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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022013222
(43)【公開日】2022-01-18
(54)【発明の名称】レール
(51)【国際特許分類】
   E01B 31/17 20060101AFI20220111BHJP
   C21D 9/04 20060101ALI20220111BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20220111BHJP
   G01N 3/56 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
E01B31/17
C21D9/04 A
G01N3/32 C
G01N3/56 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115639
(22)【出願日】2020-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辻江 正裕
(72)【発明者】
【氏名】曄道 佳明
【テーマコード(参考)】
2D057
2G061
4K042
【Fターム(参考)】
2D057BA26
2G061AA20
2G061AB01
2G061BA03
2G061CA02
2G061CB02
2G061DA11
4K042AA04
4K042BA03
4K042CA15
4K042DA00
(57)【要約】
【課題】既存のレールであって、JIS規格のレールにおいて発生する亀裂を抑制することができること。
【解決手段】この発明は、曲線区間に敷設される外側のレールR3であって、レールR3の頭部1のうち、ゲージコーナ5側の一部分には、レール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状に変形された予測摩耗変形部分8が、形成されている。この結果、この発明は、既存のレールであって、JIS規格のレールにおいて発生する亀裂を抑制することができる。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲線区間に敷設される外側のレールであって、
前記レールの頭部のうち、ゲージコーナ側の一部分には、JIS規格のレールの断面形状に対して、レール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状に変形された予測摩耗変形部分が、形成されている、
ことを特徴とするレール。
【請求項2】
前記予測摩耗変形部分は、JIS規格のレールの断面形状に対して、車輪との接触点から垂直方向に約0.19mm以上の深さの摩耗形状に変形されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のレール。
【請求項3】
前記予測摩耗変形部分は、曲率半径が約13.8mm以上の円弧に、形成されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のレール。
【請求項4】
前記レールは、半径が600mから1000mまでの曲線区間に敷設される外側のレールである、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のレール。
【請求項5】
前記レールは、熱処理レールである、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレール。
【請求項6】
前記予測摩耗変形部分は、前記レールが曲線区間の外側に敷設された後に、前記レールを走行する台車に装備された砥石片の研削作用により、形成される、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のレール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、曲線区間に敷設される外側のレール(外側レール、外軌)に関する。
【背景技術】
【0002】
レール、特に、曲線区間に敷設された外側のレールにおいて発生する亀裂を抑制する対策として、下記の特許文献1、特許文献2がある。なお、亀裂については、後記する。また、亀裂は、ゲージコーナ亀裂、ゲージコーナシェリング、シェリング、ヘビーシェリング損傷、シェリング傷、損傷などの呼び方がある。
【0003】
下記の特許文献1、特許文献2にも記載の通り、レールにおいて亀裂が発生することは、知られている。この亀裂は、特に、曲線区間の外側に敷設されたレールの頭部のうち、ゲージコーナ(GC)側の部分において、発生する。
【0004】
