(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133043
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】スピンドル冷却装置、及びスピンドル冷却方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/12 20060101AFI20220906BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B23Q11/12 C
B23B19/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031853
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005038
【氏名又は名称】セイコーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 均
(72)【発明者】
【氏名】荒井 茂弘
【テーマコード(参考)】
3C011
3C045
【Fターム(参考)】
3C011FF01
3C045FD28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷却機能がないスピンドルに対して、容易に冷却機能を後付けする。
【解決手段】スピンドル冷却装置1は、工作機械用のスピンドルに、後付け可能に構成されている。スピンドル冷却装置1をスピンドルに装着し、スピンドルの外周面と胴部貫通孔20の内周面で形成される包囲空間24に供給部3から冷却流体としてクーラントを供給し、排出部4から排出することで、スピンドル内部を冷却する。スピンドル冷却装置1は、その胴部貫通孔20に円筒形状のスピンドルを挿通することで用意に装着することができる。また冷却液として、工作機械で使用するクーラントを冷却液として使用することで、排出部4から排出されたクーラントをそのまま加工用に供給することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルの外径よりも大きく形成された内周面を有し、前記スピンドルが挿通される胴部貫通孔を有する胴部と、
前記胴部の軸方向の両端側に形成され、前記スピンドルと前記内周面との間を全周にわたって所定間隔に保持し、前記スピンドルの外周面と前記胴部との間を軸方向の両端側で封止する封止手段と、
前記スピンドルと前記内周面との間に形成された包囲空間に冷却液を供給する供給手段と、
前記包囲空間の冷却液を外部に排出する排出手段と、
を具備したことを特徴とするスピンドル冷却装置。
【請求項2】
前記胴部貫通孔は、前記胴部の両端側に形成された小径部と、当該小径部よりも大きな内径で両小径部間に形成された冷却部とにより構成され、
前記封止手段は、前記小径部に配設されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項3】
前記封止手段は、前記胴部貫通孔の内径よりも小さい内径を有する環状部と、当該環状部の内周面の全周にわたって形成された内周溝と、当該内周溝内に配設されたOリングと、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項4】
前記胴部を前記スピンドルに固定する固定手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項5】
前記胴部は、アルミ又は銅で形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項6】
前記胴部の外周に形成された冷却フィンと、
を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項7】
前記供給手段は、前記胴部の長手方向における一方の端部側に形成された径方向の供給用貫通孔を有し、
前記排出手段は、前記胴部の他方の端部側に形成された排出用貫通孔を有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項8】
前記供給手段と前記排出手段のうちの、少なくとも供給手段は、貫通孔に接続された配管継ぎ手を備えている、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項9】
前記胴部には、前記スピンドルに取り付けられた加工工具による加工箇所に、前記排出手段から排出された冷却液を供給する加工液供給部を取り付ける供給部取付手段が配設されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項10】
前記排出部に配設された、排出した冷却液を、加工工具による加工箇所に直接供給する排出液供給手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置。
【請求項11】
縦方向に配設されたスピンドルに対して、請求項1から請求項10のうちの1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を、前記排出手段が上側で供給手段が下側になるように取り付ける取り付け工程と、
前記配設されたスピンドルの稼働時において、前記供給手段から冷却液を供給する工程と、
を有することを特徴とするスピンドル冷却方法。
【請求項12】
前記取り付け工程は、
前記胴部貫通孔内にスピンドルを挿通する挿通工程と、
前記固定手段で前記胴部を前記スピンドルに固定する工程と、
を有することを特徴とする請求項11に記載のスピンドル冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドル冷却装置、及びスピンドル冷却方法に係り、例えば工作機械用のスピンドルの冷却に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工作機械では、各種ワークを加工するための工具を保持するスピンドルが搭載されている。このような工作機械では、スピンドルの熱膨張による加工精度の低下を防ぐ必要がある。
特に、駆動用のモータが内蔵されたり直結されているスピンドルでは、高速回転をする場合にモータの発熱によるスピンドルの膨張を防止するために、軸受部やモータ部の外周に冷却液が通る流路を設けることで冷却機能をスピンドルに設けるようにしている(例えば特許文献1)。
しかし、スピンドルボディ(ハウジング)に冷却流路を内蔵する場合、ボディの剛性確保のために鉄系材料で製作することが多く、また外周面に容易に冷却フィンを設けることができないため放熱性が悪く、内部と外部の両方に冷却液を通す等の複雑な対策が必要になることが多い。
【0003】
一方、ベルト駆動のスピンドルの場合には、駆動用モータの内蔵や直結がないので熱影響が少ないことから、冷却機能がない場合が多い。
また、モータを内蔵や直結しているスピンドルであっても、低速回転での使用を前提とする場合には冷却機能を備えない場合もある。
【0004】
しかし、このような冷却機能を備えないスピンドルであっても、使用開始当初に想定していない高速回転数で使用したり、高効率加工を行うためにスピンドルに大きな負荷をかけたりすることでスピンドルが発熱し、後から冷却が必要になる場合がある。
このように冷却機能がないスピンドルに、使用開始後に冷却が必要となった場合、例えば、外部にシャワーを設けクーラントなどをスピンドル外周に吹きかける場合が多い。
しかしシャワーで冷却する場合、かけた液が周囲に飛散してしまい効率良く冷却することができない場合が多い。
【0005】
また横向き(水平方向)に設置されているスピンドルであれば、上部からかけたクーラントがスピンドル外周を伝わり下部まで冷却されるので、比較的全周を冷却することが可能である。
しかし、縦向きに設置されたスピンドルの場合、クーラントをかけた側の反対面にまでは回らずに自然落下してしまうので、全周を冷却するためにはシャワーを全周に配置する必要があり大掛かりになってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、冷却機能がないスピンドルに対して、容易に冷却機能を後付けすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1に記載の発明では、スピンドルの外径よりも大きく形成された内周面を有し、前記スピンドルが挿通される胴部貫通孔を有する胴部と、前記胴部の軸方向の両端側に形成され、前記スピンドルと前記内周面との間を全周にわたって所定間隔に保持し、前記スピンドルの外周面と前記胴部との間を軸方向の両端側で封止する封止手段と、前記スピンドルと前記内周面との間に形成された包囲空間に冷却液を供給する供給手段と、前記包囲空間の冷却液を外部に排出する排出手段と、を具備したことを特徴とするスピンドル冷却装置を提供する。
(2)請求項2に記載の発明では、前記胴部貫通孔は、前記胴部の両端側に形成された小径部と、当該小径部よりも大きな内径で両小径部間に形成された冷却部とにより構成され、前記封止手段は、前記小径部に配設されている、ことを特徴とする請求項1に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(3)請求項3に記載の発明では、前記封止手段は、前記胴部貫通孔の内径よりも小さい内径を有する環状部と、当該環状部の内周面の全周にわたって形成された内周溝と、当該内周溝内に配設されたOリングと、を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(4)請求項4に記載の発明では、前記