(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132772
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】吸音部材及び吸音装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
G10K11/16 140
G10K11/16 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031413
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】517182918
【氏名又は名称】ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002815
【氏名又は名称】IPTech弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平良 優大
(72)【発明者】
【氏名】五味 蔵酒
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和希
(72)【発明者】
【氏名】小片 尚志
(72)【発明者】
【氏名】高澤 和希
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA25
5D061BB31
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】 吸音部材が有する貫通孔が液滴により塞がれることを抑制する。
【解決手段】 吸音ユニット10は、複数の貫通孔と溝とを有する穿孔板50と、穿孔板50に存在する複数の貫通孔を介して通気可能な空洞部とを有する。穿孔板50において貫通孔が存在する第1部分の厚さは、穿孔板50において溝が存在する第2部分の厚さよりも厚い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔と溝とを有する穿孔板と、
空洞部であって、前記穿孔板に存在する複数の貫通孔を介して前記空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記空洞部と、
を有し、
前記穿孔板において貫通孔が存在する第1部分の厚さは、前記穿孔板において溝が存在する第2部分の厚さよりも厚い、
吸音部材。
【請求項2】
前記穿孔板が有する溝は第1方向に延在し、
前記第1方向と垂直な第2方向において、前記穿孔板が有する溝が、前記穿孔板が有する複数の貫通孔の間に位置する、
請求項1に記載の吸音部材。
【請求項3】
前記穿孔板は複数の溝を有し、
前記穿孔板が有する複数の溝はそれぞれ前記第1方向に延在し、
前記第2方向において、前記穿孔板が有する複数の溝がそれぞれ、前記穿孔板が有する複数の貫通孔の間に位置する、
請求項2に記載の吸音部材。
【請求項4】
前記穿孔板が有する複数の溝の間隔は1mm以上5mm以下であり、
前記穿孔板が有する複数の溝それぞれの深さは1mm以上4mm以下であり、
前記穿孔板が有する複数の貫通孔それぞれの径は0.3mm以上2mm以下である、
請求項3に記載の吸音部材。
【請求項5】
複数の貫通孔と、貫通孔の周辺に設けられた凸部と、を有する穿孔板と、
空洞部であって、前記穿孔板に存在する複数の貫通孔を介して前記空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記空洞部と、
を有し、
前記穿孔板において貫通孔が存在する第1部分の厚さは、前記穿孔板において凸部が存在する第2部分の厚さよりも薄い、
吸音部材。
【請求項6】
前記穿孔板は、複数の貫通孔の周辺にそれぞれ設けられた複数の凸部を有する、請求項5に記載の吸音部材。
【請求項7】
複数の貫通孔を有する穿孔板であって、表面に複数の凸部が存在する穿孔板と、
空洞部であって、前記穿孔板に存在する複数の貫通孔を介して前記空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記空洞部と、
を有し、
前記穿孔板の表面に存在する複数の凸部の高さは、前記穿孔板が有する貫通孔の径より小さく、
前記穿孔板の表面に存在する複数の凸部の間隔は、前記穿孔板が有する複数の貫通孔の間隔より小さい、
吸音部材。
【請求項8】
前記穿孔板の表面に存在する複数の凸部の高さは、10nm以上10μm以下であり、
前記穿孔板が有する貫通孔の径は、0.1mm以上10mm以下である、
請求項7に記載の吸音部材。
【請求項9】
前記穿孔板の表面に存在する複数の凸部の間隔は、10nm以上10μm以下であり、
前記穿孔板が有する複数の貫通孔の間隔は、1mm以上10mm以下である、
請求項7又は請求項8に記載の吸音部材。
【請求項10】
前記穿孔板が有する貫通孔の表面に複数の凸部が存在する、請求項7から請求項9の何れか1項に記載の吸音部材。
【請求項11】
前記穿孔板の面のうち前記吸音部材の外側に向いた面における貫通孔の径は、前記穿孔板の面のうち前記吸音部材の内側に向いた面における貫通孔の径より大きい、請求項7から請求項10の何れか1項に記載の吸音部材。
【請求項12】
複数の貫通孔を有する穿孔板と、
空洞部であって、前記穿孔板に存在する複数の貫通孔を介して前記空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記空洞部と、
を有し、
前記穿孔板が有する複数の貫通孔の少なくとも何れかの形状は、前記穿孔板の法線方向から見て多角形である、
吸音部材。
【請求項13】
前記穿孔板が有する複数の貫通孔の少なくとも何れかの形状は、前記穿孔板の法線方向から見て三角形である、請求項12に記載の吸音部材。
【請求項14】
前記穿孔板が有する複数の貫通孔の少なくとも何れかの形状は、前記穿孔板の法線方向から見て、点対称でなく且つ線対称でない三角形である、請求項13に記載の吸音部材。
【請求項15】
第1空洞部であって、前記穿孔板の第1領域に存在する複数の貫通孔を介して前記第1空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記第1空洞部と、