このレールにおいて発生する亀裂を抑制する対策として、特許文献1は、レール中の全酸素濃度を30ppm以下として、酸化物系介在物を少なくして、耐ヘビーシェリング損傷性に優れたレールを提供して、レールにおいて発生する亀裂を抑制するものである。
【0005】
特許文献2は、レールの頭頂から深さ10mmの領域におけるミクロ組織を、ラメラー間隔0.08~0.25μmのパーライト組織として、耐摩耗性と耐表面損傷性とに優れるレールを提供して、レールにおいて発生する亀裂を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-22065号公報
【特許文献2】特開2010-185106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のレールおよび特許文献2に記載のレールは、レールの素材を改良して、レールにおいて発生する亀裂を抑制するものである。このため、特許文献1に記載のレールおよび特許文献2に記載のレールは、既存のレールの素材であって、JIS規格のレールにおいて発生する亀裂を抑制することができない。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、既存のレールの素材であって、JIS規格のレールにおいて発生する亀裂を抑制することができるレールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のレールは、曲線区間に敷設される外側のレールであって、レールの頭部のうち、ゲージコーナ側の一部分には、JIS規格のレールの断面形状に対して、レール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状に変形された予測摩耗変形部分が、形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
この発明のレールにおいて、予測摩耗変形部分が、JIS規格のレールの断面形状に対して、車輪との接触点から垂直方向に約0.19mm以上の深さの摩耗形状に変形されている、ことが好ましい。
【0011】
この発明のレールにおいて、予測摩耗変形部分が、曲率半径が約13.8mm以上の円弧に、形成されている、ことが好ましい。
【0012】
この発明のレールにおいて、レールが、半径が600mから1000mまでの曲線区間に敷設される外側のレールである、ことが好ましい。
【0013】
この発明のレールにおいて、レールが、熱処理レールである、ことが好ましい。
【0014】
この発明のレールにおいて、予測摩耗変形部分が、レールが曲線区間の外側に敷設された後に、レールを走行する台車に装備された砥石片の研削作用により、形成される、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明のレールは、既存のレールであって、JIS規格のレールにおいて発生する亀裂を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、この発明にかかるレールの実施形態を示す使用状態図(レールと車輪とが接触している状態の説明図)である。
図2図2は、外側のレールにおける車輪との接触面積の大小を示す説明図である。
図3図3は、JIS規格の60kgレールの頭部を示す一部拡大断面説明図である。
図4図4は、この実施形態にかかるレールの頭部を示す一部拡大断面説明図である。
図5図5は、レール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状を示すレールの頭部の一部拡大断面説明図である。
図6図6は、レール摩耗形状予測モデルにおけるレール断面形状更新回数とレールの曲面の半径(円弧の曲率半径)との相対関係を示す説明図である。
図7図7は、レール摩耗形状予測モデルにおけるレール断面形状更新回数と接触面積との相対関係を示す説明図である。
図8図8は、レール摩耗形状予測モデルにおけるレール断面形状更新回数と接触面圧との相対関係を示す説明図である。
図9図9は、亀裂が発生したレールを示す説明図(撮像データに基づいて作図した説明図)である。
図10図10は、亀裂により破断したレールを示す説明図(撮像データに基づいて作図した説明図)である
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明にかかるレールの実施形態(実施例)の1例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図1から図5は、概略図であって、断面のハッチングが省略されている。また、図9および図10は、撮像データに基づいて作図した図であるから、不鮮明な箇所がある。
【0018】
