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特開2022-132070医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132070
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20220831BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20220831BHJP
   A61L 27/42 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/58
A61L27/42
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190656
(22)【出願日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026924
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】520138553
【氏名又は名称】ヒューデンス バイオ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ケ リム
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソク ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジュ ソン
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジェ イク
(72)【発明者】
【氏名】ノ,ハク
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB03
4C081AB04
4C081BA12
4C081BA16
4C081BC01
4C081CE11
4C081CF011
4C081CF021
4C081CF031
4C081CF21
4C081CF23
4C081CF24
4C081DA01
4C081DA11
4C081DB02
4C081DB07
4C081EA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、医療用無機バインダーの製造方法及び医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法に関する。
【解決手段】本発明は、出発物質として、一定の粒度を有するα-TCP粉末とリン酸塩粉末を準備するステップと、前記出発物質を均質に混合するステップと、均質に混合された前記出発物質に水又は生理食塩水を添加した後混練して一定の粘度を有するペーストを生成するステップと、前記ペーストを一定の形状に成形して成形体を形成するステップと、前記成形体を水和反応させるステップと、水和反応させた前記成形体を水洗い及び乾燥させてOCP及びHA結晶相を有する無機バインダーを得るステップと、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発物質として一定の粒度を有するα-TCP粉末とリン酸塩粉末を準備するステップと、
前記出発物質を均質に混合するステップと、
均質に混合された前記出発物質に水又は生理食塩水を添加した後混練して成形物を作りやすい一定の粘度を有するペーストを生成するステップと、
前記ペーストを一定の形状に成形して成形体を形成するステップと、
前記成形体を水和反応させるステップと、及び、
水和反応させた前記成形体を水洗い及び乾燥させてOCP及びHA結晶相を有する無機バインダーを得るステップと、を含むことを特徴とする医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項2】
前記リン酸塩粉末は、第1リン酸ナトリウム(NaHPO)及び第1リン酸カリウム(KHPO)からなる群より選ばれるいずれか1つ又はこれらの混合からなることを特徴とする請求項1に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項3】
前記出発物質は、α-TCP粉末78~88wt%とリン酸塩粉末12~22wt%からなることを特徴とする請求項2に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項4】
前記出発物質を均質に混合するステップは、プラネタリミキサー(PLANETARY MIXER)を用いて40~60rpmの自転及び回転速度で混合されることを特徴とする請求項3に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項5】
前記ペーストを生成するステップは、均質に混合された前記出発物質と水又は生理食塩水の混合比が0.8:1.2であることを特徴とする請求項4に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項6】
