IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ・デュポン株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社サンラインの特許一覧

特開2022-132768撥水性繊維及び撥水性繊維構造物並びにその製造方法
<>
  • 特開-撥水性繊維及び撥水性繊維構造物並びにその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132768
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】撥水性繊維及び撥水性繊維構造物並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20220906BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20220906BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M10/02 C
D06M10/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031402
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591051966
【氏名又は名称】株式会社サンライン
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】川口 昭次
(72)【発明者】
【氏名】古屋敷 将
(72)【発明者】
【氏名】水津 啓太
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA12
4L031AA18
4L031AA21
4L031AB01
4L031CB05
4L031CB07
4L033AA06
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC03
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】高放射線下においても長期間使用可能な、撥水性、耐放射線性に優れる撥水性繊維及び撥水性繊維構造物、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】プラズマ処理もしくは電子線照射処理が施された全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維及び全芳香族ポリエステル繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維もしくは当該繊維からなる繊維構造物に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンが付着されてなる撥水性繊維及び撥水性繊維構造物、並びに、前記繊維もしくは前記繊維からなる繊維構造物に、プラズマ処理もしくは電子線照射処理を施す第1の工程と、前記処理を施した繊維もしくは繊維構造物の表面に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンを付与する第2の工程と、を有する撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理もしくは電子線照射処理を施した、全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維及び全芳香族ポリエステル繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維もしくは当該繊維からなる繊維構造物に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンが付着されてなることを特徴とする撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
【請求項2】
フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンのフェニル基含有量が、10モル%以上50モル%以下である、請求項1に記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
【請求項3】
フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンの付着量が、繊維もしくは繊維構造物の重量に対して1重量%以上15重量%以下である、請求項1または2に記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
【請求項4】
式(I)で求められる撥水性変化率が100%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
撥水性変化率(%)=[θ2/θ1]×100・・・(I)
θ1:繊維もしくは繊維構造物の放射線照射前の接触角
θ2:繊維もしくは繊維構造物の放射線照射後の接触角
【請求項5】
繊維が全芳香族ポリアミド繊維である、請求項1~4のいずれかに記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物を用いた耐放射性材料。
【請求項7】
全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維及び全芳香族ポリエステル繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維もしくは当該繊維からなる繊維構造物に、プラズマ処理もしくは電子線照射処理を施す第1の工程と、
