(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132435
(43)【公開日】2022-09-08
(54)【発明の名称】データ通信方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20220901BHJP
G06F 3/03 20060101ALI20220901BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20220901BHJP
【FI】
G06F3/041 500
G06F3/03 400Z
G06F3/044 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022112938
(22)【出願日】2022-07-14
(62)【分割の表示】P 2018162220の分割
【原出願日】2018-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】能美 司
(72)【発明者】
【氏名】久野 晴彦
(57)【要約】
【課題】コンピュータから、ユーザの指示に応じてスタイラスのファームウェアを更新できるようにする。
【解決手段】CPU12は、スタイラス2に記憶されるファームウェアの更新の指示を受け付けるためのユーザインターフェイスにおけるユーザの指示に応じて、センサコントローラ10及びセンサ電極群11を介し、更新用のファームウェアをスタイラス2に送信する。スタイラス2は、受信した更新用のファームウェアにより、記憶しているファームウェアを更新する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先の近傍に配置されるペン先電極、及び、前記ペン先電極に接続されたペン集積回路を含むスタイラスと、
操作面に配置されたセンサ電極群に接続されたセンサコントローラと、
前記センサコントローラに接続されたホストプロセッサと、
を含むシステムで実行されるデータ通信方法であって、
前記ホストプロセッサが、前記スタイラスに記憶されるファームウェアの更新の指示を受け付けるためのユーザインターフェイスにおけるユーザの指示に応じて、前記センサコントローラ及び前記センサ電極群を介し、更新用のファームウェアを前記スタイラスに送信し、
前記スタイラスが、受信した前記更新用のファームウェアにより、記憶しているファームウェアを更新する、
データ通信方法。
【請求項2】
前記スタイラスは、前記ペン先電極と前記センサ電極群の間の静電結合を介して、記憶しているファームウェアのバージョンを示すペン動作状態情報を含むペン信号の電界による送信を実行し、
前記センサコントローラは、前記センサ電極群を介して前記ペン信号を検出したことに応じて、該ペン信号に含まれる前記ペン動作状態情報を前記ホストプロセッサに転送し、
前記ホストプロセッサは、前記ペン動作状態情報により示される前記バージョンに応じて、前記ユーザインターフェイスを生成する、
請求項1に記載のデータ通信方法。
【請求項3】
前記ホストプロセッサは、描画アプリケーションの対応する前記スタイラスのファームウェアのバージョンと、前記ペン動作状態情報により示される前記バージョンとが一致しているか否かを判定し、一致していなかった場合に、前記ユーザインターフェイスを生成する、
請求項2に記載のデータ通信方法。
【請求項4】
前記ホストプロセッサは、前記スタイラスに記憶されるファームウェアのバージョンを要求するためのペン動作状態クエリを発行し、
前記センサコントローラは、前記センサ電極群を介して前記ペン動作状態クエリを前記スタイラスに転送し、
前記スタイラスは、前記センサコントローラから前記ペン動作状態クエリを受信した場合に、前記ペン動作状態情報を取得する、
請求項2又は3に記載のデータ通信方法。
【請求項5】
前記ホストプロセッサは、ユーザ操作に応じて、前記ペン動作状態クエリを発行する、
請求項4に記載のデータ通信方法。
【請求項6】
前記センサコントローラは、前記センサ電極群を介して前記ペン信号を検出したことに応じて、前記操作面内における前記スタイラスの位置を前記ホストプロセッサにレポートする、
請求項2に記載のデータ通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデータ通信方法に関し、特に、ホストプロセッサ、センサコントローラ、及びスタイラスを含むシステムで実行されるデータ通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2台のコンピュータの間で、入力用のスタイラスを介してデータをやり取りするシステムが知られている。特許文献1には、この種のシステムの一例が開示されている。
【0003】
特許文献1のシステムにおいては、スタイラス(Pen Device 105)は、2台のモバイルコンピュータ(Mobile devices 110, 120)のそれぞれとの間で、ブルートゥース(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、NFC(Near Field Communication)のいずれかにより通信可能に構成される。そして、この通信を介して、一方のコンピュータからスタイラスにデータが送信され、さらに、スタイラスから他方のコンピュータにデータが転送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スタイラスによるペン入力に対応するコンピュータの中には、スタイラスとの間で双方向に通信を行うことにより、スタイラスの位置検出やスタイラスが取得したデータ(筆圧値等)の受信を行うように構成されたものがある。以下、この双方向通信において、スタイラスからコンピュータに向けて送信される信号を「ペン信号」と称し、コンピュータからスタイラスに向けて送信される信号を「アップリンク信号」と称する。
【0006】
このような双方向通信に対応するコンピュータからスタイラスに対して上記システムのようにデータを送信する必要がある場合、アップリンク信号を用いてデータの送受信を行えば、特許文献1のシステムのようにスタイラス内にブルートゥース(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、NFCなどに対応する通信装置を設ける必要がなくなるので、スタイラスを小型軽量化できると考えられる。
【0007】
しかしながら、本願の発明者がアップリンク信号によるデータ送信について検討を進めたところ、送信対象となるデータのサイズに比してアップリンク信号のデータ通信速度が遅いため、送信の途中でスタイラスが通信可能領域から離脱してしまう場合があることが判明した。そのような場合においてもコンピュータがデータの送信を続けると、そのデータはスタイラスに正しく受信されず、いわば垂れ流しの状態になる。そうすると、無関係の通信装置にデータが傍受されてしまうおそれが出てくるため、改善が必要とされた。
