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特開2022-132201表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品
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  • 特開-表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132201
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20220831BHJP
   D06M 15/03 20060101ALI20220831BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20220831BHJP
【FI】
C08B15/00
D06M15/03
C08B37/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028732
(22)【出願日】2022-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2021031258
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
(71)【出願人】
【識別番号】505218801
【氏名又は名称】学校法人渡辺学園
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】荒木 潤
(72)【発明者】
【氏名】濱田 仁美
(72)【発明者】
【氏名】白井 菜月
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 敏子
【テーマコード(参考)】
4C090
4L033
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA34
4C090BA46
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB18
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB53
4C090BB84
4C090BC10
4C090BD19
4C090BD36
4C090CA34
4C090DA05
4L033AB05
4L033AC10
4L033CA02
4L033CA03
(57)【要約】
【課題】布等の力学物性の低下を抑制しつつ機能性を付加することができる表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品を提供する。
【解決手段】引力相互作用により物品に吸着させて該物品に機能性を付加する多糖類ナノ材料であって、前記多糖類ナノ材料は、前記機能性を発現する官能基を表面に有し、平均径が2nm以上100nm以下の範囲内で、平均長が50nm以上1000nm以下の範囲内であるように構成して上記課題を解決した。多糖類はセルロース、キチン及びキトサンから選ばれ、多糖類ナノ材料としては、セルロースナノクリスタル又はキチンナノクリスタルが好ましく、セルロースナノクリスタルがさらに好ましい。官能基は0.01mmol/g以上2mmol/g以下の範囲内で修飾されていることが好ましい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引力相互作用により物品に吸着させて該物品に機能性を付加する多糖類ナノ材料であって、前記多糖類ナノ材料は、前記機能性を発現する官能基を表面に有し、平均径が2nm以上、100nm以下の範囲内で、平均長が50nm以上、1000nm以下の範囲内である、ことを特徴とする表面修飾多糖類ナノ材料。
【請求項2】
前記多糖類ナノ材料が、セルロースナノクリスタル又はキチンナノクリスタルである、請求項1に記載の表面修飾多糖類ナノ材料。
【請求項3】
前記多糖類ナノ材料が、前記物品に複数の機能を同時に付与する、請求項1又は2に記載の表面修飾多糖類ナノ材料。
【請求項4】
前記官能基が、0.01mmol/g以上、2mmol/g以下の範囲内で、前記多糖類ナノ材料の表面に修飾されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面修飾多糖類ナノ材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面修飾多糖類ナノ材料が溶媒に分散している、ことを特徴とする分散液。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面修飾多糖類ナノ材料が引力相互作用により物品に吸着している、ことを特徴とする機能性物品。
【請求項7】
前記物品に吸着する前記表面修飾多糖類ナノ材料を該物品から脱離させた後に、未使用の新しい表面修飾多糖類ナノ材料を前記と同じ物品に吸着させてなる、請求項6に記載の機能性物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品に関し、さらに詳しくは、官能基で修飾した多糖類ナノ材料を布等に吸着させることで布等の力学物性の低下を抑制しつつ機能性を付加することができる表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
布等の繊維製品を選択的に化学的に改質する検討が行われている。一例として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(「TEMPO」と略す。)を触媒的酸化剤として酸化(「TEMPO酸化」と略す。)に適用した例がある。こうしたTEMPO酸化について、綿布の化学的改質が検討されている(非特許文献1を参照)。この検討では、TEMPO酸化によりセルロース中の1級ヒドロキシ基がカルボキシ基に酸化されたことが確認されたが、TEMPO酸化した後の綿布の強度が低下した。
【0003】
また、TEMPO酸化の手法によりカルボキシ基を導入したセルロースは、アンモニア等の塩基性悪臭物質と中和反応し、消臭性能を発揮することが報告されている(非特許文献2を参照)。しかし、布を直接TEMPO酸化した場合、力学物性の低下を引き起こすという欠点が報告されている(非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】梢、鈴木、長谷川、宮本、石、飯近、Sen’i Gakkaishi 2009, 65, 146-149.
【非特許文献2】Yui,Y.; Tanaka,C.; Isogai,A., Sen’i Gakkaishi 2013, 69, 222-228.
