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特開2022-133084二次電池用電極および該電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133084
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】二次電池用電極および該電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220906BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220906BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220906BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20220906BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/02 Z
H01M4/139
H01M4/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031944
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA02
5H050FA08
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオン拡散性が向上した電極を提供する。
【解決手段】正負極いずれかの電極集電体上に電極活物質層を備えており、前記電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが、所定のパターンと一定のピッチで繰り返されている。前記電極活物質層を、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、前記低密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dL1、dL2、dL3、前記高密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dH1、dH2、dH3、としたときに、dH3/dL3<dH1/dL1の関係を具備する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の正負極いずれかの電極であって、
電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、を備えており、
前記電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが、所定のパターンと一定のピッチで繰り返されており、
ここで、前記電極活物質層を、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、
前記低密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dL1、dL2、dL3
前記高密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dH1、dH2、dH3、としたときに、
(dH3/dL3)<(dH1/dL1
の関係を具備する、二次電池用電極。
【請求項2】
前記電極活物質層において、前記低密領域上層dL1と下層dL3とは、
(dL1/dL3)<1.1
の関係を具備する、請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記低密領域と前記高密領域のピッチは、250μm以上5mm以下で繰り返されている、請求項1または2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
前記電極活物質層の表面が所定のパターンの凹凸形状を有しており、
前記凹凸形状の凹部に前記低密領域が形成され、
前記凹凸形状の凸部に前記高密領域が形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用電極。
【請求項5】
正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:
電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、
ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していること;
前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;
前記気相を残した状態で成膜された塗膜の表面部に、所定のパターンと一定のピッチで凹凸を形成する工程;
前記凹凸が形成された前記塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する工程;および、
前記電極活物質層をプレスする工程;
を包含する、電極の製造方法。
【請求項6】
前記凹凸形成工程における前記塗膜は、前記塗膜の断面SEM像において、前記塗膜の単位断面積に対して気相が占める面積の割合の平均値が55%以下である、請求項5に記載の電極の製造方法。
【請求項7】
前記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、
気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたときに、
緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である、請求項5または6に記載の電極の製造方法。
【請求項8】
前記凹凸転写工程は、前記塗膜を有する集電体の該塗膜の表面に、所定のパターンが表面に形成された回転ロールを押し当てることによって行われる、請求項5~7のいずれか一項に記載の電極の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極および該電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極材料を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。
【0004】
二次電池は、高容量化や高エネルギー密度化等のさらなる電池性能の向上を求められている。二次電池を高容量化や高エネルギー密度化するために、例えば、電極活物質層を従来よりも厚く塗布して所定のプレス圧でプレスすることが挙げられる。しかし、一般的にLiイオンが集電体付近の電極活物質にまで均一に拡散することは難しく、特に電極活物質層を従来よりも厚く、かつ密度を上げた場合には、集電体付近の電極活物質はLiイオンが枯渇し、電池性能(例えば、電池容量)が向上し難くなる。
【0005】
特許文献1では、高い電流レート放電において優れた電池性能を発揮する非水電解質電池を提供するために、電極活物質層表面から集電体に向かって、固形分濃度が大きくなるように濃度勾配を有する電極を用いること開示している。また、特許文献2では、高出力および高エネルギー密度化等を目的として、負極活物質合材ペーストを集電体の少なくとも一方に塗布し、乾燥させたのちに溶媒を再度供給して凹凸パターンを有する型を押し当てることにより、凹凸パターンを有する電極の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-50755号公報
