(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132832
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】炉壁の形状測定装置及び炉壁の形状測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/245 20060101AFI20220906BHJP
【FI】
G01B11/245 H
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031518
(22)【出願日】2021-03-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】519422393
【氏名又は名称】みどり精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105393
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 直哉
(72)【発明者】
【氏名】大野 二郎
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB05
2F065BB28
2F065CC14
2F065FF01
2F065FF05
2F065FF09
2F065FF42
2F065GG04
2F065HH05
2F065HH13
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ08
2F065JJ26
2F065LL22
2F065LL24
(57)【要約】
【課題】表示用画像と同一の画像を使用し、比較的小さなデータ処理の負荷で測定を実施する炉壁の形状測定装置を提供する。
【解決手段】レーザラインジェネレータと、間隔を空けて配置された2台のカラーカメラと、プロセッサと、を含む表面の温度が700℃-1000℃を含む範囲となり得る炉壁の形状測定装置であって、該プロセッサがそれぞれのカラーカメラの画像データから、各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みを掛けた値を合算した値を各画素の値とするモノクロム画像を生成し、該2台のカラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して該2台のカラーカメラから該炉壁までの距離を求め、該炉壁の形状を求めるように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザラインジェネレータと、間隔を空けて配置された2台のカラーカメラと、プロセッサと、を含む炉壁の形状測定装置であって、該プロセッサがそれぞれのカラーカメラの画像データから、各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みを掛けた値を合算した値を各画素の値とするモノクロム画像を生成し、該2台のカラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して該2台のカラーカメラから該炉壁までの距離を求め、該炉壁の形状を求めるように構成された炉壁の形状測定装置。
【請求項2】
該レーザラインジェネレータ及び該2台のカラーカメラが炉の中心軸付近に該中心軸の周りに回転可能に取り付けられた請求項1に記載の炉壁の形状測定装置。
【請求項3】
該レーザラインジェネレータによって生成されるレーザの波長が緑色の波長範囲である請求項1または2に記載の炉壁の形状測定装置。
【請求項4】
該2台のカラーカメラのそれぞれが減光フィルタと赤外カットフィルタとを備えた請求項1から3のいずれかに記載の炉壁の形状測定装置。
【請求項5】
700℃-1000℃を含む温度範囲となり得る炉壁の形状測定方法であって、
少なくとも1台のレーザラインジェネレータによって該炉壁上にレーザラインを生成するステップと、
間隔を空けて配置した2台のカラーカメラによって該炉壁の画像を取得するステップと、
プロセッサによって、それぞれのカラーカメラの画像データから、各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みを掛けた値を合算した値を各画素の値とするモノクロム画像を生成するステップと、
該プロセッサによって、該2台のカラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して該2台のカラーカメラから該炉壁までの距離を求め、該炉壁の形状を求めるステップと、を含む炉壁の形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉壁の形状測定装置及び炉壁の形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炉の内容物により炉壁が1000℃以上の高温に達する炉においては、高温の内容物によって炉壁が侵食され炉壁の形状が変化する。炉壁の形状が極端に変化すると、炉の破損など重大な事故が生じる恐れがある。したがって、炉壁の形状を高精度で測定することが重要である。
【0003】
高温に達する炉壁の形状測定を目的として、出願人によってレーザを使用する炉壁の形状測定装置及び炉壁の形状測定方法が開発されている(特許文献1)。
