(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132961
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】関節リウマチの遺伝子治療用ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20220906BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220906BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220906BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220906BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220906BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20220906BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20220906BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220906BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
A61P19/02 ZNA
A61P29/00 101
A61K48/00
A61K35/76
C12N7/01
A61K39/395 D
A61K39/395 N
C12N15/13
C07K16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031725
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】521087793
【氏名又は名称】リジェネフォーティー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515270622
【氏名又は名称】ときわバイオ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515259812
【氏名又は名称】株式会社NEXT Stage
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】田仲 美幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 祐志
(72)【発明者】
【氏名】中西 真人
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA961
4C084ZB151
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA16
4C085BB11
4C085CC08
4C085CC31
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG10
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZB15
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA71
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効果的かつ安全性の高い関節リウマチの遺伝子治療を提供する。
【解決手段】CD81のLEL(large extracellular loop)に結合する抗CD81抗体をコードする遺伝子を含む、マイナス鎖RNAウイルスをベースにしたステルス型センダイウイルスベクターの関節リウマチ治療用ベクター;ならびに該ウイルスベクターを含む、関節リウマチ治療用医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD81抗体をコードする遺伝子を含む、マイナス鎖RNAウイルスをベースにした関節リウマチ治療用ベクター。
【請求項2】
パラミクソウイルス科に属するウイルスをベースにしたものである、請求項1記載のベクター。
【請求項3】
パラミクソウイルス科に属するウイルスがセンダイウイルスである、請求項2記載のベクター。
【請求項4】
ステルス型である、請求項1~3のいずれか1項記載のベクター。
【請求項5】
抗CD81抗体がCD81のLEL(large extracellular loop)に結合するものである、請求項1~4のいずれか1項記載のベクター。
【請求項6】
抗CD81抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体である、請求項1~5のいずれか1項記載のベクター
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のベクターを含む、関節リウマチ治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾病の遺伝子治療用ウイルスベクター、ならびにそれを含む疾病治療用医薬組成物に関する。詳細には、該ベクターは、抗CD81抗体遺伝子を含む、疾病の遺伝子治療用のウイルスベクターである。より詳細には、該ベクターは、関節リウマチ(RA)の遺伝子治療用である。
【背景技術】
