(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132391
(43)【公開日】2022-09-08
(54)【発明の名称】眼科用水性組成物、及び化合物の含量低下を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20220901BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220901BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220901BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220901BHJP
A61K 31/164 20060101ALI20220901BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20220901BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220901BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220901BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
A61K47/36
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/04
A61K31/164
A61K31/4166
A61P3/02 104
A61P43/00 107
A61P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112014
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2018002513の分割
【原出願日】2018-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2017002734
(32)【優先日】2017-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】松久 敬一
(57)【要約】
【課題】貯蔵安定性の高い眼科用水性組成物の提供。
【解決手段】キサンタンガムと酸性領域で安定な医薬化合物とを含み、pH5.5未満である、眼科用水性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性領域で安定な医薬化合物と、キサンタンガムとを含み、ここで前記医薬化合物がパンテノール又はアラントインであり、pH5.3以下である、眼科用水性組成物。
【請求項2】
pH5.2以下である、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項3】
キサンタンガムの濃度が0.03~0.4w/v%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記医薬化合物の濃度が0.01~1.0w/v%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記医薬化合物がパンテノールである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
ホウ酸又はその塩をさらに含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
パンテノールの濃度が0.01~0.1w/v%である、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記医薬化合物がアラントインである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
アラントインの濃度が0.03~0.3w/v%である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
水溶液のpHの経時的増大を抑制する方法であって、前記水溶液にキサンタンガムを添加することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用水性組成物、及び化合物の含量低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬化合物には、酸性条件下で安定だが、中性やアルカリ条件下では分解するなどの理由により含量低下しやすく、緩衝剤の添加なしには溶液状態での長期保存が困難なものが多く存在する。
【0003】
一例として、パントテン酸やパンテノールなどのパントテン酸類が挙げられる。パントテン酸類は、生体内において補酵素Aとして機能するビタミンの一種であり、糖質、タンパク質、脂質などのエネルギーの代謝を補助する作用があり、細胞の賦活化、新陳代謝の活発化、保湿、抵抗力の増強などの有用生理活性を発揮することが知られている。このような有用生理活性を期待して、パントテン酸類は、粘膜適用製剤、皮膚外用剤などに配合されて使用されている。その一方、パントテン酸類は、水溶液中での安定性が低いという欠点があるため、パントテン酸類を安定化するための試みがなされている。例えば、パントテン酸類にアシタザノラストを配合した水性組成物(特許文献1)、塩酸ピリドキシン及びパントテン酸類を含有する水溶液に、塩酸ピリドキシンに対して50重量%以上、かつ、パントテン酸類に対して300重量%以下の量のホウ酸を配合した点眼液(特許文献2)、パンテノール、ホウ酸、1分子中に3個以上の水酸基を有する化合物を含有する眼科用組成物(特許文献3)が報告されている。また特許文献2及び3において、水溶液中に過剰のホウ酸が存在するとパントテン酸類の安定性が損なわれることが報告されている。
