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特開2022-133086二次電池用電極の製造方法および該電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022133086
(43)【公開日】2022-09-13
(54)【発明の名称】二次電池用電極の製造方法および該電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220906BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220906BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220906BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220906BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/02 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021031946
(22)【出願日】2021-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】眞下 直大
(72)【発明者】
【氏名】榎原 勝志
(72)【発明者】
【氏名】塩野谷 遥
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050DA09
5H050EA12
5H050FA04
5H050FA10
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】塗膜に所望する凹凸形状を形成し、活物質層の表面積の増大と厚さ方向への塗布物の配置を実現する電極の製造方法を提供する。
【解決手段】電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を用意する工程;前記湿潤粉体を用いて、電極集電体12上に該湿潤粉体からなる塗膜32を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;前記塗膜の表面部に、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を形成する工程;前記凹凸形状が形成された塗膜に、少なくとも一種の無機化合物を含むコート材20を塗布する工程;および、前記集電体上に形成された塗膜および前記コート材を乾燥させて、前記塗膜からなる電極活物質層と、該活物質層上の前記凹凸形状の凹部内に配置される前記コート材からなる塗布物と、を備える前記電極を形成する工程を包含する、二次電池用電極の製造方法とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:
電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体であって、少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が以下の性質:
(1)固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していること;および、
(2)電子顕微鏡観察において該凝集粒子の該表面に前記溶媒の層が認められないこと;
を具備している湿潤粉体を用意する工程;
前記湿潤粉体を用いて、前記電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;
前記塗膜の表面部に、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を形成する工程;
前記凹凸形状が形成された塗膜に、少なくとも一種の無機化合物を含むコート材を塗布する工程;および、
前記集電体上に形成された前記塗膜および前記コート材を乾燥させて、前記塗膜からなる電極活物質層と、該活物質層上の前記凹凸形状の凹部内に配置される前記コート材からなる塗布物と、を備える前記電極を形成する工程;
を包含する、二次電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸形成工程は、前記塗膜におけるLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアにおける表面積を、相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測したときの平均表面積が、1.05×L×Bcm以上となる凹凸面が形成されるように行われる、請求項1に記載の二次電池用電極製造方法。
【請求項3】
前記無機化合物が、アルミナ、ベーマイト、シリカ、マグネシア、ジルコニアおよびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記コート材は、前記無機化合物として少なくとも一種の活物質を含有しており、該活物質は、シリコンおよびスズのうち少なくとも一方の金属元素を構成元素として含む、請求項1または2に記載の二次電池用電極の製造方法。
【請求項5】
二次電池の正負極いずれかの電極であって、
電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、少なくとも一種の無機化合物を含む塗布物と、を備えており、
前記電極活物質層の表面は、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有しており、
前記凹凸形状の凹部と凸部との高低差が、10μm以上であって、
ここで、前記塗布物の少なくとも一部は、前記凹凸形状の凹部内に配置されている、二次電池用電極。
【請求項6】
前記電極活物質層の凹部において、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、
前記凹部の前記上層、前記中間層、前記下層の電極密度(g/cm)を、それぞれ、d、d、d、としたときに、
0.8<(d/d)<1.1
の関係を具備している、請求項4に記載の二次電池用電極。
【請求項7】
前記無機化合物が、アルミナ、ベーマイト、シリカ、マグネシア、ジルコニアおよびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいる、請求項5または6に記載の二次電池用電極。
【請求項8】
前記塗布物は、前記無機化合物として少なくとも一種の活物質を含有しており、該活物質は、シリコンおよびスズのうち少なくとも一方の金属元素を構成元素として含む、請求項5または6に記載の二次電池用電極。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極の製造方法および該電極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。
【0003】
かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極材料を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。あるいは、このような合材スラリーによる成膜に代えて、合材スラリーよりも固形分の割合が比較的高く、溶媒が活物質粒子の表面とバインダ分子の表面に保持されたような状態で粒状集合体が形成されたいわゆる湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)も検討されている。例えば、特許文献1および2においては、湿潤粉体によって活物質層を形成したことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極の製造方法が開示されている。
また、電極活物質層に塗布液を塗布することも検討されている。例えば、特許文献3では、湿潤粉体成膜によって得られた負極活物質層の表面に絶縁粒子を含む塗布液を塗布して絶縁層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-057383号公報
【特許文献2】特開2020-136016号公報
【特許文献3】特開2019-057431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が検討した結果によれば、活物質層の表面に塗布液を塗布するだけでは、塗布物の効果が不十分であることを見出した。すなわち、塗布物と接触し得る活物質層の表面積が小さく、また、活物質層の厚さ方向(特に集電体側)においては塗布物の効果が十分に発揮されない。このため、活物質層と塗布物とが接触する面積を増やし、活物質層の厚さ方向においても塗布物の効果を発揮させる技術が求められている。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、塗膜に所望する凹凸形状を形成し、活物質層の表面積の増大と厚さ方向への塗布物の配置を実現する電極の製造方法を提供することにある。また、他の目的はかかる特性を備える電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明者は、MPSの内容と該MPSにこれまで採用されてきた湿潤粉体の性状を検討した。これまでの湿潤粉体は固形分率がスラリー(ペースト)状の電極材料よりも高くなっているものの、湿潤粉体を構成する凝集粒子の固形分と溶媒との存在形態は、後述するキャピラリー状態に近いことを見出した。すなわち、湿潤粉体を構成する凝集粒子の内部に比較的多量の溶媒が密に拘束されるとともに該凝集粒子の表面にも溶媒の層が形成されていることに着目した。さらに、該凝集粒子に存在する気相(空隙)の存在形態に関しては、検討されていないことに着目した。
