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特開2022-132093鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法、鋼板の圧延工程のパススケジュール計算装置、及び鋼板の圧延方法
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  • 特開-鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法、鋼板の圧延工程のパススケジュール計算装置、及び鋼板の圧延方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132093
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法、鋼板の圧延工程のパススケジュール計算装置、及び鋼板の圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20220831BHJP
【FI】
B21B37/00 221
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005438
(22)【出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021029556
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大内 凌華
(72)【発明者】
【氏名】岸本 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】池田 展也
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA02
4E124AA03
4E124BB01
4E124BB07
4E124CC02
4E124EE11
(57)【要約】
【課題】圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を改善することが可能な鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法及びパススケジュール計算装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法は、圧延能率及び板クラウン比率を考慮して鋼板の圧延工程のパス毎の圧下量を規定したパススケジュールを計算する第一ステップと、各パスにおける鋼板の平坦度誤差及び最終板クラウン誤差の和が所定条件を満足するようにパススケジュールにおける各パスの圧下量を変更し、各パスの圧下量が変更されたパススケジュールを最終パススケジュールに設定する第二ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延能率及び板クラウン比率を考慮して鋼板の圧延工程のパス毎の圧下量を規定したパススケジュールを計算する第一ステップと、
各パスにおける鋼板の平坦度誤差及び最終板クラウン誤差の和が所定条件を満足するように前記パススケジュールにおける各パスの圧下量を変更し、各パスの圧下量が変更されたパススケジュールを最終パススケジュールに設定する第二ステップと、
を含むことを特徴とする鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法。
【請求項2】
前記最終パススケジュールのパス数を減らし、パス数が減らされた最終パススケジュールを用いて前記第二ステップを再実行するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法。
【請求項3】
処理対象の鋼板に応じて前記平坦度誤差及び前記最終板クラウン誤差に対する重み付けを変更するステップを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法。
【請求項4】
圧延能率及び板クラウン比率を考慮して鋼板の圧延工程のパス毎の圧下量を規定したパススケジュールを計算する第一手段と、
各パスにおける鋼板の平坦度誤差及び最終板クラウン誤差の和が所定条件を満足するように前記パススケジュールにおける各パスの圧下量を変更し、各パスの圧下量が変更されたパススケジュールを最終パススケジュールに設定する第二手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の圧延工程のパススケジュール計算装置。
【請求項5】
請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法によって設定された最終パススケジュールに従って鋼板を圧延するステップを含むことを特徴とする鋼板の圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法、鋼板の圧延工程のパススケジュール計算装置、及び鋼板の圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の圧延工程では、要求される鋼板の圧延寸法、形状、及び組織を満足するために、パス毎の圧下量設定を始めとする圧延設備のセットアップ計算(以下、パススケジュール計算ともいう)を行っている。このパススケジュール計算は、鋼板の品質に大きな影響を与える重要な作業であり、より高い生産性でより良質な鋼板を圧延するべく、これまでに数多くの手法が検討されてきた。
【0003】
