(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132181
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】コロナウイルスの細胞侵入抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/46 20060101AFI20220831BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20220831BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20220831BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20220831BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20220831BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220831BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/205 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/191 20060101ALI20220831BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20220831BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61K8/46
A61K8/365
A61K8/19
A61K8/49
A61K8/44
A61Q11/00
A61P31/14
A61K31/185
A61K31/194
A61K31/205
A61K31/198
A61K31/195
A61K31/191
A61K33/00
A61K31/4164
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027932
(22)【出願日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2021030447
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 拓
(72)【発明者】
【氏名】牧野 莉帆
(72)【発明者】
【氏名】柚鳥 眞里
(72)【発明者】
【氏名】堤 康太
(72)【発明者】
【氏名】栗田 啓
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AB271
4C083AB272
4C083AB372
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC301
4C083AC302
4C083AC581
4C083AC582
4C083AC621
4C083AC622
4C083AC711
4C083AC712
4C083AC781
4C083AC782
4C083AC791
4C083AC792
4C083AC862
4C083AD092
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4C083CC41
4C083DD22
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4C086AA01
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4C086BC38
4C086MA27
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4C086NA14
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4C086ZA34
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4C086ZB33
4C206AA01
4C206AA02
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4C206DB02
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4C206FA44
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4C206JA02
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4C206JA08
4C206MA04
4C206MA47
4C206MA77
4C206MA78
4C206MA79
4C206NA14
4C206ZB33
(57)【要約】
【課題】本発明は、ヒト(宿主)側の感染因子に対し有効な阻害作用を発揮でき、コロナウイルス感染の予防又は抑制に有用なウイルスの細胞侵入阻害剤の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウロイルサルコシン塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、及びグルコン酸銅から選ばれる少なくとも1つを含む、コロナウイルスの細胞侵入抑制剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウロイルサルコシン塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、及びグルコン酸銅から選ばれる少なくとも1つを含む、コロナウイルスの細胞侵入抑制剤。
【請求項2】
コロナウイルスのスパイクタンパク質と細胞表面の受容体の結合の形成を阻害する、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項2に記載の剤。
【請求項4】
膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)による細胞表面の受容体と結合したスパイクタンパク質の活性化を阻害する、請求項1に記載の剤。
【請求項5】
スパイクタンパク質の活性化の阻害は、膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)の不活性化である、請求項4に記載の剤。
【請求項6】
ラウロイルメチルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、ラウリル硫酸塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項4又は5に記載の剤。
【請求項7】
受容体が、アンジオテンシン変換酵素2である、請求項2~6のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)の発現を阻害する、請求項1に記載の剤。
【請求項9】
ラウリル硫酸塩を含む、請求項8に記載の剤。
【請求項10】
コロナウイルス感染症の予防、若しくは、症状の抑制又は緩和用である、請求項1~9のいずれか1項に記載の剤。
【請求項11】
コロナウイルスが、SARS-CoV-1、CoV-NL63、又はSARS-CoV-2である、請求項1~10のいずれか1項に記載の剤。
【請求項12】
粘膜外用剤である、請求項1~11のいずれか1項に記載の剤。
【請求項13】
口腔用、鼻腔用、又は眼科用剤である、請求項1~12のいずれか1項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルスの細胞侵入抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む上気道感染症の感染経路となりうることから、ハミガキ行動をはじめとした毎日のオーラルケア行動は感染予防に役立つ可能性がある。これまでに、歯磨剤や洗口剤などのオーラルケア製品に含まれる成分が新型コロナウイルスに作用し、ウイルスの機能を破壊するなどにより感染力を低下させることが報告されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
一方、口腔内には、受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)や膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)といったヒト(宿主)側の新型コロナウイルスの細胞内感染に関わる中核因子が発現しており(非特許文献3)、口腔は新型コロナウイルスの感染経路(生体内への侵入やウイルス数の増加による上気道への感染の促進)になりうると考えられている。
【0004】
歯磨剤や洗口剤などのオーラルケア製品に含まれる成分を含む抗ウイルス剤として、特許文献1には、トラネキサム酸が抗インフルエンザウイルス活性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「Brief Report:The Virucidal Efficacy of Oral Rinse Components Against SARS-CoV-2 In Vitro」https://doi.org/10.1101/2020.11.13.381079
【非特許文献2】「Antiviral Activity of Reagents in Mouth Rinses against SARS-CoV-2」 J Dent Res 2020 Oct 22;22034520967933.
