(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132968
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】加熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220906BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031739
(22)【出願日】2021-03-01
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】307046866
【氏名又は名称】株式会社サイダ・FDS
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】吉村 武朗
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA15
4B029GB01
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】複数の被処理液に対する加熱処理を効率的に実行可能な加熱処理装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波により被処理液を加熱処理する加熱処理装置100は、被処理液を貯留する複数のサンプル容器1と、被処理液に対する非混和性を有する非混和液を貯留する非混和液貯留容器(貯留容器)2と、複数のサンプル容器1のそれぞれから吸引した各被処理液の間に非混和液貯留容器2から吸引した非混和液を介在させた状態で、各被処理液及び非混和液を吐出する吐出部4と、吐出部4から吐出された各被処理液及び非混和液が導かれる流通管5aを含み、流通管5aを断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部5と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波により被処理液を加熱処理する加熱処理装置であって、
前記被処理液を貯留する複数のサンプル容器と、
前記被処理液に対する非混和性を有する非混和液を貯留する貯留容器と、
前記複数のサンプル容器のそれぞれから吸引した各被処理液と前記貯留容器から吸引した前記非混和液とを各被処理液の間に前記非混和液を介在させた状態で吐出する吐出部と、
前記吐出部から吐出された各被処理液及び前記非混和液が導かれる流通管を含み、前記流通管を断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、
を含む、加熱処理装置。
【請求項2】
前記流通管は、螺旋状に形成された螺旋状通路部を有する、請求項1に記載の加熱処理装置。
【請求項3】
前記流通管を含む装置内送液系における前記被処理液及び前記非混和液が接触する部分は、疎水性を有する、請求項1又は2に記載の加熱処理装置。
【請求項4】
前記被処理液は、親水性を有し、
前記非混和液は、疎水性を有する、請求項1~3のいずれか一つに記載の加熱処理装置。
【請求項5】
前記被処理液は、生体試料から抽出した核酸を含む検体と標的遺伝子の核酸の増幅に用いられる試薬とを含む溶液であり、
前記流通管は、所定の等温下で前記標的遺伝子の核酸を増幅させる等温核酸増幅反応がなされる領域を構成する、請求項1~4のいずれか一つに記載の加熱処理装置。
【請求項6】
前記標的遺伝子の核酸の増幅を検出する検出部を含む、請求項5に記載の加熱処理装置。
【請求項7】
前記等温核酸増幅反応は、LAMP法によるものである、請求項5又は6に記載の加熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射して化学反応の促進などの処理を被処理液に施す加熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波の有する高周波エネルギーが物質の化学反応を促進することが見出され、バイオケミストリーなどの産業、科学、医療の分野において、マイクロ波を利用した加熱処理装置への関心が高まっている。
【0003】
このようなマイクロ波を利用した加熱処理装置の一例として、特許文献1に記載された遺伝子増幅装置が知られている。この遺伝子増幅装置は、マイクロ波を発生するマグネトロンと、遺伝子(換言すると、生体試料から抽出した核酸を含む検体)と酵素とを含む溶媒が載置されるテーブルとを備え、マイクロ波をテーブル上の溶媒に照射することにより溶媒を直接加熱し、これにより、核酸の増幅がなされ得るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、鼻咽頭拭い液等の生体試料から抽出した核酸を含む複数の検体についての核酸増幅を行う場合には、各検体における核酸増幅反応が個別になされる必要がある。しかしながら、特許文献1に記載された遺伝子増幅装置では、検体を含む溶媒は単に二枚の基板の間に挟まれた状態やカートリッジに注入された状態でテーブル上に載置されており、単にテーブル上に載置された検体にマイクロ波を照射することによって検体における核酸増幅反応がなされるようになっている。そのため、この遺伝子増幅装置を用いて、複数の検体についての核酸増幅を行う場合には、検体が変わる度に、検体を含む溶媒を二枚の基板の間に挟んだりカートリッジに注入したりする必要があり、効率性の点において問題があり、その工夫が求められ得る。そして、このような問題は、複数の検体についての核酸増幅のための加熱処理に限らず、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理に共通するものである。
【0006】
本発明は上記課題に着目してなされたもので、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理を効率的に実行することができる加熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、マイクロ波により被処理液を加熱処理する加熱処理装置は、前記被処理液を貯留する複数のサンプル容器と、前記被処理液に対する非混和性を有する非混和液を貯留する貯留容器と、前記複数のサンプル容器のそれぞれから吸引した各被処理液の間に前記貯留容器から吸引した前記非混和液を介在させた状態で、各被処理液及び前記非混和液を吐出する吐出部と、前記吐出部から吐出された各被処理液及び前記非混和液が導かれる流通管を含み、前記流通管を断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