胴部を前記スピンドルに固定する固定手段と、を備えたことを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(5)請求項5に記載の発明では、前記胴部は、アルミ又は銅で形成されている、ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(6)請求項6に記載の発明では、前記胴部の外周に形成された冷却フィンと、を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(7)請求項7に記載の発明では、前記供給手段は、前記胴部の長手方向における一方の端部側に形成された径方向の供給用貫通孔を有し、前記排出手段は、前記胴部の他方の端部側に形成された排出用貫通孔を有する、ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(8)請求項8に記載の発明では、前記供給手段と前記排出手段のうちの、少なくとも供給手段は、貫通孔に接続された配管継ぎ手を備えている、ことを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(9)請求項9に記載の発明では、前記胴部には、前記スピンドルに取り付けられた加工工具による加工箇所に、前記排出手段から排出された冷却液を供給する加工液供給部を取り付ける供給部取付手段が配設されている、ことを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(10)請求項10に記載の発明では、前記排出部に配設された、排出した冷却液を、加工工具による加工箇所に直接供給する排出液供給手段と、を備えたことを特徴とする請求項1から請求項8のうちのいずれか1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を提供する。
(11)請求項11に記載の発明では、縦方向に配設されたスピンドルに対して、請求項1から請求項10のうちの1の請求項に記載のスピンドル冷却装置を、前記排出手段が上側で供給手段が下側になるように取り付ける取り付け工程と、前記配設されたスピンドルの稼働時において、前記供給手段から冷却液を供給する工程と、を有することを特徴とするスピンドル冷却方法を提供する。
(12)請求項12に記載の発明では、前記取り付け工程は、前記胴部貫通孔内にスピンドルを挿通する挿通工程と、前記固定手段で前記胴部を前記スピンドルに固定する工程と、を有することを特徴とする請求項11に記載のスピンドル冷却方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スピンドルが挿通される胴部貫通孔を有する胴部の軸方向の両端側に封止手段が形成され、スピンドルと前記内周面との間に形成された包囲空間に冷却液を供給、排出するので、冷却機能がないスピンドルに対して、容易に冷却機能を後付けすることができる。また冷却液に加工時で使用するクーラントを使用することにより、スピンドルの加工箇所へクーラントを供給するための、加工箇所における最近傍の中継マニホールドの役目を果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】スピンドル冷却装置の外観斜視図と断面斜視図である。
【
図4】工作機械に固定したスピンドルにスピンドル冷却装置を後付け装着した状態の斜視図である。
【
図5】スピンドルに取付けた状態における、スピンドル冷却装置の断面を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のスピンドル冷却装置1における好適な実施の形態について、
図1から
図4を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
スピンドル冷却装置1は、工作機械80用のスピンドル70に、後付け可能に構成されている。
すなわち、スピンドル冷却装置1をスピンドル70に装着し、スピンドル70の外周面と胴部貫通孔20の内周面で形成される包囲空間24に供給部3から冷却流体を供給し、排出部4から排出することで、スピンドル70内部を冷却する。ここで、冷却流体はスピンドルを冷却可能な流体であれば何でも良く、液体だけでなく、気体やゲル状流体でも良い。
スピンドル冷却装置1は、その胴部貫通孔20に円筒形状のスピンドル70を挿通することで用意に装着することができる。また冷却液として、工作機械80で使用するクーラントを冷却液として使用することで、排出部4から排出されたクーラントをそのまま加工用に供給することができる。
【0012】
(2)実施形態の詳細
図1は本実施形態におけるスピンドル冷却装置1を表した斜視図(a)と断面斜視図(b)である。
図1に示すように、スピンドル冷却装置1は、胴部2、供給部3、排出部4、固定アタッチメント5を備えている。