【特許文献2】特開2015-138619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示される手法では、乾燥後プレスによって電極密度が向上している電極に溶媒を再度供給しているため、溶媒が電極活物質層に均一に浸透せず、かかる状態の電極活物質層に対して凹凸パターンを有する型を押し当てることにより、電極の表面部の密度が局所的に高くなる(すなわち、緻密化する)。すなわち、電極の表面部が必要以上に緻密化されるため、Liイオンの挿入/脱離経路が狭く、イオン拡散性が低下する。また、特許文献1および2の手法は、通常の電極の製造方法に加えて、塗布工程や乾燥工程の回数を増やす必要があり、通常の電極の製造方法よりも生産コストが増加する。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、相対的に高密度な領域と低密度な領域とを電極の表面部に有することにより、イオン拡散性が向上した電極を提供することにある。他の目的は、生産コストを抑えた方法でかかる電極を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、二次電池用電極が提供される。ここに開示される二次電池用電極は、二次電池の正負極いずれかの電極であって、電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、を備えており、前記電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが、所定のパターンと一定のピッチで繰り返されている。前記電極活物質層を、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、前記低密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dL1、dL2、dL3、前記高密領域の該上層、該中間層、該下層の前記電極密度(g/cm)を、それぞれ、dH1、dH2、dH3、としたときに、(dH3/dL3)<(dH1/dL1)の関係を具備する。
電極活物質層の低密領域は、固形分同士が適度な隙間(空隙)を有しており、Liイオンの挿入/脱離経路が形成されている状態である。また、電極活物質層の高密領域においては固形分同士の接触性が相対的に高くなっており、導電パスが好適に行われる状態である。電極の表面部がすべて緻密化された状態ではなく、低密領域と高密領域とが所定のパターンで形成されることによって、電極活物質層全体を電気化学反応に効率よく寄与させることができる。これにより、電極活物質層内でのイオン拡散性が向上した電極を実現することができる。
【0010】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記電極活物質層において、前記低密領域上層dL1と下層dL3とは、(dL1/dL3)<1.1の関係を具備する。
低密領域は上述したようにLiイオンの挿入/脱離経路として機能する領域であり、かかる低密領域が上層から下層にかけて密度差が少ない状態で形成されていることによって、集電体付近に存在する電極活物質にまでLiイオンを好適に導入することができる。これにより、イオン拡散性がより向上した電極を提供することができる。
【0011】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記低密領域と前記高密領域のピッチは、250μm以上5mm以下で繰り返されている。
かかる構成によれば、イオン拡散性を効果的に向上することができる。
【0012】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記電極活物質層の表面が所定のパターンの凹凸形状を有しており、前記凹凸形状の凹部に前記低密領域が形成され、前記凹凸形状の凸部に前記高密領域が形成されている。
かかる構成によれば、集電体付近の電極活物質までLiイオンがより拡散しやすくなり、Liイオンの拡散性が向上する。
【0013】
上記他の目的を実現するべく、電極の製造方法が提供される。ここに開示される電極の製造方法は、正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程、ここで、前記湿潤粉体は少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していること;前記湿潤粉体を用いて、電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;前記気相を残した状態で成膜された塗膜の表面部に所定のパターンと一定のピッチで凹凸を形成する工程;前記凹凸が形成された前記塗膜を乾燥させて電極活物質層を形成する工程;および、前記電極活物質層をプレスする工程;を包含する。
かかる構成によれば、上述した特性を備える好適な電極を製造することができる。また、かかる電極は乾燥工程前に凹凸形成工程を実施することによって実現することができる。このため、塗布工程や乾燥工程を複数回行う従来の製造方法よりも生産コストを抑制することが可能である。
【0014】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記凹凸形成工程における前記塗膜は、前記塗膜の断面SEM像において、前記塗膜の単位断面積に対して気相が占める面積の割合の平均値が55%以下である。
かかる構成によれば、気相を有することにより塗膜の展延性が向上し、より好適に凹凸形成工程を実施することができる。
【0015】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記湿潤粉体を用意する工程において用意される湿潤粉体が、所定の容積(mL)の容器に力を加えずにすり切りに湿潤粉体(g)を入れて計測した嵩比重を緩め嵩比重X(g/mL)とし、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重を真比重Y(g/mL)としたときに、緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/Xが、1.2以上である。
かかる構成によれば、より好適に高品質な電極を製造することができる。
【0016】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記凹凸転写工程は、前記塗膜を有する集電体の該塗膜の表面に、所定のパターンが表面に形成された回転ロールを押し当てることによって行われる。
かかる構成によれば、所望する凹凸形状を過剰な荷重を負荷することなく塗膜の表面に凹凸を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】一実施形態に係る電極の低密領域と高密領域とのパターンの一例を模式的に示す図である。
図1B】一実施形態に係る電極の低密領域と高密領域とのパターンの他の一例を模式的に示す図である。
図1C】一実施形態に係る電極の低密領域と高密領域とのパターンの他の一例を模式的に示す図である。
図1D】一実施形態に係る電極の低密領域と高密領域とのパターンの他の一例を模式的に示す図である。
図2】一実施形態に係る電極の模式部分断面図である。
図3】一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
図4】一実施形態に係るロール成膜部を備える電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図5】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
図6】一実施形態に係る撹拌造粒機の一例を模式的に示す説明図である。
図7】一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す説明図である。
図8】一実施形態に係る電極合材層のプレス工程を模式的に示す図であり、(A)は乾燥工程後の状態を示し、(B)はプレス工程の状態を示し、(C)はプレス工程後の状態を示す。
図9】他の一実施形態に係る電極合材層のプレス工程を模式的に示す図であり、(A)は乾燥工程後の状態を示し、(B)はプレス工程の状態を示し、(C)はプレス工程後の状態を示す。
図10】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
図11】気相制御湿潤粉体を用いて形成した正極活物質層(プレス後)の構造を示す断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される湿潤粉体と該湿潤粉体を用いた成膜プロセス(MPS)について、詳細に説明する。
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、寸法関係(長さ、幅、高さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0019】
本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質中のリチウムイオンが電荷の移動を担う二次電池をいう。また、「電極体」とは、正極および負極で構成される電池の主体を成す構造体をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。電極活物質(即ち正極活物質または負極活物質)は、電荷担体となる化学種(リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出可能な化合物をいう。
