(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132380
(43)【公開日】2022-09-08
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/028 20060101AFI20220901BHJP
【FI】
A61B3/028
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111739
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2018147541の分割
【原出願日】2018-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳 英一
(57)【要約】
【課題】被検眼の近用検眼と遠用検眼との切り替えが容易で簡易な構成の眼科装置を提供する。
【解決手段】近用検眼位置に配置されて被検眼Eに視標を呈示する視標表示部20(視標表示装置)、被検眼Eの視機能を矯正する左眼用及び右眼用の一対の検眼ユニット10、視標表示部20により呈示された視標の虚像iを遠用検眼位置に結像する左眼用及び右眼用の一対の虚像光学系40と、を備えて検眼装置100を構成する。一対の虚像光学系40は、被検眼Eと視標表示部20との間に挿脱自在に設けられ、遠用検眼のときには、一対の虚像光学系40を左右の被検眼Eの前方に配置し、近用検眼のときには、一対の虚像光学系を左右の被検眼Eの前方から退避させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近用検眼位置に配置されて被検眼に視標を呈示する視標表示部と、
前記被検眼の視機能を矯正するための複数の光学部材を有し各光学部材を前記被検眼と前記視標表示部との間に選択的に配置する左眼用及び右眼用の一対の検眼光学系と、
前記視標表示部により呈示された前記視標の虚像を所定の遠用検眼位置に結像する左眼用及び右眼用の一対の虚像光学系と、を備え、
前記視標表示部が、電子表示デバイスからなるディスプレイを備えるとともに、前記被検眼との距離を変更自在に構成され、
一対の前記虚像光学系は、前記被検眼と前記視標表示部との間に挿脱自在に設けられ、遠用検眼のときには、一対の前記虚像光学系を左右の前記被検眼の前方に配置し、近用検眼のときには、一対の前記虚像光学系を左右の前記被検眼の前方から退避させるとともに、左眼用及び右眼用の一対の前記虚像光学系の屈折力を、前記被検眼と前記視標表示部との距離に応じて変更することで、前記虚像を前記所定の遠用検眼位置に結像することを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
左右の前記被検眼の前方であって、左右の前記虚像光学系の光路上に挿脱自在に設けられて、前記視標表示部からの光を前記被検眼と前記視標表示部とを結ぶ光軸に対して内側に偏向して左右の前記被検眼に導く左眼用及び右眼用の一対の光偏向部材を備えることを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
左眼用及び右眼用の一対の前記光偏向部材の偏向量は、左右の前記被検眼の状態及び前記被検眼と前記視標表示部との距離の少なくとも一方に応じて変更されることを特徴とする請求項2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記虚像光学系は、前記検眼光学系が有する複数の前記光学部材の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項5】
一対の前記虚像光学系を駆動する左眼用及び右眼用の一対の駆動機構と、一対の前記駆動機構を制御する駆動制御部と、を備え、前記駆動制御部は、遠用検眼のときには、一対の前記虚像光学系が左右の前記被検眼の前方に配置されるように一対の前記駆動機構を制御し、近用検眼のときには、一対の前記虚像光学系が左右の前記被検眼の前方から退避されるように一対の前記駆動機構を制御することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記視標表示部が、前記検眼光学系の前記視標表示部側に付されたマーカを撮影する撮像部を備え、前記撮像部が撮影した前記マーカの撮影画像に基づいて、表示面への前記視標の表示状態を調整することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記視標表示部が、前記検眼光学系の前記視標表示部側に付されたマーカを撮影する撮像部を備え、前記撮像部が撮影した前記マーカの撮影画像に基づいて、前記被検眼と前記視標表示部との距離を検出し、前記距離に基づいて、前記被検眼の前方に配置する前記虚像光学系の屈折力を取得し、前記屈折力に対応した前記虚像光学系を選択して前記被検眼の前方に配置することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項8】
一対の前記検眼光学系は、左右の前記被検眼の瞳孔間距離に応じて左右方向にスライド自在に設けられ、前記視標表示部が、前記検眼光学系の前記視標表示部側に付されたマーカを撮影する撮像部を備え、前記マーカの撮影画像に基づいて、左右の前記被検眼の前記瞳孔間距離を検出し、当該検出結果に基づいて、左右の前記被検眼の前方に配置する光偏向部材の偏向量を算出し、前記偏向量に対応する前記光偏向部材を配置することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の視機能の検査には、視力測定ごとに定められた距離、例えば5mの検眼距離が必要である。これに対して、左右眼に対して個別に配置したレンズとプリズムによって、定められた距離未満、例えば5m未満の距離に配置した視標の虚像を5m先に生成することで、自然状態に近い輻輳角で視機能検査が可能な眼科装置が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の眼科装置では、被検眼近傍であって筐体内に設けられたレンズとプリズムを有し、レンズによって視標を見かけ上遠方に配置しつつ、プリズムによって左右眼に同一の視標を呈示する構成が開示されている。しかし、特許文献1に記載の検眼装置は、遠方に呈示された視標像による遠用検眼を目的としたものであり、近用検眼については何ら開示がない。また、屈折異常眼に対して矯正光学系を用いて矯正に最適な度数を決定することも開示がない。
【0004】
これに対して、特許文献2に記載の眼科装置では、両眼共通のレンズを用いることでプリズムの挿入を不要とするとともに、視標を移動させることで遠用視と近用視の検眼が可能である。さらに、左右眼用の一対の矯正光学系を備えることで、屈折異常眼に対して最適な矯正屈折度数を取得できる。その反面、両眼共通のレンズとして口径の大きなレンズが必要となるため、眼科装置の大型化や重量増という問題があった。
【0005】
これらの他にも、凹面鏡やレンズ等の光学部材を利用して光学的に検眼距離を確保することで、5m先に設置した視標を用いたときと同様の検査を行うことを可能とした省スペース型の眼科装置も開発されている(特許文献3~5参照)。しかし、これらの従来技術でも、凹面鏡やレンズ等の光学部材が両眼共通であるため、眼科装置の小型化や軽量化には限界があるとともに、遠用検眼と近用検眼を切り替えて行うものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-171031号公報