前記一側面による前記加熱処理装置によれば、前記吐出部によって、前記複数のサンプル容器のそれぞれから吸引した各被処理液と当該被処理液に対する非混和性を有する前記貯留容器から吸引した非混和液とを各被処理液の間に前記非混和液を介在させた状態で吐出し、前記吐出部から吐出された前記被処理液及び前記非混和液を含む流体が導かれる流通管を含む前記マイクロ波照射部によって、前記流通管を断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射している。つまり、この加熱処理装置では、各被処理液どうしの間に非混和液を介在させた状態で流通管内を断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射している。これにより、加熱処理装置は、非混和液によって互いに物理的に分離された状態で流れた各被処理液に、マイクロ波を照射していることになる。その結果、各被処理液における化学反応は、それぞれ物理的に分離された状態で個別になされる。したがって、この加熱処理装置によれば、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理を連続的且つ個別に次々に施すことができ、従来のいわばバッチ処理タイプの特許文献1に記載の装置と比較して、効率的な加熱処理を実行することができる。
【0009】
このようにして、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理を効率的に実行することができる加熱処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加熱処理装置の概略の構成図である。
【
図2】前記加熱処理装置の吐出部における移動機構部を説明するための概念図である。
【
図3】前記加熱処理装置におけるマイクロ波照射部の概略の構成図である。
【
図4】前記マイクロ波照射部の空胴共振器の概略図であり、(A)は
図3と同じ側面から見た正面図、(B)は左側側面図、(C)は上面図である。
【
図5】前記マイクロ波照射部における流通管の前記空胴共振器(の照射室)への設置状態の一例を示す断面図である。
【
図6】前記加熱処理装置における被処理液の吸引動作を説明するための図である。
【
図7】前記加熱処理装置における被処理液の注入動作を説明するための図である。
【
図8】前記加熱処理装置における主に洗浄動作を説明するための図である。
【
図9】前記加熱処理装置におけるオイル充填動作を説明するための図である。
【
図10】前記加熱処理装置の変形例を説明するための概略の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る加熱処理装置100の概略の構成図である。
【0012】
図1において、加熱処理装置100は、マイクロ波により被処理液を加熱処理する装置(システム)であり、流通管5aを流れる被処理液にマイクロ波を照射することにより連続的に加熱処理を実行可能な、連続フロー式の装置である。本実施形態では、加熱処理装置100は、遺伝子検査のための装置として用いられるものとする。
【0013】
ここで、遺伝子検査は、感染症の診断等の様々な分野で利用されている。感染症の診断では、特定のウィルス(例えば、SARS-CoV-2)等の遺伝子(標的遺伝子)に由来する核酸の検出が遺伝子検査により行われている。このような遺伝子検査は、例えば、鼻咽頭拭い液、咽頭拭い液及び唾液等のヒト由来の生体試料に対して行われ、大きく区分すると、生体試料からの核酸の抽出と、標的遺伝子の核酸の増幅と、その増幅の検出とに分けられる。ここで、生体試料からの核酸の抽出は事前になされており、核酸の増幅とその増幅の検出が加熱処理装置100においてなされるものとする。つまり、生体試料からの核酸の抽出は加熱処理装置100による加熱処理の前処理として事前になされている。
【0014】
本実施形態では、加熱処理装置100における加熱対象の被処理液は、生体試料から抽出した核酸を含む検体と標的遺伝子(ここでは、SARS-CoV-2の遺伝子)の核酸の増幅に用いられる試薬とを含む溶液であるものとする。試薬については、後に詳述する。
【0015】
本実施形態では、加熱処理装置100では、マイクロ波により被処理液を加熱処理することにより、標的遺伝子に由来する核酸が被処理液内の検体に含まれている場合には、標的遺伝子の核酸が増幅する。これにより、ウィルス(SARS-CoV-2)の感染の有無(陽性又は陰性)が診断され得る。
【0016】
本実施形態では、加熱処理装置100は、複数のサンプル容器1と、非混和液貯留容器2と、洗浄液貯留容器3と、吐出部4と、流通管5aを含むマイクロ波照射部5と、検出部6と、を含む。なお、本実施形態では、非混和液貯留容器2が本発明に係る「貯留容器」に相当する。
【0017】
本実施形態では、加熱処理装置100における流通管5aを含む装置内送液系における液体(被処理液や非混和液)が接触する部分は、疎水性を有する。
【0018】
サンプル容器1は、被処理液を貯留する樹脂製の容器であり、蓋つきのチューブ状に形成されている。サンプル容器1は、蓋側を上に向けた姿勢でサンプルトレー7に保持される。サンプルトレー7には、複数の孔が開口されており、これらの孔のそれぞれにサンプル容器1が嵌め込まれることによって、複数のサンプル容器1が整列して保持される。サンプル容器1の蓋部には、後述する中空針41aが突き刺さって嵌入可能な部材からなる薄肉部が設けられる。
【0019】
ここで、標的遺伝子の核酸を増幅させる核酸増幅反応は、様々な方式のものがある。本実施形態では、この核酸増幅反応として、所定の等温下で標的遺伝子の核酸を増幅させる等温核酸増幅反応が採用されている。具体的には、等温核酸増幅反応は、LAMP(Loop‐mediated Isothermal Amplification)法によるものである。
【0020】