本実施形態の胴部2は、スピンドルに装着でき、スピンドルから吸収した熱を外部に放出できる素材であれば良い。一般的な鉄系材料でも良いが、アルミや銅などの熱伝導率が高い材料により形成されていると、より放熱性が高められている。
また胴部2の外周には、周方向に延びる冷却フィン23が7枚形成されている。この冷却フィン23は、胴部2の外周に、全周にわたる溝を所定間隔で形成することで形成される。このように各溝により冷却フィン23を形成することで放熱する表面積を増やすことができ、溝の底部分が薄くなり、より冷却効果を高めることができる。
なお、冷却フィン23の数を増減し、間隔を広狭することも可能である。また、溝の形成により冷却フィン23を設ける場合に限らず、胴部2の外周部の外側に冷却フィン23を設けるようにしてもよい。更に、冷却フィン23を周方向ではなく、軸方向に延びるフィンを胴部2の全周にわたって設けるようにしてもよい。
更に、胴部2を熱伝導率が高い部材で形成している場合は、冷却フィン23を設けないことも可能である。
【0013】
このように、本実施形態のスピンドル冷却装置1はスピンドル70に後付けして使用するので、冷却機構内蔵式のスピンドル70のようなボディの剛性を確保する必要がない。
このため、熱伝導率が高いアルミや銅で胴部2を形成すると共に、放熱効果を高めるための冷却フィン23を容易に形成することが可能である。
【0014】
胴部2には、内側にスピンドル70が挿通される胴部貫通孔20が長手方向に貫通するように形成されている。
胴部貫通孔20は、胴部2の両端部に形成された小径部21、21と、両小径部21の間に形成された冷却部22とにより構成されている。なお、冷却部22の外周側に冷却フィン23が形成されている。
小径部21の内径はスピンドル70の外径よりも、後述するOリング212によるシールド機能と摩擦抵抗による保持力を確保できる程度に、僅かにだけ大きく形成されている。
一方、冷却部22の内径は小径部21の内径よりも大きく形成されており、これにより、挿入されたスピンドル70の外周面との間に全周にわたって所定間隔が確保された包囲空間24が形成されるようになっている。
【0015】
胴部2の長手方向における一方の側にはクーラント等の冷却液を包囲空間24内に供給する供給部3が配設され、他方の側には冷却液を排出する排出部4が配設されている。
供給部3は、胴部2を径方向に貫通する供給用貫通孔31と、L字形状の配管継ぎ手32を備えている。配管継ぎ手32は、L字形状の一方側が供給用貫通孔31と連通する状態で胴部2に取り付けられている。供給部3は供給手段の一例である。またL字形状の配管継ぎ手32も一例であり、供給部3に冷却液を供給可能な継手であれば何でも良い。
排出部4は、胴部2を径方向に貫通する排出用貫通孔41と、L字形状の配管継ぎ手42を備えている。配管継ぎ手42は、L字形状の一方側が排出用貫通孔41と連通する状態で胴部2に取り付けられている。排出部4は排出手段の一例である。またL字形状の配管継ぎ手42も一例であり、排出部4から冷却液を排出可能な継手であれば何でも良く、必要ない場合は使用しなくても良い。
図1において、配管継ぎ手32と配管継ぎ手42は、L字形状の他方側(開口側)が共に内側を向いて対向しているが、胴部2に対して回動自在に配設されている。但し、配管継ぎ手32と配管継ぎ手42を、胴部2に対して固定するようにしてもよい。
供給部3の供給用貫通孔31と、排出部4排出用貫通孔41は、いずれも胴部2における小径部21の軸方向内側で、かつ冷却フィン23の軸方向外側に形成されている。
【0016】
なお、
図1に示した本実施形態の供給部3と排出部4は、胴部2の軸線と直交する断面を周方向にみた場合に、同一位相位置に形成されているが、位相がn度(例えば180度、90度等)だけ異なる位置に配設するようにしてもよい。
【0017】
両小径部21の内周面には、全周にわたって内周溝211が形成され、この内周溝にはシール部として機能するOリング212が配設されている。
このOリング212は、胴部貫通孔20に挿通したスピンドル70と密着することにより、包囲空間24内に供給した冷却液が胴部2の端面から漏れ出ることを防止するシールド機能を備えている。
また内周溝211に配設されたOリング212は、スピンドル70の外周面を適度に締め付けており、その摩擦抵抗によってある程度の外力までスピンドル冷却装置1を当該位置に保持する、保持機能を備えている。内周溝211及びOリング212は封止手段の一例である。
【0018】
本実施形態のスピンドル冷却装置1は、Oリング212の締め付け力によりスピンドル70に固定可能であるが、より確実に固定するための固定アタッチメント5を備えている。
図2は、固定アタッチメント5の斜視図である。
