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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132725
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】自動車用部品
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/00 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
B62D25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031337
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203CA02
3D203CA07
3D203CB24
(57)【要約】
【課題】制振性に優れた自動車用部品を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車用部品1は、金属製の板状部材3を備えて構成されたものであって、板状部材3の内面に塗布又は貼付された樹脂層5と、樹脂層5の板状部材3とは反対側に設けられた金属板製の振動抑制部材7と、を有し、樹脂層5は、10MPa以上の接着強度で板状部材3と振動抑制部材7とにそれぞれ接着されていることを特徴とするものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の板状部材を備えて構成された自動車用部品であって、
前記板状部材の内面に塗布又は貼付された樹脂層と、
該樹脂層の前記板状部材とは反対側に設けられた金属板製の振動抑制部材と、を有し、
前記樹脂層は、10MPa以上の接着強度で前記板状部材と前記振動抑制部材とにそれぞれ接着されていることを特徴とする自動車用部品。
【請求項2】
前記板状部材が、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状であって、
前記樹脂層が、該ハット断面形状、該コ字断面形状、または該Z断面形状の少なくとも天板部に塗布又は貼付されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品に関し、特に、樹脂を塗布又は貼付した自動車用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体に用いられる自動車用部品においては軽量化が常に追求されており、その方法としては、自動車用部品に用いられる金属板をアルミニウム板等の低密度材料に置換したり、高強度な金属板による薄肉化が行われている。特に、衝突エネルギー吸収部品をはじめとする骨格部品やパネル部品に対しては、高強度鋼板による薄肉化が進んでいる。
【0003】
しかしながら、金属板の薄肉化による自動車用部品の軽量化はロードノイズ等の振動を伝播しやすくなり、さらには、自動車用部品の固有振動数が低下してロードノイズ等との共振リスクが高まってしまう。
また、近年では電気自動車の開発が進んでいる。電気自動車は、従来のガソリン車等と異なりエンジンを搭載しておらず、エンジンから発生する振動や音がなくなる一方で、走行時に発生するロードノイズ等の振動や音、車外から車内へ侵入する透過音が敏感に伝わり聞こえる。そのため、従来のガソリン車等以上に、自動車用部品の振動や透過音を抑制することが求められている。
【0004】
自動車用部品の制振性や透過音抑制を向上させることを目的として、自動車用部品の形状や固定方法に関する技術や、自動車用部品に制振材を適用する技術が数多く提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、マウント取付部とサスペンション取付部とが設けられたフロントサイドメンバと、サスペンション取付部に固定されたサスペンションクロスメンバと、を備えた車体前部構造において、マウント取付部とサスペンション取付部とを補強部材を介して連結するような形状にして固定することで、騒音・振動・ハーシュネス特性を向上させることができる技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、フロアパネルにおける車体骨格部材で囲まれた領域に段部を設けるとともに、前記領域の外淵部に沿ってフロアパネルの表面に制振材を適用することで、フロアパネルに生じる振動を効果的に抑制することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-164053号公報