【特許文献2】特開昭59-85640号公報
【特許文献3】特開平8-206064公報
【特許文献4】特開2013-48754公報
【特許文献5】特開2016-10679公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、被検眼の近用検眼と遠用検眼との切り替えが容易に可能で簡易な構成の眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の眼科装置は、近用検眼位置に配置されて被検眼に視標を呈示する視標表示部と、前記被検眼の視機能を矯正するための複数の光学部材を有し各光学部材を前記被検眼と前記視標表示部との間に選択的に配置する左眼用及び右眼用の一対の検眼光学系と、前記視標表示部により呈示された前記視標の虚像を所定の遠用検眼位置に結像する左眼用及び右眼用の一対の虚像光学系と、を備え、前記視標表示部が、電子表示デバイスからなるディスプレイを備えるとともに、前記被検眼との距離を変更自在に構成され、一対の前記虚像光学系は、前記被検眼と前記視標表示部との間に挿脱自在に設けられ、遠用検眼のときには、一対の前記虚像光学系を左右の前記被検眼の前方に配置し、近用検眼のときには、一対の前記虚像光学系を左右の前記被検眼の前方から退避させるとともに、左眼用及び右眼用の一対の前記虚像光学系の屈折力を、前記被検眼と前記視標表示部との距離に応じて変更することで、前記虚像を前記所定の遠用検眼位置に結像することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された眼科装置では、被検眼の遠用検眼の際には、左眼及び右眼に対応させて、左眼用及び右眼用の虚像光学系を配置する。この虚像光学系によって遠用検眼位置に視標の虚像が結像される。被検者がこの虚像を注視することで、遠用検眼位置に配置した視標を用いた場合と同様の遠用検眼を行うことができる。これに対して、被検眼の前方から左眼用及び右眼用の虚像光学系を退避させることで、近用検眼位置に配置された視標表示部の視標を用いて、被検眼の近用検眼を行うことができる。したがって、被検眼の近用検眼と遠用検眼との切り替えが容易に可能で簡易な構成の眼科装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る検眼装置の外観構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る検眼装置の制御系のブロック構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る検眼装置の検眼装置本体の検眼ユニットの概略構成及び視標表示装置との位置関係を表す図である。
【
図4】第1実施形態に係る検眼装置の光学系の要部構成を示す光学図であり、(a)は遠用検眼時の光学図を示し、(b)は近用検眼時の光学図を示す。
【
図5A】第2実施形態に係る検眼装置の制御系のブロック構成を示す図である。
【
図5B】第2実施形態に係る検眼装置の光学系の要部構成を示す光学図である。
【
図6】第3実施形態に係る検眼装置の光学系の要部構成を示す光学図であり、(a)は遠用検眼時の光学図を示し、(b)は近用検眼時の光学図を示す。
【
図7】第3実施形態に係る検眼装置において、プリズムの作用効果を説明するための説明図である。
【
図8】第4実施形態に係る検眼装置の検眼装置本体の裏面図であり、視標表示部側の外面(裏面)に計測用マーカが付されている。
【
図9】第2実施形態に係る検眼装置の使用方法の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の視標表示装置及びこの視標表示装置を備える眼科装置の一例としての自覚式の検眼装置(以下、単に「検眼装置」という。)の第1実施形態を、図面を参照しながら説明する。第1実施形態に係る検眼装置は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、被検眼の視機能の検査及び矯正を両眼同時に実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、本実施形態の検眼装置では、両眼同時に検査するだけでなく、片眼ずつ検査等することも可能となっている。
【0012】
[検眼装置100の構成]
第1実施形態に係る検眼装置100の構成を、
図1~
図4を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係る検眼装置100の外観構成を表す模式図である。
図2は、第1実施形態に係る検眼装置100の構成を表すブロック図である。
図3は、検眼装置本体1の検眼ユニット10L,10Rの概略構成と視標表示装置2との位置関係とを表す図である。
図4(a)は第1実施形態に係る検眼装置100の光学系の要部構成の、遠用検眼時の光学図を示し、
図4(b)は近用検眼時の光路を示す。
【0013】
この
図4は説明を容易とするために模式的に表現した光学図であり、各部材のサイズや部材間の距離は、実際のスケールとは異なっている。また、
図4中、実線はディスプレイ20からの光の光路を示し、破線は虚像光学系40の光路を示す。また、一点鎖線で示すLは主光軸である。後述する
図5B~
図7でも同様である。
【0014】
本実施の形態の検眼装置100は、
図1に示すように、検眼装置本体(レフラクターヘッド)1と、視標表示装置2と、虚像光学系40(
図4等参照)と、コントローラ3と、を主に備えて構成される。検眼装置本体1は、例えば、検眼テーブル4に備えられる。
【0015】
なお、本明細書を通じて
図1に記すようにX軸、Y軸及びZ軸を取り、被検者Sから見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(検眼装置本体1から見て視標表示装置2の方向、奥行き方向)をZ方向とする。
【0016】
検眼テーブル4は、検眼装置本体1の支持やコントローラ3の載置のための机である。例えば、検眼テーブル4には、支柱5が立った状態で設けられる。支柱5は、その長手方向に伸縮可能に構成される。支柱5は、横方向に延びる支持アーム6を支持する。支持アーム6には、支柱5と反対側の端部(先端部)に支持部材7が取り付けられている。この支持部材7に、検眼装置本体1が吊り下げられることで、支持アーム6が検眼装置本体1を支持する。また支持アーム6の先端部には、操作アーム8が、この先端部から突出するように設けられている。操作アーム8は、検者Tによる操作を受け、支持アーム6及び検眼装置本体1と共に、支柱5の軸回り方向(矢印a,b方向)に回動可能である。また、検眼テーブル4の近傍には、被検者S用の椅子9aが備えられているが、検者T用の椅子9bを備えていてもよい。
【0017】
〔検眼装置本体1〕
検眼装置本体1は、左右の被検眼E(左眼EL,右眼ER)に対応するように、左右に一対設けられた左眼用及び右眼用の検眼光学系としての検眼ユニット10L,10Rを備えている。各検眼ユニット10L,10Rは、左右方向(X方向)にスライド可能に支持部材7に取り付けられ、相対接近及び離反が可能となっている。以下、「左眼用及び右眼用」を、単に「左右眼用」、又は「左右の」と省略することがある。
【0018】
