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特開2022-133080サーマルヘッドの製造方法およびサーマルヘッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133080
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】サーマルヘッドの製造方法およびサーマルヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/335 20060101AFI20220906BHJP
   B41J 2/355 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
B41J2/335 101H
B41J2/355 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031932
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】390022471
【氏名又は名称】アオイ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 直希
【テーマコード(参考)】
2C065
2C066
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065GC02
2C065JH02
2C065JH19
2C066AC01
2C066BC01
2C066BC13
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッドの印字濃度のバラつきを低減する。
【解決手段】サーマルヘッドの製造方法は、複数のドット発熱部と、複数の前記ドット発熱部の一端へそれぞれ接続される複数の第1配線、および複数の前記ドット発熱部の他端へ接続された少なくとも一つの第2配線とを用意することと、複数の前記ドット発熱部の各々が有する第1抵抗値が、複数の前記第1配線の各々が有する第2抵抗値と、少なくとも一つの前記第2配線が有する第3抵抗値とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値となるように、前記第1抵抗値を調整することとを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発熱部と、複数の前記発熱部の一端へそれぞれ接続される複数の第1配線、および複数の前記発熱部の他端へ接続された少なくとも一つの第2配線とを用意し、
複数の前記発熱部の各々が有する第1抵抗値が、複数の前記第1配線の各々が有する第2抵抗値と、少なくとも一つの前記第2配線が有する第3抵抗値とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値となるように、前記第1抵抗値を調整する、
サーマルヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
前記第2抵抗値は、前記第1配線の少なくとも長さの設計データに基づいて算出される、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
前記第3抵抗値は、前記発熱部の位置に応じて算出される、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
前記第1抵抗値が調整された後、さらに、前記第1配線および前記第2配線を介して前記発熱部に所定の駆動電圧を印加する駆動回路を、複数の前記第1配線および少なくとも一つの前記第2配線へそれぞれ接続する、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
前記第1抵抗値は、前記少なくとも一方の抵抗値と、前記駆動回路が有する第4抵抗値とに応じた値となるように調整される、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のサーマルヘッドの製造方法において、
複数の前記発熱部の少なくとも一部に対してパルス電圧を印加することにより、前記第1抵抗値を調整する、サーマルヘッドの製造方法。
【請求項7】
複数の発熱部と、
複数の前記発熱部の一端へそれぞれ接続される複数の第1配線と、
複数の前記発熱部の他端へ接続される少なくとも一つの第2配線とを備え、
複数の前記発熱部の各々が有する第1抵抗値は、複数の前記第1配線の各々が有する第2抵抗値と、少なくとも一つの前記第2配線が有する第3抵抗値とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値である、
サーマルヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第2抵抗値は、前記第1配線の少なくとも長さの設計データに基づいて算出される、サーマルヘッド。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第3抵抗値は、前記発熱部の位置に応じて算出される、サーマルヘッド。
【請求項10】
請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第1抵抗値は、前記少なくとも一方の抵抗値と、前記第1配線および前記第2配線を介して前記発熱部に所定の駆動電圧を印加する駆動回路が有する第4抵抗値とに応じた値である、サーマルヘッド。
【請求項11】
請求項7から請求項10までのいずれか一項に記載のサーマルヘッドにおいて、
前記第1抵抗値は前記第2抵抗値の変動幅の20倍以下である、サーマルヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッドの製造方法およびサーマルヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドの発熱抵抗体の抵抗値のばらつきを均一化するための抵抗値調整(トリミング)方法として、電圧パルスを用いたパルストリミングが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-270444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
要求される印字密度の高密度化に対応するために、サーマルヘッドの発熱抵抗体および発熱抵抗体に電流を供給する配線の微細化が成されると、これらの配線のサイズのバラつきにともなう抵抗値のバラつきが相対的に大きくなる。この結果、発熱抵抗体および配線の抵抗値のバラつきに伴う印字濃度のバラつきが大きくなってしまう問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の第1の態様によると、サーマルヘッドの製造方法は、複数の発熱部と、複数の前記発熱部の一端へそれぞれ接続される複数の第1配線、および複数の前記発熱部の他端へ接続された少なくとも一つの第2配線とを用意することと、複数の前記発熱部の各々が有する第1抵抗値が、複数の前記第1配線の各々が有する第2抵抗値と、少なくとも一つの前記第2配線が有する第3抵抗値とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値となるように、前記第1抵抗値を調整することとを含む。
(2)本発明の第2の態様によると、サーマルヘッドは、複数の発熱部と、複数の前記発熱部の一端へそれぞれ接続される複数の第1配線と、複数の前記発熱部の他端へ接続される少なくとも一つの第2配線とを備える。複数の前記発熱部の各々が有する第1抵抗値は、複数の前記第1配線の各々が有する第2抵抗値と、少なくとも一つの前記第2配線が有する第3抵抗値とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、サーマルヘッドの印字濃度のバラつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、サーマルヘッドの構成例を示す図である。
図2図2は、サーマルヘッドのドライバーICによりドット発熱部が駆動される際のドライバーIC、ドット発熱部および配線の接続構成を示す概念図である。
図3図3は、サーマルヘッドのドット発熱部が有する抵抗値を調整する方法の一例を説明するための図である。
図4図4は、サーマルヘッドの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施の形態におけるサーマルヘッド1について、図1から図4までを用いて以下に説明する。図1は、サーマルヘッド1の構成の一例を示す図である。図1(a)に示すように、サーマルヘッド1は、複数のドット発熱部100を有する発熱抵抗体10と、複数のドット発熱部100の一端へそれぞれ接続される複数の個別配線110と、複数のドット発熱部100の他端へ接続される共通配線120と、複数のドット発熱部100を駆動してそれぞれ発熱させるドライバーIC20とを有する。複数の個別配線110は、絶縁基板30上に形成され、それぞれ複数の第1延在部111を有し、複数の第1延在部111をそれぞれ介して複数のドット発熱部100の一端へ接続される。共通配線120は、絶縁基板30上に形成され、複数の第2延在部121と共通電極122とを有し、複数の第2延在部121をそれぞれ介して複数のドット発熱部100の他端へ接続される。