【0004】
また、抗炎症剤として使用されるアラントインは、製剤処方によっては製剤中の含量が経時的に低下することが知られている。アラントインは、pH3.0の緩衝液中では50°Cにて1か月間保存した場合であっても初期含量の98%が残存するが、中性及びアルカリ性条件下で不安定化する(非特許文献1)。
【0005】
キサンタンガムは、医薬品分野、食品分野又は化粧品分野において増粘剤として用いられる。キサンタンガムを含有する眼科用組成物としては、例えば、キサンタンガム及びアミノ酸を含有する眼科用組成物(特許文献4)、キサンタンガム及びブドウ糖を含有する眼科用組成物(特許文献5)が開示され、これらの眼科用組成物は、角膜上皮障害の治療効果を有することが報告されている。また、キサンタンガム及びテルペノイドを含有する点眼剤(特許文献6)が報告されている。テルペノイドは点眼剤の容器として通常使用されるプラスチック容器へ吸着し、含量低下することが知られているが、キサンタンガムを点眼剤に配合することでプラスチック容器へのテルペノイドの吸着が抑制される。しかし、キサンタンガム水溶液が酸性領域で緩衝作用を有すること,及びその作用により特定の化合物の含量低下が抑制できることは、これまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-297331号公報
【特許文献2】特開平5-17355号公報
【特許文献3】特開2002-265357号公報
【特許文献4】国際公開第2006/035969号
【特許文献5】国際公開第2007/108541号
【特許文献6】国際公開第2007/007894号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】薬学雑誌、1993, 113(7) 515-523
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、中性からアルカリ性条件下では分解するなどの理由により含量低下しやすい化合物の含量低下を抑制することを課題とする。また、当該化合物を含む、貯蔵安定性の高い眼科用水性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、驚くべきことにキサンタンガム水溶液が酸性領域で緩衝作用を有することを見出した。そして、中性からアルカリ性条件下で含量が低下しやすい化合物の水溶液にキサンタンガムを添加することによって、当該化合物の含量低下を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]
キサンタンガムと酸性領域で安定な医薬化合物とを含み、pH5.5未満である、眼科用水性組成物。
[2]
キサンタンガムの濃度が0.03~0.4w/v%である、[1]に記載の組成物。
[3]
前記医薬化合物の濃度が0.01~1.0w/v%である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]
前記医薬化合物がパンテノール又はアラントインである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組成物。
[5]
前記医薬化合物がパンテノールである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の組成物。
[6]
ホウ酸又はその塩をさらに含む、[5]に記載の組成物。
[7]
パンテノールの濃度が0.01~0.1w/v%である、[5]又は[6]に記載の組成物。
[8]
前記医薬化合物がアラントインである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の組成物。
[9]
アラントインの濃度が0.03~0.3w/v%である、[8]に記載の組成物。
[10]
酸性領域で安定な化合物の含量低下を抑制する方法であって、前記化合物の水溶液にキサンタンガムを添加することを含む、方法。
[11]
前記化合物がパンテノール又はアラントインである、[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中性からアルカリ性では分解するなどの理由により含量低下しやすい化合物の含量低下を抑制することができる。また、当該化合物を含む、貯蔵安定性の高い眼科用水性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ホウ砂を含むキサンタンガム水溶液の滴定曲線を示す。
【
図2】ホウ砂を含まないキサンタンガム水溶液の滴定曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一態様は、キサンタンガムと酸性領域で安定な医薬化合物とを含み、pH5.5未満である、眼科用水性組成物に関する。以下で、当該組成物を「本発明の組成物」とも呼ぶ。
【0014】
キサンタンガムとは、トウモロコシなどのデンプンをキサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)により発酵させて作られるガムであり、グルコース2分子、マンノース2分子、グルクロン酸の繰り返し単位からなるものである。
【0015】
本発明の組成物に用いられるキサンタンガムの粘度は、特に限定されないが、通常600mPa・s以上、好ましくは1200mPa・s以上、より好ましくは1400~2000mPa・s、さらに好ましくは1400~1700mPa・sである。当該キサンタンガムとしては、大日本住友製薬株式会社より市販されているエコーガムT、エコーガムFなどのエコーガムシリーズ、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社より市販されているサンエースNXG-Sなどのサンエースシリーズ、三晶株式会社より市販されているケトロールCG、ケトロールCG-Tなどのケトロールシリーズなどが用いられるが、好ましくは、エコーガムT、ケトロールCG-Tである。キサンタンガムの粘度の測定は、例えば、医薬品添加物規格2013(薬事日報社)の「キサンタンガム」の「粘度」の項目に記載の方法に従い、ブルックフィールド型粘度計を用いて測定することができる。
