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  • 特開-フタロシアニン化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133059
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】フタロシアニン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20220906BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220906BHJP
   C09B 47/067 20060101ALN20220906BHJP
   C09B 47/18 20060101ALN20220906BHJP
【FI】
C07D487/22
C07B61/00 300
C09B47/067
C09B47/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031883
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】青木 正矩
(72)【発明者】
【氏名】久野 美輝
【テーマコード(参考)】
4C050
4H039
【Fターム(参考)】
4C050PA13
4C050PA14
4H039CA42
4H039CH30
(57)【要約】
【課題】本発明は、反応時間を短縮でき、溶媒への溶解性及び光学特性に優れるフタロシアニン化合物の製造方法を提供することを目的とする。特に、フタロシアニン色素に導入される金属化合物の中でも金属ヨウ化物を原料として用いた場合の環化反応時間を短縮することを目的とする。
【解決手段】フタロニトリル化合物を、金属化合物と環化反応させる工程を有するフタロシアニン化合物の製造方法であって、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして環化反応を行うこと、特に上記金属化合物が金属ヨウ化物であることで上記課題を解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタロニトリル化合物を、金属化合物と環化反応させる工程を有するフタロシアニン化合物の製造方法であって、反応溶液100質量%に対し、プロトン性極性溶媒の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして環化反応を行うことを特徴とするフタロシアニン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記フタロニトリル化合物は、 下記式(1):
【化1】
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(2):
【化2】
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(3):
【化3】
で示されるフタロニトリル化合物(3)、下記式(4):
【化4】
(ただし、上記式(1)~(4)において、Z~Z16は、それぞれ独立して、水素原子、SR、ORまたはハロゲン原子を表わし、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20個のアルキル基を表わす)
で示されるフタロニトリル化合物(4)であり、
前記フタロシアニン化合物は、下記式(5):
【化5】
(ただし、Z~Z16は、水素原子、SR、ORまたはハロゲン原子を表わし、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20個のアルキル基を表わし、Mは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす)
で示されるフタロシアニン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記水は、水以外のプロトン性極性溶媒をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記金属化合物は金属ヨウ化物であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記反応溶液の容量は3リットル~15mであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニン化合物の新規な製造方法に関する。特に、本発明は、光学特性に優れるフタロシアニン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外吸収色素あるいはその前駆体、高級顔料または染料などとして有用なフタロシアニン化合物は、近赤外吸収色素あるいはその前駆体、高級顔料または染料などとして幅広い分野、例えば、近赤外域に吸収を有し、半導体レーザーを使う光記録媒体、液晶表示装置、近赤外線吸収色素、近赤外増感剤、感熱転写等の光熱変換剤、熱線吸収材料、近赤外線吸収フィルター等の近赤外線吸収材料、色分解フィルター、液晶表示用カラーフィルター、光学用カラーフィルター、プラズマディスプレイ表示用カラーフィルター、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク等に利用されている。
【0003】
上記フタロシアニン化合物を製造する方法としては、例えば、特許文献1や2が知られている。
特許文献1には、フタロニトリル化合物を、単独でまたは金属化合物と環化反応させてフタロシアニン化合物を製造する際に、上記環化反応を特定量の水酸基および/またはカルボキシル基を有する有機化合物中で、かつ不活性ガスを導入しながら行なうことを特徴とするフタロシアニン化合物の製造方法が開示されている。当該方法によると、酸素含有ガス等の爆発の危険性を有するものを酸素源として使用することなく、より安全上好ましい方法で、フタロシアニン化合物を工業的に安価に製造できることが記載される。また、実施例では、当該水酸基および/またはカルボキシル基を有する有機化合物として、n-オクタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、安息香酸、ナフトエ酸が使用されている。
また、特許文献2には、フタロシアニン化合物を製造する際に、フタロニトリル化合物を、単独でまたは金属化合物と環化反応させる際に、当該環化反応を、炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で行なうことによって、20リットル以上という大量生産時であっても、フタロシアニン化合物の製造工程中の未反応の金属化合物等の不純物の析出を有意に抑制・防止することができ、反応後濾過しても不純物がフィルターを目詰まりさせることがなく、迅速に濾過することができることが開示されている。
【0004】
フタロシアニン化合物を工業的に製造するために様々な研究開発がなされているが、反応時間や反応効率(収率)において更なる改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-298491号公報
【特許文献2】特開2008-231153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、反応時間を短縮でき、溶媒への溶解性及び光学特性に優れるフタロシアニン化合物の製造方法を提供することを目的とする。特に、フタロシアニン化合物に導入される金属化合物の中でも金属ヨウ化物の錯体化反応を活性化できる製造方法により環化反応時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、環化反応時間を短縮できるフタロシアニン化合物の製造方法を見出した。すなわち、本発明の目的は、下記<1>~<6>により達成される。
<1>フタロニトリル化合物を、金属化合物と環化反応させる工程を有するフタロシアニン化合物の製造方法であって、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして環化反応を行うことを特徴とするフタロシアニン化合物の製造方法。
<2>前記フタロニトリル化合物は、 下記式(1):
【0008】
【化1】
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(2):
【0009】
【化2】
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(3):
【0010】
【化3】
で示されるフタロニトリル化合物(3)、下記式(4):
【0011】
【化4】
(ただし、上記式(1)~(4)において、Z~Z16は、それぞれ独立して、水素原子、SR、ORまたはハロゲン原子を表わし、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20個のアルキル基を表わす)
で示されるフタロニトリル化合物(4)であり、
前記フタロシアニン化合物は、下記式(5):
【0012】
【化5】