前記処理を施した繊維もしくは繊維構造物の表面に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンを付与する第2の工程と、を有する撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、原子力発電所、使用済核燃料再処理設備、陽子加速器等の原子力関連施設、放射線治療を行う医療現場、その他工業用・医療用放射線検査機等の放射線環境下において用いることができる撥水性繊維及び撥水性繊維構造物並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力福島第一原子力発電所は2011年3月に発生した大津波の直後に核燃料が融け落ちるという、いわゆるメルトダウンが発生し、対策が進められている。廃炉に当たっては融け落ちた核燃料を原子炉格納容器から取出す必要があり、鋭意取出し方法の検討が進められている。原子炉建屋から核燃料や燃料デブリを取出す作業は、高い放射線の環境下で行われ、更に燃料デブリは原子炉格納容器の底部にあり冷却水で覆われているため、取出しに供する機器類は耐放射線性、及び、耐水性に優れる材料を選定して構成する必要がある。
【0003】
特に、デブリ取出し作業を行うロボットの材料は耐放射線性に優れる金属材料が主として用いられるが、柔軟さや軽量化の観点から有機繊維を用いることもある。有機繊維としては、天然繊維(例えば、綿、麻など)、合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール繊維など)が一般的である。しかしながら、これらの天然繊維や合成繊維は高放射線下での耐放射線性に乏しいことが知られている。耐放射線性に優れる有機繊維としては、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維が挙げられる。これらの有機繊維は、いわゆる全芳香族系高強度繊維と言われ、その他の有機繊維の数倍以上の耐放射線性を持つ。
【0004】
しかしながら、これらの繊維の表面には撥水性が付与されておらず、放射性物質を含む水中でのデブリ取出し作業の間に、繊維表面もしくは繊維で作成されたコードや布帛の表面に放射性物質が付着してしまうことが予想できる。デブリ取出し作業用ロボットは原子炉格納容器内で水洗い等により十分に除染した後に炉外に取り出す必要があるが、繊維表面に付着した放射性物質を完全に除去することは困難である。従って、繊維表面の撥水性は、放射性物質除去の観点から大変重要である。
【0005】
特許文献1には、有機繊維であるポリエステル繊維、ポリアミド繊維及びセルロース繊維を含む繊維構造物を撥水剤含有処理液が入った処理浴中に浸漬させ、当該撥水剤を吸尽させて撥水加工を行う方法が提案されている。しかしながら、これらの有機繊維は、耐放射線性に劣ることが知られている。また撥水剤として、ポリジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーンが提案されているが、これらの撥水剤のほとんどが耐放射線性に劣ることが公知であり、高放射線環境下での使用には適さない。また、フッ素系化合物は撥水性に優れるものの、ハロゲンによるステンレス等の金属材料の応力腐食を引き起こす懸念があるため、原子力発電所内での使用には適さない。
【0006】
特許文献2には、無水珪酸アルミニウム及び/またはアルミノ珪酸ナトリウムを表面に付着せしめたパラ型全芳香族ポリアミド繊維をプラズマ処理し、接着性の向上を図った製造方法が提案されている。しかしながら、撥水性の付与については一切言及されておらず、その効果も期待できない。
【0007】
特許文献3も同様の技術が提案されている。すなわち、油剤を含有しない高強力繊維を、必要に応じて開繊して平板上のフィラメント束を形成し、該平板上のフィラメント束を3~30m/分で走行させながら、その表面に、不活性ガス下における大気圧プラズマ処理を周波数3~26Hzの条件で行うことを特徴とする表面親水化高強力繊維の製造方法が提案されている。しかしながら、撥水性の改善については全く言及されておらず、その効果も期待できない。
【0008】
特許文献4には、剥離用シリコーン組成物であるフェニルメチルシリコーンについて、その製造方法が記されている。しかしながら、耐放射線性やそれを付与した繊維については何ら触れられていない。
【0009】
非特許文献1には、電子線照射によりフッ素系ポリマーをポリエステル平織布帛にグラフトすることで、耐久性の高い撥水性を有するPET繊維の調整が提案されている。しかしながら、特許文献1と同様に、耐放射線性に劣るため、高放射線下での使用には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4667935号公報
【特許文献2】特開2006-37297号公報
【特許文献3】特開2011-58117号公報
【特許文献4】特開昭57-207646号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】繊維学会誌(繊維と工業)、Vol.64、No.8(2008)、電子線照射技術による繊維加工
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、東京電力福島第一原子力発電所の原子炉格納容器からのデブリ取出しに際して、必要となるロボットの部材として用いることができる、高放射線下においても長期間使用可能な、撥水性、耐放射線性に優れる撥水性繊維及び撥水性繊維構造物、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、耐放射線性に優れる有機繊維、例えば、全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維及び全芳香族ポリエステル繊維から選ばれた少なくとも1種類の繊維もしくは当該繊維からなる繊維構造物を、プラズマ処理もしくは電子線照射処理したのち、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンを繊維表面もしくは繊維構造物表面に付与することで、意外にもかかる課題を一挙に解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)プラズマ処理もしくは電子線照射処理を施した、全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維及び全芳香族ポリエステル繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維もしくは当該繊維からなる繊維構造物に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンが付着されてなることを特徴とする撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
(2)フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンのフェニル基含有量が、10モル%以上50モル%以下である、前記(1)に記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
(3)フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンの付着量が、繊維もしくは繊維構造物の重量に対して1重量%以上15重量%以下である、前記(1)または(2)に記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
(4)式(I)で求められる撥水性変化率が100%以上である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
撥水性変化率(%)=[θ2/θ1]×100・・・(I)
θ1:繊維もしくは繊維構造物の放射線照射前の接触角
θ2:繊維もしくは繊維構造物の放射線照射後の接触角
(5)繊維が全芳香族ポリアミド繊維である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物。
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物を用いた耐放射性材料。
(7)全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維及び全芳香族ポリエステル繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維もしくは当該繊維からなる繊維構造物に、プラズマ処理もしくは電子線照射処理を施す第1の工程と、
前記処理を施した繊維もしくは繊維構造物の表面に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンを付与する第2の工程と、を有する撥水性繊維もしくは撥水性繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の撥水性繊維及び撥水性繊維構造物は、高い放射線環境下で、且つ、水中もしくは高湿度の環境下においても劣化しにくく、長期間使用可能で、寿命が長い繊維材料である。特に、原子力発電所の廃炉作業におけるデブリ取出し用ロボットの部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】撥水剤脱落性の評価装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の耐放射線性に優れる撥水性繊維及び撥水性繊維構造物、並びにその製造方法について詳細に説明する。
【0018】
本発明の撥水性繊維及び撥水性繊維構造物は、プラズマ処理もしくは電子線照射処理が施された、高強度繊維もしくは当該繊維からなる高強度繊維構造物に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンが付着されてなることを特徴とする。
【0019】
[高強度繊維]
本発明は、いわゆる、全芳香族系高強度繊維と称される有機繊維を使用する。前記全芳香族系高強度繊維としては、全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維が挙げられ、これらの全芳香族系高強度繊維から選ばれた少なくとも1種の繊維が用いられる。これらの繊維は、引張弾性率が高く、しなやかで、耐熱性が有り、限界酸素指数(LOI)の値が高く燃え難い等の利点に加え、優れた耐放射線性を有している。特に耐放射線性能は、その他の有機繊維と比べて数倍以上にもなる。中でも、強度特性に優れる点から、全芳香族ポリアミド繊維を用いることが好ましい。全芳香族系高強度繊維は、市販品を用いてもよい。
なお、以下において、上記した全芳香族系高強度繊維を、「高強度繊維」と称し、当該繊維からなる全芳香族系高強度繊維構造物を、「高強度繊維構造物」と称する。また、高強度繊維及び高強度繊維構造物を、纏めて「高強度繊維等」と称することがある。
【0020】
全芳香族ポリアミド繊維は、通常置換されていてもよい二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維と称される公知のものであってよい。上記において、「置換されていてもよい二価の芳香族基」とは、同一または異なる1以上の置換基を有していてもよい二価の芳香族基を意味する。
【0021】
全芳香族ポリアミド繊維は、別名アラミド繊維と呼ばれている。アラミド繊維は、パラ系アラミド繊維またはメタ系アラミド繊維に大別できる。
パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標)等)、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」(登録商標)等)等が挙げられる。
メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)、帝人株式会社製、商品名「コーネックス」)等が挙げられる。
中でも、引張強さに優れる点から、パラ系アラミド繊維を用いるのが好ましく、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維がより好ましい。
【0022】
ポリパラベンズビスオキサゾール繊維としては、東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」等、全芳香族ポリエステル繊維としては、株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」等が挙げられる。
【0023】
本発明の高強度繊維は、繊維または当該繊維からなる繊維構造物の形態で用いられる。
高強度繊維の形態としては、フィラメントもしくはフィラメント束、短繊維等が挙げられる。
高強度繊維構造物の形態としては、織物、編物、編状物、ハニカム状物、不織布、コード、ロープ、ネット等が挙げられる。
【0024】
高強度繊維の繊度は、強力の観点からは太いものがよいが、太すぎると繊維構造物への加工性に劣る。経済的な観点より、110dtex以上が好ましく、より好ましくは、110dtex~6400dtex、さらに好ましくは420dtex~3300dtexである。
【0025】
高強度繊維構造物の目付は、50g/m~1000g/mであることが好ましい。アラミド繊維を用いた場合、目付が50g/mであっても、繊維構造物の引張強さを十分に保持することができ、それにより、軽量で強力の高い繊維構造物の作製が可能となるため、特に好適である。また、目付が1000g/m以下であれば、軽量性及び耐屈曲疲労性の点で問題のない繊維構造物を得ることができる。高強度繊維構造物の目付は、引張強さと、軽量性、耐屈曲疲労性とのバランスの観点より、より好ましくは75g/m~700g/m、さらに好ましくは100g/m~500g/mである。
【0026】
[表面処理]
本発明は、撥水剤付与処理を行う前に、高強度繊維等の表面の接着性を改善するため、プラズマ処理もしくは電子線照射処理を行う(第1の工程)。
ここで、本発明の高強度繊維等に、後述する撥水剤を、表面処理することなく塗布することでも、一時的に撥水性を付与することができる。しかしながら、当該方法では撥水剤と繊維表面との接着力が乏しく、繊維表面が擦過されると撥水剤が脱落し、撥水効果が損なわれてしまう。そこで、撥水剤と繊維との接着性改善のため、繊維表面に酸やアルカリを作用させてエッチングする方法が用いられることがあるが、当該方法は、繊維表面だけでなく繊維内部への影響も否定できず、結果として繊維の強力低下が生じることが知られている。
本発明においては、このような強力低下を避けるため、繊維の表層のみに影響を及ぼすプラズマ処理や電子線照射処理を行うことで、高強度繊維等の表面を改質し、撥水剤との接着性を著しく改善することができる。プラズマ処理や電子線照射処理は、処理効率及び繊維の表層に対する処理ムラを減少できる点より、繊維もしくは繊維構造物を搬送しながら行うことが好ましい。
【0027】
プラズマ処理としては、従来公知の処理が採用されればよく、例えば、常圧プラズマ処理(大気圧プラズマ処理)、低圧プラズマ処理(真空プラズマ処理)が挙げられる。また、プラズマ処理に用いるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、常圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。これらの処理方法及び処理装置を適宜選択して使用する。これらの中でも、常圧または大気圧近傍の圧力で行うグロー放電による常圧プラズマ処理が好ましい。大気圧付近で行うことにより、真空設備や真空操作といった大掛かりな設備や煩雑な操作が不要になるという利点がある。常圧または大気圧近傍の圧力とは、1.333×10~10.664×10Paを意味し、圧力調整が容易で、簡単な装置で放電可能な9.331×10~10.397×10Paが好ましい。
【0028】
プラズマ処理の方法としては、ダイレクト方式とリモート方式があるが、本発明におけるプラズマ処理の方法は特に制限されるものではない。
ダイレクト方式とは、平行平板電極間に、連続する繊維もしくは繊維構造物(連続繊維等)を配置して処理する方式である。連続繊維等をプラズマ雰囲気中に直接導入するため一般的に処理効果が高く、表面改質条件も多種にすることができる。
リモート方式とは、電極間で発生させたプラズマを繊維等に噴き付けて処理する方式である。
プラズマ処理により生じる可能性がある繊維等へのダメージを考慮すると、よりダメージの少ないリモート方式が好ましい。
【0029】
プラズマ処理により、繊維等の表面に各種官能基を付与することができる。例えば、窒素プラズマ処理後は処理前に比べ窒素の構成比率が大きくなる。XPS(X-ray photo-electron spectroscopy)分析結果によれば、プラズマ処理した繊維の表面には-C-N、-C-O、-C=O、-CON、-COO等の官能基が形成されているものと推察される。
【0030】
プラズマ処理の周波数は、3kHz~26kHzで行うのが好ましい。周波数が26kHzを超えると、電子やイオンが加速されて高速で繊維表面に衝突することで、表面の化学結合が切断され、繊維の引張強力が低下する恐れがある。一方、周波数が3kHz未満では、電子やイオンの加速が不十分となるため、繊維表面の処理が不十分となる。
【0031】
プラズマ処理のプラズマ照射時間は、0.3秒~8秒が好ましい。より好ましくは0.4秒~6秒、特に好ましくは0.5秒~5秒である。0.3秒以上であれば、繊維表面の処理が不十分となることがなく、撥水剤を強固に接着できるため、撥水剤が脱落する恐れがない。また、8秒以下であれば、プラズマ処理による高強度繊維等の引張強さの低下を防止でき、処理時間とコストが増加するのを防止できるため、経済性を損なう恐れがない。