【0009】
図1(b)は、図1(a)中に破線円C1で示した部分のドット発熱部100、個別配線110、および共通配線120等を表す拡大図である。図1(b)中の左右方向に延在する発熱抵抗体10のうち、複数の第1延在部111の1つである第1延在部111aと、複数の第2延在部121の1つである第2延在部121aとの間の部分は、1つのドット発熱部100aを構成している。また、発熱抵抗体10のうち、第1延在部111aと、複数の第2延在部121の1つである第2延在部121bとの間の部分は、別のドット発熱部100bを構成している。
【0010】
第1延在部111aはドット発熱部100aの一端に接続されており、第2延在部121aはドット発熱部100aの他端に接続されている。また、第1延在部111aはドット発熱部100bの一端に接続されており、第2延在部121bはドット発熱部100bの他端に接続されている。
【0011】
ドット発熱部100aとドット発熱部100bとは、1つの第1延在部111aと、2つの第2延在部121aおよび121bを介して共通配線120との間に、並列して配置されている。したがって、ドット発熱部100aとドット発熱部100bとを1つのドット発熱部100ということもできる。
【0012】
なお、図1(a)中に破線円C1で示した部分の構成は、図1(b)に示した構成に限られるわけではなく、図1(c)に示す構成であっても良い。図1(c)に示す構成においては、発熱抵抗体10の中に複数のドット発熱部100のそれぞれが互いに電気的に絶縁された状態で配置されている。そして、それぞれのドット発熱部100の図中の上端には共通配線120と繋がっている第2延在部121cが接続され、ドット発熱部100の図中の下端には第1延在部111cが接続されている。
【0013】
サーマルヘッド1は、さらに複数の端子210が設けられたドライバーIC20を有する。ドライバーIC20は、プリント基板40上に設けられ、複数の端子210をそれぞれ介して複数の個別配線110へ接続されるとともに、プリント基板40およびプリント基板40上に設けられた配線パターン401を介して共通配線120に接続される。ドライバーIC20の複数の端子210にそれぞれ接続される金属配線と、複数の個別配線110にそれぞれ接続される個別電極112とが接続され、それらがドライバーIC20とともに、樹脂80によって封止される。絶縁基板30およびプリント基板40は支持板50に固定される。このようにサーマルヘッド1を構成することによって、ドライバーIC20は、各個別配線110および共通配線120を介して各ドット発熱部100に所定の駆動電圧を印加することができる。
【0014】
図1(a)に示す例では、ドット発熱部100の両端にそれぞれ接続される、個別配線110の第1延在部111と、共通配線120の第2延在部121とが、対向して櫛歯状に配置される。ドット発熱部100には、個別配線110および共通配線120を介してドライバーIC20により所定の駆動電圧が印加され、電流が流れることにより、そのドット発熱部100は発熱する。この熱を感熱紙などの印字媒体に与えることで印字が行われる。印字制御等を行う外部機器にサーマルヘッド1を接続するため、コネクタ60が設けられている。
【0015】
複数の個別配線110のそれぞれの長さは、その配線位置に依存して異なる。図1(a)において、ドライバーIC20の中央付近の端子210Kに、上述した金属配線および個別電極を介して接続される個別配線110Kは、端子210Kのほぼ正面に対向する位置にあるドット発熱部100Kに接続される。ドライバーIC20の中央から離れた両端部周辺の端子210_1および210Nに、上述した金属配線および個別電極を介してそれぞれ接続される個別配線110_1および110Nは、端子210Nの正面からずれた位置にあるドット発熱部100_1および100Nにそれぞれ接続される。この場合、個別配線110Kの長さよりも個別配線110_1および110Nのそれぞれの長さの方が長い。こうしたドット発熱部100の位置による個別配線110の長さの差に伴う個別配線110の抵抗値の差は、近年におけるサーマルヘッド1の小型化およびドライバーIC20の高集積化の進展に伴い顕著となっており、この差が印字濃度のバラつきに影響すると考えられる。特に、ドット発熱部100の抵抗値が小さくなるほど、各個別配線110の抵抗値の差が無視できない大きさとなり得る。
【0016】
