(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132203
(43)【公開日】2022-09-07
(54)【発明の名称】フシコクシンを含む植物生産増強剤
(51)【国際特許分類】
A01N 45/02 20060101AFI20220831BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220831BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220831BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220831BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220831BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20220831BHJP
【FI】
A01N45/02
A01P21/00
A01N25/00 102
A01N25/02
A01G7/06 A
A01G22/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029413
(22)【出願日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2021030759
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「植物病原菌二次代謝産物フシコクシンの気孔開口依存的成長促進効果の検証」(ポスター発表:P1-22)、第63回天然有機化合物討論会要旨集、令和3年(2021年)8月31日発表 〔刊行物等〕 「植物病原菌二次代謝産物フシコクシンの気孔開口依存的成長促進効果の検証」(ポスター発表:P1-22)、第63回天然有機化合物討論会、大阪市中央公会堂(大阪市北区中之島1-1-27)、令和3年(2021年)9月15日発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.サランラップ
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】大神田 淳子
(72)【発明者】
【氏名】桐山 寛生
(72)【発明者】
【氏名】春日 重光
(72)【発明者】
【氏名】入枝 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】木下 俊則
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022AB11
2B022EA01
4H011AB03
4H011BB08
4H011DA13
4H011DD03
(57)【要約】
【課題】本発明は、植物の生産を増強させる剤、および植物の生産を増強させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生成中間体またはそれらの類縁体を含む、植物生産増強剤。
【選択図】
図8C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む、植物生産増強剤。
【請求項2】
ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、以下:
【化1】
から選択される、請求項1に記載の植物生産増強剤。
【請求項3】
ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、フシコクシンJ(FC-J)である、請求項1または2に記載の植物生産増強剤。
【請求項4】
植物の生産を増強するための、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む組成物。
【請求項5】
ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、以下:
【化2】
から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、フシコクシンJ(FC-J)である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を0.3~30μMの濃度で含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の組成物を投与すること、および植物に光の存在下で水を十分に供給することを含む、植物の生産を増強する方法。
【請求項9】
投与が、植物の地上部への投与である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
投与が、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体の液体の状態の組成物での付与である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
植物が、葉菜類の植物であり、生産の増強が植物体の重量を増加させることを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む植物生産増強剤、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む組成物、および該組成物を投与することによる植物の生産を増強させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フシコクシンは、アーモンドまたはモモの木に寄生する真菌Fusicoccum amygdali(別名、Phomopsis amygdali)の代謝産物として単離されたジテルペン配糖体であり、これによって植物細胞膜H+―ATPaseが活性化されて、気孔が不可逆的に開口することにより、連続的な蒸散が誘導されて、植物体が枯死することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、真菌Fusicoccum amygdaliの代謝産物であるフシコクシンAの生合成中間体の製造方法、ならびにその製造方法に利用可能な酵素およびその産生体について記載されている。
特許文献2および3は、夫々植物気孔開度調節剤について記載されており、実施例中に対照実験としてフシコクシンを用いて気孔開度を測定する実験について記載されている。
【0004】
特許文献4は、植物気孔開度抑制剤について記載されており、実施例中に対照実験としてフシコクシンを用いて気孔開度を測定する実験、および細胞膜プロトンポンプのリン酸化を測定する実験について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/031975号
【特許文献2】特開2016-117685号公報
【特許文献3】国際公開第2018/062036号