図5において、横軸の原点(0)は、レールR1、Rの中心である。負方向は、軌間内(ゲージコーナ5、GC)側である。正方向は、軌間外(FC)側である。縦軸の原点(0)は、レールR1、Rの頭頂面(頭頂部7の面)である。負方向は、レールR1、Rの底部3方向側である。
【0019】
(実施形態の構成の説明)
以下、この実施形態にかかるレールR1の構成について説明する。この実施形態にかかるレールR1は、曲線区間に敷設される外側のレールである。この外側のレールR1は、図1に示すように、内側のレール(内側レール、内軌)R2と共に、半径が600mから1000mまでの曲線区間、特に、半径が800mの曲線区間において敷設される。
【0020】
外側のレールR1および内側のレールR2は、共に、頭部1と、腹部2と、底部3と、から構成されている。外側のレールR1および内側のレールR2は、共に、既存のレールであって、JIS規格の60kgレールR(図2図3および図5を参照)を使用する。外側のレールR1および内側のレールR2は、共に、JIS規格の60kgレールRであって、熱処理レール(頭部全断面熱処理レール)を使用する。
【0021】
外側のレールR1および内側のレールR2の頭部1には、車輪Wの踏面4がそれぞれ接触している。外側のレールR1および内側のレールR2のゲージコーナ(GC)5側には、車輪Wのフランジ6が位置する。車輪Wの踏面4と外側のレールR1、Rの頭部1(頭頂部7の面であって頭頂面)とは、点P(図3および図4を参照)において、相互に接触している。
【0022】
なお、図3に示すJIS規格の60kgレールRであって、外側のレールRの断面形状において、外側のレールRの頭部1(この例では、頭頂部7)のうち、ゲージコーナ5側の一部分(車輪Wと接触する箇所)の曲率半径(曲面の半径)rは、約13mmである。一方、車輪Wの外側レールR(R1)と接触する箇所の曲率半径(曲面の半径)は、約14mmである。このため、図3に示すJIS規格の60kgレールRであって、外側のレールRと車輪Wとは、シビア接触の状態で接触している。
【0023】
(予測摩耗変形部分8の説明)
図4に示すように、外側のレールR1の頭部1(この例では、頭頂部7)のうち、ゲージコーナ5側の一部分(車輪Wと接触する箇所)には、JIS規格のレールRの断面形状(図3および図4中の二点鎖線を参照)に対して、後記のレール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状に変形された予測摩耗変形部分8が、形成されている。
【0024】
予測摩耗変形部分8は、新品もしくは新品に近いJIS規格のレールRの頭部1のうち、ゲージコーナ5側の一部分の形状を、車輪Wとの接触がなじんで車輪Wとのシビア接触が緩和されるように、補正(矯正、修正)するものである。
【0025】
予測摩耗変形部分8は、JIS規格のレールRの断面形状(図3および図4中の二点鎖線を参照)に対して、車輪Wとの接触点Pから垂直方向(深さ方向)に約0.19mm以上の深さの摩耗形状、この例では、約0.19mmから約0.43mmまでの深さの摩耗形状に変形されている(図5を参照)。
【0026】
予測摩耗変形部分8は、曲率半径(曲面の半径)r1が約13.8mm以上の円弧、この例では、約13.82mmから約13.95mmまでの円弧に、形成されている(図6を参照)。
【0027】
予測摩耗変形部分8は、外側のレールR1が敷設された後に、外側のレールR1を走行する台車(図示せず)に装備された砥石片(図示せず)の研削作用により、形成される。この台車および砥石片は、この出願人が先に特許出願したレール削正車(特開2007-224608号公報、特開2009-215764号公報)などを使用する。
【0028】
(レール摩耗形状予測モデルの説明)
レール摩耗形状予測モデルは、この出願人が先に特許出願したきしみ割れ推定装置及びきしみ割れ推定方法(特開2019-178944号公報)である。レール摩耗形状予測モデルは、まず、あらかじめ用意した車両・軌道のデータをもとに、「SIMPACK」上にシミュレーションモデルを作成する。作成したモデルにおいて走行シミュレーションを行い、車輪/レールの接触状況を逐次算出する。そして、その接触状態から、それぞれの個所におけるレールの摩耗量を計算する。算出されたレールの摩耗量をもとに、それぞれの個所におけるレールの摩耗断面形状を作成し、モデル上に更新させる。この手順を繰り返し計算することで、それぞれの個所毎にレールの断面形状の変化を求めることができる、ものである。
【0029】
(更新回数による摩耗の深さ・幅の変化の説明)
以下、前記のレール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状において、更新回数による摩耗の深さ・幅の変化について、図5を参照して説明する。図5は、前記のレール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状を示すレールの頭部の一部拡大断面説明図である。
