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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022132969
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】MRP3標的遺伝子改変T細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220906BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20220906BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220906BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220906BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220906BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220906BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220906BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220906BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220906BHJP
   A61K 35/17 20150101ALN20220906BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/725 ZNA
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/63 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/00 H
C07K7/06
A61K35/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031740
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水腰 英四郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 周一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 利克
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C085AA03
4C085BB01
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】進行した肝癌に対して、化学療法や分子標的薬を用いた治療では、治療成績が十分ではないことがあり、また、ペプチドワクチンは即効性に欠ける等の点から、進行肝癌に対する新規な治療薬が必要とされていた。
【解決手段】本発明は、多剤耐性関連タンパク質3(MRP3)由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質、該タンパク質又はこれをコードするポリヌクレオチドを患者由来のT細胞にin vitroで導入することを特徴とする、癌に対する遺伝子治療のためのT細胞の作製方法を提供する。本発明はまた、該T細胞を含む癌治療剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多剤耐性関連タンパク質3(MRP3)由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質。
【請求項2】
MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号2で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号6で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである、
請求項1記載のT細胞受容体タンパク質。
【請求項3】
MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号14で示されるアミノ酸配列を有する、
請求項1記載のT細胞受容体タンパク質。
【請求項4】
MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号7で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである、
請求項1記載のT細胞受容体タンパク質。
【請求項5】
MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する、
請求項1記載のT細胞受容体タンパク質。
【請求項6】
MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号4で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号8で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである、
請求項1記載のT細胞受容体タンパク質。
【請求項7】
MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する、
請求項1記載のT細胞受容体タンパク質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のT細胞受容体タンパク質又はこれをコードするポリヌクレオチドを患者由来のT細胞にin vitroで導入することを特徴とする、癌に対する遺伝子治療のためのT細胞の作製方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項記載のT細胞受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項10】
請求項9記載のベクターを含むT細胞。
【請求項11】
in vitroで導入された請求項1~7のいずれか1項記載のT細胞受容体タンパク質を含むT細胞。
【請求項12】
請求項10又は11記載のT細胞を含む癌治療剤。
【請求項13】
α-フェトプロテイン(AFP)由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を含むT細胞と組み合わせて投与される、請求項12記載の癌治療剤。
【請求項14】
抗癌剤に対して耐性を有する癌及び/又は進行性癌の治療のための、請求項12又は13記載の癌治療剤。
【請求項15】
