(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132285
(43)【公開日】2022-09-08
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/111 20150101AFI20220901BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220901BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220901BHJP
【FI】
G02B1/111
C09D183/04
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099463
(22)【出願日】2022-06-21
(62)【分割の表示】P 2019054485の分割
【原出願日】2018-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018023182
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】日下 哲
(57)【要約】
【課題】フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要とせず、低屈折率コーティングに有利な膜を提供する。
【解決手段】膜(1)は、中空粒子(10)と、バインダー(20)とを備えている。中空粒子は、1.15~2.70の屈折率を有する材料でできている。バインダー(20)は、少なくともポリシルセスキオキサンによって形成され、中空粒子(10)を結着する。膜(1)は、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件を満たす。Iaは、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた全反射測定法によって決定される、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基に由来する吸光度である。Ibは、ケイ素原子と非反応性官能基との結合に由来する吸光度である。Icは、ケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸光度である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.15~2.70の屈折率を有する材料でできた中空粒子と、
少なくともポリシルセスキオキサンによって形成され、前記中空粒子を結着するバインダーと、を備え、
フーリエ変換赤外分光光度計を用いた全反射測定法によって決定される、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基に由来する吸光度、ケイ素原子と非反応性官能基との結合に由来する吸光度、及びケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸光度を、それぞれ、Ia、Ib、及びIcと表すときに、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件を満たす、
膜。
【請求項2】
Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の条件をさらに満たす、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記全反射測定法によって決定される、1つの酸素原子と2つのケイ素原子との結合に由来する、第一吸光度、第二吸光度、及び第三吸光度をそれぞれId、Ie、及びIfと表すとき、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の少なくとも1つの条件を満たし、
前記第一吸光度Idは、第一波数に対応し、
前記第二吸光度Ieは、前記第一波数より大きい第二波数に対応し、
前記第三吸光度Ifは、前記第二波数より大きい第三波数に対応する、
請求項1又は2に記載の膜。
【請求項4】
Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の条件をさらに満たす、請求項3に記載の膜。
【請求項5】
前記ポリシルセスキオキサンは、16個以下の炭素原子を含む炭化水素基が前記非反応性官能基としてケイ素原子に結合しているポリシルセスキオキサンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の膜。
【請求項6】
前記中空粒子は、10~150nmの平均粒子径を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の膜。
【請求項7】
前記中空粒子は、シリカ、フッ化マグネシウム、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1つでできている、請求項1~6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項8】
1.35以下の屈折率を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の膜。
【請求項9】
液状組成物であって、
1.15~2.70の屈折率を有する材料でできた中空粒子と、
ポリシルセスキオキサンと、
溶媒と、を含有し、
当該液状組成物を基板に塗布し当該液状組成物を硬化させて得られた硬化物において、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた全反射測定法によって決定される、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基に由来する吸光度、ケイ素原子と非反応性官能基との結合に由来する吸光度、及びケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸光度を、それぞれ、Ia、Ib、及びIcと表すときに、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件を満たす、
液状組成物。
【請求項10】
前記硬化物において、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の条件をさらに満たす、請求項9に記載の液状組成物。
【請求項11】
前記硬化物において、前記全反射測定法によって決定される、1つの酸素原子と2つのケイ素原子との結合に由来する、第一吸光度、第二吸光度、及び第三吸光度をそれぞれId、Ie、及びIfと表すとき、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の少なくとも1つの条件を満たし、
前記第一吸光度Idは、第一波数に対応し、
前記第二吸光度Ieは、前記第一波数より大きい第二波数に対応し、
前記第三吸光度Ifは、前記第二波数より大きい第三波数に対応する、
請求項9又は10に記載の液状組成物。
【請求項12】
前記硬化物において、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の条件をさらに満たす、請求項11に記載の液状組成物。
【請求項13】
前記ポリシルセスキオキサンは、16個以下の炭素原子を含む炭化水素基が前記非反応性官能基としてケイ素原子に結合しているポリシルセスキオキサンである、請求項9~12のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項14】
前記中空粒子は、10~150nmの平均粒子径を有する、請求項9~13のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項15】
前記中空粒子は、シリカ、フッ化マグネシウム、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1つでできている、請求項9~14のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか1項に記載の膜を備えた、光学素子。
【請求項17】