【特許文献4】特開2020-55767号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Paul C. Sehnke and Robert J. Ferl, Current Biology 1996, Vol 6 No 11:1403-1405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物の生産を増強させる剤、および植物の生産を増強させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献2、3にはフシコクシンが植物気孔開口を促進することは知られていると記載されており、気孔開口促進作用測定試験では、フシコクシンを対照に、葉の裏側の表皮小片を試験液に浸漬して行っている。また、フシコクシンについては、過度な気孔開口促進により蒸散を促進してこれにより植物体の枯死を引き起こすとしている。特許文献4においても同様の実験等が記載されている。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねる中で、過度な気孔開口促進によって、植物体の枯死を引き起こすことが知られていたフシコクシンを用いて、予想外に植物の生産を増強させることができることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
[1]ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む、植物生産増強剤。
[2]ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、以下:
【化1】
から選択される、[1]に記載の植物生産増強剤。
[3]ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、フシコクシンJ(FC-J)である、[1]または[2]に記載の植物生産増強剤。
[4]植物の生産を増強するための、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む組成物。
[5]ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、以下:
【化2】
から選択される、[4]に記載の組成物。
[6]ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、フシコクシンJ(FC-J)である、[4]または[5]に記載の組成物。
[7]ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を0.3~30μMの濃度で含む、[4]~[6]のいずれか1つに記載の組成物。
【0010】
[8][4]~[7]のいずれか1つに記載の組成物を投与すること、および植物に光の存在下で水を十分に供給することを含む、植物の生産を増強する方法。
[9]投与が、植物の地上部への投与である、[8]に記載の方法。
[10]投与が、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体の液体の状態の組成物での付与である、[8]または[9]に記載の方法。
[11]植物が、葉菜類の植物であり、生産の増強が植物体の重量を増加させることを含む、[8]~[10]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のジテルペン配糖体フシコクシンを含む植物生産増強剤は、植物の生産を増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、スプレー散布後の対照区および実験区の時間ごとの気孔開度を表すグラフである。
図1Bは、スプレー散布の4時間後の対照区の子葉の顕微鏡写真を、および
図1Cは、スプレー散布の4時間後の実験区の子葉の顕微鏡写真を夫々示す。
【
図2】
図2は、Mock、FC-A、FC-J、FC-H夫々についてスプレー散布後の時間ごとの気孔開度を表すグラフおよび6時間後の夫々の気孔の写真である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、夫々ローダミンB-FC-J(RhB-FC-J)をスプレー散布された葉の顕微鏡写真(
図3A)、ローダミンBの蛍光を示す顕微鏡写真(
図3B)および
図3Aと
図3Bとを合成した顕微鏡写真を示す。夫々の写真の上段が葉の表側表皮細胞を示し、下段が裏側表皮細胞を示す。
【
図4】
図4A~
図4Dは、夫々Mock、0.3μM FC-A、3μM FC-A、30μM FC-Aの滴下5時間後の画像を示す。上段は、植物全体を写した写真を示し、下段は、同視野における赤外線カメラの画像を示す。上段および下段の図中の三角は、夫々の剤の滴下された位置を示す。下段において、青味が深いほど温度が低いことを示し、赤味が深いほど温度が高いことを示す。また、
図4Aは、Mockについて、
図4Bは、0.3μM FC-Aについて、
図4Cは、3μM FC-Aについて、
図4Dは、30μM FC-Aについての画像を示す。
【
図5】
図5は、ウェスタンブロットによるMock、FC-A、FC-JおよびFC-HのPPI(タンパク質間相互作用)の安定化能を示す。
図5Aは、ウェスタンブロットの結果を示す。
図5Bは、Mock、FC-A、FC-JおよびFC-Hのシグナル強度を表すグラフである。
図5Cは、合計3回の実験を1つのグラフにまとめたものである。
【
図6】
図6Aは、Mock、0.3μM FC-A、3μM FC-Aまたは30μM FC-Aをスプレー散布した、Arabidopsis thaliana Columbia(Col-0)の植物の一部の写真を示す。
図6Bは、これらの植物の夫々の濃度のFC-Aにおける25日目の地上部の新鮮重および乾燥重を示すグラフである。
図6Cは、これらの植物の夫々の濃度のFC-Aにおける25日目の植物の葉の写真を示す。
【
図7】
図7は、水耕栽培コマツナに対するFC-Aの生産増強効果を示す。
図7Aは、Mockおよび夫々の濃度のFC-Aを滴下された植物の4週間後の葉を示す写真である。
図7Bは、Mockおよび夫々の濃度のFC-Aを滴下された植物の4週間後の新鮮重および乾燥重を表すグラフである。
【
図8A-8B】
図8は、水耕栽培コマツナに対するFC-Jの生産増強効果を示す。
図8Aは、夫々の濃度のFC-Jを滴下された植物の8月25日の夫々のスポンジの写真を、
図8Bは、9月28日の夫々の植物1個体の写真を示す。
【
図8C】
図8Cは、夫々の濃度のFC-Aを滴下された植物の4週間後の新鮮重および乾燥重を表すグラフである。
【
図9】
図9は、セロリに対するFC-Jの生産増強効果を示す。
図9Aは、0μMおよび30μMのFC-Jを噴霧した植物の噴霧6週間後の植物の写真を示す。左の写真が0μMのFC-J、右の写真が30μMのFC-Jを噴霧したものである。
図9Bは、夫々の濃度のFC-Jを噴霧した植物の6週間後の主茎の重量および主茎乾燥重量を表すグラフである。
【
図10】
図10は、ウェスタンブロットによるMock、FC-A、FC-JおよびFC-Hのリン酸化レベルを示す。
図10Aは、ウェスタンブロットの結果を示す。
図10Bは、Mock、FC-A、FC-JおよびFC-Hのリン酸化レベルを表すグラフである。
【
図11】
図11は、FC-A、FC-JおよびFC-Hについての蛍光偏光滴定試験の結果を示す。
図11Aは、FC-A、FC-JならびにFC-Hの構造式および見かけの解離定数を示す。
図11Bは、夫々のFCを加えた際の測定された蛍光偏光を示す。
【
図12】