図2は、サーマルヘッド1のドライバーIC20によりドット発熱部100が駆動される際のドライバーIC20、ドット発熱部100および配線(個別配線110および共通配線120)の接続構成を示す概念図である。図2において、抵抗値Rh[Ω]を有するドット発熱部100と、抵抗値Rl[Ω]を有する個別配線110と、抵抗値Rc[Ω]を有する共通配線120と、抵抗値Ri[Ω]を有するドライバーIC20といった複数の抵抗体が、直列に接続される。ドライバーIC20がドット発熱部100に所定の駆動電圧Vd[V]を印加すると、上述した直列に接続される複数の抵抗体に電流I[A]が流れる。電流I[A]は式(1)で表される。なお、本実施の形態において、共通配線120の抵抗値Rc[Ω]もまた、ドット発熱部100の位置によって異なる値であることを考慮するものとする。
I=Vd/(Rh+Rl+Rc+Ri) ・・・(1)
【0017】
ドット発熱部100の発熱量Ph[W]=Rh×Iであるから、発熱量Ph[W]は、式(1)を用いて式(2)のように表される。
Ph=Rh×Vd/(Rh+Rl+Rc+Ri) ・・・(2)
【0018】
式(2)において、ドライバーIC20により各ドット発熱部100へ印加される所定の駆動電圧Vd[V]およびドライバーIC20が各端子210間に有する抵抗値Ri[Ω]が、いずれもバラつきが小さく、ほぼ一定の値をとるとみなすこととする。個別配線110が有する抵抗値Rl[Ω]は、個別配線110の長さ、幅および厚みに依存する。個別配線110の幅および厚みが一定の値となるように個別配線110が形成されたと仮定した場合、上述したように、個別配線110の長さの差が存在するため、個別配線110が有する抵抗値Rl[Ω]はバラつくこととなる。共通配線120の抵抗値Rc[Ω]がドット発熱部100の位置に関わらず一定の値をとり、かつ個別配線110の長さの差を考慮する必要が無く、個別配線110が有する抵抗値Rl[Ω]が一定の値をとるとみなせる場合は、特許文献1に開示されているようにドット発熱部10の抵抗値Rh[Ω]がバラつきのない均一の値をとることとしても、ドット発熱部10の発熱量Ph[W]を揃えることができると考えられる。しかし実際には、上述したように共通配線120の抵抗値Rc[Ω]がドット発熱部100の位置に応じて異なるうえ、特に、近年の個別配線110が有する抵抗値Rl[Ω]が一定の値ではないため、式(2)を用いて得られる発熱量Ph[W]もドット発熱部100の位置によってバラついて一定の値とはならず、これが印字濃度のバラつきの原因となる。
【0019】
本実施の形態におけるサーマルヘッド1では、各ドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]が、各ドット発熱部100の位置における共通配線120の抵抗値Rc[Ω]と各個別配線110が有する抵抗値Rl[Ω]とに応じた値となるように、調整される。抵抗値Rl[Ω]は、各個別配線110の長さの設計データに基づいて、予め算出される。具体的には、式(2)を用いて、ドライバーIC20から、個別配線110および共通配線120を介して複数のドット発熱部100に所定の駆動電圧Vd[V]を印加した際に複数のドット発熱部100が発熱する発熱量Ph[W]が揃うように、各抵抗値Rh[Ω]が算出される。算出された各抵抗値Rh[Ω]に、各ドット発熱部100が有する実際の各抵抗値Rh[Ω]が調整される。複数のドット発熱部100の一部または全部に対してパルス電圧を印加する電圧パルストリミングにより、各ドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]を調整することができる。パルス電圧の電圧値および通電時間は、例えば500[V]以下および1[μs]以下である。電圧パルストリミングに代えて、レーザが照射されるレーザトリミングにより、各ドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]を調整することとしてもよい。
【0020】
図3は、サーマルヘッド1のドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]を調整する方法の一例を説明するための図である。ドライバーIC20の一端に位置する端子210と、発熱抵抗体10の一端に位置するドット発熱部100とが、個別配線110を介して接続されることによって、互いに対応し、そのドット発熱部100の位置を1番目の位置とする。発熱抵抗体10に沿って、その1番目の位置にあるドット発熱部100に隣接する位置にあるドット発熱部100の位置を2番目の位置とし、それ以降、同様にして3番目の位置、4番目の位置というように位置の番号をインクリメントしていく。ドライバーIC20の一端に位置する端子210_1に対応するドット発熱部100_1(図1(a)参照)の位置を、上述した1番目の位置とする。ドライバーのドライバーIC20の中央付近の端子210Kに対応するドット発熱部100K(図1(a)参照)の位置はK番目の位置とする。ドライバーIC20の他端に位置する端子210Nに対応するドット発熱部100N(図1(a)参照)の位置はN番目の位置とする。
