(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132723
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】チップ撮像装置、チップ撮像方法、及び検査済みチップ群の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/00 20060101AFI20220906BHJP
G01N 21/84 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01S5/00
G01N21/84 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031335
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】518232168
【氏名又は名称】ダイトロン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北田 啓順
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
【テーマコード(参考)】
2G051
5F173
【Fターム(参考)】
2G051AA61
2G051CA04
2G051DA08
2G051EA23
5F173AQ10
5F173ZM02
5F173ZM03
5F173ZP15
5F173ZQ03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シートに貼着されたチップの側面を精細に撮像する手段の提供。
【解決手段】チップ側面の外観検査装置は、チップ5が貼着されたシート4を広げた状態で支持するシート支持部と、チップ5の側面である発光面6を撮像するための撮像部と、シート4を撓ませてチップ5を傾斜させ、チップ5の発光面6を撮像部の受光部に向けさせる凹溝811とスライダー821から成るチップ傾斜部と、を備える。チップ傾斜部は、チップ5の傾斜を調整可能である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップが貼着されたシートを広げた状態で支持するシート支持部と、
前記チップの側面を撮像するための撮像部と、
前記シートを撓ませて前記チップを傾斜させ、前記チップの側面を前記撮像部の受光部に向けさせるチップ傾斜部と、を備え、
前記チップ傾斜部は、前記チップの傾斜を調整可能である、チップ撮像装置。
【請求項2】
前記チップ傾斜部は、複数の前記チップが貼着された前記シートにおける所定範囲を撓ませることで、撮像対象の前記チップを選択的に傾斜させることが可能である、請求項1に記載のチップ撮像装置。
【請求項3】
前記チップ傾斜部は、
前記シートにおける前記チップと反対側の面に接離可能な当接部と、
前記当接部に形成された窪みである凹部と、
前記凹部内を負圧とすることで、前記シートを前記当接部に吸着させて撓ませる減圧機構と、を有する、請求項1又は2に記載のチップ撮像装置。
【請求項4】
前記チップ傾斜部は、前記凹部の内径を変化させることで、前記シートの撓みを調整可能である、請求項3に記載のチップ撮像装置。
【請求項5】
前記凹部は、前記当接部に形成された凹溝の内壁と、当該凹溝に沿ってスライド可能なスライダーの先端面とによって区画された領域であり、
前記チップ傾斜部は、前記スライダーをスライドさせることで前記凹部の内径を変化させる、請求項4に記載のチップ撮像装置。
【請求項6】
前記当接部は、前記凹部を挟んで対向し、相対的に上下動可能な第1ステージ及び第2ステージを有しており、
前記第1ステージ又は前記第2ステージの上面が前記シートの主面に対して傾斜している、請求項3に記載のチップ撮像装置。
【請求項7】
前記チップ傾斜部は、前記減圧機構によって前記凹部内の負圧を変化させることで、前記シートの撓みを調整可能である、請求項3から6のいずれかに記載のチップ撮像装置。
【請求項8】
前記当接部は、前記シートの主面に沿って前記シートに対して相対移動可能であり、各々の相対位置において前記シートと接離可能である、請求項3から7のいずれかに記載のチップ撮像装置。
【請求項9】
前記チップ傾斜部は、前記撮像部が前記チップを撮像して生成した画像に基づいて前記チップの傾斜の修正値を決定し、当該修正値に基づき前記チップの傾斜を修正する、請求項1から8のいずれかに記載のチップ撮像装置。
【請求項10】
