IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人富山大学の特許一覧

<>
  • 特開-糖センサ 図1
  • 特開-糖センサ 図2
  • 特開-糖センサ 図3
  • 特開-糖センサ 図4
  • 特開-糖センサ 図5
  • 特開-糖センサ 図6
  • 特開-糖センサ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132144
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】糖センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20220831BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220831BHJP
   A61B 5/1459 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
G01N21/78 C
G01N21/64 F
A61B5/1459
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022730
(22)【出願日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2021030326
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】遠田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】草島 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水上 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】菅野 憲
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
4C038
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043EA01
2G043KA01
2G054AA06
2G054CE02
2G054EA03
2G054GA01
4C038KK10
4C038KL01
4C038KL07
4C038KM01
4C038KY11
(57)【要約】
【課題】近赤外領域にセンシング波長の設定が可能で、皮膚組織による光学的阻害が少ない近赤外線発光の糖センサの提供を目的とする。
【解決手段】糖レセプターと、前記糖レセプターとの錯形成により近赤外領域の吸光度が変化する色素とから構成されていることを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖レセプターと、前記糖レセプターとの錯形成により近赤外領域の吸光度が変化する色素とから構成されていることを特徴とする糖センサ。
【請求項2】
前記色素は、アップコンバージョンナノ粒子に固定化されていることを特徴とする請求項1記載の糖センサ。
【請求項3】
前記アップコンバージョンナノ粒子は、表面がシリカ修飾されたコアシェル型アップコンバージョンナノ粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載の糖センサ。
【請求項4】
前記色素は、下記構造式(1)または(2)で示されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の糖センサ。
【化1】
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値等の糖濃度を連続的に計測するのに用いられる糖センサに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者等においては、長期にわたり血糖値を連続的かつ精度よく測定でき、患者への負担が少ない持続血糖測定(CGM)システムの構築が切望されている。
現在、グルコース酸化酵素を固定化した針状のセンサを皮膚に突き刺して血糖値を測定する電気化学検出に基づくCGMが認可され、市販されている。
しかし、この方法では針状のセンサを皮膚に刺すため感染症を引き起こす恐れがあることと、酵素を使用しているためセンサ寿命が3日から10日程度と比較的短いという問題がある。
【0003】
これに対してセンサ自身を皮膚直下に完全に埋め込み、皮膚を介してセンサの光学的特性を読み取るセンサが検討されている。
例えば、非特許文献1には、化学的安定性の高い蛍光性糖レセプターを高分子ゲルに固定したグルコースセンサが報告され、これにはセンサを長期間ヌードマウスの耳に埋め込み、血糖値に応じた蛍光強度変化が得られたことが記載されている。