そして、従来の湿潤粉体とは異なり、固形分(固相)と溶媒(液相)と空隙(気相)との存在形態を、後述するペンジュラー状態あるいはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)とすること、換言すれば、湿潤粉体を構成する凝集粒子を形成する電極活物質粒子間を架橋するのに過不足ない適量の溶媒(液相)が存在するとともに、該凝集粒子内に外部と連通する空隙が形成されており、かつ、該凝集粒子の表面には実質的な溶媒の層が形成されないことによって、集電体上に形成された乾燥前の塗膜に所望する凹凸形状を付与することが可能であることを見出した。かかる凹凸形状を有する塗膜に対して塗布液(例えば、無機化合物を含むコート材)を塗布することによって、コート材からなる塗布物と塗膜からなる電極活物質層とが接触する表面積が増大し、かつ、電極の厚さ方向にも塗布物を配置させることができ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、ここに開示される電極の製造方法は、正負極いずれかの電極集電体および電極活物質層を有する電極の製造方法であって、以下の工程:電極活物質とバインダ樹脂と溶媒とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体であって、少なくとも50個数%以上の前記凝集粒子が以下の性質:(1)固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態を形成していること;および、(2)電子顕微鏡観察において該凝集粒子の該表面に前記溶媒の層が認められないこと;を具備している湿潤粉体を用意する工程;前記湿潤粉体を用いて、前記電極集電体上に該湿潤粉体からなる塗膜を、該塗膜の気相を残した状態で成膜する工程;前記塗膜の表面部に、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を形成する工程;前記凹凸形状が形成された塗膜に、少なくとも一種の無機化合物を含むコート材を塗布する工程;および、前記集電体上に形成された塗膜および前記コート材を乾燥させて、前記塗膜からなる電極活物質層と、該活物質層上の前記凹凸形状の凹部内に配置されるコート材からなる塗布物と、を備える前記電極を形成する工程;を包含する。
かかる製造方法によれば、成膜後の塗膜に所望する凹凸形状を付与し、かかる凹凸形状を有する乾燥前の電極に少なくとも一種の無機化合物を有するコート材を塗布することができる。上述したように、固相と液相と気相とがペンジュラー状態あるいはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)の湿潤粉体を用いて気相を残した状態で成膜することにより、所定の凹凸形状を有する電極を製造することができる。凹凸形状を有する塗膜は表面積が増大し、かつ、電極の厚さ方向に塗布物が配置され得る空間(凹部)を有することができる。これにより、活物質層の表面積の増大と厚さ方向への塗布物の配置を実現する電極を好適に製造することができる。
【0009】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記凹凸形成工程は、前記塗膜におけるLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアにおける表面積を、相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測したときの平均表面積が、1.05×L×Bcm以上となる凹凸面が形成されるように行われる。
かかる構成によれば、塗膜と塗布物とが接触する表面積を増大することができ、塗布物を塗布することの効果がより一層発揮される。
【0010】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記無機化合物が、アルミナ、ベーマイト、シリカ、マグネシア、ジルコニアおよびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
かかる構成によれば、電極の機械的強度を向上させることができ、充放電時の電極の膨張および収縮によっても凹凸形状を維持し得る電極を製造することができる。
【0011】
ここに開示される電極製造方法の好適な一態様では、前記コート材は、前記無機化合物として少なくとも一種の活物質を含有しており、該活物質は、シリコンおよびスズのうち少なくとも一方の金属元素を構成元素として含む。
かかる構成によれば、二次電池の高容量化に寄与する一方で充放電に伴う体積変化が大きくクラックを引き起こす傾向にある活物質を、凹部に配置することにより、かかるクラックを緩和しつつ高容量化された電極を製造することができる。
【0012】
上記他の目的を実現するべく、二次電池用電極が提供される。ここに開示される二次電池用電極は、二次電池の正負極いずれかの電極であって、電極集電体と、該電極集電体上に形成された電極活物質層と、少なくとも一種の無機化合物を含む塗布物と、を備えている。前記電極活物質層の表面は、所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有しており、前記凹凸形状の凹部と凸部との高低差が、10μm以上である。ここで、前記塗布物の少なくとも一部は、前記凹凸形状の凹部内に配置されている。
かかる構成によれば、電極活物質層と塗布物とが接触する表面積が増大し、かつ、電極活物質層の厚さ方向への塗布物の配置を実現することができる。これにより、電極活物質層が塗布物を有することの効果がより一層発揮される。
【0013】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記電極活物質層の凹部において、該活物質層の表面から前記集電体に至る厚み方向に上層、中間層および下層の3つの層に均等に区分し、前記凹部の前記上層、前記中間層、前記下層の電極密度(g/cm)を、それぞれ、d、d、d、としたときに、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備している。
かかる構成によれば、凹凸形状を有する電極であっても、活物質層の凹部において局所的な電極密度の上昇(緻密化)がない電極を提供することができる。
【0014】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記無機化合物が、アルミナ、ベーマイト、シリカ、マグネシア、ジルコニアおよびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいる。
かかる構成によれば、電極の機械的強度が向上し、充放電時の電極の膨張および収縮によっても凹凸形状が維持される電極を提供することができる。
【0015】
ここに開示される電極の好適な一態様では、前記塗布物は、前記無機化合物として少なくとも一種の活物質を含有しており、該活物質は、シリコンおよびスズのうち少なくとも一方の金属元素を構成元素として含む。
かかる構成によれば、二次電池の高容量化に寄与し得る活物質を塗布物として用いることにより、高容量化された電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
図2】一実施形態に係る電極製造装置の構成を模式的に示すブロック図である。
図3】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
図4】一実施形態に係る塗布工程を模式的に示す図である。
図5】一実施形態に係る電極の模式部分断面図である。
図6】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
図7】気相制御湿潤粉体を用いて形成した電極活物質層と、該活物質層の凹部に塗布物とを備える電極の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここに開示される電極製造方法および電極の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される電極製造方法および電極は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A,Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0018】
