(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013211
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】車内コミュニケーション支援システム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20220111BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G10K11/178 100
B60R11/02 M
B60R11/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115623
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】梶川 嘉延
【テーマコード(参考)】
3D020
5D061
【Fターム(参考)】
3D020BA02
3D020BA10
3D020BA11
3D020BB01
3D020BC02
3D020BC05
3D020BC11
3D020BD03
3D020BE03
3D020BE04
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】不要音をキャンセルし発話音声を中継する「車内コミュニケーション支援システム」を提供する。
【解決手段】第1可変フィルタ31は第2席オーディオソース1の音を入力として第2席オーディオソース1の音を第1席でキャンセルするキャンセル音を生成する。第1席マイク9の出力から、第1席マイク9と第1席の位置の差を補正する補正信号を生成する補助フィルタ35の出力と、第1席オーディオソース2の音を入力とする第2可変フィルタ36の出力とを減じた信号Euのレベルが最小になるように、第1可変フィルタ31と第2可変フィルタ36の伝達関数は更新される。信号Euのレベルがしきい値を超えている期間、信号Euを発話音声として第2席に中継する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に異なる座席である第1席と第2席を有する自動車に搭載される、車内コミュニケーション支援システムであって、
前記第1席の音を収音するマイクと、
第1の音源装置と、
前記第1の音源装置の出力音を出力する、第1席のユーザ用のスピーカである第1スピーカと、
第2の音源装置と、
前記第2の音源装置の出力音を出力する、第2席のユーザ用のスピーカである第2スピーカと、
第1席のユーザに対して、前記第2スピーカから出力される前記第2の音源装置の出力音をキャンセルするキャンセル音を前記第1スピーカから出力する騒音制御部と、
発話音声出力部とを有し、
前記騒音制御部は、
前記第2の音源装置の出力音を入力として、前記キャンセル音を生成する第1の適応フィルタと、
前記第1の音源装置の出力音を入力とする第2の適応フィルタと、
前記マイクの出力から少なくとも前記第2の適応フィルタの出力を減算した信号である第1信号を生成する第1信号生成部とを有し、
前記第1の適応フィルタと前記第2適応フィルタは、前記第1信号のレベルが小さくなるように、自信の伝達関数を更新する適応動作を行い、
前記発話音声出力部は、前記第1信号を、前記第1席のユーザの発話音声として前記第2スピーカから出力することを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項2】
請求項1記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
前記騒音制御部は、前記第2の音源装置の出力音を入力とする補助フィルタを有し、
前記第1信号生成部は、前記マイクの出力から前記第2の適応フィルタの出力と前記補助フィルタの出力を減算した信号を前記第1信号として生成し、
前記補助フィルタの出力を前記マイクの出力から減算することにより、前記マイクの出力が第1席のユーザの音の聴取位置で収音した音に補正される伝達関数として予め求めた伝達関数が、前記補助フィルタに設定されていることを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
前記発話音声出力部は、前記第1信号が所定のレベルよりも大きいときに、当該第1信号を前記第2スピーカから出力することを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項4】
請求項3記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