【非特許文献3】「Existence of SARS-CoV-2 Entry Molecules in the Oral Cavity」Int J Mol Sci 2020 Aug 20;21(17):6000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
歯磨剤や洗口剤などのオーラルケア製品に含まれる成分のウイルス自体への作用に着目した研究は行われているものの、コロナウイルスの持続的な感染予防に重要なヒト(宿主)側の感染因子に対するオーラルケア成分の効果は、明らかにされていない。
【0008】
本発明は、ヒト(宿主)側の感染因子に対し有効な抑制作用、阻害作用を発揮でき、コロナウイルス感染の阻害、予防又は抑制に有用なウイルスの細胞侵入阻害剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の〔1〕~〔13〕を提供する。
〔1〕テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウロイルサルコシン塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、及びグルコン酸銅から選ばれる少なくとも1つを含む、コロナウイルスの細胞侵入抑制剤。
〔2〕コロナウイルスのスパイクタンパク質と細胞表面の受容体の結合の形成を阻害する、〔1〕に記載の剤。
〔3〕2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つを含む、〔2〕に記載の剤。
〔4〕膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)による細胞表面の受容体と結合したスパイクタンパク質の活性化を阻害する、〔1〕に記載の剤。
〔5〕スパイクタンパク質の活性化の阻害は、膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)の不活性化である、〔4〕に記載の剤。
〔6〕ラウロイルメチルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、ラウリル硫酸塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つを含む、〔4〕又は〔5〕に記載の剤。
〔7〕受容体が、アンジオテンシン変換酵素2である、〔2〕~〔6〕のいずれか1項に記載の剤。
〔8〕膜貫通型セリンプロテアーゼ2(TMPRSS2)の発現を阻害する、〔1〕に記載の剤。
〔9〕ラウリル硫酸塩を含む、〔8〕に記載の剤。
〔10〕コロナウイルス感染症の予防、若しくは、症状の抑制又は緩和用である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の剤。
〔11〕コロナウイルスが、SARS-CoV-1、CoV-NL63、又はSARS-CoV-2である、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の剤。
〔12〕粘膜外用剤である、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の剤。
〔13〕口腔用、又は鼻腔用、又は眼科用剤である、〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒト(宿主)側の感染関与の中核因子に対し有効な阻害作用を発揮でき、コロナウイルス感染の予防又は抑制に有用な細胞侵入阻害剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔1.有効成分〕
本発明の剤は、テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウロイルサルコシン塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、及びグルコン酸銅から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0012】
テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、ラウロイルサルコシン塩は、それぞれの薬理学的に許容される塩であればよい。薬理学的に許容される塩としては、例えば、塩基付加塩及びアミノ酸塩が挙げられる。その具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩;アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩が挙げられる。中でも、無機塩基塩が好ましく、それぞれのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)又はアンモニウム塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましく、ナトリウム塩が更に好ましい。
【0013】
本発明の剤は、上記有効成分を1種又は2種以上含めばよく、以下のA~Eのいずれかを含むことが好ましい。
A)2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つ;
B)ラウロイルメチルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、ラウリル硫酸塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つ;
C)テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つ;
D)2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、テトラデセンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、ラウロイルメチルタウリン塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つと、トラネキサム酸及びイプシロン-アミノカプロン酸から選ばれる少なくとも1つの組み合わせ;
E)2-アルキル-N-カルボキシメチル-N--ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインから選ばれる少なくとも1つと、ラウロイルメチルタウリン塩、テトラデセンスルホン酸塩、トラネキサム酸、イプシロン-アミノカプロン酸、ラウリル硫酸塩、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、グルコン酸銅、及びラウロイルサルコシン塩から選ばれる少なくとも1つの組み合わせ;並びに
F)ラウリル硫酸塩。
【0014】
有効成分が上記Aであることにより、コロナウイルスのスパイクタンパク質(Sタンパク質)と受容体ACE2の結合形成を阻害することができる。Bであることにより、受容体ACE2と結合したSタンパク質の活性化に寄与するTMPRSS2活性を阻害することができる。C~Eの組み合わせのいずれかにより、コロナウイルスのSタンパク質と受容体ACE2の結合の形成を阻害し、かつ、受容体ACE2と結合したSタンパク質の活性化に寄与するTMPRSS2活性を阻害することができる。Fであることにより、TMPRSS2の発現を抑制することができる。
【0015】
〔2.有効成分の含有量〕
本発明の剤は、必要に応じて他の任意成分を含む、いわゆる組成物の形態でもよい。任意成分については後段で説明する。本発明の剤が任意成分を含む場合における有効成分の含有量(剤100質量%に対する量)は、有効成分の種類によって異なるが、例えば、口腔用剤において、15歳以上のヒトが1日1回約1g以上(歯磨剤)又は約10mL以上(例えば、液体歯磨)使用すると、以下のとおりである。
【0016】
-テトラデセンスルホン酸塩の含有量-
テトラデセンスルホン酸塩の量は、好ましくは0.007質量%以上又は0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上又は0.1質量%以上である。上限は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.007質量%~25質量%、より好ましくは0.02質量%~10質量%、さらに好ましくは0.1質量%~5質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.01質量%~25質量%、より好ましくは0.02質量%~10質量%、さらに好ましくは0.03質量%~5質量%である。