前記シート支持部を支持し、前記シートの主面に沿って移動させる駆動ベースと、
前記撮像部を支持し、位置又は向きを変化させる撮像支持部と、
前記シートを撮像する補助撮像部と、をさらに備え、
前記補助撮像部が前記シートを撮像して生成した画像から判断される前記チップの配置に基づき、前記駆動ベース及び前記撮像支持部が、撮像対象の前記チップと前記撮像部との相対位置を調整する、請求項1から9のいずれかに記載のチップ撮像装置。
【請求項11】
シート支持部によってチップが貼着されたシートを広げた状態で支持する工程と、
チップ傾斜部によって前記シートを撓ませて前記チップを傾斜させ、前記チップの側面を撮像部の受光部に向けさせると共に、前記チップの傾斜を調整させる工程と、
前記撮像部によって前記チップの側面を撮像する工程と、を含む、チップ撮像方法。
【請求項12】
シート支持部によって複数のチップが貼着されたシートを広げた状態で支持する工程と、
チップ傾斜部によって前記シートを撓ませて前記チップを傾斜させ、前記チップの側面を撮像部の受光部に向けさせると共に、前記チップの傾斜を調整させる工程と、
前記撮像部によって前記チップの側面を撮像する工程と、
前記撮像部が前記チップの側面を撮像して生成した画像に基づいて、異常と判断された前記チップを前記シートから取り除く工程と、を含む、検査済みチップ群の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップの外観検査のための撮像装置及び撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程の一つに、ウェハを個々のチップに分割するダイシング工程がある。ダイシング工程において、ウェハは粘着性のダイシングシート(以下、シートとする。)に貼着される。その状態で、ウェハはブレードやレーザー等によって個々のチップに分割される。分割された個々のチップは、コレットなどを用いてシートから剥離・ピックアップされ、後続の工程に送られる。
【0003】
分割されたチップに対して、シート上で外観検査が実施されることがある。チップがシート上に集約していた方が、運用や管理が容易なためである。一般的なチップの外観検査においては、カメラ等によってシート上のチップを撮像し、取得した画像データに画像処理を適用することで、チップの異常を評価する。評価対象の異常として、例えば、チップの欠けやチップに付着した汚れ・異物等がある。
【0004】
特許文献1には、チップの側面を撮像するために、カメラが撮像可能な位置まで、シート越しにチップを押し上げる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザーダイオードにおいては、発光面の外観検査が特に重要となる。発光面の異常は、レーザー光の照射特性に直接影響するためである。特に、端面発光レーザーにおいては、発光面はシート上面と直交するチップの側面であるため、撮像をする際のカメラの配置が課題となる。
【0007】
仮に、チップを斜め上方から撮像した場合は、以下のような課題が発生する。まず、チップの側面を斜めに撮像することになるため、撮像対象との距離の関係からピントが一部にしか合わず、必要な部分がぼやけてしまうことがある。また、シート上面に存在する異物や形状がチップの側面に反射して映り込んでしまうことがある。
【0008】
上記課題は、光軸がシートに沿うようにカメラを配置し、チップの側面を正面から撮像することで解消可能である。しかしながら、そのような配置では、カメラから見て手前側のチップが障害となり、奥側のチップを撮像することができない。
【0009】
一方、特許文献1に開示された方法では、任意のチップの側面を正面から撮像することが可能であるが、チップをシート越しに大きく押し上げるため、チップやシートに負荷が掛かりやすい。そのため、チップやシートの条件によっては、意図せずチップがシートから剥離したり、チップ割れの可能性が推認される。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、シートに貼着されたチップの側面を精細に撮像する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るチップ撮像装置は、チップが貼着されたシートを広げた状態で支持するシート支持部と、前記チップの側面を撮像するための撮像部と、前記シートを撓ませて前記チップを傾斜させ、前記チップの側面を前記撮像部の受光部に向けさせるチップ傾斜部と、を備える。前記チップ傾斜部は、前記チップの傾斜を調整可能である。
