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特開2022-132197抗体のエンドサイトーシスを促進するための方策
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132197
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】抗体のエンドサイトーシスを促進するための方策
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220831BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220831BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220831BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220831BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K38/20
A61K38/21
A61K38/19
A61K47/68
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028554
(22)【出願日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2021030391
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 宏明
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DA01
4C084DA13
4C084DA24
4C084DA25
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB022
4C084ZB032
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE03
(57)【要約】
【課題】通常のシグナル伝達機構とは異なるフィードバック機構を用いることにより、抗体-薬物複合体のがん細胞内への取り込み効率を向上させるための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、p38活性化剤と、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体とを含む、抗体療法の効果増強剤が提供される。さらに、上記抗体に薬物がコンジュゲートされている上記抗体療法の効果増強剤もまた提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p38活性化剤と、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体とを含む、抗体療法の効果増強剤。
【請求項2】
p38活性化剤が、炎症性サイトカイン、抗がん剤、紫外線、放射線、活性酸素、温熱、及びそれらの組み合わせなる群から選択される、請求項1に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項3】
炎症性サイトカインが、TNF-α、TRAIL、IL-1α、IL-1β、及びIFN-γ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項4】
抗EGFR抗体が、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、ネシツムマブ、フツキシマブ、ABT-414、ABT-806、GC-1118A、GT-MAB 5.2-GEX、MM-151、SCT-200、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項5】
抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項6】
抗HER3抗体が、パトリツマブ、セリバンツマブ、LJM716、KTN3379、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項7】
前記抗体にリンカーを介さずに又はリンカーを介して薬物がコンジュゲートされている、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項8】
薬物が、微小管作用薬、DNAトポイソメラーゼ阻害薬、DNA作用薬、核酸合成阻害薬、光感受性物質、及びリポソーム阻害物質からなる群から選択される、請求項7に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項9】
薬物が、請求項1に規定される抗体に対する二次抗体にコンジュゲートされている、請求項8に記載の抗体療法の効果増強剤。
【請求項10】
p38活性化剤と、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体とを含む、抗体療法の効果を増強するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p38活性剤と抗受容体抗体(具体的には、抗EGFファミリー受容体抗体)を含むがん治療用の分子標的医薬、並びに該分子標的医薬を用いた抗がん治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞の表面に発現し、かつ細胞に内在化できる抗原に結合する抗体に、細胞毒性を有する薬物を結合させた抗体-薬物コンジュゲート(Antibody Drug Conjugate;ADC)は、がん細胞に選択的に薬物(抗がん剤)を送達させることによって、がん細胞内に薬物を蓄積させ、がん細胞を死滅させることが期待される(非特許文献1)。しかしながら、ADCのがん細胞内の取り込み効率は低いというのが現状である。
【0003】