【特許文献2】特開2019-98988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術は、部品点数の増加による重量増加、車体構造の複雑化による組立コストの上昇、部品形状の複雑化に伴う表面積増加による重量上昇や製造コストの向上、樹脂の塗布量増加による重量増加、等といった課題があった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、制振性の向上に優れた自動車用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る自動車用部品は、金属製の板状部材を備えて構成されたものであって、
前記板状部材の内面に塗布又は貼付された樹脂層と、
該樹脂層の前記板状部材とは反対側に設けられた金属板製の振動抑制部材と、を有し、
前記樹脂層は、10MPa以上の接着強度で前記板状部材と前記振動抑制部材とにそれぞれ接着されていることを特徴とするものである。
【0011】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記板状部材が、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状であって、
前記樹脂層が、該ハット断面形状、該コ字断面形状、または該Z断面形状の少なくとも天板部に塗布又は貼付されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、金属製の板状部材を備えて構成されたものであって、前記板状部材の内面に塗布又は貼付された樹脂層と、該樹脂層の前記板状部材とは反対側に設けられた金属板製の振動抑制部材と、を有し、前記樹脂層は、10MPa以上の接着強度で前記板状部材と前記振動抑制部材とにそれぞれ接着されていることにより、振動が入力したときの自動車用部品の振動減衰が向上するとともに固有振動数が高くなり、制振性を向上させることができる。
また、本発明に係る自動車用部品がパネル部品の場合においては、制振性の向上に加えて、騒音の入力側の空間(車外等)から出力側の空間(車内)へ伝播する透過音を抑制することができる。
さらに、本発明に係る自動車用部品は、前記樹脂層の前記板状部材とは反対側に金属板製の振動抑制部材を設けたことで、前記樹脂層のみを設けた場合よりも、同様の振動や音に対して樹脂層の厚みを半減以下にできるので、金属板の薄肉化による自動車用部品の軽量化を維持しつつ、制振性の向上と透過音の抑制を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る自動車用部品の構成を説明する図である((a)斜視図、(b)断面図)。
図2】本発明の実施の形態に係る自動車用部品の面剛性を評価するためのモデルを説明する図である((a)本発明モデル、(b)板状部材のみを備えた従来モデル、(c)樹脂層と板状部材とが接着されていない比較モデル)。
図3】本発明の実施の形態に係る自動車用部品の面剛性を評価した結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態に係る自動車用部品を試験体とした打撃振動試験により求めた周波数応答関数の一例を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態に係る自動車用部品の振動減衰と固有振動数向上を示すグラフである。
図6】実施例において、打撃振動試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態では、図1に一例として示すような、自動車のフロア、ダッシュ、ルーフ、ドア及びトランクリッド等といったパネル部品を模擬した自動車用部品1について説明する。
【0015】
本発明の実施の形態に係る自動車用部品1は、図1に一例として示すように、金属製の板状部材3を備えてなるものであって、板状部材3の表面に塗布された樹脂層5と、樹脂層5の前記板状部材とは反対側に設けられた金属板製の振動抑制部材7と、を有するものである。
【0016】
図1に示す板状部材3は、自動車車体の外表面を形成するパネル面部3aと、パネル面部3aの外周縁から連続して屈曲した縦壁部3bと、縦壁部3bから連続する平面部3cを有してなるものであり、パネル面部3aの断面が一方向(図1(a)においてはY方向)に円弧状に湾曲したカマボコ型である。