【0002】
RAの治療には、主に薬物療法、手術療法、およびリハビリテーションが用いられている。RAの薬物療法には、ステロイド、非ステロイド系抗炎症薬、抗リウマチ薬、および生物学的製剤が用いられている。生物学的製剤としては、炎症性サイトカインや炎症細胞を標的とするものが多い。近年、炎症性サイトカインや炎症細胞が関与するRAの病理学的プロセスを阻害するための遺伝子治療が考案され、研究が続けられている。
【0003】
RAの原因物質の1つとしてシノビオリンがある。シノビオリンの発現調節にはテトラスパニンの1つであるCD81が関与している。そこで、CD81を標的としたCD81siRNAや抗CD81モノクローナル抗体を用いるRA治療が提案されている(非特許文献1~3)。しかし、CD81を標的とした遺伝子治療は行われていない。
【0004】
一方で、遺伝子治療には、副作用を含む安全性の問題や発現持続性が低い、遺伝子デリイバリー効率が低いといった問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Nakagawa et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 388 (2009) 467-472
【非特許文献2】中西 徹ら、別冊BIO Clinica 慢性炎症と疾患、Vol.5, No.3, 2016 pp.144-149
【非特許文献3】T. Yamasaki et al., Journal of Hard Tissue Biology 28(3) (2019) 239-244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CD81を標的とした効果的かつ安全性の高いRAの遺伝子治療が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、センダイウイルスをベースとしたウイルスベクターに抗CD81抗体をコードする遺伝子を組み込んだものを動物のRAの遺伝子治療に用いたところ、優れた治療効果を得ることができ、動物に対する安全性も確認できたことから、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する:
(1)抗CD81抗体をコードする遺伝子を含む、マイナス鎖RNAウイルスをベースにした関節リウマチ治療用ベクター。
(2)パラミクソウイルス科に属するウイルスをベースにしたものである、(1)記載のベクター。
(3)パラミクソウイルス科に属するウイルスがセンダイウイルスである、(2)記載のベクター。
(4)ステルス型である、(1)~(3)のいずれか記載のベクター。
(5)抗CD81抗体がCD81のLEL(large extracellular loop)に結合するものである、(1)~(4)のいずれか記載のベクター。
(6)抗CD81抗体がキメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体である、(1)~(5)のいずれか記載のベクター
(7)(1)~(6)のいずれか記載のベクターを含む、RA治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効果的かつ安全性の高いRA治療用ベクターが提供される。具体的には、本発明のRA治療用ベクターは、細胞質に留まり、宿主染色体に影響を及ぼさないため、安全性が高い。さらに本発明のRA治療用ベクターは、宿主のベクターに対する免疫反応が抑制され、長期にわたり治療効果が安定して持続する。本発明のRA治療用ベクターは、有効成分である抗CD81抗体の発現効率も高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例で使用したウイルスベクターの構造を示すスキームである。上段は、抗CD81抗体遺伝子を含まないコントロールベクターの構造を示すスキームである。下段は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターの構造を示すスキームである。下段のCD81ボックス中に、抗CD81抗体のH鎖およびL鎖遺伝子がタンデムに配置されている。
【
図2】
図2は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターをリウマチモデルラットの関節腔に注射し、28日後に関節滑膜組織中の抗CD81抗体の発現をELISAにて調べた結果を示すグラフである。縦軸は450nmにおける吸光度である。各バーは吸光度の平均値±標準偏差を示す。Chimera anti-CD81 antibodyは、精製キメラ抗CD81抗体をCD81のLELでコートしたウェルに添加した系を示す。CIA(+)+SeVdp-CD81 PBSは、CIA(+)+SeVdp-antiCD81群(抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群)の関節洗浄液(PBSにて洗浄)をCD81のLELでコートしたウェルに添加した系を示す。CIA(+)+SeVdp-control PBSは、CIA(+)+SeVdp-control群(コントロールベクターを注射した群)の関節洗浄液(PBSにて洗浄)をCD81のLELでコートしたウェルに添加した系を示す。CIA(+)+SeVdp-CD81 acid eluteは、CIA(+)+SeVdp-antiCD81群(抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群)の関節洗浄液(PBSにて洗浄)をpH3.0 gly-HCLで溶出してpH7.0に中性化したものをCD81のLELでコートしたウェルに添加した系を示す。CIA(+)+SeVdp-control acid eluteは、CIA(+)+SeVdp-control群(コントロールベクターを注射した群)の関節洗浄液(PBSにて洗浄)をpH3.0 gly-HCLで溶出してpH7.0に中性化したものをCD81のLELでコートしたウェルに添加した系を示す。*はp<0.05であることを示す。