前記発話音声出力部は、前記第1信号が所定のレベルよりも大きいときに、前記第1の適応フィルタと前記第2適応フィルタの適応動作を停止することを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内の発話によるコミュニケーションを支援する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車内の発話によるコミュニケーションを支援する技術としては、自動車の第1の座席に着座したユーザの発話音声を第1の座席用のマイクで収音し、自動車の第2の座席用のスピーカから出力する技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
また、このような技術において、第1の座席用のマイクで収音した音声から、第1の座席用のスピーカから出力されている音楽などの音をキャンセルした上で、第2の座席用のスピーカから出力する技術も知られている(たとえば、特許文献2)。
【0004】
また、本発明に関する技術としては、騒音キャンセル位置の近傍に配置したマイクと、騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルするキャンセル音を騒音源の出力信号から生成する適応フィルタと、キャンセル音を出力するスピーカとを設け、適応フィルタにおいて、マイクの出力を補助フィルタを用いて補正した信号をエラー信号として伝達関数を適応的に設定する能動型騒音制御(ANC; Active Noise Control)の技術が知られている(たとえば、特許文献3、4)。
【0005】
ここで、この技術では、補助フィルタには、予め学習した、騒音キャンセル位置にマイクが配置されていた場合にマイクから出力される信号に、マイクが実際に出力する信号を補正する伝達関数が設定されており、このような補助フィルタを用いることにより、マイクの位置と異なる騒音キャンセル位置において騒音をキャンセルしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-51392号公報
【特許文献2】特開2010-163054号公報
【特許文献3】特開2020-12917号公報
【特許文献4】特開2018-72770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1の座席のユーザと第2の座席のユーザが相互に異なる音楽を楽しむため等に、第1の座席用のスピーカから第1の音源の音を出力し第2の座席用のスピーカから第2の音源の音を出力している場合、両音源の音が第1の座席用のマイクに伝搬する環境下では、単に、第1の座席用のマイクで収音した音声から第1の音源の音をキャンセルするだけでは、第1の座席のユーザの発話音声をSN比良く明瞭に第2の座席用のスピーカから第2の座席のユーザに対して出力することができない。
【0008】
また、第1の座席のユーザと第2の座席のユーザが、それぞれ異なる音源の音を聴いている場合、各ユーザには、他のユーザが聴いている音源の音が聴こえないことが望ましい。
【0009】
そこで、本発明は、自動車の各席のユーザが異なる音源の音を聴取している環境において、ユーザに他のユーザが聴取している音源の音が聞こえてしまうことを抑制しつつ、ユーザ間で良好に発話によるコミュニケーションを行える車内コミュニケーション支援システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題達成のために、本発明は、相互に異なる座席である第1席と第2席を有する自動車に搭載される、車内コミュニケーション支援システムに、前記第1席の音を収音するマイクと、第1の音源装置と、前記第1の音源装置の出力音を出力する、第1席のユーザ用のスピーカである第1スピーカと、第2の音源装置と、前記第2の音源装置の出力音を出力する、第2席のユーザ用のスピーカである第2スピーカと、第1席のユーザに対して、前記第2スピーカから出力される前記第2の音源装置の出力音をキャンセルするキャンセル音を前記第1スピーカから出力する騒音制御部と、発話音声出力部とを備えたものである。前記騒音制御部は、前記第2の音源装置の出力音を入力として、前記キャンセル音を生成する第1の適応フィルタと、前記第1の音源装置の出力音を入力とする第2の適応フィルタと、前記マイクの出力から少なくとも前記第2の適応フィルタの出力を減算した信号である第1信号を生成する第1信号生成部とを備えており、前記第1の適応フィルタと前記第2適応フィルタは、前記第1信号のレベルが小さくなるように、自信の伝達関数を更新する適応動作を行う。また、前記発話音声出力部は、前記第1信号を、前記第1席のユーザの発話音声として前記第2スピーカから出力する。