請求項16に記載の光学素子を備えた、撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折率コーティングに有利な膜及び液状組成物に関する。加えて、本発明は、光学素子及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射防止の観点から低い屈折率を有する材料を用いたコーティング(低屈折率コーティング)を行うこと、及び、低屈折率コーティング用の組成物が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、反射防止コーティング組成物が記載されている。このコーティング組成物は、所定のシラン化合物とフルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物とが重合されて形成されたバインダーと、中空シリカ粒子とを含む。加えて、特許文献1及び2には、このコーティング組成物が基材の表面にコーティングされて形成された低屈折率層を含む反射防止フィルムが記載されている。
【0004】
特許文献3には、透明基材、高屈折層、及び低屈折層の積層構造を有する反射防止フィルムが記載されている。低屈折層は、所定のシラン化合物とフルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物とが重合されて形成されたバインダーと、中空シリカ粒子とを含む。
【0005】
特許文献4には、反射防止膜を有する光学部材及びその製造方法が記載されている。その製造方法は、基材上に、粒子と分散媒を含有する分散液を塗工する工程を有する。その製造方法は、分散液を塗工する工程の後に、バインダーを形成する成分を含有する溶液を塗工して、先に塗工された分散液に含まれる粒子の間に溶液を浸透させて粒子間にバインダーが充填された単一の層を形成する工程をさらに有する。その製造方法は、層を乾燥させて反射防止膜を作製する工程をさらに有する。その溶液は、平均粒子径が8nm以上60nm以下のシランアルコキシ縮合物を含有し、かつ、水の溶解度が10重量%以下の溶媒を70質量%以上含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2015-534104号公報
【特許文献2】特表2015-536477号公報
【特許文献3】特表2015-535617号公報
【特許文献4】特開2017-167271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に記載の技術によれば、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物が必要である。特許文献4に記載の技術によれば、先に塗工された分散液に含まれる粒子の間にシランアルコキシ縮合物を含有する溶液を浸透させる必要があり、光学部材の製造方法が煩雑である。そこで、本発明は、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要とせず、低屈折率コーティングに有利な膜を提供する。加えて、本発明は、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要とせず、低屈折率コーティングを簡素になし得る液状組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
1.15~2.70の屈折率を有する材料でできた中空粒子と、
少なくともポリシルセスキオキサンによって形成され、前記中空粒子を結着するバインダーと、を備え、
フーリエ変換赤外分光光度計を用いた全反射測定法(ATR法)によって決定される、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基に由来する吸光度、ケイ素原子と非反応性官能基との結合に由来する吸光度、及びケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸光度を、それぞれ、Ia、Ib、及びIcと表すときに、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件を満たす、
膜を提供する。
【0009】
また、本発明は、
液状組成物であって、
1.15~2.70の屈折率を有する材料でできた中空粒子と、
ポリシルセスキオキサンと、
溶媒と、を含有し、
当該液状組成物を基板に塗布し当該液状組成物を硬化させて得られた硬化物において、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた全反射測定法によって決定される、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基に由来する吸光度、ケイ素原子と非反応性官能基との結合に由来する吸光度、及びケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸光度を、それぞれ、Ia、Ib、及びIcと表すときに、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件を満たす、
液状組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、
上記の膜を備えた、光学素子を提供する。
【0011】
また、本発明は、
上記の光学素子を備えた、撮像装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記の膜は、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要とせず、低屈折率コーティングに有利である。上記の液状組成物はフルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要としない。加えて、上記の液状組成物を用いて低屈折率コーティングを簡素になし得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る膜の一例の構造を概念的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る膜を用いて低屈折率コーティングがなされた反射防止構造の一例を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明に係る膜を用いて低屈折率コーティングがなされた別の反射防止構造の一例を示す断面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明に係る膜を用いて低屈折率コーティングがなされたさらに別の反射防止構造の一例を示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明に係る撮像装置の一例を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明に係る撮像装置の別の一例を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、撮像装置のカバーの一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、撮像装置のIRカットフィルタの一例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明に係る撮像装置のさらに別の一例における光学系を示す側面図である。
【
図8】
図8は、実施例1に係る膜のATR法によって得られた吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図9】