【0008】
したがって、本発明の目的の一つは、コンピュータからスタイラスに対しアップリンク信号を用いて大容量データの送信を行う場合に、送信対象のデータが傍受されてしまう可能性を低減できるデータ通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるデータ通信方法は、ペン先の近傍に配置されるペン先電極、及び、前記ペン先電極に接続されたペン集積回路を含むスタイラスと、操作面に配置されたセンサ電極群に接続されたセンサコントローラと、前記センサコントローラに接続されたホストプロセッサと、を含むシステムで実行されるデータ通信方法であって、前記スタイラスが、前記ペン先電極と前記センサ電極群の間の静電結合を介して、電界によるペン信号の送信を実行し、前記センサコントローラが、前記センサ電極群を介して前記ペン信号を検出したことに応じて、前記操作面内における前記スタイラスの位置を前記ホストプロセッサにレポートし、前記ホストプロセッサが、送信対象データを前記センサコントローラに供給し、前記センサコントローラが、前記センサ電極群を介して検出される前記ペン信号により前記スタイラスが前記操作面から所定の範囲内にいることが示されるスタイラス検出中期間内に、前記送信対象データを前記スタイラスに対して送信する、データ通信方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送信対象データの送信がスタイラス検出中期間内に行われるので、送信対象データを受信できる位置にスタイラスがいないにも関わらず、センサコントローラが送信対象データを垂れ流してしまうことを防止できる。したがって、コンピュータからスタイラスに対しアップリンク信号を用いて大容量データの送信を行う場合に、送信対象のデータが傍受されてしまう可能性を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施の形態によるデータ通信方法を実行するデータ通信システム1のシステム構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態によるスタイラス2及びコンピュータ3それぞれの構成を示す図である。
【
図3】
図2に示したスタライス2による操作のサイクルを示す図である。
【
図4】コンピュータ3Aからスタイラス2へのグラフィックデータGDのコピー処理を行う際の各装置の動作を示す図である。
【
図5】コンピュータ3Aからスタイラス2へのグラフィックデータGDのコピー処理を行う際の各装置の動作を示す図である。
【
図6】スタイラス2からコンピュータ3BへのグラフィックデータGDのペースト処理を行う際の各装置の動作を示す図である。
【
図7】スタイラス2からコンピュータ3BへのグラフィックデータGDのペースト処理を行う際の各装置の動作を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態によるデータ通信方法を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるデータ通信方法を実行するデータ通信システム1のシステム構成を示す図である。同図に示すように、データ通信システム1は、スタイラス2と、2台のコンピュータ3A,3Bとを含んで構成される。
【0014】
スタイラス2は、コンピュータ3A,3Bに対してペン入力を実行可能に構成されたペン型の入力装置である。また、コンピュータ3A,3Bは、それぞれがペン入力に対応したモバイルコンピュータであり、典型的には、図示するようにタブレット端末又はスマートフォンである。ただし、デジタイザに接続されたデスクトップコンピュータなど、他の種類のコンピュータをコンピュータ3A,3Bとして用いることも可能である。なお、以下の説明では、コンピュータ3A,3Bを特に区別する必要のない場合には、これらをコンピュータ3と総称する場合がある。
【0015】
スタイラス2及びコンピュータ3は、後ほど
図2を参照して説明するペン先電極21とセンサ電極群11との間の静電結合を介して、電界により双方向の通信を実行可能に構成される。本明細書では、上述したように、この双方向通信においてスタイラス2からコンピュータ3に向けて送信される信号を「ペン信号」と称し、コンピュータ3からスタイラス2に向けて送信される信号を「アップリンク信号」と称する。
【0016】
スタイラス2により送信されるペン信号には、コンピュータ3にスタイラス2の位置を検出させるためのバースト信号(無変調の信号)と、スタイラス2からコンピュータ3に対して送信する各種データを示すデータ信号とが含まれ得る。データ信号により送信される各種データは、例えば、スタイラス2内の図示しないメモリに予め格納されるペンIDや、スタイラス2内の筆圧検出部22(後述する
図2を参照)によって検出された筆圧値WPなどである。コンピュータ3は、センサ電極群11を介してペン信号を受信し、受信したバースト信号に基づいて操作面内におけるスタイラス2の位置を検出するとともに、受信したデータ信号を復調することによってスタイラス2が送信したデータを受信するように構成される。
【0017】
スタイラス2によるペン信号の送信は、アップリンク信号を受信する都度、ペン信号を送信する方式(ポーリング方式)によるものとしてもよいし、アップリンク信号の受信タイミングにより決定される送信スケジュールに従ってペン信号を送信する方式(タイムスロット方式)によるものとしてもよい。後者の場合、複数のタイムスロットに分割された所定時間長の通信期間の初めのタイムスロットでコンピュータ3がアップリンク信号を送信し、スタイラス2は、残りのタイムスロットを用いてペン信号を送信することとしてもよい。以下では、このようなタイムスロット方式によりスタイラス2とコンピュータ3の間で双方向の通信が行われることを前提として、説明を続ける。
【0018】
コンピュータ3は、スタイラス2によるペン入力に対応する描画アプリケーションを実行可能に構成されており、描画アプリケーションを実行している場合には、スタイラス2からペン信号を受信する都度、検出した位置及び受信したデータを描画アプリケーションに供給するよう構成される。描画アプリケーションは、こうして供給される一連の位置及びデータに基づいてストロークデータ(後述するペンダウンからペンアップまでの間に検出されたスタイラス2の一連の位置と、その間を補間する曲線とによって構成されるデータ)を形成し、図示しないメモリに記憶するとともに、レンダリングして画面上に表示する役割を果たす。
【0019】
