(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132719
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】中実機械部品
(51)【国際特許分類】
B21K 21/00 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
B21K21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031329
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】591105074
【氏名又は名称】株式会社ニチダイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】特許業務法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】森 満帆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直紀
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA08
4E087BA26
4E087CA14
4E087HA03
4E087HA22
(57)【要約】
【課題】外部と内部とで異なる材料で構成された中実部品において、断片的な部分において、外部を成形する材料量と、中子の充填量との均一化ができない点を改善する。
【解決手段】本発明の中実機械部品は、外部形状に沿った内部形状を有した金属でなる成形品と、この成形品の内部に充填した該成形品材料と異なる材料でなる中子とを有する構成とした。
【効果】中空内を形成する金属でなる外部形状のうち外部から内部に至る厚みの偏りが小さくなるから、中子として充填された材料も良好な内部分布となり、断片的な部分において品質のばらつきを抑制できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部形状に沿った内部形状を有した金属でなる成形品と、この成形品の内部に充填した該成形品材料と異なる材料でなる中子とを有した中実機械部品。
【請求項2】
前記中子は、内部から外部形状を成形する機能を有する請求項1記載の中実機械部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部と内部が異材料とされた中実機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1(特開昭63-264237号公報)には、中実のバルブ材をカップ状のビレットに成形し、このビレットの中心穴内にバルブ材より融点の低い低融点金属を充填した状態でプレスにより前方軸押出し及び据込み加工によりその径よりも小径の細長いステム部とその径よりも大径の頭部を有する中間素材を成形し、この中間素材の頭部にプレスによる据込み加工を行ってステム部と傘部を有する最終素材に成形し、低溶融金属を加熱溶解して最終素材から排出することが開示されている。
【0003】
また、例えば特許文献2(特開2000-15386号公報)には、中空部を有する鍛造用粗材の中空部に、中子を挿入して鍛造することで鍛造品を成形した後、該鍛造品の内部から中子を除去する工程を有した中空部材の製造方法において、鍛造用粗材より融点が低く、鍛造用粗材の鍛造工程の鍛造温度より融点の高い材料からなる中子を挿入して鍛造することで鍛造品を成形した後、加熱して鍛造品の内部から中子を溶出することが開示されている。
【0004】
さらに、例えば特許文献3(特開2006-297412号公報)には、鋼材からなる筒状部材あるいは底付筒状部材の内部に、該鋼材よりも融点の低い内部圧力保持金属を配して、該鋼材と該内部圧力保持金属が複合された鍛造用素材とし、該鍛造用素材に鍛造加工を施し所定の外形形状に成形した後、得られた成形体を該内部圧力保持金属の融点以上の温度に加熱して該内部圧力保持金属を溶融除去する製造方法が開示されている。
【0005】
