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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132908
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】除草剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 57/20 20060101AFI20220906BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20220906BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20220906BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
A01N57/20 G
A01P13/00
A01N37/02
A01N25/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031633
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕城
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB01
4H011BA04
4H011BB06
4H011BB17
4H011BC04
4H011DA13
4H011DG16
(57)【要約】
【課題】経日安定性が優れ、高い速効性と残効性を持った除草剤組成物を提供する。
【解決手段】ペラルゴン酸と、モノアルキル型カチオン性界面活性剤とジアルキル型カチオン性界面活性剤の中から選ばれた任意の1種又は2種以上のカチオン性界面活性剤とを含有しており、ペラルゴン酸が混合ベシクルを形成して水中に存在しているとともに、グリホサート塩類が溶解して水中に存在している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
除草活性成分として少なくともペラルゴン酸とグリホサート塩類とを含有するとともに、1種又は2種以上のカチオン性界面活性剤と水を更に含有し、
前記水中に、前記グリホサート塩類が溶解するとともに、前記ペラルゴン酸と前記カチオン性界面活性剤とによる混合ベシクルが形成されていることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の除草剤組成物において、
前記ペラルゴン酸の濃度範囲は1.5質量%以上8.0質量%以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の除草剤組成物において、
前記ペラルゴン酸の濃度範囲は2.0質量%以上7.0質量%以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の除草剤組成物において、
前記グリホサート塩類の濃度範囲は0.1質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の除草剤組成物において、
前記グリホサート塩類の濃度範囲は0.5質量%以上4.0質量%以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の除草剤組成物において、
前記ペラルゴン酸の濃度をa、前記グリホサート塩類の濃度をbとした時、濃度比R1=b/aが0.014以上2.00以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の除草剤組成物において、
前記濃度比R1=b/aが0.1以上1.5以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1つに記載の除草剤組成物において、
前記カチオン性界面活性剤の濃度範囲は2.0質量%以上12.0質量%以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の除草剤組成物において、
前記カチオン性界面活性剤の濃度範囲は10.0質量%以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の除草剤組成物において、
前記ペラルゴン酸と前記グリホサート塩類とを合わせた濃度をa+b、前記カチオン性界面活性剤の濃度をcとした時、濃度比R2=c/(a+b)が0.30以上1.90以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の除草剤組成物において、
前記濃度比R2=c/(a+b)が0.50以上1.80以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1つに記載の除草剤組成物において、