癌幹細胞に対して細胞傷害活性を有する、請求項12~14のいずれか1項記載の癌治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変T細胞に関し、具体的には多剤耐性関連タンパク質3(MRP3)を標的とするT細胞受容体を有するT細胞及びその作製方法に関する。本発明はまた、該T細胞を含む肝細胞癌治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国における肝細胞癌(肝癌、HCC)による死亡者数は年間約2万5千人であり、癌による死亡数では肺癌、大腸癌、胃癌について第4位である。C型肝炎やB型肝炎に対する治療薬の進歩により、ウイルス性肝炎に起因する肝癌の発生率は低下傾向にあるが、近年では肥満、糖尿病、脂肪肝が原因と考えられる、いわゆる代謝関連肝癌が増加している。
【0003】
肝癌の早期発見には肝炎ウイルス患者のように高危険群に対する癌のスクリーニング検査が必須であるが、こうした代謝関連肝癌は発癌リスクの高い症例の絞込みが困難であり、多くの症例が進行癌の状態で病院を受診している。現在、進行肝癌に対する治療には化学療法や分子標的薬を用いた治療が行われているが、その治療成績は十分ではなく、進行肝癌の予後は極めて悪く、難治癌の1つである。
【0004】
近年、進行癌の治療では、免疫チェックポイント阻害薬やキメラ抗原受容体を用いた遺伝子改変T細胞(CAR-T)が臨床応用され、一部の癌種では優れた治療成績が報告されているが、肝癌にはいずれも保険承認されていないのが現状である。その理由として、肝癌など多くの固形癌では癌細胞の表面に抗体の標的となる癌特異的な抗原が発現していないことが挙げられる。
【0005】
本発明者等は、これまでに肝癌に対する宿主免疫応答の基礎研究を実施し、肝癌の免疫治療の標的となりうる腫瘍抗原ならびにそのT細胞エピトープの同定を行ってきた(非特許文献1-3)。さらにこうした基礎研究の臨床応用として、抗原エピトープ由来のペプチドを癌ワクチンとして患者に投与する臨床試験を行い、その有効性を報告してきた(非特許文献4)。
【0006】
また、本発明者等は、α-フェトプロテイン(AFP)特異的T細胞受容体遺伝子を導入したT細胞を作製し、この細胞がAFPとHLA-A24とを共に発現する細胞に対して細胞傷害活性を有することを見出している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-081836号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mizukoshi E等, J Hepatol. 49: 946-954, 2008
【非特許文献2】Mizukoshi E等, Hepatology. 53:1206-1216, 2011
【非特許文献3】Mizukoshi E等, Hepatology. 57:1448-1457, 2013
【非特許文献4】Mizukoshi E等, Cancer Lett. 369:242-249, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、進行肝癌に対する化学療法や分子標的薬を用いた治療では、治療成績が十分ではないことがあった。また、ペプチドワクチンが抗腫瘍効果を発揮するためには、患者に投与されてから樹状細胞による取り込み、T細胞への抗原提示など複数のステップを要するため、即効性に欠けるという課題があった。すなわち、ペプチドワクチンは、進行肝癌での治療よりも再発予防においての効果が期待されるものと言うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、これまでの研究成果に基づき、ペプチドワクチンの有効性が示された標的抗原を認識するT細胞受容体(TCR)遺伝子を用いた遺伝子改変T細胞の作製を試みた結果、主要組織適合性抗原(MHC)との複合体として細胞表面に提示される多剤耐性関連タンパク質3(MRP3)由来ペプチドを標的とするT細胞受容体タンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチドを取得し、MRP3を発現する細胞に対して細胞傷害活性を有するT細胞の作製に成功した。本発明のT細胞は、驚くべきことに、化学療法や分子標的薬を用いた治療に対して耐性を有する癌に対しても有効であるだけでなく、AFP特異的T細胞の効果が期待できない場合にも効果を発揮し得ることが見出された。本発明はこれらの知見に基づいて得られたものである。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1. 多剤耐性関連タンパク質3(MRP3)由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質。
2. MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号2で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号6で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである、
上記1記載のT細胞受容体タンパク質。
3. MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号14で示されるアミノ酸配列を有する、
上記1記載のT細胞受容体タンパク質。
4. MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号7で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである、
上記1記載のT細胞受容体タンパク質。
5. MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する、
上記1記載のT細胞受容体タンパク質。
6. MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号4で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号8で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである、
上記1記載のT細胞受容体タンパク質。
7. MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する、
上記1記載のT細胞受容体タンパク質。
8. 上記1~7のいずれか記載のT細胞受容体タンパク質又はこれをコードするポリヌクレオチドを患者由来のT細胞にin vitroで導入することを特徴とする、癌に対する遺伝子治療のためのT細胞の作製方法。
9. 上記1~7のいずれか記載のT細胞受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
10. 請求項9記載のベクターを含むT細胞。
11. in vitroで導入された上記1~7のいずれか記載のT細胞受容体タンパク質を含むT細胞。
12. 請求項10又は11記載のT細胞を含む癌治療剤。
13. α-フェトプロテイン(AFP)由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を含むT細胞と組み合わせて投与される、上記12記載の癌治療剤。
14. 抗癌剤に対して耐性を有する癌及び/又は進行性癌の治療のための、上記12又は13記載の癌治療剤。