【0012】
このような構成においては、チップの側面が撮像部の受光部に向けられるため、チップの側面全体にピントを合わせることが容易となる。また、チップの傾斜によって、チップの側面とシート上面とが成す角が大きくなり、シートからの光がチップの側面に反射しにくくなる。これにより、シート上面の異物や形状の映り込みが軽減される。また、チップの傾斜を調整可能であるため、シートの撓みやすさによらず、チップの側面を撮像部の受光部に向けることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、チップの側面が撮像部の受光部に向けられることで、シートに貼着されたチップの側面を精細に撮像することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る外観検査装置10の概略的な斜視図である。
【
図2】
図2は、制御部90と各部の繋がりを示した機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、チップ傾斜部800の斜視図である。
【
図4】
図4は、チップ5撮像時のシート4周辺を示した平面図である。
【
図5】
図5は、
図4におけるA-A切断線に沿った断面図であって、チップ5が傾斜した様子を示した図である。(A),(B)は、それぞれスライダー821の位置が異なる状態を示している。
【
図6】
図6は、外観検査装置10の変形例に係る当接部810の断面図である。(A)は、チップ5が傾斜されていない状態、(B)は、チップ5が傾斜された状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、
図1に示される外観検査装置10が設置された状態において、鉛直方向に沿って上下方向1が定義され、水平方向に沿って前後方向2及び左右方向3がそれぞれ定義される。また、上下方向1と前後方向2と左右方向3とは、互いに直交している。
【0016】
[外観検査装置10の全体構成]
図1,2に示される外観検査装置10(特許請求の範囲の「チップ撮像装置」に相当。)は、接地ベース20に対し、駆動ベース30、シート支持部40、撮像支持部50、撮像部60、補助撮像部70、及びチップ傾斜部800(
図2~4)等が組みつけられたものである。また、外観検査装置10には、その全体動作を制御する制御部90(
図2)が内蔵されている。なお、外観検査装置10は、他にも種々の構成要素を有していてもよいが、本発明の課題の解決に無関係の構成要素については省略する。上記各構成要素について、以下でより詳細に説明する。
【0017】
[接地ベース20]
図1に示される接地ベース20は、板状を呈しており、外観検査装置10の土台となるものである。接地ベース20は載置面に接地した状態で、外観検査装置10を構成する他の構成要素を支持している。接地ベース20は、外観検査装置10の転倒を防止するために一定の重量を有しており、主に金属によって構成されている。
【0018】
[駆動ベース30]
図1,2に示される駆動ベース30は、シート支持部40を水平方向に沿って移動可能かつ回転可能に支持するものである。駆動ベース30は、シート支持部40を回転可能に支持する回転テーブル31、回転テーブル31を支持するキャリッジ32、キャリッジ32を左右方向3に移動可能に支持する第1リニア駆動部34、及び第1リニア駆動部34を前後方向2に移動可能に支持する第2リニア駆動部36等から構成される。
【0019】
回転テーブル31は、シート支持部40を支持するテーブルである。中央に円形の開口が開けられて、回転テーブル31は円形の枠状とされている。回転テーブル31はキャリッジ32に支持されている。キャリッジ32には、回転テーブル31を回転させるためのモータ33(
図2)が内蔵されている。モータ33が回転駆動されることで、回転テーブル31がシート支持部40と一体に回転する。
【0020】
第1リニア駆動部34には、左右方向3に沿ったレールが設けられている。キャリッジ32はこのレールに取り付けられており、レールに沿って左右方向3に移動可能とされている。第1リニア駆動部34には、キャリッジ32を左右方向3に移動させる駆動力を生じさせるアクチュエータ35が設けられている。
【0021】
第2リニア駆動部36は、前後方向2に沿って平行に設けられた一組のレール部材37からなる。一組のレール部材37は左右方向3に間隔を隔てて接地ベース20の両端にそれぞれ取り付けられている。第1リニア駆動部34は、2つのレール部材37にそれぞれ支持された状態で、前後方向2に移動可能とされている。第2リニア駆動部36には、第1リニア駆動部34を前後方向2に移動させる駆動力を生じさせるアクチュエータ38が設けられている。
