fに示すように、切削刃12の見かけ上の移動方向と直交する方向に非対称の切削孔が形成される。
【0046】
また、加工軌跡が非対称な形状であってもよい。例えば、図2Gに示すように、加工軌跡が、図2Cに示す半円状の円弧の途中で(例えば、中心角が90度の位置で)立ち上がる形状であってもよい。すなわち、制御波形が、切削刃12の加工軌跡が非対称な形状となるような波形であってもよい。この場合、図2Cに示す加工軌跡が半円状の場合と比較して、切削刃12の形状は同じであっても、切削孔は、図2Gに示すように、加工軌跡の立ち上がり位置に応じて、図2Cに示す切削孔から、切削方向に一部が欠けた形状となる。
【0047】
また、図2Hに示すように、加工軌跡は、複数の形状を組み合わせた形状であってもよい。すなわち、制御波形は、切削刃12の加工軌跡が、複数の形状を組み合わせた形状となるような波形であってよい。図2Hにおいては、加工軌跡が、曲率の異なる2つの円弧を組み合わせた形状である例を示している。加工軌跡が複数の形状を組み合わせた形状となることで、それぞれの形状の加工軌跡により形成される切削孔を組み合わせた形状の切削孔を形成することができる。
【0048】
このように、切削刃12の形状および加工軌跡を調整することで、任意の形状の切削孔を形成することができる。
【0049】
また、図1A,1Bでは、切削刃12がロール1の表面を周方向あるいは軸方向にスライドするようにして切削する例を用いて説明したが、これに限られるものではない。切削刃12は、ロール1の径方向を回転軸として回転可能に設けられてもよい。この場合、回転する切削刃12をロール1の径方向に往復移動させることで、切削することができる。
【0050】
次に、信号生成部15による階調信号の生成について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0051】
信号生成部15は、入力された描画データを取得する(ステップS11)。描画データは、例えば、デジタルカメラにより撮影されたビットマップ形式あるいはjpg形式の画像、あるいは、マイクロレンズアレイを構成する複数のマイクロレンズの配置を示す画像などである。
【0052】
信号生成部15は、例えば、ロール金型を用いて白黒印刷を行う場合には、取得した描画データに示される画像を白黒変換して(ステップS12)、白黒画像を生成する。信号生成部15は、ロール金型を用いてカラー印刷を行う場合には、取得した描画データに示される画像を、RGBの色ごとに白黒変換して白黒画像を生成する(3枚の白黒画像を生成する)。
【0053】
信号生成部15は、生成した白黒画像に基づき、階調データを生成する(ステップS13)。具体的には、信号生成部15は、ロール1の回転方向に対応する方向の白黒画像の画素数が、ロール1の回転方向に並ぶ所定のドット数となるように、白黒画像の画素の間引きまたは空データの追加を行う。信号生成部15は、送り軸方向(ロール1の軸方向)にも同様の処理を繰り返す。これにより、描画対象を白黒変換した白黒画像を、ロール1の回転方向のドット数および軸方向のドット数からなる白黒画像に変換した階調データが生成される。
【0054】
信号生成部15は、生成した階調データに基づき、描画対象を、ロール1を切削した複数の切削孔の配置および複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する(ステップS14)。具体的には、信号生成部15は、切削孔の形状の演算、切削孔のインターリーブ配列の演算などを行う。そして、信号生成部15は、生成した階調データに基づき、複数の切削孔それぞれの配置と複数の切削孔それぞれの切削深さを決定し、決定した配置および切削深さを示す階調信号を生成する。信号生成部15は、例えば、ロール1の周方向に1列ごとに、切削孔を形成する位置とその切削孔の深さとを示す信号を階調信号として生成する。信号生成部15は、生成した階調信号を制御部16に出力する(ステップS15)。また、信号生成部15は、生成した階調信号に基づき、ロール1の径方向の切削刃12の往復移動を制御する制御波形を生成し、制御部16に出力する。
【0055】
次に、本実施形態に係るロール金型製造方法について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0056】
描画対象の描画データが入力されると、信号生成部15は、描画対象を、ロール1を切削した複数の切削孔の配置および複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する(ステップS21)。信号生成部15は、図4を参照して説明した処理により、階調信号を生成する。
【0057】