本実施の形態による描画アプリケーションは、いわゆるラッソツール(投げ縄ツール)により表示中のグラフィックデータの一部又は全部を選択する機能を有して構成される。ユーザによってラッソツールが起動されると、描画アプリケーションは、スタイラス2による選択範囲の入力を受け付け可能な状態になる。その状態でユーザがスタイラス2により閉曲線を入力すると、描画アプリケーションは、その閉曲線で囲まれた領域内の図形等を選択した状態となる。
【0020】
図1の例では、ユーザは、コンピュータ3Aにおいて、ラッソツールを起動させた状態で、図示した位置P0から位置P1まで破線Lに沿って、操作面内でスタイラス2のペン先を移動させている。破線Lは、図示するように交点P2を有する閉曲線であるので、この移動により、スタイラス2により閉曲線が入力されたことになる。描画アプリケーションは、こうして閉曲線が入力されたことに応じて、入力された閉曲線に囲まれたグラフィックデータGD(
図1では「ABC」。)を選択する。本実施の形態においては、こうして選択されたグラフィックデータGDが本発明による「送信対象データ」に相当する。なお、送信対象データたるグラフィックデータGDは、ラッソツールにより特定された曲線に囲まれた線分を示す1以上のストロークデータであってもよいし、該曲線と交差する線分を示す1以上のストロークデータであってもよいし、ラスター化された画像データであってもよい。
【0021】
コンピュータ3Aは、ラッソツールにより選択されたグラフィックデータGDを、スタイラス2に対して送信するよう構成される。詳しくは後述するが、この送信は、ペン信号によりスタイラス2がコンピュータ3Aの操作面から所定の範囲内にいることが示されるスタイラス検出中期間内に、アップリンク信号を用いて実行される。コンピュータ3Aが送信したグラフィックデータGDを受信したスタイラス2は、受信したグラフィックデータGDを後述するメモリ24aに一時的に記憶するよう構成される。
【0022】
グラフィックデータGDの送信をスタイラス検出中期間に行うという点は、本発明の特徴の1つである。これにより、グラフィックデータGDを受信できる位置にスタイラス2がいないにも関わらずグラフィックデータGDを垂れ流してしまうことが防止されるので、グラフィックデータGDのデータ量が大きく、アップリンク信号で送信すると送受信に時間がかかり、その結果として送信の途中でスタイラス2が通信可能領域から離脱してしまったような場合であっても、グラフィックデータGDが傍受されてしまう可能性を低減することが可能になる。
【0023】
その後、図示した矢印付破線Aに示すようにユーザがスタイラス2をコンピュータ3Bの操作面に移動させ、コンピュータ3Bが同じ描画アプリケーションを実行している状態で所定の操作(例えば、スタイラス2による操作面のタッチなど)を行うと、ペン信号により、スタイラス2からコンピュータ3Bに対してグラフィックデータが送信(転送)される。コンピュータ3Bの描画アプリケーションは、こうして受信したグラフィックデータを、その時点でのスタイラス2のタッチ位置P3に交点P2が位置するように、描画領域内に貼り付ける処理を行う。
【0024】
以下、これらの動作を実行するためのスタイラス2及びコンピュータ3の具体的な構成について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0025】
図2は、本実施の形態によるスタイラス2及びコンピュータ3それぞれの構成を示す図である。同図に示すように、スタイラス2は、芯体20、ペン先電極21、筆圧検出部22、スイッチ23、ペン集積回路24、及び電源25を有して構成される。また、コンピュータ3は、センサコントローラ10、センサ電極群11、CPU12(ホストプロセッサ)、RAM13、入出力部14、GPU15を有して構成される。図示していないが、コンピュータ3はさらに、液晶ディスプレイなどの表示部を有して構成される。
【0026】
まずスタイラス2に着目すると、芯体20は、その長手方向がスタイラス2のペン軸方向と一致するように配置される棒状の部材であり、スタイラス2のペン先を構成する。芯体20の先端部には導電性の電極が設けられ、ペン先電極21を構成している。芯体20の後端部は、筆圧検出部22に当接される。筆圧検出部22は、コンピュータ3の操作面等にスタイラス2のペン先を押し当てたときに芯体20の先端に加わる圧力(芯体20に加えられた筆圧)に応じた筆圧値WPを検出するもので、具体的な例では、筆圧に応じて静電容量の変化する可変容量モジュールにより構成される。
【0027】
ペン先電極21は、ペン先の近傍に配置される導電体であり、スタイラス2の内部配線によりペン集積回路24と電気的に接続されている。ペン集積回路24がペン信号をペン先電極21に供給すると、ペン先電極21には、供給されたペン信号に応じた電荷が誘導される。これにより、後述するセンサ電極群11内で静電容量の変化が生じ、コンピュータ3は、この変化を検出することによりペン信号を受信する。また、コンピュータ3により送信されたアップリンク信号がペン先電極21に到来すると、ペン先電極21には、到来したアップリンク信号に応じた電荷が誘導される。ペン集積回路24は、こうしてペン先電極21に誘導された電荷を検出することにより、アップリンク信号を受信する。
【0028】
スイッチ23は、例えばスタイラス2の筐体の側面に設けられたサイドスイッチであり、ユーザによる操作を受け付け可能に構成された入力部として機能する。具体的には、ユーザによる操作の状態(押下状態)に応じて、オンとオフの2つの状態のいずれか一方を示すスイッチ情報を出力するよう構成される。
【0029】
ペン集積回路24は、メモリ24aを内蔵するマイクロコンピュータであり、コンピュータ3が送信するアップリンク信号を受信する機能と、上述したバースト信号及びデータ信号を含むペン信号を生成し、送信する機能とを有する。アップリンク信号の送信及びペン信号の受信はいずれも、上記したようにペン先電極21を介して実行される。
【0030】
アップリンク信号を受信したペン集積回路24は、その受信タイミングに基づいて、ペン信号の送信スケジュール、すなわち、次のアップリンク信号が受信されるまでの間のペン信号の送信に用いる複数のタイムスロットを決定する。ペン集積回路24は、決定した複数のタイムスロットを用いてまず初めにペンIDを含むペン信号を送信し、その後、他のデータを含むペン信号を送信するよう構成される。
【0031】
こうして送信される「他のデータ」は、従来のスタイラスにおいては筆圧値WP又はスイッチ情報であるが、本実施の形態では、これらに加えてさらに、上述したグラフィックデータGD(又はその断片化データ)そのものと、グラフィックデータGD(又はその断片化データ)を受信したことを示す応答信号と、グラフィックデータGDの送信準備ができていることを示す情報とを含み得る。この点については、後ほどより詳しく説明する。
【0032】
