(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132593
(43)【公開日】2022-09-08
(54)【発明の名称】水性被覆材
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20220901BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220901BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220901BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/02
C09D7/63
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116458
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2019076583の分割
【原出願日】2019-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2018077313
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599071496
【氏名又は名称】ベック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 涼
(72)【発明者】
【氏名】北脇 和智
(57)【要約】
【課題】
種々の基材及び塗膜に対して、優れた密着性を示す水性被覆材を提供する。
【解決手段】
本発明の水性被覆材は、水性樹脂(A)、及びシラン化合物(B)を含み、pHが4~11であり、上記水性樹脂(A)の樹脂固形分100重量部に対し、上記シラン化合物(B)を1~100重量部を含み、上記水性樹脂(A)が、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の水分散性樹脂であり、上記シラン化合物(B)が、アミノ基含有シラン化合物(M)、及び前記アミノ基含有シラン化合物以外のシラン化合物(N)を含み、上記シラン化合物(N)が、フェニル基を含有するアルキルアルコキシシラン化合物を含み、その重量比が(M)/(N)>1.2であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性樹脂(A)、及びシラン化合物(B)を含み、pHが4~11であり、
上記水性樹脂(A)の樹脂固形分100重量部に対し、上記シラン化合物(B)を1~100重量部含み、
上記水性樹脂(A)が、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の水分散性樹脂であり、
上記シラン化合物(B)が、アミノ基含有シラン化合物(M)、及び前記アミノ基含有シラン化合物以外のシラン化合物(N)を含み、
上記シラン化合物(N)が、フェニル基を含有するアルキルアルコキシシラン化合物を含み、
その重量比が(M)/(N)>1.2であることを特徴とする水性被覆材。
【請求項2】
上記水性樹脂(A)が、エポキシ基を含むことを特徴とする請求項1に記載の水性被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水性被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の内外装壁面・床面等への塗装においては、基材との密着性を考慮し、種々の下塗材が選定して用いられている。このような下塗材は、従来、溶剤系のものが主であったが、最近では、環境、安全等を考慮し、水系の下塗材が採用されつつある。例えば、特許文献1には、水酸基及びアミノ基を有する自己乳化型カチオン性水分散液及びエポキシ基含有オルガノシランを含む水系プライマーが記載されている。
【0003】
ところが、水系の下塗材は、溶剤系の下塗材と比べ、密着性に劣る場合がある。特に、近年、外装壁面に用いられる外装用建材においては、高耐候性や耐汚染性等の機能性を有する種々の塗膜が設けられている。このような塗膜の改修においては、水系の下塗材では十分な密着性が得られにくい場合があり、溶剤系の下塗材が多く使用されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、種々の基材、及び塗膜に対して、十分な密着性を確保することができる水性被覆材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような問題に対し鋭意検討した結果、水性樹脂(A)、及びシラン化合物(B)を含み、pHが特定範囲であり、シラン化合物(B)がアミノ基含有シラン化合物(M)、及び前記アミノ基含有シラン化合物以外(N)としてフェニル基を含有するアルキルアルコキシシラン化合物を特定重量比率で含む水性被覆材を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有するものである。
1.水性樹脂(A)、及びシラン化合物(B)を含み、pHが4~11であり、
上記水性樹脂(A)の樹脂固形分100重量部に対し、上記シラン化合物(B)を1~100重量部含み、
上記水性樹脂(A)が、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上の水分散性樹脂であり、
上記シラン化合物(B)が、アミノ基含有シラン化合物(M)、及び前記アミノ基含有シラン化合物以外のシラン化合物(N)を含み、
上記シラン化合物(N)が、フェニル基を含有するアルキルアルコキシシラン化合物を含み、
その重量比が(M)/(N)>1.2であることを特徴とする水性被覆材。