【0017】
-ラウリル硫酸塩の含有量-
ラウリル硫酸塩の量は、好ましくは0.01質量%以上又は0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.05質量%~5質量%、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.01質量%~10質量%、より好ましくは0.02質量%~5質量%、さらに好ましくは0.05質量%~2質量%である。
【0018】
-ラウロイルメチルタウリン塩の含有量-
ラウロイルメチルタウリン塩の量は、好ましくは0.01質量%以上又は0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.08質量%以上又は0.1質量%以上である。上限は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.01質量%~25質量%、より好ましくは0.05質量%~10質量%、さらに好ましくは0.1質量%~5質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.03質量%~25質量%、より好ましくは0.05質量%~10質量%、さらに好ましくは0.08質量%~5質量%である。
【0019】
-乳酸アルミニウムの含有量-
乳酸アルミニウムの量は、好ましくは0.02質量%以上又は0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上又は0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上又は0.5質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下又は3質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下又は2質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.2質量%~5質量%、より好ましくは0.3質量%~3質量%、さらに好ましくは0.5質量%~2質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.05質量%~5質量%、さらに好ましくは0.1質量%~2.5質量%である。
【0020】
-硝酸カリウムの含有量-
硝酸カリウムの量は、好ましくは0.01質量%以上又は0.02質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上又は0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.01質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~5質量%、さらに好ましくは1質量%~2質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.02質量%~10質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%、さらに好ましくは0.5質量%~5質量%である。
【0021】
-2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインの含有量-
2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインの量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.09質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上である。上限は、好ましくは6質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.05質量%~6質量%、より好ましくは0.09質量%~3質量%、さらに好ましくは0.15質量%~1.2質量%である。
【0022】
-ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインの含有量-
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインの量は、好ましくは0.025質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上である。上限は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは1.6質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.025質量%~8質量%、より好ましくは0.08質量%~4質量%、さらに好ましくは0.4質量%~1.6質量%である。
【0023】
-ラウロイルサルコシン塩の含有量-
ラウロイルサルコシン塩の量は、好ましくは0.01質量%以上又は0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.07質量%以上又は0.12質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.03質量%~10質量%、より好ましくは0.05質量%~5質量%、さらに好ましくは0.07質量%~2質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.01質量%~10質量%、より好ましくは0.03質量%~5質量%、さらに好ましくは0.12質量%~2質量%である。
【0024】
-トラネキサム酸の含有量-
トラネキサム酸の量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.015質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.005質量%~10質量%、より好ましくは0.01質量%~5質量%、さらに好ましくは0.015質量%~1質量%である。
【0025】
-イプシロン-アミノカプロン酸の含有量-
イプシロン-アミノカプロン酸の量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.015質量%以上である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.005質量%~10質量%、より好ましくは0.01質量%~5質量%、さらに好ましくは0.015質量%~1質量%である。
【0026】
-グルコン酸銅の含有量-
グルコン酸銅の量は、好ましくは0.004質量%以上、又は0.008質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、又は0.02質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上又は0.09質量%以上、である。上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。Sタンパク質と受容体の結合の形成阻害の面からは、好ましくは0.008質量%~10質量%、より好ましくは0.02質量%~2質量%、さらに好ましくは0.09質量%~1質量%である。受容体と結合したSタンパク質の活性化阻害の観点からは、好ましくは0.004質量%~10質量%、より好ましくは0.01質量%~2質量%、さらに好ましくは0.05質量%~1質量%である。
【0027】
〔3.細胞侵入抑制作用〕
本発明の剤は、コロナウイルスの細胞侵入を抑制できる。本明細書において、細胞侵入を抑制するとは、ウイルスの細胞侵入に関わる少なくとも1つの因子を阻害、除去又は活性低下させることを意味する。コロナウイルスの細胞侵入のプロセスの概略は以下のとおりである。コロナウイルスの膜タンパク質であるSタンパク質が、ヒトの細胞表面(細胞膜上)の受容体と結合してSタンパク質-受容体結合を形成した後、ヒトの細胞膜上のTMPRSS2によりSタンパク質が活性化され(Sタンパク質の一部が切断されることによりヒトの細胞膜への融合部位が突出し)、膜融合が誘導される。本発明の剤は、上記プロセスに関与する少なくとも1つの因子を阻害することが好ましく、Sタンパク質と受容体の結合の形成の阻害、受容体と結合したSタンパク質の活性化の阻害(好ましくは、TMPRSS2の不活性化)、及びTMPRSS2発現の阻害、並びに、これ等から選ばれる2以上の組み合わせであること、すなわち、Sタンパク質-受容体結合阻害剤、Sタンパク質活性化阻害剤(好ましくは、TMPRSS2不活性化剤)、TMPRSS2発現阻害剤であることが好ましい。これにより、ウイルスの細胞侵入を抑制できるので、コロナウイルス感染を予防又は抑制することが可能である。