図2に示す様に、固定アタッチメント5は、外径が胴部2と同じで、内径が小径部21と同じ環状体の一部にスリット51が形成されることで、全体としてC字形状に形成されている。
【0019】
スリット51の反対側、すなわちスリット51により形成されるC字形状の中央部には、軸方向に貫通する2つの取付孔52が形成されている。
この2つの取付孔52の形成位置に対応して、スピンドル冷却装置1の胴部2における長手方向の一方側の端面に胴部ネジ穴25が2箇所形成されている(
図1参照)。固定アタッチメント5は、取付孔52と胴部ネジ穴25の位置を合せ、
図1に示すように、2本の取付ネジ53で胴部2に取付けるようになっている。
【0020】
固定アタッチメント5におけるC字形状の両端部には、折線方向に締付け孔54が形成されている。締付け孔54は、固定アタッチメント5の両端部の一方側がスリット51側の端面に向けて貫通し、これと連続して他方側の端面から雌ネジが形成されている。
この締付け孔54を締付けネジ55で締付けることでスリット51の間隔が狭まってスピンドル70にスピンドル冷却装置1を強固に固定することが可能になる。
この固定アタッチメント5を使用してスピンドル冷却装置1を強固に固定することで、例えば、スピンドル70が鉛直方向に配置されている場合であっても、自重や振動によってスピンドル冷却装置1が落下することなく、確実に固定することができる。固定アタッチメント5は固定手段の一例である。
【0021】
次に、スピンドル冷却装置1の冷却対象であるスピンドル70について説明する。
図3は、スピンドル70の外観斜視図である。
図3に示すようにスピンドル70は、円筒形状のハウジング71と、ハウジング71内を貫通配置される主軸72を備えている。
主軸72は、ハウジング71内に配設された図示しないボールベアリング等によって軸支されている。
ハウジング71は長手方向の両端側が、中央に主軸72用の貫通孔が形成された蓋74、75で封止されている。
主軸72は、蓋74側の端部に刃物等の各種工作機器を取付けるための工具取付部73が配設され、蓋75側の端部にスピンドル側プーリ84を取付けるためのプーリ取付部77が配設されている。
【0022】
蓋75は方形に形成され、ハウジング71よりも外側となる蓋75の角部に調整ネジ76が挿通される貫通孔が形成されている。調整ネジ76は、蓋75の貫通孔を介して、後述するスピンドル固定部86の雌ネジと螺合することで、スピンドル固定部86に入れた状態でスピンドル70の軸方向位置を微調整する機能を有すると共に、スピンドル70の回転方向の位相決めとして機能する。
一方、工具取付部73側の蓋74の外径は、円筒形状のハウジング71の外径と同じ大きさに形成されている。このためスピンドル冷却装置1を後付け装着する場合には、配管継ぎ手42側の胴部貫通孔20から、蓋74側のスピンドル70に挿入することができる。
【0023】
次に、本実施形態のスピンドル冷却装置1の使用状態について説明する。
図4は、スピンドル70を固定した工作機械80に、スピンドル冷却装置1を後付けした状態を表したものである。
図5は、スピンドル70に取付けた状態における、スピンドル冷却装置1の断面を表したものである。
最初に、
図4に示す工作機械80について説明する。この工作機械80は、スピンドル70の主軸72を鉛直方向に取付ける構成になっている。
工作機械80は、機械本体81、モータ82、スピンドル固定部86を備えている。
機械本体81の裏側上部には、回転軸が鉛直方向となるようにモータ82が固定され、表側の上部にはスピンドル固定部86が取り付けられている。
モータ82の回転軸にはモータ側プーリ83が取付けられている。
【0024】
スピンドル固定部86は、スピンドル70を挿通する円形の貫通孔が縦方向に形成されている。スピンドル固定部86には、図面では隠れているため表示されていないが、図示面の反対側に、
図2に示したスリット51と同様な、縦方向のスリットが形成されている。
そして
図5に示すように、スピンドル固定部86の側部(図面左側)には、このスリットを締付けるための締付け孔87が3箇所に形成されている。
【0025】
そして、スピンドル固定部86の貫通孔に上部からスピンドル70を挿通し、3箇所の締付け孔87から締付けネジ88でスリット部分の間隔を狭めることで、挿通したスピンドル70を締付けて固定するようになっている。
スピンドル固定部86の上部には図示しない穴が形成されていて、この穴にスピンドル70の蓋75に形成された貫通孔から回転止め76を通すことで、位置決めと回転が防止されている。
なお、
図4、5に示すように、スピンドル70の主軸72の工具取付部73(
図3参照)には、加工用の刃物78が取付けられている。
【0026】
スピンドル固定部86にスピンドル70を固定した状態で、プーリ取付部77にスピンドル側プーリ84を取り付け、このスピンドル側プーリ84とモータ側プーリ83にベルト85が懸架される。