鋼板の圧延工程において高い生産性を実現する指針として、板クラウンの制御による歩留まり向上や平坦度の制御による矯正率の低減が挙げられる。ここで、板クラウンとは、鋼板の幅方向中央部の板厚と幅方向両端部の板厚との差を意味し、平坦度とは、鋼板の長手方向のセンター位置における伸び率に対するエッジ位置における伸び率の差を意味する。このような背景から、鋼板の板クラウンや平坦度を制御する方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、最終パスより2パス前の鋼板長の測定結果に基づいて板クラウン比率(板厚に対する板クラウンの大きさの比)を一定に保つように残りのパスの圧下量を調整することにより、鋼板の平坦度の悪化を抑制する方法が記載されている。また、特許文献2には、所定の板厚までは能率優先のパススケジュールで鋼板を圧延し、所定の板厚以下では形状重視のパススケジュールに切り替えることにより、圧延能率と板形状の両立を図る方法が記載されている。さらに、特許文献3には、板クラウン、平坦度、及び板クラウン比率変化を対象として評価関数を最小化するように各パスの圧下量を変更する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-322118号公報
【特許文献2】特開2014-42928号公報
【特許文献3】特開2010-75994号公報
【特許文献4】特開2001-269703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、あくまで板クラウン比率を一定に保つことを目的としているために、それまでに発生した平坦度の乱れを修正することは困難である。一方、特許文献2に記載の方法は、鋼板の板厚が所定の板厚以下となるまでは板クラウン及び平坦度を制御することができない。このため、特に圧延能率を上げるべく圧延設備の能力の限界付近で連続して圧下を行った場合、形状重視のパススケジュールに切り替わった際、圧延荷重が急激に変動することによる板形状の悪化や、能率優先のパススケジュールの段階で無視できない板クラウン及び平坦度が発生する可能性がある。
【0007】
また、特許文献3及び特許文献4に記載の方法は、まず設備的限界を考慮した最大圧下量を全パスに適用することにより最少パス数を求めた後、板クラウン等が許容範囲内となるまで圧下量の調整とパス数の増加を繰り返している。このため、特に板形状の乱れやすい鋼板、例えば板厚が極端に薄い鋼板に関しては、板クラウン及び平坦度を許容範囲内に収束させることが難しく、板クラウン及び平坦度を抑えるためにパス数が増加する可能性がある。パス数の増加は、圧延能率の低下を招くだけでなく、板厚が薄く板形状が急激に変化する領域での圧延パスが増えることにより、モデル誤差や設備的応答性等の影響から実際の圧延において板クラウン及び平坦度がむしろ悪化する可能性がある。また逆に、例えば板形状に影響が出にくい板厚の大きな鋼板では、圧延パス数が極端に減り、仕上がり温度が下がらずにスケール疵の発生につながる可能性がある。
【0008】
以上のことから、パス全体を活用し、尚且つ圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度の改善を図るパススケジュール計算方法の提供が求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を改善することが可能な鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法及びパススケジュール計算装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を制御して生産性よく鋼板を圧延することが可能な鋼板の圧延方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法は、圧延能率及び板クラウン比率を考慮して鋼板の圧延工程のパス毎の圧下量を規定したパススケジュールを計算する第一ステップと、各パスにおける鋼板の平坦度誤差及び最終板クラウン誤差の和が所定条件を満足するように前記パススケジュールにおける各パスの圧下量を変更し、各パスの圧下量が変更されたパススケジュールを最終パススケジュールに設定する第二ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法は、上記発明において、前記最終パススケジュールのパス数を減らし、パス数が減らされた最終パススケジュールを用いて前記第二ステップを再実行するステップを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法は、上記発明において、処理対象の鋼板に応じて前記平坦度誤差及び前記最終板クラウン誤差に対する重み付けを変更するステップを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算装置は、圧延能率及び板クラウン比率を考慮して鋼板の圧延工程のパス毎の圧下量を規定したパススケジュールを計算する第一手段と、各パスにおける鋼板の平坦度誤差及び最終板クラウン誤差の和が所定条件を満足するように前記パススケジュールにおける各パスの圧下量を変更し、各パスの圧下量が変更されたパススケジュールを最終パススケジュールに設定する第二手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る鋼板の圧延方法は、本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法によって設定された最終パススケジュールに従って鋼板を圧延するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法及びパススケジュール計算装置によれば、圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を改善することができる。また、本発明に係る鋼板の圧延方法によれば、圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を制御して生産性よく鋼板を圧延することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態である鋼板の圧延工程のパススケジュール計算処理の流れを示すフローチャートである。