【0017】
板状部材3に用いられる金属板の種類としては、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス鋼板、亜鉛系めっき鋼板、亜鉛合金系めっき鋼板、アルミ合金系めっき鋼板、アルミニウム合金板、が例示できる。そして、高強度金属板を用いて薄肉化をすることで、自動車用部品1を軽量化することができる。
【0018】
樹脂層5は、板状部材3の内面に樹脂が塗布又は貼付けされたものであり、板状部材3と10MPa以上の接着強度で接着されている。ここで、板状部材3の内面とは、自動車用部品1がパネル部品の外側部材である場合、実際の自動車に自動車用部品1が配設された状態において、車内側の表面のことをいう。
樹脂層5の厚みの下限は、樹脂を塗布する場合には均一に塗布可能な0.1mm程度、フィルム状の樹脂を貼付ける場合には50μm程度となる。
また、樹脂層5の厚みの上限は、コストの観点から8mm程度を上限とするのが好ましい。
【0019】
樹脂層5の樹脂の種類としては、熱可塑系、熱硬化系又はエラストマー系のものが挙げられる。
熱可塑系の樹脂としては、ビニル系(酢酸ビニル、塩化ビニル等)、アクリル系、ポリアミド系、ポリスチレン系、シアノアクリレート系のものが例示できる。
熱硬化系の樹脂としては、エポキシ系、ウレタン系、エステル系、フェノール系、メラミン系、ユリア系のものが例示できる。
エラストマー系の樹脂としては、ニトロゴム系、スチレンブタジエンゴム系、変性シリコン系、ブチルゴム系、ウレタンゴム系、アクリルゴム系のものが例示できる。
【0020】
自動車用部品1の軽量化の観点からは、樹脂層5の樹脂としては発泡樹脂が好ましい。なお、樹脂層5の樹脂として発泡樹脂を用いた場合、その発泡倍率は特に制限はない。
【0021】
なお、樹脂層5と板状部材3の接着強度は、金属板と樹脂との界面に作用する最大せん断応力又は平均せん断応力とすることができ、該最大せん断応力又は平均せん断応力は、例えば、金属板(鋼板など)と樹脂とを接着した2層角柱の衝突実験により求めることができる。
【0022】
また、樹脂層5と板状部材3の接着強度は、接着後の樹脂層5と板状部材3の一部を切り出し、該切り出した樹脂層5と板状部材3とを引張試験機に設置して、一方は樹脂層5を、他方は板状部材3を掴んで、引っ張って求めたものとしてもよい。
【0023】
あるいは、接着後の板状部材3と樹脂層5の一部を切り出して引張試験機に設置し、一方は樹脂層5を掴み、他方は金属製の板状部材3を折り曲げて形成した掴み部(図示なし)を掴んで引っ張る、若しくは、板状部材3に掴み部品を接合して、該掴み部品を引張試験機で掴んで引っ張る方法により測定したものを、樹脂層5と板状部材3の接着強度としてもよい。
【0024】
上記のとおり、本実施の形態1に係る自動車用部品1は、板状部材3の内面に樹脂が塗布されたものを樹脂層5とするものであるが、本発明は、8mm以下の厚みの板状の樹脂を樹脂層5として板状部材3の内面に接着剤を用いて貼付されたものであってもよい。
さらには、ラミネート鋼板におけるラミネート並みに、100μm程度の厚みのフィルム状の樹脂を樹脂層5として板状部材3の内面に貼付されたものであってもよい。
そして、板状又はフィルム状の樹脂層5と板状部材3の内面との接着強度が10MPa以上であればよい。
【0025】
振動抑制部材7は、金属板製(例えば、鋼板製)であり、図1に示すように、板状部材3の内面に塗布された樹脂層5の板状部材3とは反対側に設けられたものである。そして、樹脂層5は、振動抑制部材7とも10MPa以上の接着強度で接着されている。
振動抑制部材7は、鋼板製であれば、引張強度100MPa級~590MPa級、板厚0.15~0.60mmの鋼板でよい。理由については、後述する。
【0026】
樹脂層5と振動抑制部材7の接着強度は、前述した樹脂層5と板状部材3の接着強度と同様、金属板(鋼板など)と樹脂とを接着した2層角柱の衝突実験により求めてもよいし、接着後の樹脂層5と振動抑制部材7の一部を切り出して引張試験機により測定して求めてもよい。
【0027】
なお、振動抑制部材7は、樹脂層5の板状部材3とは反対側に接着されるとともに、板状部材3に接合(例えば、スポット溶接等)されたものであってもよい。例えば、図1に示す自動車用部品1において、振動抑制部材7は、板状部材3の縦壁部3bに接合してもよい。板状部材3における振動抑制部材7を接合する位置については特に限定はなく、例えば、自動車用部品1の外観を損ねたり、他の自動車用部品と干渉しないよう、適宜決定することができる。