第2空洞部であって、前記穿孔板の前記第1領域と隣り合う第2領域に存在する複数の貫通孔を介して前記第2空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記第2空洞部と、
を有する、請求項1から請求項14の何れか1項に記載の吸音部材。
【請求項16】
請求項1から請求項15の何れか1項に記載の吸音部材と、前記吸音部材を加熱するヒーターと、を有する、吸音装置。
【請求項17】
請求項1から請求項15の何れか1項に記載の吸音部材と、前記吸音部材を振動させる振動機と、を有する、吸音装置。
【請求項18】
請求項1から請求項15の何れか1項に記載の吸音部材に加えて、穿孔板に向かって風を吹き付ける送風機と、穿孔板の表面を拭くワイパーと、穿孔板の貫通孔に針を通す機器との少なくとも何れかを有する、吸音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸音により音を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道、高速道路、工事現場などにおいて発生する騒音を抑制することは、重要な社会課題の1つである。特許文献1には、道路や線路上を走行する車両による騒音を抑制するために、吸音材を用いた防音パネルを騒音源の脇に設置することが開示されている。一方、特に低周波数帯の騒音について、より効果的に消音することが求められている。
【0003】
非特許文献1には、180度方向に2度折り返したS字形の導波管を含む吸音構造体が提案されている。この吸音構造体の厚みは、導波管の長さの約1/3倍である。故に、かかる構造によれば、吸音部材の厚みを抑制しつつ低周波数帯の音を効果的に低減させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-115572号公報
【非特許文献1】Wu, F., Xiao, Y., Yu, Di., Zhao, H., Wang, Y., & Wen, J. (2019). Low-frequency sound absorption of hybrid absorber based on micro-perforated panel and coiled-up channels. Applied Physics Letters, 114(15). https://doi.org/10.1063/1.5090355
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の吸音構造体のように、複数の貫通孔を介して通気可能な導波管を用いた吸音部材において、複数の貫通孔の一部又は全部が異物により塞がれた場合、吸音性能が劣化してしまう。例えば、吸音部材を屋外に設置した場合、雨水などの液滴が貫通孔に付着し、吸音部材の吸音性能が劣化してしまう虞がある。
【0006】
本開示の技術は、吸音部材が有する貫通孔が液滴により塞がれることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る吸音部材は、複数の貫通孔と溝とを有する穿孔板と、空洞部であって、前記穿孔板に存在する複数の貫通孔を介して前記空洞部の内部と外部との間で通気可能な前記空洞部と、を有し、前記穿孔板において貫通孔が存在する第1部分の厚さは、前記穿孔板において溝が存在する第2部分の厚さよりも厚い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図10】設計装置による吸音ユニットの設計処理を示す図である。
【
図11】吸音ユニットの変形例の概観を示す斜視図である。
【
図12】吸音ユニットの変形例の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の例について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0010】
(1)吸音ユニットの構成
(1-1)吸音ユニットの基本構成
吸音ユニット10の構成について説明する。吸音ユニット10は、吸音ユニット10に向かって進む音波のエネルギーを他のエネルギーに転換して反射音及び透過音の音圧を低減する吸音効果を有する、特定の吸音構造を備える吸音部材である。
図1は、実施形態に係る吸音ユニットの概観を示す斜視図である。
図2は、実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す断面図である。
【0011】
以下の説明において、「D方向」は、吸音ユニット10の厚み方向である。吸音ユニット10は、主にD方向に進む音波を吸音する。「H方向」は、D方向と垂直な方向であり、吸音ユニット10の高さ方向である。吸音ユニット10は、H方向に延在する空洞(以下「導波管」という。)を複数有し、各導波管は穿孔板と組み合わされることで共振器として機能する。「W方向」は、「D方向」および「H方向」に直交する方向であり、吸音ユニット10の幅方向である。
【0012】
図1に示すように、吸音ユニット10は、導波管11、導波管12、及び導波管13の3つの導波管と、穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aの3つの穿孔板を備える。導波管11、導波管12、及び導波管13は、それぞれ吸音ユニット10の高さ方向(H方向)に延在し、吸音ユニット10の厚み方向(D方向)に積層されている。
図2に示すように、導波管11は、側壁11bと、側壁12bと、閉口端11cとにより構成され、導波管11における閉口端11cと逆の端部には、穿孔板11aが設けられる。導波管12は、側壁12bと、側壁13bと、閉口端12cとにより構成され、導波管12における閉口端12cと逆の端部には、穿孔板12aが設けられる。導波管13は、側壁13bと、側壁14bと、閉口端13cとにより構成され、導波管13における閉口端13cと逆の端部には、穿孔板13aが設けられる。
【0013】