また、例えば特許文献4(特許第4503129号公報)には、中空金属素材の中空内部に非圧縮性の流動体を充満封入して中実成形素材を成形し、この中実成形素材をプレス機によりプレス加工して所定外形状に成形した後に、中空内部の非圧縮性流動体を排出するようにし、中実成形素材は、中空金属素材の開口から中空内部に前記非圧縮性の流動体を充満させた後、開口を閉塞して密封することで成形し、プレス機によるプレス加工は、成形型の中空部品の最終外周形状に対応した内周成形面を有するキャビティ内に中実成形素材を投入するとともに、パンチにより閉塞された中実成形素材の開口をさらにその上から閉塞するようにして加圧することにより、この閉塞部位の高い液密性を確保しつつ、中実成形素材の材料流動メカニズムが中空内部の側壁を外側へ均一に押圧して、その外周面をキャビティの内周成形面に忠実に沿わせるようにした製造方法が開示されている。
【0006】
以上の特許文献1~4はいずれも中空部品を製造する方法である。これらに方法によって得た中空部品は例えば軽量化が図れるなどのメリットがあるが、剛性を欠くというデメリットもある。
【0007】
また、特許文献1~4の方法において中子を排除しなければ中実部品が完成することにはなるが、特許文献1~4の方法では中子は単に外形成形時に中空とする内部がつぶれないように充填されているに過ぎず、外部形状に沿った内部形状を有した中空に充填されているものではないので、中実部品の特性において部分的に例えば次のような不均一が生じる可能性がある。
【0008】
すなわち、外部を成形する材料に対して比重が極端に重い材料を中子として、特許文献1~4の方法を実施してこの中子を排除せず中実部品を作成した場合、ある一部は中子が十分に充填されて外部を成形する材料が少なく、ある他部は中子が十分に充填されずに外部を成形する材料が多く、外部を成形する材料と中子の重さが一部>他部なってしまう。このような中実部品は、外部形状の外見上は全く問題がないが、例えば回転する構造の材料に用いると偏心の要因となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-264237号公報
【特許文献2】特開2000-15386号公報
【特許文献3】特開2006-297412号公報
【特許文献4】特許第4503129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする問題は、上記特許文献1~4含めた従来の中空部品の製造方法を転用して中子を排除せずに中実部品を作成しようとしても、内部形状が外部形状に沿っていなかったので、該機械部品の断片的な部分において、外部を成形する材料量と、中子の充填量とでばらつきが生じる点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の中実機械部品は、外部形状に沿った内部形状を有した金属でなる成形品と、この成形品の内部に充填した該成形品材料と異なる材料でなる中子とを有する構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外部形状に沿った内部形状とされている、つまり成形品については金属でなる外部形状のうち外部から内部に至る厚みが均一に近い状態となっているから、充填される中子が大きく偏ることのない内部分布となり、断片的な部分における品質の大きなばらつきがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の中実機械部品の製造例を説明するための図である。
【
図2】本発明の中実機械部品の製造例において用いられる、中子による該母材の破断を抑制可能な形状とする前の筒状材を示し、(a)は筒状、(b)は有底筒状、(c)は蓋付の有底筒状、をそれぞれ示す図である。
【
図3】中実のユニバーサルジョイントを製造する際における筒状材の母材の流動を説明するための図である。
【
図4】中実のユニバーサルジョイントを製造する際における背圧付与例を説明するための図である。
【
図5】中実のベベルギヤを製造する際における背圧付与例を説明するための図である。
【
図6】本発明の中実機械部品の製造例における中子による該母材の破断を抑制可能な筒状材形状であり、(a)(b)は中実のユニバーサルジョイントを得るにあたっての筒状材形状例を、(c)(d)は中実のベベルギヤを得るにあたっての筒状材形状例を、それぞれ示す図である。
【
図7】(a)(b)は、本発明の中実機械部品の例とする中実のユニバーサルジョイントを示す図である。
【
図8】(a)(b)は、中実のユニバーサルジョイントを従来技術によって得ようとした場合に生じる破断個所をそれぞれ示す図である。
【
図9】(a)(b)は、本発明の中実機械部品の例とする中実のベベルギヤ示す図である。
【