【0028】
本実施の形態に係る自動車用部品1が制振性に優れている理由と、自動車用部品1がパネル部品の場合においては透過音の抑制に優れている理由について、以下に説明する。
【0029】
≪制振性≫
制振性の向上としては、振動減衰の増加と固有振動数の上昇が挙げられる。
<振動減衰>
振動減衰に関しては、自動車用部品1においては板状部材3の内面に樹脂層5が接着され、さらに樹脂層5の板状部材3とは反対側に振動抑制部材7が接着されていることで、振動時には、振動エネルギーが樹脂層5と板状部材3との接着面に加え、振動抑制部材7と樹脂層5との接着面の両方でずり変形によって熱エネルギーに変換されて吸収されるため、特許文献2等の板状部材に樹脂のみを適用した場合に比べて、本実施の形態では2重の大きな振動減衰効果を得ることができる。
【0030】
しかしながら、樹脂層5と板状部材3及び振動抑制部材7との接着強度が10MPa未満であると、振動時の微小曲げが発生した際に樹脂層5が板状部材3や振動抑制部材7から剥離してしまい、樹脂層5による振動減衰効果が得られなくなってしまう。
【0031】
本実施の形態に係る自動車用部品1において、樹脂層5は板状部材3と振動抑制部材7ともに10MPa以上の接着強度で接着されているため、振動により面外微小曲げが発生しても樹脂層5が板状部材3と振動抑制部材7から剥離してしまうことを防ぎ、良好な振動減衰効果を得ることができる。
【0032】
本実施の形態に係る自動車用部品1において、以上の振動減衰効果は振動抑制部材7の板厚や引張強度には大きく依存しないため、自動車用部品1の軽量化および製造コスト低減の観点から、引張強度100MPa級~590MPa級、板厚0.15~0.60mmの鋼板がよい。
引張強度100MPa級~590MPa級としたのは、100MPa級が通常使用される鋼板において最も引張強度が低く、590MPa級を越えるとコストが大きく上昇するためである。この範囲の中では、特にJIS規格SPCC等の普通鋼と呼ばれる安価な一般的な冷間圧延鋼板のグレードである270MPa級がコスト面から好ましい。また、板厚0.15~0.6mmとしたのは、0.15mm未満では製造コストが上昇し、0.6mmを超えると自動車用部品の軽量化効果が低下するためである。
【0033】
<固有振動数>
一方、固有振動数に関しては、板状部材3と樹脂層5と振動抑制部材7との3層構造とすることで面剛性が向上し、振動の振幅を抑制して振動を低減するとともに固有振動数を上昇(高い振動数域にシフト)させることができる。すなわち、人が感知しやすい振動や音の振動数の領域よりも高い振動数にして、人に感知しにくくすると同時に、ロードノイズ等との人が感知しやすい振動数域との共振を防ぐわけである。
【0034】
面剛性とは、自動車用部品に荷重が入力して座屈変形が開始する前の剛性(曲げ剛性)であり、自動車用部品に用いられる各材料のヤング率Eと、自動車用部品の断面2次モーメントIとの積で与えられる。
本実施の形態に係る自動車用部品1の面剛性は、図2(a)に示す本発明モデル11のように、平板上の板状部材13と樹脂層15と振動抑制部材17とが積層した積層材であり、以下の式(1)に示す積層材の面剛性EIについての式を用いて評価することができる。
【0035】
【数1】
【0036】
式(1)において、Lは積層材の幅、iは材料、nは層の数、Eiは材料iのヤング率、hiはi=1の材料から材料iの層までの厚み、λはi=1の材料の表面から積層材の中立面までの距離である。
【0037】
なお、比較対象として、樹脂層及び振動抑制部材が設けられておらず板状部材のみを備えた従来の自動車用部品と、樹脂層と板状部材とが接着されていない自動車用部品についても、それぞれ図2(b)に示す従来モデル21及び図2(c)に示す比較モデル31の積層材であるとし、式(1)を用いて面剛性EIを算出した。図3に、図2に示す各モデルについて算出した面剛性の結果を示す。
【0038】
板状部材13のみを備えた従来モデル21と本発明モデル11とを比較すると、本発明モデル11においては、板状部材13の内面に樹脂層15と振動抑制部材17とが設けられていることで面剛性が著しく上昇している。これにより、本発明に係る自動車用部品1においては、面剛性が向上したことで入力する振動に対して自動車用部品が振動しにくくなり、固有振動数が高振動数域にシフトし、人に感知しにくくなり共振も防ぐことができる。
【0039】