【0011】
ここで、このような車内コミュニケーション支援システムは、前記騒音制御部に、前記第2の音源装置の出力音を入力とする補助フィルタを設け、前記第1信号生成部において、前記マイクの出力から前記第2の適応フィルタの出力と前記補助フィルタの出力を減算した信号を前記第1信号として生成しするように構成してもよい。ただし、前記補助フィルタの出力を前記マイクの出力から減算することにより、前記マイクの出力が第1席のユーザの音の聴取位置で収音した音に補正される伝達関数として予め求めた伝達関数を、前記補助フィルタに設定する。
【0012】
また、以上の車内コミュニケーション支援システムは、前記発話音声出力部において、前記第1信号が所定のレベルよりも大きいときに、当該第1信号を前記第2スピーカから出力するように構成してもよい。
【0013】
また、この場合には、前記発話音声出力部において、前記第1信号が所定のレベルよりも大きいときに、前記第1の適応フィルタと前記第2適応フィルタの適応動作を停止してもよい。
【0014】
以上のような車内コミュニケーション支援システムによれば、第1席のユーザに第2席のユーザが聴取している第2の音源装置の音が聞こえてしまうことを抑制しつつ、第2席のユーザに対して、第2スピーカから第1席のユーザの発話音声をSN比良く出力して、第1席のユーザの発話音声の聴取を支援することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、自動車の各席のユーザが異なる音源の音を聴取している環境において、ユーザに他のユーザが聴取している音源の音が聞こえてしまうことを抑制しつつ、ユーザ間で良好に発話によるコミュニケーションを行える車内コミュニケーション支援システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る車内コミュニケーション支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車内コミュニケーション支援システムのスピーカと第1席マイクの配置を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る能動型騒音制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る発話音声中継処理を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態に係る補助フィルタの伝達関数の学習の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る車内コミュニケーション支援システムの構成を示す。
車内コミュニケーション支援システムは、自動車に搭載されるシステムであり、図示するように、第2席オーディオソース1、第1席オーディオソース2、能動型騒音制御装置3、ICC処理部4(In-Car Communication処理部4)、第2席スピーカ5、第1席スピーカ6、第2席スピーカ用加算部7、第1席スピーカ用加算部8、第1席マイク9を備えている。
【0018】
図2に示すように、自動車の一つの席を第1席とし、第1席以外の他の一つの席を第2席として、第1席スピーカ6は第1席近くに配置された第1席のユーザ用のスピーカであり、第2席スピーカ5は第2席近くに配置された第2席のユーザ用のスピーカである。なお、
図2の配置は一例であり、第1席スピーカ6が主として第1席のユーザを対象として音を放射し、第2席スピーカ5が主として第2席のユーザを対象として音を放射するものであれば、第1席スピーカ6や第2席スピーカ5の配置や個数は任意でよい。
【0019】
また、第1席マイク9は、たとえば、
図2のように第1席の近くに配置されたマイクである。
図1に戻り、第1席オーディオソース2は、第1席のユーザが聴取する音楽等の音を出力する音源であり、第1席オーディオソース2が出力した音は第1席スピーカ用加算部8を介して第1席スピーカ6から出力される。
【0020】
また、第2席オーディオソース1は、第2席のユーザが聴取する音楽等の音を出力する音源であり、第2席オーディオソース1が出力した音は第2席スピーカ用加算部7を介して第2席スピーカ5から出力される。
【0021】
能動型騒音制御装置3には、第2席オーディオソース1の音と、第1席オーディオソース2の音と、第1席マイク9で収音した音が入力し、能動型騒音制御装置3は、これらの入力する音から、第1席のユーザの位置において第1席のユーザ聞こえる第2席オーディオソース1の音をキャンセルするキャンセル音を生成し、第1席スピーカ用加算部8を介して第1席スピーカ6から出力する。