【
図3】
図3は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターを関節腔に注射したリウマチモデルラットの体重変動を示すグラフである。縦軸は体重(g)を表す。横軸はコラーゲン投与後の日数を示す。ベクターの注射はコラーゲン投与直後に行った。×はコントロールベクターを注射した群の体重を示す。●は抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群の体重を示す。▲は正常群の体重を示す。*は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群とコントロールベクターを注射した群との間でp<0.05であることを示す。#は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群とコントロールベクターを注射した群との間でp<0.01であることを示す。
【
図4】
図4は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターを関節腔に注射したリウマチモデルラットの足の体積の変化を示すグラフである。縦軸は足の体積(cm
3)を示す。横軸はコラーゲン投与後の日数を示す。ベクターの注射はコラーゲン投与直後に行った。×はコントロールベクターを注射した群の足の体積を示す。●は抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群の足の体積を示す。▲は正常群の足の体積を示す。細いバーは標準偏差を示す。*は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群とコントロールベクターを注射した群との間でp<0.05であることを示す。#は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群とコントロールベクターを注射した群との間でp<0.01であることを示す。
【
図5】
図5は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターを関節腔に導入したリウマチモデルラットの臨床スコアの変化を示すグラフである。横軸はコラーゲン投与後の日数を示す。ベクターの導入はコラーゲン投与直後に行った。×はコントロールベクターを注射した群のスコアを示す。●は抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群のスコアを示す。▲は正常群のスコアを示す。細いバーは標準偏差を示す。#は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群とコントロールベクターを注射した群との間でp<0.01であることを示す。臨床スコアは以下のとおり:0:正常、1:1趾に炎症、腫脹があるもの、2:2趾以上に炎症、腫脹があり足部全体に及ばないもの、3:足部全体に炎症、腫脹があるもの、4:足部全体に重度の炎症、腫脹があるもの。
【
図6】
図6は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターを関節腔に注射したリウマチモデルラットの足の腫れの様子を示す写真である。上段は正常群のラットの足を示す。中段は、コントロールベクターを注射した群のラットの足を示す。下段は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群のラットの足を示す。day15は、コラーゲン投与から15日目の足部の様子を示す。day28はコラーゲン投与から15日目の足部の様子を示す。macroscopic viewは、拡大鏡像を示す。radiographic imageはX線像を示す。
【
図7】
図7は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターを関節腔に注射したリウマチモデルラットの足の関節の切片を、ヘマトキシリン・エオシン染色およびサフラニンO染色に供した結果を示す顕微鏡像である。ベクターの注射から28日目に組織を採取し、染色した。上段は正常群の像を示す。中段は、コントロールベクターを注射した群の像を示す。下段は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群の像を示す。
【
図8】
図8は、抗CD81抗体遺伝子を含む本発明のベクターを関節腔に注射したリウマチモデルラットの足の関節組織の組織学的スコアを示す。ベクターの投与から28日目に組織を採取し、組織学的スコアをつけた。CIA(+)+SeVdp-controlは、コントロールベクターを注射した群の結果を示す。CIA(+)+SeVdp-CD81は、抗CD81抗体遺伝子を含むベクターを注射した群の結果を示す。CIA(-)は、正常群の結果を示す。各バーは吸光度の平均値±標準偏差を示す。*はp<0.05であることを示す。組織学的スコアは以下のとおり:滑膜内単核球-0:なし、1:少量、2:中等量、3:大量滑膜内マクロファージ-0:なし、1:少量、2:中等量、3:大量軟骨損傷-0:損傷なし、1:表面不整、2:部分損傷、3:全層損傷骨びらん-0:なし、1:一部皮質骨の不整、2:軽度の皮質骨不整、3:中等度の皮質骨不整、4:著明な皮質骨損傷、5:皮質の断片化、6:皮質骨の全層損傷