【0028】
細胞膜上の受容体タンパク質としては、例えば、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、アミノペプチダーゼN(CD13)、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPPIV、CD26)、O-アセチル化シアル酸が挙げられ、ACE2が好ましい。
【0029】
コロナウイルスとしては、例えば、SARS-CoV1、CoV-NL63、SARS-CoV2等の、ACE2を受容体とするコロナウイルス;CoV-OC43、CoV-HKU1等の、CD13を受容体とするコロナウイルス;MERS-CoV等の、DPPIVを受容体とするコロナウイルスが挙げられ、ACE2を受容体とするコロナウイルスが好ましく、SARS-CoV-2がより好ましい。
【0030】
〔4.剤形〕
剤形としては、例えば、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、クリーム状、ペースト状、錠剤(錠剤、タブレット)、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒、細粒)、ソフトカプセル状(ゼラチン基剤等のソフトカプセル剤)、ハードカプセル状(ハードカプセル剤)、が挙げられ、投与形態に応じて適宜選択すればよい。
【0031】
〔5.投与方法・対象〕
剤の投与方法としては、例えば、経口投与(例えば、口腔内投与、舌下投与)、非経口投与(例えば、経皮投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経鼻投与、経肺投与)が挙げられ、これらの中でも侵襲性の少ない投与形態が好ましく、経皮投与(外用)、経口投与(内服)、がより好ましく、粘膜投与(粘膜外用)が更に好ましい。
【0032】
投与対象は、ヒトを含む動物であればよく、通常はヒトである。投与対象は健常者でもよいが、コロナウイルス感染症(好ましくは、SARS-CoV-1、CoV-NL63、SARS-CoV-2のいずれかによる感染症)の感染者又は感染が疑われる者でもよい。ヒト以外の動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、サルなどの哺乳類が挙げられる。
【0033】
〔6.任意成分〕
本発明の剤が他の任意成分を含むいわゆる組成物の形態である場合、他の成分としては、例えば、薬効成分、緩衝剤、溶解補助剤、等張化剤、安定化剤、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、油性成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤(酸味剤、香料、甘味剤)、酸化防止剤、強化剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤、研磨剤、湿潤剤、保湿剤、清涼剤、研磨剤、粘結剤、収斂剤、植物抽出エキス、紫外線吸収剤、水性溶媒、防腐剤、調味料、食品原料(食品添加物を含む)等の、上記有効成分以外の成分が挙げられる。任意成分の種類、含有量は、医薬品、医薬部外品、食品組成物、化粧料の各用途、及び/又は剤形、投与方法等に応じて選択すればよく、1種でもよいし2種以上の組み合わせでもよい。
【0034】
-薬効成分-
薬効成分としては、例えば、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、リテックエンザイム等の酵素;フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ等のフッ化物;アラントイン、グリチルリチン酸塩(例えば、グリチルリチン2カリウム塩)、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体(例えば、グリチルレチン酸ステアリル)、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アズレン、ジヒドロコレステロール等の抗炎症剤;亜鉛塩、銅塩、スズ塩等の金属塩;縮合リン酸塩、エタンヒドロキシジホスフォネート等の歯石予防剤;ビタミンE(例えば、酢酸トコフェロール)等の血流促進剤;塩化ストロンチウム等の知覚過敏抑制剤;ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド等のコーティング剤;ビタミンC(例えば、アスコルビン酸又はその塩)、塩化リゾチーム、塩化ナトリウム等の収斂剤;銅クロロフィル等の水溶性銅化合物;歯石予防剤;アラニン、グリシン、プロリン等のアミノ酸類;タイム、オウゴン、チョウジ、ハマメリス等の植物エキス;カロペプタイド;ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。他の例としては、充血除去剤、消炎剤、収斂剤、抗ヒスタミン剤、ビタミン類、アミノ酸類、殺菌剤、局所麻酔剤、上記本発明における有効成分以外のコロナウイルスの細胞侵入抑制作用を有する成分、これらから選ばれる2以上の組み合わせも挙げられる。充血除去剤としては、例えば、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリン、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、dl-塩酸メチルエフェドリン、硝酸テトラヒドロゾリン、硝酸ナファゾリンが挙げられる。消炎、収斂剤としては、例えば、メチル硫酸ネオスチグミン、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム、ブロメライン、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、アズレンスルホン酸ナトリウム、カミツレ、クロモグリク酸ナトリウムが挙げられる。抗ヒスタミン剤としては、例えば、塩酸イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸イソチペンジル、マレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、ビタミンA類(例えば酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール)、ビタミンE類(酢酸トコフェロール(例えば、酢酸d-α-トコフェロール)が挙げられる。アミノ酸類としては、例えば、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウムが挙げられる。殺菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトリウム、ヨウ素、ヨウ化カリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾール、スルフイソミジンナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオールが挙げられる。局所麻酔剤としては、例えば、リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸ジブカイン、クロロブタノールが挙げられる。それぞれの薬効成分は、1つ又は2以上を組み合わせて用いてもよい。薬効成分の含有量は、常法に従って有効量を適宜設定できる。
【0035】
-界面活性剤-
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合し得る。