(ただし、Z~Z16は、水素原子、SR、ORまたはハロゲン原子を表わし、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20個のアルキル基を表わし、Mは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす)
で示されるフタロシアニン化合物であることを特徴とする<1>に記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
<3>前記水は、水以外のプロトン性極性溶媒をさらに含むことを特徴とする<1>又は<2>に記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
<4>前記金属化合物は金属ヨウ化物であることを特徴とする<1>~<3>のいずれかに記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
<5>前記反応溶液の容量は3リットル~15mであることを特徴とする<1>~<4>のいずれかに記載のフタロシアニン化合物の製造方法。
<6>フタロニトリル化合物を、金属ヨウ化物と環化反応させる工程を有するフタロシアニン化合物の製造方法であって、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲に調整後、加熱することを特徴とするフタロシアニン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法では、環化反応時間を大幅に短縮することができ、得られたフタロシアニン化合物を近赤外吸収色素あるいはその前駆体、高級顔料または染料などとして幅広い分野への利用が図れる。特に、金属化合物として金属ヨウ化物を用いた場合には上記効果が顕著に見られ工業的規模での生産を効率良く行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】反応溶液の含水率を変更して環化反応した際の、原料転化率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせた形態もまた、本発明の好ましい形態である。
また、本明細書において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。さらに、上限値および下限値について、好適な数値を段階的に記載する場合、各々分けて記載した上限値と下限値を、適宜組み合わせた数値範囲も好適な数値範囲である。
上述のとおり、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、フタロニトリル化合物を、金属化合物と環化反応させる工程を有するフタロシアニン化合物の製造方法であって、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして環化反応を行う形態である。また、上記金属化合物は、金属ヨウ化物であることが好ましい形態である。
本発明によれば、環化反応の時間を有意に短縮することができる。この点は、生産性の観点から好ましく、例えば反応容量(反応容器に仕込まれる反応溶液の容量)が3リットル以上であるような大量生産時に特に好ましい。また、本発明において、環化反応を行う際には、触媒や、腐食を抑制するための添加剤を加えても良いが、この際、金属ハロゲン化物等を用いる場合に腐食を抑制するために炭酸カルシウムのような不溶性のものを用いた場合には、反応後に濾過してこれを除去することが望ましい。また、この不溶性の添加物等を用いない場合でも、環化反応中にはフタロニトリル化合物の重合によって生じる難溶性の副生成物(不純物)が生じたり、金属の酸化物が生成または残存したりすることが多いため、純度の高いフタロシアニン化合物を得るためには環化反応後に濾過を行うことが望ましい。
【0016】
環化反応の際に特定量の水を存在させることで、環化反応の速度が向上する理由は定かではないが、以下のように考えられる。ただ、本発明の技術的範囲が、下記推論によって限定されるものではないことは言うまでもない。すなわち、反応溶液を加熱した際、反応系中では環化反応以外にも酸化還元反応が起こっており、プロトン性極性溶媒である水が酸化剤として作用している可能性があると推察される。また、金属化合物として、金属ヨウ化物を用いた場合には、フタロニトリル化合物に触媒的に作用して環化反応をさらに促進すること、副反応として生成したIが平面構造のフタロシアニン分子間に存在することで、溶媒がフタロシアニン分子間に入りこむことで溶解性が向上し、環化反応の効率が向上することも一因であると推察される。このように仕込まれた原料や生成した化合物の溶解性が向上して反応が促進するため、これによっても反応収率(原料転化率)および反応速度が上がると考えられる。
上述したように、環化反応時の反応溶液にはフタロニトリル化合物、金属化合物、溶媒、必要に応じて触媒や添加剤が存在する。本発明者らは、反応溶液(溶媒と溶解している溶質の総量)100質量%に対し、プロトン性極性溶媒である水の量を調整することで反応時間を短縮できることを見出すことができた。
通常の環化反応では、有機溶媒を使用して行なわれる。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-クロロナフタレン、1-メチルナフタレン、エチレングリコール、及びベンゾニトリル等の不活性溶媒;ならびにピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリジノン、N,N-ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
本発明における環化反応では、上記の不活性溶媒または非プロトン性極性溶媒以外に、特定量のプロトン性極性溶媒である水を含むことが好ましい。具体的には、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、ニトリル系溶媒、窒素化合物系溶媒、硫黄化合物系溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒と、特定量の水を含むことが好ましい。また、炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒と、特定量の水とを含むことが特に好ましい。特に好ましい溶媒について以下に詳述する。
【0017】
(炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒)
炭化水素系溶媒とは、炭素および水素からなる溶媒を意味する。また、ハロゲン化炭化水素系溶媒とは、当該炭化水素系溶媒の少なくとも一の水素がハロゲンに置換された溶媒を意味する。かかる炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒は、環化反応時の副反応を起こしにくいものであり、かつ、環化を迅速に行うことができるものであれば特に制限されないが、原料のフタロニトリル化合物、金属化合物、および生成するフタロシアニン化合物の溶解度の観点から、ハロゲン化炭化水素系溶媒が好ましい。
ハロゲンとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、溶解性、副反応の起こりにくさ、工業的な入手のしやすさ等を考慮すると、塩素原子が好ましい。
上記炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒の沸点は、特に制限はないが、好ましくは80~260℃、より好ましくは120~240℃、さらに好ましくは140~200℃である。溶媒の沸点が80℃未満であると、沸点以下の温度では反応が遅くなる場合がある。また、原料を溶解させるために大量の溶媒を必要とし生産性が低くなる場合があり、逆に260℃を超えると、後の乾燥(溶媒除去)工程で長時間高い温度に保持したり特殊な設備を用いて真空度を高くしたりすることが必要となったりして、好ましくない場合がある。
上記炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒として、具体的には、ベンゼン(沸点:約80℃)、トルエン(沸点:約111℃)、エチルベンゼン(沸点:約136℃)、プロピルベンゼン(イソクメン)(沸点:約159℃)、イソプロピルベンゼン(クメン)(沸点:約152℃)、o-キシレン(沸点:約144℃)、m-キシレン(沸点:約139℃)、p-キシレン(沸点:約138℃)、1-メチル-2-エチルベンゼン(沸点:約165℃)、1-メチル-3-エチルベンゼン(沸点:約161℃)、1-メチル-4-エチルベンゼン(沸点:約162℃)、o-ジエチルベンゼン(沸点:約184℃)、1,2,3-トリメチルベンゼン(沸点:約176℃)、1,2,4-トリメチルベンゼン(沸点:約169℃)、1,3,5-トリメチルベンゼン(沸点:約164℃)、1-メチルナフタレン(沸点:約245℃)、2-メチルナフタレン(沸点:約241℃)、1-エチルナフタレン(沸点:約251~252℃)、2-エチルナフタレン(沸点:約252℃)、n-オクタン(沸点:約126℃)、n-デカン(沸点:約174℃)などの、炭化水素系溶媒;およびクロロベンゼン(沸点:約132℃)、1,2-ジクロロベンゼン(沸点:約180℃)、1,3-ジクロロベンゼン(沸点:約173℃)、1,4-ジクロロベンゼン(沸点:約174℃)、1,2,3-トリクロロベンゼン(沸点:約219℃)、1,2,4-トリクロロベンゼン(沸点:約213℃)、1,3,5-トリクロロベンゼン(沸点:約208℃)、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン(沸点:約243~246℃)、2-クロロトルエン(沸点:約159℃)、3-クロロトルエン(沸点:約161℃)、4-クロロトルエン(沸点:約162℃)、1-クロロナフタレン(沸点:約259℃)、2-クロロナフタレン(沸点:約256℃)などの、ハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。
