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特開2022-132133疎水化架橋吸湿性繊維およびその繊維構造物
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  • 特開-疎水化架橋吸湿性繊維およびその繊維構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132133
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】疎水化架橋吸湿性繊維およびその繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20220831BHJP
   D06M 15/244 20060101ALI20220831BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20220831BHJP
   D06M 13/332 20060101ALI20220831BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20220831BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M15/244
D06M15/267
D06M13/332
D06M101:28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015357
(22)【出願日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021029351
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川中 直樹
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC03
4L033AC15
4L033BA48
4L033CA12
4L033CA19
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】レーヨン、ウール、アクリレート繊維といった吸湿性を有する繊維は、布団用、衣料用の中綿として使用すると洗濯、乾燥によって中綿の嵩高性や形状が大きく変化するという問題があった。本発明の目的は中綿に加工した場合に、洗濯、乾燥しても体積収縮、形状変化が発生しない疎水化架橋吸湿性繊維を提供することにある。
【解決手段】吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維に疎水化剤が付着している疎水化架橋吸湿性繊維であって、20℃×65%RH条件における飽和吸湿率が8.0~35.0%であり、前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維におけるアクリロニトリル単位の含有量が50wt%以上であり、且つ前記疎水化剤の付着量が前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維の重量に対して0.4~2.5wt%であることを特徴とする疎水化架橋吸湿性繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維に疎水化剤が付着している疎水化架橋吸湿性繊維であって、20℃×65%RH条件における飽和吸湿率が8.0~35.0%であり、前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維におけるアクリロニトリル単位の含有量が50wt%以上であり、且つ前記疎水化剤の付着量が前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維の重量に対して0.4~2.5wt%であることを特徴とする疎水化架橋吸湿性繊維。
【請求項2】
前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維が、1.0~5.5mmol/gのカルボキシル基量を有しているものであることを特徴とする請求項1記載の疎水化架橋吸湿性繊維。
【請求項3】
請求項1または2記載の疎水化架橋吸湿性繊維を含有する繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造物に加工した際に、洗濯に対する形状安定性(本発明において「洗濯耐久性」ともいう)が高い疎水化架橋吸湿性繊維および該繊維を使用した繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の快適性に対する意識の高まりから、吸湿機能を有する素材の開発が求められており、繊維分野においても開発が盛んに行われている。例えば、アクリル繊維を化学変性することにより得られるアクリレート繊維が知られている(特許文献1)。該繊維は架橋構造とカルボキシル基を含有しており、優れた吸湿性能や吸湿発熱性能を有する。
【0003】
しかし、かかるアクリレート繊維は、布団あるいは衣料用の中綿に使用した場合に、吸湿によって嵩高性及び形状安定性が低下するという課題を有している。これに対して2種類のアクリロニトリル系重合体からなるサイド・バイ・サイド構造を有するアクリロニトリル系繊維を原料に使用したアクリレート繊維が有効であることが知られている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、該繊維は、布団用、衣料用の中綿として使用すると洗濯、乾燥によって中綿の形状が大きく変化するという問題があった。これはアクリレート繊維が本来的に有している吸湿によって引き起こされる嵩高性及び形状安定性の低下という課題が、液体の水に浸される洗濯、乾燥という処理でより顕著になるためであり、従来の技術では解決できない課題であると考えられる。また、一般的に吸湿性のある繊維として知られるレーヨンあるいはウールに関しても同様の嵩高性及び形状安定性の低下という課題を有しており、吸湿性を有する繊維に共通した課題であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-132858号公報