【0036】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アシルアミノ酸塩、アシルタウリン塩、α-オレフィンスルホン酸塩、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸塩、ラウリルスルホ酢酸塩が挙げられる。アルキル基、アシル基は直鎖及び分岐鎖のいずれでもよく、飽和及び不飽和のいずれでもよく、その炭素原子数は通常10~20であり、好ましくは12~18であり、より好ましくは12~14である。塩は、薬理学的に許容される塩から選択され得る。薬理学的に許容される塩としては、例えば、塩基付加塩及びアミノ酸塩が挙げられる。その具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩;トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩;アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩が挙げられる。中でも、無機塩基塩が好ましく、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)又はアンモニウム塩がより好ましく、ナトリウム塩が更に好ましい。アルキル硫酸塩としては、例えば、ミリスチル硫酸塩が挙げられる。アシルアミノ酸塩としては、例えば、ラウロイルグルタミン酸塩、ミリストイルグルタミン酸塩、パルミトイルグルタミン酸塩等のアシルグルタミン酸塩;N-ラウロイル-N-メチルグリシン塩、ココイルグリシン塩等のアシルグリシン塩;N-ラウロイル-β-アラニン塩、N-ミリスチル-β-アラニン塩、N-ココイル-β-アラニン塩、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニン塩、N-ミリストイル-N-メチル-β-アラニン塩、N-メチル-N-アシルアラニン塩等のアシルアラニン塩;ラウロイルアスパラギン酸塩等のアシルアスパラギン酸塩が挙げられる。アシルタウリン塩としては、例えば、N-メチル-N-アシルタウリン塩、N-ココイルメチルタウリン塩が挙げられる。アニオン性界面活性剤の例としては、例えば、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウムも挙げられる。
【0037】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)、アルキロールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(例、マルトース脂肪酸エステル)、糖アルコール脂肪酸エステル(例、マルチトール脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステル)、脂肪酸ジエタノールアミド(例、ラウリル酸モノ又はジエタノールアミド)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステルが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルのアルキル鎖の炭素原子数は、通常、14~18であり、エチレンオキサイド平均付加モル数は、通常、5~30モルである。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド平均付加モル数は、通常20~100モル、好ましくは20~60モルである。ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素原子数は、通常12~18である。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素原子数は、通常16~18であり、エチレンオキサイド平均付加モル数は、通常10~40モルである。アルキロールアミドのアルキル鎖の炭素原子数は、通常12~14である。
【0038】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン(例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のベタイン型両性界面活性剤;N-脂肪酸アシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミン塩、ヤシ油脂肪酸イミダゾリニウムベタイン等のイミダゾリン型両性界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のアルキルベタインが挙げられる。
【0039】
界面活性剤を含む場合、アニオン性、ノニオン性、両性界面活性剤それぞれの含有量は、通常、剤全体の0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0040】
-研磨剤-
研磨剤としては、例えば、無機研磨剤及び有機研磨剤のいずれでもよい。無機研磨剤としては、例えば、沈降性シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート、結晶性ジルコニウムシリケート、チタン結合性シリカ等の研磨性シリカ;第2リン酸カルシウム・2水和塩又は無水和物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物;炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム系研磨剤;水酸化カルシウム、硫酸カルシウム等の、炭酸/リン酸以外のカルシウム系研磨剤;酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナ等のアルミニウム系材料;無水ケイ酸、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム等のケイ酸系材料;炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム等のマグネシウム系材料;ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、カルシウム欠損アパタイト等のアパタイト系材料;二酸化チタン、雲母チタン、酸化チタン等のチタン系材料;ベントナイト等の鉱物が挙げられる。有機研磨剤としては、例えば、ポリメチルメタアクリレート、合成樹脂系研磨剤が挙げられる。これらのうち、研磨性シリカ、リン酸カルシウム系化合物が好ましく、無水ケイ酸がより好ましい。研磨剤の量は、剤全体に対し、50質量%以下が好ましく、8~50質量%がより好ましい。
【0041】
-湿潤剤-
湿潤剤としては、例えば、糖アルコール、糖アルコール以外の多価アルコールが挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール(ソルビット)、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール等が挙げられる。糖アルコール以外の多価アルコールとしては、グリセリン;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)等のグリコール;還元でんぷん糖化物が挙げられる。ポリエチレングリコールとしては、例えば、平均分子量150~6000のポリエチレングリコールが好ましく、平均分子量190~630のポリエチレングリコール(PEG200、PEG300、PEG400、PEG600)が好ましい。平均分子量は、医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量である。湿潤剤の含有量は、剤全体に対し、通常、40質量%以下であり、好ましくは1~30質量%である。
【0042】
-粘結剤-
粘結剤としては、従来公知の任意好適な有機粘結剤、例えば、多糖類、セルロース系粘結剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カチオン化セルロース等)、その他の多糖系増粘剤(例、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム)、合成水溶性高分子(例、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アルギン酸プロピレングリコール)が挙げられる。さらには増粘性シリカ、ケイ酸アルミニウム等の無機粘結剤を含有させることもできる。有機粘結剤の含有量は、剤全体に対し、0~3質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。無機粘結剤の含有量は、0~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましい。