図9は、比較例1に係る膜のATR法によって得られた吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1、7、10、及び11に係る反射防止構造の反射スペクトルを示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例12及び13に係る反射防止構造の反射スペクトルを示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例14、15、及び16に係る反射防止構造の反射スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特許文献1~3に記載の技術によれば、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物が必要である。このため、本発明者らは、特許文献1~3に記載の技術において、コーティング液が水を溶媒(分散媒)として含有していると、フルオロアルキル基の撥水性によりコーティング液中で相分離が起こると考えた。このため、特許文献1~3の技術によれば、本発明者らは、均一なコーティング液を得るために界面活性剤等の添加剤を加える必要があると考えた。加えて、本発明者らは、特許文献1~3に記載の技術は、フルオロアルキル基の撥水性及び撥油性により、親水性のガラス基板及び疎水性(親油性)の樹脂基板に対するコーティング液の濡れ性が低く、コーティング液の基板への塗工においてコーティング液が基板上ではじかれやすいと考えた。また、本発明者らは、特許文献4に記載の技術によれば、粒子を含む分散液が塗工された後にシランアルコキシ縮合物を含有する溶液を粒子の間に浸透させる必要があり、煩雑な工程を要すると考えた。そこで、本発明者らは、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要としない低屈折率コーティングに有利な膜を開発すべく日夜検討を重ねた。その結果、本発明者らは、本発明に係る膜を案出した。加えて、本発明者らは、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要とせず、低屈折率コーティングを容易になし得る液状組成物を案出した。
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明は以下に説明されたものに限定されない。
【0016】
図1に示す通り、膜1は、中空粒子10と、バインダー20とを備えている。中空粒子10は、1.15~2.70の屈折率を有する材料でできている。バインダー20は、少なくともポリシルセスキオキサンによって形成され、中空粒子10を結着する。膜1において、フーリエ変換赤外分光光度計を用いた全反射測定法(ATR法)によって決定される、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基に由来する吸光度、ケイ素原子と非反応性官能基との結合に由来する吸光度、及びケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸光度を、それぞれ、Ia、Ib、及びIcと表す。膜1は、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件を満たす。本明細書において、Ib/Iaを有機無機パラメータ(D)とも呼び、Ib/Icを疎水パラメータ(H)とも呼ぶ。吸光度Ia、吸光度Ib、及び吸光度Icは、例えば、ATR法によって得られた吸収スペクトルから実施例に記載の方法に従って決定できる。
【0017】
有機無機パラメータ(D)は、バインダー20に含まれるケイ素原子に直接結合していない炭化水素基の量が少ないほど大きくなる。バインダー20に含まれるケイ素原子に直接結合していない炭化水素基の量が少ないと、バインダー20におけるSi-O-Siのネットワークが緻密であり、かつ、バインダー20における無機成分の密度が高くなる。これにより、中空粒子10がSi-O-Siのネットワークによって強固に固定される。このため、膜1においてIb/Ia≧0.7であれば、膜1において中空粒子10が強固
に固定され、膜1が低屈折率コーティングに有利な特性を有する。膜において中空粒子の固定が十分でないと膜の機械的強度が低下する可能性がある。
【0018】
疎水パラメータ(H)は、バインダー20においてケイ素原子に結合しているヒドロキシ基が少ないほど大きくなる。例えば、バインダー20の原料において、ヒドロキシ基同士が縮合してSi-O-Siからなるネットワークが発達すると、バインダー20においてケイ素原子に結合しているヒドロキシ基が少なくなる。疎水パラメータ(H)が所定値以上であれば、バインダー20において、Si-O-Siからなるネットワークが緻密に発達しており、このネットワークによって中空粒子10を強固に固定できる。このため、膜1においてIb/Ic≧0.3であれば、膜1において中空粒子10が強固に固定され、膜1が低屈折率コーティングに有利な特性を有する。
【0019】
膜1は、望ましくは、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の条件をさらに満たす。これにより、膜1において中空粒子10がより確実に強固に固定され、膜1が低屈折率コーティングに有利な特性を有する。
【0020】
バインダー20にシラノール基(Si-OH)が存在する場合、シラノール基は、ガラス基板の表面に存在するシラノール基と水素結合を形成するので親和性が高い。このため、疎水パラメータ(H)が所定値以下である膜はガラス基板にも付着しやすい。親水性の表面を有する基板及び疎水性の表面を有する基板のいずれにも良好な付着性を示すように、膜1は、より望ましくは0.3≦Ib/Ic≦2.0の条件を満たす。
【0021】
膜1において、ATR法によって決定される、1つの酸素原子と2つのケイ素原子との結合に由来する、第一吸光度、第二吸光度、及び第三吸光度をそれぞれId、Ie、及びIfと表す。第一吸光度Idは第一波数に対応している。第二吸光度Ieは、第一波数より大きい第二波数に対応している。第三吸光度Ifは、第二波数より大きい第三波数に対応している。膜1は、望ましくは、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の少なくとも1つの条件を満たす。本明細書において、Id/Ibを第一ネットワークパラメータ(N1)とも呼び、Ie/Ibを第二ネットワークパラメータ(N2)とも呼び、If/Ibを第三ネットワークパラメータ(N3)とも呼ぶ。
【0022】
第一波数は、例えば、455±50cm-1において吸収スペクトルの極大値が出現する波数である。第二波数は、例えば、780±50cm-1において吸収スペクトルの極大値が出現する波数である。第三波数は、例えば、1065±50cm-1において吸収スペクトルの極大値が出現する波数である。
【0023】
第一ネットワークパラメータ(N1)、第二ネットワークパラメータ(N2)、及び第三ネットワークパラメータ(N3)は、バインダー20において酸素原子と2個のケイ素原子との結合(Si-O-Si)が多いほど大きい。バインダー20の原料においてヒドロキシ基同士が縮合して生成したSi-O-Siのネットワークが発達するほど、第一ネットワークパラメータ(N1)、第二ネットワークパラメータ(N2)、及び第三ネットワークパラメータ(N3)は大きくなる。一方、製膜性を良好に保つためには、中空粒子の凝集を抑制して塗膜の厚みを均一に保つことが重要である。中空粒子の凝集を抑制するには、Si-O-Siのネットワークの過剰な発達を防止することが望ましい。このような観点から、膜1において、N1が60以下であること、N2が20以下であること、及びN3が174以下であることの少なくとも1つが満たされることが望ましい。これにより、膜1を良好に形成でき、膜1によって良好な反射防止性能を有する反射防止構造を提供できる。
【0024】
膜1は、より望ましくは、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦1
74の条件をさらに満たす。
【0025】
典型的には、バインダー20のポリシルセスキオキサンは、ケイ素原子に結合している非反応性官能基を有する。バインダー20のポリシルセスキオキサンが適切な疎水作用を発揮するために、非反応性官能基は、例えば、アルキル基等の疎水性を示す官能基である。望ましくは、バインダー20のポリシルセスキオキサンは、16個以下の炭素原子を含む炭化水素基が非反応性官能基としてケイ素原子に結合しているポリシルセスキオキサンである。この場合、非反応性官能基が嵩高くないので、Si-O-Siのネットワークが緻密に形成されやすい。
【0026】
バインダー20は、例えば、さらにシリカによって形成されていてもよい。この場合、バインダー20に含まれるポリシルセスキオキサンによって疎水作用が発揮されやすく、バインダー20に含まれるシリカによって親水作用が発揮されやすい。このため、バインダー20において、シリカの物質量Msに対するポリシルセスキオキサンの物質量Mpの比(Mp/Ms)を調節することにより、膜1の親水性又は疎水性を適切なレベルに調整できる。これにより、膜1をガラス基板のような親水性の表面を有する基板に対しても適切に形成でき、樹脂のような疎水性の表面を有する基板に対しても膜1を適切に形成できる。このような観点から、バインダー20における、シリカの物質量Msに対するポリシルセスキオキサンの物質量Mpの比(Mp/Ms)は、例えば3/7以上であり、望ましくは1~9であり、より望ましくは3/2~4である。
【0027】