導波管11と導波管12とは側壁12bを介して隣接しており、導波管12と導波管13とは側壁13bを介して隣接している。すなわち、側壁12bと側壁13bは、吸音ユニット10の内部を複数の導波管に分割する。導波管11、導波管12、及び導波管13はそれぞれ、HD断面における輪郭が略台形(言い換えるとI字型)である。
【0014】
穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aは、HD断面における形状が直線状であり、HD断面においてこれらの穿孔板の表面(貫通孔が存在する面)とD方向とがなす角は0度より大きく90度より小さい。したがって、導波管11、導波管12、及び導波管13は、それぞれ穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aから各穿孔板の法線方向と非平行に延在する。
【0015】
なお、吸音ユニット10は、全体が一体となって構成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせることで構成されていてもよい。例えば、導波管と穿孔板とを有する共振器を複数組み合わせることで吸音ユニット10が構成されてもよいし、穿孔板部材と導波管部材とを組み合わせることで吸音ユニット10が構成されてもよい。また、穿孔板と導波管とが一体となって構成されていてもよい。すなわち、吸音ユニット10は、複数の貫通孔を有する穿孔面と、それぞれ穿孔面の異なる領域に接する複数の導波管とを有していればよい。各導波管の内部と外部との間は、穿孔面の当該導波管に接する領域に存在する複数の貫通孔を介して通気可能である。
【0016】
穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aに入射する音波は、それぞれ導波管11、導波管12、及び導波管13の内部に伝達し、閉口端11c、閉口端12c及び閉口端13cで反射する。穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aは、それぞれが音響インピーダンスの整合部材として機能し、導波管11、導波管12、及び導波管13は、互いに共振特性が異なる共振器として機能する。そのため、吸音ユニット10によれば、単一の導波管を有する吸音材と比較して、広い周波数帯域において吸音効果を得ることができる。本実施形態における吸音ユニット10の吸音特性は、例えば、周波数ごとの吸音率、又は音響インピーダンスにより表される。なお、各導波管が吸音する音波の周波数帯域が互いに重ならないように吸音ユニット10が設計されていてもよいし、各導波管が吸音する音波の周波数帯域の一部が重なるように吸音ユニット10が設計されていてもよい。
【0017】
導波管11の長さL11は、閉口端11cの中心から穿孔板11aの中心までの距離で表される。導波管12の長さL12は、閉口端12cの中心から穿孔板12aの中心までの距離で表される。導波管13の長さL13は、閉口端13cの中心から穿孔板13aの中心までの距離で表される。導波管12の長さは導波管11の長さより長く、導波管13の長さは導波管12の長さより長い。このように各導波管の長さを異ならせることで、各導波管の共振特性を異ならせることができる。また、各導波管のD方向の厚みは、当該導波管のH方向の長さよりも短い。このような構成により、導波管のH方向の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット10のD方向の厚みを薄くすることができる。
【0018】
(1-2)穿孔板の構成
(1-2-1)穿孔板の基本構成
穿孔板の構成について説明する。穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aは、それぞれ複数の貫通孔を有する板状部材である。なお、穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aは、別個の部材であってもよいし、1枚の穿孔板部材におけるそれぞれ異なる領域であってもよい。穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aを一体として構成することで、穿孔板の製造工程を簡易にすることができ、製造コストを低減できる。穿孔板は、例えば、樹脂、金属、シリコン、ゴム、ポリマー、及び不織布の少なくとも1つを素材として含み得る。
【0019】
各導波管の共振特性は、当該導波管の形状と、当該導波管に組み合わされる穿孔板の形状パラメータ(以下「孔パラメータ」という)に依存する。孔パラメータには、例えば、以下が含まれる。
・穿孔板の面積(孔が形成される表面の面積)
・穿孔板の厚さ(表面に直交する方向の寸法)
・孔の大きさ(例えば孔が円形である場合の直径)
・穿孔板の表面に占める孔の面積の割合(以下「孔の占有率」という)
・孔の形状
・孔の数
・孔どうしの間隔
【0020】
穿孔板の孔パラメータを変更することで、吸音ユニット10の音響インピーダンスを調整することができる。また、穿孔板は、熱粘性抵抗によってQ値を低くする効果もある。具体的なパラメータ例として、例えば、吸音ユニット10のH方向、D方向及びW方向の長さがそれぞれ8cm~10cmであり、穿孔板の厚さが0.5mm~3mmである場合に、穿孔板に存在する孔の径を0.3mm~2mmに設定する。そして、穿孔板における孔の数などその他のパラメータを適切に設定することで、人の会話に含まれる音の主成分である400Hz~1500Hzの音を効率的に吸音する(音圧を低減する)ことができる。この場合、吸音ユニット10による400Hz以上1500Hz以下の音の平均吸音率は、吸音ユニット10による他の周波数帯(400Hzより低い周波数帯及び1500Hzより高い周波数帯)の音の平均吸音率よりも高くなる。また、導波管の形状及び孔パラメータの少なくとも何れかを調整することで、吸音ユニット10の吸音特性を変化させることができる。例えば、1000Hz以上4000Hz以下の音の平均吸音率が、その他の周波数帯の音の平均吸音率よりも高くなるように、吸音ユニット10を設計することもできる。また例えば、もできるし、200Hz以上2500Hz以下の音を効率的に吸音するように吸音ユニット10を設計することもできる。