一方、抗がん薬は、治療のための投与が継続された場合、一旦は効果が認められても、がん細胞の獲得耐性により治療効果が認められなくなることは周知である。このような耐性を獲得したがんに奏効する改善された治療方法を提供することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ducry, L., et al., Bioconjugate Chem. (2010) 21, 5-13.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体は、受容体へのリガンド結合により、細胞内のチロシンキナーゼ活性化により、該受容体のチロシンが自己リン酸化を介して細胞内にシグナルを伝達する。これまでに、本発明者らは、EGF受容体(以下、「EGFR」と称することがある)の細胞内への内在化(エンドサイトーシス)機構について、多くの知見を得てきており、そのうち、炎症性サイトカインであるTNF-αやシスプラチンによって、EGFRのセリン/スレオニン残基がリン酸化され、EGFRのエンドサイトーシスが起こることを明らかにした。これらのリン酸化には、通常のEGFRチロシンキナーゼ活性が関与せず、MAPKを介したフィードバック機構であることが判明している(Tanaka, T., et al., J. Biol. Chem. (2018) 293, 2288-2301; Tanaka, T., et al., Oncol. Lett., (2018) 15, 9251-9256)。
【0006】
本発明は、通常のシグナル伝達機構とは異なるフィードバック機構を用いることにより、抗体-薬物複合体のがん細胞内への取り込み効率を向上させるための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、p38活性化剤(例えば、炎症性サイトカイン)による細胞内の炎症カスケードを利用して、抗体-薬物複合体のエンドサイトーシスを促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
より具体的には、本発明の態様は、以下の通りである。
[1]p38活性化剤と、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体とを含む、抗体療法の効果増強剤。
[2]p38活性化剤が、抗がん剤、紫外線、放射線、活性酸素、温熱、及びそれらの組み合わせなる群から選択される、[1]に記載の抗体療法の効果増強剤。
[3]炎症性サイトカインが、TNF-α、TRAIL、IL-1α、IL-1β、及びIFN-γ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の抗体療法の効果増強剤。
[4]抗EGFR抗体が、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、ネシツムマブ、フツキシマブ、ABT-414、ABT-806、GC-1118A、GT-MAB 5.2-GEX、MM-151、SCT-200、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の抗体療法の効果増強剤。
[5]抗HER2抗体が、トラスツズマブ、ペルツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、マルゲツキシマブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、[1]~[4]のいずれか1つに記載の抗体療法の効果増強剤。
[6]抗HER3抗体が、パトリツマブ、セリバンツマブ、LJM716、KTN3379、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、[1]~[5]のいずれか1つに記載の抗体療法の効果増強剤。
[7]前記抗体にリンカーを介さずに又はリンカーを介して薬物がコンジュゲートされている、[1]~[6]のいずれか1つに記載の抗体療法の効果増強剤。
[8]薬物が、微小管作用薬、DNAトポイソメラーゼ阻害薬、DNA作用薬、核酸合成阻害薬、光感受性物質、及びリポソーム阻害物質からなる群から選択される、[7]に記載の抗体療法の効果増強剤。
[9]薬物が、[1]に規定される抗体に対する二次抗体にコンジュゲートされている、[8]に記載の抗体療法の効果増強剤。
[10]p38活性化剤と、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体とを含む、抗体療法の効果を増強するためのキット。
【発明の効果】
【0009】
現状では、がん細胞が持つ抗体-薬物複合体の細胞内取り込み活性に依存するが、本発明により積極的に取り込みが可能となり、細胞内の薬物濃度を急速に高めることが可能となる。したがって、本発明は、抗体-薬物複合体を用いた抗がん療法に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】非定型的リン酸化によるセツキシマブ-EGF受容体のエンドサイトーシス促進を示す図である。
図2】各種阻害剤を用いたエンドサイトーシス機構の解析討結果を示す図である
図3】EGFRを過剰発現させた神経膠芽腫由来の細胞におけるTNF-αによるエンドサイトーシス促進を示す図である。
図4】EGFRのリサイクリングを検討した結果を示す図である。
図5】サポリンを結合させた二次抗体(α-IgG-サポリン)をセツキシマブに反応させ、TNF-α刺激による細胞内送達における細胞毒性の効果を検討した結果を示す図である。A:WST-8アッセイによる細胞毒性評価、B.PARP切断によるアポトーシス評価。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、数値範囲を示す記載、例えば、「X~Y」のような記載は、X以上Y以下(すなわち、該範囲にX及びYを含む)であることを示す。
【0012】
〔実施形態1:本発明に係る抗体療法の効果増強剤〕
(1)有効成分
本発明の抗体療法の効果増強剤は、p38活性化剤、抗EGF受容体ファミリー抗体及びそれにコンジュゲートした薬物を有効成分として含むことを特徴とする。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「p38活性化剤」とは、細胞内の炎症カスケードのシグナル伝達を構成するp38タンパク質を活性化する薬剤を指し、細胞表面に存在する炎症に関連した受容体に対するリガンドであり得る。別の態様として、このような細胞表面に存在する受容体を刺激する因子、及び細胞内のタンパク質、脂質、核酸に作用するもの(例えば、作動薬、抗がん剤、放射線)であってもよい。