2.上記水性樹脂(A)が、エポキシ基を含むことを特徴とする1.に記載の水性被覆材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性被覆材は、種々の基材及び塗膜に対して優れた密着性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性被覆材は、水性樹脂(A)、シラン化合物(B)を含み、pHが4~11であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の水性樹脂(A)(以下、単に「(A)成分」ともいう。)は、水性媒体に溶解又は分散可能であれば特に限定されず、公知の樹脂を用いることができる。このような樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。本発明では、特に、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、エポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好適である。さらに、(A)成分としては、上記樹脂成分が水性媒体に分散した水分散性樹脂(樹脂エマルション)が好適であり、特に、アクリル樹脂エマルション、アクリルスチレン樹脂エマルション、エポキシ樹脂エマルションから選ばれる1種以上を含むことが好適である。なお、水性媒体とは、主に水を含む媒体であり、必要に応じ、例えば、低級アルコール、多価アルコール、エーテル化合物、エステル化合物、アルキレンオキサイド含有化合物等の水溶性溶剤が混合されていてもよい。
【0011】
上記(A)成分のアクリル樹脂(A1)(以下、単に「(A1)成分」ともいう。)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが樹脂骨格の主成分となるものである。また、上記(A)成分のアクリルスチレン樹脂(A2)(以下、単に「(A2)成分」ともいう。)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び芳香族モノマーが樹脂骨格の主成分となるものである。なお、本発明では、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルを合わせて、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと表記している。また、モノマーとは、重合性不飽和二重結合を有する化合物の総称である。
【0012】
上記(A1)成分、(A2)成分における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0013】
上記(A2)成分における芳香族モノマーは、芳香環と重合性不飽和二重結合を有する化合物であり、その具体例としては、例えばスチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、上記(A1)成分は、これらの芳香族モノマーを含まないものである。
【0014】
さらに、上記(A1)成分、(A2)成分において、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/又は芳香族モノマーに加えて、エポキシ基含有モノマーを含むことが好適である。これにより、種々の基材、及び塗膜に対する密着性を高めることができる。エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルフマレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、ε-カプロラクトン変性グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。エポキシ基含有モノマーの含有量は、(A)成分を構成する全モノマー中に、好ましくは0.5~50重量%(より好ましくは1~30重量%)である。
【0015】
さらに、上記(A1)成分、(A2)成分において、さらに本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記成分と共重合可能なその他のモノマーを使用することもできる。このようなモノマーとして、例えば、
(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン、α-シアノエチル(メタ)アクリレート等のニトリル基含有モノマー;
マレイン酸アミド、(メタ)アクリルアミド、N-モノアルキル(メタ)アクリルアミド、N、N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタクリレート)、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、ビニルアミド等のアミド基含有モノマー;
アクロレイン、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基含有モノマー;
【0016】
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、イソクロトン酸、サリチル酸等のカルボキシル基含有モノマー;
アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノ-n-ブチル(メタ)アクリレート、ブチルビニルベンジルアミン、ビニルフェニルアミン、p-アミノスチレン、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;
ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;
フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン系モノマー;
エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、ビニルエーテル、ビニルケトン、シリコーンマクロマー等が挙げられる。
【0017】
上記(A1)成分、(A2)成分は、上記モノマーを適宜混合したモノマー群を乳化重合することにより製造することができる。重合方法としては公知の方法を採用すればよく、通常の乳化重合の他、ソープフリー乳化重合、フィード乳化重合、シード乳化重合等を採用することもできる。重合時には、乳化剤、開始剤、分散剤、重合禁止剤、重合抑制剤、緩衝剤、連鎖移動剤等を使用することができる。
【0018】
乳化剤としては、乳化重合に使用可能な各種界面活性剤が使用でき、これらは重合性不飽和二重結合を有する反応性タイプ(反応性界面活性剤)であってもよい。乳化剤としては、好ましくはアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤をそれぞれ単独でまたは組み合わせて用いることができる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ステアリルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸アルカリ金属塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステルアルカリ金属塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
乳化剤の配合量としては、上記(A1)成分、上記(A2)成分の樹脂固形分に対して好ましくは0.1~15重量%(より好ましくは0.1~10重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%)の範囲内である。本発明において「α~β」は「α以上β以下」と同義である。
【0019】
上記(A1)成分、(A2)成分のガラス転移温度(以下、単に「Tg」という。)は、上記モノマーの種類、混合比率等を選定することで調整できる。このガラス転移温度は、最終的な要求性能等を考慮して適宜設定すればよいが、好ましくは-50~80℃程度(より好ましくは-40~60℃程度)である。なお、ガラス転移温度は、Foxの計算式により求めることができる。
【0020】
上記(A1)成分、(A2)成分の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは300nm以下(より好ましくは20~120nm、さらに好ましくは30~100nm)である。平均粒子径がこのような範囲内であれば、含浸補強性、シール性、耐白華化性等において有利な効果を得ることができる。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0021】
上記(A)成分のエポキシ樹脂(A3)(以下、単に「(A3)成分」ともいう。)としては、水性媒体に溶解又は分散しうるものであればよく、固形型エポキシ樹脂及び/または液状型エポキシ樹脂のいずれであってもよい。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、分子中にエポキシ基を1個以上、好ましくは2個以上含有する樹脂が使用でき、例えば、芳香族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、エポキシ基を有するポリブタジエン樹脂、エポキシ基を有するポリウレタン樹脂等が挙げられる。本発明では、芳香族エポキシ樹脂が好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられ、この中でも、特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好適である。さらに、上記エポキシ樹脂は、必要に応じで分子量を増大させたものや、脂肪酸を反応させることにより得られる脂肪酸変性エポキシ樹脂、あるいはアミノ基含有化合物を付加反応させて得られるアミン付加エポキシ樹脂(アミン変性エポキシ樹脂)を水性化することより得られるもの等であっても良い。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、固形型エポキシ樹脂とは、常温(23℃)で固形のもの、液状型エポキシ樹脂とは、常温(23℃)で液状のものをいう。
【0022】
本発明では、上記(A3)成分として、固形型エポキシ樹脂を必須成分として含む態様が好ましい。このような態様としては、固形型エポキシ樹脂のみの態様、固形型エポキシ樹脂及び液状型エポキシ樹脂を含む態様が挙げられる。これにより、本発明の効果を十分に得ることができる。固形型エポキシ樹脂と液状型エポキシ樹脂の混合比率(固形分重量比)は、好ましくは100:0~5:95(より好ましくは90:10~10:90)である。
【0023】
エポキシ樹脂水分散体(エポキシ樹脂エマルション)の調製方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、固形型エポキシ樹脂及び/または液状型エポキシ樹脂と、必要に応じて乳化剤を混合し樹脂溶液を調製した後、水性媒体(必要に応じて乳化剤を含む)と混合することにより乳化する方法等が挙げられる。なお、上記の調製時には、必要に応じて加熱することもできる。本発明において、固形型エポキシ樹脂と液状型エポキシ樹脂を併用する場合、固形型エポキシ樹脂と液状型エポキシ樹脂のそれぞれの水分散体を調整した後、混合して使用することが好ましい。エポキシ樹脂水分散体の樹脂固形分は、特に限定されないが、好ましくは10~80重量%(より好ましくは20~70重量%)である。
【0024】