左右眼用の検眼ユニット10L,10Rには各々左右眼用の検眼窓11L,11Rが設けられている。各検眼ユニット10L,10R内には、左右眼用の検眼窓11L,11Rに選択的に配置して検眼に用いる左右眼用の複数の光学部材12L,12Rが配置されている。また、各検眼ユニット10L,10R内には、各検眼窓11L,11Rに配置されて各検眼窓11L,11Rをそれぞれ開閉(遮蔽・開放)する左右眼用の遮光部材が設けられている。左右眼用の光学部材12L,12R及び遮光部材は、左右眼用の駆動機構13L,13R(
図3等参照)によって個別に動作可能に構成されている。
【0019】
左右眼用の複数の光学部材12L,12Rは、被検眼Eの視機能を矯正するために用いられる各種レンズ及び偏光部材等からなる集合体である。各光学部材12L,12Rは、例えば、偏光フィルタ、球面レンズ、円柱レンズ、プリズムを含んでいる。複数の光学部材12L,12Rは、検眼パラメータの種別ごとに組分けされる。
【0020】
検眼パラメータは、被検眼Eの視機能を検査するための検査条件を示すものである。例えば、検眼パラメータの種別は、球面度数、乱視度数、乱視軸角度、加入度数、瞳孔間距離、プリズム度数及びプリズム基底方向のうち少なくとも1つを含む。検眼パラメータの種別ごとの組分けとして、球面度数の組は、複数の球面レンズを含み、それぞれ異なる球面度数の球面レンズにより構成される。乱視度数の組は、複数の円柱レンズを含み、それぞれ異なる乱視度数の円柱レンズにより構成される。なお、乱視度数の組は、さらに乱視軸角度に応じて個々のレンズを回転可能に構成されている。プリズム度数の組は、複数のプリズムを含み、それぞれ異なるプリズム度数のプリズムにより構成される。なお、プリズム度数の組は、さらに個々のプリズムが回転可能に構成されてもよい。瞳孔間距離は、被検眼E(左眼EL,右眼ER)の瞳孔間距離PDに合わせて設定される検査条件である。瞳孔間距離は、検眼ユニット10L,10Rの一方又は双方が、水平方向(X方向)にスライドすることにより設定される。なお、本実施形態では、プリズム屈折力の異なる複数のプリズムを配置する構成としているが、これに限定されるものではなく、2枚のプリズム組からなる可変プリズム(ロータリープリズム)を用いる構成としてもよい。
【0021】
左右眼用の検眼ユニット10L,10Rは、例えば、左右眼用の複数の円板形状のターレット板14L,14Rを有している。各ターレット板14L,14Rは、外周縁の近傍に複数の孔hを有する。孔hには、光学部材12L,12Rがそれぞれ嵌め込まれている。各ターレット板14L,14Rは、各駆動機構13L,13Rによって、円の中心を軸として円周回りに回転可能に構成される。駆動機構13L,13Rは、ターレット板14L,14Rを回転させることにより、複数の光学部材12L,12Rのそれぞれを検眼窓11L,11Rに配置させ、かつ、検眼窓11L,11Rから退避させる。駆動機構13L,13Rは、例えば、アクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力伝達機構と、等から構成される。
【0022】
〔視標表示装置2〕
視標表示装置2は、
図3に示すように、検眼装置本体1を介して被検眼Eの前方の近用視距離dの位置(近用検眼位置)に配置される。本実施形態では、
図4に示すようにd=350mmの位置に配置される。視標表示装置2は、
図1に示すように、ディスプレイ20を備え、その表示面(表示領域)20aに視標を表示することによって、被検眼Eに視標Oを呈示する。視標表示装置2は、コントローラ3からの制御信号を受けることによって、視力検査視標、赤緑検査視標、乱視検査視標、両眼視機能検眼視標等の視標Oをディスプレイ20の表示面20aに表示する。
【0023】
ディスプレイ20は、液晶ディスプレイ(LCD)や有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(有機EL)等の電子表示デバイスによって構成される。表示面20aは、ピクセル(画素)がアレイ状に配列されている。表示する視標に応じて、表示面20aの所定の領域に視標を表示することができる。
【0024】
視標Oとしては、検眼に用いるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、ランドルト環、スネレン視標、Eチャート等であってもよいし、ひらがなやカタカナ等の文字、動物や指等の絵等を用いた視標であってもよいし、十字視標等の両眼視機能検眼用の特定の図形や風景画や風景写真等であってもよく、様々な視標を用いることができる。また、視標Oが静止画であってもよいし動画であってもよい。本実施形態では、視標表示装置2がLCD等のディスプレイ20を備えているため、所望の形状及び形態の視標を表示することができ、多様な検眼が可能となる。
【0025】
視標表示装置2としては、専用のものであってもよいが、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末の携帯情報機器を用いるのが好適であり、これらの中でもスマートフォンを用いるのが特に好適である。このような携帯情報機器が有するディスプレイを、本実施形態のディスプレイ20とすることができる。視標表示装置2として、被検者S自身のスマートフォン等を用いれば、被検者Sの日常生活に対応した最適な被検眼Eの検眼や矯正が可能となる。したがって、スマートフォン等の携帯情報機器が普及した時代に合致する検眼装置100を提供することができる。
【0026】
また、視標表示装置2として携帯情報機器を用いる場合は、コントローラ3等からの指示によって又は携帯情報機器の操作によって、ディスプレイ20に視標Oを表示するアプリケーションソフトウェアを、予め視標表示装置2にインストールしておく。これにより、所望の視標Oを表示することができる。
【0027】
さらには、近用検眼に用いる視標Oとして、被検者Sが通常使用しているメールソフトのメール閲覧画面や、被検者Sが利用するwebサイトの閲覧画面の画像を用いれば、被検者Sのスマートフォンの見え方により適した矯正等が可能となる。
【0028】
視標表示装置2が携帯情報機器である場合、ディスプレイ20は、4インチ以上が望ましく、5インチ以上がより望ましい。また、ディスプレイ20の解像度(画素数)としては、例えば、300ppi以上が望ましく、400ppi以上がより望ましく、800ppi以上がさらに望ましい。
【0029】
本実施形態では、視標表示装置2を、解像度が576ppi超のLCD(ディスプレイ20)と、カメラ20bとを有するスマートフォンで構成している。そして、この視標表示装置2を、スマートフォンホルダ等に装着し、
図1に示すように、検眼装置本体1のディスプレイ20側に折り畳み自在に設けられた近点棒1aに取り付けている。これにより、視標表示装置2を、近用検眼位置(近用視距離d=350mmの位置)に容易に配置することができる。また、視標表示装置2は近点棒1aに沿って前後に摺動可能に構成されており、近用検眼位置を任意に変更することが可能となっている。
【0030】
なお、ディスプレイ20は、近点棒1aに取り付ける以外にも、別途用意したホルダやアーム等の取付部材を用いて検眼装置本体1に取り付けてもよい。また、これら以外にも、近用検眼位置に配置した台に載置してもよいし、壁面に取り付けてもよい。
【0031】
ここで、ディスプレイ20の解像度が576ppi超とした理由を説明する。一般的に最も小さな視標は視力2.0の視標であり、例えばランドルト環の場合、視角θ=0.5分であるため、2.0視表像(虚像)の隙間Hは、下記式により算出できる。
θ = 0.5/60 = 0.00833(deg.)