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、疾病の遺伝子治療用ウイルスベクター、ならびにそれを含む疾病治療用医薬組成物に関する。詳細には、該ベクターは、抗CD81抗体遺伝子を含む、疾病の遺伝子治療用のウイルスベクターである。より詳細には、該ベクターは、関節リウマチ(RA)の遺伝子治療用である。
【0012】
本発明のベクターはいずれのウイルスをベースにしたものであってもよい。好ましくは、本発明のベクターは、RNAウイルス、より好ましくはマイナス鎖RNAウイルスをベースにしたものである。
【0013】
したがって、本発明は、1の態様において、抗CD81抗体をコードする遺伝子を含む、マイナス鎖RNAウイルスをベースにしたRA治療用ベクターを提供する。
【0014】
マイナス鎖RNAウイルスをベースにしたベクターは細胞質型RNAウイルスベクターである。細胞質型RNAウイルスベクターは、それに組み込まれた遺伝子の発現が細胞質で行われるため、宿主染色体に影響を与えることがない。したがって、マイナス鎖RNAウイルスをベースにした本発明のウイルスベクターは、安全性が極めて高いものである。また、本発明の好ましいウイルスベクターは遺伝子導入効率および遺伝子発現効率が高く、発現が長期にわたるという特徴を有している。パラミクソウイルス、特にセンダイウイルスをベースにした本発明のウイルスベクターは、上記特徴が顕著である。
【0015】
上述のごとく、本発明のウイルスベクターのベースとなるウイスルはマイナス鎖RNAウイルスである。マイナス鎖RNAウイルスとしては、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科などが挙げられる。パラミクソウイルス科はパラミクソウイルス亜科およびニューモウイルス亜科を含む。パラミクソウイルス亜科には、パラミクソウイルス属(センダイウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス1型、ヒトパラインフルエンザウイルス3型など)、モルビリウイルス属(麻疹ウイルス、イヌジステンパーウイルス、牛疫ウイルスなど)、およびルブラウイルス属(ムンプスウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス2型、ニューカッスル病ウイルス、サルパラインフルエンザウイルスなど)が含まれる。ニューモウイルス亜科にはニューモウイルス属(RSウイルス、マウス肺炎ウイルス、ウシRSウイルスなど)が含まれる。
【0016】
本発明において、いずれのマイナス鎖ウイスルをベースにしたベクターを用いてもよい。本発明において、好ましいのはパラミクソウイルス科のウイルスをベースにしたウイルスベクターである。本発明において、より好ましいのはセンダイウイルスをベースにしたウイルスベクターである。センダイウイルスは持続感染が可能であり、宿主における抗CD81抗体の発現も持続的なものとなるので都合がよい。
【0017】
本明細書において、ウイルスをベースにしたベクターは、当該ウイルスのゲノムの全部または一部を含むベクターをいい、そのゲノムは改変されていてもよい。安全性の向上、発現効率の向上、導入できる遺伝子のサイズの拡大、宿主免疫惹起の抑制などの目的に応じてウイルスゲノムを改変してもよい。改変は人為的になされたものであってもよく、自然変異によるものであってもよい。ウイルスゲノムの改変は公知の手段、方法を用いて行うことができる。例えば、センダイウイルスの場合であれば、F、HN、Mの各遺伝子をすべて欠損させることにより、ウイルス抗原の細胞外への放出を最小限に抑えて安全性を確保してもよい。目的に応じてウイルスゲノムのコドンを最適化してもよい。
【0018】
ウイルスベクターは、導入遺伝子の発現をチェックするためのマーカー遺伝子(例えば薬剤耐性遺伝子やGFP遺伝子等)等を適宜含んでいてもよい。
【0019】
本発明において、ステルス型のウイルスベクターを用いてもよい。ステルス型のウイルスベクターは、宿主の自然免疫機構に認識され難い、あるいは認識されないベクターであり、宿主免疫の惹起を抑制または無くすことができるベクターである。ウイルスベクターのステルス化の方法は公知であり、例えば、ウイルスゲノム中のPAMP構造を改変または除去する、自然免疫機構を抑制する因子をウイルスゲノムに追加する等の方法が挙げられる。センダイウイルスをベースとしたステルス型のベクターの例としては、限定するものではないが、SRVTMベクター(ときわバイオ株式会社製)が挙げられる。
【0020】
CD81は、RAの原因物質であるシノビオリンの発現調節に関与している。そのため、CD81を標的としたRA治療が提案されている。しかしながら、CD81を標的としたRAの遺伝子治療は行われていなかった。かかる状況かにおいて、本発明によって、抗CD81抗体をコードする遺伝子を含む、マイナス鎖RNAウイルスをベースにしたRA治療用ベクターが提供され、効果的かつ安全性の高いRAの遺伝子治療が可能となる。
【0021】