【特許文献2】特許第6247800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するために創案されたものであり、その目的は中綿に加工した場合に、洗濯、乾燥しても体積収縮、形状変化が発生しない疎水化架橋吸湿性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の問題点を改善する方法につき、鋭意検討を重ねた結果、アクリル繊維を架橋後に加水分解してカルボキシル基を付与する際に、一定量以上のアクリロニトリルを残存させた状態とし、さらに疎水化剤を付着させることにより、洗濯、乾燥によっても体積収縮がほとんどなく形状維持が可能な吸湿性の中綿を提供できる繊維が得られることを見出し、本発明の完成に到達した。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)~(3)の構成を有するものである。
(1) 吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維に疎水化剤が付着している疎水化架橋吸湿性繊維であって、20℃×65%RH条件における飽和吸湿率が8.0~35.0%であり、前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維におけるアクリロニトリル単位の含有量が50wt%以上であり、且つ前記疎水化剤の付着量が前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維の重量に対して0.4~2.5wt%であることを特徴とする疎水化架橋吸湿性繊維。
(2) 前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維が、1.0~5.5mmol/gのカルボキシル基量を有しているものであることを特徴とする(1)記載の疎水化架橋吸湿性繊維。
(3) (1)または(2)記載の疎水化架橋吸湿性繊維を含有する繊維構造物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の疎水化架橋吸湿性繊維は吸湿性が優れている一方で、吸水性が抑制されたものであるため、該繊維を使用した中綿は吸湿性能が高く、洗濯、乾燥を経ても体積収縮、形状変化が抑制されたものとなる。かかる本発明の疎水化架橋吸湿性繊維は、快適性に優れ、洗濯耐久性にも優れる寝具用や衣料用の中綿として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一部の実施例、比較例の試料について、洗濯に対する形状安定性の評価における洗濯前後の試料の形状をデジタルカメラで撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の疎水化架橋吸湿性繊維は、20℃×65%RH条件における飽和吸湿率が8.0~35.0%、好ましくは12.0~30.0%、より好ましくは18.0~28.0%である。飽和吸湿率が8.0%未満の場合、他繊維と混合して中綿あるいは不織布を作る場合に衣料あるいは布団の快適性を付与することが困難となる。飽和吸湿率が35.0%より高くなると中綿あるいは不織布の洗濯耐久性を維持することが困難となる。なお、「20℃×65%RH」とは、温度が20℃かつ相対湿度が65%である雰囲気のことを意味する。
【0012】
また、本発明に採用する吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル単位の含有量が50wt%以上、好ましくは55wt%以上、より好ましくは60wt%以上である。アクリロニトリル単位の含有量が50wt%未満の場合、洗濯した場合に繊維が柔らかくなり過ぎて洗濯、乾燥後の中綿の形状維持ができなくなる。一方、アクリロニトリル単位の含有量の上限としては、上述した飽和吸湿率を得るために必要となるカルボキシル基量によって制限を受けることとなる。後述する製造方法によって吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維を製造する場合には、アクリロニトリル単位の含有量の上限は85wt%以下とすることが望ましい。ここで、「wt%」とは「重量%」を意味する。
【0013】
また、本発明に採用する疎水化剤は、繊維の吸水性を抑制するものであり、該疎水化剤を付着させた吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維を液体の水の上に落下させた際に、該繊維が水中に沈まないようにできるものであればよい。かかる疎水化剤としてはシリコーン系疎水化剤、フッ素系疎水化剤、パラフィン系疎水化剤などがある。また、繰り返し洗濯耐久性をより高いものとする目的で吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維のカルボキシル基とイオン結合できるカチオン系疎水化剤を適用することもできる。かかるカチオン系疎水化剤としては、アミノ変性シリコーン、アミノ変性フッ素化合物、カチオン化パラフィンワックスなどを選定することができる。
【0014】
かかる疎水化剤の付着量としては、吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維の重量に対して0.4~2.5wt%、好ましくは0.6~2.2wt%、より好ましくは1.0~2.0wt%である。付着量が0.4wt%未満では疎水化が不足し洗濯耐久性に関して本発明の目的とする効果を得ることができない。また2.5wt%を超えて付着させると得られる疎水化架橋吸湿性繊維がべたついた感触となり、繊維構造物に加工する際の加工性が低下する、あるいは加工設備を汚染するといった問題が発生する。
【0015】