しかし、上記非特許文献1に記載されている蛍光性糖レセプターに基づくセンサでは、励起/蛍光波長が紫外可視光領域にあるため、皮膚を介してセンサシグナルを読み出すのは困難である。
【0004】
一方、本発明者らは、これまでに糖レセプター/機能性色素複合体を架橋点とする高分子ゲルを用いたシグナル増幅能を有するオプティカル糖センシング高分子ゲルを提案している(非特許文献2)。
この技術はレセプターとの錯形成に伴い、近赤外領域の吸収スペクトルの変化に基づくものである点で、皮膚組織による入射光吸収を避けることが可能になったが、センサの感度が充分ではない課題が残されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.Takeuchi,et al,PNAS,2010,107,17894;PNAS,2011,108,13399
【非特許文献2】K.Tohda,Bunseki kagaku,2013,62,903; K.Tohda,Bunseki kagaku,2021,70,133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、近赤外領域にセンシング波長の設定が可能で、皮膚組織による光学的阻害が少ない近赤外線発光の糖センサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る糖センサは、糖レセプターと、前記糖レセプターとの錯形成により近赤外領域の吸光度が変化する色素とから構成されていることを特徴とする。
ここで、前記色素は、アップコンバージョンナノ粒子に固定化されているのが好ましく、さらには、前記アップコンバージョンナノ粒子は、表面がシリカ修飾されたコアシェル型アップコンバージョンナノ粒子であるのが好ましい。
【0008】
ここで、アップコンバ-ジョン(UC)とは、励起光照射に伴う多段階励起により励起光よりも短波長の光を放出する現象である。
アップコンバ-ジョン材料の中でもフッ化イットリウムやフッ化イッテルビウムに異なるランタノイドをド-プしたランタノイドUCナノ粒子(NPs)は、近赤外励起光の照射により450~800 nmの波長の光を発光することが知られている。
以下、これをランタノイドUCNPsと称する。
近赤外領域の波長の光は、皮膚組織に対して透過性が高いことから、励起光より短波長の近赤外発光を示すランタノイドUCNPsは、生体関連物質のin vivo/in situ連続測定、例えば皮下に埋め込んだセンサによる血糖値連続モニタリングのための波長変換素子として極めて有用である。
また、このランタノイドUCNPsは、化学的に安定で毒性の報告もないことから、in vivo/in situ化学センサへの利用に非常に適していると考えられる。
【0009】
本発明に用いることができる色素は、糖が存在しない下では糖レセプターとの錯体を形成し、ランタノイドUCNPsアップコンバージョンナノ粒子等のアップコンバージョンナノ粒子の発光波長と、色素/糖レセプターの錯体の吸収波長とが重なるものである。
従って、その状態では色素/糖レセプターの錯体は、ランタノイドUCNPsとの間で内部フィルター効果(IFE)が作用し、糖センサとしての発光強度は低くなる。
これに対して糖が存在すると、その濃度に対応して競争的錯形成反応が進行し、結果として色素と糖レセプターの錯体が解離する反応が進行し、糖センサとしての発光強度が高くなるものである。
そのような色素の例を構造式(1)に示す。
【化1】
構造式(1)で示した色素はaza-BODIPY骨格を有し、糖レセプター感受性機能を有するカテコール基と、UCNPsに固定化されるためのアルキン基を有する点に特徴がある。
上記特性を有する範囲で、一部が修飾基で置換されたもの(例えば構造式(2)など)も含まれる。
【化2】
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る糖センサは、近赤外線発光型であることから、長期にわたり血糖値を精度よく測れる皮下埋め込み型オプティカル血糖センシングシステムの実用化に大きく貢献でき、糖尿病患者の負担の低減という波及効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ランタノイドUCNPsに基づく近赤外発光糖センサの模式図を示す。
図2】構造式(1)で示した色素固定化ランタノイドUCNPsのフルクトース濃度に応じた発光スペクトル変化を示す。
図3】構造式(1)で示した色素固定化ランタノイドUCNPsのフルクトース濃度に応じた発光強度変化を示す。
図4】構造式(2)で示した色素固定化ランタノイドUCNPsのグルコース濃度に応じた発光スペクトル変化を示す。を示す。
図5】構造式(2)で示した色素固定化ランタノイドUCNPsのグルコース濃度に応じた発光強度変化を示す。
図6】レセプター感受性近赤外吸収色素固定化コアシェル型UCNPs包埋センシングフィルムのグルコース濃度に応じた発光スペクトル変化を示す。