【0030】
ここで、前記のレール摩耗形状予測モデルにおける更新は、この例では、10000のスケーリング係数とする。すなわち、走行シミュレーションにおいて、車両が軌道上を10000回走行した時点で、更新される。
【0031】
図5の横軸は、レールR1、Rの頭幅(頭部1の幅)であり、単位は、mmである。図5の縦軸は、レールR1、Rの頭部1の高さであり、単位は、mmである。なお、摩耗の深さを、摩耗の幅に対して、顕著に表現するために、縦軸の長さを横軸の長さの100分の1とする。
【0032】
新品のJIS規格の60kgレールRにおいては、摩耗が無い。
1回の更新においては、深さが約0.06mm、幅が約9mmの摩耗(図5中の実線を参照)が予測される。
5回の更新においては、深さが約0.19mm、幅が約13mmの摩耗(図5中の破線を参照)が予測される。
10回の更新においては、深さが約0.29mm、幅が約18mmの摩耗(図5中の一点鎖線を参照)が予測される。
15回の更新においては、深さが約0.36mm、幅が約20mmの摩耗(図5中の二点鎖線を参照)が予測される。
20回の更新においては、深さが約0.43mm、幅が約22mmの摩耗(図5中の三点鎖線を参照)が予測される。
【0033】
この図5から明らかなように、5回の更新以降における摩耗の深さ・幅の変化は、小さい。このため、5回の更新は、予測摩耗変形部分8を形成する1つの目安となる。すなわち、予測摩耗変形部分8を、JIS規格のレールRの断面形状に対して、車輪Wとの接触点Pから垂直方向(深さ方向)に約0.19mm以上の深さの摩耗形状に、変形させることが好ましい。
【0034】
(更新回数による曲面の半径の変化の説明)
以下、前記のレール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状において、更新回数による曲面の半径の変化について、図6を参照して説明する。図6は、レール摩耗形状予測モデルにおけるレール断面形状更新回数とレールの曲面の半径(円弧の曲率半径)との相対関係を示す説明図である。
【0035】
図6の横軸は、レール断面形状更新回数である。図6の縦軸は、レールR1、Rの曲面の半径、すなわち、レールR1、Rの頭頂面であって、車輪Wの踏面4が接触する部分の円弧の曲率半径であり、単位は、mmである。
【0036】
新品のJIS規格の60kgレールRにおいては、曲面の半径が約13.00mmである。
1回の更新においては、曲面の半径が約13.10mmである。
5回の更新においては、曲面の半径が約13.82mmである。
10回の更新においては、曲面の半径が約13.91mmである。
15回の更新においては、曲面の半径が約13.93mmである。
20回の更新においては、曲面の半径が約13.95mmである。
【0037】
この図6から明らかなように、5回の更新以降における曲面の半径の変化は、小さい。このため、5回の更新は、予測摩耗変形部分8を形成する1つの目安となる。すなわち、予測摩耗変形部分8を、曲率半径が約13.8mm以上の円弧に、形成することが好ましい。
【0038】
(更新回数による接触面積の変化の説明)
以下、前記のレール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状において、更新回数による接触面積の変化について、図7を参照して説明する。図7は、レール摩耗形状予測モデルにおけるレール断面形状更新回数と接触面積との相対関係を示す説明図である。
【0039】
図7の横軸は、レール断面形状更新回数である。図7の縦軸は、レールR1、Rの頭頂面と車輪Wの踏面4との接触面積であり、単位は、mmである。
【0040】
新品のJIS規格の60kgレールRにおいては、接触面積S(図2を参照)が約65mmである。
1回の更新においては、接触面積が約68mmである。
5回の更新においては、接触面積S1(図2を参照)が約120mmである。
10回の更新においては、接触面積が約145mmである。
15回の更新においては、接触面積が約156mmである。
20回の更新においては、接触面積が約160mmである。
【0041】
この図7から明らかなように、5回の更新以降における接触面積の変化は、小さい。このため、5回の更新は、予測摩耗変形部分8を形成する1つの目安となる。すなわち、予測摩耗変形部分8を、前記のレール摩耗形状予測モデルの5回の更新により予測した摩耗形状に、形成することにより、レールR1と車輪Wとの接触面積S1を、新品のJIS規格の60kgレールRと車輪Wとの接触面積Sよりも、大きく(広く)することができる。
【0042】
(更新回数による接触面圧の変化の説明)