【非特許文献3】白井、飯塚、濱田、J.Fiber Sci. Tech. 2016, 72, 227-230.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然繊維布の改質は数多く試みられているが、天然繊維布(綿、麻等)への消臭や抗菌等の機能性付与は、布に直接化学修飾処理や染色加工を行うため、官能基を導入した際に布地が傷み、ごわつき、変色し、布の強度低下や外観変化を伴っていた。布を傷めずに官能基を導入し、消臭や抗菌性能を得る手法はこれまで知られていない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、布等の力学物性の低下を抑制しつつ機能性を付加することができる表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料は、引力相互作用により物品に吸着させて該物品に機能性を付加する多糖類ナノ材料であって、前記多糖類ナノ材料は、前記機能性を発現する官能基を表面に有し、平均径が2nm以上、100nm以下の範囲内で、平均長が50nm以上、1000nm以下の範囲内である、ことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、機能性を発現する官能基を表面に有するので、引力相互作用により物品に吸着させることで、物品表面を直接官能基で修飾することによる物品の力学物性の低下を抑制することができる。その結果、物品の力学物性の低下を防ぎながら官能基が持つ機能性を付与することができる。表面修飾多糖類ナノ材料の平均径と平均長が上記範囲内なので、物品自体が備える力学物性の程度を大きく変化させることがなく、物品の特徴を維持しつつ機能性を持たせることができる。
【0009】
本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料において、前記多糖類はセルロース、キチン、デンプン又はキトサンであり、前記多糖類ナノ材料はセルロースナノクリスタル又はキチンナノクリスタルが好ましく、セルロースナノクリスタルがさらに好ましい。
【0010】
本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料において、前記多糖類ナノ材料が、前記物品に複数の機能を同時に付与する。この発明によれば、例えば後述の実験3のように、複数の機能(着色性、消臭性等)を同時に付与することができる。
【0011】
本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料において、前記官能基が、0.01mmol/g以上、2mmol/g以下の範囲内で前記多糖類ナノ材料の表面に修飾されていることが好ましい。
【0012】
(2)本発明に係る分散液は、上記本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料が溶媒に分散している、ことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、表面修飾多糖類ナノ材料が分散する分散液を布等の物品に接触、塗布、印刷又は含浸等させることにより、物品に容易に吸着させることができ、機能性を付与することができる。
【0014】
(3)本発明に係る機能性物品は、上記本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料が引力相互作用により物品に吸着している、ことを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、表面修飾多糖類ナノ材料が布等の物品に引力相互作用で吸着しているので、物品表面を直接官能基で修飾した場合に比べて、物品の力学物性の低下を抑制しつつ機能性を付加することができる。
【0016】
本発明に係る機能性物品において、前記物品に吸着する前記表面修飾多糖類ナノ材料を該物品から脱離させた後に、未使用の新しい表面修飾多糖類ナノ材料を前記と同じ物品に吸着させてなる。
【0017】
表面修飾多糖類ナノ材料布等の物品に引力相互作用で吸着しているので、その脱離も可能である。この発明によれば、表面修飾多糖類ナノ材料を物品から脱離させた後、未使用の新しい表面修飾多糖類ナノ材料を同じ物品に吸着させてなるので、機能性を再生させることができる。その結果、物品を再利用して繰り返し使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、布等の力学物性の低下を抑制しつつ機能性を付加することができる表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は、悪臭物質捕捉官能基を表面修飾した表面修飾多糖類ナノ材料の例を示す模式図であり、(B)は、綿布を例にして引力相互作用で吸着させた表面修飾多糖類ナノ材料が悪臭物質を捕捉する例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料、その分散液及び機能性物品について説明する。本発明は、本願記載の要旨を含む限り以下の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々態様に変形や応用が可能である。
【0021】
[表面修飾多糖類ナノ材料]
本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料は、引力相互作用により物品に吸着させて該物品に機能性を付加する多糖類ナノ材料であって、前記多糖類ナノ材料は、前記機能性を発現する官能基を表面に有し、平均径が2nm以上100nm以下の範囲内で、平均長が50nm以上1000nm以下の範囲内である、ことに特徴がある。