また、本発明に採用する吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維は、十分な飽和吸湿率を得る観点や、疎水化剤をイオン結合で固定化して高い洗濯耐久性を得る観点から、好ましくは1.0~5.5mmol/g、より好ましくは1.5~5.0mmol/g、さらに好ましくは2.0~4.5mmol/g、最も好ましくは2.0~3.5mmol/g未満のカルボキシル基量を有していることが望ましい。
【0016】
カルボキシル基のカウンターイオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属の陽イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の陽イオン、アンモニウムイオン、水素イオン等から1種あるいは複数種を必要な特性に応じて選択することができる。水素イオン以外のカウンターイオンを有するカルボキシル基(以下、塩型カルボキシル基という)が存在する場合、飽和吸湿量、吸湿速度がより大きくなるため、中綿として使用する場合の快適性が向上する。
【0017】
次に、本発明の疎水化架橋吸湿性繊維の製造方法について述べる。本発明の代表的な製造方法としては、アクリル繊維に架橋構造導入処理および加水分解処理を行うことによって得られた吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維に疎水化剤を付着させる方法を採用することができる。
【0018】
まず、原料となるアクリル繊維は、アクリロニトリル系重合体から公知の方法で製造することができる。ここで、アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単位の含有量が85重量%以上のものを採用する。アクリロニトリル単位の含有量が85重量%未満では、架橋構造導入処理および加水分解処理を経た後に得られる吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維のアクリロニトリル単位の含有量を50重量%以上にすることが困難となる。
【0019】
かかるアクリロニトリル系重合体を用いて、従来公知の方法により繊維化を行い、アクリル繊維を得る。ここで、アクリロニトリル系重合体は複数種を用いてもよく、例えば、2種類のアクリロニトリル系重合体を用いて得られる、いわゆるサイド・バイ・サイド構造を有するアクリル繊維などとしてもよい。
【0020】
次に、上記のようなアクリル繊維に対して架橋構造導入処理を施す。架橋構造導入処理においては、従来公知の架橋剤を使用してもよいが、架橋構造の導入効率の点から窒素含有化合物を使用することが好ましい。かかる窒素含有化合物としては、2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物やヒドラジン系化合物を挙げることができる。2個以上の1級アミノ基を有するアミノ化合物としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン系化合物、ジエチレントリアミン、3、3’-イミノビス(プロピルアミン)、N-メチル-3,3’イミノビス(プロピルアミン)等のトリアミン系化合物、トリエチレンテトラミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,4-ブチレンジアミン等のテトラミン系化合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等であって2個以上の1級アミノ基を有するポリアミン系化合物等が例示される。また、ヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等が例示される。なお、1分子中の窒素原子の数の上限は特に限定されないが、12個以下であることが好ましく、さらに好ましくは6個以下であり、特に好ましくは4個以下である。1分子中の窒素原子が上限を超えると、架橋分子が大きくなり、繊維内に架橋構造を導入しにくくなる場合がある。架橋構造を導入する条件としては、特に限定されるものではなく、採用する架橋剤とアクリル繊維との反応性や架橋構造の量等を考え、適宜選定することができる。例えば、架橋剤としてヒドラジン系化合物を用いる場合は、ヒドラジン濃度として0.1~10重量%となるように上記のヒドラジン系化合物を添加した水溶液に、上述したアクリル繊維を浸漬し、80~150℃、2~10時間で処理する方法等が挙げられる。
【0021】
架橋構造が導入された後は、アルカリ性金属化合物による加水分解処理が施され、繊維中のニトリル基が加水分解され、カルボキシル基が形成される。具体的な処理条件としては、上述したカルボキシル基量等を考え、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、好ましくは0.1~10重量%、さらに好ましくは0.2~5重量%の処理薬剤水溶液中、温度80~150℃で2~10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。
【0022】
ここで、上述の架橋構造導入処理および加水分解処理は、上述のように順に行うこともできるが、それぞれの処理薬剤を混合した水溶液を用いて、一括して同時処理してもよい。さらに、この同時処理においては、上述した条件より低濃度のアルカリ性金属化合物の緩い条件で行い、その後の酸処理を高温での激しい条件で行うことが好ましい。なお、本発明においては、原料となるアクリル繊維のニトリル基について、架橋反応に利用するもの、加水分解によりカルボキシル基に変換するもの、ニトリル基のまま残留させるものが存在することになるので、上述した吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維におけるアクリロニトリル単位の含有量やカルボキシル基量も勘案して架橋構造導入処理条件、加水分解処理条件を設定する必要がある。
【0023】
上述のようにして吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維が得られるが、さらに該繊維のカルボキシル基のカウンターイオンを所望のカウンターイオンに調整する方法としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩によるイオン交換処理、硝酸、硫酸、塩酸、蟻酸などによる酸処理、あるいは、アルカリ性金属化合物などによるpH調整処理などを施す方法が挙げられる。