前記ペーストを生成するステップは、プラネタリミキサーを用いて2~10分間混練されることを特徴とする請求項5に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項7】
前記成形体を水和反応させるステップは、70℃の温度と90%以上の湿度が維持された状態で1~2時間行われることを特徴とする請求項6に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項8】
水和反応させた前記成形体を水洗い及び乾燥させてOCP及びHA結晶相を有する無機バインダーを得るステップは、前記成形体を1回以上水洗いし、水洗い後、40~60℃の温度で乾燥することを特徴とする請求項7に記載の医療用武器バインダーの製造方法。
【請求項9】
前記無機バインダーは、OCP80~95wt%とHA5~20wt%の重量比を有することを特徴とする請求項8に記載の医療用無機バインダーの製造方法。
【請求項10】
前記出発物質には、HA、β-TCP、OCP及びDCPD粉末からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の追加の粉末がさらに添加されることを特徴とする請求項1に記載の医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法。
【請求項11】
前記追加の粉末は、前記α-TCP粉末の全重量に対して0.1~31wt%が添加されることを特徴とする請求項10に記載の医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法。
【請求項12】
前記出発物質には、金属イオン及び緩衝剤がさらに添加されることを特徴とする請求項11に記載の医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法。
【請求項13】
前記金属イオンは、Zn2+、K+又はMg2+イオンであり、前記緩衝剤は、第2リン酸ナトリウム(NaHPO)又は第2リン酸カリウム(KHPO)であることを特徴とする請求項12に記載の医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法。
【請求項14】
前記金属イオンの添加によるpH(酸性度)の制御のためにpH調節剤がさらに添加され、前記pH調節剤は、酢酸(CHCOOH)であることを特徴とする請求項13に記載の医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法。
【請求項15】
前記無機バインダーは、pH5.0~6.0であることを特徴とする請求項14に記載の医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法に関し、より詳しくは、低温(100℃以下)でα-TCP(α-tricalcium phosphate)を出発物質として、リン酸8カルシウム(OCP:octacalcium phosphate)が含有された無機バインダーの製造方法とこれにより製造された無機バインダーの出発物質にリン酸8カルシウム、HA(hydroxyapatite)、β-TCP(β-tricalcium phosphate)又はDCPD(Dicalcium phosphate dihydrate)などの様々なリン酸カルシウム系物質を添加して骨代替材料を製造することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体は、皮膚や様々な臓器をなす軟組織と様々な種類の骨と歯をなす硬組織とで構成されており、人の体を支えて様々な重要な臓器を保護するなどの役割をする人体の骨は、カルシウムとリンで構成されたリン酸カルシウム系無機質(約70%)と有機物(30%)とで構成されており、この有機物は、主にコラーゲンと非コラーゲン、基質などで構成された複合材料である。
【0003】
一方、骨の損失や欠損の治療に用いられる骨代替材料は、材料の起源に応じて自家骨、同種骨、異種骨及び合成骨に分類される。
【0004】
この時、最も優先的に適用される自家骨は、得られる量が十分でなく、多数の手術過程が必要であり、同種骨及び異種骨は、病気の感染症や免疫拒絶反応の危険性のために、その使用に限界があった。
【0005】
一方、前記合成骨(Synthetic bone graft)は、「組織を修復したり、再建するために用いることができ、熱や圧力で加工が可能な人工的な合成骨」と定義することができ、安価で、且つ材料の大きさに制限がなく、代表的な骨代替材料としてHA、TCPが多様に用いられている。
【0006】