ここで、ペンIDはサイズの大きなデータであるため、スタイラス2は、コンピュータ3の検出直後にはペンIDの全体を送信し、その後は、コンピュータ3と予め共有されている既知のハッシュ関数に基づいてハッシュ化したペンIDを送信することとしてもよい。こうすることにより、通信帯域を圧迫することなく、アップリンク信号が受信される都度、実質的にペンIDを送信することが可能になる。
【0033】
電源25は、ペン集積回路24に動作電力(直流電圧)を供給するためのもので、例えば円筒型のAAAA電池により構成される。
【0034】
次にコンピュータ3に着目すると、センサ電極群11は、コンピュータ3の操作面に配置された複数の電極11x,11yを含んで構成される。表示部の表示面を操作面として用いる場合、複数の電極11x,11yは、表示面上に配置された透明な導体、又は、表示面の裏側に配置された導体によって構成される。
図2に示すように、複数の電極11xは、それぞれy方向(操作面内の方向)に延設され、かつ、x方向(操作面内でy方向に直交する方向)に等間隔で配置される。また、複数の電極11yは、それぞれx方向に延設され、かつ、y方向に等間隔で配置される。
【0035】
センサコントローラ10は、センサ電極群11に接続される集積回路であり、メモリ10aを有して構成される。センサコントローラ10は、センサ電極群11を介してペン信号を受信することにより、操作面内におけるスタイラス2の位置の検出と、スタイラス2が送信した各種データ(筆圧値WP、グラフィックデータGDなど)の受信とを行う役割を果たす。また、センサコントローラ10は、スタイラス2から受信される筆圧値WPを参照することにより、スタイラス2が操作面に新たに接触したこと(
図1に示す「DOWN」)、及び、スタイラス2が操作面から離れたこと(
図1に示す「UP」)を検出する役割も果たす。
【0036】
センサコントローラ10は、ペン信号が受信される都度、検出した位置を示す位置データP、受信した各種データを示すデータDATA、スタイラス2の状態を示すペン状態PSを入出力部14に対して出力するよう構成される。ペン状態PSには、スタイラス2が操作面に新たに接触したことを示すペンダウン、スタイラス2が操作面への接触を継続していることを示すペンムーブ、スタイラス2が操作面から離れたことを示すペンアップが含まれる。
【0037】
センサコントローラ10はまた、センサ電極群11を介してアップリンク信号を送信する役割を果たす。こうして送信されるアップリンク信号には、スタイラス2に対する各種の命令を示すコマンドの他、上述したグラフィックデータGD(又はその断片化データ)が含まれ得る。この点についても、後ほどより詳しく説明する。
【0038】
CPU12、RAM13、及び入出力部14は、1以上のストロークデータを含んで構成されるデジタルインク100についての各種処理を実行するデジタルインク処理部16を構成する。具体的に説明すると、CPU12は、センサコントローラ10から入出力部14に供給されたデータに基づいてRAM13内にデジタルインク100を生成し、生成したデジタルインク100を所定の符号化方法により符号化する処理を実行する。また、CPU12は、符号化したデジタルインク100を含むバイナリストリームBinInkを所定形式のコンテナファイルCF内にアーカイブし、外部に出力する処理を実行する。
【0039】
ここで、デジタルインク100は、インクペンや鉛筆等の筆記具を用いて紙媒体等に残されたインクあるいは鉛筆粉等により表現される筆跡を模擬するデータである。デジタルインク100には、少なくとも1つのストロークデータが含まれる。ストロークデータは、スタイラス2などのポインティングデバイスを動かすことにより生成されるデータであり、例えば、スタイラス2が操作面にタッチしてから(
図1のDOWN)、操作面上を摺動した後、操作面から離れる(
図1のUP)までに操作面上で動いた軌跡(trajectory、path、stroke等と称される)の幾何形状(2次元グラフィックス上での特徴)を表現している。
【0040】
CPU12はまた、符号化したデジタルインク100を含むバイナリストリームBinInkがアーカイブされたコンテナファイルCFの入力を受け付け、その中に含まれるデジタルインク100を所定の復号方法によって復号することにより、デジタルインク100をRAM13内に復元する処理を実行する。
【0041】
CPU12はさらに、上述した描画アプリケーションを実行する役割も果たす。この描画アプリケーションに従ってCPU12が実行する処理についても、後ほどより詳しく説明する。
【0042】
GPU15は、RAM13内に生成又は復元されたデジタルインク100のレンダリングを実行し、その結果を操作面(表示部)に供給する機能を有する。これにより、デジタルインク100の描画が実行される。
【0043】
図3は、スタライス2による操作のサイクル(ペン操作サイクル)を示す図である。以下、この
図3を参照して、コンピュータ3の操作面3a上に概念的に設定される4つの領域R0~R3について説明する。
【0044】
まず領域R3は、領域R0~R3の中で操作面3aから最も遠い領域である。スタイラス2のペン先電極21が領域R3内にあるとき、センサコントローラ10が送信したアップリンク信号はスタイラス2に届かず、スタイラス2が送信したペン信号はセンサコントローラ10に届かない。
【0045】
次に領域R2は、操作面3aから2番目に遠い領域である。スタイラス2のペン先電極21が領域R2内にあるとき、センサコントローラ10が送信したアップリンク信号はスタイラス2に届くが、スタイラス2が送信したペン信号はセンサコントローラ10に届かない。アップリンク信号とペン信号の間でこのような違いが生ずるのは、センサコントローラ10とスタイラス2とでは信号の送信強度が異なるためである。
【0046】
次に領域R1は、操作面3aから3番目に遠い領域である。スタイラス2のペン先電極21が領域R1内にあるとき、センサコントローラ10が送信したアップリンク信号はスタイラス2に届き、スタイラス2が送信したペン信号はセンサコントローラ10に届く。ペン信号が届くので、センサコントローラ10はスタイラス2を検出することが可能になる。逆に言えば、領域R3,R2内にスタイラス2がいるときには、センサコントローラ10はスタイラス2を検出することができない。
【0047】
最後に領域R0は、スタイラス2のペン先が操作面3aに接触することとなる領域である。スタイラス2のペン先電極21が領域R0内にあるとき、領域R1にある場合と同様、センサコントローラ10が送信したアップリンク信号はスタイラス2に届き、スタイラス2が送信したペン信号はセンサコントローラ10に届く。領域R1との違いは、スタイラス2の筆圧検出部22によって検出される筆圧値WPが0より大きい数値になることである。センサコントローラ10は、ペン信号によって受信された筆圧値WPが0より大きい数値となっていることにより、スタイラス2が領域R0内にあることを把握することができる。