【0014】
「p38」、「p38タンパク質」、又は「p38 MAPK」は、互換的に使用され、細胞分化、アポトーシス、及びオートファジーを含むいくつかの細胞プロセスに関与するタンパク質である。これまでに、4種のp38 MAPK、すなわち、p38-α(「MAPK14」)、p38-β(「MAPK11」)、p38-γ(「MAPK12/ERK6」)、及びp38-δ(「MAPK13/SAPK4」)が同定されている。p38は、炎症性サイトカイン、抗がん剤、紫外線、浸透圧ショック、リポ多糖(LPS)、増殖因子を含む様々なリガンド又は細胞ストレスによって活性化され、本発明では、これらを「p38活性化剤」として使用することができる。なお、本発明によれば、「p38」等は、1種又は複数種を同時に又は連続して使用することができる。
【0015】
「炎症性サイトカイン」は、炎症を促進する、免疫細胞及びある種の他の細胞型から分泌されるシグナリング分子である。炎症性サイトカインとしては、限定されないが、腫瘍壊死因子(TNF-α、-β、及び-γ)、インターロイキン-1(IL-1)、インターフェロンγ(IFNγ)、IL-17A、IL-6、IL-1b、IL-8、IL-12(p70)、IL-18、IL-23、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子が挙げられる。
【0016】
p38を活性化する「抗がん剤」としては、例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、トキソテール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イホスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、カルボプラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、エスペラミシン、メルファラン、及び他の関連したナイトロジェンマスタードが含まれる。
【0017】
本発明は、p38活性化剤とともに、抗EGFファミリー受容体抗体を用いることを特徴とする。「抗EGFファミリー受容体抗体」には、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体が含まれる。これらのいずれか1種又は複数種を、上記される「p38」等と同時に又は連続して使用することができる。
【0018】
「抗EGFR抗体」としては、典型的には、セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、ネシツムマブ、フツキシマブ、ABT-414(又はDepatux-M)(Abbv)、ABT-806(Abbott)、GC-1118A(Green Cross)、GT-MAB 5.2-GEX(Glycotope)、MM-151(Merrimack Pharmaceuticals)、及びSCT-200(Sinocelltech)が挙げられる。なお、本発明によれば、1種又は複数種を同時に又は連続して使用することができる。
【0019】
「抗HER2抗体」としては、典型的には、トラスツズマブエムタンシン、トラスツズマブ、ペルツズマブ、及びラパチニブが挙げられる。なお、本発明によれば、1種又は複数種を同時に又は連続して使用することができる。
【0020】
「抗HER3抗体」としては、典型的には、パトリツマブ、セリバンツマブ、LJM716、KTN3379が挙げられる。なお、本発明によれば、1種又は複数種を同時に又は連続して使用することができる。
【0021】
「抗HER4抗体」としては、市販されているMAB11311(R&D Systems)、ab19391(Abcam)などを使用することができる。なお、本発明によれば、1種又は複数種を同時に又は連続して使用することができる。
【0022】
(2)抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate;ADC)
本発明の別の態様によれば、p38と抗体との組み合わせに限定されず、p38とともに使用される抗体は、ある種の薬物と複合化(コンジュゲート)した形態で提供することができる。抗体への薬物の複合化は、リンカーを介してもよく、又はリンカーを介さずに結合させることであってもよい。利用可能なリンカーとしては、特に限定されず、一般的に使用されるリンカーであり得る。例えば、抗HER2抗体とエキサテカン(DNAトポイソメラーゼI阻害剤)との抗体-薬物コンジュゲートに使用されているリンカー構造を用いることができる(WO2018/066626)。
【0023】
抗体に薬物を結合される方法は、当業者に公知であり、特に限定されない。抗体にリンカーを介して薬物をコンジュゲートされる場合、リンカーとしては、典型的には、pH感受性リンカー(エンドソームやリソソームなどの酸性条件下に切断される)、及びバリン-シトルリン構造などを組み込んだ酵素切断型リンカー(カテプシンBなど)、及び非切断型などが挙げられる。
【0024】
複合化される「薬物」は、治療用途に適したものであり得て、対象の病気の診断、治療、または予防に用いることを意図される任意の医薬品化合物、特に低分子医薬品(以下、「ペイロード」と称する)であり得る。ペイロードには、限定されないが、小分子化合物、ヌクレオチド(例えば、DNA、プラスミドDNA、RNA、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマーなど)、ペプチド、タンパク質(例えば、サポリンなどの酵素)、又はナノ粒子が挙げられる。なお、「薬物」は、上記抗EGFファミリー受容体抗体(一次抗体)に対する二次抗体にコンジュゲートさせた形態で提供され得る。このような二次抗体としては、限定されないが、一次抗体に特異的に結合する抗体、例えば、抗IgG、抗IgY、抗IgG Fabなどの類であってもよい。
【0025】
「薬物」が、抗がん作用を有する化合物である場合、限定されないが、有糸分裂阻害剤(微小管作用薬)、DNAトポイソメラーゼ阻害剤、DNA作用薬(例えば、DNAクロスリンク薬、DNAアルキル化薬、DNAインターカレーター)、核酸合成阻害薬、光感受性物質(抗EGFR-ADCアキャルックス(登録商標)(楽天メディカジャパン株式会社)、アルキル化剤、抗がん性抗生物質、代謝拮抗剤、プラチナ製剤、分子標的薬、放射性同位元素、及びリポソーム阻害物質(例えば、サポリン)から選択されてもよい。