【0021】
吸音ユニット10が有する複数の穿孔板の孔パラメータは互いに異なっていてもよい。例えば、穿孔板11aの孔パラメータは導波管11に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔板12aの孔パラメータは導波管12に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔板13aの孔パラメータは導波管13に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。これにより、吸音ユニット10は、広い周波数帯域において高い吸音率を達成できる。ただしこれに限らず、吸音ユニット10が有する複数の穿孔板の孔パラメータは共通であってもよい。これにより、穿孔板の仕様を標準化できるため、穿孔板の製造コストを低減することができる。
【0022】
以下では、穿孔板の構成例を説明する。なお、以下の穿孔板の構成例の説明においては、穿孔板11a、穿孔板12a、及び穿孔板13aが、1枚の穿孔板として構成されているものとする。ただし、以下で説明する構成例における穿孔板が、複数の穿孔板に分かれていてもよい。以下の説明において、「X方向」は穿孔板の横方向であり、「Y方向」は穿孔板の縦方向であり、「Z方向」は穿孔板の法線方向(すなわち厚み方向)である。
【0023】
(1-2-2)穿孔板の第1構成例
穿孔板の第1構成例について説明する。
図3(a)は、第1構成例の穿孔板50の概観を示す斜視図である。
図3(b)は、
図3(a)に示すAA’断面における穿孔板50の断面図である。穿孔板50を備える吸音ユニットにおいては、穿孔板50の-Z方向側に導波管が配置される。
【0024】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、穿孔板50のZ方向側の表面(外気に接する露出面)は、X方向に沿って凸部と凹部が交互に現れる凹凸形状を有する。言い換えると、穿孔板50のZ方向側の表面には、Y方向に延在する溝52とY方向に延在する山が設けられる。そして、穿孔板50の凸部に複数の貫通孔51が存在する。すなわち、穿孔板50において貫通孔51が存在する部分の厚さは、穿孔板50において溝52が存在する部分の厚さよりも厚い。また、X方向において、穿孔板50が有する複数の溝52がそれぞれ、穿孔板50が有する複数の貫通孔51の間に位置する。
【0025】
このような構成によれば、穿孔板50に液滴(例えば雨の水滴)が付着した場合に、凸部に比べて液体のエネルギー順位が低くなる凹部に液滴が集まりやすくなり、液滴は溝52に沿って流れ落ちる。その結果、穿孔板50に付着した液滴が貫通孔51を塞ぐ可能性が低くなり、貫通孔51が塞がれることによる吸音ユニットの吸音特性の劣化を抑制することができる。なお、溝52の延在方向が重力方向と垂直にならないように(例えば溝52の延在方向が重力方向と平行になるように)吸音ユニットを配置することで、穿孔板50の表面に付着した液滴がより流れ落ちやすくなる。これにより、貫通孔51が液滴により塞がれることをさらに抑制できる。
【0026】
溝52の角度が鋭角で溝52が深い方が、液滴が貫通孔51にとどまる可能性を低減できるが、それに伴い穿孔板50が厚くなると、吸音ユニットの吸音特性を維持するための音響インピーダンス整合が難しくなる。そこで、求められる吸音特性に応じて穿孔板50の形状を設計することで、吸音特性を高めつつ液滴が貫通孔51を塞ぐことを抑制できる。例えば、複数の溝52の間隔を1mm以上5mm以下とし、複数の溝52それぞれの深さを1mm以上4mm以下とし、複数の貫通孔51それぞれの径を0.3mm以上2mm以下としてもよい。このような構成により、400Hz~1500Hzの音を効率的に吸音しつつ液滴が貫通孔51を塞ぐことを抑制できる。
【0027】
なお、穿孔板50の部分ごとに、溝52の深さ、溝52の間隔、及び貫通孔51の径の少なくとも何れかが異なっていてもよい。例えば、音響インピーダンスを整合させるための複数の貫通孔41の間隔に応じて、複数の溝52の間隔が決まってもよい。また、溝52は特定の方向に延在するものに限らず、溝52が複数の方向に延在していてもよいし、複数の溝52の形状が異なっていてもよいし、溝52が点在していてもよい。穿孔板50の凸部も同様に、複数の方向に延在していてもよいし、点在していてもよい。また、貫通孔51は凸部の中心に位置するものに限らず、凸部の中心からずれた位置に貫通孔51が存在していてもよいし、溝52に位置する貫通孔51が存在していてもよい。
【0028】
(1-2-3)穿孔板の第2構成例
穿孔板の第2構成例について説明する。
図4(a)は、第2構成例の穿孔板60の一部を示す拡大図である。
図4(b)は、
図4(a)に示すBB’断面における穿孔板60の断面図である。穿孔板60を備える吸音ユニットにおいては、穿孔板60の-Z方向側に導波管が配置される。
【0029】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、穿孔板60のZ方向側の表面(外気に接する露出面)は、貫通孔61の周辺に設けられた凸部62を有する。穿孔板60において貫通孔61が存在する部分の厚さは、穿孔板60において凸部62が存在する部分の厚さよりも薄い。凸部62は、貫通孔61をY方向から覆うように設けられる。
【0030】
このような構成によれば、穿孔板60に液滴が付着した場合に、穿孔板60の表面上で貫通孔61に向かって-Y方向に流れる液滴は凸部62にぶつかり、貫通孔61を避けて流れ落ちる。その結果、穿孔板60に付着した液滴が貫通孔61を塞ぐ可能性が低くなり、貫通孔61が塞がれることによる吸音ユニットの吸音特性の劣化を抑制することができる。なお、貫通孔61よりも高い位置(貫通孔51から鉛直上方向に離れた位置)に凸部62が位置するように吸音ユニットを配置することで、穿孔板60の表面上を重力に従って流れ落ちる液滴が貫通孔61に向かいにくくなる。これにより、貫通孔61が液滴によりふさがれることをさらに抑制できる。ただし、貫通孔61と凸部62の位置関係は上記の例に限定されない。例えば、貫通孔61と凸部62の一部とが同じ高さに位置していてもよいし、貫通孔61と凸部62の一部とが接していてもよい。