【0004】
レーザによる測定方法においては、炉壁上にレーザラインを生成し、レーザの波長のフィルタを備えたモノクロムカメラによって炉壁上のレーザラインのモノクロム画像を取得し、そのモノクロム画像を使用して炉壁の形状が測定される。
【0005】
他方、操作員が炉壁の状態を観察する場合には、モノクロム画像よりも情報量の多いカラー画像が使用される。したがって、レーザラインのモノクロム画像を取得して炉壁の形状を測定する方法においては、炉壁の形状測定に使用される特定の波長のモノクロム画像と操作員の観察用のカラー画像とは異なり、炉壁の形状の測定及び炉壁の表示を実施する際に同一の画像に基づいて一貫した処理を実施することはできない。
【0006】
他方、炉壁の形状測定にカラー画像を使用するとデータ処理量が膨大となり好ましくない。
【0007】
このように、表示用画像と同一の画像を使用し、比較的小さなデータ処理の負荷で測定を実施する炉壁の形状測定装置及び炉壁の形状測定方法は開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、表示用画像と同一の画像を使用し、比較的小さなデータ処理の負荷で測定を実施する炉壁の形状測定装置及び炉壁の形状測定方法に対するニーズがある。本発明の技術的課題は表示用画像と同一の画像を使用し、比較的小さなデータ処理の負荷で測定を実施する炉壁の形状測定装置及び炉壁の形状測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様の炉壁の形状測定装置は、レーザラインジェネレータと、間隔を空けて配置された2台のカラーカメラと、プロセッサと、を含む炉壁の形状測定装置であって、該プロセッサがそれぞれのカラーカメラの画像データから、各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みを掛けた値を合算した値を各画素の値とするモノクロム画像を生成し、該2台のカラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して該2台のカラーカメラから該炉壁までの距離を求め、該炉壁の形状を求めるように構成されている。
【0011】
本態様の炉壁の形状測定装置においては、カラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して、比較的低温の領域においては該炉壁上に該レーザラインジェネレータによって生成されたレーザラインによって該炉壁上の点が識別され、比較的高温の領域においては該炉壁の表面の温度差による明暗のパターンから該炉壁上の点が識別される。
【0012】
本態様によれば、カラーカメラの画像データから生成された画像を使用するので表示用画像と同一の画像を使用して炉壁の形状を測定することができる。また、炉壁の形状測定にはモノクロム画像を使用するのでデータ処理の負荷を抑えることができる。
【0013】
本発明の第1の態様の第1の実施形態の炉壁の形状測定装置において、該レーザラインジェネレータ及び該2台のカラーカメラが炉の中心軸付近に該中心軸の周りに回転可能に取り付けられている。
【0014】
本実施形態によれば、該レーザラインジェネレータ及び該2台のカラーカメラを該中心軸の周りに回転させることにより炉壁全体の形状を測定することができる。
【0015】
本発明の第1の態様の第2の実施形態の炉壁の形状測定装置において、該レーザラインジェネレータによって生成されるレーザの波長が緑色の波長範囲である。
【0016】
緑色の波長範囲において、一般的なカラーカメラの感度が最も高いので、緑色の波長範囲のレーザ光を使用するのが有利である。
【0017】
本態様の第2の実施形態の炉壁の形状測定装置において、該2台のカラーカメラのそれぞれが減光フィルタと赤外カットフィルタとを備えている。
【0018】
本発明の第2の態様の炉壁の形状測定方法は、700℃-1000℃を含む温度範囲となり得る炉壁の形状測定方法であって、少なくとも1台のレーザラインジェネレータによって該炉壁上にレーザラインを生成するステップと、間隔を空けて配置した2台のカラーカメラによって該炉壁の画像を取得するステップと、プロセッサによって、それぞれのカラーカメラの画像データから、各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みを掛けた値を合算した値を各画素の値とするモノクロム画像を生成するステップと、該プロセッサによって、該2台のカラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して該2台のカラーカメラから該炉壁までの距離を求め、該炉壁の形状を求めるステップと、を含む。
【0019】
本態様の炉壁の形状測定方法においては、カラーカメラの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して、比較的低温の領域においては該炉壁上に該レーザラインジェネレータによって生成されたレーザラインによって該炉壁上の点が識別され、比較的高温の領域においては該炉壁の表面の温度差による明暗のパターンから該炉壁上の点が識別される。
【0020】