【0022】
また、能動型騒音制御装置3は、入力する音を用いて、第1席マイク9で収音した音に含まれる第1席のユーザの発話音声Euを抽出し、ICC処理部4に出力する。
そして、ICC処理部4は、能動型騒音制御装置3から入力する発話音声Eu、もしくは、発話音声Euに所定の音響処理を施した音声を、第2席スピーカ用加算部7を介して第2席スピーカ5から出力することにより、第2席のユーザの第1席のユーザの発話音声の聴取を支援する。
【0023】
次に、
図3に、能動型騒音制御装置3の構成を示す。
図示するように、能動型騒音制御装置3は、第1可変フィルタ31、第1適応アルゴリズム実行部32、予め伝達関数S^(z)が設定された推定フィルタ33、第1減算器34、予め伝達関数H(z)が設定された補助フィルタ35、第2可変フィルタ36、第2適応アルゴリズム実行部37、第2減算器38を備えている。
【0024】
第2席オーディオソース1から入力する音は、第1可変フィルタ31を通ってキャンセル音として、第1席スピーカ用加算部8を介して第1席スピーカ6から出力される。
また、第2席オーディオソース1から入力する音は、補助フィルタ35を通って、第1減算器34に送られる。
第1減算器34は、第1席マイク9で収音した音から補助フィルタ35の出力を減算し、第2減算器38に送る。
補助フィルタ35には、第1減算器34の出力が、第1席のユーザの耳の位置に第1席マイク9が位置していた場合に第1席マイク9から出力される信号になるように、第1席マイク9が実際に出力する信号を補正する伝達関数H(z)が予め設定されている。この補助フィルタ35の伝達関数H(z)の設定法については後述する。
【0025】
一方、第1席オーディオソース2から入力する音は、第2可変フィルタ36を通って第2減算器38に送られる。
第2減算器38は、第1減算器34の出力から、第2可変フィルタ36の出力を減算した信号Euを、第1適応アルゴリズム実行部32と第2適応アルゴリズム実行部37に出力すると共に、発話音声EuとしてICC処理部4に出力する。
【0026】
次に、推定フィルタ33には、能動型騒音制御装置3から第1席マイク9までの伝達関数S(z)を実測等により推定した推定伝達特性S^(z)が予め設定されており、推定フィルタ33は、伝達特性S^(z)を入力した第1席オーディオソース2から入力する音に畳み込んで、第1適応アルゴリズム実行部32に出力する。
【0027】
第1可変フィルタ31と第1適応アルゴリズム実行部32と推定フィルタ33はFiltered-X適応フィルタを構成している。
第1適応アルゴリズム実行部32は、推定フィルタ33で伝達関数S^(z)が畳み込まれた信号と第2減算器38から出力される信号Euを用いて、第2減算器38から出力される信号をエラーとしてNLMSやLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、第2減算器38から出力される信号Euのレベルが最小となるように第1可変フィルタ31の伝達関数W(z)を更新する適応動作を行う。そして、この適応動作によって、第1可変フィルタ31の伝達関数W(z)は、信号Euに含まれる第2席オーディオソース1の出力する音の成分が最小になるように更新される。そして、この結果、第1可変フィルタ31は、第1席のユーザの耳の位置で第2席オーディオソース1の出力する音をキャンセルするキャンセル音を出力するように適応される。
【0028】
また、第2可変フィルタ36と第2適応アルゴリズム実行部37も、適応フィルタを構成している。
そして、第2適応アルゴリズム実行部37は、第1席オーディオソース2が出力する音と第2減算器38から出力される信号Euを用いて、第2減算器38から出力される信号をエラーとしてNLMSやLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、第2減算器38から出力される信号Euのレベルが最小となるように第2可変フィルタ36の伝達関数U(z)を更新する適応動作を行う。そして、この適応動作によって、第2可変フィルタ36の伝達関数U(z)は、信号Euに含まれる第1席オーディオソース2の出力する音の成分が最小になるように更新される。
【0029】
さて、このような能動型騒音制御装置3の動作によって、ICC処理部4に送られる信号Euに含まれる第2席オーディオソース1の出力する音の成分と、第1席オーディオソース2の出力する音の成分とは最小化される。