LAMP法は、複数の種類(4種類)のプライマーと鎖置換型合成酵素等を用いて目的とするDNA(標的遺伝子の核酸)の両端にループ構造を作り、目的とするDNA(塩基配列)の部分だけを大量に増幅させる方法である。但し、逆転写酵素を用いてRNAからも目的とするDNAの増幅を行うこともできる。本実施形態では、RNAから目的とするDNAの増幅を行うものとする。したがって、前処理において生体試料から抽出される核酸はRNAである。この生体試料からのRNAの抽出は核酸抽出用試薬を用いてなされ、生体試料から抽出されたRNAを含む溶液が検体として用意(調製)される。
【0021】
被処理液は、前述したように、生体試料から抽出した核酸(ここでは、RNA)を含む検体と標的遺伝子の核酸の増幅に用いられる試薬とを含む溶液である。そして、本実施形態では、被処理液は、親水性を有している。前処理において事前に用意された検体は、ピペット等によってサンプル容器1に注入される。試薬は、特定のウィルスに含まれる核酸(ここではSARS-CoV-2ゲノムRNA)の増幅用に設計されたものであり、ここでは、4種類のプライマーと、逆転写酵素と、鎖置換型DNA合成酵素と、デオキシヌクレオチド3リン酸、硫酸マグネシウム、カルセイン、塩化マンガンを含む。これらの成分のうちプライマー以外のものは乾燥試薬として各サンプル容器1の蓋部の裏側の部分に溶解可能に収納されており、4種類のプライマーを含むプライマーミックスは、ピペット等によってサンプル容器1に注入される。その後、蓋部が閉じられた状態のサンプル容器1が複数回転倒されることによって、乾燥試薬が溶解する。これにより、サンプル容器1内において、検体と標的遺伝子の核酸の増幅に用いられる試薬とが混合され、これにより、被処理液がサンプル容器1内で調製されて貯留される。この調製はサンプル容器1毎になされる。そして、サンプルトレー7には、このような調製後の被処理液が貯留された複数のサンプル容器1が蓋部を閉じた状態で保持されている。
【0022】
非混和液貯留容器2は、被処理液に対する非混和性を有する非混和液を貯留する容器である。つまり、非混和液は、被処理液と接触したとしても当該被処理液と混じり合わない性質を有している。また、本実施形態では、非混和液は、疎水性を有する。特に限定されるものではないが、非混和液は、ミネラルオイル(鉱物性オイル)等のオイルである。
【0023】
洗浄液貯留容器3は、吐出部4内における被処理液や非混和液が流れる経路を洗浄するための洗浄液を貯留する容器である。
【0024】
吐出部4は、複数のサンプル容器1のそれぞれから吸引した各被処理液と非混和液貯留容器2から吸引した非混和液とを各被処理液の間に非混和液を介在させた状態で吐出する装置である。本実施形態では、吐出部4は、シリンジヘッド41と移動機構部42(後述の
図2参照)とを有する。
【0025】
シリンジヘッド41は、サンプル容器1から被処理液を吸引するためのものであり吸引用の中空針41aを有している。中空針41aは、サンプル容器1の蓋部の薄肉部に突き刺さって当該薄肉部を貫通し、その先端部がサンプル容器1内に嵌入できるように形成されている。中空針41aの先端部は、例えば、円錐状に形成されている。吐出部4には、シリンジヘッド41の中空針41aが抜き差しされる針嵌合部を有した接続部43が設けられる。接続部43は、例えば、テフロン系樹脂(テフロン:登録商標)からなる。また、接続部43の前記針嵌合部は、中空針41aの円錐状の先端部と接触する円錐面を有している。
【0026】
図2は、移動機構部42を説明するための概念図である。移動機構部42は、シリンジヘッド41を接続部43と複数のサンプル容器1のうちのいずれかとの間で移動させるものである。移動機構部42は、シリンジヘッド41を上下、左右及び前後に移動可能に保持する。
【0027】
図2において、移動機構部42は、例えば、一対の縦フレーム42aと、一対の縦フレーム42aの間において縦フレーム42aに沿って上下に移動可能に水平に支持された横フレーム42bと、一対の縦フレーム42a及び横フレーム42bからなるユニットを左右に移動可能に支持する一対のベースフレーム42cとを有する。そして、横フレーム42bの下面には、シリンジヘッド41を保持するシリンジヘッド保持部42dが当該横フレーム42bに沿って前後方向に移動可能に支持されている。シリンジヘッド保持部42dは、シリンジヘッド41をその中空針41aの先端部を下方に向けた姿勢で保持する。
【0028】
移動機構部42は、上下、左右及び前後の移動用の駆動部(図示省略)を有する。移動機構部42の前記駆動部は、図示省略の吐出部用制御部によってその動作が制御される。移動機構部42は、接続部43に対応する位置でシリンジヘッド41を上下させることにより、中空針41aを接続部43の針嵌合部に接続させ又は針嵌合部から離脱させ、シリンジヘッド41を左右及び前後に移動させることにより、接続部43の上方位置と各サンプル容器1の上方位置との間でシリンジヘッド41を移動させ、サンプル容器1に対応する位置でシリンジヘッド41を上下させることにより、中空針41aの先端部を蓋部の薄肉部を通じてサンプル容器1内に嵌入させ又はサンプル容器1外に移動させる。
【0029】
サンプル容器1には、例えば、検体を識別可能なID情報が記録されたバーコード等が表示されており、加熱処理装置100は、各サンプル容器1のID情報を読み取るバーコードリーダ等のID情報読取部(図示省略)を有している。前記ID情報読取部は、例えば、移動機構部42のシリンジヘッド保持部42dに取り付けられており、シリンジヘッド保持部42dを被処理液の吸引対象のサンプル容器1に対応する位置に移動させたときに、そのサンプル容器1に表示されているID情報を読み取るように構成されている。前記ID情報読取部が読み取ったID情報のデータは、読み取られた順番(換言すると、被処理液を吸引した順番)を識別可能な状態で記憶される。
【0030】
図1に戻って、吐出部4は、被処理液や非混和液等を送液するための送液流路(内部流路)を有する。この送液流路は、例えば、疎水性を有するテフロン系樹脂からなるチューブや接手からなる。
【0031】
吐出部4は、第1切替弁V1と、第2切替弁V2と、第3切替弁V3と、を更に有する。各切替弁(V1~V3)は、それぞれ、例えば、電磁駆動式又はエア駆動式の切替弁であり、前記吐出部用制御部によってその動作が制御される。
【0032】