次に、信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号(トリガ信号およびパルス信号)に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所を決定する。信号生成部15は、決定した切削箇所で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる切削刃12の移動パターンを示す制御波形を生成する(ステップS22)。信号生成部15は、スケール14aから出力された信号に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所を決定してもよい。また、信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号およびスケール14aから出力された信号に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所を決定してもよい。
【0058】
制御部16は、ロール1を切削する(ステップS23)。具体的には、制御部16は、信号生成部15により生成された制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる。また、制御部16は、階調信号に従い、信号生成部15により決定された切削箇所を往復移動する切削刃12により1または複数回切削する切削工程が行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。ここで、制御部16は、複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での切削工程による切削深さが、階調信号に示される複数の切削孔それぞれの深さとなるように切削工具用ステージ14を移動させる。
【0059】
このように本実施形態に係るロール金型製造方法は、信号生成ステップ(ステップS21)と、制御波形生成ステップ(ステップS22)と、切削ステップ(ステップS23)と、を含む。信号生成ステップでは、信号生成部15は、ロール1への描画対象を、ロール1を切削した複数の切削孔の配置および複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する。制御波形生成ステップでは、信号生成部15は、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号およびスケール14aから出力された信号の少なくとも一方に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所を決定し、決定した切削箇所で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる切削刃12の移動パターンを示す制御波形を生成する。切削ステップでは、制御部16は、制御波形に従い、切削刃12をロール1の径方向に往復移動させ、決定した切削箇所を往復移動する切削刃12により1または複数回切削する切削工程が行われるように、切削工具用ステージ14をロール1の径方向に移動させる。ここで、切削ステップでは、制御部16は、複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での切削工程による切削深さが、階調信号に示される複数の切削孔それぞれの深さとなるように切削工具用ステージ14を移動させる。
【0060】
本実施形態に係るロール金型製造方法によれば、描画対象を複数の切削孔の配置および複数の切削孔それぞれの深さで階調表現した階調信号を生成する。そして、ロータリーエンコーダ11aから出力された信号およびスケール14aから出力された信号の少なくとも一方に基づき、階調信号で示される複数の切削孔の配置に対応するロール1の切削箇所を決定し、決定した切削箇所で切削刃12をロール1の径方向に往復移動させる切削刃12の移動パターンを示す制御波形を生成する。こうすることで、描画対象に応じて任意の切削箇所を任意の切削深さでより高精度に切削することができる。
【0061】
本実施形態に係るロール金型製造方法により製造されるロール金型は、円筒状または円柱状であり、表面には複数の凹部(切削孔)が形成されたロール1を備える。上述したように、複数の凹部の深さは、複数の深さを含む。また、図3B,3Cを参照して説明したように、複数の凹部の開口径は、複数の長さを含んでよい。また、図2C~2Hを参照して説明したように、切削刃12による加工軌跡および切削刃12の形状により、開口が種々の形状の凹部を形成することができる。
【0062】
本実施形態に係るロール金型を用いることで、基材上に、樹脂により形成され、本実施形態に係るロール金型の表面に形成された凹凸パターンが転写された転写層を備える転写物を提供することができる。また、本実施形態に係るロール金型を用いることで、基材上に、本実施形態に係るロール金型の表面に形成された凹凸パターンに応じた画像をインクにより印刷した印刷物を提供することができる。
【0063】
図6Aは、図1Aに示すロール金型製造装置10の動作の具体例を示すフローチャートである。
【0064】
まず、回転装置11にロール1が載置される(ステップS101)。
【0065】
次に、ロール1に対して、ロール1の表面のめっき層を平坦化する平面加工が行われる(ステップS102)。