本明細書において、抗CD81抗体は、CD81を特異的に認識し、結合して、CD81の活性を抑制または消失させる抗体である。抗CD81抗体は、CD81の全体または一部を認識する。CD81は細胞外ループを有しており、そのうちの1つはLEL(large extracellular loop)と呼ばれている。抗CD81抗体はCD81のLELを認識し、結合するものであってもよい。
【0022】
抗CD81抗体はポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。以下において、抗CD81抗体という場合は、抗CD81モノクローナル抗体をいうものとする。
【0023】
本発明で用いる抗CD81抗体は、CD81の全体または一部のアミノ酸配列を有するペプチドを免疫原として用いて得ることができる。CD81のアミノ酸配列は公知であるので、当業者は公知の遺伝子工学的手法および/または合成化学的手法を用いてCD81の部分ペプチドを作成することができる。
【0024】
本発明で用いられる抗CD81抗体の作成方法について説明する。先ず、CD81またはその部分ペプチドを動物に投与して免疫を行う。動物への免疫方法、手段は当業者に公知である。動物への免疫は、例えば皮下注射、皮内注射、静脈注射、脾臓への直接注射などの公知の経路によってCD81またはその部分ペプチドを投与して行う。動物としては、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、サル、などが例示されるが、これらに限定されない。CD81またはその部分ペプチドを動物に投与する際にフロイントの完全または不完全アジュバント等のアジュバントを用いることが好ましい。アジュバントの種類や用法についても公知である。
【0025】
次いで、免疫された動物から脾臓細胞を取り出し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得る。ハイブリドーマの取得方法は当業者に公知である。細胞融合法も公知であり、例えばポリエチレングリコールを用いる方法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合法などが挙げられるが、これらの方法に限定されない。目的の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングし、ハイブリドーマのクローン化を行う。ハイブリドーマの選択方法、抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング方法は当業者に公知である。抗体活性の測定方法についても、目的とする抗体の特性に応じて当業者が適宜選択することができる。ハイブリドーマのクローン化方法も公知である。上記の方法以外にも、所望のモノクローナル抗体を作成する方法が知られており、例えばファージディスプレイ法を用いてもよい。
【0026】
抗CD81抗体の例としては、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号NITE P-02092を付与されたハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体、および独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号NITE P-02093を付与されたハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書において、特に断らない限り、抗CD81抗体という場合は、その変異体、改変体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、およびフラグメント(例えばFv、scFv、dsFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体など)等を包含するものとする。
【0028】
抗体の変異体、改変体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、およびフラグメントは公知であり、公知の方法を用いて、これらを得ることができる。
【0029】
抗CD81抗体の変異体、改変体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、およびフラグメントは、元の抗CD81抗体の特徴を維持しているものである。これらは、例えば、元の抗CD81抗体と同程度またはそれ以上の強さでRAを治療することができるものであることが好ましい。これらは、元の抗CD81抗体と同じエピトープを認識するものであってもよく、異なるエピトープを認識するものであってもよい。変異体や改変体の重鎖の3つの相補性決定領域(重鎖のCDR1、CDR2、CDR3)および軽鎖の3つの相補性決定領域(軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3)のアミノ酸配列が、元の抗CD81抗体の重鎖の重鎖のCDR1、CDR2、CDR3および軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列と同じであってもよく、異なっていてもよい。相補性決定領域のアミノ酸配列の相違は各CDRあたり1残基、2残基または3残基が好ましい。また、そのような相違は同族アミノ酸間の置換であってもよい。同族アミノ酸は当業者に公知である。同族アミノ酸の例を以下の「」に示す(アミノ酸標記は3文字法による):「Gly,Ala」、「Lys,Arg,His」、「Asp,Glu」、「Asn,Gln」、「Ser,Thr」、「Cys,Met」、「Phe,Trp,Tyr」、「Val,Leu,Ile」。