上記乳化剤としては、上記(A1)成分、上記(A2)成分と同様のものを使用することができる。乳化剤の配合量としては、(A3)成分の樹脂固形分に対して好ましくは0.1~15重量%(より好ましくは0.1~10重量%、さらに好ましくは0.5~5重量%)の範囲内である。
【0025】
本発明の(A3)成分のエポキシ樹脂水分散体の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは100~1000nm(より好ましくは150~900nm、さらに好ましくは200~800nm)である。平均粒子径がこのような範囲内であれば、シール性、耐白華性、耐白化性等において有利な効果を得ることができる。なお、ここに言う平均粒子径は、動的光散乱法により測定される値である。
【0026】
本発明では、上記(A)成分として、上記(A1)成分、上記(A2)成分、上記(A3)成分を混合して含むことが好ましい。この場合、上記(A1)成分及び/または上記(A2)成分と、上記(A3)成分を含む態様が好適であり、例えば、
・上記(A1)成分と、上記(A3)成分を含む態様、
・上記(A2)成分と、上記(A3)成分を含む態様、
・上記(A1)成分及び上記(A2)成分と、上記(A3)成分を含む態様、
等が挙げられる。この場合の混合比率は、(A)成分(重量固形分)中に、上記(A1)成分及び/または上記(A2)成分は、好ましくは1~80重量%(より好ましくは3~70重量%、さらに好ましくは5~60重量%)、上記(A3)成分は、好ましくは20~99重量%(より好ましくは30~97重量%、さらに好ましくは40~95重量%)である。このような場合、種々の基材及び塗膜に対して優れた密着性を発揮し、特に、既存塗膜及び上塗塗膜との密着性も高めることができる。
【0027】
本発明のシラン化合物(B)(以下、単に「(B)成分」ともいう)は、アミノ基含有シラン化合物(M)(以下、単に「(M)成分」ともいう)と、アミノ基含有シラン化合物(M)以外のシラン化合物(N)(以下、単に「(N)成分」ともいう)と、を含むものである。
【0028】
本発明のアミノ基含有シラン化合物(M)としては、アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物、あるいはアミノ基と環状シロキサンを有する化合物等が使用できる。これらは、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
アミノ基とアルコキシシリル基を有する化合物としては、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤、及びその加水分解オリゴマー、アルコキシシリル基及びアミノ基を有するポリマー等が挙げられる。具体的に、アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、
γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロビルアミン等が挙げられる。
【0030】
上記アミノ基含有シランカップリング剤の加水分解オリゴマーとしては、アルコキシシリル基とアミノ基を有するもの、
このような(M)成分としては、アルコキシシリル基の一部ないし全部がシラノール基の状態となったものも使用することができる。
【0031】
特に、本発明では(M)成分として、アミノ基含有シランカップリング剤が好適であり、例えば、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシランから選ばれる1種以上が好適である。これらを用いた場合、基材への付着発現性等が向上する。
【0032】
本発明の水性被覆材は、上記(M)成分を上記(A)成分の樹脂固形分に対し、好ましくは1~75重量部(より好ましくは2~60重量部、さらに好ましくは4~50重量部)含有する。この場合、本発明の効果が十分に得られる。
【0033】
本発明の上記アミノ基含有シラン化合物(M)以外のシラン化合物(N)(以下、単に「(N)成分」ともいう)としては、アルコキシシリル基を有する化合物であればよいが、本発明では、グリシジル基含有シラン化合物(N1)、あるいはアルキルアルコキシシラン化合物(N2)等が好適である。
【0034】
上記グリシジル基含有シラン化合物(N1)としては、グリシジル基(エポキシ基)とアルコキシシリル基を有する化合物、あるいはグリシジル基と環状シロキサンを有する化合物等が使用できる。これらは、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
グリシジル基(エポキシ基)とアルコキシシリル基を有する化合物としては、例えば、グリシジル基含有シランカップリング剤、及びその加水分解オリゴマー等が挙げられる。具体的に、グリシジル基含有シランカップリング剤としては、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、
8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
上記グリシジル基含有シランカップリング剤の加水分解オリゴマーとしては、アルコキシシリル基とグリシジル基を有するものであり、好ましくはアルコキシ基量が10~80wt%(より好ましくは20~75wt%)、エポキシ当量が200~950(より好ましくは300~900)であるもの等が挙げられる。このような(N1)成分としては、2種以上のアルコキシシリル基を有するもの、あるいはアルコキシシリル基の一部ないし全部がシラノール基の状態となったものも使用することができる。
【0037】
グリシジル基と環状シロキサンを有する化合物としては、反応性官能基としてグリシジル基のみを有するシリコーンオリゴマーであり、好ましくはエポキシ当量が100~500(より好ましくは150~400)であるもの等が挙げられる。
【0038】