【0022】
キャリッジ32に内蔵されたモータ33、及び各リニア駆動部34,36に内蔵されたアクチュエータ35,38は、制御部90によって駆動制御されている。これにより、水平方向におけるシート支持部40の位置及び向きが制御部90によって制御可能とされている。
【0023】
[シート支持部40]
図1,4に示されるシート支持部40は、シート4を直接支持する部材である。中央に円形の開口が開けられて、シート支持部40は円形の枠状とされている。シート支持部40の外周には、例えばOリングに代表される固定部材(不図示)が取り付けられる。シート4は、シート支持部40と固定部材との間で挟み込まれて固定される。これにより、シート支持部40の開口にシート4が張った状態となる。
【0024】
シート支持部40の開口が回転テーブル31の開口と一致するように、シート支持部40が回転テーブル31に取り付けられている。この状態では、回転テーブル31及びシート支持部40の開口を通して、シート4の下面に直接アクセスが可能である。
【0025】
[撮像支持部50]
図1,2に示される撮像支持部50は、接地ベース20から立設された支柱51に、撮像部60を支持する駆動支持機構52が取り付けられたものである。撮像部60は、シート支持部40より上方であって、右側に位置するように駆動支持機構52によって支持されている。その受光部61はシート4に向けられている。
【0026】
駆動支持機構52は、内蔵された2つのアクチュエータ53,54(
図2)の駆動によって、撮像部60を直交する2軸方向に移動させることができる。また、駆動支持機構52は、内蔵されたモータ55(
図2)の駆動によって、撮像部60を揺動させることができる。詳細には、撮像部60は、光軸A1に沿った方向D1、及び光軸A1と直交する方向D2への平行移動がそれぞれ可能である。また、支柱51と駆動支持機構52とを連結する回転軸(不図示)を中心とした方向D3への揺動が可能である。
【0027】
駆動支持機構52に内蔵されたアクチュエータ53,54及びモータ55は、制御部90によって駆動制御されている。これにより、撮像部60の位置及び向きが制御部90によって制御可能とされている。
【0028】
また、支柱51には、補助撮像部70が取り付けられている。補助撮像部70は、シート支持部40の上方に配置されている。補助撮像部70の受光部71は下方に向けられ、その光軸A2は、シート4の上面と直交している。
【0029】
[撮像部60]
図1,2に示される撮像部60は、シート4上のチップ5を撮像するためのカメラであり、一般的にはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラが使用される。撮像部60は、制御部90によって撮像のための各種パラメタの変更や撮像動作が制御されている。撮像部60がチップ5を撮像して生成した画像データは、外部バス95を介して制御部90に送信される。
【0030】
[補助撮像部70]
図1,2に示される補助撮像部70は、上方からシート4を撮像するカメラであり、一般的にはCMOSカメラが使用される。補助撮像部70は、制御部90によって撮像のための各種パラメタの変更や撮像動作が制御されている。補助撮像部70は、シート4の所定範囲を撮像し、生成された画像データは、外部バス95を介して制御部90に送信される。画像データは、制御部90がシート4におけるチップ5の配置を認識し、外観検査装置10の全体動作を制御するために用いられる。
【0031】
[チップ傾斜部800]
図2~4に示されるチップ傾斜部800は、シート4の下面を吸着して撓ませ、チップ5を傾斜させるものである。チップ傾斜部800は、シート4の下面に接触する当接部810、当接部810の凹部812の内径Lを変化させるスライド機構820、シート4を当接部810に吸着させる負圧を生じさせる減圧機構830(
図2)、及び当接部810を下方から支持すると共にシート4に接離させる昇降機構840等から構成される。
【0032】
当接部810は略円柱形状を呈している。当接部810の上面には、当接部810の中央付近から左右方向3に沿って当接部810の右端に至る凹溝811が形成されている。凹溝811には、凹溝811に沿ってスライド可能なスライダー821が収容されている。
【0033】