【0030】
したがって、第1席のユーザの発話した音声が第1席マイク9で収音した音に含まれているときには、能動型騒音制御装置3からICC処理部4に送られる発話音声Euは、第1席のユーザの発話音声を表すものとなる。
【0031】
次に、ICC処理部4が、第1席のユーザの発話音声Euを第2席スピーカ用加算部7を介して第2席スピーカ5から出力するために行う発話音声中継処理について説明する。
図4に、この発話音声中継処理の手順を示す。
図示するように、ICC処理部4は、発話音声中継処理において、能動型騒音制御装置3から入力する発話音声Euのレベルの測定(ステップ402)を、測定したレベルが所定のしきい値を超えるまで(ステップ404)、繰り返す。
【0032】
そして、測定した発話音声Euのレベルが所定のしきい値を超えたならば(ステップ404)、発話音声出力動作を開始する(ステップ406)。
ここで、発話音声出力動作では、能動型騒音制御装置3から入力する発話音声Euを第2席スピーカ用加算部7に出力することにより第2席スピーカ5から出力する動作を行う。ただし、発話音声出力動作では、能動型騒音制御装置3から入力する発話音声Euに所定の音響処理を施した上で、第2席スピーカ用加算部7に出力することにより第2席スピーカ5から出力する動作を行ってもよい。
【0033】
そして、第1可変フィルタ31の伝達関数W(z)の更新と、第2可変フィルタ36の伝達関数U(z)の更新とを停止することにより、能動型騒音制御装置3の適応動作を停止する(ステップ408)。より具体的には、第1適応アルゴリズム実行部32が行う伝達関数W(z)の更新のゲインを定めるステップサイズと、第2適応アルゴリズム実行部37が行う伝達関数U(z)の更新のゲインを定めるステップサイズとを0に設定することにより、第1可変フィルタ31の伝達関数W(z)の更新と、第2可変フィルタ36の伝達関数U(z)の更新とを停止する
次に、能動型騒音制御装置3から入力する発話音声Euのレベルの測定(ステップ410)を、測定したレベルがしきい値以下となるまで(ステップ412)繰り返す。
【0034】
そして、測定した発話音声Euのレベルがしきい値以下となったならば(ステップ412)、発話音声出力動作を停止する(ステップ414)。
そして、能動型騒音制御装置3の適応動作を再開する(ステップ416)。より具体的には、ステップ414では、第1適応アルゴリズム実行部32が行う伝達関数W(z)の更新のゲインを定めるステップサイズと、第2適応アルゴリズム実行部37が行う伝達関数U(z)の更新のゲインを定めるステップサイズとを、ステップ408で適応動作を停止する前の元の値に復帰する。
【0035】
以上、ICC処理部4が行う発話音声中継処理について説明した。
このような発話音声中継処理によれば、第1席のユーザの発話を精度良く検出し、第1席のユーザの発話中、おおよそ発話音声の成分のみからなる音声を第2席スピーカ5から出力する発話音声出力動作を行って、第1席のユーザの発話音声の第2席のユーザの発話音声の聴取を支援することができる。
【0036】
なお、以上の発話音声中継処理において、発話音声出力動作中に、能動型騒音制御装置3の適応動作を停止するのは、第1席のユーザの発話音声が外乱として作用し、適応動作によって誤動作してしまうことを抑止するためである。
【0037】
次に、上述した能動型騒音制御装置3の補助フィルタ35の伝達関数H(z)の設定法について説明する。
補助フィルタ35の伝達関数H(z)は、たとえば、予め次のような第1段階の学習処理と第2段階の学習処理を、第2席オーディオソース1が出力した音を第2席スピーカ5から出力しながら行うことにより設定する。
第1段階の学習処理は、
図5aに示す第1段階学習処理部50と、第1席ユーザの耳の位置に配置した学習用マイク60を用いて行う。
第1段階学習処理部50は、第1段階学習処理部50から学習用マイク60までの伝達関数Sv(z)の推定値Sv^(z)が設定された学習用推定フィルタ51、第1段階学習用可変フィルタ52、第1段階学習用適応アルゴリズム実行部53を備えている。
【0038】
そして、このような構成において、第2席オーディオソース1の出力する音は第1段階学習用可変フィルタ52に入力し、第1段階学習用可変フィルタ52の出力は第1席スピーカ6に出力される。また、第2席オーディオソース1の出力する音は学習用推定フィルタ51を通って第1段階学習用適応アルゴリズム実行部53に入力し、第1段階学習用適応アルゴリズム実行部53は、学習用マイク60の出力をエラーとして学習用推定フィルタ51の出力を用いながらNLMSやLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、第1段階学習用可変フィルタ52の伝達関数W(z)を更新する。