【0022】
この表面修飾多糖類ナノ材料は、機能性を発現する官能基を表面に有するので、引力相互作用により物品に吸着させることで、例えば従来のTEMPO酸化処理のような物品表面を直接官能基で修飾することによる物品の力学物性の低下が生じるのを抑制することができる。その結果、物品の力学物性の低下を防ぎながら官能基が持つ機能性を付与することができる。表面修飾多糖類ナノ材料の平均径と平均長が上記範囲内なので、物品自体が備える力学物性の程度を大きく変化させることがなく、物品の特徴を維持しつつ機能性を持たせることができる。
【0023】
各構成要素を詳しく説明する。
【0024】
(多糖類ナノ材料)
多糖類ナノ材料において、多糖類はセルロース、キチン、デンプン又はキトサンを挙げることができる。多糖類ナノ材料は、表面修飾された後の多糖類ナノ材料の平均径(直径の平均)が2nm以上100nm以下の範囲内で、平均長が50nm以上1000nm以下の範囲内となるものであることが好ましい。表面修飾の前後で多糖類ナノ材料の大きさは変わらないので、本発明で適用する多糖類ナノ材料の大きさは、上記した表面修飾多糖類ナノ材料の大きさと同様、平均径が2nm以上100nm以下の範囲内で、平均長が50nm以上1000nm以下の範囲内であることが好ましい。多糖類ナノ材料の平均径と平均長をこの範囲内とすることにより、同様の平均径と平均長となる表面修飾多糖類ナノ材料が、物品に引力相互作用で吸着した場合であっても、物品自体が備える力学物性の程度を大きく変化させることがなく、物品の風合いを維持することができる。
【0025】
多糖類ナノ材料には、セルロースナノファイバー(CNF)も意味内容として含まれるが、セルロースナノファイバーは平均長が5μm以上であり、上記した多糖類ナノ材料の平均長とは大きく相違する。仮にそうした長いセルロースナノファイバーを表面修飾して布等の物品に引力相互作用で吸着させた場合、布等の物品が備える力学物性が大きく異なるものになってしまい、物品自体が備える風合いを変化させてしまう。
【0026】
平均径と平均長は、FE-SEM等の高分解能の走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等で拡大して測定される。「平均」としたのは、極端に太いものや細いものが含まれたり、極端に長いものや短いものが含まれたりする場合を考慮したためである。多糖類ナノ材料の断面形態は、円形状、角形状、異形形状等であってもよく、拡大した状態で見える「幅」と「長さ」を「径」と「長さ」として測定し、n=30以上の平均値で平均径と平均長を評価した。
【0027】
上記平均径と平均長を持つ多糖類ナノ材料には、セルロースナノクリスタル(「CNC」と略す。)とキチンナノクリスタル(「ChNC」と略す。)が含まれ、これらを好ましく挙げることができ、CNCがさらに好ましい。CNCは、セルロースナノウイスカー(「CNW」と略す。)と言われることもある。上記したように、CNCとChNCの平均長は50~1000nmの範囲であるのに対し、CNFの平均長は一般的には5μm以上であり、両者には大きな差がある。CNFは平均長が5μm以上と長く、布等を構成する繊維等に絡んで物品自体が備える力学物性の程度を大きく変化させてしまうことがあるが、上記平均長のCNCとChNCは絡むことがなく、物品自体が備える力学物性の程度を変化させず、物品の風合いを維持することができるので好ましく適用できる。なお、CNCは、本発明者らが開発したもの(Araki,J.; Wada,M.; Kuga,S., Langmuir 2001, 17, 21-27.)であり、低比重、無色透明、高活性、低環境負荷、高硬度、低熱膨張率の結晶性微粒子である。本願では、以下、CNCとChNCを含めてCNC(セルロースナノクリスタル)として説明している。
【0028】
こうした多糖類ナノ材料の表面を官能基で修飾した表面修飾多糖類ナノ材料は本発明の作用効果を奏するが、同様の作用効果(表面修飾して布等の物品に引力相互作用で吸着させた場合、布等の物品が備える力学物性が大きく異ならない)を奏するために構成要素が規制されたものであれば、他の多糖類ナノ材料であってもよい。例えば、デンプン、グリコーゲン、ペクチン等をサイズ要素を規制すること等により採用できる。
【0029】
(官能基)
官能基は、多糖類ナノ材料の表面を修飾して表面修飾多糖類ナノ材料を構成する。官能基は、その種類に応じて様々な機能性を発現するよう作用する。例えば、多糖類ナノ材料に、悪臭物質と結合する官能基、又は悪臭物質を酸化分解可能な金属イオンを担持できる官能基を導入することで、消臭性能や抗菌性能を付与することができる。具体的には、多糖類ナノ材料の表面に酸性のカルボキシ基や塩基性のアミノ基を導入することで、それぞれ塩基性悪臭物質(アンモニア等)や酸性悪臭物質(酢酸等)との対イオン形成による消臭効果を付与することができる。また、これらの官能基に、静電的に銅や銀等の金属を担持すれば、酸化分解作用による相乗的な消臭性能及び抗菌性能の向上を発揮させることができる。なお、キチンはポリ-β1-4-N-アセチルグルコサミンであり、市販のキチンはカニ等の甲殻類の殻を酸及びアルカリ処理することにより調製されている。この精製過程でN-アセチルグルコサミンの一部のアセトアミド基が脱アセチル化され、遊離のアミノ基に変換されている。したがって、市販のキチンから調製されるキチンナノクリスタルをそのまま表面修飾多糖類ナノ材料として使用することもできる。さらに、アルカリ処理を追加で行うことにより、アミノ基の割合を増したキチンナノクリスタルを調製することもできる。