【0016】
本明細書中「医薬化合物」とは、生体に作用して何らかの医薬活性を有する化合物であれば特に限定されず、抗炎症剤、充血除去剤、眼筋調節剤、収れん剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ビタミン類(プロビタミンを含む)、アミノ酸などを含む。
【0017】
本明細書中、「酸性領域で安定な医薬化合物」とは、pH5.5以上の中性あるいは塩基性の領域では化合物の含量が低下する一方で、酸性領域(pH5.5未満)では安定性が高い一群の医薬化合物のことである。より具体的には、「酸性領域で安定な医薬化合物」とは、当該化合物を含むpH5.5未満の水溶液と当該化合物を含むpH5.5以上の水溶液とを同一の保存条件(温度、湿度、期間など)で貯蔵した後に、pH5.5以上の水溶液中と比較してpH5.5未満の水溶液中での含量低下がより少ない化合物をいう。また本明細書中、「含量が低下する」及び「含量低下」とは、当該化合物の分解、当該化合物の収容容器への吸着、又は当該化合物とその他の化合物との錯化合物の形成などにより、当該化合物の含量が低下することを含む。
【0018】
酸性領域で安定な医薬化合物としては特に限定されないが、例えばプロビタミンであるパンテノール及び抗炎症剤であるアラントインが挙げられる。特に、酸性領域で安定な医薬化合物がパンテノールである場合、組成物中にホウ酸又はその塩を含むときに、より顕著に医薬化合物の含量低下を抑制することができる。
【0019】
本発明の組成物におけるキサンタンガムの濃度は、医薬化合物を安定化できる限り特に限定されないが、好ましくは0.005~1w/v%であり、より好ましくは0.01~0.6w/v%であり、さらに好ましくは0.03~0.4w/v%であり、特に好ましくは0.15~0.3w/v%である。なお本明細書中、「w/v%」は、眼科用水性組成物100mLあたりの成分のグラム数(g/100mL)と同義である。
【0020】
本発明の組成物における「酸性領域で安定な医薬化合物」の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~1.0w/v%であり、より好ましくは0.01~0.3w/v%であり、さらに好ましくは0.01~0.1w/v%である。
【0021】
本発明の組成物における「酸性領域で安定な医薬化合物」がパンテノールである場合、パンテノールの濃度は、好ましくは0.01~1.0w/v%であり、より好ましくは0.01~0.5w/v%、さらに好ましくは0.01~0.1w/v%である。
【0022】
本発明の組成物における「酸性領域で安定な医薬化合物」がアラントインである場合、アラントインの濃度は、好ましくは0.01~1.0w/v%、より好ましくは0.03~0.3w/v%である。
【0023】
本発明の組成物のpHは5.5未満であり、組成物中の医薬化合物の安定性の観点から、好ましくは5.4以下、5.3以下、5.2以下、5.1以下又は5.0以下である。本発明の組成物のpHの下限としては特に限定されないが、組成物中の医薬化合物の安定性の観点から、好ましくはpH3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上又は4.5以上である。本発明の組成物のpHの範囲としては、組成物中の医薬化合物の安定性の観点から、好ましくは上限が5.5未満、下限が3.0以上、より好ましくは上限が5.5未満、下限が4.5以上、さらに好ましくは上限が5.4以下、下限が4.5以上である。なお、本発明の組成物中で「酸性領域で安定な医薬化合物」のわずかな含量低下が起こり、それに伴って本発明の組成物のpHが変動することがある。
【0024】
本発明の組成物には、上記の酸性領域で安定な医薬化合物の他に、当該組成物の用途に応じて薬理成分を含有することができる。使用される薬理成分については、特に制限されないが、例えば、血管収縮剤、抗コリンエステラーゼ剤、抗炎症薬、角膜上皮障害治療薬、消炎鎮痛薬、化学療法薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、ホルモン薬、ビタミン薬、アミノ酸類、抗白内障薬、血管新生抑制薬、免疫抑制薬、プロテアーゼ阻害薬、アルドース還元酵素阻害薬、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、不安薬、抗精神薬、抗生物質、抗腫瘍薬、抗高脂血症薬、鎮咳・去痰薬、筋弛緩薬、抗てんかん薬、抗潰瘍薬、抗うつ薬、強心薬、不整脈治療薬、血管拡張薬、高圧利尿薬、糖尿病治療薬、抗結核薬、麻酔拮抗薬、皮膚疾患用薬、歯科口腔用薬、診断用薬、公衆衛生用薬などの従来公知の薬理成分から適宜選択して用いることができる。
【0025】