【0020】
図1A図1Dおよび図2に示すように、本実施形態に係る電極10は、電極集電体12と、該集電体12上に形成された電極活物質層14と、を備える。ここに開示される電極10は、電極活物質層14の表面に電極密度が相対的に低い低密領域22と相対的に高い高密領域24とが所定のパターンと一定のピッチで繰り返されていることを特徴とする。
【0021】
電極集電体12は、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体12が正極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。電極集電体12が負極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。電極集電体12の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0022】
電極活物質層14を形成する電極材料は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含有している。
固形分の主成分である電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
【0023】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
【0024】
電極材料は、固形分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質、例えば、導電材や増粘剤等を含有していてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。本発明の効果を損なわない限りにおいて、電極材料は、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
なお、本明細書において、「固形分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形分が占める割合のことをいう。
【0025】
電極活物質層14の平均膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上250μm以下)であってよい。電池の高容量化の観点からは、従来よりも平均膜厚が厚いことが好ましく、例えば150μm以上300μm以下(例えば、200μm以上250μm以下)程度であってよい。
【0026】
図1A図1Dに示されるように、ここに開示される電極10の表面には、電極密度が相対的に低い低密領域22と電極密度が相対的に高い高密領域24とが、所定のパターンと一定のピッチで形成されている。なお、本明細書において、「電極密度(g/cm)」とは、電極活物質層(すなわち、乾燥後の塗膜)において空隙(気相)を除いた固形分密度のことをいう。例えば、電極密度(g/cm)は、電極活物質層の質量Wを電極活物質層の見かけの体積Vで除することによって求めることができる。電極活物質層の見かけの体積Vは、電極活物質層の平面視での面積Sと、電極活物質層の厚さTとによって、求めることができる。
【0027】
電極密度(g/cm)は、使用する電極材料等によって異なるため、一概に言えるものではないが、例えば、電極が正極である場合には、電極密度は1.0g/cm以上4.5g/cm以下であることが好ましく、2.0g/cm以上4.2g/cm以下であることがより好ましく、2.2g/cm以上3.8g/cm以下であることがさらに好ましい。電極が負極である場合には例えば、電極密度は0.8g/cm以上2.0g/cm以下であることが好ましく、0.9g/cm以上1.8g/cm以下であることがより好ましく、1.0g/cm以上1.6g/cm以下であることがさらに好ましい。典型的には、上述した電極密度の範囲内で、低密領域22と高密領域24とが形成されている。
【0028】
また、本明細書において、「パターン」とは特定の形状(模様)のことをいう。「ピッチ」とは、低密領域22と高密領域24とが繰り返される最小単位のことをいい、図2においては「ピッチ」は図中の符号26で示される。図1A図1Dは、電極10に形成される典型的な所定のパターンを模式的に図示したものである。所定のパターンは、図1A図1Dに示されるような、横縞状、縦縞状、ひし形状、ドット状、であってよい。ピッチ26は、図1A、Bに示すようにX方向もしくはY方向の一方のみに対して一定に形成されるものであってよい。
【0029】
図2は、ここに開示される電極の一例を模式的に示す図である。図2に示すように、電極活物質層14を均等に区分した3つの層を、本明細書においては、上層、中間層および下層という。電極活物質層14と電極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、下層、中間層、上層の順に位置している。例えば、下層とは、電極活物質層14と正極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層14の厚さの概ね33%内部の位置までをいう。同様にして中間層とは、電極活物質層14の厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層14の厚さの概ね33%~66%の位置、上層とは電極活物質層14の厚さの概ね66%~100%の位置までをいう。また、低密領域22における上層、中間層および下層の電極密度をそれぞれdL1、dL2、dL3、高密領域24における上層、中間層および下層電極密度をそれぞれdH1、dH2、dH3、とする。
なお、上層、中間層および下層の電極密度は、例えば、電極の真密度に該当範囲(すなわち上層、中間層および下層のいずれか)の充填率を乗ずることによって求めることができる。電極の真密度は、例えば、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出される値である。該当範囲の充填率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において二値化処理を行うことによって算出することができる。具体的には、該断面画像を複数取得し、オープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、該当範囲に存在する固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S1/(S1+S2)×100」から算出することができる。
【0030】
ここに開示される電極10は、低密領域22および高密領域24の上層および下層の電極密度(g/cm)が、(dH3/dL3)<(dH1/dL1)の関係を具備していることを特徴とする。すなわち、電極10(電極活物質層14)の上層における電極密度の差のほうが、下層における電極密度の差よりも大きく、電極10の表面部において電極密度が相対的に低密度な低密領域22と高密度な高密領域24とが形成されていることを特徴とする。かかる構成によれば、電解液との界面となり得る電極活物質層14の上層に、Liイオンの挿入/脱離経路となる低密領域22と、導電パスが向上する高密領域24と、が存在するため、Liイオン拡散抵抗が低減される。これにより、電極10を用いた二次電池の出力特性向上を実現させることができる。
【0031】
また、電極活物質層14は、低密領域22の上層と下層との電極密度が、(dL1/dL3)<1.1の関係を具備している。より好ましくは、低密領域22の上層と下層との電極密度は、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備しており、さらに好ましくは、0.9<(d/d)<1.08の関係を具備している。低密領域22の上層と下層において電極密度の差がない場合には、(d/d)の値は1となる。すなわち、ここに開示される電極10においては、低密領域22の上層と下層において電極密度の差が少ない(すなわち(d/d)が1に近くなる)ことを特徴としている。かかる構成によれば、かかる低密領域が上層から下層にかけて密度差が少ない状態で形成されていることによって、集電体付近に存在する電極活物質にまでLiイオンを好適に導入することができる。