【0030】
官能基としては、上記したカルボキシ基や塩基性のアミノ基(二級アミノ基、三級アミノ基を含む。)のほか、メルカプト基(-SH)、イソシアネート基(-NCO)、イソチオシアネート基(-NCS)、硫酸エステル基(-OSOH)、リン酸エステル基(-OPO)、アジド基(-N)、ニトロ基(-NO)等を挙げることができる。こうした官能基がそれぞれ特有の機能性を発揮することにより、物品に機能性を持たせることができる。種々の機能性については特に限定されないが、例えば可視光を吸収又は蛍光を発光する官能基等の適用も可能である。すなわち、CNCに反応性染料を反応させ、CNCのヒドロキシ基等に特定の波長の光を吸収する化合物と共有結合を形成して染料分子を結合することもできる。また、官能基によっては、上記のように金属を担持できるものもあるので、その目的に応じて金属等の物質を担持して特有の機能を付加することもできる。
【0031】
多糖類ナノ材料は大きな比表面積を有するので、多くの官能基を修飾することができる。そうした官能基の修飾量は、官能基の種類や機能性の程度によっても異なるが、0.01mmol/g以上、2mmol/g以下の範囲内で多糖類ナノ材料の表面に修飾されていることが好ましく、0.1mmol/g以上、1.8mmol/g以下の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
なお、表面修飾多糖類ナノ材料は、特定の官能基で修飾した単一材料であってもよいし、特定の官能基で修飾したものと他の特定の官能基で修飾したものとを複合した複合材料であってもよい。また、多糖類ナノ材料の表面に複数の官能基を修飾した複合機能型の単一材料であってもよい。このように応用することで、多機能性を備えた表面修飾多糖類ナノ材料とすることができ、様々な応用に期待できる。
【0033】
(物品)
表面修飾多糖類ナノ材料は、物品に引力相互作用により吸着する。引力相互作用は、水素結合等による吸着形態や静電相互作用による吸着形態を挙げることができる。引力相互作用については、多糖類ナノ材料に存在するヒドロキシ基による分極したOH結合と機能性物品に存在する酸素ローンペアとが水素結合する態様等、水素結合受容体となる官能基と水素結合供与体となる官能基の両方が存在すれば、引力相互作用で吸着する。静電相互作用は、反対の電荷を持つ2つの完全又は部分的にイオン化された種間の引力であり、-SOH、-COOH基、-NH基等を有する多糖類ナノ材料又はそれらの基を導入して含有させた多糖類ナノ材料を電離させて担当する電荷の官能基を物品に導入させることで、引力相互作用で吸着する。なお、物品に吸着して本発明の効果を実現できるものであれば、水素結合以外にも、van der Waals力、双極子相互作用、π-π相互作用、イオン性相互作用等で吸着したものであってもよい。引力相互作用の吸着形態は、上記のように、多糖類ナノ材料の表面に存在する官能基の同定と、物品表面状態の同定とにより推認することができる。また、その吸着の強さは、表面修飾多糖類ナノ材料の脱離性とも関係するので、表面修飾多糖類ナノ材料を吸着させる物品の使途を踏まえて調整することが望ましい。
【0034】
物品としては、後述の実験例では綿布等の布(織物)を代表例として説明しているが、表面修飾多糖類ナノ材料が引力相互作用により吸着することができるものであれば特に限定されず、各種の布製品(織物、編物、複合布、不織布等)に適用できるし、布以外の木材、プラスチック、紙、フィルム等にも適用可能である。
【0035】
[分散液]
本発明に係る分散液は、上記した本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料が水等の溶媒に分散している懸濁液である。この分散液を物品に接触、塗布、印刷又は含浸等の手段で吸着させることにより、物品に容易に吸着させることができ、機能性を付与することができる。表面修飾多糖類ナノ材料を物品に吸着させることができれば、上記以外の手段で吸着させてもよい。なお、塗布、含侵等の吸着の方法の違いに応じて公知の粘度調整剤を添加することもできる。
【0036】
表面修飾多糖類ナノ材料は、多糖類由来のヒドロキシ基を有するので、水溶媒への相溶性がよく、水分散性に優れる。また、有機溶媒の種類によっては、有機溶媒にも分散させることも可能である。分散量としては、表面修飾多糖類ナノ材料を物品にどの程度吸着させて、物品に効果的な機能性を発現させるかでその分散量を設定することが好ましい。分散液は、表面修飾多糖類ナノ材料だけが含まれていてもよいし、本発明の効果を阻害しないものであればそれ以外のものが含まれていてもよい。
【0037】
図1(A)は、悪臭物質捕捉官能基を表面修飾した表面修飾多糖類ナノ材料の例を示す模式図であり、図1(B)は、綿布を例にして引力相互作用で吸着させた表面修飾多糖類ナノ材料が悪臭物質を捕捉する例を示す模式図である。図1(B)に示すように、表面修飾多糖類ナノ材料は、綿布に引力相互作用で吸着するので、布表面を官能基で表面修飾したものに比べ、力学物性が低下しにくいという利点があり、従来の問題を解決できる。
【0038】
[機能性物品]
本発明に係る機能性物品は、上記した本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料が引力相互作用により物品に吸着していることに特徴がある。こうした機能性物品は、表面修飾多糖類ナノ材料が布等の物品に引力相互作用で吸着しているので、物品表面を直接官能基で修飾した場合に比べて、物品の力学物性の低下を抑制しつつ機能性を付加することができる。