図12は、Arabidopsis thaliana Columbia(Col-0)に対するMock、FC-A、FC-JおよびFC-Hの生産増強効果を示す。
図12Aは、Mock、FC-A、FC-JおよびFC-Hを夫々スプレー散布した植物の25日齢時の葉の写真を示す。
図12Bは、Mock、FC-A、FC-JおよびFC-Hを夫々スプレー散布した植物の新鮮重および乾燥重を表すグラフである。
【
図13】
図13は、Arabidopsis thaliana Columbia(Col-0)におけるMockまたはFC-Aを噴霧したときの炭素安定同位体比を示す。
【
図14A】
図14は、水耕栽培レタスに対するFC-Jの生産増強効果を示す。
図14Aは、0μM、0.3μM、3μMまたは30μMのFC-Jをスプレー噴霧した植物の噴霧10日後の植物の写真を示す。
【
図14B】
図14Bは、夫々の濃度のFC-Jをスプレー噴霧した植物の10日後の植物の新鮮重および乾燥重を示すグラフである。
【
図15A】
図15は、水耕栽培ネギに対するFC-Jの生産増強効果を示す。
図15Aは、0μM、0.3μM、3μMまたは30μMのFC-Jをスプレー噴霧した植物の噴霧30日後の植物の写真を示す。
【
図15B】
図15Bは、夫々の濃度のFC-Jをスプレー噴霧した植物の30日後の植物の新鮮重および乾燥重を示すグラフである。
【
図16】
図16は、Mock、FC-A夫々について、滴下後の時間ごとの気孔開度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、一側面において、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む、植物生産増強剤に関する。
【0014】
本発明において、フシコクシンは、フシコクシンA(FC-A)とも称される、以下の構造式で表される、ジテルペン配糖体を指す。
【化3】
フシコクシンAは、市販されているものが入手可能である他、Fusicoccum amygdaliの代謝産物として単離することができる。
また、本発明においてフシコクシンの生合成中間体とは、フシコクシンAの生合成の過程で生じるあらゆる化合物を含み、例えば、公知の方法によりフシコクシンAを合成する際の、中間生成物なども含む。例えば、フシコクシンAは、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGDP)から、以下:
【化4】
に記載される経路で生合成される。また、上記の生合成経路において、特にフシコクシンAの直前の中間生成物をフシコクシンJ(FC-J)、さらにその一段階前の中間生成物をフシコクシンP(FC-P)、さらにその一段階前の中間生成物をフシコクシンQ(FC-Q)、さらにその一段階前の中間生成物をフシコクシンH(FC-H)とし、これらの化合物もまた、本発明のジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体に含まれる。本明細書において、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体について、FC類縁体と総称してもよい。
【0015】
上記の化合物に関して、フシコクシンA、フシコクシンJおよびフシコクシンHのいずれもが植物において気孔開度を上昇させる効果を有するが、フシコクシンAおよびフシコクシンJが、フシコクシンHよりも気孔を適度に大きく開口させることが本発明者らによってはじめて見いだされた。またそれ以外にもさらに、フシコクシンAが植物において滴下箇所に留まることができること、フシコクシンJが、葉の表側にスプレー散布された場合でも、葉の裏側へと透過して、気孔を開口させること、フシコクシンAおよびフシコクシンJがフシコクシンHよりもPPI(タンパク質間相互作用)安定性能が高いこと、フシコクシンAの気孔開口効果が時間の経過と共に消失することが、本発明者らによってはじめて見いだされた。
【0016】
本発明において、植物生産増強剤とは、それを投与されない植物と比べて、有意に植物の生産を増強させる剤を指す。ここで、植物の生産の増強とは、茎の伸長、葉数の増加、葉の面積増大などの植物体の重量の増加を含むが、これらに限定されるものではない。
本発明の植物生産増強剤は、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含むが、それ以外にも、水、エタノール、展着剤などを含んでいてもよい。
【0017】
本発明の一態様において、植物生産増強剤に含まれるジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体は、以下:
【化5】
から選択され、好ましくは、フシコクシンJが選択される。
本発明の植物生産増強剤における、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体の濃度は、植物の生産を増強することができる濃度であれば、限定されるものではないが、例えば、植物へ投与する際の濃度としては、0.3~30μM、好ましくは、0.3~3μMである。
【0018】
本発明の植物生産増強剤は、それに含まれるジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、植物細胞膜H+-ATPaseと14-3-3タンパク質の相互作用を亢進させ、植物の気孔を適度に大きく開口させる。また、本発明の植物生産増強剤は、それに含まれるジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体が、時間と共にその効果を消失するものであるため、効率性および安全性に優れたものである。本明細書において、気孔開口は、気孔開度によって確認された。気孔開度は、例えば、植物から気孔を含む切片を切り出し、顕微鏡下で取得した画像を、画像解析ソフトウェア(例として、image J Fiji)を用いて気孔の開口幅を測定することによって算出される。
【0019】
本発明の植物生産増強剤に含まれるジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体がフシコクシンJである態様において、フシコクシンJは、遺伝子改変型Fusicoccum amygdaliを用いて大規模に生産されるものであってもよい。かかる態様において用いることのできる遺伝子改変型Fusicoccum amygdaliとして、例えば、国際公開第2013/031975号に記載の、FC―Aの生合成中間体であるdideacetyl FC-Aを合成する触媒作用を有する、P450-5(ORF13)の酵素産生能を欠失したものが挙げられる。
【0020】
本発明の別の側面は、植物の生産を増強するためのジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む組成物、および植物の生産を増強する方法であって、植物に該組成物を投与すること、および植物に光の存在下で水を十分に供給することを含む方法に関する。
本発明の組成物に含まれるジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体は、上記の植物生産増強剤に含まれるものと同じものから選択されてもよい。