特に、本発明では、上記(N1)成分として、グリシジル基含有シランカップリング剤が好適であり、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシランから選ばれる1種以上が好適であり、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシランから選ばれる1種以上を含む態様がより好適である。これらを用いた場合、よりいっそう基材への付着発現性、密着性が向上する。さらには、水性被覆材の安定性、可使時間を高めることができる。
【0039】
アルキルアルコキシシラン化合物(N2)(以下、単に「(N2)成分」ともいう)としては、アルキルアルコキシシラン、及びその加水分解縮合物等が使用できる。これらは、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。このような(N2)成分を使用することによって、基材への密着性をよりいっそう高めることができる。
【0040】
このような(N2)成分としては、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、等の4官能アルコキシシラン類;
【0041】
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン等の3官能アルキルアルコキシシラン類;
【0042】
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等の2官能アルキルアルコキシシラン類;
等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、または2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0043】
本発明では、(N2)成分として、3官能アルキルアルコキシシラン、及び/または2官能アルキルアルコキシシランを含むことが好ましい。さらには、フェニル基を含有するものを含むことが好ましい。このような(N2)成分としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン等が挙げられる。これらを用いた場合、形成被膜の硬化性が高まり、よりいっそう基材、塗膜への付着発現性、密着性が向上する。特に、既存塗膜を有する基材への付着発現性、密着性向上において優れた効果を発揮することができる。
【0044】
本発明の水性被覆材は、上記(N)成分を上記(A)成分の樹脂固形分に対し、好ましくは1~25重量部(より好ましくは2~20重量部)含有する。この場合、本発明の効果が十分に得られる。
【0045】
本発明において、上記(B)成分は、上記(M)成分と上記(N)成分の含有量の重量比が(M)/(N)>1.2(より好ましくは(M)/(N)が1.5~8、さらに好ましくは1.8~7.5)である。このような比率であれば、密着性において十分な効果を得ることができる。さらに、水性被覆材の安定性、可使時間を確保することもできる。
【0046】
上記(B)成分(上記(M)成分と上記(N)成分の合計量)は、上記(A)成分の樹脂固形分100重量部に対して、1~100重量部(好ましくは5~100重量部、さらに好ましくは10~75重量部)である。このような範囲の場合、水性被覆材の安定性、可使時間を確保できるとともに、十分な密着性を得ることができる。
【0047】
さらに、本発明の水性被覆材は、上記(A)成分と架橋反応性を有する架橋剤(硬化剤)を含むことができる。この場合、被膜の強度、耐水性、耐候性、密着性等を高めることができる。このような架橋反応性は、例えば、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、アルド基とセミカルバジド基、ケト基とセミカルバジド基、アルコキシル基どうし、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基等の反応性官能基を組み合わせることによって付与することができる。これらは、1種または2種以上であってもよい。この中でもエポキシ基とアミノ基架橋反応を示す架橋剤を含むことが好適である。
【0048】
具体的には、アミノ基を含有する架橋剤として、アミノ基含有樹脂(C)(以下、単に「(C)成分」ともいう)を含むことが好ましい。上記(C)成分は、上記(A)成分(主に、上記(A3)成分)と反応して被膜の硬化性を高めるものである。このような(C)成分としては、例えば、1分子中にアミノ基を2個以上含有するポリアミン樹脂が使用でき、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、複素環状アミン及びこれらポリアミン樹脂のアミノ基を変性してなる変性ポリアミン樹脂等が挙げられる。なお、上記ポリアミン樹脂の変性には、公知の方法が利用でき、例えば、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。また、(C)成分としては、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドアミン、脂環式ポリアミドアミン、芳香族ポリアミドアミン等も使用できる。これらは、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。また、(C)成分の態様としては、特に限定されないが、水性媒体に溶解又は分散したものが好ましく、特に水分散型樹脂が好適である。
【0049】
上記(C)成分の混合比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、好ましくは0.1~50重量部(より好ましくは1~30重量部、さらに好ましくは1.5~20重量部)である。このような場合、基材、塗膜への付着発現性、密着性が向上する。さらには、水性被覆材の安定性、可使時間を高めることができる。