図2図2は、従来のパススケジュール計算方法を説明するための図である。
図3図3は、従来例により計算されたパススケジュールで鋼板を圧延した際の板クラウン偏差分布の一例を示す図である。
図4図4は、本発明例により計算されたパススケジュールで鋼板を圧延した際の板クラウン偏差分布の一例を示す図である。
図5図5は、本発明例によるパススケジュールのパス数の削減効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の圧延工程のパススケジュール計算方法について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の圧延工程のパススケジュール計算処理の流れを示すフローチャートである。図1に示すフローチャートは、コンピュータ等の情報処理装置に対してパススケジュール計算処理の実行指令が入力されたタイミングで開始となり、パススケジュール計算処理はステップS1の処理に進む。なお、以下に示すパススケジュール計算処理は、情報処理装置がパススケジュール計算処理の各処理ステップの実行命令がコンピュータ言語によって規定されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0019】
ステップS1の処理では、情報処理装置が、従来のパススケジュール計算方法を用いて鋼板の圧延工程におけるパススケジュールを計算する。具体的には、まず、情報処理装置は、1パス目から最終パスまでの各パスにおける鋼板の温度を仮決定する。次に、情報処理装置は、各パスの圧下量を計算して仮決定パススケジュールを作成する。詳しくは、まず、情報処理装置は、図2(a)に示すように、所望の最終板幅及び最終板厚Haimから最終パスの圧延荷重を計算する。次に、情報処理装置は、計算された最終パスの圧延荷重から最終パスの圧下量を求め、最終パスの圧下量から最終パスにおける板クラウン比率を求める。
【0020】
次に、情報処理装置は、図2(b)に示すように、最終パスから順に1つ前のパスの圧下量を決定していく。この際、情報処理装置は、鋼板の入側板厚が形状制御開始厚Hcsより大きいか否かで圧下量の設定方法を変更する。即ち、鋼板の入側板厚が形状制御開始厚Hcs以下である場合、情報処理装置は、そのパスの圧下量を板クウラン比率の変化量が許容範囲内になる圧下量(板形状制御重視の圧下量)に設定する。一方、鋼板の入側板厚が形状制御開始厚Hcsより大きい場合には、情報処理装置は、そのパスの圧下量を圧延設備の制約条件上限値での圧下量(圧延能率重視の圧下量)に設定する。この一連の処理によって仮決定パスケジュールが計算される。
【0021】
仮決定パススケジュールが計算されると、次に、情報処理装置は、図2(c)に示すように、仮決定パススケジュールにおいて厚み出し開始厚HDWを超過している圧下量(ラウンドオフ量)を形状制御開始厚Hcsより上流のパス(ラウンドオフ対象パス)に割り振るラウンドオフ操作を実行する。次に、情報処理装置は、鋼板の仕上がり温度が許容範囲内に収まっているか否かを1パス目から順に判別する。そして、鋼板の仕上がり温度が許容範囲内である場合、情報処理装置は仮決定パススケジュールを鋼板の圧延工程におけるパススケジュールに設定する。一方、鋼板の仕上がり温度が許容範囲外である場合には、情報処理装置は、各パスにおける鋼板の温度を再設定して再度仮決定パススケジュールを作成し、上述した処理を再度実行する。これにより、ステップS1の処理は完了し、パススケジュール計算処理はステップS2の処理に進む。
【0022】
ステップS2の処理では、情報処理装置が、ステップS1の処理において計算されたパススケジュールにおける各パスの圧下量を最適化する。具体的には、情報処理装置は、凸2次計画法等の最適化手法を用いて以下の数式(1)に示す評価関数Jの値が最小になる各パスの圧下量を算出する。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、数式(1)において、iはパス番号(=1~n)、λ refは各パスにおける鋼板の平坦度の目標値、λは各パスにおける鋼板の平坦度、Crrefは最終板クラウンの目標値、Crは最終板クラウンを示している。また、W λ及びWCrはそれぞれ、各パスにおける鋼板の平坦度及び最終板クラウンの誤差に対する重みを示している。上記評価関数Jは、各パスにおける鋼板の平坦度誤差と最終板クラウン誤差とを合計して評価するものである。
【0025】
評価関数Jの値に対する操作量は各パスの圧下量である。各パスの圧下量は、圧下量変動Δhに対する平坦度変動Δλ/Δhと圧下量変動Δhに対する板クラウン変動ΔCr/Δhとの2つの係数から求められる。従って、評価関数Jの値を最小にすることは平坦度と板クラウンが最も理想に近い鋼板となるパススケジュールを求めることに等しくなる。これにより、ステップS2の処理は完了し、パススケジュール計算処理はステップS3の処理に進む。なお、初回のステップS2の処理の実行後は、情報処理装置はステップS2の処理からステップS3の処理にパススケジュール計算処理を進める。
【0026】
なお、最適化計算によって各パスの圧下量が変更されることにより各パスにおける鋼板の温度が変化する。従って、鋼板の温度変化が鋼板の品質に悪影響を与えることを抑制するために、圧下量の最適化計算を実行する度毎に鋼板の温度や寸法を始めとする鋼板の状態を再計算し、再計算結果に基づいて圧下量や冷却時間等を変更することが望ましい。また、例えば板クラウンが大きく出やすい厚めの鋼板では評価関数Jの重みWCrの値を大きくし、平坦度が乱れやすい板厚の薄い鋼板では重みWλの値を大きくするといったように、重みWλ及び重みWCrの値を処理対象の鋼板に応じて設定してもよい。
【0027】