図7】レセプター感受性近赤外吸収色素固定化コアシェル型UCNPs包埋センシングフィルムのグルコース濃度に応じた発光強度変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<レセプター感受性近赤外吸収色素(1)の合成>
構造式(1)に示した色素の合成例を説明する。
なお、以下、「mol L-1」を「M」で表記することもある。
4-ヒドロキシアセトフェノン(10 mmol)および炭酸カリウム(30 mmol)をアセトン中に加え、アルゴン置換を行った。
そこにクロロメチルメチルエーテル(20 mmol)を加え、室温で3時間撹拌しアルコ-ル保護を行った。
反応後、溶媒を除去し酢酸エチルと水で分液した。
減圧乾燥し得られた生成物である1-[4-(メトキシメトキシ)フェニル]エタノン(10 mmol)をベンズアルデヒド(10 mmol)および水酸化ナトリウム(15 mmol)を溶解させた水溶液と共にエタノ-ル中に加え、氷浴中で24時間攪拌することでアルド-ル縮合させた。
反応後、エタノ-ルを除去し、酢酸エチルと水で分液操作を行った。
減圧乾燥後の生成物である(E)-1-[4(メトキシメトキシ)フェニル]-3-フェニル-2-プロペノンおよび炭酸カリウム(13 mmol)をメタノ-ル中に溶解させ、そこにニトロメタン(0.2 mol)を添加し70 ℃で5時間還流した。
反応後、メタノ-ルを除去し、酢酸エチルと水で分液操作を行った。
分液後の生成物を酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、生成物である1-[4(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノンを収率59%で得た。
得られた生成物1-[4(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノンをアセトンに溶解させ、そこへ6 mol L-1塩酸を加えながら50 ℃で1時間加熱し脱保護反応を行った。
反応後、アセトンを除去し,酢酸エチルと1 mol L-1塩酸を用い分液した。
減圧乾燥し得られた生成物である1-(4-ヒドロキシフェニル)-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノン(5.85 mmol)をアセトニトリル中に溶解させ、炭酸カリウム(17.5 mmol)を加えた後アルゴン置換を行った。
そこへ、5-クロロ-1-ペンチン(29.3 mmol)を添加し90 ℃で18時間還流を行った。
反応後、酢酸エチルと水で分液操作を行い、酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、生成物である4-ニトロ-1-[4-(4-ペンチキシ)フェニル]-3-フェニル-1-ブタノンを収率38%で得た。
次に、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドを1-[4-(メトキシメトキシ)フェニル]エタノン同様の方法でアルコ-ル保護を行い、分液操作を行った。
得られた生成物である3,4-ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒドをアセトフェノンと(E)-1-[4(メトキシメトキシ)フェニル]-3-フェニル-2-プロペノン同様の方法でアルド-ル縮合させ、分液操作を行った。
得られた生成物である(E)-3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-1-フェニル-2-プロペノンを1-[4(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノン同様の方法でニトロメタンと反応させ、精製を行うことで生成物である3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-1-フェニル-1-ブタノンを収率43%で得た。
得られた4-ニトロ-1-[4-(4-ペンチキシ)フェニル]-3-フェニル-1-ブタノン(3.8 mmol)および3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-1-フェニル-1-ブタノン(3.8 mmol)を過剰量の酢酸アンモニウム(95 mmol)を含む1-ブタノ-ル中で120 ℃で24時間還流した。
反応後、1-ブタノ-ルを除去し酢酸エチルと水で分液操作を行った。
分液後の生成物を酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、生成物である(Z)-N-[3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]]-5-フェニル-1H-ピロール2-イル-5-[4-(4-ペンチキシ)フェニル]-3-フェニル-ピロール2-イミンを収率39%で得た。