H = 4968×tan0.00833 = 0.722571(mm)
【0032】
表示倍率(β)を考慮して、LCDからなるディスプレイ20上での隙間hは、下記式により算出できる。
h = H/β= 0.722571/16.39 = 0.0441(mm)
【0033】
したがって、2.0視標の隙間を1画素で表すためには、LCDの画素ピッチはh以下である必要がある。この画素を1mm内の画素数で表すと、下記計算式によって算出された値となる。
1/h = 1/0.0441 = 22.69(pitch/mm)
これを1inch = 25.4mmで換算すると、解像度(ppi)は、下記計算式により算出できる。
22.69×25.4 = 576.3(pitch/inch(ppi))
したがって、LCDからなるディスプレイ20の解像度を576ppi超とするのが望ましい。
【0034】
〔虚像光学系40〕
虚像光学系40は、ディスプレイ20に呈示された視標Oの虚像i(
図4等参照)を遠用検眼位置に結像するために用いられる。虚像光学系40は、左眼ELに対応して配置する左眼用の虚像光学系40Lと右眼ERに対応して配置する右眼用の虚像光学系40Rとから構成される。
【0035】
また、本実施形態では、この左右眼用の一対の虚像光学系40L,40Rは、左眼EL及び右眼ERと視標表示装置2との間であって、左右の検眼窓11L,11Rの前方に配置される。つまり、本実施形態では、虚像光学系40L,40Rは、検眼ユニット10L,10Rの外側に設けられている。
図4に示すように、虚像光学系40(40L,40R)は、ディスプレイ20側の面(裏面)から被検眼Eまでの距離d1=50mmとなる位置合わせで配置されている。また、ディスプレイ20は、その表示面20aから虚像光学系40の裏面までの距離d2=300mmの位置に配置している。よって、被検眼Eからディスプレイ20の表示面20aまでの近用視距離d=350mmとなっている。
【0036】
虚像光学系40L,40Rとしては、例えば、凸レンズ系を用いることができる。本実施形態では、虚像光学系40L,40Rとして+3.13D(ディオプタ)の凸レンズ系を用いることで、距離d2=300mmの位置にあるディスプレイ20の視標Oの虚像iを被検眼Eから遠用視距離D=約5,000mm(より正確には4,968mm)の位置に結像させている。
【0037】
しかしながら、これに限定されるものではなく、遠用視距離Dに応じて適宜の屈折力の虚像光学系40L,40Rを用いることができる。また、屈折力の異なる複数の虚像光学系40L,40Rを設け、ディスプレイ20までの距離や遠用検眼距離に応じた適切な虚像光学系40L,40Rを選択して用いる構成としてもよい。
【0038】
また、虚像光学系40L,40Rには、これらを駆動して左眼EL及び右眼ERと視標表示装置2との間(検眼窓11L,11Rの前方)へ配置及び退避させる一対の駆動機構41L,41Rが設けられている(
図2参照)。本実施形態では、一対の駆動機構41L,41Rによって一対の虚像光学系40L,40Rを駆動しているが、一つの駆動機構で一対の虚像光学系40L,40Rを駆動する構成としてもよい。
【0039】
〔コントローラ3〕
コントローラ3は、検者Tが検眼装置100を操作するために用いられる。コントローラ3は、検者Tによる操作を受け付け、この操作に応じた制御信号を検眼装置本体1又は視標表示装置2又はこれら双方へ出力する。コントローラ3と検眼装置本体1とは、一般的な通信インターフェイス(I/F)によって、通信可能に接続される。コントローラ3は、この通信I/Fを介して、制御信号を検眼装置本体1へ出力する。また、コントローラ3と視標表示装置2とは、一般的な通信I/Fによって、通信可能に接続される。コントローラ3は、この通信I/Fを介して、制御信号を視標表示装置2へ出力する。一般的な通信I/Fは、有線であってもよいし、無線LAN、ブルートゥース(登録商標)等の無線であってもよい。
【0040】
コントローラ3は、
図2に示すように、検眼装置100全体の動作を制御する制御部30と、検者Tからの操作指示を受け付ける受付部31と、検眼パラメータ、検査情報又は検査結果等を表示する表示部32と、などを有して構成される。
【0041】
受付部31として、例えば、キーボードやマウスを備えている。また、表示部32は、LCDや有機EL等により構成することができる。表示部32がタッチパネル式であれば、表示部32の表示面が受付部31としても機能する。受付部31は、遠用検眼又は近用検眼の指示、表示面20aに表示する各種視標の選択指示、プリズム度数、球面度数(S)、円柱度数(C)、軸角度(A)、瞳孔間距離(PD)、加入度(ADD)等を設定するための指示、被検眼Eを左眼EL、右眼ER又は両眼に設定するため指示等を受け付ける。
【0042】
本実施形態では、コントローラ3を、受付部31や表示部32を備えたノート型パーソナルコンピュータで構成しているが、これに限定されるものではなく、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末(情報処理装置)で構成することもできる。なお、コントローラ3が、これらに限定されるものではなく、検眼専用のコントローラであってもよい。
【0043】
制御部30は、マイクロプロセッサと、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等の記憶部30aと、を有して構成される。制御部30は、記憶部30aに、検眼装置100の各部の制御を行うためのコンピュータプログラムを予め記憶する。制御部30は、このコンピュータプログラムを、例えばRAM上に展開して実行することにより、検眼装置100の動作を統括的に制御する。また、記憶部30aには、コンピュータプログラムのほかに、検眼のための各種検眼パラメータ、検眼結果などが記憶される。
【0044】
制御部30は、受付部31で受け付けた操作指示に応じて、検眼パラメータや検査情報を表示部32に表示させる。また、タッチパネル式の表示部32の場合は、操作キーなどを表示部32に表示させる。
【0045】
また、制御部30は、視標表示装置2を制御する表示制御部としても機能し、受付部31で受け付けた呈示対象視標の選択指示によって選択された視標Oを、表示面20aに表示するように視標表示装置2を制御する。このとき、制御部30は、受付部31で受け付けた検眼種別、つまり遠用検眼か近用検眼かに応じて、表示倍率等の表示条件を適切に調整して視標Oを表示する。なお、視標表示装置2を操作して視標Oを表示する態様としてもよい。
【0046】
また、制御部30は、駆動機構13L,13R、駆動機構41L,41Rを駆動制御する駆動制御部としても機能する。制御部30は、操作指示に応じて、駆動機構13L,13Rを駆動してターレット板14L,14Rを回転させ、検眼窓11L,11Rに配置される屈折レンズの度数やプリズムの度数を変更する。また、駆動機構13L,13Rを駆動して遮蔽部材を作動させ、検眼窓11L,11Rを開閉する。
【0047】
また、制御部30は、検眼種別に応じて駆動機構41L,41Rを駆動制御して、虚像光学系40L,40Rの被検眼Eの前方への配置及び退避を制御する。つまり、遠用検眼の指示を受け付けた場合は、
図4(a)に示すように、制御部30は駆動機構41を駆動制御して、虚像光学系40(40L,40R)を被検眼Eの前方に配置する。これにより、虚像光学系40(40L,40R)が遠用検眼位置、本実施形態では、遠用視距離D=5,000mm(5m)の位置に、ディスプレイ20に表示された視標Oの虚像iを結像する。よって、被検眼Eから5m先に設置した視標を用いたときと同様の遠用検眼が可能となる。
