(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132198
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】水産加工品の改質剤、水産加工品の改質方法および水産加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20220831BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23L17/00 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028606
(22)【出願日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2021030516
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】薄衣 広悌
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 文之
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大貫 卓也
【テーマコード(参考)】
4B034
4B042
【Fターム(参考)】
4B034LB05
4B034LC05
4B034LK02X
4B034LK07X
4B034LK36X
4B034LP01
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD07
4B042AG34
4B042AH09
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK10
4B042AP07
4B042AP14
4B042AP27
(57)【要約】
【課題】少量の添加により、水産加工品の品質および歩留まりを効率よく改善することができる、水産加工品の改質剤を提供する。
【解決手段】トランスグルタミナーゼと、発酵により生産される乳酸のアルカリ土類金属塩であって、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とを有効成分として含有する、水産加工品の改質剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスグルタミナーゼと、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とを有効成分として含有する、水産加工品の改質剤。
【請求項2】
トランスグルタミナーゼが、微生物より得られるカルシウム非依存性のトランスグルタミナーゼである、請求項1に記載の改質剤。
【請求項3】
L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩が、L-乳酸を50重量%以上含む乳酸のアルカリ土類金属塩である、請求項1または2に記載の改質剤。
【請求項4】
アルカリ土類金属塩がカルシウム塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の改質剤。
【請求項5】
トランスグルタミナーゼと、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とが、L-乳酸のアルカリ土類金属塩1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が、40U~120Uとなるように含有される、請求項1~4のいずれか1項に記載の改質剤。
【請求項6】
水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして0.8U~90U、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして0.009g~1gとなるように添加される、請求項1~5のいずれか1項に記載の改質剤。
【請求項7】
水産加工品が水産練り製品または魚卵加工品である、請求項1~6のいずれか1項に記載の改質剤。
【請求項8】
水産物に、請求項1~5のいずれか1項に記載の改質剤を接触させることを含む、水産加工品の改質方法。
【請求項9】
水産物に、請求項1~5のいずれか1項に記載の改質剤を添加して混合し、接触させる、請求項8に記載の改質方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の改質剤の溶液または分散液もしくは懸濁液、あるいは請求項1~5のいずれか1項に記載の改質剤を添加した水産加工用処理液に、水産物を浸漬して接触させる、請求項8に記載の改質方法。
【請求項11】
水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして0.8U~90U、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして0.009g~1gとなるように接触させる、請求項8~10のいずれか1項に記載の改質方法。
【請求項12】
水産加工品が水産練り製品または魚卵加工品である、請求項8~11のいずれか1項に記載の改質方法。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか1項に記載の改質剤を接触させた水産物を加工することを含む、改質された水産加工品の製造方法。
【請求項14】
水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして0.8U~90U、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして0.009g~1gとなるように接触させた、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
水産加工品が水産練り製品または魚卵加工品である、請求項13または14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産加工品の改質剤、水産加工品の改質方法および改質された水産加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類等の水産物は、他の生鮮食品に比べて保存性が低いため、冷凍され、または加工された後に冷凍されて流通、販売される。また、水産物の塩蔵品、燻製品、練り製品等の加工品は、栄養価も高く、嗜好性の高い食品である。