本明細書において、「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される非水電解液二次電池をいう。本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。
【0019】
<電極の製造方法>
図1に示すようにここに開示される電極の製造方法は、大まかに言って、以下の5つの工程:(1)湿潤粉体(電極材料)を用意する工程(S1);(2)湿潤粉体からなる塗膜を成膜する工程(S2);(3)塗膜に凹凸を形成する工程(S3);(4)凹凸形成後の塗膜にコート材を塗布する工程(S4);(5)塗膜およびコート材を乾燥する工程(S5);を包含しており、乾燥工程S5前に凹凸形状を有する塗膜に対してコート材を塗布する点において特徴づけられている。したがって、その他の工程は特に限定されず、従来この種の製造方法と同様の構成でよい。以下、各工程について説明する。
【0020】
図2は、ここで開示される電極製造方法に係る電極製造装置の概略構成を、模式的に示したブロック図である。図2に示される電極製造装置100は、典型的には、図示しない供給室から搬送されてきたシート状電極集電体12を長手方向に沿って搬送しながら、電極集電体12の表面上に電極材料30からなる塗膜32を成膜する成膜部120と、該塗膜32の表面に凹凸形状を形成する塗膜加工部130と、凹凸形状を有する塗膜32にコート材20を塗布する塗布部140と、塗膜32およびコート材20を適切に乾燥させて電極活物質層14と、該活物質層14の凹部に配置される塗布物22とを形成する乾燥部150とを備える。これらは、予め定められた搬送経路に沿って、順に配置されている。
【0021】
<用意工程>
電極材料30は、上述した電極活物質、溶媒、バインダ樹脂、その他の添加物等の材料を従来公知の混合装置を用いて、混合することによって用意することができる。かかる混合装置としては、例えば、プラネタリーミキサー、ボールミル、ロールミル、ニーダ、ホモジナイザー等が挙げられる。
【0022】
電極材料30は、ペースト、スラリー、および造粒体の形態をとり得るが、造粒体、特に溶媒を少量含む湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)が、ここに開示される電極製造装置100において、電極活物質層を電極集電体12上に成膜するという目的に適している。なお、本明細書において、湿潤粉体の形態的な分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている4つの分類を、本明細書においても採用しており、ここで開示される湿潤粉体は明瞭に規定されている。具体的には、以下のとおりである。
湿潤粉体を構成する凝集粒子における固形分(固相)、溶媒(液相)および空隙(気相)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
ここで「ペンジュラー状態」は、図3の(A)に示すように、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2間を架橋するように溶媒(液相)3が不連続に存在する状態であり、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように溶媒3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。そしてペンジュラー状態では、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないことが特徴として挙げられる。
【0023】
また、「ファニキュラー状態」は、図3の(B)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の活物質粒子(固相)2の周囲に溶媒(液相)3が連続して存在する状態となっている。但し、溶媒量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、活物質粒子(固相)2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。一方、凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
ファニキュラー状態は、ペンジュラー状態とキャピラリー状態との間の状態であり、ペンジュラー状態寄りのファニキュラーI状態(即ち、比較的溶媒量が少ない状態のもの)とキャピラリー状態寄りのファニキュラーII状態(即ち、比較的溶媒量が多い状態のもの)とに区分したときのファニキュラーI状態では、依然、電子顕微鏡観察(SEM観察)において凝集粒子1の外表面に溶媒の層が認められない状態を包含する。
【0024】
「キャピラリー状態」は、図3の(C)に示すように、凝集粒子1中の溶媒含有率が増大し、凝集粒子1中の溶媒量は飽和状態に近くなり、活物質粒子2の周囲において十分量の溶媒3が連続して存在する結果、活物質粒子2は不連続な状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙(気相)も、溶媒量の増大により、ほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%)が孤立空隙として存在し、凝集粒子に占める空隙の存在割合も小さくなる。
「スラリー状態」は、図3の(D)に示すように、もはや活物質粒子2は、溶媒3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相はほぼ存在しない。
【0025】
従来から湿潤粉体を用いて成膜する湿潤粉体成膜は知られていたが、従来の湿潤粉体成膜において、湿潤粉体は、粉体の全体にわたって液相が連続的に形成された、いわば図2(C)に示す「キャピラリー状態」にあった。
【0026】
これに対して、ここで開示される湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子1が、(1)上記ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)を形成している湿潤粉体である。好ましくは、気相を制御することによって、(2)電子顕微鏡観察において該凝集粒子の外表面の全体にわたって前記溶媒からなる層が認められないことを一つの形態的特徴として有する。
以下、ここで開示される上記(1)および(2)の要件を具備する湿潤粉体を「気相制御湿潤粉体」という。
なお、ここに開示される気相制御湿潤粉体は、少なくとも50個数%以上の凝集粒子が上記(1)および(2)の要件を具備することが好ましい。
【0027】
気相制御湿潤粉体は、従来のキャピラリー状態の湿潤粉体を製造するプロセスに準じて製造することができる。即ち、従来よりも気相の割合が多くなるように、具体的には凝集粒子の内部に外部に至る連続した空隙(連通孔)が多く形成されるように、溶媒量と固形分(活物質粒子、バインダ樹脂、等)の配合を調整することによって、上記ペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)に包含される電極材料(電極合材)としての湿潤粉体を製造することができる。
また、最小の溶媒で活物質間の液架橋を実現するために、使用する粉体材料の表面と使用する溶媒には、適度な親和性があることが望ましい。
好ましくは、ここで開示される好適な気相制御湿潤粉体として、電子顕微鏡観察で認められる三相の状態がペンジュラー状態若しくはファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)であって、さらに、得られた湿潤粉体を所定の容積の容器に力を加えずにすり切りに入れて計測した実測の嵩比重である、緩め嵩比重X(g/mL)と、気相が存在しないと仮定して湿潤粉体の組成から算出される比重である、原料ベースの真比重Y(g/mL)とから算出される「緩め嵩比重Xと真比重Yとの比:Y/X」が、1.2以上、好ましくは1.4以上(さらには1.6以上)であって、好ましくは2以下であるような湿潤粉体が挙げられる。
【0028】
電極活物質層を形成する電極材料30は、少なくとも複数の電極活物質粒子とバインダ樹脂と溶媒とを含有している。
固形分の主成分である電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等を好ましく用いることができる。
【0029】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。使用する溶媒に応じて適切なバインダ樹脂が採用される。
【0030】
電極材料30は、固形成分として電極活物質およびバインダ樹脂以外の物質、例えば、導電材や増粘剤等を含有していてもよい。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやカーボンナノチューブのような炭素材料が好適例として挙げられる。また、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を好ましく用いることができる。電極材料30は、上述した以外の材料(例えば各種添加剤等)を含有してもよい。