【0043】
-緩衝剤-
緩衝剤としては、例えば、クエン酸又はその塩(例えば、クエン酸ナトリウム)、リン酸又はその塩(例えば、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム)、酒石酸又はその塩(例えば、酒石酸ナトリウム)、グルコン酸又はその塩(例えば、グルコン酸ナトリウム)、酢酸又はその塩(例えば、酢酸ナトリウム)、炭酸又はその塩(例えば、炭酸水素ナトリウム)、トロメタモール、アミノ酸類(例えば、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム)、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0044】
-溶解補助剤-
溶解補助剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0045】
-等張化剤-
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0046】
-安定化剤-
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、亜硫酸塩、クエン酸又はその塩、ジブチルヒドロキシトルエン、アスコルビン酸、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0047】
-キレート剤-
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、これらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
-保湿剤-
保湿剤としては、例えば、グリセリン、濃グリセリン、糖アルコール類(例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、還元水飴、還元パラチノース、エリスリトール、ラクチトール、イソマルト)、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0049】
-矯味剤-
矯味剤としては、例えば、甘味剤(例、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ステビオサイド、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、ペリラルチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、ソーマチン、アセスルファムカリウム、スクラロース、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、還元水飴、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール、ラクチトールなどの人工甘味料など)、香料(例、アニス油、カシア油、ウィンターグリーン油、マスチック油、ネロリ油(オレンジフラワー油)、レモングラス油、ジャスミン油、ローズ油、イリス油、クローブ油、セージ油、カルダモン油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、バジル油、マジョラム油、レモン油、オレンジ油、ライム油、柚子油、ナツメグ油、ラベンダー油、パラクレス油、バニラ油、桂皮油、ピメント油、桂葉油、シソ油、冬緑油、ハッカ油、ライチ油等の天然精油;メントール、カルボン、シンナミックアルデヒド、アネトール、メチルサリシレート、オイゲノール、リナロール、リモネン、メントン、メンチルアセテート、シトラール、デカナール、カンファー、ボルネオール、ピネン、スピラントール、n-デシルアルコール、シトロネロール、α-テルピネオール、シトロネリルアセテート、エチルリナロール、ワニリン等の上記天然精油中に含まれる香料成分;エチルアセテート、エチルブチレート、イソアミルアセテート、ヘキサナール、ヘキセナール、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、ベンズアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、フラネオール、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、メンチルラクテート、エチレングリコール-l-メンチルカーボネート等の香料成分;及びいくつかの香料成分や天然精油を組み合わせてなるミント系、フルーツ系、ハーブ系等の各種調合フレーバー(例えば、ペパーミントミクロンX-8277-T、ドライコート抹茶#421)、酸味料(例、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸)、緑茶末が挙げられる。
【0050】
-油性成分-
油性成分としては、例えば、脂肪酸エステル(例えば、グリセリン脂肪酸エステル)、炭化水素(例、パラフィン、流動パラフィン、セレシン、スクワラン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス)、高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の炭素原子数8~22の脂肪酸)、高級アルコール(例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール等の炭素原子数8~22のアルコール)、植物油脂(例えば、オリーブ油、ひまし油、やし油等の植物油;ミリスチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル)、蜜蝋、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0051】
-防腐剤-
防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェノール、アクリノール等のアルコール誘導体、ソルビン酸及びその塩(ソルビン酸カリウム等)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、アルキルポリアミノエチルグリシン、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0052】
-湿潤剤-
湿潤剤としては、例えば、糖アルコール、糖アルコール以外の多価アルコールが挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール(ソルビット)、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール等が挙げられる。糖アルコール以外の多価アルコールとしては、グリセリン;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)等のグリコール;還元でんぷん糖化物が挙げられる。ポリエチレングリコールとしては、例えば、平均分子量150~6000のポリエチレングリコールが好ましく、平均分子量190~630のポリエチレングリコール(PEG200、PEG300、PEG400、PEG600)が好ましい。平均分子量は、医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量である。湿潤剤の量は、剤全体に対し、通常、40質量%以下であり、好ましくは1~35質量%である。
【0053】
-着色剤-
着色剤としては例えば、ベニバナ赤色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、シソ色素、紅麹色素、赤キャベツ色素、ニンジン色素、ハイビスカス色素、カカオ色素、スピルリナ青色素、タマリンド色素等の天然色素や、赤色2号、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号、赤色227号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号等の法定色素、リボフラビン、銅クロロフィリンナトリウム、二酸化チタン等が挙げられる。着色剤を含む場合、その含有量は、剤全体に対し0.00001~3質量%とすることが好ましい。
【0054】
-pH調整剤-