このようなリン酸カルシウム系物質は、カルシウムとリンの比率(Ca/P比)に応じて様々に存在する。すなわち、Ca/P比に応じて、Ca/Pが0.5であればmonocalcium phosphate monohydrate(Ca(HPO・ HO )、1.0であればdicalcium phosphate dihydrate(CaHPO・2HO)、1.33であればoctacalcium phosphate(Ca(PO・5HO)、1.3~1.67であればamorphous calcium phosphate(Ca(POnHO、n=3~4.5、15-20% HO)、1.5であればα-tricalcium phosphate(α-Ca(PO)又はβ-tricalcium phosphate(β-Ca(PO)、1.67であればhydroxyapatite(Ca10(PO(OH))であり、2.0であればtetracalcium phosphate(Ca(POO)である。
【0007】
一方、前記リン酸カルシウム系物質は、カルシウムとリンの比率に応じて、熱力学的特性が異なり、人体又は人体と類似する溶液中で溶解度と骨形成に違いを示す。
【0008】
そのため、様々なリン酸カルシウム系物質を選択的に生体内に挿入すると、その周辺にある組織とそれぞれ異なる生物学的反応(biological reaction)が発生し、特に、生体内で溶解されて出るカルシウムとリンは、生体内で骨の再生に大きく影響を与えることが知られている。
【0009】
さらに、リン酸カルシウム系物質の製造方法によって、Na+、K+、Li+などのような1価イオンやSr2+、Ba2+、Pb2+、Mn2+、Sn2+、Zn2+などのような2価イオン、又Al3+イオンに置換したり、欠陥を生成させたりすると、細胞の付着又は骨の再生に大きく役立つことが知られている。
【0010】
既存の合成して骨代替材料として用いられる代表的な例としてHA、β-TCPがあり、その製造方法によって異なるが、一定のCa/Pを有する性質を付与するために、1000℃以上の高温で熱処理してその性質を確保したり、又は高温で熱処理するとき、一部リン酸の揮発を起こしてCa/Pが低い物質に相転移を起こす方法を適用することができる。
【0011】
したがって、従来のHA、β-TCPは、高い結晶性を有するリン酸カルシウム物質であり、体内に挿入されたとき、OCPに比べて生分解速度が遅く、骨再生が低いという欠点がある。
【0012】
このような前記合成骨のうち、特にリン酸8カルシウムで構成された合成骨は、動物実験に適用したとき、炎症反応や新しい繊維状組織を生成せず硬組織と結合することが明らかになり、注目されるようになった。
【0013】
しかしながら、リン酸8カルシウムの製造特徴は、製造時、常温で製造可能であるが、反応溶液の温度及びpHによって変化するため、その製造が容易ではないので量産が難しいという問題があり、且つその応用に限界があった。
【0014】
又、バインダーは、使用用途と目的に応じて形と形状を作るために用いられており、一般的に高分子を用い、大きく合成高分子と天然高分子に分けられる。
【0015】
この時、合成高分子は、モノマーから合成されたポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン(polyurethane)などがあり、天然高分子は、コラーゲン、フィブリン、アルブミンなどのようなタンパク質及びセルロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチンなどのように多糖類など動植物から抽出された高分子がある。
【0016】
合成高分子は、合成工程で分子量の調節が可能であるので、機械的及び物理的特性の制御が比較的容易であり、安価であるという利点があるが、天然高分子より生体適合性が低いという欠点がある。
【0017】
なお、天然高分子は、自然に豊富に存在し、人体を構成する主要成分であるが、合成高分子に比べて分子量の制御が難しく物性調節が容易ではないという欠点がある。
【0018】
有機バインダーとして使用可能な高分子は、分子量、硬化方法などに様々な作業条件が伴わなければならなく、特に、骨代替材料として用いるために滅菌過程を経るが、線量の調節が必要であり、これを体内に挿入した時に体内で分解された副産物の副作用が安全性に影響を与える恐れがある。
【0019】
しかしながら、前記OCPは、pHによって簡単に他の物質に変わる特性があり、OCPを大量に合成するのには困難が多く、これにより、今まで骨代替材料の市場で流通していなかったという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、リン酸8カルシウムを含有しており、無機バインダーの産業的量産が容易であり、生体安全性、再吸収性及び新生骨の骨再生に優れた医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
一方、本発明の目的は、以上で言及した目的に限定されず、言及されていない又他の目的は、下記から当業者が明確に理解することができるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、上記の目的を達成するために出発物質として一定の粒度を有するα-TCP粉末とリン酸塩粉末を準備するステップと、前記出発物質を均質に混合するステップと、均質に混合された前記出発物質に水又は生理食塩水を添加した後混練して成形物を作りやすい一定の粘度を有するペーストを生成するステップと、前記ペーストを一定の形状に成形して成形体を形成するステップと、前記成形体を水和反応させるステップと、水和反応させた前記成形体を水洗い及び乾燥させてOCP及びHA結晶相を有する無機バインダーを得るステップと、を含むことができる。