【0039】
こうした機能性物品に吸着した表面修飾多糖類ナノ材料は、引力相互作用により吸着しているので、物品に吸着する表面修飾多糖類ナノ材料をその物品から脱離させることも可能である。表面修飾多糖類ナノ材料を物品から脱離させた後においては、未使用の新しい表面修飾多糖類ナノ材料を同じ物品に吸着させることもできる。こうすることにより、物品の機能性を再生させることができ、物品を再利用して繰り返し使用することができる。
【0040】
例えば、消臭機能を付加した機能性物品が悪臭物質を捕捉した後に、悪臭物質を捕捉した表面修飾多糖類ナノ材料を洗濯や外部刺激を用いて容易に脱離することができれば、悪臭物質を速やかに放出することができる。そして、表面修飾多糖類ナノ材料が脱離した後の物品に、新しい表面修飾多糖類ナノ材料を吸着させることができる。
【0041】
機能性は、上記したように、官能基の種類やその官能基にさらに付加する金属等によって任意に発現させることができる。そのため、物品に応じた様々な機能を物品に付与可能な簡便で効率的な手法となる。例えば、色素分子や発光団を表面修飾した表面修飾多糖類ナノ材料とすれば、にじまず色落ちしにくい染色機能を付与することができるので、例えば後述の実験3の染料分子修飾酸化CNCのように、複数の機能(着色性、消臭性等)を同時に付与することができる。また、異なる機能を有する二種の修飾した表面修飾多糖類ナノ材料を塗り重ねれば、複数の悪臭に対する消臭性能を発揮することができる。
【0042】
また、上記のように、吸着した表面修飾多糖類ナノ材料を脱離させることが可能なので、捕捉された複数の悪臭物質を表面修飾多糖類ナノ材料ごと容易に洗い流すことができ、消臭性能や抗菌性能を繰り返し発揮できる新しい布製品の加工法となる。
【0043】
以上説明したように、本発明に係る表面修飾多糖類ナノ材料及びそれを含む分散液並びに得られた機能性物品は、機能性を発現する官能基を表面に有する表面修飾多糖類ナノ材料が引力相互作用により物品に吸着するので、例えば従来のTEMPO酸化処理のように物品表面を直接官能基で修飾することによる物品の力学物性の低下が生じるのを抑制することができる。その結果、物品の力学物性の低下を防ぎながら官能基が持つ機能性を付与することができる。表面修飾多糖類ナノ材料の平均径と平均長が上記範囲内なので、物品自体が備える力学物性の程度を大きく変化させることがなく、物品の特徴を維持しつつ機能性を持たせることができる。
【実施例0044】
以下の実験例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下に実験例のみに限定されるものではない。
【0045】
[実験1]
(CNCの調製)
本発明者が既に報告(Araki,J.; Wada,M.; Kuga,S., Langmuir 2001, 17, 21-27.)した方法に基づいてCNCを調製した。具体的には、先ず、市販の脱脂綿(Sコットン、スズラン株式会社製)50gに、煮沸した2.5mol/Lの塩酸500mLを加え、還流下、脱脂綿全体が十分に塩酸に浸漬するようにしつつ40分間煮沸して加水分解させた。加水分解の後、塩酸と同体積の脱イオン水を加えて反応を停止し、吸引ろ過を用いてろ液が中性になるまで脱イオン水によるろ過洗浄を行った。回収した白色固体に脱イオン水500mLを加え、ブレンダーを用いて30分間粉砕した。その後、遠心分離(3000rpm、5分間)を繰り返し行い、白濁した上澄みを回収した。この操作を上澄みが透明に近くなるまで繰り返し行った。得られた上澄み水を未酸化のCNC(「未酸化CNC」という。)を含む懸濁液として用いた。
【0046】
(酸化CNCの調製)
次に、TEMPO酸化したCNC(「酸化CNC」という。)を調製した。具体的には、先ず、上記で得られた未酸化CNC懸濁液(濃度約1%、500g)に0.2gのTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)と2gの臭化ナトリウムとを加えて溶解した。続いて、次亜塩素酸ナトリウムの固形分重量とCNCの固形分重量とが等しくなるよう計算して次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加した。3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の滴下により、系のpHを10~11の範囲内に保ちながら4時間攪拌した。エタノール5mLを加えて反応を停止し、2.5mol/Lの塩酸水溶液を添加して、系のpHを2以下にした。遠心分離(3000rpm、5分間)して沈殿物を0.1mol/Lの塩酸で繰り返し洗浄し、回収した。回収した白色固体を脱イオン水に対して3日間透析し、その表面がカルボキシ基(-COOH)で化学修飾された酸化CNCを含む酸化CNC懸濁液を得た。酸化CNCの大きさは、懸濁液を風乾して得たものを透過型電子顕微鏡により複数の視野領域を観察して測定した。各視野領域でのサイズは、平均径として測定される幅は5~10nmの範囲であり、平均長は100~200nmの範囲であった。
【0047】
(酸化CNCの布への吸着量とカルボキシ基含量)