【0048】
以下、
図4~
図7を参照しながら、2台のコンピュータ3A,3Bの間でスタイラス2を介してグラフィックデータGDのコピー/ペースト処理を行う場合における各装置の動作を詳しく説明する。なお、これらの図において、信号の送信を示す矢印に付した黒丸は受信側がその信号を受信できることを示し、同白丸は受信側がその信号を受信できないことを示している。
【0049】
ここで、センサコントローラ10及びスタイラス2はそれぞれ、通常モード/コピーモード/ペーストモードのいずれかで動作可能に構成される。通常モードは、スタイラス2によるペン信号の送信と、センサコントローラ10によるスタイラス2の位置検出及びスタイラス2が送信した各種データの受信とが通常どおり実行されるモードである。コピーモードは、上述したラッソツールによって選択されたグラフィックデータGDをコンピュータ3からスタイラス2に送信(コピー)するモードである。ペーストモードは、コピーモードにおいてスタイラス2にコピーされたグラフィックデータGDをスタイラス2からコンピュータ3に送信(ペースト)するモードである。
【0050】
初めに
図4及び
図5を参照し、コンピュータ3Aからスタイラス2へのグラフィックデータGDのコピー処理について説明する。初期状態では、
図4に示すように、センサコントローラ10及びスタイラス2はいずれも通常モードである。この場合、センサコントローラ10は定期的に、スタイラス2が送信すべきデータを示すコマンドを含むアップリンク信号ULを送信する。このアップリンク信号ULを受信したスタイラス2は、上述した送信スケジュール(すなわち、ペン信号の送信に用いる複数のタイムスロット)を決定するとともに、アップリンク信号ULへの応答として、バースト信号と、ペンID(又はそのハッシュ値)を含むデータ信号とから構成されるペン信号を送信する。
【0051】
続いてスタイラス2は、決定した複数のタイムスロットのそれぞれにおいて、バースト信号と、コマンドによって送信を指示されたデータ(ここでは、筆圧値WPとする)を含むデータ信号とから構成されるペン信号の送信を行う。こうして送信されたペン信号は、スタイラス2が領域R0,R1内にある限り、センサコントローラ10により受信される。
図4には、複数回のペン信号の送信の後、スタイラス2が領域R3に移動し、センサコントローラ10によるペン信号の受信が不可能になった例を示している。
【0052】
センサコントローラ10は、スタイラス2からペン信号を受信する都度、その中に含まれるバースト信号の各電極11x,11yでの受信強度に基づいて、操作面内におけるスタイラス2の位置を導出し、メモリ10aに一時的に格納する。また、ペン信号に含まれるデータ信号を復調することにより、スタイラス2が送信した各種データ(ペンID、筆圧値WPなど)を受信する。そしてセンサコントローラ10は、導出した位置を示す位置データPと、受信した各種データとをCPU12にレポートする。なお、
図4には、このうち位置データPのレポートのみを図示している。レポートは、CPU12からのポーリングにより実行される。図示した信号Iは、このポーリングのための問い合わせ信号を示している。
【0053】
センサコントローラ10は、スタイラス2からペンIDを受信した場合には、受信したペンIDをメモリ10a内に格納する処理も行う。センサコントローラ10は、こうしてペンIDを記憶することにより、スタイラス2とのペアリング状態を確立する。なお、一旦スタイラス2とのペアリング状態を確立したセンサコントローラ10は、ユーザによって明示的にペアリングが解除されるか、スタイラス2からの最後のペン信号を受信してから所定時間が経過するまでの間、ペアリング状態を維持することが好ましい。
【0054】
さて、
図4の例では、スタイラス2のユーザは、時刻t
1でペン先を操作面に接触させた後、上述したラッソツールを使って曲線を描画している。CPU12は、センサコントローラ10から逐次供給される位置データPを参照することにより、この曲線の入力を受け付け、図示しない表示部に描画する。
【0055】
時刻t2で入力曲線に交点が生ずると、CPU12はこの交点を検出する。交点が生じたということは入力曲線が閉曲線になったということを意味しており、CPU12は、この閉曲線に囲まれたグラフィックデータを、送信対象のグラフィックデータGDとして取得する。そして、時刻t3でグラフィックデータGDの取得が完了すると、取得したグラフィックデータGDをセンサコントローラ10に供給する。センサコントローラ10は、こうして供給されたグラフィックデータGDを、ペンIDと対応付けてメモリ10aに記憶する。
【0056】
センサコントローラ10はその後、コピーモードにエントリし、コピーの実施を示すコマンドを含むアップリンク信号ULをスタイラス2に対して送信する。このアップリンク信号ULを受け取ったスタイラス2は、時刻t4でコピーモードにエントリし、まずペンID(又はそのハッシュ値)を含むペン信号を送信する。このペン信号は、バースト信号を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0057】
ペンID(又はそのハッシュ値)を含むペン信号を送信したスタイラス2は、次にグラフィックデータGDを含むアップリンク信号ULを待機する。ここで、
図4の例では、時刻t
4からしばらくの間、領域R2にスタイラス2が位置しており、ペン信号がセンサコントローラ10に到達していない。このような場合、スタイラス2は、複数回にわたってペンID(又はそのハッシュ値)を含むペン信号の送信を繰り返し、その都度、グラフィックデータGDを含むアップリンク信号ULを待機する。
【0058】
図4の例では、時刻t
5でスタイラス2が領域R1に入り、ペン信号がセンサコントローラ10に届くようになっている。ペンID(又はそのハッシュ値)を含むペン信号を受信したセンサコントローラ10は、このペン信号を検出したことに応じて、該ペンIDに対応付けて記憶しているグラフィックデータGDの送信を開始する。より具体的には、ペン信号に含まれていたペンID(又はハッシュ値から復元したペンID)と、グラフィックデータGDに対応付けているペンIDとを比較し、これらが等しいと判定した場合にグラフィックデータGDの送信を開始する。
【0059】
ここで、グラフィックデータGDのデータ量は通常、1つのアップリンク信号ULで送信できるサイズを超えている。そこでセンサコントローラ10は、メモリ10aに記憶したグラフィックデータGDを複数の断片化データに分け、順次スタイラス2に送信するよう構成される。
図4及び
図5に示したデータ信号D1~D12は、こうして送信される12個の断片化データを表している。データ信号D1~D12は、それぞれグラフィックデータGDよりサイズの小さいデータである。なお、断片化データの個数が12個に限定されないのは勿論である。