【0023】
望ましくは、前記リン酸塩粉末は、第1リン酸ナトリウム(NaHPO)及び第1リン酸カリウム(KHPO)からなる群より選ばれるいずれか1つ又はこれらの混合からなる。
【0024】
望ましくは、前記出発物質は、α-TCP粉末78~88wt%とリン酸塩粉末12~22wt%からなる。
【0025】
望ましくは、前記出発物質を均質に混合するステップは、プラネタリミキサー(PLANETARY MIXER)を用いて40~60rpmの自転及び回転速度で混合することができる。
【0026】
望ましくは、前記ペーストを生成するステップは、均質に混合された前記出発物質と水又は生理食塩水の混合比が0.8:1.2である。
【0027】
望ましくは、前記ペーストを生成するステップは、プラネタリミキサーを用いて2~10分間混練することができる。
【0028】
望ましくは、前記成形体を水和反応させるステップは、70℃の温度と90%以上の湿度が維持された状態で1~2時間行うことができる。
【0029】
望ましくは、水和反応させた前記成形体を水洗い及び乾燥させてOCP及びHA結晶相を有する無機バインダーを得るステップは、前記成形体を1回以上水洗いし、水洗い後40~60℃の温度で乾燥させることができる。
【0030】
望ましくは、前記無機バインダーは、OCP80~95wt%とHA5~20wt%の重量比を有することができる。
【0031】
なお、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法は、前記出発物質には、HA、β-TCP、OCP及びDCPD粉末からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の追加の粉末をさらに添加することができる。
【0032】
望ましくは、前記追加の粉末は、前記α-TCP粉末の全重量に対して0.1~31wt%を添加することができる。
【0033】
望ましくは、前記出発物質には、金属イオン及び緩衝剤をさらに添加することができる。
【0034】
望ましくは、前記金属イオンは、Zn2+、K+又はMg2+イオンであり、前記緩衝剤は、第2リン酸ナトリウム(NaHPO)又は第2リン酸カリウム(KHPO)である。
【0035】
望ましくは、前記金属イオンの添加によるpH(酸性度)の制御のためにpH調節剤がさらに添加され、前記pH調節剤は、酢酸(CHCOOH)である。
【0036】
望ましくは、前記無機バインダーは、pH5.0~6.0である。
【発明の効果】
【0037】
本発明の実施例により製造される無機バインダー及び骨代替材料は、産業的量産が容易であり、生体安全性、再吸収性及び新生骨の骨再生に優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法の全体工程図である。
図2】本発明の実施例に係る医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法の模式図である。
図3】本発明の実施例に係る無機バインダー成形体のイメージである。
図4図1の方法で製造された無機バインダーのXRD分析結果を示すグラフである。
図5】無機バインダーの表面形状を観察したイメージである。
図6】本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法で製造された骨代替材料のイメージである。
図7】前記骨代替材料のXRD分析結果を示すグラフである。
図8】表3の検出量の算定についての根拠グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付の図面及び実施例を参照して本発明に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法についてより詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0040】
図1は、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法の全体工程図であり、図2は、本発明の実施例に係る医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法の模式図であり、図3は、本発明の実施例に係る無機バインダー成形体のイメージである。
【0041】
前記図1~3を参照すると、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、出発物質として、一定の粒度を有するα-TCP粉末とリン酸塩粉末を準備するステップ(S110)を含む。