これらのうち、環化反応の速度、環化反応時の副反応の起こりにくさ、沸点、フタロニトリル化合物の溶解度、工業的な入手のしやすさなどを考慮すると、1,2,4-トリメチルベンゼン、キシレン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエン、n-デカンなどが好ましい。より好ましくは、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン、キシレン、2-クロロトルエン、3-クロロトルエン、4-クロロトルエン、ジクロロベンゼン、n-デカンである。最も好ましくは、原料のフタロニトリル化合物、金属化合物、および生成するフタロシアニン化合物の溶解度および沸点の観点から、1,2,4-トリメチルベンゼン、2-クロロトルエンである。
なお、上記炭化水素系溶媒およびハロゲン化炭化水素系溶媒は、それぞれ、単独でもしくは2種以上の混合物の形態で使用されても、またはそれぞれの1種もしくは2種以上を組み合わせて使用してもよいが、単独で使用するのが一般的である。
【0018】
(ニトリル系溶媒)
ニトリル系溶媒としては、例えば、ベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオンニトリルなどが挙げられる。これらのうち、金属化合物の溶解性や反応性、溶媒自身の安定性、などを考慮すると、ベンゾニトリル、アセトニトリルなどが好ましく、より好ましくはベンゾニトリルである。なお、上記ニトリル系溶媒は、それぞれ、単独でもしくは2種以上の混合物の形態で使用されてもよいが、単独で使用するのが一般的である。
(プロトン性極性溶媒)
プロトン性極性溶媒としては、本発明の製造方法で好適に用いる水以外に、アルコール、アミンおよびフェノールが挙げられる。水と併用する場合はアルコールが好ましい。
水としては、特に限定されないが、一般的な工業用純水やイオン交換水を用いることができる。すなわち、河川、地下水、湖沼、海水、かん水等を水源とし、沈殿、凝析、ろ過、蒸留、イオン交換、限外ろ過、逆浸透法等で精製したものである。また、25℃におけるイオン伝導度が好ましくは10μS/cm以下、より好ましくは5μS/cm以下のものである。
アルコールとしては、1官能のアルコールと多価アルコールとを含む。例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノールおよび1-オクタノールなどの1級アルコール類、イソプロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-ヘキサノール、シクロヘキサノール、2-ヘプタノールおよび3-ヘプタノールなどの2級アルコール類、tert-ブタノール、tert-ペンタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびトリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどを例示することができる。なかでも、炭素数2以上のアルコールが好ましい。炭素数2以上のアルコールとしては、例えばエタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、tert-ブタノールおよびtert-ペンタノールが挙げられる。
アミン(系溶媒)はジエチレンアミン、ジメチルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。
【0019】
フェノールとしては、フェノール、クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノールが挙げられる。
水を単独で用いることが好ましいが、その他のプロトン性極性溶媒を併用しても良い。
水の含有量は、反応溶液100質量%に対し、0.05~0.40質量%の範囲に調整することが反応時間短縮の点で好ましい。より好ましくは、0.10~0.40質量%、特に好ましくは0.15~0.30質量%である。水の含有量が上記数値範囲であると、環化反応が速く進み、且つ環化反応後に得られるフタロシアニンの光学特性が良好となる。
なお、水以外のプロトン性極性溶媒を併用する場合は、反応溶液100質量%に対し、0.05~0.95質量%の範囲に調整することが好ましい。より好ましくは、0.05~0.50質量%、さらに好ましくは0.05~0.40質量%、特に好ましくは0.10~0.30質量%である。水以外のプロトン性極性溶媒の含有量が上記数値範囲であると、水が効率よく働き、環化反応が速く進み、且つ環化反応後に得られるフタロシアニンの光学特性が良好となる。なお、水と併用する場合のプロトン性極性溶媒としては、反応溶媒および水との相溶性を考慮するとアルコールが好ましい。好ましいアルコールとしては1官能および多価アルコールとも好ましいが、反応溶媒との相溶性や沸点を考慮すると炭素数4以上のアルコールが特に好ましく、例えば、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-オクタノールなどの1級アルコール類、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-ヘキサノール、シクロヘキサノール、2-ヘプタノールおよび3-ヘプタノールなどの2級アルコール類、tert-ブタノール、tert-ペンタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびトリプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどを例示することができる。
【0020】
また、水と水以外のプロトン性極性溶媒を併用する場合の総プロトン性極性溶媒の含有量は、反応溶液100質量%に対し、0.10~1.00質量%の範囲が好ましく、より好ましくは、0.15~0.80質量%、さらに好ましくは0.15~0.60質量%、特に好ましくは0.15~0.50質量%の範囲とすることで本発明の効果を奏することができる。
反応溶液に含まれる全ての溶媒の総量は、環化反応の反応速度が速く、さらに、副反応をあまりまたは全く伴わずに(不純物をあまりまたは全く生成せずに)環化反応を良好に進行できる量であれば特に制限されない。ただ、反応性(反応速度)、副反応の防止または抑制、さらには反応後や晶析後の濾過速度などを考慮すると、出発原料であるフタロニトリル化合物1質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部、より好ましくは0.7~15質量部、さらに好ましくは1~5質量部、特に好ましくは1~3質量部の範囲である。上記範囲にすることで、環化反応が効率よく進行し、目的とするフタロシアニン化合物の収率が向上する。また後工程での効率や生産性がさらに高まる。
本発明において環化反応で主成分として使用される溶媒は、炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒等の非プロトン性極性溶媒であるが、環化反応の反応時間、不純物の析出の抑制または防止、目的物の収率の向上を考慮すると、反応溶媒100質量%に対し、炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒の含有量は好ましくは60.00~99.95質量%、一層好ましくは80.00~99.95質量%であり、より一層好ましくは90.00~99.95質量%、さらに好ましくは95.00~99.95質量%の範囲である。
なお、使用する全ての溶媒は、原料(つまり、所望のフタロシアニン化合物を製造するのに必要な化合物)の仕込み時に一度に仕込んでもよいし、必要に応じて反応中に連続してまたは分割して投入してもよい。炭化水素系溶媒またはハロゲン化炭化水素系溶媒等の非プロトン性極性溶媒と、水等のプロトン性極性溶媒とは、一緒に仕込んで、水の含有量を環化反応前(加熱前)に上記数値範囲に調整することが特に好ましい形態である。なお、反応溶液における水の含有量は原料に含まれる水分も含めてトータルの水の含有量である。
【0021】
水分量の測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定される。実施例で使用する機器等が廃版等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器等を使用することができる。