【0031】
穿孔板60において、複数の凸部62が複数の貫通孔61の周辺にそれぞれ設けられる。ただし、周辺に凸部62が存在しない貫通孔61が存在していてもよい。また、1つの凸部62が複数の貫通孔61を覆っていてもよい。凸部62の形状は
図4(a)に示す例に限られない。例えば、凸部62は貫通孔61の周囲を囲っていてもよい。また、穿孔板60は形状の異なる複数の凸部62を有していてもよい。
(1-2-4)穿孔板の第3構成例
穿孔板の第3構成例について説明する。
図5(a)は、第3構成例の穿孔板70の一部を示す拡大図である。
図5(b)は、
図5(a)に示すCC’断面における穿孔板70の断面図である。穿孔板70を備える吸音ユニットにおいては、穿孔板70の-Z方向側に導波管が配置される。
【0032】
図5(a)及び
図5(b)に示すように、穿孔板70のZ方向側の表面(外気に接する露出面)は、複数の微小な凸部72を有する。凸部72の高さは穿孔板70が有する貫通孔71の径より小さく、複数の凸部72の間隔は穿孔板70が有する複数の貫通孔71の間隔より小さい。例えば、凸部72の高さは10nm以上10μm以下であり、貫通孔71の径は0.1mm以上10mm以下である。また例えば、複数の凸部72の間隔は10nm以上10μm以下であり、複数の貫通孔71の間隔は1mm以上10mm以下である。
【0033】
このような構成によれば、穿孔板70の表面の撥水性が向上され、穿孔板70に液滴73が接触する際の接触角が大きくなる。この現象は超撥水とも呼ばれる。穿孔板70の表面の撥水性が向上することで、穿孔板70に接触した液滴73は穿孔板70に付着せずに滑り落ちる。その結果、穿孔板70に付着した液滴が貫通孔71を塞ぐ可能性が低くなり、貫通孔71が塞がれることによる吸音ユニットの吸音特性の劣化を抑制することができる。
【0034】
なお、
図5(b)の例では、穿孔板70におけるXY平面に平行な表面だけでなく、貫通孔71の表面(
図5(b)において斜めになっている側面部分)にも複数の微小な凸部72を設けることで、水滴が貫通孔71の表面に付着する可能性を低減し、貫通孔71が液滴によりふさがれることを抑制している。ただしこれに限らず、穿孔板70におけるXY平面に平行な表面にのみ複数の微小な凸部72を設けてもよい。この構成によれば、穿孔板70に凸部72を形成するための加工処理を簡略化することできるまた、
図5(b)に示すように、穿孔板70のZ方向側の面(吸音ユニットの外側に向いた面)における貫通孔71の径は、穿孔板70の-Z方向側の面(吸音ユニットの内側に向いた面)における貫通孔71の径より大きい。これにより、例えば穿孔板70のY方向が鉛直方向となるように吸音ユニットが設置された場合に、貫通孔71付近に接触した液滴が外側に滑り落ちやすくなり、貫通孔71が液滴により塞がれることをさらに抑制できる。
【0035】
なお、凸部72の大きさ、間隔、及び形状は上述した例に限定されず、穿孔板70の領域ごとに凸部72の大きさ、間隔、及び形状の少なくとも何れかが異なっていてもよい。また、貫通孔71の形状も上述した例に限定されず、例えば穿孔板70のZ方向側の面における貫通孔71の径と穿孔板70の-Z方向側の面における貫通孔71の径とが同一であってもよい。また、貫通孔71の表面に凸部72が存在しなくてもよいし、穿孔板70の表面に凸部72が存在しない領域があってもよい。また、穿孔板70の凸部72が存在する位置と同じ位置に、撥水コーティングが施されてもよい。
(1-2-5)穿孔板の第4構成例
穿孔板の第4構成例について説明する。
図6(a)は、第4構成例の穿孔板80の概観を示す斜視図である。
図6(b)は、穿孔板80の一部を示す拡大図である。穿孔板80を備える吸音ユニットにおいては、穿孔板80の-Z方向側に導波管が配置される。
【0036】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、穿孔板80が有する複数の貫通孔81の形状は、Z方向(穿孔板80の法線方向)からみて三角形である。このような構成によれば、貫通孔81の形状が円形である場合と比較して、穿孔板80の貫通孔81付近に付着した液滴が貫通孔81を塞いだ状態でとどまる可能性が低くなる。これにより、貫通孔81が塞がれることによる吸音ユニットの吸音特性の劣化を抑制することができる。仮に貫通孔81が円形である場合、貫通孔81に付着した液滴に対して同心円状に均等に張力がかかるため、液滴が貫通孔81を塞いだ状態でとどまりやすい。一方、貫通孔81が多角形である場合、貫通孔81に付着した液滴には各頂点に向かって張力がかかるため、張力のつり合いが保たれづらく、液滴が貫通孔81の外側に向けて流れやすくなる。その結果、貫通孔81が液滴により塞がれた状態が解消される。
【0037】
なお、
図6(b)に示すように、貫通孔81の形状を、Z方向から見て点対称でなく且つ線対称でない形状とすることで、貫通孔81に付着した液滴にかかる張力のつり合いがより保たれづらくなり、液滴が貫通孔81を塞いだ状態でとどまる可能性がより低くなる。ただし、貫通孔81の形状はこの例に限定されず、Z方向から見て二等辺三角形や正三角形であってもよい。また、貫通孔81の形状は、Z方向から見て三角形以外の多角形であってもよい。さらに、穿孔板80の部分ごとに貫通孔81の形状が異なっていてもよい。一方、穿孔板80が有する複数の貫通孔81の形状を同一にすることで、穿孔板80の設計及び製造が容易になる。
【0038】
以上で穿孔板の構成例の説明を終わる。ただし、吸音ユニットが備える穿孔板の構成は上記の例に限定されない。また、上述した複数の構成例を組み合わせることで穿孔板を構成してもよい。
【0039】
(2)吸音ユニットの使用方法
吸音ユニットの使用方法について説明する。
図7は、実施形態に係る吸音ユニットの機能を説明する図である。
図8は、実施形態に係る吸音ユニットの使用方法を示す図である。
【0040】
