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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133052
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】高熱伝導性断熱材
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20220906BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B22D11/10 330Z
C04B41/87 P
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031874
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000244176
【氏名又は名称】明智セラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】加知 圭介
(72)【発明者】
【氏名】階戸 雅弘
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、予熱時に耐火物の温度上昇を妨げることを低減でき、予熱時間を短縮できると共に、予熱後には断熱性を向上させることができる高熱伝導性断熱材を提供する。
【解決手段】本発明の高熱伝導性断熱材1は、鋳造に使用される耐火物の表面をコーティングする断熱材であって熱伝導性付与物質を含有している。このため、予熱時に耐火物の温度上昇を妨げることを低減でき、予熱時間を短縮することができると共に、焼失することで空間を形成し断熱性を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造に使用される耐火物の表面をコーティングする断熱材であって、該断熱材は熱伝導性付与物質を含有していることを特徴とする高熱伝導性断熱材。
【請求項2】
前記熱伝導性付与物質は、炭素材である請求項1に記載の高熱伝導性断熱材。
【請求項3】
前記炭素材は、鱗片状黒鉛、炭素繊維またはカーボンブラックである請求項2に記載の高熱伝導性断熱材。
【請求項4】
前記熱伝導性付与物質は、前記炭素材を2種以上混合した混合物である請求項2または3に記載の高熱伝導性断熱材。
【請求項5】
前記熱伝導性付与物質は、5~50重量%含有されている請求項1ないし4のいずれかに記載の高熱伝導性断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用ノズルなどの耐火物の表面をコーティングするための高熱伝導性断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造では、およそ1500~1600℃の溶鋼を連続鋳造用ノズルを介して注湯している。その際、連続鋳造用ノズルには過酷な熱負荷がかかり亀裂や折損等が発生するおそれがあるため、連続鋳造用ノズルを予熱して破損を防止している。その予熱方法としては、例えば図2に示すように、予熱装置10の炉内に配した連続鋳造用ノズル20の下部吐出口21などから、燃料ガスと酸素を供給可能なバーナー22を用いて1000~1300℃に加熱する方法が一般的に行われている。
【0003】
しかし、予熱終了後、鋳込み開始までの間に、連続鋳造用ノズルが冷却してしまうことで溶鋼注湯時に激しい熱衝撃が加わるため、連続鋳造用ノズル(耐火物)20の表面には、図5(1)に示すように断熱材30を施工し待機中の冷却を防止している。
【0004】
そして、この種の断熱材30は、予熱後の抜熱を防止するため、熱伝導性を極力低くする傾向にあった(例えば、特開2018-62438号公報の連続鋳造用ノズル用断熱コーティング材)。そのため、予熱時には、図5(2)に示すように、熱伝導性が低い断熱材30が耐火物の温度上昇を妨げ昇温を遅らせることから、予熱時間を増加せざるを得なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-62438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、予熱時に耐火物の温度上昇を妨げることを低減でき、予熱時間を短縮できると共に、予熱後には断熱性を向上させることができる高熱伝導性断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するものは、鋳造に使用される耐火物の表面をコーティングする断熱材であって、該断熱材は、熱伝導性付与物質を含有していることを特徴とする高熱伝導性断熱材である(請求項1)。
【0008】