本発明における植物の生産を増強する方法は、水耕栽培ならびに鉢植えおよび地植えを含む土植えの両方の栽培方法において、また屋外での栽培およびビニールハウスなどの屋内での栽培の両方において用いることができる。したがって、本発明の方法において必要とされる光は、太陽光であっても人工の光であってもよい。人工の光を用いる態様において、その光は、一般的に屋内の栽培において用いられる程度の光であればよいが、好ましくは、180~200PPEb、より好ましくは、約200PPEbの光量子を照射できるものである。また、本発明の方法において、水が十分に供給されるとは、植物から蒸散する量より多くの水分が植物に供給されることを指し、例えば、水耕栽培のように植物が必要量の水分を容易に摂取することができる環境下にあるか、または土植えの植物においては、土がこれ以上水分を吸収しなくなるまで給水することなどが挙げられる。
【0021】
本発明の方法において、ジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体を含む組成物は、植物に投与可能なあらゆる形態をとることが可能であるが、好ましくは、投与が簡便であることから、液体の状態で植物に投与される。液体の状態は、水溶液または水分散物であるのが好ましく、エタノールや展開剤を液体の状態の組成物に混合してもよい。
投与の方法としては、植物に組成物を投与するあらゆる方法が可能であるが、例えば、スポイトなどによって液体の状態の組成物を植物に滴下すること、または噴霧器などを用いて液体の状態の組成物を霧状にして植物にスプレー噴霧することが挙げられる。どちらの方法においても、植物の生産増強効果を奏することができるが、大規模栽培される植物に対して簡便に投与できることから、スプレー噴霧による投与が好ましい。
【0022】
本発明の方法において組成物を植物の地下部へ投与する場合、組成物が、植物の根に留まることにより、植物全体に送達されないことが考えられる。したがって、本発明の方法において組成物を投与する箇所については、植物がその組成物を取り込むことができる箇所であるなら特に限定されないが、好ましくは、茎および葉を含む植物の地上部へ投与される。より好ましくは、本発明の方法において組成物は、葉の表面に投与される。水耕栽培においても、水を入れる容器中に本発明の植物生産増強剤を含ませて根から吸収させる方法よりは、茎および葉を含む植物の水上部へ投与する方法が好ましい。この場合、容器内の水に投与した植物生産増強剤が混入しないようにカバーなどを設置しておくことが好ましい。
本発明の方法における組成物中のジテルペン配糖体フシコクシンもしくはその生合成中間体またはそれらの類縁体の濃度は、植物の生産を増強することができる濃度であれば、限定されるものではないが、例えば、植物への投与濃度において、0.3~30μM、好ましくは、0.3~3μMである。植物への投与濃度は、投与される植物の品種や投与される個体の状態、ならびに栽培条件(例として、季節などの投与する時期、光強度や照射時間などの光条件、湿度、気温等)に応じてかかる範囲の間で適宜設定することができる。葉の単位面積(cm2)当たりの投与量としては0.01pmol~100nmolといった少量でよく、好ましくは0.1pmol~10nmol、さらに好ましくは1pmol~5nmolでよい。
本発明の方法において、投与される対象である植物は、特に限定されるものではないが、例えば、コマツナ、セロリ、ホウレンソウ、ミズナ、チンゲンサイ、レタス、ネギなどの葉菜類の植物が挙げられる。植物が葉菜類である態様において、植物の生産の増強は、好ましくは、植物体の重量の増加、より好ましくは、植物の地上部の重量の増加を指し、すなわち、植物の可食部の増加を指す。
【実施例0023】
本発明を下記の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例に限定されないものとする。
【0024】
一般的条件
春化処理を終えた日を1日目とした。
ロックウールを用いた栽培
ロックウール(やさいはなブロック30、日本ロックウール株式会社)にArabidopsis thaliana Columbia(Col-0)を播種し、4℃、暗所で一晩春化処理を行った。その後、ラップで2日間保湿し、人工気象機(HCLP-1240FL3-5L、株式会社日本医科器械製作所)内で生育(昼光灯で約50mmol/m2s、22℃、湿度成り行き、明期16時間、暗期8時間の長日条件)させた。植物が乾燥しないように水道水で2000倍希釈したハイポネックス(微粉ハイポネックス、株式会社ハイポネックスジャパン)を毎日与えた。
【0025】
プランターを用いた栽培
Arabidopsis thaliana Columbia(Col-0)の種子とRO水を1.5mLチューブに加え、アルミホイルで遮光し、4℃、2泊3日回転攪拌で春化処理を行い、培養土(種まき専用培養土、大石物産)とバーミュキュライト(ニッタイバーミュキュライト、ニッタイ株式会社)を1:1で配合した土をプランター(ミニプランター38型、Ricell)に約3L加え、播種した後、1000倍希釈したハイポネックスを受け皿から施肥した。播種より1週間はラップで保湿し、それ以降は四つ角をあけて生育(白色灯で約130~150mmol/m2s、22~26℃、50~70%RH、明期16時間、暗期8時間の長日条件)させた。月曜日に水道水で1000倍希釈したハイポネックスを、金曜日に水道水を土が水分を吸収しなくなるまで与えた。
【0026】
例1:FC-Aを用いた気孔開度の促進
気孔開度の実験について、播種後に、約1日6℃、暗室で春化処理を行い、播種後15日目のcol-0を使用した。
EtOH(50μL)をRO水で1000倍希釈した0.1%-EtOH(50mL)を投与したものを対照区とした。また、30mM-FC-AのEtOH溶液(50μL)をRO水で1000倍希釈し30μM-FC-Aの液肥(50mL)を投与したものを実験区とした。対照区、実験区のcol-0の葉の気孔を撮影し、スプレー散布前の気孔開度を測定してから、調製した溶液を植物全体に15mLスプレー散布した。対照区および試験区において、スプレー散布の2時間後、4時間後、6時間後の気孔を測定した。それぞれの時間で子葉を切り取ってから30分以内、異なる植物体より子葉を5枚切り取り、1枚につき10個を目安に合計約50個以上の気孔を撮影した。測定するとき以外は人工気象機内で植物体を静置した。気孔開度の測定はImage J Fijiを使用した。
対照区および実験区の時間ごとの気孔開度を
図1Aのグラフに、スプレー散布の4時間後の対照区の子葉および実験区の子葉の顕微鏡写真を、夫々
図1Bおよび
図1Cに示す。
図1A~
図1Cより、対照区に比べて実験区の気孔の方がより大きく開いていることが確認された。
【0027】
例2:FC-A、FC-JおよびFC-Hによる気孔開度の促進の比較
10日齢のCol-0にアルミホイルで覆った段ボールを被せるかまたはアルミホイルで覆うことにより、16~18時間暗所処理(22~26℃)を行った。実験には、FC-A、FC-Jに加えて、FC-Aの生合成経路における中間生成物であるフシコクシンH(FC-H)を用いた。11日齢のスプレー散布前の気孔を撮影後、Mock、30μM FC-A、30μM FC-J、30μM FC-H(夫々、0.1% EtOH、0.05% アプローチBI(丸和バイオケミカル)、0.02% Sillwet L-77を含む)を約3mLスプレー散布し、気孔開度測定時以外は人工気象機内に静置(昼光灯で約50mmol/m2s、22℃、湿度成り行き)した。気孔は夫々別個体の植物より3枚切り取り、カバーガラスを被せ、1枚当たり10個以上の気孔を蛍光・微分干渉顕微鏡(Axio image A2; Carl Zeiss)に搭載しているデジタルカメラ(Axiocam 503 mono; Carl Zeiss)で撮影し、気孔開度はimage J Fijiで計測した。