このように本実施形態のスピンドル70は、モータ内蔵式や直結式ではなく、離れた位置にあるモータ82とベルト85で駆動を伝達するベルト伝達式である。
このため、スピンドル70は、モータ82の発熱による影響を受けることがないので、通常はスピンドル70をスピンドル固定部86に固定した状態で使用される。すなわち、スピンドル70の主軸72の先端に取り付けた加工工具(
図4では刃物78)による加工が実施される。
【0027】
但し、刃物78によるワークの加工箇所では発熱が生じるため、スピンドル固定部86に固定された加工液供給部90から加工箇所に向けて延びる加工液ノズル91が配設されている。
図4では図示していないが、加工液供給部90の継ぎ手92には、例えばクーラント等の加工液を供給する配管が接続されている。そして、刃物78による加工処理と連動して、配管から供給されるクーラント等が加工液供給部90を介して加工液ノズル91から刃物78の加工箇所に供給される。
【0028】
このように、通常はスピンドル70を単独で使用するが、想定を超える高速回転で使用する場合や、高負荷の加工を行う場合、加工箇所の刃物78だけでなく、スピンドル70が発熱する場合があり、後発的に冷却が必要になる場合がある。このような状況は、ベルト駆動式のスピンドル70に限らず、モータ内蔵式や直結式であっても冷却機能を備えていないスピンドルの場合も同じである。
【0029】
このような状況において、スピンドル70を簡易に冷却するために本実施形態のスピンドル冷却装置1が使用される。
すなわち、
図4に示すように、スピンドル70にスピンドル冷却装置1を取り付けることで、容易にスピンドル70に冷却機能を後付けすることができる。
図4に示した工作機械80ではスピンドル70を立てて使用するので、より確実にスピンドル冷却装置1をスピンドル70に固定するために固定アタッチメント5を使用する。
固定アタッチメント5は、胴部2の供給用貫通孔31側の端面に形成した胴部ネジ穴25に、固定アタッチメント5を取付ネジ53で取り付ける(
図1、
図5参照)。
【0030】
固定アタッチメント5を胴部2に取り付けたスピンドル冷却装置1を、
図4、
図5に示すように、配管継ぎ手42側を上にして、下側(刃物78側)からスピンドル70の所定位置まで挿通する。
所定位置としては、固定アタッチメント5とスピンドル70の蓋74(
図3参照)と一致する位置である。この位置まで固定アタッチメント5を挿通した時点で、スピンドル冷却装置1は、胴部2の上下2箇所に配設されているOリング212の摩擦抵抗によってスピンドル70に保持される。
この状態で、締付けネジ55を締付けることでスリット51の間隔が狭まり、固定アタッチメント5の内周面が蓋74の外周面を締め付けるので、スピンドル70にスピンドル冷却装置1をより強固に固定する。
【0031】
更に、スピンドル冷却装置1の下部にある配管継ぎ手32に冷却液供給用の配管(図示しない)を接続し、上部にある配管継ぎ手42と工作機械80の継ぎ手92とを配管(図示しない)で接続する。
そして、工作機械80が、モータ82を駆動して刃物78による加工処理にあわせてクーラントを配管継ぎ手32に供給する。
すると、
図5に示すように、スピンドル70とスピンドル冷却装置1の胴部2の内周面との間に形成される包囲空間24全体がクーラントで満たされて、スピンドル70の外周面全体が冷却される。以後、加工処理の間、
図5に太矢印24kで示すように、下方の配管継ぎ手32から上方の配管継ぎ手42向けて、包囲空間24内のクーラントが供給されることで、スピンドル70が外側から継続的に冷却される。
クーラントの供給を継続すると、クーラントは上部の配管継ぎ手42から排出され、更に工作機械80の継ぎ手92を通り、加工液ノズル91の先端から加工中の刃物78に供給される。
このように、下部にある供給部3から冷却液を供給し、上部にある排出部4から冷却液を排出する構成により、包囲空間24全体をクーラントで確実に満たしてスピンドル70の外周面全体が冷却可能となると共に、スピンドル70の冷却に使用したクーラントを、そのまま加工用のクーラントとして使用することができる。
なお、スピンドルが横向きや斜めに取り付けられている場合、垂直方向の高さにおいて、下側の配管継ぎ手を冷却液供給用の配管継ぎ手32とし、上側を冷却液排出用の配管継ぎ手42とする。この時、包囲空間24の最下端近傍に供給用貫通孔31を設け、最上端近傍に排出用貫通孔41を設けると良い。供給側と排出側の配管継ぎ手の高さが同じ場合は、どちらを配管継ぎ手32としても良く、残りの一方を配管継ぎ手42とする。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のスピンドル冷却装置1によれば次の効果を得ることができる。
(1)本実施形態のスピンドル冷却装置1によれば、冷却機能を有しないスピンドル70に対して冷却機能を後付けすることが可能になる。