【0060】
スタイラス2は、断片化データを受信すると、
図2に示したメモリ24aに記憶するとともに、連番で受信された最新の断片化データ(すなわち、1番目の断片化データから途中が抜けることなく順に受信されている複数の断片化データの中で最後に受信されたもの)を示す情報を含む応答信号を含むペン信号を送信する。スタイラス2は、この応答信号を含むペン信号の送信を、所定の時間T1の間隔で実行するよう構成される。ここで、断片化がどのサイズで行われ並びに断片化の状態を示す情報がどのように採番されるかは、CPU12とスタイラス2との間のエンドツーエンド(End to End)の通信により定まるのではなく、センサコントローラ10とスタイラス2との間に閉じた静電結合容量を介した通信プロトコルに従うことになる点に留意されたい。
【0061】
図4には、時間T1が断片化データ3つ分の送信時間に相当する場合の例を示している。この場合、センサコントローラ10は、応答信号が受信されるまでに3つの断片化データを連続送信する。したがって、例えば図示するように断片化データD1~D3がすべて正常に受信されたとすると、スタイラス2は、断片化データD3を示す応答信号A3を送信することになる。一方、例えば断片化データD2の受信に失敗したとすると、スタイラス2は、断片化データD3の受信の有無にかかわらず断片化データD1を示す応答信号を送信することになる。
【0062】
センサコントローラ10は、3つの断片化データを連続送信した後、応答信号が受信されない限り、次の断片化データの送信を行わないよう構成される。このことは、センサコントローラ10がセンサ電極群11を介してペン信号(この場合は、応答信号を含むペン信号)を検出してから3つの断片化データの連続送信に要する時間(=T1)を、上述したスタイラス検出中期間と看做していることを意味する。つまり、本実施の形態によるセンサコントローラ10は、センサコントローラ10がセンサ電極群11を介してペン信号を検出してから時間T1内に、グラフィックデータGDの送信を行うように構成されている。
【0063】
応答信号を含むペン信号を受信したセンサコントローラ10は、その応答信号によって示される断片化データの次の断片化データから、断片化データの送信を再度実行する。
図5には、スタイラス2がこうして送信された断片化データD4~D6を受信し、断片化データD6を示す応答信号A6を送信する例を示している。この例では、応答信号A6の送信タイミングでスタイラス2が領域R2に移動してしまい、センサコントローラ10が応答信号A6を受信できなくなってしまっている。この場合、センサコントローラ10は所定期間にわたって応答信号の受信を待機する状態を維持する一方、上述したように断片化データの送信を停止する。一方、スタイラス2は、応答信号A6を送信した後、断片化データの受信を待機するが、断片化データが受信されないことから、再び応答信号A6の送信を実行する。スタイラス2は、断片化データが受信されるまで、応答信号A6の送信と断片化データの受信待機とを繰り返し実行する。時刻t
7でスタイラス2が再び領域R1内に戻ると、応答信号A6がセンサコントローラ10に届くようになり、センサコントローラ10は次の断片化データの送信を開始する。
【0064】
応答信号が届かない状態で所定の期間T2が経過すると、センサコントローラ10は、コピーモードを一旦終了し、通常モードに戻る。このときセンサコントローラ10は、メモリ10a内のペンID及びグラフィックデータGDを消去せずに維持する。スタイラス2は、コピーモードを維持する。
【0065】
図示していないが、この後、応答信号が届かないままでさらに所定期間が経過した場合、センサコントローラ10は、メモリ10a内のペンID及びグラフィックデータGDを消去することが好ましい。こうすることで、コンピュータ3Aのハッキング等によるグラフィックデータGDの漏洩を防止することが可能になる。
【0066】
期間T2の経過後、領域R2内に戻り、センサコントローラ10が定期的に送信しているアップリンク信号ULを再び受信できるようになったスタイラス2は、ペンID(又はそのハッシュ値)を含むペン信号を送信し、グラフィックデータGDを含むアップリンク信号ULの受信を待機する。スタイラス2は、断片化データを含むアップリンク信号ULが新たに受信されるまで、この動作を繰り返し実行する。
【0067】
なお、センサコントローラ10がメモリ10a内のペンID及びグラフィックデータGDを既に消去してしまっている場合、スタイラス2が上記動作を何度繰り返しても、断片化データを含むアップリンク信号ULを新たに受信することはない。そこでスタイラス2は、上記動作の繰り返し回数が所定回数に達した場合には、グラフィックデータGDのコピー処理が失敗したと判定し、処理をエラー終了することとしてもよい。
【0068】
図5の例では、センサコントローラ10がメモリ10a内のペンID及びグラフィックデータGDを消去する前の時刻t
9でスタイラス2が領域R1内に戻り、ペンIDを含むペン信号がセンサコントローラ10に到達している。これを受けてセンサコントローラ10は、ペン信号に含まれたペンIDがグラフィックデータGDを送信途中であるスタイラス2のペンIDであることを確認すると、続きの断片化データD10~D12の送信を実行する。こうして最後の断片化データD12を受信したスタイラス2は、断片化データD12を示す応答信号A12を含むペン信号を送信するとともに、コピーモードを終了してペーストモードにエントリする。応答信号A12を受信したセンサコントローラ10は、コピーモードを終了して通常モードにエントリするとともに、メモリ内のペンID及びグラフィックデータGDを消去し、スタイラス2へのコピーが完了したことを示す信号FをCPU12に供給する。信号Fを受けたCPU12は、描画アプリケーションにおけるコピー処理を終了する。
【0069】
次に、
図6及び
図7を参照し、スタイラス2からコンピュータ3BへのグラフィックデータGDのペースト処理について説明する。なお、同図の時刻t
11に示した処理はペースト処理の実行に先立って行われる処理であり、センサコントローラ10からCPU12へ、センサコントローラ10がスタイラス2を介したコピー/ペースト処理に対応するものであることを通知する役割を担う。CPU12は、この通知を受けて、センサコントローラ10からグラフィックデータGDが供給される可能性があることを認識する。
【0070】
ペーストモードにエントリしている状態でセンサコントローラ10が送信したアップリンク信号ULを受信したスタイラス2は、ペンIDと、グラフィックデータGDの送信準備ができていることを示す情報とを含むペン信号を送信する。なお、ペンIDを含むペン信号と、グラフィックデータGDの送信準備ができていることを示す情報を含むペン信号とを別々に送信することとしてもよい。こうして送信された1又は複数のペン信号を受信したセンサコントローラ10は、受信したペンIDをメモリ10aに格納するとともに、ペーストモードにエントリする。