pHが5.0以下であることを特徴とする除草剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除草剤組成物に関し、特にペラルゴン酸およびグリホサート塩類を含有させる技術分野に属する。より具体的には、除草活性成分のペラルゴン酸と1種又は2種以上のカチオン性界面活性剤が混合ベシクルを形成することにより、グリホサート塩類を含有していても経日安定性が優れた、速効性および残効性の除草剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素数が6から12の脂肪酸、特に炭素数が9のペラルゴン酸(一般名 Pelargonic acid、IUPAC名 Nonanoic acid)は、安全かつ速効的な除草活性を有する化合物であり、世界中で広く使用されている(特許文献1)。
【0003】
またペラルゴン酸は食品添加物としても使われているところ、安全なイメージの除草活性成分として着目されており、ペラルゴン酸を用いた除草剤のニーズが高まっている。
ペラルゴン酸は水に対する溶解度が32ppm(30℃)と疎水的な物質であり、ペラルゴン酸を用いた除草剤の開発においてはペラルゴン酸の可溶化ないし乳化の技術が必要となる。
【0004】
例えば特許文献1には、主溶剤を水とし、陰イオン界面活性剤および非イオン界面活性剤を併用することによってベラルゴン酸を酸として水中に安定に存在させる製剤技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、界面活性剤として第四級アンモニウム塩を使用してペラルゴン酸をエマルジョン化する技術が開示されている。
【0006】
一方、特許文献3,4には、ペラルゴン酸を有機塩基によって中和することにより水溶解性を向上させた製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-190832号公報
【特許文献2】特表平5-502216号公報
【特許文献3】特開2013-216643号公報
【特許文献4】特開2014-91739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、従来の技術としては、ペラルゴン酸の水中における存在形態が酸であり界面活性剤によって乳化ないし可溶化した製剤(特許文献1,2)と、ペラルゴン酸を塩基性物質により中和することにより水溶解性を向上させた製剤とが知られている(特許文献3,4)。ペラルゴン酸が酸として存在している前者は、後者に対してより速効的な除草効果を示すことが知られており、消費者が除草効果を実感しやすいという点からより望ましい。
【0009】
ところで、市販されている汎用除草剤は、散布容器に入った状態で販売されることが多い。このような除草剤は、一般家庭においては容器に入れられたまま屋外や倉庫に放置されることが多く、低温や高温条件にさらされる可能性が高い。このような過酷な保存環境下において、界面活性剤によって乳化・可溶化した従来のペラルゴン酸除草剤は、ペラルゴン酸が分離してしまうことがあった。そこで、このような過酷な保存条件下においても均一溶解・分散状態を安定して維持できるペラルゴン酸除草剤組成物が求められている。なお、保存持の安定性を向上させるべく界面活性剤を増量することも考えられるが、界面活性剤の増加に伴う価格の上昇と同時に、製品粘度が上昇して散布効率の低下や散布ムラの発生などの問題が生じるため、現実的ではない。このように、従来の乳化・可溶化方法で製造された従来のペラルゴン酸除草剤は、いまだ安定性が不十分であり改良の余地があった。
【0010】
また、除草効果は一時的なものではなく、施用後、効力がある期間持続する残効性も求められている。そこで、速効的な除草成分であるペラルゴン酸に加えて、持続的な除草効果が期待できるグリホサート塩類を配合することが考えられる。しかしながら、従来の方法で乳化・可溶化された組成物は、グリホサート塩類のような塩物質を配合することで安定性を損なうことはよく知られている。すなわち、従来のペラルゴン酸除草剤においては、残効性を有する成分を付加したうえで、過酷な保存条件下においても均一溶解・分散状態を安定して維持することは極めて困難であった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、経日安定性が優れ、高い速効性と残効性を持った除草剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本願発明者は、カルボニル基を有するペラルゴン酸と、特定の第四級アミン基を有するカチオン性界面活性剤が水中で相互作用し、自己会合体の混合ベシクルを形成できる濃度範囲を見出した。そしてこのように混合ベシクルが形成されることにより、ペラルゴン酸を水中に均一溶解・分散し、長期安定化が可能であるとともに、この水中に持続的な除草成分であるグリホサート塩類が溶解していても、前記ペラルゴン酸の均一溶解・分散状態が維持されることを見出して本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、混合ベシクルは、水中で疎水性と親水性の両方を持つ両親媒性分子が球状、棒状、層状などをなすように隙間なく並んだ自己会合体であり、自己会合体の層が複数層になるため、ペラルゴン酸が均一に含まれていることで、水中で高濃度ペラルゴン酸を長期安定化させることができる。そして、この混合ベシクルを有する水中に、水溶性成分であるグリホサート塩類が溶解していたとしても、混合ベシクルは不安定になることなく長期にわたって維持される。