15. 癌幹細胞に対して細胞傷害活性を有する、上記12~14のいずれか記載の癌治療剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遺伝子改変T細胞は、固形癌を認識し、細胞傷害活性を発揮できる。投与後すぐに抗腫瘍効果を発揮できること等から、より有効性が高いと考えられる上、従来の抗癌治療と組み合わせてより有効な治療効果をもたらし得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】肝細胞癌(HCC)患者及び健常者由来のPBMCをMRP3765ペプチドで3週間刺激してCTLを誘導した後、フローサイトメトリーでMRP3特異的T細胞の割合を測定した結果を示す。
図2】HepG2細胞(A)及びKM細胞(B)に対する本発明の遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を示す。CMV:陰性対照。
図3】HepG2細胞に対するAFP特異的遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を示す。CMV:陰性対照。
図4】A:KM細胞に対するAFP特異的遺伝子改変T細胞及びMRP3特異的遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を示す。B:KM細胞におけるMRP3及びAFPの発現を示す。縦軸は、HepG2細胞での発現レベルを1とした場合の相対値で示す。
図5】HepG2細胞及びKM細胞におけるMRP3の発現を示す。縦軸は、HepG2細胞での発現レベルを1とした場合の相対値で示す。KM細胞では、CD90+分画及びCD90-分画のいずれにおいてもMRP3が発現していることが確認された。
図6】KM CD90+細胞に対する本発明の遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を示す。CMV:陰性対照。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、多剤耐性関連タンパク質3(MRP3)由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を提供する。
【0015】
多剤耐性関連タンパク質3(Multi-Drug Resistance Related Protein 3, MRP3)は、ATP依存的な物質の輸送に関わるABCトランスポーターに属するキャリア型輸送タンパク質である。ヒトMRP3のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列は、例えば米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information, NCBI)のデータベースでそれぞれGenBank Accession No: AAD01430.1、及びGene ID: 8714として入手することができる。
【0016】
本発明者等のグループは先に、MRP3由来のペプチドで、かつ日本人で最も良くみられるHLA-A24拘束性のペプチドを複数個同定している。それらのペプチドのペプチドワクチンとしての効果を検討したところ、MRP3のアミノ酸配列における765~373位の9個のアミノ酸からなるペプチド(VYSDADIFL、配列番号1)、503~511位の9個のアミノ酸からなるペプチド(LYAWEPSFL、配列番号50)、692~700位の9個のアミノ酸からなるペプチド(AYVPQQAWI、配列番号51)(これらのペプチドを本明細書においてそれぞれMRP3765、MRP3503、及びMRP3692と記載する)が有効であることが見出されている。
【0017】
本発明者等は、上記のペプチドを肝細胞癌に対するペプチドワクチンとして使用し、投与された患者においてMRP3特異的な細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T lymphocyte(CTL))が誘導されることを見出している(Mizukoshi E等, J Hepatol. 49: 946-954, 2008)。
【0018】
今回、本発明者等は、誘導されたCTLを単離及び増殖させてその遺伝子配列を解析し、得られた遺伝子を導入することで、別の個体由来の細胞でMRP3特異的な細胞傷害性の高いT細胞が取得できることを確認した。これらのT細胞は、MRP3由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を細胞表面上に発現することができる。ここで、MRP3由来ペプチドは、限定するものではないが、上記の配列番号1、配列番号50、又は配列番号51で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。
【0019】
本発明のT細胞受容体タンパク質は、一実施形態において、MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号2で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号6で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである。
【0020】
また本発明のT細胞受容体タンパク質は、一実施形態において、MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号10で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号14で示されるアミノ酸配列を有する。
【0021】
また本発明のT細胞受容体タンパク質は、別の一実施形態において、MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号7で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである。
【0022】
また本発明のT細胞受容体タンパク質は、別の一実施形態において、MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号11で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する。
【0023】
また本発明のT細胞受容体タンパク質は、別の一実施形態において、MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号4で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつ
β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号8で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドである。
【0024】
また本発明のT細胞受容体タンパク質は、別の一実施形態において、MRP3由来ペプチドが配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり、
α鎖可変領域が配列番号12で示されるアミノ酸配列を有し、かつ
β鎖可変領域が配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する。