これらの薬理成分として、具体的には、グリチルリチン酸二カリウム、イプシロンアミノカプロン酸、ブロムフェナク、ケトロラクトロメタミン、ネパフェナク、ベルベリン塩化物、硫酸ベルベリン、アズレンスルホン酸ナトリウム、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム塩酸塩などの消炎剤;クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩などの抗ヒスタミン剤;クロモグリク酸ナトリウム、ケトチフェンフマル酸塩、アシタザノラスト、アンレキサノクス、ペミロラストカリウム、トラニラスト、イブジラストなどの抗アレルギー剤;ノルフロキサシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、レボフロキサシン、ゲンタマイシン、ガチフロキサシンなどの抗菌剤;アスコルビン酸、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、ピリドキシン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステル、レチノール酢酸エステル、レチノールパルミチン酸エステルなどのビタミン類;アスパラギン酸、タウリン、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどのアミノ酸類;ネオスチグミンメチル硫酸塩などの抗コリンエステラーゼ剤;ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、エピネフリン、エフェドリン、フェニレフリン、dl-メチルエフェドリンなどの血管収縮剤;ヒアルロン酸ナトリウムなどの角結膜上皮障害治療薬;スルファジアジン、スルフィソキサゾール、スルフィソミジン、スルファジメトキシン、スルファメトキシピリダジン、スルファメトキサゾール、スルファエチドール、スルファメトミジン、スルファフェナゾール、スルファグアニジン、フタリルスルファチアゾール、スクシニルスルファチアゾールなどのサルファ剤などが挙げられる。ここで例示する化合物は、薬学的に許容されることを限度として、塩の形態であってもよい。
【0026】
本発明の組成物には、緩衝剤、等張化剤、保存剤、溶解補助剤、安定化剤、キレート剤、増粘剤、pH調整剤などの各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0027】
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸又はその塩(ホウ砂など)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウムなど)、酒石酸又はその塩(酒石酸ナトリウムなど)、グルコン酸又はその塩(グルコン酸ナトリウムなど)、酢酸又はその塩(酢酸ナトリウムなど)、リン酸又はその塩(リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、グルタミン酸やイプシロンアミノカプロン酸などの各種アミノ酸及びトリス緩衝剤などが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0028】
本発明の組成物において、緩衝剤としてホウ酸又はその塩を使用する場合,その濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~3.0w/v%、より好ましくは0.03~2.5w/v%、さらに好ましくは0.1~1.8w/v%,特に好ましくは0.3~1.5w/v%である。
【0029】
本発明の組成物における「酸性領域で安定な医薬化合物」がパンテノールであって、かつ当該組成物中にホウ酸又はその塩が含まれる場合、ホウ酸又はその塩は、パンテノールに対して300重量%超で当該組成物中に含まれることが好ましい。
【0030】
等張化剤としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0031】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ソルビン酸又はその塩、クロルヘキシジン又はその塩、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、クロロブタノールなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0032】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(ポリソルベート80など)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノステアレート(ステアリン酸ポリオキシル40など)などの非イオン界面活性剤、ポリエチレングリコール(マクロゴール4000など)、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子、プロピレングリコール、シクロデキストリン類などが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0033】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、シクロデキストリン類、縮合リン酸又はその塩、亜硫酸塩、クエン酸又はその塩、ジブチルヒドロキシトルエンなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0034】
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸又はその塩(縮合リン酸ナトリウムなど)などが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0035】