中空粒子10は、中空構造を有する限り特に制限されないが、例えば、球状、筒状、シート状の形状を有する。中空粒子10は、例えば、10~150nmの平均粒子径(一次粒子径)を有する。これにより、膜1において中空粒子10が均一に分散しやすい。中空粒子10の平均粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察された50個以上の中空粒子10の粒子径を算術平均することにより決定できる。なお、各粒子の粒子径は最大径を意味する。
【0028】
中空粒子10は、望ましくは20~100nmの平均粒子径を有し、より望ましくは30~70nmの平均粒子径を有する。なお、中空粒子10における内部空間の最大寸法は、例えば5~100nmであり、望ましくは10~70nmであり、より望ましくは20~50nmである。中空粒子10は、望ましくは、0.1以下の変動係数を有する単分散粒子である。
【0029】
中空粒子10の材料は、1.15~2.70の屈折率を有する材料である限り、無機材料又は有機材料であってもよい。中空粒子10の材料は、望ましくは1.20~2.00の屈折率を有する材料であり、より望ましくは1.30~1.50の屈折率を有する材料であり、さらに望ましくは1.38~1.46の屈折率を有する材料である。外力に対す
る変形のしにくさの観点から、中空粒子10は、望ましくは、無機材料でできている。この場合、中空粒子10は、例えば、シリカ、フッ化マグネシウム、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1つでできている。
【0030】
なかでも、膜1を用いた低屈折率コーティングによって高い反射防止性能を有する反射防止構造を提供するために、中空粒子10は、望ましくはシリカ又はフッ化マグネシウムでできている。なお、シリカの屈折率は1.46であり、フッ化マグネシウムの屈折率は1.38である。
【0031】
中空粒子10の構造及び材料は、中空粒子10が所望の屈折率を有するように定められている。例えば、中空粒子10が所望の屈折率を有するように、中空粒子10の材料及び
中空粒子10の全体の体積に対し内部空間が占める割合が定まっている。中空粒子10は、例えば1.10~1.40の屈折率を有し、望ましくは1.20~1.35の屈折率を有し、より望ましくは1.25~1.30の屈折率を有する。例えば、異なる屈折率を有する材料でできた複数種類の中空粒子において、中空粒子の全体の体積に対し内部空間が占める割合が同一である場合、低屈折率の材料でできた中空粒子が高屈折率の材料でできた中空粒子よりも低い屈折率を有する。
【0032】
中空粒子10の屈折率は、例えば、液浸法(ベッケ線法)によって測定できる。例えば、中空粒子10がシリカでできている場合、以下の手順に従って中空粒子10の屈折率を測定できる。
(i)中空粒子10の分散液の分散媒を蒸発及び乾燥させて粉末を得る。
(ii)(i)で得た粉末をGARGILL社製のシリーズA及びシリーズAA等の異なる屈折率を
有する様々な標準屈折率液と混合する。
(iii)(ii)で得た混合液が透明になったときに用いた標準屈折率液の屈折率を中空粒子
10の屈折率と決定する。
【0033】
中空粒子10は、市販されているものであってもよいし、所定の方法で作製されたものであってもよい。例えば、中空粒子10は、コアの周囲にシェルを形成して、コアを除去して作製してもよい。例えば、数十ナノメートルの粒子径を有するポリマーコアの周囲にシリカでできたシェル又はフッ化マグネシウムでできたシェルを形成する。その後、ポリマーコアを溶媒への溶解又は燃焼により除去して、中空シリカ粒子又は中空フッ化マグネシウム粒子である中空粒子10を得ることができる。また、シリカでできたコアのまわりにフッ化マグネシウムでできたシェルを形成し、シリカでできたコアをアルカリで溶解することによっても、中空フッ化マグネシウム粒子である中空粒子10を得ることができる。
【0034】
膜1において、バインダー20の質量Wbに対する中空粒子10の質量Whの比(Wh/Wb)は、例えば1/5~20であり、望ましくは1/3~10であり、より望ましくは1~5である。これにより、膜1を用いた低屈折率コーティングによって高い反射防止性能を有する反射防止構造を提供できる。
【0035】
膜1の厚みは、特に限定されないが、例えば反射を防止すべき光の波長に合わせて定められている。具体的には、膜1の厚みは、反射を防止すべき光の波長の中心の波長をλ(nm)としたとき、光学膜厚(屈折率×物理膜厚)が、λ/4を満たすように設定される。例えば、可視光線領域(実用的には波長380nm~780nm)に属する光の反射を防止するためには、中心波長であるλをλ=550nmとして、用いられる低屈折率膜の屈折率を1.20とした場合、最適な物理膜厚は115nmとなる。可視光線の反射を防止するための実用上有効な膜1の厚みは、50~300nmであり、望ましくは70~200nmであり、より望ましくは90~170nmである。これにより、膜1を用いた低屈折率コーティングによって高い反射防止性能を有する反射防止構造を提供できる。また、近赤外線領域(例えば波長800nm~2500nm)のうち可視光線の領域に近い、λ=850nmを中心波長とした光の反射を防止するためには、用いられる低屈折率膜の屈折率を1.20とした場合、最適な物理膜厚は177nmとなる。近赤外線の反射を防止するための実用上有効な膜1の厚みは、80~350nmであり、望ましくは130~250nmであり、より望ましくは150~220nmである。これにより、膜1を用いた低屈折率コーティングによって高い反射防止性能を有する反射防止構造を提供できる。反射防止構造として、多層膜を用いた場合には、50nm以下の膜厚の低屈折率層を用いてもよい。また、低屈折率膜の物理膜厚は、これらに限定されないが、その断面をSEMやTEM、またはエリプソメータ等により測定することができる。
【0036】
膜1は、例えば1.35以下の屈折率を有する。これにより、膜1を用いた低屈折率コーティングによって高い反射防止性能を有する反射防止構造を提供できる。膜1は、望ましくは1.30以下の屈折率を有し、より望ましくは1.25以下の屈折率を有する。膜1の屈折率を低減する観点から、膜1は、中空粒子10同士の間の空間、又は、バインダー20の中に空気層(air space)を含んでいてもよい。膜1の屈折率は、例えば、反射
率分光法によって決定できる。
【0037】
膜1は、例えば、所定の液状組成物を硬化させて得られた硬化物である。この液状組成物は、中空粒子と、ポリシルセスキオキサンと、溶媒とを含有している。中空粒子は、1.15~2.70の屈折率を有する材料でできている。液状組成物を基板に塗布し液状組成物を硬化させて得られた硬化物において、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の少なくとも1つの条件が満たされる。液状組成物に含まれる溶媒は、例えば、エタノール等のアルコール又は水である。
【0038】
この液状組成物において、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物は不要なので、液状組成物において相分離が起こりにくく、液状組成物が均一になりやすい。また、ガラス基板及び樹脂基板に対する液状組成物の濡れ性が高く、液状組成物によって均一な構造の膜1が得られやすい。
【0039】
上記の硬化物において、望ましくは、Ib/Ia≧0.7及びIb/Ic≧0.3の条件がさらに満たされる。
【0040】
上記の硬化物において、望ましくは、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の少なくとも1つの条件が満たされる。
【0041】
上記の硬化物において、より望ましくは、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の条件がさらに満たされる。
【0042】
液状組成物におけるポリシルセスキオキサンは、例えば、16個以下の炭素原子を含む炭化水素基が非反応性官能基としてケイ素原子に結合しているポリシルセスキオキサンである。
【0043】
膜1における中空粒子10の特徴は、典型的には、液状組成物における中空粒子にも当てはまる。このため、液状組成物における中空粒子は、例えば、10~150nmの平均粒子径(一次粒子径)を有する。また、液状組成物における中空粒子は、望ましくは、シリカ、フッ化マグネシウム、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1つでできている。
【0044】
液状組成物は、例えば、中空粒子以外にシリカを含有していてもよい。
【0045】