本発明の製造方法では金属化合物を酸化する必要があるような場合には反応系に酸素を含有するガスを導入しても良く、逆に、酸素が存在しない方が好ましいような場合には窒素等の不活性ガスを導入しても良い。本発明で使用できる酸素含有ガスとしては、純酸素、空気、酸素/窒素混合ガス等がある。また、使用できる不活性ガスとしては、本発明の環化反応に不活性なものであれば特に制限はなく、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガスなどが挙げられる。なお、ガスで反応器内部を置換する方法としては、ガスを流通させる方法、あるいはガスで反応器内部を加圧状態にした後、解圧して常圧にもどすことを繰り返す方法等が挙げられる。反応器内部の気相部の濃度を適切にコントロールすることは、例えば、酸素濃度計等を使って測定することによって、容易に達成することができる。以下に製造条件の一例を説明する。
不活性ガスを反応容器内に吹き込む場合、反応容器の上部に窒素導入口を設けて吹き込むことが挙げられる。その際は排気口を設けておく。不活性ガスとしては、大気中に最も多く含まれる気体で、常温常圧下では、極めて不活性かつ、アルゴン等の希ガスに比べると安価な窒素が好ましい。その窒素の導入量は 例えば実験室スケール(0.1~3リットル)では、0.1(ml/分)~300(ml/分)の流速で吹き込むことが好ましく、さらには10(ml/分)~150(ml/分)の流速で吹き込むことが好ましい。工業生産スケール(3リットル~15m)では、0.2(l/分)~1500(l/分)の流速で吹き込むことが好ましく、さらには0.2(l/分)~300(l/分)の流速で吹き込むことが好ましい。上記操作により反応容器内に外部から水が入るのを防ぐことができる。
なお、反応系内に水分が入った場合には、反応器の腐食防止、後述の環化反応条件における厳密な制御等の工業的に安定した運転管理という観点から、安全かつ安定した製造を行う為に、適宜、水分離管等を反応器に据付けて、余剰の水分を反応器外部に分離して反応を行うことが好ましい。
【0022】
(金属化合物)
本発明の製造方法で使用される金属化合物としては、フタロニトリル化合物と環化反応をして目的とするフタロシアニン化合物を製造できるものであれば特に制限されないが、金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物、有機酸金属などが好適である。これらの金属化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよく、目的とするフタロシアニン化合物の構造によって適宜選択される。
【0023】
なお、金属化合物は、反応後に得られるフタロシアニン化合物を表わす下記式(5)の「M」に相当する金属を有する。具体的には、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、マグネシウムおよびスズ等の金属;当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、例えば、三塩化バナジウム、塩化バナジウム、塩化チタン、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化鉄、塩化インジウム、塩化アルミニウム、塩化錫、塩化ガリウム、塩化ゲルマニウム、塩化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化コバルト、ヨウ化インジウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化ガリウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化コバルト、臭化アルミニウム、臭化ガリウム;一酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化バナジウム、五酸化バナジウム、二酸化チタン、一酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化マンガン、一酸化ニッケル、一酸化コバルト、三二酸化コバルト、二酸化コバルト、酸化第一銅、酸化第二銅、三二酸化銅、酸化バラジウム、酸化亜鉛、一酸化ゲルマニウム、および二酸化ゲルマニウム等の金属酸化物;酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、安息香酸銅、安息香酸亜鉛等の有機酸金属;ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物およびコバルトカルボニル、鉄カルボニル、ニッケルカルボニル等の金属カルボニルなどが挙げられる。
【0024】
これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物であり、より好ましくは金属ハロゲン化物である。反応性の観点から、さらに好ましくは、ヨウ化バナジウム、ヨウ化銅およびヨウ化亜鉛であり、特に好ましくは、ヨウ化銅およびヨウ化亜鉛であり、最も好ましくはヨウ化亜鉛である。ヨウ化亜鉛を用いる場合、中心金属「M」は、亜鉛ということになる。金属ハロゲン化物のうち、ヨウ化物を用いることが好適な理由は、溶剤や樹脂に対する溶解性に優れ、得られるフタロシアニン化合物のスペクトルがシャープであり、所望の波長である640~750nmに収まりやすいためである。環化反応の際にヨウ化物を用いた場合にスペクトルがシャープになる詳細なメカニズムは不明であるが、ヨウ化物を用いた場合、反応後にフタロシアニン化合物中に残存するヨウ素が、フタロシアニン化合物と何らかの相互作用を起こして、フタロシアニン化合物の層間にヨウ素が存在するようになるためであると推定される。しかしながら、上記メカニズムに限定されるものではない。環化反応に金属ヨウ化物を用いた場合と同様の効果を得るために、得られたフタロシアニン化合物をヨウ素で処理してもよい。
【0025】
本発明においては、環化反応を特定量の水の存在下で行うことを特徴としているため、かかる点を除けば、環化反応は、特開昭64-45474号公報に記載の方法などの従来公知の方法と同様にして行うことができる。よって、環化反応の条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではない。実施例の欄を参照して適宜設計してもよい。
(環化反応の条件)
環化反応において、例えば、反応溶液に含まれる溶媒は、上記したものと同様の量が使用できる。
また、環化反応において、金属化合物は、フタロニトリル化合物4モルに対して、好ましくは1~5モル、より好ましくは1~3モル、さらに好ましくは1~2の範囲になるように仕込まれる。
【0026】
環化反応において、反応温度は、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~220℃、さらに好ましくは120~200℃である。なお、加熱を行う前に、室温で30分~2時間程度攪拌を行ってもよい。
上記反応温度にすることで反応速度が速く、且つ副反応が起こりにくくなり収率がさらに向上する。
環化反応において、反応時間は、好ましくは72時間以内、工業的に実施することを考慮すると、より好ましくは48時間以内、さらに好ましくは36時間以内、特に好ましくは24時間以内である。
【0027】
本発明においては、フタロニトリル化合物と金属ヨウ化物との環化反応を、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして行うことが特に好ましい形態である。環化する速度が向上し、さらに、目的とするフタロシアニン化合物の溶解性、光学特性が向上する。つまりは、上記のように環化時間を短縮しても、目的物を高純度で得ることができるため、生産性が非常に向上する。つまり、反応器における反応溶液の容量が好ましくは3リットル~15m、より好ましくは3リットル~10m、さらに好ましくは3リットル~5m、3リットル~3mの工業生産における製造方法は最も好ましい形態である。
【0028】
より具体的には、本発明によれば、環化反応における反応時間は好ましくは72時間以内、より好ましくは48時間以内、さらに好ましくは36時間以内で、特に好ましくは24時間以内で、原料転化率は好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上となる。
また、本発明によれば、最終的に得られる目的物の収率も有意に高く、70%以上、よ
り好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上の収率が得られる。
以下に環化反応時の製造条件の一例を示す。
【0029】