得られた(Z)-N-[3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]]-5-フェニル-1H-ピロール2-イル-5-[4-(4-ペンチキシ)フェニル]-3-フェニル-ピロール2-イミン(1.5 mmol)をN,N-ジイソプロピルエチルアミン(15 mmol)を含む無水ジクロロメタンに溶かし、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(23 mmol)を加えアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。
反応後、ジクロロメタンと水で分液操作を行い、酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、色素を収率15%で得た。
1H NMR(クロロホルム-d,ppm/400 MHz):δ8.018(m,6H),δ7.699(s,1H),δ7.440(m,7H),δ6.971(t,J=8.1Hz,3H),δ6.802(m,2H),δ4.121(t,J=6.1Hz,2H),δ2.407(m,2H),δ2.011(m,3H),11BNMR(メタノールd4,ppm/400 MHz):δ-0.019(t,-BF)。
以上の合成経路に従い、aza-BODIPY(1)を合成した。
【0013】
<レセプター感受性近赤外吸収色素の合成(2)>
構造式(2)に示した色素の合成例を説明する。
4-アミノアセトフェノン(10 mmol)および炭酸カリウム(30 mmol)をアセトニトリル中に加え、アルゴン置換を行った。
そこにプロパルギルブロミド(10 mmol)を加え、70 ℃で24時間撹拌した。
反応後、溶媒を除去し酢酸エチルと水で分液した。
減圧乾燥し得られた生成物である1-[4-(2-プロピニルアミノ)フェニル]エタノン(10 mmol)および炭酸カリウム(30 mmol)を無水アセトン中に加え、アルゴン置換を行った。
そこにヨードメタン(20 mmol)を加え、60 ℃で24時間撹拌した。
反応後、溶媒を除去し酢酸エチルと水で分液した。
減圧乾燥し得られた生成物である1-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]エタノン(10 mmol)をベンズアルデヒド(10 mmol)および水酸化ナトリウム(15 mmol)を溶解させた水溶液と共にエタノ-ル中に加え、氷浴中で24時間攪拌することでアルド-ル縮合させた。
反応後、エタノ-ルを除去し、酢酸エチルと水で分液操作を行った。
減圧乾燥後の生成物である(E)-1-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-3-フェニル-2-プロペノンおよび炭酸カリウム(15 mmol)をメタノ-ル中に溶解させ、そこにニトロメタン(0.25 mol)を添加し70 ℃で5時間還流した。
反応後、メタノ-ルを除去し、酢酸エチルと水で分液操作を行った。
分液後の生成物を酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、生成物である1-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノンを収率66%で得た。
次に、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドを1-[4-(メトキシメトキシ)フェニル]エタノン同様の方法でアルコ-ル保護を行い、分液操作を行った。
得られた生成物である3,4-ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒドを2-アセチルチオフェンと(E)-1-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-3-フェニル-2-プロペノン同様の方法でアルド-ル縮合させ、分液操作を行った。
得られた生成物である(E)-3-[3,4-ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-1-(2-チエニル)-2-プロペノンを1-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノン同様の方法でニトロメタンと反応させ、精製を行うことで生成物である3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-1-(2-チエニル)-1-ブタノンを収率54%で得た。
得られた1-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-4-ニトロ-3-フェニル-1-ブタノン(3.0 mmol)および3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-4-ニトロ-1-(2-チエニル)-1-ブタノン(3.0 mmol)を過剰量の酢酸アンモニウム(75 mmol)を含む1-ブタノ-ル中で90 ℃で24時間還流した。