本態様によれば、カラーカメラの画像データから生成された画像を使用するので表示用画像と同一の画像を使用して炉壁の形状を測定することができる。また、炉壁の形状測定にはモノクロム画像を使用するのでデータ処理の負荷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の炉壁の形状測定装置の構成を示す図である。
【
図2】2台のカラーカメラと、レーザラインジェネレータと、を炉に設置した状態を示す図である。
【
図3】2台のカメラによる炉壁の形状測定の原理を説明するための図である。
【
図4】フィルタを備えた一方のカラーカメラによる、バッチ処理直後の炉壁の画像を示す図である。
【
図5】上記のカラーカメラによる、バッチ処理後の補修作業によってスラリー状の耐火物を吹き付けた後の炉壁の画像を示す図である。
【
図6】本発明による炉壁の形状測定方法を説明するための流れ図である。
【
図7】
図6のステップS1030を説明するための図である。
【
図10】バッチ処理後の製鋼用電気炉の上面図である。
【
図11】バッチ処理後の製鋼用電気炉の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の炉壁の形状測定装置100の構成を示す図である。本発明の炉壁の形状測定装置は、2台のカラーカメラ110A及び110Bと、レーザラインジェネレータ120と、プロセッサ130と、を含む。カラーカメラ110A及び110Bには、それぞれフィルタ111A及び111Bが備わる。
【0023】
図2は、2台のカラーカメラ110A及び110Bと、レーザラインジェネレータ120と、を炉200に設置した状態を示す図である。
図2は、炉200の平面図と炉の中心軸AXを含む断面図とを含む。
図2に示した炉200は製鋼用の電気炉である。炉200は、
図2に示す中心軸AXの周りにほぼ軸対称で凹面の炉壁210を有する。2台のカラーカメラ110A、110B及びレーザラインジェネレータ120は、中心軸AX付近に中心軸AXの周りに回転可能に設置される。レーザラインジェネレータ120は、中心軸AXを含む平面及び炉壁210の表面のほぼ交線上にレーザラインを生成するように設置される。カラーカメラ110A及び110Bは、
図2の平面図に示すように、2台のカメラの互いに平行な視野中心軸と垂直な方向に間隔を空けて炉の中心軸AX付近に配置され、炉壁210の画像を取得する。カメラ110A及びカメラ110Bが配置された炉の中心軸AX付近の位置を測定点と呼称する。
図2に2台のカラーカメラ110A及び110Bのカメラ視野並びにレーザラインの描画範囲を破線で示す。2台のカラーカメラ110A及び110Bと、レーザラインジェネレータ120とを中心軸AXの周りに回転させることによって、炉壁210の全範囲がレーザラインによって走査され、また炉壁の210の全範囲のレーザラインを含む画像が取得される。
【0024】
図2に示した炉の半径は3メートル、 炉底を基準としてカラーカメラ110A、110B及びレーザラインジェネレータ120の設置面の高さは4.3メートル、炉壁面に沿ったレーザラインの長さは約4メートルである。また、2台のカラーカメラ間の間隔は0.5メートルである。
【0025】
図3は、2台のカメラによる炉壁の形状測定の原理を説明するための図である。2台のカメラ110A及び110Bによって炉壁上の点P1を測定した場合の視差は、θ1+φ1である。炉壁210の位置が損耗などによって変化した後に炉壁上の点P2を測定した場合の視差は、θ2+φ2である。2台のカメラ110A及び110Bの間隔及び視差から三角測量によって2台のカメラ110A及び110Bから炉壁210上の任意の点までの距離を求めることができる。測定点から炉壁210上の任意の点までの距離が求まれば、炉壁の形状を求めることができる。
【0026】
ところで、測定点から炉壁上の点までの距離を視差によって求めるためには、2台のカメラによって取得された炉壁の画像において当該炉壁上の点が認識される必要がある。仮に炉壁の面が滑らかであればその画像は一様となり、画像において炉壁上の点を識別することはできない。この結果、2台のカメラの炉壁の画像を使用して当該点までの距離を測定することはできない。
【0027】
ここで、本発明が適用される対象の一例である製鋼用電気炉について説明する。なお、本発明の対象は一般的に700℃―1000℃を含む広い温度範囲となり得る炉壁であり、製鋼用電気炉の炉壁に限定されない。
【0028】
原料のスクラップ及び副原料の石灰石が投入された製鋼用の電気炉は鉄の溶融温度まで加熱される。電気炉内のスクラップは溶鋼となる。電気炉内においてスクラップ中の不純物を吸収した石灰石によってスラグが生成される。スラグは、溶鋼よりも比重が小さいので電気炉内において不純物が除かれた溶鋼上に浮上する。スラグと溶鋼は電気炉から別々に取り出される。製鋼用の電気炉においては、原料及び副原料の投入からスラグ及び溶鋼の取り出しまでのバッチ処理が繰り返される。炉壁は耐火物によって覆われているが、上記のバッチ処理が繰り返されることにより炉壁の耐火物は損耗し炉壁の形状は変化する。炉壁の局所的な損耗が進行すると重大な事故が発生する危険がある。炉壁の局所的な損耗を防止するために、バッチ処理の合間に、炉壁の形状を観察し、損耗が大きな箇所に補修機によってスラリー状の耐火物を吹き付ける炉壁の補修作業が実施される。この場合に局所的な損耗を防止するための炉壁の補修作業を適切に実施するためには、炉壁の形状を高精度で測定する必要がある。