以下、前記のレール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状において、更新回数による接触面圧の変化について、図8を参照して説明する。図8は、レール摩耗形状予測モデルにおけるレール断面形状更新回数と接触面圧との相対関係を示す説明図である。
【0043】
図8の横軸は、レール断面形状更新回数である。図8の縦軸は、レールR1、Rの頭頂面における車輪Wからの接触面圧であり、単位は、MPaである。
【0044】
新品のJIS規格の60kgレールRにおいては、接触面圧が約1200MPaである。
1回の更新においては、接触面圧が約1160MPaである。
5回の更新においては、接触面圧が約680MPaである。
10回の更新においては、接触面圧が約525MPaである。
15回の更新においては、接触面圧が約500MPaである。
20回の更新においては、接触面圧が約480MPaである。
【0045】
この図8から明らかなように、5回の更新以降における接触面圧の変化は、小さい。このため、5回の更新は、予測摩耗変形部分8を形成する1つの目安となる。
すなわち、予測摩耗変形部分8を、前記のレール摩耗形状予測モデルの5回の更新により予測した摩耗形状に、形成することにより、レールR1にかかる車輪Wの接触面圧を、新品のJIS規格の60kgレールRにかかる車輪Wの接触面圧よりも、小さく(低く)することができる。
【0046】
(亀裂9の説明)
以下、レールR3の亀裂9の発生について図9および図10を参照して説明する。なお、図9および図10においては、亀裂9の大きさを示すために、目盛が付されている。
【0047】
図9および図10に示すレールR3は、図3に示す既存のレールの素材であって、JIS規格の60kgレール(熱処理レール)Rである。図9および図10に示すレールR3において、特に、曲線区間に敷設された外側のレールR3の頭部1のうち、ゲージコーナ5側の部分においては、車輪Wとの接触により、摩耗と傷とが発生する。ここで、急曲線区間(例えば、半径が600m未満の曲線区間)に敷設された外側のレールの場合は、摩耗の発生速度が傷の発生速度に対して速いので、レールにおいて発生した傷がレールの摩耗により削られて消える。このため、実質的には、レールにおいては、傷が発生しない。
【0048】
逆に、緩曲線区間(例えば、半径が600m以上の曲線区間)に敷設された外側のレールR3の場合は、摩耗の発生速度が傷の発生速度に対して遅いので、レールR3において発生した傷がレールR3の摩耗により削られずに進展する。このため、レールR3においては、傷が発生する。この傷は、図9および図10に示すように、経時的に、進展して亀裂9となる。
【0049】
この亀裂9は、図10に示すように、レールR3の表面において発生した亀裂9の起点10(図10中、三角形を参照)からレールR3の長手方向で、列車の進行方向(図10中、白色矢印11)に向かって進展する(図10中、黒色矢印12を参照)。さらに、亀裂9は、レールR3の長手方向に対してレールR3の内部方向に枝分かれして進展する(図10中、白色矢印13を参照)。この結果、レールR3において、亀裂9が発生する。なお、図10において、黒色矢印12が付されている部分は、レールR3の表面が剥離された部分を示す。
【0050】
この亀裂9は、レールR3と車輪Wとのシビアな接触、すなわち、接触面圧が高い接触により発生するものである。また、レールR3として、摩耗の進行を抑えた熱処理レール(高強度・高硬度のレール)を使用することにより、摩耗の発生速度が傷の発生速度に対してさらに遅くなるので、亀裂9の発生が顕著化している。
【0051】
(実施形態の効果の説明)
この実施形態にかかるレールR1は、以上のごとき構成からなり、以下、その効果について説明する。
【0052】
この実施形態にかかるレールR1は、頭部1(この例では、頭頂部7)のうち、ゲージコーナ5側の一部分に、JIS規格のレールRの断面形状に対して、レール摩耗形状予測モデルにより予測した摩耗形状に変形された予測摩耗変形部分8を、形成したものである。すなわち、この実施形態にかかるレールR1は、頭部1のゲージコーナ5側の一部分を、予測摩耗変形部分8により、予め摩耗させたものであるから、車輪Wとの接触がなじみ、車輪Wとのシビアな接触が緩和される。
【0053】
これにより、この実施形態にかかるレールR1は、図2および図7に示すように、車輪Wとの接触面積S1(図2を参照)を、JIS規格のレールRと車輪Wとの接触面積S(図2を参照)に対して、大きくすることができる。この結果、この実施形態にかかるレールR1は、図8に示すように、車輪Wからかかる接触面圧を、JIS規格のレールRにおける車輪Wからかかる接触面圧よりも小さくすることができる。以上から、この実施形態にかかるレールR1は、JIS規格のレールRよりも、亀裂9の発生を抑制することができる。