図2に示す通り、例えば、基板30の主面に液状組成物を塗布して液状組成物を硬化させることによって、膜1が形成される。これにより、膜1を用いて低屈折率コーティングがなされた反射防止構造50aが提供される。液状組成物を用いることにより、フルオロアルキル基を有するオルガノシラン化合物を必要とせず、低屈折率コーティングを簡素になし得る。
【0046】
液状組成物のポリシルセスキオキサンは、例えば、液状組成物の原料に含有される三官能性アルコキシシランが加水分解及び脱水縮合することにより形成される。また、液状組成物において中空粒子以外にシリカが含まれる場合、このシリカは、例えば、液状組成物の原料に含有される四官能性アルコキシシランが加水分解及び脱水縮合することにより形
成される。例えば、四官能性アルコキシシランは、下記の(式1)及び(式2)の反応によりシリカ(SiO2)を形成する。Raはアルキル基を示す。三官能性アルコキシシランは、下記の(式3)及び(式4)の反応によりポリシルセスキオキサン(RbSiO3/2)を形成する。Rbは非反応性官能基を示し、Rcはアルキル基を示す。
Si(ORa)4 + 4H2O → Si(OH)4 + 4RaOH (式1)
Si(OH)4 → SiO2 + 2H2O (式2)
RbSi(ORc)3 + 3H2O → RbSi(OH)3 + 3RcOH (式3)
RbSi(OH)3 → RbSiO3/2 + 3/2H2O (式4)
【0047】
液状組成物の原料に含まれる加水分解触媒は、例えば、ギ酸及び酢酸などのカルボン酸である。
【0048】
基板30は、例えばガラス又は樹脂でできた基板である。
【0049】
例えば、基板30の主面に液状組成物を塗布して形成された塗膜を加熱することによって液状組成物を硬化させることができる。この場合、塗膜は、典型的には、三官能性アルコキシシランが熱分解する温度(分解温度)未満の温度の環境に曝され加熱される。塗膜は、望ましくは、450℃未満の温度の環境に曝されて加熱される。耐熱性が低い樹脂で基板30ができている場合、塗膜は、例えば、100℃以下の温度の環境に曝されて加熱されてもよい。例えば、80℃の環境に塗膜を曝して加熱しても膜1に1.35以下の屈折率(例えば、1.20)を付与することは可能である。
【0050】
膜1のバインダー20におけるシリカの物質量Msに対するポリシルセスキオキサンの物質量Mpの比(Mp/Ms)は、例えば、液状組成物の原料に含有される四官能性アルコキシシランの物質量Meに対する三官能性アルコキシシランの物質量Mrの比(Mr/Me)と等しいとみなすことができる。
【0051】
反射防止構造50aにおいて、基板30の両主面に膜1が形成されているが、基板30の一方の主面にのみ膜1が形成されてもよい。なお、基板30の両主面に膜1が形成されている場合、一方の主面に形成された膜1の屈折率及び厚みは、他方の主面に形成された膜1の屈折率及び厚みと同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、一方の主面に形成された膜1が可視光領域の光の反射を防止し、かつ、他方の主面に形成された膜1が近赤外線領域のうち可視光線の領域に近い光の反射を防止するように構成されていてもよい。
【0052】
反射防止構造50aは、様々な観点から変更可能である。例えば、反射防止構造50aは、下記の積層構造(I)~(IV)を有するように変更されてもよい。なお、「A/B」は、BがAに接して積層されていることを意味する。また「(A/B)m」又は「(A/B)n」は、BがAに積層された構造がm回又はn回繰り返されることを意味する。mは2以上の整数であり、nは1以上の整数である。なお、下記の積層構造において、低屈折率層は、1.5以下の屈折率を有し、例えば30~300nmの厚みを有する。下記の積層構造において、膜1が低屈折率層の少なくとも1つをなしている。低屈折率層は、シリカ又はフッ化マグネシウムでできた層でありうる。中屈折率層は、1.5を超え1.8以下の屈折率を有し、例えば30~300nmの厚みを有する。中屈折率層は、例えば、アルミナでできた層又はシリカとチタニアとの混合物でできた層である。高屈折率層は、1.8を超える屈折率を有し、例えば30~300nmの厚みを有する。高屈折率層は、例えば、チタニア、ジルコニア、酸化タンタル、又は酸化ニオブでできた層である。これらの積層構造は、基板の一方の主面のみに形成されてもよいし、基板の両方の主面に形成されてもよい。
(I)基板/高屈折率層/低屈折率層
(II)基板/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
(III)基板/(高屈折率層/低屈折率層)m
(IV)基板/低屈折率層/(高屈折率層/低屈折率層)n
【0053】
また、反射防止構造50aは、
図3Aに示す反射防止構造50bのように変更されてもよい。反射防止構造50bは、基板30の厚み方向において膜1と基板30との間に、膜1がなす低屈折率層(第一低屈折率層)とは別の低屈折率層(第二低屈折率層40)を備えている。第二低屈折率層40は、1.5以下の屈折率を有し、例えば30~300nmの厚みを有する。第二低屈折率層40は、例えば、中空粒子10を含んでおらず、ポリシルセスキオキサン及びシリカの少なくとも1つからなる層である。反射防止構造50bにおいて、基板30の両主面に膜1及び第二低屈折率層40が形成されているが、基板30の一方の主面にのみ膜1及び第二低屈折率層40が形成されてもよい。
【0054】
また、反射防止構造50aは、
図3Bに示す反射防止構造50cのように変更されてもよい。反射防止構造50cは、基板30の厚み方向において膜1と基板30との間に、膜1がなす低屈折率層(第一低屈折率層)とは別の複数の低屈折率層(第二低屈折率層40及び第三低屈折率層60)を備えている。第二低屈折率層40は、1.5以下の屈折率を有し、例えば30~300nmの厚みを有する。第二低屈折率層40は、例えば、中空粒子10を含んでおらず、ポリシルセスキオキサン及びシリカの少なくとも1つからなる層である。第三低屈折率層60は、例えば、1.5以下の屈折率を有し、例えば30~300nmの厚みを有する。第三低屈折率層60は、第一低屈折率層と同様の屈折率及び厚みを有していてもよい。基板30の両主面に膜1、第二低屈折率層40、及び第三低屈折率層60が形成されているが、基板30の一方の主面にのみ膜1、第二低屈折率層40、及び第三低屈折率層60が形成されてもよい。
【0055】
例えば、膜1を備えた光学素子を提供できる。膜1を備えた光学素子は、例えば、ローパスフィルタ及び赤外線(IR)カットフィルタ等の光学フィルタ、レンズ、又はカバーガラスでありうる。膜1は、例えば、レンズ等の光学素子の表面に上記の液状組成物を塗布乾燥させて形成され、低屈折率コーティングとして機能する。膜1により、光学素子において可視光等の所定の波長の光の反射を防止できる。光学素子は、反射防止のための誘電体多層膜をさらに備えていてもよいし、反射防止のための誘電体多層膜を備えていなくてもよい。光学素子が、膜1を備え、かつ、反射防止のための誘電体多層膜を備えていないことは、製造コストを抑制しつつ所定の波長の光を防止する観点から有利である。
【0056】
例えば、上記の光学素子を備えた撮像装置を提供できる。この撮像装置は、例えば、スマートフォン等の情報端末のカメラモジュール及びデジタルカメラである。
【0057】
図4Aに示す通り、撮像装置70aは、例えば、ハウジング71と、レンズ系72と、フィルタ系73と、固体撮像素子74と、カバー75とを備えている。撮像装置70aは、例えば、スマートフォン等の情報端末のカメラモジュールである。なお、
図4Aは撮像装置70aを模式的に示す図であり、
図4Aにおいて、実物における各部品の形状及び寸法並びに各部品の相対的な位置関係が正確に表現されているとは限らない。加えて、撮像装置70aは、典型的には、レンズ系72のための調節機構及び絞り等の他の構成要素を備えうる。
図4Aにおいて、説明の便宜のために、これらの構成要素は省略されている。
【0058】
レンズ系72は、ハウジング71の内部に配置されている。レンズ系72は、単数の単レンズ又は複数の単レンズ(
図4Aでは、4つの単レンズ72a、72b、72c、及び72d)を備える。単レンズの材料は、典型的には、ガラス又は樹脂である。フィルタ系73に含まれる光学フィルタは特に限定されない。フィルタ系73は、例えば、ローパスフィルタ及びIRカットフィルタの少なくとも1つを含みうる。ハウジング71は、例え
ば、レンズ系72の光軸の周り形成された開口を有する。この開口は、カバー75によって覆われている。カバー75は、望ましくはガラス製である。カバー75は、ハウジング71の外部の物体との衝突及び撮像装置70aの環境条件の変動に耐えうる。