【0066】
次に、切削工具用ステージ14にPZTステージ13がセッティングされる(ステップS103)。
【0067】
次に、PZTステージ13に切削刃12がセッティングされる(ステップS104)。
【0068】
次に、回転装置11の回転速度が設定され(ステップS105)、回転装置11が、設定された回転速度でロール1の回転を開始させる(ステップS106)。
【0069】
次に、切削工具用ステージ14の位置が、送り軸方向のスタート位置と切込軸方向のスタート位置とに設定され(ステップS107、S108)、切削工具用ステージ14は、駆動を開始する(ステップS109)。
【0070】
信号生成部15により生成された階調信号に従い、切削工具用ステージ14が移動するとともに、信号生成部15により生成された制御波形に従い、切削刃12がロール1の径方向に往復移動することで、ロール1が切削される(ステップS110)。
【0071】
切削工具用ステージ14が送り軸方向の終了位置まで移動し、所定の切削箇所を所定の切削深さで切削する切削工程を複数回繰り返すことで、切削孔の切削が完了する(ステップS111)。
【0072】
切削刃12に摩耗が生じ、切削刃12を交換する必要が有る場合、切削刃12の交換(ステップS112)および切削刃12の位置決め(ステップS113)が行われ、その後、ステップS107からステップS111の処理が繰り返される。
【0073】
図6Bは、図1Bに示すロール金型製造装置10の動作の具体例を示すフローチャートである。図6Bにおいて、図6Aと同様の処理には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0074】
切削刃12がセッティングされた後(ステップS104)、切削工具用ステージ14による切削刃12の送り軸方向の移動の速度(送り速度)が設定される(ステップS201)。
【0075】
次に、回転装置11によるロール1の回転軸方向のスタート位置(回転軸スタート位置)が設定される(ステップS202)。以後、図6Aと同様に、切削が完了するまで、ステップS202,S107~S113の処理が繰り返される。すなわち、図1Bに示すロール金型製造装置10においては、切削刃12をロール1の径方向に移動させるとともに、切削刃12を設定された送り速度で送り軸方向に移動させることで、ロール1の軸方向に沿って切削を行うことができる。
【実施例0076】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0077】
(実施例1)
SUS304の表面にNi-Pのめっきを施したロールを用意した。ロールの直径は130mmであり、ロールの長さは250mmであった。
【0078】
次に、用意したロールを本実施形態に係るロール金型製造装置に載置し、ロール表面のNi-Pメッキ層に平面加工を行った。平面加工後のロールを切削して、切削孔を形成した。切削刃としては、先端の半径が0.1mmであり、正面から見て円形状のダイヤモンドチップからなる切削刃を用いた。ロールの回転数は2rpmとした。ロールの切削深さを0~6μmまで変化させ、所定の切削箇所に対して三回の切削を行った。ここで、1回ごとに切削箇所に対して上下左右に切削の位置を微少量だけずらして切削を行った。また、ロール1の周方向の切削軌跡(図2B参照)が半径0.1mmとなるような、任意の制御波形を用いた。切削箇所のパターン配置を図7Aに示す。
【0079】
(実施例2)
本実施例では、切削箇所のパターン配置を図7Bに示す配置とした。実施例1と同様に、ロールの切削深さを0~6μmまで変化させた、ただし、本実施例では、所定の切削箇所に対して一回の切削を行った。その他の条件は実施例1と同じとした。
【0080】
(比較例1)
比較例1では、実施例1,2と同様のロールに、実施例1,2と同様の平面加工を行い、平面加工後のロールを切削して、切削孔を形成した。ロールの回転数、切削刃およびその形状は、実施例1,2と同様であった。切削深さは18μmとした。
【0081】
次に、実施例1,2および比較例1に係るロール金型を用いて、マイクロレンズアレイを製造した。マイクロレンズアレイは、以下のように製造した。すなわち、PET(Polyethyleneterephthalate)からなる基材上に、未硬化のアクリル系UV硬化樹脂を滴下して、硬化性樹脂層を形成した。次に、形成した硬化性樹脂層に製造したロール金型を押し付け、この状態で硬化性樹脂層にUV光を照射して、硬化性樹脂層を硬化させた。硬化性樹脂層の硬化後、ロール金型から硬化した硬化性樹脂層を剥離して、マイクロレンズアレイを製造した。
【0082】
次に、実施例1,2に係るロール金型および比較例1に係るロール金型の表面をマイクロスコープにより観察した。また、これらのロール金型を用いて製造したマイクレンズアレイの表面を、SEM(Scanning Electron Microscope)により観察した。
【0083】