使用する反応容器の形状は特に限定されず、例えば多角型、円筒型等があるが、撹拌効果、取り扱い性、汎用性等の点からは円筒形が好ましい。また、邪魔板はあっても良いし、無くても良いが、邪魔板を設けることで、反応溶液の均一性を高めることができる。撹拌機としては、電動モーター等の動力源、回転軸、撹拌機等から構成されるが、その撹拌翼の形状は問わない。撹拌機としては、デスクタービン、ファンタービン、湾曲ファンタービン、矢羽タービン、多段ファンタービン、ファウドラー翼、ブルマージン型、角度付翼、プロペラ型、多段翼、アンカー型、ゲート型、二重リボン翼、スクリュー翼、マックスブレンド翼等を挙げることができる。環化反応中の撹拌動力(工業生産スケール)は好ましくは0.1~4.0kW/m、さらに好ましくは0.1~3.0kW/m、より好ましくは0.2~2.0kW/mである。すなわち、撹拌動力が0.1kW/m未満では反応溶液の均一性が低下するおそれがある。一方、撹拌動力が4.0kW/mを越えると、反応溶液が反応容器の内壁面に飛散する可能性がある。その他、反応中の容器内の圧力については、加圧、減圧の制御の必要性は問わない。特殊な操作をしたり、特殊な原料を使用しない限り、通常、常圧で行えばよい。
【0030】
反応容器の内部の材質としては、特に限定されず、例えばステンレス鋼製、好ましくはSUS304、SUS316、SUS316L等のSUS製が耐食性の点から好ましい。また、反応容器の内部にグラスライニング加工等が施され、反応原料および反応生成物に対して不活性なものとすることが望ましい。最終的に得られる反応溶液の体積は反応容器の体積の10~80体積%に制御することが好ましく、20~70体積%に制御することがさらに好ましい。
上記環化反応後は、必要に応じ、濾過、晶析、洗浄、乾燥することにより、効率よくかつ高純度で得ることができる。上記濾過、晶析、濾過、洗浄、乾燥工程は、特に制限されず、従来公知のフタロシアニン化合物の合成方法で使用される各種工程と同様の工程が使用できる。上記工程によると、フタロシアニン化合物の純度の低下や可視光の透過の妨げの原因となりうる不純物の生成物中の含量が少ない。
【0031】
以下、本発明の製造方法の好ましい実施形態を説明する。すなわち、下記式(1):
【0032】
【化6】
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(2):
【0033】
【化7】
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(3):
【0034】
【化8】
で示されるフタロニトリル化合物(3)、下記式(4):
【0035】
【化9】
で示されるフタロニトリル化合物(4)を、
反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして、金属化合物と環化反応させることにより、下記式(5):
【0036】
【化10】
で示されるフタロシアニン化合物(5)が製造される。
【0037】
上記式(1)~(5)中、Z~Z16は、所望のフタロシアニン化合物の構造によって規定される。また、目的とするフタロシアニン化合物の構造によっては、フタロニトリル化合物が1~3種類となることもある。例えば、Z~Z(構成単位A)、Z~Z(構成単位B)、Z~Z12(構成単位C)およびZ13~Z16(構成単位D)がそれぞれ同じ場合には、原料として使用されるフタロニトリル化合物は1種類となる。
【0038】
また、上記式(1)~(5)中、Z~Z16は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、-SR、-ORでありうる。また、Mは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物である。
上記のように、本発明の方法は、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲にして環化反応を行うことを特徴とするものであり、原料であるフタロニトリル化合物および金属化合物、ならびに製造されるフタロシアニン化合物の構造は特に制限されず、所望の光線吸収波長、最大吸収波長での透過率、可視光線領域での透過率、溶剤への溶解度、および必要な耐久性などによって適宜選択される。このため、上記特徴とする構成要件以外については、従来と同様の方法が適用でき、例えば、特開2001-106689号公報、特許第3721298号明細書、特開2004-018561号公報および特開2002-114790号公報などに記載される方法を参照し、あるいは組み合わせて、適用可能である。
【0039】
本発明の製造方法は、反応溶液中の水の含有量が特徴である。一般に、フタロニトリル化合物の環化反応においては、シアノ基に金属が配位するとともに分子内のもう一つのシアノ基がもう1個の分子のシアノ基とC-N結合を形成するという過程を経て進行し、置換基Z~Z16は、反応には直接関与しない。つまり、置換基Z~Z16は特に限定されず、広い範囲のフタロシアニン化合物に適用することができるのである。
なお、上述の通り、工業生産スケールでの製造では、上記金属化合物について金属ハロゲン化物が好ましく、ヨウ化バナジウム、ヨウ化銅およびヨウ化亜鉛から選ばれる金属ヨウ化物が特に好ましい。その場合、Mはバナジウム、銅及び亜鉛から選ばれる金属となる。
【0040】
本発明によれば、出発原料である上記式(1)~(4)で表されるフタロニトリル化合物を、特定条件下、金属化合物と環化反応させることによって、対応するフタロシアニン化合物を短時間、高収率で製造することができる。目的とするフタロシアニン化合物の構造によっては、本発明の環化反応の後、更に異なる反応を行ってもよい。例えば、最終的に目的とするフタロシアニン化合物が置換基として-SR、-OR等を有するような場合は、本発明の環化反応でフタロシアニン化合物を合成した後で硫黄化合物またはアルコール化合物と置換反応させる方法が好適に使用できる。その際、環化反応が終わった段階でできるフタロシアニン化合物は単離、精製してから次の工程に用いてもよく、また、単離、精製を行わず反応液をそのまま次の工程に用いてもよい。本発明において、この後工程の反応方法には特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。
【0041】
なお、上述したように、本発明の方法は、「環化反応」の際に、特定量の水が存在することを特徴とするものであり、例えば、一旦環化した後(つまり、フタロシアニン化合物(5)を得た後)であれば、水の含有量に制限はなく、他の溶媒(例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒および水以外のプロトン性極性溶媒からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒)を加えて、所望のフタロシアニン化合物を製造してもよい。環化の後の工程を、後工程とも称する。
【0042】
また、後工程での反応で導入する置換基については特に制限がなく、所望の物性や構造に応じて選択することができる。その際反応に用いる化合物についても特に制限はない。例えば、置換アミノ基を有するフタロシアニン化合物を目的とする場合は、本発明の環化反応で得られたフタロシアニン化合物を、アニリン、ベンジルアミン等の芳香族アミンや、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の脂肪族アミンと反応させることができる。本発明のフタロシアニン化合物の製造方法によると、原料のフタロニトリル化合物に対して、70%以上、あるいは80%以上の収率(単離収率)で、目的とするフタロシアニン化合物を製造することができる。
また、上記R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1~20個のアルキル基を表わす。
本明細書において「置換基を有していてもよい」場合の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、オキシアルキルエーテル基、シアノ基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基の種類も、複数個置換する場合には同種若しくは異種のいずれであっても良い。
【0043】
アラルキル基としては、アルキル基の水素原子がアリール基で置換された基を示し、かかるアリール基としても特に制限なく、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o-,m-若しくはp-トリル基、2,3-若しくは2,4-キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基などが挙げられる。
【0044】
また、炭素原子数1~20個のアルキル基としては、特に制限なく、炭素原子数1~20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0045】
次に、溶解性及び光学特性が良好なフタロシアニン化合物について好ましい形態を説明する。
上記光学特性について、例えば、近赤外線吸収色素としては、溶媒に溶かしたフタロシアニン化合物の溶液の吸収スペクトルを測定した際に、640~750nmの波長域に吸収極大を示すフタロシアニン化合物(色素αと称する)が好ましい。色素αとして好ましくは、下記一般式(5)で表される化合物であることがより好適である。
【0046】
【化11】