先ず、酸化CNCを布に吸着させる前に、酸化CNC単独のカルボキシ基量を滴定法で定量した。滴定法は、本発明者が既に報告(Araki,J.; Wada,M.; Kuga,S., Langmuir 2001, 17, 21-27.)した導電率滴定手法で行った。具体的には、50mLの酸化CNC懸濁液(500mgの酸化CNCと1mmol/LのNaClを含む。)を、2mLの0.1mol/LのHClと混合した後、0.1mol/LのNaOHを0.1mL/分で添加して滴定し、得られた滴定曲線から酸化CNC単独のカルボキシ基量を求めた。求めた値は、1.29mmol/gであった。
【0048】
次に、酸化CNCの濃度が0.5質量%、1質量%、2質量%、3質量%の4種類の酸化CNC懸濁液を調製し、各懸濁液約100mLに綿白布(平織物、30cm×30cm)を5分間浸漬し、その後、ガラス棒で絞って一晩風乾し、酸化CNCが吸着した布(「酸化CNC布」という。)を得た。この酸化CNC布のカルボキシ基量を色素吸着法で定量した。色素吸着法は、具体的には、3cm×3cm(約0.1g)に裁断した酸化CNC布を容器に入れ、脱イオン水約25gを加え、TBO(トルイジンブルーO)溶液(5.0×10-4mol/L)を6mL加えた。さらに脱イオン水を追加して溶液の総重量を50gになるように調節し、蓋をして2時間振とうさせた。その後、試験管に残存溶液を0.9mLとり、脱イオン水を3.6mL加えて5倍希釈した。紫外可視吸光光度計を用いて希釈溶液の628nmにおける吸光度を測定して、残存TBOのモル数を算出した。この残存TBOモル数をTBO初期添加量から差し引くことにより、酸化CNC布上のみかけのカルボキシ基量を算出した。こうした色素吸着法で求めたカルボキシ基量を、上記滴定法で求めたCNC単独のカルボキシ基量で割ることによって、表1に示したように、酸化CNCの布への吸着量(mg/g)を求めた。比較として、未処理布及び未酸化CNC布についても同じ操作を行った。
【0049】
酸化CNC布の結果と、未処理布及び未酸化CNC布の結果とを比較したところ、酸化CNC布は、未処理布及び未酸化CNC布の約2.5~8倍のTBO分子が吸着していた。また、懸濁液中の酸化CNC濃度が増すほど、表1に示すように、布には多くのTBO分子が吸着した。この値から酸化CNCの布への吸着量を算出した結果、表1に示すように、懸濁液中の酸化CNC濃度が増すにしたがって、布への酸化CNCの吸着量が増加することがわかった。
【0050】
【表1】

【0051】
[アンモニアガス消臭試験]
(試験方法)
試料に供された酸化CNC布、未酸化CNC布及び未処理布について、それぞれ2つの試料を用いてアンモニアガス消臭性能を測定した。カウンタ付気体採取機(株式会社ガステック、GV-100S)を使用し、気体検知管は3Laと3M(株式会社ガステック)を用いた。200ppmのアンモニアガスの作製は以下の手順で行った。先ず、(1)真空状態にしたテドラーバッグにエアーを入れ、アンモニア水を適量入れ、(2)ドライヤーでテドラーバッグ内の空気を温め、アンモニアを気化させた後、テドラーバッグ内の空気を対流させて約1時間放置し、(3)約1時間後、気体検知管でテドラーバッグ内のアンモニア濃度を確認し、200ppmでない場合にはエアーやアンモニア水で濃度を調整し、(4)約2時間放置し、再度アンモニア濃度が200ppmであることを確認した。
【0052】
消臭測定については、以下の手順で行った。先ず、(a)20℃、65%RHの恒温恒湿室内で調湿した試料を裁断し、(b)2Lのテドラーバッグの切り口から試料0.5gを入れてテープで口をふさぎ、(c)テドラーバッグ内の空気を抜いて真空状態にし、(d)事前に作製したアンモニアガスを試料の入ったテドラーバッグに移し、(e)ガスを入れた瞬間を0分とし、時間毎にテドラーバッグ内の臭気を気体検知管で測定した。減少率は、「減少率(%)=((初期濃度(200ppm)-測定時の濃度)/初期濃度(200ppm))×100」で算出した。
【0053】
(試験結果)
表2は、1質量%の酸化CNC懸濁液で処理した酸化CNC布と、1質量%の未酸化CNC懸濁液で処理した未酸化CNC布と、未処理布に対して行った消臭試験(アンモニア濃度の減少率)の結果である。結果はそれぞれ2つの試料の平均を示した。未処理布は30分後のアンモニア減少率が約26%であったのに対し、酸化CNC布はアンモニア減少率が約76%という高い消臭性能を示した。表面修飾されたカルボキシ基のアンモニア吸着機能が布上で発揮されたことが確認できた。
【0054】
【表2】

【0055】
[力学物性]
試料に供した各布は、全ての測定前に、20℃、65%RHの恒温恒湿室で調湿してから測定に用いた。測定は、平均摩擦係数、圧縮率、曲げ剛性、曲げヒステリシスについては、KES風合い計測システムによる特性評価を行った。引張強さと伸び率については、引張試験機で特性評価を行った。なお、KES風合い計測システムは、感覚的な生地の風合いを計測するKES-Fシステムであり、力学物性から客観的風合い評価を試みた計測システムである(川端季雄、Sen’i Gakkaishi(繊維と工業)、1991、47、624-628.)。
【0056】
(平均摩擦係数)
平均摩擦係数(MIU)は、試験片の表面に接触子(摩擦子)を圧着させ、試験片を水平に滑らせることにより、布表面の粗さや摩擦係数を測定するもので、衣服の触り心地や着心地等に関係する。具体的には、各試料2枚ずつ用意し、1枚の布につきたて方向とよこ方向を2ヶ所ずつ測定し、平均をとった。摩擦感テスター(カトーテック株式会社、KES-SE)を用い、平滑な金属平面状に置いた試料を0.1cm/秒の一定速度で水平に2cm移動させながら測定した。接触子には、ピアノ線ワイヤー10本を並べたものを用い、接触子に加える荷重は50gfとした。こうして平均摩擦係数(MIU)を測定した。その結果を表3に示した。
【0057】