【0048】
これに対して、近用検眼の指示を受け付けた場合は、
図4(b)に示すように、制御部30は駆動機構41を駆動制御して、虚像光学系40(40L,40R)を被検眼Eの前方から退避させる。これにより、被検者Sは、近用検眼位置にあるディスプレイ20に表示された視標Oの像Iを注視することができ、近用検眼を行うことができる。このように、本実施形態の検眼装置100は、被検眼Eと視標表示装置2との間に虚像光学系40を挿脱するだけで、遠用検眼と近用検眼とを容易に切り替えることができる。
【0049】
上述のような構成の第1実施形態の検眼装置100を用いて、両眼視機能検眼を実行するとき動作の一例、すなわち検眼装置100の使用方法の一例を、
図9のフローチャートに従って説明する。
【0050】
まず、準備作業として、視標表示装置2を起動し、必要に応じてアプリケーションソフトを立ち上げる。この視標表示装置2を、
図1に示すように、近点棒1aに吊り下げる。また、検眼装置本体1とコントローラ3も起動させておく。次いで、被検者Sを椅子9aに座らせて、検眼装置本体1と対峙させ、左眼EL及び右眼ERの前方に左眼用の検眼ユニット10L及び右眼用の検眼ユニット10Rを配置する。このとき、検者Tがコントローラ3を操作して駆動機構13L,13Rを駆動するか又は手動で、被検眼Eの瞳孔間距離PDに応じて、検眼ユニット10L,10Rを左右方向にスライドさせ、左眼EL及び右眼ERに臨んで検眼窓11L,11Rが配置されるように調整する。
【0051】
そして、検者Tがコントローラ3を操作して、両眼視での遠用検眼又は近用検眼の検眼指示をすると、制御部30がこの検眼指示を受け付ける(ステップS1)。遠用検眼の指示を受け付けた場合には(ステップS2の判定がYES)、制御部30は、駆動機構41L,41Rを駆動制御して、
図4(a)に示すように、被検眼E(EL,ER)及び検眼ユニット10(10L,10R)の前方に虚像光学系40(40L,40R)を配置する(ステップS3)。
【0052】
次に、検者Tがコントローラ3を操作して、所定の視標Oの呈示を指示すると、これを受け付けた制御部30の制御の下、視標表示装置2がディスプレイ20の表示面20aに、倍率等が適宜調整した遠用検眼用の視標Oを表示する(ステップS4)。なお、ステップS3とステップS4の工程は、逆順に実行してもよいし、実質同時に実行してもよい。
【0053】
以上の工程により、虚像光学系40(40L,40R)によって、遠用検眼位置に視標Oの虚像iが結像される。検眼ユニット10(10L,10R)の検眼窓11(11L,11R)を介して、この虚像iを被検者Sに注視させることで、被検眼Eの遠用検眼を実行する(ステップS5)。これにより、遠用検眼位置に設置した視標を用いたときと同様の遠用検眼が可能となる。
【0054】
また、このような遠用視の状態で、視標Oの見え方などに応じて、ターレット板14L,14Rを回転させて、光学部材12L,12Rの適宜のレンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、遠用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。
【0055】
一方、近用検眼の指示を受け付けた場合は(ステップS2の判定がNO)、制御部30は駆動機構41を駆動制御して、
図4(b)に示すように、虚像光学系40(40L,40R)を被検眼E及び検眼ユニット10の前方から退避させる(ステップS6)。
【0056】
次に、検者Tがコントローラ3を操作して、所定の視標Oの呈示を指示すると、これを受け付けた制御部30の制御の下、視標表示装置2がディスプレイ20の表示面20aに、近用検眼用の視標Oを表示する(ステップS7)。この場合も、ステップS6とステップS7の工程は、逆順に実行してもよいし、実質同時に実行してもよい。
【0057】
次いで、被検者Sに、この視標Oの像Iを注視させることで、被検眼Eの近用検眼を実行する(ステップS8)。これにより、近用検眼を行うことができる。この自然視状態で、視標Oの見え方などに応じて、ターレット板14L,14Rを回転させて、光学部材12L,12Rの適宜のレンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、近用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る検眼装置100Aを、
図5Aのブロック構成図、
図5Bの光学図を参照しながら説明する。上記第1実施形態の検眼装置100は、検眼ユニット10L,10Rの外側に、検眼ユニット10L,10Rの光学部材12L,12Rとは別個に設けた虚像光学系40L,40Rを備えている。
【0059】
これに対して、第2実施形態に係る検眼装置100Aは、検眼ユニット10L,10Rの光学部材12L,12Rのいずれかを、虚像光学系40L,40Rとして兼用している。すなわち、
図5Aに示すように、光学部材12L,12Rの中に、虚像光学系40L,40Rが含まれている。したがって、駆動機構41L,41Rも別個に備えておらず、光学部材12L,12Rの駆動機構13L,13Rを兼用している。これにより、検眼装置100Aの部品点数増加、嵩や重量の増大を抑制し、より簡易な構成とすることができる。
【0060】
また、第2実施形態では、視標表示装置2として、ディスプレイ20の解像度が605ppi超のスマートフォンを用いている。
【0061】
このように、第2実施形態の検眼装置100Aは、主に光学部材12L,12Rのいずれかを虚像光学系40L,40Rとして用いること、ディスプレイ20の解像度が異なること以外は、第1実施形態の検眼装置100と同様の基本構成を備えている。そのため、第1実施形態と同様の部材には、同様の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0062】
図5Bに示すように、本実施形態では、虚像光学系40と被検眼Eの角膜頂点との距離d1=12mmであり、虚像光学系40と視標表示装置2の表示面20aとの距離d2=288mmである。よって被検眼Eの角膜頂点から検眼装置本体1を介して、近用視距離d=300mmの位置に視標表示装置2が配置されている。
【0063】
また、本実施形態では、虚像光学系40の屈折力を+3.25Dとしている。このような虚像光学系40により、被検眼Eから見て遠用視距離D=4512mmの位置に視標Oの虚像iが結像される。なお、虚像光学系40として、光学部材12の中から+3.25Dの光学部材を選択してもよいし、複数の光学部材12を組み合わせて+3.25Dとしてもよい。
【0064】
ここで、理想的には+3.27Dの凸レンズ系を虚像光学系40として配置することで、虚像iが5,000mmの位置に結像される。しかし、一般的な検眼装置本体1の光学部材12を用いて生成できる屈折力は0.25Dピッチとなるので、本実施形態では3.25Dとした。5,000mm遠方の虚像iにピントを合わせる際の、被検眼Eの調節力は0.2Dである。これに対して4,512mmでは0.22Dとなり、調節力の差は0.02Dとなる。眼鏡の処方は0.25Dもしくは0.12Dピッチであるため0.02Dの誤差は無視できる。
【0065】
本実施形態では、近用視距離d=300mmであり、遠用視距離D=約5,000mmの位置に虚像iを得るために、+3.25Dの虚像光学系40を配置しているが、これに限定されるものではなく、遠用視距離Dに応じて適宜の屈折力とすることができる。他の異なる例として、近用視距離d=400mmの場合は、+2.37D(0.25Dピッチの場合は+2.25D)の虚像光学系40を配置することで、約5,000mmに虚像iを得ることができる。