これまで、冷凍された水産物や加工、冷凍された水産物の加工品において、解凍後の品質、食感の改善や、水産練り製品の食感の改善を図る取り組みがなされてきた。
【0003】
たとえば、切り身状にカットして冷凍され、流通される魚類において、解凍の際に脂のりに優れた外観とするため、切り身にインジェクションされる処理剤として、澱粉および乳酸塩を含有し、凍結時に油分離する水中油型乳化物(特許文献1)、水産物の冷凍加工品において、繊維感のある食感の維持、重量の減少や形状の収縮の抑制、異味の発生の抑制のために、水産物に浸透させる水産物処理用製剤として、グルコン酸塩、乳酸カルシウムおよびアルカリ剤を所定の比で含有する製剤(特許文献2)が提案されている。
また、食品に粘弾力のある食感を付与し、水産練り製品に利用され得る改質剤として、大豆タンパク、多糖類および無機塩をエクストルーダーにて加熱溶融混練して得られる食品改質剤(特許文献3)、低品質の魚肉すり身を用いた場合にも、保形性および成形性を改善し、弾力を向上させ得る酵素製剤として、トランスグルタミナーゼおよび有機酸のアルカリ土類金属塩を含有する製剤(特許文献4)が提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された水中油型乳化組成物は、冷凍切り身の解凍時の外観の改善に係るものであり、また、特許文献2に記載された水産物処理用製剤は、冷凍加工食品に用いられるものであって、いずれも塩蔵品や、かまぼこ等の通常冷蔵保存される練り製品等の冷凍されない加工品に適用されるものではない。特許文献3に記載された食品改質剤、および特許文献4に記載された酵素製剤は、水産練り製品の品質の改善に用いられるものであるが、水産練り製品以外の水産加工品への応用の可能性については、これら特許文献には言及されていない。
さらに、上記特許文献にて提案された技術は、水産加工品における品質の改善効果において、必ずしも十分であるとはいえなかった。
それゆえ、少量の添加により、水産加工品の品質および歩留まりを十分に改善することができ、水産練り製品のみならず、他の種類の水産加工品においても有用な改質剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-155934号公報
【特許文献2】特開2013-179907号公報
【特許文献3】特開2014-117206号公報
【特許文献4】特開平6-113796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、少量の添加により、水産加工品の品質および歩留まりを効率よく改善することができ、水産練り製品のみならず、他の種類の水産加工品においても有用な水産加工品の改質剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トランスグルタミナーゼと、発酵により生産される乳酸のアルカリ土類金属塩であって、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とを有効成分として含有する水産加工品の改質剤とすることにより、水産練り製品はもとより、魚卵加工品等、水産練り製品以外の水産加工品においても、品質および歩留まりを良好に改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]トランスグルタミナーゼと、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とを有効成分として含有する、水産加工品の改質剤。
[2]トランスグルタミナーゼが、微生物より得られるカルシウム非依存性のトランスグルタミナーゼである、[1]に記載の改質剤。
[3]L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩が、L-乳酸を50重量%以上含む乳酸のアルカリ土類金属塩である、[1]または[2]に記載の改質剤。
[4]アルカリ土類金属塩がカルシウム塩である、[1]~[3]のいずれかに記載の改質剤。
[5]トランスグルタミナーゼと、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とが、L-乳酸のアルカリ土類金属塩1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が、40U~120Uとなるように含有される、[1]~[4]のいずれかに記載の改質剤。
[6]水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして0.8U~90U、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして0.009g~1gとなるように添加される、[1]~[5]のいずれかに記載の改質剤。
[7]水産加工品が水産練り製品または魚卵加工品である、[1]~[6]のいずれかに記載の改質剤。
[8]水産物に、[1]~[5]のいずれかに記載の改質剤を接触させることを含む、水産加工品の改質方法。
[9]水産物に、[1]~[5]のいずれかに記載の改質剤を添加して混合し、接触させる、[8]に記載の改質方法。
[10][1]~[5]のいずれかに記載の改質剤の溶液または分散液もしくは懸濁液、あるいは[1]~[5]のいずれかに記載の改質剤を添加した水産加工用処理液に、水産物を浸漬して接触させる、[8]に記載の改質方法。
[11]水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして0.8U~90U、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして0.009g~1gとなるように接触させる、[8]~[10]のいずれかに記載の改質方法。
[12]水産加工品が水産練り製品または魚卵加工品である、[8]~[11]のいずれかに記載の改質方法。
[13][1]~[5]のいずれかに記載の改質剤を接触させた水産物を加工することを含む、改質された水産加工品の製造方法。
[14]水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして0.8U~90U、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして0.009g~1gとなるように接触させた、[13]に記載の製造方法。