【0050】
本発明の水性被覆材の態様は、上記(A)成分、上記(B)成分を含むものであれば特に限定されず、例えば、
・(A)成分、(B)成分を含む1液型、
・(A)成分を含む主剤と、(B)成分を含む硬化剤からなる2液型、
・(A)成分、(N)成分を含む主剤と、(M)成分を含む硬化剤からなる2液型、
・(A)成分、(M)成分を含む主剤と、(N)成分を含む硬化剤からなる2液型、
・(A)成分、(M)成分、(N)成分とからなる3液型、
等が挙げられる。なお、相互に反応可能な成分を共存させる場合は、例えば、マスキング、ブロッキング等の処方を採用することができる。本発明では、上記(A)成分、(N)成分を含む主剤と、(M)成分を含む硬化剤からなる2液型の水性被覆材とすることが好ましい。
【0051】
また、架橋剤(上記(C)成分等)を含む場合は、主剤側、硬化剤側のいずれか一方、または両方に配合することができるが、本発明では硬化剤に配合することが好ましい。これにより、水性被覆材の安定性を確保でき、密着性をよりいっそう向上させることができる。
【0052】
さらに、本発明の水性被覆材には、触媒(P)(以下、単に「(P)成分」ともいう)を混合することができる。(P)成分は、例えば、水性被覆材中のアルコキシシリル基の加水分解・縮合、あるいはグリシジル基(エポキシ基)とアミノ基との反応等を促進させるものであり、基材への密着性、特に既存塗膜を有する基材への密着性をよりいっそう高めることができる。
【0053】
上記(P)成分としては、例えば、安息香酸、サリチル酸、トリヒドロキシ安息香酸、フタル酸、ケイ皮酸、ベンゼンヘキサカルボン酸等の各種芳香族カルボン酸類;トリメチルアミン、エチルジメチルアミン、プロピルジメチルアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、1,8-ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン-1(DBU)、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-10)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP-30)等の第三アミン類、ヒドロキシルアミン、フェノキシアミン等のヒドロキシルアミン類、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4(5)-メチルイミダゾール、2-エチル-4メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類等の上記(B)成分、上記(M)成分以外のアミン類;フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール等のフェノール類、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、オルガノチタネート、酢酸ナトリウム等の有機金属化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用できる。これら(P)成分の中でも、特に、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート等の有機錫化合物が好適に用いられる。
【0054】
上記(P)成分の混合量は、(A)成分(固形分)100重量部に対して、0.01~10重量部(好ましくは0.02~8重量部)である。このような範囲の場合、本発明の効果を高めることができる。
【0055】
上記(P)成分を含む場合は、各成分の混合時に配合すればよく、例えば、主剤、硬化剤のいずれかに予め配合する、あるいは、主剤と硬化剤の混合時に配合することもできる。本発明では、主剤側に予め配合することが好ましい。
【0056】
本発明の水性被覆材には、上述の成分の他、必要に応じ着色顔料、体質顔料、防錆顔料、pH調整剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、増粘剤(チクソトロピック調整剤)、造膜助剤、艶消し剤、硬化促進剤、密着性付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を、本発明の効果が阻害されない範囲内で混合することができる。
【0057】
本発明の水性被覆材のpHは4~11(より好ましくは4.5~10.5)である。これにより、密着性において十分な効果を発揮することができる。また、pH調整剤によりアルカリ性(好ましくはpH8.5以上)に調整することにより水性被覆材の安定性、密着性等をよりいっそう向上させることもできる。なお、本発明の水性被覆材が上記2液型の場合は、主剤のpHが上記を満たせばよい。
【0058】
本発明の水性被覆材は、固形分が好ましくは5~60重量%(より好ましくは6~50重量%、さらに好ましくは7~45重量%)である。なお、固形分は、上記水性媒体の混合により調整することができる。このような範囲の場合、塗装作業性に優れるとともに、種々の基材、及び塗膜に対して、密着性をよりいっそう向上させることができる。
【0059】
本発明の水性被覆材は、内外装壁面・床面等への塗装における下塗材として好適に用いられる。例えば、モルタル、コンクリート、窯業系サイディングボード、セラミック系サイディングボード、金属系サイディングボード、押出成形板、スレート板、ケイ酸カルシウム板、ALC板、金属、木材、ガラス、陶磁器、合成樹脂等の基材、あるいはこのような基材上(基材の表面)に形成された多種多様な既存塗膜等の下地に適用する下塗材として好適に用いられる。また、このような下地(基材や既存塗膜)の形状としては、平滑(フラット)なもの、各種凹凸模様(例えば、石材調、レンガ・タイル調、木目調、ボーダー調、塗り壁調、吹付け調)を有するもの等が挙げられる。さらには、シーリング目地部を含む下地に対して、適用することもできる。