スライダー821は金属性のバーであり、凹溝811の内側面との隙間が最小限となるように凹溝811に収まる直方体形状を呈している。当接部810の右側には、スライダー821を支持すると共に、凹溝811に沿ってスライドさせるスライド機構820が設けられている。スライド機構820にはアクチュエータ823(
図2)が内蔵されており、アクチュエータ823の駆動力がアーム824を介してスライダー821に伝達されることで、スライダー821がスライド動作をする。アクチュエータ823は、制御部90によって駆動制御されている。
【0034】
凹溝811における内壁の一つである左端面814(
図4,5)とスライダー821の先端面822(
図4,5)との間に溝内空間である凹部812が区画される。左右方向3における凹部812の内径L(
図4,5)は、スライダー821の位置に応じて変化する。凹部812の底面には、減圧機構830に連通する空気穴813(
図4,5)が開けられている。減圧機構830は、凹部812内を負圧にするためのものであり、真空レギュレータ831(
図2)等を有している。減圧機構830は、制御部90によって駆動制御されている。
【0035】
昇降機構840は、平面視で回転テーブル31と重なる位置において接地ベース20から立設されている。昇降機構840は、下方から当接部810を昇降可能に支持している。当接部810は、平常時(昇降機構840が下げられた状態)には、シート支持部40に張られたシート4の下側に位置している。昇降機構840が上昇することで、当接部810はシート4の下面に当接する。即ち、昇降機構840の昇降動作によって、当接部810がシート4の下面に接離する。以上のような昇降機構840の昇降動作はアクチュエータ841(
図2)の駆動によって実現されており、アクチュエータ841は制御部90によって駆動制御されている。
【0036】
以上に説明したチップ傾斜部800は、全体を通して以下のように動作する。まず、昇降機構840の上昇によって当接部810がシート4の下面に当接した状態とされ、その状態で減圧機構830が凹部812内を負圧とする。これによりシート4が当接部810に吸着され、シート4の一部が凹部812内に入り込むことでシート4に撓みが発生する。この撓みによって凹部812周辺の所定位置に配置されたチップ5が傾斜する。さらに、スライド機構820がスライダー821をスライドさせて凹部812の内径Lを変化させることで、シート4の撓みを調整することができる。
【0037】
スライダー821の位置とシート4の撓みとの関係について以下に説明する。
図5は、
図4におけるA-A切断線に沿った断面図であるが、
図4の状態からさらに進んで、減圧機構830の動作によってシート4に撓みが発生した状態を示している。また、(A)と(B)とで、スライダー821の位置が異なっている。(B)の状態では、(A)の状態よりもスライダー821の先端面822が右側に位置しているため、凹部812の内径Lが大きい。この状態では、減圧機構830が発生させた負圧によって、シート4がより凹部812内に入り込みやすくなる。即ち、他の条件が同じであれば、(A)の状態よりもチップ5の傾斜角AGが大きくなる。シート4の厚みや材質から、撓みやすさが事前にある程度判明している場合には、スライダー821の初期位置が作業者により設定されていてもよい。また、後述するように、撮像の過程の中で制御部90によってスライダー821の位置が調整されてもよい。
【0038】
なお、チップ傾斜部800と、上述したようなチップ傾斜部800に対する制御部90の制御機能を合わせたものが特許請求の範囲の「チップ傾斜部」として機能するものである。
【0039】
[制御部90]
図2に示される制御部90は、外観検査装置10の全体動作を制御するコンピュータである。制御部90は、CPU(Central Processing Unit)91、メインメモリ92、補助記憶装置としてのEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)93、及びこれらの間でデータ伝送を行うための内部バス94などを最低限の構成として含んでいる。EEPROM93には、外観検査装置10の全体動作を制御するための各種のプログラムが記憶されている。これらのプログラムが内部バス94を通じてメインメモリ92にロードされ、CPU91によって実行される。その結果生成された制御信号が、外部バス95を通じて外観検査装置10の各部にそれぞれ送信されて、外観検査装置10の全体動作が制御されている。
【0040】