第1切替弁V1は、例えば、6方弁であり、第1ポートP1~第6ポートP6の6個のポートを有する。第1切替弁V1は、第1ポートP1と第2ポートP2とを接続し、第3ポートP3と第4ポートP4とを接続し、第5ポートP5と第6ポートP6とを接続する第1状態(
図1に実線で示す状態)と、第2ポートP2と第3ポートP3とを接続し、第4ポートP4と第5ポートP5とを接続し、第6ポートP6と第1ポートP1とを接続する第2状態(
図1に破線で示す状態)とに選択的に切り替わる弁体を有する。
【0033】
第2切替弁V2は、例えば、3方弁であり、第7ポートP7~第9ポートP9の3個のポートを有する。第2切替弁V2は、第7ポートP7の接続先を第8ポートP8(
図1に実線で示す状態)と第9ポートP9(
図1に破線で示す状態)とに選択的に切り替える弁体を有する。
【0034】
第3切替弁V3は、例えば、3方弁であり、第10ポートP10~第12ポートP12の3個のポートを有する。第3切替弁V3は、第10ポートP10の接続先を第11ポートP11(
図1に実線で示す状態)と第12ポートP12(
図1に破線で示す状態)とに選択的に切り替える弁体を有する。
【0035】
ここで、第1切替弁V1において、第1ポートP1は非混和液貯留容器2に吐出部4の前記送液流路によって接続される。同様に、第2ポートP2は吐出部4の吐出口44に、第4ポートP4は第1廃液容器45に、第5ポートP5は第2切替弁V2(第7ポートP7)に、第6ポートP6はシリンジヘッド41に、それぞれ、吐出部4の前記送液流路によって接続される。第3ポートP3には、接続部43が取り付けられ、中空針41aは接続部43を介して第3ポートP3に接続可能になっている。そして、第6ポートP6とシリンジヘッド41との間の前記送液流路のチューブは、シリンジヘッド41の移動を許容するように、伸縮自在に、その一部が渦巻状に巻回されている。第2切替弁V2において、第8ポートP8は後述するシリンジ48に、第9ポートP9は第3切替弁V3(第10ポートP10)に、前記送液流路によって接続される。第3切替弁V3において、第11ポートP11は洗浄液貯留容器3に、第12ポートP12は非混和液貯留容器2に、前記送液流路によって接続される。
【0036】
吐出部4は、非混和液用ポンプ46と、洗浄液用ポンプ47と、シリンジ48と、を更に有する。これらの機器(46~48)の動作は前記吐出部用制御部によって制御される。各ポンプ(46、47)は、例えば、流量(流速)可変のポンプからなり、流通管5aを流れる被処理液の流量(流速)を変更することができるように構成されている。
【0037】
非混和液用ポンプ46は、非混和液貯留容器2内の非混和液を吸引して吐出するポンプであり、非混和液貯留容器2と第1ポートP1との間の前記送液流路に設けられる。洗浄液用ポンプ47は、主に洗浄液貯留容器3内の洗浄液を吸引して吐出するポンプであり、第2切替弁V2の第9ポートP9と第3切替弁V3の第10ポートP10との間の前記送液流路に設けられる。シリンジ48は、主にサンプル容器1内の被処理液を吸引するための負圧を発生させるものであり、第2切替弁V2の第8ポートP8に前記送液流路を通じて接続される。
【0038】
ここで、吐出部4は、前述したように、複数のサンプル容器1のそれぞれから吸引した各被処理液と非混和液貯留容器2から吸引した非混和液とを各被処理液の間に非混和液を介在させた状態で吐出するものである。具体的には、吐出部4は、前記吐出部用制御部からの指令に基づいて、非混和液貯留容器2から吸引して吐出した非混和液の流れに複数のサンプル容器1から個別に吸引した所定量の各被処理液を断続的に合流させ、所定量の各被処理液(つまり、各処理液の液滴)どうしを非混和液により分離させた状態で、
図1に示すように、被処理液を吐出口44から断続的に吐出するように、各機器(V1~V3、46~48)を駆動させる。吐出部4から吐出された被処理液及び非混和液は、吐出口44とマイクロ波照射部5に設けられる入口ポート5bとの間を接続する接続管L1を通じてマイクロ波照射部5に導かれる。この接続管L1は疎水性を有するテフロン系樹脂からなる。なお、図(例えば
図1)では、吐出部4から吐出された所定量の被処理液は液滴状にまとまって流れているものとして示されているが、各被処理液は接続管L1や流通管5a等の内径に応じた流れ方向の広がりを有した状態で接続管L1や流通管5a等を流れ得る。
【0039】
吐出部4は、換言すると、被処理液と非混和液とが交互に流れる液-液の2層の流れ(フロー)を形成し、この液-液2層の状態で被処理液及び非混和液をマイクロ波照射部5へ供給(送液)する供給装置10の主要部をなす。この供給装置10は、複数のサンプル容器1と、非混和液貯留容器2と、洗浄液貯留容器3と、吐出部4と、サンプルトレー7を含んだユニットからなる。また、図示省略したが、供給装置10は、サンプルトレー7に複数のサンプル容器1を保持した状態で、各サンプル容器1内の被処理液を所定の低温度(ここでは、例えば、4℃程度)で冷温保管できるように構成されている。
【0040】
なお、ここで説明した吐出部4は一例にすぎず、各被処理液と非混和液とを各被処理液の間に非混和液を介在させた状態で吐出することのできる種々の構成の機構が用いられ得る。また、吐出部4の詳しい動作については、後に説明する。
【0041】
次に、マイクロ波照射部5について説明する。マイクロ波照射部5は、吐出部4から吐出された各被処理液及び非混和液が導かれる流通管5aを含み、流通管5aを断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射する装置である。
【0042】
具体的には、マイクロ波照射部5は、共振空胴型のマイクロ波照射装置である。マイクロ波照射部5は、
図3に示されるように、マイクロ波発生器51と、導波管52と、空胴共振器53と、制御器54とを含む。また、空胴共振器53には、アンテナ55、55と、流通管5aとが設置されている。マイクロ波照射部5は、入口ポート5bから流入して流通管5aを流れる流体(ここでは、前述したように、液-液の2層に流れる非混和液及び被処理液)にマイクロ波を照射するように構成されている。以下、マイクロ波照射部5の各構成要素について説明する。
【0043】