また、板状部材13と樹脂層15とが接着されていない比較モデル31においては、本発明モデル11と同様に3層構造であるものの、図3に示すように、本発明モデル11に比べると面剛性の上昇代は少ない。このことから、自動車用部品1において板状部材3と樹脂層5との接着強度が低くて剥離しやすい、または、接着していないと、自動車用部品1の面剛性は十分に増加しないことが示唆される。
すなわち、自動車用部品1において、樹脂層5の接着強度が10MPa未満の場合、樹脂層5が振動により剥離しやすく、剥離または接着していない場合、振動の振幅低減や固有振動数の高振動数域へのシフトが小さくなる。
なお、振動抑制部材7は、自動車用部品1の軽量化および製造コスト低減の観点から、引張強度100MPa級~590MPa級、板厚0.15mm~0.60mmの鋼板がよい。
【0040】
以上述べた本実施の形態に係る自動車用部品1の振動減衰と固有振動数とに関する作用効果は、例えば、自動車用部品1の打撃振動試験により評価できる。
【0041】
図4に、本実施の形態に係る自動車用部品1を試験体とした打撃振動試験により求めた周波数応答関数の一例を示す。なお、図4に、比較対象として、板状部材のみを試験体とした打撃振動試験により求めた周波数応答関数の結果を併せて示す。また、打撃振動試験の詳細については、後述する実施例にて説明する。
【0042】
図4に示す周波数応答関数の結果において、マッチ箱振動モードにおけるイナータンスとその固有振動数を図5に示す。イナータンスとは、物体に入力する力に対して、それによって発生する加速度の比をとったものであり、イナータンスの大きさにより、物体に振動が入力したときの振動減衰の程度を評価することができる。
【0043】
図5より、実施の形態に係る自動車用部品1では、板状部材のみの自動車用部品と比較するとイナータンスは80(m/s2)/N低下し、固有振動数は約196Hz上昇している。これより、本実施の形態に係る自動車用部品1においては、振動が減衰して固有振動数が増加し、制振性を向上させることができることがわかる。
【0044】
≪透過音≫
自動車用部品1が図1に示すようなパネル部品の場合における透過音は、騒音の入力側(車外やエンジンルーム等)からの音波がパネル部品を振動させ、当該パネル部品の振動が出力側の空間(車内)へ音波として伝播する際における、入力側と出力側それぞれの音波の強度差で表される。
【0045】
本実施の形態に係る自動車用部品1においては、板状部材3の内面に樹脂が樹脂層5として塗布され、かつ樹脂層5の板状部材3とは反対側に振動抑制部材7が設けられ、樹脂層5が板状部材3及び振動抑制部材7と10MPa以上の接着強度で強固に接着されていることで、前述した図3に示すように、自動車用部品1の面剛性EIが著しく向上する。
【0046】
そして、面剛性が向上したことにより、入力する振動に対して自動車用部品1は振動しにくくなり、その結果、出力側の空間への振動伝播が抑制されて透過音を抑制することができる。
さらに、本実施に係る自動車用部品1においては、樹脂層5の両側に金属板を設ける構造により車体の外部からの音を、板状部材3に加えて振動抑制部材7でも反射できることにより透過音を抑制することができる。
【0047】
なお、本実施の形態に係る自動車用部品1は、前述したとおり、樹脂層5に加えて振動抑制部材7を有するものであるが、樹脂層5のみを板状部材3の内面に接着した自動車用部品(図示なし)についても、制振性及び透過音抑制の効果を検証した。
【0048】
その結果、板状部材に樹脂のみを樹脂層として設けた自動車用部品においては、本実施の形態に係る自動車用部品1と同等の制振性及び透過音抑制を図るためには、厚みが15mm以上の樹脂を要することが判明した。
したがって、本実施の形態に係る自動車用部品1は、厚み8mm以下の樹脂であり振動減衰の向上と固有振動数の上昇が発揮されるため、軽量化や製造コストの面で有利である。
【0049】
なお、本発明に係る自動車用部品は、板状部材の内面の全面に樹脂を塗布又は貼付したものであるものに限定されず、制振性の向上や透過音の抑制に対して必要な部位に樹脂が塗布又は貼付されたものとすることで、重量や製造コストの増加を抑制することが可能である。
【0050】
また、本実施の形態に係る自動車用部品1は、図1に示すように、自動車のパネル部品を対象としたものであったが、本発明は、Aピラー、Bピラー等といった骨格部品を対象としたものであってもよい。