【0066】
上記構成の第2実施形態の検眼装置100Aの使用方法として、
図9に示す第1実施例のステップS1~S8と略同様の工程を実行することで、遠用検眼及び近用検眼の双方を共通の視標表示装置2を用いて行うことができる。また、虚像光学系40として検眼装置本体1内の光学部材12(レンズ)の組み合わせを使用することで、虚像光学系40の屈折力を容易に変更することが可能となる。そのため、近用視距離を任意に設定し、近用視距離dに応じた虚像光学系40の屈折力を設定することが可能となる。
【0067】
すなわち、制御部30が検眼指示を受け付ける(ステップS1)。この検眼指示が遠用検眼の場合には(ステップS2の判定がYES)、制御部30は、駆動機構13L,13Rを駆動制御してターレット板14L,14Rを回転させ、
図5Bに示すように、被検眼E(EL,ER)の前方に虚像光学系40(40L,40R)を配置する(ステップS3)。
【0068】
次に、視標Oの呈示の指示に従って、制御部30の制御の下、視標表示装置2がディスプレイ20の表示面20aに、表示倍率等を適宜調整した遠用検眼用の視標Oを表示する(ステップS4)。虚像光学系40(40L,40R)によって遠用検眼位置に結像された視標Oの虚像iを注視させることで、被検眼Eの遠用検眼を実行する(ステップS5)。この場合も、視標Oの見え方などに応じて、虚像光学系40L,40Rのものとは別個のターレット板14L,14Rを回転させて、レンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、遠用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。
【0069】
一方、近用検眼の指示を受け付けた場合は(ステップS2の判定がNO)、制御部30は駆動機構13L,13Rを駆動制御してターレット板14L,14Rを回転させ、
図5Bに点線で示すように、虚像光学系40(40L,40R)を被検眼Eの前方から退避させる(ステップS6)。
【0070】
次に、視標Oの呈示の指示に従って、制御部30の制御の下、視標表示装置2が表示面20aに、近用検眼用の視標Oを表示する(ステップS7)。これにより、被検者Sは検眼窓11L,11Rを通して、つまり0Dの状態で、近用検眼位置の視標Oの像Iそのものを注視するものとなる。この状態で被検眼Eの近用検眼を実行する(ステップS8)。この場合も、視標Oの見え方などに応じて、ターレット板14L,14Rを回転させて、レンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、遠用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。また、近用検眼の場合は、虚像光学系40L,40Rとして使用している光学部材12も、矯正に用いることができる。
【0071】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る検眼装置100Bを、
図5Aのブロック構成図、
図6、
図7の光学図を参照しながら説明する。第3実施形態の検眼装置100Bは、
図5Aに点線で示し、
図6及び
図7に実線で示したように、光偏向部材としての左右眼用の一対のプリズム42L,42Rを備えていること以外は、第2実施形態の検眼装置100Aと同様の基本構成を備えている。この一対のプリズム42L,42Rは、ディスプレイ20からの視標Oの光を、
図7において主光軸Lに対して内側に偏向して左右の被検眼Eに導く機能を有している。
【0072】
また、第3実施形態では、このプリズム42L,42Rとして、光学部材12L,12R中から選択した所定の屈折力のプリズム(又はロータリープリズム)を用いている。これにより、光学部材12L,12Rとは別個にプリズム42L,42を設ける必要がなく、検眼装置100Bの部品点数の増加、嵩や重量の増大を抑制し、より簡易な構成とすることができる。
【0073】
また、プリズム42L,42Rは、駆動機構13L,13Rによって、対応するターレット板14L,14Rを回転させることで、被検眼Eの前方への配置と退避とを自在に行うことができる。
【0074】
次に、
図7の光学図を用いて、両眼での遠用検眼の際にプリズム42L,42Rを配置したときの作用効果を説明する。被検眼Eから実際に5m先にある視標の像iCを注視する場合、左右眼の視線e1L,e1Rが5m先で交差するように被検眼Eを回旋させている。この場合、被検眼Eの前方に虚像光学系40L,40R(虚像光学系40L,40Rの光軸は主光軸Lに平行であるとする)を配置した場合、虚像iR,iLは左右眼から5mの位置に結像する。しかし、
図7に点線で示すように、視線e2L,e2Rが、視標表示装置2の位置で交差するように、被検眼Eを内方回旋させる必要があり、被検者Sに違和感を与える。
【0075】
そこで、本実施形態では、虚像光学系40L,40Rの前方(虚像光学系40L,40Rと視標表示装置2との間)に、プリズム42L,42Rを配置することで、視標Oからの光の光路を例えばe3Lの方向に偏向して被検眼Eへ導く。これにより、結果的に、被検眼Eからe1L,e1Rの方向に虚像iCが見えるものとなり、被検眼Eの眼位を自然視状態に近づけることを可能とした。これにより、遠用視における本来の自然視状態の眼位での自然な(違和感のない)両眼視での検眼が可能となる。
【0076】
プリズム42L,42Rの偏向量は、視標Oまでの距離と被検眼Eの状態、より具体的には、例えば瞳孔間距離PDに応じて決まる。本実施形態では、左右の検眼ユニット10L,10Rに備えられた光学部材12L,12R中のプリズムをプリズム42L,42Rとして利用する構成であるため、瞳孔間距離PDに対応した適切な偏角量のプリズムPL,PRを選択して配置することができる。瞳孔間距離PDは、コントローラ3等から、検眼装置本体1に対して設定した値を用いてもよいし、手動で検眼ユニット10L,10Rをスライド移動したときに、制御部30が取得した移動量に基づいて算出してもよい。得られた瞳孔間距離PDに基づいて、配置するプリズム42L,42Rの偏向角及び偏向量を決定する。
【0077】
なお、プリズム42L,42Rの偏向角及び偏向量は、計算によるものに限定されるものではなく、瞳孔間距離PD等の被検眼Eの状態とプリズムP42L,42Rの偏向角及び偏向量とを対応付けたテーブルを予め記憶部30aに記憶しておき、このテーブルから、被検眼Eの状態に応じた偏向角及び偏向量を取得してもよい。
【0078】
上記構成の第3実施形態の検眼装置100Bの使用方法として、
図9を用いて説明した第2実施例と略同様の工程に加えて、プリズム42L,42Rの配置又は退避の工程を実行することで、遠用検眼及び近用検眼の双方を違和感なく行うことができる。
【0079】
すなわち、制御部30が検眼指示を受け付ける(ステップS1)。この検眼指示が遠用検眼の場合には(ステップS2の判定がYES)、制御部30は、駆動機構13L,13Rを駆動制御してターレット板14L,14Rを回転させ、
図6(a)に示すように、被検眼E(EL,ER)の前方に虚像光学系40(40L,40R)を配置し、瞳孔間距離PD等に応じて選択されたプリズム42(42L,42R)を配置する(ステップS3)。
【0080】