図7に示すように、吸音ユニット10は、吸音すべき音を発する騒音源NSに対してD方向に離れた位置に設置される。吸音ユニット10に含まれる各導波管は、騒音源NSからD方向に進行する音波のうち、当該導波管の形状(例えば長さ)と穿孔板の孔パラメータとに応じた周波数の成分を吸収する。これにより、騒音源NSから吸音ユニット10よりもD方向側の位置に到達する音波の音圧は、吸音ユニット10が設置されていない場合と比較して、大きく低減される。
【0041】
図8に示すように、複数の吸音ユニット10を組み合わせて設置することで、騒音源NSから発される音の音圧をより低減することができる。複数の吸音ユニット10は、騒音源NSから人間HMaがいる方向へ進行する音波を遮る吸音壁1を構成するように、組み合わせて設置される。吸音壁1は遮音効果を有するため、吸音壁1を設置することにより、騒音源NSから発された音波の音圧は吸音壁1を通過する際に大きく低減され、騒音源NSから見て吸音壁1より奥に居る人間HMaが感じる騒音を小さくすることができる。
【0042】
また、吸音壁1は吸音効果を有するため、吸音壁1を設置することにより、従来の部材で構成された壁(例えばコンクリート壁)を同じ位置に設置した場合と比較して、壁で反射した音の大きさが小さくなる。そのため、騒音源NSから発された音波の音圧は、吸音壁1で反射される際に大きく低減され、騒音源NSに対して吸音壁1とは反対側にいる人間HMbが感じる騒音を小さくすることができる。また、吸音壁1を設置した場合、従来の部材で構成された壁を同じ位置に設置した場合と比較して、回折により壁の奥に回り込む音の大きさも小さくなる。この効果により、壁の奥にいる人間HMaが感じる騒音をより小さくすることができる。
【0043】
(3)吸音ユニットの設計方法
(3-1)設計装置の構成
吸音ユニット10を設計するための処理を実行する設計装置の構成について説明する。
図9は、設計装置の構成例を示す図である。
図9に示すように、設計装置210は、記憶装置211と、プロセッサ212と、入出力インタフェース213と、通信インタフェース214とを備える。
【0044】
記憶装置211は、プログラム及びデータを記憶するように構成される。記憶装置211は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、ストレージ(例えば、フラッシュメモリ又はハードディスク)の組合せである。プログラムは、例えば、OS(Operating System)のプログラムと、情報処理を実行するアプリケーション(例えば、ウェブブラウザ)のプログラムを含む。データは、例えば、情報処理において参照されるデータ及びデータベースと、情報処理を実行することによって得られるデータ(つまり、情報処理の実行結果)を含む。記憶装置211により記憶されるプログラム及びデータは、ネットワークを介して提供されてもよいし、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して提供されてもよい。
【0045】
プロセッサ212は、記憶装置211に記憶されたプログラムを実行してデータを処理することによって、設計装置210の機能を実現する。なお、設計装置210の機能の少なくとも一部が、専用のハードウェア(例えばASIC(application specific integrated circuit)又はFPGA(field-programmable gate array))により実現されてもよい。
【0046】
入出力インタフェース213は、設計装置210に接続される入力デバイスに対するユーザ操作に応じた入力を受け付ける機能と、設計装置210に接続される出力デバイスに情報を出力する機能を有する。入力デバイスは、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、又は、それらの組合せである。出力デバイスは、例えば、画像を表示するディスプレイ又は音声を出力するスピーカである。通信インタフェース214は、設計装置210と外部装置(例えばサーバ)との間の通信を制御する。
【0047】
(3-2)設計処理
吸音ユニット10を設計するための処理について説明する。
図10は、設計装置による吸音ユニットの設計処理を示す図である。
【0048】
図15に示す処理は、設計装置210のプロセッサ212が記憶装置211に記憶されたプログラムを実行することで実現される。ただし、
図15に示す処理の少なくとも一部が専用のハードウェアにより実現されてもよい。
図15に示す処理は、吸音ユニット10の設計を開始するためのユーザによる指示が設計装置210に入力されたことに応じて開始される。ただし、
図15に示す処理の開始条件はこれに限定されない。
【0049】
S100において、設計装置210は、吸音ユニット10の設計パラメータとして設定可能な固定値を取得する。例えば、プロセッサ212は、ユーザの入力を受け付けることで、もしくは固定値が格納されたファイルを読み込むことで、固定値を取得する。吸音ユニット10の設計パラメータは、例えば以下の少なくとも1つを含む。
・吸音ユニット10のサイズ(H方向、D方向、及びW方向の寸法)
・導波管の数
・導波管の長さ(H方向の寸法)
・導波管の厚み(D方向の寸法)
・導波管の形状
・吸音ユニット10に含まれる側壁の形状
・穿孔板の孔パラメータ
・穿孔板の表面形状
【0050】
一例として、以降の説明では、S100において吸音ユニットのD方向及びW方向の寸法、導波管の数、及び側壁の形状が固定値として取得されるものとする。そして、穿孔板の孔パラメータ、導波管のサイズ、及び導波管の形状が変数として扱われるものとする。
【0051】
S101において、設計装置210は、変数として扱われる設計パラメータの定義域(変数のとり得る範囲)を取得する。例えば、プロセッサ212は、ユーザの入力を受け付けることで、もしくは変数の定義域が格納されたファイルを読み込むことで、変数の定義域を取得する。
【0052】
S102において、設計装置210は、吸音ユニット10の解析モデルを構築する。具体的には、プロセッサ212は、S100で取得した固定値と、S101で取得した定義域から選択された変数の値とを、吸音ユニット10の解析モデルの設計パラメータとして用いる。
【0053】