EEPROM93には、少なくとも、駆動ベース30、撮像支持部50、及びチップ傾斜部800に内蔵された各種のモータやアクチュエータ等を制御するためのプログラム、撮像部60及び補助撮像部70を制御するためのドライバプログラム、並びに撮像部60及び補助撮像部70が生成した画像データを処理するための画像処理プログラムが記憶されている。また、EEPROM93には、上記のようなプログラムをサブルーチンとしてロードして、チップ5の撮像や検査に係る全体シーケンスを実行するためのプログラムが記憶されている。
【0041】
[外観検査装置10によるチップ5の撮像]
以下、外観検査装置10がシート4上のチップ5を撮像する際の全体動作を説明する。なお、以下で説明される各部の動作は、制御部90がEEPROM93に記憶された各種のプログラムを実行することで制御されている。また、以下に使用されるチップ5は、その側面の一部が発光面6である端面発光型のレーザーダイオードである。
【0042】
事前準備として、作業者は、分割後のチップ5が複数配置されたシート4をシート支持部40に取り付ける。具体的には、シート4を広げた状態で固定部材によって枠状のシート支持部40に張った状態に固定する。その状態で、作業者は、シート支持部40を駆動ベース30の回転テーブル31にセットする。なお、シート支持部40は、前工程であるチップ5の分割に使用されるダイシング装置と共通の物であってもよい。その場合、作業者は、ダイシング装置から取り外したシート支持部40をそのまま回転テーブル31にセットする。
【0043】
撮像のシーケンスにおいて、最初に、駆動ベース30、撮像支持部50、及びチップ傾斜部800がそれぞれ動作し、各部の位置や向き等が初期状態にリセットされる。具体的には、駆動ベース30の動作によって、水平方向におけるシート支持部40の位置及び向きが初期状態とされる。また、撮像支持部50(駆動支持機構52)の動作によって、撮像部60の位置及び向きが初期状態とされる。また、チップ傾斜部800(昇降機構840)の動作によって、当接部810がシート4に対して下方に離間した状態とされる。また、スライド機構820の動作によって、スライダー821が設定位置に移動する。この設定位置は、例えば予想されるシート4の撓みやすさに基づいて作業者が事前に設定し、EEPROM93に記憶させた位置である。
【0044】
次に、補助撮像部70が動作して、シート4を上方から撮像する。ここで生成された画像データに対して画像処理が実行されて、シート4におけるチップ5の配置が制御部90によって認識される。チップ5の認識には、例えばエッジ検出等の画像処理技術が用いられてもよい。また、事前に設定されたルールに基づくルールベースの認識方法や、チップ形状を機械学習・深層学習したAI(Artificial Intelligence)モデルに基づく認識方法が用いられてもよい。
【0045】
通常、チップ5はシート4上にマトリックス状に配置されている。制御部90は、シート4におけるチップ5の配置に基づいて、チップ5を撮像する順序を決定する。このとき、制御部90は、駆動ベース30によるシート4の移動量が最小となるような撮像順序を決定する。また、隣接する所定個数のチップ5を同時に撮像する撮像単位として撮像順序が決定される。
【0046】
駆動ベース30が動作して、最初に撮像すべきチップ5が撮像部60の撮像範囲に位置するように、シート支持部40の位置及び向きが調整される。具体的には、
図4に示されるように、チップ5は前後方向2に並び、それぞれ発光面6が右側(撮像部60側)を向けられ、平面視においてチップ傾斜部800のスライダー821の先端面822に差し掛かるように配置される。チップ5の左側の大部分は、当接部810の凹部812の上方に位置している。このとき、前後方向2における凹部812の中央側の所定範囲にあるチップ5が一回の撮像単位となる。なお、駆動ベース30と同時に撮像支持部50(駆動支持機構52)が動作して、撮像部60の位置及び向きが適切な状態に調整されてもよい。
【0047】
昇降機構840が上昇動作を行い、当接部810がシート4の下面に当接する。このとき当接部810がシート4を必要以上に押し上げないように、適当な高さで停止される。この状態で減圧機構830が動作し、凹部812内を負圧とする。これによりシート4が当接部810に吸着され、シート4の一部が凹部812内に入り込むようにシート4に凹状の撓みが発生する。撮像対象のチップ5は、左側が下降するように傾斜し、右側端面である発光面6が撮像部60の受光部61に向けられる。
【0048】