【0014】
本開示に係る除草剤組成物は、除草活性成分として少なくともペラルゴン酸とグリホサート塩類とを含有するとともに、1種又は2種以上のカチオン性界面活性剤と水を更に含有している。そして、前記水中に、前記グリホサート塩類が溶解するとともに、前記ペラルゴン酸と前記カチオン性界面活性剤とによる混合ベシクルが形成されることにより、当該ペラルゴン酸が水中に均一に溶解・分散していることを特徴とする。
【0015】
ところで、ペラルゴン酸及びグリホサート塩類を除草活性成分として含有した除草剤においては、これを散布したときに、ペラルゴン酸及びグリホサート塩類が雑草表面に付着しなければ十分な除草効果が得られないと考えられる。これに対し、本発明に係る混合ベシクル化されたペラルゴン酸はカチオン性界面活性剤と相互作用することにより自己会合体内に含まれているところ、これを雑草に散布した際に当該ペラルゴン酸が雑草表面に付着し得るか否かについてこれまで検討されたことは無かった。本願発明者らの検討により、混合ベシクル化されたペラルゴン酸及びグリホサート塩類からなる除草剤組成物によって高い除草効果が確認された。
【0016】
つまり、グリホサート塩類が溶解した水中において、特定のカチオン性界面活性剤とペラルゴン酸が混合ベシクルの自己会合体として均一分散・溶解しており、しかも散布時においては混合ベシクルを構成していたペラルゴン酸が雑草表面に付着する。これにより、低温や高温条件下で放置されても経日安定性に優れ、しかも高い除草効果が得られる。
【0017】
前記ペラルゴン酸の濃度範囲は1.5質量%以上8.0質量%以下とすることができる。また、前記ペラルゴン酸の濃度範囲は2.0質量%以上7.0質量%以下とすることもできる。
【0018】
前記グリホサート塩類の濃度範囲は0.1質量%以上5.0質量%以下とすることができる。また、前記グリホサート塩類の濃度範囲は0.5質量%以上4.0質量%以下とすることもできる。
【0019】
前記ペラルゴン酸の濃度をa、前記グリホサート塩類の濃度をbとした時、濃度比R1=b/aが0.014以上2.00以下であってもよい。また、前記濃度比R1=b/aが0.1以上1.5以下であってもよい。
【0020】
前記カチオン性界面活性剤の濃度範囲は2.0質量%以上12.0質量%以下とすることができる。また、前記カチオン性界面活性剤の濃度範囲は10.0質量%以下とすることもできる。
【0021】
前記ペラルゴン酸と前記グリホサート塩類とを合わせた濃度をa+b、前記カチオン性界面活性剤の濃度をcとした時、濃度比R2=c/(a+b)が0.30以上1.90以下であってもよい。また、前記濃度比R2=c/(a+b)が0.50以上1.80以下であってもよい。
【0022】
また、本開示に係る除草剤組成物のpHは5.0以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、カチオン性界面活性剤とペラルゴン酸が水中で混合ベシクルを形成し、高濃度ペラルゴン酸を水中に均一分散・溶解することにより、グリホサート塩類の存在下においても経日安定性が優れ、高い速効性と残効性を持った除草剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
本発明の実施形態に係る除草剤組成物は、除草活性成分のペラルゴン酸と、除草活性成分のグリホサート塩類と、特定のカチオン性界面活性剤と、水と、特定のアルコールとを含有した液状除草剤である。除草剤組成物は、例えば各種容器に収容して保管することができる。除草剤組成物を容器に収容することで、除草に用いられる製品が構成される。除草剤組成物は、保管時に収容されている容器から雑草へ直接かけて使用することができる他、保管時に収容されている容器とは別の容器に移し替えて雑草へかけることもできる。除草剤組成物を収容する容器には、多数の開口を備えたシャワーノズルが設けられていてもよい。また、除草剤組成物を収容する容器には、ポンプ機構を備えた噴霧器が設けられていてもよい。また、除草剤組成物を収容する容器は、バルブおよびノズルを備えたエアゾール容器であっても良く、この場合、本発明に係る除草剤組成物は噴射剤とともにエアゾール容器に充填される。
【0026】
(除草活性成分のペラルゴン酸)