S103において、設計装置210は、解析モデルの吸音特性を評価する。具体的には、プロセッサ212は、S102において構築した解析モデルを用いた音響シミュレーションにより吸音特性を解析することで、解析モデルの吸音特性の評価値を取得する。例えば、設計装置210は、複数の周波数帯それぞれにおける平均吸音率または平均反射率を取得する。なお、吸音特性の評価方法はこれに限定されない。例えば、設計装置210は、複数の周波数帯それぞれにおける平均透過率を取得してもよい。
【0054】
S104において、設計装置210は、探索状態の判定を実行する。具体的には、プロセッサ212は、各変数について、S101において取得した定義域が探索済みであるか(つまり、定義域から選択可能な全ての数値を用いた解析モデルの構築および吸音特性の評価が終了したか)否かを判定する。
【0055】
S104において探索終了と判定されなかった場合、S102に戻り、設計装置210は、S101で取得した定義域から新たな変数の値を選択し、解析モデルの構築と吸音特性の評価を再度実行する。一方、S104において探索終了と判定された場合、S105へ進む。
【0056】
S105において設計装置210は、変数の最適値を抽出する。具体的には、プロセッサ212は、繰り返し実行されたS103における吸音特性の評価において最も高い評価値を示した解析モデルに対応する設計パラメータの数値を、最適値として抽出する。例えば、400Hz~1000Hzが吸音対象の周波数帯として指定されている場合、400Hz~1000Hzの平均吸音率が最も高い解析モデルの設計パラメータの数値が最適値として抽出される。こうして抽出された最適値を用いて吸音ユニット10を設計することで、400Hz~1000Hzにおける吸音特性が優れた吸音ユニット10を製造することができる。吸音対象の周波数帯は、ユーザ入力に応じて指定されてもよい。
【0057】
S105の後に、
図15の処理フローは終了する。なお、
図15の処理フローにおいて、S100とS101の処理は逆の順序で行われてもよいし、並行して行われてもよい。また、設計装置210は、S105における変数の最適値の抽出に代えて、もしくはS105の処理に加えて、解析モデルの評価結果を示す情報の出力を行ってもよい。例えば、設計装置210は、S102で構築した複数の解析モデルそれぞれの吸音特性を示す情報を出力してもよいし、S105で抽出された最適値に対応する解析モデルの吸音特性を示す情報を出力してもよい。設計装置210により出力される情報は、吸音特性を示す数値であってもよいし、表示装置へ出力される画像であってもよい。
【0058】
(4)変形例
(4-1)吸音ユニットの構成の変形例
吸音ユニットの構成の変形例について説明する。上述した本実施形態の説明における吸音ユニット10は、以下で説明する変形例の吸音ユニットに置き換えることができる。
図11は、吸音ユニットの変形例の概観を示す斜視図である。
図12は、吸音ユニットの変形例の構造を示す断面図である。
【0059】
図11に示すように、吸音ユニット20は、導波管21、導波管22、及び導波管23の3つの導波管と、穿孔板21a、穿孔板22a、及び穿孔板23aの3つの穿孔板を備える。導波管21、導波管22、及び導波管23は、幅方向(W方向)及び厚み方向(D方向)に積層されている。
図12に示すように、導波管21は、側壁21bと、側壁27bと、閉口端21cとにより構成され、導波管21における閉口端21cと逆の端部には、穿孔板21aが設けられる。導波管22は、側壁21bと、側壁22bと、側壁24bと、側壁25bと、閉口端22cとにより構成され、導波管22における閉口端22cと逆の端部には、穿孔板22aが設けられる。導波管23は、側壁22bと、側壁23bと、側壁25bと、側壁26bと、閉口端23cとにより構成され、導波管23における閉口端23cと逆の端部には、穿孔板23aが設けられる。
【0060】
導波管21と導波管22とは側壁21b及び側壁24bを介して隣接しており、導波管22と導波管23とは側壁22b及び側壁25bを介して隣接している。すなわち、側壁21b、側壁22b、側壁24b、及び側壁25bは、吸音ユニット20の内部を複数の導波管に分割する。導波管21は、HD断面における輪郭が略矩形(言い換えるとI字型)である。導波管22と導波管23はそれぞれ、HD断面における輪郭が1回屈曲した形(言い換えるとL字型)である。
【0061】
穿孔板21a、穿孔板22a、及び穿孔板23aは、HW平面と略平行に配置される。導波管21は、穿孔板21aから穿孔板の法線方向(D方向)と略平行に延在する。導波管22は、穿孔板22aからD方向と略平行に延在する部分と、D方向と略垂直に延在する部分を有する。導波管23は、穿孔板23aからD方向と略平行に延在する部分と、D方向と略垂直に延在する部分を有する。
【0062】
穿孔板21a、穿孔板22a、及び穿孔板23aに入射する音波は、それぞれ導波管21、導波管22、及び導波管23の内部に伝達し、閉口端21c、閉口端22c及び閉口端23cで反射する。穿孔板21a、穿孔板22a、及び穿孔板23aは、それぞれが音響インピーダンスの整合部材として機能し、導波管21、導波管22、及び導波管23は、互いに共振特性が異なる共振器として機能する。そのため、吸音ユニット20によれば、単一の導波管を有する吸音材と比較して、広い周波数帯域において吸音効果を得ることができる。なお、各導波管が吸音する音波の周波数帯域が互いに重ならないように吸音ユニット20が設計されていてもよいし、各導波管が吸音する音波の周波数帯域の一部が重なるように吸音ユニット20が設計されていてもよい。
【0063】
導波管21の長さは、閉口端21cの中心から穿孔板21aの中心までの距離L21で表される。導波管12の長さは、穿孔板22aの中心から導波管22が屈曲する部分の中心までの距離L22aと、閉口端22cの中心から導波管22が屈曲する部分の中心までの距離L22bとの和で表される。導波管23の長さは、穿孔板23aの中心から導波管23が屈曲する部分の中心までの距離L23aと、閉口端23cの中心から導波管23が屈曲する部分の中心までの距離L23bとの和で表される。導波管22の長さは導波管21の長さより長く、導波管23の長さは導波管22の長さより長い。このように各導波管の長さを異ならせることで、各導波管の共振特性を異ならせることができる。また、導波管22と導波管23が屈曲した形状であることにより、導波管22と導波管23のD方向の厚みは、それぞれ導波管22と導波管23の長さよりも短い。このような構成により、導波管の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット20のD方向の厚みを薄くすることができる。