前記熱伝導性付与物質は、炭素材であることが好ましい(請求項2)。前記炭素材は、鱗片状黒鉛、炭素繊維またはカーボンブラックであることが好ましい(請求項3)。前記熱伝導性付与物質は、前記炭素材を2種以上混合した混合物であってもよい(請求項4)。前記熱伝導性付与物質は、5~50重量%含有されていることが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
請求項1ないし4に記載の高熱伝導性断熱材によれば、予熱時に耐火物の温度上昇を妨げることを低減でき、予熱時間を短縮することができると共に、予熱後には断熱性を向上させることができる。
請求項5に記載の高熱伝導性断熱材によれば、上記請求項の効果をより確実に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の高熱伝導性断熱材の作用を説明するための説明図である。
図2】本発明の高熱伝導性断熱材の効果を説明するための温度測定方法の説明図である。
図3図2の温度測定方法による予熱時の昇温推移を表すグラフである。
図4図2の温度測定方法による予熱後の温度降下推移を表すグラフである。
図5】従来の断熱材の作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、鋳造に使用される耐火物の表面をコーティングする断熱材であって、その断熱材が熱伝導性付与物質2を含有していることで、予熱時に耐火物の温度上昇を妨げることを低減でき、予熱時間を短縮することができると共に、予熱後には断熱性を向上させることができる高熱伝導性断熱材1を実現した。
【実施例0012】
本発明の高熱伝導性断熱材を図1から図4に示した一実施例を用いて説明する。
この実施例の高熱伝導性断熱材1は、鋳造に使用される耐火物の表面をコーティングする断熱材であって、熱伝導性付与物質2を含有していることを特徴とする高熱伝導性断熱材である。以下、構成について詳述する。
【0013】
この実施例の高熱伝導性断熱材1は、図1(1)に示すように連続鋳造に使用される連続鋳造用ノズルなどの耐火物20の表面をコーティングする吹付けタイプの断熱材であって、熱伝導性付与物質2を含有している。
【0014】
本発明の高熱伝導性断熱材1は、この熱伝導性付与物質2を含有していることにより、予熱時には、図1(2)に示すように熱伝導性付与物質2が耐火物20の温度上昇を促進することで予熱時間を短縮することができると共に、予熱後には、図1(3)に示すように熱伝導性付与物質2が焼失して断熱層内に空間40が形成されることで断熱性を向上させることができる。
【0015】
この実施例の熱伝導性付与物質2は黒鉛であるが、本発明の高熱伝導性断熱材における熱伝導性付与物質は、これに限定されるものではなく、耐火物の温度上昇を増進させることで予熱時間を短縮できると共に、予熱後には焼失して断熱層内に空間40を形成可能なものであればどのようなものでもよく、例えば、その他の炭素材であってもよい。なお、本願において「炭素材」とは炭素を含む材料であり、例えば鱗片状黒鉛、炭素繊維またはカーボンブラックなどが好適に使用できる。また、前記熱伝導性付与物質は、前記炭素材を単独、または2種以上混合した混合物であってもよい。
【0016】
高熱伝導性断熱材1を構成する母材3としては、例えば、Al-SiO系化合物、Al、SiO、SiCの単体またはそれらの混合物が好適に使用できるが、それらに限定されるものではない。
【0017】
熱伝導性付与物質2は、高熱伝導性断熱材1中に5~50重量%含有されていることが好ましい。熱伝導性付与物質2が5重量%未満であると、予熱時に耐火物20の温度上昇を促進させ予熱時間を短縮する効果、および予熱後に熱伝導性付与物質2が焼失して断熱層内に空間40を形成し断熱性を向上させる効果が十分ではなくなり、他方、熱伝導性付与物質2が50重量%を超えると、断熱材の強度が著しく低下するためである。
【0018】
高熱伝導性断熱材1は、母材3と熱伝導性付与物質2との合計100重量%の外で、施工に際して結合剤として働き、乾燥時に硬化する働きを有する液状バインダーにて液状化されていることが好ましい。結合剤としては無機バインダーや有機バインダー、またはそれらの混合物が好適に使用できる。無機バインダーとしては、例えば、ケイ酸ソーダやケイ酸カリウム、リン酸ソーダ、コロイダルシリカ、またはそれらの混合物が好適に使用できる。有機バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂、糖類の加水分解物または/および還元澱粉糖化物、糖蜜、メチルセルロース、澱粉、天然ゴム、カゼイン、酢酸ビニル、またはそれらの混合物が好適に使用できる。
【0019】
この実施例の高熱伝導性断熱材1は吹付断熱材であるため、スプレーガンに等により耐火物20に吹付け施工するものであり、その際、水を添加して使用するものでもよいが、本発明の高熱伝導性断熱材1は吹付断熱材に限定されるものではなく、耐火物20の表面にローラーや刷毛等により塗布してもよく、その他、公知の各種施工方法にて施工可能なものは広く本発明の高熱伝導性断熱材に包含される。
【0020】
(具体的実施例)