本発明の即効性の除草活性成分であるペラルゴン酸は、単独で用いられるか、又は他の脂肪酸を含む混合物の主要成分(例えば90%以上)として用いられる。他の脂肪酸を含む場合、除草活性成分は、ペラルゴン酸を含む炭素数8~12の炭化水素鎖を有するカルボキル脂肪酸の1種又は混合物とすることができる。
【0027】
ペラルゴン酸は、水中でカチオン性界面活性剤と相互作用することにより、混合ベシクルを形成して存在している。すなわち、混合ベシクルは、水中で疎水性と親水性の両方を持つ両親媒性分子が球殻状または袋状をなすように隙間なく並んだ自己集合体であり、自己会合体の層が複数相になるために、ペラルゴン酸が均一に含まれていることで、水中でペラルゴン酸を長期安定化させることができる。
【0028】
除草剤組成物中のペラルゴン酸の濃度範囲の下限は、1.5質量%以上であり、2.0質量%以上がより好ましい。ペラルゴン酸の濃度範囲の上限は、8.0質量%以下であり、7.0質量%以下がより好ましい。ペラルゴン酸の濃度範囲が上記上限を超えると、混合ベシクルが形成されにくくなったり、形成された混合ベシクルが壊れやすくなる。また、ペラルゴン酸の濃度範囲が上記下限を下回ると、除草効果が不十分になる。
【0029】
なお、本発明のペラルゴン酸は、除草剤組成物中において(塩ではなく)酸の状態で存在する。このように、中和されていない酸の状態でペラルゴン酸が存在しているため、塩の状態で配合される場合に比べて即効性に優れる。ペラルゴン酸が酸として存在しているため、除草剤組成物は酸性である。ペラルゴン酸が上記濃度範囲にある場合、除草剤組成物のpHは5.0以下である。
【0030】
(除草活性成分のグリホサート塩類)
本発明の残効性の除草活性成分であるグリホサート塩類としては、例えばグリホサートアンモニウム塩、グリホサートイソプロピルアミン塩、グリホサートカリウム塩等を挙げることができる。
【0031】
グリホサート塩類は水溶性であり、水中に溶解した状態で存在している。
【0032】
グリホサート塩類の濃度範囲の下限は、0.1質量%以上であり、0.5質量%がより好ましい。グリホサート塩類の濃度範囲の上限は、5.0質量%以下であり、4.0質量%以下がより好ましい。グリホサート塩類の濃度範囲が上記上限を超えると、混合ベシクルが形成されにくくなったり、形成された混合ベシクルが壊れやすくなる。また、グリホサート塩類の濃度範囲が上記下限を下回ると、除草効果が不十分になる。
【0033】
(カチオン性界面活性剤)
上記混合ベシクルを水中で形成するためには、上記特定のカチオン性界面活性剤が必要になる。特定のカチオン性界面活性剤は、モノアルキル型カチオン性界面活性剤に分類される複数の界面活性剤と、ジアルキル型カチオン性界面活性剤に分類される複数の界面活性剤とで構成される界面活性剤の群の中から選ばれた任意の1種又は任意の2種以上のカチオン性界面活性剤である。特定のカチオン性界面活性剤としては、モノアルキル型カチオン性界面活性剤のみであってもよいし、ジアルキル型カチオン性界面活性剤のみであってもよい。また、特定のカチオン性界面活性剤としては、モノアルキル型カチオン性界面活性剤と、ジアルキル型カチオン性界面活性剤とを含有していてもよく、この場合、モノアルキル型カチオン性界面活性剤を1種、ジアルキル型カチオン性界面活性剤を2種以上含有していてもよいし、モノアルキル型カチオン性界面活性剤を2種以上、ジアルキル型カチオン性界面活性剤を1種含有していてもよい。
【0034】
モノアルキル型カチオン性界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ミリスチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化アルキル(C12-C16)トリメチルアンモニウム、塩化アルキル(C16-C18)トリメチルアンモニウム、などを挙げることができる。
【0035】
ジアルキル型カチオン性界面活性剤としては、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-C18)ジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C16-18)ジメチルアンモニウム、などを挙げることができる。
【0036】
上記特定のカチオン性界面活性剤の濃度範囲の下限は、2.0質量%以上であり、3.0質量%以上がより好ましい。カチオン性界面活性剤の濃度範囲の上限は、12.0質量%以下であり、10.0質量%以下がより好ましい。特定のカチオン性界面活性剤の濃度範囲が上記範囲を外れると、混合ベシクルが形成されにくくなる。
【0037】
(一価又は多価アルコール)