【0025】
本発明の一実施形態では、本発明のT細胞受容体タンパク質におけるα鎖のCDR3を含む接合部配列とβ鎖のCDR3を含む接合部配列が以下の組合せ:
配列番号18及び配列番号22、
配列番号19及び配列番号23、又は
配列番号20及び配列番号24
であり得る。
【0026】
また、本発明の一実施形態では、本発明のT細胞受容体タンパク質におけるCDRが以下の組合せ:
α鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号26、27、及び28であり、β鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号29、30、及び31であるか、
α鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号32、33、及び34であり、β鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号35、36、及び37であるか、又は
α鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号38、39、及び40であり、β鎖のCDR1、CDR2、及びCDR3がそれぞれ配列番号41、42、及び43であり得る。
【0027】
本発明はまた、上記本発明のT細胞受容体タンパク質、又はこれをコードするポリヌクレオチドを、患者由来のT細胞にin vitroで導入することを特徴とする、癌に対する遺伝子治療のためのT細胞の作製方法を提供する。
【0028】
上記の本発明の方法は、具体的には、MRP3由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合する上記の本発明のT細胞受容体タンパク質のα鎖及びβ鎖の可変領域をコードするポリヌクレオチド又はこれと相補的なポリヌクレオチドを患者由来のT細胞にin vitroでそれぞれ導入することで達成することができる。
【0029】
遺伝子の導入は、当分野で知られているいずれの方法を用いても良く、その方法に応じて、実際に導入されるポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであっても良い。
【0030】
当業者には理解されているように、T細胞には機能が異なるいくつかの種類があり、細胞表面上に発現した表面抗原によって分類することができる。そのうち細胞傷害性T細胞は、簡潔にはCD8+細胞であると表現され得る。細胞膜上に発現しているT細胞受容体(TCR)はMHC分子に結合した抗原を認識することができ、これは、TCRを構成するα鎖及びβ鎖(γ鎖及びδ鎖の場合もある)がそれぞれ、抗原-MHC複合体と特異的に結合することができる抗体に類似した可変領域を有するためであることが知られている。可変領域にはフレームワーク領域(FR1~FR4)の間に相補性決定領域(CDR1~CDR3)があり、このうちCDR3が抗原と結合すると考えられている。
【0031】
本発明の特徴は、患者由来のT細胞表面上に、MRP3由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を発現させることであり、本発明の方法は、患者から取得したT細胞にin vitroで上記ポリヌクレオチドを導入し、得られた細胞を患者の体内に戻す、ex vivoの方法に関する。本発明の方法に好適に使用可能なポリヌクレオチドを以下に具体的に記載するが、いずれのポリヌクレオチドも、α鎖及びβ鎖の双方を同じT細胞に導入して、その組合せによって生じるTCRが上記の複合体に特異的に結合することを特徴とする。
【0032】
本発明の方法において、ポリヌクレオチドを導入するT細胞として、患者から取得した血液中の細胞から分離したT細胞を使用することができるが、より簡便には、PBMC等の血液細胞をそのまま使用しても良い。あるいはまた、PBMCを、例えば培養中に抗CD3抗体、抗CD28抗体、インターロイキン2(IL-2)等による刺激を加えるT細胞の活性化操作後にそのまま使用することもできる。
【0033】
本発明の方法における、上記α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドは、一態様では、配列番号2~4で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。一方、本発明の方法における、上記β鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドは、一態様では、配列番号6~8で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである。
【0034】
標的との結合性のためには、
α鎖可変領域が配列番号2で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであり、β鎖可変領域が配列番号6で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである組合せ、
α鎖可変領域が配列番号3で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであり、β鎖可変領域が配列番号7で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである組合せ、及び
α鎖可変領域が配列番号4で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドであり、β鎖可変領域が配列番号8で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドである組合せ
であることが好ましい。
【0035】
上記した通り、導入されるポリヌクレオチドは、例えばレトロウイルスベクターを使用する場合等ではRNAの形態であり得る。従って、DNA配列として示された配列番号2~8で示されるヌクレオチド配列に相補的なRNA配列を有するポリヌクレオチドも、本発明の方法において使用し得る。
【0036】
上記で規定されるポリヌクレオチドが導入された本発明のT細胞は、-0.5~-3.0、好ましくは-1~-3.0の範囲のlog10(EC50)値でMRP3由来のペプチドとHLA-A24を発現する標的細胞(ペプチドをパルスしたC1RA24細胞)に対する特異的溶解能を有する。あるいは、本発明のT細胞は、E/T比50:1以上で内在性にMRP3を発現する標的細胞の20%以上の細胞を死滅させる効果を有する。
【0037】
遺伝子の導入は、当分野において通常用いられる方法を適宜利用して行うことができ、導入方法は特に限定されるものではない。例えば本発明の遺伝子をレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス等のウイルスベクター、プラスミド、細菌ベクター等の非ウイルスベクター等のベクターに組み込んで、導入することを意図する細胞に感染させるか又は組み込むことで導入することができる。あるいはまた、エレクトロポレーション法や、トランスポゾン法等を使用して遺伝子を導入することもできる。
【0038】