【0060】
特に、本発明の水性被覆材は、下地の改修用下塗材として好適であり、例えば、既存塗膜が設けられたサイディングボードの改修時の下塗材として好適に適用することができる。
【0061】
既存塗膜は、上記基材上に、現場塗装、あるいは工場塗装(ライン塗装)等により既に塗装されている種々の塗膜であり、例えば、有機質塗膜、無機質塗膜、有機無機複合塗膜等から選ばれる少なくとも1種の塗膜が挙げられる。また、既存塗膜としては、着色塗膜(エナメル系塗膜、印刷塗膜等)、クリヤー塗膜、あるいはこれらの積層塗膜等が挙げられ、各種コーティング材を基材に塗布・硬化させ、形成された塗膜である。このようなコーティング材は、常温乾燥型、常温硬化型、焼付け硬化型、紫外線(UV)硬化型、電子線硬化型等のいずれのものであってもよい。
【0062】
このようなコーティング材の結合材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂等の有機質結合材、あるいはシリコン樹脂、アルコキシシラン、コロイダルシリカ、ケイ酸塩等の無機質結合材、アクリルシリコン樹脂等の有機無機複合結合材等が挙げられる。
【0063】
本発明は、特に、既存塗膜が、無機質塗膜(上記無機質結合材を含む塗膜)、有機無機複合塗膜(上記有機無機複合結合材を含む塗膜)、フッ素樹脂塗膜(上記フッ素樹脂を含む塗膜)等から選ばれる1種以上である場合に好適であり、さらには、これらのクリヤー塗膜に好適に適用できる。このような既存塗膜は、光触媒酸化チタン等を含むものであってもよい。
【0064】
具体的なコーティング材としては、例えば、建築用耐候性上塗り塗料(JIS K5658:2010)、鋼構造物用耐候性塗料(JIS K5659:2008)、つや有合成樹脂エマルションペイント(JIS K5660:2008)、建築用防火塗料(JIS K5661:1970)、合成樹脂エマルションペイント(JIS K5663:2008)、路面標示用塗料(JIS K5665:2011)、多彩模様塗料(JIS K5667:2003)、合成樹脂エマルション模様塗料(JIS K5668:2010)、アクリル樹脂系非水分散形塗料(JIS K5670:2008)、鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K5674:2008)、屋根用高日射反射率塗料(JIS K5675:2011)、建物用床塗料(JIS K5970:2008)、建築用塗膜防水材(JIS A6021:2011)、建築用仕上塗材(JIS A6909:2014)、等が挙げられる。
【0065】
本発明の水性被覆材の塗装においては、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等の種々の方法を採用することができる。また、工場内で塗装する場合は、上記以外にもロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。
【0066】
水性被覆材の塗付け量については、好ましくは0.05~0.5kg/m 2(より好ましくは0.07~0.3kg/m 2)程度である。水性被覆材の塗回数は、下地の状態によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。水性被覆材の乾燥時間は、好ましくは1時間以上1週間以内とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは-10℃以上50℃以下、より好ましくは-5℃以上40℃以下であればよい。本発明の水性被覆材は、常温硬化型として好ましいものである。
【0067】
本発明の水性被覆材により形成された塗膜は、多種多様な上塗材に対し優れた密着性を有している。上塗材としては、一般的に建築物の塗装に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、その結合材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂等の有機質結合材、あるいはシリコン樹脂、アルコキシシラン、コロイダルシリカ、ケイ酸塩等の無機質結合材、アクリルシリコン樹脂等の有機無機複合結合材等が挙げられる。特に、本発明では、上記有機質結合材、上記有機無機複合結合材から選ばれる1種以上を含む上塗材との密着性を十分に発揮することができる。
【0068】
具体的な上塗材としては、例えば、建築用耐候性上塗り塗料(JIS K5658:2010)、鋼構造物用耐候性塗料(JIS K5659:2008)、つや有合成樹脂エマルションペイント(JIS K5660:2008)、建築用防火塗料(JIS K5661:1970)、合成樹脂エマルションペイント(JIS K5663:2008)、路面標示用塗料(JIS K5665:2011)、多彩模様塗料(JIS K5667:2003)、合成樹脂エマルション模様塗料(JIS K5668:2010)、アクリル樹脂系非水分散形塗料(JIS K5670:2008)、鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K5674:2008)、屋根用高日射反射率塗料(JIS K5675:2011)、建物用床塗料(JIS K5970:2008)、建築用塗膜防水材(JIS A6021:2011)、建築用仕上塗材(JIS A6909:2014)、等が挙げられる。
【0069】
上塗材の塗装方法としては、特に限定されず公知の方法で塗装することができるが、例えば、刷毛塗り、スプレー塗装、ローラー塗装、ロールコーター、フローコーター等種々の方法により塗装することができる。即ち、それぞれの上塗材に最適な塗装仕様で、通常の工程に基づいて、各上塗材を塗装すればよい。