なお、本明細書において、「固形成分」とは、上述した各材料のうち溶媒を除く材料(固形材料)のことをいい、「固形分率」とは、各材料すべてを混合した電極材料のうち、固形成分が占める割合のことをいう。
【0031】
上述したような各材料を用いて、湿潤造粒を行い、目的の湿潤粉体を製造することができる。具体的に例えば、撹拌造粒機(プラネタリミキサー等のミキサー)を用いて各材料を混合することによって、湿潤粉体(即ち凝集粒子の集合物)を製造する。この種の撹拌造粒機は、典型的には円筒形である混合容器と、当該混合容器の内部に収容された回転羽根と、回転軸を介して回転羽根(ブレードともいう)に接続されたモータとを備えている。
【0032】
用意工程S1においては、上記した各材料のうち、先ず、溶媒を除く材料(固形成分)を予め混合して溶媒レスの乾式分散処理を行う。これにより、各固形成分が高度に分散した状態を形成する。その後、当該分散状態の混合物に、溶媒その他の液状成分(例えば液状のバインダ)を添加してさらに混合することが好ましい。これによって、各固形成分が好適に混合された湿潤粉体を製造することができる。
具体的には、撹拌造粒機の混合容器内に固形成分である電極活物質と種々の添加物(バインダ樹脂、増粘材、導電材、等)を投入し、モータを駆動させて回転羽根を、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度、回転させることによって各固形成分の混合体を製造する。そして、固形分が70%以上、より好ましくは80%以上(例えば85~98%)になるように計量された適量の溶媒を混合容器内に添加し、撹拌造粒処理を行う。特に限定するものではないが、回転羽根を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~60秒間(例えば2~30秒)程度さらに回転させる。これによって、混合容器内の各材料と溶媒が混合されて湿潤状態の造粒体(湿潤粉体)を製造することができる。なお、さらに1000rpm~3000rpm程度の回転速度で1~5秒間程度の短い撹拌を断続的に行うことで、湿潤粉体の凝集を防止することができる。得られる造粒体の粒径は、例えば、50μm以上(例えば100μm~300μm)であり得る。
【0033】
ここで開示される気相制御湿潤粉体は、固相と液相と気相とがペンジュラー状態またはファニキュラー状態(好ましくはファニキュラーI状態)を形成しており、電子顕微鏡観察において凝集粒子の外表面に溶媒の層が認められない程度に溶媒含有率が低く(例えば溶媒分率が2~15%程度、3~8%であり得る)、逆に気相部分は相対的に大きい。
このような存在形態にするため、上述した用意工程S1において、気相を増大させ得る種々の処理や操作を取り入れることができる。例えば、撹拌造粒中若しくは造粒後、乾燥した室温よりも10~50度程度加温されたガス(空気または不活性ガス)雰囲気中に造粒体を晒すことにより余剰な溶媒を蒸発させてもよい。また、溶媒量が少ない状態でペンジュラー状態またはファニキュラーI状態である凝集粒子の形成を促すため、活物質粒子その他の固形成分同士を付着させるために圧縮作用が比較的強い圧縮造粒を採用してもよい。例えば、粉末原料を鉛直方向から一対のロール間に供給しつつロール間で圧縮力が加えられた状態で造粒する圧縮造粒機を採用してもよい。
【0034】
<成膜工程>
ここに開示される製造方法においては、電極材料30の気相(空隙)を残した状態で塗膜32を成膜する。電極材料30からなる塗膜32の成膜は、例えば、図2に模式的に示すような成膜部120において行うことができる。図示されるように、成膜部120は、転写ロールが連続的に複数備えられている。この例では、供給ロール121に対向する第1転写ロール122、該第1転写ロールに対向する第2転写ロール123、および、該第2転写ロールに対向し、且つ、バックアップロール125にも対向する第3転写ロール124を備えている。
このような構成とすることにより、各ロール間のギャップG1~G4のサイズを異ならせ、湿潤粉体の連通孔を維持しつつ好適な塗膜32を形成することができる。以下、このことを詳述する。
【0035】
成膜部120において、供給ロール121の外周面と第1転写ロール122の外周面は互いに対向しており、これら一対の供給ロール121と第1転写ロール122は、図2の矢印に示すように逆方向に回転する。また、供給ロール121と第1転写ロール122とは、電極集電体12上に成膜する塗膜32の所望の厚さに応じた所定の幅(厚さ)のギャップG1があり、かかるギャップG1のサイズにより、第1転写ロール122の表面に付着させる電極材料30からなる塗膜32の厚さを制御することができる。また、かかるギャップG1のサイズを調整することにより、供給ロール121と第1転写ロール122との間を通過する電極材料30を圧縮する力を調整することもできる。このため、ギャップサイズを比較的大きくとることによって、電極材料30(具体的には凝集粒子のそれぞれ)の気相を維持した状態で成膜することができる。
【0036】
第2転写ロール123および第3転写ロール124は、供給ロール121と第1転写ロール122によって圧縮された電極材料30を、該電極材料30の気相の状態を調整しながら成膜する。第2転写ロール123と第3転写ロール124とは、図2の矢印に示すように逆方向に回転する。また、第1転写ロール122と第2転写ロール123との間には第2ギャップG2、第2転写ロール123と第3転写ロール124との間には第3ギャップG3が設けられており、かかるギャップG2、G3を調整することによって、所望する厚さや気相の状態の塗膜32を製造することができ得る。
【0037】
バックアップロール125は、電極集電体12を第3転写ロール124まで搬送する役割を果たす。第3転写ロール124とバックアップロール125は、図2の矢印に示すように、逆方向に回転する。また、第3転写ロール124とバックアップロール125との間には、所定の幅(厚さ)の第4ギャップG4が設けられており、かかるギャップG4のサイズにより、電極集電体12上に成膜する塗膜32の厚さを制御することができる。
【0038】
電極集電体12は、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体12が正極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。電極集電体12が負極集電体である場合には、電極集電体12は、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。電極集電体12の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0039】
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125は、それぞれが独立した図示しない駆動装置(モータ)に接続されているため、それぞれ異なる回転速度で回転させることができる。具体的には、供給ロール121の回転速度よりも第1転写ロール122の回転速度が速く、第1転写ロール122の回転速度よりも第2転写ロール123の回転速度は速く、第2転写ロール123の回転速度よりも第3転写ロール124の回転速度は速く、第3転写ロール124の回転速度よりもバックアップロール125の回転速度は速い。
このように各回転ロール間で集電体搬送方向(進行方向)に沿って回転速度を少しずつ上げていくことによって、ロール成膜を行うことができる。
【0040】
ギャップのサイズは、第1ギャップG1が相対的に最大であり、第2ギャップG2、第3ギャップG3、第4ギャップG4の順に少しずつ小さくなるように設定されている(G1>G2>G3>G4)。ギャップG1~G4が電極集電体12の搬送方向(進行方向)に沿ってギャップが徐々に小さくなるように設定されているため、塗膜32の気相(空隙)の状態を調整しながら成膜することができる。各ギャップG1~G4のサイズ(幅)は、特に限定するものではないが、塗膜32の平均膜厚が10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上150μm以下)となるようなギャップサイズに設定すればよい。
【0041】
供給ロール121および転写ロール122の幅方向の両端部には、図示しない隔壁が設けられていてもよい。隔壁は、電極材料30を供給ロール121および転写ロール122上に保持すると共に、2つの隔壁の間の距離によって、電極集電体12上に成膜される塗膜32の幅を規定することができる。この2つの隔壁の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料30が供給される。
【0042】