次に、視標Oの呈示の指示に従って、制御部30の制御の下、視標表示装置2がディスプレイ20の表示面20aに、倍率等を適宜調整した遠用検眼用の視標Oを表示する(ステップS4)。虚像光学系40(40L,40R)によって遠用検眼位置に結像された視標Oの虚像iは、プリズム42(42L,42R)によって外側へ偏向されて、左眼EL及び右眼ERに導かれる。この状態で、被検眼Eの遠用検眼を実行する(ステップS5)。この場合も、視標Oの見え方などに応じて、虚像光学系40L,40R及びプリズム42L,42Rのものとは別個のターレット板14L,14Rを回転させて、レンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、遠用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。
【0081】
一方、近用検眼の指示を受け付けた場合は(ステップS2の判定がNO)、制御部30は駆動機構13L,13Rを駆動制御してターレット板14L,14Rを回転させ、
図6(b)に示すように、虚像光学系40(40L,40R)とプリズム42L,42Rを被検眼Eの前方から退避させる(ステップS6)。
【0082】
次に、視標Oの呈示の指示に従って、制御部30の制御の下、視標表示装置2が表示面20aに、近用検眼用の視標Oを表示する(ステップS7)。被検者Sに、この視標Oの像Iを注視させることで、被検眼Eの近用検眼を実行する(ステップS8)。この場合も、視標Oの見え方などに応じて、ターレット板14L,14Rを回転させて、レンズやプリズムを検眼窓11L,11Rに配置していくことにより、遠用時の屈折異常や斜位等の矯正を行うことができる。また、近用検眼の場合は、虚像光学系40L,40R及びプリズム42L,42Rとして使用している光学部材も、矯正に用いることができる。
【0083】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の検眼装置について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、第4実施形態の検眼装置の検眼装置本体1の裏面図である。第4実施形態の検眼装置は、検眼装置本体1の裏面にシール等からなるマーカ50を付し、視標表示装置2に、このマーカ50の画像を撮影する撮像部としてのカメラ20b(
図1参照)を設けたこと以外は、第3実施形態の検眼装置100Bと同様の基本構成を備えている。
【0084】
マーカ50は、
図8に示すように、左右眼用の検眼ユニット10L,10Rにそれぞれ設けられている(マーカ50L,50R)。各マーカ50L,50Rは、上下方向(Y方向)に延びるPD検出スケール51L,51Rと、これと交差し水平方向(X方向)に延びる水平検出スケール52L,52Rと、正方形からなる撮影倍率確認スケール53L,53Rと、から構成されている。PD検出スケール51L,51Rと、水平検出スケール52L,52Rと、撮影倍率確認スケール53L,53Rとは、それぞれの中心(重心)が一致するように、重ね合されて付されている。
【0085】
なお、マーカ50がこれらに限定されるものではないし、3種類すべて備える必要もなく、いずれか一つ又は二つの種類を設けてもよい。また、マーカ50の形状も、本実施形態の形状に限定されるものではなく、適宜の形状とすることができる。
【0086】
また、本実施形態では、視標表示装置2として、カメラ20b付きのスマートフォン等の携帯情報機器を用いているため、視標表示装置2に別個にカメラを設ける必要がない。よって、視標表示装置2等の構成をより簡易とし、部品点数もより少なくすることができる。
【0087】
上述のような構成の第4実施形態の検眼装置では、制御部30(視標表示装置2が備える制御部であってもよい)の制御の下、カメラ20bがマーカ50L,50Rを撮影する。この画像信号は、制御部30へと送信され、適宜の画像処理が行われる。制御部30は、マーカ50L,50Rの撮影画像からPD検出スケール51L,51Rを検出し、PD検出スケール51L,51R間の距離を算出する。この距離に基づいて、瞳孔間距離PDを算出する。算出した瞳孔間距離PDに基づいて、遠用検眼時に被検眼Eの前方に配置するプリズム42L,42Rの偏向量等を決定し、対応するプリズム42L,42Rを選択して、被検眼Eの前方に配置する。これにより、瞳孔間距離PDに応じた適切なプリズム42L,42Rを、被検眼Eの前方に配置することができる。
【0088】
また、制御部30は、撮影画像中の水平検出スケール52L,52Rの、水平方向(X方向)に対する傾斜角度を算出し、この傾斜角度を視標表示装置2の傾斜角度に換算する。この傾斜角度が、例えば予め記憶部30aに記憶等していた閾値以下であって、画像処理により補正可能な範囲内であれば、制御部30は視標表示装置2を制御して、被検眼Eに対して視標Oが水平に表示されるように、表示面20aへの視標Oの表示角度を調整する。したがって、視標表示装置2が、多少傾いて近点棒1a等に取り付けられても、被検者Sは水平に表示された視標Oを注視することができ、適切な検眼が可能となる。
【0089】
一方、傾斜角度が閾値超である場合、つまり視標表示装置2の傾きが過度に大きい場合は、画像処理による補正に代えて、制御部30は、ブザー、音声、光等によって、検者Tにアラーム通知する。これにより、検者Tは視標表示装置2の取り付け状態が適切でないことを認識することができ、視標表示装置2を水平な状態に配置する等、適切に取り付け直すことができる。
【0090】
また、制御部30は、撮影画像中の正方形の撮影倍率確認スケール53L,53Rのサイズを算出する。撮影倍率確認スケール53L,53Rのサイズは、検眼ユニット10L,10Rと、カメラ20bとの距離に応じて変化する。算出サイズが、予め記憶部30aに記憶等していた基準サイズと一致していれば、視標表示装置2が近用検眼位置に適切に配置されている。これに対して、算出サイズが基準サイズと不一致であれば、視標表示装置2が近用検眼位置よりも前方又は後方に位置していることとなる。この場合、制御部30は、算出サイズが基準サイズとの差に応じて、視標Oの表示倍率を調整して表示面20aに表示する。
【0091】
これにより、視標表示装置2が近用検眼位置からZ方向にずれた位置に取り付けられた場合でも、視標表示装置2が近用検眼位置に配置されているのと同様の条件で、適切な検眼が可能となる。なお、変形例として、撮影倍率確認スケール53L,53Rのサイズが基準サイズと不一致の場合に、アラーム通知によって検者Tに適切な位置への再配置を促すようにしてもよい。
【0092】
また、一対の検眼ユニット10L,10Rにそれぞれマーカ50L,50Rが設けられているので、例えば、視標表示装置2が、水平ではあるが、Z方向に対して前後方向に傾斜して配置された場合等でも、左右のマーカ50L,50Rの撮影状態に応じて、視標Oの表示角度や倍率を、左右別個に調整することも可能となる。
【0093】
以上より、視標表示装置2に傾きや位置ずれがあった場合でも、画像処理によって表示面20aへの視標Oの表示角度や表示倍率を調整することで、適切な検眼が可能となる。また、視標表示装置2の配置の厳密性が要求されず、より手軽な検眼が可能となる。
【0094】
また、撮影倍率確認スケール53L,53Rのサイズに基づいて、被検眼Eと視標表示装置2との距離を算出し、この距離に応じて、虚像光学系40の屈折力を算出し、この屈折力に応じた虚像光学系40を被検眼Eの前方に配置する構成とすることもできる。この場合、屈折力は計算によるものに限定されるものではなく、記憶部30aに予め記憶していた被検眼E及び視標表示装置2と、虚像光学系40の屈折力との対応付けテーブルから、距離に応じた屈折力を取得してもよい。
【0095】