[15]水産加工品が水産練り製品または魚卵加工品である、[13]または[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、少量の添加により、水産加工品の品質および歩留まりを効率よく改善することができ、水産練り製品のみならず、魚卵加工品等、種々の水産加工品においても有用な水産加工品の改質剤を提供することができる。
また、本発明により、種々の水産加工品において、品質および歩留まりを効率よく改善
し得る、水産加工品の改質方法を提供することができる。
さらに、本発明により、品質および歩留まりが改善された水産加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、試験例3において、実施例7、8および比較例7、8で改質され、製造された各かまぼこについて、食感の評価結果を示す図である。
【
図2】
図2は、試験例4において、実施例7、8および比較例7、8で改質され、製造された各かまぼこについて、破断強度および凹みの測定結果を示す図である。
【
図3】
図3は、試験例5において、実施例9、10および比較例9、10で改質され、製造された各揚げかまぼこについて、食感の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、水産加工品の改質剤(以下、本明細書にて「本発明の改質剤」ということがある)を提供する。
本発明の改質剤は、トランスグルタミナーゼと、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩とを有効成分として含有する。
【0012】
本発明において、「水産加工品」とは、魚介類、海藻類、淡水藻類等の水産物を加工した製品であって、食用となる製品をいう。
具体的には、素干し品(するめ、干しだら、干し昆布等)、煮干し品(煮干しいわし、干しあわび、干しえび、いりこ等)、塩干品(いわし干し、あじ干し、さば干し、さんま干し、開きだら等)、凍干品(寒天、明太等)、節類(かつお節、さば節、いわし節等)、乾海苔(浅草のり、青のり、青さのり、川のり等)等の乾製品;魚類(サケ・マス類、サバ、イワシ類、ホッケ等)塩蔵品、魚卵塩蔵品(すじこ、イクラ、数の子、たらこ、からすみ、キャビア等)、塩辛類(かつお塩辛、いか塩辛、うに塩辛等)、海藻塩蔵品(生わかめ塩蔵品、ボイル塩蔵わかめ、塩蔵昆布等)等の塩蔵品;燻製品(冷燻品、温燻品);煮熟調味品(イカナゴの佃煮、昆布の佃煮等)、調味乾燥品(イワシ類、サンマ、フグ等のみりん干し、さきいか等)等の調味品;魚肉練り製品(蒸しかまぼこ、板付きかまぼこ、蒸焼きかまぼこ、蒸しちくわ、焼抜きかまぼこ(笹かまぼこ等)、板付き焼抜きかまぼこ(白焼かまぼこ等)、卵黄焼きかまぼこ(伊達巻等)、焼きちくわ、ゆでかまぼこ(なると等)、はんぺん、揚げかまぼこ(さつま揚げ等)、風味かまぼこ(かに風味かまぼこ等)、魚肉ハム、魚肉ソーセージ等)、湯煮製品(えびしんじょ、かにしんじょ、いわしつみれ、えびつみれ等)、えびだんご等の水産練り製品等が挙げられる。
本発明の改質剤は、水産加工品のうち、魚卵塩蔵品等の魚卵加工品および水産練り製品の改質に好適に用いられ、魚卵加工品および魚肉練り製品の改質により好適に用いられる。
【0013】
本発明において、水産加工品の改質剤とは、上記したような水産加工品の品質や歩留まりを改善するために、水産加工品の製造工程において、原料となる水産物の処理や、加工の際に添加される添加物をいう。
本明細書において、「水産物」とは、水産加工品の原料となる水産物をいい、アジ、イカナゴ、イワシ、カツオ、サケ、サバ、サメ、サンマ、タラ、フグ、ホッケ、マス等の魚類;サケの卵、マスの卵、タラの卵、チョウザメの卵、トビウオの卵、ニシンの卵、ボラの卵等の魚卵;アカガイ、アサリ、アワビ、カキ、サザエ、シジミ、ハマグリ、ホタテガイ等の貝類;イカ、タコ等の頭足類;ウニ、ナマコ等の棘皮動物;エビ、カニ等の甲殻類;アサクサノリ、アオサ、コンブ、テングサ、ヒジキ、モズク、ワカメ等の海藻類;カワノリ、スジアオノリ、ヒトエグサ等の淡水藻類等が例示される。
【0014】
本発明の改質剤に有効成分として含有されるトランスグルタミナーゼは、タンパク質中のグルタミン残基のアミノ基と第1級アミンを縮合させ、アミン上の置換基をグルタミン残基に転移させて、アンモニアが生成する反応を触媒する転移酵素(タンパク質-グルタミンγ-グルタミルトランスフェラーゼ)であり、通常は第1級アミンとしてタンパク質中のリジン残基のアミノ基が用いられ、架橋酵素として作用する。
【0015】
トランスグルタミナーゼとしては、微生物より得られるカルシウム非依存性のものが好ましく用いられる。
微生物由来のカルシウム非依存性トランスグルタミナーゼとしては、ストレプトマイセス属に属する放線菌により産生されるトランスグルタミナーゼが挙げられ、特許第2572716号公報に記載された方法等に従って得ることができるが、味の素株式会社等から提供されている市販の製品を用いることもできる。
また、本発明の改質剤におけるトランスグルタミナーゼの含有量は、水産加工品の原料
となる水産物に対し、トランスグルタミナーゼ活性にして後述する量を添加し得るように、または接触させ得るように設定される。
なお、トランスグルタミナーゼの酵素活性については、たとえば、ヒドロキサメート法により測定し、算出することができる。すなわち、ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行わせ、トリクロロ酢酸存在下で、前記反応で生成したヒドロキサム酸の鉄錯体を形成させた後、525nmの吸光度を測定して、ヒドロキサム酸の生成量を検量線より求めることにより、酵素活性を算出することができる。本明細書では、37℃、pH=6.0で1分間に1μmolのヒドロキサム酸を生成する酵素量を、1Uと定義した(特開昭64-027471号公報参照)。
【0016】
本発明の改質剤には、トランスグルタミナーゼに加えて、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩が有効成分として含有される。