上記混合ベシクルの形成をより確実なものにするためには、除草剤組成物が特定のアルコールを含有しているのが好ましい。特定のアルコールは、一価または多価アルコールであり、炭素数が2以上6以下で、ヒドロキシ基の数が1以上6以下のアルコールを用いることができる。このようなアルコールとしては、例えばエチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1,3ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトールなどを挙げることができる。なお、除草剤組成物にグリホサート塩を含まない場合であれば一価または多価アルコールのいずれでも良好な結果が得られるものの、グリホサート塩を含む本発明の除草剤組成物の場合、多価アルコールでは混合ベシクルの形成が不安定になる場合があることが明らかになった。このため、アルコールとしては一価アルコールが特に好ましい。
【0038】
上記アルコールを用いることで、混合ベシクルの形成がより確実になる。アルコールの濃度範囲の下限は、0.01質量%以上であり、2.0質量%以上が好ましく、2.5質量%以上がより好ましい。アルコールの濃度範囲の上限は、10質量%以下であり、6.0質量%以下がより好ましい。アルコールの濃度範囲が上記範囲を外れると、混合ベシクルが形成されにくくなったり、形成された混合ベシクルが壊れやすくなる。
【0039】
(ペラルゴン酸とグリホサート塩類の濃度比R1=b/a)
また、ペラルゴン酸の濃度をa、上記グリホサート塩類の濃度をbとした時のペラルゴン酸に対するグリホサート塩類の濃度比R1は以下の式1で表すことができる。
【0040】
R1=b/a 式1
R1の下限は0.014以上であり、0.1以上がより好ましい。また、R1の上限は、2.00以下であり、1.5以下がより好ましい。R1の値が上記範囲を外れると、混合ベシクルが形成されにくくなる。
【0041】
(ペラルゴン酸およびグリホサート塩類とカチオン性界面活性剤の濃度比R2=c/(a+b))
また、ペラルゴン酸とグリホサート塩類とを合わせた濃度をa+b、上記特定のカチオン性界面活性剤の濃度をcとした時、濃度比R2は以下の式2で表すことができる。
【0042】
R2=c/(a+b) 式2
R2の下限は0.30以上であり、0.50以上がより好ましい。また、R2の上限は、1.90以下であり、1.80以下がより好ましい。R2の値が上記範囲を外れると、混合ベシクルが形成されにくくなる。
【0043】
(他の成分)
水は精製水、イオン交換水を用いることができる。また、除草剤は、防腐剤を含有していてもよい。防腐剤としては、例えばイソチアゾリノン誘導体等を挙げることができるが、これに限られるものではない。
【0044】
また、除草剤は、害虫駆除成分を含有していてもよい。害虫駆除成分は、ピレスロイド系殺虫剤、ネオニコチノイド系殺虫剤、ジアミド系殺虫剤などを挙げることができるが、これに限られるものではない。ピレスロイド系殺虫剤として、トランスフルトリン、ピレトリン、アレスリン、フタルスリン、テトラメトリン、プラレトリン、フェノトリン、トラロメトリン、シフルトリン、レスメトリン、ペルメトリン、エンペントリン、シフェノトリン、イミプロトリン、フェンプロパトリン、フェンバレレート、エトフェンプロックス、シラフルオフェンなどを挙げることができる。ネオニコチノイド系殺虫剤として、イミダクロプリド、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサム、クロチアニジン、ジノテフランなどを挙げることができる。ジアミド系殺虫剤としては、フルベンジアミド、クロラントラニリプロール、シアントラニリプロールなどが挙げられる。これらのうち、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0045】
(除草剤組成物の製造方法)
除草剤組成物の製造方法の一例について説明する。まず、70℃まで加熱した精製水を用意する。この精製水に、上記特定のカチオン性界面活性剤、ペラルゴン酸、グリホサート塩類、アルコールを溶解させる。害虫駆除成分を含有する場合には、害虫駆除成分も溶解させる。その後、室温まで冷却した後、防腐剤を加える。
【0046】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0047】
【表1】
【0048】
表1は、本発明の実施例1~17に係る除草剤の組成を示している。実施例1~17のペラルゴン酸の濃度は、1.50質量%以上8.00質量%以下である。グリホサート塩類の濃度は、0.50質量%以上5.00質量%以下である。モノアルキル型カチオン性界面活性剤の濃度は、1.00質量%以上8.00質量%以下である。ジアルキル型カチオン性界面活性剤の濃度は、0.50質量%以上4.00質量%以下である。アルコールの濃度は、3.00質量%以下である。防腐剤の濃度は、0.02質量%である。残余(バランス)は精製水である。
【0049】
除草剤有効成分の濃度aに対するカチオン性界面活性剤の濃度bの濃度比R1の範囲は、0.014以上2.00以下に設定している。また、濃度比R2の範囲は、0.33以上1.71以下に設定している。
【0050】
(外観の評価)