ステップS3の処理では、情報処理装置が、ステップS2の処理において圧下量を最適化したパススケジュールにおける各パスの平坦度偏差と最終板クラウン偏差を算出し、算出された各偏差が許容範囲内にあるか否かを判別する。そして、判別の結果、各偏差が許容範囲内である場合(ステップS3:Yes)、情報処理装置は、最適化計算が収束したと判断し、パススケジュール計算処理をステップS4の処理に進める。一方、各偏差が許容範囲内にない場合には(ステップS3:No)、情報処理装置は、パススケジュール計算処理をステップS5の処理に進める。
【0028】
ステップS4の処理では、情報処理装置が、ステップS2の処理において圧下量を最適化したパススケジュールのパス数を1つ減らす。具体的には、情報処理装置は、圧下量が最も少ないパスのパススケジュールを削除する。これにより、ステップS4の処理は完了し、パススケジュール計算処理はステップS2の処理に戻る。なお、ステップS4の処理は必ずしも実行する必要はなく、鋼板の板厚、板幅、及び温度調整の有無等に応じて実行するか否かを選択してもよい。
【0029】
ステップS5の処理では、情報処理装置が、パス数を1つ減らす前のパススケジュールを最終のパススケジュールに採用する。以後、情報処理装置は、採用したパススケジュールに関する情報を圧延設備を制御する圧延制御装置に送信し、圧延制御装置は送信されたパススケジュールに関する情報に従って鋼板の圧延工程を制御する。各パスの平坦度偏差と最終板クラウン偏差が最終的に許容範囲を逸脱するまでパスの削減を繰り返し、最後に各偏差が許容範囲内になったパススケジュールを採用することにより、板クラウン及び平坦度が良好且つ圧延能率の優れたパススケジュールの設定が可能にある。これにより、ステップS5の処理は完了し、一連のパススケジュール計算処理は終了する。
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態であるパススケジュール計算処理では、情報処理装置が、圧延能率及び板クラウン比率を考慮して鋼板の圧延工程のパス毎の圧下量を規定したパススケジュールを計算し、各パスにおける鋼板の平坦度誤差及び最終板クラウン誤差の和が所定条件を満足するように前記パススケジュールにおける各パスの圧下量を変更し、各パスの圧下量が変更されたパススケジュールを最終パススケジュールに設定するので、圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を改善することができる。また、本発明の一実施形態であるパススケジュール計算処理によって作成されたパススケジュールに従って鋼板を圧延することにより、圧延能率を一定に保ちながら板クラウン及び平坦度を制御して生産性よく鋼板を圧延することができる。
【0031】
また、本発明の一実施形態であるパススケジュール計算処理では、仮にステップ2の処理において圧下量の最適化計算に失敗する、もしくはステップS3の処理において平坦度偏差及び最終板クラウン偏差が許容範囲内に収まらず、ステップS1の処理において計算した従来のパススケジュール計算方法によるパススケジュールが採用された場合であっても、パス間で再度圧下量の最適化計算を行い、計算結果がステップS3の許容範囲内に入った場合に新たに計算したパススケジュールに切り替えることができる。これは、基となるパススケジュール計算方法として従来のパススケジュール計算方法を採用しているためである。これにより、本発明の一実施形態であるパススケジュール計算処理によれば、あくまで現状のパススケジュールに対して平坦度及び板クラウンの改善を図るため、各種制約条件が予め満たされている状態からの計算となり、再計算以降の圧下量調整を容易に行うことができる。
【0032】
これに対して、特許文献3及び特許文献4に記載の方法のように、最大圧下量を前提としたパススケジュール計算方法を基にした場合には、パスの進んだ状態から初期パススケジュールを作成することは難しい。これは、それまで圧延してきたパススケジュールと最大圧下量のパススケジュールとでは圧下量及びパス数に差が生じるため、前パスとの圧下量の差が大きくなり機械制約を満たせない、もしくは温調厚及び目標板温を満足できないといった多くの課題が生じるためである。そして、これらの課題を解消できない場合は最適化失敗となるが、この場合、最適化されていない初期のパススケジュール計算が設定値として残ることになる。また、この課題を解決するためにパス数を増やして最適化の自由度を上げることが考えられるが、この場合、発明が解決しようとする課題において述べた課題が助長される可能性がある。
【0033】
〔実施例〕
図3,4はそれぞれ、従来例及び本発明により計算されたパススケジュールで鋼板を圧延した際の板クラウン偏差分布の一例を示す図である。なお、本例では、板厚8~25mm、板幅2650~4600mmの鋼板1万5千本を計算対象とした。また、計算対象とした鋼板の化学成分や制御圧延の有無は考慮せず、全ての鋼板について同一の計算条件でパススケジュール計算を行った。図3及び図4の比較から明らかなように、本発明例(図4)によれば、従来例(図3)と比較して、平均板クラウン誤差を24.5μm(69.0%)、板クラウン偏差σを16.5μm(23.6%)改善できた。また、パス数については、図1に示すステップS4の処理を実行しなかった場合は、本発明例及び従来例共に平均16.0パスであった。一方、図1に示すステップS4の処理を実行した場合は、図5に示すように、本発明例によれば、従来例と比較して、パス数を2パス削減できた。なお、図5中の数字は何回目のパスであるかを示している。また、この時の従来例における板クラウン偏差は100μmであったのに対して、本発明例における板クラウン偏差は75μmであった。これにより、本発明によれば、圧延能率を向上させると共に板クラウンの低減も実現できることが確認された。
【0034】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5