【0032】
低密領域22と高密領域24とは、所定のパターンと一定のピッチで形成されている。かかるピッチは、例えば、250μm以上5mm以下であることが好ましく、750μm以上4mm以下であることがより好ましく、1mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。かかる範囲内のピッチであれば、上述する効果をより好適に発揮することができる。
【0033】
電極活物質層14は、例えば、表面に所定のパターンで凹凸形状が形成されていてもよい。電極活物質層14が凹凸形状を有しているとき、相対的に低い位置となる凹部に低密領域22が、相対的に高い位置となる凸部に高密領域24が形成されている。凹凸形状の凹部深さ(すなわち、凹凸形状の高低差)は、特に限定されるものではないが、5μm~100μm(例えば、10μm~50μm)程度である。かかる構成によれば、Liイオンの挿入/脱離経路となり得る低密領域22が、高密領域24より相対的に低い領域に形成されるため、電極10(電極活物質層14)のより下層までLiイオンを好適に拡散することができ得る。
なお、電極活物質層14が、表面に凹凸形状を有している場合には、凹部および凸部においてそれぞれ電極活物質層14を厚さ方向に均等に上層、中間層および下層の3つの層に区分する。
【0034】
電極活物質層14の表面に、低密領域22と高密領域24とを所定のパターンと一定のピッチで形成されることにより電極10のイオン拡散性を向上させることができる理由は、特に限定されるものではないが、下記のように推測される。電極活物質層14(すなわち乾燥後の塗膜)の電極密度が相対的に低い低密領域22においては、固形分(例えば、電極活物質、導電材等)の間に比較的多くの空隙(気相)が存在するため、Liイオンの挿入/脱離経路が形成されている状態である。これにより、電解質と電極10との間でLiイオンの移動が促進される。その一方で、電極密度が相対的に高い高密領域24は、空隙(気相)が相対的に少なく、固形分がより密接した状態で存在する。固形分である電極活物質同士および、電極活物質と導電材との接触性を向上させることにより、導電パスが高密領域24内で好適に行われる。また、これに加えて、低密領域22と高密領域24とが所定パターンと一定のピッチで形成されることにより、電極活物質層14全体を電気化学反応に寄与させることができ、電極10の電池性能を向上させることができる。
【0035】
<電極の製造方法>
図3に示すようにここに開示される電極の製造方法は、大まかに言って、以下の5つの工程:(1)湿潤粉体(電極材料)を用意する工程(S1);(2)湿潤粉体からなる塗膜を成膜する工程(S2);(3)塗膜に凹凸を形成する工程(S3);(4)凹凸形成後の塗膜を乾燥する工程(S4);(5)乾燥後の塗膜(電極活物質層)をプレスする工程(S5);を包含しており、気相を残した状態で塗膜を成膜し乾燥工程前に凹凸を形成する点において特徴づけられている。したがって、その他の工程は特に限定されず、従来この種の製造方法と同様の構成でよい。以下、各工程について説明する。
【0036】
図4は、本実施形態に係るロール成膜部を備えた電極製造装置の概略構成を模式的に示した説明図である。図4に示される電極製造装置100は、典型的には、図示しない供給室から搬送されてきたシート状電極集電体12を長手方向に沿って搬送しながら、電極集電体12の表面上に電極材料30からなる塗膜32を成膜する成膜部120と、該塗膜32の表面に凹凸形状を形成する塗膜加工部130と、表面に凹凸形状を有する塗膜32を適切に乾燥させて電極活物質層14を形成する乾燥部140と、乾燥後の電極活物質層14を、適切なプレス圧でプレスするプレス部150とを備える。これらは、予め定められた搬送経路に沿って、順に配置されている。
【0037】
<用意工程>
電極材料30は、上述した電極活物質、溶媒、バインダ樹脂、その他の添加物等の材料を従来公知の混合装置を用いて、混合することによって用意することができる。かかる混合装置としては、例えば、プラネタリーミキサー、ボールミル、ロールミル、ニーダ、ホモジナイザー等が挙げられる。
【0038】
電極材料30は、ペースト、スラリー、および造粒体の形態をとり得るが、造粒体、特に溶媒を少量含む湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)が、ここに開示される電極製造装置100において、電極活物質層14を電極集電体12上に成膜するという目的に適している。なお、本明細書において、湿潤粉体の形態的な分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている4つの分類を採用しており、ここで開示される湿潤粉体は明瞭に規定されている。具体的には、以下のとおりである。
湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
ここで「ペンジュラー状態」は、図5の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0039】
また、「ファニキュラー状態」は、図5の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0040】
「キャピラリー状態」は、図5の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。
「スラリー状態」は、図5の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
【0041】
従来から湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば図5(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
【0042】
これに対して、ここで開示される湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子1が、(1)上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)を形成している湿潤粉体である。好ましくは、気相を制御することによって、(2)電子顕微鏡観察において該凝集粒子の外表面の全体にわたって前記溶媒からなる層が認められないことを一つの形態的特徴として有する。
以下、ここで開示される上記(1)および(2)の要件を具備する湿潤粉体を「気相制御湿潤粉体」という。
なお、ここに開示される気相制御湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子が上記(1)および(2)の要件を具備することが好ましい。
【0043】
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を製造することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
好ましくは、ここで開示される好適な気相制御湿潤粉体として、電子顕微鏡観察で認められる三相の状態がペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)であって、さらに、得られた湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0044】
上述した湿潤粉体は、図6に示すような撹拌造粒機(プラネタリミキサー等のミキサー)110を用いて各材料を混合することによって、湿潤粉体(即ち凝集粒子の集合物)を製造することができる。図示されるように、この種の撹拌造粒機110は、典型的には円筒形である混合容器112と、当該混合容器112の内部に収容された回転羽根114と、回転軸116を介して回転羽根(ブレードともいう)114に接続されたモータ118とを備えている。図6に示すような撹拌造粒機110の混合容器112内に固形分である電極活物質と種々の添加物(バインダ樹脂、増粘材、導電材、等)を投入し、モータ118を駆動させて混合羽根114を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~30秒間程度、回転させることによって固形物の混合体を製造する。そして、固形分が55%以上、より好ましくは60%以上(例えば65~90%)になるように計量された少量の溶媒を混合容器112内に添加し、混合羽根114を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~30秒間程度さらに回転させる。これによって、混合容器112内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。得られる造粒体の粒径は、例えば、50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0045】