【0026】
(3)p38活性剤と抗EGFファミリー受容体抗体の併用
本発明によれば、p38活性化剤をインビボ又はインビトロで添加することによって、細胞(例えば、がん細胞)内のp38を活性化することができ、EGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体(RTK)であっても、チロシン自己リン酸化を誘起せず、セリン/スレオニン残基のリン酸化によりRTKの細胞内への内在化(エンドサイトーシス)を促進することができるため、RTKに対する抗体であって、RTKに特異的に結合した該抗体を効率よく細胞内に取り込ませることが可能である。
【0027】
p38活性剤と併用される抗EGFRファミリー受容体抗体は、上記される通りであるが、該抗体に抗がん剤などの薬物を結合させた抗体-薬物複合体(ADC)の使用によって、従来よりも、薬物を細胞内に高効率でかつ急速に取り込ませることができる。
【0028】
p38活性剤と、抗体又はADCとの併用では、それぞれの使用量(比)を適宜、任意に調整して使用することができる。例えば、p38活性剤の適用量と、抗体又はADCの適用量の比は、重量比又はモル比であり得る。両者の比は、限定されないが、1:100~100:1の範囲であり得る。また、p38活性剤と、抗体又はADCとが逐次的に提供される場合、例えば、ADC投与完了後、1時間以内にp38活性剤が投与され得る。
【0029】
p38活性剤と上記抗体又はADCの適用順は、いずれを先行するかは限定されず、また、両者を同時に又は連続して適用することができる。また、例えばがん患者に対して、がんを治療する目的でADCを投与する場合、p38活性剤とADCとを同時に又は逐次、個別に投与してもよく、両者を含む医薬組成物として投与してもよい。医薬組成物として使用する場合、上記を有効成分として含む他、薬学的に許容される成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含めることができる。このような医薬組成物を患者に投与する場合、その投与経路は限定されず、例えば、静脈内、髄腔内、外用、経口、皮下、筋内、腹腔内、筋内、又は組織中、例えば、腫瘍中への直接的注射などであってもよい。
【0030】
〔実施形態2:本発明に係る抗体療法の効果を増強するためのキット〕
本発明によれば、p38活性化剤と、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗HER3抗体、及び抗HER4抗体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体とを含む、抗体療法の効果を増強するためのキットが提供される。また、これらの抗体に代えて、該抗体に薬物がコンジュゲートされたADCを含めてもよい。キットに含まれる薬剤等は、適切な容器に粉末の状態で封入されているか、又は適切な緩衝液に溶解又は懸濁された状態で存在していてもよい。
【0031】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0032】
実施例1:HeLa細胞におけるTNF-α処理によるセツキシマブ-EGF受容体のエンドサイトーシスの効果
HeLa細胞にセツキシマブ(MedChemExpress、A1050-100)を10分間処理し、その後、TNF-α(R&D systems、210-TA-100)で15分間刺激した。細胞内に移行したEGFR(緑色)とセツキシマブ(赤色)を染色した結果、EGFRとともにセツキシマブが内在化し、共局在していた(図1)。このことからEGF受容体に特異的に結合したセツキシマブ-EGF受容体のエンドサイトーシスは、TNF-αによって促進されることが判明した。
【0033】
また、データとしては示さないが、細胞膜上のEGFR及びセツキシマブもまた消失していることが確認された。
【0034】
実施例2:エンドサイトーシス機構の分析
TNF-αによるEGFR-セツキシマブ複合体の内在化は、p38阻害薬であるSB203580(Sigma-Aldrich、19-135)によって阻害された。一方、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるgefitinib(Cayman Chemical、13166)では全く阻害されなかった(図2)。このことから、内在化は、p38による非定型的なエンドサイトーシスに依存していることが示唆された。
【0035】
実施例3:EGFRを過剰発現させた神経膠芽腫由来の細胞におけるTNF-αによるエンドサイトーシス促進の検討
HeLa細胞以外の細胞でも同じ現象が認められるのかを検討した。EGFRを過剰発現させた神経膠芽腫由来細胞においても、HeLa細胞(実施例2)と同様に、TNF-αによるEGFR-セツキシマブ複合体の内在化が認められた。
【0036】
実施例4:EGFRのリサイクリングの検討
効率的な内在化が達成できたが、TNF-α刺激から60分後に細胞膜上にリサイクルされることが観察された。
【0037】
実施例5:サポリンコンジュゲート二次抗体による細胞毒性の増強効果
セツキシマブ(一次抗体)に対するサポリンコンジュゲート二次抗体(α-IgG-サポリン)による、TNF-α処理の細胞毒性作用における増強効果を検討した。実施例1と同様に、HeLa細胞を用いたが、セツキシマブによる処理後に、サポリンをコンジュゲートさせて二次抗体(Advanced Targeting Systems)を添加し、その後、TNF-αで刺激した。WST-8アッセイを用いて細胞毒性を評価し、ポリ-ADPリボースポリメラーゼ(PARP)タンパク質の切断によりアポトーシス評価を行った。それぞれの結果を図5A及び5Bに示す。TNF-α刺激により細胞毒性効果は、セツキシマブ(Cmab(+)とα-IgG-サポリンの組み合わせによる処理によるものが顕著であった(図5A)。また、この増強効果はアポトーシス評価においても同様であった(図5B)。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の抗体療法の効果増強剤を使用することにより、がん細胞内に抗がん剤を高効率であり、急速に取り込めることができる。
【0039】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5