L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩は、後述するように、発酵により生産される。すなわち、本発明においては、発酵により生産される乳酸のアルカリ土類金属塩であって、L-乳酸を含む乳酸のアルカリ土類金属塩(以下、本明細書にて「発酵乳酸のアルカリ土類金属塩」ということがある)を用いる。
発酵乳酸のアルカリ土類金属塩としては、L-乳酸を高含有量(好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上)で含む乳酸のアルカリ土類金属塩が好ましい。
また、アルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩が例示され、カルシウム塩が好ましい。
【0017】
発酵乳酸のアルカリ土類金属塩は、グルコース、マンノース、ガラクトース、スクロース、マルトース、澱粉等の糖質を基質として、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩の存在下に、L-乳酸生産微生物により発酵させて得ることができる。
L-乳酸生産微生物としては、ラクトバチルス属に属する細菌(ラクトバチルス アミロフィルス(Lactobacillus amylophilus)、ラクトバチルス ラムノスス(Lactobacillus rhamnosus)等)、ラクトコッカス属に属する細菌(ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)等)、バチルス属に属する細菌(バチルス コアグランス(Bacillus
coagulans)等)、エンテロコッカス(Enterococcus)属、イグジォバクテリウム(Exiguobacterium)属等の好アルカリ性乳酸菌、クモノスカビの一種(Rhizopus oryzae等)等が報告されており、これらの微生物は、1種を選択して用いることができ、または2種以上を選択し、組み合わせて用いることができる。
発酵は、使用するL-乳酸生産微生物に適する条件(基質、pH、温度等)にて、常法に従って行わせることができる。
本発明においては、発酵乳酸のアルカリ土類金属塩は、これまでに報告された発酵法により製造して用いることもできるが、各社より提供されている市販の製品を用いることもできる。
【0018】
本発明の改質剤における発酵乳酸のアルカリ土類金属塩の含有量は、水産加工品の原料となる水産物に対し、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして後述する量を添加し得るように、または接触させ得るように設定される。
【0019】
本発明の改質剤には、トランスグルタミナーゼと発酵乳酸のアルカリ土類金属塩は、L-乳酸のアルカリ土類金属塩1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が、40U~120Uとなるように含有されることが好ましく、60U~110Uとなるように含有されることがより好ましく、75U~100Uとなるように含有されることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の改質剤は、トランスグルタミナーゼと発酵乳酸のアルカリ土類金属塩に、必要に応じて一般的な食品添加物を添加して、一般的な製剤化手段に準じた方法により、粉末状、粒状、顆粒状、タブレット状等の固形状;ゲル状、ペースト状、クリーム状等の半固形状;溶液状、懸濁液状、分散液状等の液状等、種々の形態とすることができる。また、粉末状、粒状、顆粒状等の固形状の形態で提供し、使用時に水等の溶媒に溶解または分散もしくは懸濁して用いることもできる。
【0021】
上記食品添加物としては、水(精製水、水道水等の食品製造用水)、多価アルコール等の溶剤;ポリエチレングリコール等の基剤;デキストリン、乳糖等の賦形剤;ゼラチン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、セルロースおよびその誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等の結合剤;クロスポビドン、ポビドン、結晶セルロース等の崩壊剤;タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、サポニン、レシチン、カゼインナトリウム等の乳化剤;食塩、砂糖、醤油、アミノ酸塩、核酸、酵母エキス、畜肉エキス等の調味料;植物タンパク質(大豆タンパク質等)、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等のタンパク質;タンパク加水分解物;タンパク部分分解物;有機酸塩(フマル酸塩等)等のpH調整剤;重合リン酸塩等のキレート剤;アルギン酸、キサンタンガム等の増粘多糖類;色素;酸味料;香料等が挙げられる。
【0022】
本発明の改質剤は、水産加工品の製造に際し、水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして、好ましくは0.8U~90U、より好ましくは1.6U~50U、さらに好ましくは4U~20Uとなるように、また、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして、好ましくは0.009g~1g、より好ましくは0.018g~0.5g、さらに好ましくは0.04g~0.2gとなるように添加される。
本発明の改質剤が水産練り製品の製造に用いられる場合には、本発明の改質剤は、水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして、好ましくは0.8U~90U、より好ましくは1.6U~50U、さらに好ましくは4U~40Uとなるように、また、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして、好ましくは0.009g~1g、より好ましくは0.018g~0.5g、さらに好ましくは0.04g~0.45gとなるように添加される。
【0023】
本発明の改質剤を水産加工品の製造に用いることにより、水産加工品の品質や歩留まりを改善しまたは向上させることができる。
具体的には、明太子等の魚卵加工品であれば、魚卵の粒感のような特徴的な食感、たとえば粒の張り(弾力性)の強さ、粒の強さ、粒子感の強さ等を改善しまたは向上させることができ、かまぼこ、揚げかまぼこ等の魚肉練り製品であれば、その弾力性や特徴的な食感(硬さ、しなやかさ、弾力の強さ等)を改善しまたは向上させることができる。