また、上述した気相制御湿潤粉体は、凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15%程度、3~8%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。かかる気相制御湿潤粉体は、上述した湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。すなわち、上述した湿潤粉体よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料としての湿潤粉体を製造することができる。また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
【0046】
<成膜工程>
ここに開示される製造方法においては、電極材料30の気相(空隙)を残した状態で塗膜32を成膜することを特徴としている。電極材料30からなる塗膜32の成膜は、例えば、図7に模式的に示すような成膜装置40を用いて行うことができる。成膜装置40は、第1の回転ロール41(以下「供給ロール41」という。)と、第2の回転ロール42(以下「転写ロール42」という。)とからなる一対の回転ロール41、42を備えている。供給ロール41の外周面と転写ロール42の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール41、42は、図7の矢印に示すように逆方向に回転することができる。また、供給ロール41と転写ロール42とは、電極集電体12上に成膜する塗膜32の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。すなわち、供給ロール41と転写ロール42との間には、所定の幅(厚さ)のギャップがあり、かかるギャップのサイズにより、転写ロール42の表面に付着させる電極材料30からなる塗膜32の厚さを制御することができる。また、かかるギャップのサイズを調整することにより、供給ロール41と転写ロール42との間を通過する電極材料30を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、電極材料30(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持した状態で成膜することができる。
【0047】
供給ロール41および転写ロール42の幅方向の両端部には、隔壁45が設けられている。隔壁45は、電極材料30を供給ロール41および転写ロール42上に保持すると共に、2つの隔壁45の間の距離によって、電極集電体12上に成膜される塗膜32の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁45の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料30が供給される。
本実施形態に係る成膜装置40では、転写ロール42の隣に第3の回転ロールとしてバックアップロール43が配置されている。バックアップロール43は、電極集電体12を転写ロール42まで搬送する役割を果たす。転写ロール42とバックアップロール43は、図7の矢印に示すように、逆方向に回転する。
【0048】
供給ロール41、転写ロール42、バックアップロール43は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、電極材料30を転写ロール42に沿って搬送し、転写ロール42の外周面からバックアップロール43により搬送されてきた電極集電体12の表面上に当該電極材料30を塗膜32として転写することができる。
なお、図7では、供給ロール41、転写ロール42、バックアップロール43は、それぞれの回転軸が水平に並ぶように配置されているが、これに限られるものではない。
【0049】
供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43のサイズは特に制限はなく、従来の成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら3種の回転ロール41,42,43の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜32を形成する幅についても従来の成膜装置と同様でよく、塗膜32を形成する対象の電極集電体12の幅によって適宜決定することができる。
【0050】
供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の外周面の材質は、従来公知の成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。電極材料30と直接する供給ロール41および転写ロール42の外周面の材質は、金属異物の発生を防ぐために、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化クロム、窒化アルミ、チタニア、酸化クロムなどのセラミックスであることがより好ましい。
【0051】
図4に示すように成膜部120は、上述した成膜装置40と同様、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続された供給ロール121、転写ロール122,123,124およびバックアップロール125を備える。
本実施形態に係る成膜部120では、図示されるように、転写ロールが連続的に複数備えられている。この例では、供給ロール121に対向する第1転写ロール122、該第1転写ロール122に対向する第2転写ロール123、および、該第2転写ロール123に対向し、且つ、バックアップロール125にも対向する第3転写ロール124を備えている。
【0052】
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125は、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ異なる回転速度で回転させることができる。具体的には、供給ロール121の回転速度よりも第1転写ロール122の回転速度が速く、第1転写ロール122の回転速度よりも第2転写ロール123の回転速度は速く、第2転写ロール123の回転速度よりも第3転写ロール124の回転速度は速く、第3転写ロール124の回転速度よりもバックアップロール125の回転速度は速い。
このように各回転ロール間で集電体搬送方向(進行方向)に沿って回転速度を少しずつ上げていくことによって、図7の成膜装置40とは異なる多段ロール成膜を行うことができる。
【0053】
図4に示すように、供給ロール121と第1転写ロール122との間を第1ギャップG1、第1転写ロール122と第2転写ロール123との間を第2ギャップG2、第2転写ロール123と第3転写ロール124との間を第3ギャップG3、そして第3転写ロール124とバックアップロール125との間を第4ギャップG4とすると、ギャップのサイズは、第1ギャップG1が相対的に最大であり、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4の順に少しずつ小さくなるように設定されている(G1>G2>G3>G4)。ギャップG1~G4が電極集電体12の搬送方向(進行方向)に沿ってギャップが徐々に小さくなるように設定されているため、塗膜32の気相(空隙)の状態を調整しながら成膜することができる。各ギャップG1~G4のサイズ(幅)は、特に限定するものではないが、塗膜32の平均膜厚が10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上150μm以下)となるようなギャップサイズに設定すればよい。
【0054】
また、電極材料30が気相制御湿潤粉体であった場合には、多段ロール成膜を行うことにより、気相制御湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜を形成することができる。すなわち、気相制御湿潤粉体を構成する凝集粒子の過剰な潰れが防止され、連通孔の維持と凝集粒子内に孤立空隙が生じるのを防止することができる。