式中、Mは、金属原子(好ましくはバナジウム、銅、亜鉛)、金属酸化物又は金属ハロゲン化物を表す。このうち、α位の原子(Z、Z、Z、Z、Z、Z12、Z13、Z16)、及び、β位の原子(Z、Z、Z、Z、Z10、Z11、Z14、Z15)は、下記式(ii-a)、(ii-b)若しくは(ii-c)で表される置換基、又は、ハロゲン原子等で置換されていてもよいし、水素原子でもよい。
【0047】
【化12】
式(ii-a)中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Rは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6~20のアリール基、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、又は、-COORを表す。Rは、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルキル基を表す。mは、0~5の整数である。
式(ii-b)中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Rは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、シアノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6~20のアリール基、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基、又は、-COORを表す。Rは、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルキル基を表す。mは、0~7の整数である。
式(ii-c)中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。Rは、置換基を有してもよい炭素原子数1~20のアルコキシ基を表す。
【0048】
ここで、700~750nmの波長域に吸収極大を示すためには、α位の原子は置換されていることが好ましい。置換基が(ii-a)である場合、R、Rは、少なくともその1つがオルト位又はメタ位に結合していることが好ましく、オルト位に結合していることがより好ましい。置換基が(ii-c)である場合、Z~Z16の16個の原子のうち、(ii-c)で置換されている原子数が4~16個であることが好ましく、8~16個であることがより好ましく、12~16個であることが更に好ましい。β位の原子は置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい(水素原子のまま)が、溶解性の観点から(ii-a)、(ii-b)若しくは(ii-c)で表される置換基、又は、ハロゲン原子等で置換されていることが好ましく、分子の平面性を崩して会合度を抑える観点から(ii-c)で表される置換基、又は、ハロゲン原子がより好ましい。上記により、色素αは会合体を形成しにくくなるため、色素αを含む溶液の吸収スペクトルを測定した際に、700~750nmの波長域に吸収極大を示しやすくなる。
続いて、640~700nmの波長域に吸収極大を示すためには、β位の原子は置換されていることが好ましい。置換基が(ii-a)である場合、R、Rは、少なくともその1つがパラ位に結合していることが好ましい。置換基が(ii-b)である場合、Z~Z16の16個の原子のうち、(ii-b)で置換されている原子数が4~10個であることが好ましく、4~9個であることがより好ましく、4~8個であることが更に好ましい。α位の原子は置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい(水素原子のまま)が、樹脂等に添加した際にショルダーピークが低減された急峻な吸収ピークを持つためには、α位の原子は水素原子であるか、またはハロゲン原子で置換されていることが好ましい。上記により、色素αは会合体を形成しやすくなり、色素αを含む溶液や樹脂組成物を製造した際に640~700nmの波長域に吸収極大を示しやすくなる。
【0049】
以下、光学フィルター用途に使用できるフタロシアニン化合物及びその製造方法について特に好適な形態を説明する。
【0050】
上記フタロシアニン化合物は、下記一般式(IV):
【0051】
【化13】
(式中、Mは、金属原子、金属酸化物又は金属ハロゲン化物を表す。X~X及びY~Yは、同一又は異なって、水素原子(H)、フッ素原子(F)又は置換基を有していてもよいOR基を表す。OR基は、アルコキシ基、フェノキシ基又はナフトキシ基を表す。但し、X及びYのうち少なくとも1個、X及びYのうち少なくとも1個、X及びYのうち少なくとも1個、並びに、X及びYのうち少なくとも1個は、置換基を有していてもよいOR基を表す。)で表される。
上記一般式(IV)において、OR基を構成するRは、アルキル基、フェニル基又はナフチル基であり、置換基を有していてもよい。アルキル基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~8のアルキル基、更に好ましくは炭素数1~6のアルキル基、特に好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。Rの中でも好ましくは、フェニル基又は置換基を有するフェニル基である。本発明では、上記一般式(IV)におけるX~X及びY~Yのうち少なくとも1個は、置換基を有していてもよいフェノキシ基を表すことが好適である。これにより、上記フタロシアニン化合物の会合性がより高くなることに起因して、遮断したい波長域をシャープに遮断でき、かつ透過させたい波長域では高い透過率を示すという光選択透過性(遮断透過特性)をより一層発揮できる。このように本発明の製造方法で得られるフタロシアニン化合物が上記一般式(IV)におけるX~X及びY~Yのうち少なくとも1個が、置換基を有していてもよいフェノキシ基を表す形態もまた好適な形態の1つである。
【0052】
上記OR基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルコキシカルボニル基(-COOR)、ハロゲン基(ハロゲン原子)、シアノ基(-CN)、ニトロ基(-NO)等の電子求引性基;アルキル基(-R10)、アルコキシ基(-OR11)等の電子供与性基;等が挙げられ、これらの1又は2以上を含んでいてもよい。これらの中でも、会合分子構造をとりやすくなることに起因して光選択透過性がより優れたものとなる観点から、電子求引性基が好ましい。電子求引性基として好ましくは、アルコキシカルボニル基、クロル基(塩素原子)又はシアノ基であり、より好ましくは、メトキシカルボニル基、メトキシエトキシカルボニル基、クロル基又はシアノ基である。
なお、アルコキシカルボニル基(-COOR)を構成するRは、炭素数1~8のアルキル基又はアルコキシ基であることが好適であり、アルキル基(-R10)を構成するR10は、炭素数1~8のアルキル基であることが好適である。アルコキシカルボニル基として好ましくは、メトキシカルボニル基又はメトキシエトキシカルボニル基であり、アルキル基として好ましくは、メチル基又はジメチル基である。
【0053】
上記OR基が置換基を有する場合、その置換基の数は特に限定されないが、例えば、1~4個であることが好ましい。より好ましくは1又は2個である。
なお、1個のOR基が2個以上の置換基を有する場合、当該置換基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、OR基における置換基の位置は特に限定されるものではない。
【0054】
上記X及びYのうち少なくとも1個、X及びYのうち少なくとも1個、X及びYのうち少なくとも1個、並びに、X及びYのうち少なくとも1個は、置換基を有していてもよいOR基を表す。好ましくは、置換基を有していてもよいフェノキシ基(すなわち、フェノキシ基又は置換基を有するフェノキシ基)である。より好ましくは、X~X及びY~Yの全てが、置換基を有していてもよいフェノキシ基を表すことである。中でも、置換基を有するフェノキシ基が好ましく、置換基としては、上述したように電子吸引性基が好ましい。
【0055】
上記一般式(IV)において、Mは、金属原子、金属酸化物又は金属ハロゲン化物を表す。金属原子、及び、金属酸化物又は金属ハロゲン化物を構成する金属原子としては上述のMに関する説明と同じである。溶媒や樹脂成分への溶解又は分散性、可視光透過性、耐光性がより優れることから、銅、バナジウム及び亜鉛のいずれかを中心金属とするものが好ましい。より好ましくは銅又は亜鉛である。銅を中心金属とするフタロシアニン化合物は、どのような樹脂成分(バインダー樹脂)に分散させても光による劣化がなく、非常に優れた耐光性を有する。亜鉛を中心金属とするフタロシアニン錯体(フタロシアニン化合物)は、溶媒や樹脂成分に対する溶解性に優れ、光選択透過性がより高い積層体が得られ易いため、好適である。
【0056】
上記金属ハロゲン化物を構成するハロゲン原子は特に限定されず、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0057】
上記一般式(IV)で表される化合物は、例えば、特公平6-31239号公報等に記載の通常の方法を用いて合成することができる。具体的には、金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属からなる群から選ばれる一種(これらを総称して「金属化合物」ともいう)と、下記一般式(II):