図8Aは、実施例1に係るロール金型の表面をマイクロスコープにより撮影した図である。図8Bは、実施例2に係るロール金型の表面をマイクロスコープにより撮影した図である。図8Cは、比較例1に係るロール金型の表面をマイクロスコープにより撮影した図である。
【0084】
図8A,8Bに示すように、実施例1,2に係るロール金型においては、切削深さおよび開口径の異なる複数の切削孔が形成された。上述したように、実施例1では、切削箇所に対して、上下左右に切削の位置を微少量だけずらして三回切削を行った。そのため、図8Aに示すように、3つの円状の切削孔が互いに一部分が重複した切削孔が形成された。このように、実施例1,2に係るロール金型においては、切削深さおよび開口径の異なる凹部(切削孔)が形成された。任意の切削箇所に、切削深さおよび開口径の異なる凹部を形成することで、描画対象の階調表現が可能となる。
【0085】
一方、図8Cに示すように、比較例1に係るロール金型においては、切削深さおよび開口径が均一な切削孔が形成されただけであった。このように、比較例1に係るロール金型においては、切削深さおよび開口径の異なる凹部を形成することはできなかった。
【0086】
図9Aは、実施例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した図である。図9Bは、実施例2に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した図である。図9Cは、比較例1に係るロール金型を用いて製造されたマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した図である。
【0087】
図9Aに示すように、実施例1に係るロール金型によれば、円形の3つの微小なレンズが互いに一部分が重複した三重レンズが複数形成されたマイクロレンズアレイが製造された。ここで、三重レンズを構成する微小なレンズは、高さおよび径の異なるものが形成された。
【0088】
また、図9Bに示すように、実施例2に係るロール金型によれば、単眼レンズが複数形成されたマイクロレンズアレイが製造された。ここで、単眼レンズは、高さおよび径の異なるものが形成された。このように、実施例1および実施例2に係るロール金型を用いることで、任意の位置に、高さおよび開口径の異なるマイクロレンズが形成されたマイクロレンズアレイを製造することができた。
【0089】
一方、図9Cに示すように、比較例1に係るロール金型によれば、高さおよび径が均一の複数の単眼レンズが形成されたマイクロレンズアレイが製造された。このように、比較例1に係るロール金型においては、高さおよび開口径の異なるマイクロレンズが形成されたマイクロレンズアレイを製造することはできなかった。
【0090】
(実施例3)
本実施例では、切削孔の配置および切削孔の深さがランダムなロール金型を製造した。具体的には、以下のようにして、ロール金型を製造した。
【0091】
SUS304の表面にNi-Pのめっきを施したロールを用意した。ロールの直径は130mmであり、ロールの長さは250mmであった。
【0092】
次に、用意したロールを本実施形態に係るロール金型製造装置に載置し、ロール表面のNi-Pメッキ層に平面加工を行った。平面加工後のロールを切削して、切削孔を形成した。切削刃としては、先端の半径が0.1mmであり、正面から見て円形状のダイヤモンドチップからなる切削刃を用いた。また、加工軌跡が半径0.1mmの半円状となるような制御波形を用いた。すなわち、図2Cに示す、半円状の切削刃および半円状の加工軌跡を用いて切削を行った。ロールの回転数は2rpmとした。切削孔の配置は、図10に示すように、点線丸印で示す規則的な配置から、実線丸印で示す、紙面縦方向および横方向(ロールの軸方向および周方向)に±5μmの範囲内でランダムにずれた配置とした。また、切削孔の深さは、基準となる深さ(3μm)に対して±3μmの変位量をランダムに加えた深さ(すなわち、0~6μm)とした。なお、規則的な配置からのずれ幅は、上下左右方向に±100μm以内、さらには、上下左右方向に±25μmであることが好ましい。また、複数の切削孔の深さは、基準となる深さに対して±50μm、さらには、±15μmであることが好ましい。
【0093】
次に、本実施例に係るロール金型を用いて、マイクロレンズアレイを製造した。マイクロレンズアレイの製造方法は、実施例1,2および比較例1と同じである。次に、製造したマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した。
【0094】
図11は、本実施例に係るロール金型を用いて製造したマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した図である。図11に示すように、高さおよび径の異なるマイクロレンズが形成された。したがって、本実施例によれば、高さおよび開口径がランダムに異なる複数の切削孔が形成されたロール金型を製造することができた。
【0095】
(実施例4)