図10】(a)(b)(c)は、中実のベベルギヤを従来技術によって得ようとした場合に生じる破断個所、不均質な肉厚部分、をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、中実機械部品の断片的な部分において、外部を成形する成形品の材料量と、中子の充填量とで分布のばらつきが生じる点を、外部形状に沿った内部形状を有した金属でなる成形品と、この成形品の内部に充填した該成形品材料と異なる材料でなる中子とを有することで改善した。
【0015】
内部形状が外形形状に沿っているとは、例えば外形形状が断面で正方形あれば内部形状も相似形の断面で正方形であるといったように、外部と内部に至る厚みがほぼ相似していることを意味する。
【0016】
そして、外部形状は金属であるが、ここで言う金属は広義での金属であり、特に限定しない。一方、中子は、成形品とは異なる材料、すなわち、金属であっても種類が異なっていればよいが、例えば高温下で膨張したり、高圧下で圧縮したりといったように、使用状況による体積変化が小さい特性を有することが条件となる。こうすることで、外部の成形品が窪んだり凹んだりするような外圧又は衝撃を受けた場合にも中子が内部形状を維持することができる。
【0017】
また、外部形状に沿った内部形状を有した金属でなる成形品に対する、中子は該成形品を作成した後に充填し、そののちに充填開口を塞ぐようにしても構わないが、例えば中子は、内部から外部形状を成形する機能を有することとしてもよい。
【0018】
すなわち、中子は、単なる充填材料というだけでなく、例えば閉塞鍛造によって目的とする中実機械部品を製造する際には、閉塞鍛造用の成形品の金型に、該成形品となる筒状又は有底筒状の金属を配置して、筒内に中子を充填し、この中子ごと成形品となる金属をプレスする。
【0019】
このとき、中子が外部の金属材料の成形推力となり、内部形状を成形しつつ外部形状を成形する。こうすることで、外部形状に沿った内部形状を得ることができ、よって、中子の内部における充填にばらつきが生じることを抑制できる。
【0020】
詳述すると、中子が内部から外部形状を成形する機能を有するとは、中子が外部形状を破壊することなく外部形状に沿った内部形状を成形することを意味する。上記のとおり、本発明の中実機械部品はその製造手法は問わないが、中子が内部から外部形状を成形する機能を有するには、以下のように製造することが前提となる。
【0021】
以下の説明において各用語は次のように定義する。「筒状材」とは、筒状、有底筒状、蓋付の有底筒状を含み、これらを意味する。「充填材」とは、前記筒状材に中子を充填した状態の中間品を意味する。「成形品」とは、前記充填材から外部形状に成形した状態、すなわち完成品を意味する。なお、
図2~
図10では、中子の図示を省略している。
【0022】
また、以下の説明においてのみ中子は「非圧縮流動体」と記すこととする。非圧縮流動体は、上記のとおり本発明の中子について定義したとおりであるが、この説明ではさらに、母材となる金属より低融点な金属、また油や水などの液体はもちろん、力を加えると変形をする樹脂やゴム、また粘土や高分子材料などの粘性体、粉体と液体の混合物など、密閉された空間内で外部からの力が加わったときにそれに追随して形状が変化し、体積変化が小さいものを総称することとする。
【0023】
中実機械部品を得ることについては、特許文献1~4の技術において単に非圧縮流動体を排除しないだけで得られると仮定した。しかし、特許文献1~4の技術では、本発明の中実機械部品の構成要素のうち、まず、外部形状に沿った内部形状を有する成形品を得ることができなかった。
【0024】
例えば、本発明の中実機械部品を、
図7に示す所定径の軸部11から90°間隔で軸外径方向に4方に接続腕部12が延びた、いわゆるユニバーサルジョイント(クロスジョイントとも言う)UJとした場合、非圧縮流動体を充填した充填材から、外部形状に沿った形状の成形品を得ようとして、特許文献1~4のような製造方法を用いても、
図8に(a)に示すように例えば接続腕部12の軸部11とは反対の端部12aの端面が抜けてしまったり(ハッチング領域A)、
図8(b)に示すように接続腕部12がちぎれたり(ハッチング領域B)、軸部11における接続腕部12の根本位置の破断が生じたりして(ハッチング領域C)、上手く製造することができず、失敗した。
【0025】
例えば、本発明の中実機械部品を、
図9に示すベベルギヤBGとした場合、非圧縮流動体を充填した充填材から、外部形状に沿った形状の成形品を得ようとして、特許文献1~4のような製造方法を用いても、
図10(a)に示すように歯部22の歯溝における歯底円位置(ハッチング領域D)、