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125のサイズは特に制限はなく、従来の成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら供給ロール121、第1~3回転ロール122,123,124およびバックアップロール125の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、塗膜32を形成する幅についても従来の成膜装置と同様でよく、塗膜32を形成する対象の電極集電体12の幅によって適宜決定することができる。
【0043】
供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125の外周面の材質は、従来公知の成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。電極材料30と直接する供給ロール121および第1~3転写ロール122、123、124の外周面の材質は、金属異物の発生を防ぐために、例えば、ジルコニア、アルミナ、窒化クロム、窒化アルミ、チタニア、酸化クロムなどのセラミックスであることがより好ましい。
【0044】
なお、図2では一例として、供給ロール121、第1転写ロール122、第2転写ロール123、第3転写ロール124およびバックアップロール125の配置を示しているが、それぞれのロールの配置は、これに限られるものではない。
【0045】
<凹凸形成工程>
塗膜32に対する凹凸形成は、例えば、図2に示すような凹凸転写ロール132とバックアップロール134とを用いて行うことができる。ここに開示される電極の製造方法においては、空隙(気相)を残した状態で成膜された塗膜32に対して凹凸形成工程S3を実施する。かかる塗膜32の平均空隙率(気相率)は、少なくとも1%以上であることが好ましく、例えば1%以上55%以下、典型的には5%以上55%以下であってよい。気相を残した状態で凹凸を形成することにより、展延性が向上しているため、従来よりも小さい荷重で塗膜32に対して所望する凹凸形状を付与することができる。また、凹凸を形成するために荷重がかけられたとしても、塗膜32の表面部において局所的な密度の上昇(緻密化)することなく凹凸形状を形成することができる。
【0046】
なお、本明細書において、「塗膜の平均空隙率(気相率)」は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による塗膜の断面観察により算出することができる。該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、固相または液相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相または液相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S2/(S1+S2)×100」を算出することができる。これを、乾燥前の塗膜の空隙率とする。断面SEM像を複数取得し(例えば5枚以上)、かかる空隙率の平均値をここでの乾燥前の「塗膜の平均空隙率(気相率)」)とする。なお、「塗膜の平均空隙率(気相率)」には、凹凸形成の過程において形成された凹部(すなわちマクロな空隙)は、含まない。
【0047】
凹凸転写ロール132は、塗膜32の表面に所定のパターンを一定のピッチで形成するための凹部および凸部を有している。バックアップロール134は、搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ搬送方向に送り出すためのロールである。凹凸転写ロール132とバックアップロール134とは対向する位置に配置されている。凹凸転写ロール132とバックアップロール134との間隙に、電極集電体12上の塗膜32を通すことにより、凹凸転写ロール132の凹凸部が塗膜32の表面に転写されることによって、塗膜32の表面に所望する形状を形成することができる。凹凸転写ロール132の線圧は、所望する形状の凹部深さ等により異なり得るため特に限定されないが、概ね15N/cm~75N/cm、例えば25N/cm~65N/cm程度に設定することができる。
【0048】
なお、塗膜32に対して凹凸を加工する方法は、凹凸転写ロールを用いた凹凸転写以外の手法によっても行うことができる。例えば、所望する凹凸形状を有する平板圧延機を用いて、押圧することによって塗膜32の表面部に凹凸形状を形成してもよい。その場合のプレス圧は例えば、1MPa~100MPa、例えば5MPa~80MPa程度に設定することができる。
【0049】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、凹凸転写ロール132の凹部と凸部のピッチは、250μm以上5mm以下(例えば、1mm以上3mm以下)に設定することができる。かかる構成によれば、乾燥後の塗膜32(電極活物質層)において凹部および凸部を好適に製造することができる。
【0050】
また、ここに開示される電極の製造方法においては、塗膜32の表面にLcm×Bcm(L,Bは3以上の整数)で示される基準エリアを設定して相互に異なるn(nは5以上の整数)点で計測した平均表面積は、概ねL×Bcmとなり、該平均表面積が1.05×L×Bcm以上(好ましくは1.1×L×Bcm以上)を実現するように凹凸形成工程S3が実施されることが好ましい。これにより、塗膜32とコート材20とが接触する表面積が増大し、コート材20を塗布する効果をより好適に発揮させることができる。
【0051】
また、塗膜加工部130においては、プレスロール136とバックアップロール138とを用いて、塗膜32の膜厚や気相の状態を調整する機構をさらに包含していてもよい。プレスロール136は塗膜32を膜厚方向に押圧して圧縮するためのロールであり、バックアップロール138は搬送されてきた電極集電体12を支持しつつ搬送方向に送り出すためのロールである。プレスロール136とバックアップロール138とは対向する位置に配置されている。搬送されてきた電極集電体12上に形成(成膜)された塗膜32を、例えば、孤立空隙を生じさせない程度にプレスして圧縮することができる。これにより、凹凸形成がより好適に実施されるように、塗膜32の気相の状態を調整することができる。かかるプレスロール136とバックアップロール138の好適なプレス圧は、目的とする塗膜(電極活物質層)の膜厚や密度により異なり得るため特に限定されないが、例えば、0.01MPa~100MPa、例えば0.1MPa~70MPa程度に設定することができる。
【0052】
塗膜32は、気相を残した状態であることにより、乾燥工程S4前に凹凸形状を形成しても、所望するパターンを形成し、該パターンを維持することができる。また、より好適には、気相制御湿潤粉体を電極材料30として用いて成膜された塗膜32であることが好ましい。気相制御湿潤粉体は、上述したように、連通孔を維持した状態で成膜されているため、所望するパターンの形成および該パターンの維持をさらに好適に実施することができる。
【0053】
<塗布工程>
塗膜32に対するコート材20の塗布工程は、グラビアコーター等の各種凹版印刷機、スリットコーター、コンマコーター、キャップコーター(capillary coater:CAPコーター)等のダイコーター、リップコーター等の各種の塗布装置を使用することができる。なかでも、グラビア印刷法を利用して塗布すると、比較的高速でのコート材20を塗布することができるため、好ましい。例えば、図2および図4では、塗布装置142としてダイレクトグラビアロールコーター(direct gravure roll coater)が例示されている。微細なパターンが表面に彫刻されたグラビアロール142aを用いたダイレクトグラビアによって、コート材20を塗膜32に転写するとよい。グラビアロール142aの外周面には、コート材20を保持するための溝を有している。かかる溝は、概ね10~30μm(例えば、20μm)、であってよい。
【0054】
図2に示す例では、コート材20が塗布される処理面(すなわち、塗膜32の表面側の面)をグラビアロール142aに当接するように電極集電体12を搬送している。グラビアロール142aの左側は、貯留槽142bに貯められたコート材20に浸漬されており、グラビアロール142aが回転することで、グラビアロール142aに設けられた彫刻溝に入り込んだ所定量のコート材20をロール右側(すなわち、塗膜32と当接する側)まで搬送している。これにより、貯留槽142bに貯められたコート材20は、グラビアロール142aの溝を介して、凹凸形状を有する塗膜32の表面部に連続的に転写される。
【0055】
図4は、グラビアロール142aによってコート材20が塗膜32に塗布される様子を模式的に示す図である。電極集電体12上の塗膜32は、図中の矢印に示される方向に搬送されている。グラビアロール142aによって塗布されるコート材20の少なくとも一部は、塗膜32の凹部内に配置される。ここに開示される製造方法においては、図示されるように、塗膜32の凸部にもコート材20が塗布され、塗膜32の組成とは異なる層(すなわち第2の層)が塗膜32の表面全体に形成されていてもよい。
【0056】