【0042】
この時、本発明の実施例に係る前記α-TCP粉末の粒度は106μm以下である。
【0043】
一方、本発明の実施例において、前記リン酸塩粉末は、第1リン酸ナトリウム(NaHPO)又は第1リン酸カリウム(KHPO)からなる群より選ばれるいずれか1つ又はこれらの混合からなる。
【0044】
一方、前記リン酸塩粉末は、水和反応を起こすための添加剤として用いられ、より詳しくは、前記リン酸塩粉末は、α-TCPのCaイオンと酸塩基反応又は水和反応をさせて硬化させる役割をする。
【0045】
一方、本発明の実施例において、前記出発物質は、α-TCP粉末78~88wt%とリン酸塩粉末12~22wt%からなり、より望ましくは84wt%のα-TCPと16wt%のリン酸塩粉末からなる。
【0046】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、前記出発物質を均質に混合するステップ(S120)を含む。
【0047】
この時、前記出発物質を均質に混合するステップ(S120)は、プラネタリミキサーを用いて40~60rpmの自転及び回転速度で混合される。
【0048】
ただし、限られた回転速度は、上述した粉末を均一に混合することを目的とするため、回転速度が無機バインダーの製造に及ぼす影響は大きくない。
【0049】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、均質に混合された前記出発物質に水又は生理食塩水を添加した後混練して一定の粘度を有するペーストを生成するステップ(S130)を含む。
【0050】
この時、添加される蒸留水又は生理食塩水の量に応じてペーストの粘度を調節することができ、本発明の実施例において、前記ペーストを生成するステップ(S130)は、均質に混合された前記出発物質と水又は生理食塩水の混合比が0.8:1.2であり、より望ましくは1:1である。
【0051】
一方、本発明の実施例に係るペーストを生成するステップ(S130)は、プラネタリミキサーを用いて2~10分間混練する。
【0052】
このように、上述したように、混練時間を限定する理由は、混練する過程で酸塩基反応が進行してバインダーの性能を有するようになるが、目的とするリン酸8カルシウムの含有量を高めるために、最大10分以内にすることが望ましいためである。
【0053】
併せて、作業時間が10分を超える場合、無機バインダーは水和反応が進行されながら、HAの含有量が高くなったり、目的としていない他のリン酸カルシウム系に相変化を引き起こす可能性があるので、本発明の実施例においては、上述したように混練時間を限定する。
【0054】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、前記ペーストを一定の形状に成形して成形体を形成するステップ(S140)を含む。
【0055】
この時、前記成形体は、モールドによって様々な形状に製造することができるので、これに特別な限定はなく、ただし、成形モールドに注入するために、適切な粘度を有するようにした状態で成形モールドにペーストを注入することができる。
【0056】
一方、本発明の実施例に係る前記成形体は、成形体自体が骨代替材料として使用することも可能であり、もし、無定形の顆粒形状を得ようとする場合には、成形モールドは必要がなく、すべての工程が終了した後、一定の大きさに粉砕して骨代替材料として用いることができる。
【0057】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、前記成形体を水和反応させるステップ(S150)を含む。
【0058】
この時、本発明の実施例に係る前記成形体を水和反応させるステップ(S150)は、70℃の温度と90%以上の湿度が維持された状態で1~2時間行い、より望ましくは1時間30分行う。
【0059】
一方、上述したように、水和反応時間、すなわち、恒温恒湿保持時間を限定する理由は、恒温恒湿保持時間によってα-TCPからリン酸8カルシウムに相変化が起こるためである。
【0060】
より詳しく説明すると、恒温恒湿保持時間が短いと水和反応速度が低下して目的としないα-TCPが残り、保持時間が過度に2時間を超える場合、リン酸8カルシウムがHAに相変化され、HAの含有量が高くなったり、目的としない他の種類のリン酸カルシウム物質が生成される問題が発生する可能性があるため、本発明の実施例のように恒温恒湿保持時間を限定した。
【0061】
なお、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法は、水和反応させた前記成形体を水洗い及び乾燥させてOCP及びHA結晶相を有する無機バインダーを得るステップ(S160)を含む。
【0062】
この時、水洗い及び乾燥するステップ(S160)は、得られた無機バインダーに残留している水分を除去するために、40~60℃で1次乾燥させ、残存している副産物を除去するために水洗い過程を経て、水洗い後、40~60℃で2次乾燥させた。
【0063】