反応後、1-ブタノ-ルを除去し酢酸エチルと水で分液操作を行った。
分液後の生成物を酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、生成物である(Z)-N-[3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-5-(2-チエニル)-1H-ピロール2-イル]-5-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-3-フェニル-ピロール2-イミンを収率13%で得た。
得られた(Z)-N-[3-[3,4ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-5-(2-チエニル)-1H-ピロール2-イル]-5-[4-(メチル-2-プロピニルアミノ)フェニル]-3-フェニル-ピロール2-イミン(1.5 mmol)をN,N-ジイソプロピルエチルアミン(15 mmol)を含む無水ジクロロメタンに溶かし、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(23 mmol)を加えアルゴン雰囲気下、室温で24時間撹拌した。
反応後、ジクロロメタンと水で分液操作を行い、酢酸エチル-ヘキサン展開溶媒を使用するシリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、色素を収率20%で得た。
1H NMR(アセトン-d6,ppm/400 MHz):δ8.162(d,J=3.6Hz,1H),δ8.113(d,J=8.8Hz,2H),δ7.921(d,J=7.2Hz,2H),δ7.596(s,1H),δ7.453(d,J=4.8Hz,1H),δ7.350(m,4H),δ7.141(t,J=4.0Hz,1H),δ7.016(s,1H),δ6.837(s,1H),δ6.806(d,J=9.2Hz,2H),δ6.660(d,J=9.2Hz,1H),δ4.094(d,J=1.6Hz,2H),δ3.057(s,3H),δ2.235(t,J=2.4Hz,1H),11BNMR(メタノールd4,ppm/400 MHz):δ0.144(t,-BF2)。
以上の合成経路に従い、aza-BODIPY(2)を合成した。
【0014】
<ランタノイドUCNPsの合成>
塩化イットリウム六水和物および種々の塩化ランタノイド六水和物(イットリウムおよび種々のランタノイド類の総物質量は1.0×10-3 molになるように調製)にオレイン酸,1-オクタデセンを加えアルゴン雰囲気下160 ℃で1時間加熱した。
室温まで冷却後、メタノール10 mLに水酸化ナトリウム0.1 g,フッ化アンモニウム0.148 gを溶解させた溶液を添加し、30分間撹拌した。
撹拌後水和物由来の水とメタノールを蒸発させ、最後にアルゴン雰囲気下360 ℃で1時間加熱後、ヘキサンと水で数回洗浄し、遠心分離することでランタノイドUCNPsを得た。
【0015】
<ランタノイドUCNPs表面のシリカ修飾>
ランタノイドUCNPs表面へのシリカ修飾は既報を参考に行った。
50mgの合成したランタノイドUCNPsをヘキサン40 mLに分散させ、2 mLのIgepal CO-520と28 wt%アンモニア水300 μLを加え30分間超音波処理を行った。
その後TEOS 100 μLを加え室温で24時間撹拌後、エタノールと水で数回洗浄し、遠心分離することでコアシェル型UCNPsを得た。
【0016】
<コアシェル型UCNPs表面へのレセプター感受性近赤外吸収色素の固定化>
色素の固定化は、ヒュスゲン環化付加(クリック)反応を用いて行った。
150 mgの合成したコアシェル型UCNPsをベンゼン中に分散させ、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン1 mLを加え、90 ℃で6時間還流することでコアシェル型UCNPs表面にグリシジル基を導入した。
遠心分離で洗浄,回収した後、エタノール中に分散させアジ化ナトリウム231 mgおよび塩化アンモニウム215 mgを溶解させた水溶液を加え60 ℃で24時間還流を行った。
遠心分離で洗浄,回収した後、ジメチルスルホキシド中に分散させレセプター感受性近赤外吸収色素を8 mgを加えた後、アスコルビン酸35 mgと硫酸銅(II)15 mgを溶解させた水溶液を加え、室温で24時間撹拌を行い、遠心分離で洗浄,回収を行った。
【0017】
<レセプター感受性近赤外吸収色素固定化コアシェル型UCNPs包埋センシングフィルムの作製>
155 μLのN,N-ジメチルアクリルアミド、4.95 μLのテトラエチレングリコールジメタクリレート、0.38 mgのV-65を秤量し、100 μLのジメチルスルホキシドに溶解させた。