【0071】
続いてスタイラス2は、ユーザにより所定の操作がなされたことを契機として、メモリ24aに記憶しておいた複数の断片化データの送信を開始する(時刻t12)。この送信は、先頭の断片化データから順に、ペン信号を用いて実行される。センサコントローラ10は、こうして送信された断片化データを受信する都度、ペンIDと対応付けて、受信した断片化データをメモリ10a内に格納していくよう構成される。
【0072】
図6には、送信開始の契機となる所定の操作として、ペンダウンを利用する例を示している。この場合のスタイラス2は、
図2に示した筆圧検出部22により検出された筆圧値WPが0より大きい値となったことを契機として、断片化データの送信を開始することになる。ペンダウン以外の操作を上記所定の操作として利用してもよいことは勿論であり、例えばスタイラス2は、ユーザがスタイラス2のスイッチ23(
図2を参照)を押下したことを契機として、断片化データの送信を開始することとしてもよい。
【0073】
断片化データの送受信の具体的な方法は、コンピュータ3Aからスタイラス2に断片化データを送信したときと同じ方法でよい。すなわち、センサコントローラ10は、断片化データを受信すると、メモリ10aに記憶するとともに、連番で受信された最新の断片化データを示す情報を含む応答信号を含むアップリンク信号を送信することが好ましい。そして、この応答信号を含むアップリンク信号の送信は、所定の時間間隔で実行されることが好ましい。また、スタイラス2は、受信されるべきタイミングで応答信号が受信されない場合には、次の断片化データの送信を行わないよう構成されることが好ましい。
【0074】
図6の例では、断片化データD6を送信する時刻t
13において、スタイラス2が領域R1から領域R2に移動している。この場合、断片化データD6がセンサコントローラ10に届かないので、断片化データD6を送信した後にスタイラス2がセンサコントローラ10から受け取る応答信号は、断片化データD5を示す応答信号A5となる。この応答信号A5を受信したスタイラス2は、断片化データD6の送信に失敗したと判定し、次の送信を断片化データD6から開始する。
【0075】
図6の例では、断片化データD8の送信タイミングでスタイラス2が領域R1内に戻ってきており、センサコントローラ10は断片化データD8を受信している。しかしながら、断片化データD6,D7が受信されていないので、センサコントローラ10は、次の応答信号送信のタイミングで、連続受信されている最後の断片化データD5を示す応答信号A5を再度送信する。その結果、スタイラス2は再び、断片化データD6から送信を実行する。
図6及び
図7の例では、その後のスタイラス2は領域R1内に留まっており、センサコントローラ10は、最後の断片化データD12まで順調に受信できている。なお、
図7では、最後の断片化データD12を受信したセンサコントローラ10は、期間T1の経過を待たず直ちに応答信号A12を送信しているが、期間T1の経過を待って応答信号A12を送信することとしてもよい。
【0076】
すべての断片化データを受信したセンサコントローラ10は、メモリ10a内に格納した複数の断片化データによりグラフィックデータGDを再構成し、問い合わせ信号Iに応じてCPU12に供給する。この供給が終了した後、センサコントローラ10は、メモリ10aからペンID及び断片化データを消去するとともにペーストモードを終了し、通常モードに戻る。一方、CPU12の描画アプリケーションは、供給されたグラフィックデータGDを表示内容に貼り付ける処理(ペースト処理)を実行する。これにより、スタイラス2を介したコピー/ペースト処理が完了する。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態によるデータ通信方法によれば、コンピュータ3から断片化データが送信されるのは、スタイラス2からペン信号が受信された後の所定期間(スタイラス検出中期間)内に限定される。したがって、グラフィックデータGDを受信できる位置にスタイラス2がいないにも関わらず、センサコントローラ10がグラフィックデータGDを垂れ流してしまうことを防止できる。したがって、コンピュータ3からスタイラス2に対しアップリンク信号を用いてグラフィックデータGDの送信を行う場合に、そのグラフィックデータGDが傍受されてしまう可能性を低減することが可能になる。
【0078】
また、本実施の形態によれば、スタイラス2から断片化データが送信されるのは、センサコントローラ10からアップリンク信号が受信された後の所定期間内に限定される。したがって、グラフィックデータGDがセンサコントローラ10に届く位置にいないにも関わらず、スタイラス2がグラフィックデータGDを垂れ流してしまうことを防止できる。したがって、スタイラス2からコンピュータ3に対しペン信号を用いてグラフィックデータGDの送信を行う場合に、そのグラフィックデータGDが傍受されてしまう可能性を低減することも可能になる。
【0079】
なお、本実施の形態では、センサコントローラ10によるグラフィックデータGDの送信が行われるスタイラス検出中期間として、応答信号を検出してから時間T1の期間を使用したが、スタイラス検出中期間として他の期間を用いることも可能である。例えば、応答信号を含む任意のペン信号を検出してから所定時間の期間をスタイラス検出中期間として用いてもよいし、センサコントローラ10がスタイラス2とのペアリングを維持している期間をスタイラス検出中期間として用いてもよい。
【0080】
また、センサコントローラ10は、断片化データを暗号化してから送信することとしてもよい。この場合において、暗号化の共通鍵として、ペンIDを用いることとしてもよい。コピー/ペースト処理の間に入るスタイラス2のペンIDは、送信側のコンピュータ3と受信側のコンピュータ3との両方に共有される情報であるので、ペンIDを共通鍵とすることで、簡易に暗号化通信を行うことが可能になる。
【0081】
また、本実施の形態では、閉曲線に囲まれたグラフィックデータGDを送信対象データとしたが、本発明による送信対象データには、他にも、例えばスタイラス2によるタップやマウスによるクリックにより指定されたデータ(テキストデータ、グラフィックデータを含む)などが含まれ得る。
【0082】