マイクロ波発生器51は、所定周波数のマイクロ波を発生する。マイクロ波発生器51は、可変周波数発振器511と可変増幅器512とを含む。可変周波数発振器511は、周波数が可変のマイクロ波を出力可能に構成されている。本実施形態において、可変周波数発振器511は、ISM周波数帯である2.4GHz~2.5GHzの範囲内でマイクロ波の周波数を変更可能である。可変増幅器512は、可変周波数発振器511から出力されたマイクロ波のパワーを増幅する。なお、可変周波数発振器511及び可変増幅器512の動作、すなわち、マイクロ波発生器51から出力されるマイクロ波の周波数及びパワーは、制御器54によって制御される。
【0044】
導波管52は、マイクロ波発生器51から出力されたマイクロ波を空胴共振器53へと導波する。具体的には、マイクロ波発生器51から出力されたマイクロ波は、同軸ケーブル57でつながれたアイソレータ571、方向性結合器572などを介して同軸導波管変換器573に送られる。そして、同軸導波管変換器573を経たマイクロ波が、導波管52によって導波されて後述するアイリス(結合窓、結合スリット)531を通って、空胴共振器53内に形成された空胴部(照射室)532に導入される。
【0045】
空胴共振器53は、照射室532にマイクロ波を導入して電磁場の共振を生じさせる。
図4は、空胴共振器53の概略構成図である。
図4(A)は空胴共振器53の正面図、
図4(B)は空胴共振器53の左側面図、
図4(C)は空胴共振器53の平面図である。
【0046】
図4に示されるように、空胴共振器53は、互いに対向する正方形状の上壁533及び底壁534と、長方形状の四つの側壁535~538とを有する。そして、空胴共振器53の内部に、四角柱状の空胴部(照射室)532が形成されている。なお、本実施形態において、側壁535は、導波管52を接続するため、導波管52のフランジ521に対応させるようにその面積が広げられている。
【0047】
側壁535の中央部位には、照射室532にマイクロ波を導入するアイリス531が開口している(
図4(B))。アイリス531は、その長辺が、照射室532の中心線C1に平行な縦長の長方形状に形成されている。照射室532の中心線C1は、照射室532の上面の中心と底面の中心と(ここでは、上壁533の中心と底壁534の中心と)を結んだ線である。
【0048】
導波管52からアイリス531を介して照射室532内に導入されたマイクロ波は、共振時に中心線C1の方向に沿ったシングルモードの電界を発生する。本実施形態においては、照射室532内に何もなければ、照射室532内にTM110モードの電磁界が励起される。実際には照射室532内に流通管5aやそこを流れる被処理液が存在するため、厳密な意味でのTM110モードの電磁界とはならないが、おおよそTM110モードの電磁界分布に従った分布の電磁界が照射室532内に発生することになる。
【0049】
導波管52から空胴共振器53へマイクロ波を結合するアイリス531は、照射室532に励起される電磁界を、予定されたシングルモード(TM110)のみとすることに関与する。
図4(B)に示されるアイリス531においては、その長辺(側縁)においてマイクロ波による電流が中心線C1の方向に流れ、当該電流に起因して、中心線C1を囲繞する磁界と中心線C1に平行な電界が発生する。
【0050】
照射室532にマイクロ波が導入されると、中心線C1の方向に離間設置された2本のアンテナ55(例えばループ形のアンテナ)によって電界又は磁界の強度が検知され、その検知結果が制御器54に入力される。例えば、2つのアンテナ出力の一方は観測用に利用され、他方は制御用に利用され得る。ただし、2本のアンテナが必須ということではなく、少なくとも制御用のアンテナがあればよい。また、制御器54には、温度検知部(図示省略)によって検知された流通管5a内を流れる流体(被処理液及び非混和液)の温度も入力される。そして、制御器54は、これらの入力と、オペレータによる設定とに基づいてマイクロ波発生器51を制御するように構成されている。なお、前記温度検知部は、照射室532内における流通管5aの流れ方向の下流側部位を流通する流体の温度を代表温度として計測可能に配置されているものとする。
【0051】
オペレータによってマイクロ波の照射開始の操作が行われると、制御器54は、マイクロ波発生器51によるマイクロ波の出力を開始させ、周波数制御過程を実行する。この周波数制御過程は、アンテナ55による検知結果に従って、マイクロ波発生器51から出力されるマイクロ波の周波数を照射室532の共振周波数に同調させる制御である。周波数制御過程を実行する際、制御器54は、可変周波数発振器511の周波数を掃引しつつアンテナ55による検出結果から同調周波数を判断する。
【0052】
制御器54は、周波数制御過程による同調に続いて、マイクロ波のパワーを制御するパワー制御過程を実行する。このパワー制御過程は、マイクロ波の照射開始前にオペレータによって設定された条件に従ってマイクロ波発生器51の可変増幅器512を制御し、マイクロ波のパワーを制御する過程である。このパワー制御過程において、制御器54は、アンテナ55による検知結果及び/又は前記温度検知部による温度検知結果に基づいて、マイクロ波発生器51から出力されるマイクロ波のパワーを調整する。
【0053】
次に、空胴共振器53(の照射室532)に設置される流通管5aについて説明する。
図5は、流通管5aの空胴共振器53の照射室532への設置状態の一例を示す断面図である。なお、本実施形態において、被処理液及び非混和液は、
図5中の矢印Aに示されるように、流通管5a(すなわち、照射室532内)を下から上に向かって流れるものとする。
【0054】
本実施形態では、流通管5aは、疎水性を有する部材からなる。ここでは、流通管5aは、疎水性を有する樹脂、PEEK材(ポリエーテルエーテルケント)からなるものとする。
【0055】
本実施形態では、流通管5aは、螺旋状に形成された螺旋状通路部5a1を有する。流通管5aは、照射室532を貫通する長さを有している。流通管5aは、その螺旋中心軸線C2が照射室532の中心線C1にほぼ一致するように設置される。
【0056】