【0029】
製鋼用の電気炉はバッチ処理が繰り返され所定の期間使用された後、操業を停止した状態で修理が実施される。この修理は定期修理と呼称され、定期修理によって電気炉の耐火物は基準状態に復元される。定期修理後の炉壁の形状を基準の形状としてバッチ処理の合間に測定した炉壁の形状に基づいて炉壁の補修作業を実施してもよい。
【0030】
定期修理後の炉壁の温度は常温である。バッチ処理直後の炉壁の温度は1650℃に達する。また、バッチ処理後の補修作業によってスラリー状の耐火物を吹き付けたのちの炉壁の温度は常温に近くなる。したがって、炉壁の形状測定装置は常温から1650℃までの温度範囲で炉壁の形状を測定することができるのが好ましい。
【0031】
通常のカラーカメラの画像は対象が1000℃を超える高温となるとハレーションによって対象の色及び濃淡の差を明確に識別することができない。したがって、対象が高温の炉壁である場合に炉壁上の点を明確に識別することはできないので、カラーカメラの画像を使用して炉壁の形状(測定点から炉壁までの距離)を求めることはできない。
【0032】
そこで、本発明のカラーカメラ110A及び110Bは、それぞれフィルタ111A及び111Bを備える。フィルタ111A及び111Bは、減光フィルタ及び赤外カットフィルタを含む。減光フィルタ及び赤外カットフィルタによってハレーションを防止することができる。
【0033】
図4は、フィルタを備えた一方のカラーカメラによる、バッチ処理直後の炉壁の画像を示す図である。この場合の炉壁の温度は1000℃以上である。
【0034】
図4に示す炉壁は高温であるので、
図4の画像において高温の炉壁の放射による色及び濃淡の差によって生じるパターンをはっきり識別することができる。したがって、2台のカメラによる画像において上記のパターンによって炉壁上の点を識別し、2台のカメラによる画像から炉壁の形状(測定点から炉壁までの距離)を求めることができる。他方、
図4の画像において炉壁上に生成されたレーザラインは識別できない。
【0035】
図5は、上記のカラーカメラによる、バッチ処理後の補修作業によってスラリー状の耐火物を吹き付けた後の炉壁の画像を示す図である。上述のようにこの場合の炉壁の温度は常温に近い。
【0036】
図5に示す炉壁は常温に近いので、
図5の画像において炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンは識別することはできないが、レーザラインは鮮明に識別することができる。したがって、2台のカメラによる画像においてレーザラインによって炉壁上の点を識別し、2台のカメラによる画像から炉壁の形状(測定点から炉壁までの距離)を求めることができる。
【0037】
一般的に、700℃以上の場合など炉壁の温度が比較的高い場合には、炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンによって炉壁上の点が識別される。700度未満の場合など炉壁の温度が比較的低い場合には、炉壁上に描画されたレーザラインによって炉壁上の点が識別される。このように本発明による炉壁の形状測定方法によれば、常温から1650℃までの広い温度範囲の炉壁の形状を高精度に測定することができる。
【0038】
レーザの波長は緑色の波長域とするのが好ましい。一例としてレーザの波長は520ナノメータである。レーザの波長を緑色の波長域とする理由は、一般的なカラーカメラの感度がこの波長域で最も高いからである。
【0039】
図6は本発明による炉壁の形状測定方法を説明するための流れ図である。
【0040】
図6のステップS1010において、レーザラインジェネレータ120によって炉壁210上にレーザラインを生成する。
【0041】
図6のステップS1020において、2台のカラーカメラ110A及び110Bによって炉壁210の画像を取得する。
【0042】
図6のステップS1030において、2台のカラーカメラ110A及び110Bのカラーの画像データからモノクロム画像を生成する。ステップS1030の詳細については後で説明する。
【0043】
カラー画像から生成したモノクロム画像を使用する理由は以下のとおりである。第一に、カラー画像の大量の情報を活用できる。第二に、カラーカメラの画像データの各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みを掛けることにより、炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンによって炉壁上の点を識別しやすくするように画像を調整ができる。第三に、最終的にモノクロム画像とすることによってデータ処理の負荷を低減できる。
【0044】
カラー画像から生成したモノクロム画像を使用することにより、炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンを高い精度で識別することができる。他方、モノクロムカメラによるモノクロム画像では炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンを高い精度で識別することができない。
【0045】
なお、カラーの画像データからからモノクロム画像を生成する方法は、本出願の出願人による特願2020-003664号(特許6734999号)に説明されている。