複数の遺伝子を導入する場合、各遺伝子を独立したプロモーターの制御下に配置して、同一のベクター又は別個のベクターに挿入することができる。あるいはまた、各遺伝子を介在配列を介して連結し、単一のプロモーターを用いる一つの発現カセットとすることもできる。
【0039】
後者の方法において利用することができる介在配列としては、限定するものではないが、例えばIRES(Internal ribosome entry site)配列、2Aペプチド配列等が挙げられる(Szymczak et al., Expert Opin. Biol. Ther., 2005, 5: 627-638)。2Aペプチドは、ウイルス由来の20アミノ酸残基前後のペプチド配列であり、細胞内のプロテアーゼにより認識され、切断される。従って、2Aペプチドによって連結された複数の遺伝子は、細胞内で転写及び翻訳された後に切断される。
【0040】
また、上記のポリヌクレオチドからタンパク質合成系によってT細胞受容体タンパク質を合成し、患者由来のT細胞に取り込ませることによっても、該細胞表面にT細胞受容体タンパク質を発現させることができる。目的の細胞にタンパク質を導入する方法としては、例えばShimono K等, Protein Sci. 2009 Oct;18(10):2160-71. doi: 10.1002/pro.230に記載の方法等を挙げることができる。
【0041】
本発明の方法によって作製されたT細胞は、MRP3由来ペプチドとHLA-A24抗原とを発現する標的細胞に対して特異的に作用することができる。MRP3由来ペプチドは、MRP3を発現する肝細胞癌細胞上にMHC抗原と共に提示されるため、MHC抗原として多く見られるHLA-A24を発現する腫瘍細胞に対して特異的に細胞毒性を示すことができる。尚、当業者には理解される通り、HLA-A24以外のMHC抗原を発現する腫瘍細胞に対して特異性を有するT細胞も、本明細書の記載及び当分野における技術常識を用い、適宜作製することができる。
【0042】
本発明はまた、上記本発明のT細胞受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。更に、そのようなポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。T細胞受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、α鎖及びβ鎖の双方について、可変領域をコードするポリヌクレオチド及び定常領域をコードするポリヌクレオチドから構成される。
【0043】
一実施形態において、本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質のα鎖可変領域をコードするポリヌクレオチド及び/又はβ鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0044】
TCRのα鎖及びβ鎖をコードするポリヌクレオチドの双方を導入することで、導入された細胞内で発現したα鎖及びβ鎖ポリペプチドがαβ-TCRヘテロダイマーを形成し、目的の特異性をもたらし得ることは、既に報告されている(Dembic Z. et al. (1986) Transfer of specificity by murine alpha and beta T-cell receptor genes. Nature 320:232-8)。
【0045】
一実施形態では、本発明のベクターにおいて、α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号2で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつβ鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号6で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり得る。
【0046】
また、一実施形態では、本発明のベクターにおいて、α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつβ鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号7で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり得る。
【0047】
また、一実施形態では、本発明のベクターにおいて、α鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号4で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり、かつβ鎖可変領域をコードするポリヌクレオチドが配列番号8で示されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドであり得る。
【0048】
本発明はまた、上記のベクターを含むT細胞を提供する。本発明はまた、in vitroで導入された上記で特定されるT細胞受容体タンパク質を含むT細胞を提供する。本発明のT細胞は、遺伝子改変T細胞、より具体的には細胞傷害性T細胞(CTL)であり、他の細胞と分離して、あるいは他の細胞との混合形態で、例えばCTLを含むPBMCの形態とすることができる。
【0049】
更に具体的には、本発明のT細胞は、in vitroで導入されたT細胞受容体タンパク質を含むT細胞であって、T細胞受容体タンパク質のα鎖可変領域が、配列番号10で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつT細胞受容体タンパク質のβ鎖可変領域が、配列番号14で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。
【0050】
また、本発明のT細胞は、in vitroで導入されたT細胞受容体タンパク質を含むT細胞であって、T細胞受容体タンパク質のα鎖可変領域が、配列番号11で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつT細胞受容体タンパク質のβ鎖可変領域が、配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。
【0051】
また、本発明のT細胞は、in vitroで導入されたT細胞受容体タンパク質を含むT細胞であって、T細胞受容体タンパク質のα鎖可変領域が、配列番号12で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、かつT細胞受容体タンパク質のβ鎖可変領域が、配列番号16で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。
【0052】
本発明はまた、上記のT細胞を含む、癌治療剤を提供する。本発明のT細胞は、MRP3の抗原エピトープを発現している癌細胞であれば、肝細胞癌をはじめとするあらゆる癌細胞を標的とすることができる。MRP3は、肺癌、前立腺癌、膵癌、乳癌等の癌細胞表面で発現していることが報告されており、本発明の治療剤は、これらの癌種に対して有効であり得る。従って、本発明の治療剤の治療対象となる癌は、限定するものではないが、肝細胞癌等の肝癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、乳癌等の固形癌であり得る。また、治療対象の癌は、軽度から重度のものを含み、ステージIII又はIVと診断された患者に対しても好適に使用可能である。