コート材20は、少なくとも固形材料と、溶媒とによって構成されている。コート材20は、固形材料として少なくとも一種の無機化合物を含む。無機化合物としては、例えば、非導電性(絶縁性)の無機化合物の粒子(いわゆる無機フィラー)や、リチウムを吸蔵および放出し得る金属元素を構成元素として含む活物質粒子(いわゆる合金系活物質)が挙げられる。これらの無機化合物は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
非導電性(絶縁性)の無機化合物の粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、酸化亜鉛等の酸化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、ベーマイト、タルク、カオリンクレー、モンモリロナイト、マイカ、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ砂等の粒子が挙げられる。なかでも、アルミナ、ベーマイト、シリカ、マグネシア、ジルコニアおよびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましい。無機化合物の平均粒径は、特に限定されるものではないが、例えば15μm以下(例えば、0.1μm以上10μm以下)であってよい。かかる無機化合物の粒子を含むコート材20の少なくとも一部を、塗膜32の凹部内に配置することによって、電極活物質層の凹部の機械的強度や保液性を向上させることができる。
【0058】
また、活物質粒子としては、リチウムを吸蔵および放出可能な少なくとも一つの金属元素を構成元素として含むものであればよい。好適例として、シリコン(Si)およびスズ(Sn)の少なくとも一方の金属元素を構成元素とする負極活物質(合金系活物質)が挙げられる。Si(シリコン)系負極活物質としては、Siの金属単体、Siを構成元素とする酸化物(例えばSiOx)、Siを構成元素とする合金;等が挙げられる。Sn系負極活物質としては、Snの金属単体、Snを構成元素とする酸化物(例えばSnOx)、Snを構成元素とする合金;等が挙げられる。上記合金のSi、Sn以外の構成元素としては、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、In、Al等の金属もしくはこれらの金属を主体とする合金からなる金属材料の粒子等が挙げられる。かかる活物質粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5μm以上50μm以下(例えば1μm以上20μm以下)であってよい。かかる活物質粒子を含むコート材20の少なくとも一部を、塗膜32の凹部内に配置することによって、充放電に伴う体積の膨張収縮を緩和しつつ、電池容量が向上させた電極活物質層を実現することができる。
なお、本明細書においては、「金属」とは、Siのような半金属も含まれ得る。また、「合金」とは、微視的なレベルで2種以上の金属を混合したものを意味し、合金の組織としては、例えば、固溶体、金属間化合物あるいはそれらが共存するものが含まれ得る。
【0059】
固形材料中の無機化合物の割合は、60質量%以上(典型的には80質量%以上、例えば90質量%以上、好ましくは95質量%以上)であって、99.8質量%以下(典型的には99.5質量%以下、例えば99質量%以下)とすることができる。かかる範囲内であれば、塗膜32の表面に塗布された際、コート材20の特性を十分に発揮することができる。
また、無機化合物の他に固形材料として、無機化合物を結着させるためのバインダ(ポリマー成分)等が挙げられる。かかるバインダとしては、例えば、上述した電極材料に配合され得るバインダから適宜選択し使用することができる。
【0060】
溶媒としては、水系溶媒および非水系溶媒のいずれも使用可能である。水系溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が好ましく用いられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒成分としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒が挙げられる。また、非水系溶媒の好適例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0061】
上述した固形材料と溶媒とを固形分率が概ね40%~90%となるように、上述した用意工程S1において使用される従来公知の混合装置を用いて混合し、コート材20を調整する。すなわち、コート材20は、上述したペンジュラー状態、ファニキュラー状態、キャピラリー状態およびスラリー状態の4つの状態のうち、どの状態であってもよい。コート材20が、ペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)である場合には、2層以上形成することができ得る。
【0062】
ここで開示される電極製造方法において気相制御湿潤粉体を使用することは、特に限定されるものではないが、以下のような利点が挙げられる。
従来のスラリー状の電極材料からなる塗膜に対して、乾燥工程実施前の塗膜にコート材を塗布する場合には、塗膜とコート材とが混合する。一方、乾燥工程実施後の塗膜(すなわち電極活物質層)にコート材を塗布する場合には、溶媒が蒸発(揮発)した際に塗膜に形成される空隙にコート材が浸透する。結果的に乾燥工程の実施前および後のどちらによっても電極の厚さ方向(Z方向)の制御をすることが困難であった。また、従来の溶媒リッチな湿潤粉体(すなわち、キャピラリー状態)からなる塗膜においても、凝集粒子の外表面(すなわち塗膜の表面)に溶媒の層が存在しているため、コート材を塗布した際に塗膜とコート材とが混ざり合うことがあった。
これに対して、上述したようにペンジュラー状態およびファニキュラー状態(特にファニキュラーI状態)の気相制御湿潤粉体は、凝集粒子の外表面(すなわち塗膜の表面)の全体にわたって連続した溶媒の層が認められないため、かかる気相制御湿潤粉体を用いて塗膜を成膜することにより、塗膜とコート材とが混ざり合うことを抑制することができる。またこれに加えて、凹凸を形成する際に荷重が負荷されることによって、塗膜の気相率(空隙率)がわずかに減少し、活物質粒子(固相)同士は相互により密に連なった状態となり得る。このことによっても、コート材が塗膜に染み込むことを抑制し得る。
【0063】
<乾燥工程>
図2に示すように、本実施形態に係る電極製造装置100の塗布部140よりも搬送方向の下流側には、乾燥部150として図示しない加熱器(ヒータ)を備えた乾燥室が配置されている。かかる乾燥部150は、電極集電体12上に形成された塗膜32およびコート材20を乾燥させて、塗膜32からなる電極活物質層14と、該活物質層14上の凹凸形状の凹部内に配置されるコート材20からなる塗布物22と、を備える電極10を形成する。乾燥の方法については、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥等の手法が挙げられる。なお、乾燥工程S5は、従来のこの種の電極製造装置における乾燥工程と同様でよく、特に本教示を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0064】
乾燥工程S5の後に、必要に応じて50~200MPa程度のプレス加工を行うことにより、リチウムイオン二次電池用の長尺なシート状電極が製造される。こうして製造されたシート状電極は、通常のこの種のシート状正極または負極としてリチウムイオン二次電池の構築に用いられる。
【0065】
図5に示されるように、電極10は、典型的には、電極集電体12と、該集電体12上に形成された電極活物質層14と、少なくとも一種の無機化合物を含む塗布物22と、を備える。ここに開示される電極10は、電極活物質層14の表面に所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状を有しており、該活物質層14の凹部に塗布物22の少なくとも一部が配置されていることを特徴とする。
【0066】
電極活物質層14の平均膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上250μm以下)であってよい。電池の高容量化の観点からは、従来よりも平均膜厚が厚いことが好ましく、例えば150μm以上300μm以下(例えば、200μm以上250μm以下)程度であってよい。
【0067】
ここで、図5を参照しながら、本明細書における上層、中間層および下層について説明する。電極活物質層14の凹部を均等に上層、中間層および下層の3つの層に区分する。電極活物質層14と電極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、下層、中間層、上層の順に位置している。例えば、下層とは、電極活物質層14と電極集電体12との界面から厚さ方向(Z方向)に沿って、電極活物質層14の厚さの概ね33%内部の位置までをいう。中間層および上層も同様にして電極活物質層14の厚さを3等分したそれぞれの位置である。また、凹部における上層、中間層および下層の電極密度(g/cm)をそれぞれd、d、d、とする。