図10(b)に示すように歯部22の軸部11と連続する歯幅方向の端面位置(ハッチング領域E)、において破断が生じて、上手く製造することができず、失敗した。
【0026】
上記失敗の原因を究明する過程で、母材の流動性について考察した。以下、
図3を用いて、ユニバーサルジョイントUJを例としてこの考察結果について説明する。丸ビレットの中心部を断面円に切削して有底の筒状材に非圧縮材料を充填した充填材は、接続腕部12を成形しようとする位置と、隣接する接続腕部12,12を成形しようとする位置とにおいて、次のように流動することが判った。
【0027】
接続腕部12を成形しようとする位置には、母材のハッチング領域Gがそのまま軸部11の外径方向に、つまり接続腕部12となる金型内を流動する。一方、隣接する接続腕部12,12を成形しようとする位置には、母材のハッチング領域が接続腕部12,12の両方向に分散するように流動し、しだいにそれぞれの接続腕部12,12の方向に流動する。
【0028】
つまり、外部形状を成形するための金型内において母材は、一見すると均等圧力により同じように流動するのではなく、部分的に母材が不足する個所が存在することが判明した。このことから、外部から内部に至る厚みを形成する筒状材の厚みを大きくすれば上記失敗は抑制されると仮定し、今度は、厚みの大きい筒状材から特許文献1~4によりベベルギヤBGを製造した。
【0029】
厚みの大きい筒状材から特許文献1~4によりベベルギヤBGを製造した結果、確かに筒状材の厚みが大きいと部材の部分的な破断などはなかったが、
図10(c)に示すように、外部から内部に至る厚みが大きい部位(ハッチング領域F)が生じて外部形状に沿った内部形状の成形品は得られず、これも失敗した。つまり、本発明の中実機械部品の構成要素である「外部形状に沿った内部形状の成形品」は、特許文献1~4において単に非圧縮流動体を排除しないというだけでは得ることができないことが判明した。
【0030】
なお、ここまでの失敗例に基づけば、特許文献1~4は、上記のような失敗が生じなかったというならば、「厚みが大きい」筒状材に非圧縮流動体(上記で言う中子)を充填して製造したはずであって、例え非圧縮流動体を排除していないとしても「外部形状に沿った内部形状の成形品」を構成要素として具備しないと推測できる。
【0031】
上記の全ての失敗例を考察すると、筒状材の内径にもよるが、成形品を得る工程において、成形手法を変えないならば決まった部位で母材の破断が生じることが判明し、この成形品を得る工程における母材の決まった部位の破断についてさらに考察すると、破断する部位では当該部位に流動しようとする母材が不足することを知見した。この知見に基づいて、筒状材を、成形品を得る工程において前記決まった部位で母材の不足が生じないように、母材の破断を抑制可能な形状とした。
【0032】
成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とは、具体的には、筒状材において破断を生じる、つまり母材が不足する部位に流動する予定の部分について、部分的に厚みを大きくしたり、部分的に内径寸法を小さくしたり、逆に母材のさほど流動しない低い部位に流動する予定の部位について、部分的に厚みを小さくしたり、部分的に内径寸法を大きくしたり、した筒状材形状を意味する。
【0033】
外部形状に沿った内部形状の成形品を有した中実のユニバーサルジョイントを得ようとする場合、例えば、筒状材を、
図6(a)に示すように、丸ビレットに正方形の穴を形成することで、母材が不足する上記のハッチング領域Hでは厚みが大きくなるから当該領域Hの母材の不足が抑制され、上記ハッチングGではこのハッチング領域Hから流動した母材が当該領域Gにおける母材の不足を抑制することができた。
【0034】
また、例えば、筒状材を、
図6(b)に示すように、丸ビレットの周面を端面における同じ長さの4弦を削除して、角を丸めた端面正方形とし、中央を所定径の円状に切削することで、外部形状が(角を丸めた)正方形、内部形状が円形とされた断面形状とすることで、母材が不足する上記のハッチング領域Hでは厚みが大きくなるから当該領域Hの母材の不足が抑制され、上記ハッチング領域Gではこのハッチング領域Hから流動した母材が当該領域Gにおける母材の不足を抑制することができた。
【0035】
外部形状に沿った内部形状の成形品を有した中実のベベルギヤを得ようとした場合、例えば、筒状材を、