Mock、FC-A、FC-J、FC-H夫々について、スプレー散布後の時間ごとの気孔開度のグラフおよび6時間における夫々の気孔の写真を
図2に示す。FC-A、FC-J、FC-Hのいずれも、Mockに比べて大きく気孔が開いていることが確認された。また、スプレー散布の2時間後、4時間後、6時間後のいずれにおいても、FC-AおよびFC-Jは、FC-Hよりも気孔を適度に大きく開いており、6時間後においては、FC-Aが最も大きく気孔を開いていたことが確認された。
【0028】
例3:RhB-FC-Jの共焦点観察
11日齢のCol-0に30μM ローダミンB-FC-J(RhB-FC-J)(0.1% EtOH、アプローチBI(丸和バイオケミカル)、0.02% Sillwet L-77)を5mLスプレー散布し、暗所(蛍光の退色を抑えるため)で2~6時間静置した。子葉を切り取り、ラップ上に滴下したRO水(50μLx3)で3回洗浄し、カバーガラスを被せ、油浸対物レンズ(60xOUPlanSApo;Olympus)(1.35 numerical aperture)を搭載した走査型共焦点レーザー顕微鏡(FLUOVIEW FV-1000;Olympus)で観察した。ローダミンB-FC-Jの蛍光は、559nmのダイオードレーザーを照射し、ダイクロイックミラー(DM488/543/633)、ビームスプリッター(Mirror)、吸収フィルター(BA570-670)で検出した。
ローダミンB-FC-Jをスプレー散布された葉のDICの顕微鏡写真、ローダミンBの蛍光を示す顕微鏡写真、およびそれらを合成した顕微鏡写真を
図3A~
図3Cに示す。夫々の写真の上段が葉の表側表皮細胞を示し、および下段が裏側表皮細胞を示す。これらの顕微鏡写真より、葉の表面にスプレー散布したローダミン-FC-Jが葉の裏側に透過していることが確認された。したがって、一般的な植物においては、気孔は葉の裏側に多く存在するが、FC-Jは、葉の裏側に浸透することができるため、葉の表面にスプレー散布することで十分に気孔開口の促進について効果を奏することが確認された。
【0029】
例4:葉温測定
24日齢のCol-0にアルミホイルで覆った段ボールを被せ、16~18時間暗所処理(22~26℃)を行った。翌日、暗所で25日齢のCol-0の本葉2枚にMock、0.3μM FC-A、3μM FC-A、30μM FC-A(夫々0.1% EtOH、0.05% アプローチBI(丸和バイオケミカル)、0.02% Sillwet L-77を含む)を8μLx2滴下し、暗室で5時間静置した。水滴が乾いていることを確認し、明所で観察を開始した。赤外線カメラはFLIR ONE(FLIR)を用いた。
Mock、0.3μM FC-A、3μM FC-A、30μM FC-A滴下5時間後の植物全体を写した写真(上段)および同視野における赤外線カメラの画像(下段)を、
図4A~Dに示す。これらの図より、FC-Aを滴下した箇所において、温度が下がっており、FC-Aの濃度が高い方がより温度が下がることが確認された。葉温の低下から、FC-Aは、低濃度であっても、少なくとも5時間効果が持続し、滴下されたFC-Aは、葉全体に広がらずに、滴下箇所に留まることが示唆される。
【0030】
例5:FC-A、FC-J、FC-HのPPI安定化能
下記の試薬の量は1区当たりの量である。
1.Dynabeadsとpre serum or anti cat AHA2抗体の架橋
Dyanabeads Protein A Immunoprecipitation Kit(DB10006; VERITAS)の完全に懸濁したDynabeads(50μL)を1.5mLチューブに移し、上清を除去した。Preserum or anti cat AHA2 antibody(名古屋大学木下研究室からの提供)(20μL)、Binding & Washing buffer(200μL)でDynabeadsを懸濁し、室温で10分間回転攪拌した。上清を除去し、0.2M ホウ酸(sigma; B6768)(pH9.0(NaOH))(200μL)で懸濁した。この操作を2回行った。上清を除去し、0.2M ホウ酸で溶解した20mM DMP(sigma; DMP)(250μL)を加え、室温で2時間回転攪拌を行った。上清を除去し、0.2M エタノールアミン(sigma; 141-43-5)(200μL)で反応を停止した。この操作を2回行った。上清を除去し、0.2M エタノールアミン(250μL)を加え、室温で15分間回転攪拌した。上清を除去し、0.1M グリシン(pH2.8)(nacalai;17109-35)(HCl)(200μL)を加え、架橋されていない抗体を素早く懸濁し、その後洗浄して上清を除去した。この操作を2回行った。PBS(wako;166-23555)(200μL)で懸濁・洗浄した後、再度上清を除去しPBS(50μL)を加え、pH試験紙でpH7付近であることを確認し、これをDynabeads-抗体複合体とした。
【0031】
2.化合物インフィルトレーションと植物サンプル調製
Col-0(25~30日齢)の葉10枚を12mLディスポシリンジに加え、Mock(MQ中の0.1% EtOH)(5mL)または30M FC類縁体(MQ中の0.1% EtOH)(5mL)をそれぞれ加えた。シリンジ先端から空気を抜き、指で塞ぎ、陰圧処理を行った。植物体が若干透明になったことを確認し、水をよく切った後、乳鉢に植物を置いた。1x破砕液(50mM MOPS-KOH(pH7.5)、100mM NaCl、2.5mM EDTA、10mM NaF、0.5mM モリブデン酸アンモニウム、0.5mM DTT、1xプロテアーゼ阻害剤カクテル)(400μL)を氷上に置いた乳鉢に加え、乳棒で磨砕した。その後1x破砕液(500μL)を再度加えてさらに磨砕した。抽出液(900μL)を1.5mLチューブに移し、10% Triton X-100(100μL)を加えよく転倒攪拌した後、10,000rpm、4℃、5分間で遠心した。上清(900μL)を分注し、植物サンプルのタンパク質濃度をNano drop(ThermoFisher)にてQuick startTM Bradford 1x Dye reagent(#5000205JA;Bio-Rad)を用いてブラッドフォード法で測定した。
【0032】
3.細胞膜H+-ATPase免疫沈降
以下の操作を氷上で行った。
PBS中のDynabeads-抗体複合体(50μL)の上清を除き、タンパク量が2mg/mLになるように調製したサンプルと混合した。4℃で1時間回転攪拌した後、上清を除去し、洗浄用1x破砕液(50mM MOPS-KOH(pH7.5)、100mM NaCl、2.5mM EDTA、0.025% Triton X-100、1mM DTT、0.5xプロテアーゼ阻害剤カクテル)(100μL)で懸濁・洗浄を2回行った。そこから上清を除去し、洗浄用1x破砕液(50μL)で懸濁し、新しい1.5mLチューブに移し替え、これをDynabeads-抗体-抗原複合体とした。