【0024】
次に、吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維に疎水化剤を付着させる方法としては、疎水化剤を含有する液体をスプレー塗布し乾燥する方法、あるいは疎水化剤を含有する液体に浸漬した後に乾燥するなどの一般的な方法を適用することができる。また、疎水化剤としては水に乳化したエマルジョン状態のものを使用することもできる。エマルジョン状態の疎水化剤としては、例えば市販品の“アサヒガードGS10”(商品名)(AGC社製、フッ素系疎水化剤エマルジョン)、“NKガードS-09”(商品名)(日華化学社製、カチオン系フッ素シリコーン化合物)、“TH-44”(商品名)(日華化学社製、高融点ワックスエマルジョン)がある。
【0025】
本発明の繊維構造物は、上述してきた本発明の疎水化架橋吸湿性繊維を単独で用いるほか、他の繊維を併用したものであってもよい。ここで、他の繊維としては、羊毛、獣毛、絹、コットンなどの天然繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、再生セルロース系繊維などの化学繊維を挙げることができる。繊維構造物の種類としては特に限定されず、カード綿、各種不織布、粒綿、吹込み綿、紡績糸、編物、織物、パイル生地などを挙げることができる。
【0026】
本発明の繊維構造物において、他の繊維を併用する場合の本発明の疎水化架橋吸湿性繊維の混率としては、該繊維構造物の使用される用途に応じて所望の特性が得られるように設定すればよい。例えば、布団用中綿や衣料用中綿として使用する場合であれば、中綿の全重量に対する本発明の疎水化架橋吸湿性繊維の混率を10.0~90.0wt%とすることが好ましく、20.0~80.0wt%とすることがより好ましい。
【0027】
かかる本発明の疎水化架橋吸湿性繊維を使用した繊維構造物は、布団用中綿あるいは衣料用中綿として使用すると、高い吸湿性による快適性が実感できるとともに、洗濯、乾燥を行ってもかかる快適性を維持できる布団や衣料品を得ることができる。
【実施例0028】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。
【0029】
<20℃×65%RH条件下の飽和吸湿率評価方法>
試料約5.0gを熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量(a)を測定する。次に該試料を温度20℃、65%RHに設定した恒温恒湿器に24時間入れて吸湿させた後、試料の重量(b)を測定する。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]={(b-a)/a}×100
【0030】
<アクリロニトリル単位の含有量測定法>
測定対象試料中のアクリロニトリル単位の含有量は、赤外吸収スペクトル測定装置にて試料の赤外吸収スペクトルを測定し、これをアクリロニトリル単位の含有量が既知である試料の赤外吸収スペクトルと比較することにより求める。まず、アクリロニトリル単位の含有量が既知である試料(含有量c[wt%])の赤外吸収スペクトルから2943cm-1(CH基吸収ピーク)に対する2245cm-1(CN基吸収ピーク)の高さ比(1:d)を算出する。次に、測定対象試料の赤外吸収スペクトルから2943cm-1(CH基吸収ピーク)に対する2245cm-1(CN基吸収ピーク)の高さ比(1:e)を算出する。得られた数値を用いて下記式より測定対象試料のアクリロニトリル単位の含有量を算出する。
アクリロニトリル単位の含有量[wt%]=(c×e/d)×100
なお、赤外吸収スペクトル測定装置としては、株式会社島津製作所製フーリエ変換赤外分光光度計「IRAffinity-1」を使用した。
【0031】
<疎水化剤付着量測定法>
疎水化剤の付着量は重量法にて算出する。すなわち、疎水化剤を付着させる前の重量(f)および付着させた後の重量(h)を量り、下記式により疎水化剤付着量を算出する。
疎水化剤付着量[wt%]={(h-f)/f}×100
なお、疎水化剤が水分散体やエマルジョンの場合には付着処理後の乾燥重量、すなわち水分を蒸発除去させた後の重量を付着させた後の重量(h)とする。
【0032】
<カルボキシル基量測定方法>
試料約1gを、50mlの1mol/L塩酸水溶液に30分間浸漬する。次いで、試料を、浴比1:500で水に浸漬する。15分後、浴pHが4以上であることを確認したら、十分に乾燥させる(浴pHが4未満の場合は、再度水洗する)。次に、かかる乾燥させた後の試料約0.2gを精秤し(W[g])、100mlの水を加え、さらに、15mlの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液、0.4gの塩化ナトリウムおよびフェノールフタレインを添加して攪拌する。15分後、濾過によって試料と濾液に分離し、引き続き濾液を、フェノールフタレインの呈色がなくなるまで0.1mol/l塩酸水溶液で滴定し、塩酸水溶液消費量(V[ml])を求める。下式よりカルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=(0.1×15-0.1×V)/W
【0033】
<洗濯に対する形状安定性(サイズ変化率)>
試料をカード機で開繊した後にニードルパンチ機で目付:100g/mの不織布に加工する。この不織布を約10cm×10cmサイズの四角形に裁断し面積(j[cm])を測定する。続いて一般社団法人繊維評価技術協議会のSEKマーク繊維製品の洗濯方法に従って洗濯を行い、乾燥機で乾燥させる。乾燥後不織布の面積(m[cm])を測定する。得られた数値を用いて下式にてサイズ変化率を算出する。
サイズ変化率[%]={(m-j)/j)×100
サイズ変化率が±5%の範囲内であれば良好な洗濯耐久性を有すると判断できる。なお、図1に示すように、一部の比較例においては、洗濯後の不織布の形状がしわ、よれ、穴あきなどにより大きく変化しており、このような場合には、測定不可と判定する。