【0032】
プラズマ処理する際の雰囲気(処理ガス)は、電界を印加することでプラズマを発生するガス、例えば、空気、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよいし、2種以上が混合されて使用されてもよい。中でも、高パワーでプラズマ処理が出来る点や安全面、ガス単体の価格が安いことから窒素を使用することが好ましい。
【0033】
[撥水剤]
本発明では、第1の工程でプラズマ処理もしくは電子線照射処理を施した繊維もしくは繊維構造物の表面に、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンを付与する(第2の工程)ことにより、撥水性もしくは撥水性繊維構造物を製造する。
撥水剤としては、炭化水素系化合物、ポリジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーンなどがあるが、これらの撥水剤は耐放射線性に劣ることが公知であり、高放射線環境下での使用には適さない。例えば、炭化水素系化合物は耐放射線性に問題があるとされている。また、ジメチルシリコーン系化合物も一般に耐放射線性に劣るとされているが、フェニルメチルシリコーンは、他のシリコーンよりも耐放射線性に優れるとされている。また、フッ素系化合物は撥水性に優れるが、原発内ではハロゲンによるステンレス等の金属の応力腐食の懸念から原子力発電所内での使用には適さない。
【0034】
撥水性と耐放射線性の両者を備える化合物を調査したところ、フェニルメチルシリコーンもしくはフェニル変性シリコーンが好ましいことが判明した。フェニルメチルシリコーンは、例えば、化学式(化1)、化学式(化2)で表わされる。フェニル変性シリコーンとしては、例えば、BESIL(登録商標)フェニル変性シリコーン(信越シリコーン株式会社製)等が知られている。本発明ではフェニルメチルシリコーンが好ましい。
【化1】

【化2】
【0035】
フェニルメチルシリコーン及びフェニル変性シリコーンのフェニル基含有量は10モル%以上50モル%以下が好ましく、15モル%以上40モル%以下であればさらに好ましい。より好ましくは、25モル%以上40モル%以下である。フェニル基含有量が上記の範囲内であれば、高放射線環境下でも撥水性が低下する恐れがない。
フェニルメチルシリコーン及びフェニル変性シリコーンは、ストレートオイルもしくは水系エマルジョンの状態で使用することが好ましい。
【0036】
フェニルメチルシリコーン及びフェニル変性シリコーンの付着量は、繊維もしくは繊維構造物の重量の1重量%以上15重量%以下であることが好ましい。1重量%以上であれば、十分な撥水性能を発揮することができる。また、15重量%以下であれば、繊維もしくは繊維構造物から撥水剤が脱落する恐れがない。付着量は、より好ましくは1.5重量%以上13重量%以下、さらに好ましくは2重量%以上12重量%以下である。
【0037】
次に撥水剤を付与する処理であるが、撥水剤を付与する方法は特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド法等が挙げられる。通常、10~40℃程度の室温で付与するが、付着量を調整するために温度等の条件を適宜調整してもよい。
【0038】
本発明は、プラズマ処理または電子線照射処理を施した、アラミド繊維をはじめとする上記高強度繊維そのものに撥水剤処理を行ってもよく、高強度繊維からなる高強度繊維構造物に対して撥水剤処理を行ってもよい。
【0039】
[撥水性繊維及び撥水性繊維構造物]
上記方法により作製された本発明の撥水性繊維及び撥水性繊維構造物は、その撥水性変化率が100%以上であることが好ましい。撥水性変化率とは、放射線照射前後の撥水性繊維または撥水性繊維構造物に純水を滴下したときの、当該繊維もしくは繊維構造物と純水との接触角の変化率である。撥水性変化率は下記式(I)により求めることができる。本発明の撥水性変化率は、より好ましくは103%以上、さらに好ましくは、105%以上である。撥水性変化率が高くなるほど、高放射線環境下での作業後の撥水性向上が得られ、汚染された繊維または繊維構造物からの汚染水除去が容易となる。
撥水性変化率(%)=[θ2/θ1]×100・・・(I)
θ1:繊維もしくは繊維構造物の放射線照射前の接触角
θ2:繊維もしくは繊維構造物の放射線照射後の接触角
【0040】
本発明の撥水性繊維及び撥水性繊維構造物は、優れた撥水性、耐放射線性、さらには、高い強度特性、引張弾性率、耐熱性、難燃性を有することから、様々な形態で、様々な用途として広範な利用が可能であり、中でも特に、原子力発電所の廃炉作業におけるデブリ取出し用ロボットの部材、水嚢等として好適である。
【実施例0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、実施例中に記載の評価方法、測定方法は以下の通りである。
【0042】
(耐放射線性の評価)
耐放射線性の評価については、撥水剤を付与した繊維または繊維構造物に放射線を照射した後、当該繊維または繊維構造物の引張試験を行って、放射線照射前後の引張強力を比較評価した。放射線照射は室温(空気中)にてγ線(Co60)を照射し、累積吸収線量100kGyで照射完了とした。照射後の強力保持率が照射前の70%未満を×、70%以上95%未満は△、そして95%以上を○とランク付けした。
【0043】
(接触角の測定方法)
測定装置には、FIBROsystemAB社(Sweden)製の携帯式接触角計PG-Xを用いた。測定は、サンプルを整列して巻き付けられた糸上に測定装置をセットし、当該糸上に純水を滴下して、整列した糸列と純水との接触角を検出した。なお、接触角は、値が小さいほど親水性の表面であることを示し、値が大きいほど撥水性の表面であることを示す。接触角が80°未満を×、80°以上90°未満を△、そして90°以上を○とランク付けした。
【0044】
(撥水剤脱落性の評価)