実施例の除草剤組成物サンプルを作成後、100mlガラス瓶に入れ、室温(RT)で外観を目視評価した。なお、後述の比較例についても同様に評価した。
【0051】
半透明 :半透明な液体
白濁 :白濁した液体
分離 :2層以上に分離した液体
【0052】
(混合ベシクルの確認評価)
実施例の除草剤組成物サンプルを作成後、100mlガラス瓶に入れ、室温(RT)にて、直行する偏光板(クロスニコル)を有するボックスに入れる。偏光板ボックスの外からサンプル瓶に対して光を当て、偏光板越しにサンプル瓶を通過した光の様子を目視観察することで混合ベシクル形成の有無を評価した。なお、後述の比較例についても同様に評価した。
【0053】
○:混合ベシクルあり
×:混合ベシクルなし
【0054】
表1に示すように、実施例1~17の全てで混合ベシクルが形成されていた。
【0055】
(安定性評価)
次に、安定性試験を行った結果について説明する。安定性試験は、実施例1~17の各除草剤組成物を100mlガラス瓶に入れ、室温(RT)、5℃、50℃の恒温室でそれぞれ1ヵ月保存した。1ヵ月保存後の除草剤組成物の状態(外観)を目視評価し、以下の基準で安定性を評価した。なお、後述の比較例についても同様に評価した。
【0056】
〇:分離なし(均一1相)。
△:上層、下層で一部分離している。
×:2相に完全に分離している。
【0057】
表1に示すように、実施例1~17は、「RT」、「5℃」及び「50℃」の全てで「○」であった。すなわち、混合ベシクルが殆ど壊れることなく、存在し続けていたので、5℃~50℃という極めて広い温度範囲で1ヶ月という極めて長い期間保管しても、分離や性状の変化が起こりにくいことが分かる。尚、防腐剤が含まれていなくても同様な結果となる。
【0058】
次に、比較例1~9について説明する。
【0059】
【表2】
【0060】
まず、比較例1~5について説明する。比較例1~5は、カチオン性界面活性剤の濃度が2.00質量%以下、すなわちカチオン性界面活性剤の量が比較的少ない例である。これらはいずれも混合ベシクルが形成されず、不安定な組成物であった。
比較例1~3は、ペラルゴン酸の濃度が1.50質量%の例である。このうち比較例1、2は、アルコールを含まない例である。この比較例1、2では、「外観(製造直後)」の項目で「分離」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。つまり、製造直後に混合ベシクルが形成されなかったとともに、「RT」、「5℃」及び「50℃」の全てで「×」、即ち不安定な組成物であった。
【0061】
一方で比較例3は、アルコールを含んでいるが、「外観(製造直後)」の項目で「分離」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。つまり、製造直後に混合ベシクルが形成されなかったとともに、「RT」、「5℃」及び「50℃」の全てで「×」、即ち不安定な組成物であった。このようにペラルゴン酸の濃度が低い領域においては、アルコールを含有したとしても混合ベシクルの形成が不安定となる場合がある。なおこの濃度領域においても、実施例1に示したように、カチオン性界面活性剤を適切な量配合することにより混合ベシクルを形成することができる。
【0062】
比較例4,5は、ペラルゴン酸の濃度が2.00質量%以上の例である。このうち比較例4は、濃度比R2が0.50の例である。この比較例4では、「外観(製造直後)」の項目で「分離」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。つまり、製造直後に混合ベシクルが形成されなかったとともに、「RT」、「5℃」及び「50℃」の全てで「×」、即ち不安定な組成物であった。
【0063】
比較例5は、濃度比R2が0.25の例である。この比較例5では、「外観(製造直後)」の項目で「分離」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。つまり、製造直後に混合ベシクルが形成されなかったとともに、「RT」、「5℃」及び「50℃」の全てで「×」、即ち不安定な組成物であった。
【0064】
以上、比較例4,5に示したように、ペラルゴン酸の濃度がベシクル形成に適した範囲であっても、これに対してカチオン性界面活性剤が少なすぎると混合ベシクルが形成されない。
【0065】
続いて、比較例6~8について説明する。比較例6~8は、濃度比R2が2.00以上の例、すなわち除草剤有効成分に対してカチオン性界面活性剤が多い例である。これらはいずれも混合ベシクルが形成されなかった。また、低い温度環境下においては比較的安定であったが、それ以外の温度環境では不安定な組成物であった。
【0066】
このうち比較例6は、カチオン性界面活性剤の濃度が16.00質量%の例である。この比較例6では、「外観(製造直後)」の項目で「白濁」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。また、「RT」及び「5℃」では「〇」だったが、「50℃」では「×」だった。つまり、比較的低い温度環境下では安定していたが、高温環境下では不安定であった。