下記表1に示すように、母材としてAlが52重量%、SiOが37重量%およびSiCが3重量%、熱伝導性付与物質として炭素材(黒鉛)を8重量%混合して本発明の高熱伝導性断熱材の実施例を作製した。この実施例の高熱伝導性断熱材に液状バインダーを添加して吹付断熱材を作製し、耐火物(連続鋳造用ノズル)20の表面に吹き付けて乾燥させ断熱層を形成した。
【0021】
(比較例)
下記表1に示すように、母材としてAlが55重量%、SiOが40重量%およびSiCが5重量%からなり、熱伝導性付与物質を含有しない比較例を作製した。この実施例の高熱伝導性断熱材に液状バインダーを添加して吹付断熱材を作製し、耐火物(連続鋳造用ノズル)20の表面に吹き付けて乾燥させ断熱層を形成した。
【0022】
【表1】
【0023】
(昇温試験)
図2に示すように、予熱装置10の炉内に、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物(連続鋳造用ノズル)と、比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物(連続鋳造用ノズル)をそれぞれ配し、バーナー22にて加熱して耐火物(連続鋳造用ノズル)20の昇温推移および炉内温度の推移を熱電対23を用いて計測しデータロガー24に保存した。
【0024】
(試験結果)
上記昇温試験の測定結果を以下の表2に示した。
【表2】
【0025】
(考察)
上記表2に示した測定結果をグラフにした図3において、Pは予熱装置10の炉内温度の昇温推移、Qは実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物の昇温推移、Rは比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物の昇温推移である。この図3から、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物の方が、比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物より昇温が速くなることが確認された。例えば耐火物が800℃に達する時間を例にすると、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物では予熱開始後約14分(801℃)であるのに対して、比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物では予熱開始後約19分(797℃)で、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物の方が約5分早く800℃に達した。また、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物は、表1に示したように、熱伝導性付与物質(炭素材)を8重量%含有させたものであり、熱伝導性付与物質(炭素材)の重量%を増加させれば、昇温スピードはさらに速くなるものと推測される。
【0026】
(断熱性試験)
図2に示すように、予熱装置10の炉内に、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物(連続鋳造用ノズル)と、比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物(連続鋳造用ノズル)をそれぞれ配し、バーナー22にて加熱した後、それぞれの耐火物(連続鋳造用ノズル)の温度降下の推移を熱電対23を用いて計測しデータロガー24に保存した。
【0027】
(試験結果)
上記断熱性試験の測定結果を以下の表3に示した。
【表3】
【0028】
(考察)
上記表3に示した測定結果をグラフにした図4において、Qは実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物の予熱後の温度降下の推移、Rは比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物の温度降下の推移である。この図4から、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物の方が、比較例の断熱材にて断熱層を形成した耐火物より予熱後の温度降下がなだらかであり、実施例の高熱伝導性断熱材の方が比較例の断熱材より断熱性能が高いことが確認された。また、実施例の高熱伝導性断熱材にて断熱層を形成した耐火物は、表1に示したように、熱伝導性付与物質(炭素材)を8重量%含有させたものであり、熱伝導性付与物質(炭素材)の重量%を増加させれば、温度降下がさらになだらかとなり断熱性能もさらに高くなるものと推測される。
【符号の説明】
【0029】
1 高熱伝導性断熱材
2 熱伝導性付与物質
3 母材
10 予熱装置
20 連続鋳造用ノズル(耐火物)
21 吐出口
22 バーナー
23 熱電対
24 データロガー
30 断熱材
40 空間
図1
図2
図3
図4
図5