【0021】
図3(a)に示すように、1番目の位置およびN番目の位置においては、いずれも個別配線110が長いため、個別配線110の抵抗値Rl[Ω]は、例えば15[Ω]という大きな値をとる一方、K番目の位置においては(1<K<N)、個別配線110が短いため、個別配線110の抵抗値Rl[Ω]は、例えば5[Ω]という小さな値をとる。こうした個別配線110の抵抗値Rl[Ω]は、予め測定により得られるものとする。なお、ドライバーIC20が有する抵抗値Ri[Ω]、およびドライバーIC20がドット発熱部100に印加する所定の駆動電圧Vd[V]は、ドット発熱部100の位置に関わらず、例えば12[Ω]、および8[V]といった、それぞれ一定の値をとることとする。共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]は、予め測定により得られ、上述したようにドット発熱部100の位置に応じた値をとることとする。図3に示す例では、抵抗値Rc[Ω]は、1番目、K番目およびN番目の位置において、それぞれ0.1[Ω]、0.3[Ω]、および0.6[Ω]である。
【0022】
上述した例において、個別配線110の抵抗値Rl[Ω]は、1番目の位置およびN番目の位置においては15[Ω]であって、かつK番目の位置においては5[Ω]であるから、差し引き10[Ω]の変動幅がある。そうした個別配線110の抵抗値Rl[Ω]の変動幅Rf=10[Ω]は、ドット発熱部100の抵抗値Rh[Ω]が小さくなるほど、相対的に無視できない程度に、ドット発熱部100の発熱量Ph[W]のバラつきを生じさせるおそれがある。各ドット発熱部100の抵抗値Rh[Ω]が、例えば200[Ω]以下となるなど、複数の個別配線110がそれぞれ有する抵抗値Rl[Ω]の変動幅Rf=10[Ω]の例えば20倍以下の値である場合、特許文献1に開示されるような従来技術によると、各ドット発熱部100の発熱量Ph[W]に無視できない程度のバラつきが生じ、それが印字濃度のバラつきとなって現れるおそれがある。
【0023】
上述したように、直列に接続されるドット発熱部100、個別配線110、共通配線120およびドライバーIC20といった複数の抵抗体に流れる電流I[A]は、式(1)で表される。上述したように、ドット発熱部100の発熱量Ph[W]は式(2)で表される。式(3)に示すように、ドット発熱部100の抵抗値Rh[Ω]と個別配線110の抵抗値Rl[Ω]と共通配線120の抵抗値Rc[Ω]との合計値として抵抗値合計Rd[Ω]を定義すると、電流I[A]および発熱量Ph[W]は、それぞれ式(4)および(5)のように表される。
Rd[Ω]=Rh+Rl+Rc ・・・(3)
I=Vd/(Rd+Ri) ・・・(4)
Ph=(Rd-Rl-Rc)×Vd/(Rd+Ri) ・・・(5)
【0024】
本実施の形態においては、式(5)を用いて、1番目からN番目の位置にあるN個のドット発熱部100からの各発熱量Ph[W]がいずれも均一値である0.285[W]に揃うように、各ドット発熱部100が配置される各位置の抵抗値合計Rd[Ω]の目標値が算出され、その目標値に応じて各ドット発熱部100の抵抗値Rh[Ω]が調整される。1番目の位置の抵抗値合計Rd[Ω]は、式(5)を用いて181.0[Ω]と算出される。1番目の位置にあるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]は、式(3)を用いて、個別配線110の抵抗値Rl=15[Ω]および共通配線120の抵抗値Rc=0.1[Ω]に応じた値である165.9[Ω]と決定され、このドット発熱部100に流れる電流I[A]は、式(4)を用いて41.45[mA]となる。
【0025】