次に、本発明の第2の実施の形態によるデータ通信方法について説明する。本実施の形態によるデータ通信方法は、コンピュータ3からスタイラス2に対しアップリンク信号を用いてスタイラス2の送信制御に用いられる送信制御バイナリを送信する場合に、その送信制御バイナリが傍受されてしまう可能性を低減するというものである。すなわち、本実施の形態においては、送信制御バイナリが本発明による「送信対象データ」に相当する。ここで、送信制御バイナリは、スタイラス2が送信するデータの値に関する決定、複数の送信プロトコルの中から実際に使用される一の送信プロトコルの決定、ペン信号の波形(例えば、送信電圧、周波数など)の決定、送信インターバル、周波数ホッピングの順序等の難読化あるいは暗号化設定などに用いられるデータであり、例えば、スタイラス2のファームウェアや、その他の設定ファイルである。コンピュータ3及びスタイラス2それぞれの構成は
図2を参照して説明したとおりであるので、以下では、第1の実施の形態と同一の構成には同一の符号を付し、第1の実施の形態との相違点に着目して説明する。
【0083】
図8は、本実施の形態によるデータ通信方法を示すシーケンス図である。同図に示すように、本実施の形態においては、まず初めにCPU12により、描画アプリケーションの一部を構成するペンツールが起動される(ステップS1)。ペンツールは、スタイラス2の最適化を行うための機能を含むソフトウェアであり、例えばユーザ操作に従って起動するよう構成される。
【0084】
ペンツールが起動すると、CPU12はセンサコントローラ10に対して、ペンの動作状態を取得するためのペン動作状態クエリ(Get Feature)を発行する。センサコントローラ10は、こうして発行されたペン動作状態クエリを受け取り、上述したアップリンク信号によりスタイラス2に転送(フォワード)する(ステップS2)。
【0085】
スタイラス2は、アップリンク信号を復調することによってペン動作状態クエリ(Get Feature)を取得し、このクエリにより要求された自身の動作状態(ペン動作状態)を取得する(ステップS3)。こうして取得されるペン動作状態には、ペンタイプ、ファームウェア(FW)のバージョンなどが含まれる。ペンタイプは、例えば鉛筆やブラシなど、描画アプリケーションによって認識されるべきスタイラス2のタイプを示す情報である。を含む。また、ファームウェアは、
図2に示したペン集積回路24の動作プログラムである。
【0086】
スタイラス2は、ペン信号を用いて、取得したペン動作状態を示すペン動作状態情報をセンサコントローラ10に送信する。センサコントローラ10は、こうして送信されたペン動作状態情報を受信し、CPU12に転送(フォワード)する(ステップS4)。
【0087】
続いてCPU12は、転送されたペン動作状態情報に基づき、起動中の描画アプリケーション(ステップS1で起動したペンツールを含む描画アプリケーション)と、スタイラス2とのマッチングがベストな状態であるか否かを判定する(ステップS5)。すなわち、描画アプリケーションによっては、対応しているペン動作状態が限定されている場合がある。例えば、描画アプリケーションによっては、最新のファームウェアにしか対応していない(すなわち、対応するファームウェアのバージョンが最新のものに限定されている)場合があり得る。そこでCPU12は、スタイラス2のペン動作状態が限定されたペン動作状態と一致していれば、スタイラス2とのマッチングがベストな状態であると判定し、スタイラス2のペン動作状態が限定されたペン動作状態と一致していなければ、スタイラス2とのマッチングがベストな状態でないと判定する。
【0088】
ステップS5において肯定的な判定結果を得たCPU12は、ペンツールによる処理を終了する。一方、ステップS5において否定的な判定結果を得た場合、CPU12は、スタイラス2のペン動作状態を最適化するための処理を行う(ステップS6)。この処理は、スタイラス2のペン動作状態を上述の限定されたペン動作状態に一致させるための処理であり、CPU12はまず初めに、ペン動作状態の更新を促すユーザインターフェイスを生成し、ユーザに提示する。そして、ユーザインターフェイスにおけるユーザの指示に応じて上述した送信制御バイナリを取得し、センサコントローラ10を介してスタイラス2に送信する処理(最適化動作)を実行する。
【0089】
本実施の形態において送信制御バイナリとして具体的に取得されるデータは、例えば、スタイラス2のファームウェア、スタイラス2のコンフィグファイル、スタイラス2の筆圧カーブ(
図2に示した筆圧検出部22により検出される圧力と、筆圧検出部22から出力される筆圧値WPとの関係を表す曲線)などである。このうちのいずれを送信する場合であっても、CPU12及びセンサコントローラ10は、
図4及び
図5で説明したグラフィックデータGDの送信(コピーモード)と同様の処理により、送信制御バイナリの送信を行う。なお、本実施の形態においては、スタイラス2及びセンサコントローラ10のモードを「コピーモード」に代え「アップロードモード」と称することが適当である。したがって、本実施の形態によれば、送信制御バイナリを傍受される可能性が低減することが可能になる。スタイラス2は、こうして送信された送信制御バイナリにより、ペン動作状態の更新を実行する。これにより、スタイラス2のペン動作状態が起動中の描画アプリケーションに適した状態となり、ユーザは、描画アプリケーションへのペン入力を好適に行うことが可能になる。
【0090】
以上説明したように、本実施の形態によるデータ通信方法によれば、スタイラス2のペン動作状態を更新するための送信制御バイナリを、第1の実施の形態におけるグラフィックデータGDと同様の送信方法により、コンピュータ3からスタイラス2に対して供給するので、送信制御バイナリを受信できる位置にスタイラス2がいないにも関わらず、コンピュータ3が送信制御バイナリを垂れ流してしまうことを防止できる。したがって、コンピュータ3からスタイラス2に対しアップリンク信号を用いて送信制御バイナリの送信を行う場合に、その送信制御バイナリが傍受されてしまう可能性を低減することが可能になる。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0092】
例えば、上記各実施の形態では、静電結合を介して電界(交番電界)により通信を実行するデータ通信システム1を例に取って説明したが、本発明は、例えば交番磁界により通信を実行する電磁誘導方式など、電磁波による一般的な無線通信に比べて通信到達距離の短い通信を実行するデータ通信システムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 データ通信システム
2 スタイラス
3,3A,3B コンピュータ
3a 操作面
10 センサコントローラ
10a センサコントローラ10のメモリ
11 センサ電極群
11x,11y 電極
12 CPU
13 RAM
14 入出力部
15 GPU
16 デジタルインク処理部
20 芯体
21 ペン先電極
22 筆圧検出部
23 スイッチ
24 ペン集積回路
24a ペン集積回路24のメモリ
25 電源
GD グラフィックデータ