【0033】
4.抗原の溶出
上記のDynabeads-抗体-抗原複合体から上清を除き、2xSDS(30567-12、Nacali)(32μL)で懸濁した。そこから上清を回収し2-ME(131-14572;wako)(6μL)を加えSDSサンプルとした。このサンプルは急冷、加熱せずに室温で処理した。SDSサンプルを30分以内にSDS-PAGEにアプライした。
【0034】
5.SDS-PAGEとウェスタンブロット
10%分離ゲルを作製し、150V、90分間で、SDS-PAGE(日本泳動またはBio-Rad)を行った。PVDFメンブレン(IPVH00010;MERCK)をMeOHで30分、親水化トランスファーバッファー(25mM Tris、192mM グリシン、20% メタノール)で30分平衡化した後に、転写装置(Bio-Rad)(150V、1.5時間)で転写を行った。その後、転写面を下向きにし、TBS-T(1M Tris-HCl(pH7.6)、5M NaCl、0.05%(v/v)Tween20)中の5% スキムミルクで1時間ブロッキングを行った。TBS-Tでメンブレンを5分間x3で洗浄し、TBS-T中の5% スキムミルクでanti cat AHA2 antibodyを3000倍希釈し、anti GRF4 antibodyを3000倍希釈し、4℃、終夜で1次抗体反応を行った。TBS-Tでメンブレンを5分x3で洗浄し、TBS-T中の5% スキムミルクでGoat Rabbit IgG HRP(0.1μL)を加え、室温で1時間2次抗体反応を行った。TBS-Tでメンブレンを5分間x3で洗浄し、イムノスターzeta(291-72401;wako)イムノスターLD(296-69901;wako)で、転写面を試薬に塗布しシグナルの検出を行った。メンブレンの撮影はVilber-Lourmat FUSION(M&S)を用いた。
【0035】
6.結果
ウェスタンブロットの結果を、
図5Aに示す。また、
図5Aにおけるウェスタンブロットの結果について測定したシグナル強度について
図5Bのグラフに示す。
図5A中の下段の14-3-3のバンド強度を、上段のAHA2のバンド強度で割ったものを
図5Bの縦軸とした。これらの図から、いずれのFC類縁体もPPIを安定化する能力を有することが確認された。また、同時にFC-HのPPI安定化能がFC-AおよびFC-Jに比べて低いことが確認された。
同様の実験をさらに2回繰り返した。合計3回の実験についてのシグナル強度について定量化した結果を
図5Cのグラフに示す。このグラフにおいても、同様に、いずれのFC類縁体もPPIを安定化する能力を有すること、およびFC-HのPPI安定化能がFC-AおよびFC-Jに比べて低いことが確認された。
【0036】
例6:FC-Aによるシロイヌナズナの生産増強効果
FC-Aによるシロイヌナズナの生産増強効果を確認する実験を実施した。
FC-AについてEtOHで30mMストックを作製し、RO水でMock(0.1% EtOH)、30μM、3μM、0.3μMに用事調整した。Col-0の種子とRO水を1.5mLチューブに加え、アルミホイルで遮光し、4℃で2泊3日間回転攪拌して春化処理を行った。培養土(種まき専用培養土、大石物産)とバーミュキュライト(ニッタイバーミュキュライト、ニッタイ株式会社)を1:1で配合した土をプランター(ミニプランター38型、Ricell)に約3L加え、播種し後、1000倍希釈したハイポネックスを受け皿から施肥した。播種より2~3日はラップで保湿し、それ以降は四つ角をあけて生育(白色灯で約130~150mmol/m2s、22~26℃、50~80%RH、明期16時間暗期8時間の長日条件)させた。月曜日に水道水1000倍希釈したハイポネックスを土が水分を吸収しなくなるまで与えた。Mockまたは夫々の濃度のFC-A(夫々0.1% EtOH)を10日齢よりスプレー散布を開始し、10~14日齢までは1mL、15~19日齢までは2mL、20~24日齢までは3mLで処理した。25日齢の植物の根から上を封筒(事務用クラフト封筒 長4号、HEIKO)に加え、新鮮重を測定し、70~80℃で2~3日間乾燥させた。乾燥させた植物を15分間室温で冷ました後、乾燥重を測定した。この時封筒の重さは全て同じ重量とした。
【0037】
25日齢の植物の一部の写真を
図6Aに示す。左から順に、Mock、0.3μM FC-A、3μM FC-A、30μM FC-Aについての写真である。また、これらの植物の夫々の濃度のFC-Aにおける25日目の地上部の新鮮重および乾燥重を
図6Bのグラフに示す。さらに、これらの植物の夫々の濃度のFC-Aにおける25日目の植物の葉の写真を
図6Cに示す。
図6Aおよび
図6Cより、いずれの濃度のFC-Aにおいても植物の生産増強が確認された。また
図6Bより、新鮮重および乾燥重ともにどの濃度のFC-Aにおいても有意に増加していることが確認された。
【0038】
例7:水耕栽培コマツナの生産増強に対するFC-Aの効果の検証
十分に吸水させたスポンジにコマツナを播種し、バーミキュライトを薄くのせた。スポンジを高さ1cmの水を張ったプラスチック容器に設置し、ビニールハウス内に置いた。18植物体を1試験区とした。播種後10日目から午前8時~9時の間にFC-Aの0.1% EtOH水溶液(FC-Aの濃度:0、0.3、3、30μM)を2枚の葉にマイクロピペットで滴下した(1週目4μLずつ計8μL、2週目以降8μLずつ計16μL)。この作業を6日/週、4週間繰り返した。FC-Aの滴下の4週間後、植物の根を除去したのち、例6と同様の方法により、新鮮重、乾燥重を計測し統計処理した。
Mockおよび夫々の濃度のFC-Aを滴下された植物の4週間後の葉の写真を
図7Aに示す。また、Mockおよび夫々の濃度のFC-Aを滴下された植物の4週間後の新鮮重および乾燥重についてのグラフを
図7Bに示す。Mockに対していずれの濃度のFC-Aにおいても、新鮮重、乾燥重ともに有意に増加していることが確認された。
【0039】
例8:水耕栽培コマツナの生産増強に対するFC-Jの効果の検証
十分に吸水させたスポンジにコマツナを播種しバーミキュライトを薄くのせた。スポンジを高さ1cmの水を張ったプラスチック容器に設置し、ビニールハウス内に置いた。発芽後、発砲スチロール板に18個の穴をあけたものにスポンジとともに植物を配置し、2cm程度の水を張ったステンレスバットの上に置いた。9植物体を1試験区とした。各ステンレスバットの水中にはエアポンプで空気を供給した。播種の12日後に、屋内のLED灯(そだ照るLEDシリーズ)の下に設置した。LED照射は長日設定で光量子は200PPEbであった。(午前6時点灯、午後8時消灯、14時間照射。ランプ下20cm)。同日を1週目の開始として、午前8時~9時の間にFC-Jの0.1% EtOH水溶液(FC-Jの濃度:0、0.3、3、30μM)を2枚の葉にマイクロピペットで滴下した(1週目:4μLずつ計8μL、2週目:8μLずつ計16μL、3週目:16μLずつ計32μL、4週目:16μLずつ4枚の葉に計64μL)。この作業を6日/週、4週間繰り返した。FC-Jの滴下の4週間後、植物の根を除去したのち、例6と同様の方法により、新鮮重、乾燥重を計測し統計処理した。
夫々の濃度のFC-Jを滴下された植物の8月25日の夫々のスポンジの写真を
図8Aに、9月28日の夫々の植物1個体の写真を
図8Bに示す。また、夫々の濃度のFC-Aを滴下された植物の4週間後の新鮮重および乾燥重についてのグラフを