【0059】
図4A及び
図4Bに示す通り、例えば、撮像装置70aにおいて、レンズ系72に含まれる少なくとも1つの単レンズが膜1を備えている。単レンズが膜1を備える場合、単レンズの片面のみに膜1が配置されていてもよいし、単レンズの両面に膜1が配置されていてもよい。例えば、単レンズ72bが膜1を備えている。レンズ系72が複数の単レンズを含む場合、膜1を形成すべき単レンズは適宜決定される。図示を省略するが、レンズ系72は、複数の単レンズが貼り合わせられて構成された、貼り合わせレンズを含んでいてもよく、その貼り合わせレンズの片面のみに又は両面に膜1が配置されていてもよい。なお、典型的には、上記の液状組成物の塗布及び乾燥によって膜1が形成される。このため、単レンズが曲率半径の小さい表面を有する場合、レンズ表面の勾配が吸収であり、膜1の形成のために塗布された上記の液状組成物が流動して、膜1の厚みが空間的にばらつく可能性がある。しかし、上記の液状組成物の塗布及び乾燥の条件を調整することにより、膜1の厚みの空間的なばらつきを小さくできる。
【0060】
撮像装置70aは、
図5Aに示す撮像装置70bのように変更されてもよい。撮像装置70bは、特に説明する部分を除き撮像装置70aと同様に構成されている。撮像装置70aの構成要素と同一又は対応する構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。撮像装置70aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、撮像装置70bにも当てはまる。
【0061】
図5Aに示す通り、撮像装置70bにおいて、例えば、カバー75が膜1を備えている。例えば、カバー75のガラス板75aの一方の主面に膜1が形成されている。例えば、膜1がハウジング71の内部を向くようにカバー75が配置されている。これにより、膜1の劣化及び剥離を防止できる。
図5Bに示す通り、カバー75のガラス板75aの他方の主面には反射防止膜である誘電体多層膜75bが形成されていてもよい。
【0062】
撮像装置70a及び撮像装置70bにおいて、フィルタ系73に含まれる少なくとも1つの光学フィルタが膜1を備えていてもよい。この場合、撮像装置70aのレンズ系72の単レンズ及び撮像装置70bのカバー75において膜1は省略されてもよい。フィルタ系73において膜1を備えた光学フィルタは、ローパスフィルタであってもよいし、IRカットフィルタであってもよい。膜1は、光学フィルタの表面に配置されている。IRカットフィルタにより、半導体を含む固体撮像素子74において受光可能な光のスペクトルを人間の視感度曲線(スペクトル)に近づけることができる。IRカットフィルタは、例えば、少なくとも、波長700~1000nmの赤外線をカット(遮蔽)する機能を有する。
【0063】
フィルタ系73に含まれるIRカットフィルタは、例えば、赤外線吸収性ガラス、誘電体多層膜からなる赤外線反射膜、赤外線吸収膜、又はこれらの組み合わせを備える。赤外線吸収性ガラスは、例えば、リン酸銅又はフツリン酸銅を含有しているガラスである。赤外線吸収膜は、赤外線を吸収する色素又は顔料がマトリクス樹脂において分散している膜である。例えば、このようなIRカットフィルタが膜1を備えうる。例えば、フィルタ系73は、
図6に示す、IRカットフィルタ73xを含む。IRカットフィルタ73xは、例えば、赤外線吸収性ガラス73aと、赤外線吸収膜73bと、一対の膜1とを備えている。赤外線吸収性ガラス73bは、板状又はシート状の形状を有し、赤外線吸収性ガラス73aの一方の主面に赤外線吸収膜73bが形成されている。また、一対の膜1は、例えば、IRカットフィルタ73xの両主面をなすように形成されている。
【0064】
上記の光学素子を備えた撮像装置は、デジタルカメラ(デジタルスチールカメラ及びデジタルムービーカメラ)等の、スマートフォン等の情報端末のカメラモジュール以外の撮像装置でありうる。このような撮像装置は、例えば、
図7に示す光学系80を備える。なお、
図7において、実物における各部品の形状及び寸法並びに各部品の相対的な位置関係が正確に表現されているとは限らない。光学系80は、例えば、複数の単レンズ81、82、83、84、及び85を備える。例えば、単レンズ82の両面に膜1が形成されている。図示を省略するが、光学系80は、複数の単レンズが貼り合わせられて構成された、貼り合わせレンズを含んでいてもよく、その貼り合わせレンズの片面のみに又は両面に膜1が配置されていてもよい。
【0065】
撮像装置70a、撮像装置70b、及び光学系80において、膜1を備えたレンズと、誘電体多層膜からなる反射防止膜又はモスアイ構造からなる反射防止構造を備えたレンズとを組み合わせてレンズ系を構成してもよい。
【実施例0066】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、実施例及び比較例に係る反射防止構造並びに実施例及び比較例に係る低屈折率膜の評価方法について説明する。
【0067】
[ATR法による分析]
フーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製 製品名:Frontier Gold)を用いて、ATR法により、各実施例及び比較例に係る低屈折率膜の吸収スペクトルを測定した。各実施例及び比較例1において基板上に製膜された低屈折率膜を剥離して得られた1~10mgの粉体状の試料を用いて各実施例及び比較例に係る低屈折率膜の吸収スペクトルを測定した。実施例1及び比較例1に係る低屈折率膜の吸収スペクトルの結果をそれぞれ
図8及び
図9に示す。
【0068】
各実施例及び比較例1に係る低屈折率膜の吸収スペクトルにおいて、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基(CH
3及びCH
2)に由来する吸収帯における吸光度の極大値が910±50cm
-1の波数の範囲に現れた。また、ケイ素原子とメチル基との結合に由来する吸収帯における吸光度の極大値が1276±50cm
-1の波数の範囲に現れた。また、ケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸収帯における吸光度の極大値が3438±50cm
-1の波数の範囲に現れた。さらに、1つの酸素原子と二つのケイ素原子との結合(シロキサン結合)に由来する吸収帯における吸光度の極大値が、455±50cm
-1、780±50cm
-1、及び1065±50cm
-1の波数の範囲に現れた。
図8及び
図9において、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基(CH
3及びCH
2)に由来する吸収帯を符号aで指示し、ケイ素原子とメチル基との結合に由来する吸収帯を符号bで指示し、ケイ素原子とヒドロキシ基との結合に由来する吸収帯を符号cで指示し、1つの酸素原子と2個のケイ素原子との結合に由来する吸収帯を、短波数側から順に、符号d、符号e、及び符号fで指示している。なお、
図8において、ケイ素原子に直接結合してい
ない炭化水素基(CH
3及びCH
2)に由来する吸収帯及びケイ素原子とメチル基との結合に由来する吸収帯をそれぞれ拡大部(1)及び拡大部(2)において拡大して示している。
【0069】
各実施例及び比較例1に係る低屈折率膜の吸収スペクトルにおいて、ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基(CH
3及びCH
2)に由来する吸光度Iaを以下のように決定した。ケイ素原子に直接結合していない炭化水素基(CH
3及びCH
2)に由来する吸収帯において
図8の拡大部(1)に示すようにベースラインを定め、吸光度の極大値が現れる波数におけるベースライン上の吸光度を吸光度の極大値から差し引いて吸光度Iaを決定した。換言すると、吸光度の極大値をA
max(CH
3及びCH
2)と表し、吸光度の極大値
が現れる波数におけるベースライン上の吸光度を吸光度A
base(CH
3及びCH
2)と表すと、吸光度Iaは、下記の(式5)によって決定された。
Ia=A
max(CH
3及びCH
2)-A
base(CH
3及びCH
2) (式5)
【0070】
各実施例及び比較例1に係る低屈折率膜の吸収スペクトルにおいて、ケイ素原子とメチル基との結合(Si-CH
3)に由来する吸光度Ibを吸光度Iaと同様に求めた。
図8
の拡大部(2)に示すようにベースラインを定め、吸光度の極大値が現れる波数におけるベースライン上の吸光度を吸光度の極大値から差し引いて吸光度Ibを求めた。換言すると、吸光度の極大値をA