【0039】
そして、適応アルゴリズムの実行によって、収束安定した第1段階学習用可変フィルタ52の伝達関数W(z)を第1段階の学習処理の結果として得る。
次に、第2段階の学習処理は、
図5bに示す第2段階学習処理部70を用いて行う。
第2段階学習処理部70は、第1段階の学習処理の結果として得た伝達関数W(z)を伝達関数として設定した固定フィルタ71と、第2段階学習用可変フィルタ72と、第2段階学習用適応アルゴリズム実行部73と、第2段階学習用減算器74を備えている。
【0040】
そして、このような構成において、第2席オーディオソース1の出力する音は固定フィルタ71を通って第1席スピーカ6に出力される。
また、第2席オーディオソース1の出力する音は第2段階学習用可変フィルタ72を通って第2段階学習用減算器74に送られ、第2段階学習用減算器74は第1席マイク9でピックアップした信号から第2段階学習用可変フィルタ72の出力を減算し出力する。
【0041】
第2段階適応アルゴリズム実行部73は、第2段階学習用減算器74の出力をエラーとして、第2席オーディオソース1の出力する音を用いながらNLMSやLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、第2段階学習用可変フィルタ72の伝達関数H(z)を更新する。
【0042】
そして、適応アルゴリズムの実行によって、収束安定した伝達関数H(z)を、能動型騒音制御装置3の補助フィルタ35の伝達関数H(z)とする。
ここで、このようにして学習された伝達関数H(z)は、上述のように、能動型騒音制御装置3において、第1減算器34の出力が、第1席のユーザの耳の位置に第1席マイク9が位置していた場合に第1席マイク9から出力される信号となることが期待できる伝達関数となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明した。
このように、本実施形態によれば、第1席のユーザに第2席のユーザが聴取している第2席オーディオソース1の音が聞こえてしまうことを抑制しつつ、第2席のユーザに対して、第2席スピーカ5から第1席のユーザの発話音声をSN比良く出力することができる。
【0044】
なお、以上では、第1席スピーカ6、第2席スピーカ5、第1席マイク9を一つずつ設けた場合について示したが、これらはそれぞれ複数設けるようにしてもよい。また、第1席マイク9を複数設ける場合には、各第1席マイク毎に発話音声Euを生成し、
図4の発話音声中継処理のステップ404では、各第1席マイク9について生成した発話音声Euの全てがしきい値を超えたときに、ステップ406に進んで発話音声出力動作を開始するようにする。
【0045】
また、以上では、第1席のユーザに対して第2席オーディオソース1の音をキャンセルしつつ、第2席スピーカ5に第1席のユーザの発話音声を出力する場合について説明したが、本実施形態は、複数の席について、各席のユーザに対して他席のオーディオソースの音をキャンセルしつつ、各席のユーザの発話音声を他席のスピーカに出力する場合について同様に適用することができる。
【0046】
また、本実施形態は、各席のオーディオソースが複数チャネルである場合や、ユーザの左右の耳のそれぞれについて他席のオーディオソースの音をキャンセルするように拡張して適用することもできる。
【0047】
また、本実施形態の能動型騒音制御装置3の補助フィルタ35は、これを省略してもよく、この場合にも、同様の効果を所定程度得ることができる。なお、この場合、第1席マイク9で収音した音から第2可変フィルタ36の出力を減算した信号を信号Euとして用いる。
【符号の説明】
【0048】
1…第2席オーディオソース、2…第1席オーディオソース、3…能動型騒音制御装置、4…ICC処理部、5…第2席スピーカ、6…第1席スピーカ、7…第2席スピーカ用加算部、8…第1席スピーカ用加算部、9…第1席マイク、31…第1可変フィルタ、32…第1適応アルゴリズム実行部、33…推定フィルタ、34…第1減算器、35…補助フィルタ、36…第2可変フィルタ、37…第2適応アルゴリズム実行部、38…第2減算器、50…第1段階学習処理部、51…学習用推定フィルタ、52…第1段階学習用可変フィルタ、53…第1段階学習用適応アルゴリズム実行部、60…学習用マイク、70…第2段階学習処理部、71…固定フィルタ、72…第2段階学習用可変フィルタ、73…第2段階学習用適応アルゴリズム実行部、74…第2段階学習用減算器。