また、流通管5aの両端部は、直線状の直管として形成され、その軸線は螺旋中心軸線C2及び中心線C1にほぼ一致するよう配置されている。そして、流通管5aの各直管は、空胴共振器53を構成する上壁533及び底壁534の中央部に外側の突き出すようにそれぞれ配設された円筒部材539における蓋部539aによって支持されている。これにより、流通管5aが空胴共振器53(の照射室532)に設置される。円筒部材539の内径は、螺旋状通路部5a1の巻き外径よりも僅かに大きくなるように設定されている。螺旋状通路部5a1の下端側の部分は下側の円筒部材539の内部空間内に位置し、螺旋状通路部5a1の上端側の部分は上側の円筒部材539の内部空間内に位置している。
【0057】
そして、流通管5aの両端部はそれぞれ照射室532外に突出している。流通管5aの下端部(吐出部4側の端部)には、樹脂製の接手からなる入口ポート5bが接続され、流通管5aの上端部には、樹脂製の接手からなる出口ポート5cが接続される。本実施形態では、加熱処理装置100は、第2廃液容器8を更に有する。そして、出口ポート5cから排出された被処理液及び非混和液は、疎水性を有するテフロン系樹脂からなる排水管L2を経由して主に第2廃液容器8内に導かれる。
【0058】
次に、マイクロ波により被処理液を加熱処理することによる標的遺伝子の核酸の増幅反応について説明する。本実施形態では、前述したように、核酸増幅反応として、等温核酸増幅反応(具体的にはLAMP法による反応)が採用されている。
【0059】
マイクロ波照射部5において、流通管5aを流れる各被処理液に所定周波数及びパワーのマイクロ波が照射され、マイクロ波の流通管5a内の各被処理液が所定の低温度(例えば、4℃)から目標温度(本実施形態では、60℃~65℃の所定の温度、望ましくは、62.5℃)まで瞬時に昇温される。流通管5aの大半の部分は螺旋状通路部5a1で形成されている。したがって、照射室532内において十分な流路長が確保されるため、各被処理液が流通管5aを流れた状態であっても、各被処理液へのマイクロ波の照射時間が十分に確保される。したがって、マイクロ波照射部5の照射室532内において、核酸の十分な増幅に必要な所定の時間(遺伝子増幅時間)の間、各被処理液を目標温度で保温することができる。ここで、標的遺伝子に由来する核酸(ここではSARS-CoV-2ゲノムRNA)が流通管5aを流れる被処理液内の検体に含まれている場合(つまり、特定のウィルス、ここでは、SARS-CoV-2に感染している場合)には、被処理液の検体中の核酸(ここではRNA)を基に逆転写酵素によりcDNAが合成される。そして、このcDNAから鎖置換型DNA合成酵素によりLAMP反応が進行し、検出対象の核酸(DNA)が増幅される。つまり、流通管5a内を流れる各被処理液の液滴内において、LAMP法による等温核酸増幅反応が個別になされ得る。
【0060】
本実施形態では、流通管5aは、所定の等温(ここでは、62.5℃)下で標的遺伝子の核酸を増幅させる等温核酸増幅反応がなされる領域を構成している。具体的には、流通管5aのうちの照射室532内に位置する部分が、等温核酸増幅反応の領域を構成する。なお、照射室532内に発生する電界の強度は、中心線C1を中心に回る円周方向のそれぞれの場所においてほぼ一定とみなすことができる。つまり、螺旋状通路部5a1に沿う方向のそれぞれの場所において電界の強度はほぼ一定とみなすことができる。したがって、ほぼ均一な電界内に流通管5aの螺旋状通路部5a1が配置されることになる。その結果、流通管5aを流れる被処理液に、均一な強度のマイクロ波が照射され、等温核酸増幅反応に極めて好適な加熱処理が流通管5a内でなされる。
【0061】
次に、
図1に戻って、検出部6について説明する。検出部6は、標的遺伝子の核酸の増幅を検出するものである。検出部6は、出口ポート5cと第2廃液容器8との間の排水管L2の経路に設けられている。
【0062】
検出部6における核酸増幅の検出の方式としては、例えば、濁度法又は蛍光法を用いることができる。濁度法は、被処理液が核酸増幅反応の反応副産物として被処理液内に沈殿する沈殿物質によって濁ることを用いる方法である。本実施形態では、被処理液内で核酸増幅反応が生じると、被処理液は沈殿物質(ここではピロリ酸マグネシウム)により白色に濁る。濁度法を採用する場合には、検出部6は被処理液の濁度を検出できるように構成され、濁度の検出することにより、核酸増幅を検出する。また、蛍光法は、試薬中に含まれた蛍光用インカレータが核酸増幅反応に伴って蛍光を発することを用いる方法である。本実施形態では、試薬に含まれるカルセインは、反応前にはマンガンイオンと結合して消光しているが、LAMP反応が進行すると、蛍光を発する。蛍光法を採用する場合には、検出部6は被処理液からの蛍光を検出できるように構成され、蛍光を検出することにより、核酸増幅を検出する。
【0063】
検出部6は、出口ポート5cから排出された被処理液毎(被処理液の液滴毎)に核酸の増幅の有無を検出する。検出部6は、陽性(核酸増幅有り)か陰性(核酸増幅無し)かの定性的な検出結果のデータを、例えば、その検出結果に対応する被処理液(検体)について前記ID情報読取部によって読み取られたID情報と関連付けて記憶する。
【0064】
本実施形態では、排水管L2における検出部6と第2廃液容器8との間の部分には、第2切替弁V2等と同構造の第4切替弁V4が設けられる。第4切替弁V4は、第13ポートP13~第15ポートP15の3個のポートと、第13ポートP13の接続先を第14ポートP14(
図1に実線で示す状態)と第15ポートP15(
図1に破線で示す状態)とに選択的に切り替える弁体と、を有する。第4切替弁V4において、第13ポートP13は検出部6側の入口を構成し、第14ポートP14は第2廃液容器8側の出口を構成する。そして、本実施形態では、加熱処理装置100は、回収容器9を更に有しており、第15ポートP15は疎水性を有するテフロン系樹脂からなる回収管L3を通じて回収容器9に接続されている。第4切替弁V4は、通常は第13ポートP13を第14ポートP14に接続する。
【0065】
検出部6が核酸の増幅を検出すると、第4切替弁V4は図示省略した制御部によって第13ポートP13を第15ポートP15に接続するようにその駆動が制御される。これにより、核酸の増幅が検出された被処理液、つまり、陽性の被処理液が回収容器9内に導かれて回収され、陰性の被処理液及び非混和液は第2廃液容器8内に導かれる。なお、図示省略したが、回収容器9は複数配置されており、陽性の被処理液が回収されると、陽性の被処理液を回収した回収容器9は移動され、別の回収容器9が回収管L3の吐出口の下方位置に自動的に移動されるように構成されている。これにより、陽性の被処理液は回収容器9に回収され、例えば、別の検査方法によって遺伝子の詳細な配列検査等がなされ、検査結果の確度が高まる。