pH調整剤としては、例えば、フタル酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、及び乳酸等の有機酸又はそれらの塩(クエン酸ナトリウム)、リン酸(オルトリン酸)等の無機酸又はそれらの塩(例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物が挙げられる。無機酸塩としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが挙げられる。pH調整剤の含有量は、通常、添加後の剤のpHが5~9、好ましくは6~8.5となる量とすることができる。本明細書において、pH値は、通常、測定開始から25℃、3分後の値をいう。pH値は、例えば、東亜電波工業社製のpHメーター(型番Hm-30S)を用いて測定することができる。
【0055】
-溶媒-
溶媒としては、例えば、水(精製水)、エタノールが挙げられ、水が好ましい。溶媒は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
-賦形剤-
賦形剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース、及びその薬理学的に許容される誘導体;ポリビニルピロリドン、部分けん化ポリビニルアルコール等の合成高分子;ゼラチン、アラビアゴム末、プルラン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キタンサンガム等の多糖類;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等のスターチ、及びその薬理学的に許容される誘導体;乳糖、乳糖造粒物、果糖、ブドウ糖、白糖、グラニュウ糖、含水ブドウ糖、トレハロース、パラチノース、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルトテトラオース、ラクチトール、イソマルト、還元パラチノース、還元水飴、粉末還元麦芽糖水飴、マルチトール;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、二酸化ケイ素(別名:無水ケイ酸、微粒二酸化ケイ素)、酸化チタン、水酸化アルミニウムゲル等の無機賦形剤;これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0057】
-崩壊剤-
崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスリンクドインソルブルポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルスターチ、部分α化デンプン、トウモロコシデンプン、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0058】
-結合剤-
結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストリン、デンプン、アルファー化デンプン、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0059】
-滑沢剤-
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、軽質無水ケイ酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0060】
-他の任意成分-
上記以外の任意成分の例としては、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ウレタン、シリコン、天然ゴムが挙げられる。これら他の任意成分の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定できる。
【0061】
〔剤型、適用部位〕
本発明の剤は、医薬、医薬部外品、化粧料、食品として利用できる。剤型は、例えば、液剤、スプレー剤、固形剤、半固形剤、液剤、粉剤、顆粒剤が挙げられ、特に限定されない。医薬、医薬部外品の場合の適用部位は、例えば、口腔、鼻腔、眼が挙げられる。口腔用としては、例えば、歯磨剤(例えば、練歯磨、ジェル状歯磨、潤製歯磨、液体歯磨)、洗口剤、舌磨剤、口腔内スプレー、口腔内タブレット、ガム、口中清涼剤、うがい用錠剤、口腔用パスタ、ゲル剤、軟膏剤が挙げられる。鼻腔用としては、例えば、点鼻剤、鼻腔洗浄剤が挙げられる。眼用としては、例えば、点眼剤(例えば、一般用点眼剤、コンタクトレンズ使用者用点眼剤)、洗眼剤(一般用洗眼剤、コンタクトレンズ使用者用洗眼剤)、コンタクトレンズ用剤(例えば、コンタクトレンズ保存剤、コンタクトレンズ洗浄剤、コンタクトレンズ洗浄剤)が挙げられる。
【0062】
化粧料としては、例えば、クリーム剤、乳液、パック剤、ジェル剤、エアゾール、シート剤等の剤形で利用できる。具体的には例えば、化粧水、美容液、美白剤、保湿剤、フェイスマスク、乳液、ファンデーション、アイシャドウ、マスカラ、眉墨、アイライン、チークパウダー、口紅、リップクリーム等の皮膚用化粧料;ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、ヘアローション、ヘアトニック、ヘアパック、ヘアクリーム、コンディショニングムース、ヘアムース、ヘアスプレー、シャンプー、リーブオントリートメント、染毛料、整髪料等の毛髪用化粧料が挙げられる。
【0063】
食品(食品組成物)としては例えば、健康食品、機能性食品、健康補助食品(サプリメント)、栄養補助食品、特定保健用食品、栄養機能食品、医療用食品、病者用食品、乳児用食品、介護用食品、高齢者用食品等の用途を付した食品組成物が挙げられる。
【0064】
〔製造方法〕
本発明の剤の製造方法は、剤型、用途、適用部位に応じて定めればよい。例えば、練歯磨剤として利用する場合、溶媒に溶解する成分を調製した後、それ以外の不溶性成分を混合し、必要に応じて脱泡(例えば、減圧等)を行う方法が挙げられる。また他の例としては、有効成分及び必要に応じて用いる他の成分を水性溶媒(例えば、精製水、滅菌水等の水)に分散し、溶解することにより組成物を調製し、適切な容器(例えば、ガラス製、樹脂製)に充てんする方法が挙げられる。容器は、口腔用剤の容器としては、例えば、ラミネートチューブが挙げられ、材質は例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の樹脂が用いられ得る。スプレー剤の場合には、噴霧手段を備える容器(例えば、トリガー式、ポンプ式、エアゾール式容器)を選択すればよい。得られる練歯磨剤は、容器に収容して製品とすることができる。容器は、形状、材質は特に制限されず、通常の口腔用組成物に使用される容器を使用できる。
【0065】
〔使用方法〕
本発明の剤の使用方法は、例えば、適用部位に剤を投与すればよい。1日あたり投与回数は特に限定されないが、例えば1~6回、それ以上でもよい。口腔用剤の場合、適量の剤を歯ブラシに載せ歯の表面をブラッシングし、使用後水ですすぐ方法(歯磨剤)、適量の剤を口に含みうがいをした後吐き出す方法(洗口剤)によればよい。
【実施例0066】
実施例1~16及び比較例1~4
表1に示す各評価サンプルについて、Sタンパク質-ACE2結合の阻害率及びTMPRSS2活性の阻害率を評価した。
【0067】
【0068】
Sタンパク質-ACE2結合の阻害率及びTMPRSS2活性の阻害率を、それぞれ下記の評価系を用いて評価した(表2、3)。
【0069】
<Sタンパク質-ACE2結合評価系>
Spike S1(SARS-CoV-2):ACE2 Inhibitor Screening Colorimetric Assay Kit(Cat#.79954,BPS Bioscience)〔https://bpsbioscience.com/pub/media/wysiwyg/Other/79954_2.pdf〕のプロトコルに準拠して以下の手順で実験を実施した。(コントロール、Blank、各評価サンプルの各濃度は全て3連で実施した)
【0070】
1.96ウェルプレートにSpike S1をコーティングするためSpike S1 solutionを50μL/well添加して、4℃で一晩インキュベートした。反応液を除去後、100μL/wellの1×Immuno Bufferで3回洗浄し、Blocking Bufferを100μL/well添加して室温で振盪しながら1時間インキュベートした。
【0071】