一方、前記水洗い過程は、必要に応じて1回以上行うことが可能であり、これについての特別な限定はない。
【0064】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーの製造方法で製造された無機バインダーは、OCP80~95wt%とHA5~20wt%の重量比を有する。
【0065】
以下では、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法について詳しく説明する。
【0066】
まず、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法は、前記出発物質にHA、β-TCP、OCP及びDCPD粉末からなる群より選ばれるいずれか1つ以上の追加の粉末をさらに添加する。
【0067】
この時、本発明の実施例において、前記追加の粉末は、前記α-TCP粉末の全重量に対して0.1~31wt%を添加する。
【0068】
一方、前記追加の粉末は、骨代替部位によって様々な形と形状を有する骨代替材料として使用が可能なように選択することができる。
【0069】
これについてより詳しく説明すると、主に強度とスキャフォールドが重要視されている骨代替部位の場合は、HA粉末をさらに用いることができ、スキャフォールドと骨再生を目的とする場合は、β-TCP又はOCP粉末をさらに添加して用いることができ、より望ましくは、スキャフォールド、骨再生及び強度を付与するために、前記追加の粉末を混合して添加することもできる。
【0070】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法は、前記出発物質に金属イオン及び緩衝剤がさらに添加され、この時、前記金属イオンは、Zn2+、K+又はMg2+イオンであり、前記緩衝剤は、第2リン酸ナトリウム(NaHPO)又は第2リン酸カリウム(KHPO)を用いる。
【0071】
この時、前記緩衝剤は、添加される追加の粉末の添加量によって選択的に用いられ、pHの調節から反応速度を制御する役割をする。
【0072】
これについてより詳しく説明すると、前記リン酸塩粉末は、上述したように、α-TCPのCaイオンと酸塩基反応又は水和反応をさせて硬化させる役割をし、前記緩衝剤は、水和反応速度を緩和させる役割をする。
【0073】
すわなち、リン酸塩は、水溶液でpH4.2~4.6であり、特に、第1リン酸カリウムは、pH4.4~4.9であって酸性を示し、酸塩基反応と水和反応から硬化させる過程でα-TCPをOCPとHAに相変化を起こす。
【0074】
この時、上述した相変化の速度調節は、水素イオンの酸解離及び加水分解されて脱水される過程で、pHの調節を目的に、アルカリ性を有する第2リン酸ナトリウムは、pH9.0~9.6、又は第2リン酸カリウムは、pH8.7~9.3を用いることができる。
【0075】
一方、第3リン酸ナトリウム(NaPO)及び第3リン酸カリウム(KPO)は、pH11.5~12.5のアルカリ性を有しており、pH調節剤として除外した。
【0076】
一方、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法は、混練時、pH(酸性度)の調節が必要である。
【0077】
この時、リン酸塩粉末である第1リン酸ナトリウムを用いてpH5.0~6.0の範囲を維持するようにし、これ以外に、亜鉛などのような金属イオンを追加しようとする場合は、例えば、ZnOはpH6~7、KCOはpH11~12、MgOはpH8~10を選択することができ、この元素はアルカリ性原料を用いることができる。
【0078】
一方、前記金属イオンを追加する理由は、リン酸カルシウム系物質の製造方法によって、Na+、K+、Li+などのような1価イオンやSr2+、Ba2+、Pb2+、Mn2+、Sn2+、Zn2+などのような2価イオン、又Al3+イオンに置換したり、欠陥を生成させたりすると、細胞の付着又は骨再生に大きく役立つためである。
【0079】
一方、リン酸塩粉末の酸塩基反応及び水和反応の進行が速い場合、前記緩衝剤の使用が可能である。
【0080】
一方、前記金属イオンを追加するためにアルカリ性を用いようとする場合には、上述したように、混練工程時、pHの変化を起こすため、本発明の実施例においては、追加のpH調節剤として水溶液状態で容易にイオン化が可能な酢酸(CHCOOH)を用いて、初期酸塩基反応時、金属元素によるアルカリ化を中和して弱酸性にpHを制御することができる。
【0081】
一方、弱酸又は弱塩基は、水でイオン化された分子状態で存在するため、酢酸を入れる前に金属元素を添加し、酢酸でpHを調節する場合、前記化学イオン反応(酸塩基反応)によって無機バインダーを製造するときにpH5.0~6.0に調節が可能である。
【0082】
以下では、本発明の実施例により製造された医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の効果について詳しく説明する。
【0083】