これらの骨格部品において、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状の板状部材が多く用いられているが、板状部材に樹脂を塗布又は貼付する位置については特に限定はない。もっとも、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状の板状部材の場合、振動に寄与の大きい平坦面が多いので、樹脂は、少なくともハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状の天板部に塗布又は貼付するとよい。そして、振動抑制部材は、樹脂を覆うように設けて接着すればよく、さらには、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状の縦壁部に接合すると振動抑制部材を確実に固定できてよい。
【0051】
なお、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状の板状部材を用いた場合、樹脂を塗布する板状部材の内面とは、ハット断面形状、コ字断面形状、またはZ断面形状の内面のことをいう。
さらに、骨格部品における板状部材を組み合わせて筒状のものとする場合、樹脂は、筒状の内面に塗布又は貼付すると、車体組み立て時に他の部品との干渉を防ぐことができてよい。
【実施例0052】
本発明に係る自動車用部品の作用効果を検証するための実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0053】
本実施例では、図1に示すように板状部材3と樹脂層5と振動抑制部材7とを備えてなるパネル部品を模擬した試験体41について、打撃振動試験と透過音測定試験を行った。
【0054】
板状部材3は、パネル面部3aと、パネル面部3aの外周縁から連続して屈曲した縦壁部3bとを有し、外表面側に凸状に突出したカマボコ型である。
【0055】
板状部材3の寸法は平面視(X方向から見て)で450mm×450mmあり、また、パネル面部3aの寸法は平面視で(330mm×330mm)である。
そして、パネル面部3aは、図1(a)に示すように、横方向(Y方向)の断面において円弧状に湾曲(曲率半径:R1200mm)している。
ここで、板状部材3には、引張強度270MPa級~1470MPa級、板厚1.2mmの鋼板を使用した。
【0056】
樹脂層5は、板状部材3におけるパネル面部3aの内面に塗布した。ここで、樹脂層5には、エポキシ又はウレタンを使用し、厚みを0.1mm~8mmとした。
【0057】
さらに、振動抑制部材7を、パネル面部3aに塗布した樹脂層5の板状部材3とは反対側に設けた。ここで、振動抑制部材7には、引張強度270MPa級、板厚0.5mm又は0.3mmの鋼板を使用した。
【0058】
本実施例では、板状部材3と樹脂層5と振動抑制部材7とを備えた試験体41において、樹脂層5の厚みと、樹脂層5と板状部材3との接着強度及び樹脂層5と振動抑制部材7との接着強度が本発明の範囲内であるものを発明例とした。
【0059】
さらに、比較対象として、板状部材のみの試験体(図示なし)、並びに、樹脂層5と板状部材3の接着強度又は樹脂層5と振動抑制部材7との接着強度が本発明の範囲外の試験体41、さらに、振動抑制部材7がなく樹脂層を板状部材の内面に接着した試験体(図示なし)を比較例とした。
【0060】
なお、発明例及び比較例に係る試験体41における樹脂層5と板状部材3の接着強度は、同じ手段で接着した複数の試験体41の一部から接着後の樹脂層5と板状部材3の一部を切り出し、該切り出した樹脂層5と板状部材3とを引張試験機に設置して、一方は樹脂層5を、他方は板状部材3を掴んで、引っ張って測定した。樹脂層5と振動抑制部材7との接着強度についても、同様に測定した。
【0061】
打撃振動試験においては、図6に示すように、吊り下げた試験体41における内面側の振動抑制部材7又は樹脂5、あるいは板状部材内面側のエッジ付近の測定点に加速度センサー(小野測器製:NP-3211)を取り付け、板状部材3の縦壁部3bにおける打撃点をインパクトハンマ(小野測器製:GK-3100)で打撃加振(図6中の-Y方向)し、加振力と試験体41に発生した加速度(図6中のY方向成分)をFFTアナライザ(小野測器製:CF-7200A)に取り込み、周波数応答関数を算出した。ここで、周波数応答関数は、5回の打撃による平均化処理とカーブフィットにより算出した。
そして、算出した周波数応答関数により振動モード解析を行い、マッチ箱振動モードにおける固有振動数(Hz)とイナータンス((m/s2)/N)を求め、制振性を評価した。