K番目(1<K<N)の位置にある抵抗値合計Rd[Ω]は、式(5)を用いて194.0[Ω]と算出される。K番目の位置にあるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]は、式(3)を用いて、個別配線110の抵抗値Rl=5[Ω]および共通配線120の抵抗値Rc=0.3[Ω]に応じた値である188.7[Ω]と決定され、このドット発熱部100に流れる電流I[A]は、式(4)を用いて38.83[mA]となる。N番目の位置にある抵抗値合計Rd[Ω]は、式(5)を用いて164.4[Ω]と算出される。N番目の位置にあるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]は、式(3)を用いて、個別配線110の抵抗値Rl=15[Ω]および共通配線120の抵抗値Rc=0.6[Ω]に応じた値である164.4[Ω]と決定され、このドット発熱部100に流れる電流I[A]は、式(4)を用いて41.67[mA]となる。このようにして、理論的には発熱量Ph[W]がドット発熱部100の位置によらず一定の値0.285[W]となるため、トリミングを用いた実際の調整により、ドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]を含む抵抗値合計Rd[Ω]が、図3(a)に示す目標値に近づくほど、印字濃度のバラつきが抑えられることとなる。
【0026】
本実施の形態においては、上述したように、1番目からN番目の位置にあるN個のドット発熱部100からの各発熱量Ph[W]がいずれも均一値である0.285[W]に揃うのが好ましい。その重要性を示すため、比較例として、各ドット発熱部100が有する各位置の抵抗値合計Rd[Ω]の目標値がいずれも均一値である185.0[Ω]とした場合について、以下に説明する。1番目の位置にあるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]は、式(3)を用いて、個別配線110の抵抗値Rl=15[Ω]および共通配線120の抵抗値Rc=0.1[Ω]に応じた値である169.9[Ω]と決定され、このドット発熱部100に流れる電流I[A]は、式(4)を用いて40.61[mA]となる。1番目の位置にあるドット発熱部100からの発熱量Ph[W]は、式(4)および(5)に基づき、0.280[W]となる。
【0027】
K番目(1<K<N)の位置にあるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]は、式(3)を用いて、個別配線110の抵抗値Rl=5[Ω]および共通配線120の抵抗値Rc=0.3[Ω]に応じた値である179.7[Ω]と決定され、このドット発熱部100に流れる電流I[A]は、式(4)を用いて40.61[mA]となる。N番目の位置にあるドット発熱部100からの発熱量Ph[W]は、式(4)および(5)に基づき、0.296[W]となる。N番目の位置にあるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]は、式(3)を用いて、個別配線110の抵抗値Rl=15[Ω]および共通配線120の抵抗値Rc=0.6[Ω]に応じた値である169.4[Ω]と決定され、このドット発熱部100に流れる電流I[A]は、式(4)を用いて40.61[mA]となる。N番目の位置にあるドット発熱部100からの発熱量Ph[W]は、式(4)および(5)に基づき、0.279[W]となる。
【0028】
したがって、上述した比較例においては1番目からN番目の位置にあるN個のドット発熱部100からの各発熱量Ph[W]は均一値とはならず、バラつくこととなる。この発熱量Ph[W]のバラつきが印字濃度ムラの原因となる。本実施の形態によると、上述したようにN個のドット発熱部100からの各発熱量Ph[W]は均一値となるため、印字濃度のバラつきが抑えられることとなる。なお、上述した電圧パルストリミングによって各ドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]を調整する際、図3(a)および図3(b)に示すように、1番目からN番目の位置におけるN個の抵抗値合計Rd[Ω]の平均は、本実施の形態と比較例とで、ともに所定値、例えば185[Ω]で一致するのが好ましい。これは、サーマルヘッド1が搭載されるプリンタの電源の電流容量に適合させるためである。
【0029】
図4は、サーマルヘッド1の製造方法の一例を示す図である。はじめにステップS410の処理が行われる。ステップS410は、複数のドット発熱部100、複数の個別配線110および共通配線120を、絶縁基板30上に用意する処理である。ステップS410の処理が完了すると、ステップS420の処理が行われる。
【0030】