それゆえ、本発明の改質剤を用いることにより、ガム子等、未成熟な魚卵や、魚卵の冷凍品を魚卵加工品の原料として用いた場合や、冷凍魚肉のすり身等の品質の低下した原料を水産練り製品の原料として用いた場合においても、満足できる品質の魚卵加工品や水産練り製品を提供することができる。
また、本明細書において、水産加工品の「歩留まり」とは、水産加工品の製造に用いる原材料の総重量に対する、製造され得られた水産加工品の最終的な重量の割合をいう。
それゆえ、本発明の改質剤を用いることにより、水産加工品の製造効率を向上させ、製造コストを低減することができる。
【0024】
本発明はまた、水産加工品の改質方法(以下、本明細書にて「本発明の改質方法」ともいう)を提供する。
本発明の改質方法は、水産物に、上記した本発明の改質剤を接触させることを含む。
本発明の改質方法において、水産物と接触させる本発明の改質剤については、上記した通りである。
【0025】
本発明の改質方法において、水産物と本発明の改質剤との接触は、粉末状、粒状もしくは顆粒状、または液状の本発明の改質剤を振りかける等して水産物に添加する、液状またはペースト状の本発明の改質剤を水産物に塗布する、液状またはペースト状の本発明の改質剤を水産物に注入する、液状の本発明の改質剤、あるいは本発明の改質剤の溶液または分散液もしくは懸濁液や、本発明の改質剤を添加した水産加工用処理液に水産物を浸漬する等が挙げられる。水産物に本発明の改質剤を接触させる操作の簡便さかつ改質効率の観点からは、細切、細断、粉砕等した水産物に、または水産物の擂潰処理時に、粉末状、粒状もしくは顆粒状、または液状の本発明の改質剤を添加して混合し、接触させる方法や、本発明の改質剤の溶液または分散液もしくは懸濁液、あるいは本発明の改質剤を添加した水産加工用処理液(塩漬け液、調味液等)に、水産物を浸漬して接触させる方法が好ましい。
【0026】
本発明の改質剤と水産物との接触は、水産加工工程のいずれの段階で行ってもよいが、製造の効率化および改質効果の観点からは、水産物を細切、細断、粉砕、擂潰等する工程、塩漬け液、調味液等に浸漬する工程等、加熱や乾燥を行う前の工程において行うことが好ましい。
具体的には、たとえば、明太子等の魚卵加工品であれば、本発明の改質剤を添加した塩漬け液または調味液に、魚卵を浸漬して、本発明の改質剤を魚卵に接触させることが好ましく、かまぼこ、揚げかまぼこ等の魚肉練り製品であれば、魚肉の擂潰時に本発明の改質剤を添加し、または魚肉すり身に本発明の改質剤を添加し、混合して接触させることが好ましい。
【0027】
本発明の改質方法において、本発明の改質剤は、水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして、好ましくは0.8U~90U、より好ましくは1.6U~50U、さらに好ましくは4U~20Uとなるように、また、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして、好ましくは0.009g~1g、より好ましくは0.018g~0.5g、さらに好ましくは0.04g~0.2gとなるように接触させる。
本発明の改質方法が水産練り製品の改質に用いられる場合には、本発明の改質剤は、水産物100gに対し、トランスグルタミナーゼ量が酵素活性にして、好ましくは0.8U~90U、より好ましくは1.6U~50U、さらに好ましくは4U~40Uとなるように、また、L-乳酸のアルカリ土類金属塩の量にして、好ましくは0.009g~1g、より好ましくは0.018g~0.5g、さらに好ましくは0.04g~0.45gとなるように接触させる。
【0028】
本発明の改質方法が魚卵加工品の改質に適用される場合、本発明の改質剤を添加する塩漬け液や調味液は、魚卵加工品の製造において通常用いられる組成および方法にて製造される。
たとえば、塩漬け液は、食塩6重量%~18重量%を、防腐剤、発色剤等の食品添加物とともに食品製造用水に添加し、溶解して調製され、魚卵に対して20重量%~80重量%程度用いられる。
また、調味液は、食塩、醤油、魚介類エキス、海藻エキス、アミノ酸塩、核酸等の調味料、唐辛子等の香辛料等を食品製造用水に添加して、均一に溶解、分散して調製され、魚卵に対して10重量%~50重量%程度用いられる。
塩漬け液への魚卵の浸漬は、通常冷蔵下~室温(5℃~25℃)にて行われる。
また、調味液への魚卵の浸漬も、通常冷蔵下~室温(5℃~25℃)で行われる。
なお、塩漬け液や調味液への魚卵の浸漬は、魚卵加工品の製造において通常採用される時間行われる。
【0029】
本発明の改質方法が水産練り製品の改質に適用される場合、本発明の改質剤の添加時期は特に限定されないが、魚肉等の擂潰の際または魚肉等のすり身に添加することが好ましい。
また、魚肉等の擂潰時等に添加して接触させる際の条件(温度、時間等)は、水産練り製品の製造において通常採用される条件、たとえば、魚肉等の擂潰時に添加して接触させる場合であれば2℃~10℃にて2分間~10分間程度行われ、魚肉等のすり身に添加、混合して接触させる場合であれば5℃~15℃にて2分間~20時間程度、または30℃~40℃にて20分間~90分間程度行われる。
【0030】
本発明の改質方法により、水産加工品の品質を改善しまたは向上させることができ、また、水産加工品の歩留まりを改善しまたは向上させることができる。
具体的には、本発明の改質方法により、魚卵加工品であれば、魚卵の粒感のような特徴的な食感、たとえば粒の張り(弾力性)の強さ、粒の強さ、粒子感の強さ等を改善しまたは向上させることができ、かまぼこ、揚げかまぼこ等の魚肉練り製品であれば、その弾力性や特徴的な食感(硬さ、しなやかさ、弾力の強さ等)を改善しまたは向上させることができる。
それゆえ、本発明の改質方法により、ガム子等、未成熟な魚卵や、魚卵の冷凍品を魚卵加工品の原料として用いた場合や、冷凍魚肉のすり身等の品質の低下した原料を水産練り製品の原料として用いた場合においても、満足できる品質の魚卵加工品や水産練り製品を提供することができる。
また、魚卵加工品や水産練り製品において、製造効率を改善しまたは向上させることができ、製造コストを低減することができる。
本発明の改質方法は、魚卵加工品および水産練り製品に好適に適用することができ、魚卵加工品および魚肉練り製品に特に好適に適用することができる。
【0031】