【0030】
抗CD81抗体のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列の決定は当業者が容易に行いうる。抗CD81抗体をコードする遺伝子をウイルスベクターに組み込んで、本発明のウイルスベクターを得ることができる。ウイルスベクターへの遺伝子の組み込みは公知の方法にて行うことができる。組み込まれる遺伝子のサイズや配列、使用するウイルスベクターのゲノム構造やベースとなるウイルスの種類等に応じて、組み込み位置や組み込み遺伝子数などを決定することができる。発現された抗CD81抗体がRA治療効果を有する限り、抗CD81抗体の全体をコードする遺伝子をウイルスベクターに組み込んでもよく、その一部をウイルスベクターに組み込んでもよい。例えば、抗CD81抗体のH鎖全体とL鎖全体をコードする遺伝子をタンデムにウイルスベクターに組み込んでもよい。
【0031】
かくして得られたウイルスベクターをRAの治療に用いることができる。本発明のウイルスベクターはヒトに投与されるが、ヒト以外の動物に投与してもよい。投与する動物に適合した抗CD81抗体遺伝子を選択することができる。本発明のウイルスベクターをヒトに投与する場合、キメラ、ヒト化、または完全ヒト化抗CD81抗体が発現されることが好ましい。
【0032】
本発明は、もう1つの態様において、本発明のベクターを含む、RA治療用医薬組成物を提供する。
【0033】
本発明の医薬組成物の投与は局所投与(例えば患部関節への注射、パッチ、ゲル、軟膏等の適用)であってもよく、全身投与(例えば輸液等)であってもよい。好ましくは、本発明の医薬組成物を患部関節への注射により投与する。
【0034】
本発明の医薬組成物の剤形は、投与経路に合わせて選択することができ、例えば注射剤とすることができる。各剤形の製造方法は公知である。例えば、注射剤の製造方法は以下の工程:成分の計量、担体との混合・溶解、濾過滅菌、容器への充填、溶封、異物検査、および包装・表示を含むものであってもよい。担体の例としては、注射用水、生理食塩水などが挙げられるが、これらに限定されない。注射剤は、バイアル、アンプル、プレフィルドシリンジの形態であってもよい。注射剤は、溶液、懸濁液の形態であってもよく、あるいは成分を凍結乾燥した固形注射剤の形態であってもよい。注射剤は、緩衝剤、等張化剤、安定剤、保存剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
本発明の医薬組成物の1回の投与量は、典型的には、約1ml~約5ml(7.0 × 108 CIU/mLのベクターを含有する液剤の場合)であるが、患者の年齢、体重、症状の重さ、受けている他の治療等を考慮して、医師が適宜決定、変更することができる。本発明の医薬組成物を数週間に1回~数回、あるいは数ヶ月に1回~数回投与してもよい。本発明の医薬組成物の投与間隔もまた、医師が適宜決定、変更することができる。
【0036】
本発明は、さらなる態様において、以下のものを提供する:
抗CD81抗体をコードする遺伝子を含むマイナス鎖RNAウイルスをベースにしたベクターを関節リウマチ患者に投与することを含む、該患者における関節リウマチの治療方法、
関節リウマチの治療薬の製造のための、抗CD81抗体をコードする遺伝子を含むマイナス鎖RNAウイルスをベースにしたベクターの使用、ならびに
関節リウマチの治療に用いられる、抗CD81抗体をコードする遺伝子を含むマイナス鎖RNAウイルスをベースにしたベクター。
【0037】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものと解すべきではない。
【実施例0038】
実施例1.RA治療用ベクターの構築
(a)コントロールベクター(SeVdp-control vector:
図1の上段のベクター)
以下の実験において、SRV
TM control Vector(ときわバイオ株式会社)をコントロールベクターとして使用した。
【0039】
(b)抗CD81抗体遺伝子を導入したRA治療用マイナス鎖RNAウイスルベクター(SeVdp-antiCD81 vector:
図1の下段のベクター)
(1)キメラ抗CD81抗体
キメラ抗CD81抗体はT. Yamasaki et al., Journal of Hard Tissue Biology 28(3) (2019) 239-244(参照により本明細書に一体化させる)に記載された手順に従って得られたものであった。キメラ抗CD81抗体は、マウス由来の可変領域にラット由来の定常領域を組み合わせたものであった。
【0040】
(2)キメラ抗CD81抗体遺伝子のベクターへの組み込み
上記コントロールベクターのEGFP遺伝子とPuroP遺伝子の間のXma1部位およびNot1部位の間に、キメラ抗CD81抗体のH鎖遺伝子とL鎖遺伝子をタンデムに挿入することにより、RA治療用マイナス鎖RNAウイスルベクター(SeVdp-antiCD81 vector)を得た。
図1の下段のEGFP遺伝子、キメラ抗CD81抗体のH鎖遺伝子、キメラ抗CD81抗体のL鎖遺伝子、およびPuroP遺伝子を含む領域の塩基配列を配列番号:1に示す。なお、SeVdp-control vectorおよびSeVdp-antiCD81 vectorは、センダイウイルスをベースにしたステルス型RNAベクターである。