(圧縮率)
圧縮率(EMC)は、試験片の表面に一定圧力を加え、圧縮変形を回復させることにより、布の圧縮剛さや圧縮からの回復性を測定するもので、衣服着用時の動作性や手で触れたときの感触にも関係する。具体的には、各試料2枚ずつ用意し、1枚の布につき2ヶ所測定し、平均をとった。ハンディ圧縮試験機(カトーテック株式会社、KES-G5)を用い、面積2cmの円形平面をもつ銅製の圧子で試料布を圧縮して測定した。圧縮-回復過程における圧子の移動速度は20μm/秒、最大圧縮応力は50gf/cmとした。この測定では、縦軸を圧縮応力、横軸を圧子間の距離とした圧縮応力-変線図が出力され、圧縮応力0.5gf/cmを加えたときの圧子間の間隔を試料の厚さとして評価した。圧縮前後の試料の厚さから圧縮率(EMC)を算出し、結果を表3に併せて示した。
【0058】
(曲げ特性)
曲げ特性は、試験片の表面と裏面に交互に曲げ変形を与えることにより、布の曲げ剛性(B)と曲げヒステリシス(2HB)を測定するものであり、布の曲げ特性は、衣服の触り心地、着心地、運動機能性とも関係がある。
【0059】
曲げ剛性(B)と曲げヒステリシス(2HB)の評価方法については、「丹羽雅子編著、アパレル科学、朝倉書店、p.61-62」に示すとおりであり、具体的には、各試料2枚ずつ用意し、1枚の布につきたて方向とよこ方向を2ヶ所ずつ測定し、平均をとった。曲げ試験機(カトーテック株式会社、KES-FB2)を用い、試料を一定曲率速度0.5cm-1/秒で表側が凸(曲率が正)、続いて裏側が凸(曲率が負)となるように、曲率範囲K=+2.5~-2.5(cm-1)にわたって1サイクルの曲げを与え、曲げモ-メントの変化を、横軸を曲率とするM-K線図として得た。このM-K線図を上記文献に示す公知の方法で解析し、試料の表側が凸となるように曲げた時のパラメ-タと、裏側が凸となるように曲げた時のパラメータとを区別して曲げ剛性(B)を求めた。その結果を表3に併せて示した。曲げヒステリシス(2HB)についても、上記文献に示す公知の方法により、2HBf:K=0.5におけるヒステリシスの幅、2HBb:K=-0.5におけるヒステリシスの幅を求め、2HBfと2HBbの平均値をその布のヒステリシスの幅2HBと定め、2HB(gf・cm/cm)=(2HBf+2HBb)/2により評価した。その結果も表3に併せて示した。
【0060】
【表3】

【0061】
(引張強さと伸び率)
引張強さは、試験片の一方向に引張り変形を与え、切断したときの荷重から求めるもので、耐久性に大きく関係する。具体的には、各試料2枚ずつ用意し、たて方向について測定し、平均をとった。測定は、JIS L 1096のラベルドストリップ法により測定した。最大点荷重(N)と最大点伸び(mm)を測定し、引張強さ(N/cm)と伸び率(%)を算出した。万能試験機を使用し、引張速度:50mm/分、試験長:100mm、試料幅:25mmとした。引張強さと伸び率の結果を表4に示した。
【0062】
【表4】

【0063】
(力学物性の結果)
未処理布、酸化CNC布及び未酸化CNC布について比較した結果、酸化CNC布の力学物性は、未処理布と比べて大きくは変化していなかった。曲げ剛性(かたさ)はやや上昇したが、曲げヒステリシス(ハリ感)では大きな差はなく、綿布のやわらかな風合いを保持していた。
【0064】
[実験2]
酸化CNC布を洗濯した後の消臭性と、酸化CNCの再吸着について検討した。実験1で作製した酸化CNC布を下記の方法で洗濯し、洗濯した後の酸化CNC布の消臭性を実験1と同じ方法(試料:10cm×10cm、約1.0g)で測定した。さらに、洗濯した後の酸化CNC布に下記の方法で再度酸化CNCを吸着(再吸着)させ、再吸着させた後の酸化CNC布の消臭性を実験1と同じ方法(試料:10cm×10cm、約1.0g)で測定した。
【0065】
(洗濯)
洗濯は、表5に示すように、洗濯試験機を用いて、実験1で作製した酸化CNC布を300mLの温水(38℃±2℃)で洗い、適量水(38℃±2℃)で3回すすいだ後、300mLの温水(38℃±2℃)で5分間の最終すすぎを行った。その後、洗濯試験機で脱水し、さらにペーパータオル等で水気を切り、平台に載せて自然乾燥させた。これを4回繰り返した。なお、この洗濯方法は、JIS L1096織物及び編物の生地試験法(寸法変化試験E法:洗濯試験機法)に準拠する。
【0066】
【表5】

【0067】
(再吸着酸化CNCの布への吸着方法)
上記の方法で洗濯した試料(10cm×10cm、約1.0g)を、実験1で用いた酸化CNCの1質量%懸濁液に5分間浸漬し、その後、ローラー式脱水機を使用して脱水し、その後、20℃・65%RH下で1晩以上平干し乾燥した。このとき、脱水直後の試料の質量が、乾燥させた後の試料の質量の2.4~2.6倍になるよう調整して試験試料とした。
【0068】
(アンモニアガス消臭試験)
実験1と同じ試験方法でアンモニアガス消臭試験を行った。その結果を表6に示す。表6において、「洗濯1回」とは、表5に示す洗濯手順を1回行ったことを意味し、「洗濯4回」とは、表5に示す洗濯手順を4回繰り返したことを意味している。洗濯を行うと酸化CNCが脱落して消臭性が下がったが、酸化CNCを再吸着させることで消臭性が回復できることがわかった。
【0069】
【表6】

【0070】
実験2の結果より、布に吸着した酸化CNC(表面修飾多糖類ナノ材料)が洗濯等によって布から脱離した場合であっても、酸化CNCを再度吸着させることができ、消臭性等の機能性を再生させて再利用できることがわかった。
【0071】
[実験3]