さらに本発明は、改質された水産加工品の製造方法(以下、本明細書にて「本発明の製造方法」ということがある)を提供する。
本発明の製造方法は、上記した本発明の改質剤を接触させた水産物を加工することを含む。
【0032】
水産物および水産物に接触させる本発明の水産加工品の改質剤、ならびに該改質剤を水産物と接触させる方法および条件については、本発明の改質剤および本発明の改質方法において上記した通りである。
本発明の製造方法において、「加工」とは、本発明の改質剤にて上記したような水産加工品の製造に際して通常採用される加工手段をいい、特に限定されないが、たとえば、細切、細断、粉砕、擂潰、塩漬け、調味、混練、成形、加熱(煮る、蒸す、焼く、燻す、揚げる等)、乾燥(天日乾燥、機械乾燥等)等が挙げられる。かかる加工は、水産加工品の種類に応じて、通常行われる方法および条件にて行うことができる。
【0033】
本発明の製造方法は、水産加工品の製造において、加工の前または後に通常行われる他の工程を含むことができる。かかる工程としては、たとえば、原料となる水産物の選別、洗浄、殺菌、保存(冷蔵、冷凍)、冷却、容器、袋体、缶等への充填、密封、包装等が挙げられ、通常の方法および条件にて行うことができる。
【0034】
本発明の製造方法により、品質が改善されまたは向上した水産加工品を提供することができ、また、歩留まりが改善されまたは向上した水産加工品を提供することができる。
具体的には、本発明の製造方法により、魚卵の粒感のような特徴的な食感、たとえば粒の張り(弾力性)の強さ、粒の強さ、粒子感の強さ等が改善されまたは向上した魚卵加工品や、弾力性や特徴的な食感(硬さ、しなやかさ、弾力の強さ等)が改善されまたは向上した魚肉練り製品を提供することができる。
それゆえ、本発明の製造方法により、ガム子等、未成熟な魚卵や、魚卵の冷凍品を魚卵加工品の原料として用いた場合や、冷凍魚肉のすり身等の品質の低下した原料を水産練り製品の原料として用いた場合においても、満足できる品質の魚卵加工品や水産練り製品を提供することができる。
また、魚卵加工品や水産練り製品における製造効率が改善されまたは向上し、製造コストが低減され得る。
本発明の製造方法は、魚卵加工品および水産練り製品の製造に好適に適用することができ、魚卵加工品および魚肉練り製品の製造に特に好適に適用することができる。
【実施例0035】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0036】
[実施例1、比較例1]魚卵加工品用改質剤
トランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製)および発酵により生産されたL-乳酸カルシウム(以下、「発酵L-乳酸カルシウム」と表記することがある)を、前記L-乳酸カルシウム1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が86.6Uとなるように混合して、粉末状の魚卵加工品用改質剤(実施例1)を調製した。
また、トランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製)およびDL-乳酸カルシウム(化学合成品)を、前記DL-乳酸カルシウム1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が153.3Uとなるように混合して、粉末状の魚卵加工品用改質剤(比較例1)を調製した。
【0037】
[実施例2~5、比較例2~5]魚卵加工品(明太子)の改質および製造
魚卵として、冷凍たらこ(米国産)(魚卵グレード:真子またはガム子)(魚卵サイズ:M)を解凍し、不良品(片腹、破れ、卵管の大きい物等)を取り除き、1kgずつ小分けして洗浄液にて洗浄した後、ザルに入れて静置し、液切りした。
小分けし、液切りした各グレードの魚卵を真空袋に入れ、前記魚卵に対し60重量%の塩漬け液と、実施例1および比較例1の各改質剤を、それぞれ魚卵100gに対するトランスグルタミナーゼ、DL-乳酸カルシウムおよび発酵L-乳酸カルシウムの各添加量が、それぞれ表4に示す量となるように添加して、20℃にて18時間、ときどき反転させながら浸漬処理した。
次いで、塩漬け液を除去し、1.5重量%食塩水にて軽くすすぎ、ザルに濾して3時間静置し、液切りした後、塩漬け処理した魚卵に対し30重量%の調味液に浸漬し、20℃で二晩静置した。ザルに濾して3時間静置し液切りして、明太子とし、冷凍保存した(実施例2~5、比較例2~5)。
上記にて使用した洗浄液、塩漬け液および調味液の組成については、表1~3に示した。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
[試験例1]改質処理が魚卵加工品の歩留まりに及ぼす影響の評価
上記した実施例2~5および比較例2~5にてそれぞれ製造した明太子について、小分けし洗浄して液切りした後、および塩漬け処理後洗浄し液切りした後の魚卵の重量と、最終的に製造された明太子の重量を測定し、最終歩留まりを算出した。
なお、各グレードの魚卵に対して、実施例および比較例の改質剤のいずれも添加せずに同様に処理して明太子を調製し、対照とした。
結果を表4に示した。
【0042】
【0043】
表4中、比較例2、3の改質および製造方法でそれぞれ得られた明太子の最終歩留まりと、実施例2の改質および製造方法で得られた明太子の最終歩留まりを比較すると、真子グレードの魚卵を用いた場合、実施例1の改質剤を塩漬け液に添加して改質し製造することにより、少ないトランスグルタミナーゼおよび発酵L-乳酸カルシウム添加量(魚卵100gに対しそれぞれ8.05Uおよび0.093g)にて良好な歩留まりが得られることが示された。
また、比較例4、5の改質および製造方法でそれぞれ得られた明太子の最終歩留まりと、実施例4、5の改質および製造方法でそれぞれ得られた明太子の最終歩留まりを比較すると、未成熟なガム子グレードの魚卵を用いた場合には、実施例1の改質剤を塩漬け液に添加して改質し製造することにより、最終的に得られる歩留まりが良好に改善されることが示された。
【0044】
試験例1の上記結果から、魚卵に本発明の改質剤を添加して接触させることにより、少量のトランスグルタミナーゼおよび発酵L-乳酸カルシウムにて、明太子の製造における歩留まりを向上させ得ることが示唆された。
本発明によるかかる歩留まりの向上効果は、未成熟なガム子グレードの魚卵を用いた場合においても認められ、魚卵加工品の製造原料として、高品質な魚卵が得られない場合においても、魚卵加工品の製造における歩留まりを向上させる上で、本発明が有用であることが示唆された。