【0053】
本発明者等は、実施例に記載するように、本発明のT細胞が、分子標的薬や化学療法に抵抗性を有する癌細胞に対しても細胞傷害活性を有すること、更に、低分化状態であり、転移しやすく間葉系細胞の形態であるCD90陽性の癌幹細胞に対しても、細胞傷害活性を有することを確認した。
【0054】
従って、本発明の治療剤は、分子標的薬等の抗癌剤や化学療法に対して耐性を有する癌及び/又は進行性癌の治療のために好適に使用することができる。更に、本発明の治療剤は、癌幹細胞に対しても細胞傷害活性を有するものであり得る。
【0055】
上記の治療剤は、単独で使用しても良く、また癌の治療に使用され得る他の薬剤及び治療方法と組み合わせて使用することができる。使用可能な他の薬剤及び治療方法としては、特に限定するものではないが、例えばソラフェニブ等の分子標的薬、化学療法、ラジオ波焼灼療法、手術療法、肝動脈(化学)塞栓療法、放射線療法、重粒子線療法、ラジオアイソトープ治療、肝動注化学療法、ペプチドワクチン療法、他の免疫細胞療法等が挙げられる。本発明の治療剤と、上記の他の薬剤とは、同時に投与しても、別個に投与しても良く、また同じ投与経路で投与しても、異なる投与経路で投与しても良い。
【0056】
他の薬剤との組合せの一例として、本発明の治療剤は、AFP由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を含むT細胞と組み合わせて投与することができる。AFPは、様々な癌細胞表面で高発現していることが知られ、そのため抗癌治療の標的として検討されてきたが、AFP遺伝子を標的とした薬剤は、AFPを発現しない癌細胞に対しては効果を発揮することができない。本発明者等は、実施例に示す通り、AFPを発現せず、MRP3を発現する癌細胞に対して本発明のT細胞が細胞傷害活性を有することを確認した。
【0057】
AFP由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を含むT細胞としては、限定するものではないが、例えば特開2017-081836号に開示されたT細胞を好適に使用することができる。この場合、本発明のT細胞と上記のAFPを標的とするT細胞とは、同時に投与しても、別個に投与しても良い。同時に投与する場合、T細胞を予め混合して投与することもできる。
【0058】
上記の治療剤はまた、単独で、又は他の有効成分と組み合わせて、医薬組成物の形態とすることもできる。医薬組成物に含まれ得る成分としては、本発明の治療剤及び他の有効成分の他に、投与形態に応じて、当分野において通常配合される、製薬上許容される担体、緩衝剤、安定化剤等が挙げられる。担体としては、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、グルコース液及び緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、塩類、糖類、糖アルコール類等を添加剤として用いることもできる。尚、本発明の治療剤及び医薬組成物は、本発明の性質上、液状で投与することが意図され、従って、有効成分であるCTLの安定性を維持できる形態とすることが必要である。
【0059】
本発明の治療剤及び医薬組成物は、局所投与又は全身投与することができ、投与形態を特に限定するものではないが、例えば経静脈投与とすることができる。あるいはまた、患部若しくは患部の近辺に注射又は注入により投与しても良い。
【0060】
本発明の治療剤及び医薬組成物の投与量及び投与頻度は、患者の体重、性別、年齢、疾患の重篤度等に応じて変動するものであり、特に限定するものではないが、例えば本発明のT細胞を有効成分として、一回の投与量あたり約1×106~約1×1012個、好ましくは約1×108~約1×1011個の範囲の細胞を含有するものとし、1日1回~数回、2日毎、3日毎、1週間毎、2週間毎、毎月、2カ月毎、3カ月毎、6カ月毎に投与することが可能である。
【実施例0061】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1 MRP3特異的CTLの誘導及びTCRクローニング]
HLA-A24拘束性CTLエピトープを含み、CTLの誘導が確認されている配列番号1のMRP3765ペプチドをペプチドワクチンとして投与したHLA-A24陽性肝細胞癌患者12名、並びにHLA-A24陽性健常ドナー10名から末梢血単核細胞(PBMC)を回収した。
【0063】
得られたPBMCをMRP3765ペプチドで3週間刺激してCTLを誘導した後、抗CD8抗体(株式会社ベックマン・コールター)とMRP3765-MHC(HLA-A24)テトラマー(株式会社 医学生物学研究所)を用いて室温かつ遮光下で30分間染色し、洗浄してフローサイトメトリーにより測定した。
【0064】
その結果、図1に示すように、肝細胞癌患者由来の細胞(A)では3.74%、健常ドナー由来の細胞(B)では1.21%がMRP3765に対する特異性を有するCD8陽性であり、かつMRP3特異的T細胞であり、目的とするMRP3特異的T細胞の存在が確認された。
【0065】
上記で得られたMRP3765-MHCテトラマー結合T細胞について、Kobayashi E等, Nature Medicine, 19:1542-1546, 2013、及びNakagawa H等, Gastroenterology. 152:1395-1406, 2017に記載の方法を用いて、FACSAria II(BD Bioscience, San Diego, CA, USA)のソーティングシステムによって単一細胞として検出して回収した後、TCRα鎖及びβ鎖のcDNAを5'RACE、RT-PCRで増幅し、配列を決定した。次いでcDNAをレパートリーで分析し、hTEC10システムを用いて抗原特異性を確認した。
【0066】
表1に、肝細胞癌患者由来細胞から取得した代表的なTCR(TCR#: 12-47、12-38及び12-92と記載する)、並びに健常ドナー由来細胞から取得したTCR(TCR#: HD6-89と記載する)のα鎖及びβ鎖のcDNA配列を示すそれぞれの配列番号を、表2に、取得したTCRのα鎖可変領域(V-J領域)の配列と、そのCDR3を含む接合部配列の配列番号等を、表3に、取得したTCRのβ鎖可変領域(V-D-J領域)の配列と、そのCDR3を含む接合部配列の配列番号等を示す。表4は、取得したTCRにおけるCDR配列及び配列番号を示す。尚、レパートリーの解析はデータベースImmunogeneticsのwebsite(http://www.imgt.org/)で行った。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
[実施例2 MRP3特異的遺伝子改変T細胞の作製]
配列番号1のMRP3765ペプチドをペプチドワクチンとして投与したHLA-A24陽性肝細胞癌患者、及び凍結保存されている健常者のPBMCから、自動磁気細胞分離装置を用いてCD3ポジティブセレクションを行い、CD3陽性分画をソーティングした。