ステップS420は、各ドット発熱部100が有する各抵抗値Rh[Ω]を、各個別配線110が有する各抵抗値Rl[Ω]に応じて決定する処理である。ドライバーIC20から、各個別配線110および共通配線120を介して各ドット発熱部100に所定の駆動電圧Vdを印加した際に各ドット発熱部100が発熱する発熱量Ph[W]が揃うように、各ドット発熱部100が有する各抵抗値Rh[Ω]が決定される。なお、共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]は、上述したようにドット発熱部100の位置に応じた値をとる。そのため、ドット発熱部100の設置数が多い場合は特に、各ドット発熱部100が有する各抵抗値Rh[Ω]は、各個別配線110が有する各抵抗値Rl[Ω]とともに共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]に応じて決定されることが好ましい。なお、こうして試作段階で決定された各抵抗値Rh[Ω]が製造段階において用いられることとする場合、サーマルヘッド1の製造段階においてはステップS420の処理を省略することができる。ステップS420の処理が完了すると、ステップS430の処理が行われる。
【0031】
ステップS430は、複数のドット発熱部100のうちの、抵抗値Rh[Ω]の調整が必要な一部または全部のドット発熱部100に対して上述したパルス電圧を印加する電圧パルストリミングを行う処理である。一例として、電圧パルストリミングは、不図示の高電圧供給装置を個別配線110および共通配線120と接続した状態で行われる。こうした電圧パルストリミングにより、抵抗値Rh[Ω]の調整対象であるドット発熱部100が有する抵抗値Rh[Ω]が、ステップS420で決定された値に基づいて調整される。ステップS430の処理が完了すると、ステップS440の処理が行われる。
【0032】
ステップS440は、複数の個別配線110および共通配線120へドライバーIC20を接続する処理である。上述したように、ドライバーIC20はプリント基板40上に配置され、ドライバーIC20と複数の個別配線110および共通配線120との接続部分は、ドライバーIC20とともに樹脂80によって封止される。
【0033】
なお、上述したステップS410、ステップS420、およびステップS430の処理は、必ずしも上述した順で行う必要は無く、複数の個別配線110および共通配線120に接続されていない状態の複数のドット発熱部100に対して、別の個別配線および共通配線が仮接続された状態で、ステップS430における電圧パルストリミングが行われることとしてもよい。また、ドット発熱部100の抵抗値Rh[Ω]の調整がレーザトリミングにより行われる場合には、上述した個別配線および共通配線が仮接続されていない状態でレーザトリミングが行われることとしてもよい。
【0034】
本実施の形態におけるサーマルヘッド1およびその製造方法によれば、以下の作用効果が得られる。
【0035】
(1)本実施の形態におけるサーマルヘッド1の製造方法は、複数のドット発熱部100と、複数のドット発熱部100の一端へそれぞれ接続される複数の個別配線110、および複数のドット発熱部100の他端へ接続された共通配線120とを用意する処理と、 複数のドット発熱部100の各々が有する抵抗値Rh[Ω]が、複数の個別配線110の各々が有する抵抗値Rl[Ω]と、共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値となるように、抵抗値Rl[Ω]を調整する処理とを含む。したがって、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきを低減することができる。
【0036】
(2)上述したサーマルヘッド1の製造方法において、複数の個別配線110の各々が有する抵抗値Rl[Ω]は、各個別配線110の長さの設計データに基づいて算出される。
【0037】
(3)上述したサーマルヘッド1の製造方法において、共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]は、ドット発熱部100の位置に応じて算出される。したがって、ドット発熱部100の設置数が多い場合であっても、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきを低減することができる。
【0038】
(4)上述したサーマルヘッド1の製造方法は、複数のドット発熱部100の各々が有する抵抗値Rh[Ω]が調整された後、各個別配線110および共通配線120を介して各ドット発熱部100に所定の駆動電圧Vd[V]を印加するドライバーIC20を、複数の個別配線110および共通配線120へそれぞれ接続する処理をさらに含む。
【0039】
(5)上述したサーマルヘッド1の製造方法において、複数のドット発熱部100の少なくとも一部に対してパルス電圧を印加することにより、複数のドット発熱部100の各々が有する抵抗値Rh[Ω]は調整される。したがって、複数の個別配線110の各々が有する抵抗値Rl[Ω]を精密に考慮して調整することができる。