【0045】
[試験例2]改質処理が魚卵加工品の食感に及ぼす影響の評価
真子グレードおよびガム子グレードの各グレードの魚卵を用い、上記した実施例2、4でそれぞれ改質および製造された明太子(すなわち、実施例1の改質剤を各グレードの魚卵100gに対し、それぞれトランスグルタミナーゼ量にして8.05U、発酵L-乳酸カルシウム量にして0.093g添加して改質および製造した明太子)ならびに、比較例2、4でそれぞれ改質および製造された明太子(すなわち、比較例1の改質剤を各グレードの魚卵100gに対し、それぞれトランスグルタミナーゼ量にして11.5U、DL-乳酸カルシウム量にして0.075g添加して改質および製造した明太子)について、専門パネリスト6名により、下記の通り、明太子の特徴的な食感および嗜好性の官能評価を行った。
【0046】
(1)明太子の特徴的な食感の評価
明太子の特徴的な食感として、下記に定義する明太子の粒の張りの強さ、粒の硬さおよび粒子感の強さについて、実施例および比較例の改質剤のいずれも添加せずに製造した対照の明太子を5点とし、下記評価基準に従い、プラスマイナス5点の計11段階にて評価させた。
<定義>
粒の張りの強さ:粒が一つ一つ大きく、膨らみがある状態(球形に近い状態)、また、表面にシワが無くぶよぶよしていない状態をいう。
粒の硬さ:粒一つ一つの卵膜表面の硬さをいう。粒の硬さが強く感じられるほど、咀嚼した際の反発力があり、弾けるような状態である。
粒子感の強さ:張りの強さと粒の硬さの相乗的な要素であり、表面がある程度硬いが、中が水っぽくなくプチッとはじける状態をいう。
<評価基準>
対照に比べて顕著に強く感じる ;10点
対照に比べて強く感じる ;9点
対照に比べてかなり強く感じる ;8点
対照に比べてやや強く感じる ;7点
対照に比べてわずかに強く感じる;6点
対照と同程度であると感じる ;5点
対照に比べてわずかに弱く感じる;4点
対照に比べてやや弱く感じる ;3点
対照に比べてかなり弱く感じる ;2点
対照に比べて弱く感じる ;1点
対照に比べて顕著に弱く感じる ;0点
【0047】
(2)嗜好性の評価
明太子の嗜好性として、明太子としての好ましさ、すなわち明太子を喫食した際の主観的な好ましさについて、下記評価基準に従って、10段階にて評価させた。
<評価基準>
非常に好ましい ;10点
好ましい ;9点
かなり好ましい ;8点
やや好ましい ;7点
わずかに好ましい ;6点
どちらともいえない ;5点
わずかに好ましくない;4点
やや好ましくない ;3点
好ましくない ;2点
非常に好ましくない ;1点
【0048】
官能評価結果は、各評価項目について、6名の評価点の平均値を算出し、表5に示した。
【0049】
また、明太子の製造において用いた塩漬け液に対する実施例1および比較例1の各改質剤の溶解性についても、下記の評価基準により評価した。
<改質剤の溶解性の評価基準>
不溶物は認められず、塩漬け液に濁りは見られない ;〇
不溶物が認められ、塩漬け液に濁りが見られる ;△
不溶物が顕著に認められ、塩漬け液に顕著な濁りが認められる;×
溶解性についての評価結果は、表5に併せて示した。
【0050】
【0051】
表5に示されるように、明太子の改質処理および製造において用いる塩漬け液に対する実施例1の改質剤の溶解性は、比較例1の改質剤に比べて良好であった。
また、真子グレードの魚卵を用い、上記実施例2で改質および製造された明太子(すなわち、実施例1の改質剤を添加して改質および製造された明太子)は、上記比較例2で改質および製造された明太子(すなわち、比較例1の改質剤を添加して改質および製造された明太子)に比べて、明太子の特徴的な食感(明太子の粒の張りの強さ、粒の硬さおよび粒子感の強さ)が向上したと評価され、明太子としてより好ましいと評価された。
未成熟なガム子グレードの魚卵を用い、上記比較例4で改質および製造された明太子(すなわち、比較例1の改質剤を添加して改質および製造された明太子)では、明太子の特徴的な食感は対照に比べてあまり向上せず、嗜好性についても低評価であった。これに対し、上記実施例4で改質および製造された明太子(すなわち、実施例1の改質剤を添加して改質および製造された明太子)では、明太子の特徴的な食感の大幅な向上と、嗜好性評価の向上が認められた。
【0052】
試験例2の上記結果から、本発明の改質剤は、魚卵100gに対しトランスグルタミナーゼ活性にして8.05U、発酵L-乳酸カルシウム量にして0.093gという少量にて添加して接触させることにより、明太子の特徴的な食感および嗜好性を向上させ得ることが示唆された。
また、未成熟なガム子グレードの魚卵を用いた場合においても、本発明の改質剤による上記向上効果が認められ、魚卵加工品の製造原料として、高品質な魚卵が得られない場合においても、良好な食感を有する魚卵加工品を得ることができる可能性が示唆された。
【0053】
[実施例6、比較例6]魚肉練り製品用改質剤
トランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製)および発酵L-乳酸カルシウムを、発酵L-乳酸カルシウム1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が86.6Uとなるように混合し、粉末状の魚肉練り製品用改質剤(実施例6)とした。
また、トランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製)およびDL-乳酸カルシウム(化学合成品)を、DL-乳酸カルシウム1gに対するトランスグルタミナーゼ活性が86.6Uとなるように混合し、粉末状の魚肉練り製品用改質剤(比較例6)とした。
【0054】
[実施例7、8、比較例7、8]魚肉練り製品(かまぼこ)の改質および製造
表6に示す原料のうち、解砕後常温で30分間解凍したスケソウタラすり身をステファンカッターにて、-1℃になるまで攪拌し、表6に示す量の食塩と、表6に示す氷水の半量を加えて、2℃~3℃になるまで攪拌した。次いで、表6に示す他の原料と、残りの氷水を加えて混合し、実施例6の魚肉練り製品用改質剤および比較例6の魚肉練り製品用改質剤を、それぞれ前記原料100gに対し、0.1gまたは0.2g添加し、さらに8℃~9℃になるまで攪拌した。前記の各原料を絞り袋に充填して脱気し、絞り出して成形し、蒸し機にて38℃で20分間加温した後85℃で20分間加熱し、氷水にて冷却して、かまぼこを製造した。