撮像部60が動作して、撮像対象のチップ5の発光面6を撮像する。生成された画像データは制御部90によってリアルタイムに処理され、各種撮像条件の調整に用いられる。例えば、発光面6をより正面から撮像するため、制御部90は、チップ5と撮像部60との相対位置及びの調整を行う。この調整には、例えば、画像データにおける発光面6の位置、大きさ、範囲、形状、及びノイズレベル等が参考とされる。
【0049】
制御部90は、画像データに画像処理を適用し、各種撮像条件の修正値を決定する。一例として、制御部90は、チップ5の位置又は傾斜の修正値を決定する。この修正値に基づき、制御部90は、駆動ベース30を動作させて、水平方向におけるチップ5の位置及び角度を調整する。同時に、制御部90は、スライド機構820によりスライダー821をスライドさせて凹部812の内径Lを変化させることで、シート4の撓み、即ちチップ5の傾斜を調整する。また、制御部90は、併せて減圧機構830により凹部812内の負圧を調整することで、シート4の撓みを調整してもよい。
【0050】
また、制御部90は、撮像部60の位置又は向きの修正値を決定してもよい。制御部90は、この修正値に基づき、撮像支持部50(駆動支持機構52)を動作させて、撮像部60の位置及び向きを調整する。この動作はチップ5の傾斜の調整と同時に行われてもよい。
【0051】
上記の他にも、制御部90は、ピントや光感度のような撮像部60の内部に設定された各種撮像条件についても修正値を決定し、撮像条件の調整を行ってもよい。
【0052】
上記のような撮像条件の調整は、再帰的に繰り返し実行されてもよい。即ち、各種撮像条件の調整後に取得された画像データに基づき、再び上記の手順が実行されてもよく、修正値が十分に小さくなるまで上記の手順が繰り返されてもよい。
【0053】
各種撮像条件の調整が完了した後、撮像部60が再度チップ5を撮像して生成した画像データが、シート4及びチップ5を識別する情報と対応付けられてEEPROM93に記憶される。同時に、制御部90は当該画像データに基づき、チップ5の発光面6の異常を評価する。評価対象の異常として、例えば、チップの欠けやチップに付着した汚れ・異物等がある。
【0054】
チップ5の初回の撮像処理についての説明は以上である。同様に、シート4上の他のチップ5に対しても同様の処理が実行される。即ち、次に撮像すべきチップ5が上述したものと同様の配置となるように、シート支持部40の位置及び向きが調整される。以降の処理は初回の撮像処理と同様であるため、省略する。以上のような撮像処理が、シート4上の全てのチップ5に対して順次実行される。
【0055】
シート4上の全てのチップ5の評価の結果、一部のチップ5の異常が製品として許容できないものである場合、制御部90は、評価結果をEEPROM93に記憶させると共に、画面表示やアラート等により当該異常を作業者に通知してもよい。この結果に基づいて、作業者は、異常なチップ5を含んだシート4を正常なチップ5のみを含んだシート4と分けて運用・管理したり、シート4から異常なチップ5のみを排除するなどの措置を実施することができる。
【0056】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態に係る外観検査装置10においては、チップ5の側面である発光面6が撮像部60の受光部61に向けられるため、発光面6全体にピントを合わせることが容易となる。また、チップ5の傾斜によって、発光面6とシート4の上面とが成す角が大きくなり、シート4からの光が発光面6に反射しにくくなる。これにより、シート4の上面の異物や形状の映り込みが軽減される。また、チップ5の傾斜を調整可能であるため、シート4の撓みやすさによらず、発光面6を撮像部60の受光部61に向けることができる。
【0057】
また、撮像対象のチップ5を選択的に傾斜させることが可能であるため、シート4上のチップ5を任意の順序で撮像し、評価することができる。
【0058】
また、チップ傾斜部800は、減圧機構830が発生させた凹部812内の負圧によってシート4を撓ませるため、シート4を突き上げたり押圧する必要が無い。即ち、シート4やチップ5に負荷をかけることなく、撮像を行うことができる。また、スライダー821の位置や凹部812内の負圧の変化によって、シート4の撓み、即ちチップ5の傾斜を調整することが容易である。
【0059】
また、駆動ベース30は、シート支持部40を水平方向に沿って移動可能かつ回転可能に支持しているため、任意のチップ5を当接部810の上方であって撮像部60が撮像可能な位置まで移動させることが容易に行われる。
【0060】