撥水剤を付与した繊維を巻き返し機にセットし、一定の張力を掛けた状態で巻き返しを行い、ガイドでのスカム(脱落物)の発生量を測定して撥水剤の脱落性を図1に示す装置を用いて評価する。
紙管に巻かれた原糸をローラーガイド、ローラー1~3と糸を通し、リングガイドにおいて約90度に屈曲され、当該ガイドで糸が擦過され、ガイド上にスカムが堆積する。その後、ローラー4~7を通り、張力装置で250gの張力を掛け、ローラー8を通り、巻き取り機によって50m/minの速度で巻き取られる。ローラー3とリングガイドの間の張力が250gとなるよう張力装置で調節する。
1分間の擦過の後、リングガイドに堆積したスカムの重量を測定して、下記のようにランク付けした。
×:1.5mg以上
△:1.0mg以上 1.5mg未満
○:1.0mg未満
【0045】
(実施例1)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら1秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。当該撥水剤は、フェニル基を35モル%含有するメチルシリコーンであり、ストレートオイルとして販売されている。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0046】
(実施例2)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0047】
(実施例3)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR(登録商標)」)をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら4秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0048】
(実施例4)
繊度1580dtexの全芳香族ポリエステル繊維(株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら1秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0049】
(実施例5)
繊度1580dtexの全芳香族ポリエステル繊維(株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0050】
(実施例6)
繊度1580dtexの全芳香族ポリエステル繊維(株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら4秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0051】
(実施例7)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が1w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0052】
(実施例8)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が20w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0053】
(実施例9)
全芳香族ポリアミド繊維製織物(KEVLAR(登録商標)製平織物、目付220g/m)を30cm角に切り取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。織物をプラズマ処理器に固定し、1秒間プラズマ処理した。
プラズマ処理された織物を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された織物に、上記の撥水剤を、水系エマルジョンの状態で付着量が3w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を織物表面に付着させ、撥水性織物(撥水性繊維構造物)を作製した。
作製した撥水性織物について、耐放射線性(強力保持率)と撥水性(接触角)を評価した。
【0054】
(実施例10)
全芳香族ポリアミド繊維製織物(KEVLAR(登録商標)製平織物、目付220g/m)を30cm角に切り取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。織物をプラズマ処理器に固定し、2秒間プラズマ処理した。
プラズマ処理された織物を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された織物に、上記の撥水剤を、水系エマルジョンの状態で付着量が3w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を織物表面に付着させ、撥水性織物(撥水性繊維構造物)を作製した。
作製した撥水性織物について、耐放射線性(強力保持率)と撥水性(接触角)を評価した
【0055】
(実施例11)
全芳香族ポリアミド繊維製織物(KEVLAR(登録商標)製平織物、目付220g/m)を30cm角に切り取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。織物をプラズマ処理器に固定し、4秒間プラズマ処理した。
プラズマ処理された織物を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理された織物に、上記の撥水剤を、水系エマルジョンの状態で付着量が3w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を織物表面に付着させ、撥水性織物(撥水性繊維構造物)を作製した。
作製した撥水性織物について、耐放射線性(強力保持率)と撥水性(接触角)を評価した
【0056】