【実施例0070】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明の特徴をより明確にする。
(水性被覆材1~25の製造)
表1に示す配合に従い、(A)成分、(N)成分、および添加剤を常法により混合し、さらに表1に示すpHとなるようにpH調整剤(アンモニア水)を混合して主剤を調製した。また、(M)成分、および(C)成分の混合物を硬化剤とした。
なお、原料としては以下のものを使用した。
【0071】
(A)水分散性樹脂
(A1-1)アクリル樹脂エマルション[メチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/2-エチルヘキシルアクリレート/メタクリル酸共重合体、固形分:50重量%]
(A2-1)アクリルスチレン樹脂エマルション[スチレン/n-ブチルアクリレート/2-エチルヘキシルアクリレート/メタクリル酸共重合体、固形分:50重量%]
(A2-2)エポキシ基含有アクリル樹脂エマルション[スチレン/2-エチルヘキシルアクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、固形分:33重量%、グリシジルメタクリレート含有量:9重量%]
(A3-1)水性エポキシ樹脂[ビスフェノールA型エポキシ樹脂(固形型)水分散体、固形分46重量%]
【0072】
(B)シラン化合物[(M)アミノ基含有シラン化合物、(N1)グリシジル基含有シラン化合物、(N2)アルキルアルコキシシラン化合物]
(M-1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン
(M-2)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン
(N1-1)γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(N1-2)γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン
(N1-3)β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン
(N2-1)フェニルトリメトキシシラン
(N2-2)ジメトキシメチルフェニルシラン
(C)アミノ基含有樹脂[変性脂肪族ポリアミン水分散体、固形分60重量%]
(P)触媒[有機錫化合物分散液、固形分:10重量%]
・添加剤:消泡剤、増粘剤、造膜助剤等
【0073】
(参考例1~11、13、15、実施例12、14、16~20、比較例1~5)
<可使時間>
主剤と硬化剤を表1に示す混合比にて混合後、流動性が失われるまでの時間を測定した。評価基準は、以下の通りである。結果は、表1に示す。
AA:360分以上
A:240分以上360分未満
B:120分以上240分未満
C:30分以上120分未満
D:30分未満
【0074】
<評価1>
(試験体作製1)
既存塗膜として無機質クリヤー塗膜が形成されたサイディングボード上に、主剤と硬化剤を表1に示す混合比にて混合して得られた水性被覆材を塗付け量0.1kg/m 2となるように混合直後に塗付し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で4時間乾燥させ、次いで、水性上塗材(アクリルシリコン樹脂エマルション塗料)を塗付け量0.1kg/m 2となるように塗付し、50℃環境下で、1日間乾燥させた試験体[I]、とした。
作製した試験体[I]を、JIS K 5600-5-6に準じた碁盤目テープ法にて密着性を評価した。評価基準は、以下の通りである。
AA:欠損部面積が5%未満
A:欠損部面積が5%以上10%未満
B:欠損部面積が10%以上25%未満
C:欠損部面積が25%以上50%未満
D:欠損部面積が50%以上
【0075】
次いで、以下の試験体[II]、[III]、[IV]を作製し、上記試験体[I]と同様に密着性を評価した。
(試験体作製2)
既存塗膜として無機質クリヤー塗膜が形成されたサイディングボード上に、主剤と硬化剤を表1に示す混合比にて混合して得られた水性被覆材を塗付け量0.1kg/m 2となるように混合直後に塗付し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で4時間乾燥させ、次いで、水性上塗材(アクリルシリコン樹脂エマルション塗料)を塗付け量0.1kg/m 2となるように塗付し、標準状態で、1日間乾燥させた試験体[II]、4日間乾燥させた試験体[III]、7日間乾燥させた試験体[IV]を作製した。結果は表1に示す。
【0076】
水性被覆材1~7、12~20(参考例1~7、13、15、実施例12、14、16~20)は、基材及び上塗材と優れた密着性を有するものであった。そこで、水性被覆材1~7、12~20について、以下の試験体[V]を作製し、上記試験体[I]と同様に密着性を評価した。
(試験体作製3)
既存塗膜として無機質クリヤー塗膜が形成されたサイディングボード上に、主剤と硬化剤を表1に示す混合比にて混合して得られた水性被覆材を塗付け量0.1kg/m 2となるように混合直後に塗付し、50℃環境下で7日間乾燥させ、次いで、水性上塗材(アクリルシリコン樹脂エマルション塗料)を塗付け量0.1kg/m 2となるように塗付し、標準状態で、1日間乾燥させた試験体[V]を作製した。結果は表1に示す。
既存塗膜として無機質クリヤー塗膜が形成されたサイディングボード上に、主剤と硬化剤を表1に示す混合比にて混合して得られた水性被覆材を塗付け量0.1kg/m 2となるように混合直後に塗付し、50℃環境下で7日間乾燥させ、次いで、水性上塗材(アクリルシリコン樹脂エマルション塗料)を塗付け量0.1kg/m 2となるように塗付し、標準状態で、1日間乾燥させた試験体[V]を作製した。結果は表1に示す。
【0077】