そして、胴部2に形成された胴部貫通孔20にスピンドル70を挿通することで容易にスピンドル冷却装置1を装着することができる。
(2)胴部2の両端側の小径部21にOリング212が配設されている。
これにより、スピンドル70の外周面と胴部内周面との間に形成される包囲空間24に供給される冷却液が漏れることを防止することができるだけでなく、Oリング212の摩擦抵抗によってスピンドル冷却装置1をスピンドル70に保持することができる。
(3)また、胴部2の長手方向における一方側に、固定アタッチメント5用の取付手段(本実施形態では胴部2の端面に形成した胴部ネジ穴25)を設けている。
これにより、胴部2に固定アタッチメント5を取り付けることで、立設状態のスピンドル70であっても、スピンドル冷却装置1の自重や振動等の外力に影響を受けることなく、より確実にスピンドル冷却装置1をスピンドル70に固定することができる。
(4)固定アタッチメント5は、スリット51を形成し、締付けネジ55でC字形状部分を締め付けることでスピンドル70に固定している。
このため、スピンドル70や工作機械80には、スピンドル冷却装置1を固定するための加工や手段を配設する必要がない。
【0033】
(5)冷却液として使用するクーラントを外部で温度管理することにより、スピンドル70の温度管理をより厳密に行うことができる。
(6)本実施形態では、冷却液としてクーラントを使用し、スピンドル冷却装置1から排出されたクーラントを、排出部4の配管継ぎ手42から加工液供給部90の継ぎ手92に配管している。これにより、スピンドル70の冷却に使用したクーラントを、そのまま加工用のクーラントとして使用することができる。このように、スピンドル冷却装置1をクーラント供給の中継マニホールドとして使用することができる。
(7)スピンドル冷却装置1を後付け可能にしたことで、スピンドル70のハウジングのような剛性が要求されないので、熱伝導率が高いアルミや銅を材料として胴部2を形成することができ、冷却効果を高めることができる。
(8)更に、胴部2をアルミや銅で形成することにより、胴部2の外周面に冷却フィン23を形成することができ、より高い冷却効果を得ることができる。
【0034】
以上説明した実施形態では、固定アタッチメント5を供給部3側に取り付ける場合について説明したが、排出部4側に取り付けるようにしてもよい。すなわち、固定アタッチメント5用の胴部ネジ穴25を、排出部4側の端面に設けるようにしてもよい。
この場合、固定アタッチメント5がスピンドル70の蓋74(
図3参照)ではなく、ハウジング部分を締め付けることになるので、十分なハウジング強度や締め付け強度の調整が必要になる。
【0035】
更に、固定アタッチメント5用の胴部ネジ穴25を、供給部3側と排出部4側の両端面に設けるようにしてもよい。
ネジ穴25を胴部2の両端部に設ける場合、供給部3と排出部4を区別することなく共通する供給排出部として使用することが可能になる。これにより、スピンドル冷却装置1を上下の区別なく、いずれの側からもスピンドル70に挿通することができる。例えば、立設状態のスピンドル70に対し任意の側からスピンドル冷却装置1を挿通し、下側になった供給排出部から冷却液を供給し、上側の供給排出部から冷却液を排出することができる。
【0036】
また、説明した実施形態では、
図4に示すように加工液供給部90を工作機械80に取り付ける場合について説明した。
これに対して、加工液供給部90をスピンドル冷却装置1の胴部2又は、固定アタッチメント5に取り付けることも可能である。この場合、胴部2又は固定アタッチメント5に加工液供給部90を取り付けるためのネジ穴(供給部取付手段として機能)を設ける。
また、排出部4の配管継ぎ手42に、加工液ノズル91を接続することで、スピンドル冷却装置1から排出される加工液を加工中の刃物78に直接供給することも可能である。この場合、配管継ぎ手42に接続する加工液ノズル91が排出液供給手段として機能する。
【符号の説明】
【0037】
1 スピンドル冷却装置 2 胴部
20 胴部貫通孔 21 小径部
211 内周溝 212 Oリング
22 冷却部 23 冷却フィン
24 包囲空間 25 胴部ネジ穴
3 供給部 31 供給用貫通孔
32 配管継ぎ手 4 排出部
41 排出用貫通孔 42 配管継ぎ手
5 固定アタッチメント 51 スリット
52 取付孔 53 取付ネジ
54 締付け孔 55 締付けネジ
70 スピンドル 71 ハウジング
72 主軸 73 工具取付部
74、75 蓋 76 調整ネジ
77 プーリ取付部 78 刃物
80 工作機械 81 機械本体
82 モータ 83 モータ側プーリ
84 スピンドル側プーリ 85 ベルト
86 スピンドル固定部 87 締付け孔
88 締付けネジ 90 加工液供給部
91 加工液ノズル 92 継ぎ手