【0066】
次に、加熱処理装置100の動作について、吐出部4による被処理液及び非混和液の吐出動作を中心に説明する。
図6~
図9は、加熱処理装置100の動作を説明するための図であり、
図6は被処理液の吸引動作、
図7は被処理液の注入動作、
図8は洗浄動作、加熱処理動作及び検出動作、
図9はオイル(非混和液)充填動作を説明するための図である。
【0067】
まず、初期状態にある加熱処理装置100において、第1切替弁V1は、第1ポートP1と第2ポートP2とを接続し、第3ポートP3と第4ポートP4とを接続し、第5ポートP5と第6ポートP6とを接続する第1状態(
図1、
図6等に実線で示す状態)にあり、第2切替弁V2は第7ポートP7を第8ポートP8に接続し、第3切替弁V3は第10ポートP10を第11ポートP11に接続し、第4切替弁V4は第13ポートP13を第14ポートP14に接続し、吐出部4の各ポンプ(46、47)及びシリンジ48は停止しており、シリンジヘッド41は接続部43に接続されている。そして、本実施形態では、初期状態において、加熱処理装置100における装置内送液系(つまり、吐出部4の前記送液流路、吐出口44、接続管L1、入口ポート5b、流通管5、出口ポート5c、排水管L2、回収管L3及び各切替弁(V1~V4)内の流路、各ポンプ(46、47)内の流路等を含む送液経路)内には、非混和液が予め充満されている。但し、吐出部4の前記送液流路のうちの第11ポートP11と洗浄液貯留容器3との間の部分には洗浄液が充満されている。なお、
図1、
図6~
図9において、被処理液は黒塗りで示され、非混和液は網掛け模様で示され、洗浄液は斜線で示されている。また、吐出部4は、サンプルトレー7に保持された各サンプル容器1内の被処理液を所定の低温度(ここでは、例えば、4℃程度)で冷温保管することができるように構成されている。
【0068】
加熱処理装置100は、サンプルトレー7にセットされた各サンプル容器1内の被処理液についての加熱処理等の動作を連続的に実行する。つまり、加熱処理装置100は、最初の被処理液についての吸引開始から最後の被処理液についての検査終了まで、連続的に作動するようになっている。
【0069】
具体的には、
図6に示すように、シリンジヘッド41は移動機構部42によって接続部43から最初のサンプル容器1に対応する位置に移動され、シリンジヘッド41の中空針41aの先端部がサンプル容器1内に嵌入する。この状態で、シリンジ48が駆動されることによって、最初のサンプル容器1内の所定量の被処理液がシリンジヘッド41に吸引される。その後、例えば、非混和液用ポンプ46が駆動されるとともに、マイクロ波照射部5によるマイクロ波の照射が開始される。
【0070】
次に、
図7に示すように、第1切替弁V1が前記第1状態(
図7に破線で示す状態)から第2ポートP2と第3ポートP3とを接続し、第4ポートP4と第5ポートP5とを接続し、第6ポートP6と第1ポートP1とを接続する第2状態(
図7に実線で示す状態)に瞬時に切り替わる。その結果、最初のサンプル容器1からシリンジヘッド41に吸引された所定量の被処理液(被処理液の液滴)は、非混和液用ポンプ46により第1ポートP1、第6ポートP6を経由して圧送された非混和液によって第3ポートP3側に押し戻される。そして、押し戻された被処理液は、第3ポートP3及び第2ポートP2を通過し、その後、吐出口44から吐出される。そして、吐出口44から吐出された最初の被処理液は接続管L1、入口ポート5bを経由して流通管5aに導かれる。そして、マイクロ波照射部5は、流通管5a内を流れる最初の被処理液にマイクロ波を照射し続ける。マイクロ波照射後の最初の被処理液は、
図8に示すように、出口ポート5cを通過して、検出部6に導かれる。そして、陰性の場合には、最初の被処理液は第2廃液容器8に導かれる。一方、陽性の場合には、第4切替弁V4が第13ポートP13の接続先を第15ポートP15に切り替え、最初の被処理液は回収容器9に導かれ、その後、第4切替弁V4が元の状態に戻る。
【0071】
ここで、例えば、最初の被処理液が第2ポートP2と吐出口44に位置するタイミング(
図7参照)で、第1切替弁V1が前記第2状態(
図7参照)から前記第1状態(
図8参照)に切り替わる。この動作は非混和液用ポンプ46の駆動中に瞬時に完了するため、最初の被処理液は、前述したように、吐出口44から吐出される。
【0072】
そして、次のサンプル容器1からの被処理液の吸入動作を実行する前に、吐出部4は、
図8に示すように洗浄動作を実行し、その後、
図9に示すようにオイル(非混和液)充填動作を実行する。
【0073】
具体的には、
図8に示すように、第1切替弁V1が前記第2状態(
図8に実線で示す状態)に切り替わり、第2切替弁V2が第7ポートP7の接続先を第9ポートP9に切り替え、さらに洗浄液用ポンプ47が駆動する。これにより、各被処理液どうしのクロスコンタミネーションが生じ得るシリンジヘッド41の中空針41aと接続部43の前記針嵌合部に洗浄液を供給することができる。具体的には、この洗浄液の供給の際に、吐出部4は、シリンジヘッド41の中空針41aを僅かに上昇させ、中空針41aの先端部と接続部43の前記針嵌合部の円錐面との間に僅かな隙間を生じさせる。これにより、中空針41aの先端部の外面及び内面と、接続部43における中空針41aとの接触箇所である前記針嵌合部の円錐面とが、洗浄液によって洗浄される。そして、洗浄液等は、第1廃液容器45内に導かれる。この洗浄動作中においも、非混和液用ポンプ46は駆動し続けている。
【0074】
次に、
図9に示すように、第3切替弁V3が第10ポートP10の接続先を第12ポートP12に切り替える。これにより、吐出部4の前記送液流路内の大半の部分に非混和液が充満され、その後、洗浄液用ポンプ47は停止する。これにより、加熱処理装置100は前述した初期状態に戻る。但し、非混和液用ポンプ46は駆動し続けている。以降、加熱処理装置100は残りのサンプル容器1毎に上記の動作を連続的に実行し、これにより、全てのサンプル容器1の被処理液の加熱処理が完了する。
【0075】