増粘剤としては、キサンタンガム以外に,例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸などが挙げられる。これらはキサンタンガムと共に1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0036】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸又はその塩(ホウ砂)、塩酸、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウムなど)、リン酸又はその塩(リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなど)、酢酸又はその塩(酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウムなど)、酒石酸又はその塩(酒石酸ナトリウムなど)などが挙げられる。これらは1種又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0037】
本明細書中、「眼科用水性組成物」は、眼へ局所投与するための水性組成物(例えば、点眼剤、人工涙液、洗眼剤、眼軟膏)、コンタクトレンズ装着液、及びコンタクトレンズケア用剤(例えば、コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤)を含む、水性組成物のことである。好ましくは、眼科用水性組成物は点眼剤である。
【0038】
本発明の組成物が眼へ局所投与するための水性組成物である場合、その投与対象は特に限定されないが、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくは霊長類(ヒト、サルなど)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモットなど)、ネコ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ又はフェレットであり、特に好ましくはヒトである。
【0039】
本発明の組成物が眼へ局所投与するための水性組成物である場合、当該組成物の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、臨床上用いられている用量を基準として適宜投与することができる。
【0040】
本発明の一態様は、酸性領域で安定な化合物の含量低下を抑制する方法であって、前記化合物の水溶液にキサンタンガムを添加することを含む、方法に関する。酸性領域で安定な化合物は、特に限定されないが、好ましくは酸性領域で安定な医薬化合物であり、より好ましくは、パンテノール及びアラントインである。
【0041】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、当該実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例0042】
[試験例1]キサンタンガムによる、溶液中のパンテノールの含量低下抑制
表1に示す試験液(実施例1、比較例1及び2)を以下の通り調製した。常温下でホウ砂(小堺製薬(株)社製)を水に溶かしてホウ砂水溶液を調製した。当該ホウ砂水溶液にホウ酸(BORAX社製)を加えて、溶液Aを調製した。また、ホウ砂水溶液に粘度1460mPa・sのキサンタンガム(MP Biomedicals社製)を添加して、高温下で溶解させた後に冷却し、これにホウ酸(BORAX社製)を加えて、キサンタンガム含有水溶液(溶液B)を調製した。また、ホウ砂水溶液にヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(信越化学工業(株)社製)を添加して、高温下で溶解させた後に冷却し、これにホウ酸(BORAX社製)を加えて、HPMC含有水溶液(溶液C)を調製した。溶液A、溶液B及びCにそれぞれパンテノール(DSMニュートリションジャパン社製)を添加した。その後、pH調整剤(1mol/L塩酸)を適量用いてpHを5.0に調整した。その後、表1に記載の所定の濃度となるように精製水を加えて、比較例2(パンテノール)、実施例1(パンテノール+キサンタンガム)及び比較例1(パンテノール+HPMC)の各試験液を得た。
【0043】
各試験液を4℃及び60℃で4週間保管したのち、それぞれのパンテノール含量を、HPLCを用いて測定した。それぞれの試験液の4℃保管品のパンテノール含量に対する60℃保管品のパンテノール含量の割合を残存率とした。結果を表1に示す。
【表1】
【0044】
キサンタンガムを加えない場合(比較例2)、試験液のpHが経時的に増大し、パンテノールの残存率が著しく低下した(60℃4週間経過後で54.8%)。一方、キサンタンガムを添加した場合(実施例1)には、試験液中のpHの経時的増大が抑制された。これは、ホウ酸の緩衝能の範囲より低いpH5.5未満において、キサンタンガムが緩衝作用を有することを示している。また、実施例1においてパンテノールの残存率は極めて高かった(60℃4週間経過後で81.5%)。キサンタンガムと同様に増粘剤として知られるHPMCをキサンタンガムの代わりに使用した比較例1では、試験液のpHが経時的に増大し、パンテノールの残存率が著しく低下した(60℃4週間経過後で54.8%)。このことは、実施例1で示された効果がキサンタンガム特有の効果であることを示している。
【0045】
[試験例2]キサンタンガムの粘度の変更による影響
粘度1,600~1,700mPa・sのキサンタンガム(エコーガムT、大日本住友製薬株式会社製)を使用する以外は、実施例1の試験液と同様にして実施例2の試験液を調製した。各試験液を4℃及び60℃で4週間保管したのち、それぞれのパンテノール含量を、HPLCを用いて測定した。それぞれの試験液の4℃保管品のパンテノール含量に対する60℃保管品のパンテノール含量の割合を残存率とした。結果を表2に示す。
【表2】
【0046】
キサンタンガムの粘度を変更した場合においても、パンテノールの含量低下を良好に抑制できた。
【0047】
[試験例3]pH及び試験液の成分濃度の変更による影響