【0064】
なお、
図11及び
図12に示す例では、吸音ユニット20が、屈曲しない形状の導波管21と、それぞれ90度に1回屈曲した形状の導波管22及び導波管23を有するものとした。ただし、吸音ユニットが有する導波管の形状はこれに限定されない。例えば、吸音ユニットが2回以上屈曲した形状(2か所以上の位置で屈曲した形状)の導波管を有していてもよい。また例えば、吸音ユニットが有する導波管が90度以外の角度(例えば45度など)で屈曲してもよい。また例えば、導波管が曲線状に延在する部分を有していてもよい。
【0065】
上述の説明において、吸音ユニットが互いに長さの異なる3つの導波管を有する例を示した。ただし、吸音ユニットが有する導波管の数はこれに限定されず、例えば吸音ユニットが2つの導波管を有していてもよいし、4つ以上の導波管を有していてもよい。また、吸音ユニットが長さの等しい複数の導波管を有していてもよい。
【0066】
上述の説明において、吸音ユニットの外形が直方体又は角錐台であり、吸音ユニットの1つの面に穿孔面が設けられており、吸音ユニットの内部が側壁により複数の空洞部に分割されている例を示した。ただし、吸音ユニットの形状は他の多面体や球体であってもよい。また、穿孔面は、吸音ユニットの1つの面のうち一部にのみ設けられていてもよいし、吸音ユニットの複数の面に設けられていてもよい。また、吸音ユニットの内部に、空洞以外の構造が含まれていてもよい。
【0067】
(4-2)その他の変形例
【0068】
吸音ユニットに設けられる穿孔板は、着脱可能に構成されてもよい。すなわち、吸音ユニットは、複数の導波管を備える立体部材と、その立体部材に取り付け可能な穿孔板とにより構成されていてもよい。これにより、穿孔板が消耗して吸音ユニットの吸音特性が劣化した場合でも、容易に穿孔板を交換して吸音ユニットの吸音特性を向上させることができる。また、穿孔板を孔パラメータが異なる別の穿孔板に交換することで、吸音ユニットの吸音特性を任意に調整することができる。
【0069】
吸音ユニットに設けられる穿孔板、閉口端、及び側壁の少なくとも何れかは、可動に構成されてもよい。また、穿孔板と導波管の閉口端との間に新たな部材が追加されてもよい。これにより、導波管の延在方向の長さや導波管の形状の調整が容易になり、吸音ユニットの吸音特性を任意に調整することができる。
【0070】
吸音ユニットは、射出成型、押出成形、3Dプリンタによる積層造形、及び切削加工のいずれかの方法もしくはそれらを組み合わせた方法を用いて製造されてもよい。ただし、吸音ユニットの製造方法は上記の例に限定されない。
【0071】
吸音壁は、互いに構造(例えば穿孔板の構造又は導波管の構造)が異なる複数種別の吸音ユニットを組み合わせることで構成されてもよい。複数種別の吸音ユニットを用いて吸音壁を構成することで、吸音壁に多様な吸音特性を持たせることができる。また、本実施形態における吸音ユニットと従来の遮音部材などを組み合わせて吸音壁を構成してもよい。
【0072】
上述の説明における吸音ユニットに、吸音ユニットを加熱するヒーターを組み合わせることで、吸音装置を構成してもよい。ヒーターは、吸音ユニットの全体を加熱してもよいし、穿孔板を含む吸音ユニットの一部を加熱してもよい。吸音装置は、ヒーターにより穿孔板を加熱することで、穿孔板に付着した固体(例えば雪や固まった油)を溶かしたり、穿孔板に付着した液滴(例えば雨の水滴や結露した水滴)を蒸発させたりすることができる。そのため、穿孔板に付着した物体により貫通孔が塞がれて吸音ユニットの吸音特性が劣化した場合でも、付着した物体を容易に除去して吸音ユニットの吸音特性を回復させることができるようになる。吸音装置は、ユーザ操作に応じて、ヒーターのON/OFFとヒーターの温度調整との少なくとも何れかを実行する。ただしこれに限らず、吸音装置は、時刻情報又は所定のセンサから取得したデータに基づいて、ヒーターのON/OFFとヒーターの温度調整との少なくとも何れかを実行してもよい。所定のセンサは、例えば、温度を測定するセンサ、天候を検知するセンサ、又は穿孔板の表面に付着した物体を検知するセンサであってもよい。
【0073】
また、ヒーターに代えて、もしくはヒーターに加えて、吸音ユニットを振動させる振動機を吸音ユニットに組み合わせることで、吸音装置を構成してもよい。振動機は、吸音ユニットの全体を揺らしてもよいし、穿孔板を含む吸音ユニットの一部に振動を与えてもよい。吸音装置は、振動機により穿孔板を振動させることで、穿孔板に付着した固体や液滴を振るい落とすことができる。吸音装置は、ユーザ操作に応じて、もしくは時刻情報や所定のセンサから取得したデータに基づいて、振動機のON/OFFと振動の強度調整との少なくとも何れかを実行してもよい。
【0074】
また、ヒーターや振動機に限らず、穿孔板に向かって風を吹き付ける送風機、穿孔板の表面を拭くワイパー、及び穿孔板の貫通孔に針を通す機器の、少なくとも何れかを吸音ユニットに組み合わせることで、吸音装置を構成してもよい。吸音装置は、これらの機器、ワイパー、又は送風機を作動させることで、穿孔板の貫通孔に付着した物体を容易に除去することができる。吸音装置は、これらの機器、ワイパー、又は送風機を、ユーザ操作、時刻情報、又は所定のセンサから取得したデータに基づいて作動させてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。また、上記の実施形態及び変形例を組合せてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 :吸音壁
10 :吸音ユニット
20 :吸音ユニット
50 :穿孔板
60 :穿孔板
70 :穿孔板
80 :穿孔板
210 :設計装置