図6(c)(d)に示すように、内径の大きい部分と、内径の小さい部分とを設けることで、例えばハッチング領域Fは外部から内部に至る厚みが大きくなる部位であるが、ここを歯部22の部位と同じような厚みとすることができた。
【0036】
したがって、成形品を得る工程において母材が破断する部位を特定し、筒状材の得る工程において、破断を生じる部位に流動する予定の部分の外部から内部に至る厚みや内径寸法を異ならせた形状の筒状材を母材から得ることで、この部位の破断を抑制しつつ、外部形状に沿った内部形状の成形品(完成品)を非圧縮流動体(中子)によって得られることが判明した。
【0037】
また、上記の筒状材を成形する工程において、母材を、成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とすることに加えて、さらに成形品を得る工程において、閉塞鍛造により前記充填材を成形する際にパンチの加圧方向と異なる方向への成形速度を背圧の付与により調整するようにしてもよい。
【0038】
上記の失敗から知見した、破断する部位において当該部位に流動しようとする母材が不足するという現象をさらに考察すると、非圧縮流動体を充填した筒状材の軸方向の端部からパンチで高圧力をかけると、非圧縮流動体が充填された母材は軸方向には流動する空間が存在しないので、パンチによる加圧方向と異なる方向の金型内の開放空間に流動することになる。
【0039】
このとき、母材は、逃げ場のないパンチの加圧方向には流動量が少ないが、逃げ場のある金型内の開放空間に向かっては該開放空間を埋めるべく流動量が多いこととなる。流動量が少ない場合は(単位時間で見て)母材の流動速度が遅く、流動量が多い場合は(単位時間で見て)母材の流動速度が速いことになる。
【0040】
以上のことから、本発明者等は、上記破断する部位において当該部位に流動しようとする母材が「不足する」現象が、母材の流動速度の差、つまり成形品を得る工程においてはパンチの加圧方向と、該加圧方向と異なる方向へとの間の母材の流動速度、つまり成形速度差に起因していることを知見した。
【0041】
以上の知見から、ベベルギヤのように外部形状が複雑な中実機械部品であっても、母材が破断する部位を特定して、破断を生じる部位に流動する予定となる部分の外部から内部に至る厚みを増した断面形状の筒状材を得て、さらに、成形品を得る工程で、パンチの加圧方向と異なる方向への成形速度を背圧の付与により調整すれば、上記の失敗が生じることをさらに確実に抑制できると仮定し、この仮定を実証する試験を行った。
【0042】
試験は、次の2種類を検討した。
図4に示すように、外部形状に沿った内部形状を有した成形品を有した中実のユニバーサルジョイントUJを得るべく、成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とした筒状材(母材)において接続腕部12を成形する部分に、成形方向とは反対側からピストンにより成形方向とは逆の方向の力(背圧)を付与しつつ成形した。
図5に示すように、外部形状に沿った内部形状を有した成形品を有した中実のベベルギヤBGを得るべく、径の小さい液体流出口を形成した金型内に液体を満たし、ここに、破断部位を特定して当該部位に流動する予定の部分を、成形品を得る工程で非圧縮流動体による該母材の破断を抑制可能な形状とした筒状材に非圧縮流動体を充填した充填材を配置して成形した。
【0043】
実験の結果、パンチの加圧方向における成形速度と、該パンチの加圧方向と異なる方向への成形速度とのバランスが図れ、破断を生じる部位(例えば
図8に示すハッチング領域A~C、例えば
図10に示すハッチング領域D,E)においてパンチの加圧方向から母材が十分かつ適切な成形速度と量で展延し、仮定どおり、上記の失敗が生じることをさらに確実に抑制でき、ベベルギヤのように外部形状が複雑な成形品を有した中実機械部品であっても、歯部の内部形状が外部形状に沿った(非圧縮流動体が充填された)完成品を得ることができた。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明の中実機械部品は、外部形状に沿った内部形状を有した金属でなる成形品と、この成形品の内部に充填した該成形品材料と異なる材料でなる中子とを有することを特徴としており、例えば次の部品が挙げられる。
【0045】
例えば、簡単には直線状の軸(柱状)部材が挙げられる。通常の中実金属部材であれば金属材料の重さのままであるが、本発明であれば、成形品としてある比重の金属材料を採用し、中子として成形品の金属材料より比重の軽い非圧縮性の材料を採用することで、剛性を保ったまま軽量化を図ることができる。