以下、本発明の作用効果を説明する。本発明に係る各実施形態の眼科装置としての検眼装置100,100A,100Bは、近用検眼位置に配置されて被検眼E(左眼EL,右眼ER)に視標Oを呈示する視標表示装置(視標表示部)2と、被検眼Eの視機能を矯正するための複数の光学部材12(12L,12R)を有し各光学部材12を被検眼Eと視標表示装置2との間に選択的に配置する左眼用及び右眼用の一対の検眼ユニット(検眼光学系)10(10L,10R)と、視標表示装置2により呈示された視標Oの虚像iを遠用検眼位置に結像する左眼用及び右眼用の一対の虚像光学系40(40L,40R)と、を備える。一対の虚像光学系40は、被検眼Eと視標表示装置2との間に挿脱自在に設けられ、遠用検眼のときには、一対の虚像光学系40を左右の被検眼Eの前方に配置し、近用検眼のときには、一対の虚像光学系40を左右の被検眼Eの前方から退避させる。
【0096】
この構成により、視標表示装置2の位置を変更することなく、被検眼Eの前方に虚像光学系40L,40Rを配置又は退避させるだけで、遠用検眼と近用検眼とを容易に切替えて実行することができる。したがって、共通の視標表示装置2を用いて、被検眼Eの近用検眼と遠用検眼との切り替えが容易に可能で簡易な構成の検眼装置100,100A,100Bを提供することができる。
【0097】
また、虚像光学系40L,40Rを左右眼用に別個に設けたため、従来のように両眼用に口径の大きなレンズを用いる必要がなく、検眼装置100,100A,100Bの嵩や重量の増大を抑制することができる。さらに、近用視の状態で、又は遠用視に調整した状態で、検眼ユニット10を用いて、屈折異常眼の矯正に最適な度数を決定することができる。
【0098】
また、上記各実施形態では、左眼用及び右眼用の一対の虚像光学系40の屈折力は、被検眼Eと視標表示装置2との距離に応じて変更される。この構成により、被検眼Eと視標表示装置2との距離に応じて、所望の遠用検眼位置に虚像iを結像させることができ、適切な遠用検眼が可能となる。
【0099】
また、第3実施形態では、左右の被検眼Eの前方であって、左右の虚像光学系40の光路上に挿脱自在に設けられて、視標表示装置2からの光を被検眼Eと視標表示装置2とを結ぶ光軸(主光軸L)に対して外側に偏向して左右の被検眼Eに導く左眼用及び右眼用の一対の光偏向部材としてのプリズム42(42L,42R)を備えている。この構成により、遠用視における本来の自然視状態の眼位での自然な(違和感のない)両眼視での検眼が可能となる。
【0100】
このとき、左眼用及び右眼用の一対のプリズム42の偏向量は、左右の被検眼Eの状態(例えば、瞳孔間距離PD)及び被検眼Eと視標表示装置2との距離の少なくとも一方に応じて変更されるものとすることが望ましい。これにより、被検眼Eの状態や視標までの距離に応じた、より自然な眼位での違和感のない遠用検眼が可能となる。
【0101】
また、第2~第4実施形態では、虚像光学系40は、検眼ユニット10が有する複数の光学部材12の少なくとも何れかを用いている。これにより、別個に虚像光学系40を設ける必要がなく、検眼装置100A,100Bの部品点数の増加、嵩や重量の増大を抑制することができる。
【0102】
また、各実施形態では、一対の虚像光学系40を駆動する左眼用及び右眼用の一対の駆動機構41(41L,41R)又は13(13L,13R)と、一対の駆動機構41又は13を制御する駆動制御部としての制御部30と、を備えている。制御部30は、遠用検眼のときには、一対の虚像光学系40が左右の被検眼Eの前方に配置されるように一対の駆動機構41又は13を制御し、近用検眼のときには、一対の虚像光学系40が左右の被検眼の前方から退避されるように一対の駆動機構41又は13を制御する。これにより、遠用検眼か近用検眼かに応じて、自動で被検眼Eの前方への虚像光学系40の挿脱を行うことができ、遠用検眼と近用検眼の切替えを、より迅速に自動で行うことができる。
【0103】
また、各実施形態では、視標表示装置2が、電子表示デバイスからなるディスプレイ20を備える携帯情報機器から構成されている。これにより、専用の視標表示装置を備える必要がなく、より低コストの検眼装置100,100A,100Bを提供できるとともに、より手軽な検眼が可能となる。また、被検者S自身のスマートフォン等を視標表示装置2として用いることで、被検者S個々人に適応した近用検眼や矯正が可能となる。
【0104】
また、視標表示装置2が、検眼ユニット10の視標表示装置2側に付されたマーカ50(50L,50R)を撮影する撮像部としてのカメラ20bを備えた構成である。第4実施形態では、カメラ20bが撮影したマーカ50の画像に基づいて、検眼ユニット10の水平方向に対する傾斜角度を検出し、傾斜角度が閾値以下であれば、視標Oが水平に表示されるように視標Oの表示角度を調整して表示面20aに表示するよう視標表示装置2を制御し、傾斜角度が閾値を超えたときは、アラーム通知している。
【0105】
これにより、傾斜角度が補正可能な範囲であれば、視標表示装置2での視標Oの表示角度を調整することで、適切かつ迅速な検眼が可能となり、補正ができない傾斜角度であれば、アラーム通知によって、検者Tに視標表示装置2の角度調整を促すことができる。
【0106】
また、第4実施形態では、マーカ50の撮影画像に基づいて、被検眼Eと視標表示装置2との距離を検出し、距離に基づいて、視標Oの表示倍率を調整して表示面20aに表示することができる。これにより、視標表示装置2の位置を厳密にする必要がなく、より手軽な検眼が可能となる。
【0107】
この場合、マーカ50の撮影画像に基づいて、被検眼Eと視標表示装置2との距離を検出し、距離に基づいて、被検眼Eの前方に配置する虚像光学系40の屈折力を取得し、屈折力に対応した虚像光学系40を被検眼Eの前方に配置する構成とすることもできる。この構成によっても、視標表示装置2の位置を厳密にする必要がなく、より手軽な検眼が可能となる。
【0108】
さらには、マーカ50の撮影画像に基づいて、被検眼Eの状態、例えば瞳孔間距離PDを算出し、当該検出結果に基づいて、左右の被検眼Eの前方に配置するプリズム42の偏向量を算出し、偏向量に対応するプリズム42を配置する構成とすることもできる。これにより、被検眼Eの瞳孔間距離PDに応じた適切な偏向が可能となり、より違和感のない遠用検査が可能となる。
【0109】
以上のような動作を、制御部30によって制御することで、マーカ50の撮影画像に基づく視標表示装置2への視標Oの表示調整、虚像光学系40の選択配置、プリズム42の選択配置を、より正確かつより迅速に、自動で実行することができる。よって、遠用検眼と近用検眼の切替え、及びそれぞれでの検眼を、より適切かつより容易に実行することができる。
【0110】
以上、本発明の眼科装置を実施形態に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0111】
例えば、上記各実施形態では、LCDや有機EL等の電子表示デバイスから構成されるディスプレイ20を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、紙や樹脂等に各種視標が印刷等された視標表示装置等を用いることもでき、消費者等のニーズに応じた様々なタイプの視標表示装置及び検眼装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0112】
2 視標表示装置(視標表示部)
10,10L,10R 検眼ユニット(検眼光学系)
12,12L,12R 光学部材
13,13L,13R 駆動機構
20 ディスプレイ(視標表示部) 20a 表示面
30 制御部(駆動制御部、表示制御部)
40,40L,40R :虚像光学系
41,41L,41R :駆動機構
42,42L,42R :プリズム(光偏向部材)
50,50L,50R :マーカ
100,100A,100B :検眼装置(眼科装置)
E 被検眼 i 虚像