(比較例1)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、松本油脂製薬株式会社製のフッ素系樹脂エマルジョン(商品名;MガードPF-11)の15%希釈液を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が3w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0057】
(比較例2)
全芳香族ポリアミド繊維製織物(KEVLAR(登録商標)製平織物、目付220g/m)を30cm角に切り取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。織物をプラズマ処理器に固定し、2秒間プラズマ処理した。
プラズマ処理された織物を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、松本油脂製薬株式会社製のフッ素系樹脂エマルジョン(商品名;MガードPF-11)の15%希釈液を用いた。プラズマ処理された織物に、上記の撥水剤を、付着量が3w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を織物表面に付着させ、撥水性織物(撥水性繊維構造物)を作製した。
作製した撥水性織物について、耐放射線性(強力保持率)と撥水性(接触角)を評価した
【0058】
(比較例3)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、松本油脂製薬株式会社製のシリコーン系樹脂エマルジョン(商品名;MガードNFC-30)20%希釈液を用いた。プラズマ処理された繊維に、上記の撥水剤を、付着量が4w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0059】
(比較例4)
繊度2150dtexのナイロン繊維(東レ株式会社製 商品名「プロミラン」)をリールに1000m巻き取り、プラズマ処理を行った。
プラズマ処理は、大気圧下において、下記の通りプラズマ処理を行った。プラズマを処理するチャンバーは外気と遮蔽し、中には窒素ガスを25L/minずつパージして窒素雰囲気下で処理を行った。巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、繊維を搬送しながら2秒間プラズマ処理した。処理後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。
プラズマ処理された繊維を続いて撥水剤付与を行った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。当該撥水剤は、フェニル基を35モル%含有するメチルシリコーンであり、ストレートオイルとして販売されている。プラズマ処理されたアラミド繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0060】
(比較例5)
繊度1670dtexの全芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))をリールに1000m巻き取り、撥水剤付与を行った。
巻き出し側と巻き取り側のリールにはテンションをかけ、上記の繊維を6m/minの速度にて搬送して、プラズマ処理を行わずに、撥水剤付与を行った。撥水剤付与後の繊維は、幅10cmのリールに巻き取った。撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理をしなかったアラミド繊維に、上記の撥水剤を、付着量が10w/w%となるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を繊維表面に付着させ、撥水性繊維を作製した。
作製した撥水性繊維について、耐放射線性(強力保持率)、撥水性(接触角)、撥水剤脱落性を評価した。
【0061】
(比較例6)
全芳香族ポリアミド繊維製織物(KEVLAR(登録商標)製平織物、目付220g/m)を30cm角に切り取り、プラズマ処理を行わずに、撥水剤付与を行った。
撥水剤としては、ダウ・東レ株式会社製のフェニルメチルシリコーンオイル(商品名;DOWSIL SH710Fluid)を用いた。プラズマ処理をしなかった織物に、上記の撥水剤を、水系エマルジョンの状態で付着量が3w/w%になるよう付与し、熱風乾燥を行って、撥水剤を織物表面に付着させ、撥水性織物(撥水性繊維構造物)を作製した。
作製した撥水性織物について、耐放射線性(強力保持率)と撥水性(接触角)を評価した。
【0062】
実施例、比較例の処理条件と撥水剤付着量を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例、比較例の評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果より、本発明の撥水性繊維及び撥水性繊維構造物は、放射線照射後の強力保持率及び撥水性に優れ、かつ、撥水剤脱落性に優れていることが分かる。中でも、実施例1-3、実施例7は、総合評価が「○」と特に優れていることがわかる。また、撥水剤にフェニルメチルシリコーンを使用することで、フッ素系撥水剤や他のシリコーン系撥水剤を使用したもの(比較例1-3)と比べ、撥水剤脱落性を低く抑えることができる。そのため、放射線環境化でも長期間使用可能である。
さらに、本発明の撥水性繊維及び撥水性繊維構造物は、放射線照射前後の接触角の変化率(撥水性変化率)に優れていることが分かる。これにより、高放射線環境下でも撥水性が低下することがないため、汚染された繊維または繊維構造物からの汚染水除去を容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、高い放射線環境下で、且つ、水中もしくは高湿度の環境下においても劣化しにくく、長期間使用可能で、寿命の長い撥水性繊維及び撥水性繊維構造物を提供することができる。
図1