【0046】
例えば、歯車部材が挙げられる。歯車部材は回転するから、通常の中実金属歯車部材であれば金属材料の重さのままであるが、本発明であれば、成形品としてある比重の金属材料を採用し、中子として成形品の金属材料より比重の軽い非圧縮性の材料を採用することで、剛性を保ったまま軽量化を図ることができ、また、回転に際しては偏心が生じることが抑制される。
【0047】
また、例えば、減衰部材が挙げられる。本発明であれば、外部となる金属材料でなる成形品の中子とする材料を非圧縮性の流動体とすることで、外部で受けた振動を中子の流動体が吸収して減衰させることができる。
【0048】
さらに、例えば、熱の伝導率を低くした機械部品とすることもできる。本発明であれば外部となる金属材料でなる成形品の中子とする材料を、非圧縮性でかつ成形品となる金属材料より熱伝導性の低い材料を採用することで、全体の発熱を抑えることができる。
【0049】
ここで、本発明の中実機械部品は、例えばシェルモールド法により金属でなる外部形状に沿った内部形状を有した成形品を得た後に中子を充填し、充填口に閉塞するといったように得てもよいが、本例では、中子に関しては、上記のように中実機械部品の特性を付加することのみならず、製造における容易性を向上させることにも用いられる。
【0050】
本例における中子は、上記の成形品を得た後に充填することに代えて、内部から外部形状を成形する際に充填され、中子によって内部からの圧力により内部形状と共に外部を成形して中実機械部品とする。
【0051】
本例では、閉塞鍛造用の成形品の金型に、該成形品となる筒状又は有底筒状の金属材料を配置し、筒内に中子を充填し、この中子ごと成形品となる金属をプレスする。このとき、中子は、金型内における外部の金属材料の成形推力となり、内部形状を成形しつつ外部形状を成形する。
【0052】
すなわち、中子によって内部から外部形状を成形する本例においては、先に成形品を例えばシェルモールド法によって得てから、成形後に中子を充填するという2工程を、外部となる成形品を成形する際に中子を充填できるから工程が1つ減り、かつ、外部形状に沿った内部形状を得ることができ、よって、中子を内部分布において大きくばらつくことなく充填した完成品を得ることができる。
【0053】
成形品を、中子によって内部から外部形状を成形して得る点について、図面を用いて説明する。
図1は工程順を示している。まず、目的とする中実機械部品の検討を行う(手順1、以下、#1と記す)。#1における検討とは、中実機械部品そのものの仕様や、金型仕様も含まれる。目的とする中実機械部品が決定した後、例えば材料力学的に解析したり、シミュレーションを行ったりして破断等が生じる部位の特定を行う(#2)。
【0054】
破断等が生じる部位の特定を行ったうえで、
図2(a)に示す筒状材P、同図(b)に示す有底の筒状材P、同図(c)に示す蓋Paを有した有底の筒状材P、のいずれを用いるか、そして、
図6に示したように該筒状材Pの形状を、後述の成形品を得る工程で中子による該母材の破断を抑制可能なものとする(#3)。
【0055】
また、破断等が生じる部位の特定を行ったうえで、
図4及び
図5に示したような背圧による成形速度の調整が必要か否か、必要な場合は背圧付与手法について検討する(#4)。検討の結果、背圧付与が必要な場合(#5でYes)は、#4の後に、#3で筒状材の形状について検討した結果を反映させて(#6)、そのような形状の筒状材に成形する(#7)。
【0056】
#7で、後の成形品を得る工程で中子による該母材の破断を抑制可能な形状の筒状材を得た後、中子を該筒状材内に充填して充填材を得て(#8)、この充填材を背圧付与が可能な閉塞鍛造設備における金型に配置し(#9)、該設備を稼働して成形品、すなわち完成品を得て(#10)。処理は終了する。
【0057】
一方、#4で背圧付与が必要ない場合(#5でNo)、#3で筒状材の形状について検討した結果を反映させて(#12)、そのような形状の筒状材に成形する(#13)。
【0058】
#13で、後の成形品を得る工程で中子による該母材の破断を抑制可能な形状の筒状材を得た後、中子を該筒状材内に充填して充填材を得て(#14)、この充填材を閉塞鍛造設備における金型に配置し、該設備を稼働して成形品、すなわち完成品を得て(#15)、処理は終了する。
【0059】
このようにすることで、比較的柔軟に多くの機械部品について、外部形状に沿った内部形状の成形品の内部に、該成形品材料と異なる材料の中子を充填した中実機械部品を得ることができる。