max(Si-CH
3)と表し、吸光度の極大値が現れる波数におけるベースライン上の吸光度をA
base(Si-CH
3)と表すと、吸光度Ibは、下記の(
式6)によって決定された。
Ib=A
max(Si-CH
3)-A
base(Si-CH
3) (式6)
【0071】
各実施例及び比較例1に係る低屈折率膜の吸収スペクトルにおいて、ケイ素原子とヒドロキシ基との結合(Si-OH)に由来する吸収帯における吸光度の極大値を、その結合に由来する吸光度Icと決定した。吸光度Icの決定において、ベースラインによる補正は行わなかった。
【0072】
各実施例及び比較例1に係る低屈折率膜の吸収スペクトルにおいて、1つの酸素原子と2つのケイ素原子との結合(Si-O-Si)に由来する吸光度の3つの極大値を、その結合に由来する第一吸光度Id、第二吸光度Ie、及び第三吸光度Ifと決定した。第一
吸光度Id、第二吸光度Ie、及び第三吸光度Ifにおいて、第一吸光度Idが最小の波
数に対応し、第三吸光度Ifが最大の波数に対応していた。なお、第一吸光度Id、第二
吸光度Ie、及び第三吸光度Ifの決定においても、ベースラインによる補正は行わなか
った。
【0073】
各実施例及び比較例1に係る低屈折率膜において、上記のようにして決定した吸光度Ia、吸光度Ib、吸光度Ic、第一吸光度Id、第二吸光度Ie、及び第三吸光度Ifに
基づいて下記の(式7)~(式11)に従い、無機有機パラメータ(D)、疎水パラメータ(H)、及び第一~第三ネットワークパラメータ(N1、N2、及びN3)を決定した。結果を表1に示す。
無機有機パラメータ(D)=Ib/Ia (式7)
疎水パラメータ(H)=Ib/Ic (式8)
第一ネットワークパラメータ(N1)=Id/Ib (式9)
第二ネットワークパラメータ(N2)=Ie/Ib (式10)
第三ネットワークパラメータ(N3)=If/Ib (式11)
【0074】
[成膜性の評価]
各実施例及び比較例1に係る液状組成物をガラス基板又はポリカーボネート製の基板上に塗布したときに液状組成物を塗れない部分があること及び低屈折率膜の厚みが不均一であることのいずれかが確認された場合、液状組成物の成膜性を「x」と評価した。また、これらが確認されなかった場合、液状組成物の成膜性を「a」と評価した。結果を表1に示す。
【0075】
[反射率]
各実施例に係る反射防止構造において、低屈折率膜が基板上に製膜された反射防止構造の可視光領域(380~780nm)の反射率(可視光反射率)は、まず反射防止構造の分光反射率を分光光度計(日立ハイテクノロジー社製、製品名:U-4000)によって測定し、この分光反射率に基づいて日本工業規格(JIS) R 3106:1998に従って算出した
。この
分光反射率の測定において、反射角度は12°に設定した。実施例1、7、10、及び1
1に係る反射防止構造の分光反射率を
図10に示し、実施例12及び実施例13に係る反射防止構造の分光反射率スペクトルを
図11に示す。また、各実施例に係る反射防止構造の可視光反射率を表1に示す。
【0076】
[屈折率]
基板としてシリコン基板を用いた以外は、各実施例に係る反射防止構造の作製と同一条件で、各実施例に係る低屈折率膜を形成し、各実施例に係る屈折率測定用サンプルを作製した。分光光度計(日立ハイテクノロジー社製、製品名:U-4000)を用いて、各実施例に係る屈折率測定用サンプルの反射率を測定し、反射率分光法に従って各実施例に係る低屈折率膜の屈折率を決定した。結果を表1に示す。
【0077】
<実施例1>
テトラエトキシシラン(TEOS)(東京化成工業社製)0.6g、メチルトリエトキシシラン(MTES)(東京化成工業社製)1.18g、0.3重量%ギ酸(キシダ化学社製)0.82g、中空シリカ粒子のゾル(日揮触媒化成社製、製品名:スルーリア4110、シリカ固形分:約25重量%)3g、及びエタノール(キシダ化学社製)22.4gを混ぜ、35℃で3時間反応させた。このようにして、実施例1に係る液状組成物を得た。中空シリカ粒子のゾルにおいて、中空シリカ粒子の平均粒子径は約50nmであり、シリカでできたシェルの厚みは10~20nmであり、中空シリカ粒子の内部空間の最大寸法は約10~30nmであり、中空シリカ粒子の屈折率は1.25であった。実施例1に係る液状組成物における固形分は、TEOSに由来するシリカを0.6重量%含み、MTESに由来するポリメチルシルセスキオキサンを1.6重量%含み、中空シリカ粒子を2.6重量%含んでいた。実施例1に係る液状組成物の作製において加えられたTEOSの物質量に対するMTESの物質量の比は、7/3であった。TEOSに由来するシリカ及びMTESに由来するポリメチルシルセスキオキサンの固形分の合計の重量に対する中空シリカ粒子の重量の比は、1.3/1.1であった。
【0078】
ガラス基板(フロートガラス、サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)に対し、超音波洗浄機を用いて、超純水中での15分間の洗浄、市販のアルカリ性洗浄液での15分間の洗浄、及び超純水中での15分間の洗浄を行った。洗浄後のガラス基板の両主面に、実施例1に係る液状組成物をスピンコート法により塗布した。塗布直後の外観は良好で均一な塗膜が得られた。その後、オーブンで塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させ、実施例1に係る低屈折率膜を得た。これにより、
図2に示すような、ガラス基板と、ガラス基板上に形成された低屈折率膜とを備えた実施例1に係る反射防止構造を得た。実施例1に係る低屈折率膜の外観を観察したところ、均一な厚みを有していた。実施例1に係る低屈折率膜の厚みは120nmであった。実施例1に係る低屈折率膜のバインダーにおいてシリカの物質量に対するポリメチルシルセスキオキサンの物質量の比は、7/3であった。
【0079】
<実施例2~5>
液状組成物の調製において、テトラエトキシシラン(TEOS)の物質量に対するメチルトリエトキシシラン(MTES)の物質量の比を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5に係る液状組成物を得た。実施例1に係る液状組成物に代えて実施例2~5に係る液状組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2~5に係る低屈折率膜及び実施例2~5に係る反射防止構造を作製した。実施例2~5に係る液状組成物はいずれも良好な成膜性を有していた。
【0080】
<実施例6~9>
液状組成物の調製において、テトラエトキシシラン(TEOS)の物質量に対するメチルトリエトキシシラン(MTES)の物質量の比を表1に示す通りに調整した以外は、実
施例1と同様にして、実施例6~9に係る液状組成物を得た。ポリカーボネート(PC)製の基板(サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.59)をガラス基板の代わりに用い、かつ、実施例6~9に係る液状組成物を実施例1に係る液状組成物の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6~9に係る低屈折率膜及び実施例6~9に係る反射防止構造を作製した。
【0081】
<実施例10及び11>
シリカでできたコアの周囲にフッ化マグネシウムでできたシェルを形成し、コアシェル構造の粒子を作製した。この粒子のシリカでできたコアをアルカリ溶液で溶解させ、フッ化マグネシウムの中空粒子を作製した。このフッ化マグネシウムの中空粒子において、平均粒子径は約50nmであり、フッ化マグネシウムでできた外殻の厚みは約10nmであり、内部空間の最大寸法は約30nmであり、中空粒子の屈折率は1.20であった。このフッ化マグネシウムの中空粒子を中空シリカ粒子の代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例10及び11に係る液状組成物を得た。また、実施例1に係る液状組成物の代わりに実施例10に係る液状組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例10に係る低屈折率膜及び実施例10に係る反射防止構造を作製した。また、実施例7に係る液状組成物の代わりに実施例11に係る液状組成物を用いた以外は実施例7と同様にして、実施例11に係る低屈折率膜及び実施例11に係る反射防止構造を作製した。実施例10に係る低屈折率膜の厚み及び実施例11に係る低屈折率膜の厚みは118nmであった。