また、撮像部60がチップ5を撮像して生成した画像に基づいてチップ5の位置又は傾斜の修正値が決定され、当該修正値に基づきチップ5の位置又は傾斜が修正されるため、チップ5の位置や傾斜がより最適な状態で撮像を行うことができる。
【0061】
また、撮像支持部50(駆動支持機構52)によって撮像部60の位置又は向きを変更することができるため、シート4及びチップ5だけを移動・傾斜させた場合と比較して、撮像部60とチップ5の位置関係をより最適に調整することができる。
【0062】
[変形例]
なお、ここまで説明した構成は一例であり、外観検査装置10の構成は、本発明の課題を解決可能な範囲で適宜変更されてもよい。
【0063】
外観検査装置10の一つ目の変形例が
図6に示される。本変形例においては、チップ傾斜部800の当接部810は、第1ステージ815と第2ステージ816とから構成される。第1ステージ815に形成された直方体状の窪みである凹部812内に第2ステージ816が配置され、第2ステージ816は、凹部812を左右に分断している。図には示されていないが、第2ステージ816は、
図6に示された形状のまま前後方向2に沿って凹部812の内側面近くまで伸びている。また、第2ステージ816は、上面が左右方向3の中央ほど高くなるように傾斜した傾斜面とされている。
【0064】
第2ステージ816は、アクチュエータなどを備えた駆動機構によって、第1ステージ815に対して上下動可能とされている。
図6(A)の状態から、減圧機構830が凹部812内を負圧とし、同時に第2ステージ816が上方に移動した状態が
図6(B)に示される。これにより、シート4が第2ステージ816の上面に張り付くことで、チップ5が傾斜されている。
【0065】
減圧機構830が発生させる負圧の大きさが比較的小さく、また第2ステージ816の高さが比較的低い場合は、シート4が部分的に第2ステージ816の上面に張り付くことになる。制御部90は、減圧機構830が発生させる負圧の大きさ及び第2ステージ816の高さを調整することによって、チップ5の傾斜角AGを調整することができる。同時に、チップ5の高さを調整することもできる。
【0066】
[その他の変形例]
外観検査装置10のその他の変形例を以下に説明する。上述した外観検査装置10は、撮像時にチップ5がスライダー821の先端面822に差し掛かるように位置するものであるが、この構成は必須ではない。例えば、チップ5は、撮像時に凹溝811の左端面814に差し掛かるように位置してもよい。このような配置では、チップ5は、シート4の撓みによって左右方向3における左側ほど上方に位置するように傾斜する。そのため、チップ5は、発光面6が左側となるように向きが調整され、撮像部60は、チップ5の発光面6を左上方から撮像するように配置される。もちろん、装置全体を通して左右が逆に配置されてもよい。
【0067】
また、上述した外観検査装置10は、チップ傾斜部800の昇降機構840が上昇動作を行うことで、当接部810がシート4の下面に当接するものであるが、この構成は必須ではない。例えば、当接部810が上下方向1に固定されて、シート支持部40が下降することで当接部810がシート4の下面に当接してもよい。
【0068】
また、上述した外観検査装置10は、駆動ベース30がシート支持部40を水平方向に沿って移動可能かつ回転可能に支持するものであるが、この構成は必須ではない。例えば、シート支持部40は水平方向に固定されており、当接部810及び撮像部60が水平方向に移動することで、撮像対象のチップ5と当接部810及び撮像部60の相対位置や向きが調整されてもよい。
【0069】
さらに、チップ傾斜部800は他にも多様な変形が可能であり、必ずしも負圧によってシートを撓ませるものである必要はない。一例として、チップ傾斜部800は、上下動可能な突き上げ部材によってシートを下方から突き上げることでシート4を撓ませてチップ5を傾斜させてもよい。あるいは、シート4と当接した複数の部材が上下に段差を形成したり、水平方向に相対移動することでシート4を撓ませてチップ5を傾斜させてもよい。
【符号の説明】
【0070】
4 ・・・シート
5 ・・・チップ
6 ・・・発光面(側面)
10 ・・・外観検査装置(チップ撮像装置)
30 ・・・駆動ベース
40 ・・・シート支持部
50 ・・・撮像支持部
60 ・・・撮像部
61 ・・・受光部
70 ・・・補助撮像部
800・・・チップ傾斜部
810・・・当接部
811・・・凹溝
812・・・凹部
814・・・左端面(内壁)
815・・・第1ステージ
816・・・第2ステージ
821・・・スライダー
822・・・先端面
830・・・減圧機構
L ・・・内径