【0058】
【化14】
(式中、X及びYは、同一又は異なって、水素原子(H)、フッ素原子(F)又は置換基を有していてもよいOR基を表し、OR基は、アルコキシ基、フェノキシ基又はナフトキシ基を表す。)で表されるフタロニトリル誘導体とを、有機溶媒の存在下で、加熱して環化反応させる前、及び/又は環化反応中に、反応溶液100質量%に対し、水の含有量を0.05~0.40質量%の範囲に調整することが好適である。フタロニトリル誘導体の環化反応は、特に制限されるものではなく、特公平6-31239号公報、特許第3721298号公報、特許第3226504号公報、特開2010-77408号公報等に記載された従来公知の方法を、単独で又は適宜修飾して、適用することができる。置換基及びOR基の具体的な形態は、上記一般式(IV)に関して上述したとおりである。また、使用する溶媒(水、水以外のプロトン性極性溶媒その他)、金属化合物や環化反応の条件は上述の説明の通りである。
上記一般式(II)において、X及びYとして好ましくは、これらの少なくとも1個が、置換基を有していてもよいOR基を表すことである。より好ましくは、X及びYのいずれもが、同一又は異なって、置換基を有していてもよいOR基を表すことである。
上記反応では、上記一般式(II)で表されるフタロニトリル誘導体として、X及びYのうち少なくとも1個が置換基を有していてもよいOR基を表す形態の化合物を少なくとも使用することが好適である。なお、上記X及びYのいずれもが、置換基を有していてもよいOR基以外の基(原子)を表す形態の化合物と、X及びYのうち少なくとも1個が置換基を有していてもよいOR基を表す形態の化合物とを併用してもよい。
【0059】
上記金属化合物としては、上記フタロニトリル誘導体と反応して上記一般式(IV)で表される化合物を与えるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム及びスズ等の金属;当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物;当該金属の、酸化バナジウム、酸化チタニル及び酸化銅等の金属酸化物;当該金属の、酢酸塩等の有機酸金属;当該金属の、アセチルアセトナート等の錯体化合物及びカルボニル鉄等の金属カルボニル;等が挙げられる。
上述した通り、上記金属化合物の中でも、より好ましくは金属ハロゲン化物であり、
更に好ましくは、ヨウ化バナジウム、ヨウ化銅及びヨウ化亜鉛であり、特に好ましくはヨウ化亜鉛である。ヨウ化亜鉛を用いる場合、上記一般式(IV)における中心金属は、亜鉛ということになる。
【0060】
上記金属化合物と、上記一般式(II)で表されるフタロニトリル誘導体(フタロニトリル化合物)との反応を有機溶媒中で行う場合、主成分として使用する有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-クロロナフタレン、1-メチルナフタレン、エチレングリコール、ベンゾニトリル等の不活性溶媒;ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリジノン、N,N-ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒;等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、1-クロロナフタレン、N-メチル-2-ピロリドン、1-メチルナフタレン、トリメチルベンゼン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン、エチレングリコールを使用することが好ましい。より好ましくはトリメチルベンゼン、ベンゾニトリルである。そして、本発明の特徴である特定量の水、必要に応じて、水以外のプロトン性極性溶媒であるアルコール、アミンおよびフェノールが挙げられる。アルコール、アミンおよびフェノール等の他のプロトン性極性溶媒は本発明の効果を損なわない範囲でさらに含んでいる形態も好ましいが、水のみのプロトン性極性溶媒を使用する形態が最も好ましい。水の含有量を反応溶液100質量%に対し、0.05~0.40質量%の範囲で使用する。
水のみの含有量について、より好ましくは、0.10~0.40質量%、特に好ましくは0.15~0.30質量%である。水の含有量が上記数値範囲であると、環化反応が速く進み、且つ環化反応後に得られるフタロシアニンの光学特性が良好となる。
上記環化反応における溶媒の総使用量は、上記一般式(II)で示されるフタロニトリル化合物の濃度が1~50質量%となるような量とすることが好適である。より好ましくは10~40質量%、特に好ましくは20~40質量%となるような量である。なお、水の含有量は、溶質を含まない溶媒の総量100質量%に対しては0.06~0.45質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0061】
上記環化反応に関し、反応温度は、原料の種類、溶媒の種類、その他の条件により必ずしも一定しないが、通常、100~300℃とすることが好適である。より好ましくは120℃以上であり、更に好ましくは130℃以上である。また、より好ましくは260℃以下、更に好ましくは240℃以下、特に好ましくは200℃以下である。また、発熱反応を制御するために段階的に温度を上げてもよい。反応時間も特に制限はないが、通常、72時間以内とすることが好ましく、より好ましくは48時間以内、さらに好ましくは36時間以内、特に好ましくは24時間以内である。本発明の製造方法により、環化反応時間は上述の通り、大幅に短縮される。
本発明の製造方法により得られるフタロシアニン化合物は、該フタロシアニン化合物を含む溶液の吸収スペクトルを測定した際に、640~750nmの波長域に吸収極大を示すものが好適である。また、波長430nmの透過率が80%以上であることが好ましい。より好ましくは83%以上、更に好ましくは85%以上、最も好ましくは87%以上である。さらには、640~750nmの波長域に存在する吸収極大波長での透過率が、60%以下であることが好適である。より好ましくは50%以下、更に好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。これらの数値を満たすことで、光学特性が良好となり光学フィルター用途に好適に使用できる。
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法では、上述の通り、特定の環化反応の工程を有することで反応時間の短縮ができ、光学特性に優れるフタロシアニン化合物が得られる。光学特性をより一層高めるために、環化反応後の後工程について説明する。
【0062】
後工程での反応で導入する置換基の条件は、例えば、置換アミノ基を有するフタロシアニン化合物を目的とする場合は、本発明の環化反応で得られたフタロシアニン化合物を、アニリン、ベンジルアミン等の芳香族アミンや、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の脂肪族アミン(以下、「アミノ化合物」とも証する)と反応させることができる。
【0063】
アミノ化合物の使用量は、目的とするフタロシアニン化合物の構造によって適宜選択されるものであり、また、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、原料のフタロニトリル化合物1モルに対して、通常、1~50モル、好ましくは2~40モル、より好ましくは3~20モルである。
【0064】
アミノ化合物による置換反応条件は、所望の置換基を設計とおりに導入することができるように、適宜最適な範囲を選択すれば特に制限されない。例えば、置換反応は、必要であれば、反応に用いる化合物と反応性のない不活性な液体の存在下で混合し、一定の温度に加熱することにより行うことができる。
【0065】
好ましくは、反応させるアミノ化合物中で、一定の温度に加熱することにより行う。
【0066】
不活性な液体としては、例えば、ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリルやN-メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドなどのようなアミド、あるいは、o-クロロトルエン等のハロゲン化炭化水素などを単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。また、アミノ化合物は、それ自体を溶媒として兼用して置換反応を行うこともできる。
【0067】
また、置換反応の反応温度および時間は、置換反応が十分進行できる温度および時間であれば特に制限されないが、反応温度は、好ましくは40~250℃、より好ましくは50~200℃、さらに好ましくは60~180℃であり、特に好ましくは60~150℃であり、最も好ましくは60~120℃であり、また、反応時間は、好ましくは72時間以内、より好ましくは48時間以内、さらに好ましくは36時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内である。