【0055】
<凹凸形成工程>
塗膜32に対する凹凸形成は、例えば、図4に示すような凹凸転写ロール132とバックアップロール134とを用いて行うことができる。ここに開示される電極の製造方法においては、空隙(気相)を残した状態で成膜された塗膜32に対して凹凸形成工程S3を実施することを特徴とする。かかる塗膜32の平均空隙率(気相率)は、少なくとも1%以上であることが好ましく、例えば1%以上55%以下、典型的には5%以上55%以下であってよい。気相を残した状態で凹凸を形成することにより、展延性が向上しているため、従来よりも小さい荷重で塗膜32に対して所望する凹凸形状を付与することができる。また、凹凸を形成するために荷重がかけられたとしても、塗膜32の表面部において局所的な密度の上昇(緻密化)することなく凹凸形状を形成することができる。
【0056】
なお、本明細書において、「塗膜の平均空隙率(気相率)」は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による塗膜の断面観察により算出することができる。該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相または液相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相または液相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出することができる。これを、乾燥前の塗膜の空隙率とする。断面SEM像を複数取得し(例えば5枚以上)、かかる空隙率の平均値をここでの乾燥前の「塗膜の平均空隙率(気相率)」とする。なお、「塗膜の平均空隙率(気相率)」には、凹凸形成の過程において形成された凹部(すなわちマクロな空隙)は、含まない。
【0057】
凹凸転写ロール132は、塗膜32の表面に所定のパターンを一定のピッチで形成するための凹部および凸部を有している。バックアップロール134は、搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ搬送方向に送り出すためのロールである。凹凸転写ロール132とバックアップロール134とは対向する位置に配置されている。凹凸転写ロール132とバックアップロール134との間隙に、電極集電体12上の塗膜32を通すことにより、凹凸転写ロール132の凹凸部が塗膜32の表面に転写されることによって、塗膜32の表面に所望する形状を形成することができる。凹凸転写ロール132の線圧は、所望する形状の凹部深さ等により異なり得るため特に限定されないが、概ね15N/cm~75N/cm、例えば25N/cm~65N/cm程度に設定することができる。
【0058】
なお、塗膜32に対して凹凸を加工する方法は、凹凸転写ロールを用いた凹凸転写以外の手法によっても行うことができる。例えば、所望する凹凸形状を有する平板圧延機を用いて、押圧することによって塗膜32の表面部に凹凸形状を形成してもよい。その場合のプレス圧は例えば、1MPa~100MPa、例えば5MPa~80MPa程度に設定することができる。
【0059】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、凹凸転写ロール132の凹部と凸部のピッチは、250μm以上5mm以下(例えば、1mm以上3mm以下)に設定することができる。かかる構成によれば、乾燥後の塗膜32(電極活物質層14)においてLiイオン拡散性を向上し得る電極密度が相対的に低い低密領域22と相対的に高い高密領域24とを好適に製造することができる。
【0060】
塗膜32は、気相を残した状態であることにより、乾燥工程S4前に凹凸形状を形成しても、所望するパターンを形成し、該パターンを維持することができる。また、より好適には、塗膜32は、気相制御湿潤粉体から構成されていることが好ましい。気相制御湿潤粉体は、上述したように、連通孔を維持した状態で成膜されているため、所望するパターンの形成および該パターンの維持をさらに好適に実施することができる。
【0061】
図4に示した一例では、凹凸転写ロール132およびバックアップロール134は一対のみ設けられているが、これに限られず、搬送方向に沿って複数の凹凸転写ロールを配置し、それぞれのプレス圧が異なるように設けてもよい。
【0062】
また、塗膜加工部130においては、プレスロール136とバックアップロール138とを用いて、塗膜32の電極密度や膜厚を調整する工程をさらに包含していてもよい。プレスロール136は塗膜32を膜厚方向に押圧して圧縮するためのロールであり、バックアップロール138は搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ搬送方向に送り出すためのロールである。プレスロール136とバックアップロール138とは対向する位置に配置されている。搬送されてきた電極集電体12上に形成(成膜)されたペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)の電極材料30からなる塗膜32を、例えば、孤立空隙を生じさせない程度にプレスして圧縮することができる。これにより、凹凸形成がより好適に実施されるように塗膜32の気相の状態を調整することができる。
【0063】
上記工程におけるプレスロール136による好適なプレス圧は、目的とする塗膜(電極活物質層)の膜厚や密度により異なり得るため特に限定されないが、例えば、0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
【0064】
<乾燥工程>
図4に示すように、本実施形態に係る電極製造装置100の塗膜加工部130よりも搬送方向の下流側には、乾燥部140として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室142が配置され、塗膜加工部130から搬送されてきた塗膜32を乾燥して、電極集電体12の表面上に電極活物質層14を形成する。乾燥の方法については、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥等の手法が挙げられる。なお、乾燥工程S4は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥工程と同様でよく、特に本教示を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0065】
<プレス工程>
乾燥工程S4の後、プレス部150において電極活物質層16の目付量や電極密度を調整することを目的として、プレス工程S5を実施する。かかるプレス工程は、ロール圧延機や平板圧延機を用いて、従来公知の方法に従って行うことができる。
図8および図9は、乾燥工程S4の後に実施されるプレス工程の過程について模式的に示す図である。図8および図9の(A)は乾燥工程後の状態を示し、(B)はプレス工程の状態を示し、(C)はプレス工程後の状態を示す。以下、図8および図9を参照しながら、プレス工程S5について説明する。
【0066】
ここで実施されるプレスは、乾燥工程S4により塗膜32から溶媒(液相)が蒸発(揮発)した電極活物質層14に対して実施されるプレスであるため、乾燥前の湿潤状態の塗膜32に対するプレス圧よりも比較的高いプレス圧に設定されていることが好ましい。例えば、ロール圧延機によるロールプレスでは、線圧1ton/cm~5ton/cm程度に設定されていることが好ましい。平板圧延機によるプレスの場合は、例えば、100~500MPa程度に設定されていることが好ましい。
【0067】
本実施形態に係る電極10(電極活物質層14)は、図8の(A)に示されるように、乾燥後に所定の凹凸形状を維持した状態でプレス工程S5に搬送される。図8(B)に示されるようにプレス装置152を用いてプレスを実施する。このとき、まず電極活物質層14の凸部がプレスされる。電極活物質層14の凸部が、電極活物質層14の凹部と概ね同等の高さまでプレスされると、次いで電極活物質層14の凹部もプレスされる。ここで、図8(C)に示すような電極活物質層14の表面がフラットな電極10を形成する場合には、電極活物質層14の凹部の高さまでプレスするようにプレス圧を設定すればよい。また、図9(C)に示すように凹凸形状をわずかに残して電極10を形成する場合には、所望する高さまでプレスを行うプレス圧を適宜設定すればよい。