下記の手順で調製した染料分子修飾CNCを綿白布に吸着させ、アンモニア消臭性を実験1と同じ方法(試料:10cm×10cm、約1.0g)で測定した。
【0072】
(染料分子修飾CNCの調製)
実験1の「酸化CNCの調製」の欄に記載の調製方法と同様、本発明者が既に報告(Araki,J.; Wada,M.; Kuga,S., Langmuir 2001, 17, 21-27.)した方法に従い、表面にカルボキシ基が導入された酸化CNCを調製した。この調製方法において、酸化反応時に添加する次亜塩素酸ナトリウムの固形分重量は、出発の未酸化CNCの固形分重量に対し15%とした。得られた酸化CNC懸濁液(濃度1%、250mL)に対し、反応性染料(Sumifix Supra Brilliant Red 3BF 150% gran)0.75gを加え、室温で5分間撹拌した。次に、無水硫酸ナトリウム2.5gを加えて室温で5分間撹拌した後、さらに無水硫酸ナトリウム10gを加えて15分間撹拌した。次に、3mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて系のpHを10~11に調節した後、70℃の湯浴中で45分間撹拌して反応させた。反応後に冷却し、無水硫酸マグネシウム30gを加えて溶解させた。その後、遠心分離を用いて染料分子修飾酸化CNCを沈殿させ、その後に0.2mol/L硫酸マグネシウム水溶液による遠心分離を用いた洗浄を2回繰り返した。得られた沈殿に水を加えて分散させ、体積を100mLに調節した後、ソーピング液(N-3、岩瀬商店株式会社)を0.3mL加え、100℃の油浴中で30分間撹拌しながら加熱した。放冷後、0.2mol/L硫酸マグネシウム水溶液及び0.1mol/L塩酸水溶液による遠心分離を用いた洗浄をそれぞれ2回繰り返した。最後に、透析により酸を除去し、染料分子修飾酸化CNCを得た。
【0073】
(吸着方法)
綿白布への染料分子修飾酸化CNCの吸着は、綿白布(10cm×10cm、約1.0g)を、1質量%染料分子修飾酸化CNC懸濁液に5分間浸漬し、その後、ローラー式脱水機を使用して脱水し、その後、20℃・65%RH下で1晩以上平干し乾燥した。このとき、脱水直後の試料の質量が、乾燥させた後の試料の質量の2.4~2.6倍になるよう調整した。得られた試料を「染料分子修飾酸化CNC布」とした。実験1で作製した酸化CNCの綿白布への吸着も同様にして行い、「酸化CNC布」とした。
【0074】
(アンモニアガス消臭試験)
染料分子修飾酸化CNC布、酸化CNC布、及び未処理布(綿白布)の3種の試料について、アンモニア消臭試験を実験1と同じ方法(試料:10cm×10cm、約1.0g)で測定した。その結果を表7に示す。表7は、未処理布と酸化CNC布と染料分子修飾酸化CNCに対して行った消臭試験(アンモニア濃度の減少率)の結果である。結果はそれぞれ2つの試料の平均を示した。染料分子修飾酸化CNC布もアンモニアの消臭性能を有し、着色と消臭性付与を同時に行えた。
【0075】
【表7】

【0076】
[実験4]
下記の手順で調製したキチンナノクリスタル(ChNC)を綿白布に吸着させ、酢酸消臭性を下記の方法で測定した。
【0077】
(キチンナノクリスタルの調製)
報告された文献(Araki,J., Kurihara,M., Biomacromolecules 2015, 16, 379-388)を準拠し、キチンナノクリスタル(ChNC)を調製した。市販のキチン粉末(和光純薬工業株式会社製)4gに3mol/L塩酸100mLを加え、1時間半煮沸した。室温に放冷した後に脱イオン水で希釈し、遠心分離を繰り返して浮遊したChNCを回収した。透析により酸を除去して精製したChNCs懸濁液を、透析膜に封入したままポリエチレングリコール(分子量20000)の5%水溶液に浸して浸透圧により濃縮し、回収して凍結乾燥した。得られたChNCを下記の方法で綿白布に吸着させ、酢酸消臭性を測定した。
【0078】
(ChNC吸着方法)
綿白布へのChNCの吸着は、綿白布(30cm×40cm)を1質量%ChNC懸濁液に30分間浸漬し、その後、ローラー式脱水機を使用して脱水し、その後、20℃・65%RH下で1晩以上平干し乾燥した。このとき、脱水直後の試料の質量が、乾燥させた後の試料の質量の2.5~2.7倍になるよう調整した。得られた試料を「ChNC加工布」とした。
【0079】
(酢酸消臭試験)
カウンタ付気体採取機(株式会社ガステック、GV-100S)を使用し、気体検知管はNo.81(株式会社ガステック)を用いた。100ppmの酢酸ガスの作製は以下の手順で行った。先ず、真空状態にしたテドラーバッグにエアーを入れ、酢酸水を適量入れ、ドライヤーでテドラーバッグ内の空気を温め、酢酸を気化させた後、テドラーバッグ内の空気を対流させて、気体検知管でテドラーバッグ内の酢酸濃度を確認し、100ppmでない場合にはエアーやアンモニア水で濃度を調整し、再度酢酸濃度が100ppmであることを確認した。
【0080】
酢酸消臭測定については、以下の手順で行った。先ず、20℃・65%RHの恒温恒湿室内で調湿した試料を裁断し、2Lのテドラーバッグの切り口から試料0.25gを入れてテープで口をふさぎ、テドラーバッグ内の空気を抜いて真空状態にし、事前に作製した酢酸ガスを試料の入ったテドラーバッグに移し、ガスを入れた瞬間を0分とし、時間毎にテドラーバッグ内の臭気を気体検知管で測定した。減少率は、「減少率(%)=((初期濃度(100ppm)-測定時の濃度)/初期濃度(100ppm))×100」で算出した。その結果を表8に示した。表8の結果より、ChNC加工布は酢酸の消臭性があることが確認できた。
【0081】
【表8】

図1