【0067】
比較例7は、カチオン性界面活性剤の濃度が15.00質量%でイソプロピルアルコールを含有する例である。この比較例7では、「外観(製造直後)」の項目で「白濁」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。また、「5℃」では「〇」だったが、「RT」及び「50℃」では「×」だった。つまり、比較的低い温度環境下では安定していたが、高温環境下では不安定であった。
【0068】
比較例8は、カチオン性界面活性剤の濃度が15.00質量%でエチルアルコールを含有する例である。この比較例8では、「外観(製造直後)」の項目で「白濁」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。また、「5℃」では「〇」だったが、「RT」及び「50℃」では「×」だった。つまり、比較的低い温度環境下では安定していたが、高温環境下では不安定であった。
【0069】
以上、比較例6~8に示したように、ペラルゴン酸に対してカチオン性界面活性剤が多すぎても混合ベシクルは形成されず、低温環境下はともかくそれ以外では不安定な組成物となる。
【0070】
一方、比較例9は、濃度比R2が1.91で、ペラルゴン酸の濃度が10.00質量%の例である。この比較例9では、「外観(製造直後)」の項目で「分離」しており、また、製造直後では混合ベシクルが形成されていなかった。つまり、製造直後に混合ベシクルが形成されなかったとともに、「RT」、「5℃」及び「50℃」の全てで「×」、即ち不安定な組成物であった。このようにペラルゴン酸の濃度が高すぎると、混合ベシクルが形成されず、またすべての温度環境下で不安定となる。
【0071】
次に、実施例18~26について説明する。
【0072】
【表3】
【0073】
実施例18~26のペラルゴン酸の濃度は、2.50質量%以上6.00質量%以下である。グリホサート塩類の濃度は、1.00質量%以上2.00質量%以下である。モノアルキル型カチオン性界面活性剤の濃度は、2.00質量%以上5.00質量%以下である。ジアルキル型カチオン性界面活性剤の濃度は、1.00質量%以上2.00質量%以下である。アルコールの濃度は、3.00質量%である。防腐剤の濃度は、0.02質量%である。除草剤有効成分aに対するカチオン性界面活性剤bの濃度比R1の範囲は、0.17以上0.80以下に設定している。また、濃度比R2の範囲は、0.63以上0.89以下に設定している。
【0074】
また、実施例18~26では害虫駆除成分(殺虫剤成分)を含有している。トランスフルトリンまたはトラロメトリンの濃度は、0.01質量%以上0.10質量%以下である。
【0075】
実施例18~26の全てにおいて、「外観(製造直後)」の欄に記載しているように、製造直後の除草剤は半透明であった。また、実施例18~26の全てで混合ベシクルが形成されていた。
【0076】
(除草試験)
次に、除草試験について説明する。表4に比較例10の処方を示す。
【0077】
【表4】
【0078】
比較例10は、ペラルゴン酸とトリエタノールアミンとグリホサートアンモニウム塩を含有している例である。
【0079】
除草試験方法は次の通りである。まず、試験用の雑草として、カタバミ、メヒシバ、エノコログサを用意した。各雑草をポットに移植し、吐出量が1mlのハンドスプレーを用いて実施例及び比較例の除草剤を各雑草に満遍なく散布した。その後、ポットを人工気象器内(温度25℃、湿度60%)内に収容し、雑草の様子をカメラのインターバル撮影機能を利用して記録した。結果を表5に示す。表5中、実施例は実施例24の処方とした。
【0080】
【表5】
【0081】
実施例24では、比較例10に比べてカタバミ、メヒシバ、エノコログサの全てについて、枯れ始めるまでの時間が大幅に短い。また、枯れるまでの時間も実施例24の方が大幅に短い。尚、実施例24以外の他の実施例の処方でも多少の時間の長短はあるが、同様な除草効果を得ることができる。
【0082】
(実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態に係る除草剤は、除草活性成分として少なくともペラルゴン酸とグリホサート塩類とを含有するとともに、1種又は2種以上のカチオン性界面活性剤と水を更に含有し、前記水中に、前記グリホサート塩類が溶解するとともに、前記ペラルゴン酸と前記カチオン性界面活性剤とによる混合ベシクルが形成されることにより、当該ペラルゴン酸が水中に均一に溶解・分散しているので、経日安定性が優れ、高い速効性と残効性を持った除草剤とすることができる。
【0083】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明に係る除草剤組成物は、各種雑草に対して使用することができる。