【0068】
図8および図9の(A)において電極活物質層14の凸部であった領域がプレスによって厚さ方向(Z方向)に圧縮されることにより、相対的に電極密度が高い高密領域24となる。かかる高密領域は、エネルギー密度が高い領域であり得る。また、図8および図9の(A)において電極活物質層14の凹部であった領域は、プレス装置152によって負荷されるプレス圧が小さく、相対的に電極密度が低い低密領域22となる。かかる製造方法によれば、所望するパターンで、高密領域24と低密領域22とを形成することができる。
こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0069】
例えば、本実施形態に係るシート状電極を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池200の一例を図10に示している。
図10に示すリチウムイオン二次電池200は、密閉可能な箱型電池ケース50に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解質(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース50には、外部接続用の正極端子52および負極端子54と、電池ケース50の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁56とが設けられている。また、電池ケース50には、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子52と正極集電板52aは、電気的に接続されている。負極端子54と負極集電板54aは、電気的に接続されている。電池ケース50の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0070】
捲回電極体80は、典型的には長尺シート状の正極(以下、正極シート60という。)と、長尺シート状の負極(以下、負極シート70という。)とが長尺シート状のセパレータ90を介して重ね合わせられ長手方向に捲回された形態を有する。正極シート60は、正極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極活物質層64が形成された構成を有する。負極シート70は、負極集電体72の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極活物質層74が形成された構成を有する。正極集電体62の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出した部分(即ち、正極集電体露出部66)が設けられている。負極集電体72の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出した部分(即ち、負極集電体露出部76)が設けられている。正極集電体露出部66と負極集電体露出部76には、それぞれ正極集電板52aおよび負極集電板54aが接合されている。
【0071】
正極(正極シート60)および負極(負極シート70)は、上述した製造方法により得られる正極および負極が用いられる。なお、本構成例においては、正極および負極は、集電体12(正極集電体62および負極集電体72)の両面に電極活物質層14(正極活物質層64および負極活物質層74)が形成されている。
【0072】
セパレータ90としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ90は、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
【0073】
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に制限することなく用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等の非水溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定するものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0074】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池200は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池200は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0075】
以下、ここで開示されるペンジュラー状態またはファニキュラー状態の気相制御湿潤粉
体を電極合材として用いた場合の幾つかの実施例を説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0076】
<第1の試験>
正極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(正極材料)を用いてアルミ箔上に正極活物質層を形成した。
本実施例では、正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、バインダ樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材とてアセチレンブラック、非水溶媒としてNMPを用いた。
【0077】
まず、90質量部の上記正極活物質、2質量部のPVDFおよび8質量部のアセチレンブラックからなる固形分を、図6に示すような混合羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリミキサーまたはハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、混合羽根を有する撹拌造粒機内で混合羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90重量%となるように溶媒であるNMPを添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化を行い、次いで4500rpmの回転速度で2秒間撹拌し微細化を行った。これにより本実施例に係る湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(正極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意したアルミ箔からなる正極集電体の表面に塗膜を転写した(実施例1)。
【0078】
上記得られた実施例1の乾燥前の塗膜の気相率(空隙率)(%)を測定した。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、断面画像を観察することにより算出した。該断面画像を取得し、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相または液相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行った。これにより、固相または液相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出した。これを、乾燥前の塗膜の空隙率とする。断面SEM像を5枚取得し、かかる空隙率の平均値をここでの乾燥前の「塗膜の平均空隙率(気相率)」)とした。
その結果、実施例1の塗膜の平均空隙率は55%であった。
【0079】
実施例1の塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロール(線圧約40N/cm)を用いて、凹凸形状(ピッチ1mm)を付与した。かかる凹凸形状を有する塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、その後、線圧約4ton/cmでロールプレスした。これにより、電極集電体上に気相制御湿潤粉体からなる電極活物質層が形成された電極(正極)を得た。
【0080】
上記得られた実施例1の電極活物質層(すなわち乾燥後の塗膜)の状態をSEMで観察した。結果を図11に示す。
【0081】