【0034】
実施例1
アクリロニトリル88重量%、酢酸ビニル12重量%のアクリロニトリル系重合体を48重量%のロダンソーダ水溶液で溶解して、紡糸原液を調整した。湿式アクリル繊維製造方法の常法に従って紡糸、水洗、延伸、捲縮、熱処理、カットをして、単繊維繊度1.7dtex、繊維長76mmのアクリル繊維を得た。該アクリル繊維に、水加ヒドラジン1.0重量%および水酸化ナトリウム0.55重量%を含有する水溶液中で、115℃×2時間、架橋構造導入処理および加水分解処理を同時に行い、8重量%硝酸水溶液で、120℃×3時間処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整し、水洗、乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有する吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維を得た。該吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維について、アクリロニトリル単位の含有量およびカルボキシル基量を測定した結果を表1に示す。
【0035】
続いて、前記吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維を、疎水化剤である日華化学社製、商品名“S-09”の0.1重量%エマルジョン水溶液に、浴比1:11として50℃×30分浸漬して処理した後、脱水、乾燥処理することにより、疎水化架橋吸湿性繊維を得た。該疎水化架橋吸湿性繊維について、飽和吸湿率、疎水化剤付着量およびサイズ変化率を評価した結果を表1に示す。
【0036】
実施例2および3
実施例1において、加水分解処理に用いた水酸化ナトリウムの量(0.55重量%)を実施例2では0.2重量%、実施例3では1.0重量%に変更すること以外は、同様にして作成した吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維と疎水化架橋吸湿性繊維の評価結果を表1に示す。
【0037】
実施例4および5
実施例1において、疎水化剤として用いた日華化学製、商品名“S-09”の濃度(0.1重量%)を実施例4では0.05重量%、実施例5では0.2重量%に変更すること以外は、同様にして作成した吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維と疎水化架橋吸湿性繊維の評価結果を表1に示す。
【0038】
実施例6
実施例1において、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整した後に、硫酸マグネシウム水溶液で処理する工程を追加してNa塩型カルボキシル基をMg塩型カルボキシル基に変換すること以外は、同様にして作成した吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維と疎水化架橋吸湿性繊維の評価結果を表1に示す。
【0039】
実施例7
実施例1において、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整した後に、硝酸カルシウム水溶液で処理する工程を追加してNa塩型カルボキシル基をCa塩型カルボキシル基に変換すること以外は、同様にして作成した吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維と疎水化架橋吸湿性繊維の評価結果を表1に示す。
【0040】
比較例1~4
比較例1としてポリエステル繊維(3.3dtex、51mm)、比較例2としてレーヨン(ダイワボウレーヨン(株)製“コロナ”、3.3dtex、51mm)、比較例3としてウール(メリノウール、55mm)、比較例4として実施例1の吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維(すなわち疎水化剤を付着させていない繊維)を用いて各評価を行った結果を表1に示す。
【0041】
比較例5
実施例1で得たアクリル繊維に、水加ヒドラジン15重量%を含有する水溶液中で、105℃×5時間、架橋構造導入処理を行った。引き続き、水酸化ナトリウム4.0重量%を含有する水溶液中で、90℃×2時間、加水分解処理を実施した。その後、4.0重量%硝酸水溶液で、100℃×1時間処理し、水洗した。得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH9に調整し、水洗、乾燥することにより、Na塩型カルボキシル基を有するアクリレート繊維を得た。該アクリレート繊維について、アクリロニトリル単位の含有量およびカルボキシル基量を測定した結果を表1に示す。
【0042】
続いて、前記アクリレート繊維を、疎水化剤である日華化学社製、商品名“S-09”の0.1重量%エマルジョン水溶液に、浴比1:11として50℃×30分浸漬して処理した後、脱水、乾燥処理することにより、疎水化アクリレート繊維を得た。該疎水化アクリレート繊維について、飽和吸湿率、疎水化剤付着量およびサイズ変化率を評価した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1および図1からわかるように、実施例1~7の疎水化架橋吸湿性繊維は、高い吸湿性能と高い形状安定性を両立しているのに対して、ポリエステルは、高い形状安定性を有する一方で吸湿性能が不足、レーヨン、ウールは高い吸湿性能を有する一方で形状安定性が不足している。また、比較例4のようにアクリロニトリル単位の含有量が高い吸湿性架橋アクリロニトリル系繊維であっても疎水化処理を実施していないと形状安定性は不足する。比較例5ようにアクリロニトリル含有率が低いアクリレート繊維は、疎水化処理を実施しても形状安定性は不足する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の疎水化架橋吸湿性繊維は中綿に使用した場合、高い吸湿性による快適性を布団あるいは衣料にもたらすことが出来ると共に、洗濯耐久性を有するため繰り返し快適に使用することができる。
図1