まず、図4は、図1の方法で製造された無機バインダーのXRD分析結果を示すグラフであり、図5は、無機バインダーの表面形状を観察したイメージであり、図6は、本発明の実施例に係る医療用無機バインダーを用いた骨代替材料の製造方法で製造された骨代替材料のイメージであり、図7は、前記骨代替材料のXRD分析結果を示すグラフである。
【0084】
前記図4~7を参照すると、本発明の実施例に係る医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料は、リン酸8カルシウムとHAの結晶相を有することを確認することができ、酸塩基反応と水和反応から表面形状が微細に粗くなることを確認することができる。
【0085】
一方、本発明の実施例により製造された医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料に対して韓国化学融合試験研究院に依頼して生物学的安全性試験を行った。
【0086】
生物学的安全性試験は、物質に対する試験評価として最も代表的な皮内反応、急性経皮毒性、遺伝毒性(染色体異常、復帰突然変異)試験を実施した。
【0087】
1.皮内反応試験
試験物質の皮内反応試験を評価するためにウサギ3匹を使用して皮内注射した。注射直後と注射後24、48、及び72時間目の局所反応を評価した結果は、以下の通りである。
- 実験期間中試験物質注射で瀕死(死亡)及び一般的な症状は観察されなかった。
- 実験期間中体重測定の結果、試験物質注射による体重変化は観察されなかった。
- 試験物質注射直後と注射後24、48、及び72時間目に局所刺激性を観察した結果、対照物質及び試験物質の注射部位で紅斑及び痂皮は観察されなかった。
- すべての個体の一部の試験物質の注射部位で非常に微細な浮腫が観察されたが、試験物質の性状を考慮すると、溶出物による浮腫ではない、溶出時に観察されたホワイトパーティクル(White particle)であると思われた。
- 各溶出物に対する試験物質と対照物質の試験結果の差が、滅菌生理食塩水の溶出物は「0.20」、綿実油溶出物は「0.20」と算出された。
【0088】
以上の結果からウサギに対するCalcium phosphate compoundの各溶出物は、試験物質と対照物質の試験結果の差が「1.0」以下と算出され、皮内反応の必要条件が満たされた。
【0089】
2.急性経皮毒性試験
Calcium phosphate compoundに対する急性経皮毒性試験を実施するためにSD系雌ラットを使用して試験物質の投与量を200、1000及び2000mg/kg B.W.(Range-Finding study)と2000mg/kg B.W.(Main study)にステップを分け、それぞれ1回経皮投与した。
【0090】
試験物質の投与後14日間、死亡率、一般的な症状及び体重変化を観察し、生存動物は剖検して肉眼的に臓器の異常の有無を検査した。
【0091】
これについての結果、
- 実験期間中試験物質の投与により死亡した動物は観察されなかった。
- 一般的な症状の観察結果、1000mg/kg B.W.(Range-Finding study)で発赤が観察された。
- 体重測定の結果、試験物質の投与による体重変化は観察されなかった。
- 剖検所見の結果、すべての投与群で異常所見は観察されなかった。
【0092】
一方、前記急性経皮毒性試験は、OECD Guideline for testing of chemicals、Section 4、TG402により試験し、国際的に公認されて調和された化学物質及び混合物の分類システムGHSによる分類でCategory 5 /Unclassifiedに分類されて安全性を確保した。
【0093】
3. 遺伝毒性試験
遺伝毒性試験は、染色体異常と復帰突然変異試験に分けて行った。
【0094】
まず、Calcium phosphate compoundに対する染色体異常が誘発するか否かを評価するために、Chinese hamster由来のlung cell(CHL)を用いて染色体異常試験を実施し、OECD Guideline for testing of chemicals、No.473により試験を行った。
【0095】
濃度決定試験は、短時間処理法S9 mixの未適用(以下、-S9 mixとする。)、S9 mixの適用(以下、+S9 mixとする。)及び連続処理法24時間処理(以下、24時間処理とする。)でそれぞれ62.5、125、250、500、1000及び2000μg/mLを設定して実施した。
【0096】
試験の結果、-S9 mix、+S9 mix及び24時間処理群で細胞毒性の指標としてRICC(Relative increase in cell counts、相手細胞数の増加)を用いて細胞毒性を算出した結果、RICC 55%の細胞毒性を示す試験物質の濃度は、以下のように確認された。
【0097】
【表1】
【0098】
濃度決定試験の結果に基づいて、各処理群の濃度は、以下のように設定して染色体異常試験を実施した。
【0099】
【表2】
【0100】