【0068】
なお、本明細書において、上層、中間層および下層の電極密度(g/cm)は、例えば、電極の真密度に該当範囲(すなわち上層、中間層および下層のいずれか)の充填率を乗ずることによって求めることができる。電極の真密度は、例えば、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出される値である。該当範囲の充填率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において二値化処理を行い、上述した方法と同様の方法で算出することができる。具体的には、該断面画像をオープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、該当範囲に存在する固相部分を白色、気相(空隙)部分を黒色とする二値化処理を行う。これにより、固相が存在する部分(白色部分)の面積をS1、空隙部分(黒色部分)の面積をS2として、「S1/(S1+S2)×100」から算出することができる。
【0069】
ここで開示される電極10(電極活物質層14)は、表面に所定のパターンと一定のピッチで凹凸形状が形成されている。本明細書において「パターン」とは特定の形状(模様)のことをいう。「ピッチ」とは、凹部と凸部とが繰り返される最小単位のことをいう。ピッチは、特に限定されるものではないが、例えば、250μm以上5mm以下であることが好ましく、750μm以上4mm以下であることがより好ましく、1mm以上3mm以下であってよい。また、凹凸形状の凹部深さ(すなわち、凹凸形状の高低差)は、少なくとも10μm以上であって、概ね10~100μm(例えば、20~80μm)程度である。
【0070】
ここに開示される電極10は、電極活物質層14の表面に凹凸形状を有しており、かかる凹凸形状の凹部内に塗布物22の少なくとも一部が配置されている。塗布物22の少なくとも一部が凹部に配置されていればよく、図示されるように凸部にも塗布物22が配置され、電極活物質層14と異なる組成の層(すなわち第2の層)が該活物質層14の表面部全体に形成されていてもよい。
【0071】
塗布物22は、少なくとも一種の無機化合物を含んでいる。無機化合物は、例えば、非導電性(絶縁性)の無機化合物の粒子(いわゆる無機フィラー)や、Liを吸蔵および放出し得る金属元素を構成元素として含む活物質粒子(いわゆる合金系活物質)が挙げられる。非導電性(絶縁性)の無機化合物の粒子(いわゆる無機フィラー)としては、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカ、ベーマイト、およびチタニアからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいることが好ましい。また、Liを吸蔵および放出し得る金属元素を構成元素として含む活物質粒子としては、シリコン(Si)およびスズ(Sn)の少なくとも一方の金属元素を構成元素とする負極活物質(合金系活物質)であることが好ましい。これら無機化合物は、2種以上が混合されていてもよい。
【0072】
ここに開示される電極10は、凹部の上層と下層との電極密度が、0.8<(d/d)<1.1の関係を具備している。より好ましくは、凹部の上層と下層との電極密度は、0.9<(d/d)<1.08の関係を具備しており、さらに好ましくは、0.95<(d/d)<1.08の関係を具備している。凹部の上層と下層において電極密度の差がない場合には、(d/d)の値は1となる。すなわち、ここに開示される電極10においては、凹凸形状が形成されているにもかかわらず、凹部の上層と下層において電極密度の差が少ない(すなわち(d/d)が1に近くなる)ことを特徴としている。かかる電極10は、上述した気相制御湿潤粉体を用いることによって実現することができる。特に限定されるものではないが、適度な溶媒(液相)と気相とを有する塗膜状態で凹凸形成を行うことにより、気相がわずかに減少した部分に活物質(固相)が移動することができ、緻密化(局所的な密度の上昇)を抑制することができ得る。
【0073】
塗布物22の少なくとも一部は、電極活物質層14の凹部内に配置される。換言すれば、電極活物質層14の凹部内に、塗布物22が保持されている状態である。同じ無機化合物を含む塗布物22を有する場合であっても、従来の表面がフラットな電極(すなわち、意図的に凹凸形状が形成されていない電極、以下同じ。)に塗布するよりも、効果的な作用を有することがあり得る。
以下、特に限定されるものではないが、ベーマイトを含む塗布物22が凹部に保持されている場合を例にして記載する。電極活物質層14の凹部にベーマイトを含む塗布物22が保持されることによって、ベーマイトが骨格維持剤として機能し該凹部の機械的強度を向上させ得る。具体的には、電極10が充放電によって膨張収縮を繰り返した際にも、かかるベーマイトのはたらきによって、電極10の凹部形状を維持することができる。かかる電極10を二次電池に用いた時には、凹部が維持されることにより凹部が電解質(典型的には非水電解液)をより好適に保液することができる。これに加えて、ここに開示される電極10の凹部は緻密化されておらず、Liイオンの挿入/脱離経路として機能している。このため、従来の電極と比較しても、凹部に電解質を保液することの効果が高い。
なお、ベーマイトを例にして説明したが、かかる効果はアルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニアおよびチタニア等の非導電性の無機化合物粒子(いわゆる無機フィラー)を含む塗布物22が、凹部に保持された場合にも同様の効果を得ることができ得る。
【0074】
また、以下、特に限定されるものではないが、Si等の金属元素を構成元素として含む活物質粒子(合金系活物質)が凹部に保持された場合について記載する。Si等の合金系活物質は理論容量が高く、二次電池の高容量化に寄与する負極活物質として有用である一方で、充放電に伴う体積変化が大きくクラックを引き起こしがちである。このような活物質を塗布物22として、充放電に伴う体積変化が比較的小さい活物質(例えば黒鉛等)からなる電極活物質層14の凹部に選択的に配置することによって、上記クラックを緩和しつつ、高容量化された電極(特には負極)を得ることができる。
【0075】
ここに開示される電極10を用いて構築され得るリチウムイオン二次電池200の一例を図6に示している。
図6に示すリチウムイオン二次電池200は、密閉可能な箱型電池ケース50に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解液(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース50には、外部接続用の正極端子52および負極端子54と、電池ケース50の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁56とが設けられている。また、電池ケース50には、非水電解液を注液するための注液口(図示せず)が設けられている。正極端子52と正極集電板52aは、電気的に接続されている。負極端子54と負極集電板54aは、電気的に接続されている。電池ケース50の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0076】
捲回電極体80は、典型的には長尺シート状の正極(以下、正極シート60という。)と、長尺シート状の負極(以下、負極シート70という。)とが長尺シート状のセパレータ90を介して重ね合わせられ長手方向に捲回された形態を有する。正極シート60は、正極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極活物質層64が形成された構成を有する。負極シート70は、負極集電体72の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極活物質層74が形成された構成を有する。正極集電体62の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出した部分(即ち、正極集電体露出部66)が設けられている。負極集電体72の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出した部分(即ち、負極集電体露出部76)が設けられている。正極集電体露出部66と負極集電体露出部76には、それぞれ正極集電板52aおよび負極集電板54aが接合されている。
【0077】
正極(正極シート60)および負極(負極シート70)は、上述した製造方法により得られる正極および負極が用いられる。なお、本構成例においては、正極および負極は、集電体12(正極集電体62および負極集電体72)の両面に電極活物質層14(正極活物質層64および負極活物質層74)が形成されている。
【0078】