この組成の溶液200 μL 中に構造式(2)に示した色素の固定化コアシェル型UCNPs(15 mg)と非特許文献2に基づいて合成したフェニルボロン酸類縁体bisBB-AA(4.38 mg、0.00834 mmol)を加え、超音波処理を行った。
この混合溶液を厚さ200 μmのアルミニウム板をスペーサーとして挟んだスライドガラス(n-オクタデシルトリクロロシランで処理したもの)に流し込み、60 ℃で1時間熱重合することでレセプター感受性近赤外吸収色素固定化コアシェル型UCNPs包埋センシングフィルムを作製した。
【0018】
図1に、本発明に係る糖センサであるランタノイドUCNPsに基づく近赤外発光糖センサを模式図で示す。
(a)は、ランタノイドUCNPsの表面に色素を固定化した状態を示し、この分散溶液中に糖レセプターとして機能するフェニルボロン酸(PBA)類縁体を加えると、(b)に示すように色素はPBA類縁体と錯体を形成する。
この状態では、波長980 nmの励起光を照射しても色素とPBA類縁体との錯体によるIFE効果により、約800 nmの波長の光の発光は弱い。
これに対して(c)に示すように、糖として例えばフルクトースが存在すると、糖とPBA類縁体の競争的錯形成反応により色素とPBA類縁体が解離し、980 nmの励起光による発光強度が増すことになる。
【実施例0019】
構造式(1)で示した色素を固定化したコアシェル型UCNPs分散溶液中に糖レセプターであるフェニルボロン酸(PBA)を1.0×10-3 mol L-1になるように加え、その分散溶液に添加するフルクトース濃度を変化させた際の発光スペクトル変化を図2に示す。
フルクトース濃度の増加に伴い、800 nmにおける発光強度が増加しており、フルクトース非存在下での800 nmにおけるアップコンバージョン(UC)発光強度に対し、3.0×10-1 mol L-1のときはUC発光強度が14.6%増加した。
この結果は、フルクトース濃度の増加に伴う競争的錯形成反応によりレセプター感受性色素の吸収スペクトルが変化し、色素とUCNPs間のIFEが解消され、UC発光強度が増大することを示している。
また、フルクトース濃度に対する800 nmにおける発光強度変化を図3に示す。
このことから、色素固定化コアシェル型UCNPsでは、フルクトース濃度が0~3.0×10-1 mol L-1の範囲内で発光強度からフルクトース濃度を定量できることが分かった。
【実施例0020】
コアシェル型UCNPs分散溶液中に構造式(2)で示した色素を2.0×10-5 mol L-1,グルコースレセプターであるbisBB-AAを2.0×10-4 mol L-1になるように加え、その分散溶液に添加するグルコース濃度を変化させた際の発光スペクトル変化を図4に示す。
グルコース濃度の増加に伴い、800 nmにおける発光強度が増加しており、グルコース非存在下での800 nmにおけるアップコンバージョン(UC)発光強度に対し、1.12×10-1 mol L-1のときはUC発光強度が23.8%増加した。
この結果は、グルコース濃度の増加に伴う競争的錯形成反応によりレセプター感受性色素の吸収スペクトルが変化し、色素とUCNPs間のIFEが解消され、UC発光強度が増大することを示している。
また、グルコース濃度に対する800 nmにおける発光強度変化を図5に示す。
このことから、色素とグルコースレセプターを含むコアシェル型UCNPs分散溶液では、グルコース濃度が0~1.12×10-1 mol L-1の範囲内で発光強度からグルコース濃度を定量できることが分かった。
【実施例0021】
レセプター感受性近赤外吸収色素固定化コアシェル型UCNPs包埋センシングフィルムにグルコース濃度を変化させた際の発光スペクトル変化を図6に示す。
グルコース濃度の増加に伴い、800 nmにおける発光強度が増加しており、グルコース非存在下での800 nmにおけるアップコンバージョン(UC)発光強度に対し、1.12×10-1 mol L-1のときはUC発光強度が8.2%増加した。
この結果は、グルコース濃度の増加に伴う競争的錯形成反応によりレセプター感受性色素の吸収スペクトルが変化し、色素とUCNPs間のIFEが解消され、UC発光強度が増大することを示している。
また、グルコース濃度に対する800 nmにおける発光強度変化を図7に示す。
このことから、レセプター感受性近赤外吸収色素固定化コアシェル型UCNPs包埋センシングフィルムでは、グルコース濃度が0~1.12×10-1 mol L-1の範囲内で発光強度からグルコース濃度を定量できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この糖センサは生体組織に対して透過性の高い近赤外領域の波長の励起/発光応答であるために、in vivo/in situ生体関連物質センサへの利用に非常に適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7