【0062】
一方、透過音測定試験においては、平板形状の板状部材に樹脂層として樹脂を塗布するとともに樹脂層の板状部材とは反対側に振動抑制部材を設けた試験体又は平板形状の板状部材に樹脂のみを塗布した試験体を用い、隣り合った音源室と受音室との間の開口部に試験体を取り付けた。次に、音源室のスピーカーから人が感知しやすい音を発生(本実施例では周波数:300Hz)させ、音源室における音圧レベルと受音室における音圧レベルとをそれぞれ測定した。そして、これらの測定した音圧レベルの差から音響透過損失(dB)を求め、透過音抑制を評価した。
【0063】
表1に、発明例と比較例に係る試験体の構造と、打撃振動試験及び透過音測定試験により得られた制振性(振動減衰及び固有振動数)及び透過音抑制に関する結果をまとめて示す。
【0064】
【表1】
【0065】
比較例1~比較例3は、板状部材のみの試験体において板状部材の材料強度TS(引張強度)を変更したものである。板状部材の材料強度TSによらず、固有振動数は155Hz、イナータンスは100(m/s2)/N、音響透過損失は20dBであった。
【0066】
比較例4は、樹脂層5と板状部材3及び振動抑制部材7との接着強度がいずれも9.1MPであって本発明の範囲外の試験体41を用いたものである。固有振動数は280MHz、イナータンスは35(m/s2)/N、音響透過損失は22dBであり、比較例1~比較例3と比べると、制振性と透過音抑制はいくらか向上した。
【0067】
比較例5は、樹脂層5と板状部材3との接着強度は本発明の範囲内の12.1MPaであるものの、樹脂層5と振動抑制部材7とが本発明の範囲外であって接着されていない試験体41を用いたものである。固有振動数は165Hz、イナータンスは45(m/s2)/N、音響透過損失は23dBであり、比較例1~比較例3と比べ制振性と透過音抑制は向上したものの、比較例4に比べてわずかであった。
【0068】
比較例6は、厚み15mm以上である18mmの樹脂層5を、板状部材3の内面に11.9MPaで接着し振動抑制部材7がない試験体である。固有振動数は438MHz、イナータンスは12(m/s2)/N、音響透過損失は40dBであり、厚み18mmの樹脂層5を用いているので、比較例1~5と比べ制振性と透過音抑制は向上したが、試験体重量は比較例1~5の2倍近くの4.39kgfと極めて重くなった。
【0069】
発明例1~発明例3は、樹脂層5の樹脂にエポキシを用い、樹脂層5の厚みがそれぞれ3mm、1mm及び8mm、接着強度が本発明の範囲内(10MPa以上)の試験体41を用いたものである。固有振動数は330Hz~450Hz、イナータンスは10~25(m/s2)/N、音響透過損失は30~40dBであり、比較例1~比較例3と比べて制振性と透過音抑制が大幅に向上した。さらに、樹脂層5の接着強度が小さい比較例4と比べても、制振性と透過音抑制が大幅に向上する結果となった。
また、発明例1~発明例3を比較すると、樹脂層5の厚みが増すにつれて制振性及び透過音抑制が向上する結果となった。
【0070】
発明例3と比較例6を比べると、振動抑制部材7を設けて樹脂層5の厚みを比較例6の半減以下とした発明例3と、厚みのある樹脂層5のみを設けた比較例6とでは、同等の制振性及び透過音抑制を有するが、発明例3の試験体重量(3.45kgf)は、比較例6(4.39kgf)よりも21%軽量化できた。
【0071】
発明例4及び発明例5は、樹脂層5の樹脂にウレタンを用い、樹脂層5の厚みを0.1mm及び2mmとした試験体41を用いたものである。
【0072】
発明例4において、固有振動数は300Hz、イナータンスは30(m/s2)/N、音響透過損失は25dBであり、樹脂層5の厚みが0.1mmであっても、比較例1~比較例5と比べて制振性と透過音抑制が向上した。
【0073】
発明例5において、固有振動数は345Hz、イナータンスは15(m/s2)/N、音響透過損失は33dBであり、比較例1~比較例5と比べると制振性と透過音抑制が向上した。さらに、発明例1及び2と比較すると、振動抑制部材7の板厚が薄い(0.3mm)ものの、樹脂層5の厚みが厚いため(2mm)、制振性及び透過音抑制ともに良好であった。
【符号の説明】
【0074】
1 自動車用部品
3 板状部材
3a パネル面部
3b 縦壁部
3c 平面部
5 樹脂層
7 振動抑制部材
11 本発明モデル
13 板状部材
15 樹脂層
17 振動抑制部材
21 従来モデル
31 比較モデル
41 試験体
図1
図2
図3
図4
図5
図6