【0054】
しかも、この実施形態にかかるレールR1は、既存のレールであって、JIS規格の60kgレールRを使用して、頭部1のゲージコーナ5側の部分に予測摩耗変形部分8を形成するだけのものである。この結果、この実施形態にかかるレールR1は、前記の特許文献1のレールおよび特許文献2のレールと違い、既存のレールであって、JIS規格のレールRにおいて発生する亀裂9を抑制することができる。
【0055】
この実施形態にかかるレールR1は、予測摩耗変形部分8を、JIS規格のレールRの断面形状に対して、車輪Wとの接触点Pから垂直方向に約0.19mm以上の深さの摩耗形状に、変形させたものである。すなわち、この実施形態にかかるレールR1は、車輪Wとの接触がなじみ、車輪Wとのシビアな接触が緩和される。
【0056】
これにより、前記の通り、この実施形態にかかるレールR1は、図7に示すように、接触面積S1を、JIS規格のレールRの接触面積Sに対して、大きくすることができる。この結果、この実施形態にかかるレールR1は、図8に示すように、接触面圧を、JIS規格のレールRにおける接触面圧よりも小さくすることができる。以上から、この実施形態にかかるレールR1は、JIS規格のレールRよりも、亀裂9の発生を抑制することができる。
【0057】
この実施形態にかかるレールR1は、予測摩耗変形部分8を、曲率半径が約13.8mm以上の円弧に、形成したものである。この結果、この実施形態にかかるレールR1は、予測摩耗変形部分8の曲率半径を、車輪Wの踏面4の曲率半径約14mm(R14)に、近似させることができる。すなわち、この実施形態にかかるレールR1は、車輪Wとの接触がなじみ、車輪Wとのシビアな接触が緩和される。
【0058】
これにより、この実施形態にかかるレールR1は、前記の通り、車輪Wとの接触面積を大きくすることができるので、車輪Wとの接触面圧を小さくすることができ、亀裂9の発生を抑制することができる。
【0059】
この実施形態にかかるレールR1は、半径が600mから1000mまで、特に、800mの曲線区間に敷設される外側のレールである。すなわち、半径が600m以上の緩曲線区間に敷設される外側のレールR3のように、摩耗の発生速度が傷の発生速度に対して遅く、レールR3において発生した傷がレールR3の摩耗により削られずに進展するようなレールR3に、この実施形態にかかるレールR1を使用することは、亀裂9の発生を抑制する点において、最適である。
【0060】
この実施形態にかかるレールR1は、熱処理レールである。すなわち、摩耗の発生速度が抑制されて、レールR3において発生した傷がレールR3の摩耗により削られずに進展するような熱処理レール(レールR3)に、この実施形態にかかるレールR1を使用することは、亀裂9の発生を抑制する点において、最適である。
【0061】
この実施形態にかかるレールR1は、レールR1が曲線区間の外側に敷設された後に、レールR1を走行する台車に装備された砥石片の研削作用により、予測摩耗変形部分8を形成するものである。この結果、この実施形態にかかるレールR1は、予測摩耗変形部分8を容易に形成することができる。
【0062】
しかも、この実施形態にかかるレールR1は、鉄道事業側において、予測摩耗変形部分8を形成することができる。
【0063】
なお、この実施形態にかかるレールR1のように、予測摩耗変形部分8を形成するのは、レールRが曲線区間の外側に敷設された直後が最も好ましいが、敷設後数ヵ月経過後であっても良い。
【0064】
(実施形態以外の例の説明)
なお、この発明のレールは、前記の実施形態により限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1 頭部
2 腹部
3 底部
4 踏面
5 ゲージコーナ
6 フランジ
7 頭頂部
8 予測摩耗変形部分
9 亀裂
10 亀裂9の起点
11 列車の進行方向
12 亀裂9の列車の進行方向11に向かった進展状態
13 亀裂9のレールRの長手方向に対してレールR内部方向に枝分かれした進展状態
P レールR1、Rと車輪Wとの接触点
R レール(既存のレールの素材であって、JIS規格の60kgレール、熱処理レー
ル、曲線区間に敷設される外側のレール)
R1 レール(実施形態にかかるレール、曲線区間に敷設される外側のレール)
R2 レール(曲線区間に敷設される内側のレール)
R3 レール(曲線区間に敷設される外側のレールであって、亀裂9が発生したレール)
r 外側のレールRの一部分(車輪Wと接触する箇所)の曲率半径(曲面の半径)
r1 予測摩耗変形部分8の曲率半径(曲面の半径)
S レールRと車輪Wとの接触面積
S1 レールR1と車輪Wとの接触面積
W 車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10