2.1×Immuno Bufferで3回洗浄した後、1×Immuno Bufferを20μL/well添加し、更に10μL/wellの評価サンプル溶液を添加した。なお、コントロールとBlankのwellには、評価サンプルを溶かしたPBSの代わりに、PBSのみを添加した。その後、室温で振盪しながら1時間インキュベートした。
【0072】
3.Blank以外の各wellに、ACE2-Biotin(1ng/μL)を20μL/well添加した。Blankには1×Immuno Bufferを20μL/well添加した。室温で振盪しながら1時間インキュベートした。
【0073】
4.反応液を除去後、100μL/wellの1×Immuno Bufferで3回洗浄した。
【0074】
5.Blocking Buffer 100μ/wellを添加し、室温で10分インキュベートした。
【0075】
6.Streptoavidin-HRP溶液を100μL/well添加し、室温で振盪しながら1時間インキュベートした。
【0076】
7.反応後、100μL/wellの1×Immuno Bufferで3回洗浄した。
【0077】
8.Blocking Buffer 100μ/wellを添加し、室温で10分インキュベートした。
【0078】
9.Blocking Bufferを除去後、100μL/wellのColorimetric HRP substrateを添加して、コントロールのwellの色が青に変わるまで室温でインキュベートした。
【0079】
10.色が変わった後、100μL/well 1N HClを添加して反応を停止。プレートリーダーで450nmの波長で各wellの吸光度を測定した。
【0080】
11.コントロール及び各評価サンプルのwellの吸光度からblankのwellの吸光度を引いた値を、コントロールおよび各評価サンプルの測定値とした。
【0081】
阻害率は、下記の計算式により算出した。
阻害率(%)=(コントロールの測定値-評価サンプルの測定値)/コントロールの測定値×100
【0082】
<TMPRSS2評価系>
以下の参考文献を元に、評価法を策定し、実施した。(コントロール、Blank、各評価サンプルの各濃度は全て3連で実施した)
Hoffmann et al.:Version 1.bioRxiv.Preprint.2020 Aug(https://www.biorxiv.org/CONTENT/10.1101/2020.08.05.237651v1)
Shrimp et al.:Version 2.bioRxiv.Preprint 2020 Jun 23
(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.06.23.167544v1.full)
【0083】
1.384ウェルブラックプレートに、溶液が10μL/wellになるようにして、アッセイを行った。
【0084】
2.まずは、384ウェルブラックプレートに、バッファー(50mM Tris-HCl pH8.0,154mM NaCl)でRecombinant Human TMPRSS2(N-terminus 6xHis,aa106-492;LifeSpan Biosciences社製)が終濃度4μg/mLになるように調整したものを添加した。なお、Blankのwellには、上記バッファーのみを添加した。
【0085】
3.上記(2.)384ウェルブラックプレートに、リン酸緩衝液(PBS)溶解した評価サンプルを、各終濃度になるように添加した。なお、コントロールとBlankのwellには、評価サンプルを溶かしたPBSの代わりに、PBSのみを添加した。
【0086】
4.上記(3.)384ウェルブラックプレートに、基質(Boc-Gln-Ala-Arg-MCA(ペプチド研究所社製))を終濃度10μMになるように添加した。
【0087】
5.室温で60分間反応した。
【0088】
6.マイクロプレートリーダー(SpectraMax M5;molecular devices社製)を用いて、励起波長380nm、発光波長460nmで蛍光値を測定した。
【0089】
7.コントロール及び各評価サンプルのwellの蛍光値からblankのwellの蛍光値を引いた値を、コントロール及び各評価サンプルの測定値とした。
【0090】
阻害率は、下記の計算式により算出した。
阻害率(%)=(コントロールの測定値-評価サンプルの測定値)/コントロールの測定値×100
【0091】
【0092】
【0093】
比較例1では、Sタンパク質-ACE2結合への阻害効果が見られなかったのに対し、実施例1~9では、濃度依存的な阻害効果が観察された(表2)。また、比較例2では、TMPRSS2活性への阻害効果が見られなかったのに対し、実施例10~18では、阻害効果が観察され、添加濃度が高いほど大きな阻害率が示された(表3)。ラウロイルメチルタウリンナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、グルコン酸銅は、Sタンパク質-ACE2結合及びTMPRSS2活性の両方に対し阻害効果を示していた(実施例3~9、10、11、14~18)。
【0094】
これらの結果は、本発明の剤が、コロナウイルスの細胞侵入抑制効果を示し、コロナウイルス感染症の予防、若しくは、症状の抑制又は緩和剤として有用であることを示している。
【0095】
実施例19
表4に示す組成の評価サンプルについて、TMPRSS2の発現を評価した。
【0096】
【0097】
<TMPRSS2発現評価系>
以下の手順にてTMPRSS2の発現を評価した。
【0098】
1.評価サンプルで歯磨きした被験者より、歯磨き実施前、歯磨き1時間後、3時間後にサリベットコットン(ザルスタット社製)にて唾液を採取した。
【0099】
2.唾液のタンパク質濃度をBCA Protein Assay Kit(タカラバイオ社製)にて測定し、UPW(超純水)で各サンプル間のタンパク質濃度を合わせた。
【0100】
3.上記(2.)にサンプルバッファー(NuPAGE(登録商標)LDS Sample Buffer、サーモフィッシャー社製)及び還元剤(NuPAGE(登録商標)Sample Reducing Agent、サーモフィッシャー社製)を添加し、95℃、5分で加熱した。
【0101】
4.上記(3.)のサンプルをBolt(登録商標)Bis-Tris Plusゲル(サーモフィッシャー社製)に添加し、電気泳動を実施した。
【0102】
5.上記(4.)のゲル中のタンパクをメンブレン(トランスブロットTurbo(登録商標)転写パック PVDF、バイオラッド社製)に転写した。
【0103】
6.上記(5.)のメンブレンを5%スキムミルク含有TBS-T(Tris Buffered Saline with Tween(登録商標)20)で1時間ブロッキングした後、1次抗体(Anti-TMPRSS2 antibody[EPR3861]、アブカム社製)を4℃で一晩反応した。
【0104】
7.2次抗体(Anti-rabbit IgG、HRP-linked Antibody、セルシグナリングテクノロジー社製)を室温で1時間反応させた。
【0105】
8.検出試薬(ECL Prime Western Blotting Detection Reagent、サイティバ社製)を添加し、イメージャー(Amersham(登録商標)ImageQuant(登録商標)800、サイティバ社製)を用いて、TMPRSS2タンパク質のバンドを得た。
【0106】
9.上記(8.)付属のイメージャーソフトを用いて、TMPRSS2タンパク質のバンドシグナル強度(発現量)を解析した。
【0107】
10.歯磨き実施前の発現量を1として、歯磨き1時間後、3時間後の発現量を算出した(表5)。
【0108】
比較例3
実施例19において、表5の評価サンプルで歯磨きした被験者に代えて、歯磨きせず安静にしていた被験者について、同様の時点でサンプルを採取し評価した。
【0109】
【0110】
比較例3と比較して、実施例19では、歯磨き後にTMPRSS2発現量が低下していた(表5)。
【0111】
比較例4
表5の組成からラウリル硫酸ナトリウムを除いたブランク製剤を、歯磨剤を想定して精製水で15倍に希釈した評価サンプルを、<TMPRSS2評価系>で評価したところ、TMPRSS2活性への阻害効果は認められなかった。
【0112】
これらの結果は、本発明の剤は、コロナウイルスのスパイクタンパク質と細胞表面の受容体の結合の形成の阻害、TMPRSS2による細胞表面の受容体と結合したスパイクタンパク質の活性化の阻害、TMPRSS2の発現阻害等の各作用を発揮でき、コロナウイルス感染の予防、若しくは、症状の抑制又は緩和剤として有用であることを示している。