本実施例では、図6Bに示すフローに沿って切削孔を形成した。具体的には、スケール14aから出力された信号に基づき制御波形を生成し、ロールの軸方向に沿って切削を行った。切削刃としては、先端がV70°のダイヤモンドチップからなる切削刃を用い、加工軌跡が半径0.065mmの半円状となるような制御波形を用いた。すなわち、図2Cに示す、三角形状の切削刃および半円状の加工軌跡を用いた。送り軸方向の速度は2000mm/minとし、ロールの切削深さは5μmとした。
【0096】
次、本実施例に係るロール金型を用いて、マイクロレンズアレイを製造した。マイクロレンズアレイの製造方法は、実施例1-3および比較例1と同じである。次に、製造したマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した。
【0097】
図12は、本実施例に係るロール金型を用いて製造したマイクロレンズアレイの表面をSEMにより撮影した図である。図12に示すように、ロールの送り軸方向に沿って延在する切削孔が形成された。より具体的には、ロールの送り軸方向に長尺の楕円状の切削孔が形成された。したがって、本実施例によれば、ロール送り軸方向に長尺の楕円状の切削孔が形成された。
【0098】
また、図1Bに示すロール金型製造装置1によれば、ロールの回転速度およびロールの軸方向の切削刃12の移動速度を調整することで、図13に示すように、ロールの軸方向に対して斜め方向に延在する切削孔を形成するができた。
【0099】
また、上述したように、切削刃12は、ロール1の径方向を回転軸として回転可能に設けられてもよい。
【0100】
リソグラフ製法などの切削刃を用いない加工法でロール1に切削孔を形成した場合、切削痕が残らない。一方、切削刃による切削では、ロール1の表面に切削痕が残ることがある。図14Aは、切削刃による切削を用いずに孔を形成したロール1の表面パターンを転写した転写物の表面を、図14Bは、回転しない切削刃により切削孔を形成したロール1の表面パターンを転写した転写物の表面を、図14Cは回転する切削刃により切削孔を形成したロール1の表面パターンを転写した転写物の表面を、SEMにより撮影した図である。
【0101】
図14Aに示すように、切削刃による切削を行わない場合、ロール1の表面およびそのロール1の表面パターンを転写した転写物において、切削痕は確認されなかった。一方、図14Bに示すように、回転しない切削刃でロール1を切削した場合、切削刃の見かけ上のスライド方向に沿って、切削痕が形成されることが確認された。また、図14Cに示すように、回転する切削刃でロール1を切削した場合、切削刃の回転方向に沿って、切削痕が形成されることが確認された。ただし、このような切削痕は、例えば、ロール1を用いて製造されるマイクロレンズアレイの光学特性の劣化をもたらさない範囲で許容される。
【0102】
信号生成部15および制御部16は、例えば、メモリおよびプロセッサを備えるコンピュータにより構成される。信号生成部15および制御部16がコンピュータにより構成される場合、信号生成部15および制御部16は、メモリに記憶された本実施形態に係るプログラムをプロセッサが読み出して実行することで実現される。
【0103】
また、信号生成部15および制御部16の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムは、コンピュータが読取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。このような記録媒体を用いれば、プログラムをコンピュータにインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録された記録媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMあるいはDVD-ROMなどの記録媒体であってもよい。
【0104】
本発明は、上述した各実施形態で特定された構成に限定されず、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0105】
10 ロール金型製造装置
11 回転装置
11a ロータリーエンコーダ
12 切削刃
13 PZTステージ
14 切削工具用ステージ
14a スケール
15 信号生成部
16 制御部
17 増幅部
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
【手続補正書】
【提出日】2022-04-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させる回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向および軸方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置におけるロール金型製造方法であって、
前記ロールへの描画対象を、前記ロールを切削した複数の切削孔の配置および前記複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する信号生成ステップと、