【0040】
(6)本実施の形態におけるサーマルヘッド1は、複数のドット発熱部100と、複数のドット発熱部100の一端へそれぞれ接続される複数の個別配線110と、複数のドット発熱部100の他端へ接続される共通配線120とを含む。複数のドット発熱部100の各々が有する抵抗値Rh[Ω]は、複数の個別配線110の各々が有する抵抗値Rl[Ω]と、共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]とのうちの少なくとも一方の抵抗値に応じた値である。したがって、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきを低減することができる。
【0041】
(7)上述したサーマルヘッド1において、複数の個別配線110の各々が有する抵抗値Rl[Ω]は、各個別配線110の長さの設計データに基づいて算出される。
【0042】
(8)上述したサーマルヘッド1において、共通配線120が有する抵抗値Rc[Ω]は、ドット発熱部100の位置に応じて算出される。したがって、ドット発熱部100の設置数が多い場合であっても、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきを低減することができる。
【0043】
(9)上述したサーマルヘッド1において、複数のドット発熱部100の各々が有する抵抗値Rh[Ω]は複数の個別配線110がそれぞれ有する抵抗値Rl[Ω]の変動幅 の20倍以下である。したがって、各ドット発熱部100の抵抗値Rh[Ω]が低い場合であっても、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきを低減することができる。
【0044】
次のような変形も本発明の範囲内であり、以下に示す変形例の一つ、もしくは複数を上述した実施の形態と組み合わせることも可能である。
【0045】
(変形例1)上述した一実施の形態において、各個別配線110の幅および厚みが、ドット発熱部100の位置に関わらず一定の値となるように複数の個別配線110が形成されていることとしたが、それに限られない。各個別配線110の幅および厚みが必ずしも一定ではない値に設計される場合、各個別配線110の抵抗値Rl[Ω]は、各個別配線110の長さ、幅および厚みの設計データに基づいて、予め算出される。したがって、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきを低減することができる。
【0046】
(変形例2)上述した一実施の形態において、ドライバーIC20が有する抵抗値Ri[Ω]は、ドット発熱部100の位置に関わらず一定の値をとることとしたが、それに限られない。ドライバーIC20の端子210の位置に依存してドライバーIC20が有する抵抗値Ri[Ω]が変化する場合、その抵抗値Ri[Ω]はドット発熱部100の位置に依存する。その場合、複数のドット発熱部100の各々が有する抵抗値Rh[Ω]は、複数の個別配線110の各々が有する抵抗値Rl[Ω]と、ドライバーIC20の端子210の位置に依存して変化する抵抗値Ri[Ω]とに応じた値となるように調整される。したがって、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきがほとんど認識されない程度に低減され得る。
【0047】
(変形例3)上述した一実施の形態において、1番目からN番目の位置におけるN個の抵抗値合計Rd[Ω]の平均が、比較例の場合と一致することとしたが、必ずしも一致しなくてよい。
【0048】
(変形例4)上述した一実施の形態において、各ドット発熱部100が有する各抵抗値Rh[Ω]が算出されると、その目標に基づいて各抵抗値Rh[Ω]が調整されることとした。こうした調整が完了した後、サーマルヘッド1による印字を試行し、印字濃度の差に応じて、再度、各ドット発熱部100が有する各抵抗値Rh[Ω]が調整されることとしてもよい。このようにすることによって、サーマルヘッド1の印字濃度のバラつきが、さらに低減され得る。
【0049】
本発明の特徴的な機能を損なわない限り、本発明は、上述した実施の形態および各変形例における構成に何ら限定されない。
【符号の説明】
【0050】
1 サーマルヘッド、10 発熱抵抗体、20 ドライバーIC、
30 絶縁基板、40 プリント基板、50 支持板、
60 コネクタ、80 樹脂、100 ドット発熱部、
110 個別配線、111 第1延在部、112 個別電極、
120 共通配線、121 第2延在部、122 共通電極、
210 端子、401 配線パターン
図1
図2
図3
図4