【0072】
ソート後、1×106個のCD3陽性細胞を35U/mlのIL-2(Peprotech, Inc.)とCD3/CD28 Dynabeadsを加えた培養液で刺激した。
【0073】
一方、細胞への形質導入のために、実施例1で配列が決定されたTCRα鎖及びTCRβ鎖の可変領域をコードするcDNA(配列番号2~8)を、同じTCR由来の配列の組合せで、定常領域をコードするcDNA(ヒトPBMCよりクローニングして取得)と共にウイルスのP2A配列を介して連結してTCR発現ベクターを構築し(Leisegang M等、J. Mol. Med. 2008, July, 86(7), p.855)、次いでこれをpMXs-IRES-GFPベクター(コスモ・バイオ株式会社)中にクローニングし、Phoenix-Aレトロウイルスパッケージング細胞系(National Gene Vector Biorepository, Indianapolis, USA)にトランスフェクトした。尚、各TCRの定常領域のコドンは最適化した。
【0074】
得られたウイルス上清をろ過し、50μg/mlになるよう希釈したレトロネクチン(Takara Bio Inc., Shiga, Japan)を一晩コートし、500μl/wellの2% BSA/PBSで洗浄した24wellプレートに添加し、32℃で1900×g、2時間遠心してレトロウイルスをスピンロードした。
【0075】
遠心後、刺激しておいたCD3陽性細胞を洗浄し、35U/mlのIL-2を添加した培養液で5×105個/mlに調整し、レトロウイルスをスピンロードしたプレートに播種し、レトロウイルスを感染させることで、取得したTCRをコードするポリヌクレオチドをRNAとして導入した。
【0076】
播種したプレートを32℃で1000×g,10分間遠心し、37℃インキュベーターで培養し、翌日、同様に作製した新しいプレートにCD3陽性細胞を移し、37℃インキュベーターで培養した。
さらに翌日、細胞培養用フラスコに35U/mlのIL-2を添加した培養液10mlでスケールアップした。
【0077】
CD3陽性細胞の刺激開始から7日後、CD3/CD28 Dynabeadsを加えて再刺激し、10日目に遺伝子改変T細胞をよく懸濁して少量取り出し、遠心分離後CD3/CD28 Dynabeadsを取り除いた後、抗CD8抗体(株式会社ベックマン・コールター)とMRP3765-MHC(HLA-A24)テトラマー(株式会社 医学生物学研究所)を用いて室温かつ遮光下で30分間染色し、フローサイトメトリーにて目的のTCRを発現する遺伝子改変T細胞の作製を確認した。
【0078】
[実施例3 C1RA24-Luc細胞を用いた細胞傷害活性の評価]
HLA-A24を発現するC1Rリンパ腫亜細胞株であるC1R-A24細胞(熊本大学エイズ学研究センター、滝口雅文先生より供与)にクサビラオレンジ-ルシフェラーゼを導入したC1RA24-Luc細胞を標的細胞として、本発明のMRP3特異的遺伝子改変T細胞(エフェクター細胞)の細胞傷害活性を評価した。これらの細胞、及び非特異的細胞傷害活性を抑制するために使用するK562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細胞;理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室-CELL BANK-より購入)は、10%ウシ胎児血清(BioWest S.A.S., Nuaille, France)を含有し、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したRPMI-1640(Wako Pure Chemical Industries Ltd., Osaka, Japan)中に維持した。
【0079】
先ず、アッセイの4~16時間前に、C1RA24-Luc細胞(500000個)に腫瘍抗原ペプチドMRP3765(ペプチド濃度10μg/ml)をパルスし、37℃、CO2濃度5%で4~16時間、インキュベーターにて培養した。
アッセイ当日、パルスしておいたC1RA24-Luc細胞とK562細胞をそれぞれ回収して細胞数を調整し、C1RA24-Luc細胞数に対してK562細胞数が40倍になるように両細胞を混合した。
【0080】
一方、実施例2で作製したMRP3特異的遺伝子改変T細胞を回収して細胞数を調整し、96wellプレートに2倍希釈系列を作製した。作製したプレートに標的細胞としてのC1RA24-Luc細胞/K562細胞の混合液を入れ、37℃で4時間共培養した(エフェクター細胞:標的細胞の比率は50:1、25:1、12.5:1、及び6.25:1)。
対照として、サイトメガロウイルス由来のエピトープであるCMV pp65328を認識するT細胞受容体遺伝子を用い、MRP3特異的遺伝子改変T細胞と同様にして作製したCMV特異的遺伝子改変T細胞を使用した。
【0081】
培養後、プレートを遠心して上清を取り除き、PBSとSteady-Glo Luciferase Assay Systemを加え、室温で10分間インキュベーションして測光した。
【0082】
その結果、肝細胞癌患者由来のTCR又は健常者由来のTCRを発現するMRP3特異的遺伝子改変T細胞のいずれも、MRP3ペプチドを提示するC1RA24-Luc細胞に対して、対照(CMV特異的遺伝子改変T細胞)と比較して有意な細胞傷害活性を有することが確認された(データは示さない)。
【0083】
[実施例4 HepG2細胞に対する細胞傷害活性の評価]
実施例3と同様にして、HLA-A24を発現するヒト肝がん由来細胞株であるHepG2細胞を標的細胞として、本発明のMRP3特異的遺伝子改変T細胞(エフェクター細胞)の細胞傷害活性を評価した。HepG2細胞は、RT-PCRにて予めMRP3遺伝子の発現を確認した。
【0084】
アッセイ前日に8wellカバーグラスチャンバーにHepG2細胞を3×104個/wellずつ播種し、10%FBS, 1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有フェノールレッド不含RPMI1640中で培養した。
【0085】
アッセイ当日、HepG2細胞の培養液を取り除き、最終濃度が10μMになるようにCalcein Vioret 450 AM Viability Dyeの染色液を作製し、500μl/wellずつ入れて37℃で30分間インキュベーションして30分間染色した後、染色液を取り除き、上記の培養液500μl/wellで洗浄した。
【0086】
実施例2で作製したMRP3特異的遺伝子改変T細胞(TCR#: 12-47又はHD6-89)、及び実施例3と同様のCMV特異的遺伝子改変T細胞(陰性対照)をよく懸濁して回収し、遠心分離後CD3/CD28 Dynabeadsを取り除き、それぞれ6×105個/mlの濃度に調整した。これに1μlのヨウ化プロピジウム(死細胞染色剤、PI)と10μlの退色防止剤(Live Antifade Reagent)を加え、よく混合した後、染色後のHepG2細胞に対してそれぞれ500μl/wellずつ添加した。
上記HepG2細胞と遺伝子改変T細胞の混合液を10分間静置し、遺伝子改変T細胞を沈下させた。
【0087】