前記回転装置が備える、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダから出力された信号、および、前記切削工具用ステージが備える、前記ロールの軸方向の前記切削刃の位置に応じた信号を出力するスケールから出力された信号の少なくとも一方に基づき、前記階調信号で示される前記複数の切削孔の配置に対応する前記ロールの切削箇所を決定し、該決定した切削箇所で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する制御波形生成ステップと、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記決定した切削箇所を前記往復移動する切削刃により複数回切削する切削工程が行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、
前記切削ステップでは、前記複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での前記切削工程による切削深さが、前記階調信号に示される前記複数の切削孔それぞれの深さとなるように前記切削工具用ステージを移動させる、ロール金型製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、先端部が錘状または錘台状を有する、ロール金型製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、正面視において、左右非対称な形状である、ロール金型製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記制御波形は、前記切削刃の加工軌跡が非対称な形状となるような波形である、ロール金型製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記制御波形は、前記切削刃の加工軌跡が、複数の形状を組み合わせた形状となるような波形である、ロール金型製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、前記ロールの径方向を回転軸として回転可能である、ロール金型製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状または円柱状のロールを円周方向に回転させる回転装置と、前記ロールの径方向に往復移動可能な切削刃を保持し、前記ロールの径方向および軸方向に移動可能な切削工具用ステージとを備えるロール金型製造装置におけるロール金型製造方法であって、
前記ロールへの描画対象を、前記ロールを切削した複数の切削孔の配置および前記複数の切削孔の深さにより表現した階調信号を生成する信号生成ステップと、
前記回転装置が備える、前記ロールの回転位置に応じた信号を出力するロータリーエンコーダから出力された信号、および、前記切削工具用ステージが備える、前記ロールの軸方向の前記切削刃の位置に応じた信号を出力するスケールから出力された信号の少なくとも一方に基づき、前記階調信号で示される前記複数の切削孔の配置に対応する前記ロールの切削箇所を決定し、該決定した切削箇所で前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させる前記切削刃の移動パターンを示す制御波形を生成する制御波形生成ステップと、
前記制御波形に従い、前記切削刃を前記ロールの径方向に往復移動させ、前記決定した切削箇所を前記往復移動する切削刃により複数回切削する切削工程が行われるように、前記切削工具用ステージを前記ロールの径方向に移動させる切削ステップと、を含み、
前記切削ステップでは、前記複数の切削孔それぞれに対応する切削箇所での前記切削工程による切削深さが、前記階調信号に示される前記複数の切削孔それぞれの深さとなるように前記切削工具用ステージを移動させ
前記複数の切削孔は互いに一部が重複している、ロール金型製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、先端部が錘状または錘台状を有する、ロール金型製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、正面視において、左右非対称な形状である、ロール金型製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記制御波形は、前記切削刃の加工軌跡が非対称な形状となるような波形である、ロール金型製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記制御波形は、前記切削刃の加工軌跡が、複数の形状を組み合わせた形状となるような波形である、ロール金型製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のロール金型製造方法において、
前記切削刃は、前記ロールの径方向を回転軸として回転可能である、ロール金型製造方法。