【0082】
<実施例12>
中空シリカ粒子のゾルを加えなかったこと以外は、実施例1に係る液状組成物と同様にして、コーティング用組成物を調製した。アルカリ洗浄によって予め洗浄したガラス基板(フロートガラス、サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の両主面に、このコーティング用組成物をスピンコート法により塗布した。次に、オーブンでコーティング用組成物の塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させ、内側低屈折率膜を形成した。内側低屈折率膜の屈折率は1.46であり、内側低屈折率膜の厚みは260nmであった。内側低屈折率膜の上に、実施例1に係る液状組成物をスピンコート法により塗布した。次に、オーブンで液状組成物の塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて実施例12に係る低屈折率膜を形成し、
図3Aに示すような、実施例12に係る反射防止構造を作製した。実施例12に係る低屈折率膜の厚みは95nmであった。コーティング用組成物はガラス基板に対し良好な成膜性を有し、実施例1に係る液状組成物は、内側低屈折率膜に対して良好な製膜性を有していた。
【0083】
<実施例13>
実施例1に係る液状組成物の代わりに、実施例10に係る液状組成物を用いた以外は、実施例12と同様にして、実施例13に係る反射防止構造を作製した。実施例10に係る液状組成物は、内側低屈折率膜に対して良好な製膜性を有していた。
【0084】
<実施例14>
低屈折率膜の厚みを180nmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例14に係る低屈折率膜及び実施例14に係る反射防止構造を作製した。実施例1に係る液状組成物は、膜厚が180nmとなるように製膜した場合についても良好な製膜性を有していた。
【0085】
<実施例15>
実施例1と同様に洗浄したガラス基板(フロートガラス、サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の一方の主面に、実施例1で用いた液状組成物をスピンコート法により塗布した後、オーブンで塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥さ
せ、厚みが100nmである低屈折率膜を形成した。さらに、ガラス基板のもう一方の主面に、実施例1で用いた液状組成物をスピンコート法により塗布した後、オーブンで塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させ、厚みが180nmである低屈折率膜を形成し、
図2に示すような、実施例15に係る低屈折率膜及び実施例15に係る反射防止構造体を作製した。実施例1に係る液状組成物は、この場合においても良好な製膜性を有していた。
【0086】
<実施例16>
実施例1と同様に洗浄したガラス基板(フロートガラス、サイズ:40mm×40mm、厚み:1mm、屈折率:1.52)の両方の主面に、実施例1で用いた液状組成物をスピンコート法により塗布した後、オーブンで塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて厚みが30nmである第三低屈折率膜を形成した。次に、第三低屈折率膜の上に、実施例12で用いたコーティング用組成物をスピンコート法により塗布した後、オーブンで塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて厚みが40nmである第二低屈折率膜を形成した。さらに、第二低屈折率膜の上に、実施例1に係る液状組成物をスピンコート法により塗布した後、オーブンで塗膜を200℃及び10分間の条件で乾燥させて厚みが30nmである第一低屈折率膜を形成し、
図3Bに示すような、実施例16に係る反射防止構造を作製した。実施例1に係る液状組成物は、この場合においてもガラス基板や低屈折率膜に対して良好な製膜性を有し、実施例12に係るコーティング用組成物は、低屈折率膜に対して良好な製膜性を有していた。
【0087】
<比較例1>
液状組成物の調製において、テトラエトキシシラン(TEOS)の物質量に対するメチルトリエトキシシラン(MTES)の物質量の比を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る液状組成物を得た。実施例1に係る液状組成物に代えて、比較例1に係る液状組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る低屈折率膜及び比較例1に係る反射防止構造を作製した。比較例1に係る低屈折率膜の外観を観察したところ、低屈折率膜の厚みが不均一であることがはっきりと確認された。
【0088】
表1に示す通り、実施例1~5に係る反射防止構造の可視光反射率は、1.6%以下であった。実施例6~9に係る反射防止構造の可視光反射率は、1.3%以下であった。実施例10及び11に係る反射防止構造の可視光反射率は、1.1%以下であった。実施例12及び13に係る反射防止構造の可視光反射率は、0.2%以下であった。このように、各実施例に係る反射防止構造は高い反射防止性能を発揮できることが確認された。なお、
図10に示す通り、実施例1、7、10、及び11に係る反射防止構造の分光反射率は、可視光領域(波長380nm~780nmの範囲)の全体において5%以下であった。また、
図11に示す通り、実施例12に係る反射防止構造の分光反射率は、可視光領域の全体において4%以下であり、実施例13に係る反射防止構造の分光反射率は、可視光領域の全体において3%以下であった。
【0089】
表1に示す通り、実施例14に係る反射防止構造の可視光反射率は4.2%であった。また、
図12に示す通り、実施例14に係る反射防止構造の分光反射率は、可視光領域の全体において8.5%以下であり、近赤外線領域(波長800nm~2500nm)のうち、可視光領域に近い波長800nm~1000nmの範囲における分光反射率の平均値は0.4%であり、波長800nm~1100nmの範囲における分光反射率の平均値は0.6%であった。
【0090】
表1に示す通り、実施例15に係る反射防止構造体の可視光反射率は2.3%であった。また、
図12に示す通り、実施例15に係る反射防止構造体の分光反射率は、可視光領域の全体において4.8%以下であり、近赤外線領域のうち、可視光領域に近い波長80
0nm~1000nmの範囲における分光反射率の平均値は2.2%であり、波長800nm~1100nmの範囲における分光反射率の平均値は2.4%であった。
【0091】
表1に示す通り、実施例16に係る反射防止構造体の可視光反射率は0.7%であった。また、
図12に示す通り、実施例16に係る反射防止構造体の分光反射率は、可視光領域の全体において3.5%以下であり、近赤外線領域のうち、可視光領域に近い波長800nm~1000nmの範囲における分光反射率の平均値は3.3%であり、波長800nm~1100nmの範囲における分光反射率の平均値は3.6%であった。
【0092】
前記全反射測定法によって決定される、1つの酸素原子と2つのケイ素原子との結合に由来する、第一吸光度、第二吸光度、及び第三吸光度をそれぞれId、Ie、及びIfと表すとき、Id/Ib≦60、Ie/Ib≦20、及びIf/Ib≦174の少なくとも1つの条件を満たし、
前記第一吸光度Idは、第一波数に対応し、
前記第二吸光度Ieは、前記第一波数より大きい第二波数に対応し、
前記第三吸光度Ifは、前記第二波数より大きい第三波数に対応する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
前記ポリシルセスキオキサンは、16個以下の炭素原子を含む炭化水素基が前記非反応性官能基としてケイ素原子に結合しているポリシルセスキオキサンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。
前記中空粒子は、シリカ、フッ化マグネシウム、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1つでできている、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
前記第一層に接して、ポリシルセスキオキサン及びシリカのいずれかを含み、中空粒子を含まず、1.5以下の屈折率及び30nm~300nmの厚みを有する、第二層をさらに含む、
請求項1~8のいずれかに記載の積層体。