【0068】
なお、反応後は、従来公知のフタロシアニン化合物の置換反応による合成方法に従って
、無機分を濾過し、アミノ化合物を留去(洗浄)することにより、目的とするフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で得ることができる。
また、本発明の製造方法によって得られるフタロシアニン化合物を含む光学フィルターは、上述したように光選択透過性に優れる。このため、本発明の製造方法によって製造されるフタロシアニン化合物は、特に携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、ビデオカメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の撮像装置用の赤外カットフィルター用などの近赤外線吸収フィルターに有用である。
また、本発明の製造方法によって得られるフタロシアニン化合物は有機溶媒への溶解性に優れる。このため、光学フィルターの中でも、特にカラーフィルターの着色パターンに用いられるグリーン着色染料として有用である。
【0069】
[好ましい用途]
本発明の製造方法によれば、工業生産スケールにおいても反応速度の低下を抑制できるため、各種用途のフタロシアニン化合物の製造分野において好適に利用可能である。例えば着色用途として、平版インキ、グラビアインキ、フレキソインキ等の印刷インキ分野;ラッカー、焼き付け塗料等の塗料分野;ポリオレフィンや熱可塑性ポリエステル等の成形品着色分野;ジェットインキ、カラーフィルター、電子写真粉体トナー等のハイテク分野等の各種の用途に好適に使用できるものである。特に、表示材料あるいは記録材料として、昇華転写用色素、インクジェット用インク、撮像管に用いる色分解フィルター、液晶表示用カラーフィルター、光学用カラーフィルター、カラートナー、改ざん偽造防止用バーコード用インク、ゲスト・ホスト型液晶表示用二色性色素、偏光板用二色性色素等に好適に使用できる。
また、本発明の製造方法で得られるフタロシアニン化合物は、溶解性が高く、近赤外線領域を幅広く吸収する化合物であり、近赤外線吸収剤として有用であり、表示素子、撮像素子、光熱変換材料、遮熱材料(特に熱線吸収材料)等の分野においても好適に使用できるものである。
その他、熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、熱線遮蔽フィルター、特に好ましくは携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、ビデオカメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等の撮像装置用の光学フィルター、各種ディスプレイ用フィルター、プラズマディスプレー用フィルター、イメージセンサー、照度センサー、近接センサー、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、液晶ディスプレイ用フィルター、有機ELディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、微生物不活性化剤、眼精疲労防止剤、光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などが挙げられる。
【実施例0070】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
本発明に関し、実施例、比較例および特性評価により具体的に示す。なお、実施例および比較例では、特に記載しない限り%は質量%を、部は質量部を意味する。
以下の合成例等において、各種分析は以下のようにして行った。
<反応経過の分析>
環化反応の経過の分析は、日立製高速液体クロマトグラフChromasterを用いて行った。カラムはGLサイエンス製Inertsil ODS-3を用い、カラム温度40℃、UV測定波長254nmで、展開液はアセトニトリル70-0.1%リン酸水溶液30(体積%)の組成で、0.5mL/minの流速で流して分析を行った。
【0071】
主原料のフタロニトリル化合物の転化率は、フタロニトリル化合物のピークの面積と主溶媒(プロトン性極性溶媒と、ニトリル系溶媒の混合溶媒)のピークの面積の比に基づいて計算した。
反応の選択率(%)は、下記式
(原料転化率(%)― 副生成物の収率(%))/ 原料転化率(%) ×100 (式)
で計算した。副生成物の収率は、反応時に新たに出現したピークを副生成物のピークと考えて、すべての新たなピークの面積の和と主溶媒のピークの面積の比に基づいて計算した。
【0072】
上述のように副生成物の収率および選択率の計算は、単純な面積比から計算した値であるが、環化反応において、副反応が少なく進んでいるかどうかを判断する指標となる。
<水分量の測定>
反応溶液中の水分量について、以下の方法に従って測定した。
反応容器の反応溶液をサンプリングし、そのサンプリング液1.0gをカールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製)を用いて測定して、反応溶液中の水分量を測定した。
<合成例1>(フタロシアニン(1)の合成)
(1)工程1
2000mlの四つ口セパラブルフラスコにテトラフルオロフタロニトリル108g(0.54mol)、フッ化カリウム69.0g(1.18mol)、及び、アセトン252gを仕込み、更に滴下ロートに3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル254g(1.1mol)及びアセトン432gを仕込んだ。反応容器を氷冷下、攪拌しながら、滴下ロートより3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸メトキシエチルエステル溶液を約2時間かけて滴下した後、更に2時間攪拌を続けた。その後、反応温度を室温までゆっくりと上昇させながら一晩攪拌した。反応液をろ過し、ロータリーエバポレーターでろ液からアセトンを留去し、メタノールを加えて再結晶を行った。得られた結晶をろ過し、真空乾燥により、中間体(1)を217.4g(収率64.8%)を得た。
この工程1の反応を、以下に簡略して示す。
【0073】
【化15】
(2)工程2
500mlの平底フラスコに、工程1で得られた中間体(1)を150.0g(0.2414mol)、ヨウ化亜鉛(II)19.26g(0.0603mol)、ベンゾニトリル225.0g、及び水を下記実施例の含水率となるように仕込んだ。反応溶液の液深さは約8cmであった。その後、窒素流通下(10ml/min)、平板攪拌翼(縦2cm*横4cm*幅2mm)を用いて回転数200rpmで攪拌しながら上記フラスコが浸かっているオイルバスを反応溶液の内温が160℃となるよう昇温し、同温度にてフタロシアニン化反応を行った。フタロシアニン化の転化率は、原料である中間体(1)の残存率をHPLCにて追跡することで算出した。反応終了後、メチルセロソルブ470gを反応液に加えた後、メタノール3.8kgと水0.6kgの混合溶液に滴下して結晶を析出させ、吸引ろ過後ウェットケーキを得た。得られたケーキを再度、メタノール1.9kgと水0.3kgの混合溶液で撹拌洗浄し、吸引ろ過した。得られたケーキを、真空乾燥機を用いて90℃で24時間乾燥後、目的物であるフタロシアニン(1)を137.0g(収率89.1%)得た。
この工程2の反応を、以下に簡略して示す。
【0074】
【化16】
合成例1で得られたフタロシアニン(1)は、上記構造中、主骨格中に「*」で示す部分(合計8個)のそれぞれに、右側に示す置換基が置換した構造からなる。
<実施例1>
上記合成例1の工程2において、反応液含水率が0.14%となるように水を添加。
<実施例2>
上記合成例1の工程2において、反応液含水率が0.20%となるように水を添加。
<実施例3>
上記合成例1の工程2において、反応液含水率が0.26%となるように水を添加。
<実施例4>
上記合成例1の工程2において、反応液含水率が0.32%となるように水を添加。
<比較例1>
上記合成例1の工程2において、反応液含水率が0.50%となるように水を添加。

上記実施例と比較例の記載のように、反応液の含水率を調整後、環化反応した際の原料転化率の経時変化(初期の9時間)を表1及び図1に示す。

【0075】
【表1】
最終的に得られた各フタロシアニン化合物について、収率および光学特性を表2に示す。
【0076】
【表2】
実施例と比較例との比較より、本発明の製造方法の優位性を確認できた。
実施例1~4では、水分量が多くなるほど環化反応時間が短くなった。また、フタロシアニン化収率と光学特性は良好であった。
比較例1では、環化反応時間は短くなったが、水分量が過剰となりフタロシアニン化収率および光学特性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の製造方法によれば、工業生産スケールにおいても反応速度の低下を抑制できるため、各種用途のフタロシアニン化合物の製造分野において好適に利用可能である。例えば、光学分野における着色剤や近赤外線吸収剤として使用できる。
図1