なお、対照として、実施例6および比較例6の魚肉練り製品用改質剤のいずれも添加せずに同様にかまぼこを製造した。
【0055】
【0056】
[試験例3]改質が魚肉練り製品の食感に及ぼす影響の検討
上記実施例7、8および比較例7、8で改質され、製造されたかまぼこを専門パネリスト5名に喫食させ、かまぼこの食感(硬さ、しなやかさおよび弾力の強さ)について、下記評価基準に従い、対照のかまぼこと比較して評価させ、5名の評価点の平均値を算出し、表7および
図1に示した。
<評価基準>
対照に比べて顕著に強く感じる ;10点
対照に比べて強く感じる ;9点
対照に比べてかなり強く感じる ;8点
対照に比べてやや強く感じる ;7点
対照に比べてわずかに強く感じる;6点
対照と同程度であると感じる ;5点
対照に比べてわずかに弱く感じる;4点
対照に比べてやや弱く感じる ;3点
対照に比べてかなり弱く感じる ;2点
対照に比べて弱く感じる ;1点
対照に比べて顕著に弱く感じる ;0点
【0057】
【0058】
表7および
図1に示されるように、実施例7、8および比較例7、8の魚肉練り製品用改質剤を添加して改質され、製造されたかまぼこでは、対照のかまぼこに比べて、かまぼこの食感(硬さ、しなやかさおよび弾力の強さ)の向上が見られた。
しかし、実施例6の魚肉練り製品用改質剤を、かまぼこ用原料100gに対し0.1g(魚肉100gあたりのトランスグルタミナーゼ添加量=14.12U、発酵L-乳酸カルシウム添加量=0.163g)および0.2g(魚肉100gあたりのトランスグルタミナーゼ添加量=28.25U、発酵L-乳酸カルシウム添加量=0.326g)それぞれ添加して改質され、製造されたかまぼこ(実施例7、8)では、比較例6の魚肉練り製品用改質剤を、かまぼこ用原料100gに対し0.1gおよび0.2gそれぞれ添加して製造され、改質されたかまぼこ(比較例7、8)に比べて、かまぼこの硬さ、しなやかさおよび弾力の強さがより向上したことが認められた。
なお、上記したように、かまぼこの食感の向上効果は、実施例6の魚肉練り製品用改質剤をかまぼこ用原料100gに対し0.1g添加した場合に、より顕著に認められ、本発明の改質剤がより少量の添加で有効であることが示唆された。
【0059】
[試験例4]改質が魚肉練り製品の物性に及ぼす影響の検討
上記実施例7、8および比較例7、8で改質され、製造された各かまぼこについて、高さ3cmの円柱型の試料を調製し(n=8)、テクスチャーアナライザー(「TA.XT plus」、英弘精機株式会社製)を用い、0.5mm/秒にて1cm圧縮、プランジャー;球形、直径=5mmの測定条件下で破断強度および凹み(破断距離)を測定した。
測定結果を表8および
図2に示した。
【0060】
【0061】
表8および
図2に示されるように、実施例7および8で改質され、製造されたかまぼこでは、それぞれ比較例7および8で改質され、製造されたかまぼこに比べて、破断強度および凹みがともに高い値を示し、実施例6の魚肉練り製品用改質剤を添加して改質され、製造されたかまぼこの方が、弾力性(しなやかさ)が強いことが示唆された。
【0062】
[実施例9、10、比較例9、10]魚肉練り製品(揚げかまぼこ)の改質および製造
表9に示す原料のうち、解砕後常温で30分間解凍したスケソウタラすり身をステファンカッターにて、-1.5℃になるまで攪拌し、表9に示す量の食塩を加えて、4℃になるまで攪拌した。次いで、表9に示す他の原料と氷水を加えて混合し、15℃になるまで攪拌した。前記原料を小分けして、実施例6の魚肉練り製品用改質剤および比較例6の魚肉練り製品用改質剤を、それぞれ前記原料100gに対し、0.1gまたは0.2g添加し、2分間混合した。次に、成形型を用いて約30gずつ小判型に成形し、145℃で90秒間および160℃で90秒間、それぞれ45秒ごとに裏返しながら、油ちょうし、放冷した後冷凍保存した。
【0063】
【0064】
[試験例5]改質が魚肉練り製品の食感に及ぼす影響の検討
上記実施例9、10および比較例9、10で改質され、製造された揚げかまぼこを流水解凍により解凍後、専門パネリスト7名に喫食させ、揚げかまぼこの食感(硬さ、しなやかさおよび弾力の強さ)について、試験例3で述べた評価基準に従い、対照の揚げかまぼこと比較して評価させ、7名の評価点の平均値を算出し、表10および
図3に示した。
【0065】
【0066】
表10および
図3に示されるように、実施例9、10および比較例9、10の各魚肉練り製品用改質剤を添加して改質され、製造された揚げかまぼこでは、対照に比べて揚げかまぼこの食感(硬さ、しなやかさおよび弾力の強さ)の向上が見られた。
しかし、実施例6の魚肉練り製品用改質剤を、揚げかまぼこ用原料100gに対し0.1g(魚肉100gあたりのトランスグルタミナーゼ添加量=17.89U、発酵L-乳酸カルシウム添加量=0.207g)添加して改質され、製造された実施例9の揚げかまぼこでは、比較例6の魚肉練り製品用改質剤を、揚げかまぼこ用原料100gに対し0.1g添加して改質され、製造された比較例9の揚げかまぼこに比べて、しなやかさおよび弾力の強さがより強く感じられた。
また、実施例6の魚肉練り製品用改質剤を、揚げかまぼこ用原料100gに対し0.2g(魚肉100gあたりのトランスグルタミナーゼ添加量=35.78U、発酵L-乳酸カルシウム添加量=0.413g)添加して改質され、製造された実施例10の揚げかまぼこでは、比較例6の魚肉練り製品用改質剤を、揚げかまぼこ用原料100gに対し0.2g添加して改質され、製造された比較例10の揚げかまぼこに比べて、しなやかさはわずかに強く感じられた程度であったが、硬さおよび弾力の強さは、より強く感じられた。
【0067】
試験例3~5の上記結果から、本発明の改質剤は、魚肉100gに対し、トランスグルタミナーゼ活性にして14.12U~35.78U、発酵L-乳酸カルシウム量にて0.163g~0.413gという少量にて添加して接触させることにより、魚肉練り製品の特徴的な食感を向上させ得ることが示唆された。
また、新鮮な魚肉すり身でなく、冷凍保存された魚肉すり身を用いた場合においても、本発明の改質剤の添加により、魚肉練り製品の食感の良好な向上が認められ、冷凍魚肉のすり身等、品質の低下した魚肉を原料として用いた場合にも、食感の良好な魚肉練り製品を得ることができる可能性が示唆された。