共焦点顕微鏡にて30秒おきに10時間細胞の様子を撮影し、撮影後に2分間の動画を撮影した。細胞傷害性の解析は、動画を0秒とその後10秒おきにスクリーンショットを撮り、その画像を用いて死細胞と0秒の画像で生細胞をカウントし、その比率を対照群と比較した。
【0088】
その結果、図2Aに示すように、本発明のMRP3特異的遺伝子改変T細胞は、CMV特異的遺伝子改変T細胞と比較して、速やかに細胞傷害活性を示し、標的細胞との接触後約5時間で約90%の細胞を死滅させた。これに対し、健常者由来のTCR(TCR#: HD6-89)では、標的細胞との接触後約5時間経過時点での細胞傷害活性は低く、死細胞率は約20%であった(データは示さない)。
【0089】
[実施例5 KM細胞に対するMRP3特異的遺伝子改変T細胞とAFP特異的遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性]
標的細胞として、ソラフェニブ及び動注化学療法無効のHCC患者より本発明者等のグループが樹立した肝癌細胞であるKM細胞を用い、実施例4と同様にして、MRP3特異的遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を評価した。
【0090】
その結果、図2Bに示すように、本発明のMRP3特異的遺伝子改変T細胞は、CMV特異的遺伝子改変T細胞と比較して、速やかに細胞傷害活性を示し、標的細胞との接触後約5時間でほとんどの細胞を死滅させた。
【0091】
次いで、KM細胞に対するMRP3特異的遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を、AFP特異的遺伝子改変T細胞の活性と比較して評価した。AFP特異的遺伝子改変T細胞として、特開2017-081836号公報に開示されたように、AFP357エピトープペプチドを認識するTCR遺伝子を用いて作製した、AFP由来ペプチドとHLA-A24抗原との複合体に対して特異的に結合するT細胞受容体タンパク質を含むT細胞(TCR#:1-14)を用いた。
このAFP特異的遺伝子改変T細胞は、図3に示すように、実施例4と同様に評価して、AFPを発現することが知られているHepG2細胞に対する細胞傷害活性を示すことが確認されている。
【0092】
アッセイ前日に8wellカバーグラスチャンバーにKM細胞を6×104個/wellずつ播種し、10%FBS, 1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有フェノールレッド不含RPMI1640中で培養した。
【0093】
アッセイ当日、KM細胞の培養液を取り除き、最終濃度が10μMになるようにCalcein Vioret 450 AM Viability Dyeの染色液を作製し、500μl/wellずつ入れて37℃で30分間インキュベーションして30分間染色した後、染色液を取り除き、上記の培養液500μl/wellで洗浄した。
【0094】
エフェクター細胞として実施例2で作製したMRP3特異的遺伝子改変T細胞(TCR#: 12-47)、AFP特異的遺伝子改変T細胞(TCR#: 1-14)及びCMV特異的遺伝子改変T細胞(陰性対照)をそれぞれよく懸濁して回収し、遠心分離後CD3/CD28 Dynabeadsを取り除き、6×105個/mlの濃度に調整し、1μlのPIと10μlの退色防止剤を加えてよく混合したのち、染色後のKM細胞が入っているところに500μl/wellで添加した。
【0095】
上記KM細胞と遺伝子改変T細胞の混合液を10分間静置して遺伝子改変T細胞を沈下させ、共焦点顕微鏡にて30秒おきに10時間細胞の様子を撮影し、撮影後に2分間の動画を撮影した。細胞傷害性の解析は、動画を0秒とその後10秒おきにスクリーンショットを撮り、その画像を用いて死細胞と0秒の画像で生細胞をカウントし、その比率を比較した。
【0096】
その結果、図4Aに示すように、本発明のMRP3特異的遺伝子改変T細胞は、AFP特異的遺伝子改変T細胞と比較して、有意に高い細胞傷害活性を示し、従来の治療法が奏功しなかった癌に対して非常に効果的であることが実証された。尚、本実施例で細胞傷害活性を評価したKM細胞は、RT-PCRにてMRP3遺伝子が発現し、AFP遺伝子が発現していないことが確認された(図4B)。
【0097】
[実施例6 KM細胞のCD90+分画とCD90-分画を用いた細胞傷害活性の評価]
実施例5において、MRP3遺伝子が発現し、本発明のMRP3特異的遺伝子改変T細胞による細胞傷害を受けることが確認されたKM細胞を、幹細胞分画(CD90+)と幹細胞ではない分画(CD90-)に分け、RT-PCRでMRP3 mRNAの発現レベルをそれぞれ測定した。その結果、CD90+分画においても、免疫治療の標的となり得るMRP3の発現が認められた(図5)。
【0098】
次いで、幹細胞分画に対するMRP3特異的遺伝子改変T細胞の細胞傷害活性を評価した。
アッセイ前日にKM細胞を抗CD90抗体で染色し、CD90+分画とCD90-分画をフローサイトメーターにてソーティングした。次いで、CD90+分画は7.5×104個/500μl/well、CD90-分画は1×105個/500μl/wellで8wellカバーガラスチャンバーに播種し、10%FBS, 1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有フェノールレッド不含RPMI1640中で培養した。
【0099】
アッセイ当日、KM/CD90+とKM/CD90-の培養液を取り除き、最終濃度が10μMになるようにCalcein Vioret 450 AM Viability Dyeの染色液を作製し、500μl/wellずつ入れて37℃で30分間インキュベーションして30分間染色後、染色液を取り除き、上記培養液500μl/wellで洗浄した。
【0100】
実施例2で作製したMRP3特異的遺伝子改変T細胞(TCR#: 12-47)及びCMV特異的遺伝子改変T細胞(陰性対照)をよく懸濁して回収し、遠心分離後CD3/CD28 Dynabeadsを取り除き、6×105個/mlの濃度に調整し、1μlのPIと10μlの退色防止剤を加え、よく混合したのち染色済みKM/CD90+とKM/CD90-が入っているところに500μl/wellずつ添加した。
【0101】
上記KM細胞と遺伝子改変T細胞の混合液を10分間静置して遺伝子改変T細胞を沈下させ、共焦点顕微鏡にて30秒おきに10時間細胞の様子を撮影し、撮影後に2分間の動画を撮影した。細胞傷害性の解析は、動画を0秒とその後10秒おきにスクリーンショットを撮り、その画像を用いて死細胞と0秒の画像で生細胞をカウントし、その比率を対照群と比較した。
その結果、図6に示すように、CD90+細胞に対して、対照と比較して有意に細胞傷害活性を示し、癌幹細胞に対しても有効に作用し得ることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の遺伝子改変T細胞は、癌免疫治療の細胞製剤として利用可能である。本発明の治療剤は、従来用いられてきた分子標的薬や化学療法に抵抗性を示す癌に対して、また癌幹細胞に対して効果的に使用することができ、難治性癌の新たな治療薬となり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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