染色体異常試験の実施結果、RICC 60%以上の細胞毒性が確認された濃度を除いてスライド観察を実施した。観察したスライドは、以下の通りである。
【0101】
【表3】
【0102】
スライド観察の結果、染色体異常試験(短時間処理法及び連続処理法)での染色体構造異常細胞及び数的異常細胞(mumerical aberrations of chromosome)の出現頻度は、それぞれ5%未満に確認された。したがってCHL/IU細胞に対する染色体異常を誘発しない(陰性)と判断した。
【0103】
一方、上述した復帰突然変異試験は、OECD Guideline for testing of chemicals、Section 4、TG. No.471により試験を行った。
【0104】
これについてより詳しく説明すると、試験物質 Calcium phosphate compoundに対する微生物復帰突然変異が誘発するか否かを評価するために、Salmonella typhimuriumのヒスチジン要求性菌株(histidine requirement of strain)であるTA98、TA100、TA1535及びTA1537の4つの菌株とEscherichia coliのトリプトファン要求性菌株(tryptophan requirement of strain)のWP2uvr Aを用いて試験を実施した。
【0105】
試験は、代謝活性系未適用(-S9 mix)及び適用(+S9 mix)でpre-incubation法で実施した。
【0106】
濃度決定試験を50、150、500、1500及び5000μg/plateで実施した結果、代謝活性系未適用(-S9 mix)及び代謝活性系適用(+S9 mix)で試験物質の毒性による菌株の生育阻害は確認されなかった。
【0107】
試験物質の析出は、代謝活性系の適用有無にかかわらず、150μg/plate以上の濃度で確認された。
【0108】
試験物質処理群で復帰突然変異コロニー数は、陰性対照群と比較すると、増加しなかった。
【0109】
以上の結果に基づいて本試験は下記の濃度で実施した。
代謝活性系未適用(-S9 mix)及び適用(+S9 mix):
313、625、1250、2500、5000μg/plate(TA98、TA100、TA1535、TA1537、WP2uvr A)
本試験の結果、代謝活性系未適用(-S9 mix)及び代謝活性系適用(+S9 mix)で試験物質の毒性による菌株の生育阻害は確認されなかった。
【0110】
試験物質の析出は、代謝活性系の適用有無にかかわらず、313μg/plate以上の濃度で確認された。
【0111】
試験物質処理群で復帰突然変異コロニー数は、陰性対照群と比較すると、増加しなかった。
【0112】
本試験の陰性対照値及び陽性対照値は、試験施設の適正範囲内であった。
【0113】
又、陽性対照物質から誘発された復帰突然変異コロニー数は、代謝活性系の未適用(-S9 mix)及び適用(+S9 mix)のすべての試験菌株に対して陰性対照値の2倍を超えて増加し明確な陽性結果を示した。
【0114】
その結果、試験物質が変異原性を有していない(陰性)と判定した。
【0115】
なお、本発明の実施例に係る無機バインダーの新生骨形成に対する試験として、RANKL /ALP試験を実施し、破骨細胞と骨芽細胞の活性度を比較した。
【0116】
試験群としては、本発明の実施例に係る無機バインダーを用い、対照群としては、市販されているBCP(HAとβ-TCPが2:8の比率)を用いた。
【0117】
この時、細胞はMG63を用い、その結果、破骨細胞の活性度は、時間の経過に伴い、対照群として用いたBCPに比べて少し低い傾向を示した反面、新生骨の骨形成を示している骨芽細胞は、時間の経過に伴い、BCPに比べて相対的に高い骨形成を示した。
【0118】
破骨細胞の抑制効果と骨芽細胞の生成促進から前記無機バインダーが骨代替材料として効果的であることを確認することができた。
【0119】
【表4】
【0120】
【表5】
【0121】
一方、下記表6及び図8を参照すると、本発明の実施例による金属イオンの追加による無機バインダーの検出可否及び含有量を示す表として、添加された金属イオンが本発明の実施例に係る無機バインダーから検出されることを確認することができる。
【0122】
【表6】
【0123】
結果的に、本発明の実施例に係る医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法は、上述した技術的構成によりOCPを含んでおり、α-TCP以外のリン酸カルシウム系を添加して様々な形や形状を迅速に製造することができ、原料物質の反応工程を調節することにより、製造される骨代替材料の結晶相の分率を制御することができ、接着性、生体親和性、再吸収性及び骨材性能に優れた効果がある。
【0124】
なお、本発明の実施例に係る医療用無機バインダー及びこれを用いた骨代替材料の製造方法は、高温の焼結工程を経ずに無機バインダーを製造できる優れた効果がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8