比較対象として、同様の材料を用いて、スラリー状態の電極(正極)材料を用意した。かかる正極材料を正極集電体上に塗工して乾燥、プレスを行い、正極活物質層を形成した。かかる正極活物質層に再び溶媒を供給し、凹凸形状(ピッチ1mm)を形成するために電極全体に線圧約4ton/cmでプレスし、再度乾燥させて凹凸形状を有する正極活物質層が形成された電極(正極)を得た(比較例1)。
【0082】
実施例1および比較例1の電極密度(g/cm)を測定した。電極密度は、基準点から形成したピッチに合わせてA~D領域までを設定し、各箇所において上層と下層の電極密度を測定した。なお、上層および下層の電極密度は、電極の真密度に該当範囲の充填率を乗ずることによって求めた。電極の真密度は、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出した。また、該当範囲の充填率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて二値化処理を行うことによって算出した。結果を表1に示す。
【0083】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した実施例1および各比較例1の電極を用いて、評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
負極としては、スラリー状態の電極材料からなる電極を用意した。
また、セパレータシートとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを2枚用意した。
【0084】
作製した実施例1および比較例1の電極(正極)と、負極と、用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートのそれぞれに電極端子を溶接により取り付けて、これを、注入口を有する電池ケースに収容した。
かかる注入口から非水電解液を注入し、該注入口を封口蓋により気密に封止した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。以上のようにして、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0085】
<活性化処理>
25℃の環境下で、各評価用リチウムイオン二次電池の活性化処理(初回充電)を行った。活性化処理は、定電流-定電圧方式とし、1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行うことで満充電状態にした。その後、1/3Cの電流値で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0086】
<初期抵抗測定>
活性化処理後の各評価用リチウムイオン二次電池をSOC(State of charge)60%に調整した後、25℃の温度環境下に置いた。1Cの電流値で10秒間放電し、電圧降下量(ΔV)を求めた。かかる電圧降下量ΔVを放電電流値(1C)で除して、電池抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。なお、かかる初期抵抗が小さくなるにつれて出力特性が良好であると評価することができる。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、比較例1においては、A~Dの全領域の上層において電極密度が上昇している。これに対して、実施例1では、B領域およびD領域の上層において電極密度が上昇し、電極の表面部に高密領域と低密領域とが形成されていることがわかる。また、実施例1は比較例1と比較して、初期抵抗が低くなっている。すなわち、電極活物質層の表面に電極密度が相対的に低密度である低密領域と相対的に高密度である高密領域とが、所定のパターンと一定のピッチで繰り返されており、(dH3/dL3)<(dH1/dL1)の関係を具備する、二次電池用電極は、イオン拡散性が向上し、該電極を二次電池に用いた場合には、初期抵抗が低下することがわかる。
また、実施例1においては、低密領域の上層の電極密度dL1および下層の電極密度dL3において、(dL1/dL3)<1.1を満たすことがわかる。
【0089】
<第2の試験>
電極材料と形成する凹凸形状のピッチの条件を変更して、第2の試験を実施した。具体的には、負極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、該作製された湿潤粉体(負極材料)を用いて銅箔上に負極活物質層を形成した。
本実施例では、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が10μmである黒鉛粉、バインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、溶媒として水を用いた。
【0090】
まず、98質量部の上記黒鉛粉、1質量部のCMCおよび1質量部のSBRからなる固形分を、図6に示すような回転羽根を有する撹拌造粒機(プラネタリミキサーやハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、回転羽根を有する撹拌造粒機内で回転羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形成分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90質量%となるように溶媒である水を添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化処理を行い、次いで1000rpmの回転速度で2秒間撹拌微細化処理を続けた。これにより本実施例に係る湿潤粉体(負極材料)を作製した。混合撹拌処理および微細化を行い、本実施例に係る湿潤粉体(負極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(負極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に塗膜を転写した(実施例2)。
【0091】
上記得られた実施例2の乾燥前の塗膜の気相率(空隙率)(%)を上述した方法と同様の方法で測定した。その結果、実施例2の塗膜の平均空隙率は50%であった。
【0092】
実施例2の塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロール(線圧約40N/cm)を用いて、凹凸形状(ピッチ250μm)を付与した。かかる凹凸形状を有する塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、その後、線圧約4ton/cmでロールプレスした。これにより、電極集電体上に気相制御湿潤粉体からなる電極活物質層が形成された電極(負極)を得た。
【0093】
実施例2の電極密度を上述した方法と同様の方法で測定した。電極密度は、基準点から形成したピッチに合わせてA~D領域までを設定し、各箇所において上層と下層の電極密度を測定した。結果を表2に示す。
【0094】
また、上記作製した実施例2の電極を用いて、評価用リチウムイオン二次電池を作製した。正極としてスラリー状態の電極材料からなる電極を用意した。それ以外の条件は上記と同様にして評価用リチウムイオン二次電池を作成し、初期抵抗値を測定した。結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示すように、電極材料やピッチを変えて電極を作成した場合であっても、電極の表面部に相対的に高密度な領域と低密度な領域とを形成することができる。また、初期抵抗については、実施例1と同程度の値となることもわかる。また、第2の試験においても、低密領域の上層の電極密度dL1および下層の電極密度dL3において、(dL1/dL3)<1.1を満たすことがわかる。
【0097】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 電極
12 電極集電体
14 電極活物質層
22 低密領域
24 高密領域
26 ピッチ
30 電極材料
32 塗膜
40 成膜装置
64 正極活物質層
74 負極活物質層
80 捲回電極体
90 セパレータ
100 電極製造装置
110 撹拌造粒機
112 混合容器
114 混合羽根
118 モータ
120 成膜部
130 塗膜加工部
132 凹凸転写ロール
150 プレス部
200 リチウムイオン二次電池



図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11