セパレータ90としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ90は、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
【0079】
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に制限することなく用いることができる。具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等の非水溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定するものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0080】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池200は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池200は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0081】
以下、ここで開示されるペンジュラー状態またはファニキュラー状態の気相制御湿潤粉
体を電極材料として用いた場合の実施例を説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0082】
<実施例1>
負極材料として好適に使用し得る気相制御湿潤粉体を作製し、次いで、該作製された湿潤粉体(負極材料)を用いて銅箔上に負極活物質層を形成した。
本試験例では、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒子径(D50)が10μmである黒鉛粉、バインダ樹脂としてスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、溶媒として水を用いた。
【0083】
まず、98質量部の上記負極活物質、1質量部のSBRおよび1質量部のCMCからなる固形分を、撹拌造粒機(プラネタリミキサーまたはハイスピードミキサー)に投入し、混合撹拌処理を行った。
具体的には、混合羽根を有する撹拌造粒機内で混合羽根の回転速度を4500rpmに設定し、15秒間の撹拌分散処理を行い、上記固形分からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に、固形分率が90重量%となるように溶媒である水を添加し、300rpmの回転速度で30秒間の撹拌造粒複合化を行い、次いで4500rpmの回転速度で2秒間撹拌し微細化を行った。これにより本試験例に係る湿潤粉体(負極材料)を作製した。
次いで、上記得られた気相制御湿潤粉体(負極材料)を、上記電極製造装置の成膜部に供給し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に塗膜を転写した。
【0084】
かかる塗膜を、塗膜加工部に搬送し、凹凸転写ロール(線圧約40N/cm)で凹凸形状を付与した。このとき、凹凸形状の凹部と凸部との高低差が、25μmとなるように、凹凸形状を形成した。かかる凹凸形状を有する塗膜を塗布部に搬送し、ダイレクトグラビアロールコーターを用いて、無機化合物を含むコート材を塗布した。これにより、コート材の少なくとも一部が凹部に配置された塗膜を得た。
なお、コート材は、99質量部のベーマイトと1質量部のPVDFとからなる固形分を撹拌造粒機で混合し、溶媒であるNMPを添加して調整したものを用いた。
かかるコート材が塗布された塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、ロール圧延機によりプレスした。これにより、電極活物質層と該活物質層の凹部内に塗布物の少なくとも一部が配置されている電極を得た。
【0085】
上記得られた実施例1の電極活物質層(すなわち乾燥後の塗膜)の凹部の状態をSEMで観察した。結果を図7に示す。
また、実施例1の電極活物質層の凹部の上層および下層の電極密度(g/cm)を測定した。なお、上層および下層の電極密度は、電極活物質層の真密度に該当範囲の充填率を乗ずることによって求めた。電極の真密度は、構成成分の密度と含有割合に基づいて算出した。また、該当範囲の充填率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による電極活物質層の断面観察において、画像解析ソフト「ImageJ」を用いて二値化処理を行うことによって算出した。
その結果、凹部の上層の電極密度dが1.2g/cm、凹部の下層の電極密度dが1.2g/cmであった。
【0086】
<比較例1>
比較対象として、凹凸形状を有しない電極活物質層に無機化合物を含む塗布物を配置した電極を用意した。具体的には、実施例1と同様にして電極材料を混合し、別途用意した銅箔からなる負極集電体の表面に塗膜を転写した。かかる塗膜を塗布部に搬送し、ダイレクトグラビアロールコーターを用いて、無機化合物を含むコート材を塗布した。これにより、塗膜の表面にコート材が塗布された塗膜を得た。
かかるコート材が塗布された塗膜を乾燥部で加熱乾燥させ、ロール圧延機によりプレスした。これにより、電極活物質層と該活物質層の表面に塗布物とを備える電極を得た。
【0087】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記作製した実施例1よび各比較例1の電極を用いて、評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
実施例1および比較例1の正極は、スラリー状態の電極材料からなる正極を用意した。
また、セパレータシートとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを2枚用意した。
作製した実施例1および比較例1の電極と、正極と、用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートのそれぞれに電極端子を溶接により取り付けて、これを、注入口を有する電池ケースに収容した。
かかる注入口から非水電解液を注入し、該注入口を封口蓋により気密に封止した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。以上のようにして、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0088】
<活性化処理>
25℃の環境下で、各評価用リチウムイオン二次電池の活性化処理(初回充電)を行った。活性化処理は、定電流-定電圧方式とし、1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行うことで満充電状態にした。その後、1/3Cの電流値で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0089】
<電極膨張率の測定>
評価用リチウムイオン二次電池を作成する前の各例の負極の膜厚を、接触式マイクロメーターを用いて測定した。膜厚は3か所測定し、膜厚の平均値を充放電前の平均膜厚とした。
活性化処理後の各評価用リチウムイオン二次電池を、25℃の環境下に置き、30Cで4.3Vまで定電流充電および30Cで3.1Vまで定電流放電を1サイクルとする充放電サイクルを10サイクル繰り返した。10サイクル目の満充電状態でサイクルを停止し、評価用リチウムイオン二次電池を解体して、負極の膜厚を上述した方法と同様に測定した。かかる膜厚の平均値を充放電後の平均膜厚とした。
電極膨張率は式:(充放電後の平均膜厚-充放電前の平均膜厚)/充放電前の平均膜厚×100によって算出した。かかる電極膨張率が小さいほど、塗布物を有することの効果が高いと評価することができる。
【0090】
図7に示すように、実施例1の電極は、電極活物質層と塗布物とが混合することなく存在し、電極活物質層の凹部に塗布物の少なくとも一部が配置されていた。また、電極活物質層が緻密化されることなく凹凸が形成されていることも観察された。
電極膨張率は、実施例1では3%、比較例1では5%であった。すなわち、凹凸形状を有する電極活物質層に塗布物を塗布することにより、塗布物を有することの効果がより一層発揮されることがわかる。
【0091】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1 凝集粒子
2 活物質粒子(固相)
3 溶媒(液相)
4 空隙(気相)
10 電極
12 電極集電体
14 電極活物質層
20 コート材
22 塗布物
30 電極材料
32 塗膜
50 電池ケース
64 正極活物質層
74 負極活物質層
80 捲回電極体
90 セパレータ
100 電極製造装置
120 成膜部
130 塗膜加工部
132 凹凸転写ロール
134 バックアップロール
140 塗布部
142 塗布装置
142a グラビアロール
142b 貯留槽
150 乾燥部
200 リチウムイオン二次電池

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7