図8Cに示す。Mockに対していずれの濃度のFC-Aにおいても、新鮮重、乾燥重ともに有意に増加していることが確認された。
【0040】
例9:水耕栽培セロリの生産増強に対するFC-Jの効果の検証
循環型水耕ベッドに定植した生育中期のセロリを1試験区4個体選抜し、4試験区とした。午前中にFC-Jの0.1% EtOH水溶液(FC-Jの濃度:0、0.3、3、30μM)を、植物全体にスプレー噴霧した(1~2週目2ml、3~4週目5ml、5週目10ml)。この作業を5日/週、6週間繰り返した。FC-Jのスプレー噴霧の6週間後、植物を解体し、例6と同様の方法により、新鮮重、乾燥重を計測し統計処理した。
0μMおよび30μMのFC-Jをスプレー噴霧した植物の噴霧6週間後の植物の写真を
図9Aに示す。左の写真が0μMのFC-J、右の写真が30μMのFC-Jをスプレー噴霧したものである。また、夫々の濃度のFC-Jをスプレー噴霧した植物の6週間後の主茎の重量および主茎乾燥重量を示すグラフを
図9Bに示す。
図9Bの縦軸は、夫々Mockを1としたときの相対値を示す。
これらの図より、FC-Jのいずれの濃度においても0μMの対照に比べて、主茎の重量および主茎乾燥重量ともに増加していることが確認された。
【0041】
例10:リン酸化レベル
H+-ATPaseのリン酸化したC末端配列を認識する抗体を用いて、FC類縁体のC末端から2番目のスレオニンのリン酸化レベルをウェスタンブロッティングにより検討した。
1.植物サンプルの作製
一晩暗所処理したCol-0(25~30日齢)の葉5枚を12mLディスポシリンジに加え、Mock、30μM FC-A、30μM FC-Jまたは30μM FC-H(夫々MQ中0.1%EtOH)を夫々2.5mL加えた。シリンジ先端から空気を抜き、指で塞ぎ、陰圧処理を行った。植物体が若干透明になったことを確認し、水をよく切った後、乳鉢に植物を置いた。500μLの1x破砕液(50mM MOPS-KOH(pH7.5)、100mM NaCl、2.5mM EDTA、10mM NaF、0.5mMモリブデン酸アンモニウム、2mM DTT、1xプロテアーゼ阻害剤カクテル)を氷上に置いた乳鉢に加え、乳棒で磨砕した。抽出液を1.5mLチューブに移した。ブラッドフォード法にて測定し、100μg/90μLにタンパク質濃度を調整して、植物サンプルとした。
【0042】
2.SDS可溶化
2xSDS(sample buffer 2% SDS、1mM EDTA、20%グリセロール、10mM Tris-HCl(pH6.8)、0.01% CBB、2.5mM NaF*、2x Protease Inhibitor*、80mM DTT*、なお*を付した試薬は後入れである)を作製し、90μLの植物サンプルを、110μLの2xSDSで可溶化した。植物サンプルを可溶化後、10,000g、25度、10分間の条件で遠心し、上清をすぐにSDS-PAGEに供した。AHA2(シロイヌナズナ膜H+-ATPase)を15μL、pThrを25μLアプライした。
【0043】
3.SDS-PAGEとウェスタンブロッティング
10%分離ゲルを作製し、150V、90分間で、SDS-PAGE(日本泳動またはBio-Rad)を行った。PVDFメンブレン(IPVH00010; MERCK)をMeOHで30分、親水化トランスバッファー(25mM Tris、192mMグリシン、20%メタノール)で30分平衡化した後に、転写装置(Bio-Rad)(150V、1.5時間)で転写を行った。その後、転写面を下向きにし、TBS-T(1M Tris-HCl(pH7.6)、5M NaCl、0.05%(v/v)Tween20)中の5%スキムミルクで30分間ブロッキングを行った。TBS-Tでメンブレンを5分間x3で洗浄し、TBS-T中の5%スキムミルクでanti cat AHA2 antibodyを3000~5000倍希釈し、anti GRF4 antibodyを3000倍希釈し、4℃、終夜で1次抗体反応を行った。TBS-Tでメンブレンを5分間x3で洗浄し、TBS-T中の5%スキムミルクでGoat Rabbit IgG HRP(0.1μL)を加え、室温で1時間2次抗体反応を行った。TBS-Tでメンブレンを5分間x3で洗浄し、イムノスターzeta(291-72401; wako)またはイムノスターLD(296-69901; wako)で、転写面を試薬に塗布しシグナルの検出を行った。メンブレンの撮影はVilber-Lourmat FUSION(M&S)を用いた。
【0044】
4.結果
結果は、例2:FC-A、FC-JおよびFC-Hによる気孔開度の促進の比較および例5:FC-A、FC-J、FC-HのPPI安定化能の結果を相関するものとなった。
ウェスタンブロットの結果を、
図10Aに示す。pThr947について、FC-AおよびFC-Jを加えた植物サンプルにおいて明確にバンドが生じた。MockおよびFC-Hを加えた植物サンプルではうっすらとしかバンドが生じなかった。AHA2については、いずれの植物サンプルにおいても明確にバンドが生じた。これらの結果から、AHA2についてのシグナル強度を、pThr947についてのシグナル強度で割ることにより、リン酸化レベルを算出した。
同様の実験をさらに2回繰り返した。合計3回の実験についての夫々のFC類縁体のリン酸化レベルを
図10Bのグラフに示す。このグラフから、いずれのFC類縁体もH
+-ATPaseのC末端Thrのリン酸化レベルを亢進する能力を有すること、およびFC-Hのリン酸化レベルの亢進がFC-AおよびFC-Jに比べて低いことが確認された。
【0045】
例11:蛍光偏光滴定試験
AHA2のリン酸化スレオニンを含むC末端7残基に蛍光色素導入したペプチド(FAM-TPSHYTpV-COOH)とシロイヌナズナ14-3-3タンパク質のアイソフォームの1つであるGRF4を用いた蛍光偏光滴定実験により、各FC類縁体存在下でのAHA2のC末端リン酸化ペプチドの見かけの解離定数を算出した。
96ウェルプレートに2μLの1μMのFAM-TPSHYTpV-COOH(最終濃度10nM)、GRF4(最終濃度0~1μM)および2μLの100μM FC(Mock、FC-A、FC-JまたはFC-H、最終濃度4μM)を加え、200μL/ウェルになるようにHEPESバッファー(10mM HEPES pH7.3、150mM NaCl、0.05%(v/v) Tween-20)を加えた。暗所で40rpm、37℃の条件で10分間インキュベートした後、プレートリーダー(Spectra Max M5; Molecular device)で蛍光偏光を測定した(機器設定:FP、Ex =470 Em = 525、Auto mix:once, High sensitivity:reading =100、37℃)。
FC-A、FC-JならびにFC-Hの構造式および見かけの解離定数を
図11Aに示す。構造式中網掛けとなっている部分は、14-3-3タンパク質とリン酸化リガンドとの相互作用に重要な化学構造を示す。また、夫々のFCを加えた際の測定された蛍光偏光を
図11Bに示す。FC-A、FC-JおよびFC-Hのいずれを加えた場合においても、Mockより高い偏光が確認された。これらの結果から、FC-A、FC-JおよびFC-Hのいずれの存在下においてもリン酸化ペプチドの14-3-3タンパク質への結合親和性が向上したということが確認された。