【0046】
図7は、
図6のステップS1030を説明するための図である。
【0047】
図7のステップS2010において、プロセッサ130は2台のカラーカメラ110A及び110Bから画像の各画素のRGB値から構成される画像データを受け取りメモリに記憶する。プロセッサ310は画像データからR画像データ、G画像データ及びB画像データを生成する。R画像データ、G画像データ及びB画像データは、各画素の値が、それぞれRの値、Gの値及びBの値であるデータである。RGB値を含むカラー画像の画素のデータ量が24ビットであるのに対し、R画像、G画像及びB画像の各画素のデータ量は8ビットである。
【0048】
図7のステップS2020において、プロセッサ130は、各画素のR値、G値、及びB値のそれぞれに重みc1、c2及びc3を掛けた値を合算した値を各画素の値とするモノクロム画像を生成する。画像内の画素の位置を(i,j)で表し、R画像、G画像、B画像及びモノクロム画像の(i,j)の位置の画素値をそれぞれ R(i,j)、G(i,j)、B(i,j)及びM(i,j)で表すと以下の関係が成立する。
M(i,j)=c1・R(i,j)+c2・G(i,j)+c3・B(i,j)
ここで、c1、c2及びc3の和は1.0である。プロセッサ310に接続されたディスプレイ320に生成されたモノクロ画像を表示させて観察しながらモノクロ画像ができるだけ鮮明になるようにc1、c2及びc3の値を定める。c1、c2及びc3の値は、それぞれ0から0.8の範囲である。一例として、c1、c2及びc3の値は、それぞれ0.2,0.5及び0.3である。
【0049】
他の実施形態において、c1、c2及びc3の和は1.0であり、c1、c2及びc3の値は、それぞれ0から0.8の範囲である場合に、c1、c2及びc3のそれぞれの値をR値の関数、G値の関数、B値の関数またはR値、G値、及びB値の合計値の関数として定めてもよい。
【0050】
一般的にc1、c2及びc3の和は正の定数であればよい。該正の定数をc0とすると、c1、c2及びc3の値は、それぞれ0から0.8×c0の範囲である。
【0051】
図6のステップS1040において、2台のカラーカメラ110A及び110Bの画像データから生成されたモノクロム画像を使用して測定点から炉壁までの距離を求める。
【0052】
2台のカラーカメラ110A及び110Bと、レーザラインジェネレータ120とを中心軸AXの周りに回転させながら
図6のステップS1010―S1040を繰り返すことによってほぼ炉の中心軸AX上の測定点から炉壁上の各点までの距離が求まり炉壁全体の形状を求めることができる。
【0053】
【0054】
【0055】
図8及び
図9において、
図6に示した方法にしたがって求めた測定点から炉壁までの距離を濃度によって示している。濃度の高い箇所は測定点からの距離が大きい。
【0056】
図8及び
図9は定期修理後で炉壁がほぼ常温の状態を示す。したがって、
図8及び
図9に示す炉壁の形状(測定点から炉壁までの距離)は、主にレーザラインによって炉壁上の点を識別することによって測定されたものである。
【0057】
図10はバッチ処理後の製鋼用電気炉の上面図である。
【0058】
図11はバッチ処理後の製鋼用電気炉の側面図である。
【0059】
図10及び
図11において、
図6に示した方法にしたがって求めた、カメラ110A及びカメラ110Bが配置された測定点から炉壁までの距離を濃度によって示している。濃度の高い箇所は測定点からの距離が大きい。
図8と
図10及び
図9と
図11をそれぞれ比較すると、
図10において濃度の高い部分が
図8よりも増加し、
図11において濃度の高い部分が
図9よりも増加している。このように炉壁の少なくとも一部において、バッチ処理後の炉壁の測定点からの距離は、定期修理後の炉壁の測定点からの距離よりも大きくなっている。
【0060】
図10及び
図11はバッチ処理直後で炉壁が1000℃以上の高温の状態を示す。したがって、
図10及び
図11に示す炉壁の形状(測定点から炉壁までの距離)は、主に炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンによって炉壁上の点を識別することによって測定されたものである。
【0061】
上述のように本発明によれば、カラーカメラの画像データから生成された画像を使用するので表示用画像と同一の画像を使用して炉壁の形状を測定することができる。さらに、本発明は、レーザラインの画像をモノクロムカメラで取得する方法と比較して以下のその他の利点も有する。第一に、バッチ処理の間に比較的温度の高い炉壁を短時間で測定するには、画像処理量の観点から、レーザラインによるよりも炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンによって炉壁上の点を識別する方が有利である。その理由は、炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンによって炉壁上のある領域の全ての点を識別するために必要な画像数は、レーザラインに同一の領域の全ての点を識別するために必要な画像数よりも少ないからである。第二に、炉壁の色及び濃淡の差によって生じるパターンによって炉壁上の点を識別する場合には、炉壁上の一つの点を繰り返し測定することによってノイズを削減し測定精度を向上させることが期待できる。