本実施形態による加熱処理装置100によれば、各被処理液どうしの間に非混和液を介在させた状態で流通管5a内を断続的に流れる各被処理液にマイクロ波を照射している。これにより、加熱処理装置100は、非混和液により互いに物理的に分離された状態で流れた各被処理液に、マイクロ波を照射していることになる。その結果、各被処理液における化学反応(ここでは、核酸増幅反応)は、それぞれ物理的に分離された状態で個別になされる。したがって、この加熱処理装置によれば、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理を連続的且つ個別に次々に施すことができ、従来のいわばバッチ処理タイプの装置と比較して、効率的な加熱処理を実行することができる。
【0076】
このようにして、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理を効率的に実行することができる加熱処理装置100を提供することができる。
【0077】
本実施形態では、流通管5aは、螺旋状通路部5a1を有している。これにより、流通管5aを流れる各被処理液へのマイクロ波の照射時間(換言すると加熱時間)が十分に確保され、その結果、マイクロ波照射部5の照射室532内において、化学反応に必要な反応時間、ここでは、核酸の十分な増幅に必要な所定の時間(遺伝子増幅時間)が容易に確保される。また、流通管5aの螺旋状通路部5a1を流れる被処理液に、均一な強度のマイクロ波が照射され、等温核酸増幅反応に極めて好適な加熱処理が流通管5a内でなされる。
【0078】
本実施形態では、吐出部4の前記送液流路やマイクロ波照射部5の流通管5aを含む送液系における液体(被処理液や非混和液)が接触する部分は、疎水性を有する。これにより、流通管5a等の内面への液体(被処理液や非混和液等)の付着が防止又は効果的に抑制され、各サンプル容器1の被処理液どうしのクロスコンタミネーションが防止又は効果的に抑制される。
【0079】
本実施形態では、流通管5aは、等温核酸増幅反応がなされる領域を構成する。これにより、マイクロ波による連続フロー式の加熱処理により、生体試料から抽出した核酸を含む複数の検体(ここでは、被処理液に含まれる検体)についての核酸増幅が連続的且つ迅速になされる。
【0080】
本実施形態では、加熱処理装置100は、標的遺伝子の核酸の増幅を検出する検出部6を有している。これにより、検出部6による検出結果に基づいて、ウィルス(SARS-CoV-2)の感染の有無(陽性又は陰性)が迅速かつ容易に診断され得る。
【0081】
なお、本実施形態では、加熱処理装置100は、1セットの供給装置10(
図1参照)を有するものとしたが、これに限らず、
図10に示すように、複数(図では3セット)の供給装置10を有し、各供給装置10を並列的に駆動させてもよい。これにより、マイクロ波照射部5の流通管5aに導かれる各被処理液(液滴)の間の間隔を狭めることができるため、加熱処理装置100における単位時間あたりに処理可能な検体件数(検査件数)を効果的に高めることができ、ハイスループット処理に好適な加熱処理装置100が提供される。
【0082】
具体的には、
図10に示すように、例えば、第1の供給装置10における吐出口44と入口ポート5bとの間の接続管L1の所定位置に三方弁からなる第5切替弁V5が設けられ、第5切替弁V5と第2の供給装置10の吐出口44の間に第1分岐管L4が設けられ、第1分岐管L4の所定位置に三方弁からなる第6切替弁V6が設けられ、第6切替弁V6と第3の供給装置10の吐出口44の間に第2分岐管L5が設けられる。各供給装置10における最初の被処理液の吸引動作の開始タイミングはずらされており、被処理液が各供給装置10の吐出口44から同時に吐出されないように構成されている。つまり、例えば、被処理液は最初に第1の供給装置10の吐出口44から吐出され、次に第2の供給装置10の吐出口44から吐出され、最後に第3の供給装置10の吐出口44から吐出され、以降は、各供給装置10における最後のサンプル容器1から吸引された被処理液が吐出口44から吐出されるまで、この順番で被処理液が各吐出口44から吐出される。より詳しくは、第1の供給装置10の吐出口44からの吐出のときには、第5切替弁V5は第16ポートP16を第17ポート17に接続し、第2の供給装置10の吐出口44からの吐出のときには、第5切替弁V5は第16ポートP16を第18ポート18に接続し且つ第6切替弁V6は第19ポートP19を第20ポートP20に接続し、第3の供給装置10の吐出口44からの吐出のときには、第5切替弁V5は第16ポートP16を第18ポート18に接続し且つ第6切替弁V6は第19ポートP19を第21ポートP21に接続する。また、例えば、各供給装置10は、自身が被処理液の吐出の番ではないときでも、非混和液用ポンプ46を駆動させることができるように構成されている。具体的には、図示省略するが、各吐出口44と第2ポートP2との間の部分から非混和液を非混和液貯留容器2へ戻す戻し管が設けられ、この戻し管に、所定の圧力で開放する放圧弁が設けられる。
【0083】
また、流通管5aは、螺旋状通路部5a1と前記直管からなるものとしたが、これに限らず、適宜の形状を有した配管を用いることができる。また、空胴共振器53の照射室532は、四角柱状の空胴部である場合で説明したが、これに限らず、円柱状の空胴部であってもよい。この場合、空胴共振器53内に何も入っていなければTM010モードの電磁界が励起される。
【0084】
また、本実施形態で説明した試薬の種類は一例にすぎず、様々な種類の試薬が用いられ得る。また、前記等温核酸増幅反応は、LAMP法に限らず、RCA(Rolling circle Amplification)法などの他の方法でもよい。
【0085】
また、加熱処理装置100は、検出部6を有さなくてもよい。また、加熱処理装置100は、複数の検体についての核酸増幅のための加熱処理に限らず、化学反応が個別になされる必要のある複数の被処理液に対する加熱処理に用いられ得る。
【0086】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態及び上記変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1…サンプル容器、2…非混和液貯留容器(貯留容器)、4…吐出部、5…マイクロ波照射部、5a…流通管、5a1…螺旋状通路部、6…検出部