【0046】
例12:FC類縁体の生産増強効果
Col-0の種子とRO水を1.5mLチューブに加え、アルミホイルで遮光し、4℃で2泊3日間回転攪拌して春化処理を行った。培養土(種まき専用培養土、大石物産)とバーミュキュライト(ニッタイバーミュキュライト、ニッタイ株式会社)を1:1で配合した土をプランター(ミニプランター38型、Ricell)に約3L加え、播種し後、1000倍希釈したハイポネックスを受け皿から施肥した。播種より2~3日はラップで保湿し、それ以降は四つ角をあけて生育(白色灯で約130~150mmol/m2s、22~26℃、50~80%RH、明期16時間暗期8時間の長日条件)させた。月曜日に水道水1000倍希釈したハイポネックスを土が水分を吸収しなくなるまで与えた。
Mock、3μM FC-A、3μM FC-Jまたは3μM FC-H(夫々0.1% EtOH)を10日齢よりスプレー散布を開始し、10~14日齢までは1mL、15~19日齢までは2mL、20~24日齢までは3mLで処理した。25日齢の時点で新鮮重を測定し、2泊3日以上80℃で乾燥した後、乾燥重を測定した。
Mock、3μM FC-A、3μM FC-Jまたは3μM FC-Hをスプレー散布した植物の25日齢時の葉の写真を
図12Aに示す。また、夫々の植物の新鮮重および乾燥重についてのグラフを
図12Bに示す。Mockに対してFC-AおよびFC-Jをスプレー散布した植物において、新鮮重、乾燥重ともに有意に増加していることが確認された。
【0047】
例13:安定同位体比解析
例12に記載のMockまたはFC-Aをスプレー散布した植物の25日齢時の植物葉の炭素安定同位体比の値を、元素分析装置に接続した同位体質量分析装置(EA/IRMS、Delta V interfaced with FlashEA1112、Thermo Fisher Scientific、MA、USA)を用いて測定した。植物葉は、あらかじめ80℃で48時間以上乾燥させ、5mlのスクリューキャップ付きプラスチックチューブに直径5mmのステンレス球と共に詰め、浸透粉砕機(Tissue Lyser、Retsch, Haan、Germany)を用いて粉砕した。粉砕後の粉をサンプルとして約3mg量り取り、直径5mmの錫カップに入れ、空気を追い出しながら包み、測定時まで常温で保管した。測定時の条件設定は、キャリアガス流量100mL/分、燃焼炉温度1000℃、還元炉温度700℃、助燃ガス(酸素)導入時間5秒に設定した。炭素安定同位体比は、以下の式により計算した:δ13C=(Rサンプル/R標準試料-1)×1000(‰)。このとき、Rサンプルはサンプルの13C/12C比を示し、R標準試料は国際標準物質Peedee Belemniteの13C/12C比である。Mockはn=6、FC-Aはn=5について測定を行った。すべてのサンプルは2回測定し、その平均値を算出した。
算出したδ13Cを示すグラフを
図13に示す。FC-Aを噴霧した植物葉は、Mockを噴霧したものよりも低いδ13Cを示した。このことは、FC-Aによる継続的な処理により、累積的な12C量が増加し、相対的に13C量が減少したことを意味している。すなわち、FC-Aにより光合成が促進されたということが確認された。
【0048】
例14:水耕栽培レタスの生産増強に対するFC-Jの効果の検証
レタス種子を吸水させたスポンジに播種し、室温化暗所で発芽させた。発芽3日後に、植物体を水耕栽培装置(ボックス型)に等間隔に配置した(3個体/群、午前6時~午後10時ランプ点灯)。24時間後、FC-Jの0.1% EtOH水溶液(FC-Jの濃度:0、0.3、3、30μM)を、葉面にスプレー噴霧した(1個体あたり約0.1ml、月曜日、水曜日、金曜日の夫々午前9時に噴霧)。この作業を3日/週、10日間繰り返した。FC-Jのスプレー噴霧開始の10日間後、植物を収穫し、例6と同様の方法により、新鮮重、乾燥重を計測し統計処理した。
0μM、0.3μM、3μMまたは30μMのFC-Jをスプレー噴霧した植物の噴霧10日後の植物の写真を
図14Aに示す。左から順に0μM、0.3μM、3μMおよび30μMのFC-Jをスプレー噴霧したものである。また、夫々の濃度のFC-Jをスプレー噴霧した植物の10日後の植物の新鮮重および乾燥重を示すグラフを
図14Bに示す。
これらの図より、FC-Jを噴霧した植物は、対照に比べて、新鮮重および乾燥重ともに増加していることが確認された。
【0049】
例15:水耕栽培ネギの生産増強に対するFC-Jの効果の検証
ネギ種子を吸水させたスポンジに播種し、室温化暗所に設置した。設置4日後に、発芽率95%を確認した。設置10日後に、苗を水耕栽培装置(解放型)に等間隔に配置した(18個体/群、午前6時~午後10時ランプ点灯)。24時間後、FC-Jの0.1% EtOH水溶液(FC-Jの濃度:0、0.3、3、30μM)を、葉面にスプレー噴霧した(1群あたり約0.5ml、月曜日、水曜日、金曜日の夫々午前9時に噴霧)。この作業を3日/週、30日間繰り返した。FC-Jのスプレー噴霧開始の30日間後、植物を収穫し、例6と同様の方法により、新鮮重、乾燥重を計測し統計処理した。
0μMおよび3μMのFC-Jをスプレー噴霧した植物の噴霧30日後の植物の写真を
図15Aに示す。左の写真が0μMのFC-J、右の写真が30μMのFC-Jをスプレー噴霧したものである。また、0μM、0.3μM、3μMおよび30μMの濃度のFC-Jをスプレー噴霧した30日後の植物の新鮮重および乾燥重を示すグラフを
図15Bに示す。
これらの図より、FC-Jのいずれの濃度においても0μMの対照に比べて、新鮮重および乾燥重ともに増加していることが確認された。最も増加したのは3μMの濃度のときであり、新鮮重において33%増加したことを確認した。
【0050】
例16:FC-Aの効果継続時間
暗所処理した25日齢のCol-0の本葉に対して、Mockまたは30μM FC-A(夫々4μLx4)を滴下し、暗所でインキュベートした。本葉は夫々別個体の植物より3枚切り取り、表皮断片を取得した。
MQ(35mL)の入ったブレンダーカップ(MC-1)に、Col-0の本葉3枚をやさしくピンセットを用いて加えた。4つ折りにしたサランラップをブレンダーカップのふちにしわが入らないように被せてしっかりと固定した。ワーリングブレンダー(7011HS型、WARING社)をHighの設定にして、3秒x2で本葉を粉砕し、表皮断片を調製した。4つ折りにした58μmメッシュで覆った漏斗を用いて、ブレンドした本葉をろ過した。ブレンダーカップおよびサランラップに付着した粉砕片もMQを用いて回収した。メッシュ上に残った表皮断片を、スパチュラでやさしく掬い取り、MQ(100μL)を滴下したスライドグラスに乗せた。30個(1つの表皮断片につき5個x6枚)の気孔を蛍光・微分干渉顕微鏡(Axio image A2; Carl Zeiss)を用いて確認し、気孔開度をimage J Fijiで計測した。
Mock、FC-A夫々について、滴下後の時間ごとの気孔開度のグラフを
図16に示す。グラフの横軸は、滴下後の経過時間を、縦軸は、気孔開度を示す。滴下後約10時間まではFC-Aを滴下したものは、Mockよりも大きく気孔を開いていたが、滴下後約25時間においては、Mock、FC-A共に同程度の気孔開度となっていたことが確認された。このことから、植物に投与されたフシコクシンの効果は、時間の経過と共に消失することが示唆される。