以下の表3に示す試験液を、試験例1の試験液の調製法に従って調製した。キサンタンガムは、粘度1,600~1,700mPa・sのキサンタンガム(エコーガムT、大日本住友製薬株式会社製)を使用した。各試験液を4℃及び60℃で4週間保管したのち、それぞれのパンテノール含量を、HPLCを用いて測定した。それぞれの試験液の4℃保管品のパンテノール含量に対する60℃保管品のパンテノール含量の割合を残存率とした。結果を表3に示す。
【表3-1】
【表3-2】
【0048】
試験液の調製直後のpHが5.4以下であってキサンタンガムを添加した場合には、キサンタンガムを添加しなかった場合及びHPMCを添加した場合と比較して、パンテノールの含量低下が抑制された(実施例3~6、比較例5~12)。pH5.5以上となるとパンテノールの含量低下抑制効果が低下し、pH6.0であってキサンタンガムを添加した場合には、キサンタンガムを添加しなかった場合及びHPMCを添加した場合と同程度にパンテノールの含量低下が進行した(比較例13~18)。試験液中のキサンタンガム及びパンテノールの濃度を変化させた場合においても、パンテノールの含量低下抑制が確認された(実施例7~11)。
【0049】
[試験例4]キサンタンガムによる溶液中のパンテノールの含量低下抑制
以下の表4に示す試験液を、試験例1の試験液の調製法に従って調製した。キサンタンガムは、粘度1,600~1,700mPa・sのキサンタンガム(エコーガムT、大日本住友製薬株式会社製)を使用した。また、濃グリセリンは阪本薬品工業株式会社製、D-マンニトールは物産フードサイエンス株式会社製、ブドウ糖はサンエイ糖化株式会社製を使用した。各試験液を4℃及び60℃で4週間保管したのち、それぞれのパンテノール含量を、HPLCを用いて測定した。それぞれの試験液の4℃保管品のパンテノール含量に対する60℃保管品のパンテノール含量の割合を残存率とした。結果を表4に示す。
【表4】
【0050】
キサンタンガムを添加した場合(実施例12)、キサンタンガムの代わりにグリセリン(比較例28)、マンニトール(比較例29)及びブドウ糖(比較例30)などの多価アルコールを添加した場合と比較して、パンテノールの残存率が高かった。この結果より、キサンタンガムが他の多価アルコールと比較して、パンテノールの含量低下抑制効果が優れることが分かった。
【0051】
[試験例5]キサンタンガムによる、溶液中のアラントインの含量低下抑制
常温下で水酸化ナトリウムを加えたpH約9.2の水溶液(溶液D)に粘度1,600~1,700mPa・sのキサンタンガム(エコーガムT、大日本住友製薬株式会社製)を添加して、高温下で溶解させた後に冷却したものをキサンタンガム溶液(溶液E)とした。また溶液AにHPMCを添加して、高温下で溶解させた後に冷却したものをHPMC溶液(溶液F)とした。溶液D、溶液E及びFにそれぞれアラントイン(パーマケム・アジア社製)を添加した。その後、pH調整剤(1mol/L塩酸)を適量用いてpHを5.0に調整した。その後、表5に記載の所定の濃度となるように精製水を加えて、比較例32(アラントイン)、実施例13(アラントイン+キサンタンガム)及び比較例31(アラントイン+HPMC)の各試験液を得た。
【0052】
各試験液を4℃及び60℃で2週間保管したのち、それぞれのアラントイン含量を、HPLCを用いて測定した。それぞれの試験液の4℃保管品のアラントイン含量に対する60℃保管品のアラントイン含量の割合を残存率とした。結果を表5に示す。
【表5】
【0053】
キサンタンガムを添加した場合には、試験液中のpHの経時的増大が抑制された(実施例13)。これは、キサンタンガムが緩衝作用を有することを示している。また、アラントインの残存率は、キサンタンガムを添加しなかった場合(比較例32)、及びキサンタンガムの代わりにHPMCを添加した場合(比較例31)と比較して高かった。
【0054】
[試験例6]ホウ砂を含むキサンタンガム溶液の塩酸による滴定曲線
常温下でホウ砂(小堺製薬(株)社製)を水に溶かしてホウ砂水溶液を調製した(溶液G)。溶液Aに粘度1,600~1,700mPa・sのキサンタンガム(エコーガムT、大日本住友製薬株式会社製)を添加して、高温下で溶解させた後に冷却したものをキサンタンガム溶液(溶液H)とした。その後、pH調整剤(1mol/L塩酸)を適量用いて溶液G及びHのpHを7.5に調整した。その後、表6に記載の所定の濃度となるように精製水を加えて、参考例1及び2の試験液を調製した。得られた試験液1,000mLに、1mol/L塩酸を添加した時のpH変化を測定した。結果を
図1に示す。pH6.0以下においてキサンタンガムが緩衝効果を示した。キサンタンガムの緩衝効果は、pH5.5未満において顕著であった。
【表6】
【0055】
[試験例7]ホウ砂を含まないキサンタンガム溶液の塩酸による滴定曲線
1N水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9.2に調整した溶液Iを調製した。溶液Iに粘度1,600~1,700mPa・sのキサンタンガム(エコーガムT、大日本住友製薬株式会社製)を添加して、高温下で溶解させた後に冷却したものをキサンタンガム溶液(溶液J)とした。その後、さらにpH調整剤(1N水酸化ナトリウム水溶液)を適量用いて溶液I及びJのpHを8.0に調整した。その後、表7に記載の所定の濃度となるように精製水を加えて、参考例3及び4の試験液を調製した。得られた試験液500mLに、0.5mol/L塩酸を添加した時のpH変化を測定した。結果を
図2に示す。pH8.0以下においてキサンタンガムが緩衝効果を示した。
【表7】
【0056】
製剤実施例
常法により、以下の表8に示す処方の点眼液を調製した。
【表8】
本発明によれば、中性からアルカリ性条件下では分解するなどの理由により含量低下しやすい化合物の含量低下を抑制することができる。これにより、貯蔵安定性の高い眼科用水性組成物を提供することが可能となる。